ゲスト
(ka0000)
【深棲】重装甲クラゲと逃げる騎士
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 3日
- 締切
- 2014/09/02 22:00
- 完成日
- 2014/09/09 23:04
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
騎士。
リアルブルーの戦場では数世紀前に居場所を失った存在だが、クリムゾンウェストでは今でも現役だ。
盾で受ければ拳銃弾も受け止める重装甲。
マテリアル抜きでも鉄板を切り裂く剣の腕。
それらを兼ね備えた騎士は、グラムヘイズ王国における主戦力の1つなのだ。
●
「逃げるんだよぉっ」
「馬鹿者! 明日に向かって転進と言えっ」
降り注ぐ触手の豪雨を切り払いながら馬を走らせる騎士が2人。
どちらもグラムヘイズ王国からの援軍であり、狂気との合流に失敗した雑魔や決戦から逃げ出した雑魔を刈り続けてきた凄腕達だ。
「先輩! タローがもちませんっ」
タローとは満年齢2歳の軍馬。選び抜かれ鍛え抜かれた彼は凄まじい健脚と獰猛な士気を兼ね備えているけれども、数時間全力疾走できるほどの持久力はない。
「ジローちゃんも」
ジローとは満年齢3歳の軍馬でジローの嫁候補兼先輩騎士の愛馬だ。タローより少しだけ体格と能力が高いがほとんど差はなく消耗も同程度。何故か吐く息が妙に色っぽい。
「馬鹿言ってないで走れ馬鹿!」
先輩騎士が馬が潰れない程度に速度を落として弓を構える。
狙うのは地表5メートルで彼等と並走するクラゲ型雑魔だ。
速度は馬に匹敵しても回避能力は低い。先輩式の矢が触手の森をすり抜け本体に直撃した。
直撃したのに、分厚い皮を貫通できず押し返されてぽとりと落ちた。
「先輩これって高位ヴォイドでは」
「このサイズなら雑魔だっ。我等にとって相性最悪のなっ」
逃走再開。騎士2人と軍馬2頭が力尽きるまで、後1時間である。
●
ハンターオフィス本部に新たな3Dディスプレイが現れる。
縁には赤文字で緊急とかWARNINGとかタスケテとか表示されぐるぐる回転中だ。
ディスプレイ中央には、分厚い全身鎧で身を固めランスと大盾と長弓を装備した騎士が映し出されている。
荒い画像でも騎士2人が必死に馬を操っているのが分かる。
2人の斜め後ろ上方にクラゲっぽい雑魔が1体……今増援が合流して2体になった。
何人かのハンターがディスプレイに視線を向けると、画面が分割され騎士が弓を使った場面が再生される。
「装甲が厚いな」
「猟銃ではダメージが通らないぞ」
ハンター達が率直な感想を述べると、ディスプレイの真下で踊っていたパルムがギルドショップに向かって駆け出した。
しばらくして、3Dディスプレイの済みに、アサルトライフル無料貸し出しマスの1文が追加されるのだった。
リアルブルーの戦場では数世紀前に居場所を失った存在だが、クリムゾンウェストでは今でも現役だ。
盾で受ければ拳銃弾も受け止める重装甲。
マテリアル抜きでも鉄板を切り裂く剣の腕。
それらを兼ね備えた騎士は、グラムヘイズ王国における主戦力の1つなのだ。
●
「逃げるんだよぉっ」
「馬鹿者! 明日に向かって転進と言えっ」
降り注ぐ触手の豪雨を切り払いながら馬を走らせる騎士が2人。
どちらもグラムヘイズ王国からの援軍であり、狂気との合流に失敗した雑魔や決戦から逃げ出した雑魔を刈り続けてきた凄腕達だ。
「先輩! タローがもちませんっ」
タローとは満年齢2歳の軍馬。選び抜かれ鍛え抜かれた彼は凄まじい健脚と獰猛な士気を兼ね備えているけれども、数時間全力疾走できるほどの持久力はない。
「ジローちゃんも」
ジローとは満年齢3歳の軍馬でジローの嫁候補兼先輩騎士の愛馬だ。タローより少しだけ体格と能力が高いがほとんど差はなく消耗も同程度。何故か吐く息が妙に色っぽい。
「馬鹿言ってないで走れ馬鹿!」
先輩騎士が馬が潰れない程度に速度を落として弓を構える。
狙うのは地表5メートルで彼等と並走するクラゲ型雑魔だ。
