Φ呪文を唱えてΦ

マスター:霜月零

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
2日
締切
2016/06/17 19:00
完成日
2016/06/23 06:16

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「わたくし、魔術師達の素晴らしい呪文詠唱の数々を、間近で見たいと思いますの。ほら、執筆にはそういったリアルなイメージは大切でしょう?」

 ハンターオフィスでそう言ってふんぞり返るのはフィーレリア・オーグスト。
 豪奢な金の巻き髪と、お供の執事やら護衛やらの黒服集団がずらりと後に控えている。

「えっと、つまりご依頼は、どのようなご内容なのでしょう……?」

 ハンターオフィスの新米受付少年、クロシロアゼンが恐る恐る尋ねる。
 正直、あまり聞きたくなかったのだが、周りの先輩たちは皆、何故か急がしそうで目を合わせてくれないので、クロシロアゼンが尋ねるしかなかったのだ。
 
「まぁ、貴方ったらこのわたくしの言葉を聞いていなかったの?」

 大仰に驚いて、蒼の瞳を見開くフィーレリア。
 黒服集団がバキボキと拳を鳴らす。

「いいいいえええええっ、聞いてました聞いてましたっ、魔術師を手配して欲しいんですよね?! 長ったらしい呪文詠唱が得意なっ」
「えぇ、そう、分かっていただけて嬉しいわ」
「ですが、魔術師に退治していただく対象を召喚されるとか何とか、聞こえたような気が……」
「えぇ、そうですわ。わたくしは大作家にして召喚士ですの。どんな魔物でも召喚して見せましてよ。おーっほっほっほっほ!」

 召喚士。
 果たしてそんな職業あったかどうか。
 少なくともクロシロアゼンの記憶にはない。

「あら、その表情。わたくしを疑っていらっしゃる?」
「めめめ、滅相もございませんっ」
「いいのよ、召喚士って珍しい職業ですものね。いいわ、ここで実演してあげる! ……数多なる星々に愛されし生物よ、わが名に答え召喚されたし! ラブリーキャット、召喚!」

 バッサーッと金髪をなびかせて、フィーレリアが扇子を天に掲げる。
 その瞬間、控えていた恰幅のいい黒服が懐の中から一匹の黒猫を取り出して床に置いた。

「ほぅらごらんなさい。わたくしの召喚に応じてラブリーキャットが姿を現しましたわ」
「えっ、あの、そのっ、いま黒服が……」

 バキッ、ボキッ。
 黒服集団が拳を鳴らす。

「何か仰いまして?」
「いいいえ、何でもございませんっ、素晴らしい召喚術だと思いますっ」
「そうでしょうそうでしょう。わたくしの魔法を見たものは皆そのように仰ってくださいますの。

 おほほほほほと笑うフィーレリアにシロクロアゼンはもう頷くことしか出来ない。
 だってそうしなかったら間違いなく黒服に連行されるから!

「わたくしの召喚術ならどんな魔物でも召喚できますわ。ですから、魔術師の皆様には思う存分、呪文を詠唱していただければと思いますの」
「……敵がいない状態での呪文詠唱は……」
「あら、そんなのありえませんわ。わたくしは小説にリアリティを求めていますの。本物の敵とあいまみえてこその最強呪文ですわ。そう思いませんこと?」
「思います思いますぅ……」
「ふふっ、貴方とは気が合いそうだわ。そうそう、わたくしの著書はもちろん読んでいらっしゃるわね?」

 著書?!
 知らないよ?!
 むしろアナタダレデスカ。

 そんな事実を口に出来るはずもないシロクロアゼンに、フィーレリアの背後の黒服がカンペを出した。

 なになに? 『最強魔術師と孤高の魔王』に『お嬢様と七人の野良魔術師』に『魔術師と魔王の異世界デート』?

「えっと、そうですね、最強魔術師シリーズですよね……」
「えぇ、やはり読んでいらしたのね。今度の新作が完成したら、貴方には一番最初に届けて差し上げますわ。もちろん、わたくしのサイン入りでしてよ。おーっほっほっほ!」
「で、でもっ! 敵を召喚しちゃうといろいろ周囲の事情があれでそれでっ、出来ましたら、普通に屈強なボディーガードさんと対戦させては如何でしょうかっ」
「あら、そぉ?」
「はいっ、そのほうがリアリティもじゅーぶんっ、伝わると思いますっ」
「熱烈なファンの貴方がそう言うなら、いいわ、その意見を採用してあげる。感謝なさいな。おーーーほっほっほ!」

