薬草園の猫、地下潜る

マスター:狐野径

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/06/14 15:00
完成日
2016/06/20 05:58

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●猫とともに
 グラズヘイム王国の小さな町にある薬草園。その薬草園で働くというか面倒を見てもらっているコリンは初めてのお遣いに出ていた。
 薬草園で仕事することはする。小さな町の中で動き回ることもある。
 大きな隣町に行ったことはなかった。この町に来て一年近くたつが、誰かのお供でもなかった。
 馬に乗れないため、乗合馬車に乗っていくこととなる。道もまっすぐであるし、問題ないはずだった。
 乗り場で待っていると、薬草園に住み着いたユグディラのうち若いと思われる茶トラの毛並みのチャがやってきた。本名はチャイロー・クズーハというのだが、言葉が通じない関係でチャという名になった。
 チャはコリンを見上げ、キラキラ輝く目を向ける。
「……まさか、お前も行きたいのかい?」
 こくりと首を縦に振る。
「……クロはそのことを知っているのかな?」
 首を横に振る。
「だめだよ、心配させちゃうよ?」
 コリンはしゃがんで視線を合わせる。
 チャから不満そうな雰囲気が漂う。
『おいらね、大きな町見てみたいにゃ! おとなしくしているから、一緒に連れて行ってにゃー』
「……僕、説得されている気がする」
『お願いにゃ』
 チャは前足を首当たりで合わせている。
「……でも、僕も初めていくところなんだ。ジャイルズさんのいう園芸店もすぐ見つかるかわからないし」
 ジャイルズとは薬草園の主でジャイルズ・バルネという。
『おとなしくするにゃ!』
 ちょうど馬車がやってきた。コリンが乗ろうとしたがチャもついてくる。
「前足はおろしてね」
 根負けしたコリンはチャにささやく。
『わかったにゃ!』
「おじさん、あの、猫も連れて乗ってもいいですか?」
 コリンは御者に尋ねる。
「おとなしくしてくれるならいいが、騒いだらおろすぞ?」
「わかりました」
 コリンはチャを抱きかかえ、馬車に乗った。

●町の見物
 大きな町はやはり違った。人が多いし、商店街という存在があること自体違う。
 緊張する中、教わった道を探して進む。大きな道というのがはっきりしているおかげで、初めてでも迷うことはなかった。
 園芸店を訪れ、発注していた種をもらってお金を払う。
「帰りの馬車まで時間があるからちょっと見て行こう」
 コリンはうきうきした。お遣いさえ終われば、心の余裕も生まれる。もらっていた小遣いも少し持ってきているので、気になるものがあれば購入することもできる。
 買い食い、という魅惑の言葉が脳裏をよぎる。住む町でお金を使うことがほとんどない。駄菓子を買うこともあるが、
 チャもうきうきした。楽しい匂いが漂ってくるから。

