ゲスト
(ka0000)
【詩天】緊急、疾走、怪しい影
マスター:蒼かなた
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/06/13 09:00
- 完成日
- 2016/06/18 07:09
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●夜の闇夜に
東方、正確にはエトファリカ連邦国の地で新たな動きが始まっていた。
1年程前、憤怒の歪虚王『九蛇頭尾大黒狐獄炎』による襲撃で天ノ都とその周辺に大きな被害が出たことは記憶に新しい。
今もその復興が行われている最中であるが、その中で1つの地域に焦点があてられた。
それが『詩天』、龍脈の流れを研究し多くの符術士や舞刀士を排出してきた由緒正しき土地だ。
しかし、数年前にこの地を治める三条家内でのお家騒動が勃発。その混乱の収まる間もなく歪虚による侵攻を受け壊滅的な被害を受けていた。
今でこそ復興が進み人々も戻ってきているが、お家騒動の際には黒い噂が飛び交っており、今も再び不吉な気配が漂い始めているという曰くつきの場所として目を向けられている。
それでも復興を止めるわけにもいかず、かといって警戒を怠るわけにもいかない。そんな状況だからこそ頼られる存在、それがハンターである。
時刻は草木も眠る丑三つ時。しかしそれでも眠らぬ寝ずの番がその屋敷の中の見回りをしていた。
この屋敷は三条家の物だ。とは言っても三条家の現頭首である三条真美が住まう場所ではなく、三条家の所有する数多くの屋敷の中の1つに過ぎない。
政務の際に客人を招いたり、遠方より来た役人達の一時的な住まいとして使われている場所だ。そして今は三条家の重鎮達が数名この屋敷を利用している。
なのでいつもより警備は厳重となり、普段はやらない寝ずの番と屋敷内外の見回りが行われているのだった。
「今日もまた日暮れまで喧々囂々とお偉方は声を張り上げてたな」
「千石原の乱の話か。未だ多くの者にとって忌まわしい想い出なのだがな」
そんな警備の任に着いている兵士2人はそんな話をしながら屋敷の廊下を歩いていた。
民草や彼らのような一般の兵士には、三条家のお家騒動など既に過去の話だ。大事なのは今の生活、それに尽きる。
「そういや知ってるか? 即疾隊の話」
「ああ、例の首都警備隊な。何でも若き天才が現れたって話だって?」
その話は街中でも既に噂になっていた。何でも圧倒的な実力であっという間に部下を持つまでの席を勝ち取ったらしい。
「それから詩天様のほうも」
「ああ、詩天様はこれからが大変そうだな」
ここでいう詩天様とは、三条家の現頭首のことだ。生憎とこの2人は詩天様にはお目通りしたことはなくどんな顔をしているかも知らなかったりするのだが。
何にせよ、彼らにとってそういうお偉方の起こす騒動は良い話のタネだ。人がゴシップ好きというのは時代や世界が違っても変わらないらしい。
「ああ、あとそれから――」
「しっ! ……なあ、今何か聞こえなかったか?」
次の話題を口にしようとしたところで、兵士の1人が何かが聞こえたと周囲を見渡す。
薄暗い廊下は彼らの手にしている行燈の明かりしかない。そこで照らされるものに動く気配はとくになかった。
「別に何も聞こえないぞ?」
「いや、確かに今――」
兵士が言葉を続けようとしたところで、突然床に何かが倒れ込むような音が響いた。続いて廊下を走る何者かの足音が聞こえてくる。
「何だ今の音は!」
「おい、誰かいるぞ。こっちだ!」
2人の兵士は廊下を走り、音の聞こえた方へと向かう。そのまま走り廊下を曲がること数回、庭先へと出たところでその人物を見つけた。
黒い装束に顔を隠す黒い頭巾。明らかに不審者といった風体の人物が、屋敷の塀を乗り越えているところだった。
「何奴!」
「賊だ! 賊が屋敷に侵入したぞ!」
兵士はその場で警笛を鳴らす。響き渡る甲高い笛の音に屋敷内が騒がしくなる。
「何事だ!」
そこで屋敷の中から寝間着姿の中年の男が現れる。どうやら彼はこの屋敷に泊まっているお偉方の1人のようで、兵士達はその場で膝を付き頭を下げる。
「はっ! どうやら賊が侵入した模様です」
「何……その賊は今どこにいる?」
「私共が姿を確認した者は塀を乗り越えて外へと、他にも仲間がいないかを今から確認するところです」
その報告を受けて男は顎下を1つ撫で、兵士達に指示を出す。
「その賊を追え。捕らえて私の前に連れてこい」
「はっ! すぐに手配をいたします」
兵士は男に一礼してから急ぎ走り去る。そして、長い夜の追いかけっこはこうして始まった。
●宿屋にて
ここは詩天にある宿の1つ。最近ではハンターという腕っぷしの強い者達がこの詩天に訪れるようになり、必然的に繁盛しだした場所だ。
「御免!」
そんな宿の扉が音を立てて開かれた。入ってきたのは腰に刀を帯びた侍風の男が数名ばかり。
宿の主人が話を聞けば、何でもここに泊まっているハンター達に話があるのだという。
