ゲスト
(ka0000)
もしサルヴァトーレ・ロッソに乗っていたら
マスター:チャリティーマスター

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~50人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/06/28 07:30
- 完成日
- 2016/07/05 13:31
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
今よりそう遠くない近未来。
人類は宇宙に進出する術を手に入れていた。
しかし最初の有人宇宙探査船は謎の生物と遭遇し、消息を断った。
外宇宙への進出は、攻撃の意思を持つ異質生命体との邂逅も意味していたのだ。
最初の邂逅後は無人の探査船を幾つも送り込んだが、その全てが消息を断った。
そしてその消失位置はどんどん地球に近くなっている。
『歪虚』と名付けられたその異質生命体は確実に地球に近づいてきているのだ。
歪虚の目的は分からない。
だが攻撃的意志を持つ彼らを地球に近づけるのは危険である。
人類は歪虚と対等に渡り合える兵器『CAM』を開発。
そのCAMを運用できる宇宙戦艦『サルヴァトーレ・ロッソ』を建造した。
サルヴァトーレ・ロッソは歪虚の本格的な調査、及び、場合によっては撃滅のため、宇宙へ飛び立つのであった。
サルヴァトーレ・ロッソが最初に邂逅した歪虚は、虫と蟹を掛け合わせたような不気味な姿の小型タイプだった。
小型と言っても2m以上あり、人より大きい。
邂逅当初、小型歪虚はサルヴァトーレ・ロッソの周りを旋回するだけだった。
「襲ってはこないのか?」
艦長のダニエル・ラーゲルベックはあらゆる波長で歪虚に向かって通信を試みた。
しかしそれらへは反応はない。
小型歪虚はしばらく旋回を続けていたが、不意にサルヴァトーレ・ロッソの外装兵器へ的確に攻撃を仕掛けてきた。
「こっちの兵力を探っていたのか。ただちに応戦しろ!」
ダニエルに指示に従って迎撃兵器が稼働して弾幕を張り、CAMも出撃させる。
初戦はこちら側に大した被害もなく歪虚を全て撃破し、CAMの有用性も証明できた。
だが、相手に交渉の意志はなく、あるのは攻撃の意志だけだという事も判明した。
サルヴァトーレ・ロッソはその後も敵の本隊がいるだろう宙域を目指して航海を続けた。
航海を続けている間、敵の襲撃は増えて敵の種類も多様化した。
歪虚に共通しているのは体色が不気味な暗褐色で、硬い外郭に覆われている事。
ただし形状は種々様々である。
2m前後の物はだいたい小型歪虚と称しているが、小型でも複数種ある。
虫のような物。
蟹のような物。
海老のような物。
色々だ。
小型の攻撃手段は生体物と思われる物体の射出と、多脚や腕により近接戦闘で、比較的対処しやすい。
CAMと同程度のサイズの歪虚は中型と称している。
中型でも形状は様々だ。
アンモナイトのような物。
オウムガイのような物。
ヤドカリのような物。
目撃数はまだ少ないが、甲殻類を人型にしたような物もいる。
中型の攻撃手段も生体弾と近接格闘戦が主だが、触手や触腕を使う物も多くいる。
そして外殻もサイズに見合って厚く硬くなっており、CAMでも難敵だ。
更には触手で絡みついて自爆する個体までいて厄介極まりなかった。
そして敵の本隊に近づいた事で発見されたのが2km近くある大型歪虚。
サルヴァトーレ・ロッソも3kmあるが比肩するサイズである。
その形状はクラゲの様だったが、暗褐色の外殻に覆われており、体の中心から伸びている脚も虫の節足のようだ。
体の各所から小型や中型の歪虚を排出している事から、敵の母艦だろうと推測された。
「敵母艦を倒せば地球の安全を当面は確保できるだろう」
そう考えたダニエルは敵母艦破壊作戦を立案する。
敵の力はまだ未知数であるため、まずは威力偵察から行われた。
CAMで攻撃を何度も行い、敵戦力をある程度把握。
大型歪虚は体内に多数の歪虚を収容しており、やはり母艦だと判明する。
母艦歪虚の攻撃手段が、生体弾、光子弾、触手、触腕くらいだと分かる。
しかし外殻はその巨体さと相まって分厚く高硬度で、CAMの兵装で破る事は不可能だった。
「ロッソの主砲で穴を空け、そこにCAM部隊を送り込んで中から母艦を叩く」
ダニエルの作戦はすぐに実行に移され、サルヴァトーレ・ロッソが敵母艦に向けて侵攻を開始。
敵母艦との距離が急速に狭まってゆく。
その時。
「敵母艦内で急激にエネルギー反応が増大しています!」
オペレーターが悲鳴のような観測報告を告げる。
「なにぃ!」
「エネルギー更に増大。収束してゆきます」
『こちら先行観測CAM隊! 敵母艦の形状が変化しています』
更に偵察に出ていたCAMから敵母艦の映像が送られてきた。
見ると、敵母艦の外殻から細長い筒の様な物が伸びている。
ダニエルはそれが何らかの兵器だろうと直感した。
「緊急回避だ!」
ダニエルの指示で側面ジェットが一斉に噴射。
サルヴァトーレ・ロッソが真横にスライドするように動き、艦内をすさまじい横Gが襲う。
その直後、敵母艦から暗褐色の光がほとばしり、サルヴァトーレ・ロッソの船体の右端を貫通する。
艦内に地震が起きたような衝撃が走った。
急激な横Gと攻撃による衝撃で艦内のクルーはグチャグチャに振り回される。
「キャー!!」
「ぐわぁーー!!」
「全速後退!! 急げっ!!」
そんな最中でもダニエルは指示を飛ばし、クルーは的確に指示をこなしてゆく。
「敵母艦内で再びエネルギー反応が増大!」
「回避しつつ全速で後退だ! 今はそれしかない!」
幸い、第二射が放たれた時には射程外に逃れ、九死に一生を得たのだった。
「艦の被害は?」
ダニエルが苦い表情で尋ねる。
「艦を護衛していたCAM6機が敵主砲に巻き込まれて大破しました。航行速度は2割低下。防御力が右舷に限っては半減以下です。そして最も悪いのが……」
「なんだ?」
言いよどむクルーにダニエルが苛立たしそうに促す。
「エネルギー漏れです。今はもう止まっていますが、かなりの量が流出していましました」
「具体的にはどの程度だ?」
「主砲を2発撃てば空になります」
「……」
ダニエルの渋面が深くなる。
「つまり、次の戦闘で主砲は1発しか撃てず、2発撃てば地球に帰れなくなるという事か」
「そういう事です」
「正念場だな……」
ダニエルは現状を加味した新たな作戦を立案する。
それはCAMで敵主砲を破壊した後にサルヴァトーレ・ロッソの主砲で敵母艦に穴を穿ってCAMを侵攻させるという物だった。
作戦を前にしてダニエルは全クルーに放送を行った。
「諸君。この作戦が最後の戦いとなる。奴らは何としてでもここで叩く! 奴らが地球に降下すれば阿鼻叫喚の地獄が待っているのは間違いないからだ。地球の命運はこの一戦にかかっている! 我らは命に代えても地球を守らねばならない! 我々は必ず勝つ! そして我らの故郷に凱旋するのだっ!!」
そう伝えてクルーを鼓舞したダニエルだったが、もしもの時には2発目の主砲を放つ覚悟だった。
(我らの命に代えても地球は守らねばならんのだ……)
ダニエルは胸の内だけで呟き、クルーに出撃を命じた。
人類は宇宙に進出する術を手に入れていた。
しかし最初の有人宇宙探査船は謎の生物と遭遇し、消息を断った。
外宇宙への進出は、攻撃の意思を持つ異質生命体との邂逅も意味していたのだ。
最初の邂逅後は無人の探査船を幾つも送り込んだが、その全てが消息を断った。
そしてその消失位置はどんどん地球に近くなっている。
『歪虚』と名付けられたその異質生命体は確実に地球に近づいてきているのだ。
歪虚の目的は分からない。
だが攻撃的意志を持つ彼らを地球に近づけるのは危険である。
人類は歪虚と対等に渡り合える兵器『CAM』を開発。
そのCAMを運用できる宇宙戦艦『サルヴァトーレ・ロッソ』を建造した。
サルヴァトーレ・ロッソは歪虚の本格的な調査、及び、場合によっては撃滅のため、宇宙へ飛び立つのであった。
サルヴァトーレ・ロッソが最初に邂逅した歪虚は、虫と蟹を掛け合わせたような不気味な姿の小型タイプだった。
小型と言っても2m以上あり、人より大きい。
邂逅当初、小型歪虚はサルヴァトーレ・ロッソの周りを旋回するだけだった。
「襲ってはこないのか?」
艦長のダニエル・ラーゲルベックはあらゆる波長で歪虚に向かって通信を試みた。
しかしそれらへは反応はない。
