ゲスト
(ka0000)
クルセイダーのとらっく!
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/06/06 12:00
- 完成日
- 2016/06/14 03:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●クルセイダーのがっこう
「立て! 立てないなら連帯責任で全員10週追加だ!」
教官の怒声は、子供の泣き声が聞こえても全く鈍らない。
やせこけた元ストリートチルドレンが、栄養状態の良い貴族三男坊以下あるいは三女以下を引っ張り、全員汗だく泥だらけになってひたすら動く。
「懐かしいねー」
教室の端からのんびり外を見る2年生男子。
じろりと睨み、視線を戻し黒板の数式をノートへ写す2年生女子。
文字に触れて2年目、ここに来て2年目なのに、やっていることは確率の計算方法だ。
詰め込みにも程がある。
生徒が覚醒者の体力を持っていなければ、とうに何人か過労死していただろう。
「今日はここまで。明日1時間目のテストに備え復習は徹底するように。以上」
校長である司教が軽くうなずいた。
「起立、礼!」
10歳前後のクルセイダー達が直立不動で立ち上が。礼は正確に30度だ。
既に、軍隊に似た雰囲気が漂いはじめていた。
唐突に聞き慣れない音が響く。
ある程度柔らかなものが固い地面をこする音……魔導トラックの走る音だ。
「全員校舎へ退避しろ。6メートル級の歪虚が」
教官の声が連続する銃声にかき消された。
「嘘」
「なんて射程」
車載機銃が猛烈な勢いで弾を吐き出している。
緩い弧を描いて200メートル近く東に到達し、馬鹿馬鹿しいほど大きな歪虚に何度も命中する。
命中率は決して高くない。
だが、歪虚を遠方から一方的に叩き続けるその様は、幼い聖導士の胸を熱くした。
「次の演習ではあれに乗ってもらう。事前の予習を行っていくように」
司教が静かに告げると、少年少女が声を揃えてはいと応えた。
●1週間前。王都葬儀場
鎮魂の鐘が鳴っていた。
つい先日、テスカ教団……歪虚メフィストが王都に襲来した。
多くのハンター、多くの王国騎士、そして聖堂戦士団は力を結集して防ごうとした。
誰もが必死に戦った。
大きな破壊に見舞われた区画もあったし、結集した力からも多数の死傷者が出た。
「彼等は良き親で有り、良き友であり、良き子供でした」
すすり泣く声が聞こえる。
喪失に耐える気配が無数にある。
「安らかな眠りにつけるよう、皆さん、ともに祈りましょう」
司教が頭を下げる。
若い女性が泣き崩れ、父母と死に別れした幼子がぼんやりしている。
無言で奥歯を噛みしめている老人は戦死者の母あるいは父だろうか。
重く冷たい気配が広がる葬儀場の中、一際異彩を放つチビデブノッポの小集団がいた。
貴族らしい冷たい顔をしたチビ、艶のあるすぎる頬肉と分厚い脂身が目立つデブに、枯れ木のような長身のノッポが、金のかかったカソックを着こなし参列している。
半数以上が司教、残る全員が司祭だ。
「あれは……」
「被害無く乗り切った派閥だ」
「主要ポストを狙った示威行為か?」
遺族以外の、高位の聖職者が囁きあっている。
夏も近いのに冷たい風が吹く。
細い雨が空から降って人と大地を濡らす。
チビデブノッポは無言のまま祈りを捧げ、式の終わりと当時に一斉に立ち去っていった。
●助祭の初仕事
初めて与えられた仕事はお茶汲みだった。
会議室に居並ぶ高位聖職者の前にカップを並べ、並べ終えた後は直属の上司の背後に立ったまま控える。
「参りましたな」
お茶汲みの存在に気付きもせず、引き締まった筋肉の老司教が己の額に手をあてた。
ホロウレイドの被害から立ち直っていない上に今回の大敗だ。
今後の王国防衛を考えると頭が痛い。
「前騎士団長の指揮が原因か?」
「あり得ぬとは思いたいがヴィオラ司教の儀式に問題があったのでは?」
神経質そうなノッポ……既に体力が衰えた聖導士達が、出来れば当たって欲しくないという表情で質問する。
「今の地位からひきずり落とす材料にはなりますが」
肥えた司教がカップを口に運んで渋面をつくる。苦かったらしい。
「国の西端を占領された状況でそんな真似をする者はいないと信じたいですな」
脂ぎった瞳を真っ直ぐに向けられて、ひぅっと怯えた悲鳴を漏らしてしまった。
「すみません、私、北狄から戻ったばかりで詳しい状況が分からないのです。未確認だった上級歪虚が王都に現れ、こちら大きな失策がないのに多くの被害が出たという理解で問題ないでしょうか」
直属上司のチビ……ではなくやや小柄な女がそう言うと、会議室の気配と会議の方向が明らかに変わった。
脂ぎった視線も逸れてほっとする。
「うむ」
足りないなら戦力をどう増やすか。
速成教育を強化するか外から持ってくるか。
切れ者達が殺気にも似た強い気配を向けあい建設的な議論を進める。
「我らに余裕があるのは金とコネ、足りないのは戦力、世界のどこにもないのが人間の余剰戦力」
デブ司教が不気味に微笑んで結論を口にする。
「大型魔導機械を導入するしかないですな。イコニア司祭、北狄で大型魔導機械と共に戦った経験を開示してくれるかね?」
イコニア・カーナボン(kz0040)が立ち上がる。
分厚い資料の半分を渡され、チ……上司と一緒に手分けして司教達に配る。
