ゲスト
(ka0000)
逃がしまへんで
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/06/24 19:00
- 完成日
- 2016/07/01 01:16
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ここ数日ジェオルジでは雨が降り続いていたが、今日は朝からきれいに晴れた。
「わしっ、わし、わしし」
ハンターオフィス・ジェオルジ支局のマスコット、コボルドコボちゃんは機嫌よくお散歩。
「ワン、ワンワン!」
「わし! わし!」
いけすかない牧羊犬と吠えあいこをしつつ、歩く歩く。
田舎道のあちこちには、雨の名残の水たまり。
それに足を突っ込んで、ばしゃばしゃ。遊びながら進む。進む。
すると行く手に、一際大きな茶色い水たまり。
「わし!」
コボちゃん駆け寄り足で踏む。
そして変な顔をする。
「……わし?」
水たまりは、水というにはあまりにもねばついていた。ばちゃりと飛沫を上げることさえない。泥と油が入り交じった塩梅に、ぬるうっとしている。
「わし……」
気持ち悪いのでコボちゃんは、突っ込んだ片足を抜こうとした。
しかし水たまりは彼を放そうとしない。足の裏にねちょおおおおとへばりつき、もっついて引っ付いてどうにもならぬ。
「わし! わしわしわし!」
小一時間吠え回り暴れまわりどうにか脱出をしたコボちゃんは、オフィスに帰還した。ちょうどご飯の時間になったのだ。
その姿を見た職員のマリーは箒を突き付け、屋内への侵入を押し止どめた。
「ちょっとあんた、どこで汚してきたのよ! その格好で入らないで!」
遊びに来ていたアレックスは鼻をつまむ。
「臭いなー。お前、ドブにでも落ちたのか?」
ジョアンは餌入れをもって、外に誘導。
「ほら、こっちこっち。うわー……ひどいなこれは。服も洗わなきゃ駄目だね……」
●
ハンターオフィス・ジェオルジ支店の前を通りがかったハンターたちは、騒ぎ声を聞いた。
「わしわしわし!」
「うっさい! 大人しくしなさい!」
何事だろうと垣根からのぞき込んでみれば、タライに入れられた泡だらけのコボちゃん。
職員その1のマリーがコボちゃんを押さえ付け、袖まくりしてタワシでゴシゴシ。
「マリーさん、一体どうしたんですかー?」
彼女は、この世にこれ程の不幸はないといった顔で答えた。
「どうしたもこうしたも、どこで遊んできたんだか、全身汚れまくって帰ってきたのよこいつ! なんかねちょねちょしてて、水かけてもなかなか落ちないし、洗ってやったら唸ってくるし――」
そこでコボちゃんがブルブルやった。
飛び散りまくる水と泡。
ハンターたちにもちょっとかかったが、一番の被害者は直近にいるマリー。
「動くなって言ったでしょー!」
「わしわしわし!」
離れたところからジュアンが、言ってくる。
「マリー、駄目だよもっと丁寧にやってあげないと」
「だったらあんた代わってよ!」
「いや、僕らコボちゃんの服洗濯しないといけないからー」
「なー」
「ウソつけコラー! 2人でいちゃいちゃばっかりしてんじゃないのよさっきからー!」
生き物を飼うのは大変だなあと思いつつ場を離れたハンターたちは、ほどなくして道を塞いでいる羊の群れに遭遇した。
「メーメーメー」
「メエエエ」
「ええ、くそっ、なんだこりゃあ!」
羊飼いが顔を真っ赤にしてもがいている。
「ウウ、ウォウ!」 ワンワンワン!」
牧羊犬も騒いでいる。
一体何事なのだろう。ハンターたちは小走りに歩み寄った。
「すいません、一体何」
直後、にちゃっとした感触が足裏に響いた。
ウッ……ナンダコレ……
リプレイ本文
一体誰がこんなところにヘドロを捨てて行ったのかと、天竜寺 詩(ka0396)は憤る。
「何これ、ねばねばだよ~」
と言いつつ踏んでしまった足を引こうとした。
が。
「よい、しょ……あれ? よっ、よいいい~~」
抜けない。尋常ではない粘着力で張り付いてくる。
「な、何これ……もしかしてマテリアル廃棄物? うっ、くっさ」
