ゲスト
(ka0000)
心悪しき商人とお金
マスター:鳴海惣流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/06/17 12:00
- 完成日
- 2016/06/21 22:15
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
男の目には確かに希望があった。
尽きようとする命の炎を懸命に燃やし、生きていてくれる娘を抱き、ハンターの力を借りて厳しい山を越えた商人の男はひたすら走った。
目当ての家を見つけ、ドアを叩く。顔を出した男は以前と変わっていなかった。
老齢の男性は、久しぶりと歓迎してくれた。だが――。
娘を助けるために薬草が欲しい。そう告げると老齢の男性の目が変わった。大変に貴重な薬草だから無料では無理だと。
告げられたのは法外な値段。とてもではないが商人には払えない。必死になって訴える。困った時はお互い様だ。
老齢の男は頷かない。商人は村を駆け回り、自分の店を売る段取りをつけて金を用意した。それを前金にして、残りは必ず払うと老齢の男性に頭を下げた。
冷たく断られた。他の町から来た裕福な男性が、家族が困った時のためにと、誰も苦しんでないのに買い求めたのだ。老齢の男はあっさり売った。
裕福な男性に譲ってほしいと商人は土下座した。告げられたのは、老齢の男性が提示した金額の倍だった。
執拗に食い下がるも男の傭兵に引き剥がされ、殴る蹴るまでされた。挙句には商人が店を売る約束をして得た金まで迷惑料だと奪われた。
這いずるようにして宿屋へ戻る。苦しむ娘がかすかに瞼を開けて微笑んだ。
――お父さん、愛し……。
それが最後の言葉だった。商人の男は文字通り、すべてを失った――。
●
その男――ダンダ・ダッダはベッドから飛び起きる。汗で濡れた全身に寝間着が張り付いている。
気持ち悪さを気にもせず、額に手を当てる。またあの夢か。こみ上げてくる怒りをぶつけるようにベッドを叩いた。
「私はすべての金を集める。手に入れる。それを墓標として、復讐は完成する。私の金への復讐が……!」
貧乏は罪だというのなら、奪えばいい。今度は他の連中が苦しむ番だ。
富にまみれ、欲に溺れる。その時だけがダンダに安らぎを与えてくれる。
亡き妻子に罪を償えているような気がして……。
●
――グラズヘイム王国内の北に位置する村。少女が一人、旅の商人として訪れていた。
「大雨は大変でしたね」
「ええ。でも家族が無事で良かったわ」
微笑む女性から薬草の調達を終え、少女は許可を貰っている村の中で商品の販売を始める。どれもが格安だった。
大雨による被害を受けて困っているという話を聞き、慌ててやってきたのである。お金がなければ無料で提供するつもりだった。
少女は王国内でも北――アルテリアと呼ばれる地方のとある集落の出身だった。
少し前にゴブリンに襲われて被害を受けた際、旅の商人の男性が訪れて援助をしてくれた。彼の姿を見て恰好いいと思った少女は、すぐさま商人となった。受けた恩義は、他の困っている人へ返す。その人が少女に感謝して、また他の人を救ってくれれば、たった一人ずつだけれども世界は平和になっていく。そんなふうに思っていた。
だからその少女――カレンは損をしようとも、何の躊躇いもなく商品を格安で販売する。そうした活動を続けるうちに、取引をしてくれる人も原価スレスレで商品を提供してくれるようになった。人の繋がりの有り難さを感じた。
「きっとあの商人の人も、こんな温かい気持ちだったんだろうな。名前も言わないでいなくなっちゃったけど、元気にしてるかな。また会えるといいな」
太陽が輝く青空を見上げるカレン。
直後に村へ悲鳴が木霊す。いつの間に現れたのか、無数のコボルドが村を囲んでいたせいだ。
混乱する村に、手勢を連れた男性が姿を現す。
「皆さん、初めまして。私はダンダと言います。村は大変お困りの様子。私でよければコボルドを追い払ってさしあげましょう。そうですね。一体につき――」
ダンダが提示したのは法外な金額だった。特産物すらない村に払えるわけがなかった。
「お金がなければ物でも構いませんよ? さて、どうしますか? 早く決めなければコボルドが侵攻してきますよ。誰も助けを求めないのであれば、私は先に逃げさせてもらいます」
村人が憤る中、カレンだけが愕然とする。
