ゲスト
(ka0000)
【壊神】ブラフマー攻防戦
マスター:草なぎ

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/06/23 19:00
- 完成日
- 2016/06/26 19:56
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国西方リベルタース、ハルトフォート砦。
午後、司令官のラーズスヴァン始め、将官らが集まって会議を行っていた。今日の議題はシヴァ(kz0187)の機動要塞ブラフマーの件であった。実は会議自体は定例会合であって、別段特別なものではなかったのだが、事態が一変したのは会議室に黒い小鳥が入ってきたことであった。小鳥はシヴァの使い魔であった。壁の隙間をスライムに変容して通り抜けてくると、会議室に侵入して来たのである。小鳥の口から陽炎が幻影となって立ち上り、シヴァの姿が映し出される。一度見ているラーズスヴァンとリンスファーサ・ブラックホーク(kz0188)上級騎士卿以外は、度肝を抜かれた。
「待て」
ラーズスヴァンが全員を制止した。ドワーフはゆったりと腰かけた。
「シヴァ。用もなくお前がここまで来ないよなあ? とわしは思うわけだが」
「ラーズスヴァン司令、そろそろ均衡を崩そうか」
「ふうむ……わしもな、色々考えておるのだが……。噂程度にはユニットが幾度か使われ始めていることも聞き及んでおるしのう」
「ほう……? まあ、いずれにしても、先手を取るのは我々だ。まずは主導権を握らせて頂く」
「何をする気だ」
「少し、踏み込ませもらうぞ。リベルタースへ」
シヴァの声が響き渡ると、ラーズスヴァンは笑った。
「そいつは手間が省けるなあ、おい」
ラーズスヴァンは手を上げた。リンスファーサが拳銃を抜いて使い魔を撃ち殺した。
「向こうから来てくれるらしい。こんなありがたい話はないよなあ?」
ドワーフの豪胆な笑みに、将官たちは吐息した。
そしてラーズスヴァンは命令を出した。ブラフマー対応部隊を編成するとともに、敵要塞の動きを逐一報告させるようにする。実戦部隊には、リンスファーサも加わることとなった。
カレン・ブラックホーク(kz0193)伯爵が合流させた黒鷹騎士団のレオンハルト・シュナイダーとマリア・ハウザー、そして傭兵隊長のアルベール・ホワイトら、十数人の騎士と傭兵たちは、この実戦部隊に合流することになる。ラーズスヴァンとしては別段作戦に介入してくるとかでない限り、カレン伯の兵が戦場に加わることを容認していた。そのことはレオンハルトらも承知していたから、合流するに当たりラーズスヴァンの許可を求めている。
流浪のイェーガー、ジューク・マシガンは、酒場で仲間と飲んでいた。そこへ、隊長が姿を見せた。
「仕事だ」
「またどんな歪虚ですか?」
ジュークが尋ねると、隊長は肩をすくめた。
「シヴァの要塞ブラフマーが侵攻して来た。ハンターと連携して突入部隊が編成されることになった」
ジュークは、やや間を置いて、ウイスキーを飲み干すと、煙草に火をつけた。
「もう一回、ゆっくり言ってもらえませんかね? 空耳かと思ったもんで」
第六商会の女、クロエ・スコットは、ハルトフォート砦の支店を訪れていて、慌ただしく動き回る兵士からシヴァ侵攻の話を聞きつけていた。
クロエは従業員と軽く言葉を交わすと、奥のスタッフ専用の部屋に消えた。
室内でテーブルから紙とペンをとりだしたクロエは、ヘクス・シャルシェレット(kz0015)に宛てた手紙を書き始めた。
……ヘクス親王殿下。ハルトフォートにて、ブラフマー上陸侵攻の情報を入手いたしました。これより私の方で行動を開始致します。(中略)事後になりますが、後ほど詳細をお送り致します。
ペンを置いたクロエは、最後に自分の名前を署名して、封筒に手紙を入れて封蝋を施した。
クロエはクローゼットを開けた。戦闘服と武器が姿を見せる。クロエは戦闘服に着替え、剣と銃を装備する。そして、クロエは店を出た。手紙を送っておくと、クロエは兵士に混じって歩き出した。
機動要塞ブラフマーは、リベルタース沿岸某所から上陸すると、陸上を悠然と進み始めた。もうもうと煙が立ち上る。ブラフマーは微かに浮いていたが、全長一キロの黒いピラミッドが巡航する姿は、歩く魔城であった。幸いなことに村々の間や町をすり抜け、荒野を走り、ブラフマーは旧伯爵領の一角、荒れ地の中で停止した。
要塞内部で、シヴァは艦橋にいた。あちこちのスクリーンに、ピラミッドに内蔵されている「目」が捉えた外の様子が映し出されている。ある程度の遠距離も捉えていた。
「さてと……」
シヴァは変容して少年の姿になると、麾下のパールバティとインドラを顧みた。
「私は少し留守にする。要塞の指揮はお前たちに任せる」
「了解しました」
インドラはお辞儀する。
「お気を付けて。まさかとは思いますが、戦場にはお出になるつもりはありませんよね」
パールバティが肩をすくめると、シヴァも肩をすくめた。
「ちょっと散歩に出るだけだ。ここからは離れる。ではな」
そんなこんなでシヴァはブラフマーから出て行った。
……そして。
編成されたブラフマー攻撃部隊にはハンターの姿も見える。数は少ないがハルトフォート砦に現存する大砲、そしてかたや投石機やバリスタが凄まじく大量に配備されていた。
この部隊の指揮官ミルズ・ミュラ上級騎士卿は、剣を抜いた。そして振り下ろす。
「攻撃開始」
砲撃が始まる。大砲が火を噴き、そして投石機とバリスタから次々と石弾が放出される。
果たして――。
最初、持ち堪えていた鉄壁とも思われたブラフマーの壁があちこちで突き破られて行く。
その様子を望遠鏡で確認したミュラは、全軍に要塞への突入を命じた。
ピラミッドのあちこちから穴が空いて、アイテルカイトの戦士や騎士たちが降り立ってくる。
リンスファーサは駆けだした。副官のアレックス・ブラッド卿が続く。
レオンハルト、マリア、アルベールらも加速する。
そして、あのジュークも駆り出されて駆け抜けていた。
軍に紛れ込んでいたクロエは機を窺って、走りだした。
そして、ハンター達もまた。
かくして均衡は破られた。ブラフマーを巡る動きが、リベルタースで渦を巻き始めるのであった。
午後、司令官のラーズスヴァン始め、将官らが集まって会議を行っていた。今日の議題はシヴァ(kz0187)の機動要塞ブラフマーの件であった。実は会議自体は定例会合であって、別段特別なものではなかったのだが、事態が一変したのは会議室に黒い小鳥が入ってきたことであった。小鳥はシヴァの使い魔であった。壁の隙間をスライムに変容して通り抜けてくると、会議室に侵入して来たのである。小鳥の口から陽炎が幻影となって立ち上り、シヴァの姿が映し出される。一度見ているラーズスヴァンとリンスファーサ・ブラックホーク(kz0188)上級騎士卿以外は、度肝を抜かれた。
「待て」
ラーズスヴァンが全員を制止した。ドワーフはゆったりと腰かけた。
「シヴァ。用もなくお前がここまで来ないよなあ? とわしは思うわけだが」
「ラーズスヴァン司令、そろそろ均衡を崩そうか」
「ふうむ……わしもな、色々考えておるのだが……。噂程度にはユニットが幾度か使われ始めていることも聞き及んでおるしのう」
「ほう……? まあ、いずれにしても、先手を取るのは我々だ。まずは主導権を握らせて頂く」
「何をする気だ」
「少し、踏み込ませもらうぞ。リベルタースへ」
シヴァの声が響き渡ると、ラーズスヴァンは笑った。
「そいつは手間が省けるなあ、おい」
ラーズスヴァンは手を上げた。リンスファーサが拳銃を抜いて使い魔を撃ち殺した。
「向こうから来てくれるらしい。こんなありがたい話はないよなあ?」
ドワーフの豪胆な笑みに、将官たちは吐息した。
そしてラーズスヴァンは命令を出した。ブラフマー対応部隊を編成するとともに、敵要塞の動きを逐一報告させるようにする。実戦部隊には、リンスファーサも加わることとなった。
カレン・ブラックホーク(kz0193)伯爵が合流させた黒鷹騎士団のレオンハルト・シュナイダーとマリア・ハウザー、そして傭兵隊長のアルベール・ホワイトら、十数人の騎士と傭兵たちは、この実戦部隊に合流することになる。ラーズスヴァンとしては別段作戦に介入してくるとかでない限り、カレン伯の兵が戦場に加わることを容認していた。そのことはレオンハルトらも承知していたから、合流するに当たりラーズスヴァンの許可を求めている。
