ゲスト
(ka0000)
花想~廃墟の奥にひそむもの
マスター:君矢

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/06/07 22:00
- 完成日
- 2016/06/12 17:48
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
辺境の山の中。シェノグ族の村。
長い髭の族長は、庭のベンチに座って星空を見上げていた。
孫娘のツアンプ・シェノグ(kz0170)がランプの光をたよりに隣にきて腰かけるとお茶を手渡した。
「おじい様、悩みごとですか」
「このところの歪虚の件じゃよ。どこで発生しているのか調べてもらおうにも……」
族長は温かいお茶をすすりながら思案している様だった。
このところシェノグ族はくり返し歪虚に襲われていた。それも、同じ顔をした少女の姿をした雑魔だ。何かが雑魔を生み出してシェノグ族を標的にしているとしか思えない事態に族長は悩んでいた。
雑魔が山にいると思えば、山菜や薬草を収穫しに山に入るのは恐ろしい。現に山菜採集で山に入って襲われた部族民がいる。部族は今、見えない恐怖に閉じこもっていた。
「山と言っても広いですものね。やみくもに探してくれと言ってもハンターの方々も困ってしまいますからね」
ツアンプも考える。山のほとんどの場所は部族で採集に入っているから、歪虚が発生するような何かがあればとっくに発見されていただろう。
「誰も行かない場所なんてありました?」
「誰も立入らない場所となれば、古い村の跡地しかないのう」
「あそこは立入禁止区域ですよ!」
「そうじゃ、十年も誰も足を踏み入れていない火事の焼け跡じゃ。歪虚が潜むには持てこいじゃろうて」
「そうですが」
シェノグ族では火事のあった場所は、自然が回復するまで立ち入らない決まりになっている。
十年前、シェノグ族の村は大火事に見舞われた。村だけでなく、山も広い範囲が燃えてしまった大きな火事だった。
ツアンプはまだ十歳の子供だったので火事の詳細を知らない。それよりも部族民が一丸となって今の場所に村を再建し、生活を立て直すことに一生懸命だったことが印象に強く残っている。
部族みんなで支えてきた今の暮らしを脅かす歪虚がツアンプは許せなかった。
「魔物がいる訳でも禁忌を封印しているわけでもない。ただ、自然の回復を待つために立入を禁止しておるだけじゃ。ここで一度様子を見に行くのもいいじゃろうて」
族長はお茶をじっと見つめて言葉を続ける。
「それにお嬢様じゃ」
「え?」
「あの雑魔の似顔絵じゃよ。どうもお嬢様に見えてしかたがないのじゃ」
族長はお茶をじっと見つめている。この前、ハンター達が襲ってくる雑魔の顔を描いた似顔絵を部族に見せてくれた。その似顔絵は遠い記憶にある顔に似ている気がした。
「お嬢様ですか?」
お嬢様と聞いてツアンプが思い出すのは、お兄さん、お兄さんと呼んで慕っていた優しい男性の面影だった。
ツアンプの知らない広い世界の様子や儚く可愛らしいお嬢様の事をいつもお話してくれたお兄さん。
「そういえば、あのお兄さんはどうしたんでしょうか……」
いつの間にか、姿を見なくなったなとツアンプは思った。
「ディーナーと言ったかな、彼のその後も分からんし。お嬢様となれば思い浮かぶのは彼が建てた屋敷に掛かっていた肖像画しか思い浮かばんのじゃ」
族長は、お茶を飲み干してしまうとツアンプに「うまかったよ」と言って立ち上がった。
「火事で焼けた古い村を見てきてもらおう。雑魔の巣になっていないか。歪虚が根城にしていないかをじゃ」
十年前、冬の夜 もしくはディーナーの夢
強風が吹く中、夜だというのに族長の屋敷は騒ぎの中にあった。ディーナーは族長の家で、長い髭の族長と激しい口論をしていた。
「何度言われても無理じゃ! 写本は見せられんし、見ても役に立たん!」
「もう、それだけが頼りなんだ。頼む! このままではお嬢様が、お嬢様が」
「もう、ワシらではお主たちの役に立つことは一つもない。帰ってくれ!」
「……くそっ!」
玄関で押し問答をしていたディーナーだったが、族長を押しのけて家の中に侵入する。
「待つんじゃ!」
ディーナーは家の中を走る。
「何してんだ! 止まれ!」
騒ぎを聞いて集まった族長の家族も加わって、ディーナーを止めようと掴みかかった。
「うるさい! お嬢様が死んでしまうんだ! 止めるな!」
暴れるディーナーが壁に掛けられていたランプを撥ね飛ばした。油と火が飛び散ってカーテンに燃え移る。
「止まれ!」
「火を消せ!」
その後は、ただ混乱と炎が拡大するだけだった。
この冬、乾燥した強風に煽られて炎は村と山を焼いていく。
シェノグ族の民は、着の身着のまま村から逃げ出した。
廃村の廃墟
ディーナーは夢を見ていた。いや、十年前の出来事ごとを思い返していただけかもしれない。
大火事からかろうじて生還したディーナーは、失意だけをお嬢様の元に持ち帰ったのだ。
「ディーナー……。だいじょうぶ、すぐによくなるから、泣かないで、ね。また、いっしょに……、さんぽに……」
お嬢様が養生する街の静かな館の中。病でやせ細ったお嬢様の手を握りしめて泣くしか出来なかった日のことを今でもはっきりと、ディーナーは覚えている。