会議は、日を跨いでも終わらなかった。
●依頼票
「聖堂教会の者です。依頼、に」
長時間と緊張は気力と体力を奪い取り、助祭の意識を数秒間奪った。
「っ……申し訳ありません。依頼を」
顔を赤くして言い直そうとする。
が、彼女が抱えていたパルムは自ら飛び出して、顔見知りらしい司書パルムにタックルするように飛びついた。
「少し待っておくれ」
ほぼ人間の見た目の司書パルムがキノコっぽいパルムを抱え上げる。
大量の情報が一瞬にも満たない時間で共有されて、神霊樹と機材を介して立体映像として浮かび上がった。
依頼内容
クルセイダー養成校の臨時教師または学校周辺の安全確保
教職員
校長。司教。ロッソ到着前の時点では理想的教師
守備兵兼戦闘指導教官。覚醒者。計8人。中堅ハンター相当
臨時事務員1人。司祭
在校生
2年生。10~12歳覚醒者計12人。最低でも読み書き可能。戦闘力は初心者ハンター未満
1年生。8~10歳覚醒者計10人。新入生。読み書き不能者有り。戦闘技能を持たない者有り
校舎
教室・食料庫・井戸・貯水タンク・図書館
武器庫 剣槍斧槌弓メイス猟銃・皮鎧金属鎧
宿舎
5人部屋10
厨房
見張り台
木製。古い。修理中
周辺状況
校舎周辺を除いて無人
6メートル級のスケルトンが遠方で徘徊しています
「つまり何をすれば?」
事前情報を持たないハンターが尋ねた。
「邪魔に鳴らなければ何やっても良いらしいぞい。依頼を出す方も試行錯誤しているようじゃ」
キノコっぽいパルムが相づちをうって、司書のおやつに手を出そうとしてカサの部分をぐりぐりされた。
「立て! 立てないなら連帯責任で全員10週追加だ!」
教官の怒声は、子供の泣き声が聞こえても全く鈍らない。
やせこけた元ストリートチルドレンが、栄養状態の良い貴族三男坊以下あるいは三女以下を引っ張り、全員汗だく泥だらけになってひたすら動く。
「懐かしいねー」
教室の端からのんびり外を見る2年生男子。
じろりと睨み、視線を戻し黒板の数式をノートへ写す2年生女子。
文字に触れて2年目、ここに来て2年目なのに、やっていることは確率の計算方法だ。
詰め込みにも程がある。
生徒が覚醒者の体力を持っていなければ、とうに何人か過労死していただろう。
「今日はここまで。明日1時間目のテストに備え復習は徹底するように。以上」
校長である司教が軽くうなずいた。
「起立、礼!」
10歳前後のクルセイダー達が直立不動で立ち上が。礼は正確に30度だ。
既に、軍隊に似た雰囲気が漂いはじめていた。
唐突に聞き慣れない音が響く。
ある程度柔らかなものが固い地面をこする音……魔導トラックの走る音だ。
「全員校舎へ退避しろ。6メートル級の歪虚が」
教官の声が連続する銃声にかき消された。
「嘘」
「なんて射程」
車載機銃が猛烈な勢いで弾を吐き出している。
緩い弧を描いて200メートル近く東に到達し、馬鹿馬鹿しいほど大きな歪虚に何度も命中する。
命中率は決して高くない。
だが、歪虚を遠方から一方的に叩き続けるその様は、幼い聖導士の胸を熱くした。
「次の演習ではあれに乗ってもらう。事前の予習を行っていくように」
司教が静かに告げると、少年少女が声を揃えてはいと応えた。
●1週間前。王都葬儀場
鎮魂の鐘が鳴っていた。
つい先日、テスカ教団……歪虚メフィストが王都に襲来した。
多くのハンター、多くの王国騎士、そして聖堂戦士団は力を結集して防ごうとした。
誰もが必死に戦った。
大きな破壊に見舞われた区画もあったし、結集した力からも多数の死傷者が出た。
「彼等は良き親で有り、良き友であり、良き子供でした」
すすり泣く声が聞こえる。
喪失に耐える気配が無数にある。
「安らかな眠りにつけるよう、皆さん、ともに祈りましょう」
司教が頭を下げる。
若い女性が泣き崩れ、父母と死に別れした幼子がぼんやりしている。
無言で奥歯を噛みしめている老人は戦死者の母あるいは父だろうか。
重く冷たい気配が広がる葬儀場の中、一際異彩を放つチビデブノッポの小集団がいた。
貴族らしい冷たい顔をしたチビ、艶のあるすぎる頬肉と分厚い脂身が目立つデブに、枯れ木のような長身のノッポが、金のかかったカソックを着こなし参列している。
半数以上が司教、残る全員が司祭だ。
「あれは……」
「被害無く乗り切った派閥だ」
「主要ポストを狙った示威行為か?」
遺族以外の、高位の聖職者が囁きあっている。
夏も近いのに冷たい風が吹く。
細い雨が空から降って人と大地を濡らす。
チビデブノッポは無言のまま祈りを捧げ、式の終わりと当時に一斉に立ち去っていった。
●助祭の初仕事
初めて与えられた仕事はお茶汲みだった。
会議室に居並ぶ高位聖職者の前にカップを並べ、並べ終えた後は直属の上司の背後に立ったまま控える。
「参りましたな」
お茶汲みの存在に気付きもせず、引き締まった筋肉の老司教が己の額に手をあてた。
ホロウレイドの被害から立ち直っていない上に今回の大敗だ。
今後の王国防衛を考えると頭が痛い。
「前騎士団長の指揮が原因か?」
「あり得ぬとは思いたいがヴィオラ司教の儀式に問題があったのでは?」
神経質そうなノッポ……既に体力が衰えた聖導士達が、出来れば当たって欲しくないという表情で質問する。
「今の地位からひきずり落とす材料にはなりますが」
肥えた司教がカップを口に運んで渋面をつくる。苦かったらしい。
