【闘祭】闘争と日常のあいだ

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
  • relation
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/06/05 19:00
完成日
2016/06/17 01:53

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 北方王国リグ・サンガマで複数の王クラスの歪虚との戦いが続く最中でも、世界は平常に運転を続けなければならない。
 それはなぜか? 戦争だけで社会は維持できないからである。
 戦争には莫大な金がかかる。大量の兵隊を遠征させるだけでも凄まじい金額が昇天していくのである。
 それを満足に生存させ、帰還までさせれば更にかかるのだが、帰ってきてもらわねば困るし、帰ってこられない戦いなんてあってはならない。
 更に言えば、帰ってきた彼らに当たり前の日常が戻るようでなければ、歪虚との戦争など虚しいだけではないか。

 タングラムは帝国ユニオンAPVのリーダーだが、あまりまじめに仕事はしていない。
 帝国革命戦争でスタイリッシュ一揆を決めた後、同僚のゼナイドは師団長になり、そしてタングラムはユニオンリーダーになった。
 ユニオンの長たるもの、中立こそが正義である。特定の国家、勢力、人物に傾倒してはならないので、何事もそこそこにしていたら、仕事もそこそこになってしまった。
 結局事務仕事やユニオンの運営自体はフクカンや事務員のねーちゃん達がやってくれるし、タングラムは何かあった時にハンコを押すくらいだ。
 しかしそんな彼女も流石に一年の内何度か働かねばならない時期がある。その一つが初夏のギルドフォーラムだ。
 要するにギルド=ソサエティ主催のリゼリオ全体を使った祭りなのだが、今年は経営難を解決する為に武闘大会も一緒に行うという話になった。
 そこで発覚したソサエティ全体の資金難は、前線で闘うハンターにはあまり関係ないが、彼らを支える裏方には頭の痛い問題であった。

「はいこれ、借りてたお金ね」
 テーブルの上に置かれたアタッシュケースからビッシリ詰まった札束が姿を見せると、タングラムも仮面を外さざるを得なかった。
 ハイデマリー・アルムホルムと言えば錬金術師組合でも爪弾きもにされていた奇抜な研究者だ。
 とある森の汚染問題を通じて知り合った二人はその後も付き合いが続き、まあ色々あって金の貸し借りなんてものもあったが。
「お、おまえ……ついに犯罪を……」
「なんでやねん。あれよ。浄化術で一山当てたから」
「こんな金になるのですか浄化術!?」
「研究費用とか、後は企業の投資とかで。私は技術を一切合切公開してるし特許も取ってないから、進めた分だけ全員に恩恵があるし、放っておいても後を継ぐ奴はいるだろうし、金ももらえるしいいこと尽くめだわ」
 ピースするハイデマリー。確かに一時養っていたのでだいぶ金は貸したが、ちゃんと返ってくるとは思わなかった。
「うーん、これを元手になんとか……」
「お金が必要だったの?」
「今年もギルドフォーラムの時期でしょう? その準備とかで色々ですよ」
 今年は武闘大会もあるのだ。ユニオンとしては協力しないわけにはいかないが、プランも人手もロハというわけにはいかない。
「ただでさえここ数年、無茶な遠征の繰り返しでユニオンは火の車なのです」
「おたくの皇帝のせいじゃないの……」
「あいつの金銭感覚おかしいからな。奴がダウンしている間に財政を立て直さないとヤバイ……」
 今頃カッテやオズワルドが「せっかくだから」といろいろ暗躍しているだろう。いいことだ。
「武闘大会って、APVは何かするの?」
「フォーラム中は、ここのスペースを休憩所として開放するんですよ。ついでに喫茶店をやったりする事が多いですねっ!」
 フクカンがコーヒーをトレイに乗せて持ってくると、ハイデマリーは片手を上げて応じる。「ごゆっくりどうぞ」なんて言われながらハイデマリーはカップを手に取り。
「今年はちゃんとお金取れる催し考えた方がいいんじゃないの?」
「そう言われても、簡単には……おうぶっふ」
 同じくコーヒーに手をつけた瞬間、タングラムの口から黒い液体が吹き出しハイデマリーの顔に直撃した。
 視線の先には本棚を物色している浄化の器の姿がある。眼鏡を外し顔を吹くハイデマリーは振り返り。
「ああ……あの子今帝都に滞在してるのよ」
「おおおおオメーなんつーモン携帯してんだゴラァ!?」
「最近は結構大人しいのよ? この間仕事で来て、錬金術の勉強がしたいって言うから私の工房で……」
 タングラムからすればちょっとした衝撃で大爆発を起こす危険物のようなものだ。ビビって当然。
 しかし器はそんな大人の都合は露知らず、棚から物色した本を片手に歩いてくる。
「グッドイブニング!」
「誰ですかこいつに変な挨拶教えたやつ」
「私じゃないわよ……勝手に覚えてくるの」
 警戒するタングラムから本へと視線を移し、器は近くの席に座って足を組んだ。
「本当に大丈夫なのですか? 信じられん……まあ帝都はこいつ以外にも爆発しそうなモンいっぱいあるから一周回って逆に気にならないのか……?」
「概ねそんな感じね。ところで、何か手伝える事があれば協力するわよ。組合もAPVのパトロンの一つだしね。他の奴が派遣されるよりは私の方が都合がいいでしょう」
「それはそうですね。まあ、まずは会場整備の手伝いと、ユニオンの催しについて考えるところからですが」
「あいつも肉体労働なら得意よ。見た目は小さいけど、覚醒すれば……」
「あんまりあいつを覚醒させたくないんですが……」
 視線を感じた器が顔を上げる。そうして本を右手の中指の尖端にのせ、バランスを取りつつ歩き。
「呼んだ?」
「あんた、タングラムの仕事手伝ってやりなさい」
「いいよ」
「聞き分けいいですね!?」
「その代わり、終わったらここの本、幾つかもらっていい?」
 正直、誰の所有物なのかわからないので勝手にあげていいものか悩む。
 まあ、ここに置いていっている時点でもう不要なのだろうから、捨てられたって文句は言えないが。
「それは構わないですが……」
「私も手伝うわよ。確か、中途半端な作りのエアコンとかあったでしょ? フォーラムに向けて改修しておけば、客も入るんじゃないかしら」
 ギルドフォーラム開催まで既に一ヶ月を切っている。
 激戦を終えたハンターらが帰還したその時、いつも通りの日常を楽しめるかどうか……。
 それは、この準備期間にかかっていた。
「色々な意味で」

