背信の歯車

マスター:西尾厚哉

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
6日
締切
2016/06/08 19:00
完成日
2016/06/18 15:19

このシナリオは2日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 一発の銃声に倒れた男を、イルリヒト教官、レイ・グロスハイムは乗っていた馬から素早く降りて傍の茂みに引きずり込んだ。
 イルリヒトの門を出てすぐの場所だ。
「……ってぇ……」
「動くな。出血が増える」
 身をよじる男を押さえる。
「グロスハイム教官!」
「レイ!」
 声と慌ただしい足音。
「気をつけろ! 銃を持っている奴が……」
 言い終わる前に盾代わりにした馬の足元の土が銃弾で弾け飛び、嘶きが響く。
「へったくそ……」
 呟いたレイの腕を男が掴んだ。
「イルリヒトの中もやべえかもしんねえぞ……あんたの行動、外にダダ漏れ……」
「……」
 なんだこいつは、という顔でレイは男を見た。


「帝国通信社、ノア・ベンカー」
 手にした名刺を一瞥してレイは男を見下ろした。
「ばっかだねぇ。門の前で待ち伏せしなくったって、もっとほかに方法があっただろ」
 レイの横にいた男が呆れたように言う。
「正攻法で訴えに入ったら俺の言うこと聞いてくれたんかよ」
 恨めしそうに言うノアに
「ん、門前払いかな」
 あはは、と男は笑う。
 あははじゃねえよ、……ったく。
 彼がレイと同じ教官のトマス・ブレガだというのは2人の会話で察することができた。
『あの2人はいつもつるんでる』
 何かそんなことを聞いたような気がする。
「念のため、身元は調査させてもらう。まあ、暫くゆっくりしていってもらおうか」
 レイの険しい目を見て、上半身を包帯でぐるぐる巻きにされていたノアはおどおどと視線を泳がせた。
 やべえ。やべえよ。
 何か言ったら俺の口から全部話さなきゃならなくなる。ララさんに面目たたねえよ。
 そもそもこの2人が敵か味方かもわからねえ。
 どうしよう……


 ことは2時間前に遡る。
 ノアは錬魔院にいると思しきコンスタンティン・ゲルベッツの調査に行き詰っていた。
 錬魔院もイルリヒトも公式の記者会見を開くが、それ以上に一介の新聞記者であるノアが内部情報を知ろうとするにはあまりにも敷居が高すぎた。
 時々何気なく情報を仕入れさせてもらっていたイルリヒトの事務員、マリーとも上手く連絡がつかない。
「参ったなあ……」
 カフェの片隅でぼやいていた時、ぽんと叩かれた肩に振り向いたのがノアの運命を変えた。
「探したよぉ、兄貴」
 帝国マフィアの三下奴、トニだ。
 トニは当然のようにノアの前の席に座り「あ、お姉ちゃん、パンケーキちょうだい」とオーダーして
「ねえ、ララさん、師団ですよね? だったら安心っすよね?」
 と尋ねてきた。
「何だよ、いきなり」
 胡散臭そうに答えるノアに、トニはきょろきょろと周囲を見回すと顔を寄せる。
「オズワルド師団長がレイ・グロスハイムを呼び出したのは知ってます?」
「知ってるも何も、最初っからその予定だろうよ。ララさん、自分で話すって言ってたみたいだし」
「でも、グロスハイムの殺害依頼が出たんスよ」
「は?」
 噴きそうになったお茶のカップを慌てて置いてノアは目を剥く。
「どこから」
「それが俺もドア耳で……。だからララさんのことも心配になっちゃって」
「……マフィアがやるのか?」
「俺っちはそういうことは手を出さねえっす。武器出すからとヴァルツライヒに」
「ヴァルツライヒ!?」
 くらっと眩暈がしたように思えた。
 なんでだ? なんでそんなことになる?
 でも、今までマフィアを使って行動した人間がひとりだけいる。
 コンスタンティン・ゲルベッツだ。
 彼は吸血鬼ララこと、孤児のサラを引き取るのにマフィアを使った前科がある。
 だが、なんで今このタイミングなんだ?
 グロスハイムを師団に行かせたくないからか?
 動揺するノアの顔をトニは覗きこんだ。
「兄貴、もうどうしようもないんス。今日の午後2時だから。でも、兄貴には知らせたくて……」
「2時?」
 慌てて時計を見る。
 そこではっと気づいた。
「なんで、グロスハイムの予定が外部にわかるんだ……」
 もう考えてる暇なんかねえ。
 立ち上がったノアをトニがびっくりして見上げた。
「兄貴?」
 そのままノアは店から飛び出していた。

