ゲスト
(ka0000)
Hearty Party
マスター:チャリティーマスター

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/06/21 07:30
- 完成日
- 2016/06/27 12:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「お世話になっているハンターの皆さまへ
いつもたくさんのお願いごとを快く引き受けてくださるばかりか、様々なお心遣いまでいただきまして、本当にありがとうございます。
つきましては皆様をパーティーにご招待いたしたく、ご案内させていただきました。
ご都合がよろしければ、是非ともご参加くださいませ」
●
そこは小さな喫茶店。招待状を手にした貴方を出迎えてくれるのは、クリームヒルトと妹のヒルデガルドです。
「よくお越しくださいました」
「よく来てくれた。歓迎するぞ」
ディアンドル姿の彼女達は揃って挨拶すると、喫茶店の扉を開けて、どうぞ。と道を譲ります。
中に入るとシグルドが荷物はこちら。と預かってくれます。
「こうして会えるとは不思議な巡りあわせだね。お好きなテーブルへどうぞ」
見渡すといくつものテーブルがあります。お花がそれぞれ飾られ、白い食器が丁寧に並べられています。
「ああ、もう来られたのですか。良い夢を」
そのテーブルをセットしているのはブリュンヒルデ。貴方の姿を見ると丁寧に一礼して挨拶してきます。
「このお花のセットが難しくて……」
「お花に無理を聞かせようとするからよ。今日は無理しない。自由でいい」
テーブルを飾る花に四苦八苦するブリュンヒルデに、アガスティアが優しくそう言い、手伝っています。彼女が触れると花は佇まいを正して、そこにあるのが一番であるように咲き誇ります。アガスティアは整え終えると「貴方もですよ」と言葉をかけてくれました。
「不思議なものだ。法則から外れず、さりとて十二分に物の本領を引き出す」
感心しているのはレイオニール。錬金術師らしい観点です。
「それが心を寄せるということだよ。心を寄せれば色んなものが見えてくる」
グインのおじいさんが微笑むと、傍で調律していたレイチェルと視線を合わせて、微笑みあいます。
「それを何より体現してくれたのが、あんた達、だよな。近づきすぎては壊れる。遠すぎて孤独の恐怖に震える。そんな俺達の間柄にいい道を作ってくれた」
若いグインはリュートを置いて、真摯な態度で貴方にそう言いました。
その後ろからサイアとミーファも顔を出して互いを見ます。
「生きる力をくれたりとか」
「生きる道を探したりとか」
二人は同じタイミングで貴方に笑顔を向けてくれます。
「「本当にありがとう」」
どちらを向いても、そんな調子で。貴方はちょっと恥ずかしくなりました。
「ははは、ありがとうばかりでは飽きが来るだろう」
そんな様子を見てイグが笑い、ゾールが葡萄のジュースを入れたジョッキを持つ手で肩に手を回します。
「とりあえず乾杯だ!」
「わわわ、ちょっと待ってくださいって。まだお料理も揃ってませんから!!」
ゾールの一言で慌てて厨房から飛び出してきたのはミネアです。
そんなミネアは貴方がこちらを見ていることに気が付いて、大慌てで厨房に隠れます。きっと大声出したのが恥ずかしかったのでしょう。
「彼女の言葉通り。ゾール。いつ楽しんでも良いが、交わる時は人の心を大切にすべきだ」
「はははは! スィアリには敵わん」
穏やかに制したスィアリに、ゾールは貴方に回した腕を解いて笑い飛ばしました。
「ほーら、ウル。これがワインだぞー」
「ロッカ。勝手に飲まさないで!!」
「いいさ、息子もこういう時は飲むことを覚えるべき。世話になった人間と喜びを分かち合うのに、酒は大切!」
ロッカが小さなウルにワインを勧めるのをレイアは留めていましたが、父親のゾールは気にする様子もありません。
「おう、オレなんか物ごころついた時から、飲んでいるのは火酒だったからな」
そんなゾールにジョッキをあげて応援するのはレギンです。
「この飲ん兵衛! ったく、今日はただの飲み会じゃないっつってんでしょ」
いつもより張り切っておめかししたメルツェーデスがレギンとゾールの頭をはたき倒します。
「いつも世話になっているあいつを飛び切り楽しませてやるって話でしょ。先に飲むんじゃない!!」
「メルツェーデスさん。見られてますよ……」
きーっと怒鳴るメルツェーデスに、ルーフィがそのドレスを軽く引いて声をかけると、彼女は真っ赤になって後ずさりします。
「ちょっ、えっと。……とりあえずお祝いなんだから、楽しみなさいよね!」
捨て台詞を吐いて彼女は逃げていきました。
ぽかんとする貴方の後ろから、店内に戻って来たクリームヒルトが微笑みかけます。
「今日は一日、楽しく過ごしてくださいね。ミネアちゃん、準備できたー?」
「はーい」
そう言うと、ミネアはブリュンヒルデと一緒に大きな豚の丸焼きを持って、貴方の前に運んできます。
「今日のメインディッシュ。アウグス豚の丸焼きです!!」
山のような大きな豚を前に言葉を失う貴方。そんな貴方の前に他の面々がその後ろに整列しています。
それに気づいて顔を上げたその瞬間、クリームヒルトが音頭を取ります。
「それじゃ、せーのっ」
「「「ハンターさん、いつもありがとう!!!!!」」」
「お世話になっているハンターの皆さまへ
いつもたくさんのお願いごとを快く引き受けてくださるばかりか、様々なお心遣いまでいただきまして、本当にありがとうございます。
つきましては皆様をパーティーにご招待いたしたく、ご案内させていただきました。
ご都合がよろしければ、是非ともご参加くださいませ」
●
そこは小さな喫茶店。招待状を手にした貴方を出迎えてくれるのは、クリームヒルトと妹のヒルデガルドです。
「よくお越しくださいました」
「よく来てくれた。歓迎するぞ」
ディアンドル姿の彼女達は揃って挨拶すると、喫茶店の扉を開けて、どうぞ。と道を譲ります。
中に入るとシグルドが荷物はこちら。と預かってくれます。
「こうして会えるとは不思議な巡りあわせだね。お好きなテーブルへどうぞ」
見渡すといくつものテーブルがあります。お花がそれぞれ飾られ、白い食器が丁寧に並べられています。
「ああ、もう来られたのですか。良い夢を」
そのテーブルをセットしているのはブリュンヒルデ。貴方の姿を見ると丁寧に一礼して挨拶してきます。
「このお花のセットが難しくて……」
「お花に無理を聞かせようとするからよ。今日は無理しない。自由でいい」
テーブルを飾る花に四苦八苦するブリュンヒルデに、アガスティアが優しくそう言い、手伝っています。彼女が触れると花は佇まいを正して、そこにあるのが一番であるように咲き誇ります。アガスティアは整え終えると「貴方もですよ」と言葉をかけてくれました。
「不思議なものだ。法則から外れず、さりとて十二分に物の本領を引き出す」
感心しているのはレイオニール。錬金術師らしい観点です。
「それが心を寄せるということだよ。心を寄せれば色んなものが見えてくる」
グインのおじいさんが微笑むと、傍で調律していたレイチェルと視線を合わせて、微笑みあいます。
「それを何より体現してくれたのが、あんた達、だよな。近づきすぎては壊れる。遠すぎて孤独の恐怖に震える。そんな俺達の間柄にいい道を作ってくれた」
若いグインはリュートを置いて、真摯な態度で貴方にそう言いました。
その後ろからサイアとミーファも顔を出して互いを見ます。
「生きる力をくれたりとか」
「生きる道を探したりとか」
二人は同じタイミングで貴方に笑顔を向けてくれます。
「「本当にありがとう」」
どちらを向いても、そんな調子で。貴方はちょっと恥ずかしくなりました。
「ははは、ありがとうばかりでは飽きが来るだろう」
そんな様子を見てイグが笑い、ゾールが葡萄のジュースを入れたジョッキを持つ手で肩に手を回します。
「とりあえず乾杯だ!」
「わわわ、ちょっと待ってくださいって。まだお料理も揃ってませんから!!」
ゾールの一言で慌てて厨房から飛び出してきたのはミネアです。
そんなミネアは貴方がこちらを見ていることに気が付いて、大慌てで厨房に隠れます。きっと大声出したのが恥ずかしかったのでしょう。
「彼女の言葉通り。ゾール。いつ楽しんでも良いが、交わる時は人の心を大切にすべきだ」
