ゲスト
(ka0000)
【詩天】冷渓の香散見草
マスター:鷹羽柊架

- シナリオ形態
- シリーズ(新規)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,300
- 参加制限
- LV1~LV20
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/06/11 19:00
- 完成日
- 2016/06/16 20:53
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
東方は詩天という土地に首都警備隊が発足された。
局長の江邨雄介と副局長の前沢恭吾の下へ志をもった剣士達が集まっていく。
通称、「即疾隊」と呼ばれる組織だ。
少しずつ、人数も集まりつつあったところ、一人の青年が即疾隊の門戸を叩いた。
面接をした前沢は心の中で「ほぉ」と、感嘆の声を呟く。
年のころは十代半ばか後半か。まだ若い青年。前髪を長く垂らし、左目、頬まで隠れている。
きちんと後ろ髪は結わえており、身だしなみもきちんとしていた。
己を誇示する無駄な口数や自慢は無く、静かな佇まいは元武士かと前沢は予想を立てる。
「名は」
前沢が尋ねると、青年は一呼吸置いて口を開く。
「壬生和彦です」
その口調は年齢にそぐわない落ち着きと、どこか疲れが含んでいた。
和彦は入隊を認められ、先輩隊士達に稽古に呼び出された。
「よし、いつでもこい」
竹刀を手にし、先輩剣士が和彦と対する。
身体を動かせる稽古になると、道場の辺りから活気が出てくる。
和彦は先輩隊士に目を合わせて、真剣な表情で竹刀を向けた。
軽く蹴るように進んだ和彦は素早く先輩隊士の竹刀へと当てる。
乾いた音は軽い衝撃のように聞こえるが、受けた先輩隊士は予想より重い打ち込みに目を見張った。
その隙を逃さなかった和彦は先輩隊士の胴を目掛け、素早く竹刀を打ち付ける。
あっという間に打ち込まれた竹刀の筋が見えた隊士は数少なかった。
胴着だけはつけている状態であったが、大柄の先輩隊士が身体を大きく揺らし、床に膝をつく。
ものの数分で和彦の実力は群を抜き、相当な使い手であることを隊員達が知らしめた。
しかし、この青年はどこか一歩踏み入れないところがある。
浪人であれば、一歩踏み入れさせない事柄のひとつは抱えているので、皆気にはしていない。
田舎剣士や浪人にある腕自慢や仕事にありつけないからの乱暴な振る舞いなどは無く、明朗にして丁寧な態度の和彦に隊士達は一目を置くようになって行く。
先輩隊士達とも打ち解けた和彦は他の隊士達と一緒に見回りへと向かう。
街の復興はまだ途中で、どこか寂しいところが見受けられる。
「即疾隊だ……」
街にいる者達が即疾隊の隊士達が着用している鉢金を見て、女が子供に「こっち、入って」と声をかけて建物の中へと入ってしまう。
男達は警戒を解かずに建物に張り付くように道を空けている。
「この間、蕎麦屋の大将が浪人に難癖つけられた時に丁度即疾隊が現れてさ……」
「見た見た、店の卓を壊すほどの乱闘をしたってな……」
「助けてやったからとはいえ、あれはないよなぁ……」
店屋の中にいた者達がぼそぼそと話をしており、その会話が途切れ途切れであるが、和彦の耳に届く。
首都警備隊の名を持っているとはいえ、実情は浪人や田舎剣士の寄せ集めである。
隊士達は即疾隊の名を高々に掲げては高圧的な態度を取っていた。
そんな隊士達に町の人々はよく思うはずもなく、悪評ばかりが昇っていくばかり。
和彦は「仲間内だと気がいい人達なんだけど……」と少し複雑そうな様子で一歩離れて眺めていた。
それから程なくして、和彦は局長と副局長に呼ばれた。
和彦が呼ばれる前日、局長と副局長は揃って出かけており、戻ってきた時はとても神妙な顔つきだったという話を他の隊士達より言われてしまう。
どんな用件なのかと顔をしかめて二人の前に参じた。
「……失踪事件……ですか」
両の目を瞬かせ、左目を隠す前髪を揺らしつつも、和彦は二人の話に集中する。
「そうだ。街の浪人だけじゃない、身元がしっかりしている若者も姿をくらましているようなのだ」
副局長の前沢の言葉に和彦は目を細め、耳を傾けた。
行く当ても定かではない浪人が消えるということはよくあること。
しかし、まだ未確定情報であれど、この詩天で「身元がしっかりしている者」の失踪というのは事件性を感じざるを得ない。
失踪者が裕福な家の者であれば、金に困った者が金品目的で誘拐の可能性も出てくる。
「それは予兆はあったのでしょうか?」
和彦の言葉に前沢は首を横に振る。
「それもわからないから、こちらに降りてきたのだ」
前沢も江邨も困っているようであり、和彦はどうしたものかと眉を八の字にしてしまう。
一番の問題は和彦も理解している。
こういった失踪事件に関しては、人の力が大事だ。
即疾隊の評判は低空を滑るばかりであり、果たして人々が協力してもらえるだろうか。
「お前が心配していることだが、今回はハンターに助力を願うことにした」
和彦の心配事を見通しているといわんばかりの江邨が助け舟を出す。
「……噂には聞きますが……」
「得体に関しちゃ、俺らもハンターも変わらねぇよ。他の隊士達は見回りの強化に当たってもらうからな、人手が足りねぇ」
あっさりと言い切った江邨に和彦はそれもそうかと納得してしまう。
この詩天ではハンターというものはまだ介入してはいないと思われる。
即疾隊と同様にハンターがどんな存在かは市中の人間にはまだわからないからだ。
実際に、即疾隊の者達は自身の行いで首を絞めてしまっているが、ハンターの信頼はまだまっさら。