思わず息を止める詩。しかしこの匂い、どこかで嗅いだ覚えが。どこだったかな……。
「……あ。分かった。さっき洗われてたコボちゃんの匂いだ……あー、コボちゃんここに入っちゃったのか」
どうにも困った状況だが、五行ヶ原 凛(ka6270)は困るよりむしろ楽しんでいる。
「虫取りの罠にかかったみたい♪」
余裕しゃくしゃくな理由の一つとしては、履いているのがハイヒールであり、ねばねばとの接触率が低いということが挙げられるかと思われる。
「そういえば……よく見たら、虫が一杯くっついてるね♪ 見て見てママ。あそこでフンコロガシが自分の作った糞玉と一緒にもがき苦しんでるよ」
と無邪気に笑うリナリス・リーカノア(ka5126)もまたハイヒール。
「あら、本当ね。まあこっちには銀蝿とシデ虫が。まるで巨大な蠅取り紙のようだわ」
その母イメルサ・ファルズール(ka6259)もハイヒール。
妙にハイヒール率の高いパーティーだ。難儀している羊飼いにとっては、差し当たってどうでもいいことではあるが。
「ハンターさん、分析はええから、通りがかったなら早くなんとかしてくだせえ。このままじゃ群れが動けんですよ」
人としての分別がある彼は足の裏をくっつけるだけですんでいるが、動物たちは暴れまわり、自ずから状況を悪化させている。特に羊など押し合いへし合いしているうちに座り込み、体全体がくっついてしまって、にっちもさっちもいかない有り様。
纏め役である羊飼いと牧羊犬が動けないので、ねばねばに引っ掛かっていない羊たちは、そのあたりを勝手にさ迷い始める。
「おいっ、おぃっ、行っちゃいかん、戻ってこい、戻ってこい!」
指笛を吹き、必死にそれを呼び戻そうとする羊飼い。
その騒ぎを聞き付けたのが、道の向こうから歩いてきたサクラ・エルフリード(ka2598)。すぐさま異変を感じ取り、足を速める。
「もしもし、どうされましたか」
そしてたちまち、先に来ていたハンターたちと同じように、ねばねばの虜となった。
ブーツごしに伝わってくるねばい感触に、うっと息を詰める。足元に視線を降ろし、ますます息を詰める。
「何か声が騒ぎがと思って来てみたら……どうしてこんなことに……この匂いはきついですね……」
詩は眉間にしわを寄せ、彼女の嘆きに同意した。
「きついよね……ブーツに匂いが染み付かないといいんだけど……」
「一体なんですか、これは」
「さあー、多分マテリアル廃棄物なんじゃないかと思うんだけど」
言いながらねばねばを見下ろした詩は、はたと気づいた。虫がゆっくりヘドロの中へ飲まれていっていることに。
「…………?」
試しに指をちょっとだけヘドロにつけてみれば、ひたと向こうから吸い付いてくる。
詩は手を振り、指について来たものを払う。
「これ、スライムだ! 水溜りの真似してスカートの中覗こうとしたんでしょ! なんてスケベな歪虚なの!?」
「すすすスライムだと!? 精霊様お助けを! わしらみんな食われちまうよ!」
イメルサは怯える羊飼いをなだめた。
「大丈夫です、ご心配は要りません。このスライムは人を食うほどの力は持っていませんよ」
「ほ、本当か?」
「ええ。本当です、間違いありません。もしそれだけの能力があるなら、我々こんなふうに無事ではいないはずです。このスライム、ここまで張り付いておきながら、服を溶かすことすら出来ていないんですよ?」
確かにそうである。粘着力だけはたいしたものだが、消化力はというと非常に弱い。服はもちろん羊や犬の毛皮さえ、ろくに侵食出来ていないのだ。
(服を溶かす訳じゃないのか……)
リナリスにはそれが、やや残念に思われた。歪虚の不甲斐なさにチッと舌を打つ。
(せっかく凜ちゃんがいるのに……使えない奴……)
いくら差し迫った危険はないからといって、いつまでも手をこまねいているわけにはいかない。
詩はどうするべきか考えをまとめるため、大きく深呼吸した。
「――おうえっ、げほげほっ」
悪臭が一気に鼻から入ってきて涙が出るほどむせたが、それによって、一応の落ち着きを取り戻す。
まず、むやみやたらと攻撃するわけにはいかない。ハンターだけならまだしも、一般人が捕まってしまっているのだ。