とは言え今は深夜、流石にそれはと主人は断ろうとしたが、問答無用とばかりに上がり込まれ、十数分後には1つの広間にハンター達は集合させられていた。
「この度そなた等に集まって貰ったのは他でもない。賊を捕らえる手伝いを頼みたいのだ」
侍の1人がそう説明を始める。なんでも今から30分ほど前にお偉方の集まっていた屋敷に賊が侵入したのだという。屋敷内には他の賊はおらず、単独犯だったらしい。
その賊を捕らえる為に街中の警邏の者が動員されているが、未だに確保は出来ていない。
何でもかなり身の軽い賊らしく、姿を見つけてもひらりひらりと躱されて、建物の屋根などに登りあっという間に姿を消してしまうそうだ。
まだこの近辺に潜んでいるはずなのだが、このままでは取り逃がしてしまう可能性もある。そこでハンター達にも応援要請が掛かったというわけだ。
「この夜更けに済まないとは思うが、一大事なのだ。受けてくれれば謝礼は弾む」
その言葉にハンター達は互いに顔を見合わせ、早速準備に取り掛かることにした。
東方、正確にはエトファリカ連邦国の地で新たな動きが始まっていた。
1年程前、憤怒の歪虚王『九蛇頭尾大黒狐獄炎』による襲撃で天ノ都とその周辺に大きな被害が出たことは記憶に新しい。
今もその復興が行われている最中であるが、その中で1つの地域に焦点があてられた。
それが『詩天』、龍脈の流れを研究し多くの符術士や舞刀士を排出してきた由緒正しき土地だ。
しかし、数年前にこの地を治める三条家内でのお家騒動が勃発。その混乱の収まる間もなく歪虚による侵攻を受け壊滅的な被害を受けていた。
今でこそ復興が進み人々も戻ってきているが、お家騒動の際には黒い噂が飛び交っており、今も再び不吉な気配が漂い始めているという曰くつきの場所として目を向けられている。
それでも復興を止めるわけにもいかず、かといって警戒を怠るわけにもいかない。そんな状況だからこそ頼られる存在、それがハンターである。
時刻は草木も眠る丑三つ時。しかしそれでも眠らぬ寝ずの番がその屋敷の中の見回りをしていた。
この屋敷は三条家の物だ。とは言っても三条家の現頭首である三条真美が住まう場所ではなく、三条家の所有する数多くの屋敷の中の1つに過ぎない。
政務の際に客人を招いたり、遠方より来た役人達の一時的な住まいとして使われている場所だ。そして今は三条家の重鎮達が数名この屋敷を利用している。
なのでいつもより警備は厳重となり、普段はやらない寝ずの番と屋敷内外の見回りが行われているのだった。
「今日もまた日暮れまで喧々囂々とお偉方は声を張り上げてたな」
「千石原の乱の話か。未だ多くの者にとって忌まわしい想い出なのだがな」
そんな警備の任に着いている兵士2人はそんな話をしながら屋敷の廊下を歩いていた。
民草や彼らのような一般の兵士には、三条家のお家騒動など既に過去の話だ。大事なのは今の生活、それに尽きる。
「そういや知ってるか? 即疾隊の話」
「ああ、例の首都警備隊な。何でも若き天才が現れたって話だって?」
その話は街中でも既に噂になっていた。何でも圧倒的な実力であっという間に部下を持つまでの席を勝ち取ったらしい。
「それから詩天様のほうも」
「ああ、詩天様はこれからが大変そうだな」
ここでいう詩天様とは、三条家の現頭首のことだ。生憎とこの2人は詩天様にはお目通りしたことはなくどんな顔をしているかも知らなかったりするのだが。
何にせよ、彼らにとってそういうお偉方の起こす騒動は良い話のタネだ。人がゴシップ好きというのは時代や世界が違っても変わらないらしい。
「ああ、あとそれから――」
「しっ! ……なあ、今何か聞こえなかったか?」
次の話題を口にしようとしたところで、兵士の1人が何かが聞こえたと周囲を見渡す。
薄暗い廊下は彼らの手にしている行燈の明かりしかない。そこで照らされるものに動く気配はとくになかった。
「別に何も聞こえないぞ?」
「いや、確かに今――」
兵士が言葉を続けようとしたところで、突然床に何かが倒れ込むような音が響いた。続いて廊下を走る何者かの足音が聞こえてくる。
「何だ今の音は!」
「おい、誰かいるぞ。こっちだ!」
2人の兵士は廊下を走り、音の聞こえた方へと向かう。そのまま走り廊下を曲がること数回、庭先へと出たところでその人物を見つけた。
黒い装束に顔を隠す黒い頭巾。明らかに不審者といった風体の人物が、屋敷の塀を乗り越えているところだった。
「何奴!」
「賊だ! 賊が屋敷に侵入したぞ!」
兵士はその場で警笛を鳴らす。響き渡る甲高い笛の音に屋敷内が騒がしくなる。
「何事だ!」
そこで屋敷の中から寝間着姿の中年の男が現れる。どうやら彼はこの屋敷に泊まっているお偉方の1人のようで、兵士達はその場で膝を付き頭を下げる。
「はっ! どうやら賊が侵入した模様です」
「何……その賊は今どこにいる?」
「私共が姿を確認した者は塀を乗り越えて外へと、他にも仲間がいないかを今から確認するところです」
その報告を受けて男は顎下を1つ撫で、兵士達に指示を出す。
「その賊を追え。捕らえて私の前に連れてこい」
