ゲスト
(ka0000)
【西参】閉ざされた大地
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/06/23 07:30
- 完成日
- 2016/06/29 18:50
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●西へ
女将軍、鳴月 牡丹(kz0180)が率いる征西部隊は、霧ヶ原の会戦で歪虚勢力を撃破し、進路を西へと取った。
部隊の消耗率は彼女が思っているよりも低かった。初戦でかなり減ってしまうと思っていたからだ。
「……まぁ、メインは『強欲』じゃなくて、『憤怒』だしね」
本陣のテントの中で一人、牡丹はそう呟いた。
テントの外は賑やかだ。士気が高いのは良い事である。
「それにしても暇だなー」
天井を仰ぎ見る。
ついでいうと、豊かな双丘も天井を向いた。
「ノゾミも探索に出掛けちゃったし」
征西部隊の専属として同行しているハンターズソサエティの受付嬢見習いである紡伎 希(kz0174)は、陣地構築の為、周辺の探索に出て行ってしまった。
本来であれば、彼女の役目ではないのだが、探索に志願したのだ。
表向きはハンターに依頼を出す為の現地調査という事らしいが……。
「なんだか、『僕達』に似て来たよね」
天ノ都を出発する前と今では様相が違う。
ボーとしているかと思えば、取り憑いたように作業に集中していたのが、先の会戦後からは、なにかと理由をつけて最前線へ行こうとしていた。
「まぁ、気持ちは分からなくもないけど……」
ふと故郷の事を思い出し、牡丹は瞳を閉じた。
「……暇だ」
●探索
一閃。
刀先が夕日の光を反射し、正秋が放った一撃は雑魔を分断した。
その様子を見て瞬が口笛を吹く。刀の切れ味もさることながら、その腕前はなかなかのものだ。
「さすがだな……って、おい!」
上半身が動いていたが、ゆっくりと塵となって崩れていく雑魔にトドメとばかり、機導術の炎が雑魔を包み込んだ。
瞬は機導術を放った人物に向かって叫ぶ。
「無駄なスキルを使うんじゃねぇ! いざとなった時に困るぞ」
「……まだ動いていました。油断は禁物です」
まるで人形のような冷たい表情で紡伎 希(kz0174)が答えた。
雑魔にトドメを差したのは、この緑髪の少女であった。フリルのドレス姿に、二丁の魔導拳銃を油断なく構えている。
「まだ、いるはずです」
魔導拳銃剣を直剣モードにし、剣を突き出しながら藪の中へと進んで行った。
その後ろ姿を見つめながらゲンタが雑魔の下半部に突き立てた槍を引き抜く。
「あの嬢ちゃん、おっかねぇな」
明らかにオーバーキルだ。
深い恨みを感じる。
「確かに、最初に逢った時と雰囲気が違う気がします」
正秋の言葉に瞬も頷いた。
「まぁ、戦力が増えるのは良い事だけどよ。それなりに強そうじゃん?」
「それはそうだが……それより、瞬。この辺りはどう思う?」
征西部隊は霧ヶ原から西へと駒を進めた。
『憤怒』の残党である災狐が率いる歪虚勢力との戦いに備え、本格的な陣地を構築する必要がある。
その為、より好条件の立地を求めて探索が続けられていた。
「俺から見ても、ここはないな」
「そろそろ、日も暮れる。おっかねぇ嬢ちゃんを呼んで帰るとするか」
ゲンタのおっさんが宣言した。
●惨状
「なんですか、これは!?」
希が、テントに帰って来て声を上げた。
そこには惨状が広がっていたからだ。
「……う、うぐ……い、生きてるか? サブロウ? ジロウ?」
「さすがに、これには盾は使えねぇよ、イチガイ兄さん……」
「イチガイ兄さん、まさか、こんな、所で……」
溢れるばかりの筋肉を纏った3人兄弟が地面をのたうち回っていた。
彼らだけではなく、十数人が同じように苦しんでいる。
「これは……一体、何が……」
そこへ、鍋を台車に乗せ、押して歩く牡丹が姿を現した。
「やぁ、ノゾミ。探索はどうだった?」
「探索は不発でした……ところで、牡丹様、これは一体、何があったのですか?」
異臭に顔をしかめながらノゾミは訊ね返した。
「あんまりにも暇だったから、食事を作ってみたんだよ」
嫌な予感がした。
牡丹が押している鍋……火が焚いていないのに、ボコボコと泡が出ている。
それは――全身の毛穴から流れ集めたような、酸味。
それは――振り返りたくない黒歴史が表出したような、からさ。
それは――この世の絶望を全て叩き込んだような、にがみ。
異臭を放っていたのは、鍋の中のナニか、だった。
「……まさか、これ、食べ物ですか?」
「そうだよ」
震えながら確認する希に、大きく全身で頷きながら、ニッコリとした笑顔を向ける牡丹。
普段は男勝りだが、こういう時に見せる牡丹の仕草は凄く愛らしい。
「そんな大きいものを揺らしながら、ナニを即答しているのですかぁ! 出発前に、食事の事でアドバイス受けていたでしょうにぃ!」
ノゾミの叫びは、遥か遠く、西の果てまで届きそうだった。
女将軍、鳴月 牡丹(kz0180)が率いる征西部隊は、霧ヶ原の会戦で歪虚勢力を撃破し、進路を西へと取った。
部隊の消耗率は彼女が思っているよりも低かった。初戦でかなり減ってしまうと思っていたからだ。
「……まぁ、メインは『強欲』じゃなくて、『憤怒』だしね」
本陣のテントの中で一人、牡丹はそう呟いた。
テントの外は賑やかだ。士気が高いのは良い事である。
「それにしても暇だなー」
天井を仰ぎ見る。
ついでいうと、豊かな双丘も天井を向いた。
「ノゾミも探索に出掛けちゃったし」
征西部隊の専属として同行しているハンターズソサエティの受付嬢見習いである紡伎 希(kz0174)は、陣地構築の為、周辺の探索に出て行ってしまった。
本来であれば、彼女の役目ではないのだが、探索に志願したのだ。
表向きはハンターに依頼を出す為の現地調査という事らしいが……。
「なんだか、『僕達』に似て来たよね」
天ノ都を出発する前と今では様相が違う。
ボーとしているかと思えば、取り憑いたように作業に集中していたのが、先の会戦後からは、なにかと理由をつけて最前線へ行こうとしていた。
「まぁ、気持ちは分からなくもないけど……」
ふと故郷の事を思い出し、牡丹は瞳を閉じた。
「……暇だ」
●探索
一閃。
刀先が夕日の光を反射し、正秋が放った一撃は雑魔を分断した。
その様子を見て瞬が口笛を吹く。刀の切れ味もさることながら、その腕前はなかなかのものだ。
「さすがだな……って、おい!」
上半身が動いていたが、ゆっくりと塵となって崩れていく雑魔にトドメとばかり、機導術の炎が雑魔を包み込んだ。
瞬は機導術を放った人物に向かって叫ぶ。
「無駄なスキルを使うんじゃねぇ! いざとなった時に困るぞ」
「……まだ動いていました。油断は禁物です」
まるで人形のような冷たい表情で紡伎 希(kz0174)が答えた。
雑魔にトドメを差したのは、この緑髪の少女であった。フリルのドレス姿に、二丁の魔導拳銃を油断なく構えている。
「まだ、いるはずです」
魔導拳銃剣を直剣モードにし、剣を突き出しながら藪の中へと進んで行った。
その後ろ姿を見つめながらゲンタが雑魔の下半部に突き立てた槍を引き抜く。
「あの嬢ちゃん、おっかねぇな」
明らかにオーバーキルだ。
深い恨みを感じる。
「確かに、最初に逢った時と雰囲気が違う気がします」
正秋の言葉に瞬も頷いた。
「まぁ、戦力が増えるのは良い事だけどよ。それなりに強そうじゃん?」
「それはそうだが……それより、瞬。この辺りはどう思う?」
征西部隊は霧ヶ原から西へと駒を進めた。