ディーナーは寝泊まりしている小部屋から廊下に出て、居間へ向かう。
居間の屋根は崩れていて日の光が差し込んでいた。暖炉の上に掛けられているお嬢様の肖像画を見上げる。
お嬢様が死んでしまって色々な場所を彷徨っていた時、二度と訪れることはないと思っていたこの屋敷にふらりと立ち寄って見つけたお嬢様の面影。
「お嬢様、シェノグ族がまた邪魔をしました。十年前、見捨てただけでなくお嬢様の復活まで!!」
つば広の黒い帽子、全身を覆う黒いマントに長い嘴のある白い革製の仮面という十年前とは全く違う姿でディーナーは怒気を撒き散らしていた。無彩色の姿の中、帽子と胸元に大きな向日葵が鮮やかに咲いている。
ディーナーは白い仮面を外して、肖像画の中で微笑む少女に向かってしゃべった。額には火傷の跡がある。
シェノグ族が雇ったハンターに、ディーナーが作った雑魔が倒されてしまった。せっかくたくさんのマテリアルを吸収できていたというのに。
これではお嬢様復活のための実験が出来ないではないか。それだけではない、もしもお嬢様の復活が叶ってもシェノグ族がハンターを差し向けてきては、お嬢様が危険な目にあってしまう。
「お嬢様、そうですね。奴らがいては平穏が訪れませんね。お嬢様に心安らかに過ごしていただくためにシェノグ族は邪魔ですね。ええ、そうしましょう。奴らを滅ぼしましょう」
ただ怒りに任せて怒鳴っていた声の調子が酷く冷徹なものに変る。
「ただ滅ぼすだけではダメです。私たちの絶望と怒りを見せつけないと……」
長い髭の族長は、庭のベンチに座って星空を見上げていた。
孫娘のツアンプ・シェノグ(kz0170)がランプの光をたよりに隣にきて腰かけるとお茶を手渡した。
「おじい様、悩みごとですか」
「このところの歪虚の件じゃよ。どこで発生しているのか調べてもらおうにも……」
族長は温かいお茶をすすりながら思案している様だった。
このところシェノグ族はくり返し歪虚に襲われていた。それも、同じ顔をした少女の姿をした雑魔だ。何かが雑魔を生み出してシェノグ族を標的にしているとしか思えない事態に族長は悩んでいた。
雑魔が山にいると思えば、山菜や薬草を収穫しに山に入るのは恐ろしい。現に山菜採集で山に入って襲われた部族民がいる。部族は今、見えない恐怖に閉じこもっていた。
「山と言っても広いですものね。やみくもに探してくれと言ってもハンターの方々も困ってしまいますからね」
ツアンプも考える。山のほとんどの場所は部族で採集に入っているから、歪虚が発生するような何かがあればとっくに発見されていただろう。
「誰も行かない場所なんてありました?」
「誰も立入らない場所となれば、古い村の跡地しかないのう」
「あそこは立入禁止区域ですよ!」
「そうじゃ、十年も誰も足を踏み入れていない火事の焼け跡じゃ。歪虚が潜むには持てこいじゃろうて」
「そうですが」
シェノグ族では火事のあった場所は、自然が回復するまで立ち入らない決まりになっている。
十年前、シェノグ族の村は大火事に見舞われた。村だけでなく、山も広い範囲が燃えてしまった大きな火事だった。
ツアンプはまだ十歳の子供だったので火事の詳細を知らない。それよりも部族民が一丸となって今の場所に村を再建し、生活を立て直すことに一生懸命だったことが印象に強く残っている。
部族みんなで支えてきた今の暮らしを脅かす歪虚がツアンプは許せなかった。
「魔物がいる訳でも禁忌を封印しているわけでもない。ただ、自然の回復を待つために立入を禁止しておるだけじゃ。ここで一度様子を見に行くのもいいじゃろうて」
族長はお茶をじっと見つめて言葉を続ける。
「それにお嬢様じゃ」
「え?」
「あの雑魔の似顔絵じゃよ。どうもお嬢様に見えてしかたがないのじゃ」
族長はお茶をじっと見つめている。この前、ハンター達が襲ってくる雑魔の顔を描いた似顔絵を部族に見せてくれた。その似顔絵は遠い記憶にある顔に似ている気がした。
「お嬢様ですか?」
お嬢様と聞いてツアンプが思い出すのは、お兄さん、お兄さんと呼んで慕っていた優しい男性の面影だった。
ツアンプの知らない広い世界の様子や儚く可愛らしいお嬢様の事をいつもお話してくれたお兄さん。
「そういえば、あのお兄さんはどうしたんでしょうか……」
いつの間にか、姿を見なくなったなとツアンプは思った。
「ディーナーと言ったかな、彼のその後も分からんし。お嬢様となれば思い浮かぶのは彼が建てた屋敷に掛かっていた肖像画しか思い浮かばんのじゃ」
族長は、お茶を飲み干してしまうとツアンプに「うまかったよ」と言って立ち上がった。
「火事で焼けた古い村を見てきてもらおう。雑魔の巣になっていないか。歪虚が根城にしていないかをじゃ」
十年前、冬の夜 もしくはディーナーの夢
強風が吹く中、夜だというのに族長の屋敷は騒ぎの中にあった。ディーナーは族長の家で、長い髭の族長と激しい口論をしていた。
「何度言われても無理じゃ! 写本は見せられんし、見ても役に立たん!」
「もう、それだけが頼りなんだ。頼む! このままではお嬢様が、お嬢様が」
「もう、ワシらではお主たちの役に立つことは一つもない。帰ってくれ!」
「……くそっ!」
玄関で押し問答をしていたディーナーだったが、族長を押しのけて家の中に侵入する。
「待つんじゃ!」
ディーナーは家の中を走る。
「何してんだ! 止まれ!」