速度は馬に匹敵しても回避能力は低い。先輩式の矢が触手の森をすり抜け本体に直撃した。
直撃したのに、分厚い皮を貫通できず押し返されてぽとりと落ちた。
「先輩これって高位ヴォイドでは」
「このサイズなら雑魔だっ。我等にとって相性最悪のなっ」
逃走再開。騎士2人と軍馬2頭が力尽きるまで、後1時間である。
●
ハンターオフィス本部に新たな3Dディスプレイが現れる。
縁には赤文字で緊急とかWARNINGとかタスケテとか表示されぐるぐる回転中だ。
ディスプレイ中央には、分厚い全身鎧で身を固めランスと大盾と長弓を装備した騎士が映し出されている。
荒い画像でも騎士2人が必死に馬を操っているのが分かる。
2人の斜め後ろ上方にクラゲっぽい雑魔が1体……今増援が合流して2体になった。
何人かのハンターがディスプレイに視線を向けると、画面が分割され騎士が弓を使った場面が再生される。
「装甲が厚いな」
「猟銃ではダメージが通らないぞ」
ハンター達が率直な感想を述べると、ディスプレイの真下で踊っていたパルムがギルドショップに向かって駆け出した。
しばらくして、3Dディスプレイの済みに、アサルトライフル無料貸し出しマスの1文が追加されるのだった。
リプレイ本文
●いつかは戦馬を
メリエ・フリョーシカ(ka1991)が愛馬から身を乗り出して遠くを眺めた。
「あぁ……れっぽいですね! あれです! 確実!」
握り拳を振り上げたり元気よく手を振ったりしているのに、まるで固い地面に足をつけているかのように安定している。
「ロキ! 向こうで騎士様乗るかもだけど、ちゃんと言う事聞くんだよ! ハイヤッ!?」
愛馬との連携がわずかではあるが崩れた。
「わたしがついてるんだからね! 大丈夫、怯えちゃだめだよ」
速度を落として落ち着いた口調で宥める。
それで連携の齟齬は無くなったものの、馬は遠くの雑魔に怯えてしまっていた。
「ここまでだな」
シガレット=ウナギパイ(ka2884)が自分の馬から下りる。
彼の馬も雑魔に気づいて恐怖している。騎乗技術を駆使すれば騎乗したまま雑魔と戦うこともできるだろうが、腰の退けた馬など的にしかならない。
「馬肉にする訳にもな」
ちらりと視線を向けると、馬は申し訳無いと言いたげに頭を下げていた。
「テンペスト、後は任せたぞ」
リュー・グランフェスト(ka2419)の愛馬が力強く嘶いて、180度反転してから駆け出した。
それを見て事態を把握したのだろう。後続の騎乗ハンター3名も停止して馬から下りようとしていた。
「戦馬か」
シガレットの視線の先には、騎乗した状態で雑魔と戦うというより逃げ続けている2人の騎士がいる。人馬ともに疲れ切っていても恐れた様子は全く無い。
「いいよな」
リューがにやりと笑う。自分の馬を育てれば戦馬になるのか、別に買うしかないのかは分からないが、騎士として戦士としていつかは手に入れたい存在だった。
●救援第一陣
「タローしっかりしろぉっ」
情けない声をあげる騎士と息も絶え絶えな戦馬と、地上数メートルに浮かぶクラゲ型雑魔。
そこから約40メートルの場所で、白金 綾瀬(ka0774)が慎重に狙いをつけていた。
名残惜しげな愛馬からの視線を背中に感じるが気にしている余裕はない。
「ちょっとギリギリの距離だけど……狙い撃つわ!」
距離、角度、風、そして大気の状態を読み取り、唯一の解であるタイミングで引き金を引いた。
覚醒者の筋力でも抑えきれない反動が体を揺らす。騎士ごと馬を貫こうとした触手がいきなり引き上げられる。綾瀬の銃弾が本体を下から押し上げたのだ。
照準を調整しつつ微かに眉を動かす。雑の一字があるとはいえ相手はヴォイド。数割の確率で回避されると覚悟していたのに、驚くほど回避の動きが鈍かった。
「こっちを向きなさい」
第2射。
2体目の雑魔、騎士の弓では抜けなかった装甲を、アサルトライフルの銃弾が紙のように破っていた。
「お前ら! 馬が潰れる前にこっちに来い!」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)がタワーシールド級の大型盾を構えたまま、しかもほぼ全速力で駆けながら大声で呼びかける。