小型歪虚はしばらく旋回を続けていたが、不意にサルヴァトーレ・ロッソの外装兵器へ的確に攻撃を仕掛けてきた。
「こっちの兵力を探っていたのか。ただちに応戦しろ!」
ダニエルに指示に従って迎撃兵器が稼働して弾幕を張り、CAMも出撃させる。
初戦はこちら側に大した被害もなく歪虚を全て撃破し、CAMの有用性も証明できた。
だが、相手に交渉の意志はなく、あるのは攻撃の意志だけだという事も判明した。
サルヴァトーレ・ロッソはその後も敵の本隊がいるだろう宙域を目指して航海を続けた。
航海を続けている間、敵の襲撃は増えて敵の種類も多様化した。
歪虚に共通しているのは体色が不気味な暗褐色で、硬い外郭に覆われている事。
ただし形状は種々様々である。
2m前後の物はだいたい小型歪虚と称しているが、小型でも複数種ある。
虫のような物。
蟹のような物。
海老のような物。
色々だ。
小型の攻撃手段は生体物と思われる物体の射出と、多脚や腕により近接戦闘で、比較的対処しやすい。
CAMと同程度のサイズの歪虚は中型と称している。
中型でも形状は様々だ。
アンモナイトのような物。
オウムガイのような物。
ヤドカリのような物。
目撃数はまだ少ないが、甲殻類を人型にしたような物もいる。
中型の攻撃手段も生体弾と近接格闘戦が主だが、触手や触腕を使う物も多くいる。
そして外殻もサイズに見合って厚く硬くなっており、CAMでも難敵だ。
更には触手で絡みついて自爆する個体までいて厄介極まりなかった。
そして敵の本隊に近づいた事で発見されたのが2km近くある大型歪虚。
サルヴァトーレ・ロッソも3kmあるが比肩するサイズである。
その形状はクラゲの様だったが、暗褐色の外殻に覆われており、体の中心から伸びている脚も虫の節足のようだ。
体の各所から小型や中型の歪虚を排出している事から、敵の母艦だろうと推測された。
「敵母艦を倒せば地球の安全を当面は確保できるだろう」
そう考えたダニエルは敵母艦破壊作戦を立案する。
敵の力はまだ未知数であるため、まずは威力偵察から行われた。
CAMで攻撃を何度も行い、敵戦力をある程度把握。
大型歪虚は体内に多数の歪虚を収容しており、やはり母艦だと判明する。
母艦歪虚の攻撃手段が、生体弾、光子弾、触手、触腕くらいだと分かる。
しかし外殻はその巨体さと相まって分厚く高硬度で、CAMの兵装で破る事は不可能だった。
「ロッソの主砲で穴を空け、そこにCAM部隊を送り込んで中から母艦を叩く」
ダニエルの作戦はすぐに実行に移され、サルヴァトーレ・ロッソが敵母艦に向けて侵攻を開始。
敵母艦との距離が急速に狭まってゆく。
その時。
「敵母艦内で急激にエネルギー反応が増大しています!」
オペレーターが悲鳴のような観測報告を告げる。
「なにぃ!」
「エネルギー更に増大。収束してゆきます」
『こちら先行観測CAM隊! 敵母艦の形状が変化しています』
更に偵察に出ていたCAMから敵母艦の映像が送られてきた。
見ると、敵母艦の外殻から細長い筒の様な物が伸びている。
ダニエルはそれが何らかの兵器だろうと直感した。
「緊急回避だ!」
ダニエルの指示で側面ジェットが一斉に噴射。
サルヴァトーレ・ロッソが真横にスライドするように動き、艦内をすさまじい横Gが襲う。
その直後、敵母艦から暗褐色の光がほとばしり、サルヴァトーレ・ロッソの船体の右端を貫通する。
艦内に地震が起きたような衝撃が走った。
急激な横Gと攻撃による衝撃で艦内のクルーはグチャグチャに振り回される。
「キャー!!」
「ぐわぁーー!!」
「全速後退!! 急げっ!!」
そんな最中でもダニエルは指示を飛ばし、クルーは的確に指示をこなしてゆく。
「敵母艦内で再びエネルギー反応が増大!」
「回避しつつ全速で後退だ! 今はそれしかない!」
幸い、第二射が放たれた時には射程外に逃れ、九死に一生を得たのだった。
「艦の被害は?」
ダニエルが苦い表情で尋ねる。
「艦を護衛していたCAM6機が敵主砲に巻き込まれて大破しました。航行速度は2割低下。防御力が右舷に限っては半減以下です。そして最も悪いのが……」
「なんだ?」
言いよどむクルーにダニエルが苛立たしそうに促す。
「エネルギー漏れです。今はもう止まっていますが、かなりの量が流出していましました」
「具体的にはどの程度だ?」
「主砲を2発撃てば空になります」
「……」
ダニエルの渋面が深くなる。
「つまり、次の戦闘で主砲は1発しか撃てず、2発撃てば地球に帰れなくなるという事か」
「そういう事です」
「正念場だな……」
ダニエルは現状を加味した新たな作戦を立案する。
それはCAMで敵主砲を破壊した後にサルヴァトーレ・ロッソの主砲で敵母艦に穴を穿ってCAMを侵攻させるという物だった。
作戦を前にしてダニエルは全クルーに放送を行った。
「諸君。この作戦が最後の戦いとなる。奴らは何としてでもここで叩く! 奴らが地球に降下すれば阿鼻叫喚の地獄が待っているのは間違いないからだ。地球の命運はこの一戦にかかっている! 我らは命に代えても地球を守らねばならない! 我々は必ず勝つ! そして我らの故郷に凱旋するのだっ!!」
そう伝えてクルーを鼓舞したダニエルだったが、もしもの時には2発目の主砲を放つ覚悟だった。
(我らの命に代えても地球は守らねばならんのだ……)
ダニエルは胸の内だけで呟き、クルーに出撃を命じた。
リプレイ本文
「作戦開始!」
艦長のダニエル・ラーゲルベックの号令で、サルヴァトーレ・ロッソからCAM部隊の第一陣が出撃してゆく。
「さて、大仕事ですが……やるだけやりましょう」
クラーク・バレンスタイン(ka0111)のデュミナスが『127mm対空砲』を構えるとバックパックの専用アームが砲身を保持する。
『127mm対空砲』は本来なら宇宙艦用で全長5.6mある。
全長3.6mのデュミナスが構えた姿は、さながら浮遊砲台といった様相だ。
「ここが正念場と言う奴ですからね、自分の力が及ぶ限り全力でいかせてもらいましょう」
クラークがトリガーを引き、直撃した中型歪虚が粉微塵に吹き飛ぶ。
「伊達に127mmなんて大型兵装を担いできた訳じゃないんですよ!」
だが砲撃の反動も大きく、機体が大きく揺れる。
クラークは姿勢制御バーニアで機体を安定させると次弾を発射。
小型歪虚はかすっただけで破砕した。
だが、やはり反動で大きく揺れる上、照準もややずれた。
「艦砲を無理矢理装備してるからな……。だが多少の無茶は腕でカバーするさ」
クラークは反動と揺れ幅を考慮しつつ、中型以上に狙いを定めて狙撃を続行した。
「醜い異常な怪物……とても不愉快です」
望遠カメラが捉えた敵の姿に雨月彩萌(ka3925)が嫌悪感を抱く。
それと同時に殺意も。
なぜなら自分は正常なのだから、異常な物は一刻も早く駆逐しなければいけない。
「それが正常です」
彩萌はデュミナスにスナイパーライフルを構えさせる。
「雨月彩萌、準備完了。デュミナス、敵を殲滅します」
トリガーを引き、放たれた弾が小型歪虚を撃ち抜き、霧散させる。
彩萌は迫ってくる敵を先頭から順々に狙い撃って落としてゆく。
だがすぐに弾が切れ、半自動でリロードされる間に敵が距離を詰めてきた。
「寄るな」
リロードを終えるとすぐに発砲して1体仕留めたが、他2体が急接近する。
咄嗟にコンバットナイフに持ち返ると突進してくる敵にカウンターで突き刺した。
しかしもう1体が逆側から迫る。
辛うじてシールドで受け止めたが、敵はデュミナスを拘束しようと触手を伸ばしてきた。
「汚らわしい。即刻離れてください」
彩萌はシールドを放すと敵ごと蹴り飛ばして距離を取り、すかさずライフルで狙いを定める。
「そして消滅してください」
敵を撃ち殺して消滅させるとシールドを回収し、再び狙撃に戻った。
「ブラボー小隊、行くぞっ」
マリィア・バルデス(ka5848)は小隊で隊列を組むと敵先頭集団に集中砲火を浴びせた。
それでかなりの数を減らしたが、敵はすぐに散開する。
「各個に迎撃しろっ」
マリィアは敵を追って後ろからアサルトライフルで銃弾を浴びせて撃破。
敵を倒すとすぐにスラスターで姿勢を180度変え、敵群に向き直る。
すると小隊機が敵を1体見過ごしている様が見えた。
「ブラボー4、敵が抜けるぞ、ちゃんと撃てっ」
マリィアは抜けた敵の進路を塞ぐように機体を進める。
敵は生体弾を放ってきたが、機体をローリングさせて避けるとライフルで反撃。
敵は倒せたが、すぐに次が来た。
(また抜かれた?)