『憤怒』の残党である災狐が率いる歪虚勢力との戦いに備え、本格的な陣地を構築する必要がある。
その為、より好条件の立地を求めて探索が続けられていた。
「俺から見ても、ここはないな」
「そろそろ、日も暮れる。おっかねぇ嬢ちゃんを呼んで帰るとするか」
ゲンタのおっさんが宣言した。
●惨状
「なんですか、これは!?」
希が、テントに帰って来て声を上げた。
そこには惨状が広がっていたからだ。
「……う、うぐ……い、生きてるか? サブロウ? ジロウ?」
「さすがに、これには盾は使えねぇよ、イチガイ兄さん……」
「イチガイ兄さん、まさか、こんな、所で……」
溢れるばかりの筋肉を纏った3人兄弟が地面をのたうち回っていた。
彼らだけではなく、十数人が同じように苦しんでいる。
「これは……一体、何が……」
そこへ、鍋を台車に乗せ、押して歩く牡丹が姿を現した。
「やぁ、ノゾミ。探索はどうだった?」
「探索は不発でした……ところで、牡丹様、これは一体、何があったのですか?」
異臭に顔をしかめながらノゾミは訊ね返した。
「あんまりにも暇だったから、食事を作ってみたんだよ」
嫌な予感がした。
牡丹が押している鍋……火が焚いていないのに、ボコボコと泡が出ている。
それは――全身の毛穴から流れ集めたような、酸味。
それは――振り返りたくない黒歴史が表出したような、からさ。
それは――この世の絶望を全て叩き込んだような、にがみ。
異臭を放っていたのは、鍋の中のナニか、だった。
「……まさか、これ、食べ物ですか?」
「そうだよ」
震えながら確認する希に、大きく全身で頷きながら、ニッコリとした笑顔を向ける牡丹。
普段は男勝りだが、こういう時に見せる牡丹の仕草は凄く愛らしい。
「そんな大きいものを揺らしながら、ナニを即答しているのですかぁ! 出発前に、食事の事でアドバイス受けていたでしょうにぃ!」
ノゾミの叫びは、遥か遠く、西の果てまで届きそうだった。
リプレイ本文
―――陣地―――
●ラジェンドラ(ka6353)
銀髪の男性が広がる地平線を陣地越しに眺めていた。
「これが、この世界か……まさか、馬に跨って草原を駆ける事になる世界に来るなんてな」
転移前には想像もしなかった事だ。
とにかく、今は依頼だ。見晴らしい良い場所。水場がある場所。好立地を求めて探索に出なければならない。
視線を陣地に戻す。視界の中に緑髪を持つ少女が映り――知らず知らずの内に見つめていたらしい。
ラジェンドラの視線に気がついた緑髪の少女がタタタと駆け寄って来た。
「何か、御用でしょうか?」
紡伎 希(kz0174)が尋ねて来たが、まさか、夢の中で見た少女に似ているとは答えられず、ラジェンドラは誤魔化しながら言葉を返す。
「いや、遠くを眺めていただけで用はない……君は、ハンターオフィスの?」
「はい。受付嬢見習いのノゾミです……確か、ラジェンドラ様ですね」
依頼に応じたハンターの名簿を思い出しながら言った希にラジェンドラは銀髪を揺らしながら頷いた。
「よろしくな。さて、陣を築く場所の偵察をしてくるか。美味しい料理は期待してるぜ」
馬に華麗に跨るラジェンドラを、希は一礼しながら見送った。
●小鳥遊 時雨(ka4921)&アルラウネ(ka4841)
馬に乗った男性を見送っている希に、時雨は声を掛けようとして差し出した手を――、一度、止めたが意を決して希の名を呼んだ。
「ノゾミー! どうしたの? まさか、彼氏?」
冗談で尋ねたが、希は首を傾げながら振り向いて答えた。
「いえ……これから探索に行かれる御方でしたが……その……以前、どこかで出逢った事がありそうな気がして」
「ふーん。私からはよく見えなかったからな~。まぁ、今日は手料理振舞うっぽいし、お手伝いーだよ!」
くふふと笑顔を見せた時雨に希もニッコリと微笑んだ。
二人の間にボヨンと胸を揺らしながらアルラウネが割って入った。
「元気になったのなら、なによりだわ」
それが空元気だとしても……アルラウネは両腕で二人を抱き寄せる。
この二人を、自分なりに見守っていけたらと思いながら。
「……ちょと揉んでみる?」
そんな冗談が出てしまう自分が恨めしい。が、効果はあったようで、薄い板を持つ二人は顔を真っ赤にして元気な声で抗議したのであった。
●天・芙蓉(ka4826)
たゆんたゆんと音が今にも響きそうな程、豊かなナニを揺らしながら芙蓉は牡丹と再会した。
「牡丹様、お久しぶりです。お元気そうで何より。それに相変らず、ご立派で……」
最初に牡丹の凛々しい顔、そして、次に牡丹の胸に視線を向けた。
あいも変わらず凶器のような胸だ。
「いやいや、芙蓉君には、さすがの僕も負けるよ。 って、その服?」
「はい、今日は牡丹様のお召し物を真似て仕立ててみました。どうでしょう?」
武闘服風のチャイナドレス姿の芙蓉。
確かに牡丹が普段から着ている服によく似ている。
「うん。凄く良いよ! 巫女服も似合っているけど、この姿も!」
「ありがとうございます、牡丹様。それでは、今日は皆さんへの料理を作って来ますね」
とりあえず、牡丹がやらかしてしまった隊員に向けて鰹節の粥でも作ろうかと考えている。
芙蓉の台詞に、牡丹が目を丸くして驚きの表情を浮かべていた。
「え? 料理出来るの?」
「一応、人並みには……」
一礼して去っていく芙蓉を牡丹は羨望の眼差しで見送った。
「……負け……た……」
自分でも分かっている。洗濯以外の家事が壊滅的だと。
こうなったら、この機会に料理の勉強をしよう! そう、深く決意し、牡丹もまた、歩き出すのであった。
●閏(ka5673)&紅 石蒜(ka5732)
「さて! 腕によりをかけて、お作りしますよ!」
心を込めた愛情たっぷりの料理の作る為、閏が強い決意で宣言をした。
なにしろ、ハンター達も含めれば300人は越える人数の料理だ。襷を掛けて気合を入れ、料理へと挑む。
「火はおーけーアルヨー!」
薪を焚きながら石蒜が声をあげる。
野菜を切る準備もしていたのだが、どうも、閏が包丁と材料に鋭い視線を向けているので、仕方なしに出来る事を行っている。
「包丁はまだ早いですよ。シーちゃんの手に、傷が付いてしまったら大変です。お味噌、お願いしますね」
単なる過保護というものだが……。
二人はみそ汁を作っていた。もっとも、300人という人数分は無理なので、そこは分担。
それでも大釜に大量に入ったみそ汁は圧巻である。というか、まだ味噌は入っていないのせ、正確にはまだみそ汁ではないが。
「では、野菜もそろそろ煮えてきたはずなので、ここ味噌を投入です。シーちゃん」
「はいアルヨ」
計った分量の味噌をお玉で丁寧に溶かす石蒜。
が、量が多く、すぐには用意した味噌を溶かせない。
「閏、これ結構暇ネ」
カシャカシャと音を鳴らしながらそんな感想をついた所で、米の良い香りが辺りに広がる。
ふと見れば、隣で閏が炊いていた米が蒸しあがった所だった。
「みそ汁は、もう大丈夫そうですから、俺は握りますね。シーちゃんもやるなら、これを使いなさい」
差し出されたのはお茶碗。
米が熱くて握れないから必要だろうという事か。
最後の味噌を溶かしながら石蒜は頷くと周囲に向かって料理が出来上がった事を告げる。
「おいしーおいしー閏印の味噌汁アルヨー! 飲んで元気だすヨロシ!」
次に配膳の用意に取り掛かる。
自信満々な表情を湛えて石蒜は言った。
「可愛い女の子に給仕してもらえるの、お兄さん達幸運アルネ!」
「どんどん握るので、シーちゃん、よろしくお願いしますね」
閏が握ったオニギリが早くも並び始めていた。オニギリでおむすび山が作れそう、だ!
