ゲスト
(ka0000)
クルセイダーのきゅうじん!
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/06/21 22:00
- 完成日
- 2016/06/24 17:47
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
仕事は医療課程の教官。
報酬は10家族養える肥えた土地。
無一文からでも地方の名士になれる、超好待遇の求人のはずだった。
●スカウト
「お断りします」
東方出身の医者が迷わず拒絶の言葉を口にした。
緊張のあまり喉が渇き声も掠れている。
目の前にいるのは西方の聖職者。
歴史ある大国で強い勢力を持つ、聖堂教会の幹部だ。
「ふむ」
老司教がじっと医者を見る。
心臓の音がうるさい。
相手が不快感を示すだけでこっちは社会的に殺されかねないほど力の差がある。
「お断りします」
医者は自らの立場を理解した上で、改めて完全な拒絶を表明した。
司教が息を吐く。
医者の肩が震える。
「理由をお聞きしても?」
穏やかな口調だ。しかし落胆を隠し切れていない。
秘書に見える少女も、表情は動いていないが困惑しているようだ。
「っ」
迷う。好待遇を蹴った以上どうごまかしても報復されるのではないかと考えてしまい、恐怖で思考がまとまらない。
「し、失礼します」
すり切れた着物をひるがえして医者が逃げだし、聖職者だけがその場に残された。
●オフィス
「と、いうことがあったのです」
困りましたー、とハンターズソサエティ本部の窓口でぐったりしているのはイコニア・カーナボン(kz0040)。
医者に逃げられた面接官の1人である。
「無理もないと思いますよ」
応対中の自称美人窓口嬢が遠慮無く指摘する。
「巨大宗教組織の過激派幹部2人に圧迫面接なんてされたら」
よよよとわざとらしく己の肩を抱く。
「私なら泣いちゃいますよ」
イコニアは目で抗議して口を尖らせた。
「私達は普通のクルセイダーです! ちょっと歪虚討伐に熱心なだけで」
幹部から末端まで嬉嬉として最前線に飛び込みたがる連中を、普通は過激派とか狂信者という。
「まあそれはともかく」
慣れているのだろう。イコニアはあっさり気分と表情を切り替えた。
背を伸ばし上品に微笑むと切れ者の貴族女性に見える。
「求人票の回覧をお願いできますか」
羊皮紙を差し出す。
「ええまあ迷惑もかけられてますけどそれ以上にお世話になってますから」
自称以下略受付嬢は丁寧な動作で受け取り目を通す。
「うっわー、報酬が土地って何百年も昔じゃないんだから」
求人票には複数の司教の署名がある。
契約の文章に罠は無く、公的な文章であるので採用されてから無理難題を押しつけられるということもないはずだ。
「何々? 最初の1年は聖堂戦士団の護衛を無料で受けられる……ってこれ報酬が土地じゃ無くて開拓する権利じゃないですか」
「はい」
「はいじゃないですよ。うっわこれ酷いわ。歪虚がうろつく土地だから家族か部下に覚醒者数人いないと自衛も難しいし」
自称以下略がかぶっていた猫が逃げ出している。
「そういえば貴方、司書資格をお持ちでしたよね? ご家族も確か覚醒者で」
「都市生活者に無茶言わないでくださいよ。うわー、けどこれ何度見ても」
イコニアと羊皮紙を何度も見比べる。
司祭は何が問題か分かっていない。
「リアルブルー基準なら大学教授か准教授、グラズヘイム王国基準なら王立学校の教官級の人材の募集でしょ? そういう人が欲しい報酬がないわよこれ」
イコニアは精神的な衝撃を受けてその場でよろめいた。
「ねえ、ひょっとしなくても全然能力足りない人ばっか応募してきてない?」
司祭の目が泳いでいる。
「でしょうねー。山師か何代もかけて投資できる貴族か富豪じゃないと土地貰ってもねー。あ。まずっ」
上司の視線に気付いて逃げていた猫を被る。
「今回も前回と同じ依頼内容で?」
「は……い。変更についてはこの子から聞いてくだ」
丸っこく小さいパルムが自称美人に飛びつこうとして躱され、受け付け卓を飛び越えて司書パルムと激突。
怒った司書パルムにぐりぐりされると同時に大型の依頼票が宙に投影された。
●依頼票
依頼内容
クルセイダー養成校の臨時教師または学校周辺の安全確保または面接官
教職員
校長。司教。ロッソ到着前の時点では理想的教師
守備兵兼戦闘指導教官。覚醒者。計8人。中堅ハンター相当
臨時事務員1人。司祭
在校生
2年生。10~12歳覚醒者計12人。読み書き可能、専門書読解は難しい。戦闘力は初心者ハンター未満
1年生。8~10歳覚醒者計10人。新入生。基本的な読み書き可能。戦闘技能を持たない者有り
滞在者
助祭2(うち1人は聖堂戦士団所属
校舎
教室・食料庫・井戸・貯水タンク・図書館
武器庫 剣槍斧槌弓メイス猟銃・皮鎧金属鎧
宿舎
5人部屋10
厨房
見張り台
木製。古い。修理済
周辺状況
校舎周辺を除いて無人
求人内容
医療課程(仮称)教官。助手として採用も可
予定報酬:土地100石(初年は麦の現物を支給
図書館司書
予定報酬:土地30石(同上
※面接官は条件を変更しても構いません
●お祈り
「今後のご健闘をお祈り申し上げます」
就職面接会場で不採用通知が連発されていた。
「次はどちらじゃったかのう母さん」
「惚けるには早いですよ司教様。司書です」
校長とイコニアが疲れ切った顔で名簿をめくっている。
