ゲスト
(ka0000)
とある商社の忙しい6月
マスター:風亜智疾

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/06/26 07:30
- 完成日
- 2016/07/09 03:09
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
■異文化からの贈り物
リアルブルーの文化が少しずつ浸透し始めたクリムゾンウェストでは、この時期特に妙齢の男女を中心に盛り上がる案件があった。
「ねぇ知ってる? リアルブルーでは6月に結婚すると幸せになれるって言い伝えがあるそうよ」
『ジューンブライド』というその言い伝えのおかげで、一部の商社や協会はこの時期、通常以上の忙しさを迎える事になる。
――ここ、ヴァリオスにある商社『カンパネラ』もまた、繁忙を迎える店の一つであった。
■商社は踊る
「ちょっとケスタ! コインはちゃんとピカピカにしておくようにって言ってあったじゃない!」
「そんなこと言ったって、僕はブーケ用のリボンを必要な長さにカットし続ける仕事がね!?」
「ロベルタ! ロベルタどこ!? ティアラに使う宝石が足りないんだけど発注してる!?」
「倉庫の中! 誰か手の空いてる人ー!」
6月上旬。忙しさがまだ始まったばかりだというのに、商社の中は既に多忙の中に叩き込まれていた。
「パメラ様! パメラ様いらっしゃいますかパメラ様!!」
「そう騒がなくても聞こえているわよ。落ち着いて頂戴」
微笑みつつ自分を呼ぶ社員の肩に手を置いて、パメラ・カスティリオーネ(kz0045)は深呼吸をするように指示を出す。
言われた通りに深呼吸を一つして落ち着きを取り戻した社員は、手にした書類をパメラへと差し出した。
中に書かれていたのは、6月いっぱいの商社のスケジュール。
細かく書き込まれているのは進捗だろうか。
じっとスケジュールを見つめていたパメラが、にっこりと笑いつつ顔をあげた。
「ひぃっ!?」
次の瞬間。真っ青になった社員は歯を鳴らしつつ後ずさる。眼前には、笑顔の女主人。
笑顔の。女主人。
「勿論間に合うわね?」
「いえあn「間に合うわね?」はいっ!!!」
笑顔なのにこの迫力はどういう事だ。いや、いつもの事だった。落ち着け。落ち着けない。
「私は今から得意先への挨拶へ行きますが……任せても大丈夫ね?」
「はいぃぃ!!」
あ。これは死ぬかもしれない。社員はそっと胸の中で神への懺悔を始めるしかなかった。
■そして商社は踊る
いつの間にか光の速さで過ぎ去った6月中旬。誰の許しを得て飛び去った。戻って来い。
そんな社員の思いを全てスルーして、やって来た6月下旬。佳境の繁忙期。
「ふふふふふふふふ」
「あはははははは」
「しんだ!」
社員の全てが、もう笑うしかない笑っとこう。そんな精神状態に至ってしまった。
7月になれば全員が燃え尽き症候群を抱えつつ、また通常業務に戻るのだが、いかんせんあと10日をどうやって過ごしていけばいいのか。いや働くしかないのだが。
「安心して頂戴。こんなこともあろうかと、応援を呼んでおきましたからね」
のんびり笑顔で現れたのは、こちらもやはり繁忙真っ只中のパメラだ。忙しそうに見えないのは何故だろう。
「あと残っているのは……あぁ、模擬結婚式の写真撮影とその準備。あとは6件への納品作業ね」
書類を手に微笑む女主人の後方には、手伝いにやってきた人たちの姿があった。
リアルブルーの文化が少しずつ浸透し始めたクリムゾンウェストでは、この時期特に妙齢の男女を中心に盛り上がる案件があった。
「ねぇ知ってる? リアルブルーでは6月に結婚すると幸せになれるって言い伝えがあるそうよ」
『ジューンブライド』というその言い伝えのおかげで、一部の商社や協会はこの時期、通常以上の忙しさを迎える事になる。