 言いたいことだけ言い放ち、上機嫌に去ってゆくフィーレリア。
 そして大金の詰まった革の袋をどすんどすんと受付に置いて後に続く黒服達。

 残されたシロクロアゼンは、一気に数年分歳を食ったかのようにくったりと干からびて、ふらふらとハンター達に依頼を作成するのだった。
 

リプレイ本文


「エクラ教会の神父です。魔術師ではありませんが、お嬢様にぜひ、聖導士の良さを見て頂こうと駆けつけました」

 エルディン(ka4144)はにこりとさわやかな笑みを浮かべ、お嬢様をみつめる。
 海のように深い青の瞳に見つめられたお嬢様、ぽっと頬を染めた。

「ま、まぁ、わたくしの作品に出演したいというお気持ちはよくよく分かりましてよ。本日は特別に、魔術師ではなくとも参加を認めて差し上げますわ!」
「ありがたき幸せです」
「さぁ、貴方はどんな敵と戦いたいのかしら。わたくしが召喚して差し上げてよ」
「では、悪魔を所望しましょう」
「悪魔ですって?」
「えぇ。神父が払うのは、悪しき者と相場が決まっておりますから」

 フッととエルディンが瞳を細めて微笑めば、お嬢様は笑顔で召喚呪文を唱えた。
 心得たように黒服が演出効果よろしくスモークを炊く。
 そして白い煙が晴れ、召喚された悪魔が姿を現した。

「悪くないですね」
 
 ハンター達がなにを望むのかは分からなかったはずなのに、エルディンの目の前には、二メートルを超す大男が仁王立ちしていた。
 上半身裸のその身体は筋骨隆々、耳の上には本物と見紛う捩れた山羊の角が生えていた。黒い皮膜状の翼を背負っているのもポイントが高いだろう。

 そして周囲を取り囲むのは小柄な黒服達。
 全員、角装備。
 いまの一瞬で用意したのだから、黒服達は意外と有能かもしれない。

 エルディンは満足げに頷くと、呪文を唱えだした。

「……主の導きによりし救われるべき魂よ」

 エルディンの手が光を帯びる。
 小柄な黒服達が呪文を詠唱しだす。

「主は愛を、主は慈悲を、主は平穏を」

 光の柱が黒服の悪魔達を取り囲む。
 悪魔のボスが、エルディンの武器を掴む。

「か弱き主の迷い子を……っ」

 黒服達からエルディンに向かって剣が向けられ、ボスがエルディンを組み伏せる!

「主の慈悲によって、救いたまえ!」

 光の柱が玉となり、詠唱途中の黒服達を貫き吹き飛ばした。
 
「なかなかに刺激的でしたよ」

 吹き飛んだボスと黒服達を横目に、起き上がったエルディンは乱れたカソックの襟を整えた。


 天央 観智(ka0896)はポツリと呟くように敵を指定した。

「希望敵は、案山子が良いですね……よく、農地等で鳥等が留まっている様な」
「それは敵とは言わないのではなくて?」
「そうですね……的が欲しいのです」

 ちらりと観智は茶色い瞳で視界の隅をみる。
 そこには、先ほどエルディンの攻撃で吹き飛んだ黒服の面々が手当てを受けていた。
 攻撃をしたエルディンも跪き、「お勤め大変ですね」と包帯を巻いてあげている。

(黒服さん達も、大変……ですよね)

 すぐに治療されるとはいえ、怪我をしないわけでも痛みがないわけでもないのだ。
 出来る限り怪我人を出さない方法として、観智が思いついたのが案山子だった。
 敵らしくない要望に、ほんのり苛立ちを示すお嬢様。

「こう考えてみてはどうでしょうか……最強魔術師を目指して……訓練をしている魔術師もいると……」
「そうね。わたくしの作品のキャラの歴史に彩を添えれそうだわ」
「では……」
「えぇ、召喚して差し上げましてよ、おーーーーっほっほ!」

 高笑いと共に召喚するお嬢様。
 
 ひゅるるぅるるる……ドスッ!