二人が作ったみそ汁とオニギリが征西部隊の隊員に振舞われた。
その絶妙な塩加減のオニギリは大好評だったという。
●夜桜 奏音(ka5754)&歩夢(ka5975)
詩天での依頼で受けた傷の痛みに耐えながら奏音は簡易陣の中を歩いていると、希を見かけた。
調理の途中なのだろうか、両手一杯に食材を抱えている。
「希さん、お久しぶり」
「奏音様。長江でも十鳥城でもお世話になりました」
食材を避けるように頭を傾げて返事をする希。
抱えている食材が崩れそうで――崩れない。思わず視線がそちらに移りながら奏音は尋ねた。
「惨劇を起こした牡丹さんは何処でしょうか? 調理の所に乱入されると、大変な事になりそうなので……」
陣地の中を案内してもらおうと思ったからだ。
だが、希からの返事は奏音を驚愕させた。
「牡丹様なら、そこで、歩夢様と調理の勉強されていますよ」
「え?」
視線の先、牡丹が包丁を豪快に振り回して、その横で冷や汗を流しながら歩夢がなにか説明している。
「だから………どうしたら、こんな事になるんだ?」
「できたよ!」
包丁を突き出した牡丹の胸の下……まな板は、板ごとパックリと逝っていた。
見れば、かなり分厚いまな板である。それが無残な姿になっているのだ。並大抵の事ではない。
「まあ、やっちまったもんは仕方ねえ……よな」
歩夢は目眩で倒れそうになるのを耐えた。
この女将軍は物事の道理を覚える気がないのか、それとも、料理というカテゴリーが認識できないのか、とにかく、歩夢が一生懸命教えた内容を忠実に守る事すらできないのだ。
そんな惨状に慌てた様子の奏音がやって来た。
「だ、大丈夫ですか?」
「諦めずに頑張るさ。変な事しないかは気をつけないといけないけど……」
と言った所で、牡丹に肩を叩かれ歩夢が振り返った瞬間だった。
口の中に、ナニかが押し込まれた。
「んぅ!?」
ナニか確認したいが口を抑えられて吐き出す事も咀嚼する事も出来ない。というか、味は不味いという言葉を遥かに越えている。
まるで、地獄の中に居る……そんな気を、薄れゆく意識の中で感じた。
トドメとばかり、牡丹は顔が付きそうな程、歩夢に接近して彼の口を押さえる。
「味見! 味見!」
さっきまで料理指導で作っていたはずのナニかだったのに、少し目を離した隙にどうしてこうなってしまったのか。
程なくして、窒息なのか、牡丹が作ったナニかの為か、歩夢は気絶して倒れてしまった。
調理したナニか――ウネウネと不気味に動いている――を左右の手に持つ牡丹は、ハンター達が調理している方へと視線を向けた。
隊員達から悲鳴が上がる。逃げ惑う者、これ以上の悲劇を止めようと身が構える者、様々だ。
「牡丹さん、ダメです! また、惨劇を起こさないで下さいぃ!」
奏音の悲痛な叫び声が響いた。
●アイビス・グラス(ka2477)&レーヴェ・W・マルバス(ka0276)
牡丹が仮の調理場所から、ハンター達が調理している厨房へと向かっているとは知らず、ハンター達の調理は進められていた。
調理を担当していた隊員が椅子に座ってその様子を眺めている。牡丹の作った料理で身動きが取れないが、料理人としてのプライドか、頑として休まずにいた。
「……どうすれば、そんな殺戮料理ができるのよ、まったく」
牡丹の料理が如何に危険かを隊員から聞いたアイビスがそんな感想を口にした。
未だに寝込んでいる者もいるというのだから、相当なものである。ある意味、兵器だ。
「味覚障害か何かかの?」
共に料理していたレーヴェも呆れながら言った。
味見をしていれば、自分の料理が他人に理解されない事が分かるだろうに。
「牡丹様はなんでも食べられますので」
隊員が真面目に応える。
つまり、牡丹本人にとっては、美味いも不味いも、生きる為には、さほど気にならないという事であろう。
「本当の料理というの見せてあげるわ!」
グッと拳を握って宣言するアイビス。
彼女はもつ煮込みの下ごしらえが終わった所だ。
ここからは味付けした煮汁で具材を煮込む所である。提供する人数が人数なので、時間がかかっているが、仕方ない。
「シェフではない。おかんと呼べい」
ちみっちゃい背を精一杯伸ばし、レーヴェは動ける隊員らに言った。
調理担当の隊員達は全滅しているが、普段は別の担当の隊員の中から料理が少しでも出来そうな者達に協力をお願いしたのだ。
隊員達は上手とは言えないが、根菜類をひたすら切っている。
無骨ではあるか贅沢は言えない。とにかく量を作る必要がある。
「うむ。味はちょっと濃いくらいがよい。疲れてるだろうから」
先行して作った煮物の味を確認しながらレーヴェは満足そうに言った。
その時だった。なにやら怒号が響き渡った。
何事かと視線を向けた二人は、事態がすぐに分かった。
「ぼ、牡丹さん?」
「あれが、噂の女将軍じゃな」
どうやら、アイビスとレーヴェや同じように調理しているハンターらが居る、ココを目指しているようだ。
それを止める為に、隊員やハンター達が必死に声を掛けているようだった。
「牡丹さんが来たら……」
アイビスの言葉にレーヴェは深く頷くと、周りの隊員らに呼び掛けた。
「急ぐのじゃぁ!」
止めに入りたいが、ここは料理を優先しようと思った。
必ず、牡丹の暴挙を止めてくれるハンターがいるに違いないと信じながら。
●アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)&リューリ・ハルマ(ka0502)
普段からギルド月待猫で軽食を用意しているだけあって、手際良く、リューリは料理を作っていた。
今日の品は、魚と野菜のミルフィーユ煮。白菜に良く似た野菜をベースに、色鮮やかな様々な野菜を薄く切り、フライパンに魚と重ねていく。
「刃物の扱いなら自信はあったけど、なかなか骨が折れるね。骨だけに」
苦笑を浮かべながら魚の骨を取っていたアルトが顔を上げた。
食事を切ったり、骨取りしたり、器具用意したりとここまで、リューリの手伝いに徹していた。
「美味しいご飯は、元気になれるし、こんな状況でも頑張って作るよ!」
そのお陰もあって調理は順調だった。だが、今はそうではない。
なにしろ、女将軍牡丹が迫っているからだ。
迫ってくる牡丹を見て、アルトの頭の中で瞬時に状況を判断した。
リューリと一緒に料理を続けたい気持ちもあるが、ここは、どう考えても牡丹を止めなくてはならないだろうと結論に達する。
「行って来るね、リューリちゃん」
「ここから、応援しているからね! アルトちゃん!」
お玉片手に牡丹へと向かうアルト。
牡丹は目と鼻の先だった。
「やぁ、アルト君。君も僕の邪魔をするつもりかな?」
「牡丹さん……料理は任せたはずじゃ?」
依頼として出ているのだ。
だが、牡丹は首を横に振った。
「『教えて』もらったから、もう、大丈夫だよ」
手には怪しいナニかを握っている。
「これ以上は行かせない」
「なら……押し通るだけ!」
二人が距離を詰め――アルトがお玉を振り下ろす――前に牡丹が手に持っていたナニかを握りつぶした。
激臭を伴う謎の液体が奇襲の形になりアルトに襲いかかる。顔に付着しただけでも、皮膚に激痛は走った。
なにをどうすれば、そんなナニかになるのか。
「卑怯だなんて言わせないよ。これは戦なんだから」
台詞が言い終わると同時に、勝ち誇った表情の牡丹へ、リューリが投げたフライパンが直撃した。
ガコーンととても良い音が響く。
「『戦』だよね!」
「ナイス援護!」
振り返りながら目で合図したアルトが正面を見据えて反撃に出た。
「ボクは全てを守る!」
「僕に挑むなら、本気で来なよ!」
二人のボクっ娘の戦いが始まった。
当初は押していた牡丹であったが、なにもサシにこだわる所ではないと気がついた周囲が一斉に牡丹の『止め』に参戦する。
「こらー。どさくさで変なとこ、触った奴ー! 許さないからなー!」
結局、捨て台詞を吐きながら牡丹は自分の天幕へと帰されたのであった。
ずりずりと引っ張られていく女将軍を見送っているアルトに調理が終わったリューリが近づく。
「やったね、アルトちゃん!」
「これで、(食事の)世界は守れたよ、リューリちゃん」
周囲から歓声があがった。
●白樺(ka4596)+アルラウネ
出来上がった色々なご馳走(牡丹比)を、軽やかな足取りで配っていた。
少女――ではなく、少年が渡しているのは、お芋の甘い和菓子だった。
「甘い物があると、幸せな気持ちになるのっ♪ にっこり♪ ね?」
明らかに狙っているだろうと勘ぐりたくなる程の可愛らしい表情と仕草。
それだけでも幸せ、お腹いっぱいになりそうではある。
「あとあと、おケガした人が居るって聞いたの」
怪我というか、牡丹の食事を食べて苦しんでいる人ばかりが見える。
ヒールで怪我は治せるが、果たしてキュアで治るものなのかどうか……。
転がっている筋肉質の3兄弟の隊員を見つけると、そっと、大胸筋に触れながらキュアを唱える。
「痛いの痛いの飛んでけーなのっ! ……んっと……ちょっとは、治った、かな?」
スキルの手応えの無さ。カクっと傾げる白樺に、隊員が叫んだ。
「……治ってないけど、治ったどぉー!」
「あー! 兄貴ずりぃ!」
「このロリコン兄貴め!」
そんな兄弟のやり取りを微笑ましく見守る少女――じゃなくて、少年。
「ちゃんと元気づけられたみたいだね」
隊員達の世話をしたり配膳や片付けをしながら通りがかったアルラウネが声をかけた。
まだ若い娘なのに、良く出来た娘だと思わず心の中で頷いてしまう。
「もし、調子乗っちゃったのが出てきたら、お姉さんを呼んでいいからね」
「うん。ありがとうなの♪ でも、シロはきっと大丈夫なの♪」
そう言い残して、跳ねるように次へと移動する白樺。