都落ちして来た学生くずれや有能なふりをしただけの応募者ばかりだ。
極希に能力がある者がいてもそういう人物は聖堂教会とうまくやっていけない価値観持ちだ。
「思うようにはいかんのう。鬼の家系や零落した武門が土地に食いつくと思っていたのじゃが」
良い土地ではあるのだ。他国なら領主同士が全面抗争を始めてもおかしくないだけ麦がとれる。
「戦士団の護衛無しなら切り取り次第って、貴族なら喉から手が出るほど好条件のはずなんですけどね」
「元の国との関係が切れているのが最低限の条件じゃからのう」
年は半世紀離れても価値観が近い2人が同時にため息をついた。
「君の親族は?」
「私より頭と口がまわって根こそぎ分捕っていく人でいいなら」
「統治能力のある王国貴族はそんなのばかりじゃな。領地ごと潰れる阿呆よりはましとはいえ、戦力増強にほとんど繋がらぬ相手に土地を渡すのものう」
聖堂教会有力派閥の幹部だからこそ、限られた資源の無駄遣いは絶対に許されない。
失敗すれば他派閥も貴族も場合によっては中央政府も敵にまわる。
「こういうときはじゃの」
「あれしかないですね司教様」
2人は重々しくうなずき面接会の終了を通達した。
次の面接会場は学校の校舎。
面接官はおそらくハンター。
つまり、賢そうな人材への丸投げである。
●がしゃどくろ
川の水面が盛り上がる。
最初は白く巨大な頭蓋骨が、次に丸太ほどもある骨が姿を現し岸に手をついた。
西を向く。
巨大な眼窩から、強烈な悪臭と腐った魚が零れた。
報酬は10家族養える肥えた土地。
無一文からでも地方の名士になれる、超好待遇の求人のはずだった。
●スカウト
「お断りします」
東方出身の医者が迷わず拒絶の言葉を口にした。
緊張のあまり喉が渇き声も掠れている。
目の前にいるのは西方の聖職者。
歴史ある大国で強い勢力を持つ、聖堂教会の幹部だ。
「ふむ」
老司教がじっと医者を見る。
心臓の音がうるさい。
相手が不快感を示すだけでこっちは社会的に殺されかねないほど力の差がある。
「お断りします」
医者は自らの立場を理解した上で、改めて完全な拒絶を表明した。
司教が息を吐く。
医者の肩が震える。
「理由をお聞きしても?」
穏やかな口調だ。しかし落胆を隠し切れていない。
秘書に見える少女も、表情は動いていないが困惑しているようだ。
「っ」
迷う。好待遇を蹴った以上どうごまかしても報復されるのではないかと考えてしまい、恐怖で思考がまとまらない。
「し、失礼します」
すり切れた着物をひるがえして医者が逃げだし、聖職者だけがその場に残された。
●オフィス
「と、いうことがあったのです」
困りましたー、とハンターズソサエティ本部の窓口でぐったりしているのはイコニア・カーナボン(kz0040)。
医者に逃げられた面接官の1人である。
「無理もないと思いますよ」
応対中の自称美人窓口嬢が遠慮無く指摘する。
「巨大宗教組織の過激派幹部2人に圧迫面接なんてされたら」
よよよとわざとらしく己の肩を抱く。
「私なら泣いちゃいますよ」
イコニアは目で抗議して口を尖らせた。
「私達は普通のクルセイダーです! ちょっと歪虚討伐に熱心なだけで」
幹部から末端まで嬉嬉として最前線に飛び込みたがる連中を、普通は過激派とか狂信者という。
「まあそれはともかく」
慣れているのだろう。イコニアはあっさり気分と表情を切り替えた。
背を伸ばし上品に微笑むと切れ者の貴族女性に見える。
「求人票の回覧をお願いできますか」
羊皮紙を差し出す。
「ええまあ迷惑もかけられてますけどそれ以上にお世話になってますから」
自称以下略受付嬢は丁寧な動作で受け取り目を通す。
「うっわー、報酬が土地って何百年も昔じゃないんだから」
求人票には複数の司教の署名がある。
契約の文章に罠は無く、公的な文章であるので採用されてから無理難題を押しつけられるということもないはずだ。
「何々? 最初の1年は聖堂戦士団の護衛を無料で受けられる……ってこれ報酬が土地じゃ無くて開拓する権利じゃないですか」
「はい」
「はいじゃないですよ。うっわこれ酷いわ。歪虚がうろつく土地だから家族か部下に覚醒者数人いないと自衛も難しいし」
自称以下略がかぶっていた猫が逃げ出している。
「そういえば貴方、司書資格をお持ちでしたよね? ご家族も確か覚醒者で」
「都市生活者に無茶言わないでくださいよ。うわー、けどこれ何度見ても」
イコニアと羊皮紙を何度も見比べる。
司祭は何が問題か分かっていない。
「リアルブルー基準なら大学教授か准教授、グラズヘイム王国基準なら王立学校の教官級の人材の募集でしょ? そういう人が欲しい報酬がないわよこれ」
イコニアは精神的な衝撃を受けてその場でよろめいた。
「ねえ、ひょっとしなくても全然能力足りない人ばっか応募してきてない?」
司祭の目が泳いでいる。
「でしょうねー。山師か何代もかけて投資できる貴族か富豪じゃないと土地貰ってもねー。あ。まずっ」
上司の視線に気付いて逃げていた猫を被る。
「今回も前回と同じ依頼内容で?」
「は……い。変更についてはこの子から聞いてくだ」
丸っこく小さいパルムが自称美人に飛びつこうとして躱され、受け付け卓を飛び越えて司書パルムと激突。
怒った司書パルムにぐりぐりされると同時に大型の依頼票が宙に投影された。
●依頼票
依頼内容
クルセイダー養成校の臨時教師または学校周辺の安全確保または面接官