「はっ! すぐに手配をいたします」
兵士は男に一礼してから急ぎ走り去る。そして、長い夜の追いかけっこはこうして始まった。
●宿屋にて
ここは詩天にある宿の1つ。最近ではハンターという腕っぷしの強い者達がこの詩天に訪れるようになり、必然的に繁盛しだした場所だ。
「御免!」
そんな宿の扉が音を立てて開かれた。入ってきたのは腰に刀を帯びた侍風の男が数名ばかり。
宿の主人が話を聞けば、何でもここに泊まっているハンター達に話があるのだという。
とは言え今は深夜、流石にそれはと主人は断ろうとしたが、問答無用とばかりに上がり込まれ、十数分後には1つの広間にハンター達は集合させられていた。
「この度そなた等に集まって貰ったのは他でもない。賊を捕らえる手伝いを頼みたいのだ」
侍の1人がそう説明を始める。なんでも今から30分ほど前にお偉方の集まっていた屋敷に賊が侵入したのだという。屋敷内には他の賊はおらず、単独犯だったらしい。
その賊を捕らえる為に街中の警邏の者が動員されているが、未だに確保は出来ていない。
何でもかなり身の軽い賊らしく、姿を見つけてもひらりひらりと躱されて、建物の屋根などに登りあっという間に姿を消してしまうそうだ。
まだこの近辺に潜んでいるはずなのだが、このままでは取り逃がしてしまう可能性もある。そこでハンター達にも応援要請が掛かったというわけだ。
「この夜更けに済まないとは思うが、一大事なのだ。受けてくれれば謝礼は弾む」
その言葉にハンター達は互いに顔を見合わせ、早速準備に取り掛かることにした。
リプレイ本文
●闇夜の捕り物劇
「それで、賊が最後に目撃されたのはどこなのかな?」
その捕り物劇に参加することになったハンター達。その中の1人である超級まりお(ka0824)は北区に入ったところで、警邏隊と共に走り回っている侍の1人を捕まえてそう質問した。
「むっ、お前たちが応援のハンターか。ああ、つい先ほど東の方で見かけたらしいが、その前は西の方だった」
「西に東にって、随分と忙しない賊野郎だね」
「全くだ。こっちをおちょくっているつもりなのか……」
その時、まりお達の耳に甲高い警笛の音が届く。どうやら今度は北の方に現れたらしい。
「ちぃっ、今度はそっちか。おい、行くぞお前達!」
侍はその笛の音のした方向へと走り出す。
「確かに振り回されてるみたいだ。でも、うーん……今考えてもしょうがないか。とりあえず捕まえないと」
どこか納得いかない賊の動きを不審に思いつつも、まりおは考えても仕方がなしと割り切り賊を追うことに集中することにする。
近くにあった塀の上に飛び乗れば、少し高い視点から街を見渡せる。そして警邏隊らしき沢山の人影が走り回っている場所を見つけて、まりおは口元を少し上げた。
「みーつけた。さあ、Bダッシュだ!」
まりおは塀の瓦を蹴り、騒ぎの中心目掛けて走り出した。
一方その頃、北区の別の場所ではとある屋敷の門の前で不動シオン(ka5395)が足止めを食らっていた。
「何故中に入れない?」
「主殿はただいま就寝中でございますので……」
シオンの言葉に門番らしき男は先ほどから同じ言葉を繰り返し、彼女が屋敷の中に入ることを拒否している。
「緊急事態と言っているだろう。周囲の騒ぎも知っているはずだ」
「ええ、勿論。しかし私の一存で見知らぬ者を敷居を跨がせるわけにはいかないのです」
シオンがどのような言葉を使おうとも、門番はのらりくらいとそれを躱して拒否し続ける。
「そこのハンターさん、何を言っても無駄ですよ。絶対に通してはくれません」
そこでその様子を見かねたのか警邏隊の一員らしき者がシオンに声をかけてきた。
「しかし、賊がこの屋敷の中にいるかもしれないのだぞ?」
「それなら家中の者が対処する、というのがこの街でのやり方なんです」
「人手は多い方がいいはずだが?」
「それは……そうなのですが、ね」
警邏隊員は肯定しながらも含みを持たせたような言い方をして苦笑している。
その時、また別の場所で警笛が鳴り響いた。
「おや、どうやら賊は別の場所に移動したようで。これでこの屋敷に用はありませんね?」
「……邪魔したな」
遠回しに「さっさと帰れ」と言われている。納得いかない感情を抱きつつも、ここに留まる理由がないのも事実なのでシオンは大人しく引き下がった。
同じ頃、岩井崎 旭(ka0234)は塀の上から地面に降り立った賊の影を捉えていた。
「見つけたぞ。追え、シーザー!」
嘶きと共に旭の乗る青毛の馬が駆けだす。その蹄の音に賊も気づいたようで、旭から逃げるように走りだした。
だが例え覚醒者と言えでも馬の走る速さに敵う訳がない。その距離はぐんぐん縮まっていく。
「こーゆー時なんて言うんだったか? そうそう、神妙にお縄を頂戴しな!」
旭は馬上でハルバードを構え、間合いに捉えた瞬間に賊の背中に向けて突き出した。
だが、賊は絶妙なタイミングで飛び上がり、旭のハルバードをひらりと避ける。
そしてそのまま塀の上へと降り立ち、その反対側へと姿を消してしまった。