後、下手に動き回ろうとするのも禁物だ。尻餅をついたら収拾がつかなくなること請け合いだし、下着が見えてしまうかもしれない。
「えーと。まずは羊飼いさんたちとスライムとを、引き離すべきだよね」
「ええ。皆さん大分消耗なされているようですし……下手に剣で斬るより、これなら魔法の方がいいでしょうか……。敵味方判別可能な範囲魔法なら……?」
「ああ、それいけそうだね、やっぱりこういうときは、物理攻撃より魔法かな」
詩とサクラの話し合いに結論が出るのを待たず、イメルサが行動を起こした。
「これも神が与えた試練……私は囮になります。敵に硬い靴や毛皮に守られた獲物よりも、無防備な肌を直接粘液に曝している獲物の方が食べやすいと判断する知能があれば、私を包み込もうとするでしょう」
彼女は娘のみならず同行者の全員に、慈母のごとき微笑みを向ける。
「攻撃は貴女達に任せます。脱出するなら遠慮なく私を踏んで行きなさい。子の礎になるのは親の務めです」
そう言うなり着ていたゴシックドレスを、ばっと脱ぐ――真っ裸だ。逆光で子細がはっきりしないが、下着なぞ一つもつけていないことだけは間違いない。
突然のことに詩もサクラも羊飼いも羊も犬も思わず二度見。
だがイメルサはひるまない。受ける視線の全てを豊満な裸体に吸い上げ、己の活性化の糧とする。
脱いだドレスを、ちょうどほっかむりのようにして被り、頭の後ろを覆う。そしてシュノーケルをつける。それからねばねばの上に、勢いよく横たわる。
なんという見上げた根性、献身、その他の何か。
母の愛にリナリスは感動し、涙ぐむ。
「ママ……」
凜も感動した――感動しついで、瞼に故郷の母の顔が浮かんだ。その母が言う。『凜、映倫を恐れなさい』と。
(おお……承りましたのじゃ、ママ)
幻影に一人ごち、、背負ったナップサックに入れていたデコレーションケーキを取り出す。千切って投げ千切っては投げる。イメルサの、見えてはいけない部分目がけて。
「丁度隠れたね♪」
生クリームの女体盛りと化したイメルサの腹部に、リナリスが飛び乗る。ハイヒールをその場に置き去りにして。
「えいっ♪」
はた目にかなりの重みがかかっているように見えた。実際重かったのだろう。イメルサの喉から呻き声が漏れた。
「むぐううう!」
そこに凜も飛び乗ってくる。
「お邪魔しまーす!」
重さが二倍になる。さすがのイメルサもかなり苦しそうだ。
「おごおおお!」
それに対してリナリスは、あははと明るい笑顔。その場でスキップ。この母にしてこの娘ありといった光景である。
「わーい。屠殺されるブタの悲鳴みたいだよママ♪」
「イメルサさん、だ、大丈夫……?」
「大丈夫大丈夫。ママは拷問官だったんだもの、この程度じゃへこたれないよっ♪」
「そう、ならいいけど」
友の言葉に納得した凜は、ついでなので足指で、おっぱい全体に生クリームを伸ばしておく。
「わ……おっきい……やわらかい……♪」
その刺激でたわわな胸が官能的に揺れるが、そのへんの描写はさておく。
凜は、着ていた浴衣をくるくるっと脱ぎ、少し先に投げた。スライムからの脱出を確かなものとするための、足場作りである。 眩しいふんどし姿に内心ハアハアしつつ、リナリスもまた、自身のゴシックドレスで足場造り。彼女の今日の下着は、黒のマイクロビキニ。
「あれ、リナリスさんなんでお尻赤いの?」
「あ、それは、ちょっと訳が、あは」
それら一部始終を見た詩は、サクラに言う。
「……イメルサさんにこれ以上乗ったら危なそうだよね」
サクラはこくりと頷いた。
「足、脱げば確かに拘束から逃れそうですけど……素足でぬるぬるの上は気持ち悪そうです……」
というわけで両名は、当初の計画通り場から動かず攻撃を仕掛けることにした。
まずサクラ。自分の足元へ、セイクリッドフラッシュをかける。
「えいやっ」
光の波動が広がるや、張り付いていたスライムがぶるぶるっと震え、飛び散る。
効き目があるようだと見た彼女は、詩と一緒に、羊飼いの救出へと取り掛かった。羊と犬はその後だ。
「おじさん、じっとしててー」