あれは……あの人は――。
●
その村から南にある街のハンターズソサエティに緊急の依頼が飛び込む。
村の近くを通りかかった人間がコボルドの大群にぎょっとしていると、中にいた十六歳程度と思われる少女が助けを呼んでと叫んだ。
領主に助けを求めるより、ハンターに動いてもらった方が早いし確実だ。その者はすぐに依頼を出した。
緊急性が高いと判断し、話を聞いた受付は依頼を吟味していたハンターたちへ声を張り上げる。
他のハンター同様に、あなたは顔を上げる。
「北の村がコボルドに襲われています。数は二桁を超えるそうです。中には棍棒を持っているのもいるらしく、人を襲った経験がありそうです!」
仮にコボルドが弱かろうとも、村の住民には十分すぎる脅威となる。あなたは座っていた椅子から立ち上がる。
コボルドに襲われているという村へ向かうために。
●
村を囲んでいるコボルドの一角を切り崩し、あなたは村へ入る。
そこには手勢を連れた商人らしき男と逃げ遅れた村人、それとこちらも商人と思われる少女がいた。
その少女が真っ先に声をかけてくる。
「助けに来てくださったんですか!?」
あなたは頷く。
「よかった。お願いします。それと頼みがあるんです。私をあの商人の方と話させてもらえませんか? あの人は……悪い人じゃない……はずなんです……」
苦しげに声を絞り出した少女。思案するあなたに再度懇願する。
「私はカレンと言います。どうか……どうかお願いします!」
リプレイ本文
●村人を救え
悲鳴と土煙が入り混じる村の中で、門垣 源一郎(ka6320)は小さく呟いた。
「……覚えがないわけでもない」
あまり口数の多くない源一郎がどのような意図で発したのかは、本人にしか知り得ない。
「ド派手にガツンと行きてぇけど、なんか面倒な奴が出てきやがったぜ」
神薙玲那(ka6173)の声が聞こえたのかどうかは不明だが、護衛に守られているダンダが彼女の方を向いた。
「ン? あァ、あン時の商人か……」
へェ……何やらキナくせェ事をしてるじゃねェか。ダンダを見つけた万歳丸(ka5665)は、商売と聞いて皮肉っぽく片頬を歪めた。
「あの商人にも思うところがあるのじゃろ。同じような目にあったとかな」
言ったあとでレーヴェ・W・マルバス(ka0276)は、邪魔者の排除をしようと告げる。
「あははっ。壊してもいいオモチャがいっぱいいる~。ねえねえ、これ全部壊しちゃってもいいんだよね?」
「そうだが、敵の数が多い。早く住民を助けてやらねばな」
妙に楽しそうな夢路 まよい(ka1328)の近くで、油断なく鞍馬 真(ka5819)が敵の数を確認している。
■
真っ先に動いたのはレーヴェだ。
南下しようとしているコボルドが、村人を攻撃できないようにロングボウでの制圧射撃で足止めする。
「動きを止められているうちに、村人を早く逃がすんじゃ」
続々と行動を開始するハンター。万歳丸は村人救出へ向かう前に、カレンへ歩み寄る。
「ダンダのガキが死んだらしィ」
知っている情報を教えると、彼女は驚きのあまり言葉を失った。
「アイツの変貌と関係あるのかもしンねェ……が。まァ、やりたいようにやンな」
励ますようにカレンの背中を軽いてから、手綱を握る馬を走らせる。
逃げ惑う住民の一人を抱え、放り込むように民家の一つへ入れる。
「そこで待ってな! すぐに片づけてやらァ!」
■
悲鳴を上げてへたり込みそうになる住民を、真は馬上から伸ばした手で引き上げる。
拳銃を見せてコボルドたちを牽制しつつ、万歳丸の行動に同調して助けた住民を同じ家の中へ避難させた。
「コボルドは私達が一掃する。その間、家の中に隠れていてほしい。必ず守るから安心してくれ」
不安を与えないように配慮し、真もまた家を守るための配置につく。
■
逃げ遅れていた最後の村人を担ぐようにして、まよいは他の二人もいる家の中に入ってもらう。
まよいが動いている間も、獲物を前に目を血走らせているコボルドは彼女から視線を外そうとしない。
しかしながらまよいはハンターであり、幾つもの戦場を経験している。コボルド程度の威嚇で臆するはずがなかった。
「村人さんは、安全な家の中から私達の活躍を見守っててね」
■
玲那もまた、他のハンター同様に怯える村人が肩を寄せ合う家の守りについた。
せっかくの狩りだというのに面倒そうな男――ダンダの登場にすっかりご機嫌斜めの玲那だが、気持ちを切り替えるように大きく息を吐く。
