大きな少女のお引越しあるいはピクニック

マスター:春野紅葉

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~12人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/06/25 19:00
完成日
2016/07/01 18:07

みんなの思い出

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オープニング

●安息の地は何処かに
 こじんまりとした部屋の中で、ユリヤはぐっと身体を伸ばした。低い天井に手が届き、天井がみしっという音を立てた。赤毛の三つ編みを尻尾のように躍らせながら、窓辺に視線を向ける。日差しに照らされた丸々と太った鞄が窓への最短距離を塞いでいた。
「うーん……荷物はまとめ終えた……よね」
 移動をあきらめて数歩後ろへ下がると、備え付けだったベッドに足が当たり、身体が倒れていく。それに抗うことなく、ベッドへと寝ころんだ。
 聖堂士になって、リゼリオから帝都まではるばる渡ってきてから数ヶ月。旅路の同行者は10人ほどしかいない。ほとんどの者達が旅の途中に立ち寄った場所で新しい生活を始めるか、或いはそもそも一緒に来てくれなかった。
「帝都はみんなにとっては少しうるさすぎるみたいだし、次の所なら……きっと」
 口に出しながら、数日前に貰って来たチラシに目を通す。住民募集中と書かれたそのちらしは、よくよく読むと、住居への入居者を募る物ではなく、一つの町へと移住する者を募集するチラシだった。
 募集されている町は畜産と農耕を生業としているらしく、のんびりとした空気が流れる田舎町なのだという。それ故、若い者の流出が絶えず、過疎化が止まらないらしい。
「ここなら、村にいた頃と同じような生活も……」
 口に出すと同時に、背中を寒気が駆け巡る。数ヶ月前までいた村の光景が、村の本当の姿が、昨日のことのように思い出されて、ユリヤは思わずチラシを捨てて身体をかきだいた。
「大丈夫、大丈夫。もう村長さんはいないし、私はもう、あんなことをしたくない。きっとみんなも、同じはず」
 不安になる心を奮い立たせようと、頬を叩く。じぃんとする痛みを確かに感じながら、ユリヤはゆったりと身体を起こすと、その場で足を組んで目を閉じた。その状態でゆっくりと深呼吸をすると、頬の痛みが薄れて、やがて真っ暗の視界の中にぼんやりと自分の姿が浮かび上がってくる。
 誰にも言えないことも、自分自身になら言える。そんな気がして、心の奥で、浮かび上がった自分に語りかける。それは聖堂士になってから、ずっと続けてきて、いつの間にか日常になっていた。
 愚痴や不安、恐怖、今は無いけれど歓喜に喜楽。色々な事を語ると、時には何かしらの答えが返ってくるような気がした。
 目を開けてもう一度深呼吸すると、気合を入れるために声を出して立ち上がり、そのまま今までいた部屋の扉を潜って歩き出す。
「お母さん」
 ユリヤが両手を広げれば壁に手がついてしまうほど狭い廊下を、ぎぃと音を立てながら進み、母がいるであろう台所に顔を出してみる。
 そこでは背が少し小さくなったようにも見える母が、昼食を作っているのが見えた。
「ユリヤちゃん……どうかしましたか?」
 少し震えるような声で振り返る母の顔はやつれている。村を出てから、母はずっとこの調子だった。村での騒動が片付いた後、旅に出ようとしたユリヤと同行者に、母は着いて来てくれた。やつれ果てる母の様子を見れば、旅など止めておいた方が良いと説得しても、決して止めなかった。村から着いて来てくれている者達には悪いが、ユリヤ本人の目的は母がゆっくりと暮らせる場所を探すためでもある。
 母がやつれている理由は分かっている。それはきっと、父のことだろう。しかし、それを口にする気にはなれなかった。口に出せばきっと母は今よりもやつれていく。
「私、ちょっとお買い物に行ってくるね」
 半ば無理矢理、声を明るい調子にしてユリヤが言うと、母は少し怯えるようにして身体を震わせながら、絞り出すように声を出す。
 無性に悲しくて、でもそれが表に出ないよう気を付けながら、ユリヤは逃げるように家を後にした。

