ゲスト
(ka0000)
雨の日限定新メニュー?
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/06/07 12:00
- 完成日
- 2016/06/13 06:15
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
六月は長雨の季節――というのはリアルブルーの印象が強いからかも知れないな、とトワ・トモエはぼんやり考える。
とはいえこのリゼリオも今日は雨。
何処か全体的に位印象を受けるのは、曇天から降り注ぐ雨がしとしとと、まるでリアルブルーの梅雨のような印象を受けるから。
「……なんだか、雨を見ていると……憂鬱になるって言うけど。納得できるなあ、確かに」
「おや、そうなんですか?」
入り浸っているカフェ『シエル』のマスター・エリスが、
「らしくありませんね、トモエ」
そう言いながらカフェモカを運んできてくれた。
今日は雨のせいだろうか、少しばかり肌寒くもある。
「嫌な天気ですけれど……こういうときこそ、笑っている方が、あなたらしいですよ?」
なるほど、そうかも知れない。
トモエは運ばれてきたカフェモカを口に運ぼうとして――ふと思った。
「……そう言えばこの店って、基本的にエリスさんだけで回しているのよね?」
「そうですねぇ……ものすごく流行っているわけでもないし、何とかなってますから」
しかしこの店が、リゼリオでは珍しいブックカフェの体を相している為、実は長っ尻の常連客が殆どであるということもトモエは知っている。
「……そうだ。こういうときだからこその期間限定メニューとか、考えるの、楽しくないです?」
「期間限定メニュー……どういうこと?」
「雨の日だけの限定メニューですよ。折角だからこの機会に、この店、新しいお客さんを呼びましょう?」
そう言うと、エリスはわずかに考え込んだ。
彼女もきっと、常連客ばかりの現状を打破したかったのだろう。
●
期間限定メニュー、アイデア募集。
お問い合わせは、ブックカフェ「シエル」まで。
その翌日には、さっそくそんなチラシがハンターオフィスに届いたのであった。
六月は長雨の季節――というのはリアルブルーの印象が強いからかも知れないな、とトワ・トモエはぼんやり考える。
とはいえこのリゼリオも今日は雨。
何処か全体的に位印象を受けるのは、曇天から降り注ぐ雨がしとしとと、まるでリアルブルーの梅雨のような印象を受けるから。
「……なんだか、雨を見ていると……憂鬱になるって言うけど。納得できるなあ、確かに」
「おや、そうなんですか?」
入り浸っているカフェ『シエル』のマスター・エリスが、
「らしくありませんね、トモエ」
そう言いながらカフェモカを運んできてくれた。
今日は雨のせいだろうか、少しばかり肌寒くもある。
「嫌な天気ですけれど……こういうときこそ、笑っている方が、あなたらしいですよ?」
なるほど、そうかも知れない。
トモエは運ばれてきたカフェモカを口に運ぼうとして――ふと思った。
「……そう言えばこの店って、基本的にエリスさんだけで回しているのよね?」
「そうですねぇ……ものすごく流行っているわけでもないし、何とかなってますから」
しかしこの店が、リゼリオでは珍しいブックカフェの体を相している為、実は長っ尻の常連客が殆どであるということもトモエは知っている。
「……そうだ。こういうときだからこその期間限定メニューとか、考えるの、楽しくないです?」
「期間限定メニュー……どういうこと?」
「雨の日だけの限定メニューですよ。折角だからこの機会に、この店、新しいお客さんを呼びましょう?」
そう言うと、エリスはわずかに考え込んだ。
彼女もきっと、常連客ばかりの現状を打破したかったのだろう。
●
期間限定メニュー、アイデア募集。
お問い合わせは、ブックカフェ「シエル」まで。
その翌日には、さっそくそんなチラシがハンターオフィスに届いたのであった。
リプレイ本文
●
「皆さん、今日はよろしくお願いします」