リプレイ本文

「確か、去年もやったんですよね?」
「ああ。ユニオンカフェだなぁ」
 催しを企画する為に集められたハンターのため、今日はAPVは貸し切り状態。
 それぞれ机を囲んで相談するハンターらの中、シュネー・シュヴァルツ(ka0352)の問いにヒース・R・ウォーカー(ka0145)は過去案を纏めながら応じる。
「説明しよう。ユニオンカフェとは、冥土と呼ばれるキャストがエキゾチックなサービスを提供する場。そしてこれが冥土服だ」
 クリスティン・ガフ(ka1090)がそう言ってフリルドレスを広げる。
「なるほど……APVも大変ですね」
「ヒース……男女逆転コスプレ喫茶……しないの?」
「ボクに似合いそうなら検討はするけど、その時はお前にも似合うのを着てもらうぞぉ」
 事務作業用に装着した眼鏡をヒースが輝かせるとシェリル・マイヤーズ(ka0509)は悩むように背後で手を組み。
「それってこの冥土……?」
「思いの外着心地は悪くないぞ。元はと言えば作業着だったとも聞く」
 真顔のクリスティンに愛想笑いを返すシェリル。
「催しと言えば……タングラムは歌わないの……?」
「それはいいな。冥土カフェでライブなんてどうだ?」
 同意するように笑うヴァイス(ka0364)。しかし当のタングラムはキョロキョロと周囲を警戒し、話を聞いていなかった。
「どうしたの?」
「いやあ、例のヤツが今日は大人しいと思ってですね……」
「「ああ~」」
 ヴァイスとシェリルが何か思い当たったのか、しみじみと腕を組み頷くのであった。
「海斗なら外を走っていたような……何か忙しそうだったな」