「国の西端を占領された状況でそんな真似をする者はいないと信じたいですな」
脂ぎった瞳を真っ直ぐに向けられて、ひぅっと怯えた悲鳴を漏らしてしまった。
「すみません、私、北狄から戻ったばかりで詳しい状況が分からないのです。未確認だった上級歪虚が王都に現れ、こちら大きな失策がないのに多くの被害が出たという理解で問題ないでしょうか」
直属上司のチビ……ではなくやや小柄な女がそう言うと、会議室の気配と会議の方向が明らかに変わった。
脂ぎった視線も逸れてほっとする。
「うむ」
足りないなら戦力をどう増やすか。
速成教育を強化するか外から持ってくるか。
切れ者達が殺気にも似た強い気配を向けあい建設的な議論を進める。
「我らに余裕があるのは金とコネ、足りないのは戦力、世界のどこにもないのが人間の余剰戦力」
デブ司教が不気味に微笑んで結論を口にする。
「大型魔導機械を導入するしかないですな。イコニア司祭、北狄で大型魔導機械と共に戦った経験を開示してくれるかね?」
イコニア・カーナボン(kz0040)が立ち上がる。
分厚い資料の半分を渡され、チ……上司と一緒に手分けして司教達に配る。
会議は、日を跨いでも終わらなかった。
●依頼票
「聖堂教会の者です。依頼、に」
長時間と緊張は気力と体力を奪い取り、助祭の意識を数秒間奪った。
「っ……申し訳ありません。依頼を」
顔を赤くして言い直そうとする。
が、彼女が抱えていたパルムは自ら飛び出して、顔見知りらしい司書パルムにタックルするように飛びついた。
「少し待っておくれ」
ほぼ人間の見た目の司書パルムがキノコっぽいパルムを抱え上げる。
大量の情報が一瞬にも満たない時間で共有されて、神霊樹と機材を介して立体映像として浮かび上がった。
依頼内容
クルセイダー養成校の臨時教師または学校周辺の安全確保
教職員
校長。司教。ロッソ到着前の時点では理想的教師
守備兵兼戦闘指導教官。覚醒者。計8人。中堅ハンター相当
臨時事務員1人。司祭
在校生
2年生。10~12歳覚醒者計12人。最低でも読み書き可能。戦闘力は初心者ハンター未満
1年生。8~10歳覚醒者計10人。新入生。読み書き不能者有り。戦闘技能を持たない者有り
校舎
教室・食料庫・井戸・貯水タンク・図書館
武器庫 剣槍斧槌弓メイス猟銃・皮鎧金属鎧
宿舎
5人部屋10
厨房
見張り台
木製。古い。修理中
周辺状況
校舎周辺を除いて無人
6メートル級のスケルトンが遠方で徘徊しています
「つまり何をすれば?」
事前情報を持たないハンターが尋ねた。
「邪魔に鳴らなければ何やっても良いらしいぞい。依頼を出す方も試行錯誤しているようじゃ」
キノコっぽいパルムが相づちをうって、司書のおやつに手を出そうとしてカサの部分をぐりぐりされた。
リプレイ本文
●
「ずっと部屋ン中こもりっきりじゃあ、気が滅入っちまうよなぁ。だからよ、気晴らしにでもいこうぜ?」
はじまりはボルディア・コンフラムス(ka0796)の宣言だった。
「はい、いえ、私は司祭の直属で」
「イコニア君この子借りるわよー」
セリス・アルマーズ(ka1079)が、12歳にしては体格の良い助祭を片手で軽々連れて行く。
「ふふふ、楽しんで来てください」
穏やかな言葉とほんのり嫉妬の籠もった視線が、東に向かう助祭達に向けられていた。
「おらおらどうした。注意が散漫になってっぞ」
全長2メートル近い巨大斧が鉈でも振るうような高速で旋回した。
枯れ草混じりの草の束が切断され、ついでに粉砕されたスケルトンと混じりつつ遠くへ吹っ飛んでいく。
「申し訳」
謝罪しようとした1人をもう1人が押さえる。
流れる汗が目に入っても瞬きもせず、乱れそうになる呼吸を制御しながら目と耳で周囲を探る。
指で南東を示して指を1本立てた。
「よーし」
ボルディアがにんまりと笑う。
「歪虚に気づいた後はどうする? おっと、俺は黙らねぇぞ。錯乱しかけの素人として扱ってみろ」
今回の遠出はピクニックと書いて実戦演習と読む。
年出世街道上にいるとはいえ未だ12歳に対する内容としては、難易度が限界ぎりぎりといっていいほど高かった。
スケルトン複数が草を掻き分けこちらに接近する。
助祭2人は迎撃とア護衛を両立しようとして中途半端に移動してしまう。
最後尾の歪虚からボルディアに続く空間が空いて、そこへスケルトンからの投石が飛来する。
ボルディアはかすり傷ひとつ受けず一言減点とだけ呟いく。
「では授業を始めます」
馬上から、エステル(ka5826)か赤い長柄を鋭く突き出した。
尖端の光刃が薄汚れた骸骨を貫く。骨ごとにばらばらになることも許さず一瞬で消滅させた。
「ボルディア様の前の授業であったように」
馬が器用に草の間を縫って移動、残る歪虚2体の前に立ちふさがる。
「仲間、特にその身を削り盾となる前線の方々を癒し、戦線を維持するのが重要」
これは基本だ。どれだけ高位の聖導士でもこれを忘れて戦えば戦果より被害が大きくなる。
「ですが」
歪虚を今すぐ滅したい気持を抑えて静かに見下ろすと、薄汚れた穂先2つがエステルの顔を狙い突き出された。
「一般の方々や後輩たちがいる場合、屋内などの距離が取れない場合、攻撃に回らなくてはならない場合など、戦線維持以外を優先すべき状況もありえます」
要するに臨機応変だ。
戦い方を全てマニュアル化すれば何万ページあっても足りない。要するに柔軟性を維持して頑張るしかない。
