あの日の思いを胸に刻んで

マスター:芹沢かずい

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~3人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/06/15 22:00
完成日
2016/06/21 05:18

みんなの思い出

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オープニング


 王国に迫っていた危機——ベリト襲来。王国は、ベリトと、彼女が率いていた歪虚の軍勢を退けた。
 数多のハンターの命を賭した戦いがあった。軍勢を迎え撃つ者、城壁を護る者。王国の中心ならずとも、巡礼路においても戦いはあった。
 その中の一つ。田舎の、最近では通過点としてのみ存在しているような、小さな田舎の教会で起こった事件だ。

 それは、何の前触れもなく訪れた。
 普段ならば聞こえてくる筈の、子供たちの楽しそうな声と、穏やかな老司教の声。それが聞こえなくなって数日。
 不審に思った近隣の村人と、彼らに要請されたハンター達を出迎えたのは、継ぎ接ぎだらけの顔をして、流暢に話をする歪虚。歪な顔には不釣り合いな、純白の翼までをも背に負って。
 この歪虚が原因だった。教会に寝泊まりしていた老司教と、身寄りを無くした子供たちの命を奪い、堕落者として操っていたのだ。
 さらに歪虚は森に棲まう動物達を雑魔化させ、ハンター達を襲わせたのだ。    
 ハンター達は素晴らしい連携で雑魔・堕落者を倒して行った。そのことに慎重にならざるを得ないと判断したのか、或いはヤツが狡猾だったのか。……堕落者と雑魔の掃討はできたものの、元凶の『継ぎ接ぎ』には逃亡を許してしまった。かなりのダメージを与えたことは間違いないのだが、何事かを喚きながら教会の後ろ、断崖絶壁に吸い込まれるようにして落ちて行った。
 その消息は、不明。……やりきれない思いだけが、ハンター達の心にひっそりとわだかまる。


『くっ……くふふふ……っ……』
 闇の深淵に身を置き、未だ現世との繋がりを維持している『それ』。
 少し前、ハンターや王国騎士団、聖堂戦士団が命を賭して発動させた法術陣は、巡礼路であるこの場所でも遺憾なくその力を発揮した。
『アレの直撃を避けられたのも……あのお方のご加護があってこそ……。まぁ、わたくしがあの程度で滅びることはないと思いますがね』
 呟く声は、忌々しいあの継ぎ接ぎの天使。翼は片方が根元近くまで消え去り、片足も半ば程まで無いのだが、ヤツにとってはそれほど気にするものでもないらしい。
 それよりも、自分をこんな姿に追いつめてくれたハンター達への怒りの方が大きかった。
『……あのお方のお力になるのがわたくしの役目……。新たにこちらの戦力を増やし、それからあのお方の元に帰りましょう……』
 ベリトの目的を知ってか知らずか、『継ぎ接ぎ』はここに居続けていた。ここが巡礼路の一つであることに変わりはない。とすれば、いずれ人間がやって来る。……壊れかけの教会を建て直すためか、或いは先の事件で死んだ者たちを弔いに来るか……。そこが狙いだった。


 少しばかり険しい山道を抜け、開けた場所に出る。鬱蒼とした茂みを抜けた先には、広場と呼べるような場所があった。事件を知る者にとっては、忘れ難い因縁の場所。
「少し時間が経ってしまったが……ここで亡くなられた司教様たちの御霊が救われるよう……少しでも我々で出来ることをしよう……」
 声を詰まらせ、絞り出すように話すのは、この地に新たにやってきた司教。後ろで、手伝いにやって来た村人数人が沈痛な面持ちで頷いている。
「さあ、そんな辛気くさい顔をしていたんじゃ、死んでった奴らも心配で浮かばれないぞ。俺たちはここから始めるんだ! 全てを、新たな気持ちでな!」
 最後尾についてきていたハンターの一人が、皆を励ますように声を上げた。
 そう、今、自分たちは生きている。壮絶な戦いを乗り越え、多くの犠牲の上に立ってはいるが、これからどう生きるか。それが、今を生きる自分たちに与えられた試練とも言うべきもの。
「……ああ、そうだな」
 静かに、村人も同意を示し、己の手を強く握り締める。