その背中を眺めながら、アルラウネは感じた違和感を口にしたのだった。
「……女の……子……よね?」
●希+時雨
「ノゾミの作ったパインタルト、美味しかったよ~」
希との別れ際で時雨は笑みを浮かべて言った。
今でもパインの甘さが思い返せた。
「次は……何時になりますか?」
征西部隊への参加が最後になるかもしれないという時雨の言葉に希はショックを受けていたようだ。
複雑な表情をする希のほっぺを指でぐーと押し上げる。
「うーん。まぁ、きっと、そのうち? とにかく、ちゃーんと“約束”忘れずに、だよん?」
「……はい。時雨さんも」
ぎこちない笑顔を見せながら二人は別れる。
時雨は振り返りもせず俯き、なにか呟きながら、陣を立ち去ったのだった。
―――探索―――
●ボルディア・コンフラムス(ka0796)
覚醒状態に入り、燃えるような真っ赤な髪の隙間から出た耳がピクンと動く。
「たまにゃ、こういう裏方もいいモンだ」
ボルディアは周囲を見渡しながら呟いた。
陣地に適した場所がないか、聴覚嗅覚、そして、連れてきた相棒――カラス――を駆使して探す。
「『見晴らしがいい』ってのは何も開けた土地ってワケでもねぇからな」
ほんの僅かな高低差や高い木があれば、遠くまで見渡せる。
だから、単なる平原ではなく木がある場所も候補の一つとしてボルディアは探索をしていた。
「なかなか、良い場所が見つかったかもな……」
カラスを通じて上空から地形を確認した。
高台としては高さが足らないが周囲を遮るものはない。東側に障害となるものはなく万が一の撤退時にも良いだろう。
最終的な場所の判断は牡丹が行う事になったので、ここに決まった訳ではないが……。
「よし、陣へ戻るぜ」
空を見上げ、カラスに呼びかけるようにボルディアは言った。
●三條 時澄(ka4759)&紅薔薇(ka4766)&キヅカ・リク(ka0038)
自転車に乗って、あるハンターが今頃やって来る――雰囲気を感じながら、キヅカは遠く、地平線をみつめていた。
同行しているハンターらは、そんな彼の心中を知る事はなく、探索の為、周囲を確認している。
「戦術によっても変わるんだが……」
どの状態にも対応し易いとなるとお目当ての立地があるか難しいと時澄は同行している仲間に話しかけた。
「ふむん。敵がどの方向から来るか、判れば良いのじゃが……」
考えるような表情を浮かべ、紅薔薇が応える。
全方位を警戒できる場所を選んだ方が良いのか――となると、条件に適した土地は更に少なくなる気もする。
「一応、西に向かっている訳だし、災狐の軍勢というのは、その行く手を塞いでいると思う」
キヅカがトランシーバーの調子を確認しながら言った。
どうも、距離が離れすぎているようで遠くを探しているハンターからは反応がない。
「やはり高台は譲れないかのう」
見晴らしが良いというのは、発見し易いというメリット以外にも騎馬での突撃にも有利だ。
特に征西部隊は騎馬隊がいる。前回、霧ヶ原での会戦でも騎馬隊が活躍した。
ふと、その時に出逢った青年の隊員を思い出す。
(思い返してみると、不思議じゃの……)
あの時、紅薔薇は部隊の消耗を最小限にする意味も込めて、騎馬隊の先頭を駆けた。
だが、結果的に『損害』はあった。だが、陣地に戻った際に出迎えた牡丹は意外そうな表情をしていた。
(……今はともかく、立地じゃ)
違和感を首を振って振り払い、紅薔薇は双眼鏡を覗き込んでは白地図に記入していく。
「こっちは川が続いているね」
別の方向をジェットブーツで飛び上がり、確認していたキヅカの言葉を受けて、地図に書き込んでいく。
少しでも効率化するのに探索方向を分担していた。
「林が少し近いかもしれないが、ここはどうだろう」
時澄の呼び掛けに応じる様に紅薔薇とキヅカが駆け寄る。
いい感じの高さの丘だった。キヅカが見つけた川の支流も脇を流れている。
「まぁ、柵を作ったりするのに材料があるのも良いからのう」
丘の近くの林を見て紅薔薇は言った。
本来であれば奇襲防止の為、遮蔽物がない場所が良いと思ったが、そうそう条件全てに当てはまる地形が見つかるわけではない。
「さすがに、洞窟や抜け穴はないか……」
周囲を素早く確認したキヅカが呟く。
陣の後方へと逃れられるようにと思っての事だったが……。
「陣立ても重要だが、兵の士気の維持も重要だ。人心というのは、何よりも大事だからね」
時澄の言葉にキヅカは頷いた。
「征西部隊に限って言えば、心配する必要は無さそうだけど」
彼らは勇猛果敢だった。
死をも恐れぬ戦士達。そんな雰囲気をキヅカは前回の戦いで感じていた。簡易陣では牡丹が作った謎料理によって苦しんでいる隊員がいるというが、士気が下がっているという様子ではない。
「そうじゃの……じゃが、なにか違う気がするのじゃ」
方位磁石で方角を確認し、地図に書き込みながら紅薔薇は口を開く。
「確かに、死を恐れている訳ではない。士気も高い……そう、無駄に高いのじゃ」
「強固な陣を敷いても、その基となる兵の士気が低かったり、心が離れていたら機能しない。士気が高いうちは良いのでは?」
時澄の言う通りなのだが、紅薔薇は小さく唸った。
「とにかく、陣に戻ろう。後は、牡丹さんに決めて貰えばいいだろうし」
キヅカの宣言に二人は頷いて応えた。
●シェルミア・クリスティア(ka5955)
高台や丘陵、水があるような場所を求めて、周囲を見渡したり、時には符術や占いを行いながら、シェルミアは、思案していた。
陣地を構築するのは災狐の軍勢と戦う為だという。そして、災狐――その名前を聞くと、シェルミアは十鳥城の事を思い出す。
迫る災狐の軍勢。城を守る為に戦った仲間達――そして、命を落とした代官――。
「正秋さんは他のハンターさんと一緒なのかな?」
「あぁ、ちょっと前にな」
代官の息子である正秋と色々と話してみたかったのだが、彼は既に陣を離れていた。
今は正秋の親友だと言う、瞬という青年の侍と一緒に探索している。
「彼奴は恵まれているな」
「え?」
羨ましいそうに言った言葉ではないと分かった。
だが、言葉の意味が分からず、シェルミアは疑問の声を上げたのだ。瞬はシェルミアを真っ直ぐ見つめた。
「俺や部隊に、万が一があった時、彼奴を頼む。彼奴は未来へと進まなきゃならねぇ……俺と違ってな」
「それって、どういう事なの?」
だが、瞬はニヤリと笑っただけで、周囲の探索を再開した。
●ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)&鞍馬 真(ka5819)
「ジュゲームリリ以下略……ルンルン忍法凄い棒☆」
ルンルンが豪快な動きをしながら、手にしていた棒を離した。
棒は――ゆっくりとある方向に向かって倒れる。
「こっちなのです!」
ボヨンと胸を跳ねらせながら、彼女は棒(占い)が指した方向へと進む。
「守りやすく攻めに転じやすい場所を推しちゃいます!」
山間とは言えないが、高台を目指すルンルンの視界の中にハンターの姿が見えた。
知らないハンターではない。いつか依頼で一緒になった事がある。
「陣地に適した土地……なあ……。部隊を率いたことがないからピンと来ないな……」
そんな独り言を真は口にしていた。
視線を落とし、地図を集中している。
長期戦に備えて、水場がある所が良いだろうが、奇襲に備えて高台も良い。
飛行する敵から落石を受けないように、崖下は避けたい所だし、森や林の近くも見通しが悪く怖い。考えれば考える程、悩みは尽きない。
部隊を率いるという事はそれだけでも難しい事なのだと再認識した時だった。
「悩める人にも、ルンルン魔法です!」
その声に反応して真はハッと顔を上げる。
刹那、符を額に貼られた。視界の……妨げにはなるが、言うほど邪魔ではないのが、救いではある。
「……これで閃なのです!」
「あ、ありがとう」
以前にも貼られ様な気がするが、気にしては負けだ。
貼られた符をそのままに、真は再び考える。
「……水場の近く、高所、開けていて……」
その間もルンルンは無駄に多い動きで占いを続ける。その度に揺れる豊満なそれ。
占い棒が今来た道を指し、やり直すも、また、同じ方向を指す。陣地に帰れと暗に言っているのかとツッコミを入れたくなる。
「こうなったら、もう一度、忍法なので……」
「すまないが、あの高台の上を確認できないだろうか?」
真の言葉にピタリを動きを止めたルンルンが指さされた方向を見つめる。
小高い山のようにも見えるが……。
「ジュゲームリリ(中略)マジカル……ルンルン忍法分身の術!」
式神がひゅーんと飛んだ。
ややあって、式神が高台の上へ登った。
「これは……山かと思ったら開けているのです!」
「河岸段丘だな。候補の一つとして良いかもしれない」
驚いているルンルンに、真は冷静に応えた。
最終的にどこの候補地が選ばれるかは分からないが、少なくとも手ぶらで帰還する事はなさそうだ。
●ミィリア(ka2689)&銀 真白(ka4128)&七葵(ka4740)
征西部隊の隊員である正秋が眼前の風景に息を呑んでいた。
鬱蒼とした木々が広がり、奥の方は日中というのに暗い。その暗闇の中から妖怪が出てきそうな雰囲気だ。
「森……ですか。いつも、ハンターの方々には驚かされます」
「奇襲の心配もあるが、遮蔽物はこちらにとっても意味がある……からな」
七葵が馬を並べて応えた。
一行は真白の提案もあり、森や岩が多い場所も探している。
こうした地形は、防御する側にもメリットはある。伏兵を置いておいたり、物資を隠す事ができるからだ。
また、飛行する雑魔や歪虚の目を誤魔化すという事もある。
「この辺りは水場には少し遠いか?」
その真白が先刻見つけた水場の方角を見つめながら呟いた。
同じ方向を見つめながらミィリアも口を開く。