流浪のイェーガー、ジューク・マシガンは、酒場で仲間と飲んでいた。そこへ、隊長が姿を見せた。
「仕事だ」
「またどんな歪虚ですか?」
ジュークが尋ねると、隊長は肩をすくめた。
「シヴァの要塞ブラフマーが侵攻して来た。ハンターと連携して突入部隊が編成されることになった」
ジュークは、やや間を置いて、ウイスキーを飲み干すと、煙草に火をつけた。
「もう一回、ゆっくり言ってもらえませんかね? 空耳かと思ったもんで」
第六商会の女、クロエ・スコットは、ハルトフォート砦の支店を訪れていて、慌ただしく動き回る兵士からシヴァ侵攻の話を聞きつけていた。
クロエは従業員と軽く言葉を交わすと、奥のスタッフ専用の部屋に消えた。
室内でテーブルから紙とペンをとりだしたクロエは、ヘクス・シャルシェレット(kz0015)に宛てた手紙を書き始めた。
……ヘクス親王殿下。ハルトフォートにて、ブラフマー上陸侵攻の情報を入手いたしました。これより私の方で行動を開始致します。(中略)事後になりますが、後ほど詳細をお送り致します。
ペンを置いたクロエは、最後に自分の名前を署名して、封筒に手紙を入れて封蝋を施した。
クロエはクローゼットを開けた。戦闘服と武器が姿を見せる。クロエは戦闘服に着替え、剣と銃を装備する。そして、クロエは店を出た。手紙を送っておくと、クロエは兵士に混じって歩き出した。
機動要塞ブラフマーは、リベルタース沿岸某所から上陸すると、陸上を悠然と進み始めた。もうもうと煙が立ち上る。ブラフマーは微かに浮いていたが、全長一キロの黒いピラミッドが巡航する姿は、歩く魔城であった。幸いなことに村々の間や町をすり抜け、荒野を走り、ブラフマーは旧伯爵領の一角、荒れ地の中で停止した。
要塞内部で、シヴァは艦橋にいた。あちこちのスクリーンに、ピラミッドに内蔵されている「目」が捉えた外の様子が映し出されている。ある程度の遠距離も捉えていた。
「さてと……」
シヴァは変容して少年の姿になると、麾下のパールバティとインドラを顧みた。
「私は少し留守にする。要塞の指揮はお前たちに任せる」
「了解しました」
インドラはお辞儀する。
「お気を付けて。まさかとは思いますが、戦場にはお出になるつもりはありませんよね」
パールバティが肩をすくめると、シヴァも肩をすくめた。
「ちょっと散歩に出るだけだ。ここからは離れる。ではな」
そんなこんなでシヴァはブラフマーから出て行った。
……そして。
編成されたブラフマー攻撃部隊にはハンターの姿も見える。数は少ないがハルトフォート砦に現存する大砲、そしてかたや投石機やバリスタが凄まじく大量に配備されていた。
この部隊の指揮官ミルズ・ミュラ上級騎士卿は、剣を抜いた。そして振り下ろす。
「攻撃開始」
砲撃が始まる。大砲が火を噴き、そして投石機とバリスタから次々と石弾が放出される。
果たして――。
最初、持ち堪えていた鉄壁とも思われたブラフマーの壁があちこちで突き破られて行く。
その様子を望遠鏡で確認したミュラは、全軍に要塞への突入を命じた。
ピラミッドのあちこちから穴が空いて、アイテルカイトの戦士や騎士たちが降り立ってくる。
リンスファーサは駆けだした。副官のアレックス・ブラッド卿が続く。
レオンハルト、マリア、アルベールらも加速する。
そして、あのジュークも駆り出されて駆け抜けていた。
軍に紛れ込んでいたクロエは機を窺って、走りだした。
そして、ハンター達もまた。
かくして均衡は破られた。ブラフマーを巡る動きが、リベルタースで渦を巻き始めるのであった。
リプレイ本文
ボルディア・コンフラムス(ka0796)、ルカ(ka0962)、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)、鞍馬 真(ka5819)の四人は、一つのチームでブラフマーに侵入した。アイテルカイト兵を排し、前進する。
「しばらくここには来ていなかったが……何だこりゃ?」
ボルディアは内部を見やる。要塞の中は闇色のクリスタルで出来ており、クリスタルの中には神経や血管のようなものが光のチューブとなって走っている。クリスタル自体が淡く光っているものもあり、要塞内部は意外と視界が利く。
「そもそもシヴァとじかに会った奴もおらんのだろ?」
ボルディアは斧で壁をごつごつつつくと、鞍馬を見やる。
「ああ、私は何度か、敵将とまみえたことはあるのだが。確かに、誰もシヴァを見た奴はいない。リベルタースに先制攻撃があった時、ラーズスヴァンだけが、それをシヴァの『破壊の光』と確信した」
「つーことはさ、俺達はまだ状況だけで対応してる、てことだよな? このでかぶつを動かしてる奴が、誰かも実際には分かってないわけだろ?」
「状況的にはそうだな」
レイオスは、肩をすくめた。
「とは言え、状況証拠としては十分な気もするがな」
仲間たちが話す傍らで、ルカは方位磁石を手にマッピングしていた。
「……心配ごとの種はつきませんね……」
ルカが顔を上げると、ボルディアはからからと笑った。
「俺なんて存在自体が心配ごとの種になってるぜ」
「え、ええ?……どうかしたんですかボルディアさん……?」
ルカの言葉に、ボルディアは頭をかいた。
「ん? ああ……俺なあ、ハンターとして長く歪虚と戦う内に自身に迷いが生じてきたんだよな。歪虚を全て倒せば本当に英雄になるのか。そもそも英雄とは何か。自分は何がしたいのか。何か最近迷ってばかりでよ」
「人間最後は自分との戦いだからな」
レイオスが言って、肩をすくめる。
「自分との戦いかあ……」
「乗り越えられない壁が出て来た時、色んな選択をする人間がいるよな」
鞍馬が言った。
「壁に立ち向かい、乗り越えようとする者。他に道がないか迂回路を探す者。そして、壁を見たら諦めて逃げる者などなど……。まあ、精神的には、逃げるのが一番楽なんだが、俺はボルディア君みたいに戦い続けることが出来る人を尊敬するよ」
「そんなかっこいいもんじゃねえよ」
ボルディアは笑った。
「まあ、そもそも乗り越える必要なんてないのかも知れんがな。別の道を歩くことだってできるわけだしな」
レイオスは歩きながら言った。
「あー! 分かんねえ! やっぱ俺はぐだぐだ考えてるより殴ってる方が性に合ってるのかも」
ボルディアは斧で壁を殴った。闇クリスタルが砕け散る。
「ボルディアさんは優しい人ですから……」
ルカは言って、微笑んだ。
メイム(ka2290)、エルバッハ・リオン(ka2434)、ザレム・アズール(ka0878)、ミオレスカ(ka3496)、星野 ハナ(ka5852)、花(ka6246)のチームは、何やかやと前進しながら、ザレムを先頭に、上層階を目指していた。が、ひとまず花の覚醒時間があるので、まずは一階を策敵していた。
「しかしこれはハードだねえ」
花は眉をひそめ、肌で感じる違和感に腕をさすった。
「これは……中は何かおかしいな」
ザレムは天井を走る光のチューブを見上げた。
「これさ……何か常にバステに晒されてるとか……そんな感じじゃね? 何だろうな……負のマテリアルを浴びているとか……そんな感じがする」
「きゃっ」
ハナがザレムに抱きついた。
「今そこに、何か得体の知れない影が走って行ったような。ザレムさんここ怖いですぅ」
ハナはザレムの体をさりげなくボディタッチ。
「大丈夫だよ星野。さっきは『わーい、何かこれハードモードですよぅ』とか言って騒いでたじゃんか」
「え~、そうなんですけどぉ……ちょっとは心配してくれないんですかぁ」
「心配? 君を? まさか。俺が心配なのは花だな。花、大丈夫か」
「ええ……まあ。今のところは。私は、出来る限り、PDAのカメラで内部を撮影しておきましょう」
花は言って、ばしゃばしゃブラフマーの内部を撮影していく。
「この人数でインドラとか会いたくないねぇ」
メイムが言って、トランシーバーで鞍馬と連絡を取る。鞍馬のチームも順調に進んでいるようだ。
ミオレスカは、LEDライトで前方を照らして、進んでいた。
と、アイテルカイトが通路から出現した。アイテルカイト兵が何か動作に入りかけたので、ミオレスカは魔導拳銃で撃ち抜いた。倒れるアイテルカイト。塵となって消滅する。
「ふう……雑魔兵か妖魔でしたか?」
ミオレスカは言って、銃を下ろす。
「ブラフマー進軍ですか。敵にどういう意図があるかは分かりませんが、負けるわけにはいきませんね」
