• 夜煌祭

【夜煌】赤き大地への道

マスター:有坂参八

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/09/11 19:00
完成日
2014/09/20 11:30

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●伝統復活の兆し
 ラッツィオ島の戦いも収束した頃、辺境は再び活性化しつつあった。
 ここ数年、途絶えていた平安を願う祭事……『夜煌祭』の話が持ち上がったのだ。
 数日のうちにその話は商人や部族間を伝い、辺境内の各所へと届いていく。
 祭りに呼応するように、ここでも新たな動きが出たようだった――

●冒険都市にて
 クリムゾンウェストを馳せるハンター達の総本山、冒険都市リゼリオ。
 その海の玄関口となる港湾地区は、海を挟んだラッツィオ島での戦を勝利に終えた事で、今やかつてない活気に満ち溢れていた。 
「シバ様シバ様、こちらでございますにゃ! はやく、はやくっ!」
 笑顔を浮かべたハンター達が行き交い、どこか浮き立った空気の波止場を、辺境部族出身とおぼしきハンターの少女が駆けていく。
 どことなく猫っぽい仕草は、辺境部族の、特に獣を信仰対象に持つ霊闘士には珍しくない特徴だ。
 彼女はしきりに振り返りながら、後から付いてくる老兵に手を振り、何度もその歩みをせかしていた。
「そう慌てさすでないわ。こちとら急に呼び出されて要塞からブッ飛んで来たんじゃぞ」
 少女を追う老兵の名は、シバと言った。肩書きは帝国軍の一兵卒であり、辺境要塞ノアーラ・クンタウの対歪虚部隊の一員だ。
 北の地で歪虚を抑える為に、先の戦にも参加しなかったそのシバが、リゼリオに来た理由……それは、先日の戦闘によって討ち倒された歪虚の『置き土産』にあった。

「おお、こりゃ随分でかいの」
 その黒い塊を見下ろし、シバは眉を潜め、自らの白鬚を撫ぜた。
 塊は歪曲した金属板の様だが、所々に金や銀の小さな細工が入っていた。その意匠が、クリムゾンウェストに現存する如何な文明のものとも違う事を、シバは知っていた。
「青の世界の、『うちう船』の残骸と伺っておりますにゃぁ。最初は負のマテリアルびんっびんで、ハンター皆で総掛かりしても完全には浄化できなかったですにゃ」
「そうかそうか、確かにこいつァ大物よ……『赤き大地』に持って帰ったとして、大巫女達が本気出して漸く祓えるかどうかちゅう所じゃろなぁ」
「ふにゃー」
 『赤き大地』とは、辺境に住まう部族が自らの土地を差して使う、古い呼び名。そしてシバが態々リゼリオまでやってきたのは、彼の地へこの『破片』を持ち帰る為だ。
 数年ぶりに行われるという祭に併せて、リムネラら赤き大地の巫女達が聖地にて祈りを捧げれば、この忌まわしき歪虚の置き土産も勝利の銘碑とできるかもしれない、と。
 リスクを分散する為に破片の運搬は幾つかのルートに分けて行うとして、陸路に使われる海沿いの街道は現在、シバの属する部隊の保護下にあったし、シバを始め辺境出身者は周辺の地理に明るいという事情もある。
「で、とりあえずコレを、赤き大地のハンターズソサエティにもってきゃええんじゃな」
 既に部族とハンターズソサエティの間で話は決まっており、要塞の帝国軍も今回はそれに協力する方針を固めた。
 それで方々繋がりのあるシバに、運搬の役目が回ってきたというわけだ。
「ンでもシバ様。コレ持って帰れますにゃ? すんげい重そうですにゃ」
 少女が不安そうにシバを見上げた。部族出身の霊闘士の中でも特に古参であるシバは、齢九〇とも、或いはそれ以上とさえ噂されている。歴戦の戦士とて、衰えぬ事はあるまい、と。
 対するシバはギラリと笑い、老人には不釣り合いな力こぶを作ってみせた。
「ばかたれ、儂を誰だと思っとる。赤き大地最強の霊闘士(脚注:自称)、蛇の戦士シバぞ」
「きゃーシバ様カッコいいですにゃー!」少女の歓声は、ほんのちょっとだけワザとらしい。
「よしよし、安心して儂に任せとけば宜しい。どれ、よっこいせ」
 そしてシバが、塊を持ち上げようとしたその時だ。