「好き勝手言いおって」
「助かったぁ」
騎士2人が荒い息を吐きつつ馬を急かす。
空に浮かぶ雑魔3体のうち2つは綾瀬に向けて移動中だが、残る1体が速度が急減中の馬の尻を刺し貫こうとした。
ボルディアが割り込む。
パイルバンカーじみた触手とシールド「パヴィス」が正面衝突する。
盾の表面に小さな傷がつき、強烈な衝撃がボルディアの腕から背中へ抜けていく。
動物霊により強化されたボルディアは完璧に耐えきった。けれど余裕はない。盾での受けに成功すればたった一撃で酷い傷を追いかねない。
「おいおいどうしたどうしたァ? そんなんで俺を壊せるかァ?」
そんなことをいっさい感じさせない動きで第2第3の触手を盾で防いでいく。
「騎士様! 私達はソサエティより救援に派遣されたハンターです! 殿は私達にお任せ下さい!」
メリエの声が銃声にまぎれて聞こえた。
疲労し負傷した騎士達は完全には聞き取れなかったようだが、この状況で何を言われたのかの想像はつく。彼女とボルディアに目礼し、2人の横を通過した。
「拝見するにそちらの馬達は疲労が限界だと思われます! そのあたりにいる馬へお乗換え下さい!」
「くっ……承知した」
「ジロー、タローも、もう少しだけ頑張れ」
騎士2人はそれぞれの愛馬から降りて、意識が途絶えそうになる体に鞭打ち後方へ向かう
「ちぃっ」
触手でボルディアの盾が横移動を強いられ、即座に繰り出された肉色触手がボルディアの腹へ突き出される。
とっさに身を退くと同時に筋肉で耐える。
はらわたを揺さぶられてこみ上げる吐き気を飲み下し、肉色触手を太刀でぶった切った。
「浮力が意味不な怪物ですね!」
マニュアル用映像に使えるほど鮮やかな動きでメリエがロックを解除。
「とっとと萎んで落ちろ!」
引き金を引かれたアサルトライフルが連続で吼え、ボルディアが食い止めていた雑魔に多数の穴を開けた。
「逃げるなぁっ」
雑魔は己の敗北を悟り、刀と弾で削られながらその場で浮かび上がった。
●援護射撃
綾瀬がリロードに使った時間はわずかだが、雑魔が少しだけ落ち着く程度の長さはあった。
雑魔は綾瀬を目指しても延々射撃をくらうだけと判断し、ようやく換え馬に乗ったばかりの騎士達目がけて急加速する。
「避けて」
マテリアルがみっちりつまった弾が多数の穴を開けていく。しかし2体の雑魔はまだ倒れない。
「後は任せな!」
リューが騎士と雑魔の間に割り込む。
割り込むだけでなく三日月斧を振り上げたまま跳躍、己と防具と得物の重さを一点に集中してクラゲ雑魔の脳天を直撃した。
騎士が必死に矢を打ち込んでもかすり傷しかつかなかった装甲が、半ばまで切り裂かれてそこから透明の何かが噴き出す。
大気より比重の軽い気体のようだが気にしている暇はない。
リューが再度の斬撃を繰り出し、当然のように命中し、残念なことに装甲に阻まれ切れ目をつけるにとどまる。
「いいぞ、お前らの相手は俺たちだッ!」
シガレットが構える魔導拳銃。その側面に描かれた五芒星から1射ごとに光が消えていく。
狙うのはリューによって装甲を裂かれた雑魔ではなくその隣の健在な1体だ。今はとにかく騎士の安全を確保するため注意を引きつけることが優先だ。
射撃し、反撃の触手を盾で受け流し、追撃を行い、再反撃の触手を盾で受ける。
雑魔の中心部に大穴が空きその周囲にも多数の小穴が開いていく。でもまだ雑魔の動きは元気なままだ。対照的に騎士達の動きは鈍い。気力で補うのもそろそろ限界だ。
「徒歩の銃撃班が来るまでの辛抱だ!」
シガレットは射撃を中断して声援を送る。
雑魔2体がリュートシガレットに触手の雨を降らせ、しかしほとんどダメージらしいダメージを与えられずに終わる。
シガレットが展開したプロテクションの効果だ。
「気張っていくぞォ!」
雑魔の装甲の切れ目に向け撃つ、と見せかけてヒールを発動。
騎士の傷を癒して万一に備える。自身の攻撃的な雰囲気まで利用することで、シガレットは騎士とその馬たちを完全に守り抜くのだった、。
●総攻撃
雑魔を滅ぼせるだけの銃弾と銃本体を抱えての全力疾走数十分。