騒ぎを聞いて集まった族長の家族も加わって、ディーナーを止めようと掴みかかった。
「うるさい! お嬢様が死んでしまうんだ! 止めるな!」
暴れるディーナーが壁に掛けられていたランプを撥ね飛ばした。油と火が飛び散ってカーテンに燃え移る。
「止まれ!」
「火を消せ!」
その後は、ただ混乱と炎が拡大するだけだった。
この冬、乾燥した強風に煽られて炎は村と山を焼いていく。
シェノグ族の民は、着の身着のまま村から逃げ出した。
廃村の廃墟
ディーナーは夢を見ていた。いや、十年前の出来事ごとを思い返していただけかもしれない。
大火事からかろうじて生還したディーナーは、失意だけをお嬢様の元に持ち帰ったのだ。
「ディーナー……。だいじょうぶ、すぐによくなるから、泣かないで、ね。また、いっしょに……、さんぽに……」
お嬢様が養生する街の静かな館の中。病でやせ細ったお嬢様の手を握りしめて泣くしか出来なかった日のことを今でもはっきりと、ディーナーは覚えている。
ディーナーは寝泊まりしている小部屋から廊下に出て、居間へ向かう。
居間の屋根は崩れていて日の光が差し込んでいた。暖炉の上に掛けられているお嬢様の肖像画を見上げる。
お嬢様が死んでしまって色々な場所を彷徨っていた時、二度と訪れることはないと思っていたこの屋敷にふらりと立ち寄って見つけたお嬢様の面影。
「お嬢様、シェノグ族がまた邪魔をしました。十年前、見捨てただけでなくお嬢様の復活まで!!」
つば広の黒い帽子、全身を覆う黒いマントに長い嘴のある白い革製の仮面という十年前とは全く違う姿でディーナーは怒気を撒き散らしていた。無彩色の姿の中、帽子と胸元に大きな向日葵が鮮やかに咲いている。
ディーナーは白い仮面を外して、肖像画の中で微笑む少女に向かってしゃべった。額には火傷の跡がある。
シェノグ族が雇ったハンターに、ディーナーが作った雑魔が倒されてしまった。せっかくたくさんのマテリアルを吸収できていたというのに。
これではお嬢様復活のための実験が出来ないではないか。それだけではない、もしもお嬢様の復活が叶ってもシェノグ族がハンターを差し向けてきては、お嬢様が危険な目にあってしまう。
「お嬢様、そうですね。奴らがいては平穏が訪れませんね。お嬢様に心安らかに過ごしていただくためにシェノグ族は邪魔ですね。ええ、そうしましょう。奴らを滅ぼしましょう」
ただ怒りに任せて怒鳴っていた声の調子が酷く冷徹なものに変る。
「ただ滅ぼすだけではダメです。私たちの絶望と怒りを見せつけないと……」
リプレイ本文
辺境の山の中。シェノグ族、族長の家。
早速、山に調査へ……と行く前に、まず村で拾える情報を拾ってしまおうという五黄(ka4688)の主張もあり、まずはシェノグ族の族長に話を聞くことになった。
「同じ顔をした雑魔に襲われるなんて変ね。余計に怖くなってしまうし。とにかく原因をはっきりさせたいわね」
族長が出してくれたお茶を飲みながらリアリュール(ka2003)は言った。
「まぁ、前の歪虚の出方は尋常じゃなかったからなぁ」
五黄がこの前の依頼を思い出して言った。同じ顔をした雑魔の少女たちがシェノグ族めがけて行動するさまを。
「あら、変わった味ね」
紅茶が好きなステラ・フォーク(ka0808)の感想に部族で作った薬草茶だと族長が嬉しそうに説明した。
「どうしてそんな大規模な火災が起きた? 不注意が原因とは思えない」
火の取り扱いを掟に定めているからには漫然とした取り扱いをしていたとも考えられず、ヴァイス(ka0364)は族長に何があったのか問いただした。
「……お恥ずかしいことながら火事の直前に騒動がありましての。それが……」
自分たちの過ちを外部に告白するのは辛いのだろう、なかなか先の言葉が出てこない。
「知っている者が墓場まで持って行かなきゃならない話もあることを知ってるわ。今から聞くことがもしそうなら、私も誰にも伝えず墓場まで持って行くことを宣誓する……教えて貰えないかしら」
口が重い族長にマリィア・バルデス(ka5848)がここだけの話だと、そっと助け舟を出す。
「部族外の人間が我らに伝わる写本を見せろとしつこく迫りまして。家に侵入され、揉み合いになったときにランプが撥ね飛ばされて、そこから火が……」
族長は、ふぅと重い溜息をついた。
「その部族外の人間と言うのが雑魔に似たお嬢様、なのかしら? 調査に関係するかもしれないから、話せる範囲でご存知のことをお聞かせ願えないかしら」
リアリュールの言葉に、族長は首を振る。
「ディーナーというお嬢様のお付きの男です。お嬢様は体が弱いという話で直接会ったことはないのですじゃ」
「お付きはその一人だけなのかしら。大火のあと彼らはどうなったのかしら」
マリィアが質問する。
「村にやってきたのはディーナー一人だけですじゃ。大火の後、自分達が逃げるのに精一杯で彼は一体どうなったことやら……。お嬢様については風の噂で、流行病で亡くなったらしいと聞いたくらいですなぁ」
族長は質問に答えると、「冷めてしまいましたな」と言って、ハンター達の前に出してあったお茶を入れ替えた。その顔は長年の疲れが出たのだろうか、随分と老け込んで見えた。
山道を歩きながら、レイ・T・ベッドフォード(ka2398)は同行しているツアンプに事情を聞いている。