「眩しいかも知れませんので、目を瞑っていてくださーい」
キュアとセイクリッドフラッシュが同時に放たれた。
スライムは縮み上がり、羊飼いの体から後退する。
「おおっ、動けるようになった!」
羊飼いは、足を大きく振り上げ、なんとか歩きだした。
先に外へ出ていた凜が脱出補助のため、スライムの上にテントを広げる。
「おじさん、ここに乗って乗って」
リナリスは、スライムの縁に向かってアイスボルトをかけた。
その部分がカタツムリの頭のように引っ込む。
凜も至近距離から、胡蝶符を浴びせる。
するとまた、その分だけ引っ込む。
スライムの中にいる詩とサクラは、羊飼いからなだめられている犬と羊の周囲を叩いた。
かくしてスライムは、唯一動いていないイメルサに向けて殺到する。
「わー。ママ、泥マッサージしてるみたいだよ♪」
とリナリスはのたまうが、本人的にはそんな気楽なものでもあるまい。シュノーケルをつけていても悪臭が香るのか、むせている。
「ワン、ワンワン」
先に救出された牧羊犬はけなげにも、すぐ仕事に戻った。ばらけた羊の群れの周りを駆け巡り、再び一カ所に戻して行く。
次に助け出された羊たちはぐったりしていたが、疲れただけで、体に別条はなさそうだった。
やれやれと思いつつイメルサは、ねばついた上半身を起こす。
次は私の番――そう言おうとしたところ、シュノーケルに溜まっていた唾液が逆流してきた。
「私ごっ……げへげへげへっごっほっほっ」
それを聞いたリナリスは、滂沱の涙を流す。
「わかったよ! 私ごと撃て、だねママ!」
彼女の脳裏にはこれまで母と過ごしてきた幸せな日々の光景が展開された。
家族揃ってのおいしい朝ごはん。
庭でのキャッチボール。
寝る前に枕元で読んでもらった絵本『せいぎのごうもんかんがちもなみだもないさつじんきをごうほうてきにじはくさせるおはなし』。
うっかりおねしょをした際の、めくるめくきっついおしおき……。
「ロンググッドバイ、ママー!」
涙を振り切って、ファイアーボールを母に撃ちかけるリナリス。
「え……違……ぎぇああああっ!」
詩がスライムに死刑宣告を放つ。
「もう二度とスカートの中を覗けなくしてあげる!」
全身全霊最大の力を込めて、ホーリーライトが打ち込まれる。
「破廉恥歪虚は殲滅だよ!」
あまりにも強烈な光に、スライムが沸騰し泡立つ。
「ええっ!? い、いいのかな……」
ためらいつつも胡蝶符を放つ凜。
そこへまた、リナリスのファイアーボール。
「愛してるママー!」
多分攻撃技の組み合わせが悪かったのだろう。スライムは予想外の大爆発を起こした。
びっくり仰天した羊たちが逃げる。牧羊犬が追いかける。羊飼いも追いかける。
「こらお前達待て、待てというにー!」
全てが終わった後サクラが見たものは、道の真ん中に出来た大穴と、轢き潰された蛙のような格好で黒焦げになっているイメルサの姿であった――まあ、生きてはいるわけだが。
詩は、自分の匂いをくんくん嗅ぐ。
「……これ、オフィスでお風呂借りた方がいいよね……」
「お風呂、私も行きます……。流石にこのまま帰るのは色んな意味で辛いですし……」
●
ここはハンターオフィス・ジェオルジ支店のお風呂。
「きゃはははは、あわあわー」
「やめてえ、くすぐったーい」
「きゃあっ。リナリスさん、も、揉まないでくださいっ」
「えー、揉んだらもうちょっとおっきくなるかもよ?」
泡だらけになって皆ともつれ遊ぶリナリスに、イメルサが、頭からお湯をかける。
「リナリス、あまりふざけていては駄目よ。さあもういいから、皆湯船に入りなさい」
年長者の意見に従い、皆湯船に入る。
かなりきつきつだ。一番場所を取っているのがイメルサの乳房であることは言うまでもない。
母性の象徴を前にした凜は、甘酸っぱい気持ちになる。
「ママの事、思い出しちゃった……」
胸に顔を埋め、かぷり。
リナリスも負けじと母の胸へ顔を埋める。
「ずるい! あたしもー!」
と言って、ちゅうちゅう。
「あっ……こらこら、しょうのない子たちねえ」
イメルサは特に止めもせず、子供たちの背を優しく撫でる。