「はははは! スィアリには敵わん」
穏やかに制したスィアリに、ゾールは貴方に回した腕を解いて笑い飛ばしました。
「ほーら、ウル。これがワインだぞー」
「ロッカ。勝手に飲まさないで!!」
「いいさ、息子もこういう時は飲むことを覚えるべき。世話になった人間と喜びを分かち合うのに、酒は大切!」
ロッカが小さなウルにワインを勧めるのをレイアは留めていましたが、父親のゾールは気にする様子もありません。
「おう、オレなんか物ごころついた時から、飲んでいるのは火酒だったからな」
そんなゾールにジョッキをあげて応援するのはレギンです。
「この飲ん兵衛! ったく、今日はただの飲み会じゃないっつってんでしょ」
いつもより張り切っておめかししたメルツェーデスがレギンとゾールの頭をはたき倒します。
「いつも世話になっているあいつを飛び切り楽しませてやるって話でしょ。先に飲むんじゃない!!」
「メルツェーデスさん。見られてますよ……」
きーっと怒鳴るメルツェーデスに、ルーフィがそのドレスを軽く引いて声をかけると、彼女は真っ赤になって後ずさりします。
「ちょっ、えっと。……とりあえずお祝いなんだから、楽しみなさいよね!」
捨て台詞を吐いて彼女は逃げていきました。
ぽかんとする貴方の後ろから、店内に戻って来たクリームヒルトが微笑みかけます。
「今日は一日、楽しく過ごしてくださいね。ミネアちゃん、準備できたー?」
「はーい」
そう言うと、ミネアはブリュンヒルデと一緒に大きな豚の丸焼きを持って、貴方の前に運んできます。
「今日のメインディッシュ。アウグス豚の丸焼きです!!」
山のような大きな豚を前に言葉を失う貴方。そんな貴方の前に他の面々がその後ろに整列しています。
それに気づいて顔を上げたその瞬間、クリームヒルトが音頭を取ります。
「それじゃ、せーのっ」
「「「ハンターさん、いつもありがとう!!!!!」」」
リプレイ本文
「これは……夢?」
森に入って17本目の木を左に入って。いつも通りの道を歩んでいたはずのエイル・メヌエット(ka2807)は迎えられた喫茶店に、アーモンド形の瞳を少し大きく広げました。
「エイル……。来てくれたのね」
戸惑うエイルを見つけて一番に迎えてくれたのはレイチェル。ほのかに紅が刺した頬は至福に富んでいるなんて。
そして、レイチェルが横にかけた老人に目配せをすると、その老人も皺だらけの赤ら顔に笑顔をいっぱいに浮かべて挨拶をしてくれました。
「私の大切な人を救ってくれてありがとう。貴女の優しさは私を、そして若いグインも救ってくれた」
ああ、彼こそが偉大なるグイン。エイルはすぐに察しました。
「こんなことがあっても……いいのね」
二人の手を重ね合せて、エイルに握手をしてくれます。その手は温かくて。
「夢の世界……夢の」
だとしたら、あの子は、あの人はきっといるはず。鬼百合(ka3667)は大慌てで周りを見回していると、彼の服をそっと引く感じがしました。
「姉さん。やっぱりいたんですねぃ!」
「鬼百合様。お待ちしておりました」
挨拶をしてくれたのはエプロンをしているブリュンヒルデです。
さあどうぞ。とテーブルに案内しようとするブリュンヒルデの手を今度は鬼百合が引いて、大きな花束を二人の間に差し出します。
「これ、先に渡さなきゃあ」
「チューリップに……これはカルミア。ありがとうございます」
「物知りですねぃ。これはルピナスって言うんでさ。へへへ、姉さんの村のところに咲いていたんでさ」
「ふえー、鬼百合くんもあそこ行ってたの?」
驚いた声を上げるのはメル・アイザックス(ka0520)です。
「も、ってこたぁ……」
「あんなに想いの詰まったところをさ、そのままにしておけないじゃない。ハーゲンさんの想いを風化させたくないもの」
想いが風化するものじゃなくて、結実させるものだもの。
「それにしてもいい匂い。すごいお料理が待ってそうだね? これ、どうやって焼くの?」
ブリュンヒルデの後ろにある大きな豚を覗き見てメルが問いかけました。
「えーと、豚に色んな料理を詰めて、お腹を縫い合わせて」
げほっ。
その解説に噴き出したのはリュー・グランフェスト(ka2419)です。ダメだ。豚の顔といい、料理方法といい、何かを彷彿とするじゃあないか。
「こ、これ普通の豚だよな?」
「はい、普通のアウグストです」
人間じゃねえか!
「冗談に決まってるでしょ。食べてもらえる美味しい料理ばかりなんだから」
リューの背をぽんっと叩くのは高瀬 未悠(ka3199)。今日は黒の軍服ではなくクリームヒルトと同じ緑のディアンドルに銀のトレイ姿です。そんな彼女からウェルカムドリンクのプレゼントをされたリューは眉をひそめます。
「ひっどい! クリームヒルトと一緒に作ったのよ。希望の盾士として飲まず食わずはクリームヒルトにも失礼にあたるわ」
そこでクリームヒルトの名前を出すか。リューはぐぬぬと言いつつ、横目でクリームヒルトを見ると彼女も期待の眼でこちらを見てます。
「革命の後の逃亡生活をしていた時によく飲んでいたお茶なの。辛いこともあったけれど、このお茶があれば気持ちも穏やかになれるのよ」
「ふーん……そうか」
クリームヒルトも最近までつらい生活をしていた所為か、雑草を食べて美味しいっていえる味覚の持ち主ですので、信用はできません。
できないけれど。気持ちを共有できるならいいかもしれない。リューはそっとドリンクを口に含みました。
「お、思ったよりいけるな」
「その上で、このモンブランよ。相性バッチリだから」
未悠とクリームヒルトは顔を見合わせて微笑みあいます。よく見ればどちらの口にもクリームヒルトがちょっとずつ。試作に試作を重ね合わせたようで。
「いきなりデザートから始めたら、折角のギターの名手の歌も聴けなくなるぜ。リュー、この前のミュゲの日はありがとうな」
「お、グインか。すっかり詩人らしくなったな。じゃあ菓子は乾杯の後で貰うよ。またな」
女の子同士の楽しみもあれば、男の子同士の楽しみもあり。リューは若いグインに声をかけられ、レイチェルや大グインのいる方へと移動します。
「それじゃ、そのティーセットを貰おうか。できれば飲み物はホットココア、ミルク多めで」
そう言ってくれたのは一番目立たない隅の席で本を開いているヒース・R・ウォーカー(ka0145)。
「意外と甘いのお好きなんですね。ブラックとか飲みそうなイメージだったのに」
「意外なのは、そっちかなぁ……革命で追われた姫なんて現実を嘆くだけかと思っていたさ。姉妹揃ってよく働く」
クリームヒルトとヒルデガルドは顔を見合わせてくすりと笑った。
「現実を伏せて過ごしていいことは一つもない。伏せるのは立ち上がるためだ。其方の思いを馳せるその動向も次につなげるためだろう?」
ヒルデガルドは笑ってそう言うと、耳元で囁いた。
「姉上をよく見守ってくれた。これからも道を違えぬよう、遠くからまた近くから守ってくれないか」
「ちょっと、わたしがヒースさんに見張られてないと悪の道に入るみたいじゃない!」
「姉上は悪運の塊だからな」
「確かに。トラブルメーカーの気もあるっすよね」
いつの間にやら傍にいてウンウンと頷くのは無限 馨(ka0544)。
「五体投地で土下座することになったり、某女子の眼鏡代を請求されそうになったり。関わったベント伯とか、アミィとか、レギンとかみんな元の居場所で危うい立場に……」
「それ、わたしのせいなんですかー!?」
無限の呟きに衝撃を受け涙を浮かべるクリームヒルトに無限は慌てました。
「あ、いや、貰ったものも多いっすよ! えーとえーと」
「思いつかれてないぃぃ。わたし、無限さんのことすっごく信頼してたのに! 屋根を飛び下りた時に無限さんの顔出て来たのに!!」
それが眼鏡代の請求につながったとか、今は言えない。
「あらあら、泣かしちゃったの?」
フィニーフェニー(ka6322)がクリームヒルトを軽く抱きしめて、よしよしと宥めます。
「あわわ、そんなことないっすよ。目標ができたし、頼れる仲間もできたっす。ヒースさんやリュー君みたいな! エイルさんには花道開いてもらったっすし、リュカさんにもいつも世話になってるっすよ」
「取って付けたようだねぇ」
ヒースが本を開いたまま悪戯な一言を呟くと、クリームヒルトのショックはますますひどくなりました。無限くん、ピンチ。