「ツアンプ様、前回、あからさまにシェノグ族を狙っていた歪虚達です。関係あるのならば、その事情をお聞かせ願えませんか」
「もしも、村でも話に出ていたディーナーと言う人とお嬢様に関係があるとするなら、恨まれているのかもしれません。あの方が助けを必要としていたとき、手を差し伸べることが出来なかった。そう祖父から聞いています」
ツアンプはうつむいて腰につけている赤い鞭を握りしめた。
「ディーナーっていう奴が、歪虚がいるかもしれないっていう屋敷を建てたと言っていたな。それも、滞在用にわざわざ建てたとか。そこでどんなことがあったっていうんだ?」
五黄が村で聞き込んだ情報を思い返す。
「ツアンプさんは、お屋敷に行ったことあるのかしら?」
リアリュールは思い当たることがないかツアンプに聞いてみた。
「見たことのないお屋敷が珍しくて何度か友達と行きました。ディーナーさんも嫌な顔をしないで私たちに都会のお菓子を下さって。いつもニコニコして肖像画を見上げながら、お嬢様のことをお話しされていたのを覚えています」
楽しい思い出を思い出したのかツアンプに笑顔になる。
レイは、「お嬢様」について心の片隅に留め置いた。この前の雑魔はすべて女性の姿をしていた。執着があるのかもしれない。
大火から再生している森を踏み分けて進む。
火事で焼け落ちたのだろう、廃墟になった村まで一行はやってきた。ここからは、二手に分かれて周辺を捜索することになった。
「あのガキの姿をした歪虚が周りにわらわら潜んでるなんてのは勘弁だからな」
五黄は超聴覚を使用する。鳥のさえずりや、野生動物の鳴き声が聞こえる。
「おっと」
ガサッ、と茂みが揺れるのに気がついて五黄は構えるのが顔を出したのは小さなうり坊たちだった。
「かわいい」
リアリュールは、このまま親と鉢合わせしてはまずいからと仲間をうり坊たちの針路とは違う方へ誘導した。
リアリュールは自分の感覚を頼りに周囲に異常がないか観察していった。
「この木なら登れそうね」
リアリュールはしっかりとした枝ぶりの木を選んで登って、周囲を見渡す。奥の方に、木の隙間から屋根が見えた。
「みなさん、この向こうに屋根が見えるわ」
指を指しながら、地上にいる仲間に教える。
「これは……獣道ってわけではなさそうだな。奥にある屋敷に続いているみたいだな」
ヴァイスは、屋根があるという方へ続くと思われる踏みつぶされていた草や、若枝の折れた木がある通路を見つけた。野生動物がつけるとは思えない高さの傷跡から、それ以外の何かが通ったのだろうと推察された。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
五黄は道なき道を踏み出した。
「私はこの班のサーチャーだから、ツアンプはレイやステラと一緒に私の後ろをついてきてちょうだい」
先頭を歩いているマリィアが振り返って言った。ツアンプは後ろから「分かりました」と返事をかえす。
「歳月も手伝ってのことでしょうけれど、随分大規模な火事でしたのね……」
ステラは、超嗅覚を使って周辺に注意を向けながら、ツアンプに声を掛けた。再生の途上にある森の草花の濃い香りをかぐ。
「とても大きな火災でした。あんなに真っ赤な光景は見たことがありません」
ツアンプが答えた。
道らしい道が無い中、前へ前へと進んで行く。
ステラは何が飛び出してくるか分からないため、危険に備え常に銃を握っていた。連絡があればすぐに出られるようにトランシーバーを確認する。
「草が踏みつぶされているわ」
何度も出入りが行われたのだろうくっきりと人一人分の通路ができていた。ステラが先を伺うと木々に埋もれるように建つ屋敷が見えた。それ以上に進まずに、警戒の上、仲間を呼ぶ。
「焼けたように見えますが、案外しっかりと残っていますね」
屋敷を見上げたレイがいった。
ステラは仲間たちとともに、屋敷をぐるりと一周回ってみた。木が密集していて歩きづらい。屋根など崩れている箇所があるが比較的きれいに屋敷は形を留めていた。
「なにかありそうな気がしたのだけれど違ったみたいですわ」
ステラは言った。
屋敷の正面に戻ってきたとき、別行動を取っていた仲間たちと合流した。
「あれを見てくれ」
ヴァイスが刀を抜きながら示した屋敷の正面には、玄関の両脇に木が植わっていた。風に揺れる森の木々とは動きが違う。不自然に枝を揺らしているところからみて雑魔のようだ。
ヴァイスの横に、レイが立つ。
「撤退時に邪魔されても困るな、あの木の雑魔は処理しときたいとこだな」
五黄も槍を構え前線に立った二人の隙を補うように移動した。
「中に敵が居たら銃声でばれちゃうもの。静かに倒せる人にお願いするわ」
マリィアは仲間にお任せ、と後ろに下がって場所を開けた。
「ツアンプさんは後ろにいてください」
リアリュールがツアンプを背後に庇った。
木の雑魔は近寄ってくる者を振り払うように枝で攻撃してくる。
「ハッ!」
ヴァイスは枝に沿うように刀で受け流して、返す刀で幹に切り込む。太くない幹は両断される。
五黄が隣の木の雑魔に霊魔撃を叩き込んで危険を排除した。
「門番にしちゃ、大したことなかったな」
表にいた雑魔を難なく倒すと、ハンター達は屋敷の中に入った。
「よろしければ、赤い鞭をお借りできませんか? 大事なものだとは分かってはいるが、何かがいるとしたら、此処ですから。貴女の身に、危険が及ばぬように」