「方角的には東側だから、陣を立てた時には後方にくる……で、ござるな」
見つけた立地は林の中にある高台だった。
林の奥は木がより多く立ち並び、森と化している。東側は木々が少なくなり、荒地、そして、水場へとなっていた。
「戦においては、有利不利になる場所を把握しておくのは大事な事だ」
双眼鏡で遠くを確認しながら七葵は言った。
最終的な築陣は一箇所に絞られるだろうが、大切なのは『周囲の地形も確認する』という事だろう。
多くのハンター達が周囲の地形を確認しているその事実が、次の戦には重要なのだ。
「なるほど……そこまで深い考えがあるとは……今日、探索に誘って頂き、感謝する」
関心した表情で正秋は頭を深く下げた。
その肩をミィリアがポンポンと叩く。
「そんなに堅くならなくていいで、ござるよ」
「そうです、正秋殿。私達は共に戦う仲間だ」
追随するように言った真白の言葉に、彼はハニカミながら頭を掻いた。
だが、それも直ぐに真面目な顔になる。
「探索を続けましょう」
「そうで、ござるな」
ミィリアがライトを取り出して明るさを確認していた。
森の中は暗いのもあるが、洞窟を探す為だ。
「十分な広さの洞窟があればいいでござるが」
「負傷者の退避場所にもなるだろう」
真白も同じ考えだった。
洞窟に限らず、大きい樹木や岩なんかも隠れるには良いだろう。
「念の為、歪虚の影響がないか確認しながら行くか」
刀を抜きながら七葵はそのように告げると、一番先に森の中へや足を踏み入れる。
周囲に歪虚はおろか、大型の獣がいる気配はないし、負のマテリアルで汚染はされてはいないようだが、歪虚勢力域である。
警戒するに越した事はないだろう。
「鳥の鳴き声は聞こえるでござるが……」
耳に手を当てながらミィリアが言う。
そして、長大な刀の柄に手をかけたが――。
「ミィリア殿、この木々に囲まれては、思うように刀を振るのは難しいかもしれません」
「や、やっぱり、そうで、ござ……る」
真白の台詞に、色々と姿勢を変えるポーズで刀を振れるかどうか確認するが、どうも難しい感じだ。
長大な刀を縦に抜こうと思ったが、無数に横に伸びる枝で邪魔され、横に振ろうものなら、木の幹にぶつかってしまう。
「……見ての通り、戦場では武器の選択も大事な事なのだ、正秋殿」
「なるほど……勉強になります」
冷静な表情で七葵が正秋に指導するのであった。
ハンター達によって、陣を立てるのに良い立地がいくつか見つかった。牡丹はその中から候補地を一つに絞る。
また、ハンター達が提供した食事はとても好評であり、身体を壊した隊員達は元気を取り戻したという。
こうして、災狐との戦いに備えて、征西部隊は陣地の構築を行い始めるのであった。
おしまい。
●牡丹&龍崎・カズマ(ka0178)
探索を終えたカズマは、疾影士としての能力を使いながら、牡丹の居る天幕へと忍んで来た。
女将軍自身が部下に対し、何も考え無しに料理を作ったとは思えなかったからだ。
「……僕ってば、優秀な上司だよね。隊員達は楽しめたかな~」
独り言のようだが、そんな言葉が聞こえた。
「まぁ、どうせ、死んじゃうのだろうけど」
続いて聞こえた言葉に、カズマは少なからず驚く。
何を意図して言っているのか……。部隊を率いて西へと向かっている指揮官の言葉とは思えない。
その僅かな迷いが、カズマにとって命取りだった。
次の瞬間、天幕の内側から放たれた強烈な拳が彼の脳天を直撃した――。
目が覚めたカズマは天幕の中、椅子に座らされて、両腕が背もたれの後ろに回され、縛られていた。
「龍崎カズマ……カズマ君は、ハンターとしてはなかなかの強者みたいだね」
牡丹が依頼の資料を手にしていた。
「でも、僕に夜這いだなんて、100年は早いかな」
「返答に困る言い方だな」
カズマの視線は牡丹の胸――ではなく、テーブルの上に置かれていた牡丹作のナニかが並んでいた。
「盗み聞きは良くないけど、食べるの手伝ってくれたら、許してあげるよ」
怪しげな指先の動きを見せながら、牡丹はナニかを指ですくい、自らの口に運ぶ。
そして、その指をもう一度、ナニかにたっぷりと付けた――。
●ラジェンドラ(ka6353)
銀髪の男性が広がる地平線を陣地越しに眺めていた。
「これが、この世界か……まさか、馬に跨って草原を駆ける事になる世界に来るなんてな」
転移前には想像もしなかった事だ。
とにかく、今は依頼だ。見晴らしい良い場所。水場がある場所。好立地を求めて探索に出なければならない。
視線を陣地に戻す。視界の中に緑髪を持つ少女が映り――知らず知らずの内に見つめていたらしい。
ラジェンドラの視線に気がついた緑髪の少女がタタタと駆け寄って来た。
「何か、御用でしょうか?」
紡伎 希(kz0174)が尋ねて来たが、まさか、夢の中で見た少女に似ているとは答えられず、ラジェンドラは誤魔化しながら言葉を返す。
「いや、遠くを眺めていただけで用はない……君は、ハンターオフィスの?」
「はい。受付嬢見習いのノゾミです……確か、ラジェンドラ様ですね」
依頼に応じたハンターの名簿を思い出しながら言った希にラジェンドラは銀髪を揺らしながら頷いた。
「よろしくな。さて、陣を築く場所の偵察をしてくるか。美味しい料理は期待してるぜ」
馬に華麗に跨るラジェンドラを、希は一礼しながら見送った。
●小鳥遊 時雨(ka4921)&アルラウネ(ka4841)
馬に乗った男性を見送っている希に、時雨は声を掛けようとして差し出した手を――、一度、止めたが意を決して希の名を呼んだ。
「ノゾミー! どうしたの? まさか、彼氏?」
冗談で尋ねたが、希は首を傾げながら振り向いて答えた。
「いえ……これから探索に行かれる御方でしたが……その……以前、どこかで出逢った事がありそうな気がして」
「ふーん。私からはよく見えなかったからな~。まぁ、今日は手料理振舞うっぽいし、お手伝いーだよ!」
くふふと笑顔を見せた時雨に希もニッコリと微笑んだ。
二人の間にボヨンと胸を揺らしながらアルラウネが割って入った。
「元気になったのなら、なによりだわ」
それが空元気だとしても……アルラウネは両腕で二人を抱き寄せる。
この二人を、自分なりに見守っていけたらと思いながら。
「……ちょと揉んでみる?」
そんな冗談が出てしまう自分が恨めしい。が、効果はあったようで、薄い板を持つ二人は顔を真っ赤にして元気な声で抗議したのであった。
●天・芙蓉(ka4826)
たゆんたゆんと音が今にも響きそうな程、豊かなナニを揺らしながら芙蓉は牡丹と再会した。
「牡丹様、お久しぶりです。お元気そうで何より。それに相変らず、ご立派で……」
最初に牡丹の凛々しい顔、そして、次に牡丹の胸に視線を向けた。
あいも変わらず凶器のような胸だ。
「いやいや、芙蓉君には、さすがの僕も負けるよ。 って、その服?」
「はい、今日は牡丹様のお召し物を真似て仕立ててみました。どうでしょう?」
武闘服風のチャイナドレス姿の芙蓉。
確かに牡丹が普段から着ている服によく似ている。
「うん。凄く良いよ! 巫女服も似合っているけど、この姿も!」
「ありがとうございます、牡丹様。それでは、今日は皆さんへの料理を作って来ますね」
とりあえず、牡丹がやらかしてしまった隊員に向けて鰹節の粥でも作ろうかと考えている。
芙蓉の台詞に、牡丹が目を丸くして驚きの表情を浮かべていた。
「え? 料理出来るの?」
「一応、人並みには……」
一礼して去っていく芙蓉を牡丹は羨望の眼差しで見送った。
「……負け……た……」
自分でも分かっている。洗濯以外の家事が壊滅的だと。
こうなったら、この機会に料理の勉強をしよう! そう、深く決意し、牡丹もまた、歩き出すのであった。
●閏(ka5673)&紅 石蒜(ka5732)
「さて! 腕によりをかけて、お作りしますよ!」
心を込めた愛情たっぷりの料理の作る為、閏が強い決意で宣言をした。
なにしろ、ハンター達も含めれば300人は越える人数の料理だ。襷を掛けて気合を入れ、料理へと挑む。
「火はおーけーアルヨー!」
薪を焚きながら石蒜が声をあげる。
野菜を切る準備もしていたのだが、どうも、閏が包丁と材料に鋭い視線を向けているので、仕方なしに出来る事を行っている。
「包丁はまだ早いですよ。シーちゃんの手に、傷が付いてしまったら大変です。お味噌、お願いしますね」
単なる過保護というものだが……。
二人はみそ汁を作っていた。もっとも、300人という人数分は無理なので、そこは分担。
それでも大釜に大量に入ったみそ汁は圧巻である。というか、まだ味噌は入っていないのせ、正確にはまだみそ汁ではないが。
「では、野菜もそろそろ煮えてきたはずなので、ここ味噌を投入です。シーちゃん」
「はいアルヨ」
計った分量の味噌をお玉で丁寧に溶かす石蒜。
が、量が多く、すぐには用意した味噌を溶かせない。
「閏、これ結構暇ネ」
カシャカシャと音を鳴らしながらそんな感想をついた所で、米の良い香りが辺りに広がる。
ふと見れば、隣で閏が炊いていた米が蒸しあがった所だった。
「みそ汁は、もう大丈夫そうですから、俺は握りますね。シーちゃんもやるなら、これを使いなさい」
差し出されたのはお茶碗。
米が熱くて握れないから必要だろうという事か。
最後の味噌を溶かしながら石蒜は頷くと周囲に向かって料理が出来上がった事を告げる。
「おいしーおいしー閏印の味噌汁アルヨー! 飲んで元気だすヨロシ!」
次に配膳の用意に取り掛かる。
自信満々な表情を湛えて石蒜は言った。
「可愛い女の子に給仕してもらえるの、お兄さん達幸運アルネ!」
「どんどん握るので、シーちゃん、よろしくお願いしますね」
閏が握ったオニギリが早くも並び始めていた。オニギリでおむすび山が作れそう、だ!