――ここ、ヴァリオスにある商社『カンパネラ』もまた、繁忙を迎える店の一つであった。
■商社は踊る
「ちょっとケスタ! コインはちゃんとピカピカにしておくようにって言ってあったじゃない!」
「そんなこと言ったって、僕はブーケ用のリボンを必要な長さにカットし続ける仕事がね!?」
「ロベルタ! ロベルタどこ!? ティアラに使う宝石が足りないんだけど発注してる!?」
「倉庫の中! 誰か手の空いてる人ー!」
6月上旬。忙しさがまだ始まったばかりだというのに、商社の中は既に多忙の中に叩き込まれていた。
「パメラ様! パメラ様いらっしゃいますかパメラ様!!」
「そう騒がなくても聞こえているわよ。落ち着いて頂戴」
微笑みつつ自分を呼ぶ社員の肩に手を置いて、パメラ・カスティリオーネ(kz0045)は深呼吸をするように指示を出す。
言われた通りに深呼吸を一つして落ち着きを取り戻した社員は、手にした書類をパメラへと差し出した。
中に書かれていたのは、6月いっぱいの商社のスケジュール。
細かく書き込まれているのは進捗だろうか。
じっとスケジュールを見つめていたパメラが、にっこりと笑いつつ顔をあげた。
「ひぃっ!?」
次の瞬間。真っ青になった社員は歯を鳴らしつつ後ずさる。眼前には、笑顔の女主人。
笑顔の。女主人。
「勿論間に合うわね?」
「いえあn「間に合うわね?」はいっ!!!」
笑顔なのにこの迫力はどういう事だ。いや、いつもの事だった。落ち着け。落ち着けない。
「私は今から得意先への挨拶へ行きますが……任せても大丈夫ね?」
「はいぃぃ!!」
あ。これは死ぬかもしれない。社員はそっと胸の中で神への懺悔を始めるしかなかった。
■そして商社は踊る
いつの間にか光の速さで過ぎ去った6月中旬。誰の許しを得て飛び去った。戻って来い。
そんな社員の思いを全てスルーして、やって来た6月下旬。佳境の繁忙期。
「ふふふふふふふふ」
「あはははははは」
「しんだ!」
社員の全てが、もう笑うしかない笑っとこう。そんな精神状態に至ってしまった。
7月になれば全員が燃え尽き症候群を抱えつつ、また通常業務に戻るのだが、いかんせんあと10日をどうやって過ごしていけばいいのか。いや働くしかないのだが。
「安心して頂戴。こんなこともあろうかと、応援を呼んでおきましたからね」
のんびり笑顔で現れたのは、こちらもやはり繁忙真っ只中のパメラだ。忙しそうに見えないのは何故だろう。
「あと残っているのは……あぁ、模擬結婚式の写真撮影とその準備。あとは6件への納品作業ね」
書類を手に微笑む女主人の後方には、手伝いにやってきた人たちの姿があった。
リプレイ本文
さぁ踊りましょうレッツダンス!
■
「所謂『えいせいへーい!』状態……」
絶句してぽつり呟いたのは誰だっただろう。
忙しなく走り回る従業員たちを遠い目で見やって、ザレム・アズール(ka0878)は乾いた笑みを浮かべた。
「あー……これは、ハンターの手も借りたいってヤツか……」
とんでもないところに来てしまったかもしれない。なんて後悔はすでに遅し。先にしようが後にしようが、後悔なんて役立たずである。
踊り狂っているような商社内を確認して、右の拳を顎へと添えたジェシー=アルカナ(ka5880)が傍に立つ女主人へと声をかけた。
「ホワイトボードみたいなものあるかしら。一度スケジュールを見直したいわね」
「あぁ、書くのは俺が」
「繁忙期って言ってもそんなに忙しくないでしょ~余裕よゆ痛いっ!!」
この期に及んで惨劇を甘く見ていたバーリグ=XII(ka4299)だったが、言葉の途中で突然蹲る。小さく唸り声をあげる彼の目が微かに潤んでいるのは気のせいだろうか。
微笑ましい目で二人を見たパメラが持ってきたホワイトボードの前、残った仕事一覧や今いる従業員の人数が記されたメモを手にジェシーは思考を巡らせる。