並の軍人でも倒れかねない苦行の果てに、藤林みほ(ka2804)達はようやく雑魔の射程に捕らえることに成功した。
「ま、まさか初陣が、ら、ライフルもって行軍するなんて」
荒い息を吐きつつ安全装置を解除。
銃口を斜め上方の雑魔に向けて、腕に適切な力を込めて狙いをつける。
「身も蓋もあったもんじゃないわね」
愚痴とは対照的に構えは完璧であった。が、背後から聞こえる足音に気づいて姿勢が崩れてしまう。
「騎士殿、お逃げください!」
ハンターから馬を借りた騎士2人が、怯える馬を御しきれず身動きがとれていない。本人達は逃げながら騎射するつもりでも馬がついていけていないのだ。
「気持ちは分かるがな」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)が外見年齢の4倍に見える渋い顔でひとつため息。
「戦う気があるなら下馬しろ」
騎士達は諦めて鞍から飛び降り弓を構える。
「馬さん! そっちに! そっちに逃げるなのよっ!!」
モニカ(ka1736)が雑魔に背を向け力強く安全な方向を指さす。
疲れ果てた戦馬2頭とハンターの馬たちが、みほの誘導へ従い勢いよく駆けていった。
雑魔がいる方向から聞こえる剣戟と着弾の音に別種の音が聞こえる。騎士の矢が届き始めたのだ。
「いかんな」
ミグの表情がますます渋くなる。
騎士の腕は疲労の分を差し引いても決して悪くない。8割方命中しているしこのまま撃ち続ければいつかは急所に当てることもできるかもしれないが……。
「無理は駄目なのっ!!」
モニカの手の中で銃口が吼える。
銃弾が雑魔の逃げる先を潰し、前衛の攻撃が確実に当たるようになる。けれど相変わらず騎士の矢に効果は無い。
「総員」
ミグが大きく手を振る。
「あっ」
みほの銃がわずかにずれる。
狙いが上にずれて全て外れるかと思いきや、モニカの弾から逃げるため急上昇したクラゲ雑魔に直撃し小さくない穴を開ける。モニカの牽制がもともと低いクラゲ雑魔の回避能力を0かそれ未満に押し下げ、撃てば当たるという状況を作り出していた。
「照準合わせー」
みほは頭を振って気を取り直し銃を構え直す。
ミグの声を頼りにタイミングをあわせ。
「撃ちー方ーはじめ」
そっと引き金を引いた。
ミグが1発毎にリロードしながら、みほが連射の反動を覚醒者の筋力で押さえ込んで引き金を引きっぱなしにする。銃口から銃身にかけての温度がみるみる上がっていく。
「うわぁ」
若い方の騎士が情けなさと羨望の入り混じった顔で固まる。
銃弾は1発ごとに重装甲雑魔の装甲を削り、1連射で装甲の半分ほどを消し飛ばしていた。
ぷしゅん、と間の抜けた音が聞こえ、1体目のクラゲ雑魔が細かな砂のように崩れて消えていく
「見よ、今こそ我らの結束なる一撃により敵の城塞を陥落せしめん。目標を第2に変更! どんな重装甲とて無敵ではない。諦めずに撃ち続けるがよい」
ミグ達は緊張を解かない。
モニカがきゅゅっと口元を引き締めて再装填と狙いの微修正を行う。
3丁の銃による三重奏。
「んんっ」
「頑丈な」
モニカとミグの顔色は2体目に全弾命中させてはいるが顔色はよくない。
銃が嵩張り運搬のため消耗したからだ。
「忍術を使う機会が欲しいでござるよ」
ミグとモニカの銃で掘り進めた装甲に、みほが1ミリもずらさず弾を当てる。
形はクラゲ、皮の厚さは巨大熊以上の装甲が呆気なく爆ぜ割れて、ぺきりと狩る大戸を建てて真っ二つに割れた。
「あれが中心……でござるか」
みほは現代兵器を使いこなしながら、日々の修業で培われた観察眼で敵を見据える。
銃撃で崩壊した装甲の奥、真っ当な生き物に喧嘩を売った形のなにかがうごめいていた。
「くぅ」
狙ったのに外れる。
唇を噛むみほだが十分に仕役目を果たしている。彼女達が射程ぎりぎりで射撃を行うことでハンター前衛への圧力が減る。雑魔はハンター前衛と彼女達の2方向からの攻撃をかわすことも有効に防ぐこともできず逃げようとする。
いや、逃げることも出来ず純粋に力だ圧倒されて装甲が中身ごと崩れて落ちていった。