二人が作ったみそ汁とオニギリが征西部隊の隊員に振舞われた。
その絶妙な塩加減のオニギリは大好評だったという。
●夜桜 奏音(ka5754)&歩夢(ka5975)
詩天での依頼で受けた傷の痛みに耐えながら奏音は簡易陣の中を歩いていると、希を見かけた。
調理の途中なのだろうか、両手一杯に食材を抱えている。
「希さん、お久しぶり」
「奏音様。長江でも十鳥城でもお世話になりました」
食材を避けるように頭を傾げて返事をする希。
抱えている食材が崩れそうで――崩れない。思わず視線がそちらに移りながら奏音は尋ねた。
「惨劇を起こした牡丹さんは何処でしょうか? 調理の所に乱入されると、大変な事になりそうなので……」
陣地の中を案内してもらおうと思ったからだ。
だが、希からの返事は奏音を驚愕させた。
「牡丹様なら、そこで、歩夢様と調理の勉強されていますよ」
「え?」
視線の先、牡丹が包丁を豪快に振り回して、その横で冷や汗を流しながら歩夢がなにか説明している。
「だから………どうしたら、こんな事になるんだ?」
「できたよ!」
包丁を突き出した牡丹の胸の下……まな板は、板ごとパックリと逝っていた。
見れば、かなり分厚いまな板である。それが無残な姿になっているのだ。並大抵の事ではない。
「まあ、やっちまったもんは仕方ねえ……よな」
歩夢は目眩で倒れそうになるのを耐えた。
この女将軍は物事の道理を覚える気がないのか、それとも、料理というカテゴリーが認識できないのか、とにかく、歩夢が一生懸命教えた内容を忠実に守る事すらできないのだ。
そんな惨状に慌てた様子の奏音がやって来た。
「だ、大丈夫ですか?」
「諦めずに頑張るさ。変な事しないかは気をつけないといけないけど……」
と言った所で、牡丹に肩を叩かれ歩夢が振り返った瞬間だった。
口の中に、ナニかが押し込まれた。
「んぅ!?」
ナニか確認したいが口を抑えられて吐き出す事も咀嚼する事も出来ない。というか、味は不味いという言葉を遥かに越えている。
まるで、地獄の中に居る……そんな気を、薄れゆく意識の中で感じた。
トドメとばかり、牡丹は顔が付きそうな程、歩夢に接近して彼の口を押さえる。
「味見! 味見!」
さっきまで料理指導で作っていたはずのナニかだったのに、少し目を離した隙にどうしてこうなってしまったのか。
程なくして、窒息なのか、牡丹が作ったナニかの為か、歩夢は気絶して倒れてしまった。
調理したナニか――ウネウネと不気味に動いている――を左右の手に持つ牡丹は、ハンター達が調理している方へと視線を向けた。
隊員達から悲鳴が上がる。逃げ惑う者、これ以上の悲劇を止めようと身が構える者、様々だ。
「牡丹さん、ダメです! また、惨劇を起こさないで下さいぃ!」
奏音の悲痛な叫び声が響いた。
●アイビス・グラス(ka2477)&レーヴェ・W・マルバス(ka0276)
牡丹が仮の調理場所から、ハンター達が調理している厨房へと向かっているとは知らず、ハンター達の調理は進められていた。
調理を担当していた隊員が椅子に座ってその様子を眺めている。牡丹の作った料理で身動きが取れないが、料理人としてのプライドか、頑として休まずにいた。
「……どうすれば、そんな殺戮料理ができるのよ、まったく」
牡丹の料理が如何に危険かを隊員から聞いたアイビスがそんな感想を口にした。
未だに寝込んでいる者もいるというのだから、相当なものである。ある意味、兵器だ。
「味覚障害か何かかの?」
共に料理していたレーヴェも呆れながら言った。
味見をしていれば、自分の料理が他人に理解されない事が分かるだろうに。
「牡丹様はなんでも食べられますので」
隊員が真面目に応える。
つまり、牡丹本人にとっては、美味いも不味いも、生きる為には、さほど気にならないという事であろう。
「本当の料理というの見せてあげるわ!」
グッと拳を握って宣言するアイビス。
彼女はもつ煮込みの下ごしらえが終わった所だ。
ここからは味付けした煮汁で具材を煮込む所である。提供する人数が人数なので、時間がかかっているが、仕方ない。
「シェフではない。おかんと呼べい」
ちみっちゃい背を精一杯伸ばし、レーヴェは動ける隊員らに言った。
調理担当の隊員達は全滅しているが、普段は別の担当の隊員の中から料理が少しでも出来そうな者達に協力をお願いしたのだ。
隊員達は上手とは言えないが、根菜類をひたすら切っている。
無骨ではあるか贅沢は言えない。とにかく量を作る必要がある。
「うむ。味はちょっと濃いくらいがよい。疲れてるだろうから」
先行して作った煮物の味を確認しながらレーヴェは満足そうに言った。
その時だった。なにやら怒号が響き渡った。
何事かと視線を向けた二人は、事態がすぐに分かった。
「ぼ、牡丹さん?」
「あれが、噂の女将軍じゃな」
どうやら、アイビスとレーヴェや同じように調理しているハンターらが居る、ココを目指しているようだ。
それを止める為に、隊員やハンター達が必死に声を掛けているようだった。
「牡丹さんが来たら……」
アイビスの言葉にレーヴェは深く頷くと、周りの隊員らに呼び掛けた。
「急ぐのじゃぁ!」
止めに入りたいが、ここは料理を優先しようと思った。
必ず、牡丹の暴挙を止めてくれるハンターがいるに違いないと信じながら。
●アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)&リューリ・ハルマ(ka0502)
普段からギルド月待猫で軽食を用意しているだけあって、手際良く、リューリは料理を作っていた。
今日の品は、魚と野菜のミルフィーユ煮。白菜に良く似た野菜をベースに、色鮮やかな様々な野菜を薄く切り、フライパンに魚と重ねていく。
「刃物の扱いなら自信はあったけど、なかなか骨が折れるね。骨だけに」
苦笑を浮かべながら魚の骨を取っていたアルトが顔を上げた。
食事を切ったり、骨取りしたり、器具用意したりとここまで、リューリの手伝いに徹していた。
「美味しいご飯は、元気になれるし、こんな状況でも頑張って作るよ!」
そのお陰もあって調理は順調だった。だが、今はそうではない。
なにしろ、女将軍牡丹が迫っているからだ。
迫ってくる牡丹を見て、アルトの頭の中で瞬時に状況を判断した。
リューリと一緒に料理を続けたい気持ちもあるが、ここは、どう考えても牡丹を止めなくてはならないだろうと結論に達する。
「行って来るね、リューリちゃん」
「ここから、応援しているからね! アルトちゃん!」
お玉片手に牡丹へと向かうアルト。
牡丹は目と鼻の先だった。
「やぁ、アルト君。君も僕の邪魔をするつもりかな?」
「牡丹さん……料理は任せたはずじゃ?」
依頼として出ているのだ。
だが、牡丹は首を横に振った。
「『教えて』もらったから、もう、大丈夫だよ」
手には怪しいナニかを握っている。
「これ以上は行かせない」
「なら……押し通るだけ!」
二人が距離を詰め――アルトがお玉を振り下ろす――前に牡丹が手に持っていたナニかを握りつぶした。
激臭を伴う謎の液体が奇襲の形になりアルトに襲いかかる。顔に付着しただけでも、皮膚に激痛は走った。
なにをどうすれば、そんなナニかになるのか。
「卑怯だなんて言わせないよ。これは戦なんだから」
台詞が言い終わると同時に、勝ち誇った表情の牡丹へ、リューリが投げたフライパンが直撃した。
ガコーンととても良い音が響く。
「『戦』だよね!」
「ナイス援護!」
振り返りながら目で合図したアルトが正面を見据えて反撃に出た。
「ボクは全てを守る!」
「僕に挑むなら、本気で来なよ!」
二人のボクっ娘の戦いが始まった。
当初は押していた牡丹であったが、なにもサシにこだわる所ではないと気がついた周囲が一斉に牡丹の『止め』に参戦する。
「こらー。どさくさで変なとこ、触った奴ー! 許さないからなー!」
結局、捨て台詞を吐きながら牡丹は自分の天幕へと帰されたのであった。
ずりずりと引っ張られていく女将軍を見送っているアルトに調理が終わったリューリが近づく。
「やったね、アルトちゃん!」
「これで、(食事の)世界は守れたよ、リューリちゃん」