「大丈夫よ。無限さんがちょっといじめたくなるくらい可愛い子だってことよ。ヒースちゃん、あんまりいじめちゃだめよ~」
そこはフィニーフェニーがぎゅーっと抱きしめて、それから狼狽する無限の頭も撫でます。
「はい、仲直りしてね」
「これからも、いっぱいいっぱい、守ってくださいね?」
「もちろんっすよ!」
無限はぽんと自分の胸を叩いて笑いました。
「ううう、姉上。いい話だ」
ディアンドルに着けたエプロンの裾で涙を拭くヒルデガルドに、そっとハンカチーフを差し出したのはセレスティア(ka2691)です。
「せっかくのお洋服が涙で濡れたら台無しですよ。でも、ヒルデガルドさんがディアンドルだなんて意外。ほら、軍服のイメージが強かったから」
「強がるには格好から入らねばならぬでな。本当はやっぱりこういう服とか、ドレスとかの方が好きだった。セレスティア殿はその点、美しさと強さを兼ね備えておるよな。ブルーネンフーフの桜吹雪が舞うとか、まるでオサムライのようだったぞ。妾など覚醒したらゾンビどもがハチマキして応援に来るんだ。このセンスのなさ!」
いじけるヒルデガルドにセレスティアは噴き出した。
「ちょっと違うけれど……血族として武道に通じているのは確かですね。ヒルデガルドさんもこういう姿似合うと思いますよ。良かったら着てみませんか?」
セレスティアの言葉にヒルデガルドは顔を薄紅色に染めました。とっても嬉しがっている証拠です。
「ふふふ、それじゃお着替えしましょう」
セレスティアは皆に断りをいれて、店の奥の方へとヒルデガルドを連れて行きました。
「セレスティアさーん、ニョッキ作る準備できましたよー……あれ?」
入れ違いで厨房からミネアが顔を出し、キョロキョロとしているのを見て天央 観智(ka0896)が声をかけました。
「彼女なら今……更衣室ですよ。それにしても大賑わい、ですね。お知り合い……ばかりですか?」
「あ、天央さん、ありがとうございます。えへへ、こんなにたくさんの人に来てくれたら私も嬉しいです。そうですね。ヒースさんはこの前のミュゲの日でお会いしましたし、アーシュラさんは合コンの時にご一緒が縁の初めかな。それからジュードさんは商人の先輩なんですよ」
「そちらではなくて……ええと」
ハンター同士ですもの。観智は苦笑いをしてホスト側に回っている方々に視線を向けました。ミネアもその意図には気づきましたが困っています。
「クリームヒルトさんなら、大抵の人は知っているみたいですよ。ボラ族の人達とかも知り合いが多いみたいですけれど」
「なるほど。物語には……軸があるといいますが」
網の目のように絡み合って人の関係は作られているんだなと観智は感じました。袖触れ合うのも他生の縁と言いますが。
「あっ、観智さんではございませぬか。先日はお世話になり申した。まさか皆で土蜘蛛退治に乗り出してくださるとは、もうこの五条、感激いたしました!」
「五条さん、こんにちは。今日も何かお考えになっていらっしゃいますか?」
くすりと笑う観智に、五条はその手をぎゅっと握って恥ずかしげに顔を赤らめる。
「何をおっしゃいますか。こうして友好を深め、絆を固くすることに何の理由がありましょうか」
手に何か握らされている。
淑女のようにそそと離れる彼女の背を見送った後、手をゆっくり開いてみれば、「詩天をこれからもよろしくお頼みいたします」という名刺でした。
友好と絆が名ばかりなところに、観智は思わず声を出して笑ってしまいます。
「絆もまた、彼女のお仕事の大切な一つなんでしょうね……」
観智は笑いながら、人が集まりなだらかなセッションが聞こえてくる方をみました。
「ふふふ、楽団みたいですね」
ルナ・レンフィールド(ka1565)はリュートを弾き。小グインがそれにあわせてリュートを。レイチェルはいつものフルート。大グインはシタールです。エイルはハンドベルを用意して、時折、静かな高い音色を。
「私達もいいでしょうか」
「ルナの音楽は森に響いたよな。おうい、ラティナ。蜂蜜酒をもう一杯。土と一緒さ。まず潤さなきゃ、いいものはできないや」
ギムレットに呼ばれてラティナ・スランザール(ka3839)は集まった面々に香草入りの蜂蜜酒をふるまいます。
「それとこれ。故郷の母さんが送ってくれたんだ。あんたもどうだい」
ラティナが差し出したジャムはプラムのようです。すっきりと爽やかな香り……。あれ、観智は首を傾げます。
「これ、詩天のプラム……ですか?」
「ああ、手紙でなんかそっちの方に行ってたって書いてたな。ちんまい姉ちゃんと、やたら喋る姉ちゃんの案内役がいたってさ。よく知ってるな!」
観智はははぁ。と思いましたが、さてそれが誰であるやら。ドワーフの女性はいなかった気がしますが。
「プラムもまた、喉に優しくまた弁舌爽やかになるとのことでございます。ごらんなされ、詩天育ちのわたくしが言うのだから間違いございません。ささ、皆様で一口ずつ。ラティナ様のお母様にも大変お世話になり申しました。心込めたすべてがここにこもって」
「あー……それ、俺の……」
完全に言葉を失ったラティナはぽかんとしますが、それをくすりとギムレットが笑いました。
「一族揃って活躍だな! 故郷も鼻高いんじゃないか?」
その言葉にラティナはにっかりと笑いました。ギムレットと共に故郷の姿を思い出すのは何度目でしょうか。
「森で見た幻も、故郷を思い出させてくれた。それにエルフとドワーフが共に手を取り合って成せたことは、俺にとって勲章だったよ」
「光の森が第二の故郷ってんでもいいんだぜ。アガスティアは酒飲まないからさ。酒がな、いっつも一人でさー。……なー、ラティナー。家族そろってこっち来いよー」
だんだんギムレットは愚痴っぽくなっています。森の中でお酒を飲むのは大変らしい? 気が付けばラティナが慰め役になっていて、リュカ(ka3828)はくすりと笑いました。
「ギムレットにとっては少々やりづらそうだな。何事も善し悪しというものがあるのだろう」
「でも、それを乗り越えて居てくれます。リュカさん。あなたの心も」
リュカが振り向けば、アガスティアが傍にいました。彼女は静かに一礼すると、リュカに握手を求めます。今更握手という間柄でもないのに。と思いつつも手を交わしたリュカにアガスティアは目を細めます。
「金槌、禁忌たる鉄を触れさせてしまいましたね。お手伝いとはいえ、あんな場所で禊ぎを行わせてしまったこと、本当に申し訳ない事をしました」
ああ、鉄に触れた事。気づいていたんだ。リュカは握手の意味に気付きました。きっと分かち合う意味での。
「いや、今ではいい思い出だ。森をる、作ること、そうした営みを続けた祖先の苦労に触れるきっかけになったよ」
「光の森はあなたの血が、心が、想いが、もう雨となり、大地に根差している。リュカは十二分にその力を発揮してくれました。だからもし……」
疲れたら、帰ってきてください。あなたの森でもあるのだから。
そう言いたかったのでしょうけれども。その前にどうやら歌が始まるようです。豪華な音のあわせで響き、それは口の動きでしか確認できませんでした。
そしてそれにリュカは答える必要もありません。微笑むだけでいいのです。
「森の二人。良いか?」
声をかけてきたのはスィアリです。リュカはドキリとしましたが、豊かで艶やかな金髪の奥から覗く表情に富んだ顔は命の煌めきを感じさせます。
「もちろん。これから彼ら彼女たちの為に唄わせていただきましょう」
差し出されたスィアリの手を取って、アガスティアが人の輪の中へ歩みます。
「夢路に懐かしい音がすると思って入ってみれば、なんてことだ……」
そんな光景にエアルドフリス(ka1856)は入り口で立ちすくんでしまいました。
レイチェルが笛を鳴らし、アガスティアが歌い上げ、そしてスィアリが舞い踊る。そんな様子は今まで想像だにできないことです。
「夢でも見ているかのようだ」
ふらり、と足を向けるエアルドフリスの腕を引いたのはエステル・クレティエ(ka3783)です。彼女の瞳は昏く、顔は強張っています。
「ダメよ。エアルド先生。行っちゃ、ダメ……こんなの悪い夢よ」
「エステル?」
暴食の巫女の腐り落ちた顔が戻っているなんて。アガスティアと手を取り合っているなんて。夢の中でも見たくない。
私がしたことは何だったの? みんなが必死になったあの気持ちはなんだったの? 全部お芝居なの?