 ぐきっ

 何かが砕けるような音。シバがその場に崩れ落ちた。
「ぐおっ!? 腰、腰がーっ!?」
「ぎゃーっ、シバ様!? シバ様、しっかりしてくださいにゃーっ!」
 腰を押さえ、のたうちまわるシバ。誰の目にも明らかな、ギックリ腰である。
「大変ですにゃ、よりにもよってこんにゃ時に! トシなのにいきなり持ちあげるから!」
「……ぐぅぅぅ、やむを得ん、ハンターじゃ、ハンターを呼べい!」
「ハンターですかにゃ!? ハンター呼んで助けて貰えばいいですにゃ!?」
「わ、儂じゃなくて、運ぶのをやって貰うんじゃぞ? あ、あと、お前さんは道案内をしてやってくれ……」
 ぷるぷると震える手を少女の肩に載せ、がくっと脱力するシバ、まさかのリタイア。
「ぎにゃー、シバ様セキニンホウキですにゃー! 誰か助けてくださいにゃー!」
 少女は慌てて、その場を走り去り、ハンターズソサエティ本部へと駆けていく。
 かくして、リゼリオに駐留していた数名のハンター達に急遽、招集が掛けられたのだった。

リプレイ本文

●出立
 用意した偽装用の商品の最後の袋を荷台に積み終え、紫月・海斗(ka0788)は額に浮かんだ汗を拭った。
「さて……長い日程だが、しっかり送り届けねぇとな」
「大役ですものね」
 そう言って馬車の上から海斗を引き上げたのは、白神 霧華(ka0915)。
 幌掛け屋根付きの荷台の隅っこには、商人の姿に扮したロミー・デクスター(ka2917)が慎ましく陣取っている。
「遠いですけど……がんばります……」
 喋りきってから、微かに息を吐く。
 極度のインドア派であるロミーには準備だけでも大仕事だったが、それでも今回の依頼は彼女にとって、一歩踏み出す為の勝負どころだ。
 『破片』の護送を担う事になったハンター達は、みな行商人やその護衛という体に扮装していた。必要な物は、全て本来の護送役であったシバが手配してくれた。
「シバおじいさん、道具の調達はありがとうね。これで、ちゃんと運びきれると思うよ」
 と、ドロテア・フィリアス(ka2999)は、診療所のベッドで横たわるシバを、紫色の瞳で覗き込む。
 返事代わりにシバはニッと笑ったが、額には脂汗。
「数日もすれば治るとは思いますが……」
 シバの容態を見ていた聖導士のライエル・ブラック(ka1450)は、強がる老人の姿に苦笑した。
「あーあ、シバさん無茶するから」
「お、重い物を急に持ち上げると、腰に来るっていいますしね……」
 ころころと笑ったウーナ(ka1439)に、美作さくら(ka2345)がフォローを入れる。ライエル同様、彼女達もこの老兵とは面識があった。
「……次来る時は、和菓子を作ってきますね。行ってきます」
 樹導 鈴蘭(ka2851)の言葉に、シバは楽しみに待つ、と小さく答え……出立するハンター達を臥したまま見送った。

●極彩色の街
「これから宜しくお願いいたします。いろいろ教えて下さいね」
「任せて下さいにゃ。赤き大地への街道は、私達の庭もどーぜんですにゃ」
 テトと名乗った案内の少女は、丁寧にお辞儀した霧華に倣う様に、自らも頭を下げた。
 リゼリオから辺境要塞まで北上するには、半島東部の海岸線をぐるりと回る込む必要があると、テトは語った。
 視界一杯に広がる水平線を眺めながら、鈴蘭はこれから訪れるだろう街に想いを馳せる。
(ヴァリオス、ジェオルジ……可能性は十分あるけど、探す暇はないか)
 生き別れた両親の顔を、必死に思い出した。幸運にもすれ違えれば、或いはと。
 一方、傍らのさくらは、すっかりテトと打ち解け談笑している。
「そういえばシバさんって、よく腰やっちゃうんです?」
「カッコつけて痛い目みる事が多いんですにゃ」
「どこも一緒だね。うちのお爺ちゃんもね……年寄り扱いするなって」
 強がっていたシバの姿が、記憶の中の祖父と重なり、さくらはくすくすと笑った。

 ハンター達は二人一組の交代制による警戒を軸としつつ、商人を装った荷馬車で街道をゆっくりと北上して行った。
 リゼリオから出て暫くの旅路は平和そのもので、荷馬車はあっという間にヴァリオスへ到着した。
 ここには、魔術師協会の本部がある。行き交う群衆には、魔術師然としてフードや帽子で顔を覆う者も多い。
 鈴蘭は道行く人の顔を覗き見てみたり、あるいは建物を見上げてみたりしていた。家族を捜したいのと、見知らぬ街に来た高揚感からか、妙にそわそわしている。
 対照的にさくらは、顔のはっきりと伺えぬ人々を注意深く警戒していた。
「意外に街にいる間も、狙われやすいかも」
「……」
 さくらの傍らでロミーも、ずっと緩やかな動きで周囲を見渡しつつ、時折思い立ったように、物陰や通行人を凝視していた。