●旅路は晴れやかに
 ユリヤは家を出ると、じんわりと湿った空気の中を歩いて、ハンターオフィスへと足を運んだ。中に入るとすぐに顔なじみになりつつある受付嬢を見つけて声をかける。
「こんにちは。あの依頼ってもう出てますか?」
「あら。あれですか? ええ。出ていますよ。……もうすぐなのですね」
 微笑む受付嬢に、ユリヤはほんのりと笑った。
「お世話になりました」
 優しい受付嬢の微笑に、何度か心を救われた時もあった。ユリヤの言葉に、受付嬢は優しい笑みを返すだけだった。
 もう一度お礼を言って、ユリヤはそのままオフィスを後にすると、今度は商店街で店舗を回っていく。全ての食材を集め終えた頃には、日が傾きかけていた。
「これぐらいでいいかな……」
 鞄の中に入った肉や野菜の数々を見ながら、一言つぶやいて、空を見上げる。まだやや高めの空にある陽を見て、思わず目を眩ませた。目線をおろすと、伸びる影を踏むようにしながら、再び歩いて帰途につく。

●大きな少女の小さな集団
「本日は、よろしくお願いします!」
 後ろにいる10人の自分と目的を同じくするかつての村民を代表して頭を下げる。各々の様子でそれを見ているハンターたちの反応を聞いて胸をなでおろし、ユリヤは軽く笑う。
 同行者が10人、ユリヤを含めて11人の集団による旅立ちとあって、持ち出された二大付きの馬車の数は5個ほど。この馬車を再び借り受けるためにユリヤはここ二ヶ月、帝都で任務をこなしていた。
 振り返りみると、自分のこれまでの働きが報われたように思えて、熱いものがこみ上げてきた。
 向かう先までは舗装された道と平原が続く。必ずしも危険がないとは限らないとはいえ、おそらくは平和に済むであろう道のりだ。
「えっと……まず帝都を出て南にくだります。それで、ここの草原に出てから休んで村に行きます」
 ユリヤは地図を広げると、事前に相談しておいた道順を確認するように言うと、ハンターの方を見てハンターの反応を確認した。
「それじゃあ、おねがいします」
 ユリヤはそう言うと、ハンター達の各々の肯定の意思を見てから、後方に向けて指示を出した。

リプレイ本文

●出立前に
「本日は、よろしくお願いします!」
 荷台付きの馬車5個と帝都の入り口たる門を背景に、ユリヤは頭を下げた。
「セリスよ。よろしくね」
 セリス・ティニーブルー(ka5648)は静かな美貌に笑みを浮かべて手を差し伸べた。ユリヤがセリスの手を握り返すのを見ながら、火艶 静 (ka5731)は思案する。
 ユリヤたちが旅ことには自分も少なからず関係している。そればかりか、元凶と思われている可能性すらあった。
 そのために、今回はあまり表だって世話をして逆に押しつけがましく思われたり、ハンター全体への不信感につながることは避けるべきかもしれないと。
 村の人々のほんの些細なことでも力になれればと参加した月・芙舞(ka6049)もと挨拶を述べる。
「イロイロ事情はあるかもしれないけど、美味しいものとかたくさんあるところなら元気出るわよ、きっと!」
 幼馴染5人で参加した者たちの中で、いち早くその表情からも快活さが見て取れる茶髪の少女、クウ(ka3730)が元気よく声を上げる。
「今日は頑張りますので、宜しくお願いしますね!」
 リラ(ka5679)が言うと、彼女の後ろで纏められた桃色の髪がかわいらしく跳ねる。
「エステル・ソルです。今日はいっぱいお手伝いします!」
 二人に続くようにしてやる気充分といった様子で、蒼いふわふわの髪を揺らしてエステル・ソル(ka3983)が、それに続く形で隣にいた彼女の兄であるアルバ・ソル(ka4189)が妹を優しく見守るようにしながら挨拶を告げる。
「じゃあ、打ち合わせを始めようか」
 最後となったヘルヴェル(ka4784)が挨拶を終えると、アルバが切り出した。
「はい」
 アルバの視線を受けてユリヤが説明し、それから各々が自分たちの持ち場はどこにするかなどを決めていく。
「出発前によろしいですか? わたくし、金平糖を持ってきたんです」
 そういって、エステルは村人やハンターに自分の名前と同じ、星の形をした金平糖が入った小袋を配っていく。人々に渡し終えた彼女は、そのまま今度は馬のほうへと歩み寄り、取り出したリンゴを馬へと与えた。
「甘い物は幸せさんになりますから!」
 ほんわかとした笑みでエステルは言う。
「一つ、頂きますね」
 ユリヤは言って、小袋から取り出した桃色の星を一つ口に入れた。
「おいしいです」
 うれしそうなエステルの顔を見て一同が温かい気持ちになりながら、ついに出発の準備が整った。