マリィアは敵と交戦しつつ戦況を見る。
敵の数が多くて押されているのが分かった。
「臆するな、撃て撃て撃て撃てっ! 1匹たりともロッソへ近づけるなっ」
とはいえマリィアにできる事は味方を鼓舞し、敵を1体でも多く倒す事ぐらいだ。
無心で機体を操り、敵を照準に捉え、トリガーを引く。
無心で戦っていた。
はずなのに頭の片隅でLH044での戦闘で寡黙な伍長がMIAになった事がよぎる。
(縁起でもない)
かなり数を減らしたが防衛線を抜けれた敵の数も多く、後続もまだいる。
旗色は悪い。
だが彩萌とクラークの小隊が敵群の後方に追いすがって攻撃を開始。
「ブラボー小隊、このまま挟撃しましょう」
「了解だ」
クラークがマリィアの小隊と示し合わせ、前後から挟撃を開始する。
すると敵群の一部が反転し、クラークに襲い掛かる。
クラークはマシンガンで迎撃して1体倒したが、その間に3体の中型に触手で取り付かれた。
「やはりこの大砲が脅威らしいですね」
クラークは対空砲のロックを解除して離脱した。
「でもコイツは弾の撃ち過ぎで砲身が加熱して照準がもうバカになってるんです。そんなのでよかったらあげますよ」
そしてマシンガンで対空砲を撃ち、歪虚を巻き込んで爆発させた。
彩萌はマリィアの小隊が抑えている敵を1体1体確実の狙撃して潰していた。
そして異常な敵が排除される毎に自身の正常が証明される喜びを感じていた。
だから彼女は暗い喜びを胸に抱きながら淡々と敵を撃ち続ける。
「わたしの正常を証明する為に、消えなさい」
一方、サルヴァトーレ・ロッソはCAMの防衛線を突破した敵の攻撃を受けていた。
敵は損傷した右舷を集中して攻撃したため、右舷の機銃座は激戦区となっていた。
「ったく、割に合わない仕事だねぇ……ほれほれさっさと手を動かしなさいよ」
鵤(ka3319)が周りに軽口を叩きながら機銃を正射した。
機銃は潰されまくって負傷者が続出している。
何時自分の機銃座が吹っ飛んでもおかしくない。
「ちなみに一番働かなかった奴はおっさんに酒を奢る係なんでよろしくぅ。ヒューウ楽しみぃー」
軽口でも言ってないとやってられない。
機銃座の周りでは衛生兵が手当てで走り回っていた。
北谷王子 朝騎(ka5818)も衛生兵として負傷者を治療している。
「止血します」
「縫合します」
「包帯巻きます」
眼鏡を掛けたクールで無口で無表情な朝騎。
愛想は欠片もないが、彼女に救われた兵は数知れない。
誰よりも慈愛に満ちた衛生兵なのは確かだ。
不意に室内に激震が走った。
見ると小型歪虚が銃座区内に進入してきていた。
「やべっ!」
鵤が身を伏せた直後、生体弾が掃射され、室内に悲鳴と破壊音が響き渡る。
掃射が止んで身を起こすと、室内は死と破壊が蔓延していた
「生身で歪虚と肉弾戦とか……ありえねーだろ!!」
鵤はなりふり構わず逃げ出した。
だが途中で生存者を2人発見して足を止める。
それは朝騎と彼女が庇った負傷兵だった。
朝騎は瓦礫で頭を打ったのか意識がない。
「チクショー! 美女じゃ見捨てる訳にはいかねー!」
鵤は2人を抱えて走った。
背後から歪虚が迫ってくる気配をひしひしと感じる。
ドアに辿り着いて開けたところで追いつかる。
鵤が2人をドアの向こうに投げ入れた直後、体に衝撃が走った。
甲殻爪に打ち据えられた鵤は吹っ飛ばされて壁に激突。
「ぐぼっ!」
大量に吐血した。
鵤は霞む視界でドアを見る。
閉まっているので2人は助けられたらしい。
安堵した鵤は拳銃を構えた。
「同伴するなら美女が良いんだが……まあ贅沢は言ってられねぇか」
鵤が皮肉気に口を歪めた笑顔を浮かべ、放った弾丸は機銃の弾薬庫を貫通。
室内で爆発が連鎖的に起こり、歪虚は爆炎に包まれた。
魔導アーマーヘイムダルを駆る保・はじめ(ka5800)は艦内に侵入した敵を追っていた。
「全く慌ただしいですね。艦内戦なんて想定してないですよ」
保は敵に追いつくと『テールスタビライザーB』で射撃体勢を取り、両腕の装備したマシンガン「デルガード」で銃弾をばら撒く。
体を蜂の巣された敵は消滅したが、不意に無線から機関長のボルディア・コンフラムス(ka0796)の声が響いた。
『こちら機関室! 敵がすぐ近くまで来てる! 隔壁がもう持たない。至急救援を請う!』
「すぐ行きます!」
保は最短ルートで機関室に向かい、着いた時には隔壁を破った小型歪虚が機関室に侵入したところだった。
「外せば機関部に当たる」
マシンガンは使えないと判断した保は歪虚の背後から突進。
突き倒したところにハンマー「ロンペール」を叩きつける。
外殻を割られた歪虚は体液を噴出しながら消滅。
「後ろだ!」
ボルディアの警告で振り返った途端、別の中型歪虚に組みつかれた。
「くそ!」
保はマシンガンの銃口を敵に押し当てると0距離から発射。
無数の弾丸が敵を撃ち抜いたが、敵も0距離から生体弾を連射してきた。
生体弾はコクピットにまで至り、保の体も撃ちぬく。
「くっ!」
溢れた血が体を濡らし、目に入った血で視界が赤く染まる。
それでも保はトリガーを引き続けた。
壮絶な我慢比べの末、敵は消滅。
後には穴だらけのヘイルダムが残された。
「おい! 大丈夫か?」
ボルディアが駆け寄り、コクピットを開ける。
そこには血まみれになりながらも満足げな表情の保がいた。
息は……ない。
「……すまない。だがお陰で機関部は無事だ。感謝する」
ボルディアが敬礼すると、機関室にいた全員が保に敬礼した。
こうして艦内の敵は一掃されたが、外にはまだ残っており、中型以上の敵は接近するなり爆発し始めた。
「自爆攻撃!? 距離を置いて戦え」
マリィアが指示して距離を取った途端、敵は全速でロッソに向かい始めた。
「しまった!」
マリィアも全速で後を追い、後ろから攻撃して仕留めてゆく。
だが残り1体というところで弾が尽きた。
「Shit!!」
敵はもうロッソの間近に迫っている。
マリィアはスロットルを全開にまで上げて自機を敵にぶつけ、強引に進路を変える。
2機はロッソをギリギリ掠める軌道で通過。
しかし敵に接近しすぎたためデュミナスが触手に拘束されてしまう。
この後運命を察したマリィアは無線のスイッチを入れた。
「ブラボー2、後の指揮は貴様に任せる」
不思議と静かな声音が出た。
後悔はない。
そして走馬灯なのか、昔の事が色々思い起こされた。
(そういえば、確かあの日あの時も私はサルバトーレ・ロッソに所属する軍人だった……)
そこでふと不思議に思う。
(……あの時?)
次の瞬間、マリィアは爆発に包まれ、その思考も宇宙に溶けて消えた。
こうして多くの犠牲を払いながらも周辺の敵はほぼ一掃され、敵母艦への進路が確保された。
「機関長、主機関の調子はどうだ?」
ダニエルが機関部と連絡を取る
『よぅ艦長。機関部は危うく潰されかけたりで過去最高にクソッタレだ。笑いが止まらねぇぜ!』
機関長のボルディアがハイテンションで応じる。
『だが機関部は心配すんな。ちゃーんと主砲も2発撃てる様に、この暴れ馬を躾けとくからよ』
「頼む」
ダニエルは通話を終えるとロッソを前進させる。
そして敵の大型光子砲の射程ギリギリで艦を止め、作戦を次の段階に移行した。
榊 兵庫(ka0010)は敵母艦へ向かう最中、小隊員へ無線を開いた。
「……スピアリーザーより小隊各機へ。我が小隊の任務は敵大型砲の破壊にある。
周囲に残敵は存在するが我々は我々の任務に集中せよ。各人の奮闘を期待する」
第二陣が敵母艦に迫ると迎撃機が出てくる。。
「あのくらい数、楽勝楽勝。あたしの力、見せたげる♪」
自身の力量に絶対の自信があるウーナ(ka1439)は全速で敵群に突っ込んだ。
生体弾の集中砲火を受けるが、弾の間を縫う様にして機体を飛ばして回避。
弾幕を抜けると目に付いた端からマシンガンで敵を撃ち落してゆく。
「あははっ! これじゃ5分もかかんないね」
ウーナは自意識過剰で大口を叩くが、実際に腕があるのも確かだった。
「このまま全滅ボーナスもいただきー♪」
だが、不意にマシンガンを持つアゼル・デュミナスの腕が吹っ飛んだ。
「……え? な、なにこれっ!?」
ウーナはすぐに回避機動を取りながら撃たれた地点を探す。
すると敵母艦上の細長い形状の中型歪虚が何か放つのが見えた。
「今のは油断しただ……」
ウーナがセリフを言い終える前にコクピットを撃ち抜かれ、アゼル・デュミナスは爆散した。
それが、あまりにもあっけないウーナの最後だった。
「今のは何!?」
リオン・コードウェル(ka5299)が敵弾の速さに戦慄する。
「亜光速弾か?」
柊 真司(ka0705)が適当に予測してみる。
「原理はともかく視認の難しい攻撃らしい。各機、敵の砲身の向きに注意しろ」
榊は味方に警告を発しつつ、中型歪虚に接近する。
そして砲身と思われる部位が自機を捉えた瞬間、スラスターを真横に噴射。
何かが自機を掠めたが、ギリギリ避けられたらしい。
だが、すぐ隣で小隊機が爆散した。
「1体ではないのか……散開しろ!」
榊は歯噛みしつつ指示を出したが、他の小隊機は榊ほど上手く避けられず、被弾したり撃墜されたりする。
「……4体か」
だが、小隊機が狙われた事で敵を位置と数は把握できた。
榊はアサルトライフルで牽制しつつ一気に肉薄するとCAMソード「ディフェンダー」で両断する。
「まず1体」
続いて2体目に向かうが、残り3体が一斉に榊を狙って攻撃を始める。
「今のうちに大型砲を破壊しろ!」
高速砲の狙いが自分に向いた隙に味方に砲台に接近させるのが榊の狙いだった。
榊は回避機動をとりつつCAMシールドとディフェンダーで機体を庇う。
それで2発は凌げたが、残り1発がアサルトライフルを貫通する。
遠距離武器を失ったのは痛いが構わず突進。
続く攻撃で右脚と左肩が撃ち抜かれた。
右脚のバーニアが稼動停止、左腕も動かなくなった。
だが敵はもう目前だ。
「破っ!」
敵とすれ違いざまに一閃して両断。すぐさま3体目に向かう。
1発は避け、2発目はディフェンダーで受ける。
だが衝撃で刀身が半ばで折れた。
「く……」
次の狙撃は動かない左腕で受け、左腕が盾ごと吹っ飛んだ。
しかしその間に折れ残っていた刀身で敵を裂いて突き刺し、抉り、塵へと還す。
「残り1体」
しかし片腕で、右脚のバーニアは使えず、盾はなく、武器は折れたディフェンダーが1本のみ。
満身創痍だ。
「いざ尋常に……勝負!」
全神経を敵の砲身に注ぎ、進む。
高速弾が放たれる。
胴体部に着弾。
機体に衝撃が走った。
コクピットの前面が吹っ飛び、榊の身が宇宙に晒される。
だが操作系は生きている。
着弾の瞬間に機体を捻り、致命傷を避けたのだ。
「おおおぉぉーー!!」
榊は雄たけびを上げながら肉眼で捉えた敵を、斬る。斬る。斬る!