レイがツアンプに言った。
「はい。よろしくお願いします」
ツアンプは腰から赤い鞭を採ってレイに差し出す。レイは、鞭を腰に差した。
崩れた屋根部分からから光が差し込んでいる。
「何が潜んでいても可笑しくない、十分に警戒して進もう」
ヴァイスが先頭になって武器を構えつつ慎重に進む。
「おあつらえ向きの舞台だ」
大抵何か企んでるやつってのはこういう屋敷の中で待ってるもんだよな、と笑みを浮かべ、五黄は超聴覚を引き続き使用している。今のところ、自分たち以外の音は聞こえない。
「この奥が怪しい感じがするわね」
リアリュールの直感視が奥に何かいると告げている。
ステラは何か出入りがあったのであれば、床や扉に痕跡が残るだろうと床を注視した。床の隅の方には分厚く埃や落ち葉が積もっているのに中央にはほとんどなかった。
「埃の積もり具合が何か不自然、な気がしますわ。なんとなく……」
ステラは埃の厚さを確認する。埃の薄い部分が通路のように奥の廊下に続いていた。
「埃が少ない場所は人が出入りしている場所でしょう」
警戒しなければなりませんね、とレイが注意を促した。
「α、γ……怪しい人影や歪虚を見かけたら吠えなさい、行けっ」
入り口付近の確認が終わると、マリィアが怪しい物を見つけられるかもと期待してペットの犬たちを放った。
犬たちは、枯れ草の山に花を突っ込んでみたり、崩れた壁から侵入している蔓の匂いを嗅いだりしている。
「地下室がある……というわけではないようですわね」
ステラは、埃の薄くなっている部分を辿っていく。埃の通路は、小部屋の一部と奥の大きな扉につながっていた。
「左右の部屋の中では、ここが一番出入りしているようですね」
ステラが左奥の扉を示した。
ヴァイスと五黄が先頭に立って通路の左にある小部屋の扉を調べる。扉の前に埃が積もっていない小部屋を五黄が慎重に開けた。
「ここは、植物園みたいね」
中を覗き込んだリアリュールが言う。
そこは屋根が完全になくなっていて太陽の光が燦々と降り注いでいた。植木鉢やジョウロが乱雑に置かれている。
「これは、最近、土をいじったみたいね」
植木鉢のいくつかは、最近、植物を抜いたのか表面が柔らかかった。
「これは……水仙なのかしら。確かに今までの歪虚と似てるわね」
マリィアは床に残されていた枯れた花をつまむ。他にも、これまでに目撃された歪虚の一部かもしれない植物が捨てられていた。
他の小部屋も調べ、残すは一番奥の扉のみ。
五黄とヴァイスが武器を手に持ち、慎重に扉を開ける。壁の一部に亀裂が入って陽光が差し込んでいる。最初に目に入ったのは大きなダイニングテーブル。その奥には煉瓦を積んで作った暖炉。暖炉の前に、黒いシルエットの人影が立っていた。
人影がゆっくり振り返る。無彩色のシルエットの中、帽子と胸元の向日葵が鮮やかに咲いていた。
「挨拶も無しに侵入して、屋敷の主人に武器を向けるとは礼儀がないな」
白い仮面から話される声はくぐもっている。
「こんな所でメディコ・デッラ・ペステに会うとはね……中世の錬金術師は大抵そうだったらしいけど。貴方が何を作ろうとしてるか確認させて貰ってもいいかしら」
マリィアは、ペスト医師と呼ばれている格好を見ながら銃を構える。
「錬金術……? ふんっ、金も銀もそんなものはどうでもいい。私が欲しているのは金銭で贖えるようなものではない! もっと尊くて懸けがいのない……」
そう言って、仮面の男は暖炉の上を見上げる。そこには逆光で見えずらいが一枚の絵が掛けられているようだった。
「――お嬢様は、お亡くなりになられたのですね」
レイが、仮面の男に語り掛ける。男は、ピクッと反応するとレイの腰につけた赤い鞭に注目した。
「……。シェノグ族には見えない男だな。新たに部族に加わったのか……? いや、そちらの女の囮のつもりか」
一番後ろにいるツアンプの顔を見て独り言をいう。
「貴方が、お嬢様の雑魔を造っている……」
レイが言葉を投げかけた。くり返し作られる同じ顔の雑魔、その執着ぶりが気になっていた。何がそこまで執着させるのか、それは相手の急所足りうるのではないかと思う。
「あんな失敗作はお嬢様ではない! 一緒にするな! 邪魔ばっかしやがって! あと少し、あと少しのはずなんだ!」
ディーナーは激昂する。
「……死者を貶めて、貴方は何を叶えたいのですか?」
レイはただ彼の願いが知りたいと言葉を紡ぐ。
「……! お前らに何がわかる。お嬢様には素晴らしい未来が待っているはずだった! 社交界にデビューして、お茶に美味しいお菓子に。お嬢様が結婚されるとき、私が婚礼の衣装を用意するんだ。総レースのヴェールに花のブーケ……そんな未来が、あるはずなんだ!」
ディーナーの瞳は、もう来るはずのない未来を見つめていた。
「お嬢様を蘇らせるんだ! 邪魔をするな!」
激怒したディーナーは、何かをハンターたちの床に向けて投げつける。
「下がれ!」
五黄が全員を居間の外に下がらせた。投げられた何かは、居間の床にくっつくとニュルンと成長して向日葵の花を咲かせる。茎をしならせて殴ってくる。
「ちっ!」
マリィアがリボルバーと神罰銃を引き抜いて向日葵を左右の銃で打ち抜く。
向日葵は簡単に倒される。
奥からも、爆発音が聞こえる。居間に再度入ると、壁に新しい穴が開いていてディーナーがそこから逃げ出すところだった。