●行路
 舗装された道路を一同はゆったりと進んでいた。気温はそれほど高くなく、空は晴れ渡っていて、道を進むのに問題は何もないように思われる。
 先頭を進むのは、リラと静、それにユリヤの二人だった。二人は歩きにくい場所や、車輪が脱線しそうな場所を探してはそこをかわすように指示を出していた。舗装は去れていても完全な更地とは言い難く、凹凸が幾らか見受けられた。
「ユリヤさんはおいくつなのでしょうか?」
 流石に地面ばかり見続けていることと、幼馴染たちと離れていることもあり、少し気分転換をしようと、リラは横を歩くユリヤを見る。170センチはありそうなユリヤの身長はリラでは少し見上げなくてはならなかったが、その表情はまだ幼さを残している。
「14歳ですよ」
「すごいです……不安はないのでしょうか?」
「不安ならありますよ。えっと……リラさんは、その、殿を務めてくださっている皆さんとは幼馴染、なのですよね?」
「はい。皆、大好きな幼馴染です!」
 嬉しそうで誇らしげなリラの笑みを見て、ユリヤも笑う。
「私、ユリヤさんや参加者の皆さんととも仲よくなりたいです。折角、一緒にいるのですから」
「私も。他の皆さんとも、仲よくなりたいです」
 顔を見て、笑いあうと再び二人は視線を地面へと向けた。

 一行の中央当たりではセリス、エステル、芙舞の三人が村人たちと話をしていた。
 セリスは普段、射手をしていることもあって馬車の上から周囲を見渡しつつも、怖がらせぬよう、村人に話しかけている。
 まっすぐ続く舗装された道の中で、何かしらの話題を見つけては話しかける彼女に、村人のうち数人が見惚れていた。

 エステルは一行のあちらこちらを訪ねて話を聞いていた。村人の話は不思議だったり、驚きがあったりでエステルには新鮮だった。もっと聞こうとしていた時、不意にエステルを呼ぶ声がした。
「エステル大丈夫? 疲れてない?」
 姿を現したのは、一行の周囲を見る役割を担い、歩き回っていたクウだった。可愛い妹を心配する姉のようにクウはエステルを見ていた。
「はい、わたくしは大丈夫です! いろいろと聞けて、初めて聞くこともあって楽しいです!」
 晴れやかなエステルの笑顔を見て、クウも同じように笑う。
「疲れたらちゃんというのよ?」
 そう言い残すと、エステルの返事を聞いて、クウはその場を後にした。エステルはその後も、村人たちと語り合いながら、手伝いをしていく。

 芙舞は当たり障りのない天候の話から始め、村人との距離を少しずつ縮めていた。村人たちもそんな芙舞の気遣いを知ってか知らずか、彼女の言葉に徐々に心を開いていた。
「新天地で生活の基盤を築くのはとても勇気がいるよね」
 うんうんと芙舞は同意の意思を鮮明にしていた。穏やかで静かな彼女の語り口にいつの間にか村人の口も軽くなりつつある。軽い相談のようなものを受けながら、芙舞の護衛は続いていく。

 最後列に当たる位置は、元々、ヘルヴェルとアルバの二人がいた。アルバが遅れている人の荷物を持ったりしながら進み、ヘルヴェルが前後を警戒しながら進む形である。そして今は、そこにクウが合流していた。
「クウは今、気になる人います?」
 警戒は解かないものの、周囲に危険がないこともあって、ヘルヴェルは世間話という風で自分では疎い色恋のことを、なんとなく問いかける。
「えっ、なぁに? ヘル、きになるひと~?」
 振り返ったクウに頷くと、クウは少し悩む姿勢を見せた。
「ん~、ときめくというか、心躍るのは、狩りのときだけど、そういうのとは違うんでしょ?」
 クウは少し歩みの速度を上げて先行しつつ、そう、口に出す。
「私はよくわからないわ。ねーねー、アルバは気になる娘いる?」
 そして、ちょうど隣にいたアルバへそう問うた。アルバはその瞬間、飲もうとしていた水でかすかにむせた。
「ああ、そうだね、ええっと」
 アルバは静かに呼吸を整えながら考えを巡らせようとするが、まとまらなかった。他の子ならばまだしも、クウからのその問いに答えられるほどの気持ちの整理はまだできなかった。しどろもどろになりながら、しかし嘘をつかないようなんと答えようかと思案する。その時だった。
「見えました。草原です。そろそろ時間もいいですし、お昼にしましょう!」
 そんな声が、前の方から聞こえてきた。ほっと胸をなでおろす中、隣のクウが不思議そうな表情から一変、お昼の単語に目を輝かせた。