エルは呟いていた。
交差路に差し掛かったところで、ザレム達は立ち止った。
――と、クリスタルの隔壁が降りて来て、ハンターたちは閉じ込められた。
「ちい……」
メイムは壁を殴って壊し始めた。
しかし、床からガスが噴き出し始めた。
「きゃ~、毒ガスですよ~!」
ハナがなぜかハイテンションで騒いでいる。ザレムの腕にしがみつく。
「いいから早く壁に五色光撃てよ!」
ザレムが試作型重機関銃「恵方撒」を構える。銃撃開始。
ミオレスカも壁を銃で撃ち始めた。
エルはファイアーボールを叩き込んだ。
花もデリンジャーを壁にぶち込む。
隔壁は、エルのファイアーボール一発で消し飛んだ。
「こっちです!」
エルは駆けだした。
一同走りだす。
「あっ……!」
ハナは転んだ。
「ザ、ザレムさん! 助けて!」
見ると、ハナの足にうねうねした光のチューブが絡みついている。
「何これ! きゃ~!」
「全く世話の焼ける奴だな」
ザレムは急いでハナに駆け寄ると、チューブを引きちぎって彼女を抱き上げて走りだした。
毒ガス室からアイテルカイト兵が数体追撃してくる。
エルはファイアーボールでまとめて始末した。
ハンター達は走った。走りながらも、花はPDAに情報を登録していた。
ボルディア、ルカ、レイオス、鞍馬らは、着実に前進していた。幾度かの交戦があったが、無難にやり過ごし、撃破し、前進していた。
「……そう複雑怪奇な迷路と言うわけではないようですね……」
ルカは手元のクリップボードに記したマッピングの記述を確認していた。自分たちが入ってきた方向から、ほぼまっすぐに要塞の中心部に向かって進んでいる。他に枝分かれしている道もあったが、恐らく主通路からは外れるのだろう。
その時だった。正面から、金髪の女性歪虚が姿を見せた。角を生やして戦闘服を身に付けている。
「あら、人間じゃない」
パールバティであった。
とは知らず、しかし交戦も避けたいハンター達は、間を取った。
「シヴァはここにはいないわよ。今はね。出掛けちゃったの」
「何だ……? てめえは?」
ボルディアは言って、ウラガンクーペを構えた。
ルカをかばうように、レイオスと鞍馬も身構える。
「私はパールバティ。黒伯爵。今はね、フリーなの。要塞の指揮はインドラが執ってるからね」
「ほう……」
ボルディアは後退した。やべー、ネームド歪虚だわ。ここは戦術的撤退だろー。
鞍馬が進み出た。
「パールバティと言ったな。歪虚。インドラの他に、まだ君のような奴がいるのか」
「インドラを知ってるの?」
「少し、な」
「ふうん……。シヴァ様麾下で、黒伯爵は私とインドラだけよ。インドラが腕なら、私は翼、てところかしら」
そこでレイオスが進み出る。
「せっかく来たんだから美人のガイドくらい出てきて欲しいもんだと思っていたが、パールバティとはね。いやはや」
レイオスは、魔導銃を構えると、トリガーを引いてぶっ放し始めた。
「逃げろ!」
銃弾がパールバティの手前で黄金色のバリアーに弾かれて落ちて行く。
ハンター達は反転して逃走した。パールバティは追ってこなかった。
「…………」
ルカは吐息して、マップを見やる。
「ということで、パールバティさんは……追ってこない様子ですが……別の道を探しますか……」
「そうだな……」
ボルディアは思案顔。
ザレム達は、花の覚醒時間を考慮して、いったん要塞の外に向かって移動していた。そこで、要塞の角地に位置する部屋で、他とは異なる部屋を発見する。
そこには、部屋の中央に巨大なクリスタルが設置されていて、そのクリスタルから光のチューブがあちこちに伸びていた。クリスタルは中心部に闇色の炎が浮かんでいて、白く光っていた。クリスタルの下には魔法陣が浮かんでいて、クリスタルも浮かんでいた。魔法陣は部屋の至る所に浮かんでいて、空間を漂っていた。
花はその室内をPDAで撮影して収めた。
「これは貴重な映像が撮れたね。解析に回してもらうとしよう」
ザレムが先頭に立って踏み込んだ。室内には誰もいない。
「この魔法陣はなんだろう~? 邪悪な力の源かなあ?」
メイムは魔法陣をハンマーで突いてみた。魔法陣は、カキイイイイイイン……と、跳ね返って、ただ漂っている。
「皆の様子も含めて、撮影しておくとしよう」
花は端末のカメラで撮影を開始した。
撮影のカメラが作動する中、ハンター達は室内に入って行った。花は仲間たちの後方からその様子をカメラに捉えていく。
「下手に刺激するのもどうかと思うが……どうしたもんだろうな」
ザレムは内部を確認して、進んだ。
「どういうロジックになってるんですかねぇ」
ハナも不思議そうにザレムの後に続いて行く。ハナは思案顔でザレムの腕にそっと手を置いた。
「魔法の力の供給源だとすれば……このクリスタルは動力の一部か何かかなあ」
メイムが言うと、ミオレスカは思案した。
「やはりここは、破壊しておいた方が良いかもしれません」
「ブラフマーの動力源の一部でも破壊できれば、動きを鈍らせることが出来るかもしれません」
エルは言って、魔法陣を警戒して見上げた。
花のPDAは大活躍であった。カメラ機能で画像をそのまま収めることが出来るのだから、これは威力偵察に取って願ってもない収穫である。
「うーむ……これを見て、軍がどう判断するかはともかく、中々良い絵がとれそうだ」
花、次々と画像を収めて行く。あらゆる角度からクリスタルや魔法陣を撮影し、室内を余すところなくカメラに収めた。PDAの画像はスマホのように拡大縮小も出来る。これは大きな戦果となるであろう。
「花、どうだ?」
ザレムは問うた。花は頷いた。
「画像は十分だな」
花は画像をタッチして確認しながら、答えた。
「画像はまあ、これだけあれば十分だろう。クリスタルは破壊するかい? その辺りの様子と、クリスタルの残骸があるなら、それも撮影しておきたいけどね」
「そうだな……」
ザレムはクリスタルを見やる。
ハンター達は話し合った。何が起こるかは分からない。まさか暴発はするまいが……。いや、魔法の力なので、何が起こるか……想像は出来ない。しかし……明らかに敵のコアの一部か何か。ハンター達は、最終的にクリスタルを破壊しておくことにした。
「では私はカメラを回しておこう。みんな宜しく頼むよ」
花は下がって、PDAのカメラを構えた。
「よ~し、ぶん殴るよ~! えいえいおー!」
メイムはハンマーを構えて、突き出した。
ザレムは重機関銃を構えた。エルはウィンドスラッシュを構え、ミオレスカは魔導拳銃を構え、花も符を構えた。
「攻撃開始!」
ザレムの合図で、クリスタルに向かって一斉攻撃が開始された。花の撮影の中、ありとあらゆる攻撃がクリスタルに叩きつけられた。クリスタルは思った以上に固かった。魔法攻撃は一度だけにしておいた。あとはザレムとメイム、ミオレスカの攻撃が続いた。
花はじっくり撮影を続けた。
クリスタルはやがてみしみしと崩れ落ちて行き、中の闇の炎がむき出しになった。光のチューブが闇の炎から伸びている。それをさらに叩く。闇の炎は脆く崩れ去った。
「…………」
ハンター達は退避した。花が室内の様子を撮影している。
……すると、浮かんでいた魔法陣が消滅して、光のチューブから輝きが消えて、シュウウウウウウウ……と音がして、静かになった。
「どんなものかね」
花はカメラで撮影を続けた。クリスタルの残骸も収めておく。
「…………」
何も起こらない。
ハンター達は離脱した。それから通路を確認したが、周辺の通路は幾分光が消えていた。どうやら、周辺ブロックと無関係と言うこともないらしい。恐らく、周辺のマテリアル供給が途絶えたのだろう。
外に出た。
「では、私はいったん離れるよ。さすがに、覚醒なしでは危険過ぎるからね」
花は仲間たちに言った。
「画像の方は宜しく頼む」
ザレムが言って、花は頷き、花はブラフマーから離れて王国軍の陣に戻って行った。
「よし」
ザレムは一息ついた。
「俺達は上層階を目指すぞ」
「はーい!」
ハナは手を上げた。
「ふう~、ちょっと一休みですよ」
メイムが言うと、ミオレスカは肩をすくめた。
「あのクリスタルは、他にもあるのでしょうか」
「とりあえず、次ですね。私たちはまだ行けますから」
エルは呟き、自身を鼓舞した。
ボルディアは、「おらあ!」とウラガンクーペを一閃した。吹っ飛ぶアイテルカイト。塵と化した。
「さて……と」
「また別ルートから入りましたが……こちらもやはり中央に向かって伸びている様子です……」