涙が溢れそうになるエステルを歌を止めたアガスティアがそっと抱いて囁きます。
「アガスティアさん……」
「あなたはよく頑張ってくださいました。あなたの力によって今がある、と言うと驚くでしょうか」
身を呈して、心を砕いて頑張ってくれた。そのおかげでたくさんの希望と笑顔が生まれた。
砕けた心の破片はどこにいった? 咲いた笑顔は何を想うか。
「大海。心の海というべきか。あらゆる命は、本来心の海でつながっている。だからこそ思いやることができるのだよ。互いを感じ取れるという能力があるのだ」
「つまりこれは、心の海の、幻影……?」
スィアリの言葉にエステルの暗雲が晴れるわけではありません。だけど、理屈でならなんとはなしに解ります。
「しかし、これはなんとも豪勢なことだ。大グインにもお会いできるとは。ありがとう、貴方の最期の依頼がその後を紡いだ」
「この老骨の頼みを聞き入れたその時、君の心はもう出来上がっていたはずだ。感謝すべきは君の世界を作り上げた多様な縁ではないかね。そして心より私からも。ありがとう」
真摯なエアルドフリスに大グインは朗らかに笑います。
その言葉に二の句が告げなくなって。エアルドフリスは苦笑いをしました。
「縁、か……」
「生死を隔てても縁は切れぬ。円環にある限り。生まれ変わっても……」
言葉少なになるエアルドフリスにスィアリが微笑み、ほら。と向こうを指さしました。
「これってどうなってるの?」
クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)こと恵美は小グインの胸をはだけて眉をひそめました。
「恵美、こんなところで……いきなり、わっ」
「似通っている部分くらいあるとは思っていたけれど」
そのまま小グインの襟をつかんで、そのまま大グインの元に引き寄せ、今度は大グインにも同じように。上半身をいきなりはだけることになった二人の男性にルナが思わず可愛い声を上げます。
「く、く、クラリッサさん! 音楽の途中ですよっ」
「この二人、不思議だもの。アザの位置、ホクロの位置。傷の位置。みんな一緒なのよ」
似通った部分が二人にあると思っていました。でも、それは恵美の予想以上。異なる肉体に同じ特徴があるのだから。
「生死を隔てても縁は切れないの。生まれ変わっても……」
生まれ変わっても、また出会える。
身体を変えて、小グインは大グインの遺志を受け継いで。レイチェルの傍にいるのです。
「転生が肯定されるなら、お墓、作った意味がないわね……」
「私の為に作ってくれたんでしょう? ありがとう。私に生きる道を教えてくれて」
愕然とする恵美の後ろからレイチェルが抱きしめてくれます。
「知ってたの? 二人のこと……」
「なんとなくね。愛している人のことだもの」
死ですら分かて無いものが、愛なのよ。
恵美さんも、クラリッサさんも、まとめて愛してくれる。そんな人がきっと現れるわ。
「……不思議なものだね。出会いというものは本当に人を変える。スィアリ様、あなたにこうして会えたのは良かった」
その様子を見たエアルドフリスはスィアリにそう言いました。
「俺は……貴方の様になりたかった。そして貴方のように死にたかった」
「エアルド先生!!」
エステルが悲痛な声を上げました。
いやだ。こんなの誰かが望んだ言葉だというの!?
「いや、でも違う。今は最早そんな思いは一つもないんだ」
エアルドフリスの視線はウルをあやすジュード・エアハート(ka0410)に、そしてエステルに向けられます。
「それでいい。お前は生きた。死んで円環に任せるのはいつでもできる。生きて紡ぐこともまた円環の役目だ。私は死の側から、そなたは生の側から。その役目を全うしよう」
まるで少年にそうするように。スィアリはエアルドフリスの頭を優しく撫でました。
「もーう。また禅問答じゃないー。もっとふれきしぶるに! いーじーにいこうよぉ」
そう言ったのはもう見事にへべれけになったアーシュラ・クリオール(ka0226)でした。
「風の一族だからさー。みーんなどっか行っちゃうのかと思った。ゾール。ほら、あんたも逃げない」
アーシュラはそう言うと、ゾールの空いたグラスにスピリタスをガンガン入れます。ちなみにストレートで7杯目。
同じように継がれたレイアとロッカとイグの3人は見事に撃沈。残っているのはスィアリとゾールだけです。
「これ以上、どこかに、いかないよね?」
「もちろんだ! アーシュラと一緒にいるのが一番楽しいからな!!」
ゾールはそのままスピリタスを煽り、にかっと笑います。それにほだされたアーシュラも杯を掲げて、同じように煽ります。
「アーシュラ。あんた……どんなけ酒豪、なの……。ちょっと、お水……う」
横でメルツェーデスが青い顔をして倒れています。
「酒は命の水ぅ。なーんて。ふひひ、酔っぱらったメルさんも可愛い~」
アーシュラはお水の入ったコップを両手で持って弱弱しく飲むメルツェーデスの背中を優しく撫でます。
「メルさんー、素直にしてたらこーんなに可愛いのにねー」
「だって恥ずかしいんだもん……。あんた上流社会の奇妙さ知らないからそんなこと、うぷ」
メルツェーデスはそのままぶっ倒れました。
「上流社会?」
「メルツェーデス、元貴族らしい」
あー、貴族ね。そのみょうちくりんな社会の代表たるシグルドをアーシュラは目線で織って納得しました。
「これ、どうかしら?」
未悠はくるりと周り、シグルドにディアンドルを見せびらかせました。
「妹を見ているようだ。素敵だよ」
「なんか、それ上っ面っぽいわ」
いつも笑顔のシグルド。彼をずっと眺めてきた未悠にとってはその細かな違いは読めるようになってきていました。今のはお世辞。
「そりゃあね。仲の悪い妹と同じ姿だと、気も引けるさ。守れる強さを目指す君なら軍服の方が似合うだろう」
いつもの君が良いなんて、それも嬉しい言葉だけれど。でもちょっと複雑。
「女ごころが分からないシグルドには……猿丸流葬兵術奥義、千年殺し!」
澄ました顔のシグルドの表情が壊れました。倒れ行く彼の背後に座り込んでいたのは無限です。ちょうどお尻の辺りで組んだ手から人差し指だけが突き出ていて。
「ふ、目標を一つ果たすことができたっす……」
硝煙の上がる銃口にするように、ふっと息を吹きかける無限さんはその達成感を味わっているようでした。が。
「なにするのよ!!」
げしっ。
未悠が背中から蹴り倒します。勢い、無限の指先は自身の鼻に突き刺さることになりました。
「あっははは、十分強いじゃないか。守れる強さは十二分にあるんじゃないかな」
それを見て、シグルドは声を上げて笑います。
「そ、そ、そうかしら……いつか追いつきたいと思っていたけれど」
「後は自分を見失わないことだろうね。だとすれば、いつもの恰好の方が似合っているというのも理解してくれるかな?」
なるほど。と得心した未悠はやっぱり着替えてくるわね。と更衣室へ走ろうとしましたが、足元に無限がいることをすっかり忘れていました。
「ひわあああ!!!!」
未悠はそのままシグルドを押し倒すように。
「にぎゃあっす!」
無限は、指が第二関節まで……。
「まあ、こんなところでもお仕事を?」
ティア・ユスティース(ka5635)は無限の鼻にチンキを塗るユーリを見て、ため息をつきました。
「仕事じゃないですよ。うーん、仕事なのかな?」
「お金を貰えば仕事かもしれませんね」
そう答えるのはミルドレッド。もちろんお金をもらうような素振りは見せません。
「ですねー。やっぱり困った人が、最後ににっこり笑ってくれるようになったら嬉しいじゃないですか。ティアさんもそうですよね?」
ユーリはにへら。と笑ってそう言いました。まるで見透かされているように。
とぼけたような顔をしていても、見るところはやっぱり見ているのですね。ティアはゆっくり頷きました。
「皆様の気持ちをこれからも紡いでいけるように……」
「そんなに無理しちゃダメよ。人を助けたいという心は本来皆がもっている。スィアリさんの言葉を借りるなら、慈愛は心の海からいでしもの。みんなが元型を持っているのよ。時には助けられることもしなくちゃダメ。みんなが慈愛の心を発露しあえるように、ね?」
ミルドレッドは眼鏡を上げてティアを見ました。
「……はい」
「いい返事です。ならば、治療に向かいましょうか」
お薬を分け与えられ、指さされたのは、酔いつぶれたボラ族の人々です。
「もう、これからみんなで合唱するっていったじゃないですか」
音楽の途中でバラバラになったのはやっぱりボラ族のせいで。アーシュラはしっかりルナに怒られてしゅんとしています。
だって飲んでぱーっとやりたかったんだもん……。
アーシュラが怒られて、舞台が再び整うまでの間、ジュードはウルと遊んでいました。
「じゅーど。じゅーど。脚、すべすべ。好き」
「うんうん、オレも好きだよー」
ウルは顔より、ジュードの綺麗な脚を触るのが大好きなようです。美脚を教え込んだ甲斐があった。
と、その向こうで、エアルドフリスとスィアリが何やら深く話し込んでいます。同じ辺境の出身。考え方も紙一重違うだけの二人。そんな二人が近いと、妙に胸が騒ぎます。
その上、貴女のように死にたかった。なんて言葉を聞いて、撫でられる様子を見たら。
ジュードは決然と立ち上がり、ウルを連れて走りました。
「あの、スィアリさんっ。スィアリさんはウル君に、未来のボラ族に何を求める?」
「ボラは心に風を持つものならみんな家族だ。ウルも。エアルドフリスもそう。ジュード。其方もだ。空という屋根の下でくらす家族。求めるものなどなにもないが……ああ、幸せでありますように。だろうか」
ウルを抱えるジュードにもスィアリは優しく抱きしめます。
本当に優しい。そんな感じがひしひしと温かい腕から伝わってきます。
「ウルのこともよろしく頼む」
エアルドフリスとジュード、両方の肩に手を置いて、そして真ん中のウルに眼差しを送ります。
「これって家族。そうか一族の元ではもう家族なんだよ!」
子供ができたような気がして。大好きなエアさんと一緒に居られることを認めてもらったような気がして。
「お、おい、ジュード」
「ウル。こっちはエアさんだよー。パパって呼んでもいいんだよ」
ところがウルはエアルドフリスの脚を触って不機嫌そうです。
「じょりじょり。イヤ」
「!!!!!」
「エアさん、剃ろう! 一緒に美脚家族になろうよ」
「変な、感じ……」
ズボンのすそを抑えるエアルドフリスの姿をエステルはぺたんと床に座ったまま長めます。賑やかな声に囲まれているのに、どれも遠くにいる感じでエステルは寂しくなりました。
夢だと思えないくらいに現実的か、それかもっとバカバカしいくらいに夢紛いであればいいのに。
「ごめんなさい。こうでしか、お礼を言う機会……ない気がして」
そんな彼女にふわり、と毛織物が背中からかけられます。
温かな。そして素朴な香りが織物から漂います。見れば髪の長い少女が寂しそうにこちらをうかがっています。チョッキにズボン。こんな朴訥そうな優しい顔の髪の長い子。誰だろう。
「お兄さんにもありがとうと。父さんと弟から」
「……あ、れ」
羊飼いの村の?