ペンが走り書き記されていくスケジュールを確認しつつ、エルバッハ・リオン(ka2434)とヴィルマ・ネーベル(ka2549)が手を挙げた。
「あ、ジェシーさん。そこの伝票整理は全てこちらで引き受けます」
「ふむ。我は写真撮影や準備。それから小物作りを手伝うかのう」
「ウェディング衣装に関しては私もお手伝いできますよぅ」
星野 ハナ(ka5852)が声を上げたとき、商社の入り口である扉が開く。
「お疲れぃーす、頼まれてた分配達終わりましたけどー……って、あのー! 誰かー?」
ホワイトボードから離れた場所にある入口での声は、離れた場所にいるメンバーには聞こえなかったが。
入ってきた高務 穂(ka4524)はキョロキョロと周囲を確認して自分からホワイトボードへと歩み寄ってきた。
彼は一足先に商社で働いていて、ついさっきまで大量の荷物を配送先へ届けていたのだ。
そんな穂を見やって、ハナはにこりと笑う。それはそれは楽しそうに。何処となく恍惚とした表情に見えるのは何故だろう。ここには社畜しかいないのに。
「ジェシーさん、訂正させてくださいますかぁ。ウェディング衣装は、私とこちらの方でさせて頂きますぅ」
「え!?」
手のひらで示された穂が思わず声を上げる。
「それからー……パメラさんのお名前も、そちらに載せて頂けますかぁ?」
「……あら?」
ジェシーが組み立てザレムが書き記したスケジュールには、今回参加するメンバー以外の、今正に半狂乱で仕事と踊り狂っている商社員のスケジュールも記入されていた。
どこからか「わぁ、あとこれだけ踊れるうふふ」とか「今夜も寝かさないぜ……」とか聞こえてくる。正直怖い。
「あー、こほんっ。とにかく、だ。ここに書かれてる内容で済んだヤツから消してってくれ」
明確にやる事が見えたからか、それとも所謂「やけっぱち」なのか。全員が声を上げて散っていく。
■社畜下準備
「パメラさん……お仕事が片付いたら一緒にお茶でもいかがですか……」
パメラの前で恭しく頭を下げ、手を取ったバリーグが、微笑む女主へと声をかけた。
ここは狂乱の舞台だというのに、戦場だというのに。まさしく場違いの様である。
「わたしは構いませんが……その前に解決すべき事案が、目の前にあるようですね」
「え?」
微笑む女主は、取られた手と逆の手でそっとバリーグの後ろを指さした。そこには。
「……いい根性してるわね? アンタ」
笑顔で仁王立ちしている、彼の部下がいた。
ヒールの高い靴で足を蹴りつけたジェシーが、背後に山積みになった段ボールをどさどさと上司の腕へと落としていく。そのまま笑顔で女主へと向き直り。
「呼ばれたからには、ちゃんと仕事をさせてもらうわよ。……ねえ、バリーグ?」
実に。実にいい笑顔である。絶対に敵に回したくない笑顔だと、一瞬でも見てしまった全員が思うほど。いい笑顔である。思わず謝りたくなる。すみませんでした。
「おも、おもい、おもいよジェシー。いくらおいちゃんが力仕事得意だからって一気に持たせなくてもいいんじゃ」
「早く終わらせてゆっくりしたいでしょ」
「……ハイ」
渋々段ボールを運び出していくバリーグを見送って、ジェシーはパメラへと向き直った。
「闇雲に働き続けても効率が落ちるだけだわ。『適度な』休憩は必要よ。どこか一か所休憩に使える様にしてもいいかしら」
持参した紅茶や菓子を取り出し尋ねるジェシーへと僅かに首を傾げた後、パメラは商社の一角を片付け椅子を持ち寄ってでスペースを確保する事を提案する。
ひとまずそこに休憩スペースを設置し、いつでも摘まめるようにと手軽な菓子を置いておく。
「それじゃあたしは、まず納品作業の手伝いに行くわ。……ほらバリーグ段ボールこっちに持ってきて」
「待ってジェシーこれ結構重いからそんなすぐに「早く」はい」
カツカツとヒールを響かせ歩いていくジェシーを見送って、パメラは一つ頷いた。
「……よい人材ですね」
「パメラ様まさか……!」
……社畜ロックオン……?