「ちっ、身軽な奴だな」
旭は馬を止め、その背から飛び上がって自分も塀の上に立つ。だが賊の姿は塀の中には既になかった。
「そちら、ハンターの方とお見受けする!」
「んっ? ああ、俺はハンターだ。賊を見つけて追ってたんだが、この中に逃げられちまった」
声を掛けられた旭が塀の外側へ視線を向ければ数人の侍が塀の下からこちらを見上げていた。
「むぅ、そうでしたか。であれば、まずは許可を取らねば……」
「うん? 許可って何だよ?」
「むっ、いや、ここは詩天の中でも名のある方の住まいなのだ。我々でも無断で立ち入ることは許されない」
大人の事情と言う事か、どうやら北区で賊が逃げ回れているのはこういった理由があるかららしい。
旭はぽりぽりと頬を掻き、一度溜息を吐いて塀の上から馬上へと跳んで戻る。
「この屋敷の周りを一回りしてくる。そっちも早いところ頼むぜ?」
「かたじけない」
旭は馬を走らせながら思う。今回の仕事は思ったより面倒だな、と。
●渡河の攻防
北区のあちこちで人の喧噪と警笛の音が響いている。それは段々と中央区に向けて近づいているのを門垣 源一郎(ka6320)は感じていた。
「どうやらこっちに来るようだな。出番も近そうだ」
源一郎は馬に跨り、いつでも追跡できるように準備を整える。
それから数秒ほど待っただろうか。源一郎の目の前に黒尽くめの人物が降ってきた。
「さあ、お縄について貰おうか」
源一郎は警邏隊から借り受けていた警笛を一度鳴らし、それから手綱を操って馬を走らせた。
相手が覚醒者なら下手な手加減は無用。馬の速度を緩めることなく、源一郎は馬上から太刀を振るう。
それに対して賊の反応は早かった。それを腕で受けとめ、そのまま受け流したのだ。いや、太刀がぶつかった瞬間の金属音を聞くに腕に籠手を忍ばせていたようだ。
「ちっ!」
源一郎が馬を反転させると、賊は既に走り出しておりあっという間に離れていく。だが馬の脚なら追いつけないことはないと源一郎は馬の腹を蹴った。
その予想通り賊にはすぐに追いついた。が、その瞬間賊が懐から何かを取り出して地面に叩きつけた。
「なっ!?」
賊が叩きつけた球状の物から火薬が炸裂するような音と共に黒い煙が噴き出した。
その音に源一郎の乗る馬は怯え嘶き前足を跳ね上げる。源一郎は振り落とされまいと何とか堪えるが、馬の方は耐えきれずその場で転倒してしまった。
その間に賊は駆け、そのまま姿を消してしまった。
喧噪が近づいてくるのを感じて金目(ka6190)はぐっと大きく伸びをした。
まだ寝ぼけているのか、金目は整えきれていない髪を掻きながら立ち上がる。
「カリンさん、見えますか?」
『ええ、いらっしゃいましたよ』
金目が短電話越しにカリン(ka5456)に声をかけると、返事はすぐに返ってきた。
川を渡ってすぐの場所にある2階建ての建物の上で、カリンは身を隠しながら周囲の様子を窺っており、丁度今しがた件の賊が橋の前に姿を現した。
「悪いんだけどここは通さないよ」
賊が橋を渡ろうとしたところで金目がその前に立ちはだかる。手にした無骨な金槌を片手でくるりと回し、柄頭でドンッと橋の板を叩く。
それは威圧のつもりだったが、賊はそれを意にも介していないのか立ち止まることなく金目に接近してくる。
「はぁっ!」
それに対して金目は気合と共に金槌を振り回し横薙ぎに振るう。だが賊は驚くほど姿勢を低くし、それを潜り抜けた。
そして賊は金目の懐に入り込むと右手を突き出す。金目はそれに只ならぬ気配を感じて反射的にマテリアルの障壁を展開した。
賊の手が金目に触れる数センチ手前で展開された障壁は一瞬の拮抗の後、音を立てて砕け散る。そして金目の腹部にチクリとした痛みが走った。
『後ろに跳んでください!』
その時、金目の腰にある短電話から済んだ少女の声――カリンの指示が響いた。
金目はそれに従い、それで何かを察した賊もその場から後ろへと跳ぶ。瞬間、空気を裂く音と共に飛来した弾丸が橋の手摺りに着弾した。
『金目さん、大丈夫ですか?』
「あー、なんとか。毒とかはないみたいですし」
金目は腹部を抑えながらカリンに返事を返した。革鎧を貫通して腹部を刺したのはかなり先の細い針のようなものらしい。
『そろそろ他の皆さんも到着するはずです。抑えきりましょう!』
「了解。やるだけやってみましょう」
金目は金槌を持ち直し、賊を迎え撃つ構えを取る。カリンも彼を援護すべく賊の動きを逃さぬよう集中する。
と、その瞬間に賊は突然構えを解いた。低く前屈みにしていた体勢を止め、両手をだらりとさげたままその場で直立する。
「降参? って、そんなわけないですよね!」
金目は訝しみながらその様子を見ていると、賊の手元から何か丸い物が橋の上に転がり落ちてきた。そして、炸裂音と共に周囲に煙を撒き散らす。
「煙幕ですか!?」
カリンのような銃撃手としてこれほど厄介なものはない。
更に噴き出した煙幕に金目も飲み込まれ、視界が真っ黒な煙で殆ど遮られてしまう。
(だが、それならあちらも状況は同じ。こちらを捉えるのも……違う!)