「嘆いても仕方ねーんで、コボルドどもを先にザーッと片付けちまうか」
■
源一郎はカレンと共に移動していた。彼女を護衛するためだ。
外野は色々と類推できるが、本当の処は本人しか知りようがない。源一郎はそう考えていた。元からダンダは悪人で、善人の皮をかぶっていただけかもしれないのである。
「何も知らぬ我々は彼を理解できぬ」
カレンの言う通り善人であるなら、何か理由があるのか。あるいは人の世の理屈に、強い絶望を抱いたのかもしれない。
頭の中に浮かぶ考えを、源一郎はすべてカレンに話したりしない。短くも支えになるであろう言葉だけを彼女に送る。
「諦めずに、相手を信じて、語りかけることだ」
「はいっ!」
●対コボルド戦
源一郎の護衛もあってダンダの近くに到着したカレンは、説得を開始する。
「私、以前に助けてもらった村の者です。貴方に憧れて商人になりました」
「それなら私の商売を手伝ってください」
「――っ! こんなことはやめてください!」
「手伝う気がないなら、邪魔をしないでもらえますか」
ため息をついたダンダに指示され、護衛の一人が強制的にカレンを離れさせた。
なおも食い下がろうとするカレンだったが、その前にコボルド達が包囲網を狭めるように動き出した。
コボルドの一体がダンダの護衛に襲い掛かり、それを合図に村のあちこちで発生した咆哮が重なって雷鳴のように轟く。
「一気呵成にくるか。俺が押さえてるうちに、お前も避難しろ」
乱戦になればカレンを守るのも困難になる。もっとも効果的なのは源一郎が指示した通り、村人と同じ家に避難してもらうことだった。
家を守りつつ、状況を見守っていた真も即座に賛成する。
「死んだら二度と説得もできない。コボルドを減らすまでは、君も私達が守る家の中にいた方がいい」
そうと決まればと、まだ迷いを見せていたカレンを万歳丸が村人もいる家へ押し込んだ。
「どうやら数で押し潰す作戦みたいね。でも、そう上手くいくかしら?」
一切慌てず、挑発的な視線と言動をプレゼントするまよいの前で、コボルドはハンターが守る家へ群がろうとする。
その中の一部が、制圧射撃を終えていたレーヴェに牙を剥く。
「私が魅力的なのはわかるが、ちと熱烈すぎやせんかのう」
二体の攻撃を回避したレーヴェに、今度は左から棍棒を持ったコボルドが迫る。
「しつこい奴は嫌われるって、昔から相場が決まってるのよね」
黙って見過ごすはずもなく、まよいはスリープクラウドでコボルドを眠らせる。狙った四体のうち一体が抵抗するも、他の三体は意識を消失して地面に崩れ落ちた。
助かったと目でまよいにお礼を言ったレーヴェはクイックロードして、すぐフォールシュートを放つ。自身の周囲に予想以上の数のコボルドがまとわりついていたからだ。
射程に入れた四体のうち二体に命中する。瀕死までは追い込めたが、命を奪うには至らない。
それを見たレーヴェは、機を逃さずにコボルドから距離を取る。
「意外とタフじゃのう。このまま足を狙い、自由な動きができぬようにしていくべきじゃな」
■
村人とカレンを押し込んだ家にも、上下と左方からコボルドが大挙してやってくる。
一般人からすれば恐怖の象徴みたいなものだが、ハンターである真は違う感想を持つ。集まってくれた方が、一度に仕留められる数が増えると。
「まるでコボルドの大波だな。恐らくダンダに利用されただけなのだろうが……悪く思うな」
拳銃から持ち替えていた刀を構え、敵集団をまとめて薙ぎ払う。
半円を描いた刀は、頭部を真っ二つにしたコボルドに回避を試みる時間さえ与えなかった。さらには棍棒を持つ二体の胴と脚、眠っていたもう一体の腕を紙のように斬り捨てた。
四体のコボルドが一瞬にして命を散らす。鋭く真に睨まれて怯むも、まだ数で勝ってるだけに敵は突撃をやめようとはしない。
「そっちから来てくれンなら、突っ込む手間が省けンぜ。怪力無双、万歳丸……推して参るぜ!」
敵が密集すれば、必然的に直前上に並ぶ形になる。万歳丸はその時を待っていた。
練った全身のマテリアルを一気に放出し、正面に立つ三体のゴブリンを仕留める。
急所を直撃されたコボルドは棍棒を落とし、白目を剥いて泡を吹く。もう息はしていない。胴と脚を潰された他の二体も同様だった。
「たっぷり遊んでやるぜ。コボルドは消毒だぁぁ!」