教職員
校長。司教。ロッソ到着前の時点では理想的教師
守備兵兼戦闘指導教官。覚醒者。計8人。中堅ハンター相当
臨時事務員1人。司祭
在校生
2年生。10~12歳覚醒者計12人。読み書き可能、専門書読解は難しい。戦闘力は初心者ハンター未満
1年生。8~10歳覚醒者計10人。新入生。基本的な読み書き可能。戦闘技能を持たない者有り
滞在者
助祭2(うち1人は聖堂戦士団所属
校舎
教室・食料庫・井戸・貯水タンク・図書館
武器庫 剣槍斧槌弓メイス猟銃・皮鎧金属鎧
宿舎
5人部屋10
厨房
見張り台
木製。古い。修理済
周辺状況
校舎周辺を除いて無人
求人内容
医療課程(仮称)教官。助手として採用も可
予定報酬:土地100石(初年は麦の現物を支給
図書館司書
予定報酬:土地30石(同上
※面接官は条件を変更しても構いません
●お祈り
「今後のご健闘をお祈り申し上げます」
就職面接会場で不採用通知が連発されていた。
「次はどちらじゃったかのう母さん」
「惚けるには早いですよ司教様。司書です」
校長とイコニアが疲れ切った顔で名簿をめくっている。
都落ちして来た学生くずれや有能なふりをしただけの応募者ばかりだ。
極希に能力がある者がいてもそういう人物は聖堂教会とうまくやっていけない価値観持ちだ。
「思うようにはいかんのう。鬼の家系や零落した武門が土地に食いつくと思っていたのじゃが」
良い土地ではあるのだ。他国なら領主同士が全面抗争を始めてもおかしくないだけ麦がとれる。
「戦士団の護衛無しなら切り取り次第って、貴族なら喉から手が出るほど好条件のはずなんですけどね」
「元の国との関係が切れているのが最低限の条件じゃからのう」
年は半世紀離れても価値観が近い2人が同時にため息をついた。
「君の親族は?」
「私より頭と口がまわって根こそぎ分捕っていく人でいいなら」
「統治能力のある王国貴族はそんなのばかりじゃな。領地ごと潰れる阿呆よりはましとはいえ、戦力増強にほとんど繋がらぬ相手に土地を渡すのものう」
聖堂教会有力派閥の幹部だからこそ、限られた資源の無駄遣いは絶対に許されない。
失敗すれば他派閥も貴族も場合によっては中央政府も敵にまわる。
「こういうときはじゃの」
「あれしかないですね司教様」
2人は重々しくうなずき面接会の終了を通達した。
次の面接会場は学校の校舎。
面接官はおそらくハンター。
つまり、賢そうな人材への丸投げである。
●がしゃどくろ
川の水面が盛り上がる。
最初は白く巨大な頭蓋骨が、次に丸太ほどもある骨が姿を現し岸に手をついた。
西を向く。
巨大な眼窩から、強烈な悪臭と腐った魚が零れた。
リプレイ本文
●こびりつく過去
スケルトンの全長は成人男性の3倍を超えていた。
「気付かれたな」
柊 真司(ka0705)は荷台から音も立てずに飛び降りた。
トラックが十数メートル行きすぎてようやく停車する。
歪虚との距離は100メートル強。
最悪十数秒で戦闘が始まってしまう距離でしかない。
「魔導トラックで戦う場合はできるだけ2人以上で班を組んで運用した方が良い。1人で全てやってると周囲の警戒が疎かになって気がついたら敵に囲まれてるって事もありうるからな」
警戒はしても恐れる様子は全くなく、手際よく生徒達を誘導していく。
荷台に詰め込まれていた生徒達が怖々と降りて整列し、荷台に残った助祭が車載機銃の安全装置を解除する。
「それに機関銃を撃つ場合も一人が双眼鏡とか持って射弾観測をやれば命中率も向上する。人数に余裕があるなら運転手と射手を分担させたりすると尚良いかな」
トラックが後退しつつ右折。
巨大スケルトンに尻を向ける形で停まった。
虚ろな眼窩がトラックと生徒達を正確に捉え、奥の何かが蠢いた。
ボルディア・コンフラムス(ka0796)が鼻を鳴らす。
彼女の落ち着いた態度が生徒達に伝わって、崩れかけた行列が元に戻る。
「ジョン、マティ、出番だぞ何をしてる。ガキ共にみっともねぇとこ見せる気か?」
助祭2人の顔が羞恥と怒りに歪んだのは一瞬のみ。
機銃がかなりの速度で大型歪虚に向けられて、軽快な音を立てて銃撃が始まった。
「あー……なんでこう大事な時に怪我しちまうかなぁ、俺ぁ」
ぽろりと内心が口から零れ銃声でかき消された。
生徒視点では、戦場帰りの不敵な女戦士にしか見えていない。
「ガシャドクロか」
「ふん、しっくりくる名前じゃねぇか」
銃声と銃声の合間に真司の言葉を聞き取りにやりと笑う。
「気を抜くな。ガシャドクロが向かってくるぞ。盾を構えろ、足下を確かめて回避の準備」
既に巨大だったスケルトンがいきなり倍ほどの大きさになった。
深い川から川岸に上がったのだ。
「慌てんな。攻撃のチャンスだ」
トラックが数メートル徐行し固い地面で再停止。
機銃がますます安定。普通の拳銃とは次元の異なる威力の弾が数発、巨大な骨に着弾した。
「一旦後退っ」
助祭が号令をかける。
「よく見ろ。人間城砦聖導士が食い止める」
白銀全身甲冑が巨大骨の前に立ちふさがる。
重量差を考えれば接触即死でもおかしくないのに、大型歪虚は前に進もうとしてセリス・アルマーズ(ka1079)との残り1メートルを詰められない。
まるで速度を消してしまう無色の柱があるかのようだ。
「敵味方の行動を見逃すな。自分に何が出来るか常に考え続けろ」
生徒達がごくりと生唾を飲み込んだ。
「ああっ」
生徒から悲鳴があがる。