 俺、レイ・グロスハイムの顔、はっきり知らねえ……
 見たのは、何かの記事で小指の先ほどに小さく写った集団写真のレイの姿。
 ノアがそのことを思い出したのはイルリヒトの前に到着してからのことで、もうこうなったら出て来た奴に片っ端から声をかけるしきゃねえ、と思っていた。
 グロスハイムは死なせちゃいけない。
 死んだらややこしいことになるだろうよ。
 何よりあの子が泣くじゃねえか。
 だから1時間ねばって、最初に出て来た馬上の若い男に走り寄ったそれがレイ・グロスハイム本人であったのは非常にラッキーなことだった。
「グロスハイムか! 行くな! 殺されるぞ……!」
 直後に響いた銃声は前に飛び出したノアの姿に気づいて慌てて馬を止めたレイではなく、ノアを射抜いた。


「アーベレ主任が事情を伝えて第一師団に訪問延期を申し入れた。でも、状況鑑みてきちんとした日時を出せと言ってる」
 ノアのいる部屋のドアをぱたりと閉めてトマスはレイの顔を伺い見る。
 レイはその顔を見つめ返して、ノアの言葉を思い出す。
『イルリヒトの中もやべえかもしんねえぞ……あんたの行動、外にダダ漏れ』
「山ほどいるよな。そういう奴」
「……?」
 トマスは怪訝な顔をした。
 その2人の会話の途中で、部屋の中ではノアがいきなりの短伝の呼び出し音にぎょっとしてドアの方を振り向き、痛む肩に堪えて毛布を引きあげ、急いで短伝話を耳にあてがっていた。
「も、もしもしっ……」
「ノアさん? 良かった! 通じないかと……!」
「ピアちゃん?!」
 思わず小さく叫んでしまう。
 俺、ピアちゃんに番号教えてたんだ! そうか、偉いぞ偉いぞ俺!
 渡りに船とはまさにこのこと。
「今、イルリヒトの外。オズワルドさんから聞いて馬飛ばして来たの。怪我は?」
「オズワルド……じゃあ、ララさんと会ったのか?」
「お会いしたわ。発砲事件って、どういうこと? ノアさん、何したの?」
「俺じゃないよ……ってか、ピアちゃん、俺をこっから連れ出して。たぶん尋問される」
「うん、今から依頼出しに行くの。私が行くって言ったの。レイとノアさん2人とも外に出すわ。でも、そこに入る理由が思いつかないの」
「依頼者は伏せりゃいいだろ。どっかのお偉いさんのご子息入学で下見だとかなんとか」
「そっか……」
「でも、グロスハイムは素直に動くとは思えんぞ。それに、どうも内通者がいる。グロスハイムの行動、外に漏れてる」
「みんなで相談するわ」
「ピアちゃん」
 一息おいてノアは言う。
「話、聞いたんだろ? グロスハイムのこと。きみ……大丈夫なのか?」
「私は……大丈夫。大丈夫よ」
 そう答えたピアの声はどことなくくぐもって聞こえた。