戦闘意欲を高めている玲那は感情のままに叫び、片っ端からホーリーライトやシャドウブリットなどの攻撃魔法をぶつけていく。
直撃を食らったコボルドは瀕死に陥り、その場に蹲って苦悶する。
一方で源一郎はカレンや村人が避難中の家に敵が近づかないよう刀を振るい、馬で蹴り、威嚇交じりに激しく戦う。
コボルドの頭に太刀をめりこませ、力を入れて真ん中から敵の体を左右に分離させる。
太刀についた血を飛ばし、寄らば斬るとばかりに剣先を敵に向ける。
源一郎の迫力に気圧されるも、コボルドたちはなおも村への攻撃続行を選択した。
■
兵に守られるダンダが撤退を命じる中、万歳丸は事もなげに敵の棍棒や爪をかわす。
真もしっかりと回避をし、反撃の体勢を整える。
まよいは一体の攻撃を胴に食らうも、明確な怪我にはならなかった。
源一郎も腕でコボルドの牙を防ぐ。
「ええい、しつこいわ。この分じゃ、ダンダらと話をするのは戦闘が終わってからになりそうじゃの」
三体に狙われたレーヴェは、回避と胴に装備した防具で二体の攻撃をやり過ごしたものの、残る一体の爪を足に受けて傷を負ってしまった。
再度、敵との距離を稼ぎつつ、レーヴェは弓で逃げようとするダンダを牽制する。
「そう急がずにゆるりとしていけ。我らの雇い主――カレンがお主に話があるのでな」
もう終わったと告げるダンダの言葉を遮るようにコボルドの猛攻が続く。
胴に一撃を食らった玲那が眉を軽く曲げる。
「よってたかってやってくれるじゃないか。けど、その程度であたしを倒せると思ったのか? だとしたら可愛いねぇ。なあ、コボルドちゃん」
放ったシャドウブリッドで手負いの一体を倒し、玲那は次の獲物を探す。
棍棒を持つコボルドを中心にまよいがスリープクラウドで眠らせ、真が薙ぎ払いで複数同時に倒していく。
万歳丸も黄金掌《蒼麒麟》で直線上の敵をまとめて攻撃し、一度に多くの数を減らす。
まよいのスリープクラウドとレーヴェの制圧射撃で敵の動きを止め、その隙に動ける敵を狙って仕留める。
そうすることで避難中の住民を守る。実に効果的かつ見事な作戦であった。
■
「待ってください!」
カレンが叫ぶ。ダンダが戦場となっている地点から脱出したせいだ。
慰めるのではなく、事実として源一郎は泣きそうなカレンに声をかける。
「機会はまたくる。諦めなければな」
「はいっ!」
■
ハンターの奮闘により、敵の数はだいぶ減っていた。
残りは九体。内訳は眠っているのが三体、手負いが一体、正常が五体である。
「残り少ないし、私も攻撃に移るよ。たっぷり壊してあげるからねぇ~」
遠足でもするような口調のまよいは、集中からのウィンドスラッシュをクリティカルで一体の腕に命中させた。
ここで不利を察したコボルドが逃げようとするも、レーヴェがクイックリロードからの制圧射撃でそれを許さない。
銃に持ち替えた真も、遠距離から逃走するそぶりを見せ始めているコボルドを狙う。
「際限なく増えかねないからな。一体たりとも逃がすわけにはいかない」
逃がさないためにまよいも再びスリープクラウドに切り替える。
避難中の村人の安全が確保されたと判断し、万歳丸と源一郎がコボルドを追いかけてきっちりととどめを刺す。
コボルドが生き残るには、ゼロに等しかろうともハンターに勝つしかなかった。しかしそれを理解できないがゆえに逃走を試みた。
その結果、恐らくは戦闘を継続していた場合よりも短時間で、ハンターはコボルドの殲滅を果たしたのである。
●ダンダとの会話
ハンターはカレンを連れて、急いでダンダを追いかけた。
村から出ようとしていたダンダをカレンが呼び止める。一生懸命に説得をするが、耳を貸してもらえそうな気配はなかった。
見かねたレーヴェが口を開く。
「復讐のために金を集める。その生き方は否定せんよ。じゃが人を呪わば穴二つ。その罪はお主にそっくり返ってくるじゃろうて」
「構いませんとも、失うものは何もありません」
「金、ねェ……なァ、オイ、ダンダ。てめェ、ガキも死んだのに金だけ集めてどうする気だ?」
万歳丸のあとにまよいも続く。
「お金って、それで買いたいものがあって集めるものなんだよね? そんなにお金を集めて、何が欲しいのかな?」
「妻と娘の墓に捧げるのです。無念を晴らすためにも!」
「へェ、だったら真っ当に儲けたっていいじゃねェか。どうしてそれをしねェ。てめェ、本当は金に魅入られちまったンじゃねェのか? 当初の目的を免罪符に、てめェの行動を正当化してるだけじゃねェのかよ」