巨大骸骨が足下の岩を拾い上げ、セリスとトラックの中間付近にいたエステル(ka5826)目がけて投擲した。
大きい。低速に見えても籠もったエネルギーは膨大だ。体格の良い馬でも当たれば危ない。
『指揮が出来ていませんよ』
通信機越しのエステルの声は穏やかだが中身は叱責だった。
荷台の助祭は生徒へ後退を指示。
運転席の助祭はエステルに待避を、セリスにディヴァインウィルの解除を要請した。
エステルが馬も庇う形で盾を構える。
岩は盾と衝突して内側から砕けてしまい、エリスの体にかすり傷をつけただけて地面のゴミと化す。
「そういうこと。参ったわねー」
セリスが肩をすくめる。
大型スケルトンは投擲するとすぐに90度方向を変え、境界沿いにセリスから離れ始めていた。
「基本的な聖導士の動きについてはあっちの、お前等とあまり年の変わらねぇお姉さんの方を見とけ。全体の戦況を把握しつつ支援と攻撃を使い分けてるだろ。簡単そうに見えて難しいってのは、ジョン、マティ。お前等は分かるよな?」
助祭達がうなずきエステルの顔がほんのり赤くなる。
「あー後、あっちの人間城砦聖導士は、盾の使い方や間合いの取り方は参考にしてもいいが」
境界の消失に気付いてガシャドクロがフルスイング。
セリスが真正面から盾で受け止めそのまま拮抗する。
「いいか、絶対にマネすンじゃねぇぞ? ありゃ防御に関しちゃイカれてるレベルだからできるだけだ」
「人を例外みたいに言って」
軽くため息をつく。
『足止めはこちらで行います。攻撃を開始してください』
「はいはい」
一瞬横に目を向けるとエステルが前進してきていた。
光が放たれる。
薄汚れた巨大骨が清らかな光に耐えきれず表面が煙と化す。たった数秒で体積の1割以上がこの世から消えた。
「凄いわね。ボルディア教官ー?」
『応、判定は完勝でいいな。後は任せた』
「りょーかい」
セリスの瞳に強い光が浮かぶ。
巨大な足が圧されたように一歩下がり、セリスより数十倍重い拳骨が何度も何度も突き出される。
「さて授業がおわったら、教材は片付けないとね?」
セリスからも光が広がる。
ハンターのクルセイダーにとって、骸骨の巨大さは脅威には繋がらずただ的が大きいだけでしかない。
数年この地にはびこったガシャドクロが、ひどくあっさあさり灼かれてこの世から消滅した。
●尊い糧
大型歪虚の殺気を浴びて疲労困憊の生徒達。
彼らを待っていたのは温かな食事では無く野外授業だった。
「じゃあ授業を始めるよ。今回教えるのは戦地での食事方法だけど、その前に安全確保しよう。実際の戦場でも食事中の奇襲に対して対策を練るからね」
怨嗟の声が聞こえても仁川 リア(ka3483)は気にしない。
「ほらスケルトンが来てるよ」
密集した草が揺れて、今度は通常の成人サイズのスケルトンが顔を出した。
「突出しない! 防御陣形を怠らずに! 持久力を活かして闘うんだよ!」
体格相応の盾を並べて守りを固め、生徒達が手槍やメイスでちくちく骸骨を攻撃する。
双方命中率が半分を切っている。
「結構やるね」
仁川の予想より生徒達に根性がある。
「ボルディア教官の実戦授業のおかげかな?」
淡く笑って柄のない短剣を手にとった。
足音を立てずに滑りように横へ向かう。
「集中を切らさない。後ろにも気を配る」
浅い傷だらけのスケルトンが崩壊。生徒達が安堵した瞬間仁川が刃を振るう。
太い草が寿数本まとめて切断されて、草ごと真っ二つになった骨が地面に転がった。
「こんなものかな」
新手の気配は無い。
仁川はしゃがみ込んで草の中から何かをつまみ上げた。
「うさぎ?」
「今晩の食材だよ」
逃げたペットより4割は横に大きい。どこかで麦や野菜が自生している可能性もある。
「目はそらさないようにね」
足から吊して混乱している小動物の首をひと切り。
温かな血が零れて予め置いていたバケツに入っていった。
「いつか君たちもやる事になるから」
皮を剥いで中身をご開帳。
一部生徒が嘔吐しても手は止めず、美味し調理して皆に少しずつ食べさせたのだった。
●準備会
「医術は病のみでなく、人や背景を含めて治療を進めていくもの。聖堂教会に多そうな王国民の事もよく知る方も採用できたらと」
ソナ(ka1352)の意見は王国出身で還暦越えの校長よりも地に足が着いている。
「私だったら土地はいりません。衣食住の保証と休暇と貯蓄もできるだけのお金がほしいなあと」
「でも土地ですよ?」
イコニア・カーナボン(kz0040)が心底不思議そうな顔で小首を傾げた。
「前途多難ね」
ルシェン・グライシス(ka5745)が軽く息を吐く。
ソナは各地を飛び回るハンターとして、イコニアは王国の地方貴族として普通の意見を述べている。
お互いの常識が違うので短期間で折り合いをつけるのは困難だ。
「王立学校の教官の報酬を調べられないでしょうか」
「ちょっと待ってください。確か」
見た目は同世代の2人が意見の相違を棚上げして情報をまとめ始めた。
明らかに部外秘、それも他の組織の部外秘が机の上に並べられている気がする。
「在職時のみなので土地の方が」
「でも土地の維持に」
このままでは1週間経っても話がまとまりそうにない。
「イコニア。この報告書、司教の署名がお前の筆跡なんだが」
真司が机の上を指さしていた。
「魔導トラック1台だけだと実習でできる事が限られてくるなぁ」
司教本人の依頼で書いたものだけれども法律的には真っ黒だ。
「きょ、脅迫には屈しません」