歪虚が迫る。エステルは身の丈より長大な盾を構え、滑るように斜め後方へ移動し穂先1つを回避。
残る1つを危なげ無く受け止め反撃の光刃で切り捨てた。
ボルディアが視線だけで牽制、エステルも助祭2人を庇う位置を離れない。
生き残りの骸骨1体は攻撃を諦め逃走に移る。
「聖導士は味方より先に倒れる訳にはいきません。盾などを使い受けることを意識するのも重要です。そして」
光刃を消す。
「初歩的なスキルのホーリーライトでも制御に気を使えば」
メイスに戻った長柄から講談を光弾を射出。最後に残った1体の腰骨を消滅させた。
「近づかれる前に倒すことも追い打ちも可能です」
分かりましたかと穏やかに問うエステルは、見た目は助祭達とほとんど歳が変わらない。
拝聴する助祭の2人の顔には少しだけ悔しさが浮かんでいる。
「んー」
体格の良い戦馬の鞍上で、セリス・アルマーズ(ka1079)は採点の真っ最中だった。
「実力と向上心は年齢の割には有り、ね」
男女1組の助祭から距離をとって慎重に観察、体力技術注意力を読み取り手元の羊皮紙に書き入れる。
「気力は……うーん、上昇志向が源?」
歪虚に対する戦意に不足はない。
ただ、歪虚を滅ぼすのが目的ではない手段であるように感じ取れる。
エクラの教えは寛容の心、相手を許し 自分の生きざまを貫くモノ。
助祭達の考えを否定する気は全くないけれども……。
「上司や派閥と性質が違うと面倒でしょうね」
それでも、仮に、私と道がぶつかり合うことがあったとしても自分の生き方を貫いてもらいたい。
慈愛と、相手を理解した上で我が道を貫く強さの両立した瞳で瞬きをして、マテリアルによる刀を一閃させた。
近くまで忍び寄った武装スケルトン1体が、装備ごと両断されて一瞬で消滅した。
「ちょっと使い辛い?」
セイクリッドフラッシュに比べると威力がある。使用回数も多いし比較的目立たない。
そのかわり範囲は狭く回避されやすい。
どうしたものかしらと考えながら、セリスは校長から頼まれた採点と護衛を継続した。
ボルディアが立ち止まる。ハンターの聖導士2人は後方で止まっている。
「さて、助祭2人。この状況、お前等ならどうする?」
大重量の何かが川原を行く音が確かに聞こえる。
子供2人が命の危険という重圧に耐えて決断を下す前に、ボルディアは肩をすくめて時間切れと言い放つ。
「この状況、決まった正解なんざねぇが」
放物線を描いて岩が降ってくる。
「俺が望む答は情報収集した後撤退し、準備を整えて迎撃。逃げるのに邪魔が足の遅いのは事前に注意、だ」
にやりと笑って戦斧「ウラガンクーペ」で迎撃。
破壊には成功したものの破片により細かな傷を負う。
「ほらほら、逃げないと俺が死ぬぞー」
自己治癒術をわざと出し惜しみして精神的負荷をかけ続けるあたり、ボルディアは教師に向いているのかもしれなかった。
なお、大型歪虚を振り切った上での撤退には成功。目撃情報を校長に渡した上で次回の討伐兼社会見学許可を取り付けた。
●
ノートの上でパルムが首を傾げていた。
その足下に字を書き込む少年は全く気づけていない。
最初の給料で買ったペンに全神経を集中。下手ではあっても魂の籠もった単語を書ききった。
「邪魔だ」
イッカク(ka5625)はキノコを摘まんで教室から放り出し、書き取りに励む少年少女の状態を確かめた。
既に気力が尽きているのが半数程度。
授業開始から3時間たってこれならまあいい方だろ。
「今此処じゃリアルブルーの絵巻物が流行ってんだろ?」
小休止を指示して雑談を始める。
「絵だけ眺めてもああいったのは楽しめんだろうが……やっぱ文字も読めた方が話の内容も分かってより楽しめんだろ」
色鮮やかな、王国出身者になじみのある設定の漫画を掲げて見せる。
「って事で絵巻物を本気で楽しみてえなら気張って文字読み書き出来る様になれや。お前らが気張んなら俺も気張って2巻目以降もぶん盗ってきてやるからよ」
彼はそう言って、漫画に登場する単語を黒板に書き出していく。
2時間が経過した。
新たな書き取り内容を指示して隣の部屋へ戻ると、消耗品費用申請用紙を前に2年生全員が苦戦中だった。
「戦えない体になっても生き残っていける様に頭も強くしとかねえとな」
イッカクに気付いた子供が曖昧にうなずいている。
明らかに納得できていない。
ガキならこんなもんだろうなと内心つぶやいて、イッカクは記載ミスを指摘し描き直しを命じる。
「この先聖導士以外の道に進んでも、聖導士をしてもこういうのからは逃げられねぇぜ? おいジョン!」
開けっ放しの窓から外に声をかける。
疲れ果てた助祭が振り返り、イッカクに気付いて思わず呻いた。
「戦士団の書類仕事も大変だろ?」
「あんたのやり方でなんとかしのいでますよ」
顔を歪めたその様は、男親に反抗する子供にしか見えなかった。
「よそ見をするな。来るぞ」
柊 真司(ka0705)が警告。
運転席の少女助祭が必死にブレーキを踏み過ぎてしまい、タイヤと地面がかみ合わずに魔導トラックが横へ滑る。
「危っ、窓から離れろ!」
少年助祭の警告をイッカクは目を細めて聞いた。
「機関銃の操作盤に触れてないのは評価してやる」
真司は丸腰でトラックの前に飛び出した。
イッカクでようやく認識できる速度で横へ跳ぶ。
1センチずれれば大怪我確実な位置から鍵を繰り出しドアを開けて、左手を突っ込み少女助祭の手ごとハンドルを握りしめた。