 ——その時。

 風が吹いた。
 黒くわだかまる『何か』を纏うような、不気味な風だった。
『!』
 ハンター達が一斉に身構える。……彼らが見据える先は、教会の屋根の上。

 そこに、『それ』は居た。

 破れた翼を広げ、片足は半ばまでしかない。それでもその顔は、歪んだその継ぎ接ぎは、口角を異様なまでにつり上げて笑みの形を作っていた。
『お待ちしておりました……』
 厳かな口調で、彼らを迎える『それ』は、羽織った白い外套の汚れもそのままに、ばさあぁっ、と広げる。
 そしてやはり、周辺の森から現れる動物型の雑魔たち。テスカ教の頂点に近い場所に立つのに相応しく、小振りながらも純白の翼を背に負っている。

『さあっ! 今からでも遅くはないのです! これまでの行いを悔い改め、共に安寧の地へと旅立ちましょう!』

リプレイ本文


「どこへ消えやがったのかと思ってみりゃァ、まさか同じ所へのこのこと出戻ってきやがった……芸がねえやら、探す手間が省けたやら……」
 相手を確認するまでもなく、J・D(ka3351)が苛立ちを垣間見せる声色で呟く。
 ジャック・J・グリーヴ(ka1305)は、その高揚した声を耳にした瞬間から臨戦態勢に入っている。
「気に喰わねえ……全く持って気に喰わねえなクソ天使さんよ……俺様が下げたくもねえ頭下げてあんのクソ蜘蛛を帰らせたってのに……何でてめえはまだ此処にいんだ、アァ!?」
 右手の甲には紋様の様な痣。ジャックの怒りに呼応し、鮮やかに光輝いている。
(王都の決戦の場……あの場に居なかった以上、絶対どこかに潜んでいると思ってた……そう、絶対に、また現れると思ってた……)
 松瀬 柚子(ka4625)の中に、死をも恐れぬ強い決意が湧きあがる。
「また会いましたね……」
 静かに澄み渡っているようだが、恐ろしいまでの殺意を孕んだその言葉を、それは何処か嬉しそうに聞いている。
「引導を渡しに来ました。……その首、貰い受ける」
 言ってゆらりと動きだす柚子。敵を見据え、しなやかに動くその様子は、瞳に宿す猫のようだ。
『ふふふ……頼もしいですねぇ……?』
 耳障りな口調で余裕を見せる継ぎ接ぎ。
「私は直接因縁がある相手ってわけじゃないけど……しつこいのはさっさと無に帰って欲しいわね」
 小さく呟き、改めて戦場となる広場を確認するティス・フュラー(ka3006)。
(この配置ならば、確実に仕留められる……継ぎ接ぎの魔法攻撃にカウンターマジックを合わせられれば……)
 彼女のやや前方に柚子、やや後方にJ・Dと柏木 千春(ka3061)。
 後衛はウィンス・デイランダール(ka0039)とジャック。
(あの戦いで失ったものは多いけれど、……それでも進むべき道を、一歩ずつ。それが、残された私にできる、唯一のことだと思うから……)
 目の前に居るのは、遠くない過去に王国に危機をもたらした一連の出来事の片影に過ぎない。だが、千春もまた決意を口にする。
「……ここで、倒しましょう」

『っ!?』

 カッ……!

 一瞬だった。空が光る。次の瞬間には衝撃に襲われた。
『くふふふ……前回は油断しましたからねぇ、挨拶代わりですよ』
 雷の余韻が残る広場に、恍惚とした声が響いた。

 ……辺りが静まり返る。
 
 継ぎ接ぎの哄笑が消えた。
『……何故……そこまで生きることに苦しむのです……?』
 そこには、衝撃から身を起こし、更なる闘志を燃やすハンター達の姿。反射的に動いた彼らは、自身を盾に村人達を護っていた。
「……上等だ……」
 地面に近い場所から、怒りを孕んだ声が聞こえた。何度でも立ち上がる。その矜持を貫くジャックだ。
「そっちが先に取決を反古にしたんだ。そんなら徹底的にブチのめしても文句は言わねえよなァ!?」
『取決……そんなものもあったようですねぇ。あのお方は気まぐれなのですよ。ただこちらとしては、使えるモノは多いに越したことはないのでねぇ』
 継ぎ接ぎの声に反応するように、雑魔たちが動き出す。