周囲から歓声があがった。
●白樺(ka4596)+アルラウネ
出来上がった色々なご馳走(牡丹比)を、軽やかな足取りで配っていた。
少女――ではなく、少年が渡しているのは、お芋の甘い和菓子だった。
「甘い物があると、幸せな気持ちになるのっ♪ にっこり♪ ね?」
明らかに狙っているだろうと勘ぐりたくなる程の可愛らしい表情と仕草。
それだけでも幸せ、お腹いっぱいになりそうではある。
「あとあと、おケガした人が居るって聞いたの」
怪我というか、牡丹の食事を食べて苦しんでいる人ばかりが見える。
ヒールで怪我は治せるが、果たしてキュアで治るものなのかどうか……。
転がっている筋肉質の3兄弟の隊員を見つけると、そっと、大胸筋に触れながらキュアを唱える。
「痛いの痛いの飛んでけーなのっ! ……んっと……ちょっとは、治った、かな?」
スキルの手応えの無さ。カクっと傾げる白樺に、隊員が叫んだ。
「……治ってないけど、治ったどぉー!」
「あー! 兄貴ずりぃ!」
「このロリコン兄貴め!」
そんな兄弟のやり取りを微笑ましく見守る少女――じゃなくて、少年。
「ちゃんと元気づけられたみたいだね」
隊員達の世話をしたり配膳や片付けをしながら通りがかったアルラウネが声をかけた。
まだ若い娘なのに、良く出来た娘だと思わず心の中で頷いてしまう。
「もし、調子乗っちゃったのが出てきたら、お姉さんを呼んでいいからね」
「うん。ありがとうなの♪ でも、シロはきっと大丈夫なの♪」
そう言い残して、跳ねるように次へと移動する白樺。
その背中を眺めながら、アルラウネは感じた違和感を口にしたのだった。
「……女の……子……よね?」
●希+時雨
「ノゾミの作ったパインタルト、美味しかったよ~」
希との別れ際で時雨は笑みを浮かべて言った。
今でもパインの甘さが思い返せた。
「次は……何時になりますか?」
征西部隊への参加が最後になるかもしれないという時雨の言葉に希はショックを受けていたようだ。
複雑な表情をする希のほっぺを指でぐーと押し上げる。
「うーん。まぁ、きっと、そのうち? とにかく、ちゃーんと“約束”忘れずに、だよん?」
「……はい。時雨さんも」
ぎこちない笑顔を見せながら二人は別れる。
時雨は振り返りもせず俯き、なにか呟きながら、陣を立ち去ったのだった。
―――探索―――
●ボルディア・コンフラムス(ka0796)
覚醒状態に入り、燃えるような真っ赤な髪の隙間から出た耳がピクンと動く。
「たまにゃ、こういう裏方もいいモンだ」
ボルディアは周囲を見渡しながら呟いた。
陣地に適した場所がないか、聴覚嗅覚、そして、連れてきた相棒――カラス――を駆使して探す。
「『見晴らしがいい』ってのは何も開けた土地ってワケでもねぇからな」
ほんの僅かな高低差や高い木があれば、遠くまで見渡せる。
だから、単なる平原ではなく木がある場所も候補の一つとしてボルディアは探索をしていた。
「なかなか、良い場所が見つかったかもな……」
カラスを通じて上空から地形を確認した。
高台としては高さが足らないが周囲を遮るものはない。東側に障害となるものはなく万が一の撤退時にも良いだろう。
最終的な場所の判断は牡丹が行う事になったので、ここに決まった訳ではないが……。
「よし、陣へ戻るぜ」
空を見上げ、カラスに呼びかけるようにボルディアは言った。
●三條 時澄(ka4759)&紅薔薇(ka4766)&キヅカ・リク(ka0038)
自転車に乗って、あるハンターが今頃やって来る――雰囲気を感じながら、キヅカは遠く、地平線をみつめていた。
同行しているハンターらは、そんな彼の心中を知る事はなく、探索の為、周囲を確認している。
「戦術によっても変わるんだが……」
どの状態にも対応し易いとなるとお目当ての立地があるか難しいと時澄は同行している仲間に話しかけた。
「ふむん。敵がどの方向から来るか、判れば良いのじゃが……」
考えるような表情を浮かべ、紅薔薇が応える。
全方位を警戒できる場所を選んだ方が良いのか――となると、条件に適した土地は更に少なくなる気もする。
「一応、西に向かっている訳だし、災狐の軍勢というのは、その行く手を塞いでいると思う」
キヅカがトランシーバーの調子を確認しながら言った。
どうも、距離が離れすぎているようで遠くを探しているハンターからは反応がない。
「やはり高台は譲れないかのう」
見晴らしが良いというのは、発見し易いというメリット以外にも騎馬での突撃にも有利だ。
特に征西部隊は騎馬隊がいる。前回、霧ヶ原での会戦でも騎馬隊が活躍した。
ふと、その時に出逢った青年の隊員を思い出す。
(思い返してみると、不思議じゃの……)
あの時、紅薔薇は部隊の消耗を最小限にする意味も込めて、騎馬隊の先頭を駆けた。
だが、結果的に『損害』はあった。だが、陣地に戻った際に出迎えた牡丹は意外そうな表情をしていた。
(……今はともかく、立地じゃ)
違和感を首を振って振り払い、紅薔薇は双眼鏡を覗き込んでは白地図に記入していく。
「こっちは川が続いているね」
別の方向をジェットブーツで飛び上がり、確認していたキヅカの言葉を受けて、地図に書き込んでいく。
少しでも効率化するのに探索方向を分担していた。
「林が少し近いかもしれないが、ここはどうだろう」
時澄の呼び掛けに応じる様に紅薔薇とキヅカが駆け寄る。
いい感じの高さの丘だった。キヅカが見つけた川の支流も脇を流れている。
「まぁ、柵を作ったりするのに材料があるのも良いからのう」
丘の近くの林を見て紅薔薇は言った。
本来であれば奇襲防止の為、遮蔽物がない場所が良いと思ったが、そうそう条件全てに当てはまる地形が見つかるわけではない。
「さすがに、洞窟や抜け穴はないか……」
周囲を素早く確認したキヅカが呟く。
陣の後方へと逃れられるようにと思っての事だったが……。
「陣立ても重要だが、兵の士気の維持も重要だ。人心というのは、何よりも大事だからね」
時澄の言葉にキヅカは頷いた。
「征西部隊に限って言えば、心配する必要は無さそうだけど」
彼らは勇猛果敢だった。
死をも恐れぬ戦士達。そんな雰囲気をキヅカは前回の戦いで感じていた。簡易陣では牡丹が作った謎料理によって苦しんでいる隊員がいるというが、士気が下がっているという様子ではない。
「そうじゃの……じゃが、なにか違う気がするのじゃ」
方位磁石で方角を確認し、地図に書き込みながら紅薔薇は口を開く。
「確かに、死を恐れている訳ではない。士気も高い……そう、無駄に高いのじゃ」
「強固な陣を敷いても、その基となる兵の士気が低かったり、心が離れていたら機能しない。士気が高いうちは良いのでは?」
時澄の言う通りなのだが、紅薔薇は小さく唸った。
「とにかく、陣に戻ろう。後は、牡丹さんに決めて貰えばいいだろうし」
キヅカの宣言に二人は頷いて応えた。
●シェルミア・クリスティア(ka5955)
高台や丘陵、水があるような場所を求めて、周囲を見渡したり、時には符術や占いを行いながら、シェルミアは、思案していた。
陣地を構築するのは災狐の軍勢と戦う為だという。そして、災狐――その名前を聞くと、シェルミアは十鳥城の事を思い出す。
迫る災狐の軍勢。城を守る為に戦った仲間達――そして、命を落とした代官――。
「正秋さんは他のハンターさんと一緒なのかな?」
「あぁ、ちょっと前にな」
代官の息子である正秋と色々と話してみたかったのだが、彼は既に陣を離れていた。
今は正秋の親友だと言う、瞬という青年の侍と一緒に探索している。
「彼奴は恵まれているな」
「え?」
羨ましいそうに言った言葉ではないと分かった。
だが、言葉の意味が分からず、シェルミアは疑問の声を上げたのだ。瞬はシェルミアを真っ直ぐ見つめた。
「俺や部隊に、万が一があった時、彼奴を頼む。彼奴は未来へと進まなきゃならねぇ……俺と違ってな」
「それって、どういう事なの?」
だが、瞬はニヤリと笑っただけで、周囲の探索を再開した。
●ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)&鞍馬 真(ka5819)