片腕のみで自らの体を支えて魔導トラックと共に移動。
絶妙に操作して後者との直撃をぎりぎりで避けた。
「この後修理の練習だ。戦場で夜間修理が出来るまで続けるからぞ。ほら、鏡で後方の確認を忘れるな」
常人では何度死んでも足りない仕事も、超高位覚醒者にとってはいつもの仕事でしかない。
1年生からの崇拝にも似た視線を感じながら、真司は機材にも人にも傷を付けずに暴走トラックを停止させた。
●
「これ借ります」
少女助祭は医学書に手を伸ばした。
連日の演習と訓練で顔色が酷い。
「ほうほうほう。図書室らしくない本の取合いが起きているのに君は専門書を選ぶか!」
長身細身の地球人が回り込んできて少女顔を覗き込む。
知的好奇心のみが浮かぶ瞳は酷く危険に感じられ、助祭は笑顔の仮面を維持できなかった。
「正直に言ってしまえば、まあ、どちらも嬉しい誤算ではあるが」
久延毘 大二郎(ka1771)が硬い足音をたてて離れ図書館の中を歩く。
少女漫画の棚からノートを1冊抜き取る。
載っている貸し出された本と、持ち出された本の数が一致していない。
「とは言え、今の状況を放っておく訳にはいかんな」
大二郎の気合いに圧されて助祭の思考が鈍る。
「とりあえず、結果として生徒達が本に対する興味を持ってくれたのは何よりだ。ならば次のステップへと進むとしよう」
本の取扱い方と図書室のシステムの基本的な利用方法。
義務教育を受けた地球人だれでも知っていることがこの場所では当たり前ではない。
「貸出期間票の使い方、期日内に必ず返却をする、それが出来ないならば延長の申請を行う。全て紙に書いて目立つ場所へ張るのだ」
わ、私は他に仕事が、などという反論を全て聞き流して容赦なく使う。
「声を大にして教えるのは『本を粗末に扱うな』だ。本に対する扱いは知識や教養に対するそれ。粗末に扱う者は「自分は知性や勉学を蔑ろにしている」と大声で言っているのも同じだ」
大二郎は指示を出す以上に自ら動いている。
本棚の漫画の痛み具合を見て生徒の現状を正確に推測。躾内容の提案と学校の上部組織への報告書を一気に書き上げた。
「あら、お邪魔でした?」
ソナ(ka1352)が顔を出すと助祭がすがりつくような目を向けてきた。
「今終わったところだ」
片付けを終え立ち去る大二郎は早足だ。
「園のお世話係をしてくれてありがとうございます。上司の方と学園に暫く居られる様なので、私も嬉しいです」
ソナが微笑むと少女の目が潤み、はっと気付いて必死に表情を取り繕う。
「お仕事はどう? 大変?」
世話好きな姉あるいは母親のように接する。
助祭は鬱陶しがっているがそれは外見だけで、決してソナから離れようとはしなかった。
「またね、マティちゃん」
散々構った後、ソナは少女を宿舎に送り届けて校長室へ向かう。
「進路選択は難しいよね」
あの子は医療に興味がある。
けれど自立可能な技術や財産を築くことにも非常に関心があって、現状から抜け出す思い切りはないようなのだ。
「専門家が常駐していた方がやりやすいと思うんだがな」
「寄贈された稀覯本も3冊あるからのう」
校長と大二郎が話し込んでいる。ソナに黙礼してからイコニアに目で促す。
「面接はそちらでお願いしますよ」
申請書と関係有力者への手紙を複数書いていく。
ふと、疲れた心身に染みこむ香りに気付く。
「どうぞ」
ソナから差し出す薬草茶を、イコニアは両手で捧げ持つ形で受け取った。
自己紹介と現状報告を互いに済ませたところ、司祭の機嫌が異様に良くなった。
歳の近い同性の聖導士と接する機会がないのだ。
「揃っているわね」
開けっ放しのドアにノックして、ルシェン・グライシス(ka5745)がするりと校長室へ入ってくる。
校長が軽く目を見開く。
露出度を低く抑えても隠しきれない色香がある。
艶のある髪から伸びる白い耳が、清廉で知られる老司教の理性に罅を入れた。
「プレゼンを初めてよいかしら?」
「はい。……司教様が復帰されるまで私が代理でお聞きします」
イコニアは内心「私はノーマル」と繰り返し唱えていた。
「私たち聖導士は癒しの力を使う事はできます……が、如何なる時でも使えるとは限りません」
仕事上、死に密接に関わってきた聖導士達がそれぞれのやり方で同意する。
「スキルが行使できない事態、長期戦による消耗等あらゆる状態に陥ってしまうか分からないからよ。現にテスカ教団が攻めて来た時多くの王国兵、ハンター、聖堂戦士団がその命を落としたわ」
真っ直ぐに司教を見据える。
校長は辛うじて精神を再建するが顔が赤い。
「中には救える命はあったにも関わらず救えられなかったのは何故か? 多くのものはその力に頼りすぎたからよ」
ここまでは前置きだ。
「だから」
クリムゾンウェストの既存技術に、東方とリアルブルーの技術を導入し座学と実技両面で教え込む。
これがルシェンの提案だった。
「東方?」
校長が目の色を変えた。
「教える内容を厳選しても2年は必要だと思います」
ソナが反論ではなく補足する。
「治療看護と薬草学を分け、聖導師の基礎がある人を2年次以降で受け入れて……通常課程卒業生で既に就職している子でも基準を満たせば入れてしまいましょう」
「イコニア司祭、いけると思うが」
「この案だといろんな人に喧嘩売ることになりますよ」
「いずれにせよ専属の教師が欲しいですね。無理でも近くの施療院等と連携は最低限。それと」