ルカは手元のマップを見やる。
「何とか、要塞撃破の核となるものを見つけたいものだが……」
鞍馬は思案していた。
「とりあえず、その中央からどっかに行けそうなんだが……さっきのパールバティか? あれはやばそうだな。黒伯爵とか言ってたし。インドラと双璧か。……つか、シヴァ、ここにいない、て言ってたよな?」
レイオスが言う。
「確かに、な……。ということは……」
鞍馬は、考えた。
「いや、とはいえ、シヴァがいないなら、好都合か?」
「まあ、それに、だ。これで確実に、シヴァとの情報が繋がったってわけだ」
ボルディアが言った。
「今度は慎重に行ってみようぜ。ファミリアズアイを使うことにする」
四人は再び進み始めた。
途中、壁に印などを付けながら、また進んで行く。
「しかしなあ……闇の中の光っつーか、へんてこりんな空間だよなあ……」
ボルディアは口許を結んで見渡した。部屋に入る。
「この闇クリスタルの中を走る光のチューブ、内部は魔法的なんだが、一応投石機でもぶち破れるんだよな」
「まさか投石機を大量に出してくるとは思わなかったが……投石機すげーな。考えたら石弾の威力も馬鹿にならんもんな」
レイオスは肩をすくめた。
「リアルブルーの映画とかだと、石弾すげー威力だもんなあ……」
「おお、そうだよなあ」
鞍馬の言葉にレイオスが頷く。
「何だそりゃ」
ボルディアは呆れたように言った。
「まあ、それはともかく、今度またパールバティに会ったら、どうするかな」
「……そうならないことを祈るばかりですが……」
ルカは言った。
「また要塞中央に近づいています……」
「うし。ちょっとパルムを飛ばすわ」
ボルディアはファミリアズアイで偵察を行った。パルムが飛んでいく。感覚リンクでボルディアは捜索した。闇クリスタルの通路の中を飛んでいくパルム。パールバティ発見! パルムを呼び戻すと、ボルディアは報告した。
「パールバティを見つけたぜ。回り込もう」
ハンター達はパールバティを回避して、ボルディアのファミリアズアイでまた偵察しながら、要塞中央に辿りついた。
広間に出た。闇クリスタルがきらきらと光っている。ボルディアは超嗅覚と超聴覚で感覚を研ぎ澄ませ、様子を探った。
ルカはマッピングをしながら、広間の様子を書き込んで行く。
ボルディアが先頭に、鞍馬とレイオスがルカの脇を固めて広間に入っていく。広間の中央に、大きな螺旋階段があった。
「かなり上まで続いてるな……」
鞍馬が見上げる。
「行きは一本道か……いざとなったら上の階の壁をぶち抜いて脱出するか」
レイオスは呟いた。
「行こうぜ」
ボルディアが頷き、ハンター達は螺旋階段を上り始めた。
変わり映えしなさそうな途中の階をすっ飛ばして行く。とりあえずてっぺんまで上ってみようということになり、四人は階段をどんどん上って行った。途中、アイテルカイト兵を何度か叩きつぶし、四人は最上階に達した。窓が開いている。
「おおっと」
ボルディアが外を見た。
「ここ、ピラミッドの頭頂部だぜ。見ろよ、てっぺんが触れそうだぜ」
鞍馬とレイオスも窓から身を乗り出して、様子を見た。眼下ではハルトフォート軍と歪虚が闘っている。その様子が小さく見える。そして、上を見ると、ブラフマーの頂上がすぐそこにある。ルカもその様子を見て、なぜか微笑んだ。
「てことは……」
「どうするか」
鞍馬とレイオスは思案した。
「よし、ちょっとここからパルムを飛ばしてみるか。上層階を外から探ってみよう」
ボルディアがパルムを飛ばす。
ブラフマーの上層階の外側は……外からでは何も分からない……と思っていたが、小窓があって、頂上の下層階へ入り込める。ボルディアはパルムを侵入させた。
「こいつは……」
フロアをぶち抜いた部屋があって、魔法的なスクリーンがあちこちに展開し、それらを操作している歪虚らがいた。金髪の戦闘服を着た歪虚が立っていて、何か指示を飛ばしていた。
ボルディアはパルムを回収する。
「下の方に敵さんの指令室のようなものがあるぜ」
「よっしゃ」
鞍馬は拳を握りしめた。
「てことは……その近辺か、動力になるような部分を、そこで操作してるっつーことだよな」
「……さすがに、そこへ乗りこむのは危険ですね……。考えてみれば、中にいる歪虚は別にどうだっていいわけです……。この要塞を無力化すればいいわけですから……」
ルカは言って、頷いた。
ではどうするか。
ハンター達は、いったんもう一つの仲間たちと合流することにした。
中に戻ったザレムたちは、ボルディアらが上って行った中央の螺旋階段に到達し、トランシーバーで連絡を取り合って、中途階で合流した。
お互いの情報を交換するハンター達。
ルカが書いたマップを囲んで、論議する。
「当たれば、要塞の動力源を見つけてどかん、と行きたいね」
メイムが言うと、鞍馬が言った。
「指令室が幸い上階にあることは分かった。恐らく指揮を執っていたのはインドラだろう。だがそこを潰したところで、どうなるかな」
「ですよね。そもそも、この物体をどうするか……仮に動力源を断ったとして、破壊できるのか。これは雑魔を発生させるような危険物体なわけですから……ややこしいですね」
エルがうなるように言った。
「考えてみるとそうだな……」
ザレムはうなった。実はリアルブルーのような起爆装置と爆薬を用意したかったのだが、それは出来なかった。要塞そのものをどうするか、ザレムもそこまでは見当が付かなかった。
「動力源を断てば、どうにかなる……というのは虫が良過ぎるだろうか?」
「ですが……何のダメージも受けないということはないでしょうし……マテリアルの供給源を断てば、雑魔が発生すると言ったことも無くなるのではないでしょうか? この闇クリスタルは物理的に破壊できるわけですが、中にはマテリアルが通っているわけですよね? 要するに、それを断ってしまえば……」
ミオレスカは言って、言葉を濁した。
「あのぅ。一階でやったようにぃ、動力の一部と思しきクリスタルを破壊した時にですねぇ、一帯がしゅんと光を失っちゃったわけですよねぇ? てことは~、メイン動力を破壊すればぁ、同じように機動を停止するんじゃないでしょうかぁ」
ハナが言った。
「まあ。それはそれでオーライかもなあ……。後始末がどうなるか分からんが……。いっそ闇クリスタルの観光地にでもなって、モニュメント化してくれればいいんだけどな。まあ、リベルタースじゃそうもいかんか」
レイオスの言葉に、一同肩をすくめる。
「ロッソが再起動したんだし、いっそマテリアル砲でもぶち込んでもらおうか?」
メイムが言うと、ボルディアがからからと笑った。
「そいつは楽で良い。手っ取り早いな。だがまあ、ロッソも何かと今忙しいんだろ? 地球連合軍のお歴々も、何か忙しいみたいだしな。王国の一地方の戦闘に介入するほど人的リソースがあるわけでもあるまいて」
ルカは、吐息して思案顔だった。
「今は、指令室は見つけたわけですし、この手の要塞を動かしている核なり動力源なり、魔法的なものであれ何であれ、その大本を探す……と言うことでしょうか? やはりそうなりそうですよね……。核を破壊し、機動を停止させるなり、何なりして、必要とあらば歪虚を撃退して、消えてくれれば良いですが。出来なければ聖職者たちで浄化する……と言ったところでしょうか?」
「やはり、結局のところコア、核を見つける必要があるね」
メイムは言って、強く頷いた。
あとは時間との戦いである。運が良ければ、上手くいくだろう。上階から、各階を調べて行くしかない。
ハンター達に残されたのは数時間。再びチームに分かれて捜索を開始する……。
そして――。
それを発見したのはメイムらの班だった。動力があるとすればメイムは指令室の下に重点を置いていた。だから、指令室があった階の下から、重点的に探索を行っていた。
トランシーバーで連絡を取り合ったハンター達は、「そこ」へ集結した。
フロアは、三十階程度であろうか。通路の先、フロア一帯をぶち抜いた大広間があった。その広大な空間に巨大なクリスタルと魔法陣が浮かんでいたのだ。
無数の魔法陣は星のようにきらめき、高さ十メートルほど、幅二十メートルほどの巨大なクリスタルが横たわっていた。ものすごい数の光のチューブが空間に伸びていて、クリスタルが脈動する震動が聞こえてくる。
「こいつは……」
ザレムは、重機関銃を構えたが、どうしたものか……と悩んだ。
「ザレムさん、どうしますか~」