リプレイ本文

 何かあればこれで呼んでとルシオ・セレステ(ka0673)からミュージカルノートを手の平に置かれた時、ピア・ファティ(kz0142)の目が潤んだ。
 マキナ・バベッジ(ka4302)から馬車の用意ができたと連絡が入る。
 そこで待っていて、と言われて素直に頷くピアの表情があまりにも寂しそうで、リュー・グランフェスト(ka2419)が手を差し出した。
「俺のテンペストで送ってくよ」
 見送りつつ
「元気なリューと優しいマキナがレイと対面するピアに勇気をくれるだろうね」
 呟くルシオに
「ふむ。僕ならしっかりせんかと軽く突き飛ばすが」
 と、ウィルフォード・リュウェリン(ka1931)。
 ルシオは笑う。
「心配そうな目をしていたのは誰?」
 そして戻って来たリューと共にイルリヒトに。
 予想以上に中は騒然とし、喧騒の中で見学の意を伝えて待つこと数分。
 姿を見せたのが願ったり叶ったりの人物だった。
「……あ」
 エミ・モリスは驚いたように目を丸くした


「すみません、教官は手一杯で」
 庇のついたパティオを歩きながらエミは言った。
「ハイレベル生が急きょ敷地外の警護実地訓練に。門の前で狙撃事件があったので」
「物騒だな。怪我人は出なかったのか?」
 リューの言葉に
「新聞記者が撃たれました。命に別状ありません。こちらで休んでもらっています」
「記者……? もしかしてノア・ベンカーじゃないだろうな? 帝国通信社の」
 ウィルフォードは尋ねてみる。
「ご存じなんですか?」
「彼には協力してもらっていたことがあってね」
 エミの顔に浮かんだ訝し気な色にルシオが自然に答えた。
「待ち合わせに来なかったから心配していた。ああ……そうだ」
 ふと思いついたように
「良かったら彼にヒールを使おうか。早く回復するに越したことはないだろう?」
「回復を見てヒアリングするからとは言われていますが……グロスハイム教官に聞いてみます」
 エミは答えた

 ここでお待ちをと言われた場所には見知った顔がいた。
 ヴィリーとケヴィン、共にエミと同じハイレベル生だ。
「ヴィリー、元気そうだ。良かった」
 ルシオが言うと、ヴィリーは無言で頷き返す。
「ヴィリーはまだ上手く反応ができません。すみません」
 隣のケヴィンが言う。
「怪我でもしたのか? あ、俺、リュー・グランフェスト。よろしくな」
 差し出されたリューの手を握り返し
「彼は剣機団子に捕えられて……」
 口篭るケヴィンにリューは「あ」と口を開く。
「そっか……やなこと思い出させて悪ぃ……」
 大丈夫、というようにヴィリーが手をあげた。
「あなた達、警護は?」
 ルシオの問いにケヴィンは首を振った。
「指揮官がヒューグラー教官なので、グロスハイム教官直下の僕らは参加できません」
「レイの直下だとだめなのか?」
 と、ウィルフォード。
 ケヴィンは言いにくそうに口を開く。
「僕らはグロスハイム教官以外の指導は受けさせてもらえません。……さすがにダニロとヒューベルトとあと何人かは嫌気がさして、志願して師団に行きました」
「なんか、ひでえ話だな……」
 少し憤慨したようにリューが言うと、ケヴィンは目をしばたたせて口を噤んだ