『グルルル……』

 ハンター達を取り囲むようにしていた狼型雑魔が、その牙の餌食となる者を物色している。地面を這う蛇型雑魔もまた、同様に。
 翼持つ敵を前に、ウィンスは思う。
(……俺は負けた。圧倒的に敗北した)
 記憶が蘇る。
(だが今、不思議と心は凪いでいる……敗北に己の身を焼いていたあの頃とは違う……)
 ここに居る千春、柚子、ジャック。あの戦いで共に傷や痛みを負った。彼らはもう前を向き始めている。
 ……今の敵に向かう為だけでなく、敗北の痛みを乗り越えて、彼らは既に前進している。
(俺が泣き言なんかを言えば、きっとグロウナイトの連中は指をさして笑うだろうな。……くだらねえ。……ああ、くだらねえ感傷だ……)
 自嘲気味の笑みを浮かべると、その体内にはすでにマテリアルの激流が出来ていた。吐息が白く凍り付くような感覚。倒すべき敵に向かう、守りを捨てた構え。
(ひとまず目の前の戦いだが……J・Dのおっさんに譲ってやろう。……やれんのかよ、おっさん)
 継ぎ接ぎとは因縁のあるJ・Dに視線を向ける。
「今度こそ引導をくれてやる」
「……は、上等だ」
 J・Dの言葉に短く応えるウィンス。

『オオオオォオッッ……!』

 ジャックが前に出る。炎のようなオーラを纏い、獅子の如き雄叫びを上げた。
 獲物を物色していた雑魔たちは、一斉にその視線、その牙をジャックへと向け、次の瞬間には体に見合わぬ翼を駆り、飛び跳ねるように猛然と迫る!
「消え去れ……ッ!」
 ウィンスの大身槍が風を切って唸りを上げる。
 大きく踏み込んで突き出された『蜻蛉切』……その穂先から青白いマテリアルが伸び、迫ってくる雑魔たちを容赦なく貫く! 
「俺様は討ち漏らした畜生を撃ち抜くぜ」
 冷気を纏って猛るウィンスとは対照的に、炎のようなオーラを身に纏い守りに徹した構えを取りつつ、ジャック。
「何だとてめぇっ!」
 不敵に口角を上げて告げるジャックの言葉がウィンスの闘争心を煽る。狙い通り、と腹の内で思いながらさらに挑発する。
「まぁクソちび君の実力ならぁ? 討ち漏らしとかねぇとは思いますけどぉ? 万が一って事もありますしぃ?」
 引き付けた雑魔の動きに油断なく注意を払いながら、ウィンスが乗ってくるのを待つ。
「……っ、あぁそーだな! 万が一ってこともあるかも知れねえなー? てめぇは巻き添え喰わねえように精々頑張って俺の攻撃範囲から逃げる算段でもしてやがれ!」
 ジャックのオーラに引き込まれるように集まって来る雑魔たち。仲間の姿は射程内にはない。すでに継ぎ接ぎへの対処に回っているはずだ……ジャック以外。
「喰らいやがれッ!」
 前方の敵を容赦なく薙ぎ払う、ウィンスの『爆氷』。夥しい数の氷柱を成したマテリアルが、眼前に迫る敵を無差別に貫き、前方一帯を呑み込む!
「……ちっ」
 いつの間に攻撃範囲から離脱したのか、逃れていた雑魔を撃ち抜くジャックの姿を見て、小さく舌打ちするウィンス。
 ひんやりと、その場の空気が冷えてきたようにさえ感じる。彼らにとって、雑魔の存在は取るに足りないモノだったようだ。
 ……雑魔掃討は完了だ。


「俺は村人を連れて一旦離脱する」
 ウィンスは仲間に短く告げると、村人を引き連れて元来た道を戻る。
 少し下りた所に、材木置き場があったはずだ。村人からその場所を聞き出し、向かう。そこならば、戦闘の巻き添えになることもないだろう。

 村人達の先頭に立って進むウィンスを見送ると、ジャックは継ぎ接ぎに向き直る。
 継ぎ接ぎは未だ屋根の上。今回もまた逃亡を図るつもりだろうか。
 自らが造り出した雑魔が、いとも容易く無に帰した。それをただ見ていたそれは、何事かを思案するように首を巡らせる。
『お強いですねぇ……今からでも、逃げた村人達を呼びましょうか』
 そう言うと、継ぎ接ぎは外套を翻す。……だが、そうはさせない。
「先ほども言いましたね。……ここで倒すと」
『!』
 千春の放った光の杭が数本、それの動きを封じた。短時間であっても、動きを封じることはその先の未来、結果を変える。