残るは1体。回避も防御も完全に捨てて、斬撃と銃弾を浴びながらも明後日の方向へ逃げだそうとしていた。
「誰が、逃げていいと言ったなのよ」
モニカの声が響いた瞬間、2人の騎士は背中に氷の冷たさを感じた気がした。
小さな手が、成人用に設計製造されたアサルトライフルを完璧に制御する。
鈍く響く銃声が大気を震わせ、無防備な雑魔の腹に直撃して食い破る。
クラゲ型がゆやゆら揺れつつ傾き、自身の触手を巻き込みながら地面に落下する。土煙があがってすぐに風に吹き消されたときには、地面に開いた穴しか残っていなかった。
「撃ち方止め」
ミグの号令で引き金から手を離す。
「後続は?」
「見える範囲にはいないでござる。……熱っ」
みほは自分の手に平を何度が吹いてから安全装置をかけた。
ミグが前衛に戦闘終了の合図を送り、モニカも安全装置をかけてから振り返る。
「騎士の人たちは無事かな? なのよ??」
周囲を見回し、何故か怯えている騎士達に気づき、不思議そうに小首を傾げる。
見た目通りの明るく可憐な少女にしか見えなかった。
「う、む」
「ありがとうお嬢さん」
騎士達が兜を外して礼をする。髪は汗まみれで頭に張り付き、汗と砂と何かが混じった臭いが酷い。
「使え」
ミグがタオルを投げ渡す。
若い方の騎士が笑顔で軽く受け取ろうとして、足が萎えてその場に尻餅をつきその頭にタオルが落ちる。
「誰か怪我してる人がいたら応急手当するわよ」
駆け足で戻って来た綾瀬が清潔な包帯を取り出す。
騎士の周囲をぐりりとまわると、全身に細かな怪我はあっても深刻な傷は見つからない。
「筋肉痛?」
膝の裏をつつくと、騎士が呻いて全身を震わせた。
「鍛え方が足らんぞ」
落ち着いた方の騎士がちくりと言ってから咳払い。深々とハンター達に頭を下げた。
「助かった。礼を言わせてもらう」
「困ったときはお互い様さ」
戻って来たボルディアが戦場に相応しい笑みで応える。
「射撃訓練まじめにやればよかったぜェ」
シガレットがホルスターを叩いて苦々しげにぼやく。
「あの雑魔に有効打を浴びせた貴公にそう言われたら我等の立つ瀬がないな」
騎士はほろ苦く笑う。
帰国後徹底的に鍛え直すつもりではあるが、ここまで銃器に活躍されると宗旨替えしたくなってしまう。
「だいじょうぶ! 何か困ったことがあったら、いつでもモニカ達を頼ってね! なのよっ」
モニカが小さな胸を張る。
「ああ。そのときは是非お願いしよう」
騎士達は笑顔でうなずいて、疲れた馬たちと共にもと来た道を戻っていくのだった。
メリエ・フリョーシカ(ka1991)が愛馬から身を乗り出して遠くを眺めた。
「あぁ……れっぽいですね! あれです! 確実!」
握り拳を振り上げたり元気よく手を振ったりしているのに、まるで固い地面に足をつけているかのように安定している。
「ロキ! 向こうで騎士様乗るかもだけど、ちゃんと言う事聞くんだよ! ハイヤッ!?」
愛馬との連携がわずかではあるが崩れた。
「わたしがついてるんだからね! 大丈夫、怯えちゃだめだよ」
速度を落として落ち着いた口調で宥める。
それで連携の齟齬は無くなったものの、馬は遠くの雑魔に怯えてしまっていた。
「ここまでだな」
シガレット=ウナギパイ(ka2884)が自分の馬から下りる。
彼の馬も雑魔に気づいて恐怖している。騎乗技術を駆使すれば騎乗したまま雑魔と戦うこともできるだろうが、腰の退けた馬など的にしかならない。
「馬肉にする訳にもな」
ちらりと視線を向けると、馬は申し訳無いと言いたげに頭を下げていた。
「テンペスト、後は任せたぞ」
リュー・グランフェスト(ka2419)の愛馬が力強く嘶いて、180度反転してから駆け出した。
それを見て事態を把握したのだろう。後続の騎乗ハンター3名も停止して馬から下りようとしていた。
「戦馬か」
シガレットの視線の先には、騎乗した状態で雑魔と戦うというより逃げ続けている2人の騎士がいる。人馬ともに疲れ切っていても恐れた様子は全く無い。
「いいよな」
リューがにやりと笑う。自分の馬を育てれば戦馬になるのか、別に買うしかないのかは分からないが、騎士として戦士としていつかは手に入れたい存在だった。