■エルバッハさんの事務社畜
バリーグが運んできた段ボールの中身は全て未決裁書類だった。どういうことなの。
「すみません繁忙真っ最中からの伝票がほぼ手付かずなんです」
「決済してもしてもなくならないんです」
「もやしていいかな……」
「こういう書類仕事も、忙しい時には手間になりますからね」
遠い目をしている既存社畜に、エルバッハは髪を結いあげながら微笑んで見せる。
「大丈夫ですよ。以前こういった仕事を受けた事がありますから」
言いつつ今にも崩れ落ちてきそうな書類と段ボールの山の中心に陣取って、まずは一つの箱を開く。
――閉じたくなった。なんだこの領収書の数は。いつのだ。今のか。
「すみません、手伝ってもらえますか? まずは段ボールを開いて、中の書類を出してください」
ざばー。書類が滝の様に流れ落ちる。何してたんだ仕事か。仕方ないな。
エルバッハに倣って、社員たちも段ボールの中身を1つずつひっくり返す。
ある程度空の段ボールが出来たら、次の段階へ。段ボールに大きく『何月分』と書いていく。
「未決済のものは、月ごとに仕分けして入れてください。そうですね……4人くらいで仕分けて、残りのメンバーで決済しましょう」
「おぉ……」
忙しくなければ、それくらいのことは考え付いたかもしれない。すべては忙しいのが悪い。そういう事にしておこう。
袖が汚れないように捲り上げて、エルバッハは戦闘を開始した。
まずは、一山崩していこう。
「確かに忙しいですし、そう言った意味では修羅場といえるでしょうが、一瞬の判断ミスが自分や味方の生死に直結するような別の意味での修羅場に比べれば、少なくとも精神的には余裕がありますね」
書類を捌きつつ呟き一山崩した、その瞬間。
「昨日期限の至急の書類見つかりました助けて!」
新たな段ボールを確認して、エルバッハは苦笑を漏らすのだった。
■ザレムさん、ヴィルマさん、穂さん、ハナさん、ジェシーさんのウェディング社畜うぃずおっちゃんの配達社畜
「今日中に、仕上げる小物の材料、持ってきたよ……」
「……あれ。バリーグさんお疲れ?」
「おいちゃんそんな、若くない、んだっ……ってば……」
息切れしたバリーグが置いた段ボールの中身は、恐らくコサージュやヴェールに取りつけるのだろう造花の素材だった。
それを受け取って、別の社員が代わりの段ボールを3つバリーグへと差し出した。表情は憑りつかれたような笑顔だ。正直言おう。怖い。
「こっち協会担当のエルドバ仕入れ屋こっちはリーシャの店こっちはダンガスの店へお願いしますねいってらっしゃい!」
「うっそ……まだこんなにあるの? マジで?」
引き攣った笑顔のバリーグへ、紙のように真っ白な顔色の社員が笑顔で親指を立てた。なんだそのドヤ顔。
「まだまだ序の口ですよ。去年もこんな感じでしたし」
「えっ……君ら、毎年こんな仕事してるの!? バカじゃないの!?」
「貴方も仲間入りだよやったね!」
「嬉しくない!」
「バリーグ煩い!」
バリーグが1回目の配達へと向かった頃、ヴィルマ、ジェシーは材料の入った段ボールを各々開き作業を始めていた。
「ふむ……幸せのお手伝い……とはいえ、華やかな舞台の裏側はこんな風に成り立っていたのじゃなぁ」
しみじみ。ヴィルマは長い髪をアップにしなおして小さく苦笑する。
得てして華やかな舞台裏には戦場と社畜がいるものだ。実感。
「さあ、パメラさんはこっちに来ちょうだい。そろそろメイクの時間よ」
「あら?」
不思議そうに首を傾げるパメラの背後に。
「なにかひとつ青いもの、そして彼女の靴に6ペンス銀貨」
謳う様にしてハナは意味深な笑みを浮かべつつ近寄ってきた。
「それは?」
「リアルブルーで有名なお話ですぅ」
古いもの、新しいもの、借りたもの、青いもの。それに、銀貨を一枚。
これを身に着けた花嫁は幸せになるという。可愛らしいお話だ。
「幸せになるぞって気合オーラは写真からビシバシ伝わりますから、小物で手を抜いちゃ駄目ですぅ。というわけでぇ、おうちからおばあさんの指輪とかご友人からハンカチとか借りて来て下さいぃ」
「待って!? さすがに時間ないから!」
「すみません、私の実家はヴァリオスにはないのです」
衝撃の事実。女主の実家はここにはない!