「ジュゲームリリ以下略……ルンルン忍法凄い棒☆」
ルンルンが豪快な動きをしながら、手にしていた棒を離した。
棒は――ゆっくりとある方向に向かって倒れる。
「こっちなのです!」
ボヨンと胸を跳ねらせながら、彼女は棒(占い)が指した方向へと進む。
「守りやすく攻めに転じやすい場所を推しちゃいます!」
山間とは言えないが、高台を目指すルンルンの視界の中にハンターの姿が見えた。
知らないハンターではない。いつか依頼で一緒になった事がある。
「陣地に適した土地……なあ……。部隊を率いたことがないからピンと来ないな……」
そんな独り言を真は口にしていた。
視線を落とし、地図を集中している。
長期戦に備えて、水場がある所が良いだろうが、奇襲に備えて高台も良い。
飛行する敵から落石を受けないように、崖下は避けたい所だし、森や林の近くも見通しが悪く怖い。考えれば考える程、悩みは尽きない。
部隊を率いるという事はそれだけでも難しい事なのだと再認識した時だった。
「悩める人にも、ルンルン魔法です!」
その声に反応して真はハッと顔を上げる。
刹那、符を額に貼られた。視界の……妨げにはなるが、言うほど邪魔ではないのが、救いではある。
「……これで閃なのです!」
「あ、ありがとう」
以前にも貼られ様な気がするが、気にしては負けだ。
貼られた符をそのままに、真は再び考える。
「……水場の近く、高所、開けていて……」
その間もルンルンは無駄に多い動きで占いを続ける。その度に揺れる豊満なそれ。
占い棒が今来た道を指し、やり直すも、また、同じ方向を指す。陣地に帰れと暗に言っているのかとツッコミを入れたくなる。
「こうなったら、もう一度、忍法なので……」
「すまないが、あの高台の上を確認できないだろうか?」
真の言葉にピタリを動きを止めたルンルンが指さされた方向を見つめる。
小高い山のようにも見えるが……。
「ジュゲームリリ(中略)マジカル……ルンルン忍法分身の術!」
式神がひゅーんと飛んだ。
ややあって、式神が高台の上へ登った。
「これは……山かと思ったら開けているのです!」
「河岸段丘だな。候補の一つとして良いかもしれない」
驚いているルンルンに、真は冷静に応えた。
最終的にどこの候補地が選ばれるかは分からないが、少なくとも手ぶらで帰還する事はなさそうだ。
●ミィリア(ka2689)&銀 真白(ka4128)&七葵(ka4740)
征西部隊の隊員である正秋が眼前の風景に息を呑んでいた。
鬱蒼とした木々が広がり、奥の方は日中というのに暗い。その暗闇の中から妖怪が出てきそうな雰囲気だ。
「森……ですか。いつも、ハンターの方々には驚かされます」
「奇襲の心配もあるが、遮蔽物はこちらにとっても意味がある……からな」
七葵が馬を並べて応えた。
一行は真白の提案もあり、森や岩が多い場所も探している。
こうした地形は、防御する側にもメリットはある。伏兵を置いておいたり、物資を隠す事ができるからだ。
また、飛行する雑魔や歪虚の目を誤魔化すという事もある。
「この辺りは水場には少し遠いか?」
その真白が先刻見つけた水場の方角を見つめながら呟いた。
同じ方向を見つめながらミィリアも口を開く。
「方角的には東側だから、陣を立てた時には後方にくる……で、ござるな」
見つけた立地は林の中にある高台だった。
林の奥は木がより多く立ち並び、森と化している。東側は木々が少なくなり、荒地、そして、水場へとなっていた。
「戦においては、有利不利になる場所を把握しておくのは大事な事だ」
双眼鏡で遠くを確認しながら七葵は言った。
最終的な築陣は一箇所に絞られるだろうが、大切なのは『周囲の地形も確認する』という事だろう。
多くのハンター達が周囲の地形を確認しているその事実が、次の戦には重要なのだ。
「なるほど……そこまで深い考えがあるとは……今日、探索に誘って頂き、感謝する」
関心した表情で正秋は頭を深く下げた。
その肩をミィリアがポンポンと叩く。
「そんなに堅くならなくていいで、ござるよ」
「そうです、正秋殿。私達は共に戦う仲間だ」
追随するように言った真白の言葉に、彼はハニカミながら頭を掻いた。
だが、それも直ぐに真面目な顔になる。
「探索を続けましょう」
「そうで、ござるな」
ミィリアがライトを取り出して明るさを確認していた。
森の中は暗いのもあるが、洞窟を探す為だ。
「十分な広さの洞窟があればいいでござるが」
「負傷者の退避場所にもなるだろう」
真白も同じ考えだった。
洞窟に限らず、大きい樹木や岩なんかも隠れるには良いだろう。
「念の為、歪虚の影響がないか確認しながら行くか」
刀を抜きながら七葵はそのように告げると、一番先に森の中へや足を踏み入れる。
周囲に歪虚はおろか、大型の獣がいる気配はないし、負のマテリアルで汚染はされてはいないようだが、歪虚勢力域である。
警戒するに越した事はないだろう。
「鳥の鳴き声は聞こえるでござるが……」
耳に手を当てながらミィリアが言う。
そして、長大な刀の柄に手をかけたが――。
「ミィリア殿、この木々に囲まれては、思うように刀を振るのは難しいかもしれません」
「や、やっぱり、そうで、ござ……る」
真白の台詞に、色々と姿勢を変えるポーズで刀を振れるかどうか確認するが、どうも難しい感じだ。
長大な刀を縦に抜こうと思ったが、無数に横に伸びる枝で邪魔され、横に振ろうものなら、木の幹にぶつかってしまう。
「……見ての通り、戦場では武器の選択も大事な事なのだ、正秋殿」
「なるほど……勉強になります」
冷静な表情で七葵が正秋に指導するのであった。
ハンター達によって、陣を立てるのに良い立地がいくつか見つかった。牡丹はその中から候補地を一つに絞る。
また、ハンター達が提供した食事はとても好評であり、身体を壊した隊員達は元気を取り戻したという。
こうして、災狐との戦いに備えて、征西部隊は陣地の構築を行い始めるのであった。
おしまい。
●牡丹&龍崎・カズマ(ka0178)
探索を終えたカズマは、疾影士としての能力を使いながら、牡丹の居る天幕へと忍んで来た。
女将軍自身が部下に対し、何も考え無しに料理を作ったとは思えなかったからだ。
「……僕ってば、優秀な上司だよね。隊員達は楽しめたかな~」
独り言のようだが、そんな言葉が聞こえた。
「まぁ、どうせ、死んじゃうのだろうけど」
続いて聞こえた言葉に、カズマは少なからず驚く。
何を意図して言っているのか……。部隊を率いて西へと向かっている指揮官の言葉とは思えない。
その僅かな迷いが、カズマにとって命取りだった。
次の瞬間、天幕の内側から放たれた強烈な拳が彼の脳天を直撃した――。
目が覚めたカズマは天幕の中、椅子に座らされて、両腕が背もたれの後ろに回され、縛られていた。
「龍崎カズマ……カズマ君は、ハンターとしてはなかなかの強者みたいだね」
牡丹が依頼の資料を手にしていた。
「でも、僕に夜這いだなんて、100年は早いかな」
「返答に困る言い方だな」
カズマの視線は牡丹の胸――ではなく、テーブルの上に置かれていた牡丹作のナニかが並んでいた。
「盗み聞きは良くないけど、食べるの手伝ってくれたら、許してあげるよ」
怪しげな指先の動きを見せながら、牡丹はナニかを指ですくい、自らの口に運ぶ。
そして、その指をもう一度、ナニかにたっぷりと付けた――。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/20 13:00:20 |
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【相談雑談】 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/06/23 01:16:35 |
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【質問用】 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/06/22 05:28:36 |