ゲスト
(ka0000)
貴方の『最強』は何ですか?
マスター:奈華里

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/06/16 15:00
- 完成日
- 2016/06/28 01:45
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「へぇ、武闘大会ですか…」
街に張り出されている告知のポスターを前にギアが呟く。
ここはフマーレの職人街であり、彼はそこで一流の武器職人を目指している若者の一人だ。
であるから彼自身が出場する事はないのであるが、自分の武器を使う存在であるハンターには興味はある。
(今って一体どんな武器が好まれているんでしょうか?)
一応、市場調査はしているものの店の売れ行きだけでは正直な声は判らない。
新しいものが出たから試しに買ったり、使っていたものが壊れたから一時凌ぎに買っただけなど理由は様々。
実際のところ、買ったけれどあまり使っていないというものもきっとある。
それは武器職人にとってとても悲しい事だ。
(臨機応変に、適材適所で使ってくれているならまだしもただの肥やしになってたら目も当てられない…)
使われてこそ味が出てくるものもある。
ほおっておけば新品であっても空気による酸化が始まり、性能は徐々に落ちていってしまうものもあるだろう。
(出来る事なら体格も性別も選ばず、どんな方にも使って貰える武器が作れたら最高ですが…)
軽く、使いやすく、強い。そんな夢のような武器とは、一体どんなものだろうか?
しばし脳裏にイメージを描くが、どうしてもうまく形にならない。
「っといけない。そう言えば、買い物の途中でした」
彼はその事を思い出し、慌てて頼まれていた材料を買いに戻る。
しかし、その間も彼の頭からその事は離れず、終始頭の中ではあれこれと試行錯誤が繰り返される。
(剣にピストルがついているのはどうだろう…けど、そうなると銃身が傷つけられてしまっては使えなくなってしまうし、斬り込む際のスピードが落ちてしまう。だったら、パチンコのよう機能を搭載すれば…)
元来、武器とはそれぞれ使う場面において形が設定され、その時にあった最もよいフォルムを取っている。
すなわち、それを組み合わせれば強くなるというものではない。一切の無駄を省いて、ある場面にのみ優秀な力を発揮するよう作られているものをもう一度ばらして作り直す、というのは至難の業だ。
(あぁ~もう、全然纏まりませんね)
いつもは冷静な彼が頭を乱暴にかく。そんな彼を見つけて、ふらりとやって来たのは彼と同い年の青年だった。
「なーにやってんだ、ギア=ルキウス! 作業に没頭し過ぎてノミでもわいたか?」
冗談交じりにそう言って、やってきた青年はにやにや笑う。
「いえ、別に。っとこれはスペアさん。あなたも買い出しに?」
その声に顔を上げて、そこにあったのは少し前に知り合った顔。
同じ職人街の職人であるが、彼は防具専門であり性格も割と対照的だったりする。
「そうだよ。で俺の質問には答えねぇ気かよ?」
じっとギアを睨むように見つめ、スペアが尋ねる。
「あぁ、これは失礼。僕はちゃんと風呂には入っていますからご心配には及びません」
「はあ? そんなこと聞いてねぇって……俺が聞きたいのは何でんな事してたかで…」
「でしたね。少し考え事をしていました」
「ほお」
ギアの言葉に即座に言葉を返して、スペアは興味津々といった様子で続きを待つ。
そこでギアは彼に話してみれば、なんとあっさりと答えが返ってくるではないか。
「誰にでも使って頂ける武器を作りたいと思いまして…でも、それが何なのか判らなくてですね…」
「……なんだよ、そんな事かよ」
スペアが真顔で彼に言う。
「え、スペアさん判るんですか?」
「判らねー。けど、判るようになる方法は知ってる」
「と言うと?」
「おまえ馬鹿だろ…そんなん簡単じゃねぇの。判らないなら聞くのが一番」
「ああ」
独りで悩むよりずっといい。生の声に勝るものはある筈がない。
「そうか、そうですよね。都合のいい事に近々大会で人も集まりますし…」
ぽんっと拳を打って、ギアは納得の表情を見せる。
「だろ。何だよ、俺のライバルがそんなんじゃ俺の圧勝だな~」
スペアはその様子を前に上機嫌となり、その場を鼻歌まじりに去って行く。
(よし、そうと決まれば善は急げです!)
ギアもそう思い早速大会の主催者に掛け合って…。
近くで行われる大会での催しの隅で無料サービスの手入れを名目にハンターの武器調査を行う事にするのだった。
街に張り出されている告知のポスターを前にギアが呟く。
ここはフマーレの職人街であり、彼はそこで一流の武器職人を目指している若者の一人だ。
であるから彼自身が出場する事はないのであるが、自分の武器を使う存在であるハンターには興味はある。
(今って一体どんな武器が好まれているんでしょうか?)
一応、市場調査はしているものの店の売れ行きだけでは正直な声は判らない。
新しいものが出たから試しに買ったり、使っていたものが壊れたから一時凌ぎに買っただけなど理由は様々。
実際のところ、買ったけれどあまり使っていないというものもきっとある。
それは武器職人にとってとても悲しい事だ。
(臨機応変に、適材適所で使ってくれているならまだしもただの肥やしになってたら目も当てられない…)
使われてこそ味が出てくるものもある。
ほおっておけば新品であっても空気による酸化が始まり、性能は徐々に落ちていってしまうものもあるだろう。
(出来る事なら体格も性別も選ばず、どんな方にも使って貰える武器が作れたら最高ですが…)
軽く、使いやすく、強い。そんな夢のような武器とは、一体どんなものだろうか?
しばし脳裏にイメージを描くが、どうしてもうまく形にならない。
「っといけない。そう言えば、買い物の途中でした」
彼はその事を思い出し、慌てて頼まれていた材料を買いに戻る。
しかし、その間も彼の頭からその事は離れず、終始頭の中ではあれこれと試行錯誤が繰り返される。
(剣にピストルがついているのはどうだろう…けど、そうなると銃身が傷つけられてしまっては使えなくなってしまうし、斬り込む際のスピードが落ちてしまう。だったら、パチンコのよう機能を搭載すれば…)
元来、武器とはそれぞれ使う場面において形が設定され、その時にあった最もよいフォルムを取っている。
すなわち、それを組み合わせれば強くなるというものではない。一切の無駄を省いて、ある場面にのみ優秀な力を発揮するよう作られているものをもう一度ばらして作り直す、というのは至難の業だ。
(あぁ~もう、全然纏まりませんね)
いつもは冷静な彼が頭を乱暴にかく。そんな彼を見つけて、ふらりとやって来たのは彼と同い年の青年だった。
「なーにやってんだ、ギア=ルキウス! 作業に没頭し過ぎてノミでもわいたか?」
冗談交じりにそう言って、やってきた青年はにやにや笑う。
「いえ、別に。っとこれはスペアさん。あなたも買い出しに?」
その声に顔を上げて、そこにあったのは少し前に知り合った顔。
同じ職人街の職人であるが、彼は防具専門であり性格も割と対照的だったりする。
「そうだよ。で俺の質問には答えねぇ気かよ?」
じっとギアを睨むように見つめ、スペアが尋ねる。
「あぁ、これは失礼。僕はちゃんと風呂には入っていますからご心配には及びません」
「はあ? そんなこと聞いてねぇって……俺が聞きたいのは何でんな事してたかで…」
「でしたね。少し考え事をしていました」
「ほお」
ギアの言葉に即座に言葉を返して、スペアは興味津々といった様子で続きを待つ。
そこでギアは彼に話してみれば、なんとあっさりと答えが返ってくるではないか。
「誰にでも使って頂ける武器を作りたいと思いまして…でも、それが何なのか判らなくてですね…」
「……なんだよ、そんな事かよ」
スペアが真顔で彼に言う。
「え、スペアさん判るんですか?」
「判らねー。けど、判るようになる方法は知ってる」
「と言うと?」
「おまえ馬鹿だろ…そんなん簡単じゃねぇの。判らないなら聞くのが一番」
「ああ」
独りで悩むよりずっといい。生の声に勝るものはある筈がない。
「そうか、そうですよね。都合のいい事に近々大会で人も集まりますし…」
ぽんっと拳を打って、ギアは納得の表情を見せる。
「だろ。何だよ、俺のライバルがそんなんじゃ俺の圧勝だな~」
スペアはその様子を前に上機嫌となり、その場を鼻歌まじりに去って行く。
(よし、そうと決まれば善は急げです!)