 キヅカ・リク(ka0038)は黙々と土木作業に参加しつつ、ある事を思い出していた。
 帝国アイドル、グリューエリン。ステージ作成しつつ彼女に思いを馳せる平和な時だが、何か物足りない。
「ホリィが襲ってこない……」
 何もされないとそれはそれで不完全燃焼だ。今日は回避するつもりだったのに。
 それとなく探してみると、丁度花厳 刹那(ka3984)が器の手を両手で包むように握手しているところだ。
「グッドイブニング、器ちゃん! 久しぶりー!」
「久しぶりだね」
「それはさておき次の挨拶トレンドは掌を合わせて“ドーモ”って言いながらお辞儀する感じになると思うのよ!」
(なんか変なこと吹き込んでる……)
 二人がサツバツとしたお辞儀を繰り返す様に心の中でツッコむキヅカ。
「ナマステ!」
「うわっ!?」
 突然背後の声に振り返るとユノ(ka0806)が両手を合わせ笑っている。
「見てないで声かければいいのに」
 そう言ってユノは遠慮なく器に声をかけに行く。屈託なく会話する様子になんとなくタイミングを逃した。
「いやぁ、別に話しかけたいわけじゃないし? でも皆が言うなら仕方ないしな~」
「一人で何をブツブツ言っておるのじゃ、リク?」
 背筋を硬直させ振り返ると、紅薔薇(ka4766)の姿が。
 しかし彼女も物陰に隠れるようにして器の様子を見ている。
「君の方こそどうしたのさ」
「見ればわかるじゃろう。声をかけるタイミングを見計らっておるのじゃ」
 首を傾げるキヅカ。紅薔薇はすっくと立ち上がり、自信に満ち溢れた笑みを浮かべ。
「そうじゃな。リク殿にならば教えてもよかろう。この妾の秘密を……」
「秘密」
「九尾獄炎を倒し、歪虚王の首を狙い武の道を邁進するこの妾にも、決定的な弱点がある」
「弱点」
「それは――友達が少ないことじゃッ!!」

「皆、案は大体まとまったかぁ?」
「はいはーい! 冥土喫茶をやるなら一般人に覚醒者の強さを対戦しで体感して貰う為に、勝ったら豪華賞品プレゼントの好きなウェイトレスを指名して腕相撲できるサービス(別料金)をするっす!」
 書記のヒースの筆がいきなり止まる。神楽(ka2032)は身を乗り出し話を続け。
「他にも特定のウェイトレスはお触り自由とか、覚醒者一人を一般人十人が捕まえる逆鬼ごっことかもいいっすね~」
「ほう……? 詳しく聞かせてもらおうか」
 既に冥土服に着替え準備万端のクリスティンが前に出ると、神楽は両手をわきわきしながら詰め寄る。
「でへへ……これは同意の上っすからね! 俺は悪くないっす……がああああ!?」
 クリスティンは神楽の手をかわすと腕を取り関節技を仕掛ける。
「このおもてなしはどうだご主人様」
「いででででで! 痛いけどこの密着感は……ぬはあああ!?」
「よぉし、こいつらはほっとくぞぉ」
 神楽の悲鳴が響き渡る中、何事もなかったかのように次へ。
「やはり賭け事でしょうか。男性は好きですよね……?」
「問題は何に賭けるか、だなぁ。武闘大会トトカルチョは別にやるようだし……」
 シュネーの言葉にヒースがそう応じた時だ。大きな音を立てAPVの扉が開かれた。
「待たせたなお前ら! 最高に盛り上がる企画を持ってきたぜ!」
 光を背に現れた紫月・海斗(ka0788)は浄化の器を肩車し、二人は両手を広げた謎のポーズを決める。
 問題は器が水着姿であり、なぜか猫耳もつけている事だ。
「この水着で気づいたな? そう! APV水着コンテストwithエルフハイムるぶ!?」
 タングラムが投擲した短剣が海斗の額に刺さり、ピューっと血が吹き出した。
「旦那ァアアアア!」
 クリスティンに身体を拗じられながら叫ぶ神楽。
「待てタングラム! 俺は手伝いに来てやったんだぜ? 盛り上がるぞ―水着コンテスト。裏でトトカルチョもできるし最高だな!」
「こらあああっ! 器ちゃんを返しなさい!」
「ヘンシツシャだー。フジョボーコーだー」
 背後から跳びかかった刹那の蹴りが海斗の腰に食い込みぐきりと良い音を立てる。
 倒れた海斗を棒読みで罵るユノ。更に遅れ春日 啓一(ka1621)がズボンのポケットに両手を入れたまま歩いてくる。
「やっぱこうなったか」
「し、心配するな……俺はタングラム一筋だから……な」
「誰もそんな心配してねーですし今はお前の身の安全が心配ですよ」
 ぽりぽりと頬をかく啓一。器を担いだ海斗が走る広場は結構な騒ぎになっていた。
「啓一君も来ていたのか。何をしていたんだ?」
「いや……クリスこそ何やってるんだ」
 彼女が冥土服で黙々と神楽を締め付けている。もう神楽は泡を吹いていた。
「冥土の新しいサービスだよ」
「まあ、冥土っちゃ冥土だな……程々にしとけよ」
「ふむ……だが、水着コンテストというのはアリではないか?」
 奥の席で机に両手でブリッジを組んで黙していたレイス(ka1541)が眼光鋭く呟く。
「ホリィ達でAPV発のユニットを結成。各種オタ道具等を販売し資金源とするのだ」
「そうだな。アイドル活動はいいぞ! ホリィにも向いてる!」
 同意するように頷くヴァイス。だがエイル・メヌエット(ka2807)がにこりと微笑むと空気が変わった。
「レイスさんって結構好きよね。その、アイドルとか水着とか」
「いや、これはあくまで資金回収案の……」
「好きよね?」
 無言で小刻みに振動するレイスの姿に啓一の瞳からハイライトが消えた。
 そのまま視線をスライドし、気絶した神楽を無表情に開放する自分の彼女を見て、男は救いを求めるように天を仰ぎ見た。
「ヴァイスが水着……着るの?」
「俺が冥土でも構わないぞ、シェリル」
 一応、平和な世界もそこにはあった。