サクラはその光景を前に、己の胸囲の貧弱さを、改めて思い知った。
イメルサは別次元の存在として、ほぼ同年代な詩とリナリスに遠く及ばず、下手したら凜とも大差ないのでは……。
(むむ、こ、この格差社会……。ここまで差があると流石に落ち込みます……。これも神の試練なのでしょうか……)
考えれば考えるほどいたたまれなくなってくるので、詩に次いで早めに上がる。
石鹸の匂いをさせながら外に出て、マリーへ声かけ。
「マリーさん、お疲れさまです」
「コボちゃん洗い交替するよ」
「え、本当。助かるわー、もう処置なしだったのよ」
安堵したマリーは、泡だらけの手をタオルで拭いた。彼女の前にあるたらいには……何も入っていない。
「あれ、コボちゃんは?」
「あそこよ」
ぷりぷりしながらマリーが指さしたのは、木の上。まだ汚れが取れていないコボちゃんが歯を剥き唸り、徹底抗戦の構え。
「ううう、わし! ううう、わし!」
詩は干し肉を取り出し、振ってみせた。
「ほらほら、コボちゃん降りといでー。お肉だよ、お肉-」
コボちゃんは鼻をひくひくさせ降りてきた。腰を引きつつ近寄ってくる。
明らかに肉だけ取って逃げてやろうという姿勢だったが、詩がそれを許すはずもない。サクラと協力し、あっさり首根っこを抑えてしまう。
「わしわしわし! わしわしわし!」
「はいはい、大人しくしてたら後であげるからね」
ふと向こうを見ればジュアンとアレックスが顔を寄せ合い、いちゃいちゃ。
(あ、キスした)
ちらりとマリーの方に目をやれば、熱愛ぶりを眺めて険悪な表情。
詩は、心で呟いた。口に出すと大事になりそうだったので。
(ジュアンさんとアレックスさんはねばねばなくても相変わらずくっついてるな~)
「何これ、ねばねばだよ~」
と言いつつ踏んでしまった足を引こうとした。
が。
「よい、しょ……あれ? よっ、よいいい~~」
抜けない。尋常ではない粘着力で張り付いてくる。
「な、何これ……もしかしてマテリアル廃棄物? うっ、くっさ」
思わず息を止める詩。しかしこの匂い、どこかで嗅いだ覚えが。どこだったかな……。
「……あ。分かった。さっき洗われてたコボちゃんの匂いだ……あー、コボちゃんここに入っちゃったのか」
どうにも困った状況だが、五行ヶ原 凛(ka6270)は困るよりむしろ楽しんでいる。
「虫取りの罠にかかったみたい♪」
余裕しゃくしゃくな理由の一つとしては、履いているのがハイヒールであり、ねばねばとの接触率が低いということが挙げられるかと思われる。
「そういえば……よく見たら、虫が一杯くっついてるね♪ 見て見てママ。あそこでフンコロガシが自分の作った糞玉と一緒にもがき苦しんでるよ」
と無邪気に笑うリナリス・リーカノア(ka5126)もまたハイヒール。
「あら、本当ね。まあこっちには銀蝿とシデ虫が。まるで巨大な蠅取り紙のようだわ」
その母イメルサ・ファルズール(ka6259)もハイヒール。
妙にハイヒール率の高いパーティーだ。難儀している羊飼いにとっては、差し当たってどうでもいいことではあるが。
「ハンターさん、分析はええから、通りがかったなら早くなんとかしてくだせえ。このままじゃ群れが動けんですよ」
人としての分別がある彼は足の裏をくっつけるだけですんでいるが、動物たちは暴れまわり、自ずから状況を悪化させている。特に羊など押し合いへし合いしているうちに座り込み、体全体がくっついてしまって、にっちもさっちもいかない有り様。
纏め役である羊飼いと牧羊犬が動けないので、ねばねばに引っ掛かっていない羊たちは、そのあたりを勝手にさ迷い始める。
「おいっ、おぃっ、行っちゃいかん、戻ってこい、戻ってこい!」
指笛を吹き、必死にそれを呼び戻そうとする羊飼い。
その騒ぎを聞き付けたのが、道の向こうから歩いてきたサクラ・エルフリード(ka2598)。すぐさま異変を感じ取り、足を速める。
「もしもし、どうされましたか」
そしてたちまち、先に来ていたハンターたちと同じように、ねばねばの虜となった。
ブーツごしに伝わってくるねばい感触に、うっと息を詰める。足元に視線を降ろし、ますます息を詰める。