「お前さんがハンター達と宜しくやってくれよ」
ひらひらと手を振る江邨に和彦は珍しくというか、即疾隊に入ってから初めてすっとんきょうな声を上げた。
和彦の様子に江邨も前沢も珍しい反応が返ってきたと思いつつ、前沢は言葉を繋げる。
「ハンターにも仮入隊という事で入ってもらう。お前は調査と共に、ハンター達と共に見回りと若峰の案内をしてもらう」
「……わかりました」
少し肩を落としたような様子の和彦は素直に従った。
局長の江邨雄介と副局長の前沢恭吾の下へ志をもった剣士達が集まっていく。
通称、「即疾隊」と呼ばれる組織だ。
少しずつ、人数も集まりつつあったところ、一人の青年が即疾隊の門戸を叩いた。
面接をした前沢は心の中で「ほぉ」と、感嘆の声を呟く。
年のころは十代半ばか後半か。まだ若い青年。前髪を長く垂らし、左目、頬まで隠れている。
きちんと後ろ髪は結わえており、身だしなみもきちんとしていた。
己を誇示する無駄な口数や自慢は無く、静かな佇まいは元武士かと前沢は予想を立てる。
「名は」
前沢が尋ねると、青年は一呼吸置いて口を開く。
「壬生和彦です」
その口調は年齢にそぐわない落ち着きと、どこか疲れが含んでいた。
和彦は入隊を認められ、先輩隊士達に稽古に呼び出された。
「よし、いつでもこい」
竹刀を手にし、先輩剣士が和彦と対する。
身体を動かせる稽古になると、道場の辺りから活気が出てくる。
和彦は先輩隊士に目を合わせて、真剣な表情で竹刀を向けた。
軽く蹴るように進んだ和彦は素早く先輩隊士の竹刀へと当てる。
乾いた音は軽い衝撃のように聞こえるが、受けた先輩隊士は予想より重い打ち込みに目を見張った。
その隙を逃さなかった和彦は先輩隊士の胴を目掛け、素早く竹刀を打ち付ける。
あっという間に打ち込まれた竹刀の筋が見えた隊士は数少なかった。
胴着だけはつけている状態であったが、大柄の先輩隊士が身体を大きく揺らし、床に膝をつく。
ものの数分で和彦の実力は群を抜き、相当な使い手であることを隊員達が知らしめた。
しかし、この青年はどこか一歩踏み入れないところがある。
浪人であれば、一歩踏み入れさせない事柄のひとつは抱えているので、皆気にはしていない。
田舎剣士や浪人にある腕自慢や仕事にありつけないからの乱暴な振る舞いなどは無く、明朗にして丁寧な態度の和彦に隊士達は一目を置くようになって行く。
先輩隊士達とも打ち解けた和彦は他の隊士達と一緒に見回りへと向かう。
街の復興はまだ途中で、どこか寂しいところが見受けられる。
「即疾隊だ……」
街にいる者達が即疾隊の隊士達が着用している鉢金を見て、女が子供に「こっち、入って」と声をかけて建物の中へと入ってしまう。
男達は警戒を解かずに建物に張り付くように道を空けている。
「この間、蕎麦屋の大将が浪人に難癖つけられた時に丁度即疾隊が現れてさ……」
「見た見た、店の卓を壊すほどの乱闘をしたってな……」
「助けてやったからとはいえ、あれはないよなぁ……」
店屋の中にいた者達がぼそぼそと話をしており、その会話が途切れ途切れであるが、和彦の耳に届く。
首都警備隊の名を持っているとはいえ、実情は浪人や田舎剣士の寄せ集めである。
隊士達は即疾隊の名を高々に掲げては高圧的な態度を取っていた。
そんな隊士達に町の人々はよく思うはずもなく、悪評ばかりが昇っていくばかり。
和彦は「仲間内だと気がいい人達なんだけど……」と少し複雑そうな様子で一歩離れて眺めていた。
それから程なくして、和彦は局長と副局長に呼ばれた。
和彦が呼ばれる前日、局長と副局長は揃って出かけており、戻ってきた時はとても神妙な顔つきだったという話を他の隊士達より言われてしまう。
どんな用件なのかと顔をしかめて二人の前に参じた。
「……失踪事件……ですか」
両の目を瞬かせ、左目を隠す前髪を揺らしつつも、和彦は二人の話に集中する。
「そうだ。街の浪人だけじゃない、身元がしっかりしている若者も姿をくらましているようなのだ」
副局長の前沢の言葉に和彦は目を細め、耳を傾けた。
行く当ても定かではない浪人が消えるということはよくあること。
しかし、まだ未確定情報であれど、この詩天で「身元がしっかりしている者」の失踪というのは事件性を感じざるを得ない。
失踪者が裕福な家の者であれば、金に困った者が金品目的で誘拐の可能性も出てくる。
「それは予兆はあったのでしょうか?」
和彦の言葉に前沢は首を横に振る。
「それもわからないから、こちらに降りてきたのだ」
前沢も江邨も困っているようであり、和彦はどうしたものかと眉を八の字にしてしまう。
一番の問題は和彦も理解している。
こういった失踪事件に関しては、人の力が大事だ。
即疾隊の評判は低空を滑るばかりであり、果たして人々が協力してもらえるだろうか。
「お前が心配していることだが、今回はハンターに助力を願うことにした」
和彦の心配事を見通しているといわんばかりの江邨が助け舟を出す。
「……噂には聞きますが……」
「得体に関しちゃ、俺らもハンターも変わらねぇよ。他の隊士達は見回りの強化に当たってもらうからな、人手が足りねぇ」
あっさりと言い切った江邨に和彦はそれもそうかと納得してしまう。
この詩天ではハンターというものはまだ介入してはいないと思われる。
即疾隊と同様にハンターがどんな存在かは市中の人間にはまだわからないからだ。
実際に、即疾隊の者達は自身の行いで首を絞めてしまっているが、ハンターの信頼はまだまっさら。
「お前さんがハンター達と宜しくやってくれよ」
ひらひらと手を振る江邨に和彦は珍しくというか、即疾隊に入ってから初めてすっとんきょうな声を上げた。
和彦の様子に江邨も前沢も珍しい反応が返ってきたと思いつつ、前沢は言葉を繋げる。