●お昼休憩
 なだらかな丘陵が続く平原に出た一行は、打ち合わせ通り、昼食を取る事にした。この丘陵であれば、もし仮にどこからか襲撃を受けたとしても相手が近寄って来るまでに武器を取って反応する事が可能だ。草原を風が駆け抜け、草の香りを運んでくる。
 セリスは用意しておいたカップラーメンを村人たちに配り、目の前で調理してみせる。奇怪な物でも見る目の村人たちだったが、セリスが食べ、芙舞が食べ、静が食べ、自分達の中でユリヤが礼を言って食べ始めると、やがて一人、また一人と食事をしていく。
 ざわつき、美味と語る村人の姿を見て、セリスはその美貌に笑みを浮かべる。
「ありがとうございました」
「いいのよ」
 代表するようにもう一度、礼を言うユリヤに笑い掛けて、自分もそれに口を付けた。

 芙舞は一行が食事を終えた頃合いで、村人たちを集めた。興味深げに集まってきた村人たちを座らせ、一人ずつ自分の前に並ぶように告げる。
「皆さんのこれからのことを占って上げる」
 言って、芙舞はタロットを切る。良い運勢の者にはいい結果である事を告げ、悪い結果の者には、そのいい兆しを見つけて告げていく。
「大丈夫よ。悪い兆しっていうのは、良い結果に辿り着くまでに乗り越えるべき障害よ」
 そう言うものかと、不思議そうに見る村人たちの顔が、少なくとも生気があるのを見て取った芙舞は、村人たちに笑いかけた。

 静は、食事を終えて小休止を入れた後、ユリヤを探していた。少し離れたところで座り、静かに目を閉じるユリヤに近づいて声をかける。
「ユリヤちゃんは聖堂士になることにしたのですね……」
 静はユリヤの隣に座ると、少女を見つめた。
「はい。もう二度と、あんな風なモノに会いたくないのです」
「ユリヤちゃん……聖堂士のスキルには向きませんが、これから村の人達やお母さまを守っていくのに、私が今できるささやかな手助けをしましょう」
「手助け、ですか?」
 目を開けて不思議そうに静を見つめる少女に、静は頷いて、一本の杖を差し出す。一見すると何の変哲もないその杖を見てユリヤは首をかしげる。静はその杖を奔らせると、剣身が顔を出す。
「仕込杖と呼ばれる物です……ユリヤちゃん、棒術・杖術という戦い方は……知っていますか?」
 静の問い掛けに、否定の意を示すユリヤを見て、静は真剣な面持ちで告げる。
「刃を用いることなく、戦い方によっては必要以上の血を流さず事を収めることができる武術です……基礎を学んでみる気はありませんか?」
 そこで一息入れて、静は真っ直ぐにユリヤを見た。ユリヤが唾を飲む。それを見ながら、静は言葉を続けていく。
「仕込杖は必要に応じて、杖術、剣術いずれの戦い方を選ぶ事が出来る……それは、相手を活かすも殺すも、自分で選べると言う事……大切な人達を守るために、血を流す覚悟が必要な時だけ、刃を抜けば良いという事……そう言う事……なんですよ」
 そう言うと、最後に優しい微笑みを見せた。
「大切な人を守るために……血を流す覚悟が必要な時だけ……」
 反芻し、深呼吸する。
「……教えてください、使い方」
 ユリヤは静を真っ直ぐに見つめた。静の微笑が、再び真剣なそれに変わっていった。