そう礼儀正しく頭を下げるのは、依頼主でもあるブックカフェ「シエル」のマスター・エリスだ。まだまだ若いと行って差し支えない程度の女性で、長い髪をくるりと束ねてまとめているのが印象的である。
その横には、「シエル」の常連であり、今回の発端とも言える少女、トワ・トモエもいた。クリムゾンウェストに来てそれなりに時間が経ち、ここでの生活も受け入れている、が―ーなにぶん彼女は所謂オタク気質。ノーブックノーライフな人生を送ってきた彼女にとって、この店は宝箱のような存在なのだ。だからこそ、この店が寂れるのを厭うし、何度も何度もこの店に足を運んでいるわけである。
「ああ、そんなに畏まらないでいいよぉ」
そう言ってわずかに笑ったのは、ヒース・R・ウォーカー(ka0145)。同じ館で暮らしているヒヨス・アマミヤ(ka1403)――ヒースは彼女のことをヒヨコ、と呼んでいるが――が、たまたまハンターオフィスで見つけたこの依頼のチラシに
「ヒースさん! これ! 面白そうですっ! いきたいですっ!」
と、ものすごくきらきらした瞳で興味を示し、彼女に半ば引っ張られる様にして今回やってきたわけだが――彼自身、ブックカフェというものには興味を持っていた。ギルドにも書物はあるが、それらの大半は何かしらの資料で、娯楽となるものはあまりない。
「ヒヨコに振り回されるのはもう慣れたけれど、こういう店に来ることになるとはねぇ」
言葉自体は素っ気ないが、興味津々なのはその口調で判る。くるりとひととおり確認して、青年は楽しそうに口の端をつり上げた。
「気楽な読書が出来る場所、という感じかなぁ。なるほど、なかなか面白そうな店だ」
「ああ、そう言って下さってありがとうございます」
エリスは笑顔で頭を下げる。常連客には案外ハンターも多いのだと、彼女は笑って付け加えた。
「でも、確かに……雨の日は出かけたくない人が増えるから、自然売り上げが下がるんだよな。だから、メニューやサービスで、来店の「動機付け」を作ったらどうかな、と思うんだ」
ザレム・アズール(ka0878)がそう言いながら微笑んでみせる。
確かに、雨の中を外出するのは憂鬱だし、何処かおっくうなものだ。そんなときに足を運んでもらう為には、何かしらの「ちょっといいこと」があるほうが、きっと楽しい。
「そうですね。例えば雨の日ともなると、たとえ夏場といえど冷えると思いますから、なにか温かい飲み物を用意するとかもいいかもしれませんね」
一見まだまだ幼さを残しているようにも見えるエルバッハ・リオン(ka2434)も、なかなか真面目に考えている。
雨の日は湿度も高いが、雨に濡れた人はどうしてもそのままでは冷えてしまう。
蒸し暑いという人もいるし、寒いという人もいる。この時期の雨の日というのは、存外体温調節の難しいものなのだ。だからこそ、温かい飲み物が喜ばれるのではないか――エルバッハの発想、着眼点は確かに悪くない。
「んー……でも、雨の日限定のメニューを作ろうと思った理由を、もう一回聞きたいの」
そう首をひねる様にして問いかけたのは、ディーナ・フェルミ(ka5843)。トモエがどういうこと? と問い返すと、
「うーんとね、料理だけにこだわる必要はないんじゃないかなって、そう思ったの」
確かに雨の日のメニューという名目で呼びかけたが、つまりは雨の日のお客様への「おもてなし」の仕方、を、考える――ということにもなるのだろう。
「なるほどね。それじゃ亜、一緒に考えていきましょうか?」
トモエも納得したという顔で、にやりと笑って頷いた。
●
「まず、わかりやすいところから――つまりはメニュー、献立を考えるってところだけど。『温かいもの』ってだけだとまだ目玉とは言いがたいけど、アイデアとしてはいいと思う。あと、蒸し暑いときの為の冷たいメニューもね。どんどん提案していこう」
トモエがそう言うと、さっと挙手をしたのはエルバッハ。
「温かい飲み物を提案したのは私ですし……ホットミルクなどはどうでしょう。ただし、ただのミルクだけではなく、蜂蜜や、あるいは砂糖を入れたものも用意しておくんです。メニューの説明にも、健康に良いなどといった表示をしておけば、目を引くのではないでしょうか」