残念そうに唇を噛むハナへと、ジェシーは笑いかける。
「仕方ないわ。そういう事もつきものよ」
それならば、と次にハナがとりかかったのはブーケやブートニア、そしてフラワーシャワーだったのだが。
「あのぅ。花弁はどこにあるんですぅ?」
走り回る社員を捕まえて尋ねるが、帰ってきた言葉は「手配漏れだどうしようすみません泣いてきますね!」だった。それでは済むわけがない。
「え゛。駄目ですよぅ、一番重要なシーンじゃないですかぁ! すぐにとりに行ってきますぅ」
口調のおっとりさとは裏腹。物凄い勢いで取りに行ったハナを見送って、穂は乾いた笑みを浮かべた。
「パメラさんが花嫁さんしてくれるのに、俺も花嫁さんとはこれいかに。いやいいんだけどね!?」
そう、穂に渡されたのは花婿衣装ともうひとつ。スリット際どい系の花嫁衣裳だった。どうしてこうなった。
「花嫁さん二人でグループ婚っていうのを提案するんですさぁ座って化粧しますよ!」
商社の化粧担当がワクワクしている。おまえどういうつもりだ。いいんだけどね。
テキパキと施されていく化粧だが、それは普段街中で見かける女の人よりもやや濃い目に施されているように見える。
「花嫁さんが一番目立たなきゃいけませんからね。少し派手目にするんですよ。髪も顔も盛るってやつですね!」
「ははー……なるほど。勉強になります」
何の勉強だろう。深く聞いてはいけない気がするのでスルーしておく。
ジェシーの手によって花嫁になったパメラと一緒に、花嫁衣裳の穂の写真をまずはぱちり。
次に、メイクを変え服装を変え、髪型を男らしくオシャレに変えて。服装をタキシードに「お色直し」した穂とドレスのままのパメラをぱちり。
「ポージングがお上手ですね」
「まぁ、普通の人よりは慣れてるんです」
写した写真をすぐに現像に回すのはザレムだ。
「これ使ってポスター作って街中に貼って……時間との勝負だな」
「ザレムさんポスターお願いしますからタキシードの方。タキシードの方でお願いします!」
「写りのいい方だな」
「ザレムさんっ……!?」
さて、一体どちらが貼られる事になるのか。
■おわりみえてもう一山
持ち寄った飲み物や菓子。ザレムがあらかじめ頼んでいた昼食等をつまみつつ、今日の仕事がひと段落つきそうになったその時。
駆け込んできた社員は泣きながら笑っていた。怖い。
「足りない……ひとはこ足りない……」
社員の顔に見覚えがあったザレムは、そんなはずはと段ボールを数えだす。
「全部で16だろ? みんなで確認してちゃんと全部……」
いち、にー、さん、し……。
「13、14、15……」
「15」「15だ」と何処からともなく響くうめき声。足りてない。何処に行った。
「今から探してたらきりがない。どっかあるかもわからない。……くそっ」
忙しい繁忙期とはいえ、帰らないわけにもいかない。お泊りは許しません。ブラック商社ではありませんのであしからず。
「……れ……」
呻くように呟いたザレムの声に、しん、と静まり返る商社内。
「作れ作れ作れ!」
本人は落ち着こうとしているが、声が完全におかしい。彼の声に、全員が憑りつかれたように材料の入った段ボールへと群がる。
「これ、残業代出ますか……?」
「出しましょう。すみませんがお願いしますね」
自身も小物用の段ボールから材料を取り出し、パメラはこくりと頷いた。
終わりを見せたはずの商社には、まだ暫くの間忙しさという敵が居座る様である。
この日、商社の社員とアルバイトにやって来たメンバーが一体何時に帰り着いたのか。
そもそも、この日中に帰れたのか。
それ以前に本当にこの人たち大丈夫なのか。
それらすべてを知っているのは――神様だけである。
END
■
「所謂『えいせいへーい!』状態……」
絶句してぽつり呟いたのは誰だっただろう。
忙しなく走り回る従業員たちを遠い目で見やって、ザレム・アズール(ka0878)は乾いた笑みを浮かべた。
「あー……これは、ハンターの手も借りたいってヤツか……」
とんでもないところに来てしまったかもしれない。なんて後悔はすでに遅し。先にしようが後にしようが、後悔なんて役立たずである。
踊り狂っているような商社内を確認して、右の拳を顎へと添えたジェシー=アルカナ(ka5880)が傍に立つ女主人へと声をかけた。
「ホワイトボードみたいなものあるかしら。一度スケジュールを見直したいわね」
「あぁ、書くのは俺が」