「ハンターにも仮入隊という事で入ってもらう。お前は調査と共に、ハンター達と共に見回りと若峰の案内をしてもらう」
「……わかりました」
少し肩を落としたような様子の和彦は素直に従った。
リプレイ本文
詩天の梅鶯神社へ向かう途中、視界の端に見た住民達の手仕事にルイトガルト・レーデル(ka6356)は興味を向けている。
「あれは梅仕事よ。この時期になると梅という木に実がなるから、収穫して塩漬けにしたり、酒にしたりするの」
優夜(ka6215)は顔はまっすぐ見ているが、簡潔に説明をする。
「梅雨も入りましたしね」
ポツリと雀舟 玄(ka5884)が空を見上げた。
程なく歩くと、梅鶯神社が見えてくる。
ざわめきは神社の中でもあり、噂のハンターとやらを一目見ようと隊士達が野次馬宜しく集まってきていた。
「……この度は応じてくださり、ありがとうございます」
他の隊士達に呼ばれた若い隊士がハンター達の前に立つ。
黒く長い前髪は左に流して隠している。微かに髪にかかっている右目はまっすぐハンター達を見ていた。
局長と副局長が待つ部屋に案内される中、ベル・ヴェール=エメロード(ka4971)が一段と緊張してしまうが、平静を保っている。
「よく来た」
迎え入れた局長は挨拶もそこそこに、事件の調査を頼む。
「同行してもらうのはこの壬生和彦だ」
副局長が言うと、ハンター達を案内した若い隊士が「宜しくお願いします」と頭を下げた。
質疑などを終えてハンター達と和彦が神社を出た際、五百枝春樹(ka6324)が和彦に声をかける。
「即疾隊の風紀が厳し過ぎるのでは」
過度の締め付けは反発する場を求めるという事を春樹は気にかけていた。
彼の言わんとしている事を和彦は察し、少し困ったような顔を見せる。
「そう見えるやもしれません。しかし、彼らは仕官もままならなかった若い浪人や仕官もした事がない腕自慢の田舎剣士です。警備隊としての自覚はまだないと私は思います」
一度言葉を切った和彦はそっとため息をつく。
「私も、自覚があるかといえばわかりません……即疾隊自体若い組織です。
これからだと私は思います。その為にも、今は皆様のご助力を賜りたく思います」
真摯な和彦の言葉を聞いた春樹は「はい」と頷いた。
「この辺でしょうか」
周囲を見上げるデュシオン・ヴァニーユ(ka4696)。
和彦に頼んで借りた地図を見ていたローエン・アイザック(ka5946)は「任せるよ」と返す。
任されたデュシオンはするりと尻尾を揺らす黒猫のように宿の方へと滑り込む。
「デュシオン殿っ」
和彦が後を追うと、デュシオンが宿の者と交渉していた。
即疾隊の鉢巻をした和彦の姿を見た宿の者は驚いて目を見開いてしまう。
「……即疾隊は皆様のご協力なくしては成り立ちません。何卒、宿の皆様のお力を頂きたく思います」
デュシオンが言えば、和彦は察して居住まいを正す。宿の者は蛇に睨まれた蛙よろしく肩を竦めてしまう。
「お頼みします」
ゆっくりと頭を下げた和彦に驚きを隠せない宿の者達はまだ恐れつつも承諾した。
宿の部屋の中に入ったハンター達が和彦に趣旨を説明する。
「壬生様には、即疾隊への密告、事態の先走りをしないようお願いします」
デュシオンの言葉に和彦はまっすぐハンター達を見つめる。
「即疾隊はまだ若い組織。軽々しく情報を渡して、確認もせずに我先走る者もいるかもしれない」
言い切ったのはローエンだ。
「果たして、彼らは正しい選択を取れるだろうか。過ちだった場合は即疾隊にとっての損害は大きい」
一拍おいてローエンが言葉を続ける姿を和彦はじっと見据えている。
「故に、隊士である私を牽制し、情報を選別しようとしている認識で宜しいか」
和彦の確認にローエンは頷く。
「正直を言おう。局長達を蔑ろにされているようで面白くない。しかし、街の者達の隊士達への認識を鑑みれば仕方ない」
素直な和彦の意見に部屋が静まり返る。
「私は今回の調査を任されている。私も調査に入り、君達と情報を共有させてもらう」
和彦の言葉にハンター達は安堵した。
宿を出て、甘味処に入った優夜と玄はのんびりとお茶を啜っていた。
日中は気温も上がり、冷茶が身体に嬉しい。
「なんだか珍しいね」
きょとんとする優夜に女将さんは言い方が悪かったことに気づく。
「即疾隊やら、何かと顔の悪い連中がうろついててね。あんた達みたいな旅の可愛い子が来るのは久しぶりなんだよ」
女将さんの説明に二人は頷いた。
「今、人が行方不明になる事件があるんだ。気をつけるんだよ」
「女将さんは知っている人とかいるの?」
「前に来ていた浪人さんが最近来なくてね……まぁ、こんな店は嗜好品だからね。来なくなることもあるさね」
そう言った女将さんは少し寂しそうで、見かねた玄は「その浪人さんは何が好きだったの?」と何気なく尋ねた。
豆大福が好きだったよと女将さんが返すと、玄は豆大福二個を包んで帰りに持たせてもらった。
ベルとマシロビ(ka5721)は番所へと向かっていた。
即疾隊と番所は全く別な警察組織であり、その辺に対するナワバリ争いなども絶えないと和彦が教えてくれていた。
実際に番所に向かい、即疾隊の者であることを告げると、途端に渋い顔をされる。
「とっとと帰りな」
岡っ引きの男が十手を肩に当てつつマシロビとベルに声をかける。
「即疾隊で行方不明者の消息を追っています。情報を教えてほしいのです」
ベルが食い下がると、岡っ引きは厳つい表情を浮かべてベルの方へと歩いていく。
「こっちはあんたらの無体に頭を悩ませるんだよ」
蟹股歩きをして肩を揺らす岡っ引きに対し、ベルは逃げたいと思うが、それでは今回依頼を受けた意味がない。
「お願いします」
「その節はすみません。私たちなりにこの事件を捜査したいのです。ご助力をお願いします」