●案の定
 乗合馬車の時間が迫る中、コリンはハンターズソサエティに駆け込む。
 しかし、依頼を出すにはお金がいる。
 こんな理由で出していいのかと途方に暮れる。
 職員と目が合った。
「初めまして依頼かな? それとも新入りさんかな? この町の職員の一人のロビン・ドルトスっていうんだ、よろしくね」
 にこにこと優しくさわやかな笑顔でロビンは告げる。
「ロビンさん、この依頼受けたいです」
「だめです! 大体、領主様から止められています」
「コボルド退治です!」
「でも危険は危険です」
 奥にいたハンターらしい少年に声をかけられ、ロビンは戻っていく。
 コリンは場違いだと思って出ようとした。
「君、用があるなら、ロビンさんに話していったほうがいいですよ?」
 少年が気づいてコリンを止める。
「で、でも」
「ロビンさんは話を聞くのも仕事です」
 少年に言われ、ロビンが受付のところまでくる。コリンに席を勧める。
「あの、猫を探してください」
「猫? ペットかな?」
「えと、そんな感じです。商店街のはずれの下水に入っちゃって……」
「壊れてたのかな」
 会話を聞いた少年が隣に座った。
「……ですよね」
 ロビンが渇いた笑いを浮かべる。
「あなたが受けてくださるんですか?」
「違う、たぶん受けるというと怒られるんです。でも、下水道に不備があるならそれは領主の管轄です」
「……?」
「申し遅れました。私は、ここの領主シャールズの子、リシャール・べリンガーと申します」
「え、えええ!?」
 コリンは驚いた。
 領主など雲の上の存在だ。その息子がこんなところにいるとは考えたことはない。それに、年齢は同じくらいのようだ。
 コリンは状況を話した。
 チャが下水道に下りる扉を開けて入って行ってしまったと。
 落ち度はチャにあるのだ。
「なぜかわからないんですが、入って行ってしまいました」
「……」
 この瞬間、リシャールとロビンが目を泳がせる。二人は視線が合った瞬間、違和感に気づく。
「待ってください、猫何ですか?」
「猫が開けられるような扉ではないはずだ」
 コリンは冷や汗を流した。黙っていたら話が進まない。
「ユグディラなんです……」
「ああ」
 二人が納得したという顔になる。
「リシャール様、この際だからついでに言っちゃっていいですか?」
「何かあるんですか?」
「実は、地下に大きなネズミがいるとか蛇がいるとか、邪教『生水凧根』がいるとか、強盗団がいるとか……」
「……その無法地帯ですか」
「そ、そうなんですよ。治安悪化はしていないんですが、噂がまとまり次第、領主様にお願いを出そうとしたんですよ」
「……邪教って」
 歪虚がらみの事件があったばかりなため、リシャールは眉を寄せる。
「早急に解決しないとだめですね。わかりました。下水道の調査を依頼しましょう」
 リシャールはきっぱり言った。
 ユグディラが潜った位置は商店街の外れの入り口。あとの噂があるのは町のあちこちに分散はしている。
「私も行きます!」
「だめです。あなたはここでコリン君といてください」
 ロビンに戻されリシャールはため息交じりに椅子に戻った。
「あの、すみません」
「謝ることはないんですよ? まあ、チャ君は説教ですけど!」
「そうですね」
 コリンは安心が生じて微笑んだ。
「馬車、間に合うかな……」
「……先に戻りますか?」
 連絡をするにもチャを一人にするのも問題だ。
「なら、私が手紙を届けましょう」
「だめですよ! 貴族の方にそんなこと……」
「何を言っているんですか! 君が戻るのがいいけれど、チャ君が見つかったとき知らない人ばかりになる。それなら、私がぱっと行って戻ってくるのがいいんです。ポチだって走るの好きなんですから」
 ポチとは表にいる立派な馬の名前らしい。
 コリンはジャイルズへの伝言をリシャールに頼み、ソサエティの事務所で待つことになった。

リプレイ本文

●捜索開始
「地下の捜索予定があって1つ増えたところでどういうことはない」
 ロニ・カルディス(ka0551)は情報を確認しつつ地図を眺める。
「チャは好奇心盛りだからなぁ……野生動物の危機感知で元気だといいな」
 ザレム・アズール(ka0878)は乾いた笑いが漏れた。ネズミより強そうだがネズミに追われる猫もいる。
「チャちゃんも街が楽しくてうっかり離れてしまったのですね。心配でしょうけど無事に連れても帰るからここで待っててね」
 ソナ(ka1352)はコリンに優しく話しかける。
 コリンはホッと息を吐いて「お願いします」と頭を下げた。
「それにしても……足元にある下水道にこれだけの噂があるのは落ち着かないな……」
 鞍馬 真(ka5819)は眉をしかめる。邪教の名前を見て首を傾げる、何か引っかかるのだった。
「ユグディラのチャさま……素敵なの……しもべとして、ぜひモフモフぷにぷにさせていただきたいの」
 ディーナ・フェルミ(ka5843)は荷物の中に猫用ブラシ、ツナ缶、ジャーキーなどがあることを確認する。
「ほいほーい! 整備されているとはいえ、少なからずも汚れちゃうと思うんですよ。いざとなったら、お仕事のあとのお洗濯は頑張りますよー」
 小宮・千秋(ka6272)は元気よく告げると、つけてある犬のたれ耳と尻尾が合わせて飛び跳ねた。

●噂
 地下を調査する前に噂の実態を調べる。

 街の南側で噂を集めるロニとザレム、巨大蛇が出るとのこと。
 ロニが聞いたところによると大きさがまちまちだ。
「蛇好きの人が逃がした上、尾ひれがついたから……」
 というような核心を突く話をしてくれた人がいた。ペットで長さ2メートル近く、毒はないとのこと。
 一方でザレムは蛇が出るあたりに来る、猟犬のシバと。出現ポイントは日向とのこと。
 水が流れ出る箇所は鉄格子もあるが、蛇なら出入りできそうである。
 ふすふすと匂いを嗅いでいるシバは「気にするようなものはない」と言っているようにザレムには見えた。