「何か声が騒ぎがと思って来てみたら……どうしてこんなことに……この匂いはきついですね……」
詩は眉間にしわを寄せ、彼女の嘆きに同意した。
「きついよね……ブーツに匂いが染み付かないといいんだけど……」
「一体なんですか、これは」
「さあー、多分マテリアル廃棄物なんじゃないかと思うんだけど」
言いながらねばねばを見下ろした詩は、はたと気づいた。虫がゆっくりヘドロの中へ飲まれていっていることに。
「…………?」
試しに指をちょっとだけヘドロにつけてみれば、ひたと向こうから吸い付いてくる。
詩は手を振り、指について来たものを払う。
「これ、スライムだ! 水溜りの真似してスカートの中覗こうとしたんでしょ! なんてスケベな歪虚なの!?」
「すすすスライムだと!? 精霊様お助けを! わしらみんな食われちまうよ!」
イメルサは怯える羊飼いをなだめた。
「大丈夫です、ご心配は要りません。このスライムは人を食うほどの力は持っていませんよ」
「ほ、本当か?」
「ええ。本当です、間違いありません。もしそれだけの能力があるなら、我々こんなふうに無事ではいないはずです。このスライム、ここまで張り付いておきながら、服を溶かすことすら出来ていないんですよ?」
確かにそうである。粘着力だけはたいしたものだが、消化力はというと非常に弱い。服はもちろん羊や犬の毛皮さえ、ろくに侵食出来ていないのだ。
(服を溶かす訳じゃないのか……)
リナリスにはそれが、やや残念に思われた。歪虚の不甲斐なさにチッと舌を打つ。
(せっかく凜ちゃんがいるのに……使えない奴……)
いくら差し迫った危険はないからといって、いつまでも手をこまねいているわけにはいかない。
詩はどうするべきか考えをまとめるため、大きく深呼吸した。
「――おうえっ、げほげほっ」
悪臭が一気に鼻から入ってきて涙が出るほどむせたが、それによって、一応の落ち着きを取り戻す。
まず、むやみやたらと攻撃するわけにはいかない。ハンターだけならまだしも、一般人が捕まってしまっているのだ。
後、下手に動き回ろうとするのも禁物だ。尻餅をついたら収拾がつかなくなること請け合いだし、下着が見えてしまうかもしれない。
「えーと。まずは羊飼いさんたちとスライムとを、引き離すべきだよね」
「ええ。皆さん大分消耗なされているようですし……下手に剣で斬るより、これなら魔法の方がいいでしょうか……。敵味方判別可能な範囲魔法なら……?」
「ああ、それいけそうだね、やっぱりこういうときは、物理攻撃より魔法かな」
詩とサクラの話し合いに結論が出るのを待たず、イメルサが行動を起こした。
「これも神が与えた試練……私は囮になります。敵に硬い靴や毛皮に守られた獲物よりも、無防備な肌を直接粘液に曝している獲物の方が食べやすいと判断する知能があれば、私を包み込もうとするでしょう」
彼女は娘のみならず同行者の全員に、慈母のごとき微笑みを向ける。
「攻撃は貴女達に任せます。脱出するなら遠慮なく私を踏んで行きなさい。子の礎になるのは親の務めです」
そう言うなり着ていたゴシックドレスを、ばっと脱ぐ――真っ裸だ。逆光で子細がはっきりしないが、下着なぞ一つもつけていないことだけは間違いない。
突然のことに詩もサクラも羊飼いも羊も犬も思わず二度見。
だがイメルサはひるまない。受ける視線の全てを豊満な裸体に吸い上げ、己の活性化の糧とする。
脱いだドレスを、ちょうどほっかむりのようにして被り、頭の後ろを覆う。そしてシュノーケルをつける。それからねばねばの上に、勢いよく横たわる。
なんという見上げた根性、献身、その他の何か。
母の愛にリナリスは感動し、涙ぐむ。
「ママ……」
凜も感動した――感動しついで、瞼に故郷の母の顔が浮かんだ。その母が言う。『凜、映倫を恐れなさい』と。
(おお……承りましたのじゃ、ママ)
幻影に一人ごち、、背負ったナップサックに入れていたデコレーションケーキを取り出す。千切って投げ千切っては投げる。イメルサの、見えてはいけない部分目がけて。
「丁度隠れたね♪」