 ジェールトヴァ(ka3098)が固まったのは、外で作業する器が水着姿だったからだ。
 笑顔のまま色々と逡巡してみたが、結局さして気にしない事にした。彼は寛容だった。
「ホリィさん、最近は本を読むのが好きだそうだね」
「うん。学んだり考えるのは楽しいよ」
 そう語る器の手には小さな鉢植えが握られている。
「広場から花を退かすんだってさ」
 ユノがそう声をかけるとジェールトヴァは笑顔で会釈する。
「花を……なるほどね」
「知ってる? 花って生きてるんだって」
 そう言って少し柔らかく微笑むと器は歩いて行く。その姿にジェールトヴァは頷く。
「色んな事に興味がでてきたのかな。少し面差しに知性が出てきたかもしれないね」
 ふと、花壇の移動を手伝いながら器を見ているアーシェ(ka6089)の存在に気づいた。
「大丈夫だよ。勇気を出して声をかけてごらん」
 アーシェは迷った後、恐る恐る声をかける。
「ホリィ……久しぶりだね。わたしのこと、覚えてるかな?」
「ん? 覚えてるけど?」
 何をそんな当たり前の事を? という反応にアーシェはほっと胸を撫で下ろす。
「そ、そうだよね。なんだか皆すごく勢いがあるから、話しかけそびれちゃって」
 声をかけようとしたら目の前で器が海斗に担がれて消えていったのがショックで、しばらく膝を抱えていた。
「わたし、催し考えたりするの……苦手。あんまり外の世界の事わからないし、皆が何を考えているのかも……」
「そんなのてきとうだよ。カイトなんか何も考えてないよ」
「え、えぇ?」
「正直に、やりたいことをすればいいんじゃないかな」
 そんなやりとりを眺め、ジェールトヴァは微笑む。
「本で知識を蓄えるのも良いけど、こうやって外に出て活動して、色々な人と触れ合うのも良い体験だよ。そこで感じた自分の気持ちを大切にね」
 ジェールトヴァの言葉に頷く二人。そこへ刹那が歩いてくる。
「おや? 器ちゃんのお友達ですか?」
「あ、あの……わたし……」
「ドーモ、花厳刹那です」
「ドーモ、浄化の器です」
「え? ど……えっ?」