 街の西に向かった真は区画が広いことに気づく。家が一軒一軒大きく裕福な者が多く住む地域と判断できた。
 人通りの少ない夕方であるが、話術を駆使し通りすがりや家の裏口で話を聞く。
 強盗団が潜んでいる噂はある。その真偽を疑う人も少なからずいた。
 潜んでいるとはいえまだ事件が発生していないため、様子見から独自に警備を強化しているといった対応の差があり、足並みはそろっていなかった。

 ペットを連れて千秋は町の北側に向かう。聞こえた噂は「変な集団がおり生水凧根」と名乗っているということだった。
「邪教だって話ですがぁ?」
 と会話の切り出しで千秋が言うが、決まって相手は大笑いを始める。
「そうそう、邪教ね! うんうん。見つけたら叱ってあげてね」
 黒猫とマルチーズを撫でて立ち去っていくのだった。

 東側に向かったディーナ。
 拍子抜けするくらい平和だった。領主の家が比較的近いからか、他の町への馬車発着場があるからか。
「まあ、ネズミがちょっと多いかもしれないけど」
「それはそれで問題ですよね」
 ディーナは同情しつつ、時間を考え戻っていった。

 ソナはソサエティの周囲で話を聞いた。
 巨大ネズミの影を見たとか、通常サイズのネズミが東に逃げて行ったみたいとかは聞く。
「いざとなったらハンターさんがいるところが近いし」
 というような話が聞かれた。もし、何もしなければソサエティの責任になりかねない。
 さて、調査に出たハンターが戻り、地図に情報を書き込む。
「ネズミが東に行っているというのは……他のところが賑やかだからかもしれませんね」
 ソナの推論に否定要素もない。
「入り口ってユグディラ様が入ったところ以外もあるの?」
 ディーナは地図を覗き込むと何か所かに同じ印がある。
「二手に別れてしらみつぶしに確認をするのがいいな?」
 ロニが確認を入れると、異議はなかった。4つの噂を一気解決しようとすると、失敗の恐れもあるため妥当だ。
「ユグディラって何食べるかわからないな……」
 真はツナ缶を荷物に入れる。
「なんでも食べている気がしますが、薬草園の動物は無事です」
「……え? 無事って!?」
 ザレムの脳内、ユグディラがヤギを捕まえるシーンがよぎってしまった。
「さあ出発ですねー」
 千秋は荷物からライトを取り出した。

●地下にもぐる
 チャが潜った扉から下に行く。チャが周囲に潜んでいるなら発見は早い。
「餅は餅屋……黒猫さんならわかるでしょうか?」
 千秋がそっと黒猫を置く。黒猫は匂いを嗅いでから少し、嬉しそうにした後ぐったりしている。
「シバ、お前もその猟犬としての力を見せてくれ」
 ザレムが犬にチャを抱えていたコリンの服で試す。
 シバは頑張ったが、困ったように振り返る。
「……あの……匂いが多すぎるんではないでしょうか」
 ソナが動物の様子を代弁する。
「何か猫さまが夢中な匂いがするの?」
 ディーナが黒猫をゴロゴロさせながらいう。
「ユグディラが猫に近いなら、それでおびき寄せられたのか?」
「可能性の一つだろう。さあ、行こう」
 真にうなずきながらロニは先に下りた。

 明かりに照らされた下水道は清潔とはいっても下水道であるため避けられない空気は漂う。
 通路に立つと天井にぶつけそうになるが、千秋は問題なく、ディーナは届かないが頭部分をすりそうでやや恐怖を覚える。
「巨大ネズミ、推定雑魔はこの辺りにいるんだな?」
 ロニが注意を促す。
「連絡を取り合えばなんとなりますよー。まだまだ弱い私ですが、マルチーズさんと黒猫さんとワンニャンコンビネーションで頑張りますよー」
 気合が入る千秋をディーナが「よろしくなの」とほほ笑んだ。

 まずはザレムとディーナと千秋組。南下してから東回りで北に向かう。
「チャー」
「チャさま」
「猫さんー」
 声をかける。ザレムは剣で壁をたたき合図もするが、特に返答はない。
 しばらく進み、ザレムが二人を止めるしぐさをした。シャカシャカと走る音がかすかに聞こえてきた。
「……うっ」
 ディーナがモフモフした生き物が好きでも、お付き合いしたくない存在がやってきた。
「全力で排除してかまわない類」
「わかりましたー」
 デルタレイ、セイクリッドフラッシュが飛び、こぶしがうなった。ネズミの雑魔が無に戻るのはあっという間だった。