ぷるぷる震える少女司祭のまわりに、異様と表現したくなるほど豊かな香りが漂った。
セリスが皆に紅茶を配り、応接用のソファーに座って香りを楽しむ。
「事務仕事ばかりで大丈夫? イコニア君も前線を望むなら、フル装備全疾走で隣町くらいにいける体力は欲しいわよ」
セリスの常識であり聖堂戦士団の理想でもあるが普通のクルセイダーの常識ではない。
「革装備で勘弁してくだ……おいし」
カップを両手で抱えて目を細めた。
「冷めるわよー」
セリスが白い手でメガフォンをつくる。
歪虚相手に戦う様からは想像困難な、女性としての柔らかな一面だった。
ボルディアは生徒に提出させた報告書の添削に集中している。
紅茶が冷えても気づかない。
あのガシャドクロとの戦いで気づいたことと倒すための手段を考えさせた上での、あの歪虚を倒せるハンターによる添削と助言だ。
生徒にとり得がたい経験になるはずだ。
「後は俺がやっておく。次の面接の準備を進めてくれ。……魔導トラックの件もな」
真司が退出してイコニアが天を仰いだ。
ソナが咳払いする。
「イコニアさんは、今迄お会いした先生で、この方はという医師はいらっしゃいませんでしたか?」
きちんとした医学の教育を受けた者、戦場も含めて現場の経験のある者。子ども好きであることも重要で、学校に住むなら尚よし。
「王都では縁が無かったです。地元ではいましたけど」
イコニアの視線が不安定に動く。
「引き抜くと実家に迷惑がかかる……いえ、実家が敵にまわる?」
ルシェンが優雅にカップを下ろしてつぶやき、イコニアは表情を消して微かに首肯する。
「本当に難しい。正直私自身が応募してみたいところなのですが」
エステル(ka5826)がつい本音をこぼしてしまった直後、イコニアが目を光らせて……無意識にマテリアルで光らせて数枚の書類を差し出した。
ハンター業廃業のための手続きと、助祭叙任の手続きと、司祭になるためのややこしい諸手続についての重要書類だ。
「自由に動けなくなるのは困ってしまいます」
エステルは容赦なくイコニアの提案を蹴った。
来て欲しい人に断られる率10割です……と落ち込む司祭の前で話し合いが進む。
「土地を直接報酬にするのは諦めるしかないと思います。するなら収穫高から多少の手数料を取って現金化?」
エステルが言葉を止めた。
自分の案だがしっくりいかない。
「その案でいくべきだと思うわ」
ルシェンがイコニアを見る。嫌な予感に襲われた司祭が中座しようとしてボルディアに捕まる。
「あれでも貴族や富豪の方々の治療を行ってる事が多いみたいですから、それを利用しない手はありませんね」
王国に伝手や宛があるならとれる手段は豊富にある。
来年以降の収穫を担保に金を借りることもできるし、何より。
「王国の富裕層から協力を引き出せるわよね?」
うぐっと司祭がうめく。
「コネは使った分使われる必要が」
「できるのね」
ルシェンが確認し、イコニアは諦めたように首を上下させた。
「医療課程は少なくとも3~4人位、司書は1~2人位は募りたいですね」
多すぎると給金が足りず、少なすぎても休日なしの過重労働になってしまう。
「リストを今日中にお願いね」
「ふぁい」
イコニアは涙目でペンを動かす。
「コネを使いすぎてはダメよ、関係を利用し、保たせて行くからこそ世の中は回ってゆくものですからね?」
男も女も艶やかな唇で付け加えると、司祭の肩がびくりと震えた。
●面接当日
10台近い馬車が護衛を伴い学校に到着した。
身なりの良い男女が降り、護衛によって荷物が運び出されていく。
「どうぞこちらへ」
案内していくソナを見送って、クルス(ka3922)は安堵の息を吐いていた。
「こっそり来てみたはいいけど」
校舎と付属施設を外から見渡す。
金がかかっている。
教室で行われる授業も野外での体力錬成も、覚醒者ならぎりぎり耐えられる程度に厳しい。
「一体この学校どういう方向にもってくつもりなんだ」
半ば求職者、半ばスカウト対象である来客達が、真剣な顔で生徒と設備を観察している。
見慣れない魔導トラックが北から近づいてくる。
その見た目は、地球で言う即製戦闘車両に酷似していた。
「学校……がっ……こう?」
人材集めに協力して本当に良かったのかろうかと、至極真っ当な悩みを抱いてしまった。
大きな人影が真っ直ぐに向かってくる。
咄嗟に人当たりのよい表情をつくり、しかし相手の正体に気付いて無意識にうめいた。
血色の良い肌が脂でぬめっているよう。
眼光は鋭く、けれどそこには清らかさは一欠片もなく欲望が渦巻いている。
控えめに表現して悪徳聖職者、率直な感想としてはこっそり処分した方が世のためになるとしか思えない生き物だ。
「どちら様で?」
「司教だ。この手紙は君のものかね」
クルスが王国騎士団に出したはずのそれを取り出された。
「そう怖い目で見るな」
推定悪徳聖職者が笑う。頑丈な歯は煙草のヤニで汚れていた。
「騎士団から送り返されたのだ。ああ、拙かった訳では無い。逆だ」
葉巻を取り出す。クルスが無言で生徒を示して場内禁煙であることを伝える。
「有能な者を手放したがる組織はいない。安く使えるならなおさらだ」
クルスは嫌悪感をひた隠す。
彼が依頼したのは戦傷による退役者への働き口紹介だ。
傷を負っても義務を果たした同胞を、この男はまるで商品のように言う。
「利害の調整も私の仕事でな。悪く思うなとは言わんよ。ほれ」