●救援第一陣
「タローしっかりしろぉっ」
情けない声をあげる騎士と息も絶え絶えな戦馬と、地上数メートルに浮かぶクラゲ型雑魔。
そこから約40メートルの場所で、白金 綾瀬(ka0774)が慎重に狙いをつけていた。
名残惜しげな愛馬からの視線を背中に感じるが気にしている余裕はない。
「ちょっとギリギリの距離だけど……狙い撃つわ!」
距離、角度、風、そして大気の状態を読み取り、唯一の解であるタイミングで引き金を引いた。
覚醒者の筋力でも抑えきれない反動が体を揺らす。騎士ごと馬を貫こうとした触手がいきなり引き上げられる。綾瀬の銃弾が本体を下から押し上げたのだ。
照準を調整しつつ微かに眉を動かす。雑の一字があるとはいえ相手はヴォイド。数割の確率で回避されると覚悟していたのに、驚くほど回避の動きが鈍かった。
「こっちを向きなさい」
第2射。
2体目の雑魔、騎士の弓では抜けなかった装甲を、アサルトライフルの銃弾が紙のように破っていた。
「お前ら! 馬が潰れる前にこっちに来い!」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)がタワーシールド級の大型盾を構えたまま、しかもほぼ全速力で駆けながら大声で呼びかける。
「好き勝手言いおって」
「助かったぁ」
騎士2人が荒い息を吐きつつ馬を急かす。
空に浮かぶ雑魔3体のうち2つは綾瀬に向けて移動中だが、残る1体が速度が急減中の馬の尻を刺し貫こうとした。
ボルディアが割り込む。
パイルバンカーじみた触手とシールド「パヴィス」が正面衝突する。
盾の表面に小さな傷がつき、強烈な衝撃がボルディアの腕から背中へ抜けていく。
動物霊により強化されたボルディアは完璧に耐えきった。けれど余裕はない。盾での受けに成功すればたった一撃で酷い傷を追いかねない。
「おいおいどうしたどうしたァ? そんなんで俺を壊せるかァ?」
そんなことをいっさい感じさせない動きで第2第3の触手を盾で防いでいく。
「騎士様! 私達はソサエティより救援に派遣されたハンターです! 殿は私達にお任せ下さい!」
メリエの声が銃声にまぎれて聞こえた。
疲労し負傷した騎士達は完全には聞き取れなかったようだが、この状況で何を言われたのかの想像はつく。彼女とボルディアに目礼し、2人の横を通過した。
「拝見するにそちらの馬達は疲労が限界だと思われます! そのあたりにいる馬へお乗換え下さい!」
「くっ……承知した」
「ジロー、タローも、もう少しだけ頑張れ」
騎士2人はそれぞれの愛馬から降りて、意識が途絶えそうになる体に鞭打ち後方へ向かう
「ちぃっ」
触手でボルディアの盾が横移動を強いられ、即座に繰り出された肉色触手がボルディアの腹へ突き出される。
とっさに身を退くと同時に筋肉で耐える。
はらわたを揺さぶられてこみ上げる吐き気を飲み下し、肉色触手を太刀でぶった切った。
「浮力が意味不な怪物ですね!」
マニュアル用映像に使えるほど鮮やかな動きでメリエがロックを解除。
「とっとと萎んで落ちろ!」
引き金を引かれたアサルトライフルが連続で吼え、ボルディアが食い止めていた雑魔に多数の穴を開けた。
「逃げるなぁっ」
雑魔は己の敗北を悟り、刀と弾で削られながらその場で浮かび上がった。
●援護射撃
綾瀬がリロードに使った時間はわずかだが、雑魔が少しだけ落ち着く程度の長さはあった。
雑魔は綾瀬を目指しても延々射撃をくらうだけと判断し、ようやく換え馬に乗ったばかりの騎士達目がけて急加速する。
「避けて」
マテリアルがみっちりつまった弾が多数の穴を開けていく。しかし2体の雑魔はまだ倒れない。
「後は任せな!」
リューが騎士と雑魔の間に割り込む。
割り込むだけでなく三日月斧を振り上げたまま跳躍、己と防具と得物の重さを一点に集中してクラゲ雑魔の脳天を直撃した。
騎士が必死に矢を打ち込んでもかすり傷しかつかなかった装甲が、半ばまで切り裂かれてそこから透明の何かが噴き出す。
大気より比重の軽い気体のようだが気にしている暇はない。
リューが再度の斬撃を繰り出し、当然のように命中し、残念なことに装甲に阻まれ切れ目をつけるにとどまる。