 クウら幼馴染の5人は、エステルとヘルヴェル、それにアルバの3人がお弁当を作って来ていた。クウもお弁当とは少し違うが、家で仕込んでいた干し肉をたくさん持ってきている。
 意気揚々とエステルが持ってきた弁当を広げる。中にあったのはマッシュ卵に半熟卵、キャベツやレタス、マッシュポテト、トマトなどの野菜やハム、蒸し鶏といった具材と、マスタードやマヨネーズ、ケチャップ、タルタルソース、塩胡椒といった調味料だ。それに続くようにして、ヘルヴェルも弁当を開けた。こちらはマスタードチキンやハンバーグ、唐揚げ、フィッシュカツなどが入っている。それ以外にもヘルヴェルはサラダとおにぎり、エステルはミートボールを作っていた。
 アルバの作ってきた弁当は肉料理とリラが好きな三色ニョッキ。それに加えてケーキもあるが、リラを驚かせるためにちょっとの間、隠しておく。
「これは好きな具材を入れて、サンドイッチさんにして食べるのです。ミートボールさんも自信作なので食べてみてください」
 言って、エステルは愉しそうに笑う。音頭を取って食事を始める中、エステルはサンドイッチを作ろうとするアルバを制した。
「お兄様の分はわたくしが作ります!」
 意気揚々と言ったエステルがせっせと吟味しながら材料を選ぶ。
「料理を作るとき少しずつ手助けしておきましたから、大丈夫ですよ」
 エステルの料理が基本的に甘いことを知っているが故に、ほんの少し身構えていたアルバの近くで、こそりとヘルヴェルが告げる。そうこうしてるうちに完成していたサンドイッチをエステルから手渡され、アルバはそれを口に入れた。程よい瑞々しさとお肉の触感が口の中を支配していく。
「美味しい!」
 アルバが口に出すより先に、そう言ったのはクウだった。大きく口をあけて待機していたクウの口に、エステルがミートボールを持って行ったのだ。
 本当に美味しそうに、頬をほころばせながら食べるクウの様子は、そのミートボールの味を証明しているかのようだ。
「頑張ったね」
 エステルから受け取ったサンドイッチを食べ終えたアルバはそう言って優しい笑みを浮かべてエステルの頭を撫でた。エステルは照れたように、あるいは嬉しそうにはにかんだ。
「そういえば、リラは好きな人はいる?」
 ニョッキを食べていたリラを見て、ヘルヴェルは思い出したよう問いかける。
「好きな人、ですか? 今は……いないですよ。わたしも恋とかしてみたいですけどね?」
 そう、ほんのりと笑みを浮かべ、今、ここにはいない兄の事を思い出す。そこで、頭を撫でられていたエステルが、ヘルヴェルへとミートボールを向ける。
 ヘルヴェルはそれをあーんと口に入れて飲み込んだ後、ニヤリとどこか悪戯っぽく笑んで、唐揚げをひとつ、アルバの方に向けて突きだした。
「アルバ、ほら、あーん」
 唐突な事に動揺するアルバはやがて諦めたかのように口を開けてそれを受け入れる。
「ほら、クウもリラもアルバにやってみようか~?」
 楽しそうに、その一方で愛おしげな笑みを絶やさず告げる。自分が上げた時以上の動揺を見せるアルバを見て、ヘルヴェルは終始ニヤニヤと笑む。
 それから、5人が楽しみながらの食事を進めていくと、不意にアルバが声を上げ、リラ以外の3人に目配りする。
「誕生日おめでとう、リラ」
 そう言って、それまで隠していたケーキを取り出す。
「……ありがとうです!」
 唐突な事に声を失っていたリラはやがて声をしぼりだすように、しかし大きく嬉しそうな声を上げ、それ聞いた者達も集まっていく。やがてリラの誕生日であることは気付かれ、拍手が平原を包みこんだ。

●到着
 日差しが夜に向けて傾き始めた頃、一行は遂に目的地に到着した。
「貴方達の新しい生活が実りあるものでありますように」
 仕事の報酬を手にしたハンター達が解散する直前、アルバはユリヤ達の方を向いて、そう告げた。その後、幼馴染4人は、町の中から漂う焼いたお肉の匂いにつられたクウの後を追うようにして町の中へ消えた。

 小さな町役場で移住のあれこれを済ませたユリヤは、静と共に町のはずれにいた。
 静から杖術の基礎を伝えられた頃には、もう一時もすれば日が沈むというほどになっていた。
「いつも、ありがとうございます。静さん」
 今にも倒れそうな身体を起こしたユリヤは、夕日に照らされる静を見た。静の微笑を見て、ユリヤは深く息を吐いた。

 街へ繰り出したハンター達を見た人々は、珍しい外からの客に少しばかり活気を取り戻した。
 それぞれが思い思いに暮らす中を、空が静かに見つめていた。

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重体一覧

参加者一覧

  • 疾く強きケモノ
    クウ(ka3730
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 正義なる楯
    アルバ・ソル(ka4189
    人間(紅)|18才|男性|魔術師
  • 絆を繋ぐ
    ヘルヴェル(ka4784
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 罠の教会から生還せし者
    セリス・ティニーブルー(ka5648
    エルフ|25才|女性|猟撃士
  • 想いの奏で手
    リラ(ka5679
    人間(紅)|16才|女性|格闘士
  • 森の主を討ち果たせし者
    火艶 静 (ka5731
    人間(紅)|35才|女性|舞刀士
  • アリス達と過ごす夏の夜
    月・芙舞(ka6049
    人間(蒼)|28才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン ご相談
ヘルヴェル(ka4784
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/06/24 23:35:22
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/06/24 19:34:57