1枚の書類を指で飛ばす。
表情を変えずに受け取り、署名を見て目を見張る。
かなり位の高い騎士の署名がある。十数名の退役予定者を紹介してくれるらしい。
「教官級の人材は諦めろ。信用できる農民か開拓者としてなら使えるだろう」
金と権力と腐敗の臭いが、強く感じられた。
その頃、ソナは確かな手応えを感じると同時に違和感を覚えていた。
イコニアの伝を酷使して集めた面々は、ソナやエステルほど有能ではないが教官としても薬草園管理者としても使える。
子供を見た際の反応も確かめた。
報酬面でも予習が役立って適正な額でまとまりそうだ。
この後の面接も参考にして選別すれば問題ない人材が選べるはずなのに、奇妙な予感があった。
「候補のうちマーロウ派が7割か。司祭もコネ作りの腕が上がったな」
遠くで太った司教が歯をむき出す。
マーロウ大公とは、大司教セドリック率いる中央政府の対抗馬である。
スケルトンの全長は成人男性の3倍を超えていた。
「気付かれたな」
柊 真司(ka0705)は荷台から音も立てずに飛び降りた。
トラックが十数メートル行きすぎてようやく停車する。
歪虚との距離は100メートル強。
最悪十数秒で戦闘が始まってしまう距離でしかない。
「魔導トラックで戦う場合はできるだけ2人以上で班を組んで運用した方が良い。1人で全てやってると周囲の警戒が疎かになって気がついたら敵に囲まれてるって事もありうるからな」
警戒はしても恐れる様子は全くなく、手際よく生徒達を誘導していく。
荷台に詰め込まれていた生徒達が怖々と降りて整列し、荷台に残った助祭が車載機銃の安全装置を解除する。
「それに機関銃を撃つ場合も一人が双眼鏡とか持って射弾観測をやれば命中率も向上する。人数に余裕があるなら運転手と射手を分担させたりすると尚良いかな」
トラックが後退しつつ右折。
巨大スケルトンに尻を向ける形で停まった。
虚ろな眼窩がトラックと生徒達を正確に捉え、奥の何かが蠢いた。
ボルディア・コンフラムス(ka0796)が鼻を鳴らす。
彼女の落ち着いた態度が生徒達に伝わって、崩れかけた行列が元に戻る。
「ジョン、マティ、出番だぞ何をしてる。ガキ共にみっともねぇとこ見せる気か?」
助祭2人の顔が羞恥と怒りに歪んだのは一瞬のみ。
機銃がかなりの速度で大型歪虚に向けられて、軽快な音を立てて銃撃が始まった。
「あー……なんでこう大事な時に怪我しちまうかなぁ、俺ぁ」
ぽろりと内心が口から零れ銃声でかき消された。
生徒視点では、戦場帰りの不敵な女戦士にしか見えていない。
「ガシャドクロか」
「ふん、しっくりくる名前じゃねぇか」
銃声と銃声の合間に真司の言葉を聞き取りにやりと笑う。
「気を抜くな。ガシャドクロが向かってくるぞ。盾を構えろ、足下を確かめて回避の準備」
既に巨大だったスケルトンがいきなり倍ほどの大きさになった。
深い川から川岸に上がったのだ。
「慌てんな。攻撃のチャンスだ」
トラックが数メートル徐行し固い地面で再停止。
機銃がますます安定。普通の拳銃とは次元の異なる威力の弾が数発、巨大な骨に着弾した。
「一旦後退っ」
助祭が号令をかける。
「よく見ろ。人間城砦聖導士が食い止める」
白銀全身甲冑が巨大骨の前に立ちふさがる。
重量差を考えれば接触即死でもおかしくないのに、大型歪虚は前に進もうとしてセリス・アルマーズ(ka1079)との残り1メートルを詰められない。
まるで速度を消してしまう無色の柱があるかのようだ。
「敵味方の行動を見逃すな。自分に何が出来るか常に考え続けろ」
生徒達がごくりと生唾を飲み込んだ。
「ああっ」
生徒から悲鳴があがる。
巨大骸骨が足下の岩を拾い上げ、セリスとトラックの中間付近にいたエステル(ka5826)目がけて投擲した。
大きい。低速に見えても籠もったエネルギーは膨大だ。体格の良い馬でも当たれば危ない。
『指揮が出来ていませんよ』
通信機越しのエステルの声は穏やかだが中身は叱責だった。
荷台の助祭は生徒へ後退を指示。
運転席の助祭はエステルに待避を、セリスにディヴァインウィルの解除を要請した。
エステルが馬も庇う形で盾を構える。
岩は盾と衝突して内側から砕けてしまい、エリスの体にかすり傷をつけただけて地面のゴミと化す。
「そういうこと。参ったわねー」
セリスが肩をすくめる。
大型スケルトンは投擲するとすぐに90度方向を変え、境界沿いにセリスから離れ始めていた。
「基本的な聖導士の動きについてはあっちの、お前等とあまり年の変わらねぇお姉さんの方を見とけ。全体の戦況を把握しつつ支援と攻撃を使い分けてるだろ。簡単そうに見えて難しいってのは、ジョン、マティ。お前等は分かるよな?」
助祭達がうなずきエステルの顔がほんのり赤くなる。
「あー後、あっちの人間城砦聖導士は、盾の使い方や間合いの取り方は参考にしてもいいが」
境界の消失に気付いてガシャドクロがフルスイング。
セリスが真正面から盾で受け止めそのまま拮抗する。
「いいか、絶対にマネすンじゃねぇぞ? ありゃ防御に関しちゃイカれてるレベルだからできるだけだ」
「人を例外みたいに言って」
軽くため息をつく。
『足止めはこちらで行います。攻撃を開始してください』
「はいはい」
一瞬横に目を向けるとエステルが前進してきていた。
光が放たれる。
薄汚れた巨大骨が清らかな光に耐えきれず表面が煙と化す。たった数秒で体積の1割以上がこの世から消えた。
「凄いわね。ボルディア教官ー?」