「繁忙期って言ってもそんなに忙しくないでしょ~余裕よゆ痛いっ!!」
この期に及んで惨劇を甘く見ていたバーリグ=XII(ka4299)だったが、言葉の途中で突然蹲る。小さく唸り声をあげる彼の目が微かに潤んでいるのは気のせいだろうか。
微笑ましい目で二人を見たパメラが持ってきたホワイトボードの前、残った仕事一覧や今いる従業員の人数が記されたメモを手にジェシーは思考を巡らせる。
ペンが走り書き記されていくスケジュールを確認しつつ、エルバッハ・リオン(ka2434)とヴィルマ・ネーベル(ka2549)が手を挙げた。
「あ、ジェシーさん。そこの伝票整理は全てこちらで引き受けます」
「ふむ。我は写真撮影や準備。それから小物作りを手伝うかのう」
「ウェディング衣装に関しては私もお手伝いできますよぅ」
星野 ハナ(ka5852)が声を上げたとき、商社の入り口である扉が開く。
「お疲れぃーす、頼まれてた分配達終わりましたけどー……って、あのー! 誰かー?」
ホワイトボードから離れた場所にある入口での声は、離れた場所にいるメンバーには聞こえなかったが。
入ってきた高務 穂(ka4524)はキョロキョロと周囲を確認して自分からホワイトボードへと歩み寄ってきた。
彼は一足先に商社で働いていて、ついさっきまで大量の荷物を配送先へ届けていたのだ。
そんな穂を見やって、ハナはにこりと笑う。それはそれは楽しそうに。何処となく恍惚とした表情に見えるのは何故だろう。ここには社畜しかいないのに。
「ジェシーさん、訂正させてくださいますかぁ。ウェディング衣装は、私とこちらの方でさせて頂きますぅ」
「え!?」
手のひらで示された穂が思わず声を上げる。
「それからー……パメラさんのお名前も、そちらに載せて頂けますかぁ?」
「……あら?」
ジェシーが組み立てザレムが書き記したスケジュールには、今回参加するメンバー以外の、今正に半狂乱で仕事と踊り狂っている商社員のスケジュールも記入されていた。
どこからか「わぁ、あとこれだけ踊れるうふふ」とか「今夜も寝かさないぜ……」とか聞こえてくる。正直怖い。
「あー、こほんっ。とにかく、だ。ここに書かれてる内容で済んだヤツから消してってくれ」
明確にやる事が見えたからか、それとも所謂「やけっぱち」なのか。全員が声を上げて散っていく。
■社畜下準備
「パメラさん……お仕事が片付いたら一緒にお茶でもいかがですか……」
パメラの前で恭しく頭を下げ、手を取ったバリーグが、微笑む女主へと声をかけた。
ここは狂乱の舞台だというのに、戦場だというのに。まさしく場違いの様である。
「わたしは構いませんが……その前に解決すべき事案が、目の前にあるようですね」
「え?」
微笑む女主は、取られた手と逆の手でそっとバリーグの後ろを指さした。そこには。
「……いい根性してるわね? アンタ」
笑顔で仁王立ちしている、彼の部下がいた。
ヒールの高い靴で足を蹴りつけたジェシーが、背後に山積みになった段ボールをどさどさと上司の腕へと落としていく。そのまま笑顔で女主へと向き直り。
「呼ばれたからには、ちゃんと仕事をさせてもらうわよ。……ねえ、バリーグ?」
実に。実にいい笑顔である。絶対に敵に回したくない笑顔だと、一瞬でも見てしまった全員が思うほど。いい笑顔である。思わず謝りたくなる。すみませんでした。
「おも、おもい、おもいよジェシー。いくらおいちゃんが力仕事得意だからって一気に持たせなくてもいいんじゃ」
「早く終わらせてゆっくりしたいでしょ」
「……ハイ」
渋々段ボールを運び出していくバリーグを見送って、ジェシーはパメラへと向き直った。
「闇雲に働き続けても効率が落ちるだけだわ。『適度な』休憩は必要よ。どこか一か所休憩に使える様にしてもいいかしら」
持参した紅茶や菓子を取り出し尋ねるジェシーへと僅かに首を傾げた後、パメラは商社の一角を片付け椅子を持ち寄ってでスペースを確保する事を提案する。
ひとまずそこに休憩スペースを設置し、いつでも摘まめるようにと手軽な菓子を置いておく。
「それじゃあたしは、まず納品作業の手伝いに行くわ。……ほらバリーグ段ボールこっちに持ってきて」
「待ってジェシーこれ結構重いからそんなすぐに「早く」はい」
カツカツとヒールを響かせ歩いていくジェシーを見送って、パメラは一つ頷いた。
「……よい人材ですね」
「パメラ様まさか……!」
……社畜ロックオン……?