マシロビもベルと一緒に頭を下げると、番所に居合わせた男が「旦那、頭を下げてるんだ。意地悪するんじゃない」と諭す。
「そりゃ、あたしたちが見てきた即疾隊は乱暴な連中だけど、今いるお嬢さん達はまじめな子達だよ」
恰幅のいい女性は前掛けをしているところから、どこかの店の者だろうか。
「ああもう、いいよ! あんた達はいいやつだ。悪かったな。教えてやるよ」
岡っ引きが色々と負けて引き出しを開けている。
顔を明るくしたベルとマシロビが顔を合わせると、街の人達も「よかったねぇ」「いなくなったのは紙問屋の息子だろ?」と教えてくれた。
即疾隊と分かる格好をしている和彦と恐れることなく肩を並べて歩く七葵(ka4740)は一種、異様な目で見られている。
髪で顔半分隠している和彦と三白眼の七葵は整った顔立ちなので、怖がられながらも、娘さんたちがの視線を受けていたりしていた。
七葵は適当な店に入ろうと提案し、中に入る。
店の中は薄暗いが、即疾隊の和彦は目立つようだった。
ひそひそと聞こえるのは即疾隊の評判の悪さ、そして、浪人が消えた話。
二人は浪人が消えた話をした卓に座る。
「詳しく聞かせてくれ」
「手ぶらで?」
七葵は店員に冷酒と味噌田楽を注文するとすぐに出てきた。
差し出された酒と味噌田楽に手をつけつつ、浪人は「そんなに知らねぇぞ」と言った。
内容は顔見知りの浪人が「いい話がある」と言ってきたのだという。
浪人曰く、長く続けばとても金になる話だ。俺が頼むから、お前もどうだと誘ってきたらしい。
「行けたのか?」
相槌を打つ七葵の言葉に浪人は首を横に振る。
「俺は寺小屋の師匠をしててな、その日は寺小屋で子供が熱を出して、晩までその子の家で世話をしてたから、約束の時間には間に合わなかった」
子供の熱は収まって元気になったが、それから顔なじみの浪人は姿を消したのだという。
「子供が元気になって何よりだ」
七葵の言葉に浪人は「まぁな」とまんざらでもないように酒を舐めた。
店を出た春樹は一度、ローエンがいる詰所に戻っていった。
「あら? いかがされましたか?」
きょとんとして春樹を見ているのはデュシオンだ。休憩中なのか、豆大福を食べているようだった。
「報告は短電話でいいのに」
片栗粉がついた手を懐紙の上で払い、何かあったのかと気遣うローエンに春樹は困ったようだった。
「……短電話を持つと、人の目があって会話に集中できなかった」
「背が高い方はそうでしたね。暗い所は危険も潜みますから、仕方ありませんね」
くすっと、微笑むデュシオンに春樹は肩を落とす。
「さっき聞いた事を報告する」
春樹が宣言すると、ローエンは紙問屋の息子は随分と前に姿をくらまし、店屋の主や女将さんをはじめ、店員たちが血眼になって探していたという。
今も時折女将さんが街に出て探しているとのことだ。
他のハンターからも同じ情報があって、目新しい情報がないことに春樹は肩を落とす。
「同じ情報は大事だよ。確実な情報にするには複数の力が要る」
穏やかに諭すローエンに学校の先生のようだと感想を持ちつつ、春樹は頷く。
「何人かは、紙問屋の方へ向かうとのことです」
ローエンは紙を手繰り寄せつつ、春樹にも手伝ってほしいと声をかけた。
ルイトガルトは飲み屋街の方を歩いていた。
まだ昼間のため、屋台の姿は呑み屋というより、食べ物屋が多い。
復興中のためか、活気とは少々違うが、賑やかだというのがルイトガルトの感想。
「いらっしゃい」
卓のようなものの上には揚げ物の他、煮物が大皿に盛っていた。
大根の煮物を一皿頼み、皿に盛ってもらう。
口に含んでかみ締めると、大根が含む旨みが水分となって口の中に広がる。
ジューシーと思いながら食べるルイトガルトを見た娘はふふっと微笑む。
「おむすび、ひとついいよ」
「ありがとう」
一口大の俵結びを頬張ると娘は視線を外すように作業を始める。
「最近、常連だった人が来なくなって、あまり気味なの」
「そう……客が離れるのは寂しいことね」
「うん、行方不明の人もいるって聞くし、無事だといいけどね」
話を聞いていくと、浪人のようであり、その日暮しだったようだ。詳しいことは知らないようであった。
ローエンから話を聞いた歩夢(ka5975)はため息をつきつつ、紙問屋へと向かっていた。
基本的にこの街の者達は悪い人たちではない。しかし、即疾隊の名前を出すと、途端に様子を変えてしまう。
これから向かう紙問屋の他に、武家の者もいなくなったとかは聞いたりしたが、煙に撒かれてしまった。
丁寧に説明をすれば分かってくれるが、関わりたくないのか、あまり教えてはくれないし、ひどい時は門前払いだった。
そっとため息をついた歩夢の視界にベルとマシロビが見える。
合流すると、三人は簡潔に情報交換をする。互いに大変であった事を労わりつつ、紙問屋へと向かった。
店の中は忙しないものの、どこか落ち込んだ空気を感じてしまう。
即疾隊の者である事と、息子さんの消息を調査したい事を述べると、奥にいた女将さんがふらふらと裸足のまま、三和土に降り、よろけるようにベル達の足元に土下座をする。
「後生でございます……っ! 息子を探してくださいませ……!」
藁に縋る溺れた者さながらに女将さんは堰切ったように泣き出した。
マシロビとベルが女将さんを畳の上に座らせ、両脇に座る。
「辛かったのでしょう」
「落ち着いたら、お話を聞かせてください」
手を握り、背をさすり、女将さんを宥めるベルとマシロビに警戒していた周囲も落ち着きを取り戻す。
「ありがとうございます……」
落ち着きを取り戻した女将さんに歩夢が屈み込む。
「息子の事、聞かせてもらえるか」
穏やかな歩夢の声に女将さんははらりとまた涙をこぼし、頷いた。