 どこからともなく案山子が空から降ってきて、地面に深々と突き刺さった。

(一体どこから……)

 観智が見上げると、屋敷の屋上に人影がさっと隠れた。
 人影は一人ではなく数人いるようで、きっと色々趣向を凝らすために黒服が待機しているに違いない。
 咄嗟に作ったのであろう案山子の本体は、よく見るとただの木ではなく槍を組み合わせていて、白いカーテンをぐるぐるに巻いたもののようだ。

(黒服さん達の苦労は……無駄にしません……)

 観智はすっと白衣を払い、茶色い瞳を細める。
 案山子の周囲の地面がボコボコと膨れ上がり、即座に土の壁が取り囲んだ。

「直径12cmの球を仮に設置、円周内にデルタを配し炎心を1200度に設定。必要マテリアル充填」

 案山子が炎に飲み込まれ、お嬢様を守るように黒服が背に隠すが、熱風は土の壁に阻まれた。

「大気中に現存する電子を電荷分離、対象の地点をプラスと定義、直線距離による放電量を900GWに設定。中和」

 凄まじい激音を響かせながら、観智の手の平から燃え上がる案山子に雷撃が迸った。
 ぐずぐずとけぶる音を立てて崩れる案山子に、お嬢様の拍手が重なった。


 マリエル(ka0116)は一歩、前に進み出る。

「なんでも良いのですか? では天使で」
 
 立派な悪魔的な黒服が出せるのだから、天使もきっちり準備してあるに違いない。
 無理なら適当に別のものでもというマリエルにお嬢様が召喚呪文を唱えだす。
 エルディンの時と同じようにスモークが焚かれ、煙がゆっくりと晴れてゆく。

「どこに天使がいるのですか?」

 ズバッと言い切ったマリエルに、黒服達が慌てて駆け寄って口を押さえた。
 お嬢様の眉尻が危険に釣りあがる。

「見事な天使ですね。愛らしいなかに聖なる光の輝きを感じます」

 空気を読まないマリエルの代わりに、エルディンが爽やか過ぎる笑顔で言い切った。
 煙が晴れた先にいた者。
 それは、お手製と思われる白い羽根をちんまりと背負った黒服だった。
 大きな白い餃子のぬいぐるみを二個作り、左右にくっつけたら丁度ぴったりかもしれないもこもこ具合。
 布を頑張って餃子型に切って、中に綿を詰め、リュックのように紐をつけて背負っているのだ。
 先ほどの悪魔に比べると、実に手づくり感満載だった。

「召喚……?」

 シリル・ド・ラ・ガルソニエール(ka3820)が哀れみの篭った目で黒服達を見つめる。
 きっとお嬢様の為に夜鍋して黒服達が召喚グッズを準備しているに違いない。
 出来に差があるのは担当黒服の器用さにかかっているのだろう。

 口を塞いでいた黒服が、マリエルから離れる。
 なぜ口を塞がれたのか分からないまま、マリエルは小首を傾げつつ、とりあえず呪文の詠唱に入った。

「擬似接続開始」

 ふわりと、マリエルの前に鍵盤が浮かび上がる。
 彼女の魔力により生み出されしそれは、彼女の手の動きに合わせてくるりと広がった。

「セレクト。其は道化にして、滅びの始まり」

 黒服天使が防御呪文を唱え始める。
 マリエルはゆっくりと鍵盤に指先を触れる。
 ぽうっと蝋燭の火が灯るかのように、指先の触れた鍵盤が光を帯びた。

「コマンド。コード『ロキ』発令。システム『ユグドラシル』へダイレクトアクセス!」

 巨大な木の幻影が、彼女の背後に浮かび上がる。

「ID、デウス・ウキス・マキナ……」

 マリエルの指先はゆっくりとした呪文詠唱とは裏腹に、滑らかに踊るように鍵盤を走り抜ける。

「素材はヤドリギ、生み出すは神を殺めし漆黒の槍」

 光の粒子が鍵盤から立ち上り、彼女の想像を具現化する。

「コール! イミテーション・ミストルティン! 紡がれし光の槍よ、貫いて」

 光の槍が黒服に向かって一直線に飛んでゆく。
 それを防いだのは、シリルだった。
 黒服天使は防衛呪文を詠唱出来ておらず、それに気づいたシリルがその身でマリエルの槍を受けたのだ。

 腰を抜かす黒服天使に、シリルが痛みをこらえて手を差し伸べ、回復役の黒服達がシリルを回復する。

「シリルさん強いですよね」

 ほわりと笑顔のマリエルに、苦笑するシリル。
 マリエルに手加減などという言葉は存在しないし、そもそも、黒服にこんな危険な事をさせているお嬢様が一番悪い。
 仕置きが必要だなと、シリルは赤い瞳を剣呑に光らせた。