首を傾げたエステルの視界が明るくなりました。この子……テミスだ。
「テミスさん!? うそ、タチアナさんの館で会った時と全然……髪も短かったし。それに父さんと弟ってもしかして」
本当のテミスはエステルが知っている彼女と全然違いました。故郷に入る時はどこにでもいる。実家の隣に住んでいそうな、そんな子です。
「テミスさん……」
「ありがとう。それでも来てくれて」
横にペタンと一緒になって座ると、テミスはぽそりと言いました。
「音楽、一緒に聴いても良いですか?」
「それでは改めて、準備はいいですかーっ」
ルナが舞台の上に立って、口に手を添えてみんなに声をかけます。
「あ、ちょっと待ってください。ヒルデガルドさん、はやくはやく」
セレスティアが更衣室に向かって呼びかけると、和柄のドレスを身にまとったヒルデガルドが嬉しそうに姿を現し、拍手を浴びます。
「へへ。嬉しいな……あれがとう。セレスティア。良ければ一緒にダンスを所望できるか?」
「はい、喜んで」
セレスティアはにこりと笑います。
「レディ。お手を」
リューが手を取るのはクリームヒルト。もちろん喜んで受けてくれます。
「それじゃ、スリー ツー ワン」
エイルのハンドベルが高い音を奏でます。
6つのベルを。出会った人達に重ね合わせて、音を重ねて。
「手伝うっすよ。この前手伝ってもらった礼っす」
無限がその横でエイルに微笑みます。音が二重に。
「恵美。君の踊りを見せてくれないか」
「こんな地味な格好で躍らせるの?」
今日は君たちの為の曲だから。小グインはリュートを操りつつ、床を踏み鳴らしてリズムを取ると恵美もイヤとはいえず、照れながらも恵美としてクラリッサとして、舞うごとに表情を変えていきます。
「メル。こっちに」
場所を探していたメルにハーゲンが声をかけてくれます。ブリュンヒルデと隣同士に。姉妹のようにして。ハーゲンが二人の後ろで低い声で歌います。
ブリュンヒルデとメルが拙いながらに唄います。透き通ったガラスのように。
「エアさん、リュカさん、高瀬さん、みんなで唄おう」
みんなでこの一時を分かち合いたいもの。笑顔の呼び声が、震える。
「1/f……」
目を閉じてリズムを取る観智の横でミネアと五条はゆらゆら体を揺らします。
エステルがルナの演奏に笛を添わせます。静かに、静かに。
ボラ族と一緒にアーシュラとフィニーフェニーが声を上げて、花を添え。
「みんなお上手~。さぁ、大きく声を上げて」
「ヴォラー、ヴォラーっ!! フィニーフェニーも一緒に歌おう」
「うぉらー。ふふふ、元気の出る掛け声ね」
大きな声に曲が負けそう。でも大グインの、その老体には信じられない力強い音色がそれをも飲み込み、一つの流れに組みこみます。リュートの音色一つで。
すごいすごい。20人が。ルナは俄然元気が出て、音楽に集中します。
「森よ 緑よ」
アガスティアの呼び声にお店が光の泡となります。
「暁よ 木漏れ日よ」
レイオニールが手を掲げると泡は一筋のマテリアルの柱となり。鬼百合にゆだねられます。
「我らが故郷に」
ギムレットがラティナと肩を組んで。
「みんな笑顔で」
この一時を心に、魂に刻もう。
ありがとう。皆さん。
森に入って17本目の木を左に入って。いつも通りの道を歩んでいたはずのエイル・メヌエット(ka2807)は迎えられた喫茶店に、アーモンド形の瞳を少し大きく広げました。
「エイル……。来てくれたのね」
戸惑うエイルを見つけて一番に迎えてくれたのはレイチェル。ほのかに紅が刺した頬は至福に富んでいるなんて。
そして、レイチェルが横にかけた老人に目配せをすると、その老人も皺だらけの赤ら顔に笑顔をいっぱいに浮かべて挨拶をしてくれました。
「私の大切な人を救ってくれてありがとう。貴女の優しさは私を、そして若いグインも救ってくれた」
ああ、彼こそが偉大なるグイン。エイルはすぐに察しました。
「こんなことがあっても……いいのね」
二人の手を重ね合せて、エイルに握手をしてくれます。その手は温かくて。
「夢の世界……夢の」
だとしたら、あの子は、あの人はきっといるはず。鬼百合(ka3667)は大慌てで周りを見回していると、彼の服をそっと引く感じがしました。
「姉さん。やっぱりいたんですねぃ!」
「鬼百合様。お待ちしておりました」
挨拶をしてくれたのはエプロンをしているブリュンヒルデです。
さあどうぞ。とテーブルに案内しようとするブリュンヒルデの手を今度は鬼百合が引いて、大きな花束を二人の間に差し出します。
「これ、先に渡さなきゃあ」
「チューリップに……これはカルミア。ありがとうございます」
「物知りですねぃ。これはルピナスって言うんでさ。へへへ、姉さんの村のところに咲いていたんでさ」
「ふえー、鬼百合くんもあそこ行ってたの?」
驚いた声を上げるのはメル・アイザックス(ka0520)です。
「も、ってこたぁ……」
「あんなに想いの詰まったところをさ、そのままにしておけないじゃない。ハーゲンさんの想いを風化させたくないもの」
想いが風化するものじゃなくて、結実させるものだもの。
「それにしてもいい匂い。すごいお料理が待ってそうだね? これ、どうやって焼くの?」
ブリュンヒルデの後ろにある大きな豚を覗き見てメルが問いかけました。
「えーと、豚に色んな料理を詰めて、お腹を縫い合わせて」
げほっ。
その解説に噴き出したのはリュー・グランフェスト(ka2419)です。ダメだ。豚の顔といい、料理方法といい、何かを彷彿とするじゃあないか。
「こ、これ普通の豚だよな?」
「はい、普通のアウグストです」
人間じゃねえか!