「それにしても、随分汚い身なりで……。そんなこ汚い羽虫に導きだ何だと喚かれても……威厳も何もあったもんじゃないですねぇ?」
 
『っ?』
 突如放たれた柚子の言葉が継ぎ接ぎを穿つ。マテリアルを込めて移動力を上げた柚子が、教会の壁を蹴って継ぎ接ぎに肉迫していた。
『なっ……いつの間に……ッ?』
 完全に不意を突かれた継ぎ接ぎが思わず声を漏らす。
「はあっ!」
 鋭く短い気合いと共に、柚子の持つ白銀の刃が閃く!
『くぅっ……』
 足元を薙ぐ刃に、たまらずうめき声を上げる継ぎ接ぎ。
 その時、柚子の身体を光が覆った。……千春によって、彼女の抵抗力が強化される。
『鬱陶しいのですよ! 人間風情がぁ……っ!』
 継ぎ接ぎを中心に、空が光る……!

 ……が、それは発動しなかった。

『……な……何故……?』
 己が信じて疑わなかった『力』が、掻き消された。……いや、そうではない。発動を阻止したのは、それの動きを見逃さなかったティスのカウンターマジックだった。
 その事実に、しばし呆然とする継ぎ接ぎ。ティスが挑発の一言を浴びせる。
「……偉そうにしていた割に、こんな小娘一人も安寧に導けないみたいね」
(さっきのは油断した……でも次からはさせないわ)
『おのれ……ッ』
 継ぎ接ぎは薄汚れた外套の下から剣を引き抜くと、ティスへと攻撃目標を絞る。そこにJ・Dの言葉が重なった。
「天使を気取る割にぁ頭の方はそう良くもねェらしい。それで一体、どれだけ人様を真当な道から突き落としやがったやら」
 継ぎ接ぎはその剣の矛先を向ける相手を迷い、わなわなと怒りを露に何事かを呟いている。

 ガウンッ!

『ぐ……』
 隙を逃す筈もなく、J・Dの冷気を纏った弾丸がその胸板を貫く。放たれた冷気に、苦痛の呻きを上げる継ぎ接ぎ。
『……あのお方の崇高なる目的があってこそ……! わたくしは人々を安寧へと導こうとしているのですよ……!』
「お前まだベリトがどうの言ってんのか?」
 ジャックが放つその言葉に、歪んだ顔をさらに醜く引きつらせる。
「ハハッ、滑稽だなオイ! そんだけあのクソベリトを慕ってんのにてめえもベリトの真実を知らなかったのかよ!?」
『……何で……て……』
「あいつはベリトなんて名前じゃねえ、メフィストってんだよボケ」
『そ、そんなこと……知らないとでも思っていたのですか……? わたくしは……そう、あの麗しいお姿が好きなのでね……』
 ここまで言って、己のプライドを傷つけられたことに対する怒りが、臨界を突破したようだ。醜い継ぎ接ぎの顔が、壊れかけの玩具のように不気味な動きを見せる。
『……ッ、このわたくしをここまで侮辱するとは……許せませんねぇ……頭が高いのですよ! 平伏しなさいっ!』
『!』
 ……それが放った『命令』は、全てのハンターに届く。
「くうッ……!」
「柚子さん!」
 最も近くにいた柚子は、必死の抵抗を試みる。
「私は……私は神も天使も大ッ嫌いなんですよ……天の使いを名乗るアンタの声なんか、聞き入れるかぁッ!」
『な、自力で……っ?』
「かつて手前が堕落させた老司教と子供たちの無念……俺の闘争心は折れやしねぇ……」
 J・Dもまた、自らの抵抗力を闘争心で補い、必死で抗う。
「ティスさん、ジャックさん、しっかり! 貴方が為すべきことを、思い出して下さいっ!」
 千春の声は、清廉な聖歌の如く仲間の心に光をもたらす。
「偽物の光に、負けないで……っ!」
 己自身も必死に抵抗しながら、仲間を屈辱から救い出す。
『どこまでも……抗うつもりですか……ッ』

 ヒュッ!

 何かが風を切る音が聞こえた。……柚子が持ち替えた武器のワイヤーを、継ぎ接ぎと、あろうことか己自身に絡めたのだ。
『うくっ……』
 ……どちらの声かは分からない。が、一瞬後には動いた。自分の身を度外視した、柚子の決死の作戦だった。
 起動させたモーターによってワイヤーが食い込み、柚子と継ぎ接ぎの身体が悲鳴を上げる。そのまま、教会の屋根から叩き落とすつもりなのだ。
『な、何という……っ』
 継ぎ接ぎの抗議など、端から聞くつもりはない。渾身の力で、引きずり落とす!
「墜、ち、ろおおおッ!」
『柚子さんっ!』
 ティスと千春が同時に叫ぶ。

 ごっ……!