切り刻まれた歪虚は塵となって宇宙に散った。
「こっちは役割を全うしたぞ。そっちも確実に仕留めろよ」
榊は大型光子砲に向かって飛ぶ味方機の光点に向かって告げた。
その頃、真司とリオンは群がってくる小型歪虚を排除しつつ大型光子砲の間近まで迫っていた。
真司はハルバード「エクスプロイド」を構えるとスロットルを全開にし、体当たりする勢いで突進。
リオンはアサルトライフルを撃ち込みながら接近し、コンバットナイフで斬りかかる。
だが2人の攻撃は光子砲の装甲に傷を負わせはしたものの、とても破壊できる程ではなかった。
「嘘だろ……」
「硬い……」
光子砲の全長は500m程もあり、その巨体に見合って装甲も分厚かったのだ。
「なら、装甲の薄い部分を狙うしかないな」
「となると……」
思いつくのは砲身内最奥。
2人は光子砲身内に入り込み、最奥を目指して飛んだ。
だが不意にリオンの機体に衝撃が走り、背面スラスターが破損して大半が機能停止する。
「なにっ!?」
機体を反転させると、3体の中型歪虚が砲身内に入り、生体弾を放っているのが見えた。
「追手か」
真司はリオンの機体の前に出てCAMシールドを掲げて遮蔽にし、マシンガンで応戦。
リオンもアサルトライフルで反撃する。
だが敵は倒しても倒しても続々と砲身内に入り込んでくる。
CAMシールドで胴体部は庇えているが、それ以外の部分には生体弾が当たり、徐々にダメージが蓄積してゆく。
「くそっ! このままじゃ盾も機体も持たない!」
「任せろ」
リオンは弾幕の合間の隙を見て飛び出すと魔導鈎「エクステンド」の錨を発射。
先頭の中型歪虚に引っ掛けると自分の元まで引き寄せる。
「これで盾ができた」
確かに生体弾を防げている。だが長くは持たないだろう。
「ここは私に任せて行け!」
リオンが歪虚を盾にして反撃しつつ告げる。
背面スラスターのほぼ使えない自分はここで敵を抑えているのが相応しい。
「任せた、死ぬなよ!」
真司は機体を反転させると『アクティブスラスター』を点火。最奥に向かって全速で飛ぶ。
やがて前方に生体動力炉的な何かが見え、それが蠢いて明滅し始めていた。
どうやら発射体制に入ったらしい。
「これ以上やらせるかぁぁぁ!」
真司は体当たりする勢いでハルバート「エクスプロイド」を突き刺した。
「貫けぇーー!!」
更に各部のスラスターを吹かして機体を回転させ、捻りも加える。
そしてハルバードが刺さると、傷跡にありったけのマシンガンも撃ちこんだ。
すると動力炉は体液を噴出しながら膨れ始める。
「やべ! これ爆発するパターンだ」
真司は来た道を全速で戻る。
「作戦完了。逃げるぞ」
「了解」
リオンと合流すると砲身内に残る歪虚はハルバードで貫き、体当たりで退け、強引に突破。
そして砲身から飛び出した直後、光子砲の根元で爆発が起き、砲身が宇宙に飛んでいった。
作戦を終えた真司は榊も回収し、3人で無事ロッソへ帰還を果たしたのだった。
大型光子砲が破壊される様子はサルヴァトーレ・ロッソでも捉えていた。
「前進開始! 並びに主砲にエネルギー充填」
ダニエルの指示に従ってクルーがテキパキと作業を進める。
「エネルギー充填100%」
「主砲発射!」
ロッソの主砲から高圧縮されたマテリアル粒子が放たれる。
まばゆい輝きは敵母艦を直撃。その外殻が大きく抉れる。
「どうだ?」
ダニエルが観測CAM部隊に尋ねる。
『……ダメです。外殻を完全には貫通できていません』
「なにぃ!!」
『攻撃してもCAMの武装では貫通できませんでした』
「……そうか。第2射準備だ」
ダニエルの言葉に艦橋内の空気が一瞬凍りつく。
艦橋のクルーは皆、2発目を撃つ意味を知っているのだ。
「機関長、いけるか?」
『いけるに決まってんだろ! 気にせずぶっ放せ!』
ボルディアは敢えて明るい声音で応えた。
そしてクルーもすぐに発射作業に入る。
皆、覚悟は既にできているのだ。
「エネルギー充填完了です」
皆が艦長に注目した。
「主砲、発射」
静かに告げられた命令で再び主砲が放たれ、今度こそ敵母艦の外殻に穴を開けた。
こうして作戦は最終局面に移行したのである。
格納庫から敵母艦破壊用の爆弾を搭載したCAMが次々とデッキへ上げられてゆく。
「機動兵器を敵大型母艦に侵入させての破壊……か、思い切った事をやるものだわ」
フィルメリア・クリスティア(ka3380)がコクピット内で発進準備を整えながら夫のゼクス・シュトゥルムフート(ka5529)に無線で話しかける。
「あぁ、中々にヤバそうな任務だ」
「怖いなら突入せず外で待っててもいいのよ」
「まさか。大切なパートナーが敵艦に乗り込むってのに、一人外で待ってるなんてのは性に合わんのでね」
「ふふっ、頼りにしてるわ」
ちょうど会話が終わったところで2人のドミニオンがカタパルトデッキに運ばれ、射出された。
敵母艦までの宙域は第一陣と第二陣の戦果のお陰か敵の姿はほとんどなく、全機無傷で到着できそうだった。
その道中、伊藤 毅(ka0110)は少し感慨にふけった。
毅は敵の大型光子砲に大破させられた6機のCAM部隊の隊長で、今ちょうどその地点を通過したからだ。
突然の攻撃で対処しようはなかった。
だが、部隊長でありながら自分だけが運良く無事だったのだ。
負い目がない訳がない。
「部下の仇うちだ、野郎をぶっとばしてやる!」
散った隊員達のためにも毅は全力で戦い、1人でも多くの仲間を艦に返す覚悟でいた。
「このデカブツぶっ潰して終わりにすンぜ!」
敵母艦に一番手で乗り込んだのは大伴 鈴太郎(ka6016)だった。
しかし中で待ち構えていた歪虚が一斉に生体弾を撃ってくる。
「うひょー!! 中にはウジャウジャいやがるっ!」
鈴太郎は早々に引き返し、穴の淵を遮蔽に使ってアサルトライフルで応戦を始める。
第三陣は穴の手前でいきなり足止めを喰らい、こう着状態に陥ってしまう。
「このままでは埒が明きませんね」
烏丸 涼子(ka5728)のデュミナスが1歩前に進み出る。
「突貫します、援護してください」
そして周りが止める間もなく単身穴に飛び込んでいった。
無謀としか思えない単騎駆け。
だが死を恐れていない涼子には可能だ。
むしろ死を望んですらいた。
涼子はこの世界に生きる価値も意味も見出せないのだ。
涼子のディミナスはたちまち生体弾を喰らい始める。
だが身に染み付いた操縦技術が反射的に機体を動かし、致命傷だけは避けてゆく。
そしてアサルトライフルで応戦しながら接近すると、手近な歪虚をコンバットナイフで切り裂き、蹴倒し、踏み抜き、斬り、撃ち、殺す。
他の者も涼子の勢いに乗って突貫し、入り口周辺の歪虚を一気に殲滅した。
「一刻も早く中枢にたどり着く、各機前進開始、1機でも多くたどり着くぞ!」
毅のディミナスを先頭に第三陣の部隊が中枢を目指して駆ける。
戦闘は最小限。ひたすら前へと進み続ける。
だが奥へ進むほど敵の攻撃は激しくなり、中枢まであと少しという所で厚い防衛線にぶつかった。
生体弾の弾幕が激しく、そこで足を止めざるを得なくなる。
「私が……」
「いや、涼子さんの機体はもう限界だ。今度は俺が行くゼ!」
また突貫しようとした涼子を鈴太郎が止め、代わりに自分が飛び出した。
鈴太郎のデュミナスはたちまち無数の生体弾の晒されるが、構わず敵の最も厚い箇所にアサルトライフルを撃ち込みまくる。
そして敵の猛攻がやや鈍った隙に槍「紅蓮修羅」を構え、敵群の中に突っ込んだ。
敵2体が槍に貫かれて消滅。そして今は敵群のド真ん中。
「周囲一面敵だらけ! こンなら何処撃って何処斬っても当たっぞ!!」
鈴太郎はライフルを乱射しながら目についた敵を片っ端から槍で斬り、貫き、振り回す。
もちろん敵からの攻撃は受けまくる。
衝撃でコクピットは揺れ続け、モニターにはエラーが出っぱなし。
壊れてない箇所などないと思える程だが、とにかく撃って、斬って、暴れまくる。
鈴太郎の猛攻で敵は完全に統率を失い、その隙を突いて残りの者達も攻撃を開始。
毅は鈴太郎の背後に迫っていた小型歪虚にマシンガンを撃ちこんで撃破。
だがその間に人型歪虚が甲殻剣で斬りかかってくる。
咄嗟に剣をコンバットナイフで受け、近距離からマシンガンを掃射。
だが銃身を蹴り上げられ、銃口を反らされた。
そして突き出された剣が機体を貫く。
しかし毅もカウンターでナイフを顔面に突き立てた。
そして突き刺された剣を掴んで固定しながらナイフで切り下ろしてゆく。
歪虚は残った片腕で殴りかかってきたが、構わず腹まで切り裂くと、その身は塵となって消えた。
フィルメリアが人型歪虚の1体にアサルトライフルを掃射して怯ませる。
その隙にゼクスが大身槍「紫苑」で胴体部を貫いた。
だが、その瞬間に2体の人型歪虚がゼクスの左右から斬りかかってくる。
ゼクスは咄嗟に真上に魔導鈎を発射。天井に刺さった錨を支点にして機体を吊り上げた。
思わぬ機動で避けたゼクスを歪虚が仰ぎ見る。
「どこを見ているの?」
その隙にフィルメリアが背後に回りこみ、大太刀「物干し竿」で袈裟切りにする。
残る1体がフィルメリアに生体弾を放つ。
だが、ゼクスは天井を蹴って加速をつけながら急降下。人型歪虚の脳天に槍を突き立て、股間まで刺し貫いた。
そうして敵防衛線はどうにか壊滅させた。
「よし。中枢は目前だ。行くぞ」
毅が先に進もうしたが、鈴太郎が動かない。
「ワリィ、駆動系ヤられちまったみてーでさ。もう長く動けそうもねーンだ……」
「え?」
確かに鈴太郎のデュミナスは酷い有様だった。
「俺はここで敵を抑えてっから先に行ってくれ」
鈴太郎が敵の防衛陣でアサルトライフルを構える。
「でも……」
「足手まといにはなりたくねーンだ」
「……分かった」
「爆弾を設置し終えたら迎えに来るわ」
「それまで持ち堪えてろ」
「あぁ、頼むぜ」
仲間達は鈴太郎と別れ、先へ進んだ。
敵はすぐにやってきた。
「さーて、やるか!」
撃って撃って撃ちまくる。
すぐ数で押されて接近された。
槍で突いて、斬った。
いったい何体倒しただろう?