ハナは心配そうに見つめた。
「ハナどきどきですぅ~」
「これやばいな……」
レイオスは言った。
「この人数でどうにかできる代物じゃないだろ……」
「確かに、な。俺達は決死隊じゃないからなあ……」
鞍馬も零した。
「花さんがいたらバックに写真撮ってもらうんだけどなあ~」
メイムは残念そうだった。
「いや、つーか、さ……それで、どうすんねん?」
ボルディアが言った。
「私たちだけは……無理ですよね……無理でしょうか?」
ルカはおずおずと言った。
「どうでしょう……ここで撃てば、歪虚が押し寄せるでしょうか?」
ミオレスカの問いに、エルは考えた。
「一階の小型クリスタルは、結局潰せました……。案外決着が付くかもしれません……」
「やってやりますかあ~?」
ザレムは、重機関銃を持ち上げた。
その時だった。背後から声が飛んできた。
「あなたたち、何を見てるのかしら」
パールバティであった。
「お前は……パールバティ」
「こいつが?」
パールバティは、笑顔を浮かべて、腰のヴァジュラ剣を構えた。念を込めると、ブン! と白いオーラに包まれた魔刀がヴァジュラの両端から伸びた。
「あなた方が見ているそれは、ブラフマーの心臓、コアマテリアルクリスタル『ヴィシュヌ』。そう、あなた方が探し求めていた、この要塞のコア、核よ」
鞍馬が進み出た。
「パールバティ、余裕の様子だが、こいつを壊されたら、ブラフマーはおしまいだろ?」
「確かにね。要塞は機動を停止して、この要塞そのものがガラクタになるわね」
「何でそんなに余裕なんだ?」
「かつてここに至る道」
「え?」
「ふるつわものが夢のあと。そうねえ……要塞を手放しても良いのよ。かつて人間たちがホロウレイドでアイテルカイトを撃退したように。ヴィシュヌを放棄したっていい。ブラフマーも手放しましょう。だけど……代償を頂くわ」
「それは何だ」
鞍馬の問いに、パールバティは笑った。
「単純明快なことよ。私たちのために、あなた方人類が生き続けること」
一同、呆気に取られる。
「おい、てめえ何言ってやがる」
ボルディアが声を荒げる。
「簡単な取引でしょう?」
「意味が良く分からんのだが……何が言いたいんだ?」
ザレムが銃口を向けたまま口を開いた。
「自由、てことよ。ここでヴィシュヌを破壊するのも、ブラフマーを停止させるのも、自由ってこと。そういうことよ人間。ここまで来たあなた方には、その栄誉があるわ。私がその栄誉を与えましょう」
ハンター達は戸惑った。はっきり言って、理解不能である。敵に敬意を表して、ということであろうか。いや、傲慢ならあり得るか……。パールバティの言葉、どう受け止めれば良いのであろうか……。文字通りなら、遠慮することはない。ヴィシュヌを破壊させてもらうだけだが……。
そこへさらに、インドラが姿を見せる。
「パールバティ様、何をしておいでですか!?」
「あらインドラ。丁度いいところへ来たわね」
パールバティは、状況を説明した。
「つまり……いえ、何を言われているか分かっているのですか? 要塞をくれてやると?」
「その方が面白そうじゃない?」
インドラはめまいを起こして目頭を押さえた。
「しかし……」
だが結局、インドラは折れた。パールバティの言葉に従い、撤収することにする。
「部下達はどうしますか?」
「一応、通達しておきなさい。残りたい者は好きにすると良いわ」
「承知しました。おや? 鞍馬か。来ていたか」
インドラは軽く笑うと、踵を返した。そして――。
パールバティは、「それじゃあね」と言い残して、立ち去って行った。
残されたハンター達は、呆然の時間があった。
「おい……これって……」
「トロイの木馬?」
「いやいやいやいや……」
鞍馬とレイオスが顔を見合わせて、何だか分からず笑けてくる。
「どうすんだよこれ……」
ザレムがヴィシュヌを見上げる。これは……もしかして、破壊するにはもったいない代物では……。ザレムの脳裏にそんな考えがよぎる。
「とりあえずさ、偵察は十分やったわけだし、アイテルカイトの動きにしたってパールバティの言うことが本当かどうかも分からないわけだし、いったん撤退しないか? 再侵攻するにしたって判断は軍に委ねた方が良いと思うんだ」
「そうだねえ……」
メイムは呆気に取られていた。
とにかく、ハンター達は威力偵察を十分に行ったことで、ブラフマーから撤退する。
ブラフマーからいったん出たリンスファーサは、アイテルカイトの奇妙な動きに違和感を覚えていた。ブラフマーの内部でバステで行動不能になる部下が出たことで、リンスファーサはいったん離脱していたのだが……。
「ん?」
二体の歪虚が要塞の上部から飛び去って行くのを見た。それに続いて、翼獣に乗って去っていく歪虚がいる。
アイテルカイトの声が聞こえてくる。
「状況が変わった! 雑魔を残して撤退する!」
どういうことだ?
その答えは、ハンター達が持ち帰って来た。
花は、天幕の中で、ミュラ上級騎士卿にPDAの写真を見せていた。ミュラは、部下達とあれやこれやと写真を見て話し合っていた。そこへ、ハンター達が帰って来た。
「これは、みなさん。終わったかい。この辺りが限界だったかな」
花が言うと、ボルディアが頭をかいて吐息した。
「いんや花。何つーか、ちょっと良く分からないんだが……。俺たちじゃとりあえず対処不能だ。ミュラ上級騎士卿、聞いてくれ……」
かくして、ブラフマーを巡る戦いは、予期せぬ事態となった。包囲するハルトフォート軍。インドラとパールバティや上位歪虚は離脱し、要塞だけが一部歪虚や雑魔を残して取り残されることとなった。事の次第を受けて、ハルトフォートのラーズスヴァンは、ミュラに攻囲の継続を命じ、要塞を潰すなら潰すで、次なる攻勢に備えて兵を休ませるように指令を出しておくのだった。
「しばらくここには来ていなかったが……何だこりゃ?」
ボルディアは内部を見やる。要塞の中は闇色のクリスタルで出来ており、クリスタルの中には神経や血管のようなものが光のチューブとなって走っている。クリスタル自体が淡く光っているものもあり、要塞内部は意外と視界が利く。
「そもそもシヴァとじかに会った奴もおらんのだろ?」
ボルディアは斧で壁をごつごつつつくと、鞍馬を見やる。
「ああ、私は何度か、敵将とまみえたことはあるのだが。確かに、誰もシヴァを見た奴はいない。リベルタースに先制攻撃があった時、ラーズスヴァンだけが、それをシヴァの『破壊の光』と確信した」
「つーことはさ、俺達はまだ状況だけで対応してる、てことだよな? このでかぶつを動かしてる奴が、誰かも実際には分かってないわけだろ?」
「状況的にはそうだな」
レイオスは、肩をすくめた。
「とは言え、状況証拠としては十分な気もするがな」
仲間たちが話す傍らで、ルカは方位磁石を手にマッピングしていた。
「……心配ごとの種はつきませんね……」
ルカが顔を上げると、ボルディアはからからと笑った。
「俺なんて存在自体が心配ごとの種になってるぜ」
「え、ええ?……どうかしたんですかボルディアさん……?」
ルカの言葉に、ボルディアは頭をかいた。
「ん? ああ……俺なあ、ハンターとして長く歪虚と戦う内に自身に迷いが生じてきたんだよな。歪虚を全て倒せば本当に英雄になるのか。そもそも英雄とは何か。自分は何がしたいのか。何か最近迷ってばかりでよ」
「人間最後は自分との戦いだからな」
レイオスが言って、肩をすくめる。
「自分との戦いかあ……」
「乗り越えられない壁が出て来た時、色んな選択をする人間がいるよな」
鞍馬が言った。
「壁に立ち向かい、乗り越えようとする者。他に道がないか迂回路を探す者。そして、壁を見たら諦めて逃げる者などなど……。まあ、精神的には、逃げるのが一番楽なんだが、俺はボルディア君みたいに戦い続けることが出来る人を尊敬するよ」
「そんなかっこいいもんじゃねえよ」
ボルディアは笑った。
「まあ、そもそも乗り越える必要なんてないのかも知れんがな。別の道を歩くことだってできるわけだしな」
レイオスは歩きながら言った。
「あー! 分かんねえ! やっぱ俺はぐだぐだ考えてるより殴ってる方が性に合ってるのかも」
ボルディアは斧で壁を殴った。闇クリスタルが砕け散る。
「ボルディアさんは優しい人ですから……」
ルカは言って、微笑んだ。