ふむふむ。さっそくエリスは提案をメモしている。ディーナも、思うところがあったのだろう、そっと口を開いた。
「温かい飲み物ではないけれど、ティーソーダや珈琲ソーダなんて言うものも、独自性があっていいと思うの。折角なら、この日にしか飲めないっていう特徴も出せると思うの」
もともとここはブック「カフェ」。喫茶店の体をなしているのは一目でわかる。そこで出すには、確かにうってつけとも言えるだろう。
一方、ヒヨスはなにやら一生懸命になってスケッチブックになにやら書き込んでいる。
それを横目で見つつ、ヒースが言った。
「無論飲み物だけじゃ面白くないからねぇ。雨の日って言うことを想起させるものだと……傘、かなぁ」
クッキーやケーキなどのスイーツに、傘のモチーフを取り入れてはどうか、というアイデアだ。
「普段と違うかたちでメニューが出てくるだけでも、特別な感じはすると覆うんだよねぇ」
「ああ、いいなそれ。あと、簡単に作って食べられるモノもいいと思う。例えば、……そうだな、凍らせた餃子の皮とか、あるいは薄い小麦粉を焼いた様な皮を用意して、それを製菓用の耐熱カップに入れ、クリームチーズや生クリーム、砂糖に小麦粉を少し加えて生地にしたものをいれる。フライパンで蒸し焼きにすればかんたんなタルトのできあがりだ」
ザレムはいいながら、レシピを記した紙をエリスに手渡す。
「カップに直接じゃなくて、間に皮をはさむなの?」
ディーナが首を小さくかしげると、ザレムがよくぞ聞いてくれました、とばかりに笑みを浮かべた。
「間に皮を入れるのもちゃんと意味がある。相すればぽこんと外れやすいって言うことと……それと、皮の上の部分がひらひらして、ちょうどひまわりやお日様みたいに見えて、それが晴れのイメージに繋がるんじゃないかと思ったからさ。そうだな……名付けて、『お日様のチーズタルト』だな」
そう言いきる青年の顔は、ひどく晴れやかなものだった。
「雨の日は雨の日で、楽しいじゃないですかっ! あじさいは雨の日には格別きれいですしっ! てるてる坊主も作れますしっ! あ、そうだ! オムライスに文字を書くのでなくて、てるてる坊主にすると楽しいじゃないですかっ!」
ヒヨスは顔を真っ赤にさせて、そう言ってみせる。目がきらきらと輝いていて、いかにも楽しそうな笑みを浮かべて。
「あと、ケーキにクッキーを飾るのもいいと思いますっ! 抹茶味のクッキーはカエルさんで、チョコチップは傘の形、そしていちご味はきれいなレインブーツ! それでなんとなく嬉しくなりませんか?」
一生懸命、スケッチブックにそのイメージを書いて、にっこりと笑う。可愛らしいアイデアに、だれもが目を細めた。
「そして何より、雨上がりには虹の出番ですから、虹色のパフェなんていかがですか? 果物をいーっぱいのせた、おいしいパフェ! ヒヨなら食べたいと思いますっ!」
そこまで一気にいうと、その横で聞いていたヒースははあっとため息をついてヒヨスの頭をわしゃわしゃと撫でてみる。
「まあ、サービスも献立に限った話じゃないだろうからな。そっちも考えてみるか」
青年はにやっと笑って見せた。
●
「そうだな、例えば……ここの客は大半が本を読みに来るんだろ? なら読書に使えるものとか。それこそしおりなんかを雨の日限定でプレゼントしたら、印象に残るかも知れないねぇ」
ヒースのアイデアは確かによいものだ。似た様なことはザレムも考えていたようで、『レイニーカード』成るものを提案した。
雨の日に来店してドリンクを一杯頼むとスタンプを一つ。
それが十個溜ることで、ドリンク一杯無料券を進呈。
「これならメニューを割り引くよりもコスト負担も少ないし、利益自体も上がると思う」
さらに、暑さ対策も兼ねた店の改装も良くないだろうか――と、提案する。
「窓にひさしをつけて、紐を地面に伸ばし、そこに葡萄を飢えたらどうかな。蔓は大きな葉を茂らせるから日差しをやわらげるし、目にも優しいからしゃれた外観になるだろうし、実は収穫したら勿論食材に出来る。葡萄は樹だから植え直す必要もないし、秋冬の時期は枝が下に残るだけだからね」