やがて槍も折れた。
機体はボロボロでもう動かない。
自分の体もアチコチ痛くて血みどろだ。
「ここまでか……」
鈴太郎は覚悟を決めて爆弾のスイッチを手にする。
「死ぬ前に一度くらい恋とか……してみたかったな」
最後にそんな乙女な事を考えた自分がおかしくて、笑った。
背後で爆発音が聞こえた。
だが誰も振り返らなかった。
使命を果たす。
それが一番の手向けだと分かっているから……。
中枢へ辿り着いた4人が爆弾を設置している間も敵は襲いかかってきた。
だが戦力を消耗しているのか攻撃は散発的で、労せず倒して設置作業を終える。
「よし、ミッション終了、RTB、急げ!」
毅が現場を放棄して撤退を開始。
全速力で離脱を図っていたが、途中でフィルメリアが異常に気づく。
「待って! 涼子さんが来てない」
「何?」
振り返ると殿の涼子機がいない。
「何処に行った?」
探そうとした矢先に涼子から通信が入る。
『現在爆弾を防衛中。敵が猛攻を仕掛けてきてるわ』
「敵の攻撃が散発的だったのはそのためか」
「すぐに戻るわ。それまで持ちこたえて」
『いいえ、誰かが直接起爆しないと爆弾は排除されてしまう。あなた達は早く離脱して』
「ダメだ! これ以上仲間は失えん!」
多くの仲間の死を目の当たりにしてきた毅が叫ぶ。
『私、自分が何者だったのか思い出したの。これからの人生を良い事に使おうと決意した事も……。今がその時なの。だから気にしないで』
涼子の声音は晴れ晴れとしていた。
「……すまない」
毅はそれしか言えなかった。
「ありがとう」
ゼクスも他に言葉がなかった。
「涼子のこと、忘れないわ」
常に平静なフィルメリアも少し声が震えた。
『ありがとう。さ、早く行って。長くは持たないわ』
それが、涼子の最後の通信だった。
1秒でも早くこの敵母艦から離脱する。
それが鈴太郎や涼子の行為に報いる事だ。
3人は全速で飛んだ。
やがて遥か後方で巨大な爆発が起き、母艦の内部崩壊が始まった。
周囲が崩落してゆく中をひたすら前に向かって飛ぶ。
最大速度で飛び、大きな崩落物にぶつからなかったのは極限状態での集中力の成せる技か?
それとも奇跡か?
3人は敵母艦から離脱を果たした。
振り返ると、敵母艦が崩壊してゆくのが見える。
そして徐々に塵と成り、宇宙から消え失せたのだった。
敵大型母艦の崩壊と消失を目の当たりしたサルバトーレ・ロッソの乗組員は大歓声を上げた。
多くの苦難の末、多くの犠牲を払い、勝利を手にしたのだ。
地球は守らえた。
人類は生き延びる事ができたのだ。
しかし喜びは一時的なものだった。
人類は生き延びた。
だが自分達は?
サルバトーレ・ロッソのエネルギーは尽きている。
地球に帰る術はない。
自分達を待っている運命は、死だ。
勝利の先に待つものが死とは、皮肉以外の何物でもなかった。
艦長のダニエルはコック長と通信を繋いだ。
「コック長。戦勝祝いの料理を作ってくれ。全ての食料を使って構わん。最高の物を作って欲しい」
『え? それだと地球に帰るまでの分が』
「頼んだぞ」
事情を知らないコック長に酷な頼みをしたと分かっていたが、ダニエルは通信を切った。
「私は……情けない艦長だ。命をとして戦い、地球を守った兵達にこんな事しかしてやれない……」
ダニエルが手で目を覆う。
「艦長……」
技術士官のザレム・アズール(ka0878)が申し訳なさそうに声を掛ける。
「実はエネルギーを確保する術があります」
「なんだとぉーー!!」
ダニエルが絶叫する。
「どうやってだ?」
「敵を解析して分かった事なのですが……」
ここからザレムの長い講釈が続いた。
「……以上の事から敵はマテリアル体だと考えられます」
「つまり……どういう事だ?」
「敵母艦が消滅した今、この宙域には大量のマテリアルが満ちている事でしょう。それを回収できれば」
「ロッソのエネルギーとして使える!」
「そういう事です」
「だがどうやって回収する」
「こんな事もあろうかと、回収機は作ってあります」
ザレムはしれっと言った。
「おおぉぉぉぉ!!」
ダニエルは吠えた。
「みんな地球に帰れるぞぉー!!」
今度こそ本当の歓声が艦橋に響き渡った。
その頃、朝騎は医務室のベットで目を覚ましていた。
頭が痛い。
ここがどこなのかも分からない。
だがそれよりも大事なのは……目の前に白衣の天使がいる事だ。
「ナースさん! ピンクのパンツが紐だったりローだったりしてまちゅ。際どい!」
朝騎はいきなりナースの尻に飛びついた。
「キャー!!」
クールで無口で無表情な朝騎が変態行為を及んだためナースは驚いた。
「Tバックでちゅかね? 違う違うでちゅね。Tならもっとこうバーってくい込んでまちゅよね」
「先生ー! 朝騎さんの頭が変にぃー!」
ナースは朝騎は振りきって逃げ出した。
朝騎はナースを追って医務室を飛び出し……。
自室のベットで目が覚めた。
「……夢、でちゅね。妙にリアルな夢でちた」
それは本当に夢だったのか?
それともこことは違う現実だったのか?
それは分からない。
だがその世界では人類は歪虚に勝利していた。
それならこの世界でも人類は歪虚に打ち勝つ事だろう。
きっと……。
艦長のダニエル・ラーゲルベックの号令で、サルヴァトーレ・ロッソからCAM部隊の第一陣が出撃してゆく。
「さて、大仕事ですが……やるだけやりましょう」
クラーク・バレンスタイン(ka0111)のデュミナスが『127mm対空砲』を構えるとバックパックの専用アームが砲身を保持する。
『127mm対空砲』は本来なら宇宙艦用で全長5.6mある。
全長3.6mのデュミナスが構えた姿は、さながら浮遊砲台といった様相だ。
「ここが正念場と言う奴ですからね、自分の力が及ぶ限り全力でいかせてもらいましょう」
クラークがトリガーを引き、直撃した中型歪虚が粉微塵に吹き飛ぶ。
「伊達に127mmなんて大型兵装を担いできた訳じゃないんですよ!」
だが砲撃の反動も大きく、機体が大きく揺れる。
クラークは姿勢制御バーニアで機体を安定させると次弾を発射。
小型歪虚はかすっただけで破砕した。
だが、やはり反動で大きく揺れる上、照準もややずれた。
「艦砲を無理矢理装備してるからな……。だが多少の無茶は腕でカバーするさ」
クラークは反動と揺れ幅を考慮しつつ、中型以上に狙いを定めて狙撃を続行した。
「醜い異常な怪物……とても不愉快です」
望遠カメラが捉えた敵の姿に雨月彩萌(ka3925)が嫌悪感を抱く。
それと同時に殺意も。
なぜなら自分は正常なのだから、異常な物は一刻も早く駆逐しなければいけない。
「それが正常です」
彩萌はデュミナスにスナイパーライフルを構えさせる。
「雨月彩萌、準備完了。デュミナス、敵を殲滅します」
トリガーを引き、放たれた弾が小型歪虚を撃ち抜き、霧散させる。
彩萌は迫ってくる敵を先頭から順々に狙い撃って落としてゆく。
だがすぐに弾が切れ、半自動でリロードされる間に敵が距離を詰めてきた。
「寄るな」
リロードを終えるとすぐに発砲して1体仕留めたが、他2体が急接近する。
咄嗟にコンバットナイフに持ち返ると突進してくる敵にカウンターで突き刺した。
しかしもう1体が逆側から迫る。
辛うじてシールドで受け止めたが、敵はデュミナスを拘束しようと触手を伸ばしてきた。
「汚らわしい。即刻離れてください」
彩萌はシールドを放すと敵ごと蹴り飛ばして距離を取り、すかさずライフルで狙いを定める。
「そして消滅してください」
敵を撃ち殺して消滅させるとシールドを回収し、再び狙撃に戻った。
「ブラボー小隊、行くぞっ」
マリィア・バルデス(ka5848)は小隊で隊列を組むと敵先頭集団に集中砲火を浴びせた。
それでかなりの数を減らしたが、敵はすぐに散開する。
「各個に迎撃しろっ」
マリィアは敵を追って後ろからアサルトライフルで銃弾を浴びせて撃破。
敵を倒すとすぐにスラスターで姿勢を180度変え、敵群に向き直る。
すると小隊機が敵を1体見過ごしている様が見えた。
「ブラボー4、敵が抜けるぞ、ちゃんと撃てっ」
マリィアは抜けた敵の進路を塞ぐように機体を進める。
敵は生体弾を放ってきたが、機体をローリングさせて避けるとライフルで反撃。
敵は倒せたが、すぐに次が来た。
(また抜かれた?)