メイム(ka2290)、エルバッハ・リオン(ka2434)、ザレム・アズール(ka0878)、ミオレスカ(ka3496)、星野 ハナ(ka5852)、花(ka6246)のチームは、何やかやと前進しながら、ザレムを先頭に、上層階を目指していた。が、ひとまず花の覚醒時間があるので、まずは一階を策敵していた。
「しかしこれはハードだねえ」
花は眉をひそめ、肌で感じる違和感に腕をさすった。
「これは……中は何かおかしいな」
ザレムは天井を走る光のチューブを見上げた。
「これさ……何か常にバステに晒されてるとか……そんな感じじゃね? 何だろうな……負のマテリアルを浴びているとか……そんな感じがする」
「きゃっ」
ハナがザレムに抱きついた。
「今そこに、何か得体の知れない影が走って行ったような。ザレムさんここ怖いですぅ」
ハナはザレムの体をさりげなくボディタッチ。
「大丈夫だよ星野。さっきは『わーい、何かこれハードモードですよぅ』とか言って騒いでたじゃんか」
「え~、そうなんですけどぉ……ちょっとは心配してくれないんですかぁ」
「心配? 君を? まさか。俺が心配なのは花だな。花、大丈夫か」
「ええ……まあ。今のところは。私は、出来る限り、PDAのカメラで内部を撮影しておきましょう」
花は言って、ばしゃばしゃブラフマーの内部を撮影していく。
「この人数でインドラとか会いたくないねぇ」
メイムが言って、トランシーバーで鞍馬と連絡を取る。鞍馬のチームも順調に進んでいるようだ。
ミオレスカは、LEDライトで前方を照らして、進んでいた。
と、アイテルカイトが通路から出現した。アイテルカイト兵が何か動作に入りかけたので、ミオレスカは魔導拳銃で撃ち抜いた。倒れるアイテルカイト。塵となって消滅する。
「ふう……雑魔兵か妖魔でしたか?」
ミオレスカは言って、銃を下ろす。
「ブラフマー進軍ですか。敵にどういう意図があるかは分かりませんが、負けるわけにはいきませんね」
エルは呟いていた。
交差路に差し掛かったところで、ザレム達は立ち止った。
――と、クリスタルの隔壁が降りて来て、ハンターたちは閉じ込められた。
「ちい……」
メイムは壁を殴って壊し始めた。
しかし、床からガスが噴き出し始めた。
「きゃ~、毒ガスですよ~!」
ハナがなぜかハイテンションで騒いでいる。ザレムの腕にしがみつく。
「いいから早く壁に五色光撃てよ!」
ザレムが試作型重機関銃「恵方撒」を構える。銃撃開始。
ミオレスカも壁を銃で撃ち始めた。
エルはファイアーボールを叩き込んだ。
花もデリンジャーを壁にぶち込む。
隔壁は、エルのファイアーボール一発で消し飛んだ。
「こっちです!」
エルは駆けだした。
一同走りだす。
「あっ……!」
ハナは転んだ。
「ザ、ザレムさん! 助けて!」
見ると、ハナの足にうねうねした光のチューブが絡みついている。
「何これ! きゃ~!」
「全く世話の焼ける奴だな」
ザレムは急いでハナに駆け寄ると、チューブを引きちぎって彼女を抱き上げて走りだした。
毒ガス室からアイテルカイト兵が数体追撃してくる。
エルはファイアーボールでまとめて始末した。
ハンター達は走った。走りながらも、花はPDAに情報を登録していた。
ボルディア、ルカ、レイオス、鞍馬らは、着実に前進していた。幾度かの交戦があったが、無難にやり過ごし、撃破し、前進していた。
「……そう複雑怪奇な迷路と言うわけではないようですね……」
ルカは手元のクリップボードに記したマッピングの記述を確認していた。自分たちが入ってきた方向から、ほぼまっすぐに要塞の中心部に向かって進んでいる。他に枝分かれしている道もあったが、恐らく主通路からは外れるのだろう。
その時だった。正面から、金髪の女性歪虚が姿を見せた。角を生やして戦闘服を身に付けている。
「あら、人間じゃない」
パールバティであった。
とは知らず、しかし交戦も避けたいハンター達は、間を取った。
「シヴァはここにはいないわよ。今はね。出掛けちゃったの」
「何だ……? てめえは?」
ボルディアは言って、ウラガンクーペを構えた。
ルカをかばうように、レイオスと鞍馬も身構える。
「私はパールバティ。黒伯爵。今はね、フリーなの。要塞の指揮はインドラが執ってるからね」
「ほう……」
ボルディアは後退した。やべー、ネームド歪虚だわ。ここは戦術的撤退だろー。
鞍馬が進み出た。
「パールバティと言ったな。歪虚。インドラの他に、まだ君のような奴がいるのか」
「インドラを知ってるの?」
「少し、な」
「ふうん……。シヴァ様麾下で、黒伯爵は私とインドラだけよ。インドラが腕なら、私は翼、てところかしら」
そこでレイオスが進み出る。
「せっかく来たんだから美人のガイドくらい出てきて欲しいもんだと思っていたが、パールバティとはね。いやはや」
レイオスは、魔導銃を構えると、トリガーを引いてぶっ放し始めた。
「逃げろ!」
銃弾がパールバティの手前で黄金色のバリアーに弾かれて落ちて行く。
ハンター達は反転して逃走した。パールバティは追ってこなかった。
「…………」
ルカは吐息して、マップを見やる。
「ということで、パールバティさんは……追ってこない様子ですが……別の道を探しますか……」
「そうだな……」
ボルディアは思案顔。
ザレム達は、花の覚醒時間を考慮して、いったん要塞の外に向かって移動していた。そこで、要塞の角地に位置する部屋で、他とは異なる部屋を発見する。
そこには、部屋の中央に巨大なクリスタルが設置されていて、そのクリスタルから光のチューブがあちこちに伸びていた。クリスタルは中心部に闇色の炎が浮かんでいて、白く光っていた。クリスタルの下には魔法陣が浮かんでいて、クリスタルも浮かんでいた。魔法陣は部屋の至る所に浮かんでいて、空間を漂っていた。
花はその室内をPDAで撮影して収めた。
「これは貴重な映像が撮れたね。解析に回してもらうとしよう」
ザレムが先頭に立って踏み込んだ。室内には誰もいない。
「この魔法陣はなんだろう~? 邪悪な力の源かなあ?」
メイムは魔法陣をハンマーで突いてみた。魔法陣は、カキイイイイイイン……と、跳ね返って、ただ漂っている。
「皆の様子も含めて、撮影しておくとしよう」
花は端末のカメラで撮影を開始した。
撮影のカメラが作動する中、ハンター達は室内に入って行った。花は仲間たちの後方からその様子をカメラに捉えていく。
「下手に刺激するのもどうかと思うが……どうしたもんだろうな」
ザレムは内部を確認して、進んだ。
「どういうロジックになってるんですかねぇ」
ハナも不思議そうにザレムの後に続いて行く。ハナは思案顔でザレムの腕にそっと手を置いた。
「魔法の力の供給源だとすれば……このクリスタルは動力の一部か何かかなあ」
メイムが言うと、ミオレスカは思案した。
「やはりここは、破壊しておいた方が良いかもしれません」
「ブラフマーの動力源の一部でも破壊できれば、動きを鈍らせることが出来るかもしれません」
エルは言って、魔法陣を警戒して見上げた。
花のPDAは大活躍であった。カメラ機能で画像をそのまま収めることが出来るのだから、これは威力偵察に取って願ってもない収穫である。
「うーむ……これを見て、軍がどう判断するかはともかく、中々良い絵がとれそうだ」
花、次々と画像を収めて行く。あらゆる角度からクリスタルや魔法陣を撮影し、室内を余すところなくカメラに収めた。PDAの画像はスマホのように拡大縮小も出来る。これは大きな戦果となるであろう。
「花、どうだ?」
ザレムは問うた。花は頷いた。
「画像は十分だな」
花は画像をタッチして確認しながら、答えた。
「画像はまあ、これだけあれば十分だろう。クリスタルは破壊するかい? その辺りの様子と、クリスタルの残骸があるなら、それも撮影しておきたいけどね」
「そうだな……」
ザレムはクリスタルを見やる。
ハンター達は話し合った。何が起こるかは分からない。まさか暴発はするまいが……。いや、魔法の力なので、何が起こるか……想像は出来ない。しかし……明らかに敵のコアの一部か何か。ハンター達は、最終的にクリスタルを破壊しておくことにした。
「では私はカメラを回しておこう。みんな宜しく頼むよ」
花は下がって、PDAのカメラを構えた。
「よ~し、ぶん殴るよ~! えいえいおー!」
メイムはハンマーを構えて、突き出した。
ザレムは重機関銃を構えた。エルはウィンドスラッシュを構え、ミオレスカは魔導拳銃を構え、花も符を構えた。
「攻撃開始!」