ダンダの行動と願いが一致していないように見えた万歳丸だからこそできた指摘だった。
「違う! 私は復讐の為に……!」
「ふ~ん、私だったら、パパにそんなことをしてもらっても別に嬉しくないけどな」
頭の後ろで両手を組んだまよいの言葉に、ダンダは露骨に動揺する。
「そ、そんな、しかし……」
「戸惑うってことは、もうその可能性に気づいてたんじゃないの?」
狼狽するダンダ。ハンターたちの言葉は、かなり彼の心に効いていた。
「そこまで復讐に執着する気持ちが、私には理解できんよ」
真の台詞で数秒の沈黙が舞い降りる。
意図的に破ったのは玲那だ。
「別にあたしは復讐を否定する気はねーよ。けど、どうせならお前さんの娘を死なせた野郎と同じような守銭奴共に絞って金を巻き上げたらどうよ?」
返事をしないダンダに、玲那はなおも言葉を続ける。
「それができねぇってんなら、お前さんがしてるのは復讐じゃねぇ。万歳丸も言った通り、それにかこつけて金儲けをしてるだけだ」
「善を成したからこそ、悪に染まることもある」
源一郎がポツリと言った。
「だが、例え悪の道に落ちても、人の本質は変わらない」
「私もそう思います」
カレンが源一郎に同調した。
源一郎の言葉は短くとも、確かにカレンへ勇気を与えた。彼の経験に基づく言葉の一つ一つが強い支えになったのである。
「お前が何かを企むならば、今回のようにハンターが止める。不毛ないたちごっこをいつまで続ける気だ」
「お主と同じ悲劇に至る者をもう作るな。知恵なら貸そう。方法はいくらでもある。昔のお主ができなかった事、今のお主ならできるじゃろう?」
真とレーヴェの言葉も受けて、ダンダは押し黙る。
■
あと少し。
本当にもう一歩だった。
「うるさい、うるさい、うるさぁぁい!」
ハンターたちの想いは届いても、ダンダの中に芽生えていた負の心は完全に打ち払えなかった。
「私は復讐するんだ! 邪魔をするなァ!」
号泣し、激昂したダンダはカレンを突き飛ばして村から去る。そのあとを護衛が慌てて追った。
■
戻った静寂の中、玲那が怪我人にヒールをかけて回る。これでダメージを負った者の傷は回復した。
だがコボルドに壊された村はそうもいかない。
見ていたレーヴェは、腰に手を当てて頷く。
「よし。破損個所で修理できそうなところは直しておいてやろう。なに、アフターサービスじゃ」
「なら私も手伝おう。指示を出してくれるか」
真だけでなく、他のハンターも仲間外れにするなとばかりに村の修繕を手伝った。
■
一段落して夜。
ダンダの足跡が残る先には、月明かりすら届かない闇だけが広がっていた。
悲鳴と土煙が入り混じる村の中で、門垣 源一郎(ka6320)は小さく呟いた。
「……覚えがないわけでもない」
あまり口数の多くない源一郎がどのような意図で発したのかは、本人にしか知り得ない。
「ド派手にガツンと行きてぇけど、なんか面倒な奴が出てきやがったぜ」
神薙玲那(ka6173)の声が聞こえたのかどうかは不明だが、護衛に守られているダンダが彼女の方を向いた。
「ン? あァ、あン時の商人か……」
へェ……何やらキナくせェ事をしてるじゃねェか。ダンダを見つけた万歳丸(ka5665)は、商売と聞いて皮肉っぽく片頬を歪めた。
「あの商人にも思うところがあるのじゃろ。同じような目にあったとかな」
言ったあとでレーヴェ・W・マルバス(ka0276)は、邪魔者の排除をしようと告げる。
「あははっ。壊してもいいオモチャがいっぱいいる~。ねえねえ、これ全部壊しちゃってもいいんだよね?」
「そうだが、敵の数が多い。早く住民を助けてやらねばな」
妙に楽しそうな夢路 まよい(ka1328)の近くで、油断なく鞍馬 真(ka5819)が敵の数を確認している。
■
真っ先に動いたのはレーヴェだ。
南下しようとしているコボルドが、村人を攻撃できないようにロングボウでの制圧射撃で足止めする。
「動きを止められているうちに、村人を早く逃がすんじゃ」
続々と行動を開始するハンター。万歳丸は村人救出へ向かう前に、カレンへ歩み寄る。
「ダンダのガキが死んだらしィ」
知っている情報を教えると、彼女は驚きのあまり言葉を失った。
「アイツの変貌と関係あるのかもしンねェ……が。まァ、やりたいようにやンな」
励ますようにカレンの背中を軽いてから、手綱を握る馬を走らせる。