■エルバッハさんの事務社畜
バリーグが運んできた段ボールの中身は全て未決裁書類だった。どういうことなの。
「すみません繁忙真っ最中からの伝票がほぼ手付かずなんです」
「決済してもしてもなくならないんです」
「もやしていいかな……」
「こういう書類仕事も、忙しい時には手間になりますからね」
遠い目をしている既存社畜に、エルバッハは髪を結いあげながら微笑んで見せる。
「大丈夫ですよ。以前こういった仕事を受けた事がありますから」
言いつつ今にも崩れ落ちてきそうな書類と段ボールの山の中心に陣取って、まずは一つの箱を開く。
――閉じたくなった。なんだこの領収書の数は。いつのだ。今のか。
「すみません、手伝ってもらえますか? まずは段ボールを開いて、中の書類を出してください」
ざばー。書類が滝の様に流れ落ちる。何してたんだ仕事か。仕方ないな。
エルバッハに倣って、社員たちも段ボールの中身を1つずつひっくり返す。
ある程度空の段ボールが出来たら、次の段階へ。段ボールに大きく『何月分』と書いていく。
「未決済のものは、月ごとに仕分けして入れてください。そうですね……4人くらいで仕分けて、残りのメンバーで決済しましょう」
「おぉ……」
忙しくなければ、それくらいのことは考え付いたかもしれない。すべては忙しいのが悪い。そういう事にしておこう。
袖が汚れないように捲り上げて、エルバッハは戦闘を開始した。
まずは、一山崩していこう。
「確かに忙しいですし、そう言った意味では修羅場といえるでしょうが、一瞬の判断ミスが自分や味方の生死に直結するような別の意味での修羅場に比べれば、少なくとも精神的には余裕がありますね」
書類を捌きつつ呟き一山崩した、その瞬間。
「昨日期限の至急の書類見つかりました助けて!」
新たな段ボールを確認して、エルバッハは苦笑を漏らすのだった。
■ザレムさん、ヴィルマさん、穂さん、ハナさん、ジェシーさんのウェディング社畜うぃずおっちゃんの配達社畜
「今日中に、仕上げる小物の材料、持ってきたよ……」
「……あれ。バリーグさんお疲れ?」
「おいちゃんそんな、若くない、んだっ……ってば……」
息切れしたバリーグが置いた段ボールの中身は、恐らくコサージュやヴェールに取りつけるのだろう造花の素材だった。
それを受け取って、別の社員が代わりの段ボールを3つバリーグへと差し出した。表情は憑りつかれたような笑顔だ。正直言おう。怖い。
「こっち協会担当のエルドバ仕入れ屋こっちはリーシャの店こっちはダンガスの店へお願いしますねいってらっしゃい!」
「うっそ……まだこんなにあるの? マジで?」
引き攣った笑顔のバリーグへ、紙のように真っ白な顔色の社員が笑顔で親指を立てた。なんだそのドヤ顔。
「まだまだ序の口ですよ。去年もこんな感じでしたし」
「えっ……君ら、毎年こんな仕事してるの!? バカじゃないの!?」
「貴方も仲間入りだよやったね!」
「嬉しくない!」
「バリーグ煩い!」
バリーグが1回目の配達へと向かった頃、ヴィルマ、ジェシーは材料の入った段ボールを各々開き作業を始めていた。
「ふむ……幸せのお手伝い……とはいえ、華やかな舞台の裏側はこんな風に成り立っていたのじゃなぁ」
しみじみ。ヴィルマは長い髪をアップにしなおして小さく苦笑する。
得てして華やかな舞台裏には戦場と社畜がいるものだ。実感。
「さあ、パメラさんはこっちに来ちょうだい。そろそろメイクの時間よ」
「あら?」
不思議そうに首を傾げるパメラの背後に。
「なにかひとつ青いもの、そして彼女の靴に6ペンス銀貨」
謳う様にしてハナは意味深な笑みを浮かべつつ近寄ってきた。
「それは?」
「リアルブルーで有名なお話ですぅ」
古いもの、新しいもの、借りたもの、青いもの。それに、銀貨を一枚。
これを身に着けた花嫁は幸せになるという。可愛らしいお話だ。
「幸せになるぞって気合オーラは写真からビシバシ伝わりますから、小物で手を抜いちゃ駄目ですぅ。というわけでぇ、おうちからおばあさんの指輪とかご友人からハンカチとか借りて来て下さいぃ」
「待って!? さすがに時間ないから!」
「すみません、私の実家はヴァリオスにはないのです」
衝撃の事実。女主の実家はここにはない!