生クリームの女体盛りと化したイメルサの腹部に、リナリスが飛び乗る。ハイヒールをその場に置き去りにして。
「えいっ♪」
はた目にかなりの重みがかかっているように見えた。実際重かったのだろう。イメルサの喉から呻き声が漏れた。
「むぐううう!」
そこに凜も飛び乗ってくる。
「お邪魔しまーす!」
重さが二倍になる。さすがのイメルサもかなり苦しそうだ。
「おごおおお!」
それに対してリナリスは、あははと明るい笑顔。その場でスキップ。この母にしてこの娘ありといった光景である。
「わーい。屠殺されるブタの悲鳴みたいだよママ♪」
「イメルサさん、だ、大丈夫……?」
「大丈夫大丈夫。ママは拷問官だったんだもの、この程度じゃへこたれないよっ♪」
「そう、ならいいけど」
友の言葉に納得した凜は、ついでなので足指で、おっぱい全体に生クリームを伸ばしておく。
「わ……おっきい……やわらかい……♪」
その刺激でたわわな胸が官能的に揺れるが、そのへんの描写はさておく。
凜は、着ていた浴衣をくるくるっと脱ぎ、少し先に投げた。スライムからの脱出を確かなものとするための、足場作りである。 眩しいふんどし姿に内心ハアハアしつつ、リナリスもまた、自身のゴシックドレスで足場造り。彼女の今日の下着は、黒のマイクロビキニ。
「あれ、リナリスさんなんでお尻赤いの?」
「あ、それは、ちょっと訳が、あは」
それら一部始終を見た詩は、サクラに言う。
「……イメルサさんにこれ以上乗ったら危なそうだよね」
サクラはこくりと頷いた。
「足、脱げば確かに拘束から逃れそうですけど……素足でぬるぬるの上は気持ち悪そうです……」
というわけで両名は、当初の計画通り場から動かず攻撃を仕掛けることにした。
まずサクラ。自分の足元へ、セイクリッドフラッシュをかける。
「えいやっ」
光の波動が広がるや、張り付いていたスライムがぶるぶるっと震え、飛び散る。
効き目があるようだと見た彼女は、詩と一緒に、羊飼いの救出へと取り掛かった。羊と犬はその後だ。
「おじさん、じっとしててー」
「眩しいかも知れませんので、目を瞑っていてくださーい」
キュアとセイクリッドフラッシュが同時に放たれた。
スライムは縮み上がり、羊飼いの体から後退する。
「おおっ、動けるようになった!」
羊飼いは、足を大きく振り上げ、なんとか歩きだした。
先に外へ出ていた凜が脱出補助のため、スライムの上にテントを広げる。
「おじさん、ここに乗って乗って」
リナリスは、スライムの縁に向かってアイスボルトをかけた。
その部分がカタツムリの頭のように引っ込む。
凜も至近距離から、胡蝶符を浴びせる。
するとまた、その分だけ引っ込む。
スライムの中にいる詩とサクラは、羊飼いからなだめられている犬と羊の周囲を叩いた。
かくしてスライムは、唯一動いていないイメルサに向けて殺到する。
「わー。ママ、泥マッサージしてるみたいだよ♪」
とリナリスはのたまうが、本人的にはそんな気楽なものでもあるまい。シュノーケルをつけていても悪臭が香るのか、むせている。
「ワン、ワンワン」
先に救出された牧羊犬はけなげにも、すぐ仕事に戻った。ばらけた羊の群れの周りを駆け巡り、再び一カ所に戻して行く。
次に助け出された羊たちはぐったりしていたが、疲れただけで、体に別条はなさそうだった。
やれやれと思いつつイメルサは、ねばついた上半身を起こす。
次は私の番――そう言おうとしたところ、シュノーケルに溜まっていた唾液が逆流してきた。
「私ごっ……げへげへげへっごっほっほっ」
それを聞いたリナリスは、滂沱の涙を流す。
「わかったよ! 私ごと撃て、だねママ!」
彼女の脳裏にはこれまで母と過ごしてきた幸せな日々の光景が展開された。
家族揃ってのおいしい朝ごはん。
庭でのキャッチボール。
寝る前に枕元で読んでもらった絵本『せいぎのごうもんかんがちもなみだもないさつじんきをごうほうてきにじはくさせるおはなし』。
うっかりおねしょをした際の、めくるめくきっついおしおき……。
「ロンググッドバイ、ママー!」
涙を振り切って、ファイアーボールを母に撃ちかけるリナリス。