「そうだな、幻獣王とやらを召喚してもらおうか」
 
 お嬢様に苛立ちを感じながら、シリルは敵を想定する。
 そして召喚されたのは、可愛いかわいいぬいぐるみ☆
「わぁ、可愛いネズミのぬいぐるみ達ですね」というマリエルの口を、観智がすっと白衣の袖で塞いだ。
 黒服達がそれぞれ手に持った幻獣王風味のネズミのぬいぐるみを構えた。

「神よ、法と正義の名の下に。愛と真実のために。信義と善、多様な価値を護るため」

 シリルは魔導拳銃をお嬢様から見えないように構える。

「力を貸したまえ。ホーリーライト」

 輝く光の玉が黒服をわざと外してあちらこちらに飛んでゆく。
 そして皆の目線がシリルからそれた隙に、魔導拳銃で次々と幻獣王のぬいぐるみを撃ち抜き、黒服の手からお嬢様に向かってぶっ飛ばす。
 即座にぬいぐるみを叩き落とし、お嬢様を守る黒服。

「神よ、力を貸したまえ」

 ぬいぐるみを吹き飛ばされた黒服が力技で蹴りを繰り出し、シリルは呪文を詠唱しながら片手でそれを捌いた。

「愛と信義と真実の光を当てるため」

 柔らかく輝く光が、何故か黒服達を包み込む。
 動揺しながらも繰り出される黒服の拳を、シリルの長い足が軽く跳ね上げる。

「貫きとおすための盾を授けたまえ」

 シュンッと音が響き渡り、黒服達をシリルの守りが覆い包む。
 そして直後、タンッと地面を蹴ったシリルは、残りの黒服達が手にした幻獣王のぬいぐるみを、すべてお嬢様に向かうように薙ぎ払う。
 
「お嬢様!」

 黒服の悲鳴のような声が響き、すべてを防ぎ切れないと悟った黒服は、両手を広げて人盾となってお嬢様を守りぬく!
 プロテクションを施されながらも息を荒げている黒服を一瞥し、シリルはお嬢様に向き直る。

「お嬢、忠義を尽くしてくれる連中には、しっかり労っておくんだぞ」

 シリルの赤い瞳に一瞬、怯えの色を滲ませるお嬢様。
 ぷいっとお嬢様は目をそらした。
 

「実はお嬢様の事が好きな、黒スーツを着た格闘家の護衛さん、なんて召喚してもらえますでしょうか?」

 悠里(ka6368)の言葉に固まったのは、お嬢様だけではなかった。
 黒スーツの面々の中、真っ赤になって動揺している青年が一人。
 シリルの狙い通りにお嬢様に向かって吹っ飛ばされたぬいぐるみの数々を、その身に受けてお嬢様を守りきっていたあの黒服である。
 どよめく周囲、微笑む悠里。
 黒服の名はグレリオと言うらしい。

「どうやら召喚して頂くまでも無さそうですよね。僕と、手合わせ願えますか? ……僕が勝ったら、お嬢さまを頂きます」

 スッとマスカレードを身につける悠里。
 銀の塗装を施されたそれは、悠里に危険な気配を纏わりつかせた。
 瞬間、赤面していた表情を冷徹に引き締めるグレリオ。

「それなら、私も協力を惜しまないわ」
 パウラ・アウノラ(ka4348)が妖艶な笑みを浮かべる。「とびっきりの無駄に長過ぎる詠唱を見せてあげるわ」と。
 進み出る彼女に、黒服集団はお嬢様を下がらせた。
 そしてグレリオの隣に並ぶ。
 バキバキと拳を鳴らす黒服の面々。
 その表情はさっきまでのやらされていた仕方なさから、護衛のそれに切り替わる。

「いい表情ですね。でも……お覚悟を」

 悠里が恭しく礼をし、グレリオに不動明王剣を構えた。
 グレリオも悠里に倣い礼をし、腰に下げた剣を抜く。

「私の相手はあなた達ね。ライバルとの魔術勝負、といった所かしら」

 パウラの相手をするのはグレリオに味方する魔術師系黒服達だ。
 悠里の恋を邪魔はさせない。
 すっと、パウラは指先を空に滑らす。
 だが、護衛に意識の切り替わった黒服達が、呪文詠唱をただ許すはずがない。
 地をけり、一気にパウラとの距離を詰める。

「恋路の邪魔は見過ごせません」

 神父としてと呟き、エルディンが聖儀杖で黒服の足を払った。

「――世に遍く降り注がれし太陽の子等よ……」

 パウラの声に続くように、別の黒服が呪文を詠唱しだす。
 けれどその黒服の鳩尾に、シリルがきつい一発をお見舞いした。「悪いな。後できっちり手当てしてやるからな」と。