伯爵領の時代の人材、特に農業と薬草に詳しい方をお招きできないでしょうか。
ソナがそう提案すると司教と司祭の表情が固まった。
「ま、前向きに検討させていただき」
真司が限界まで手加減してデコピンする。
何すんですかー、と親戚のにーちゃんを見る目で抗議してきた司祭にさらに一撃を入れ疑問をぶつける。
「ホロウレイドと王都の敗戦で戦力が必要とはいえ速成過ぎる」
左手に持っていた紅茶入りカップを机に置いて、真司は司教と司祭と交互に睨んだ。
「気づかなかったふりをしていただけると」
真司は無言で、イコニアに代わって処理した書類の山を指さした。騙せば当然次はない
「みんな歪虚が悪いんです」
真司は厄介ごとの存在を確信した。
「あら、なら東方案は渡りに船かしら」
ルシェンが艶やかに笑う。
東方で居場所が無くなった者達を、その中でも有能あるいは覚醒者を呼び込めば戦力増強にもなる。
そして猛烈な反発も確実だ。
王国は保守的であり、保守的である理由と利点も数多くあるのだから。
「騒がしくなりそうね」
校長が目を逸らし、口笛を吹くのに失敗した。
「ずっと部屋ン中こもりっきりじゃあ、気が滅入っちまうよなぁ。だからよ、気晴らしにでもいこうぜ?」
はじまりはボルディア・コンフラムス(ka0796)の宣言だった。
「はい、いえ、私は司祭の直属で」
「イコニア君この子借りるわよー」
セリス・アルマーズ(ka1079)が、12歳にしては体格の良い助祭を片手で軽々連れて行く。
「ふふふ、楽しんで来てください」
穏やかな言葉とほんのり嫉妬の籠もった視線が、東に向かう助祭達に向けられていた。
「おらおらどうした。注意が散漫になってっぞ」
全長2メートル近い巨大斧が鉈でも振るうような高速で旋回した。
枯れ草混じりの草の束が切断され、ついでに粉砕されたスケルトンと混じりつつ遠くへ吹っ飛んでいく。
「申し訳」
謝罪しようとした1人をもう1人が押さえる。
流れる汗が目に入っても瞬きもせず、乱れそうになる呼吸を制御しながら目と耳で周囲を探る。
指で南東を示して指を1本立てた。
「よーし」
ボルディアがにんまりと笑う。
「歪虚に気づいた後はどうする? おっと、俺は黙らねぇぞ。錯乱しかけの素人として扱ってみろ」
今回の遠出はピクニックと書いて実戦演習と読む。
年出世街道上にいるとはいえ未だ12歳に対する内容としては、難易度が限界ぎりぎりといっていいほど高かった。
スケルトン複数が草を掻き分けこちらに接近する。
助祭2人は迎撃とア護衛を両立しようとして中途半端に移動してしまう。
最後尾の歪虚からボルディアに続く空間が空いて、そこへスケルトンからの投石が飛来する。
ボルディアはかすり傷ひとつ受けず一言減点とだけ呟いく。
「では授業を始めます」
馬上から、エステル(ka5826)か赤い長柄を鋭く突き出した。
尖端の光刃が薄汚れた骸骨を貫く。骨ごとにばらばらになることも許さず一瞬で消滅させた。
「ボルディア様の前の授業であったように」
馬が器用に草の間を縫って移動、残る歪虚2体の前に立ちふさがる。
「仲間、特にその身を削り盾となる前線の方々を癒し、戦線を維持するのが重要」
これは基本だ。どれだけ高位の聖導士でもこれを忘れて戦えば戦果より被害が大きくなる。
「ですが」
歪虚を今すぐ滅したい気持を抑えて静かに見下ろすと、薄汚れた穂先2つがエステルの顔を狙い突き出された。
「一般の方々や後輩たちがいる場合、屋内などの距離が取れない場合、攻撃に回らなくてはならない場合など、戦線維持以外を優先すべき状況もありえます」
要するに臨機応変だ。
戦い方を全てマニュアル化すれば何万ページあっても足りない。要するに柔軟性を維持して頑張るしかない。
歪虚が迫る。エステルは身の丈より長大な盾を構え、滑るように斜め後方へ移動し穂先1つを回避。
残る1つを危なげ無く受け止め反撃の光刃で切り捨てた。
ボルディアが視線だけで牽制、エステルも助祭2人を庇う位置を離れない。
生き残りの骸骨1体は攻撃を諦め逃走に移る。
「聖導士は味方より先に倒れる訳にはいきません。盾などを使い受けることを意識するのも重要です。そして」
光刃を消す。
「初歩的なスキルのホーリーライトでも制御に気を使えば」
メイスに戻った長柄から講談を光弾を射出。最後に残った1体の腰骨を消滅させた。
「近づかれる前に倒すことも追い打ちも可能です」
分かりましたかと穏やかに問うエステルは、見た目は助祭達とほとんど歳が変わらない。
拝聴する助祭の2人の顔には少しだけ悔しさが浮かんでいる。
「んー」
体格の良い戦馬の鞍上で、セリス・アルマーズ(ka1079)は採点の真っ最中だった。
「実力と向上心は年齢の割には有り、ね」
男女1組の助祭から距離をとって慎重に観察、体力技術注意力を読み取り手元の羊皮紙に書き入れる。
「気力は……うーん、上昇志向が源?」
歪虚に対する戦意に不足はない。
ただ、歪虚を滅ぼすのが目的ではない手段であるように感じ取れる。
エクラの教えは寛容の心、相手を許し 自分の生きざまを貫くモノ。
助祭達の考えを否定する気は全くないけれども……。
「上司や派閥と性質が違うと面倒でしょうね」
それでも、仮に、私と道がぶつかり合うことがあったとしても自分の生き方を貫いてもらいたい。
慈愛と、相手を理解した上で我が道を貫く強さの両立した瞳で瞬きをして、マテリアルによる刀を一閃させた。