「さて、闖入者も排除されたし真面目に案を考えるかぁ」
 一方、APV内。簀巻にされた海斗が入口前に吊り下げられた後、会議は続行される。
「水着はさておき、ファッション対決というのは如何でしょう?」
 メトロノーム・ソングライト(ka1267)はそう切り出し、自らの企画を説明する。
「ハンターには実用一点張りの人も多いですけど、個性的でオリジナリティあふれるファッションの人もまた多いですよね」
「色々なファッションを見られるのはそれだけでも楽しいな」
 腕を組み頷くヴァイス。メトロノームは頷き。
「それもそうですが、観客の投票で勝敗をつけるのです。それに、上位入賞者のファッションを商品化して売りだして見てはどうでしょう?」
「それはいい案ですね。実はソサエティ側でも同じような企画を考えているのです。丁度よいので参考にさせてもらいましょう」
 タングラムの評判は上々だ。ハンターのグッズというのも、なかなかに面白い。
 闘いで武勇を轟かす以外にも、ハンターの名声を示す手段があっても良いはずだ。そのための個性としてファッションは申し分ない。
「お祭りで一番気になるのは食べ物屋台じゃないかと思うの。悩まなくても財布の紐を緩められるもの」
 とはディーナ・フェルミ(ka5843)の言葉だ。
「前に見たリアルブルーの人がやってた屋台凄かったの。あんまり高くなくてちょっと珍しくて匂いが胃袋に訴えかけるもの。地場の食材を題材にした料理対決? 大会? も地場の人がきてくれそうな気がするの」
「屋台料理は良いのう。投票で一位を決める料理大会……食から各国を知るが合言葉、その名も“B-1”!」
 遅れて入ってきた紅薔薇本人もよく意味がわからないままその名を叫ぶ。
 同行してきたキヅカは探し人がいない事を確認するが、そのままとりあえず紅薔薇と共に席についた。
「びーわん……? っていうのはわからないけど、そんな感じだよ。あとは……ハンターが不要品を出しあったバザーなんてどう?」
「いいね。APVのガラクタ……じゃなくて、置いてあるもの、売れるなら売って……資金とおそーじ、いっせきにちょー?」
 ブイサインを浮かべながら同意するシェリル。タングラムは冷や汗を流し。
「まあ、誰が置いてってるのかわからんものばかりですからね……。でも、出店スペースは借りられるから、バザーは開けると思うですよ」
「やはり冥土喫茶を強化すべきではないか? そうだな……スタンプラリーとか」
「あ。スタンプラリー、いいわよね。宝探しも楽しそう」
 クリスティンの言葉に同意し手を合わせるエイル。クリスティンは力強く頷き。
「冥土とツーショットの肖像画を書くというのはどうだ。もちろんカップルでも大歓迎だ」
「うーん、肖像画のコンテストも出来るですかねぇ……」
「喫茶店をやるのは決まりなら、そこで一般人も出来る娯楽としてダーツなんてどう?」
 準備自体は簡単だ。白金 綾瀬(ka0774)はせっせと準備を終え、ボードの前に立つ。
「こっちの世界にもダーツという遊戯はあるのかしら?」
「あるですよ。帝国ではあんまり流行ってないですが」
「ならルールはシンプルな方がいいわね。カウントアップ……合計特典を稼ぐゲームなら誰でも楽しめるわ」
 そう言って素早くダーツを投げる綾瀬。そこで問題が発覚する。
 何度投げても綾瀬のダーツは百発百中、狙った場所へ吸い込まれていく。
「……これ、覚醒者がやったらゲームにならなくないですか?」
「そうね。覚醒切らないとだめね」
 タングラムが投げても百発百中で、二人が投げたダーツは中心点に不気味なほど密集していた。
「まあ、一般人向けだしいいのよこれで。それにトトカルチョもできるし、道具一式揃えても大した金額にはならないし」
「自分たちでちょっとやる分には自作でもいいですからね」
「いやいや~、観客も楽しませるなら投扇興でしょ!」
 颯爽と立ち上がった天竜寺 舞(ka0377)は顔を隠していた扇を翻しウィンクする。
 ばっちり着物を着込んだ彼女が提案する投扇興とは、扇を用いた和風のダーツのようなもので、これは流石に物珍しい。
「昔は賭博に使われてた事もあるし、お金も取れると思うよ。ちょっと実際に投げてみるね」
 これが普通にダーツを投げるより難しい。的に当てるのも一苦労で、舞が鈴の音を鳴らすと自然と拍手が湧いた。
「和洋二種の投げ遊戯は結構斬新じゃないですか?」
「これなら子供や女性も楽しめると思うよ。実は流派とかもあって結構複雑なんだけど、まあ的に当てるだけでも楽しいでしょ」

「ふむ、そうか。結局は従来のユニオンカフェに娯楽を追加する形で落ち着く、か」
 シェリルからの報告を受け、弥勒 明影(ka0189)はそう結論づけた。
 作業を中断し、それぞれのハンターも昼休みに入っているが、それも終われば広場の整備以外の具体的な仕事が振られてくるだろう。
「ダーツに肖像画に……スタンプラリー。びーわんとは一体……? 投扇興は随分と渋いチョイスだな」
 そう言う明影が茶を飲む湯呑みもだいぶどっしりしているが、外見的にはピッタリ似合っている。
「……ん? どうした、シェリル?」
「うん……アキとこうしてのんびりするのは久しぶりだなって……」
「そうだったな。あまり時間を作ってやれずすまない」
 首を横に振り、弁当箱を取り出すシェリル。蓋を開けると少々いびつな形のおにぎりが詰まっていた。
「今日は……頑張ってみた。見た目はいまいちだけど……」
「料理の完成度を示す要素として見た目の美しさがあることを否定はしないが、それだけでも無かろう。味や気持ちが時には覆す事もある」
 そう言いながらおにぎりを齧り、シェリルの頭を撫でる。
「うん、うまい」
 その言葉に満足してシェリルは自分もおにぎりを手にとった。