「……半年ほど前でしょうか……息子は家を手伝わなくなりました……」
息子はよく遊びに出ていたという。女遊びよりも、友人と飲みに行ったりするのが好きだったという。
その分、仕事はしっかりやっていた孝行息子であると恐る恐る従業員が口を挟む。
時折、用心棒などをしている浪人がたむろする酒場にも顔を出すという話を聞いたそうだ。
家の中でぼうっとする日が出てきて、家を何日も空けることが増えだした。
「飲み仲間はどうなんだ?」
「もう関わっていないと言われました……繁華街でも奥の通りを歩く姿も見たときいて、行ったのですが……」
言葉が途切れるところを見ると、見つけられなかったのだろう。
再び泣き出す女将さんを宥めてから、従業員達に女将さんを任せてハンター達は店を出た。
ベルとマシロビは宿に戻ると、ローエン達に更に詳しい情報を伝える。
「まぁ、即疾隊の流れを考えると、紙問屋が一番情報があったね」
ふむふむと書付けるローエン。
「とてもやつれておりましたわ」
表情を曇らせるベルは心配そうに女将さんのことを思い出す。
「家にいる時はあまり食べてなく、酒を飲んでないと仰ってました」
マシロビが言えば、デュシオンが柳眉をよせる。
「酒場によく行かれるのに?」
店の人達から見ても、息子はただぼーっと呆けていたようだった。
何日かすると、勝手にいなくなり、また数日置いて帰ってきていたと証言している。
「それも怪しいな……」
春樹が言えば、全員が同意する。
「息子が入り浸ってた場所は結構危ないところと見るね」
ローエンは書付け済みの紙を選んでは畳んで脇に置いた。
紙問屋を出て、ベルとマシロビ歩夢は優夜、玄と一緒に日が沈みゆく繁華街を歩いていた。
何軒か歩いていたが、酔っ払いが多く、上手く情報が聞き出せなかった。
屋台にて情報を探っていたルイトガルトが七葵と和彦と合流していて、情報交換を行う。
主だった情報は大体同じであり、気になる通りは優夜達が調べている。
「大丈夫でしたか」
女性一人では何かと危険な場所であり、和彦が気遣う。
ルイトガルトはくすりと笑う。
「平気よ。私みたいなのに声をかける物好きはいないし、尾行もなかったわ」
「あ、お疲れ」
優夜がルイトガルト達を見つけて声をかける。
「お疲れさま」
ルイトガルトがちらりと、三人の後ろを伺うが、特にはなかった。
「紙問屋の息子がいたという話はありました。しかし、最近は見てないと言われました」
少し沈んだ玄の言葉に七葵が「そうか」と返す。
「仕切り直しで一度引き上げない?」
優夜が言えば、ルイトガルトが「そうしましょ」と頷く。
宿に戻って、ハンター達が即疾隊へ報告する内容を取りまとめた。
「戻りましょうか」
デュシオンは宿の者達に感謝を述べると、宿の人達はにこやかとは言えないが、最初の時よりは警戒の様子は見えない。
「歩夢?」
暗がりの中、玄は歩夢の表情に気づく。
「ああ、ちょっとな。今回はあまり調べられなかったなって」
事件の経緯を詳しく調べたかった歩夢は残念だったようだ。
「次があるわよ」
優夜がフォローを入れると、マシロビがそっと声をかける。
「きっと、今回よりは協力的になって下さると思います。番所の方も、紙問屋の皆様も最後は分かってくださいました」
「マシロビ様の考えに同意です。少しずつ、努力をしていきましょう」
ベルの言葉に歩夢は「そうだな」と笑う。
どこかの方角から、物が落ちる音がした。
明るいところを見ても物が落ちた形跡は見られない。
「あちらです!」
占術を行ったマシロビの声と示された指を確認したルイトガルトと七葵が前に出て構える。
夜の暗闇の中から出てきたのは一人の浪人。
足をふらつかせているのだが、その動きは妙に力強い。
正体のなくし方が酔っぱらいのものと違うと判断したのはハンターの本能か。
即座に反応したのは優夜。
蝶の如く煌き、光弾となって浪人の上半身狙って飛ばした。
光弾が弾けると同時に浪人も吹き飛んでしまうも、浪人は即座に起き上がり、再び刀をハンター達へ向ける。
振り上げた刀を受け止めるために玄が符より光輝く鳥を形成させて浪人へと飛ばしていく。
鳥が受け止めて消滅した瞬間、デュシオンは虚空より光が集積し、矢の形へ形成させて放つ。
光の矢を思い切り受けた浪人がそのまま倒れると、和彦が飛び出して浪人の刀を払うと、春樹も取り押さえに入る。
「何なんだ……」
誰かの呟きは湿気を纏った夜空にとけてった。
取り押さえた浪人に身元を証明できるものはなく、即疾隊が動いて不利になるかもわからない。
騒ぎを聞きつけた者もいて、ハンター達は浪人を連れて屯所に戻った。
隊士や副局長にあったことそのままを伝えるしかなく、即疾隊の損失担えりるかは誰もわからなかった。
「事情を聴こう」
副局長である前沢の言葉にハンター達は頷く。
ローエンとデュシオンは局長のところに行って報告に向かう。
最終的にハンター達は即疾隊に紙問屋の息子が通っていたらしい店の場所は伏せて局長に報告した。
情報をまとめた書付も渡すと、局長の江邨はローエン達の言葉に耳を傾けてから、書付帖を確認する。
「よくまとめてくれた。助かる」
しかし、その表情はどこか寂しそうであった。
「江邨様?」
デュシオンが声をかけると、江邨は手の中の書付帖を撫でる。
「他の仮隊士達の声も聞きてぇなぁって、思ったんだよ。元はこっちの不手際とはいえ、本当に骨が折れただろう。お疲れさん」
それだけ言うと、江邨は和彦達のところへ行こうとローエン達を誘う。
廊下に出ると、風に流れる雲よりこれから満月になるだろう月が見えた。
月が満ちるように即疾隊もまた満ちていくかはまだわからない。
「あれは梅仕事よ。この時期になると梅という木に実がなるから、収穫して塩漬けにしたり、酒にしたりするの」