ギアもそう思い早速大会の主催者に掛け合って…。
近くで行われる大会での催しの隅で無料サービスの手入れを名目にハンターの武器調査を行う事にするのだった。
リプレイ本文
●刀
武闘大会当日。
小さなテントのパーツを下げて、抱える看板には『メンテ無料。但し武器調査中につき、少しお話頂ける方のみ』の文字。
「え? なになに? 武器の調査をするの?」
そんな彼を見つけて、小走りでドワーフのサーティカ・ソウディアム(ka0032)がやってくる。
「…えと、あなたは?」
「ボク! ボクはねぇ、サーティカって言うんだ。きみ、武器のメンテナンスが出来るって事は鍛冶屋かなんか?」
「一応武器職人ですが…」
「わおっ、ビンゴ! ボクも実はそっちを目指してるんだ。やっぱり鍛冶は良いよねっ、あの鉄が形を持っていく所とか、叩けば叩くほど強くなっていくさまとか見てると何だか嬉しくなっちゃって」
工房の窯を思い出しているのだろう。身振り手振りを交えつつ、うっとりと彼女は語る。
「ですね。丹精込めて打てば金属も応えてくれる…良質な素材であれば打ち始めた時点でこちらに期待させるものを感じさせてくれますし」
普通ならばしらける話題であるが、職人同士だ。二人は早々に鍛冶談議で盛り上がる。
「あはっ、なんか凄くきみとは気が合いそうだよ」
サーティカが微笑む。そう言う彼女にギアも同意し、この後の協力を要請すれば彼女からOKの答え。
「さあ、そうと決まれば急いでこれ、組み立てないと」
元気に彼女が言う。
(誰にでも使って貰える万能武器は目指すべき極致だもんね! この人といればボクも何か掴めるかも♪)
サーティカはそんな期待に胸を躍らせるのだった。
「メンテナンス、承り中だよー!」
「武器、か…?」
サーティカの呼び込みにつられてやって来たのはオウカ・レンヴォルト(ka0301)だ。
彼の得物…それは巨大刀。元々の性能もさることながら、少しずつ鍛えたそれには他にない特徴的な違いがある。
「いらっしゃいませ。お時間ありましたらお気軽にどうぞ」
立ち止まり黙る彼を見つけて、ギアが促し彼の刀を作業台に置く。その刀は全長約三m半――二人の身長をあっさりと抜く長さだ。
「これ…確かユニットにも使えるやつですよね?」
「ああ」
「この鍔は特注ですか? 確か斬魔刀の鍔は蟲だった筈…」
「よく勉強しているな。そこまで判るのか」
「ええ、まあ」
斬魔刀『祢々切丸』、それが彼の刀の銘。但しカスタムしているから鍔は鬼と桜と朧月をあしらったものになっているし、鞘もなく代わりに防刃処理された布が丁寧に巻かれている。そしてその布を解いて、その先にあるのは見事な彫込み。
「これは凄い…」
刀身に刻まれた見慣れぬ文字にギアは思わず感嘆を漏らす。
「で、調査というのは? こんな雑談で構わないのか?」
そんな彼に代って、オウカが尋ねる。
「あ…えと、すいません。余りにも見事な彫込みだったもので…これは名前…ではないですよね?」
刻まれた文字を見つめ、ギアが問う。
「月を司る神への祈りと、魔を祓い清める祝詞だ」
文字自体は蒼のもので、ギアが読めないのも無理はない。
「…しかし、この大きさ、重くないですか?」
長さに比例し重量もそこそこ。一般人は男であっても苦労する重さだ。
「まあな…正直、これを扱う為に具足なんかは軽いものを選ばざるを得ない、という難点はあるな。だがこいつがあるおかげで、俺は白兵戦闘も機導術による支援も、両立してできている」
点検されていく愛刀を見守りつつオウカが語る。
「守りを捨てても余りある攻撃力…と言った所でしょうか。大事に手入れされていますね…刃毀れ一つない」
大振りであるから耐久力はあるであろうが、それでも日々の手入れなくして、この状態はあり得ない。見る者が見ればそれは判る。
「本体は異常無し。こちらの布の防刃処理の強化だけさせて頂きますね」
ギアはそう言い用意してきた道具箱からいくつかの液体を取り出すとそれを布に滲み込ませていく。
「すまんな。しかし、これ位で本当にいいのか?」
まだ少ししか話していないのを気遣って彼が尋ねる。
「はい。でもこちらに時間がかかりそうなので、後で受け取りに来て頂いてもいいですか?」
その言葉にオウカは頷き、人波へと消えてゆく。
「ほら、ギア君! 次々」
それを見送るギアにサーティカは次のハンターを招き入れるのだった。
●斧と銃
類は友を呼ぶ。サーティカが連れきたのはドワーフの大男だ。
「バルバロス(ka2119)というもんだ。お主が悩める武器屋か…」
地鳴りがするのではないかと思われる巨体で、彼は小さなテントに入ってくる。
「やっぱりこういうものの方が扱いやすいんですか?」
彼から受け取ったギガーアックスを前にギアが尋ねる。
「ああ、そりゃあのう。逆にワシの体格では軽くて扱いやすい武器というのは持っている感覚すらなく、小さすぎて逆に扱いにくい武器になってしまうからのう。叩きつけた時壊れるようでは武器にならん。せめて石造りの壁が粉砕できる程度の強度がないと使い物にならぬよ」
がははっと豪快に笑い彼が主張する。
「だよねー。ボクもそう思うよ」
とこれはサーティカ。それに加えて、その斧に目をつけてやって来た人物がいる。
「ほー、流石にそれだけのでかさがあれば一発だろうな」
自分より大きい斧を担いだ彼女の名はボルディア・コンフラムス(ka0796)だ。
「おお、お主も斧使いか?」
「そうだぜ。おっさんのそれには負けるけどなァ。最強ったら、超重武器に決まってンだろ」
男勝りな口調の彼女はどうやら彼と気が合いそうだ。
「ぐだぐた考えるのもいいが結局最後にモノを言うのは、原始的で初歩的な、粗暴なチカラってヤツだと俺は思うね」
使いやすさや切れ味に優れた刀剣も、長射程大威力の飛道具も、圧倒的な魔力の杖も…いざという時冷静に使えてこそだ。だが実際、戦闘に慣れない者にそれが出来ようか。否、ならば無骨でも威力のあるモノがいいに決まっている。
「ワシは拳闘具でもいいと思うのだが、リーチが長い方が実戦で有利になるのは明白だからのう」
「えと…お二人は、斧が最強だと」
飛び入りボルディアも交えてギアが尋ねる。
「まあのう」
「だぜ。さらに言わせて貰うと…今の武器じゃ通用しない相手がいる。だから、俺が言いたいのは万能でなくていい。他の何かを犠牲にしてもいい。バランスが悪かろうが、クソッたれなヤツ等を倒せるチカラ、そんな武器が俺は欲しいぜ」
最近の戦いで目にするようになった七眷属の存在――奴らに対抗できる力が今必要とされているようだ。
「……努力、してみますね」
ギアが渋い顔のまま答えつつ、二人の斧の持ち手を念の為固定しグリップにも滑り止めを施す。
「ちっこいのに巧いもんだのう」
「ありがとよ」
ギアは二人の満足げな笑顔を見送って、暫し斧の可能性を考える。
(農具にもなるし、ハンター以外の方も斧なら…)
「よう」
そこで彼に声をかけたのは依頼で知り合ったザレム・アズール(ka0878)だった。
調査の事を聞きつけて協力に来てくれたらしい。徐に魔導拳銃を取り出す。
「そう言えばあの時も使ってましたよね?」
「ああ、覚えていたか。銃は大きさ、軽さ、威力共に申し分ないからな。大型武器だと室内戦には使えないが、これなら何処でも使えるしグリップは硬いので咄嗟の打撃武器にもなるぞ」
そう言うと軽く銃を上下させて彼の手に置く。
「どうだ、手にしっくりくる重み…機械機構……銃はいいぞ、銃は」
その後も彼はとても饒舌に銃の良さを話し始める。
(ザレムさん、ホント好きなんだなぁ…)
その光景に少し驚きつつも、ほっと一息。丁寧に磨かれたボディを見れば、ザレムがこの銃をどれだけ大切にしているか一目瞭然だ。
「何処をとっても申し分ない。弾丸の補充問題はあるが、それでも実用性を考えれば行きつくのはここだと思う。あ、そうそう。武器ではないが、実用に使う以外にも武具には用途があるぞ。これは『皇帝杯記念競馬大会』で優勝し皇帝陛下から下賜ったものだ」
持ってきていた盾を取り上げ、ギアに見せる。
「実用以外と言うと?」
「誇りだ。あるだけで意味がある」
それは彼のいわば宝物。それをわざわざ持参したのは何処かで自慢したい気持ちもあったのだろう。彼の意外な一面を見れて、ギアは少し嬉しくなる。
「どうかしたか?」
「いえ」
銃口の洗浄とトリガーの稼働点検を済ませ、彼が言葉する。