「あ、それってリアルブルーでも似たようなのありますよ。グリーンカーテンって言うんですけど」
トモエが目を見開いて、嬉しそうに頷く。それなら実現性も低くないだろう。
「内装は――ここは長居をする常連客が多いということなので、以前リアルブルーの書物で読んだのですけれど、個室タイプのカフェというのはどうですか?」
エルバッハの提案もなかなかユニークだ。つまりはネットカフェの様な内装を想定しているのだろう。
「常連客用の個室は、メニューの金額ではなくて、個室の利用時間に応じて代金を請求するんです。その方が長居をされても収益は確実に出ますから」
「ああ……皆さんいい人だけど、本当に長居が多いのは確かだし」
シエルもそこには少し頭を悩ませていた様で、なるほど、登納得している。
「で、室料のぶん、無料の飲み物を用意したり、通常のメニューを割引するなどするといいと思うんです。あと、そう言うかたちでの間仕切りなどがあれば、新規のお客さんも入りやすいかと」
なるほど、常連客が占拠し続ければ新規開拓が難しいのも判る。でもそれは……と、エリスは考え込んだ。
「皆に快く利用していただくのが一番だから……無論、そう言う中のアイデアにもヒントは隠れているけれど」
「あと、ウェイトレスをもしやとうのなら、折角リアルブルーのコミックも置いてあるんですし、魔法少女などのコスプレってどうでしょうか?」
エルバッハの言葉に目を輝かせたのは、意外なことにヒヨスだった。
「ウェイトレス! バイトはじめたら賄いいただけますか……? もしそうなら、楽しそうなので、ヒヨやってみたいですっ! ヒースさん、いいですっ?」
「あらあら。うちはバイトを雇うほど儲かっているわけじゃないけれど……可愛いお嬢さんがやりたいというならもちろん歓迎するわよ。まあ、お給金は沢山は出せないけれど、賄いは食べられるわ」
エリスの言葉に、ヒヨスは更に目を輝かせる。
「わーい! ヒースさーん、いっしょにやりませんかー?」
じっとヒースを見つめるヒヨス。ヒースはその眼差しに苦笑して応じた。
「……まあ、世間をしるいい機会だしなぁ。そのときは、僕もつきあうとするかぁ」
「やったー! いっしょにやると、楽しみもばいですねっ!」
嬉しそうな声が、店内にこだました。
●
「あ、あと、サービスって言う意味だとちょっと違うかもだけど、雨の日だけ生演奏を披露するのもいいと思うの。雨の日だけのお楽しみなの」
ディーナがそう言って笑う。曲目も誰もが知っているけれど大声で歌う様なものではない、童謡やクラシックのような柔らかな旋律のもの。
「植物に音楽を聴かせると成長が良くなるって聞いたの。リアルブルーの人には、ピアノの生演奏がある日に毎週喫茶店に通って、読書してたって話も聞いたの。その人は、音楽がある方が本を読むのもはかどったって言ってたの。もし人が長居するなら、逆に雨の日はたくさんの人が来て長居をしてもらえるような場所にしたっていいと思うの。雨の日だけの限定メニューに雨の日だけの小さな演奏会。普段来ない人もやってきて長居をしたくなる様な、そんな場所にするなら……回転率もそんなに気にしないで、人がうきうき集まる場所になるんじゃないかなって、思ったの。勿論提案したんだし、当分はお手伝いするの」
これは予想外のアイデアだった。
人が長居をすることが多いなら、逆に雨の日はもっと長居をしてもらえばいい――逆転の発想だ。
「なるほど、ねえ……面白いアイデアだな、それも」
ザレムも納得する様に頷いてみせる。
エリスやトモエもその発想には舌を巻いた様だ。
「楽しめることが何より大事だものね。少しずつ、変化させればきっと良くなるわ」
エリスはそう言って、嬉しそうに微笑んだ。
●
それから数日後、窓の近くに葡萄の木が植えられた。
雨の日限定のスタンプカードやさっぱりしたドリンク、それに雨の日だけの演奏会は好評を博している――と、バイトをしているヒヨスやヒース、ディーナたちは実感したのだった。
「皆さん、今日はよろしくお願いします」