金目は自分の真横を通り過ぎていく風の流れを感じ、咄嗟にそれに向けて手を伸ばした。
雷撃を纏わせたその手が掠りでもすれば相手の動きを阻害できる。だが、その手はそのまま何も掴むことなく空ぶってしまった。
そしてカリンの視界では煙幕から飛び出してきた賊の姿が見えていた。
「止まらないと撃ちますよ!」
警告するがそれで止まれば苦労はしない。そのまま走り抜けようとする賊に、カリンは迷わず引き金に指をかける。
「おい、何だ今の爆発は?」
と、その時障子の窓が開いた。そこから顔を出したのは中年の男だ。そして賊は何とその窓目掛けて飛び上がったのだ。
ここは街中。一般人がいるのは当然と言えば当然だが、今この瞬間までその事を考慮に入れてなかったことに気づく。
「えっ? のわぁ!?」
男は突然現れた賊に驚き後ろにひっくり返った。そして賊はそのまま部屋の中に侵入し、奥へと消えていった。
●満を持して
南区の最南端。外へつながる門を目の前に建物の上で真田 天斗(ka0014)と賊が対峙していた。
「私は真田天斗と申します。貴方様のお名前、聞かせて貰えないでしょうか?」
そう言って名乗った天斗に対し、賊の返礼は左腕を振るい何かを放つことだった。天斗は体を横へとずらしそれを避ける。
「それでこそ隠密の鏡と言えましょう。ただ、逃がすわけにはいきません」
天斗は拳を握り屋根を蹴って駆けだした。両者の間は数秒と立たずゼロとなる。
先に放たれた天斗の拳を賊は腕で払って外側へ弾き、体を捻りながら逆側の拳で天斗の脇腹を狙う。天斗はそれを余裕をもって避け、賊の側面に一歩踏み込み死角から裏拳を放った。
賊はまた籠手を忍ばせた腕でそれを防ぐ。だが、今度は対処が遅れたのか受け流せずそのまま受け止めた。
それをチャンスと見た天斗は足を跳ね上げ逆サイドからさらにもう一撃を狙うが、賊はそのタイミングで後ろに跳び天斗の蹴りは空を切った。
状況は振り出しに戻る。だが天斗としてはこれでいい。目的は時間を稼ぐことなのだから。
パキリと何かが割れる音が賊の背後で鳴った。そちらを見れば屋根の上に飛び乗ってきた旭の姿が見える。
「よくも散々走らせてくれやがったな、この野郎!」
そんな旭の言葉に、建物の下のほうで実際に走ったのは俺だと言わんばかりに青毛の馬が嘶いている。
「一応確認するけど、投降するつもりはある?」
同じく屋根の上に登ってきたまりおの言葉に、賊はそこで初めて人間らしい表情を見せる。
ニヤリと笑ったのだ。
「抑え込むぞ!」
旭がハルバードを構え突撃する。だがそれよりも早く賊は駆けた。そして更にそれよりも早く天斗はその前に回り込む。
「言ったはずです。逃がしはしませんと」
天斗の拳が賊を捉える。だが、それは賊の右肩を打つだけに留まり賊はその負傷を受けながらも強引にその場を突破した。
賊は既に門の目前だ。閉ざされた門を前にどうやって逃げる気かは知らないが、このままいかせては不味い事はわかる。
「逃げられるぞ!」
そんな誰かの言葉にニヤリと笑う者がいた。
と、そこで突然賊の足元に光の帯が走り地面を焼いた。それに反応して賊がその軌跡を辿れば、自分の頭上に影が差したことに気づく。
「少し痛いぞ?」
こちらを見上げてきた賊に、門の高い塀から飛び降りたミグ・ロマイヤー(ka0665)は落下しながらも僅かな親切心からそんな言葉を掛けた。
先ほど放った機導砲は外したわけではなく、賊の足を止める為のもの。そう、今立っているその場所が丁度いいのだ。
そして2つの影がぶつかる。ミグが小柄で少女のような体型とはいえ、40kgもの質量が頭上から高速でぶつかって持ちこたえられる人間などそうはいない。
案の定、賊はそのまま地面に叩きつけられる。そしてミグは賊が再び起き上がろうとする前に、右腕に装着した魔道ガントレットでその頭を掴んだ。
「すまないな。今度はかなり痛いぞ」
その言葉と共に賊の体中に紫電が駆け巡り、そこでぶつりと意識は途絶えた。
●疑惑の書状
賊を取り押さえたところで警邏隊や侍達も集まり、賊はあっという間に荒縄で縛り上げられた。
「本当にこれで終わりなんでしょうか?」
「と、言うと?」
カリンの言葉に反応したのは源一郎だ。どうやらカリンは気になることが残っているようだ。
「確かにな。アイツ、結局何も盗まなかったんだろう?」
どうやら旭も同じ疑問を持っているらしい。
「んー、確かにそうですね……でも単に盗みに失敗しただけでは?」
金目の言葉も尤もで、何も盗まれてないならそう考えるのが普通だろう。
「ふむ。ここは発想を逆転すると良いかもしれないのである」
「発想の逆転?」
「盗まれた物がないなら、寧ろ逆だったのではないのか?」
「盗むの逆って言うと……何かを届けに?」
ミグの言葉にハンター達は賊に改めて視線を向ける。
「ちょっと失礼するぜ」