「え……違……ぎぇああああっ!」
詩がスライムに死刑宣告を放つ。
「もう二度とスカートの中を覗けなくしてあげる!」
全身全霊最大の力を込めて、ホーリーライトが打ち込まれる。
「破廉恥歪虚は殲滅だよ!」
あまりにも強烈な光に、スライムが沸騰し泡立つ。
「ええっ!? い、いいのかな……」
ためらいつつも胡蝶符を放つ凜。
そこへまた、リナリスのファイアーボール。
「愛してるママー!」
多分攻撃技の組み合わせが悪かったのだろう。スライムは予想外の大爆発を起こした。
びっくり仰天した羊たちが逃げる。牧羊犬が追いかける。羊飼いも追いかける。
「こらお前達待て、待てというにー!」
全てが終わった後サクラが見たものは、道の真ん中に出来た大穴と、轢き潰された蛙のような格好で黒焦げになっているイメルサの姿であった――まあ、生きてはいるわけだが。
詩は、自分の匂いをくんくん嗅ぐ。
「……これ、オフィスでお風呂借りた方がいいよね……」
「お風呂、私も行きます……。流石にこのまま帰るのは色んな意味で辛いですし……」
●
ここはハンターオフィス・ジェオルジ支店のお風呂。
「きゃはははは、あわあわー」
「やめてえ、くすぐったーい」
「きゃあっ。リナリスさん、も、揉まないでくださいっ」
「えー、揉んだらもうちょっとおっきくなるかもよ?」
泡だらけになって皆ともつれ遊ぶリナリスに、イメルサが、頭からお湯をかける。
「リナリス、あまりふざけていては駄目よ。さあもういいから、皆湯船に入りなさい」
年長者の意見に従い、皆湯船に入る。
かなりきつきつだ。一番場所を取っているのがイメルサの乳房であることは言うまでもない。
母性の象徴を前にした凜は、甘酸っぱい気持ちになる。
「ママの事、思い出しちゃった……」
胸に顔を埋め、かぷり。
リナリスも負けじと母の胸へ顔を埋める。
「ずるい! あたしもー!」
と言って、ちゅうちゅう。
「あっ……こらこら、しょうのない子たちねえ」
イメルサは特に止めもせず、子供たちの背を優しく撫でる。
サクラはその光景を前に、己の胸囲の貧弱さを、改めて思い知った。
イメルサは別次元の存在として、ほぼ同年代な詩とリナリスに遠く及ばず、下手したら凜とも大差ないのでは……。
(むむ、こ、この格差社会……。ここまで差があると流石に落ち込みます……。これも神の試練なのでしょうか……)
考えれば考えるほどいたたまれなくなってくるので、詩に次いで早めに上がる。
石鹸の匂いをさせながら外に出て、マリーへ声かけ。
「マリーさん、お疲れさまです」
「コボちゃん洗い交替するよ」
「え、本当。助かるわー、もう処置なしだったのよ」
安堵したマリーは、泡だらけの手をタオルで拭いた。彼女の前にあるたらいには……何も入っていない。
「あれ、コボちゃんは?」
「あそこよ」
ぷりぷりしながらマリーが指さしたのは、木の上。まだ汚れが取れていないコボちゃんが歯を剥き唸り、徹底抗戦の構え。
「ううう、わし! ううう、わし!」
詩は干し肉を取り出し、振ってみせた。
「ほらほら、コボちゃん降りといでー。お肉だよ、お肉-」
コボちゃんは鼻をひくひくさせ降りてきた。腰を引きつつ近寄ってくる。
明らかに肉だけ取って逃げてやろうという姿勢だったが、詩がそれを許すはずもない。サクラと協力し、あっさり首根っこを抑えてしまう。
「わしわしわし! わしわしわし!」
「はいはい、大人しくしてたら後であげるからね」
ふと向こうを見ればジュアンとアレックスが顔を寄せ合い、いちゃいちゃ。
(あ、キスした)
ちらりとマリーの方に目をやれば、熱愛ぶりを眺めて険悪な表情。
詩は、心で呟いた。口に出すと大事になりそうだったので。
(ジュアンさんとアレックスさんはねばねばなくても相変わらずくっついてるな~)
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/24 16:33:14 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/06/24 16:36:33 |