ステラも、銃を構えてディーナーの足を狙おうとするが、避けられてしまった。
ヴァイスが煌剣ルクス・ソリスを構えて突撃するが、ディーナーは素早く森の奥に消えて行ってしまった。
「深追いはしない方がいいな」
人の手の入っていない森にうかつに飛び込むわけにはいかないとヴァイスは追跡を断念する。
「これがお嬢様なのね……」
リアリュールは、暖炉の上の肖像画を見上げる。その顔は前回の雑魔の似顔絵に確かに似ていた。
一行は、村に戻る。
ヴァイスは、首謀者と思われるディーナーの服装や話の内容をできるだけ詳しく族長に報告した。
「……という男だったが、十年前の話に出てきた男に間違いないだろうか」
「服装は違いますが、その内容、ディーナーに間違いないでしょうな……」
族長は、疲れたようにうなだれてしまった。
「肖像画と雑魔の顔が一致するなら、これからも何か仕掛けてくるかもしれないわね」
警戒が必要ね、とリアリュールが言った。
早速、山に調査へ……と行く前に、まず村で拾える情報を拾ってしまおうという五黄(ka4688)の主張もあり、まずはシェノグ族の族長に話を聞くことになった。
「同じ顔をした雑魔に襲われるなんて変ね。余計に怖くなってしまうし。とにかく原因をはっきりさせたいわね」
族長が出してくれたお茶を飲みながらリアリュール(ka2003)は言った。
「まぁ、前の歪虚の出方は尋常じゃなかったからなぁ」
五黄がこの前の依頼を思い出して言った。同じ顔をした雑魔の少女たちがシェノグ族めがけて行動するさまを。
「あら、変わった味ね」
紅茶が好きなステラ・フォーク(ka0808)の感想に部族で作った薬草茶だと族長が嬉しそうに説明した。
「どうしてそんな大規模な火災が起きた? 不注意が原因とは思えない」
火の取り扱いを掟に定めているからには漫然とした取り扱いをしていたとも考えられず、ヴァイス(ka0364)は族長に何があったのか問いただした。
「……お恥ずかしいことながら火事の直前に騒動がありましての。それが……」
自分たちの過ちを外部に告白するのは辛いのだろう、なかなか先の言葉が出てこない。
「知っている者が墓場まで持って行かなきゃならない話もあることを知ってるわ。今から聞くことがもしそうなら、私も誰にも伝えず墓場まで持って行くことを宣誓する……教えて貰えないかしら」
口が重い族長にマリィア・バルデス(ka5848)がここだけの話だと、そっと助け舟を出す。
「部族外の人間が我らに伝わる写本を見せろとしつこく迫りまして。家に侵入され、揉み合いになったときにランプが撥ね飛ばされて、そこから火が……」
族長は、ふぅと重い溜息をついた。
「その部族外の人間と言うのが雑魔に似たお嬢様、なのかしら? 調査に関係するかもしれないから、話せる範囲でご存知のことをお聞かせ願えないかしら」
リアリュールの言葉に、族長は首を振る。
「ディーナーというお嬢様のお付きの男です。お嬢様は体が弱いという話で直接会ったことはないのですじゃ」
「お付きはその一人だけなのかしら。大火のあと彼らはどうなったのかしら」
マリィアが質問する。
「村にやってきたのはディーナー一人だけですじゃ。大火の後、自分達が逃げるのに精一杯で彼は一体どうなったことやら……。お嬢様については風の噂で、流行病で亡くなったらしいと聞いたくらいですなぁ」
族長は質問に答えると、「冷めてしまいましたな」と言って、ハンター達の前に出してあったお茶を入れ替えた。その顔は長年の疲れが出たのだろうか、随分と老け込んで見えた。
山道を歩きながら、レイ・T・ベッドフォード(ka2398)は同行しているツアンプに事情を聞いている。
「ツアンプ様、前回、あからさまにシェノグ族を狙っていた歪虚達です。関係あるのならば、その事情をお聞かせ願えませんか」
「もしも、村でも話に出ていたディーナーと言う人とお嬢様に関係があるとするなら、恨まれているのかもしれません。あの方が助けを必要としていたとき、手を差し伸べることが出来なかった。そう祖父から聞いています」
ツアンプはうつむいて腰につけている赤い鞭を握りしめた。
「ディーナーっていう奴が、歪虚がいるかもしれないっていう屋敷を建てたと言っていたな。それも、滞在用にわざわざ建てたとか。そこでどんなことがあったっていうんだ?」
五黄が村で聞き込んだ情報を思い返す。
「ツアンプさんは、お屋敷に行ったことあるのかしら?」
リアリュールは思い当たることがないかツアンプに聞いてみた。
「見たことのないお屋敷が珍しくて何度か友達と行きました。ディーナーさんも嫌な顔をしないで私たちに都会のお菓子を下さって。いつもニコニコして肖像画を見上げながら、お嬢様のことをお話しされていたのを覚えています」
楽しい思い出を思い出したのかツアンプに笑顔になる。
レイは、「お嬢様」について心の片隅に留め置いた。この前の雑魔はすべて女性の姿をしていた。執着があるのかもしれない。
大火から再生している森を踏み分けて進む。
火事で焼け落ちたのだろう、廃墟になった村まで一行はやってきた。ここからは、二手に分かれて周辺を捜索することになった。
「あのガキの姿をした歪虚が周りにわらわら潜んでるなんてのは勘弁だからな」