逃げ惑う住民の一人を抱え、放り込むように民家の一つへ入れる。
「そこで待ってな! すぐに片づけてやらァ!」
■
悲鳴を上げてへたり込みそうになる住民を、真は馬上から伸ばした手で引き上げる。
拳銃を見せてコボルドたちを牽制しつつ、万歳丸の行動に同調して助けた住民を同じ家の中へ避難させた。
「コボルドは私達が一掃する。その間、家の中に隠れていてほしい。必ず守るから安心してくれ」
不安を与えないように配慮し、真もまた家を守るための配置につく。
■
逃げ遅れていた最後の村人を担ぐようにして、まよいは他の二人もいる家の中に入ってもらう。
まよいが動いている間も、獲物を前に目を血走らせているコボルドは彼女から視線を外そうとしない。
しかしながらまよいはハンターであり、幾つもの戦場を経験している。コボルド程度の威嚇で臆するはずがなかった。
「村人さんは、安全な家の中から私達の活躍を見守っててね」
■
玲那もまた、他のハンター同様に怯える村人が肩を寄せ合う家の守りについた。
せっかくの狩りだというのに面倒そうな男――ダンダの登場にすっかりご機嫌斜めの玲那だが、気持ちを切り替えるように大きく息を吐く。
「嘆いても仕方ねーんで、コボルドどもを先にザーッと片付けちまうか」
■
源一郎はカレンと共に移動していた。彼女を護衛するためだ。
外野は色々と類推できるが、本当の処は本人しか知りようがない。源一郎はそう考えていた。元からダンダは悪人で、善人の皮をかぶっていただけかもしれないのである。
「何も知らぬ我々は彼を理解できぬ」
カレンの言う通り善人であるなら、何か理由があるのか。あるいは人の世の理屈に、強い絶望を抱いたのかもしれない。
頭の中に浮かぶ考えを、源一郎はすべてカレンに話したりしない。短くも支えになるであろう言葉だけを彼女に送る。
「諦めずに、相手を信じて、語りかけることだ」
「はいっ!」
●対コボルド戦
源一郎の護衛もあってダンダの近くに到着したカレンは、説得を開始する。
「私、以前に助けてもらった村の者です。貴方に憧れて商人になりました」
「それなら私の商売を手伝ってください」
「――っ! こんなことはやめてください!」
「手伝う気がないなら、邪魔をしないでもらえますか」
ため息をついたダンダに指示され、護衛の一人が強制的にカレンを離れさせた。
なおも食い下がろうとするカレンだったが、その前にコボルド達が包囲網を狭めるように動き出した。
コボルドの一体がダンダの護衛に襲い掛かり、それを合図に村のあちこちで発生した咆哮が重なって雷鳴のように轟く。
「一気呵成にくるか。俺が押さえてるうちに、お前も避難しろ」
乱戦になればカレンを守るのも困難になる。もっとも効果的なのは源一郎が指示した通り、村人と同じ家に避難してもらうことだった。
家を守りつつ、状況を見守っていた真も即座に賛成する。
「死んだら二度と説得もできない。コボルドを減らすまでは、君も私達が守る家の中にいた方がいい」
そうと決まればと、まだ迷いを見せていたカレンを万歳丸が村人もいる家へ押し込んだ。
「どうやら数で押し潰す作戦みたいね。でも、そう上手くいくかしら?」
一切慌てず、挑発的な視線と言動をプレゼントするまよいの前で、コボルドはハンターが守る家へ群がろうとする。
その中の一部が、制圧射撃を終えていたレーヴェに牙を剥く。
「私が魅力的なのはわかるが、ちと熱烈すぎやせんかのう」
二体の攻撃を回避したレーヴェに、今度は左から棍棒を持ったコボルドが迫る。
「しつこい奴は嫌われるって、昔から相場が決まってるのよね」
黙って見過ごすはずもなく、まよいはスリープクラウドでコボルドを眠らせる。狙った四体のうち一体が抵抗するも、他の三体は意識を消失して地面に崩れ落ちた。
助かったと目でまよいにお礼を言ったレーヴェはクイックロードして、すぐフォールシュートを放つ。自身の周囲に予想以上の数のコボルドがまとわりついていたからだ。
射程に入れた四体のうち二体に命中する。瀕死までは追い込めたが、命を奪うには至らない。
それを見たレーヴェは、機を逃さずにコボルドから距離を取る。
「意外とタフじゃのう。このまま足を狙い、自由な動きができぬようにしていくべきじゃな」
■
村人とカレンを押し込んだ家にも、上下と左方からコボルドが大挙してやってくる。