 鈍い音が響き渡る。砂埃を巻き上げ落下した柚子は、異常な程の身のこなしで起き上がると、ワイヤーを相手に絡めたまま、少しだけ距離を作る。
「Jさん、今ですッ!」
 柚子の合図に、J・Dの弾丸が応える! 
 冷気を纏った弾丸は、天使の羽根を凍らせ、胸板を貫く。
「手前勝手な理屈で人様を歪虚に貶める様な野郎を、野放しにしちゃァおけねえ! あの時ァみすみす取り逃がしちまったが、今度こそ引導をくれてやる」
 J・Dの言葉には護りきれなかったあの時の屈辱が滲んでいた。
 敵の逃亡を許さなかったのは、ティスが放った氷の矢。

 キィンッ!

「……っ……!?」
 冷気が動きを鈍らせ、さらに千春が放つ光の杭が、継ぎ接ぎをその場に縫い留める。
「……させませんっ!」
 氷の矢と光の杭が幾つも重なり、地面に文字通り釘付けにされる継ぎ接ぎ。身体の動きが取れないのならばと、呪文を口にしようとすると、ティスのカウンターマジックが待っている。
(何があろうと絶対に……この手で、討ち取る……!)
 ワイヤーウィップから降魔刀へ持ち替えると、真正面から相手を見据える。
「虚無へと還れ!!」
『…………ッ……!』
 振り下ろされた白銀の刃によって、継ぎ接ぎ『天使』の身体が寸断される……!
 断末魔を上げることもなく、塵となる。
 ……風に攫われ、跡形も残らない。

● 
 古びた教会の脇に、こぢんまりとした石碑。森を少しだけ切り開いた所には、新しい司教の詰め所となる小屋が建てられている。
 この教会で起こった悲劇を忘れないため、そして穏やかな巡礼路に戻ることを祈って……。

 力仕事を一手に引き受けたのはウィンス。村人と共に避難していた材木置き場からここまで、資材を運び込む力仕事では大活躍だった。今も、大工仕事を手伝っている。
 慰霊碑を作る手伝いを申し出た千春も、そこにいた。男ばかりで少々重苦しい雰囲気の中で、清楚な雰囲気は随分と皆を和ませていた。

「皆さん、少し休憩にしませんか?」
 戦いで消耗した身体を休める為に、柚子たちと共に座っていたティスが声をかけた。自然と、慰霊碑の前に集まる。
 ここで亡くなった老司教と、子供たちの名前が刻まれている。

「……俺達はあの戦いで敗北した。真っ先に浮かぶのは謝罪の言葉だが、そんなもん何の意味もない事はよく分かってる」
 静かに言葉を紡いだのはウィンスだった。
「だから、約束する」
 慰霊碑に向けている声は、己自身に対してなのか、或いは先の戦いに関わった、全ての者に対してか。
「王国は滅びない。俺達は二度と負けない。そして……」
 顔を上げて告げる。この先の、闘うべき相手を見据えて。
「ベリトを倒す」
(クソ蜘蛛……メフィストを)
 ハンター達はそれぞれの誓いを胸に、力強く頷く。

「あん時ァ……誰も救う事が出来なかった。もう二度と、誰にもそんな真似させねェ……」
 J・Dは、ここで起こったあの出来事を忘れないだろう。同じ思いをした柚子もまた、きっと忘れる事はない。
(光が、彼らに永遠の安らぎをもたらしますように)
 千春の想いはJ・Dの声に重なる。
「どうか、貴方たちのいる場所に、少しでも多くの光がありますように――」
 温かな陽だまりのような千春の声。

 陽が沈み、慰霊碑が残照を浴びて静かに佇んでいる。
 森に風が吹く。禍々しさの消えた、穏やかな風が……。

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MVP一覧

  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダールka0039
  • むなしい愛の夢を見る
    松瀬 柚子ka4625

重体一覧

参加者一覧

  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダール(ka0039
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • ツナサンドの高みへ
    ティス・フュラー(ka3006
    エルフ|13才|女性|魔術師
  • 光あれ
    柏木 千春(ka3061
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 交渉人
    J・D(ka3351
    エルフ|26才|男性|猟撃士
  • むなしい愛の夢を見る
    松瀬 柚子(ka4625
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ティス・フュラー(ka3006
エルフ|13才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/06/15 08:25:32
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/06/12 02:55:47