「おぉーー」
と気付けばもう一人、ギアの手元を覗く小さな影。それはピンクの髪が目を引く魔術師のアシェール(ka2983)だ。
「あの…どちら様で?」
「え、あ…すみません…私の武器も魔導拳銃なので、そうなってるんだなぁと思いまして」
話しかけられるのが慣れていないのか、はたまた近付き過ぎて動揺しているのか、彼女は早口で言う。
「えと、えと…私の魔導拳銃はですね、魔導拳銃なのに、魔法の発動体にもなるんですよ! しかも、魔法を打つ時には、こう、魔法陣が出てですね!……あ? あれれ?」
実践しようと立ち上がった彼女であるが、どういう訳か発動せず。動揺する彼女を見兼ねてザレムが動く。
「まぁ、落ちつけ。魔法は一にも二にも意識の集中が大事なんだろ。ほら、まずは深呼吸」
「あの、お知り合いで?」
「ああ、友人だ」
そして彼女が落ち着いた時、通称『桃色の妖精』こと魔導拳銃『スピリトゥス』はかちゃりと音を立てて一発弾が発射される。
「おや、それはリボルバー式なんですね」
その音にギアが少し目を輝かせる。
「あの、リボルバー…お好きなのですか?」
「ええ、メカニズムが。からくり要素もあって実にいい。とこれは特別塗装ですか?」
ピンク色のボディを見つめギアが問う。
「はい。私、実は駆け出しだった頃スキルを撃ち尽くして、ただ声援だけしている時もありまして…そういうのを回避したくて、最後の最後まで戦える。そんな力が欲しくて、辿りついたのがこの魔導拳銃なんです。だから特別なものにしてみました」
彼女とお揃い…それは彼女がその銃を相棒としている証だ。
「魔術師の方って苦労されてるのですね…立場的に僕らとあまり変わらないポジションですし…」
あくまでイメージであるが、魔法が使えなくなった魔術師の戦闘力は一般人に近いと思う。
「判ってくれるのですか…?」
ギアのさっきの作業に好感を抱いたのか、彼女がじっと彼を見つめ同意を求める。
「おーい、俺もいるんだが…」
そこでのけ者になっているザレムが割って入って…ギアはザレムの銃の調整を終えると、今度はアシェールの銃に取り掛かる。そのついでに彼女にお手入れ方法を詳しく伝授する事になって、
(これは俺も勉強になりそうだな)
ザレムはそう思い、一緒にそれを見学するのだった。
●持論
時はお昼、さて一服と腰を上げかけたギアの元に甲冑姿のシスター、セリス・アルマーズ(ka1079)が現れる。
「あの、無料でやってるんですってね。これも可能なの?」
差出されたのは一枚の盾で…ギアは暫し考える。
そして、「それが貴方の武器ならばと」問えば、即座に頷く彼女。
「異端かもしれないけど、私にとっての武器はこれなのよ」
ずしりと重量を感じさせるその盾は龍壁『ガータル・ゾア』。最近話題になっていた遺跡から出たものだ。素材も龍鉱石が使われているようで異質な何かを感じさせる。
「見事な彫刻ですね。でもこれを貴方が?」
「そうよ。私、聖導士だけど力だけはあるから」
全身を隠せるだけの大盾だが、彼女はそれを楽々と持ち上げる。
「しかし、盾が武器とは…攻守両方備えているものにも見えませんが?」
「ええ。種別としては防具ね…ただ、最前線で壁と支援をする役だと相手の攻撃を遮断するのが一番の攻撃になるの。敵を倒すのは仲間がやってくれる。私が仲間を守れば自分がどれだけ被害を受けても、チームの攻撃力は落ちないのよね」
攻撃武器ではないから当たり前とは言え、戦場ではそれも重要な事だ。
「んー…と、これは…すいません。流石に盾の部品は持ち合わせていなくて…僕の知り合いを紹介しますので、そちらに調整をお願いしてもよろしいでしょうか?」
一通り目を通して、手入れが必要な場所は判ったものの部品不足に気付き、ギアが謝罪を述べる。
「そう、タダなら私は誰でもいいわ。無茶言っちゃったのは私の方だし」
「助かります。スペアさんと言うのですが、腕は確かなので。それにこんな珍しいものなら彼も喜ぶ筈ですし」
ギアはそう言うと紹介状を作り始める。
「ねえ、ギア君。知ってるとは思うけど、私達ハンターは特に限定されない限りチームで動くわ。だから一つの武器で全状況に対応する必要はない。仲間の苦手は他の仲間が補うもの、特化されたモノが短所を補い合うからこその強さだと思うのよ。だから…」
「単一で考える必要がない、と?」
手を止め彼が先を続ける。
「そう。折角なんだし複数状況で組み合わせて使われてるコトも考えてみたらどうかしら?」
最強武器を作りたい…その思いと熱意は判るのだが、一からとなると途方もない道となるだろう。でも、ギアにも譲れないものはある。
「そうですね。でもソロの方もいる筈ですし、何も武器はハンターだけのものではないので」
誰もが使える…その裏には彼なりの理由があるようだ。
「そうね。まあ、頑張って。真面目な職人さん」
彼女はそれを悟り、紹介状を受け取るとあっさりとその場を後にする。
「あれ、早かったね。昼を買いに行ったら職人系のハンターに出会ったから連れてきたよ。だから一緒に食べよ」
サーティカが二人のハンターを連れて、テントの中へと入る。
「邪魔するぞ」
「ほほぅ、ここがおぬしの拠点か」
一人は全長一mのつるはし兼ハンマーを持ったゼカライン=ニッケル(ka0266)。もう一人は童顔のレーヴェ・W・マルバス(ka0276)。二人共これまたドワーフだ。
「何だ武器が色々集まっとるかと思ったがこれしかないのか」
オウカの斬魔刀をしげしげと見つめて、ゼカラインが呟く。レ―ヴェは来る途中にパンを買って来たらしく早速取り出し、まずは一口。
「さて、ギア。最強武器を開発しようと考えているそうじゃが、何かいい案は思いついたのかのう?」
彼女が問う。
「それがまだですね…ただ、斧の形体は応用が利きそうな気がしています」
午前中を振り返り、彼も買って来て貰った握り飯を口に運びながら話す。
「最強ねぇ…聞くところによると誰にでも使える最強を目指しているそうだが、そういうのはなんていうか知ってるか?」
徐に近付いて、どかりと近くにあった椅子に腰かけゼカラインが尋ねる。がギアは答えが見つけられず、已む無く彼が自分の答えを公表する。
「いいか、そういうのは【平凡】ってんだ。それは誰にでも使える。例え、子供でも、女でもだ…だからそれは最強じゃねぇ」
「最強、じゃない…」
ギアが目指すものの完全否定――流石のギアも少し言葉を失う。
「…じゃあ、何が一番だと?」
「考えてみろ…その逆はどうだ? このでけぇ刀もそうだが、持ち主を選ぶ剣、鍛冶屋が誰かの為に生涯を賭けて打った一品なら唯一無二…そいつの為に打った武具はきっと持ち主と共に在る。例え、壊れてもだ」
彼は既にその答えに行きついていたらしかった。であるから、今日この会場に来た本当の理由は己の鋼を持つに能う者がいないかと探しに来たのが一番で、他者の武具観察は二番だったりする。
「…そう、ですね。そういうものも一度は作ってみたいと思います。でも今はその時ではない…」
名工匠のお墨付きがあればそんな依頼もあるだろうが、彼はまだ若い。今はただ一つでも多くの武器の開発するのが、自分の役目だと信じている。
「ゼカラインさんはもうその域まで達しているのですか?」
お茶を手に取り、彼に渡しながらギアが問う。
「はははっ、達していたらここにはおらんな。が日々精進あるのみだ…時にその工具はなかなかだと思うが」
「褒めて頂いて有難う御座います。この町に来た時から使っているものですけど」
ギアは愛おしげに道具達を見つめる。
「なら、私からは情報を提供といこうかのう」
レ―ヴェはそう言って、内緒話をするように皆をテーブルの真ん中に集める。
「噂に聞いた話じゃが可変弓というものを聞いた事がある。なんでもそれは、弓をバラすと双剣になるらしい。つまりは接近戦を行う者が遠距離をも攻撃できるようになる訳じゃな」
ふふーんと自慢げに皆の反応を待つ。
「それって素早く変形が可能なのですか?」
そこで出たのは良い指摘――この弓の最大の欠点部だ。
「あー…それがそうでもないらしい。手慣れた者が持てばいいが、そうでないと乱戦の刹那、仲間を縫って狙い撃つのは難しいし、重さも難点の一つじゃ」
「重くなくて、簡単にだったらいう事ないのにね」
「そこは作り手の改良次第と言った所じゃな。何にしてもまずは思いついたものを作ってみるに限る」