『応、判定は完勝でいいな。後は任せた』
「りょーかい」
セリスの瞳に強い光が浮かぶ。
巨大な足が圧されたように一歩下がり、セリスより数十倍重い拳骨が何度も何度も突き出される。
「さて授業がおわったら、教材は片付けないとね?」
セリスからも光が広がる。
ハンターのクルセイダーにとって、骸骨の巨大さは脅威には繋がらずただ的が大きいだけでしかない。
数年この地にはびこったガシャドクロが、ひどくあっさあさり灼かれてこの世から消滅した。
●尊い糧
大型歪虚の殺気を浴びて疲労困憊の生徒達。
彼らを待っていたのは温かな食事では無く野外授業だった。
「じゃあ授業を始めるよ。今回教えるのは戦地での食事方法だけど、その前に安全確保しよう。実際の戦場でも食事中の奇襲に対して対策を練るからね」
怨嗟の声が聞こえても仁川 リア(ka3483)は気にしない。
「ほらスケルトンが来てるよ」
密集した草が揺れて、今度は通常の成人サイズのスケルトンが顔を出した。
「突出しない! 防御陣形を怠らずに! 持久力を活かして闘うんだよ!」
体格相応の盾を並べて守りを固め、生徒達が手槍やメイスでちくちく骸骨を攻撃する。
双方命中率が半分を切っている。
「結構やるね」
仁川の予想より生徒達に根性がある。
「ボルディア教官の実戦授業のおかげかな?」
淡く笑って柄のない短剣を手にとった。
足音を立てずに滑りように横へ向かう。
「集中を切らさない。後ろにも気を配る」
浅い傷だらけのスケルトンが崩壊。生徒達が安堵した瞬間仁川が刃を振るう。
太い草が寿数本まとめて切断されて、草ごと真っ二つになった骨が地面に転がった。
「こんなものかな」
新手の気配は無い。
仁川はしゃがみ込んで草の中から何かをつまみ上げた。
「うさぎ?」
「今晩の食材だよ」
逃げたペットより4割は横に大きい。どこかで麦や野菜が自生している可能性もある。
「目はそらさないようにね」
足から吊して混乱している小動物の首をひと切り。
温かな血が零れて予め置いていたバケツに入っていった。
「いつか君たちもやる事になるから」
皮を剥いで中身をご開帳。
一部生徒が嘔吐しても手は止めず、美味し調理して皆に少しずつ食べさせたのだった。
●準備会
「医術は病のみでなく、人や背景を含めて治療を進めていくもの。聖堂教会に多そうな王国民の事もよく知る方も採用できたらと」
ソナ(ka1352)の意見は王国出身で還暦越えの校長よりも地に足が着いている。
「私だったら土地はいりません。衣食住の保証と休暇と貯蓄もできるだけのお金がほしいなあと」
「でも土地ですよ?」
イコニア・カーナボン(kz0040)が心底不思議そうな顔で小首を傾げた。
「前途多難ね」
ルシェン・グライシス(ka5745)が軽く息を吐く。
ソナは各地を飛び回るハンターとして、イコニアは王国の地方貴族として普通の意見を述べている。
お互いの常識が違うので短期間で折り合いをつけるのは困難だ。
「王立学校の教官の報酬を調べられないでしょうか」
「ちょっと待ってください。確か」
見た目は同世代の2人が意見の相違を棚上げして情報をまとめ始めた。
明らかに部外秘、それも他の組織の部外秘が机の上に並べられている気がする。
「在職時のみなので土地の方が」
「でも土地の維持に」
このままでは1週間経っても話がまとまりそうにない。
「イコニア。この報告書、司教の署名がお前の筆跡なんだが」
真司が机の上を指さしていた。
「魔導トラック1台だけだと実習でできる事が限られてくるなぁ」
司教本人の依頼で書いたものだけれども法律的には真っ黒だ。
「きょ、脅迫には屈しません」
ぷるぷる震える少女司祭のまわりに、異様と表現したくなるほど豊かな香りが漂った。
セリスが皆に紅茶を配り、応接用のソファーに座って香りを楽しむ。
「事務仕事ばかりで大丈夫? イコニア君も前線を望むなら、フル装備全疾走で隣町くらいにいける体力は欲しいわよ」
セリスの常識であり聖堂戦士団の理想でもあるが普通のクルセイダーの常識ではない。
「革装備で勘弁してくだ……おいし」
カップを両手で抱えて目を細めた。
「冷めるわよー」
セリスが白い手でメガフォンをつくる。
歪虚相手に戦う様からは想像困難な、女性としての柔らかな一面だった。
ボルディアは生徒に提出させた報告書の添削に集中している。
紅茶が冷えても気づかない。
あのガシャドクロとの戦いで気づいたことと倒すための手段を考えさせた上での、あの歪虚を倒せるハンターによる添削と助言だ。
生徒にとり得がたい経験になるはずだ。
「後は俺がやっておく。次の面接の準備を進めてくれ。……魔導トラックの件もな」
真司が退出してイコニアが天を仰いだ。
ソナが咳払いする。
「イコニアさんは、今迄お会いした先生で、この方はという医師はいらっしゃいませんでしたか?」
きちんとした医学の教育を受けた者、戦場も含めて現場の経験のある者。子ども好きであることも重要で、学校に住むなら尚よし。
「王都では縁が無かったです。地元ではいましたけど」
イコニアの視線が不安定に動く。
「引き抜くと実家に迷惑がかかる……いえ、実家が敵にまわる?」
ルシェンが優雅にカップを下ろしてつぶやき、イコニアは表情を消して微かに首肯する。
「本当に難しい。正直私自身が応募してみたいところなのですが」
エステル(ka5826)がつい本音をこぼしてしまった直後、イコニアが目を光らせて……無意識にマテリアルで光らせて数枚の書類を差し出した。