マリィアは敵と交戦しつつ戦況を見る。
敵の数が多くて押されているのが分かった。
「臆するな、撃て撃て撃て撃てっ! 1匹たりともロッソへ近づけるなっ」
とはいえマリィアにできる事は味方を鼓舞し、敵を1体でも多く倒す事ぐらいだ。
無心で機体を操り、敵を照準に捉え、トリガーを引く。
無心で戦っていた。
はずなのに頭の片隅でLH044での戦闘で寡黙な伍長がMIAになった事がよぎる。
(縁起でもない)
かなり数を減らしたが防衛線を抜けれた敵の数も多く、後続もまだいる。
旗色は悪い。
だが彩萌とクラークの小隊が敵群の後方に追いすがって攻撃を開始。
「ブラボー小隊、このまま挟撃しましょう」
「了解だ」
クラークがマリィアの小隊と示し合わせ、前後から挟撃を開始する。
すると敵群の一部が反転し、クラークに襲い掛かる。
クラークはマシンガンで迎撃して1体倒したが、その間に3体の中型に触手で取り付かれた。
「やはりこの大砲が脅威らしいですね」
クラークは対空砲のロックを解除して離脱した。
「でもコイツは弾の撃ち過ぎで砲身が加熱して照準がもうバカになってるんです。そんなのでよかったらあげますよ」
そしてマシンガンで対空砲を撃ち、歪虚を巻き込んで爆発させた。
彩萌はマリィアの小隊が抑えている敵を1体1体確実の狙撃して潰していた。
そして異常な敵が排除される毎に自身の正常が証明される喜びを感じていた。
だから彼女は暗い喜びを胸に抱きながら淡々と敵を撃ち続ける。
「わたしの正常を証明する為に、消えなさい」
一方、サルヴァトーレ・ロッソはCAMの防衛線を突破した敵の攻撃を受けていた。
敵は損傷した右舷を集中して攻撃したため、右舷の機銃座は激戦区となっていた。
「ったく、割に合わない仕事だねぇ……ほれほれさっさと手を動かしなさいよ」
鵤(ka3319)が周りに軽口を叩きながら機銃を正射した。
機銃は潰されまくって負傷者が続出している。
何時自分の機銃座が吹っ飛んでもおかしくない。
「ちなみに一番働かなかった奴はおっさんに酒を奢る係なんでよろしくぅ。ヒューウ楽しみぃー」
軽口でも言ってないとやってられない。
機銃座の周りでは衛生兵が手当てで走り回っていた。
北谷王子 朝騎(ka5818)も衛生兵として負傷者を治療している。
「止血します」
「縫合します」
「包帯巻きます」
眼鏡を掛けたクールで無口で無表情な朝騎。
愛想は欠片もないが、彼女に救われた兵は数知れない。
誰よりも慈愛に満ちた衛生兵なのは確かだ。
不意に室内に激震が走った。
見ると小型歪虚が銃座区内に進入してきていた。
「やべっ!」
鵤が身を伏せた直後、生体弾が掃射され、室内に悲鳴と破壊音が響き渡る。
掃射が止んで身を起こすと、室内は死と破壊が蔓延していた
「生身で歪虚と肉弾戦とか……ありえねーだろ!!」
鵤はなりふり構わず逃げ出した。
だが途中で生存者を2人発見して足を止める。
それは朝騎と彼女が庇った負傷兵だった。
朝騎は瓦礫で頭を打ったのか意識がない。
「チクショー! 美女じゃ見捨てる訳にはいかねー!」
鵤は2人を抱えて走った。
背後から歪虚が迫ってくる気配をひしひしと感じる。
ドアに辿り着いて開けたところで追いつかる。
鵤が2人をドアの向こうに投げ入れた直後、体に衝撃が走った。
甲殻爪に打ち据えられた鵤は吹っ飛ばされて壁に激突。
「ぐぼっ!」
大量に吐血した。
鵤は霞む視界でドアを見る。
閉まっているので2人は助けられたらしい。
安堵した鵤は拳銃を構えた。
「同伴するなら美女が良いんだが……まあ贅沢は言ってられねぇか」
鵤が皮肉気に口を歪めた笑顔を浮かべ、放った弾丸は機銃の弾薬庫を貫通。
室内で爆発が連鎖的に起こり、歪虚は爆炎に包まれた。
魔導アーマーヘイムダルを駆る保・はじめ(ka5800)は艦内に侵入した敵を追っていた。
「全く慌ただしいですね。艦内戦なんて想定してないですよ」
保は敵に追いつくと『テールスタビライザーB』で射撃体勢を取り、両腕の装備したマシンガン「デルガード」で銃弾をばら撒く。
体を蜂の巣された敵は消滅したが、不意に無線から機関長のボルディア・コンフラムス(ka0796)の声が響いた。
『こちら機関室! 敵がすぐ近くまで来てる! 隔壁がもう持たない。至急救援を請う!』
「すぐ行きます!」
保は最短ルートで機関室に向かい、着いた時には隔壁を破った小型歪虚が機関室に侵入したところだった。
「外せば機関部に当たる」
マシンガンは使えないと判断した保は歪虚の背後から突進。
突き倒したところにハンマー「ロンペール」を叩きつける。
外殻を割られた歪虚は体液を噴出しながら消滅。
「後ろだ!」
ボルディアの警告で振り返った途端、別の中型歪虚に組みつかれた。
「くそ!」
保はマシンガンの銃口を敵に押し当てると0距離から発射。
無数の弾丸が敵を撃ち抜いたが、敵も0距離から生体弾を連射してきた。
生体弾はコクピットにまで至り、保の体も撃ちぬく。
「くっ!」
溢れた血が体を濡らし、目に入った血で視界が赤く染まる。
それでも保はトリガーを引き続けた。
壮絶な我慢比べの末、敵は消滅。
後には穴だらけのヘイルダムが残された。
「おい! 大丈夫か?」
ボルディアが駆け寄り、コクピットを開ける。
そこには血まみれになりながらも満足げな表情の保がいた。
息は……ない。
「……すまない。だがお陰で機関部は無事だ。感謝する」
ボルディアが敬礼すると、機関室にいた全員が保に敬礼した。
こうして艦内の敵は一掃されたが、外にはまだ残っており、中型以上の敵は接近するなり爆発し始めた。
「自爆攻撃!? 距離を置いて戦え」
マリィアが指示して距離を取った途端、敵は全速でロッソに向かい始めた。
「しまった!」
マリィアも全速で後を追い、後ろから攻撃して仕留めてゆく。
だが残り1体というところで弾が尽きた。
「Shit!!」
敵はもうロッソの間近に迫っている。
マリィアはスロットルを全開にまで上げて自機を敵にぶつけ、強引に進路を変える。
2機はロッソをギリギリ掠める軌道で通過。
しかし敵に接近しすぎたためデュミナスが触手に拘束されてしまう。
この後運命を察したマリィアは無線のスイッチを入れた。
「ブラボー2、後の指揮は貴様に任せる」
不思議と静かな声音が出た。
後悔はない。
そして走馬灯なのか、昔の事が色々思い起こされた。
(そういえば、確かあの日あの時も私はサルバトーレ・ロッソに所属する軍人だった……)
そこでふと不思議に思う。
(……あの時?)