「冗談に決まってるでしょ。食べてもらえる美味しい料理ばかりなんだから」
リューの背をぽんっと叩くのは高瀬 未悠(ka3199)。今日は黒の軍服ではなくクリームヒルトと同じ緑のディアンドルに銀のトレイ姿です。そんな彼女からウェルカムドリンクのプレゼントをされたリューは眉をひそめます。
「ひっどい! クリームヒルトと一緒に作ったのよ。希望の盾士として飲まず食わずはクリームヒルトにも失礼にあたるわ」
そこでクリームヒルトの名前を出すか。リューはぐぬぬと言いつつ、横目でクリームヒルトを見ると彼女も期待の眼でこちらを見てます。
「革命の後の逃亡生活をしていた時によく飲んでいたお茶なの。辛いこともあったけれど、このお茶があれば気持ちも穏やかになれるのよ」
「ふーん……そうか」
クリームヒルトも最近までつらい生活をしていた所為か、雑草を食べて美味しいっていえる味覚の持ち主ですので、信用はできません。
できないけれど。気持ちを共有できるならいいかもしれない。リューはそっとドリンクを口に含みました。
「お、思ったよりいけるな」
「その上で、このモンブランよ。相性バッチリだから」
未悠とクリームヒルトは顔を見合わせて微笑みあいます。よく見ればどちらの口にもクリームヒルトがちょっとずつ。試作に試作を重ね合わせたようで。
「いきなりデザートから始めたら、折角のギターの名手の歌も聴けなくなるぜ。リュー、この前のミュゲの日はありがとうな」
「お、グインか。すっかり詩人らしくなったな。じゃあ菓子は乾杯の後で貰うよ。またな」
女の子同士の楽しみもあれば、男の子同士の楽しみもあり。リューは若いグインに声をかけられ、レイチェルや大グインのいる方へと移動します。
「それじゃ、そのティーセットを貰おうか。できれば飲み物はホットココア、ミルク多めで」
そう言ってくれたのは一番目立たない隅の席で本を開いているヒース・R・ウォーカー(ka0145)。
「意外と甘いのお好きなんですね。ブラックとか飲みそうなイメージだったのに」
「意外なのは、そっちかなぁ……革命で追われた姫なんて現実を嘆くだけかと思っていたさ。姉妹揃ってよく働く」
クリームヒルトとヒルデガルドは顔を見合わせてくすりと笑った。
「現実を伏せて過ごしていいことは一つもない。伏せるのは立ち上がるためだ。其方の思いを馳せるその動向も次につなげるためだろう?」
ヒルデガルドは笑ってそう言うと、耳元で囁いた。
「姉上をよく見守ってくれた。これからも道を違えぬよう、遠くからまた近くから守ってくれないか」
「ちょっと、わたしがヒースさんに見張られてないと悪の道に入るみたいじゃない!」
「姉上は悪運の塊だからな」
「確かに。トラブルメーカーの気もあるっすよね」
いつの間にやら傍にいてウンウンと頷くのは無限 馨(ka0544)。
「五体投地で土下座することになったり、某女子の眼鏡代を請求されそうになったり。関わったベント伯とか、アミィとか、レギンとかみんな元の居場所で危うい立場に……」
「それ、わたしのせいなんですかー!?」
無限の呟きに衝撃を受け涙を浮かべるクリームヒルトに無限は慌てました。
「あ、いや、貰ったものも多いっすよ! えーとえーと」
「思いつかれてないぃぃ。わたし、無限さんのことすっごく信頼してたのに! 屋根を飛び下りた時に無限さんの顔出て来たのに!!」
それが眼鏡代の請求につながったとか、今は言えない。
「あらあら、泣かしちゃったの?」
フィニーフェニー(ka6322)がクリームヒルトを軽く抱きしめて、よしよしと宥めます。
「あわわ、そんなことないっすよ。目標ができたし、頼れる仲間もできたっす。ヒースさんやリュー君みたいな! エイルさんには花道開いてもらったっすし、リュカさんにもいつも世話になってるっすよ」
「取って付けたようだねぇ」
ヒースが本を開いたまま悪戯な一言を呟くと、クリームヒルトのショックはますますひどくなりました。無限くん、ピンチ。
「大丈夫よ。無限さんがちょっといじめたくなるくらい可愛い子だってことよ。ヒースちゃん、あんまりいじめちゃだめよ~」
そこはフィニーフェニーがぎゅーっと抱きしめて、それから狼狽する無限の頭も撫でます。
「はい、仲直りしてね」
「これからも、いっぱいいっぱい、守ってくださいね?」
「もちろんっすよ!」
無限はぽんと自分の胸を叩いて笑いました。
「ううう、姉上。いい話だ」
ディアンドルに着けたエプロンの裾で涙を拭くヒルデガルドに、そっとハンカチーフを差し出したのはセレスティア(ka2691)です。
「せっかくのお洋服が涙で濡れたら台無しですよ。でも、ヒルデガルドさんがディアンドルだなんて意外。ほら、軍服のイメージが強かったから」
「強がるには格好から入らねばならぬでな。本当はやっぱりこういう服とか、ドレスとかの方が好きだった。セレスティア殿はその点、美しさと強さを兼ね備えておるよな。ブルーネンフーフの桜吹雪が舞うとか、まるでオサムライのようだったぞ。妾など覚醒したらゾンビどもがハチマキして応援に来るんだ。このセンスのなさ!」
いじけるヒルデガルドにセレスティアは噴き出した。
「ちょっと違うけれど……血族として武道に通じているのは確かですね。ヒルデガルドさんもこういう姿似合うと思いますよ。良かったら着てみませんか?」
セレスティアの言葉にヒルデガルドは顔を薄紅色に染めました。とっても嬉しがっている証拠です。
「ふふふ、それじゃお着替えしましょう」
セレスティアは皆に断りをいれて、店の奥の方へとヒルデガルドを連れて行きました。
「セレスティアさーん、ニョッキ作る準備できましたよー……あれ?」
入れ違いで厨房からミネアが顔を出し、キョロキョロとしているのを見て天央 観智(ka0896)が声をかけました。
「彼女なら今……更衣室ですよ。それにしても大賑わい、ですね。お知り合い……ばかりですか?」
「あ、天央さん、ありがとうございます。えへへ、こんなにたくさんの人に来てくれたら私も嬉しいです。そうですね。ヒースさんはこの前のミュゲの日でお会いしましたし、アーシュラさんは合コンの時にご一緒が縁の初めかな。それからジュードさんは商人の先輩なんですよ」
「そちらではなくて……ええと」
ハンター同士ですもの。観智は苦笑いをしてホスト側に回っている方々に視線を向けました。ミネアもその意図には気づきましたが困っています。
「クリームヒルトさんなら、大抵の人は知っているみたいですよ。ボラ族の人達とかも知り合いが多いみたいですけれど」
「なるほど。物語には……軸があるといいますが」
網の目のように絡み合って人の関係は作られているんだなと観智は感じました。袖触れ合うのも他生の縁と言いますが。
「あっ、観智さんではございませぬか。先日はお世話になり申した。まさか皆で土蜘蛛退治に乗り出してくださるとは、もうこの五条、感激いたしました!」
「五条さん、こんにちは。今日も何かお考えになっていらっしゃいますか?」
くすりと笑う観智に、五条はその手をぎゅっと握って恥ずかしげに顔を赤らめる。
「何をおっしゃいますか。こうして友好を深め、絆を固くすることに何の理由がありましょうか」
手に何か握らされている。
淑女のようにそそと離れる彼女の背を見送った後、手をゆっくり開いてみれば、「詩天をこれからもよろしくお頼みいたします」という名刺でした。
友好と絆が名ばかりなところに、観智は思わず声を出して笑ってしまいます。
「絆もまた、彼女のお仕事の大切な一つなんでしょうね……」
観智は笑いながら、人が集まりなだらかなセッションが聞こえてくる方をみました。
「ふふふ、楽団みたいですね」
ルナ・レンフィールド(ka1565)はリュートを弾き。小グインがそれにあわせてリュートを。レイチェルはいつものフルート。大グインはシタールです。エイルはハンドベルを用意して、時折、静かな高い音色を。
「私達もいいでしょうか」
「ルナの音楽は森に響いたよな。おうい、ラティナ。蜂蜜酒をもう一杯。土と一緒さ。まず潤さなきゃ、いいものはできないや」
ギムレットに呼ばれてラティナ・スランザール(ka3839)は集まった面々に香草入りの蜂蜜酒をふるまいます。
「それとこれ。故郷の母さんが送ってくれたんだ。あんたもどうだい」
ラティナが差し出したジャムはプラムのようです。すっきりと爽やかな香り……。あれ、観智は首を傾げます。
「これ、詩天のプラム……ですか?」
「ああ、手紙でなんかそっちの方に行ってたって書いてたな。ちんまい姉ちゃんと、やたら喋る姉ちゃんの案内役がいたってさ。よく知ってるな!」
観智はははぁ。と思いましたが、さてそれが誰であるやら。ドワーフの女性はいなかった気がしますが。
「プラムもまた、喉に優しくまた弁舌爽やかになるとのことでございます。ごらんなされ、詩天育ちのわたくしが言うのだから間違いございません。ささ、皆様で一口ずつ。ラティナ様のお母様にも大変お世話になり申しました。心込めたすべてがここにこもって」
「あー……それ、俺の……」