「――我が契りを結びし精霊が御名の元に、胡乱なる其の身を集わせ給え」

 パウラの指先に炎が灯る。
 
「グレリオさん、あなたは今のままで良いのですか?」

 キンッ……!
 悠里とグレリオの剣が交わる。

「――悲哀、憎悪、嫉妬、憤怒。汝等を導く四の標は此処に在り」

 呪文と共にパウラの炎が光を増す。
 黒服の呪文詠唱が一足早く、パウラとハンター達に向かっていくつもの炎の矢が降り注ぐ!

「では……矩形2×0.2を前方へ設置、底面へ代入し高さ2の長石と石英を主とする物体を構築」

 マリエルを抑えたままだった観智が障壁を即座に張り、炎の矢が土壁に突き刺さり焦げ消えてゆく。

「――其の身、一ならば曙光。十ならば種火。百ならば火炎、千にて猛火。万を越え、幾億集えば、万象焦がす業火に至る」
「――汝等が到るは我が望む災禍の姿。其の姿は、天すら焦がす陽光の王を模倣する」
「――故に、我は汝等に乞い、願う。我が前に立ち塞がる愚昧なる者を、其の身で悉く焼尽せしめん事を」

 太陽の光がパウラの指先に終結したかのような、巨大な炎の塊が作り上げられる。

「……分かっては頂けないのですね。ならば僕も、それ相応の覚悟を持ってこの呪文を唱えましょう」

 グレリオと剣を交わす悠里が、囁くように詠唱しだす。

「――天の王を象りし業火にて、指し示す先に暴虐を成そう。全ては、此の身に滾る憤怒を以って、彼の者等に滅びを齎す為だけに!」

 パウラの指先から、情け容赦なく太陽の業火が黒服達に降り注ぐ!

「っ、持ちこたえろよ!」

 シリルが黒服達に守りを施し、自由になったマリエルはふわりと癒しの呪を唱えた。

「理の器 根源の檻 満ちるは光 堕ちるは闇 元素たる四つ 陰陽たる双つ 我が手に集うは陰陽の壱……」
「加護 守護 黎明 明星 貫く意志と意思は此処に満ち、敵穿つは光雨と光弾……ホーリー、ライト」

 悠里の呪文がどこを狙ったか即座に理解したグレリオは悠里を跳ね除け、お嬢様を抱きしめる。

 数秒後。
 なにも起こらない現実にグレリオもお嬢様も、黒服達も目を瞬く。


「驚きましたか?」

 悠里がマスカレードを外してニコリと微笑む。

「呪文を本気では詠唱しませんでしたから。……どうか、お幸せに」

 ふふっと笑う悠里に、その場にぺたりとへたり込むグレリオと、抱きしめられて真っ赤のお嬢様。

「報いが返ってくると知れ、と言いたいところだったが。こりゃもう、十分か?」

 シリルが苦笑して、パウラに吹き飛ばされた残りの黒服達を癒しに回る。

「どうして顔が赤いのですか。……むぐぅっ」

 お嬢様を見て言い切るマリエルを再び観智の袖が塞いだ。

「まぁ、こんなところよねぇ」

 パウラは必死に笑いをこらえているのだが、小さなクスクス笑いと共に、肩が小刻みに震えている。

「式には呼んでくださいね。エクラ教の神父として盛大に祝福を授けましょう」

 エルディンはさりげなくグレリオに名詞を手渡した。



 数ヶ月後。
 最強魔術師シリーズと、護衛とお嬢様の身分違いによる恋愛物語が同時発売され、世間を賑わした。

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MVP一覧

  • 聖癒の奏者
    マリエルka0116
  • 真実の探求者
    悠里ka6368

重体一覧

参加者一覧

  • 聖癒の奏者
    マリエル(ka0116
    人間(蒼)|16才|女性|聖導士
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • 的確な分析
    シリル・ド・ラ・ガルソニエール(ka3820
    人間(蒼)|25才|男性|聖導士
  • はぷにんぐ神父
    エルディン(ka4144
    人間(紅)|28才|男性|聖導士

  • パウラ・アウノラ(ka4348
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • 真実の探求者
    悠里(ka6368
    人間(蒼)|15才|男性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/06/17 15:56:49
アイコン 呪文詠唱作戦卓
エルディン(ka4144
人間(クリムゾンウェスト)|28才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/06/17 15:53:42