「いいぞ、お前らの相手は俺たちだッ!」
シガレットが構える魔導拳銃。その側面に描かれた五芒星から1射ごとに光が消えていく。
狙うのはリューによって装甲を裂かれた雑魔ではなくその隣の健在な1体だ。今はとにかく騎士の安全を確保するため注意を引きつけることが優先だ。
射撃し、反撃の触手を盾で受け流し、追撃を行い、再反撃の触手を盾で受ける。
雑魔の中心部に大穴が空きその周囲にも多数の小穴が開いていく。でもまだ雑魔の動きは元気なままだ。対照的に騎士達の動きは鈍い。気力で補うのもそろそろ限界だ。
「徒歩の銃撃班が来るまでの辛抱だ!」
シガレットは射撃を中断して声援を送る。
雑魔2体がリュートシガレットに触手の雨を降らせ、しかしほとんどダメージらしいダメージを与えられずに終わる。
シガレットが展開したプロテクションの効果だ。
「気張っていくぞォ!」
雑魔の装甲の切れ目に向け撃つ、と見せかけてヒールを発動。
騎士の傷を癒して万一に備える。自身の攻撃的な雰囲気まで利用することで、シガレットは騎士とその馬たちを完全に守り抜くのだった、。
●総攻撃
雑魔を滅ぼせるだけの銃弾と銃本体を抱えての全力疾走数十分。
並の軍人でも倒れかねない苦行の果てに、藤林みほ(ka2804)達はようやく雑魔の射程に捕らえることに成功した。
「ま、まさか初陣が、ら、ライフルもって行軍するなんて」
荒い息を吐きつつ安全装置を解除。
銃口を斜め上方の雑魔に向けて、腕に適切な力を込めて狙いをつける。
「身も蓋もあったもんじゃないわね」
愚痴とは対照的に構えは完璧であった。が、背後から聞こえる足音に気づいて姿勢が崩れてしまう。
「騎士殿、お逃げください!」
ハンターから馬を借りた騎士2人が、怯える馬を御しきれず身動きがとれていない。本人達は逃げながら騎射するつもりでも馬がついていけていないのだ。
「気持ちは分かるがな」
ミグ・ロマイヤー(ka0665)が外見年齢の4倍に見える渋い顔でひとつため息。
「戦う気があるなら下馬しろ」
騎士達は諦めて鞍から飛び降り弓を構える。
「馬さん! そっちに! そっちに逃げるなのよっ!!」
モニカ(ka1736)が雑魔に背を向け力強く安全な方向を指さす。
疲れ果てた戦馬2頭とハンターの馬たちが、みほの誘導へ従い勢いよく駆けていった。
雑魔がいる方向から聞こえる剣戟と着弾の音に別種の音が聞こえる。騎士の矢が届き始めたのだ。
「いかんな」
ミグの表情がますます渋くなる。
騎士の腕は疲労の分を差し引いても決して悪くない。8割方命中しているしこのまま撃ち続ければいつかは急所に当てることもできるかもしれないが……。
「無理は駄目なのっ!!」
モニカの手の中で銃口が吼える。
銃弾が雑魔の逃げる先を潰し、前衛の攻撃が確実に当たるようになる。けれど相変わらず騎士の矢に効果は無い。
「総員」
ミグが大きく手を振る。
「あっ」
みほの銃がわずかにずれる。
狙いが上にずれて全て外れるかと思いきや、モニカの弾から逃げるため急上昇したクラゲ雑魔に直撃し小さくない穴を開ける。モニカの牽制がもともと低いクラゲ雑魔の回避能力を0かそれ未満に押し下げ、撃てば当たるという状況を作り出していた。
「照準合わせー」
みほは頭を振って気を取り直し銃を構え直す。
ミグの声を頼りにタイミングをあわせ。
「撃ちー方ーはじめ」
そっと引き金を引いた。
ミグが1発毎にリロードしながら、みほが連射の反動を覚醒者の筋力で押さえ込んで引き金を引きっぱなしにする。銃口から銃身にかけての温度がみるみる上がっていく。
「うわぁ」
若い方の騎士が情けなさと羨望の入り混じった顔で固まる。
銃弾は1発ごとに重装甲雑魔の装甲を削り、1連射で装甲の半分ほどを消し飛ばしていた。
ぷしゅん、と間の抜けた音が聞こえ、1体目のクラゲ雑魔が細かな砂のように崩れて消えていく
「見よ、今こそ我らの結束なる一撃により敵の城塞を陥落せしめん。目標を第2に変更! どんな重装甲とて無敵ではない。諦めずに撃ち続けるがよい」
ミグ達は緊張を解かない。