失敗は成功の素だ。失敗の先に一級品が生まれる事もある。貴重な情報に感謝し、ギアは早速手帳に書き留める。
「ちなみに欲しい武器とかは有ったりしますか?」
「うむ、しいていえば銃剣かのう。取り外しができて単独で使えると尚いい。後、矢弾の種類もほしいところじゃ」
所謂普通以上の特殊装備のあるもの、散弾や榴弾、徹甲弾。毒や睡眠系のものがあれば攻撃の幅は大きく広がり、手投げ爆弾等は障害物戦に便利だ。
「火薬や薬品を扱うとなると僕らだけでは無理そうですが、提案してみます」
ギアはその意見もしっかり書きとる。
(やっぱり今日は開いてみて正解ですね)
そして己だけでは見えなかった部分や片寄っていた思考をリセット出来た事を嬉しく思う。
「すまん。もう持って行っても構わないだろうか?」
そこでオウカが刀を取りに来て…昼食タイムを終了し、また調査を再開するのだった。
●槍と補助
『ここか』
ギアのテントの前で二人の男が顔を見合わせる。一人は闘狩人の榊 兵庫(ka0010)、もう一人は疾影士のレイス(ka1541)だ。同時にこの場にやって来て、ハモった言葉に吃驚する。
「そちらからどうぞ」
伏し目がちのレイスが場を譲る。
「同時に来たんだ。まあ、入っても構わんだろうさ」
兵庫はそう言って、彼も入るよう促す。
「いらっしゃいま…って二人?」
「二人は無理か?」
ギアの言葉に兵庫が問う。
「お二人は知り合いですか?」
「いや、さっきそこであったばかりだ」
そうして中へ通すと何やら不思議なやり取りが展開されて、
「ではまず、武器をお預かりしますね」
ギアはそう言うと二人の得物を受け取ろうと腕を出す。
『あ…』
そこでまた二人の声がハモった。
「あんた、二本使うのか?」
レイスの特殊な槍を見て兵庫が尋ねる。
「ああ、俺は英雄でもないし達人でもないからな。弱いままそれでも戦うと決めた時これに至った」
双槍に込められた想い――それを知るには彼の過去を知らねばなるまい。歪虚の侵攻で住む場所と記憶を失い、傷だらけのまま劣悪な施設で幼少期を過ごした。その悲惨な経験から彼は『自分のような扱いを受ける人がない世界』を決意した。ただ、何のツテもない少年には途方もない夢だ。それでも彼は諦めていない。その第一歩として、今出来る事を…つまりは歪虚との戦いに身を置いているという訳だ。
「一本は軽く、もう一本はそこそこの重量…攻守使い分けているのですか?」
ギアが手に取った印象から彼に尋ねる。
「ああ、絶火槍は投擲出来るように。戦槍は護りに特化した造りに鍛え直してあるな」
「二本も揮うのは大変じゃないのか?」
それを聞いて兵庫も興味を持ったのか質問を投げかける。
「別に…二本ある事で安心感も増すだろう。本数があれば、その分何かに届くだろうと言う子供染みた願掛けだ」
自分は決して強くない。そうと判っているからの選択なのだ。
「槍はリーチもあるし万能に近いですからね。慣れれば強い味方になってくれます。歴史に見ても槍を使って戦っている場面は多い。兵庫さんもそれを知ってて槍を使われているのでは?」
「ん、まあそうだな。これ一本で【突き】【薙ぎ】【払い】がこなせるし石突きの方を使えば、相手に大きな怪我をさせることなく制する事も可能だからな。但し、振り回せるだけの空間がないと使い辛いが…」
人間無骨と穂先に彫られた槍…彼の何処かさばさばした雰囲気にとても合っているように見える。
「あの、すばりお二人にお聞きします。最強武器って何だと思いますか?」
二人の槍を受け取り、穂先の状態を確認した後ギアが尋ねる。
「さあな。そんなものがあれば俺も知りたいものだな」
レイスが言う。
「俺が思うに、そんなものはない」
が兵庫は彼と違いきっぱりとそう言い切る。
「だってそうだろ。個人の使いやすさや戦場の状態によってかわるものだ。断言できる武器などある筈がない」
若くして熟練した師範のように、ギアもその言葉に改めて自分の目指すものが如何に難しいものかを痛感。その後も二人の槍の調整しながら話を聞き、イメージを固めてゆく。
「あら、丁度空いたようね。折角だからお願いしようかしら?」
二人と入れ替わりにギアのテントを訪れたのはジェシー=アルカナ(ka5880)だ。
「おや、レガースですか」
ギアが早速手に取り、固定部の確認に入る。その様子を興味深げに見つめる瞳に何かを感じて、
「…もしかして同業者の方ですか?」
と問うギアに否定するジェシー。
「いいえ、職人と言えば職人だけど、専門は武器の制作じゃないわね」
聞くところによれば彼は装飾が専門だとか。宝石加工や義肢装具等も扱っているらしい。
「僕のお世話になってる工房に来ればもっと楽しめると思いますよ。職人ばかりですから」
細かな傷を探し、時折パテのようなものを塗り込みながら彼は作業を続ける。
「あ、そういえば今欲しい武器とかありますか?」
そこでギアはふと彼にそんな質問をぶつけてみた。
すると彼はヒールを鳴らし近付いて、面白い回答を返してくれる。
「そうね…レガース以外だとこれも使って戦う事が多いの。だから、踵にナイフをつけたバトルヒールなんて実用的じゃないかしら?」
普通でない発想。おねぇ言葉の彼の感性によってまた一つ、盲点に気付かされる。
「しかし、靴となると…これもまた一筋縄ではいかないなぁ」
(フフッ、流石にこの子も職人なのね。話しながらでもちゃんとやる事は出来てるじゃない)
思考の中にあっても器用に表面に強化剤を塗るギアにジェシーは感心する。
そして僅か数分で来た時よりも光沢を持ち、尚且つ強化が施されたレガースに満足する彼。
「大したものね。大会には興味なかったけど…あんたの腕を見れただけでも来た甲斐があったわ」
ギアに礼を言い、彼はさらさらと何かに文字を書きつける。
「もしあんたが装飾品を探しているなら、いつでもいらしてね」
そして住所のメモを渡すと、彼は御機嫌に帰ってゆく。
「あのー、武器の聞き取り調査をしているというのはここでしょうか?」
とそこへ今度は機導師のクオン・サガラ(ka0018)がやってきた。
手にあるのはショットアンカー。これは見る側にとって厄介な武器である。けれどギアはそんな事気にしない。
「一応手入れはしているんですが、リールとか点検して貰えると助かります」
その要望に応えて、ギアはリール部分の蓋を開け中を点検する。
「機導師の方ですよね。普段はどういったものを扱っていますか?」
影疾士や霊闘士に比べて武器を選ぶには幅が有りそうな職種であるから、何を使うのか聞いてみる。
「わたしは魔力が低いので銃器や弓が生命線ですね。機械とか薬剤とかで戦うとかないですし…それに機導師は魔法使いではなくて中~遠距離用クラスであり、今のところオールレンジで戦えるものを持ち出していますが、今後はどうするか迷うところです」
クオン自身も未だに定まっていないようだ。
「近距離での戦いはされないので?」
「そう言う場合は銃剣を持っていきます」
銃剣=遠近複合武器…午前中の話が思い出される。
「できれば今後は機械や錬金術を使って戦える術ができたらと思います。ユニット用の重火器の充実とか地雷などのサポートアイテムとかがあれば、わたし達の力を活かせるんだと思うのですが…どうなんでしょうか?」
赤の世界の技術の遅れ。それが彼らの行動を制限してしまっているのかもしれない。アイテムとなるとまた変わってくるが、ギアは真摯に意見を受け止め、ぺこりと頭を下げる。
「あ、いえ…そんなつもりでは」
「いえ、僕も簡単なからくり程度なら判るのですが、大型のものとか精密なものは本職に任せないと判らないので」
いくら武器職人とて全てを網羅できている訳ではない。似通っていても違う場合もあるのだ。
「一応紐を新しいものに取り換えておきました。射出部付近も掃除しておきましたので、これで幾分か飛びやすくなったかと思います」
ギアが仕上がったばかりのそれを渡し言う。
「あっ、ここね。私の拘りも聞いて貰えるかな?」
すると今度は意見重視でアイビス・グラス(ka2477)がやって来る。
そんな彼女を中へ通して…作業台に置かれたそれを見て、彼は納得した。彼女の武器、衝撃拳『発勁掌波』は幾度となく改良された跡が見受けられたからだ。
「ねえ、できれば格闘武器をもう少し普及させてくれないかな?」
彼女が率直に彼にお願いする。