 啓一の弁当箱の中身は随分凝っていた。少なくとも器にとっては未知の物体である。
「これか? イカスミパエリアだ」
「イカス……何?」
「イカスミパエリア。デザートもあるぜ」
 水筒から注いだスープはまだ暖かい。差し出されたそれを口にし、器は気の抜けた表情だ。
「しかし、いつまで水着なんだ?」
「実はバタバタしてて元々の服がどっかいった」
「……紫月のおっさんに訊いといてやるよ」
 眉間を揉みながらため息をこぼす啓一を他所に器は恐る恐るパエリアを口に運んでいる。
 ふと、そこへ差し掛かる影があった。エイルとレイスだ。
「こんにちは、ホリィ。……あら? そのお弁当、啓一くんが作ったの?」
「ああ。一緒に食べてくか? クリスは冥土に熱中してるしな。あんまり表情動いてないが、あれで結構楽しんでんだ」
「ふふ、そうね。彼女は自分の身は自分で守れるものね」
 同席した二人もイカスミパエリアを口に運ぶ。黒い食べ物というのに恐怖していた器だったが、もう気にしていない。
「こうしてレイスさんと二人で挨拶するのは初めてね」
「そうだったな。見ての通り、エイルは俺のだ。ホリィにはやらんぞ」
「やだもう、急に何言ってるの?」
「前にそういう話があったじゃないか」
 驚くエイルに真顔のレイス。二人を交互に見やり、器はふっと笑う。
「言われなくてもいつもくっついてるから知ってる」
「ん? ああ……そういえば、オルクスの話は聞いたか?」
 レイスはそう言ってオルクスのその後についての話を始める。
 しかし器は聞いているような聞いていないような感じで黙々と食べ進めながらコクコクと頷いていた。
「レイスさん、せっかく皆のんびりしてるのだから、今その話をしなくても……」
「いや、大事な事なんだ。命に関わるからな……事が起きてからでは遅い」
「そうだけれど……ごめんなさいねホリィ。真面目なのよこの人」
「でも~、オルクス倒したんすからなんかご褒美が欲しいっすよね~」
 背後からの声に振り返ると、神楽とハイデマリーの姿があった。ハイデマリーは作業中なのに酒を飲んでいる。
「本当にオルクスを倒したのならそうでしょうけどね」
「神楽くん、あんまり飲ませちゃだめよ?」
「わかってるっす! 今、俺は金持ちに取り入るのに必死っす……少し大目に見てほしいっす! ささ、姉さんぐいっと!」
「クリスにバキバキにされた割には元気だな」
 跪いてハイデマリーのグラスにシードルを注ぐ神楽。そんな様子に苦笑しつつ、啓一は確かな日常を感じていた。

 具体的なユニオンカフェの強化プランが決まると、午後はそれに沿った作業も追加された。
「自分で提案しておいてなんだけど、一から作ると結構手間ね」
「正確なものを作ろうとするとね~。扇は買っちゃった方が早いかなあ」
 ボードの材料をまとめてくれとヒースに言われ、ペンを片手に悩む綾瀬。
 何十セットも用意する必要はないが、トトカルチョなどに使うならある程度正確なものでなければ不公平になる。
 ダーツは一式こちらの世界にも存在するので買ってしまう手もあるが、投扇興の備品は流石に自作が必要で、舞を悩ませていた。
「……あら? 確かにファッションコンテストはどうかと提案しましたが、もう服が置いてあるのは何故でしょう?」
 机の上に置いてあった浅葱色のワンピースを手に取り首を傾げるメトロノーム。そこへ海斗が歩み寄り。
「お、あった! 探してたんだよ!」
「はい? 失礼ですが……紫月さんの所有品ですか?」
「いや違う。これは器ちゃんの服だ」
 ハイライトの消えたメトロノームの視線が海斗を貫く横でヒースは図面を引いている。
 催しごとのスペースを割り振るのが彼の仕事。お昼休憩もとらずにかかっていたが、傍らにはシェリルが作ったおにぎりがある。
 明影だけでなく、知り合いに配って周ったのだ。米のついた指を舐め、笑みを浮かべヒースは図面に向かった。