そう礼儀正しく頭を下げるのは、依頼主でもあるブックカフェ「シエル」のマスター・エリスだ。まだまだ若いと行って差し支えない程度の女性で、長い髪をくるりと束ねてまとめているのが印象的である。
その横には、「シエル」の常連であり、今回の発端とも言える少女、トワ・トモエもいた。クリムゾンウェストに来てそれなりに時間が経ち、ここでの生活も受け入れている、が―ーなにぶん彼女は所謂オタク気質。ノーブックノーライフな人生を送ってきた彼女にとって、この店は宝箱のような存在なのだ。だからこそ、この店が寂れるのを厭うし、何度も何度もこの店に足を運んでいるわけである。
「ああ、そんなに畏まらないでいいよぉ」
そう言ってわずかに笑ったのは、ヒース・R・ウォーカー(ka0145)。同じ館で暮らしているヒヨス・アマミヤ(ka1403)――ヒースは彼女のことをヒヨコ、と呼んでいるが――が、たまたまハンターオフィスで見つけたこの依頼のチラシに
「ヒースさん! これ! 面白そうですっ! いきたいですっ!」
と、ものすごくきらきらした瞳で興味を示し、彼女に半ば引っ張られる様にして今回やってきたわけだが――彼自身、ブックカフェというものには興味を持っていた。ギルドにも書物はあるが、それらの大半は何かしらの資料で、娯楽となるものはあまりない。
「ヒヨコに振り回されるのはもう慣れたけれど、こういう店に来ることになるとはねぇ」
言葉自体は素っ気ないが、興味津々なのはその口調で判る。くるりとひととおり確認して、青年は楽しそうに口の端をつり上げた。
「気楽な読書が出来る場所、という感じかなぁ。なるほど、なかなか面白そうな店だ」
「ああ、そう言って下さってありがとうございます」
エリスは笑顔で頭を下げる。常連客には案外ハンターも多いのだと、彼女は笑って付け加えた。
「でも、確かに……雨の日は出かけたくない人が増えるから、自然売り上げが下がるんだよな。だから、メニューやサービスで、来店の「動機付け」を作ったらどうかな、と思うんだ」
ザレム・アズール(ka0878)がそう言いながら微笑んでみせる。
確かに、雨の中を外出するのは憂鬱だし、何処かおっくうなものだ。そんなときに足を運んでもらう為には、何かしらの「ちょっといいこと」があるほうが、きっと楽しい。
「そうですね。例えば雨の日ともなると、たとえ夏場といえど冷えると思いますから、なにか温かい飲み物を用意するとかもいいかもしれませんね」
一見まだまだ幼さを残しているようにも見えるエルバッハ・リオン(ka2434)も、なかなか真面目に考えている。
雨の日は湿度も高いが、雨に濡れた人はどうしてもそのままでは冷えてしまう。
蒸し暑いという人もいるし、寒いという人もいる。この時期の雨の日というのは、存外体温調節の難しいものなのだ。だからこそ、温かい飲み物が喜ばれるのではないか――エルバッハの発想、着眼点は確かに悪くない。
「んー……でも、雨の日限定のメニューを作ろうと思った理由を、もう一回聞きたいの」
そう首をひねる様にして問いかけたのは、ディーナ・フェルミ(ka5843)。トモエがどういうこと? と問い返すと、
「うーんとね、料理だけにこだわる必要はないんじゃないかなって、そう思ったの」
確かに雨の日のメニューという名目で呼びかけたが、つまりは雨の日のお客様への「おもてなし」の仕方、を、考える――ということにもなるのだろう。
「なるほどね。それじゃ亜、一緒に考えていきましょうか?」
トモエも納得したという顔で、にやりと笑って頷いた。
●
「まず、わかりやすいところから――つまりはメニュー、献立を考えるってところだけど。『温かいもの』ってだけだとまだ目玉とは言いがたいけど、アイデアとしてはいいと思う。あと、蒸し暑いときの為の冷たいメニューもね。どんどん提案していこう」
トモエがそう言うと、さっと挙手をしたのはエルバッハ。
「温かい飲み物を提案したのは私ですし……ホットミルクなどはどうでしょう。ただし、ただのミルクだけではなく、蜂蜜や、あるいは砂糖を入れたものも用意しておくんです。メニューの説明にも、健康に良いなどといった表示をしておけば、目を引くのではないでしょうか」