「と言うと…」
「私この世界に来る前は護身術として格闘技を習っていたから剣や銃は抵抗あって…それにそれらって重くて動けなくなっちゃうから困るのよね。その点ナックルやレガースって強力な一撃こそ欠けるものの、手数や咄嗟の防御と言った行動をするのに一番楽だから…ね、お願い?」
チェックの暇を与えず、彼女の願いは切実なようだ。
「考慮しておきます。それにしてもよくここまでカスタムされましたね」
彼女の衝撃拳に目をやってギアは感服する。それ程までにこれは元のものから彼女好みに仕様を変えているのだ。
その注目すべきは籠手型から手甲型への変更。これによりモーターの振動が拳に伝わるのを軽減し、全体のバランスも整えている。
「当然でしょ。種類が多くない分はカスタムで何とかするしかないもの」
彼女が自慢げに言う。
「いつもメンテナンスは自分で?」
「一応はね…けど細かい部分は本職に任せているかな」
「でも、ここまでしていると調整にもそれなりにかかるのでは?」
調整作業もタダではない。出来る事なら自分でやるのが一番だろう。そこでアシェールの時同様、ギアは彼女に調整法をレクチャーする。
「へえ、そうやるんだ。助かるわ」
アイビスもそれを見つつ、判らない所は即座に質問し手順を覚えてゆく。
それから数十分を要して、彼女がテントを出る頃には人並みも疎らに夕日が辺りを染め始めていた。
●課題
「そろそろ店じまいでしょうか…」
凝り固まった肩を上下させ軽くストレッチする。
「ほう、こんな催しもやっていたのか」
そこへ看板を見つけて、蓄えた茶色の髭を撫でつつ残念がる男――まだ一人位ならいけそうだと、ギアは彼を呼び止める。
「いや、すまんな。俺は技術屋なんだが、今日何か変わった素材のものを見かけはしなかったか?」
「素材ですか?」
一風変わった質問にギアは首を捻って…ふと思い出したのはあの盾だ。
「そういえば龍鉱石で出来た盾がありました」
「何っ! 龍鉱石かっ!! それは見てみたかった! もっと早く気付くべきだった!!」
ぐぬぬの心底残念がり彼が言う。
「えと…ここでは何ですし、よろしければ中へ」
ギアはそう言って彼を誘う。
「ほぉ、最強とは何か、であるか」
ギアの話を聞いて、彼も興味を持ったらしかった。鍛冶や技術士を目指す者なら無理もない。
「あなたはどう考えますか?」
彼のハンマーを横目にギアが尋ねる。
「俺か…俺はそうさな。まずは何を最強と考えるか…そこに尽きる」
形体はどうあれ、武器であれば攻撃が高いを最強とするか。はたまたスピードを重視するかで違いはでよう。
「まあでも、もっとも普遍的に重要視すべきは耐久力であろうな。如何な名刀といえど折れてしまっては使えぬものよ。或いは未熟な腕で振るわれて本来の切れ味を発揮できぬやもしれぬ。丈夫な武器…それこそが一番と思わぬか?」
少し悪戯っぽい笑みを浮かべてヴァルトル=カッパー(ka0840)が言う。
「ですね…頑丈であれば、多少使い方が下手でも打撃武器にもなりますし」
石や煉瓦がいい例か。それでも壊れなければ武器があるという安心感は無くならない。
「俺が思うに武器への信頼はすなわち心の平穏に繋がる。持ち手の力を遺憾無く発揮させる事こそ最強の武器ではあるまいか」
「……」
彼の言葉にギアは肝心な事を忘れていたのだと気が付く。
それは『武器への信頼』……形状にばかり拘っていたが、その前に安心出来るものでないと駄目なのだ。
「ま、それを目指すには素材が肝心。最適な鉱石を見つける事こそが大事である。あの金属は一体何だったか?」
「あの金属というと?」
「いや、俺が幼い頃見た金属の事だ。あれは最高だった…アレがあれば良いもんが作れると思うのであるが、記憶が朧で一向に思い出せんのだ」
再び残念そうに彼が言う。
「思い出すといいですね。もし思い出したら、僕にも教えて下さい」
ギアが言う。今日一日、沢山のハンターに出会い話を聞いた。
そして、その一つ一つが掛け替えのないもので…彼の開発の支えるとなるだろう。
(まずは素材の見直しからかな…後、腕ももっとももっと磨かなくては)
信頼に値するモノを――彼は今日の協力者達に感謝し、また工房へと帰って行くのだった。
武闘大会当日。
小さなテントのパーツを下げて、抱える看板には『メンテ無料。但し武器調査中につき、少しお話頂ける方のみ』の文字。
「え? なになに? 武器の調査をするの?」
そんな彼を見つけて、小走りでドワーフのサーティカ・ソウディアム(ka0032)がやってくる。
「…えと、あなたは?」
「ボク! ボクはねぇ、サーティカって言うんだ。きみ、武器のメンテナンスが出来るって事は鍛冶屋かなんか?」
「一応武器職人ですが…」
「わおっ、ビンゴ! ボクも実はそっちを目指してるんだ。やっぱり鍛冶は良いよねっ、あの鉄が形を持っていく所とか、叩けば叩くほど強くなっていくさまとか見てると何だか嬉しくなっちゃって」
工房の窯を思い出しているのだろう。身振り手振りを交えつつ、うっとりと彼女は語る。
「ですね。丹精込めて打てば金属も応えてくれる…良質な素材であれば打ち始めた時点でこちらに期待させるものを感じさせてくれますし」
普通ならばしらける話題であるが、職人同士だ。二人は早々に鍛冶談議で盛り上がる。
「あはっ、なんか凄くきみとは気が合いそうだよ」
サーティカが微笑む。そう言う彼女にギアも同意し、この後の協力を要請すれば彼女からOKの答え。
「さあ、そうと決まれば急いでこれ、組み立てないと」
元気に彼女が言う。
(誰にでも使って貰える万能武器は目指すべき極致だもんね! この人といればボクも何か掴めるかも♪)
サーティカはそんな期待に胸を躍らせるのだった。
「メンテナンス、承り中だよー!」
「武器、か…?」
サーティカの呼び込みにつられてやって来たのはオウカ・レンヴォルト(ka0301)だ。
彼の得物…それは巨大刀。元々の性能もさることながら、少しずつ鍛えたそれには他にない特徴的な違いがある。
「いらっしゃいませ。お時間ありましたらお気軽にどうぞ」
立ち止まり黙る彼を見つけて、ギアが促し彼の刀を作業台に置く。その刀は全長約三m半――二人の身長をあっさりと抜く長さだ。
「これ…確かユニットにも使えるやつですよね?」
「ああ」
「この鍔は特注ですか? 確か斬魔刀の鍔は蟲だった筈…」
「よく勉強しているな。そこまで判るのか」
「ええ、まあ」
斬魔刀『祢々切丸』、それが彼の刀の銘。但しカスタムしているから鍔は鬼と桜と朧月をあしらったものになっているし、鞘もなく代わりに防刃処理された布が丁寧に巻かれている。そしてその布を解いて、その先にあるのは見事な彫込み。
「これは凄い…」
刀身に刻まれた見慣れぬ文字にギアは思わず感嘆を漏らす。
「で、調査というのは? こんな雑談で構わないのか?」
そんな彼に代って、オウカが尋ねる。
「あ…えと、すいません。余りにも見事な彫込みだったもので…これは名前…ではないですよね?」
刻まれた文字を見つめ、ギアが問う。
「月を司る神への祈りと、魔を祓い清める祝詞だ」
文字自体は蒼のもので、ギアが読めないのも無理はない。
「…しかし、この大きさ、重くないですか?」
長さに比例し重量もそこそこ。一般人は男であっても苦労する重さだ。
「まあな…正直、これを扱う為に具足なんかは軽いものを選ばざるを得ない、という難点はあるな。だがこいつがあるおかげで、俺は白兵戦闘も機導術による支援も、両立してできている」
点検されていく愛刀を見守りつつオウカが語る。
「守りを捨てても余りある攻撃力…と言った所でしょうか。大事に手入れされていますね…刃毀れ一つない」
大振りであるから耐久力はあるであろうが、それでも日々の手入れなくして、この状態はあり得ない。見る者が見ればそれは判る。
「本体は異常無し。こちらの布の防刃処理の強化だけさせて頂きますね」
ギアはそう言い用意してきた道具箱からいくつかの液体を取り出すとそれを布に滲み込ませていく。
「すまんな。しかし、これ位で本当にいいのか?」
まだ少ししか話していないのを気遣って彼が尋ねる。
「はい。でもこちらに時間がかかりそうなので、後で受け取りに来て頂いてもいいですか?」
その言葉にオウカは頷き、人波へと消えてゆく。
「ほら、ギア君! 次々」
それを見送るギアにサーティカは次のハンターを招き入れるのだった。