「えっ? あっ、おい!」
旭は賊に近づくと、侍が止める間もなく男の服の中をまさぐりだした。
「布地の裏も探れ。こういう服には隠しポケットが多い」
「おっ、本当だ。詳しいんだな」
シオンの助言に旭は隠しポケットを見つけ、そしてその中から折りたたまれた紙きれを見つける。
「何だ、それは?」
侍のほうもそんな物が見つかるとは意外だったのか不思議そうな表情を浮かべる。
「読めば分かるだろう。エトファリカの文字なら俺に任せろ」
そう言って源一郎が手紙を手にし、そして開いて読み始めた。
どうやら手紙の内容はそれほど長くはないが、半ばほどまで読み進めたところで源一郎な表情が険しくなってくる。
「それでなんと書いてあったの?」
難しい顔をして目元をもみほぐしだした源一郎に、まりおがそう尋ねる。
「簡潔に言おう。この手紙にはこう書いてある――」
その内容を源一郎はハンター達に伝えた。
『先代八代目詩天の暗殺の件、こちらは依頼通りに仕事を果たした。ついては約束していた報酬を頂戴したい』
青天の霹靂とはこのことを言うのだろうか。詩天の地を巡る騒乱の渦中に、ハンター達は今まさに巻き込まれようとしていた。
「それで、賊が最後に目撃されたのはどこなのかな?」
その捕り物劇に参加することになったハンター達。その中の1人である超級まりお(ka0824)は北区に入ったところで、警邏隊と共に走り回っている侍の1人を捕まえてそう質問した。
「むっ、お前たちが応援のハンターか。ああ、つい先ほど東の方で見かけたらしいが、その前は西の方だった」
「西に東にって、随分と忙しない賊野郎だね」
「全くだ。こっちをおちょくっているつもりなのか……」
その時、まりお達の耳に甲高い警笛の音が届く。どうやら今度は北の方に現れたらしい。
「ちぃっ、今度はそっちか。おい、行くぞお前達!」
侍はその笛の音のした方向へと走り出す。
「確かに振り回されてるみたいだ。でも、うーん……今考えてもしょうがないか。とりあえず捕まえないと」
どこか納得いかない賊の動きを不審に思いつつも、まりおは考えても仕方がなしと割り切り賊を追うことに集中することにする。
近くにあった塀の上に飛び乗れば、少し高い視点から街を見渡せる。そして警邏隊らしき沢山の人影が走り回っている場所を見つけて、まりおは口元を少し上げた。
「みーつけた。さあ、Bダッシュだ!」
まりおは塀の瓦を蹴り、騒ぎの中心目掛けて走り出した。
一方その頃、北区の別の場所ではとある屋敷の門の前で不動シオン(ka5395)が足止めを食らっていた。
「何故中に入れない?」
「主殿はただいま就寝中でございますので……」
シオンの言葉に門番らしき男は先ほどから同じ言葉を繰り返し、彼女が屋敷の中に入ることを拒否している。
「緊急事態と言っているだろう。周囲の騒ぎも知っているはずだ」
「ええ、勿論。しかし私の一存で見知らぬ者を敷居を跨がせるわけにはいかないのです」
シオンがどのような言葉を使おうとも、門番はのらりくらいとそれを躱して拒否し続ける。
「そこのハンターさん、何を言っても無駄ですよ。絶対に通してはくれません」
そこでその様子を見かねたのか警邏隊の一員らしき者がシオンに声をかけてきた。
「しかし、賊がこの屋敷の中にいるかもしれないのだぞ?」
「それなら家中の者が対処する、というのがこの街でのやり方なんです」
「人手は多い方がいいはずだが?」
「それは……そうなのですが、ね」
警邏隊員は肯定しながらも含みを持たせたような言い方をして苦笑している。
その時、また別の場所で警笛が鳴り響いた。
「おや、どうやら賊は別の場所に移動したようで。これでこの屋敷に用はありませんね?」
「……邪魔したな」
遠回しに「さっさと帰れ」と言われている。納得いかない感情を抱きつつも、ここに留まる理由がないのも事実なのでシオンは大人しく引き下がった。
同じ頃、岩井崎 旭(ka0234)は塀の上から地面に降り立った賊の影を捉えていた。
「見つけたぞ。追え、シーザー!」
嘶きと共に旭の乗る青毛の馬が駆けだす。その蹄の音に賊も気づいたようで、旭から逃げるように走りだした。
だが例え覚醒者と言えでも馬の走る速さに敵う訳がない。その距離はぐんぐん縮まっていく。
「こーゆー時なんて言うんだったか? そうそう、神妙にお縄を頂戴しな!」
旭は馬上でハルバードを構え、間合いに捉えた瞬間に賊の背中に向けて突き出した。
だが、賊は絶妙なタイミングで飛び上がり、旭のハルバードをひらりと避ける。
そしてそのまま塀の上へと降り立ち、その反対側へと姿を消してしまった。
「ちっ、身軽な奴だな」
旭は馬を止め、その背から飛び上がって自分も塀の上に立つ。だが賊の姿は塀の中には既になかった。
「そちら、ハンターの方とお見受けする!」