 その頃、マキナとピアは町でトニの姿を探していた。
 元よりその予定だったマキナにピアは一緒に行きたいと懇願し
「僕からは……離れないでくださいね」
 はいと答えるピアをマキナは馬車から外した馬に乗せたのだった。
 トニの風貌はピアが短伝話でオズワルドを介してララに確認した。
 髪は黒で癖っ毛、身長はピアと同じくらい
 身なりはこざっぱりとしているが、右の耳につけた金のイヤリングが少々下品
 少し難儀な特徴ではある。
 ノアとの短伝話の会話から推測すると、2人はいつも帝国通信社の近くのカフェで会っていると思えた。しかし、今もトニがそこにいるかどうかわからない。
 だめもとでといくつかカフェらしき店を巡ったのち、マキナが所在なさげにうろつく男を指差した。
 黒髪癖っ毛片耳イヤリング。下品と思うかどうかは人それぞれだろうが。
 無警戒に同じ場所にいるあたりが三下っぽいが、声をかけても彼が逃げ出さなかったのは物静かな雰囲気のマキナと幼さのあるピアだったからかもしれない。
 建物の陰で状況を伝えるとトニはあんぐりと口を開いた。
「兄貴、やっぱり無茶したんだ……」
「トニさん、この辺りで……マリーという名前の女性がいる資産家はありますか? 使用人が雇えるほどの」
 マキナの問いにトニは首を傾げる。
「マリーって年寄り? 娘? うーん、フィルツ家かなあ。娘と息子と。確かイルリヒトに勤めてるよ」
「ノアさんはよく会っているようなのですが……」
 トニは「そうなの?」と目をしばたたせる。
「兄貴、自分の人脈は話さないんだ。俺のことも他で明かさない。あ、ララさんは俺、好きだから。ん、ハンターもけっこう好きかも」
 うふふん、とトニは笑う。
「じゃあ、マリーさんについてそれ以上は……」
「うん、知らない。顔くらいは見たことあるかもしんないけど。フィルツはマフィアとも取引なかったと思う」
 行き止まってしまった。
「でも、兄貴を師団に連れ出すのは難しいんじゃね? 兄貴、師団嫌いみたいだよ? すっごい抵抗しそうな気がすんだけど。師団の話すると、ここに皺がよるんだよね」
 トニは自分の眉間を指した。
「あの人、自分のこと一切話さないから理由は全然わかんないんだけど」
 マキナとピアは顔を見合わせた


 エミが仏頂面のレイを伴って現れた。
 ウィルフォードは警戒されないよう、リューと自分は先に見学を続けたい旨をエミに伝え、ちらりとルシオと視線を交わして別れる。
 部屋に入ると、ノアのどろんとした視線がこちらを向いた。
「あれ……」
 掠れた声にルシオがそっと口の前に指を立てる。
「熱が出ているみたいだね」
 レイの視線を背に感じつつノアの傷にヒールをかける。
 暫くして痛みがひいたのかノアはふーと息を吐き
「水……くんねえかな」
 レイがテーブルの上の水差しをとりあげ「空か」と呟いた。
「ケヴィン! 水を汲んで来い!」
 声をかけ、ドアが閉まるのを確かめてレイは向き直った。
「ヒアリングを始めるか」
「傷が癒えても体力は……」
「話すことができるなら充分」
 反対するルシオの言葉をレイは途中で遮るが
「水を飲ませてからだ。彼は犯罪者ではない。拷問じみたことは許さない」
 きっぱりとルシオは言い放った


 親しい間柄に使えるエレメンタルコール。エミに通用するのか……
 ウィルフォードは試しに前を歩く彼女に使ってみた。
 だがエミは足を止めることもない。
「だめか」
 思い切って彼女の前に回り込む。
「少し話がしたい」
 エミの顔に警戒の色が浮かんだ。
「やっぱり……。記者を連れ出すんですか? たぶん教官は気づいてますよ」
「それもあるんだが、内通者について知りたい」
「内通者?」
 意外そうにエミの目が見開かれた。
 彼女は周囲を見回して空いている講義室の1つにウィルフォードとリューを押し込む。
「どういうことですか?」
「レイが師団に行く日時を外部に漏らしている人間がいる。思い当たる人物はいないか。主任や事務の者や。マリーという女性はどうだ?」
 エミは首を振った。
「警備を出すことにしたのはアーベレ主任です。マリー・フィルツさんは甘えた……失礼、裕福な家のご息女と聞きました。ベルクマンさんと仲がいいみたいです」
「ベルクマン?」
 ウィルフォードは目を細めた。
「錬魔院のクリスタ・ベルクマンです。ヴィリーが剣機団子に捕えられた時、不発の試作銃を作った人です。グロスハイム教官とブレガ教官にべたべたするので、皆、嫌っていて」
「レイと知り合いなのか?」
「同期とか……。ニクラス・ゲルベッツ研究室の人で、研究員では優秀なほうだって自分では仰ってます」
 思いもかけない名前が出た。
「ニクラス? コンスタンティンではなく?」
 エミは怪訝そうにリューを見る。
「ニクラスです」
 なぜ名が違う? 同姓なだけか?
 更にウィルフォードが口を開こうとした時、リューが『待て!』というように2人に手を突き出し、外に注意を向けて身を固くした。
「やあ、ここにいらしたんですか。ご見学とうかがって。講義室を見ても楽しくないでしょう」
 3人の前に姿を見せたトマス・ブレガはにこやかに笑ってみせる。
「新聞記者とお知り合いだそうで? お会いになったんですか?」
「ルシオが今ヒールを。僕とリューは会ってない」
 注意深くウィルフォードは答える。
「せめて見舞いだけでもしてあげたらどうです」
 こいつ、何を考えている?
 本心の分からないトマスの顔を見てウィルフォードがちらりとエミに目を向ける。
 エミは微かに首を振った