●斧と銃
類は友を呼ぶ。サーティカが連れきたのはドワーフの大男だ。
「バルバロス(ka2119)というもんだ。お主が悩める武器屋か…」
地鳴りがするのではないかと思われる巨体で、彼は小さなテントに入ってくる。
「やっぱりこういうものの方が扱いやすいんですか?」
彼から受け取ったギガーアックスを前にギアが尋ねる。
「ああ、そりゃあのう。逆にワシの体格では軽くて扱いやすい武器というのは持っている感覚すらなく、小さすぎて逆に扱いにくい武器になってしまうからのう。叩きつけた時壊れるようでは武器にならん。せめて石造りの壁が粉砕できる程度の強度がないと使い物にならぬよ」
がははっと豪快に笑い彼が主張する。
「だよねー。ボクもそう思うよ」
とこれはサーティカ。それに加えて、その斧に目をつけてやって来た人物がいる。
「ほー、流石にそれだけのでかさがあれば一発だろうな」
自分より大きい斧を担いだ彼女の名はボルディア・コンフラムス(ka0796)だ。
「おお、お主も斧使いか?」
「そうだぜ。おっさんのそれには負けるけどなァ。最強ったら、超重武器に決まってンだろ」
男勝りな口調の彼女はどうやら彼と気が合いそうだ。
「ぐだぐた考えるのもいいが結局最後にモノを言うのは、原始的で初歩的な、粗暴なチカラってヤツだと俺は思うね」
使いやすさや切れ味に優れた刀剣も、長射程大威力の飛道具も、圧倒的な魔力の杖も…いざという時冷静に使えてこそだ。だが実際、戦闘に慣れない者にそれが出来ようか。否、ならば無骨でも威力のあるモノがいいに決まっている。
「ワシは拳闘具でもいいと思うのだが、リーチが長い方が実戦で有利になるのは明白だからのう」
「えと…お二人は、斧が最強だと」
飛び入りボルディアも交えてギアが尋ねる。
「まあのう」
「だぜ。さらに言わせて貰うと…今の武器じゃ通用しない相手がいる。だから、俺が言いたいのは万能でなくていい。他の何かを犠牲にしてもいい。バランスが悪かろうが、クソッたれなヤツ等を倒せるチカラ、そんな武器が俺は欲しいぜ」
最近の戦いで目にするようになった七眷属の存在――奴らに対抗できる力が今必要とされているようだ。
「……努力、してみますね」
ギアが渋い顔のまま答えつつ、二人の斧の持ち手を念の為固定しグリップにも滑り止めを施す。
「ちっこいのに巧いもんだのう」
「ありがとよ」
ギアは二人の満足げな笑顔を見送って、暫し斧の可能性を考える。
(農具にもなるし、ハンター以外の方も斧なら…)
「よう」
そこで彼に声をかけたのは依頼で知り合ったザレム・アズール(ka0878)だった。
調査の事を聞きつけて協力に来てくれたらしい。徐に魔導拳銃を取り出す。
「そう言えばあの時も使ってましたよね?」
「ああ、覚えていたか。銃は大きさ、軽さ、威力共に申し分ないからな。大型武器だと室内戦には使えないが、これなら何処でも使えるしグリップは硬いので咄嗟の打撃武器にもなるぞ」
そう言うと軽く銃を上下させて彼の手に置く。
「どうだ、手にしっくりくる重み…機械機構……銃はいいぞ、銃は」
その後も彼はとても饒舌に銃の良さを話し始める。
(ザレムさん、ホント好きなんだなぁ…)
その光景に少し驚きつつも、ほっと一息。丁寧に磨かれたボディを見れば、ザレムがこの銃をどれだけ大切にしているか一目瞭然だ。
「何処をとっても申し分ない。弾丸の補充問題はあるが、それでも実用性を考えれば行きつくのはここだと思う。あ、そうそう。武器ではないが、実用に使う以外にも武具には用途があるぞ。これは『皇帝杯記念競馬大会』で優勝し皇帝陛下から下賜ったものだ」
持ってきていた盾を取り上げ、ギアに見せる。
「実用以外と言うと?」
「誇りだ。あるだけで意味がある」
それは彼のいわば宝物。それをわざわざ持参したのは何処かで自慢したい気持ちもあったのだろう。彼の意外な一面を見れて、ギアは少し嬉しくなる。
「どうかしたか?」
「いえ」
銃口の洗浄とトリガーの稼働点検を済ませ、彼が言葉する。
「おぉーー」
と気付けばもう一人、ギアの手元を覗く小さな影。それはピンクの髪が目を引く魔術師のアシェール(ka2983)だ。
「あの…どちら様で?」
「え、あ…すみません…私の武器も魔導拳銃なので、そうなってるんだなぁと思いまして」
話しかけられるのが慣れていないのか、はたまた近付き過ぎて動揺しているのか、彼女は早口で言う。
「えと、えと…私の魔導拳銃はですね、魔導拳銃なのに、魔法の発動体にもなるんですよ! しかも、魔法を打つ時には、こう、魔法陣が出てですね!……あ? あれれ?」
実践しようと立ち上がった彼女であるが、どういう訳か発動せず。動揺する彼女を見兼ねてザレムが動く。
「まぁ、落ちつけ。魔法は一にも二にも意識の集中が大事なんだろ。ほら、まずは深呼吸」
「あの、お知り合いで?」
「ああ、友人だ」
そして彼女が落ち着いた時、通称『桃色の妖精』こと魔導拳銃『スピリトゥス』はかちゃりと音を立てて一発弾が発射される。
「おや、それはリボルバー式なんですね」
その音にギアが少し目を輝かせる。
「あの、リボルバー…お好きなのですか?」
「ええ、メカニズムが。からくり要素もあって実にいい。とこれは特別塗装ですか?」
ピンク色のボディを見つめギアが問う。
「はい。私、実は駆け出しだった頃スキルを撃ち尽くして、ただ声援だけしている時もありまして…そういうのを回避したくて、最後の最後まで戦える。そんな力が欲しくて、辿りついたのがこの魔導拳銃なんです。だから特別なものにしてみました」
彼女とお揃い…それは彼女がその銃を相棒としている証だ。
「魔術師の方って苦労されてるのですね…立場的に僕らとあまり変わらないポジションですし…」
あくまでイメージであるが、魔法が使えなくなった魔術師の戦闘力は一般人に近いと思う。
「判ってくれるのですか…?」
ギアのさっきの作業に好感を抱いたのか、彼女がじっと彼を見つめ同意を求める。
「おーい、俺もいるんだが…」
そこでのけ者になっているザレムが割って入って…ギアはザレムの銃の調整を終えると、今度はアシェールの銃に取り掛かる。そのついでに彼女にお手入れ方法を詳しく伝授する事になって、
(これは俺も勉強になりそうだな)
ザレムはそう思い、一緒にそれを見学するのだった。
●持論
時はお昼、さて一服と腰を上げかけたギアの元に甲冑姿のシスター、セリス・アルマーズ(ka1079)が現れる。
「あの、無料でやってるんですってね。これも可能なの?」
差出されたのは一枚の盾で…ギアは暫し考える。
そして、「それが貴方の武器ならばと」問えば、即座に頷く彼女。
「異端かもしれないけど、私にとっての武器はこれなのよ」
ずしりと重量を感じさせるその盾は龍壁『ガータル・ゾア』。最近話題になっていた遺跡から出たものだ。素材も龍鉱石が使われているようで異質な何かを感じさせる。
「見事な彫刻ですね。でもこれを貴方が?」
「そうよ。私、聖導士だけど力だけはあるから」
全身を隠せるだけの大盾だが、彼女はそれを楽々と持ち上げる。
「しかし、盾が武器とは…攻守両方備えているものにも見えませんが?」
「ええ。種別としては防具ね…ただ、最前線で壁と支援をする役だと相手の攻撃を遮断するのが一番の攻撃になるの。敵を倒すのは仲間がやってくれる。私が仲間を守れば自分がどれだけ被害を受けても、チームの攻撃力は落ちないのよね」
攻撃武器ではないから当たり前とは言え、戦場ではそれも重要な事だ。
「んー…と、これは…すいません。流石に盾の部品は持ち合わせていなくて…僕の知り合いを紹介しますので、そちらに調整をお願いしてもよろしいでしょうか?」
一通り目を通して、手入れが必要な場所は判ったものの部品不足に気付き、ギアが謝罪を述べる。
「そう、タダなら私は誰でもいいわ。無茶言っちゃったのは私の方だし」
「助かります。スペアさんと言うのですが、腕は確かなので。それにこんな珍しいものなら彼も喜ぶ筈ですし」
ギアはそう言うと紹介状を作り始める。
「ねえ、ギア君。知ってるとは思うけど、私達ハンターは特に限定されない限りチームで動くわ。だから一つの武器で全状況に対応する必要はない。仲間の苦手は他の仲間が補うもの、特化されたモノが短所を補い合うからこその強さだと思うのよ。だから…」
「単一で考える必要がない、と?」