「ふう~、いい天気だ! こんな日に身体を動かすのは気持ちいいな!」
 額の汗を拭い、木製のステージに釘を打つヴァイス。
「ホリィ、良かったらこっちの作業の手伝いをしてくれないか?」
 小柄な体躯で角材を担いで運ぶ器。ジェールトヴァは角材を眺め。
「エルフハイムの廃材を貰えたらと思ったんだけどね」
「あそこのは廃材でもマテリアル燃料になるから、逆にすごく高価なのよ」
 という説明をハイデマリーに受けて諦めた。とてもじゃないが予算オーバーだ。
「見てください! 忍法、壁歩き!」
「か、壁を歩いてる……!?」
 イキイキと高所作業する刹那に目を輝かせるアーシェ。器も角材を投げ出して壁歩きに挑戦するが重力に勝てない。
「存外に馴染んでいるじゃないか」
「そうだな。どうやら心配はいらないらしい」
 ふっと笑みを浮かべる明影。楽しげに作業する様子にヴァイスも安心したようだ。
「元より彼女は外側に開かれている。それを皆が受け入れようとしなかっただけだ」
「今は偏見を持たず、対等に接してくれる仲間がいる。確かに変わったのはホリィ以外なのかもな」
 そんな二人の声に耳を方向けながらエイルはペンキでステージを塗っていく。
「メヌエットさん、こんな感じですか?」
「あら、いいじゃない。とっても爽やかな色……あらら?」
 作業を手伝っていたシュネーはペンキまみれで緑色になっていた。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫です……ただ、気づいたらこうなってました」
 不器用なので、本当は力仕事に参加するつもりだったが……笑顔で誘われては断れなかった。
 口元を押さえて笑うメヌエットにつられ、少し頬を赤く染めながらシュネーも微笑むのだった。
「うぅ~……も、もうダメでちゅ。限界でちゅ~!」
 突然そう言いながら北谷王子 朝騎(ka5818)はくるくると回るようにして移動し、器の側に倒れこんだ。
「頭痛がして目眩がして吐き気がしてお腹が痛くて怠くて気分が悪いでちゅ。朝騎絶体絶命。そして閉じゆく瞼の端に映るカワイイあなたは……天使?」
 小刻みに震えながらハアハアと息を荒らげ身悶える朝騎が手を伸ばした先には棒立ちする器。
「どうやら……お迎えが来たみたいでちゅ……。せめて生きている間に小っちゃ可愛い女の子のスカート捲りしたかったでちゅ」
 チラチラっと器を見て、そこで気づいた。そもそも水着を着ていてスカートがない。
「慈悲は……慈悲はないのでちゅかあああっ!!」
「メヌエットさん、多分医者の出番です……」
「あ、私も手伝うの。多分単純に体調不良だと思うの」
 器の素足にすがりながら号泣する朝騎をエイルとディーナが左右から抱え運んでいく。
 真昼の空に、朝騎の爽やかな笑顔が浮かび上がった。
「まだ死んでないでちゅううう!」