「んっ? ああ、俺はハンターだ。賊を見つけて追ってたんだが、この中に逃げられちまった」
声を掛けられた旭が塀の外側へ視線を向ければ数人の侍が塀の下からこちらを見上げていた。
「むぅ、そうでしたか。であれば、まずは許可を取らねば……」
「うん? 許可って何だよ?」
「むっ、いや、ここは詩天の中でも名のある方の住まいなのだ。我々でも無断で立ち入ることは許されない」
大人の事情と言う事か、どうやら北区で賊が逃げ回れているのはこういった理由があるかららしい。
旭はぽりぽりと頬を掻き、一度溜息を吐いて塀の上から馬上へと跳んで戻る。
「この屋敷の周りを一回りしてくる。そっちも早いところ頼むぜ?」
「かたじけない」
旭は馬を走らせながら思う。今回の仕事は思ったより面倒だな、と。
●渡河の攻防
北区のあちこちで人の喧噪と警笛の音が響いている。それは段々と中央区に向けて近づいているのを門垣 源一郎(ka6320)は感じていた。
「どうやらこっちに来るようだな。出番も近そうだ」
源一郎は馬に跨り、いつでも追跡できるように準備を整える。
それから数秒ほど待っただろうか。源一郎の目の前に黒尽くめの人物が降ってきた。
「さあ、お縄について貰おうか」
源一郎は警邏隊から借り受けていた警笛を一度鳴らし、それから手綱を操って馬を走らせた。
相手が覚醒者なら下手な手加減は無用。馬の速度を緩めることなく、源一郎は馬上から太刀を振るう。
それに対して賊の反応は早かった。それを腕で受けとめ、そのまま受け流したのだ。いや、太刀がぶつかった瞬間の金属音を聞くに腕に籠手を忍ばせていたようだ。
「ちっ!」
源一郎が馬を反転させると、賊は既に走り出しておりあっという間に離れていく。だが馬の脚なら追いつけないことはないと源一郎は馬の腹を蹴った。
その予想通り賊にはすぐに追いついた。が、その瞬間賊が懐から何かを取り出して地面に叩きつけた。
「なっ!?」
賊が叩きつけた球状の物から火薬が炸裂するような音と共に黒い煙が噴き出した。
その音に源一郎の乗る馬は怯え嘶き前足を跳ね上げる。源一郎は振り落とされまいと何とか堪えるが、馬の方は耐えきれずその場で転倒してしまった。
その間に賊は駆け、そのまま姿を消してしまった。
喧噪が近づいてくるのを感じて金目(ka6190)はぐっと大きく伸びをした。
まだ寝ぼけているのか、金目は整えきれていない髪を掻きながら立ち上がる。
「カリンさん、見えますか?」
『ええ、いらっしゃいましたよ』
金目が短電話越しにカリン(ka5456)に声をかけると、返事はすぐに返ってきた。
川を渡ってすぐの場所にある2階建ての建物の上で、カリンは身を隠しながら周囲の様子を窺っており、丁度今しがた件の賊が橋の前に姿を現した。
「悪いんだけどここは通さないよ」
賊が橋を渡ろうとしたところで金目がその前に立ちはだかる。手にした無骨な金槌を片手でくるりと回し、柄頭でドンッと橋の板を叩く。
それは威圧のつもりだったが、賊はそれを意にも介していないのか立ち止まることなく金目に接近してくる。
「はぁっ!」
それに対して金目は気合と共に金槌を振り回し横薙ぎに振るう。だが賊は驚くほど姿勢を低くし、それを潜り抜けた。
そして賊は金目の懐に入り込むと右手を突き出す。金目はそれに只ならぬ気配を感じて反射的にマテリアルの障壁を展開した。
賊の手が金目に触れる数センチ手前で展開された障壁は一瞬の拮抗の後、音を立てて砕け散る。そして金目の腹部にチクリとした痛みが走った。
『後ろに跳んでください!』
その時、金目の腰にある短電話から済んだ少女の声――カリンの指示が響いた。
金目はそれに従い、それで何かを察した賊もその場から後ろへと跳ぶ。瞬間、空気を裂く音と共に飛来した弾丸が橋の手摺りに着弾した。
『金目さん、大丈夫ですか?』
「あー、なんとか。毒とかはないみたいですし」
金目は腹部を抑えながらカリンに返事を返した。革鎧を貫通して腹部を刺したのはかなり先の細い針のようなものらしい。
『そろそろ他の皆さんも到着するはずです。抑えきりましょう!』
「了解。やるだけやってみましょう」
金目は金槌を持ち直し、賊を迎え撃つ構えを取る。カリンも彼を援護すべく賊の動きを逃さぬよう集中する。
と、その瞬間に賊は突然構えを解いた。低く前屈みにしていた体勢を止め、両手をだらりとさげたままその場で直立する。
「降参? って、そんなわけないですよね!」
金目は訝しみながらその様子を見ていると、賊の手元から何か丸い物が橋の上に転がり落ちてきた。そして、炸裂音と共に周囲に煙を撒き散らす。
「煙幕ですか!?」
カリンのような銃撃手としてこれほど厄介なものはない。
更に噴き出した煙幕に金目も飲み込まれ、視界が真っ黒な煙で殆ど遮られてしまう。
(だが、それならあちらも状況は同じ。こちらを捉えるのも……違う!)