手を止め彼が先を続ける。
「そう。折角なんだし複数状況で組み合わせて使われてるコトも考えてみたらどうかしら?」
最強武器を作りたい…その思いと熱意は判るのだが、一からとなると途方もない道となるだろう。でも、ギアにも譲れないものはある。
「そうですね。でもソロの方もいる筈ですし、何も武器はハンターだけのものではないので」
誰もが使える…その裏には彼なりの理由があるようだ。
「そうね。まあ、頑張って。真面目な職人さん」
彼女はそれを悟り、紹介状を受け取るとあっさりとその場を後にする。
「あれ、早かったね。昼を買いに行ったら職人系のハンターに出会ったから連れてきたよ。だから一緒に食べよ」
サーティカが二人のハンターを連れて、テントの中へと入る。
「邪魔するぞ」
「ほほぅ、ここがおぬしの拠点か」
一人は全長一mのつるはし兼ハンマーを持ったゼカライン=ニッケル(ka0266)。もう一人は童顔のレーヴェ・W・マルバス(ka0276)。二人共これまたドワーフだ。
「何だ武器が色々集まっとるかと思ったがこれしかないのか」
オウカの斬魔刀をしげしげと見つめて、ゼカラインが呟く。レ―ヴェは来る途中にパンを買って来たらしく早速取り出し、まずは一口。
「さて、ギア。最強武器を開発しようと考えているそうじゃが、何かいい案は思いついたのかのう?」
彼女が問う。
「それがまだですね…ただ、斧の形体は応用が利きそうな気がしています」
午前中を振り返り、彼も買って来て貰った握り飯を口に運びながら話す。
「最強ねぇ…聞くところによると誰にでも使える最強を目指しているそうだが、そういうのはなんていうか知ってるか?」
徐に近付いて、どかりと近くにあった椅子に腰かけゼカラインが尋ねる。がギアは答えが見つけられず、已む無く彼が自分の答えを公表する。
「いいか、そういうのは【平凡】ってんだ。それは誰にでも使える。例え、子供でも、女でもだ…だからそれは最強じゃねぇ」
「最強、じゃない…」
ギアが目指すものの完全否定――流石のギアも少し言葉を失う。
「…じゃあ、何が一番だと?」
「考えてみろ…その逆はどうだ? このでけぇ刀もそうだが、持ち主を選ぶ剣、鍛冶屋が誰かの為に生涯を賭けて打った一品なら唯一無二…そいつの為に打った武具はきっと持ち主と共に在る。例え、壊れてもだ」
彼は既にその答えに行きついていたらしかった。であるから、今日この会場に来た本当の理由は己の鋼を持つに能う者がいないかと探しに来たのが一番で、他者の武具観察は二番だったりする。
「…そう、ですね。そういうものも一度は作ってみたいと思います。でも今はその時ではない…」
名工匠のお墨付きがあればそんな依頼もあるだろうが、彼はまだ若い。今はただ一つでも多くの武器の開発するのが、自分の役目だと信じている。
「ゼカラインさんはもうその域まで達しているのですか?」
お茶を手に取り、彼に渡しながらギアが問う。
「はははっ、達していたらここにはおらんな。が日々精進あるのみだ…時にその工具はなかなかだと思うが」
「褒めて頂いて有難う御座います。この町に来た時から使っているものですけど」
ギアは愛おしげに道具達を見つめる。
「なら、私からは情報を提供といこうかのう」
レ―ヴェはそう言って、内緒話をするように皆をテーブルの真ん中に集める。
「噂に聞いた話じゃが可変弓というものを聞いた事がある。なんでもそれは、弓をバラすと双剣になるらしい。つまりは接近戦を行う者が遠距離をも攻撃できるようになる訳じゃな」
ふふーんと自慢げに皆の反応を待つ。
「それって素早く変形が可能なのですか?」
そこで出たのは良い指摘――この弓の最大の欠点部だ。
「あー…それがそうでもないらしい。手慣れた者が持てばいいが、そうでないと乱戦の刹那、仲間を縫って狙い撃つのは難しいし、重さも難点の一つじゃ」
「重くなくて、簡単にだったらいう事ないのにね」
「そこは作り手の改良次第と言った所じゃな。何にしてもまずは思いついたものを作ってみるに限る」
失敗は成功の素だ。失敗の先に一級品が生まれる事もある。貴重な情報に感謝し、ギアは早速手帳に書き留める。
「ちなみに欲しい武器とかは有ったりしますか?」
「うむ、しいていえば銃剣かのう。取り外しができて単独で使えると尚いい。後、矢弾の種類もほしいところじゃ」
所謂普通以上の特殊装備のあるもの、散弾や榴弾、徹甲弾。毒や睡眠系のものがあれば攻撃の幅は大きく広がり、手投げ爆弾等は障害物戦に便利だ。
「火薬や薬品を扱うとなると僕らだけでは無理そうですが、提案してみます」
ギアはその意見もしっかり書きとる。
(やっぱり今日は開いてみて正解ですね)
そして己だけでは見えなかった部分や片寄っていた思考をリセット出来た事を嬉しく思う。
「すまん。もう持って行っても構わないだろうか?」
そこでオウカが刀を取りに来て…昼食タイムを終了し、また調査を再開するのだった。
●槍と補助
『ここか』
ギアのテントの前で二人の男が顔を見合わせる。一人は闘狩人の榊 兵庫(ka0010)、もう一人は疾影士のレイス(ka1541)だ。同時にこの場にやって来て、ハモった言葉に吃驚する。
「そちらからどうぞ」
伏し目がちのレイスが場を譲る。
「同時に来たんだ。まあ、入っても構わんだろうさ」
兵庫はそう言って、彼も入るよう促す。
「いらっしゃいま…って二人?」
「二人は無理か?」
ギアの言葉に兵庫が問う。
「お二人は知り合いですか?」
「いや、さっきそこであったばかりだ」
そうして中へ通すと何やら不思議なやり取りが展開されて、
「ではまず、武器をお預かりしますね」
ギアはそう言うと二人の得物を受け取ろうと腕を出す。
『あ…』
そこでまた二人の声がハモった。
「あんた、二本使うのか?」
レイスの特殊な槍を見て兵庫が尋ねる。
「ああ、俺は英雄でもないし達人でもないからな。弱いままそれでも戦うと決めた時これに至った」
双槍に込められた想い――それを知るには彼の過去を知らねばなるまい。歪虚の侵攻で住む場所と記憶を失い、傷だらけのまま劣悪な施設で幼少期を過ごした。その悲惨な経験から彼は『自分のような扱いを受ける人がない世界』を決意した。ただ、何のツテもない少年には途方もない夢だ。それでも彼は諦めていない。その第一歩として、今出来る事を…つまりは歪虚との戦いに身を置いているという訳だ。
「一本は軽く、もう一本はそこそこの重量…攻守使い分けているのですか?」
ギアが手に取った印象から彼に尋ねる。
「ああ、絶火槍は投擲出来るように。戦槍は護りに特化した造りに鍛え直してあるな」
「二本も揮うのは大変じゃないのか?」
それを聞いて兵庫も興味を持ったのか質問を投げかける。
「別に…二本ある事で安心感も増すだろう。本数があれば、その分何かに届くだろうと言う子供染みた願掛けだ」
自分は決して強くない。そうと判っているからの選択なのだ。
「槍はリーチもあるし万能に近いですからね。慣れれば強い味方になってくれます。歴史に見ても槍を使って戦っている場面は多い。兵庫さんもそれを知ってて槍を使われているのでは?」
「ん、まあそうだな。これ一本で【突き】【薙ぎ】【払い】がこなせるし石突きの方を使えば、相手に大きな怪我をさせることなく制する事も可能だからな。但し、振り回せるだけの空間がないと使い辛いが…」
人間無骨と穂先に彫られた槍…彼の何処かさばさばした雰囲気にとても合っているように見える。
「あの、すばりお二人にお聞きします。最強武器って何だと思いますか?」
二人の槍を受け取り、穂先の状態を確認した後ギアが尋ねる。
「さあな。そんなものがあれば俺も知りたいものだな」
レイスが言う。
「俺が思うに、そんなものはない」
が兵庫は彼と違いきっぱりとそう言い切る。
「だってそうだろ。個人の使いやすさや戦場の状態によってかわるものだ。断言できる武器などある筈がない」
若くして熟練した師範のように、ギアもその言葉に改めて自分の目指すものが如何に難しいものかを痛感。その後も二人の槍の調整しながら話を聞き、イメージを固めてゆく。
「あら、丁度空いたようね。折角だからお願いしようかしら?」
二人と入れ替わりにギアのテントを訪れたのはジェシー=アルカナ(ka5880)だ。
「おや、レガースですか」
ギアが早速手に取り、固定部の確認に入る。その様子を興味深げに見つめる瞳に何かを感じて、