完全に言葉を失ったラティナはぽかんとしますが、それをくすりとギムレットが笑いました。
「一族揃って活躍だな! 故郷も鼻高いんじゃないか?」
その言葉にラティナはにっかりと笑いました。ギムレットと共に故郷の姿を思い出すのは何度目でしょうか。
「森で見た幻も、故郷を思い出させてくれた。それにエルフとドワーフが共に手を取り合って成せたことは、俺にとって勲章だったよ」
「光の森が第二の故郷ってんでもいいんだぜ。アガスティアは酒飲まないからさ。酒がな、いっつも一人でさー。……なー、ラティナー。家族そろってこっち来いよー」
だんだんギムレットは愚痴っぽくなっています。森の中でお酒を飲むのは大変らしい? 気が付けばラティナが慰め役になっていて、リュカ(ka3828)はくすりと笑いました。
「ギムレットにとっては少々やりづらそうだな。何事も善し悪しというものがあるのだろう」
「でも、それを乗り越えて居てくれます。リュカさん。あなたの心も」
リュカが振り向けば、アガスティアが傍にいました。彼女は静かに一礼すると、リュカに握手を求めます。今更握手という間柄でもないのに。と思いつつも手を交わしたリュカにアガスティアは目を細めます。
「金槌、禁忌たる鉄を触れさせてしまいましたね。お手伝いとはいえ、あんな場所で禊ぎを行わせてしまったこと、本当に申し訳ない事をしました」
ああ、鉄に触れた事。気づいていたんだ。リュカは握手の意味に気付きました。きっと分かち合う意味での。
「いや、今ではいい思い出だ。森をる、作ること、そうした営みを続けた祖先の苦労に触れるきっかけになったよ」
「光の森はあなたの血が、心が、想いが、もう雨となり、大地に根差している。リュカは十二分にその力を発揮してくれました。だからもし……」
疲れたら、帰ってきてください。あなたの森でもあるのだから。
そう言いたかったのでしょうけれども。その前にどうやら歌が始まるようです。豪華な音のあわせで響き、それは口の動きでしか確認できませんでした。
そしてそれにリュカは答える必要もありません。微笑むだけでいいのです。
「森の二人。良いか?」
声をかけてきたのはスィアリです。リュカはドキリとしましたが、豊かで艶やかな金髪の奥から覗く表情に富んだ顔は命の煌めきを感じさせます。
「もちろん。これから彼ら彼女たちの為に唄わせていただきましょう」
差し出されたスィアリの手を取って、アガスティアが人の輪の中へ歩みます。
「夢路に懐かしい音がすると思って入ってみれば、なんてことだ……」
そんな光景にエアルドフリス(ka1856)は入り口で立ちすくんでしまいました。
レイチェルが笛を鳴らし、アガスティアが歌い上げ、そしてスィアリが舞い踊る。そんな様子は今まで想像だにできないことです。
「夢でも見ているかのようだ」
ふらり、と足を向けるエアルドフリスの腕を引いたのはエステル・クレティエ(ka3783)です。彼女の瞳は昏く、顔は強張っています。
「ダメよ。エアルド先生。行っちゃ、ダメ……こんなの悪い夢よ」
「エステル?」
暴食の巫女の腐り落ちた顔が戻っているなんて。アガスティアと手を取り合っているなんて。夢の中でも見たくない。
私がしたことは何だったの? みんなが必死になったあの気持ちはなんだったの? 全部お芝居なの?
涙が溢れそうになるエステルを歌を止めたアガスティアがそっと抱いて囁きます。
「アガスティアさん……」
「あなたはよく頑張ってくださいました。あなたの力によって今がある、と言うと驚くでしょうか」
身を呈して、心を砕いて頑張ってくれた。そのおかげでたくさんの希望と笑顔が生まれた。
砕けた心の破片はどこにいった? 咲いた笑顔は何を想うか。
「大海。心の海というべきか。あらゆる命は、本来心の海でつながっている。だからこそ思いやることができるのだよ。互いを感じ取れるという能力があるのだ」
「つまりこれは、心の海の、幻影……?」
スィアリの言葉にエステルの暗雲が晴れるわけではありません。だけど、理屈でならなんとはなしに解ります。
「しかし、これはなんとも豪勢なことだ。大グインにもお会いできるとは。ありがとう、貴方の最期の依頼がその後を紡いだ」
「この老骨の頼みを聞き入れたその時、君の心はもう出来上がっていたはずだ。感謝すべきは君の世界を作り上げた多様な縁ではないかね。そして心より私からも。ありがとう」
真摯なエアルドフリスに大グインは朗らかに笑います。
その言葉に二の句が告げなくなって。エアルドフリスは苦笑いをしました。
「縁、か……」
「生死を隔てても縁は切れぬ。円環にある限り。生まれ変わっても……」
言葉少なになるエアルドフリスにスィアリが微笑み、ほら。と向こうを指さしました。
「これってどうなってるの?」
クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)こと恵美は小グインの胸をはだけて眉をひそめました。
「恵美、こんなところで……いきなり、わっ」
「似通っている部分くらいあるとは思っていたけれど」
そのまま小グインの襟をつかんで、そのまま大グインの元に引き寄せ、今度は大グインにも同じように。上半身をいきなりはだけることになった二人の男性にルナが思わず可愛い声を上げます。
「く、く、クラリッサさん! 音楽の途中ですよっ」
「この二人、不思議だもの。アザの位置、ホクロの位置。傷の位置。みんな一緒なのよ」
似通った部分が二人にあると思っていました。でも、それは恵美の予想以上。異なる肉体に同じ特徴があるのだから。
「生死を隔てても縁は切れないの。生まれ変わっても……」
生まれ変わっても、また出会える。
身体を変えて、小グインは大グインの遺志を受け継いで。レイチェルの傍にいるのです。
「転生が肯定されるなら、お墓、作った意味がないわね……」
「私の為に作ってくれたんでしょう? ありがとう。私に生きる道を教えてくれて」
愕然とする恵美の後ろからレイチェルが抱きしめてくれます。
「知ってたの? 二人のこと……」
「なんとなくね。愛している人のことだもの」
死ですら分かて無いものが、愛なのよ。
恵美さんも、クラリッサさんも、まとめて愛してくれる。そんな人がきっと現れるわ。
「……不思議なものだね。出会いというものは本当に人を変える。スィアリ様、あなたにこうして会えたのは良かった」
その様子を見たエアルドフリスはスィアリにそう言いました。
「俺は……貴方の様になりたかった。そして貴方のように死にたかった」
「エアルド先生!!」
エステルが悲痛な声を上げました。
いやだ。こんなの誰かが望んだ言葉だというの!?
「いや、でも違う。今は最早そんな思いは一つもないんだ」
エアルドフリスの視線はウルをあやすジュード・エアハート(ka0410)に、そしてエステルに向けられます。
「それでいい。お前は生きた。死んで円環に任せるのはいつでもできる。生きて紡ぐこともまた円環の役目だ。私は死の側から、そなたは生の側から。その役目を全うしよう」
まるで少年にそうするように。スィアリはエアルドフリスの頭を優しく撫でました。
「もーう。また禅問答じゃないー。もっとふれきしぶるに! いーじーにいこうよぉ」
そう言ったのはもう見事にへべれけになったアーシュラ・クリオール(ka0226)でした。
「風の一族だからさー。みーんなどっか行っちゃうのかと思った。ゾール。ほら、あんたも逃げない」
アーシュラはそう言うと、ゾールの空いたグラスにスピリタスをガンガン入れます。ちなみにストレートで7杯目。
同じように継がれたレイアとロッカとイグの3人は見事に撃沈。残っているのはスィアリとゾールだけです。
「これ以上、どこかに、いかないよね?」
「もちろんだ! アーシュラと一緒にいるのが一番楽しいからな!!」
ゾールはそのままスピリタスを煽り、にかっと笑います。それにほだされたアーシュラも杯を掲げて、同じように煽ります。
「アーシュラ。あんた……どんなけ酒豪、なの……。ちょっと、お水……う」
横でメルツェーデスが青い顔をして倒れています。
「酒は命の水ぅ。なーんて。ふひひ、酔っぱらったメルさんも可愛い~」
アーシュラはお水の入ったコップを両手で持って弱弱しく飲むメルツェーデスの背中を優しく撫でます。
「メルさんー、素直にしてたらこーんなに可愛いのにねー」
「だって恥ずかしいんだもん……。あんた上流社会の奇妙さ知らないからそんなこと、うぷ」
メルツェーデスはそのままぶっ倒れました。
「上流社会?」
「メルツェーデス、元貴族らしい」
あー、貴族ね。そのみょうちくりんな社会の代表たるシグルドをアーシュラは目線で織って納得しました。
「これ、どうかしら?」
未悠はくるりと周り、シグルドにディアンドルを見せびらかせました。
「妹を見ているようだ。素敵だよ」
「なんか、それ上っ面っぽいわ」
いつも笑顔のシグルド。彼をずっと眺めてきた未悠にとってはその細かな違いは読めるようになってきていました。今のはお世辞。
「そりゃあね。仲の悪い妹と同じ姿だと、気も引けるさ。守れる強さを目指す君なら軍服の方が似合うだろう」