五黄は超聴覚を使用する。鳥のさえずりや、野生動物の鳴き声が聞こえる。
「おっと」
ガサッ、と茂みが揺れるのに気がついて五黄は構えるのが顔を出したのは小さなうり坊たちだった。
「かわいい」
リアリュールは、このまま親と鉢合わせしてはまずいからと仲間をうり坊たちの針路とは違う方へ誘導した。
リアリュールは自分の感覚を頼りに周囲に異常がないか観察していった。
「この木なら登れそうね」
リアリュールはしっかりとした枝ぶりの木を選んで登って、周囲を見渡す。奥の方に、木の隙間から屋根が見えた。
「みなさん、この向こうに屋根が見えるわ」
指を指しながら、地上にいる仲間に教える。
「これは……獣道ってわけではなさそうだな。奥にある屋敷に続いているみたいだな」
ヴァイスは、屋根があるという方へ続くと思われる踏みつぶされていた草や、若枝の折れた木がある通路を見つけた。野生動物がつけるとは思えない高さの傷跡から、それ以外の何かが通ったのだろうと推察された。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
五黄は道なき道を踏み出した。
「私はこの班のサーチャーだから、ツアンプはレイやステラと一緒に私の後ろをついてきてちょうだい」
先頭を歩いているマリィアが振り返って言った。ツアンプは後ろから「分かりました」と返事をかえす。
「歳月も手伝ってのことでしょうけれど、随分大規模な火事でしたのね……」
ステラは、超嗅覚を使って周辺に注意を向けながら、ツアンプに声を掛けた。再生の途上にある森の草花の濃い香りをかぐ。
「とても大きな火災でした。あんなに真っ赤な光景は見たことがありません」
ツアンプが答えた。
道らしい道が無い中、前へ前へと進んで行く。
ステラは何が飛び出してくるか分からないため、危険に備え常に銃を握っていた。連絡があればすぐに出られるようにトランシーバーを確認する。
「草が踏みつぶされているわ」
何度も出入りが行われたのだろうくっきりと人一人分の通路ができていた。ステラが先を伺うと木々に埋もれるように建つ屋敷が見えた。それ以上に進まずに、警戒の上、仲間を呼ぶ。
「焼けたように見えますが、案外しっかりと残っていますね」
屋敷を見上げたレイがいった。
ステラは仲間たちとともに、屋敷をぐるりと一周回ってみた。木が密集していて歩きづらい。屋根など崩れている箇所があるが比較的きれいに屋敷は形を留めていた。
「なにかありそうな気がしたのだけれど違ったみたいですわ」
ステラは言った。
屋敷の正面に戻ってきたとき、別行動を取っていた仲間たちと合流した。
「あれを見てくれ」
ヴァイスが刀を抜きながら示した屋敷の正面には、玄関の両脇に木が植わっていた。風に揺れる森の木々とは動きが違う。不自然に枝を揺らしているところからみて雑魔のようだ。
ヴァイスの横に、レイが立つ。
「撤退時に邪魔されても困るな、あの木の雑魔は処理しときたいとこだな」
五黄も槍を構え前線に立った二人の隙を補うように移動した。
「中に敵が居たら銃声でばれちゃうもの。静かに倒せる人にお願いするわ」
マリィアは仲間にお任せ、と後ろに下がって場所を開けた。
「ツアンプさんは後ろにいてください」
リアリュールがツアンプを背後に庇った。
木の雑魔は近寄ってくる者を振り払うように枝で攻撃してくる。
「ハッ!」
ヴァイスは枝に沿うように刀で受け流して、返す刀で幹に切り込む。太くない幹は両断される。
五黄が隣の木の雑魔に霊魔撃を叩き込んで危険を排除した。
「門番にしちゃ、大したことなかったな」
表にいた雑魔を難なく倒すと、ハンター達は屋敷の中に入った。
「よろしければ、赤い鞭をお借りできませんか? 大事なものだとは分かってはいるが、何かがいるとしたら、此処ですから。貴女の身に、危険が及ばぬように」
レイがツアンプに言った。
「はい。よろしくお願いします」
ツアンプは腰から赤い鞭を採ってレイに差し出す。レイは、鞭を腰に差した。
崩れた屋根部分からから光が差し込んでいる。
「何が潜んでいても可笑しくない、十分に警戒して進もう」
ヴァイスが先頭になって武器を構えつつ慎重に進む。
「おあつらえ向きの舞台だ」
大抵何か企んでるやつってのはこういう屋敷の中で待ってるもんだよな、と笑みを浮かべ、五黄は超聴覚を引き続き使用している。今のところ、自分たち以外の音は聞こえない。
「この奥が怪しい感じがするわね」
リアリュールの直感視が奥に何かいると告げている。
ステラは何か出入りがあったのであれば、床や扉に痕跡が残るだろうと床を注視した。床の隅の方には分厚く埃や落ち葉が積もっているのに中央にはほとんどなかった。
「埃の積もり具合が何か不自然、な気がしますわ。なんとなく……」
ステラは埃の厚さを確認する。埃の薄い部分が通路のように奥の廊下に続いていた。
「埃が少ない場所は人が出入りしている場所でしょう」
警戒しなければなりませんね、とレイが注意を促した。
「α、γ……怪しい人影や歪虚を見かけたら吠えなさい、行けっ」
入り口付近の確認が終わると、マリィアが怪しい物を見つけられるかもと期待してペットの犬たちを放った。
犬たちは、枯れ草の山に花を突っ込んでみたり、崩れた壁から侵入している蔓の匂いを嗅いだりしている。
「地下室がある……というわけではないようですわね」