 ロニとソナ、真は別ルートを歩く。
「あの……この先、ネズミの集団がいる気がします」
「音がするような……確かに集団ぽい音だな」
 ソナと真は躊躇した。探すのに行きたい、ただのネズミでも集団は危険だ
「近寄って確認はしたほうがいいのだろうが……」
 ロニは眉間にしわを少し寄せる。
「そうですね」
「まずは声をかけてみるか?」
 真に提案にソナとロニがうなずき、チャの名前を呼び掛けた。ネズミが立ち去るような音が響くが、悲鳴等はなかった。
 しばらくして三人は見に行くが、不穏な跡もなかった。

 ザレム、ディーナと千秋は部屋の中をみたりしつつ進んだ。通路の先にいるのは倒していいのかまずいのか、悩ましい蛇1匹。
 長さ2メートルほどあっても毒がない種類のようだ。
 三人は短く話し合った結果、捕まえてソサエティに預けるということとなった。

 蛇捕獲の話を聞き、ロニたちは調査を続ける。
 部屋を見た後、部屋でも西と北だけだとわかる。もう一方の班に連絡を取り、ともに向かうこととする。
 人間であろう盗賊団と邪教を逃すわけにもいかないためだ。バラバラに行動するより、確実だ。
 盗賊団をまず捕まえに行く。西側にある部屋に隠れていた。ハンターが動き回るのに気づいて息を殺してじっとしていたようだがあっさりと捕まる。凶悪そうな外見はしていた。
 尋問は警邏に任せるとして先に進む。チャがまだ見つかっていなかった。

●邪教?
 扉の前で猫がうっとりする。
 犬が激しく匂いを嗅ぎ、落ち着きがなくなる。
 どぶの匂いになれたハンターの鼻に新しい香りが来る。
「前のあの草の匂いに似ている?」
「そうかもしれません」
 ザレムとソナはチャが薬草園に滞在するきっかけになった場にいた。そこに猫に大人気の匂いを発する草があったのだった。
 ハンターは聞き耳を立てる。
 なんとなく猥雑な音が聞こえる。真は無意識に千秋のそばにいた真がその耳をふさいだ。
「悩んでも仕方がないの! ここにチャさまがいる場合、きっとあんなことやそんなことをさせれているかもしれないの」
「いや、猫派なら……あ、匂いをかがれている?」
「は、破廉恥な!」
 ディーナと真は早くしないとと焦る。
「確認してから考えよう」
「そうだな」
 ロニとザレムが悩みを断ち切った。
「いつでもいいですよ」
 魔法を使う準備も整え、ソナは請け負った。

 バン!