いつもの君が良いなんて、それも嬉しい言葉だけれど。でもちょっと複雑。
「女ごころが分からないシグルドには……猿丸流葬兵術奥義、千年殺し!」
澄ました顔のシグルドの表情が壊れました。倒れ行く彼の背後に座り込んでいたのは無限です。ちょうどお尻の辺りで組んだ手から人差し指だけが突き出ていて。
「ふ、目標を一つ果たすことができたっす……」
硝煙の上がる銃口にするように、ふっと息を吹きかける無限さんはその達成感を味わっているようでした。が。
「なにするのよ!!」
げしっ。
未悠が背中から蹴り倒します。勢い、無限の指先は自身の鼻に突き刺さることになりました。
「あっははは、十分強いじゃないか。守れる強さは十二分にあるんじゃないかな」
それを見て、シグルドは声を上げて笑います。
「そ、そ、そうかしら……いつか追いつきたいと思っていたけれど」
「後は自分を見失わないことだろうね。だとすれば、いつもの恰好の方が似合っているというのも理解してくれるかな?」
なるほど。と得心した未悠はやっぱり着替えてくるわね。と更衣室へ走ろうとしましたが、足元に無限がいることをすっかり忘れていました。
「ひわあああ!!!!」
未悠はそのままシグルドを押し倒すように。
「にぎゃあっす!」
無限は、指が第二関節まで……。
「まあ、こんなところでもお仕事を?」
ティア・ユスティース(ka5635)は無限の鼻にチンキを塗るユーリを見て、ため息をつきました。
「仕事じゃないですよ。うーん、仕事なのかな?」
「お金を貰えば仕事かもしれませんね」
そう答えるのはミルドレッド。もちろんお金をもらうような素振りは見せません。
「ですねー。やっぱり困った人が、最後ににっこり笑ってくれるようになったら嬉しいじゃないですか。ティアさんもそうですよね?」
ユーリはにへら。と笑ってそう言いました。まるで見透かされているように。
とぼけたような顔をしていても、見るところはやっぱり見ているのですね。ティアはゆっくり頷きました。
「皆様の気持ちをこれからも紡いでいけるように……」
「そんなに無理しちゃダメよ。人を助けたいという心は本来皆がもっている。スィアリさんの言葉を借りるなら、慈愛は心の海からいでしもの。みんなが元型を持っているのよ。時には助けられることもしなくちゃダメ。みんなが慈愛の心を発露しあえるように、ね?」
ミルドレッドは眼鏡を上げてティアを見ました。
「……はい」
「いい返事です。ならば、治療に向かいましょうか」
お薬を分け与えられ、指さされたのは、酔いつぶれたボラ族の人々です。
「もう、これからみんなで合唱するっていったじゃないですか」
音楽の途中でバラバラになったのはやっぱりボラ族のせいで。アーシュラはしっかりルナに怒られてしゅんとしています。
だって飲んでぱーっとやりたかったんだもん……。
アーシュラが怒られて、舞台が再び整うまでの間、ジュードはウルと遊んでいました。
「じゅーど。じゅーど。脚、すべすべ。好き」
「うんうん、オレも好きだよー」
ウルは顔より、ジュードの綺麗な脚を触るのが大好きなようです。美脚を教え込んだ甲斐があった。
と、その向こうで、エアルドフリスとスィアリが何やら深く話し込んでいます。同じ辺境の出身。考え方も紙一重違うだけの二人。そんな二人が近いと、妙に胸が騒ぎます。
その上、貴女のように死にたかった。なんて言葉を聞いて、撫でられる様子を見たら。
ジュードは決然と立ち上がり、ウルを連れて走りました。
「あの、スィアリさんっ。スィアリさんはウル君に、未来のボラ族に何を求める?」
「ボラは心に風を持つものならみんな家族だ。ウルも。エアルドフリスもそう。ジュード。其方もだ。空という屋根の下でくらす家族。求めるものなどなにもないが……ああ、幸せでありますように。だろうか」
ウルを抱えるジュードにもスィアリは優しく抱きしめます。
本当に優しい。そんな感じがひしひしと温かい腕から伝わってきます。
「ウルのこともよろしく頼む」
エアルドフリスとジュード、両方の肩に手を置いて、そして真ん中のウルに眼差しを送ります。
「これって家族。そうか一族の元ではもう家族なんだよ!」
子供ができたような気がして。大好きなエアさんと一緒に居られることを認めてもらったような気がして。
「お、おい、ジュード」
「ウル。こっちはエアさんだよー。パパって呼んでもいいんだよ」
ところがウルはエアルドフリスの脚を触って不機嫌そうです。
「じょりじょり。イヤ」
「!!!!!」
「エアさん、剃ろう! 一緒に美脚家族になろうよ」
「変な、感じ……」
ズボンのすそを抑えるエアルドフリスの姿をエステルはぺたんと床に座ったまま長めます。賑やかな声に囲まれているのに、どれも遠くにいる感じでエステルは寂しくなりました。
夢だと思えないくらいに現実的か、それかもっとバカバカしいくらいに夢紛いであればいいのに。
「ごめんなさい。こうでしか、お礼を言う機会……ない気がして」
そんな彼女にふわり、と毛織物が背中からかけられます。
温かな。そして素朴な香りが織物から漂います。見れば髪の長い少女が寂しそうにこちらをうかがっています。チョッキにズボン。こんな朴訥そうな優しい顔の髪の長い子。誰だろう。
「お兄さんにもありがとうと。父さんと弟から」
「……あ、れ」
羊飼いの村の?
首を傾げたエステルの視界が明るくなりました。この子……テミスだ。
「テミスさん!? うそ、タチアナさんの館で会った時と全然……髪も短かったし。それに父さんと弟ってもしかして」
本当のテミスはエステルが知っている彼女と全然違いました。故郷に入る時はどこにでもいる。実家の隣に住んでいそうな、そんな子です。
「テミスさん……」
「ありがとう。それでも来てくれて」
横にペタンと一緒になって座ると、テミスはぽそりと言いました。
「音楽、一緒に聴いても良いですか?」
「それでは改めて、準備はいいですかーっ」
ルナが舞台の上に立って、口に手を添えてみんなに声をかけます。
「あ、ちょっと待ってください。ヒルデガルドさん、はやくはやく」
セレスティアが更衣室に向かって呼びかけると、和柄のドレスを身にまとったヒルデガルドが嬉しそうに姿を現し、拍手を浴びます。
「へへ。嬉しいな……あれがとう。セレスティア。良ければ一緒にダンスを所望できるか?」
「はい、喜んで」
セレスティアはにこりと笑います。
「レディ。お手を」
リューが手を取るのはクリームヒルト。もちろん喜んで受けてくれます。
「それじゃ、スリー ツー ワン」
エイルのハンドベルが高い音を奏でます。
6つのベルを。出会った人達に重ね合わせて、音を重ねて。
「手伝うっすよ。この前手伝ってもらった礼っす」
無限がその横でエイルに微笑みます。音が二重に。
「恵美。君の踊りを見せてくれないか」
「こんな地味な格好で躍らせるの?」
今日は君たちの為の曲だから。小グインはリュートを操りつつ、床を踏み鳴らしてリズムを取ると恵美もイヤとはいえず、照れながらも恵美としてクラリッサとして、舞うごとに表情を変えていきます。
「メル。こっちに」
場所を探していたメルにハーゲンが声をかけてくれます。ブリュンヒルデと隣同士に。姉妹のようにして。ハーゲンが二人の後ろで低い声で歌います。
ブリュンヒルデとメルが拙いながらに唄います。透き通ったガラスのように。
「エアさん、リュカさん、高瀬さん、みんなで唄おう」
みんなでこの一時を分かち合いたいもの。笑顔の呼び声が、震える。
「1/f……」
目を閉じてリズムを取る観智の横でミネアと五条はゆらゆら体を揺らします。
エステルがルナの演奏に笛を添わせます。静かに、静かに。
ボラ族と一緒にアーシュラとフィニーフェニーが声を上げて、花を添え。
「みんなお上手~。さぁ、大きく声を上げて」
「ヴォラー、ヴォラーっ!! フィニーフェニーも一緒に歌おう」
「うぉらー。ふふふ、元気の出る掛け声ね」
大きな声に曲が負けそう。でも大グインの、その老体には信じられない力強い音色がそれをも飲み込み、一つの流れに組みこみます。リュートの音色一つで。
すごいすごい。20人が。ルナは俄然元気が出て、音楽に集中します。
「森よ 緑よ」
アガスティアの呼び声にお店が光の泡となります。
「暁よ 木漏れ日よ」
レイオニールが手を掲げると泡は一筋のマテリアルの柱となり。鬼百合にゆだねられます。
「我らが故郷に」
ギムレットがラティナと肩を組んで。
「みんな笑顔で」
この一時を心に、魂に刻もう。
ありがとう。皆さん。
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パーティー会場【打合せとか】 ルナ・レンフィールド(ka1565) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/06/20 23:33:55 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/20 21:24:02 |