ザレムの合図で、クリスタルに向かって一斉攻撃が開始された。花の撮影の中、ありとあらゆる攻撃がクリスタルに叩きつけられた。クリスタルは思った以上に固かった。魔法攻撃は一度だけにしておいた。あとはザレムとメイム、ミオレスカの攻撃が続いた。
花はじっくり撮影を続けた。
クリスタルはやがてみしみしと崩れ落ちて行き、中の闇の炎がむき出しになった。光のチューブが闇の炎から伸びている。それをさらに叩く。闇の炎は脆く崩れ去った。
「…………」
ハンター達は退避した。花が室内の様子を撮影している。
……すると、浮かんでいた魔法陣が消滅して、光のチューブから輝きが消えて、シュウウウウウウウ……と音がして、静かになった。
「どんなものかね」
花はカメラで撮影を続けた。クリスタルの残骸も収めておく。
「…………」
何も起こらない。
ハンター達は離脱した。それから通路を確認したが、周辺の通路は幾分光が消えていた。どうやら、周辺ブロックと無関係と言うこともないらしい。恐らく、周辺のマテリアル供給が途絶えたのだろう。
外に出た。
「では、私はいったん離れるよ。さすがに、覚醒なしでは危険過ぎるからね」
花は仲間たちに言った。
「画像の方は宜しく頼む」
ザレムが言って、花は頷き、花はブラフマーから離れて王国軍の陣に戻って行った。
「よし」
ザレムは一息ついた。
「俺達は上層階を目指すぞ」
「はーい!」
ハナは手を上げた。
「ふう~、ちょっと一休みですよ」
メイムが言うと、ミオレスカは肩をすくめた。
「あのクリスタルは、他にもあるのでしょうか」
「とりあえず、次ですね。私たちはまだ行けますから」
エルは呟き、自身を鼓舞した。
ボルディアは、「おらあ!」とウラガンクーペを一閃した。吹っ飛ぶアイテルカイト。塵と化した。
「さて……と」
「また別ルートから入りましたが……こちらもやはり中央に向かって伸びている様子です……」
ルカは手元のマップを見やる。
「何とか、要塞撃破の核となるものを見つけたいものだが……」
鞍馬は思案していた。
「とりあえず、その中央からどっかに行けそうなんだが……さっきのパールバティか? あれはやばそうだな。黒伯爵とか言ってたし。インドラと双璧か。……つか、シヴァ、ここにいない、て言ってたよな?」
レイオスが言う。
「確かに、な……。ということは……」
鞍馬は、考えた。
「いや、とはいえ、シヴァがいないなら、好都合か?」
「まあ、それに、だ。これで確実に、シヴァとの情報が繋がったってわけだ」
ボルディアが言った。
「今度は慎重に行ってみようぜ。ファミリアズアイを使うことにする」
四人は再び進み始めた。
途中、壁に印などを付けながら、また進んで行く。
「しかしなあ……闇の中の光っつーか、へんてこりんな空間だよなあ……」
ボルディアは口許を結んで見渡した。部屋に入る。
「この闇クリスタルの中を走る光のチューブ、内部は魔法的なんだが、一応投石機でもぶち破れるんだよな」
「まさか投石機を大量に出してくるとは思わなかったが……投石機すげーな。考えたら石弾の威力も馬鹿にならんもんな」
レイオスは肩をすくめた。
「リアルブルーの映画とかだと、石弾すげー威力だもんなあ……」
「おお、そうだよなあ」
鞍馬の言葉にレイオスが頷く。
「何だそりゃ」
ボルディアは呆れたように言った。
「まあ、それはともかく、今度またパールバティに会ったら、どうするかな」
「……そうならないことを祈るばかりですが……」
ルカは言った。
「また要塞中央に近づいています……」
「うし。ちょっとパルムを飛ばすわ」
ボルディアはファミリアズアイで偵察を行った。パルムが飛んでいく。感覚リンクでボルディアは捜索した。闇クリスタルの通路の中を飛んでいくパルム。パールバティ発見! パルムを呼び戻すと、ボルディアは報告した。
「パールバティを見つけたぜ。回り込もう」
ハンター達はパールバティを回避して、ボルディアのファミリアズアイでまた偵察しながら、要塞中央に辿りついた。
広間に出た。闇クリスタルがきらきらと光っている。ボルディアは超嗅覚と超聴覚で感覚を研ぎ澄ませ、様子を探った。
ルカはマッピングをしながら、広間の様子を書き込んで行く。
ボルディアが先頭に、鞍馬とレイオスがルカの脇を固めて広間に入っていく。広間の中央に、大きな螺旋階段があった。
「かなり上まで続いてるな……」
鞍馬が見上げる。
「行きは一本道か……いざとなったら上の階の壁をぶち抜いて脱出するか」
レイオスは呟いた。
「行こうぜ」
ボルディアが頷き、ハンター達は螺旋階段を上り始めた。
変わり映えしなさそうな途中の階をすっ飛ばして行く。とりあえずてっぺんまで上ってみようということになり、四人は階段をどんどん上って行った。途中、アイテルカイト兵を何度か叩きつぶし、四人は最上階に達した。窓が開いている。
「おおっと」
ボルディアが外を見た。
「ここ、ピラミッドの頭頂部だぜ。見ろよ、てっぺんが触れそうだぜ」
鞍馬とレイオスも窓から身を乗り出して、様子を見た。眼下ではハルトフォート軍と歪虚が闘っている。その様子が小さく見える。そして、上を見ると、ブラフマーの頂上がすぐそこにある。ルカもその様子を見て、なぜか微笑んだ。
「てことは……」
「どうするか」
鞍馬とレイオスは思案した。
「よし、ちょっとここからパルムを飛ばしてみるか。上層階を外から探ってみよう」
ボルディアがパルムを飛ばす。
ブラフマーの上層階の外側は……外からでは何も分からない……と思っていたが、小窓があって、頂上の下層階へ入り込める。ボルディアはパルムを侵入させた。
「こいつは……」
フロアをぶち抜いた部屋があって、魔法的なスクリーンがあちこちに展開し、それらを操作している歪虚らがいた。金髪の戦闘服を着た歪虚が立っていて、何か指示を飛ばしていた。
ボルディアはパルムを回収する。
「下の方に敵さんの指令室のようなものがあるぜ」
「よっしゃ」
鞍馬は拳を握りしめた。
「てことは……その近辺か、動力になるような部分を、そこで操作してるっつーことだよな」
「……さすがに、そこへ乗りこむのは危険ですね……。考えてみれば、中にいる歪虚は別にどうだっていいわけです……。この要塞を無力化すればいいわけですから……」
ルカは言って、頷いた。
ではどうするか。
ハンター達は、いったんもう一つの仲間たちと合流することにした。
中に戻ったザレムたちは、ボルディアらが上って行った中央の螺旋階段に到達し、トランシーバーで連絡を取り合って、中途階で合流した。
お互いの情報を交換するハンター達。
ルカが書いたマップを囲んで、論議する。
「当たれば、要塞の動力源を見つけてどかん、と行きたいね」
メイムが言うと、鞍馬が言った。
「指令室が幸い上階にあることは分かった。恐らく指揮を執っていたのはインドラだろう。だがそこを潰したところで、どうなるかな」
「ですよね。そもそも、この物体をどうするか……仮に動力源を断ったとして、破壊できるのか。これは雑魔を発生させるような危険物体なわけですから……ややこしいですね」
エルがうなるように言った。
「考えてみるとそうだな……」
ザレムはうなった。実はリアルブルーのような起爆装置と爆薬を用意したかったのだが、それは出来なかった。要塞そのものをどうするか、ザレムもそこまでは見当が付かなかった。
「動力源を断てば、どうにかなる……というのは虫が良過ぎるだろうか?」
「ですが……何のダメージも受けないということはないでしょうし……マテリアルの供給源を断てば、雑魔が発生すると言ったことも無くなるのではないでしょうか? この闇クリスタルは物理的に破壊できるわけですが、中にはマテリアルが通っているわけですよね? 要するに、それを断ってしまえば……」
ミオレスカは言って、言葉を濁した。
「あのぅ。一階でやったようにぃ、動力の一部と思しきクリスタルを破壊した時にですねぇ、一帯がしゅんと光を失っちゃったわけですよねぇ? てことは~、メイン動力を破壊すればぁ、同じように機動を停止するんじゃないでしょうかぁ」
ハナが言った。
「まあ。それはそれでオーライかもなあ……。後始末がどうなるか分からんが……。いっそ闇クリスタルの観光地にでもなって、モニュメント化してくれればいいんだけどな。まあ、リベルタースじゃそうもいかんか」
レイオスの言葉に、一同肩をすくめる。
「ロッソが再起動したんだし、いっそマテリアル砲でもぶち込んでもらおうか?」
メイムが言うと、ボルディアがからからと笑った。