 部屋にいたのは男たち。扉が開いた時点で硬直した。年齢は二十歳以上、体格はもやしから筋肉、ビール腹まで、共通項は見えない。
 壁には猫を描いたポスターがいくつも貼られ、棚には愛らしいぬいぐるみが鎮座している。
 部屋の正面の台には酔っぱらったようなチャがいた。
 訪れる沈黙。
 無言でツナ缶を用意する真とディーナ。ああ、やっぱりというような生暖かい視線の二人は、なんとなく邪教は怪しいのだが、猫にかかわる何かだと各々推測していた。
 最初に動いたのはディーナだった。
「お会いしたかったの、チャさま! もにもにぷにぷにさせてくださいなの!」
 男たちの集団をものともせずにディーナは突き進み、台の上でゴロゴロするチャを抱き起した。
「ああ、毛づくろいが必要なのです! う、動きません!? まさか、あまりの可愛らしさに邪教集団からもふもふぷにぷにされまくって尊厳を失いかけている?」
 ゴゴゴと怒りが吹きあがるディーナ。
「なんだって! そ、それは大変だ! 猫派オーラがしていたから、きっと安全だろうとは思っていたのだが! ヒールかキュアで治るのか? ロニさん! 聖導士の力で何とかしてください!」
 真がロニに問いかける。
「……いや……」
 ロニは冷静を心がけ邪教の集団を見渡す。たぶん、毒は違う。
「知り合い猫なんだが、君たちが何をしたのか……教えてくれるかな」
 冷静を心がけるザレムの目がすわっている。
 ソナはこの混乱をどう治めるのがいいのかおろおろする。チャがひどい目に遭ったのは間違いないだろう、撫でくりまわされるという。匂いも毒性ではなくマタタビのような状況になっているだけだろう。
「チャさんが見つかってよかったです」
 怪我もしていないためひとまずの目標。
「そうですよー、普通の人みたいですし、お話を聞いてみましょう? お茶入れましょう」
「そうだな。……いや、お茶はひとまず不要だ」
 千秋にザレムは答えた。
 逃げられないとわかった邪教の人たちは自らまとまって座り、ハンターを見上げる。
「我々が研究に研究を重ね作った、猫大好き香り玉で酔っぱらっている状態です」
 邪教の代表者が答え、そのにおいの元が入っている器を出した。
 ソナはそれを受け取って確認をする。もわっとした感じの香りがする、あの草のように。
「やはり動物が好きそうですね」
 ソナの足元に黒猫が寄る。
「この猫が特殊だと気づいて連れてきたのか?」
 ロニがチャを指さし淡々と尋ねる。
「いや、たまたま猫集めをしていた者の後をついてきたんだ」
 ここに来るとき下水を通ってくるという。強盗団やらネズミの集団やらがいることは知っているが知られたくない趣味のため地下を使っているという。
「それにしても、ここで何をしていたのかと聞いていいか?」
 ロニも周囲を見てなんとなく理解しているが、ここははっきりさせるところだ。
「わ、我々は何も悪いことをしていない」
 「そうだ!」と団員の声が重なる。
「ただ、猫とかふわふわしたものが好きなんだ。あまりにもみんなに『きもーい』と言われて」
「わしなんか、店の者からこわもてで通っておる。わしだって猫や可愛いものが好きだ! だが……だが、イメージが」
 などという怨嗟の叫びを次々と聞く。
「もふもふは偉大です! しかし、悪事を働くようにこそこそするのは良くないのです」
「そうですね。イメージとはおっしゃりますが……そこから始まる付き合いもあるかもしれませんし」
 ディーナとソナがそれとなく諭す。
「ひょっとしたら、知り合いはこのことを知っているのかもですねー」
 千秋は聞き込みしたときの妙な大笑いはそれではないかと告げる。
「素直に言っちゃったほうがいいんじゃないのかな……」
 ザレムは棚にあるぬいぐるみを眺め、怒りを覚えてしまった自分を顧みて溜息をつく。
「危うく、邪教として捕縛されるところだったんだぞ? 君たちの行動によって今困っている子がいるんだ。この猫の……連れが」
 真に言われた瞬間、邪教徒改めただの猫好き集団はうなだれた。

●名前
「ただいま戻りましたー、守備は上々です」
「よ、よかった、チャ!」
 千秋の明るい声に、コリンがほっとし、ディーナからチャを受け取る。
「ちょっといいかな? さて、久しぶり、俺を覚えているかな?」
 ザレムはだいぶ酔いからさめたチャに声をかける。チャはうなずいた。
「ミルクもあるからあとでゆっくり飲んでくれ……ツナ缶も積まれているから適当に食してくれ」
 真とディーナがあれこれ積んでいる。
「黙って行っちゃだめだよ?」
「そうだな、コリン君がどれだけ心配していたか」
 ザレムと真に言われ、チャはうなだれた。
「それに、仲良くなりたいとも思っているから君と話しもしたかった」
 ザレムの言に、ディーナと真の力強いうなずきが加わる。チャはきょとんとなる。
「人間語ってわかるんだよね? 俺の名前を教えるから……また会えたら」
 仲良くしたかったザレムは紙に書きながら読む「チャ、ザレム」と。
 それに加え、他のハンターも名前を書いて読み上げる。
 チャはじっと字を見ている。ソサエティの中にある張り紙を目にして前足で指す。
「さすがですの! ユグディラのチャさま! 字がお分かりになられる!」
 ディーナが褒める。
「賢いとらしいからな……まずは自分の名か? ひょっとして書けるようになるのか?」
「火打石で火をおこすからできるかもしれないです」
 ロニにコリンが答えた。
「ユグディラって二足で歩くだけの猫さんではないんですねー」
 千秋は驚く。
「猫とどこが違うのか……お、ここの毛が逆立っているよ、直してあげよう」
 真はそわそわしながら、チャを受け取って撫でる。意外と撫でるタイミングがなく、ようやく訪れる至福の時。
「ふふっ……助けたお礼に撫でまわされたくなければ、無茶をしてはいけないですよ。それに、一緒に暮らしているのですから、約束を決めておいたほうがいいかもしれませんね」
 ソナはチャに言うが聞いていないようだ。コリンが代わりに「はい」と答えていた。

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参加者一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • エルフ式療法士
    ソナ(ka1352
    エルフ|19才|女性|聖導士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 一肌脱ぐわんこ
    小宮・千秋(ka6272
    ドワーフ|6才|男性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/06/11 20:41:47
アイコン 相談・お猫さま探し
ディーナ・フェルミ(ka5843
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/06/14 01:37:29