ハンター業廃業のための手続きと、助祭叙任の手続きと、司祭になるためのややこしい諸手続についての重要書類だ。
「自由に動けなくなるのは困ってしまいます」
エステルは容赦なくイコニアの提案を蹴った。
来て欲しい人に断られる率10割です……と落ち込む司祭の前で話し合いが進む。
「土地を直接報酬にするのは諦めるしかないと思います。するなら収穫高から多少の手数料を取って現金化?」
エステルが言葉を止めた。
自分の案だがしっくりいかない。
「その案でいくべきだと思うわ」
ルシェンがイコニアを見る。嫌な予感に襲われた司祭が中座しようとしてボルディアに捕まる。
「あれでも貴族や富豪の方々の治療を行ってる事が多いみたいですから、それを利用しない手はありませんね」
王国に伝手や宛があるならとれる手段は豊富にある。
来年以降の収穫を担保に金を借りることもできるし、何より。
「王国の富裕層から協力を引き出せるわよね?」
うぐっと司祭がうめく。
「コネは使った分使われる必要が」
「できるのね」
ルシェンが確認し、イコニアは諦めたように首を上下させた。
「医療課程は少なくとも3~4人位、司書は1~2人位は募りたいですね」
多すぎると給金が足りず、少なすぎても休日なしの過重労働になってしまう。
「リストを今日中にお願いね」
「ふぁい」
イコニアは涙目でペンを動かす。
「コネを使いすぎてはダメよ、関係を利用し、保たせて行くからこそ世の中は回ってゆくものですからね?」
男も女も艶やかな唇で付け加えると、司祭の肩がびくりと震えた。
●面接当日
10台近い馬車が護衛を伴い学校に到着した。
身なりの良い男女が降り、護衛によって荷物が運び出されていく。
「どうぞこちらへ」
案内していくソナを見送って、クルス(ka3922)は安堵の息を吐いていた。
「こっそり来てみたはいいけど」
校舎と付属施設を外から見渡す。
金がかかっている。
教室で行われる授業も野外での体力錬成も、覚醒者ならぎりぎり耐えられる程度に厳しい。
「一体この学校どういう方向にもってくつもりなんだ」
半ば求職者、半ばスカウト対象である来客達が、真剣な顔で生徒と設備を観察している。
見慣れない魔導トラックが北から近づいてくる。
その見た目は、地球で言う即製戦闘車両に酷似していた。
「学校……がっ……こう?」
人材集めに協力して本当に良かったのかろうかと、至極真っ当な悩みを抱いてしまった。
大きな人影が真っ直ぐに向かってくる。
咄嗟に人当たりのよい表情をつくり、しかし相手の正体に気付いて無意識にうめいた。
血色の良い肌が脂でぬめっているよう。
眼光は鋭く、けれどそこには清らかさは一欠片もなく欲望が渦巻いている。
控えめに表現して悪徳聖職者、率直な感想としてはこっそり処分した方が世のためになるとしか思えない生き物だ。
「どちら様で?」
「司教だ。この手紙は君のものかね」
クルスが王国騎士団に出したはずのそれを取り出された。
「そう怖い目で見るな」
推定悪徳聖職者が笑う。頑丈な歯は煙草のヤニで汚れていた。
「騎士団から送り返されたのだ。ああ、拙かった訳では無い。逆だ」
葉巻を取り出す。クルスが無言で生徒を示して場内禁煙であることを伝える。
「有能な者を手放したがる組織はいない。安く使えるならなおさらだ」
クルスは嫌悪感をひた隠す。
彼が依頼したのは戦傷による退役者への働き口紹介だ。
傷を負っても義務を果たした同胞を、この男はまるで商品のように言う。
「利害の調整も私の仕事でな。悪く思うなとは言わんよ。ほれ」
1枚の書類を指で飛ばす。
表情を変えずに受け取り、署名を見て目を見張る。
かなり位の高い騎士の署名がある。十数名の退役予定者を紹介してくれるらしい。
「教官級の人材は諦めろ。信用できる農民か開拓者としてなら使えるだろう」
金と権力と腐敗の臭いが、強く感じられた。
その頃、ソナは確かな手応えを感じると同時に違和感を覚えていた。
イコニアの伝を酷使して集めた面々は、ソナやエステルほど有能ではないが教官としても薬草園管理者としても使える。
子供を見た際の反応も確かめた。
報酬面でも予習が役立って適正な額でまとまりそうだ。
この後の面接も参考にして選別すれば問題ない人材が選べるはずなのに、奇妙な予感があった。
「候補のうちマーロウ派が7割か。司祭もコネ作りの腕が上がったな」
遠くで太った司教が歯をむき出す。
マーロウ大公とは、大司教セドリック率いる中央政府の対抗馬である。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/19 13:01:20 |
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イコニアさんへ質問 ソナ(ka1352) エルフ|19才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/06/19 21:52:54 |
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【相談卓】 仁川 リア(ka3483) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/06/21 15:16:36 |