優夜(ka6215)は顔はまっすぐ見ているが、簡潔に説明をする。
「梅雨も入りましたしね」
ポツリと雀舟 玄(ka5884)が空を見上げた。
程なく歩くと、梅鶯神社が見えてくる。
ざわめきは神社の中でもあり、噂のハンターとやらを一目見ようと隊士達が野次馬宜しく集まってきていた。
「……この度は応じてくださり、ありがとうございます」
他の隊士達に呼ばれた若い隊士がハンター達の前に立つ。
黒く長い前髪は左に流して隠している。微かに髪にかかっている右目はまっすぐハンター達を見ていた。
局長と副局長が待つ部屋に案内される中、ベル・ヴェール=エメロード(ka4971)が一段と緊張してしまうが、平静を保っている。
「よく来た」
迎え入れた局長は挨拶もそこそこに、事件の調査を頼む。
「同行してもらうのはこの壬生和彦だ」
副局長が言うと、ハンター達を案内した若い隊士が「宜しくお願いします」と頭を下げた。
質疑などを終えてハンター達と和彦が神社を出た際、五百枝春樹(ka6324)が和彦に声をかける。
「即疾隊の風紀が厳し過ぎるのでは」
過度の締め付けは反発する場を求めるという事を春樹は気にかけていた。
彼の言わんとしている事を和彦は察し、少し困ったような顔を見せる。
「そう見えるやもしれません。しかし、彼らは仕官もままならなかった若い浪人や仕官もした事がない腕自慢の田舎剣士です。警備隊としての自覚はまだないと私は思います」
一度言葉を切った和彦はそっとため息をつく。
「私も、自覚があるかといえばわかりません……即疾隊自体若い組織です。
これからだと私は思います。その為にも、今は皆様のご助力を賜りたく思います」
真摯な和彦の言葉を聞いた春樹は「はい」と頷いた。
「この辺でしょうか」
周囲を見上げるデュシオン・ヴァニーユ(ka4696)。
和彦に頼んで借りた地図を見ていたローエン・アイザック(ka5946)は「任せるよ」と返す。
任されたデュシオンはするりと尻尾を揺らす黒猫のように宿の方へと滑り込む。
「デュシオン殿っ」
和彦が後を追うと、デュシオンが宿の者と交渉していた。
即疾隊の鉢巻をした和彦の姿を見た宿の者は驚いて目を見開いてしまう。
「……即疾隊は皆様のご協力なくしては成り立ちません。何卒、宿の皆様のお力を頂きたく思います」
デュシオンが言えば、和彦は察して居住まいを正す。宿の者は蛇に睨まれた蛙よろしく肩を竦めてしまう。
「お頼みします」
ゆっくりと頭を下げた和彦に驚きを隠せない宿の者達はまだ恐れつつも承諾した。
宿の部屋の中に入ったハンター達が和彦に趣旨を説明する。
「壬生様には、即疾隊への密告、事態の先走りをしないようお願いします」
デュシオンの言葉に和彦はまっすぐハンター達を見つめる。
「即疾隊はまだ若い組織。軽々しく情報を渡して、確認もせずに我先走る者もいるかもしれない」
言い切ったのはローエンだ。
「果たして、彼らは正しい選択を取れるだろうか。過ちだった場合は即疾隊にとっての損害は大きい」
一拍おいてローエンが言葉を続ける姿を和彦はじっと見据えている。
「故に、隊士である私を牽制し、情報を選別しようとしている認識で宜しいか」
和彦の確認にローエンは頷く。
「正直を言おう。局長達を蔑ろにされているようで面白くない。しかし、街の者達の隊士達への認識を鑑みれば仕方ない」
素直な和彦の意見に部屋が静まり返る。
「私は今回の調査を任されている。私も調査に入り、君達と情報を共有させてもらう」
和彦の言葉にハンター達は安堵した。
宿を出て、甘味処に入った優夜と玄はのんびりとお茶を啜っていた。
日中は気温も上がり、冷茶が身体に嬉しい。
「なんだか珍しいね」
きょとんとする優夜に女将さんは言い方が悪かったことに気づく。
「即疾隊やら、何かと顔の悪い連中がうろついててね。あんた達みたいな旅の可愛い子が来るのは久しぶりなんだよ」
女将さんの説明に二人は頷いた。
「今、人が行方不明になる事件があるんだ。気をつけるんだよ」
「女将さんは知っている人とかいるの?」
「前に来ていた浪人さんが最近来なくてね……まぁ、こんな店は嗜好品だからね。来なくなることもあるさね」
そう言った女将さんは少し寂しそうで、見かねた玄は「その浪人さんは何が好きだったの?」と何気なく尋ねた。
豆大福が好きだったよと女将さんが返すと、玄は豆大福二個を包んで帰りに持たせてもらった。
ベルとマシロビ(ka5721)は番所へと向かっていた。
即疾隊と番所は全く別な警察組織であり、その辺に対するナワバリ争いなども絶えないと和彦が教えてくれていた。
実際に番所に向かい、即疾隊の者であることを告げると、途端に渋い顔をされる。
「とっとと帰りな」
岡っ引きの男が十手を肩に当てつつマシロビとベルに声をかける。
「即疾隊で行方不明者の消息を追っています。情報を教えてほしいのです」
ベルが食い下がると、岡っ引きは厳つい表情を浮かべてベルの方へと歩いていく。
「こっちはあんたらの無体に頭を悩ませるんだよ」
蟹股歩きをして肩を揺らす岡っ引きに対し、ベルは逃げたいと思うが、それでは今回依頼を受けた意味がない。
「お願いします」
「その節はすみません。私たちなりにこの事件を捜査したいのです。ご助力をお願いします」
マシロビもベルと一緒に頭を下げると、番所に居合わせた男が「旦那、頭を下げてるんだ。意地悪するんじゃない」と諭す。
「そりゃ、あたしたちが見てきた即疾隊は乱暴な連中だけど、今いるお嬢さん達はまじめな子達だよ」
恰幅のいい女性は前掛けをしているところから、どこかの店の者だろうか。
「ああもう、いいよ! あんた達はいいやつだ。悪かったな。教えてやるよ」