次の瞬間、マリィアは爆発に包まれ、その思考も宇宙に溶けて消えた。
こうして多くの犠牲を払いながらも周辺の敵はほぼ一掃され、敵母艦への進路が確保された。
「機関長、主機関の調子はどうだ?」
ダニエルが機関部と連絡を取る
『よぅ艦長。機関部は危うく潰されかけたりで過去最高にクソッタレだ。笑いが止まらねぇぜ!』
機関長のボルディアがハイテンションで応じる。
『だが機関部は心配すんな。ちゃーんと主砲も2発撃てる様に、この暴れ馬を躾けとくからよ』
「頼む」
ダニエルは通話を終えるとロッソを前進させる。
そして敵の大型光子砲の射程ギリギリで艦を止め、作戦を次の段階に移行した。
榊 兵庫(ka0010)は敵母艦へ向かう最中、小隊員へ無線を開いた。
「……スピアリーザーより小隊各機へ。我が小隊の任務は敵大型砲の破壊にある。
周囲に残敵は存在するが我々は我々の任務に集中せよ。各人の奮闘を期待する」
第二陣が敵母艦に迫ると迎撃機が出てくる。。
「あのくらい数、楽勝楽勝。あたしの力、見せたげる♪」
自身の力量に絶対の自信があるウーナ(ka1439)は全速で敵群に突っ込んだ。
生体弾の集中砲火を受けるが、弾の間を縫う様にして機体を飛ばして回避。
弾幕を抜けると目に付いた端からマシンガンで敵を撃ち落してゆく。
「あははっ! これじゃ5分もかかんないね」
ウーナは自意識過剰で大口を叩くが、実際に腕があるのも確かだった。
「このまま全滅ボーナスもいただきー♪」
だが、不意にマシンガンを持つアゼル・デュミナスの腕が吹っ飛んだ。
「……え? な、なにこれっ!?」
ウーナはすぐに回避機動を取りながら撃たれた地点を探す。
すると敵母艦上の細長い形状の中型歪虚が何か放つのが見えた。
「今のは油断しただ……」
ウーナがセリフを言い終える前にコクピットを撃ち抜かれ、アゼル・デュミナスは爆散した。
それが、あまりにもあっけないウーナの最後だった。
「今のは何!?」
リオン・コードウェル(ka5299)が敵弾の速さに戦慄する。
「亜光速弾か?」
柊 真司(ka0705)が適当に予測してみる。
「原理はともかく視認の難しい攻撃らしい。各機、敵の砲身の向きに注意しろ」
榊は味方に警告を発しつつ、中型歪虚に接近する。
そして砲身と思われる部位が自機を捉えた瞬間、スラスターを真横に噴射。
何かが自機を掠めたが、ギリギリ避けられたらしい。
だが、すぐ隣で小隊機が爆散した。
「1体ではないのか……散開しろ!」
榊は歯噛みしつつ指示を出したが、他の小隊機は榊ほど上手く避けられず、被弾したり撃墜されたりする。
「……4体か」
だが、小隊機が狙われた事で敵を位置と数は把握できた。
榊はアサルトライフルで牽制しつつ一気に肉薄するとCAMソード「ディフェンダー」で両断する。
「まず1体」
続いて2体目に向かうが、残り3体が一斉に榊を狙って攻撃を始める。
「今のうちに大型砲を破壊しろ!」
高速砲の狙いが自分に向いた隙に味方に砲台に接近させるのが榊の狙いだった。
榊は回避機動をとりつつCAMシールドとディフェンダーで機体を庇う。
それで2発は凌げたが、残り1発がアサルトライフルを貫通する。
遠距離武器を失ったのは痛いが構わず突進。
続く攻撃で右脚と左肩が撃ち抜かれた。
右脚のバーニアが稼動停止、左腕も動かなくなった。
だが敵はもう目前だ。
「破っ!」
敵とすれ違いざまに一閃して両断。すぐさま3体目に向かう。
1発は避け、2発目はディフェンダーで受ける。
だが衝撃で刀身が半ばで折れた。
「く……」
次の狙撃は動かない左腕で受け、左腕が盾ごと吹っ飛んだ。
しかしその間に折れ残っていた刀身で敵を裂いて突き刺し、抉り、塵へと還す。
「残り1体」
しかし片腕で、右脚のバーニアは使えず、盾はなく、武器は折れたディフェンダーが1本のみ。
満身創痍だ。
「いざ尋常に……勝負!」
全神経を敵の砲身に注ぎ、進む。
高速弾が放たれる。
胴体部に着弾。
機体に衝撃が走った。
コクピットの前面が吹っ飛び、榊の身が宇宙に晒される。
だが操作系は生きている。
着弾の瞬間に機体を捻り、致命傷を避けたのだ。
「おおおぉぉーー!!」
榊は雄たけびを上げながら肉眼で捉えた敵を、斬る。斬る。斬る!
切り刻まれた歪虚は塵となって宇宙に散った。
「こっちは役割を全うしたぞ。そっちも確実に仕留めろよ」
榊は大型光子砲に向かって飛ぶ味方機の光点に向かって告げた。
その頃、真司とリオンは群がってくる小型歪虚を排除しつつ大型光子砲の間近まで迫っていた。
真司はハルバード「エクスプロイド」を構えるとスロットルを全開にし、体当たりする勢いで突進。
リオンはアサルトライフルを撃ち込みながら接近し、コンバットナイフで斬りかかる。
だが2人の攻撃は光子砲の装甲に傷を負わせはしたものの、とても破壊できる程ではなかった。
「嘘だろ……」
「硬い……」
光子砲の全長は500m程もあり、その巨体に見合って装甲も分厚かったのだ。
「なら、装甲の薄い部分を狙うしかないな」
「となると……」
思いつくのは砲身内最奥。
2人は光子砲身内に入り込み、最奥を目指して飛んだ。
だが不意にリオンの機体に衝撃が走り、背面スラスターが破損して大半が機能停止する。
「なにっ!?」
機体を反転させると、3体の中型歪虚が砲身内に入り、生体弾を放っているのが見えた。
「追手か」
真司はリオンの機体の前に出てCAMシールドを掲げて遮蔽にし、マシンガンで応戦。
リオンもアサルトライフルで反撃する。
だが敵は倒しても倒しても続々と砲身内に入り込んでくる。
CAMシールドで胴体部は庇えているが、それ以外の部分には生体弾が当たり、徐々にダメージが蓄積してゆく。
「くそっ! このままじゃ盾も機体も持たない!」
「任せろ」
リオンは弾幕の合間の隙を見て飛び出すと魔導鈎「エクステンド」の錨を発射。
先頭の中型歪虚に引っ掛けると自分の元まで引き寄せる。
「これで盾ができた」
確かに生体弾を防げている。だが長くは持たないだろう。
「ここは私に任せて行け!」
リオンが歪虚を盾にして反撃しつつ告げる。
背面スラスターのほぼ使えない自分はここで敵を抑えているのが相応しい。
「任せた、死ぬなよ!」
真司は機体を反転させると『アクティブスラスター』を点火。最奥に向かって全速で飛ぶ。
やがて前方に生体動力炉的な何かが見え、それが蠢いて明滅し始めていた。
どうやら発射体制に入ったらしい。
「これ以上やらせるかぁぁぁ!」
真司は体当たりする勢いでハルバート「エクスプロイド」を突き刺した。
「貫けぇーー!!」
更に各部のスラスターを吹かして機体を回転させ、捻りも加える。
そしてハルバードが刺さると、傷跡にありったけのマシンガンも撃ちこんだ。
すると動力炉は体液を噴出しながら膨れ始める。
「やべ! これ爆発するパターンだ」
真司は来た道を全速で戻る。
「作戦完了。逃げるぞ」
「了解」
リオンと合流すると砲身内に残る歪虚はハルバードで貫き、体当たりで退け、強引に突破。
そして砲身から飛び出した直後、光子砲の根元で爆発が起き、砲身が宇宙に飛んでいった。
作戦を終えた真司は榊も回収し、3人で無事ロッソへ帰還を果たしたのだった。
大型光子砲が破壊される様子はサルヴァトーレ・ロッソでも捉えていた。
「前進開始! 並びに主砲にエネルギー充填」
ダニエルの指示に従ってクルーがテキパキと作業を進める。
「エネルギー充填100%」
「主砲発射!」
ロッソの主砲から高圧縮されたマテリアル粒子が放たれる。
まばゆい輝きは敵母艦を直撃。その外殻が大きく抉れる。
「どうだ?」
ダニエルが観測CAM部隊に尋ねる。
『……ダメです。外殻を完全には貫通できていません』
「なにぃ!!」
『攻撃してもCAMの武装では貫通できませんでした』
「……そうか。第2射準備だ」
ダニエルの言葉に艦橋内の空気が一瞬凍りつく。
艦橋のクルーは皆、2発目を撃つ意味を知っているのだ。
「機関長、いけるか?」
『いけるに決まってんだろ! 気にせずぶっ放せ!』
ボルディアは敢えて明るい声音で応えた。
そしてクルーもすぐに発射作業に入る。
皆、覚悟は既にできているのだ。
「エネルギー充填完了です」
皆が艦長に注目した。
「主砲、発射」
静かに告げられた命令で再び主砲が放たれ、今度こそ敵母艦の外殻に穴を開けた。
こうして作戦は最終局面に移行したのである。
格納庫から敵母艦破壊用の爆弾を搭載したCAMが次々とデッキへ上げられてゆく。
「機動兵器を敵大型母艦に侵入させての破壊……か、思い切った事をやるものだわ」
フィルメリア・クリスティア(ka3380)がコクピット内で発進準備を整えながら夫のゼクス・シュトゥルムフート(ka5529)に無線で話しかける。
「あぁ、中々にヤバそうな任務だ」
「怖いなら突入せず外で待っててもいいのよ」
「まさか。大切なパートナーが敵艦に乗り込むってのに、一人外で待ってるなんてのは性に合わんのでね」
「ふふっ、頼りにしてるわ」
ちょうど会話が終わったところで2人のドミニオンがカタパルトデッキに運ばれ、射出された。
敵母艦までの宙域は第一陣と第二陣の戦果のお陰か敵の姿はほとんどなく、全機無傷で到着できそうだった。
その道中、伊藤 毅(ka0110)は少し感慨にふけった。
毅は敵の大型光子砲に大破させられた6機のCAM部隊の隊長で、今ちょうどその地点を通過したからだ。
突然の攻撃で対処しようはなかった。
だが、部隊長でありながら自分だけが運良く無事だったのだ。
負い目がない訳がない。
「部下の仇うちだ、野郎をぶっとばしてやる!」
散った隊員達のためにも毅は全力で戦い、1人でも多くの仲間を艦に返す覚悟でいた。
「このデカブツぶっ潰して終わりにすンぜ!」
敵母艦に一番手で乗り込んだのは大伴 鈴太郎(ka6016)だった。
しかし中で待ち構えていた歪虚が一斉に生体弾を撃ってくる。
「うひょー!! 中にはウジャウジャいやがるっ!」
鈴太郎は早々に引き返し、穴の淵を遮蔽に使ってアサルトライフルで応戦を始める。