「ホリィ……声かけられまくってるね」
「うむ……なかなかに侮れぬ」
 物陰から様子を窺うキヅカと紅薔薇。
 “ホリィと友達になりたい”。それが紅薔薇の願いであった。
 紅薔薇は最前線に身を置くハンターだ。それ故に闘いの中で培ってきた絆はあるが、同年代の友達らしい友達は殆どいない……と、本人は考えていた。
(それ言ったら僕は友達じゃないのかって話デスヨネ)
 遠い目で微笑むキヅカ。だがどうも話を聞く限り、紅薔薇の言う友達は少し一般的なものと違うようだ。
 友達という存在のハードルが高いのか、幻想を抱いているのか。ある意味歳相応の悩みとも言える。
「ホリィはもう友達だと思ってるんじゃないかな~」
「そうじゃろうか? そもそも普通の友達というのはどうするものなのじゃ?」
「うーん。放課後にゲーセン行ったりとか……」
 ふと、少し前に耳にした刹那の「学園祭みたいで楽しい」という言葉が脳裏をよぎる。
「こういうお祭りだからこそ、思い切って行動してみるべきじゃない?」
「リク殿……そうじゃな。そうと決まれば行動あるのみじゃ! ホリィ殿ーーーー!」
「まずは声をかけるタイミング……アッハイ。君はそういう子だよね」
 やると決めたら早かった。もう駆け寄ってお茶に誘っている。
「それで普通に成立するんだから、それはもう友達なんじゃない?」
 頬を赤らめ、桜餅を差し出す様子がまるでバレンタインデーに告白する女子みたいだ、なんて思いながらキヅカも歩いて行く。
「せっかくだし、少し休憩にするか!」
 ヴァイスがそう声をかけると皆が同意し手を止める。
「ホリィ、今日はずっと食べてばかりだね?」
「そうですね……アーシェさんも食べますか?」
 板のチョコレートをパキンと折って、器とアーシェそれぞれに渡すシュネー。アーシェは恐る恐るそれを受け取り笑顔を見せた。
「いいなー……お姉ちゃんも女の子のキャッキャした輪の中に入りたいなー……っ」
「花厳さんも入ればよろしいのでは……」
「いいんですか!? じゃあ私にも半分こしてください!」
 ずびしと右手を差し出され、シュネーは冷や汗を流しながら更にチョコを折った。
「お菓子は足りてるみたいだから、僕からは龍鉱石をあげる~」
「なにこれ?」
 ユノに渡された龍鉱石に首を傾げる器。
「それは龍さんのマテリアルが結晶化したもので……うん~、食べるものじゃないよ~」
 かじりついている器からそっと龍鉱石を取り出し、代わりにお菓子を差し出すのだった。
「それなに?」
「炭酸水だよ。しゅわしゅわーっとする飲み物☆」
「え~、ホリィは炭酸水も飲んだことないの~? おっくれってる~」
 あからさまに炭酸飲料を見せつけるキヅカは確かに聞いた。器が無表情に舌打ちするのを。
「そ、そんなキレないでよ……欲しければあげるから……」
 飲みかけの炭酸飲料は奪われ、空になったボトルだけが帰ってきた。
「これが噂に聞く女子会という催しじゃろうか……!」
 瞳を輝かせる紅薔薇。キヅカは乾いた笑いを浮かべるのであった。

依頼結果

依頼成功度成功
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MVP一覧

  • 行政営業官
    天竜寺 舞ka0377
  • 《死》の未来を覆す奏者
    白金 綾瀬ka0774
  • 自爆王
    紫月・海斗ka0788
  • 無邪気にして聡明?
    ユノka0806
  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライトka1267
  • 大悪党
    神楽ka2032
  • 不破の剣聖
    紅薔薇ka4766

重体一覧

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師
  • 真水の蝙蝠
    ヒース・R・ウォーカー(ka0145
    人間(蒼)|23才|男性|疾影士
  • 輝きを求める者
    弥勒 明影(ka0189
    人間(蒼)|17才|男性|霊闘士
  • もふもふ もふもふ!
    ロジー・ビィ(ka0296
    エルフ|25才|女性|闘狩人
  • 癒しへの導き手
    シュネー・シュヴァルツ(ka0352
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • お茶会の魔法使い
    ロラン・ラコート(ka0363
    人間(紅)|23才|男性|闘狩人

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 行政営業官
    天竜寺 舞(ka0377
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 約束を重ねて
    シェリル・マイヤーズ(ka0509
    人間(蒼)|14才|女性|疾影士
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 《死》の未来を覆す奏者
    白金 綾瀬(ka0774
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • 自爆王
    紫月・海斗(ka0788
    人間(蒼)|30才|男性|機導師
  • 無邪気にして聡明?
    ユノ(ka0806
    エルフ|10才|男性|魔術師
  • 天に届く刃
    クリスティン・ガフ(ka1090
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人
  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライト(ka1267
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • 愛しい女性と共に
    レイス(ka1541
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 破れず破り
    春日 啓一(ka1621
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 愛にすべてを
    エイル・メヌエット(ka2807
    人間(紅)|23才|女性|聖導士
  • 大いなる導き
    ジェールトヴァ(ka3098
    エルフ|70才|男性|聖導士
  • 紅花瞬刃
    花厳 刹那(ka3984
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • 不破の剣聖
    紅薔薇(ka4766
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士
  • 丘精霊の配偶者
    北谷王子 朝騎(ka5818
    人間(蒼)|16才|女性|符術師
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 里を守りし獣乙女
    アーシェ(ka6089
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/06/04 12:50:58
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/06/04 22:31:50
アイコン 相談所
ヒース・R・ウォーカー(ka0145
人間(リアルブルー)|23才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2016/06/05 11:15:54