近くまで忍び寄った武装スケルトン1体が、装備ごと両断されて一瞬で消滅した。
「ちょっと使い辛い?」
セイクリッドフラッシュに比べると威力がある。使用回数も多いし比較的目立たない。
そのかわり範囲は狭く回避されやすい。
どうしたものかしらと考えながら、セリスは校長から頼まれた採点と護衛を継続した。
ボルディアが立ち止まる。ハンターの聖導士2人は後方で止まっている。
「さて、助祭2人。この状況、お前等ならどうする?」
大重量の何かが川原を行く音が確かに聞こえる。
子供2人が命の危険という重圧に耐えて決断を下す前に、ボルディアは肩をすくめて時間切れと言い放つ。
「この状況、決まった正解なんざねぇが」
放物線を描いて岩が降ってくる。
「俺が望む答は情報収集した後撤退し、準備を整えて迎撃。逃げるのに邪魔が足の遅いのは事前に注意、だ」
にやりと笑って戦斧「ウラガンクーペ」で迎撃。
破壊には成功したものの破片により細かな傷を負う。
「ほらほら、逃げないと俺が死ぬぞー」
自己治癒術をわざと出し惜しみして精神的負荷をかけ続けるあたり、ボルディアは教師に向いているのかもしれなかった。
なお、大型歪虚を振り切った上での撤退には成功。目撃情報を校長に渡した上で次回の討伐兼社会見学許可を取り付けた。
●
ノートの上でパルムが首を傾げていた。
その足下に字を書き込む少年は全く気づけていない。
最初の給料で買ったペンに全神経を集中。下手ではあっても魂の籠もった単語を書ききった。
「邪魔だ」
イッカク(ka5625)はキノコを摘まんで教室から放り出し、書き取りに励む少年少女の状態を確かめた。
既に気力が尽きているのが半数程度。
授業開始から3時間たってこれならまあいい方だろ。
「今此処じゃリアルブルーの絵巻物が流行ってんだろ?」
小休止を指示して雑談を始める。
「絵だけ眺めてもああいったのは楽しめんだろうが……やっぱ文字も読めた方が話の内容も分かってより楽しめんだろ」
色鮮やかな、王国出身者になじみのある設定の漫画を掲げて見せる。
「って事で絵巻物を本気で楽しみてえなら気張って文字読み書き出来る様になれや。お前らが気張んなら俺も気張って2巻目以降もぶん盗ってきてやるからよ」
彼はそう言って、漫画に登場する単語を黒板に書き出していく。
2時間が経過した。
新たな書き取り内容を指示して隣の部屋へ戻ると、消耗品費用申請用紙を前に2年生全員が苦戦中だった。
「戦えない体になっても生き残っていける様に頭も強くしとかねえとな」
イッカクに気付いた子供が曖昧にうなずいている。
明らかに納得できていない。
ガキならこんなもんだろうなと内心つぶやいて、イッカクは記載ミスを指摘し描き直しを命じる。
「この先聖導士以外の道に進んでも、聖導士をしてもこういうのからは逃げられねぇぜ? おいジョン!」
開けっ放しの窓から外に声をかける。
疲れ果てた助祭が振り返り、イッカクに気付いて思わず呻いた。
「戦士団の書類仕事も大変だろ?」
「あんたのやり方でなんとかしのいでますよ」
顔を歪めたその様は、男親に反抗する子供にしか見えなかった。
「よそ見をするな。来るぞ」
柊 真司(ka0705)が警告。
運転席の少女助祭が必死にブレーキを踏み過ぎてしまい、タイヤと地面がかみ合わずに魔導トラックが横へ滑る。
「危っ、窓から離れろ!」
少年助祭の警告をイッカクは目を細めて聞いた。
「機関銃の操作盤に触れてないのは評価してやる」
真司は丸腰でトラックの前に飛び出した。
イッカクでようやく認識できる速度で横へ跳ぶ。
1センチずれれば大怪我確実な位置から鍵を繰り出しドアを開けて、左手を突っ込み少女助祭の手ごとハンドルを握りしめた。
片腕のみで自らの体を支えて魔導トラックと共に移動。
絶妙に操作して後者との直撃をぎりぎりで避けた。
「この後修理の練習だ。戦場で夜間修理が出来るまで続けるからぞ。ほら、鏡で後方の確認を忘れるな」
常人では何度死んでも足りない仕事も、超高位覚醒者にとってはいつもの仕事でしかない。
1年生からの崇拝にも似た視線を感じながら、真司は機材にも人にも傷を付けずに暴走トラックを停止させた。
●
「これ借ります」
少女助祭は医学書に手を伸ばした。
連日の演習と訓練で顔色が酷い。
「ほうほうほう。図書室らしくない本の取合いが起きているのに君は専門書を選ぶか!」
長身細身の地球人が回り込んできて少女顔を覗き込む。
知的好奇心のみが浮かぶ瞳は酷く危険に感じられ、助祭は笑顔の仮面を維持できなかった。
「正直に言ってしまえば、まあ、どちらも嬉しい誤算ではあるが」
久延毘 大二郎(ka1771)が硬い足音をたてて離れ図書館の中を歩く。
少女漫画の棚からノートを1冊抜き取る。
載っている貸し出された本と、持ち出された本の数が一致していない。
「とは言え、今の状況を放っておく訳にはいかんな」
大二郎の気合いに圧されて助祭の思考が鈍る。
「とりあえず、結果として生徒達が本に対する興味を持ってくれたのは何よりだ。ならば次のステップへと進むとしよう」
本の取扱い方と図書室のシステムの基本的な利用方法。
義務教育を受けた地球人だれでも知っていることがこの場所では当たり前ではない。
「貸出期間票の使い方、期日内に必ず返却をする、それが出来ないならば延長の申請を行う。全て紙に書いて目立つ場所へ張るのだ」