金目は自分の真横を通り過ぎていく風の流れを感じ、咄嗟にそれに向けて手を伸ばした。
雷撃を纏わせたその手が掠りでもすれば相手の動きを阻害できる。だが、その手はそのまま何も掴むことなく空ぶってしまった。
そしてカリンの視界では煙幕から飛び出してきた賊の姿が見えていた。
「止まらないと撃ちますよ!」
警告するがそれで止まれば苦労はしない。そのまま走り抜けようとする賊に、カリンは迷わず引き金に指をかける。
「おい、何だ今の爆発は?」
と、その時障子の窓が開いた。そこから顔を出したのは中年の男だ。そして賊は何とその窓目掛けて飛び上がったのだ。
ここは街中。一般人がいるのは当然と言えば当然だが、今この瞬間までその事を考慮に入れてなかったことに気づく。
「えっ? のわぁ!?」
男は突然現れた賊に驚き後ろにひっくり返った。そして賊はそのまま部屋の中に侵入し、奥へと消えていった。
●満を持して
南区の最南端。外へつながる門を目の前に建物の上で真田 天斗(ka0014)と賊が対峙していた。
「私は真田天斗と申します。貴方様のお名前、聞かせて貰えないでしょうか?」
そう言って名乗った天斗に対し、賊の返礼は左腕を振るい何かを放つことだった。天斗は体を横へとずらしそれを避ける。
「それでこそ隠密の鏡と言えましょう。ただ、逃がすわけにはいきません」
天斗は拳を握り屋根を蹴って駆けだした。両者の間は数秒と立たずゼロとなる。
先に放たれた天斗の拳を賊は腕で払って外側へ弾き、体を捻りながら逆側の拳で天斗の脇腹を狙う。天斗はそれを余裕をもって避け、賊の側面に一歩踏み込み死角から裏拳を放った。
賊はまた籠手を忍ばせた腕でそれを防ぐ。だが、今度は対処が遅れたのか受け流せずそのまま受け止めた。
それをチャンスと見た天斗は足を跳ね上げ逆サイドからさらにもう一撃を狙うが、賊はそのタイミングで後ろに跳び天斗の蹴りは空を切った。
状況は振り出しに戻る。だが天斗としてはこれでいい。目的は時間を稼ぐことなのだから。
パキリと何かが割れる音が賊の背後で鳴った。そちらを見れば屋根の上に飛び乗ってきた旭の姿が見える。
「よくも散々走らせてくれやがったな、この野郎!」
そんな旭の言葉に、建物の下のほうで実際に走ったのは俺だと言わんばかりに青毛の馬が嘶いている。
「一応確認するけど、投降するつもりはある?」
同じく屋根の上に登ってきたまりおの言葉に、賊はそこで初めて人間らしい表情を見せる。
ニヤリと笑ったのだ。
「抑え込むぞ!」
旭がハルバードを構え突撃する。だがそれよりも早く賊は駆けた。そして更にそれよりも早く天斗はその前に回り込む。
「言ったはずです。逃がしはしませんと」
天斗の拳が賊を捉える。だが、それは賊の右肩を打つだけに留まり賊はその負傷を受けながらも強引にその場を突破した。
賊は既に門の目前だ。閉ざされた門を前にどうやって逃げる気かは知らないが、このままいかせては不味い事はわかる。
「逃げられるぞ!」
そんな誰かの言葉にニヤリと笑う者がいた。
と、そこで突然賊の足元に光の帯が走り地面を焼いた。それに反応して賊がその軌跡を辿れば、自分の頭上に影が差したことに気づく。
「少し痛いぞ?」
こちらを見上げてきた賊に、門の高い塀から飛び降りたミグ・ロマイヤー(ka0665)は落下しながらも僅かな親切心からそんな言葉を掛けた。
先ほど放った機導砲は外したわけではなく、賊の足を止める為のもの。そう、今立っているその場所が丁度いいのだ。
そして2つの影がぶつかる。ミグが小柄で少女のような体型とはいえ、40kgもの質量が頭上から高速でぶつかって持ちこたえられる人間などそうはいない。
案の定、賊はそのまま地面に叩きつけられる。そしてミグは賊が再び起き上がろうとする前に、右腕に装着した魔道ガントレットでその頭を掴んだ。
「すまないな。今度はかなり痛いぞ」
その言葉と共に賊の体中に紫電が駆け巡り、そこでぶつりと意識は途絶えた。
●疑惑の書状
賊を取り押さえたところで警邏隊や侍達も集まり、賊はあっという間に荒縄で縛り上げられた。
「本当にこれで終わりなんでしょうか?」
「と、言うと?」
カリンの言葉に反応したのは源一郎だ。どうやらカリンは気になることが残っているようだ。
「確かにな。アイツ、結局何も盗まなかったんだろう?」
どうやら旭も同じ疑問を持っているらしい。
「んー、確かにそうですね……でも単に盗みに失敗しただけでは?」
金目の言葉も尤もで、何も盗まれてないならそう考えるのが普通だろう。
「ふむ。ここは発想を逆転すると良いかもしれないのである」
「発想の逆転?」
「盗まれた物がないなら、寧ろ逆だったのではないのか?」
「盗むの逆って言うと……何かを届けに?」
ミグの言葉にハンター達は賊に改めて視線を向ける。
「ちょっと失礼するぜ」
「えっ? あっ、おい!」
旭は賊に近づくと、侍が止める間もなく男の服の中をまさぐりだした。
「布地の裏も探れ。こういう服には隠しポケットが多い」
「おっ、本当だ。詳しいんだな」
シオンの助言に旭は隠しポケットを見つけ、そしてその中から折りたたまれた紙きれを見つける。
「何だ、それは?」
侍のほうもそんな物が見つかるとは意外だったのか不思議そうな表情を浮かべる。
「読めば分かるだろう。エトファリカの文字なら俺に任せろ」
そう言って源一郎が手紙を手にし、そして開いて読み始めた。
どうやら手紙の内容はそれほど長くはないが、半ばほどまで読み進めたところで源一郎な表情が険しくなってくる。
「それでなんと書いてあったの?」
難しい顔をして目元をもみほぐしだした源一郎に、まりおがそう尋ねる。
「簡潔に言おう。この手紙にはこう書いてある――」
その内容を源一郎はハンター達に伝えた。
『先代八代目詩天の暗殺の件、こちらは依頼通りに仕事を果たした。ついては約束していた報酬を頂戴したい』
青天の霹靂とはこのことを言うのだろうか。詩天の地を巡る騒乱の渦中に、ハンター達は今まさに巻き込まれようとしていた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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怪しい影の捕縛 金目(ka6190) 人間(クリムゾンウェスト)|26才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/06/13 00:45:04 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/11 11:09:08 |