ステラは、埃の薄くなっている部分を辿っていく。埃の通路は、小部屋の一部と奥の大きな扉につながっていた。
「左右の部屋の中では、ここが一番出入りしているようですね」
ステラが左奥の扉を示した。
ヴァイスと五黄が先頭に立って通路の左にある小部屋の扉を調べる。扉の前に埃が積もっていない小部屋を五黄が慎重に開けた。
「ここは、植物園みたいね」
中を覗き込んだリアリュールが言う。
そこは屋根が完全になくなっていて太陽の光が燦々と降り注いでいた。植木鉢やジョウロが乱雑に置かれている。
「これは、最近、土をいじったみたいね」
植木鉢のいくつかは、最近、植物を抜いたのか表面が柔らかかった。
「これは……水仙なのかしら。確かに今までの歪虚と似てるわね」
マリィアは床に残されていた枯れた花をつまむ。他にも、これまでに目撃された歪虚の一部かもしれない植物が捨てられていた。
他の小部屋も調べ、残すは一番奥の扉のみ。
五黄とヴァイスが武器を手に持ち、慎重に扉を開ける。壁の一部に亀裂が入って陽光が差し込んでいる。最初に目に入ったのは大きなダイニングテーブル。その奥には煉瓦を積んで作った暖炉。暖炉の前に、黒いシルエットの人影が立っていた。
人影がゆっくり振り返る。無彩色のシルエットの中、帽子と胸元の向日葵が鮮やかに咲いていた。
「挨拶も無しに侵入して、屋敷の主人に武器を向けるとは礼儀がないな」
白い仮面から話される声はくぐもっている。
「こんな所でメディコ・デッラ・ペステに会うとはね……中世の錬金術師は大抵そうだったらしいけど。貴方が何を作ろうとしてるか確認させて貰ってもいいかしら」
マリィアは、ペスト医師と呼ばれている格好を見ながら銃を構える。
「錬金術……? ふんっ、金も銀もそんなものはどうでもいい。私が欲しているのは金銭で贖えるようなものではない! もっと尊くて懸けがいのない……」
そう言って、仮面の男は暖炉の上を見上げる。そこには逆光で見えずらいが一枚の絵が掛けられているようだった。
「――お嬢様は、お亡くなりになられたのですね」
レイが、仮面の男に語り掛ける。男は、ピクッと反応するとレイの腰につけた赤い鞭に注目した。
「……。シェノグ族には見えない男だな。新たに部族に加わったのか……? いや、そちらの女の囮のつもりか」
一番後ろにいるツアンプの顔を見て独り言をいう。
「貴方が、お嬢様の雑魔を造っている……」
レイが言葉を投げかけた。くり返し作られる同じ顔の雑魔、その執着ぶりが気になっていた。何がそこまで執着させるのか、それは相手の急所足りうるのではないかと思う。
「あんな失敗作はお嬢様ではない! 一緒にするな! 邪魔ばっかしやがって! あと少し、あと少しのはずなんだ!」
ディーナーは激昂する。
「……死者を貶めて、貴方は何を叶えたいのですか?」
レイはただ彼の願いが知りたいと言葉を紡ぐ。
「……! お前らに何がわかる。お嬢様には素晴らしい未来が待っているはずだった! 社交界にデビューして、お茶に美味しいお菓子に。お嬢様が結婚されるとき、私が婚礼の衣装を用意するんだ。総レースのヴェールに花のブーケ……そんな未来が、あるはずなんだ!」
ディーナーの瞳は、もう来るはずのない未来を見つめていた。
「お嬢様を蘇らせるんだ! 邪魔をするな!」
激怒したディーナーは、何かをハンターたちの床に向けて投げつける。
「下がれ!」
五黄が全員を居間の外に下がらせた。投げられた何かは、居間の床にくっつくとニュルンと成長して向日葵の花を咲かせる。茎をしならせて殴ってくる。
「ちっ!」
マリィアがリボルバーと神罰銃を引き抜いて向日葵を左右の銃で打ち抜く。
向日葵は簡単に倒される。
奥からも、爆発音が聞こえる。居間に再度入ると、壁に新しい穴が開いていてディーナーがそこから逃げ出すところだった。
ステラも、銃を構えてディーナーの足を狙おうとするが、避けられてしまった。
ヴァイスが煌剣ルクス・ソリスを構えて突撃するが、ディーナーは素早く森の奥に消えて行ってしまった。
「深追いはしない方がいいな」
人の手の入っていない森にうかつに飛び込むわけにはいかないとヴァイスは追跡を断念する。
「これがお嬢様なのね……」
リアリュールは、暖炉の上の肖像画を見上げる。その顔は前回の雑魔の似顔絵に確かに似ていた。
一行は、村に戻る。
ヴァイスは、首謀者と思われるディーナーの服装や話の内容をできるだけ詳しく族長に報告した。
「……という男だったが、十年前の話に出てきた男に間違いないだろうか」
「服装は違いますが、その内容、ディーナーに間違いないでしょうな……」
族長は、疲れたようにうなだれてしまった。
「肖像画と雑魔の顔が一致するなら、これからも何か仕掛けてくるかもしれないわね」
警戒が必要ね、とリアリュールが言った。
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相談卓 マリィア・バルデス(ka5848) 人間(リアルブルー)|24才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/06/07 20:22:43 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/06 18:10:45 |