 馬車の元に戻る途中、ピアとマキナはいくつもの検問を通過した。
 イルリヒトの訓練生がいる。
 検問にひっかかって馬車を改められるとややこしいことになる。
 よりにもよって狙撃者とイルリヒト両方を相手にすることになるとは。
「ピアさん……連れ出すのは師団でなくてもいいんですよね」
 暫く考えたのち、ちらと後ろを振り返りマキナは言った。
「え、ええ……オズワルドさんに伝えれば……」
「この馬車、ヘルマンさんに聞いて調達して来たんです。……検問を避けて、誰にも見つからず2人を匿える場所が……ひとつだけあります」
「どこ?」
「時計塔です……」
 腰にあるピアの手がぴくりと動くのを感じた。
「……可能ですか?」
「可能です……」
 ピアは答えた。
 マキナはピアが小さく「お祖父ちゃま……」と呟くのを聞いた。
 大丈夫、というように腰にある彼女の手をぽんぽんと叩くと、ピアはマキナにぎゅっとしがみついた


「ノア、水だ」
 ルシオはノアの肩に腕を回して体を少し起こしてやった。
「発作が起きないようにゆっくり」
 発作? という視線を向けたノアにルシオは目で合図を送る。
 ルシオの言葉とは裏腹にノアはカップにむさぼりつき
「ノア、ゆっくり……!」
 ルシオの叱責を聞いたあと
「くっ…くるしっ……」
 迫真の演技を披露した。
「発作! レイ! 彼は特定の薬草がないとまずい! 早く治療院に……!」
 叫ぶルシオの顔の前を悪意まみれの手が過る。
「レイ!」
 ルシオの声と共にカップが弾け飛んで床で大きな音を立てた。
 ケヴィンがドアを開き、仰天してレイに飛びかかる。
「教官っ……!」
「ざけんな……お前は俺を狙った奴を知ってる。聞き出すまでは逃がさない」
「いだだだだ……!」
 レイはノアの髪を掴み起こしていた。
 無理に放そうとすると頭の皮まで一緒に剥がしてしまいそうだ。
「リューを呼んで!」
 ルシオはヴィリーに叫ぶ。
 レイはケヴィンを力任せに振り払うと銃を抜いた。それをぴたりとノアに向ける。
「馬鹿なことはやめろ」
 ルシオが身構える。
「ヒールをまた使ってやれ」
 あまりの冷酷さにルシオは耳を疑ってしまう。
 ノアはもはや演技どころではなかったが、思いのほか落ち着いていた。
「あんたを狙ったのはヴァルツライヒだ」
 今まで見たこともないような表情でレイを睨みつける。
「マフィアが依頼を受けてヴァルツライヒを動かした。依頼元は知らん。だけど、言ったよな、あんたの動き、外にダダ漏れだ。あんたを殺したい奴はここにもいる」
 レイの顔が微かに歪んだその隙に、つい、と手が伸びて、彼の手から銃をもぎとった。
 リューだ。
 ルシオはウィルフォードの姿と、その横にいるトマスの姿を見た。
「そんなだから、人間性に難ありが通っちゃうんだよ」
 トマスはふうと息を吐いた。
「狙撃……確かにタイミング良すぎたね。レイ、君はここにいてもいずれは自身の過誤を装って殺されるよ。君が歪虚から偽者呼ばわりされてからあの人の警戒心が強くなってる。君もその確証を得たかったんじゃないのか」
「まさか……」
 エミが声を漏らした。
「彼とは……誰だ」
 ルシオが注意深く尋ね
「ニクラス・ゲルベッツ」
 ウィルフォードの声にトマスはにこりと笑った。
「さすがハンター、ご明察」