モニカがきゅゅっと口元を引き締めて再装填と狙いの微修正を行う。
3丁の銃による三重奏。
「んんっ」
「頑丈な」
モニカとミグの顔色は2体目に全弾命中させてはいるが顔色はよくない。
銃が嵩張り運搬のため消耗したからだ。
「忍術を使う機会が欲しいでござるよ」
ミグとモニカの銃で掘り進めた装甲に、みほが1ミリもずらさず弾を当てる。
形はクラゲ、皮の厚さは巨大熊以上の装甲が呆気なく爆ぜ割れて、ぺきりと狩る大戸を建てて真っ二つに割れた。
「あれが中心……でござるか」
みほは現代兵器を使いこなしながら、日々の修業で培われた観察眼で敵を見据える。
銃撃で崩壊した装甲の奥、真っ当な生き物に喧嘩を売った形のなにかがうごめいていた。
「くぅ」
狙ったのに外れる。
唇を噛むみほだが十分に仕役目を果たしている。彼女達が射程ぎりぎりで射撃を行うことでハンター前衛への圧力が減る。雑魔はハンター前衛と彼女達の2方向からの攻撃をかわすことも有効に防ぐこともできず逃げようとする。
いや、逃げることも出来ず純粋に力だ圧倒されて装甲が中身ごと崩れて落ちていった。
残るは1体。回避も防御も完全に捨てて、斬撃と銃弾を浴びながらも明後日の方向へ逃げだそうとしていた。
「誰が、逃げていいと言ったなのよ」
モニカの声が響いた瞬間、2人の騎士は背中に氷の冷たさを感じた気がした。
小さな手が、成人用に設計製造されたアサルトライフルを完璧に制御する。
鈍く響く銃声が大気を震わせ、無防備な雑魔の腹に直撃して食い破る。
クラゲ型がゆやゆら揺れつつ傾き、自身の触手を巻き込みながら地面に落下する。土煙があがってすぐに風に吹き消されたときには、地面に開いた穴しか残っていなかった。
「撃ち方止め」
ミグの号令で引き金から手を離す。
「後続は?」
「見える範囲にはいないでござる。……熱っ」
みほは自分の手に平を何度が吹いてから安全装置をかけた。
ミグが前衛に戦闘終了の合図を送り、モニカも安全装置をかけてから振り返る。
「騎士の人たちは無事かな? なのよ??」
周囲を見回し、何故か怯えている騎士達に気づき、不思議そうに小首を傾げる。
見た目通りの明るく可憐な少女にしか見えなかった。
「う、む」
「ありがとうお嬢さん」
騎士達が兜を外して礼をする。髪は汗まみれで頭に張り付き、汗と砂と何かが混じった臭いが酷い。
「使え」
ミグがタオルを投げ渡す。
若い方の騎士が笑顔で軽く受け取ろうとして、足が萎えてその場に尻餅をつきその頭にタオルが落ちる。
「誰か怪我してる人がいたら応急手当するわよ」
駆け足で戻って来た綾瀬が清潔な包帯を取り出す。
騎士の周囲をぐりりとまわると、全身に細かな怪我はあっても深刻な傷は見つからない。
「筋肉痛?」
膝の裏をつつくと、騎士が呻いて全身を震わせた。
「鍛え方が足らんぞ」
落ち着いた方の騎士がちくりと言ってから咳払い。深々とハンター達に頭を下げた。
「助かった。礼を言わせてもらう」
「困ったときはお互い様さ」
戻って来たボルディアが戦場に相応しい笑みで応える。
「射撃訓練まじめにやればよかったぜェ」
シガレットがホルスターを叩いて苦々しげにぼやく。
「あの雑魔に有効打を浴びせた貴公にそう言われたら我等の立つ瀬がないな」
騎士はほろ苦く笑う。
帰国後徹底的に鍛え直すつもりではあるが、ここまで銃器に活躍されると宗旨替えしたくなってしまう。
「だいじょうぶ! 何か困ったことがあったら、いつでもモニカ達を頼ってね! なのよっ」
モニカが小さな胸を張る。
「ああ。そのときは是非お願いしよう」
騎士達は笑顔でうなずいて、疲れた馬たちと共にもと来た道を戻っていくのだった。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 7人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2014/09/02 13:41:05 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/31 03:19:35 |