岡っ引きが色々と負けて引き出しを開けている。
顔を明るくしたベルとマシロビが顔を合わせると、街の人達も「よかったねぇ」「いなくなったのは紙問屋の息子だろ?」と教えてくれた。
即疾隊と分かる格好をしている和彦と恐れることなく肩を並べて歩く七葵(ka4740)は一種、異様な目で見られている。
髪で顔半分隠している和彦と三白眼の七葵は整った顔立ちなので、怖がられながらも、娘さんたちがの視線を受けていたりしていた。
七葵は適当な店に入ろうと提案し、中に入る。
店の中は薄暗いが、即疾隊の和彦は目立つようだった。
ひそひそと聞こえるのは即疾隊の評判の悪さ、そして、浪人が消えた話。
二人は浪人が消えた話をした卓に座る。
「詳しく聞かせてくれ」
「手ぶらで?」
七葵は店員に冷酒と味噌田楽を注文するとすぐに出てきた。
差し出された酒と味噌田楽に手をつけつつ、浪人は「そんなに知らねぇぞ」と言った。
内容は顔見知りの浪人が「いい話がある」と言ってきたのだという。
浪人曰く、長く続けばとても金になる話だ。俺が頼むから、お前もどうだと誘ってきたらしい。
「行けたのか?」
相槌を打つ七葵の言葉に浪人は首を横に振る。
「俺は寺小屋の師匠をしててな、その日は寺小屋で子供が熱を出して、晩までその子の家で世話をしてたから、約束の時間には間に合わなかった」
子供の熱は収まって元気になったが、それから顔なじみの浪人は姿を消したのだという。
「子供が元気になって何よりだ」
七葵の言葉に浪人は「まぁな」とまんざらでもないように酒を舐めた。
店を出た春樹は一度、ローエンがいる詰所に戻っていった。
「あら? いかがされましたか?」
きょとんとして春樹を見ているのはデュシオンだ。休憩中なのか、豆大福を食べているようだった。
「報告は短電話でいいのに」
片栗粉がついた手を懐紙の上で払い、何かあったのかと気遣うローエンに春樹は困ったようだった。
「……短電話を持つと、人の目があって会話に集中できなかった」
「背が高い方はそうでしたね。暗い所は危険も潜みますから、仕方ありませんね」
くすっと、微笑むデュシオンに春樹は肩を落とす。
「さっき聞いた事を報告する」
春樹が宣言すると、ローエンは紙問屋の息子は随分と前に姿をくらまし、店屋の主や女将さんをはじめ、店員たちが血眼になって探していたという。
今も時折女将さんが街に出て探しているとのことだ。
他のハンターからも同じ情報があって、目新しい情報がないことに春樹は肩を落とす。
「同じ情報は大事だよ。確実な情報にするには複数の力が要る」
穏やかに諭すローエンに学校の先生のようだと感想を持ちつつ、春樹は頷く。
「何人かは、紙問屋の方へ向かうとのことです」
ローエンは紙を手繰り寄せつつ、春樹にも手伝ってほしいと声をかけた。
ルイトガルトは飲み屋街の方を歩いていた。
まだ昼間のため、屋台の姿は呑み屋というより、食べ物屋が多い。
復興中のためか、活気とは少々違うが、賑やかだというのがルイトガルトの感想。
「いらっしゃい」
卓のようなものの上には揚げ物の他、煮物が大皿に盛っていた。
大根の煮物を一皿頼み、皿に盛ってもらう。
口に含んでかみ締めると、大根が含む旨みが水分となって口の中に広がる。
ジューシーと思いながら食べるルイトガルトを見た娘はふふっと微笑む。
「おむすび、ひとついいよ」
「ありがとう」
一口大の俵結びを頬張ると娘は視線を外すように作業を始める。
「最近、常連だった人が来なくなって、あまり気味なの」
「そう……客が離れるのは寂しいことね」
「うん、行方不明の人もいるって聞くし、無事だといいけどね」
話を聞いていくと、浪人のようであり、その日暮しだったようだ。詳しいことは知らないようであった。
ローエンから話を聞いた歩夢(ka5975)はため息をつきつつ、紙問屋へと向かっていた。
基本的にこの街の者達は悪い人たちではない。しかし、即疾隊の名前を出すと、途端に様子を変えてしまう。
これから向かう紙問屋の他に、武家の者もいなくなったとかは聞いたりしたが、煙に撒かれてしまった。
丁寧に説明をすれば分かってくれるが、関わりたくないのか、あまり教えてはくれないし、ひどい時は門前払いだった。
そっとため息をついた歩夢の視界にベルとマシロビが見える。
合流すると、三人は簡潔に情報交換をする。互いに大変であった事を労わりつつ、紙問屋へと向かった。
店の中は忙しないものの、どこか落ち込んだ空気を感じてしまう。
即疾隊の者である事と、息子さんの消息を調査したい事を述べると、奥にいた女将さんがふらふらと裸足のまま、三和土に降り、よろけるようにベル達の足元に土下座をする。
「後生でございます……っ! 息子を探してくださいませ……!」
藁に縋る溺れた者さながらに女将さんは堰切ったように泣き出した。
マシロビとベルが女将さんを畳の上に座らせ、両脇に座る。
「辛かったのでしょう」
「落ち着いたら、お話を聞かせてください」
手を握り、背をさすり、女将さんを宥めるベルとマシロビに警戒していた周囲も落ち着きを取り戻す。
「ありがとうございます……」
落ち着きを取り戻した女将さんに歩夢が屈み込む。
「息子の事、聞かせてもらえるか」
穏やかな歩夢の声に女将さんははらりとまた涙をこぼし、頷いた。
「……半年ほど前でしょうか……息子は家を手伝わなくなりました……」
息子はよく遊びに出ていたという。女遊びよりも、友人と飲みに行ったりするのが好きだったという。
その分、仕事はしっかりやっていた孝行息子であると恐る恐る従業員が口を挟む。
時折、用心棒などをしている浪人がたむろする酒場にも顔を出すという話を聞いたそうだ。