「…もしかして同業者の方ですか?」
と問うギアに否定するジェシー。
「いいえ、職人と言えば職人だけど、専門は武器の制作じゃないわね」
聞くところによれば彼は装飾が専門だとか。宝石加工や義肢装具等も扱っているらしい。
「僕のお世話になってる工房に来ればもっと楽しめると思いますよ。職人ばかりですから」
細かな傷を探し、時折パテのようなものを塗り込みながら彼は作業を続ける。
「あ、そういえば今欲しい武器とかありますか?」
そこでギアはふと彼にそんな質問をぶつけてみた。
すると彼はヒールを鳴らし近付いて、面白い回答を返してくれる。
「そうね…レガース以外だとこれも使って戦う事が多いの。だから、踵にナイフをつけたバトルヒールなんて実用的じゃないかしら?」
普通でない発想。おねぇ言葉の彼の感性によってまた一つ、盲点に気付かされる。
「しかし、靴となると…これもまた一筋縄ではいかないなぁ」
(フフッ、流石にこの子も職人なのね。話しながらでもちゃんとやる事は出来てるじゃない)
思考の中にあっても器用に表面に強化剤を塗るギアにジェシーは感心する。
そして僅か数分で来た時よりも光沢を持ち、尚且つ強化が施されたレガースに満足する彼。
「大したものね。大会には興味なかったけど…あんたの腕を見れただけでも来た甲斐があったわ」
ギアに礼を言い、彼はさらさらと何かに文字を書きつける。
「もしあんたが装飾品を探しているなら、いつでもいらしてね」
そして住所のメモを渡すと、彼は御機嫌に帰ってゆく。
「あのー、武器の聞き取り調査をしているというのはここでしょうか?」
とそこへ今度は機導師のクオン・サガラ(ka0018)がやってきた。
手にあるのはショットアンカー。これは見る側にとって厄介な武器である。けれどギアはそんな事気にしない。
「一応手入れはしているんですが、リールとか点検して貰えると助かります」
その要望に応えて、ギアはリール部分の蓋を開け中を点検する。
「機導師の方ですよね。普段はどういったものを扱っていますか?」
影疾士や霊闘士に比べて武器を選ぶには幅が有りそうな職種であるから、何を使うのか聞いてみる。
「わたしは魔力が低いので銃器や弓が生命線ですね。機械とか薬剤とかで戦うとかないですし…それに機導師は魔法使いではなくて中~遠距離用クラスであり、今のところオールレンジで戦えるものを持ち出していますが、今後はどうするか迷うところです」
クオン自身も未だに定まっていないようだ。
「近距離での戦いはされないので?」
「そう言う場合は銃剣を持っていきます」
銃剣=遠近複合武器…午前中の話が思い出される。
「できれば今後は機械や錬金術を使って戦える術ができたらと思います。ユニット用の重火器の充実とか地雷などのサポートアイテムとかがあれば、わたし達の力を活かせるんだと思うのですが…どうなんでしょうか?」
赤の世界の技術の遅れ。それが彼らの行動を制限してしまっているのかもしれない。アイテムとなるとまた変わってくるが、ギアは真摯に意見を受け止め、ぺこりと頭を下げる。
「あ、いえ…そんなつもりでは」
「いえ、僕も簡単なからくり程度なら判るのですが、大型のものとか精密なものは本職に任せないと判らないので」
いくら武器職人とて全てを網羅できている訳ではない。似通っていても違う場合もあるのだ。
「一応紐を新しいものに取り換えておきました。射出部付近も掃除しておきましたので、これで幾分か飛びやすくなったかと思います」
ギアが仕上がったばかりのそれを渡し言う。
「あっ、ここね。私の拘りも聞いて貰えるかな?」
すると今度は意見重視でアイビス・グラス(ka2477)がやって来る。
そんな彼女を中へ通して…作業台に置かれたそれを見て、彼は納得した。彼女の武器、衝撃拳『発勁掌波』は幾度となく改良された跡が見受けられたからだ。
「ねえ、できれば格闘武器をもう少し普及させてくれないかな?」
彼女が率直に彼にお願いする。
「と言うと…」
「私この世界に来る前は護身術として格闘技を習っていたから剣や銃は抵抗あって…それにそれらって重くて動けなくなっちゃうから困るのよね。その点ナックルやレガースって強力な一撃こそ欠けるものの、手数や咄嗟の防御と言った行動をするのに一番楽だから…ね、お願い?」
チェックの暇を与えず、彼女の願いは切実なようだ。
「考慮しておきます。それにしてもよくここまでカスタムされましたね」
彼女の衝撃拳に目をやってギアは感服する。それ程までにこれは元のものから彼女好みに仕様を変えているのだ。
その注目すべきは籠手型から手甲型への変更。これによりモーターの振動が拳に伝わるのを軽減し、全体のバランスも整えている。
「当然でしょ。種類が多くない分はカスタムで何とかするしかないもの」
彼女が自慢げに言う。
「いつもメンテナンスは自分で?」
「一応はね…けど細かい部分は本職に任せているかな」
「でも、ここまでしていると調整にもそれなりにかかるのでは?」
調整作業もタダではない。出来る事なら自分でやるのが一番だろう。そこでアシェールの時同様、ギアは彼女に調整法をレクチャーする。
「へえ、そうやるんだ。助かるわ」
アイビスもそれを見つつ、判らない所は即座に質問し手順を覚えてゆく。
それから数十分を要して、彼女がテントを出る頃には人並みも疎らに夕日が辺りを染め始めていた。
●課題
「そろそろ店じまいでしょうか…」
凝り固まった肩を上下させ軽くストレッチする。
「ほう、こんな催しもやっていたのか」
そこへ看板を見つけて、蓄えた茶色の髭を撫でつつ残念がる男――まだ一人位ならいけそうだと、ギアは彼を呼び止める。
「いや、すまんな。俺は技術屋なんだが、今日何か変わった素材のものを見かけはしなかったか?」
「素材ですか?」
一風変わった質問にギアは首を捻って…ふと思い出したのはあの盾だ。
「そういえば龍鉱石で出来た盾がありました」
「何っ! 龍鉱石かっ!! それは見てみたかった! もっと早く気付くべきだった!!」
ぐぬぬの心底残念がり彼が言う。
「えと…ここでは何ですし、よろしければ中へ」
ギアはそう言って彼を誘う。
「ほぉ、最強とは何か、であるか」
ギアの話を聞いて、彼も興味を持ったらしかった。鍛冶や技術士を目指す者なら無理もない。
「あなたはどう考えますか?」
彼のハンマーを横目にギアが尋ねる。
「俺か…俺はそうさな。まずは何を最強と考えるか…そこに尽きる」
形体はどうあれ、武器であれば攻撃が高いを最強とするか。はたまたスピードを重視するかで違いはでよう。
「まあでも、もっとも普遍的に重要視すべきは耐久力であろうな。如何な名刀といえど折れてしまっては使えぬものよ。或いは未熟な腕で振るわれて本来の切れ味を発揮できぬやもしれぬ。丈夫な武器…それこそが一番と思わぬか?」
少し悪戯っぽい笑みを浮かべてヴァルトル=カッパー(ka0840)が言う。
「ですね…頑丈であれば、多少使い方が下手でも打撃武器にもなりますし」
石や煉瓦がいい例か。それでも壊れなければ武器があるという安心感は無くならない。
「俺が思うに武器への信頼はすなわち心の平穏に繋がる。持ち手の力を遺憾無く発揮させる事こそ最強の武器ではあるまいか」
「……」
彼の言葉にギアは肝心な事を忘れていたのだと気が付く。
それは『武器への信頼』……形状にばかり拘っていたが、その前に安心出来るものでないと駄目なのだ。
「ま、それを目指すには素材が肝心。最適な鉱石を見つける事こそが大事である。あの金属は一体何だったか?」
「あの金属というと?」
「いや、俺が幼い頃見た金属の事だ。あれは最高だった…アレがあれば良いもんが作れると思うのであるが、記憶が朧で一向に思い出せんのだ」
再び残念そうに彼が言う。
「思い出すといいですね。もし思い出したら、僕にも教えて下さい」
ギアが言う。今日一日、沢山のハンターに出会い話を聞いた。
そして、その一つ一つが掛け替えのないもので…彼の開発の支えるとなるだろう。
(まずは素材の見直しからかな…後、腕ももっとももっと磨かなくては)
信頼に値するモノを――彼は今日の協力者達に感謝し、また工房へと帰って行くのだった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/14 07:42:01 |