残念そうに唇を噛むハナへと、ジェシーは笑いかける。
「仕方ないわ。そういう事もつきものよ」
それならば、と次にハナがとりかかったのはブーケやブートニア、そしてフラワーシャワーだったのだが。
「あのぅ。花弁はどこにあるんですぅ?」
走り回る社員を捕まえて尋ねるが、帰ってきた言葉は「手配漏れだどうしようすみません泣いてきますね!」だった。それでは済むわけがない。
「え゛。駄目ですよぅ、一番重要なシーンじゃないですかぁ! すぐにとりに行ってきますぅ」
口調のおっとりさとは裏腹。物凄い勢いで取りに行ったハナを見送って、穂は乾いた笑みを浮かべた。
「パメラさんが花嫁さんしてくれるのに、俺も花嫁さんとはこれいかに。いやいいんだけどね!?」
そう、穂に渡されたのは花婿衣装ともうひとつ。スリット際どい系の花嫁衣裳だった。どうしてこうなった。
「花嫁さん二人でグループ婚っていうのを提案するんですさぁ座って化粧しますよ!」
商社の化粧担当がワクワクしている。おまえどういうつもりだ。いいんだけどね。
テキパキと施されていく化粧だが、それは普段街中で見かける女の人よりもやや濃い目に施されているように見える。
「花嫁さんが一番目立たなきゃいけませんからね。少し派手目にするんですよ。髪も顔も盛るってやつですね!」
「ははー……なるほど。勉強になります」
何の勉強だろう。深く聞いてはいけない気がするのでスルーしておく。
ジェシーの手によって花嫁になったパメラと一緒に、花嫁衣裳の穂の写真をまずはぱちり。
次に、メイクを変え服装を変え、髪型を男らしくオシャレに変えて。服装をタキシードに「お色直し」した穂とドレスのままのパメラをぱちり。
「ポージングがお上手ですね」
「まぁ、普通の人よりは慣れてるんです」
写した写真をすぐに現像に回すのはザレムだ。
「これ使ってポスター作って街中に貼って……時間との勝負だな」
「ザレムさんポスターお願いしますからタキシードの方。タキシードの方でお願いします!」
「写りのいい方だな」
「ザレムさんっ……!?」
さて、一体どちらが貼られる事になるのか。
■おわりみえてもう一山
持ち寄った飲み物や菓子。ザレムがあらかじめ頼んでいた昼食等をつまみつつ、今日の仕事がひと段落つきそうになったその時。
駆け込んできた社員は泣きながら笑っていた。怖い。
「足りない……ひとはこ足りない……」
社員の顔に見覚えがあったザレムは、そんなはずはと段ボールを数えだす。
「全部で16だろ? みんなで確認してちゃんと全部……」
いち、にー、さん、し……。
「13、14、15……」
「15」「15だ」と何処からともなく響くうめき声。足りてない。何処に行った。
「今から探してたらきりがない。どっかあるかもわからない。……くそっ」
忙しい繁忙期とはいえ、帰らないわけにもいかない。お泊りは許しません。ブラック商社ではありませんのであしからず。
「……れ……」
呻くように呟いたザレムの声に、しん、と静まり返る商社内。
「作れ作れ作れ!」
本人は落ち着こうとしているが、声が完全におかしい。彼の声に、全員が憑りつかれたように材料の入った段ボールへと群がる。
「これ、残業代出ますか……?」
「出しましょう。すみませんがお願いしますね」
自身も小物用の段ボールから材料を取り出し、パメラはこくりと頷いた。
終わりを見せたはずの商社には、まだ暫くの間忙しさという敵が居座る様である。
この日、商社の社員とアルバイトにやって来たメンバーが一体何時に帰り着いたのか。
そもそも、この日中に帰れたのか。
それ以前に本当にこの人たち大丈夫なのか。
それらすべてを知っているのは――神様だけである。
END
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/25 22:03:22 |
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そしてハンター達は踊る ジェシー=アルカナ(ka5880) ドワーフ|28才|男性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2016/06/26 00:05:16 |