家の中でぼうっとする日が出てきて、家を何日も空けることが増えだした。
「飲み仲間はどうなんだ?」
「もう関わっていないと言われました……繁華街でも奥の通りを歩く姿も見たときいて、行ったのですが……」
言葉が途切れるところを見ると、見つけられなかったのだろう。
再び泣き出す女将さんを宥めてから、従業員達に女将さんを任せてハンター達は店を出た。
ベルとマシロビは宿に戻ると、ローエン達に更に詳しい情報を伝える。
「まぁ、即疾隊の流れを考えると、紙問屋が一番情報があったね」
ふむふむと書付けるローエン。
「とてもやつれておりましたわ」
表情を曇らせるベルは心配そうに女将さんのことを思い出す。
「家にいる時はあまり食べてなく、酒を飲んでないと仰ってました」
マシロビが言えば、デュシオンが柳眉をよせる。
「酒場によく行かれるのに?」
店の人達から見ても、息子はただぼーっと呆けていたようだった。
何日かすると、勝手にいなくなり、また数日置いて帰ってきていたと証言している。
「それも怪しいな……」
春樹が言えば、全員が同意する。
「息子が入り浸ってた場所は結構危ないところと見るね」
ローエンは書付け済みの紙を選んでは畳んで脇に置いた。
紙問屋を出て、ベルとマシロビ歩夢は優夜、玄と一緒に日が沈みゆく繁華街を歩いていた。
何軒か歩いていたが、酔っ払いが多く、上手く情報が聞き出せなかった。
屋台にて情報を探っていたルイトガルトが七葵と和彦と合流していて、情報交換を行う。
主だった情報は大体同じであり、気になる通りは優夜達が調べている。
「大丈夫でしたか」
女性一人では何かと危険な場所であり、和彦が気遣う。
ルイトガルトはくすりと笑う。
「平気よ。私みたいなのに声をかける物好きはいないし、尾行もなかったわ」
「あ、お疲れ」
優夜がルイトガルト達を見つけて声をかける。
「お疲れさま」
ルイトガルトがちらりと、三人の後ろを伺うが、特にはなかった。
「紙問屋の息子がいたという話はありました。しかし、最近は見てないと言われました」
少し沈んだ玄の言葉に七葵が「そうか」と返す。
「仕切り直しで一度引き上げない?」
優夜が言えば、ルイトガルトが「そうしましょ」と頷く。
宿に戻って、ハンター達が即疾隊へ報告する内容を取りまとめた。
「戻りましょうか」
デュシオンは宿の者達に感謝を述べると、宿の人達はにこやかとは言えないが、最初の時よりは警戒の様子は見えない。
「歩夢?」
暗がりの中、玄は歩夢の表情に気づく。
「ああ、ちょっとな。今回はあまり調べられなかったなって」
事件の経緯を詳しく調べたかった歩夢は残念だったようだ。
「次があるわよ」
優夜がフォローを入れると、マシロビがそっと声をかける。
「きっと、今回よりは協力的になって下さると思います。番所の方も、紙問屋の皆様も最後は分かってくださいました」
「マシロビ様の考えに同意です。少しずつ、努力をしていきましょう」
ベルの言葉に歩夢は「そうだな」と笑う。
どこかの方角から、物が落ちる音がした。
明るいところを見ても物が落ちた形跡は見られない。
「あちらです!」
占術を行ったマシロビの声と示された指を確認したルイトガルトと七葵が前に出て構える。
夜の暗闇の中から出てきたのは一人の浪人。
足をふらつかせているのだが、その動きは妙に力強い。
正体のなくし方が酔っぱらいのものと違うと判断したのはハンターの本能か。
即座に反応したのは優夜。
蝶の如く煌き、光弾となって浪人の上半身狙って飛ばした。
光弾が弾けると同時に浪人も吹き飛んでしまうも、浪人は即座に起き上がり、再び刀をハンター達へ向ける。
振り上げた刀を受け止めるために玄が符より光輝く鳥を形成させて浪人へと飛ばしていく。
鳥が受け止めて消滅した瞬間、デュシオンは虚空より光が集積し、矢の形へ形成させて放つ。
光の矢を思い切り受けた浪人がそのまま倒れると、和彦が飛び出して浪人の刀を払うと、春樹も取り押さえに入る。
「何なんだ……」
誰かの呟きは湿気を纏った夜空にとけてった。
取り押さえた浪人に身元を証明できるものはなく、即疾隊が動いて不利になるかもわからない。
騒ぎを聞きつけた者もいて、ハンター達は浪人を連れて屯所に戻った。
隊士や副局長にあったことそのままを伝えるしかなく、即疾隊の損失担えりるかは誰もわからなかった。
「事情を聴こう」
副局長である前沢の言葉にハンター達は頷く。
ローエンとデュシオンは局長のところに行って報告に向かう。
最終的にハンター達は即疾隊に紙問屋の息子が通っていたらしい店の場所は伏せて局長に報告した。
情報をまとめた書付も渡すと、局長の江邨はローエン達の言葉に耳を傾けてから、書付帖を確認する。
「よくまとめてくれた。助かる」
しかし、その表情はどこか寂しそうであった。
「江邨様?」
デュシオンが声をかけると、江邨は手の中の書付帖を撫でる。
「他の仮隊士達の声も聞きてぇなぁって、思ったんだよ。元はこっちの不手際とはいえ、本当に骨が折れただろう。お疲れさん」
それだけ言うと、江邨は和彦達のところへ行こうとローエン達を誘う。
廊下に出ると、風に流れる雲よりこれから満月になるだろう月が見えた。
月が満ちるように即疾隊もまた満ちていくかはまだわからない。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/07 01:46:46 |
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相談卓 本多 七葵(ka4740) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2016/06/11 15:03:19 |