一般人からすれば恐怖の象徴みたいなものだが、ハンターである真は違う感想を持つ。集まってくれた方が、一度に仕留められる数が増えると。
「まるでコボルドの大波だな。恐らくダンダに利用されただけなのだろうが……悪く思うな」
拳銃から持ち替えていた刀を構え、敵集団をまとめて薙ぎ払う。
半円を描いた刀は、頭部を真っ二つにしたコボルドに回避を試みる時間さえ与えなかった。さらには棍棒を持つ二体の胴と脚、眠っていたもう一体の腕を紙のように斬り捨てた。
四体のコボルドが一瞬にして命を散らす。鋭く真に睨まれて怯むも、まだ数で勝ってるだけに敵は突撃をやめようとはしない。
「そっちから来てくれンなら、突っ込む手間が省けンぜ。怪力無双、万歳丸……推して参るぜ!」
敵が密集すれば、必然的に直前上に並ぶ形になる。万歳丸はその時を待っていた。
練った全身のマテリアルを一気に放出し、正面に立つ三体のゴブリンを仕留める。
急所を直撃されたコボルドは棍棒を落とし、白目を剥いて泡を吹く。もう息はしていない。胴と脚を潰された他の二体も同様だった。
「たっぷり遊んでやるぜ。コボルドは消毒だぁぁ!」
戦闘意欲を高めている玲那は感情のままに叫び、片っ端からホーリーライトやシャドウブリットなどの攻撃魔法をぶつけていく。
直撃を食らったコボルドは瀕死に陥り、その場に蹲って苦悶する。
一方で源一郎はカレンや村人が避難中の家に敵が近づかないよう刀を振るい、馬で蹴り、威嚇交じりに激しく戦う。
コボルドの頭に太刀をめりこませ、力を入れて真ん中から敵の体を左右に分離させる。
太刀についた血を飛ばし、寄らば斬るとばかりに剣先を敵に向ける。
源一郎の迫力に気圧されるも、コボルドたちはなおも村への攻撃続行を選択した。
■
兵に守られるダンダが撤退を命じる中、万歳丸は事もなげに敵の棍棒や爪をかわす。
真もしっかりと回避をし、反撃の体勢を整える。
まよいは一体の攻撃を胴に食らうも、明確な怪我にはならなかった。
源一郎も腕でコボルドの牙を防ぐ。
「ええい、しつこいわ。この分じゃ、ダンダらと話をするのは戦闘が終わってからになりそうじゃの」
三体に狙われたレーヴェは、回避と胴に装備した防具で二体の攻撃をやり過ごしたものの、残る一体の爪を足に受けて傷を負ってしまった。
再度、敵との距離を稼ぎつつ、レーヴェは弓で逃げようとするダンダを牽制する。
「そう急がずにゆるりとしていけ。我らの雇い主――カレンがお主に話があるのでな」
もう終わったと告げるダンダの言葉を遮るようにコボルドの猛攻が続く。
胴に一撃を食らった玲那が眉を軽く曲げる。
「よってたかってやってくれるじゃないか。けど、その程度であたしを倒せると思ったのか? だとしたら可愛いねぇ。なあ、コボルドちゃん」
放ったシャドウブリッドで手負いの一体を倒し、玲那は次の獲物を探す。
棍棒を持つコボルドを中心にまよいがスリープクラウドで眠らせ、真が薙ぎ払いで複数同時に倒していく。
万歳丸も黄金掌《蒼麒麟》で直線上の敵をまとめて攻撃し、一度に多くの数を減らす。
まよいのスリープクラウドとレーヴェの制圧射撃で敵の動きを止め、その隙に動ける敵を狙って仕留める。
そうすることで避難中の住民を守る。実に効果的かつ見事な作戦であった。
■
「待ってください!」
カレンが叫ぶ。ダンダが戦場となっている地点から脱出したせいだ。
慰めるのではなく、事実として源一郎は泣きそうなカレンに声をかける。
「機会はまたくる。諦めなければな」
「はいっ!」
■
ハンターの奮闘により、敵の数はだいぶ減っていた。
残りは九体。内訳は眠っているのが三体、手負いが一体、正常が五体である。
「残り少ないし、私も攻撃に移るよ。たっぷり壊してあげるからねぇ~」
遠足でもするような口調のまよいは、集中からのウィンドスラッシュをクリティカルで一体の腕に命中させた。
ここで不利を察したコボルドが逃げようとするも、レーヴェがクイックリロードからの制圧射撃でそれを許さない。
銃に持ち替えた真も、遠距離から逃走するそぶりを見せ始めているコボルドを狙う。
「際限なく増えかねないからな。一体たりとも逃がすわけにはいかない」
逃がさないためにまよいも再びスリープクラウドに切り替える。
避難中の村人の安全が確保されたと判断し、万歳丸と源一郎がコボルドを追いかけてきっちりととどめを刺す。