「マキナ! レイとノアが脱出する! イルリヒト裏門まで馬車を回せ! 俺も今そっちに向かってる! 道を確かめて護衛に回る!」
 リューはテンペストを走らせながら短伝話で伝える。
『グランフェストさん、ノアさんは師団行きを嫌って途中で逃れようとする可能性があります。……注意してください。それと……検問から逃れるために移動先を変えました』
「変えた?」
『詳しい話は……あとで……歯車のネックレスは……?』
「持って出た。こっちもいろいろたくさんだ。詳しい話はあとで!」

 とり行われている実習講義が終わると人が出て来る。猶予は10分ほどだった。
 トマスはエミに馬を用意させ、ルシオが歯車のネックレスを持って出たいと言うと、ケヴィンを取りに走らせた。
「トマス、貴様、何者だ」
 レイの声にトマスはちらと笑った。
「聞きたいのはこっちのほうだ。君は何者だ、レイ。僕は何も知らされていない。ただ君を見張るようにと。理由は人間性に難あり」
「……」
 レイは無言だった。
「観念しろ、レイ。師団に行って全部暴露して来い」
「トマス、あなたはどうするの。責任は逃れられまい」
 ルシオが言うと
「僕も明日にはここを出る。こいつら引き連れて」
 トマスはエミ達を指してふふっと笑った。
「師団に兵長の兄がいる。書類は今から何とかするよ。行ってしまえば身の安全を確保する布石はいくらでも打てる」
 人声がした。トマスは早く行け、と合図する。
「連絡しろ。味方するから」
 トマスの視線にルシオは明確な返事はしなかった。
 彼のことはまだ信用するわけにはいかなかった。

 途中で合流したリューがびったりと護衛についた。
 すさまじい勢いで馬車までたどり着き、素早く乗り移る。
 ……はずが、案の定、ノアが
「俺、ここでいいわ」
 逃れようとするのを
「あっ、こらっ」
 伸ばしたリューの腕のガントレットに勢い余って当たり、鼻血を出して伸びた。
「やべっ……」
「ヒールを使えばいい」
 ルシオがレイをちらりと見て皮肉たっぷりに言った。
「飛ばします……掴まって」
 マキナが馬に鞭を当て勢いよく馬車は走り出す。
「ピアは?」
 ルシオがはっとする。
「ここだ」
 ウィルフォードが自分の横にあった毛布を叩く。
「震えてないで顔を出せ」
 言われてピアはおずおずと顔を覗かせた。
「レイ……」
 今にも泣き出しそうなピアの顔を見てレイは息を吐いた。
「君か……」
 ルシオが気遣わし気にピアを見た。
 ピアは何も言わなかった。
 ただ、震え、そして泣いた。


「ララさん、出ようか」
 オズワルドは心配そうな面持ちで窓の外を見ていたララ・デアに声をかけた。
「出る? どちらに?」
「歯車が回る場所だ」
 オズワルドの伸ばした手をララは不思議そうにとった

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MVP一覧

  • 杏とユニスの先生
    ルシオ・セレステka0673
  • 時の守りと救い
    マキナ・バベッジka4302

重体一覧

参加者一覧

  • 杏とユニスの先生
    ルシオ・セレステ(ka0673
    エルフ|21才|女性|聖導士
  • 時軸の風詠み
    ウィルフォード・リュウェリン(ka1931
    エルフ|28才|男性|魔術師
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 時の守りと救い
    マキナ・バベッジ(ka4302
    人間(紅)|16才|男性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
リュー・グランフェスト(ka2419
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/06/08 18:48:42
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/06/05 21:08:49