第三陣は穴の手前でいきなり足止めを喰らい、こう着状態に陥ってしまう。
「このままでは埒が明きませんね」
烏丸 涼子(ka5728)のデュミナスが1歩前に進み出る。
「突貫します、援護してください」
そして周りが止める間もなく単身穴に飛び込んでいった。
無謀としか思えない単騎駆け。
だが死を恐れていない涼子には可能だ。
むしろ死を望んですらいた。
涼子はこの世界に生きる価値も意味も見出せないのだ。
涼子のディミナスはたちまち生体弾を喰らい始める。
だが身に染み付いた操縦技術が反射的に機体を動かし、致命傷だけは避けてゆく。
そしてアサルトライフルで応戦しながら接近すると、手近な歪虚をコンバットナイフで切り裂き、蹴倒し、踏み抜き、斬り、撃ち、殺す。
他の者も涼子の勢いに乗って突貫し、入り口周辺の歪虚を一気に殲滅した。
「一刻も早く中枢にたどり着く、各機前進開始、1機でも多くたどり着くぞ!」
毅のディミナスを先頭に第三陣の部隊が中枢を目指して駆ける。
戦闘は最小限。ひたすら前へと進み続ける。
だが奥へ進むほど敵の攻撃は激しくなり、中枢まであと少しという所で厚い防衛線にぶつかった。
生体弾の弾幕が激しく、そこで足を止めざるを得なくなる。
「私が……」
「いや、涼子さんの機体はもう限界だ。今度は俺が行くゼ!」
また突貫しようとした涼子を鈴太郎が止め、代わりに自分が飛び出した。
鈴太郎のデュミナスはたちまち無数の生体弾の晒されるが、構わず敵の最も厚い箇所にアサルトライフルを撃ち込みまくる。
そして敵の猛攻がやや鈍った隙に槍「紅蓮修羅」を構え、敵群の中に突っ込んだ。
敵2体が槍に貫かれて消滅。そして今は敵群のド真ん中。
「周囲一面敵だらけ! こンなら何処撃って何処斬っても当たっぞ!!」
鈴太郎はライフルを乱射しながら目についた敵を片っ端から槍で斬り、貫き、振り回す。
もちろん敵からの攻撃は受けまくる。
衝撃でコクピットは揺れ続け、モニターにはエラーが出っぱなし。
壊れてない箇所などないと思える程だが、とにかく撃って、斬って、暴れまくる。
鈴太郎の猛攻で敵は完全に統率を失い、その隙を突いて残りの者達も攻撃を開始。
毅は鈴太郎の背後に迫っていた小型歪虚にマシンガンを撃ちこんで撃破。
だがその間に人型歪虚が甲殻剣で斬りかかってくる。
咄嗟に剣をコンバットナイフで受け、近距離からマシンガンを掃射。
だが銃身を蹴り上げられ、銃口を反らされた。
そして突き出された剣が機体を貫く。
しかし毅もカウンターでナイフを顔面に突き立てた。
そして突き刺された剣を掴んで固定しながらナイフで切り下ろしてゆく。
歪虚は残った片腕で殴りかかってきたが、構わず腹まで切り裂くと、その身は塵となって消えた。
フィルメリアが人型歪虚の1体にアサルトライフルを掃射して怯ませる。
その隙にゼクスが大身槍「紫苑」で胴体部を貫いた。
だが、その瞬間に2体の人型歪虚がゼクスの左右から斬りかかってくる。
ゼクスは咄嗟に真上に魔導鈎を発射。天井に刺さった錨を支点にして機体を吊り上げた。
思わぬ機動で避けたゼクスを歪虚が仰ぎ見る。
「どこを見ているの?」
その隙にフィルメリアが背後に回りこみ、大太刀「物干し竿」で袈裟切りにする。
残る1体がフィルメリアに生体弾を放つ。
だが、ゼクスは天井を蹴って加速をつけながら急降下。人型歪虚の脳天に槍を突き立て、股間まで刺し貫いた。
そうして敵防衛線はどうにか壊滅させた。
「よし。中枢は目前だ。行くぞ」
毅が先に進もうしたが、鈴太郎が動かない。
「ワリィ、駆動系ヤられちまったみてーでさ。もう長く動けそうもねーンだ……」
「え?」
確かに鈴太郎のデュミナスは酷い有様だった。
「俺はここで敵を抑えてっから先に行ってくれ」
鈴太郎が敵の防衛陣でアサルトライフルを構える。
「でも……」
「足手まといにはなりたくねーンだ」
「……分かった」
「爆弾を設置し終えたら迎えに来るわ」
「それまで持ち堪えてろ」
「あぁ、頼むぜ」
仲間達は鈴太郎と別れ、先へ進んだ。
敵はすぐにやってきた。
「さーて、やるか!」
撃って撃って撃ちまくる。
すぐ数で押されて接近された。
槍で突いて、斬った。
いったい何体倒しただろう?
やがて槍も折れた。
機体はボロボロでもう動かない。
自分の体もアチコチ痛くて血みどろだ。
「ここまでか……」
鈴太郎は覚悟を決めて爆弾のスイッチを手にする。
「死ぬ前に一度くらい恋とか……してみたかったな」
最後にそんな乙女な事を考えた自分がおかしくて、笑った。
背後で爆発音が聞こえた。
だが誰も振り返らなかった。
使命を果たす。
それが一番の手向けだと分かっているから……。
中枢へ辿り着いた4人が爆弾を設置している間も敵は襲いかかってきた。
だが戦力を消耗しているのか攻撃は散発的で、労せず倒して設置作業を終える。
「よし、ミッション終了、RTB、急げ!」
毅が現場を放棄して撤退を開始。
全速力で離脱を図っていたが、途中でフィルメリアが異常に気づく。
「待って! 涼子さんが来てない」
「何?」
振り返ると殿の涼子機がいない。
「何処に行った?」
探そうとした矢先に涼子から通信が入る。
『現在爆弾を防衛中。敵が猛攻を仕掛けてきてるわ』
「敵の攻撃が散発的だったのはそのためか」
「すぐに戻るわ。それまで持ちこたえて」
『いいえ、誰かが直接起爆しないと爆弾は排除されてしまう。あなた達は早く離脱して』
「ダメだ! これ以上仲間は失えん!」
多くの仲間の死を目の当たりにしてきた毅が叫ぶ。
『私、自分が何者だったのか思い出したの。これからの人生を良い事に使おうと決意した事も……。今がその時なの。だから気にしないで』
涼子の声音は晴れ晴れとしていた。
「……すまない」
毅はそれしか言えなかった。
「ありがとう」
ゼクスも他に言葉がなかった。
「涼子のこと、忘れないわ」
常に平静なフィルメリアも少し声が震えた。
『ありがとう。さ、早く行って。長くは持たないわ』
それが、涼子の最後の通信だった。
1秒でも早くこの敵母艦から離脱する。
それが鈴太郎や涼子の行為に報いる事だ。
3人は全速で飛んだ。
やがて遥か後方で巨大な爆発が起き、母艦の内部崩壊が始まった。
周囲が崩落してゆく中をひたすら前に向かって飛ぶ。
最大速度で飛び、大きな崩落物にぶつからなかったのは極限状態での集中力の成せる技か?
それとも奇跡か?
3人は敵母艦から離脱を果たした。
振り返ると、敵母艦が崩壊してゆくのが見える。
そして徐々に塵と成り、宇宙から消え失せたのだった。
敵大型母艦の崩壊と消失を目の当たりしたサルバトーレ・ロッソの乗組員は大歓声を上げた。
多くの苦難の末、多くの犠牲を払い、勝利を手にしたのだ。
地球は守らえた。
人類は生き延びる事ができたのだ。
しかし喜びは一時的なものだった。
人類は生き延びた。
だが自分達は?
サルバトーレ・ロッソのエネルギーは尽きている。
地球に帰る術はない。
自分達を待っている運命は、死だ。
勝利の先に待つものが死とは、皮肉以外の何物でもなかった。
艦長のダニエルはコック長と通信を繋いだ。
「コック長。戦勝祝いの料理を作ってくれ。全ての食料を使って構わん。最高の物を作って欲しい」
『え? それだと地球に帰るまでの分が』
「頼んだぞ」
事情を知らないコック長に酷な頼みをしたと分かっていたが、ダニエルは通信を切った。
「私は……情けない艦長だ。命をとして戦い、地球を守った兵達にこんな事しかしてやれない……」
ダニエルが手で目を覆う。
「艦長……」
技術士官のザレム・アズール(ka0878)が申し訳なさそうに声を掛ける。
「実はエネルギーを確保する術があります」
「なんだとぉーー!!」
ダニエルが絶叫する。
「どうやってだ?」
「敵を解析して分かった事なのですが……」
ここからザレムの長い講釈が続いた。
「……以上の事から敵はマテリアル体だと考えられます」
「つまり……どういう事だ?」
「敵母艦が消滅した今、この宙域には大量のマテリアルが満ちている事でしょう。それを回収できれば」
「ロッソのエネルギーとして使える!」
「そういう事です」
「だがどうやって回収する」
「こんな事もあろうかと、回収機は作ってあります」
ザレムはしれっと言った。
「おおぉぉぉぉ!!」
ダニエルは吠えた。
「みんな地球に帰れるぞぉー!!」
今度こそ本当の歓声が艦橋に響き渡った。
その頃、朝騎は医務室のベットで目を覚ましていた。
頭が痛い。
ここがどこなのかも分からない。
だがそれよりも大事なのは……目の前に白衣の天使がいる事だ。
「ナースさん! ピンクのパンツが紐だったりローだったりしてまちゅ。際どい!」
朝騎はいきなりナースの尻に飛びついた。
「キャー!!」
クールで無口で無表情な朝騎が変態行為を及んだためナースは驚いた。
「Tバックでちゅかね? 違う違うでちゅね。Tならもっとこうバーってくい込んでまちゅよね」
「先生ー! 朝騎さんの頭が変にぃー!」
ナースは朝騎は振りきって逃げ出した。
朝騎はナースを追って医務室を飛び出し……。
自室のベットで目が覚めた。
「……夢、でちゅね。妙にリアルな夢でちた」
それは本当に夢だったのか?
それともこことは違う現実だったのか?
それは分からない。
だがその世界では人類は歪虚に勝利していた。
それならこの世界でも人類は歪虚に打ち勝つ事だろう。
きっと……。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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作戦要綱及び作戦相談 フィルメリア・クリスティア(ka3380) 人間(リアルブルー)|25才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/06/27 21:56:04 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/25 22:04:29 |