ふむふむ。さっそくエリスは提案をメモしている。ディーナも、思うところがあったのだろう、そっと口を開いた。
「温かい飲み物ではないけれど、ティーソーダや珈琲ソーダなんて言うものも、独自性があっていいと思うの。折角なら、この日にしか飲めないっていう特徴も出せると思うの」
もともとここはブック「カフェ」。喫茶店の体をなしているのは一目でわかる。そこで出すには、確かにうってつけとも言えるだろう。
一方、ヒヨスはなにやら一生懸命になってスケッチブックになにやら書き込んでいる。
それを横目で見つつ、ヒースが言った。
「無論飲み物だけじゃ面白くないからねぇ。雨の日って言うことを想起させるものだと……傘、かなぁ」
クッキーやケーキなどのスイーツに、傘のモチーフを取り入れてはどうか、というアイデアだ。
「普段と違うかたちでメニューが出てくるだけでも、特別な感じはすると覆うんだよねぇ」
「ああ、いいなそれ。あと、簡単に作って食べられるモノもいいと思う。例えば、……そうだな、凍らせた餃子の皮とか、あるいは薄い小麦粉を焼いた様な皮を用意して、それを製菓用の耐熱カップに入れ、クリームチーズや生クリーム、砂糖に小麦粉を少し加えて生地にしたものをいれる。フライパンで蒸し焼きにすればかんたんなタルトのできあがりだ」
ザレムはいいながら、レシピを記した紙をエリスに手渡す。
「カップに直接じゃなくて、間に皮をはさむなの?」
ディーナが首を小さくかしげると、ザレムがよくぞ聞いてくれました、とばかりに笑みを浮かべた。
「間に皮を入れるのもちゃんと意味がある。相すればぽこんと外れやすいって言うことと……それと、皮の上の部分がひらひらして、ちょうどひまわりやお日様みたいに見えて、それが晴れのイメージに繋がるんじゃないかと思ったからさ。そうだな……名付けて、『お日様のチーズタルト』だな」
そう言いきる青年の顔は、ひどく晴れやかなものだった。
「雨の日は雨の日で、楽しいじゃないですかっ! あじさいは雨の日には格別きれいですしっ! てるてる坊主も作れますしっ! あ、そうだ! オムライスに文字を書くのでなくて、てるてる坊主にすると楽しいじゃないですかっ!」
ヒヨスは顔を真っ赤にさせて、そう言ってみせる。目がきらきらと輝いていて、いかにも楽しそうな笑みを浮かべて。
「あと、ケーキにクッキーを飾るのもいいと思いますっ! 抹茶味のクッキーはカエルさんで、チョコチップは傘の形、そしていちご味はきれいなレインブーツ! それでなんとなく嬉しくなりませんか?」
一生懸命、スケッチブックにそのイメージを書いて、にっこりと笑う。可愛らしいアイデアに、だれもが目を細めた。
「そして何より、雨上がりには虹の出番ですから、虹色のパフェなんていかがですか? 果物をいーっぱいのせた、おいしいパフェ! ヒヨなら食べたいと思いますっ!」
そこまで一気にいうと、その横で聞いていたヒースははあっとため息をついてヒヨスの頭をわしゃわしゃと撫でてみる。
「まあ、サービスも献立に限った話じゃないだろうからな。そっちも考えてみるか」
青年はにやっと笑って見せた。
●
「そうだな、例えば……ここの客は大半が本を読みに来るんだろ? なら読書に使えるものとか。それこそしおりなんかを雨の日限定でプレゼントしたら、印象に残るかも知れないねぇ」
ヒースのアイデアは確かによいものだ。似た様なことはザレムも考えていたようで、『レイニーカード』成るものを提案した。
雨の日に来店してドリンクを一杯頼むとスタンプを一つ。
それが十個溜ることで、ドリンク一杯無料券を進呈。
「これならメニューを割り引くよりもコスト負担も少ないし、利益自体も上がると思う」
さらに、暑さ対策も兼ねた店の改装も良くないだろうか――と、提案する。
「窓にひさしをつけて、紐を地面に伸ばし、そこに葡萄を飢えたらどうかな。蔓は大きな葉を茂らせるから日差しをやわらげるし、目にも優しいからしゃれた外観になるだろうし、実は収穫したら勿論食材に出来る。葡萄は樹だから植え直す必要もないし、秋冬の時期は枝が下に残るだけだからね」