コボルドが生き残るには、ゼロに等しかろうともハンターに勝つしかなかった。しかしそれを理解できないがゆえに逃走を試みた。
その結果、恐らくは戦闘を継続していた場合よりも短時間で、ハンターはコボルドの殲滅を果たしたのである。
●ダンダとの会話
ハンターはカレンを連れて、急いでダンダを追いかけた。
村から出ようとしていたダンダをカレンが呼び止める。一生懸命に説得をするが、耳を貸してもらえそうな気配はなかった。
見かねたレーヴェが口を開く。
「復讐のために金を集める。その生き方は否定せんよ。じゃが人を呪わば穴二つ。その罪はお主にそっくり返ってくるじゃろうて」
「構いませんとも、失うものは何もありません」
「金、ねェ……なァ、オイ、ダンダ。てめェ、ガキも死んだのに金だけ集めてどうする気だ?」
万歳丸のあとにまよいも続く。
「お金って、それで買いたいものがあって集めるものなんだよね? そんなにお金を集めて、何が欲しいのかな?」
「妻と娘の墓に捧げるのです。無念を晴らすためにも!」
「へェ、だったら真っ当に儲けたっていいじゃねェか。どうしてそれをしねェ。てめェ、本当は金に魅入られちまったンじゃねェのか? 当初の目的を免罪符に、てめェの行動を正当化してるだけじゃねェのかよ」
ダンダの行動と願いが一致していないように見えた万歳丸だからこそできた指摘だった。
「違う! 私は復讐の為に……!」
「ふ~ん、私だったら、パパにそんなことをしてもらっても別に嬉しくないけどな」
頭の後ろで両手を組んだまよいの言葉に、ダンダは露骨に動揺する。
「そ、そんな、しかし……」
「戸惑うってことは、もうその可能性に気づいてたんじゃないの?」
狼狽するダンダ。ハンターたちの言葉は、かなり彼の心に効いていた。
「そこまで復讐に執着する気持ちが、私には理解できんよ」
真の台詞で数秒の沈黙が舞い降りる。
意図的に破ったのは玲那だ。
「別にあたしは復讐を否定する気はねーよ。けど、どうせならお前さんの娘を死なせた野郎と同じような守銭奴共に絞って金を巻き上げたらどうよ?」
返事をしないダンダに、玲那はなおも言葉を続ける。
「それができねぇってんなら、お前さんがしてるのは復讐じゃねぇ。万歳丸も言った通り、それにかこつけて金儲けをしてるだけだ」
「善を成したからこそ、悪に染まることもある」
源一郎がポツリと言った。
「だが、例え悪の道に落ちても、人の本質は変わらない」
「私もそう思います」
カレンが源一郎に同調した。
源一郎の言葉は短くとも、確かにカレンへ勇気を与えた。彼の経験に基づく言葉の一つ一つが強い支えになったのである。
「お前が何かを企むならば、今回のようにハンターが止める。不毛ないたちごっこをいつまで続ける気だ」
「お主と同じ悲劇に至る者をもう作るな。知恵なら貸そう。方法はいくらでもある。昔のお主ができなかった事、今のお主ならできるじゃろう?」
真とレーヴェの言葉も受けて、ダンダは押し黙る。
■
あと少し。
本当にもう一歩だった。
「うるさい、うるさい、うるさぁぁい!」
ハンターたちの想いは届いても、ダンダの中に芽生えていた負の心は完全に打ち払えなかった。
「私は復讐するんだ! 邪魔をするなァ!」
号泣し、激昂したダンダはカレンを突き飛ばして村から去る。そのあとを護衛が慌てて追った。
■
戻った静寂の中、玲那が怪我人にヒールをかけて回る。これでダメージを負った者の傷は回復した。
だがコボルドに壊された村はそうもいかない。
見ていたレーヴェは、腰に手を当てて頷く。
「よし。破損個所で修理できそうなところは直しておいてやろう。なに、アフターサービスじゃ」
「なら私も手伝おう。指示を出してくれるか」
真だけでなく、他のハンターも仲間外れにするなとばかりに村の修繕を手伝った。
■
一段落して夜。
ダンダの足跡が残る先には、月明かりすら届かない闇だけが広がっていた。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/15 09:38:22 |
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金と商人とコボルドと 万歳丸(ka5665) 鬼|17才|男性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2016/06/17 05:05:48 |