「そいつは楽で良い。手っ取り早いな。だがまあ、ロッソも何かと今忙しいんだろ? 地球連合軍のお歴々も、何か忙しいみたいだしな。王国の一地方の戦闘に介入するほど人的リソースがあるわけでもあるまいて」
ルカは、吐息して思案顔だった。
「今は、指令室は見つけたわけですし、この手の要塞を動かしている核なり動力源なり、魔法的なものであれ何であれ、その大本を探す……と言うことでしょうか? やはりそうなりそうですよね……。核を破壊し、機動を停止させるなり、何なりして、必要とあらば歪虚を撃退して、消えてくれれば良いですが。出来なければ聖職者たちで浄化する……と言ったところでしょうか?」
「やはり、結局のところコア、核を見つける必要があるね」
メイムは言って、強く頷いた。
あとは時間との戦いである。運が良ければ、上手くいくだろう。上階から、各階を調べて行くしかない。
ハンター達に残されたのは数時間。再びチームに分かれて捜索を開始する……。
そして――。
それを発見したのはメイムらの班だった。動力があるとすればメイムは指令室の下に重点を置いていた。だから、指令室があった階の下から、重点的に探索を行っていた。
トランシーバーで連絡を取り合ったハンター達は、「そこ」へ集結した。
フロアは、三十階程度であろうか。通路の先、フロア一帯をぶち抜いた大広間があった。その広大な空間に巨大なクリスタルと魔法陣が浮かんでいたのだ。
無数の魔法陣は星のようにきらめき、高さ十メートルほど、幅二十メートルほどの巨大なクリスタルが横たわっていた。ものすごい数の光のチューブが空間に伸びていて、クリスタルが脈動する震動が聞こえてくる。
「こいつは……」
ザレムは、重機関銃を構えたが、どうしたものか……と悩んだ。
「ザレムさん、どうしますか~」
ハナは心配そうに見つめた。
「ハナどきどきですぅ~」
「これやばいな……」
レイオスは言った。
「この人数でどうにかできる代物じゃないだろ……」
「確かに、な。俺達は決死隊じゃないからなあ……」
鞍馬も零した。
「花さんがいたらバックに写真撮ってもらうんだけどなあ~」
メイムは残念そうだった。
「いや、つーか、さ……それで、どうすんねん?」
ボルディアが言った。
「私たちだけは……無理ですよね……無理でしょうか?」
ルカはおずおずと言った。
「どうでしょう……ここで撃てば、歪虚が押し寄せるでしょうか?」
ミオレスカの問いに、エルは考えた。
「一階の小型クリスタルは、結局潰せました……。案外決着が付くかもしれません……」
「やってやりますかあ~?」
ザレムは、重機関銃を持ち上げた。
その時だった。背後から声が飛んできた。
「あなたたち、何を見てるのかしら」
パールバティであった。
「お前は……パールバティ」
「こいつが?」
パールバティは、笑顔を浮かべて、腰のヴァジュラ剣を構えた。念を込めると、ブン! と白いオーラに包まれた魔刀がヴァジュラの両端から伸びた。
「あなた方が見ているそれは、ブラフマーの心臓、コアマテリアルクリスタル『ヴィシュヌ』。そう、あなた方が探し求めていた、この要塞のコア、核よ」
鞍馬が進み出た。
「パールバティ、余裕の様子だが、こいつを壊されたら、ブラフマーはおしまいだろ?」
「確かにね。要塞は機動を停止して、この要塞そのものがガラクタになるわね」
「何でそんなに余裕なんだ?」
「かつてここに至る道」
「え?」
「ふるつわものが夢のあと。そうねえ……要塞を手放しても良いのよ。かつて人間たちがホロウレイドでアイテルカイトを撃退したように。ヴィシュヌを放棄したっていい。ブラフマーも手放しましょう。だけど……代償を頂くわ」
「それは何だ」
鞍馬の問いに、パールバティは笑った。
「単純明快なことよ。私たちのために、あなた方人類が生き続けること」
一同、呆気に取られる。
「おい、てめえ何言ってやがる」
ボルディアが声を荒げる。
「簡単な取引でしょう?」
「意味が良く分からんのだが……何が言いたいんだ?」
ザレムが銃口を向けたまま口を開いた。
「自由、てことよ。ここでヴィシュヌを破壊するのも、ブラフマーを停止させるのも、自由ってこと。そういうことよ人間。ここまで来たあなた方には、その栄誉があるわ。私がその栄誉を与えましょう」
ハンター達は戸惑った。はっきり言って、理解不能である。敵に敬意を表して、ということであろうか。いや、傲慢ならあり得るか……。パールバティの言葉、どう受け止めれば良いのであろうか……。文字通りなら、遠慮することはない。ヴィシュヌを破壊させてもらうだけだが……。
そこへさらに、インドラが姿を見せる。
「パールバティ様、何をしておいでですか!?」
「あらインドラ。丁度いいところへ来たわね」
パールバティは、状況を説明した。
「つまり……いえ、何を言われているか分かっているのですか? 要塞をくれてやると?」
「その方が面白そうじゃない?」
インドラはめまいを起こして目頭を押さえた。
「しかし……」
だが結局、インドラは折れた。パールバティの言葉に従い、撤収することにする。
「部下達はどうしますか?」
「一応、通達しておきなさい。残りたい者は好きにすると良いわ」
「承知しました。おや? 鞍馬か。来ていたか」
インドラは軽く笑うと、踵を返した。そして――。
パールバティは、「それじゃあね」と言い残して、立ち去って行った。
残されたハンター達は、呆然の時間があった。
「おい……これって……」
「トロイの木馬?」
「いやいやいやいや……」
鞍馬とレイオスが顔を見合わせて、何だか分からず笑けてくる。
「どうすんだよこれ……」
ザレムがヴィシュヌを見上げる。これは……もしかして、破壊するにはもったいない代物では……。ザレムの脳裏にそんな考えがよぎる。
「とりあえずさ、偵察は十分やったわけだし、アイテルカイトの動きにしたってパールバティの言うことが本当かどうかも分からないわけだし、いったん撤退しないか? 再侵攻するにしたって判断は軍に委ねた方が良いと思うんだ」
「そうだねえ……」
メイムは呆気に取られていた。
とにかく、ハンター達は威力偵察を十分に行ったことで、ブラフマーから撤退する。
ブラフマーからいったん出たリンスファーサは、アイテルカイトの奇妙な動きに違和感を覚えていた。ブラフマーの内部でバステで行動不能になる部下が出たことで、リンスファーサはいったん離脱していたのだが……。
「ん?」
二体の歪虚が要塞の上部から飛び去って行くのを見た。それに続いて、翼獣に乗って去っていく歪虚がいる。
アイテルカイトの声が聞こえてくる。
「状況が変わった! 雑魔を残して撤退する!」
どういうことだ?
その答えは、ハンター達が持ち帰って来た。
花は、天幕の中で、ミュラ上級騎士卿にPDAの写真を見せていた。ミュラは、部下達とあれやこれやと写真を見て話し合っていた。そこへ、ハンター達が帰って来た。
「これは、みなさん。終わったかい。この辺りが限界だったかな」
花が言うと、ボルディアが頭をかいて吐息した。
「いんや花。何つーか、ちょっと良く分からないんだが……。俺たちじゃとりあえず対処不能だ。ミュラ上級騎士卿、聞いてくれ……」
かくして、ブラフマーを巡る戦いは、予期せぬ事態となった。包囲するハルトフォート軍。インドラとパールバティや上位歪虚は離脱し、要塞だけが一部歪虚や雑魔を残して取り残されることとなった。事の次第を受けて、ハルトフォートのラーズスヴァンは、ミュラに攻囲の継続を命じ、要塞を潰すなら潰すで、次なる攻勢に備えて兵を休ませるように指令を出しておくのだった。
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プレイング~ メイム(ka2290) エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/06/25 13:09:16 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/23 11:32:03 |
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相談卓 花(ka6246) 鬼|42才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/06/23 19:01:39 |