「あ、それってリアルブルーでも似たようなのありますよ。グリーンカーテンって言うんですけど」
トモエが目を見開いて、嬉しそうに頷く。それなら実現性も低くないだろう。
「内装は――ここは長居をする常連客が多いということなので、以前リアルブルーの書物で読んだのですけれど、個室タイプのカフェというのはどうですか?」
エルバッハの提案もなかなかユニークだ。つまりはネットカフェの様な内装を想定しているのだろう。
「常連客用の個室は、メニューの金額ではなくて、個室の利用時間に応じて代金を請求するんです。その方が長居をされても収益は確実に出ますから」
「ああ……皆さんいい人だけど、本当に長居が多いのは確かだし」
シエルもそこには少し頭を悩ませていた様で、なるほど、登納得している。
「で、室料のぶん、無料の飲み物を用意したり、通常のメニューを割引するなどするといいと思うんです。あと、そう言うかたちでの間仕切りなどがあれば、新規のお客さんも入りやすいかと」
なるほど、常連客が占拠し続ければ新規開拓が難しいのも判る。でもそれは……と、エリスは考え込んだ。
「皆に快く利用していただくのが一番だから……無論、そう言う中のアイデアにもヒントは隠れているけれど」
「あと、ウェイトレスをもしやとうのなら、折角リアルブルーのコミックも置いてあるんですし、魔法少女などのコスプレってどうでしょうか?」
エルバッハの言葉に目を輝かせたのは、意外なことにヒヨスだった。
「ウェイトレス! バイトはじめたら賄いいただけますか……? もしそうなら、楽しそうなので、ヒヨやってみたいですっ! ヒースさん、いいですっ?」
「あらあら。うちはバイトを雇うほど儲かっているわけじゃないけれど……可愛いお嬢さんがやりたいというならもちろん歓迎するわよ。まあ、お給金は沢山は出せないけれど、賄いは食べられるわ」
エリスの言葉に、ヒヨスは更に目を輝かせる。
「わーい! ヒースさーん、いっしょにやりませんかー?」
じっとヒースを見つめるヒヨス。ヒースはその眼差しに苦笑して応じた。
「……まあ、世間をしるいい機会だしなぁ。そのときは、僕もつきあうとするかぁ」
「やったー! いっしょにやると、楽しみもばいですねっ!」
嬉しそうな声が、店内にこだました。
●
「あ、あと、サービスって言う意味だとちょっと違うかもだけど、雨の日だけ生演奏を披露するのもいいと思うの。雨の日だけのお楽しみなの」
ディーナがそう言って笑う。曲目も誰もが知っているけれど大声で歌う様なものではない、童謡やクラシックのような柔らかな旋律のもの。
「植物に音楽を聴かせると成長が良くなるって聞いたの。リアルブルーの人には、ピアノの生演奏がある日に毎週喫茶店に通って、読書してたって話も聞いたの。その人は、音楽がある方が本を読むのもはかどったって言ってたの。もし人が長居するなら、逆に雨の日はたくさんの人が来て長居をしてもらえるような場所にしたっていいと思うの。雨の日だけの限定メニューに雨の日だけの小さな演奏会。普段来ない人もやってきて長居をしたくなる様な、そんな場所にするなら……回転率もそんなに気にしないで、人がうきうき集まる場所になるんじゃないかなって、思ったの。勿論提案したんだし、当分はお手伝いするの」
これは予想外のアイデアだった。
人が長居をすることが多いなら、逆に雨の日はもっと長居をしてもらえばいい――逆転の発想だ。
「なるほど、ねえ……面白いアイデアだな、それも」
ザレムも納得する様に頷いてみせる。
エリスやトモエもその発想には舌を巻いた様だ。
「楽しめることが何より大事だものね。少しずつ、変化させればきっと良くなるわ」
エリスはそう言って、嬉しそうに微笑んだ。
●
それから数日後、窓の近くに葡萄の木が植えられた。
雨の日限定のスタンプカードやさっぱりしたドリンク、それに雨の日だけの演奏会は好評を博している――と、バイトをしているヒヨスやヒース、ディーナたちは実感したのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/06 23:17:10 |