わ、私は他に仕事が、などという反論を全て聞き流して容赦なく使う。
「声を大にして教えるのは『本を粗末に扱うな』だ。本に対する扱いは知識や教養に対するそれ。粗末に扱う者は「自分は知性や勉学を蔑ろにしている」と大声で言っているのも同じだ」
大二郎は指示を出す以上に自ら動いている。
本棚の漫画の痛み具合を見て生徒の現状を正確に推測。躾内容の提案と学校の上部組織への報告書を一気に書き上げた。
「あら、お邪魔でした?」
ソナ(ka1352)が顔を出すと助祭がすがりつくような目を向けてきた。
「今終わったところだ」
片付けを終え立ち去る大二郎は早足だ。
「園のお世話係をしてくれてありがとうございます。上司の方と学園に暫く居られる様なので、私も嬉しいです」
ソナが微笑むと少女の目が潤み、はっと気付いて必死に表情を取り繕う。
「お仕事はどう? 大変?」
世話好きな姉あるいは母親のように接する。
助祭は鬱陶しがっているがそれは外見だけで、決してソナから離れようとはしなかった。
「またね、マティちゃん」
散々構った後、ソナは少女を宿舎に送り届けて校長室へ向かう。
「進路選択は難しいよね」
あの子は医療に興味がある。
けれど自立可能な技術や財産を築くことにも非常に関心があって、現状から抜け出す思い切りはないようなのだ。
「専門家が常駐していた方がやりやすいと思うんだがな」
「寄贈された稀覯本も3冊あるからのう」
校長と大二郎が話し込んでいる。ソナに黙礼してからイコニアに目で促す。
「面接はそちらでお願いしますよ」
申請書と関係有力者への手紙を複数書いていく。
ふと、疲れた心身に染みこむ香りに気付く。
「どうぞ」
ソナから差し出す薬草茶を、イコニアは両手で捧げ持つ形で受け取った。
自己紹介と現状報告を互いに済ませたところ、司祭の機嫌が異様に良くなった。
歳の近い同性の聖導士と接する機会がないのだ。
「揃っているわね」
開けっ放しのドアにノックして、ルシェン・グライシス(ka5745)がするりと校長室へ入ってくる。
校長が軽く目を見開く。
露出度を低く抑えても隠しきれない色香がある。
艶のある髪から伸びる白い耳が、清廉で知られる老司教の理性に罅を入れた。
「プレゼンを初めてよいかしら?」
「はい。……司教様が復帰されるまで私が代理でお聞きします」
イコニアは内心「私はノーマル」と繰り返し唱えていた。
「私たち聖導士は癒しの力を使う事はできます……が、如何なる時でも使えるとは限りません」
仕事上、死に密接に関わってきた聖導士達がそれぞれのやり方で同意する。
「スキルが行使できない事態、長期戦による消耗等あらゆる状態に陥ってしまうか分からないからよ。現にテスカ教団が攻めて来た時多くの王国兵、ハンター、聖堂戦士団がその命を落としたわ」
真っ直ぐに司教を見据える。
校長は辛うじて精神を再建するが顔が赤い。
「中には救える命はあったにも関わらず救えられなかったのは何故か? 多くのものはその力に頼りすぎたからよ」
ここまでは前置きだ。
「だから」
クリムゾンウェストの既存技術に、東方とリアルブルーの技術を導入し座学と実技両面で教え込む。
これがルシェンの提案だった。
「東方?」
校長が目の色を変えた。
「教える内容を厳選しても2年は必要だと思います」
ソナが反論ではなく補足する。
「治療看護と薬草学を分け、聖導師の基礎がある人を2年次以降で受け入れて……通常課程卒業生で既に就職している子でも基準を満たせば入れてしまいましょう」
「イコニア司祭、いけると思うが」
「この案だといろんな人に喧嘩売ることになりますよ」
「いずれにせよ専属の教師が欲しいですね。無理でも近くの施療院等と連携は最低限。それと」
伯爵領の時代の人材、特に農業と薬草に詳しい方をお招きできないでしょうか。
ソナがそう提案すると司教と司祭の表情が固まった。
「ま、前向きに検討させていただき」
真司が限界まで手加減してデコピンする。
何すんですかー、と親戚のにーちゃんを見る目で抗議してきた司祭にさらに一撃を入れ疑問をぶつける。
「ホロウレイドと王都の敗戦で戦力が必要とはいえ速成過ぎる」
左手に持っていた紅茶入りカップを机に置いて、真司は司教と司祭と交互に睨んだ。
「気づかなかったふりをしていただけると」
真司は無言で、イコニアに代わって処理した書類の山を指さした。騙せば当然次はない
「みんな歪虚が悪いんです」
真司は厄介ごとの存在を確信した。
「あら、なら東方案は渡りに船かしら」
ルシェンが艶やかに笑う。
東方で居場所が無くなった者達を、その中でも有能あるいは覚醒者を呼び込めば戦力増強にもなる。
そして猛烈な反発も確実だ。
王国は保守的であり、保守的である理由と利点も数多くあるのだから。
「騒がしくなりそうね」
校長が目を逸らし、口笛を吹くのに失敗した。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 久延毘 大二郎(ka1771) 人間(リアルブルー)|22才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/06/05 12:51:27 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/05 21:26:38 |