「ま、夜はきちんと休ませて貰わんとな。今夜は宿を取ろう」
 海斗が手近な酒場で聴き込むと、程なくして、その晩の宿は決まった。
「僕は、馬の世話をしておきますね」
 と言って、ライエルは馬の手綱を引き厩に向かう。
 彼は道中からずっと、馬車を牽く馬達の様子を、つぶさに観ていた。お陰で、一行の移動能力を全面的に支える馬達は、今の所は存分にその力を発揮してくれている。
「だからって、馬小屋に泊まらなくても大丈夫なんじゃない?」
「万が一の事がありますからね」
 生真面目そのものの表情で答えたライエルに、ウーナは小さく鼻を鳴らし、
「それなら私も付き合うよ。一人だけ馬番じゃ、悪いしね!」
 と、彼に続いた。

●襲撃
 ヴァリオスを発つ際にも、大きな問題が起こる事はなかった。
 事件があったのは、次のジェオルジの街道が終わりに差し掛かった頃だ。

 野営中の夜半過ぎ、さくらと鈴蘭は微かな明かりを頼りに周囲を警戒していた。
「もう、海が近いんですね。風に潮の香りが混ざってます」
「潮風か……髪が軋んでしまうな。いや、それ以前に喉がやられて……ん?」
 他愛無い会話で眠気を抑えこんでいると、その潮風に、小さな足音と声が混じり始めた。
 それも、一方向からではない。
 鈴蘭は迷わず、薙刀の石突で地を叩いた。その音で、寝ていた他のハンター達がテントから出てくる。
「敵襲、ですか」
 微睡みから跳ね起きたばかりの霧華に、鈴蘭は小さな声で答えた。
「足音と、話し声が聞こえたんだ。たぶん……僕達を見てる」
「賊か、つけられたかね?」と海斗。
「リゼリオで荷馬車を準備していた時には、怪しい人影はいませんでした」
 ライエルは自分の記憶をなぞりつつ、眼鏡を外して襲撃に備える。
「たぶん……ヴァリオスから、です。見覚えが……あります、から」
 遅れて馬車から這い出てきたロミーが、控えめに告げた。
 月明かりに浮かぶ人影はおぼろげだが、しかし彼女の記憶の中のシルエットに一致する。
 街でハンター達を遠巻きに凝視していた、紫のフードを被った男達……
「……動いた!」
 さくらが、次に鈴蘭が、殆ど同時に薙刀を構えて迎撃姿勢を取り、ドロテア、ロミーがそれに続く。
 覚醒者が一日に能力を使える回数には限りがある故に、残り半数のハンターは覚醒せず、まずは力を温存する事になった。
「くそっ!? 罠か!」
 野太い男の声、同時に、何かが地面にぶつかる音がした。
 ロミーが野営前に仕掛けた罠に、足を取られたのだろう。
 さくらは倒れた男に駆け寄ると、その手に握られた獲物を薙刀の柄で弾き、叫んだ。
「いま退けば見逃します、馬鹿な真似はやめなさい!」
 相手が人間であれば、殺める事は無い。それは、さくらなりの筋の通し方だ。そうあると、決めた。
 目の前の賊はさくらの言葉で背を向け走り去ったが、しかし、残りの賊が止まる様子はない。
「……この!」
 鈴蘭は鞘をつけたままの薙刀を低く振るい、すれ違いざまに賊の足下を払う。
 軽い手応えと、相手が上下逆さまに転倒したのが見えた。死にはすまいが、たぶん、かなり痛むだろう。
「こう暗くっちゃ、何人いるかわかんないなー」
 ぼやきながら、ドロテアは目に付く賊を片端から、刀の峰打ちで叩き伏せていく。
 闘いながら、賊は自分達よりかなり格下の敵であるという事を実感する。
「こいつら、覚醒者かよ!?」
「退け、退けっ!」
 無謀を漸く悟ったか、呪わしげな賊の叫び。次いで、ばらばらの方向に走り去る足音。
「追いかける余裕は……なさそうだね」
 馬車に戻った鈴蘭が、背後の宵闇を振り返る。
「ここにいる人達だけでも捕まえておけばそれでいいと思うよー」
 ドロテアは既に、動けなくなり置き去りにされた山賊二名を手近の木に縛り付けている。
 明日にでもすれ違った隊商を介して公僕に通報すれば、死ぬこともあるまい。

●赤き大地へ
 『狂気』の一件で、海岸の歪虚が増加した一方で、それを商機と捉え、街道を往来する商人も多く現れた。
 盗賊達の動きが活発化したのも、その影響らしい……
 と、道ですれ違った隊商から聞き取った話を、ライエルはかいつまんで仲間に説明した。
「ここから先は歪虚の目撃例も多いそうです。気をつけましょう」
 盗賊の襲撃があった晩から一夜明け、一行は既にジェオルジを抜けている。
 後は、海岸線を北上して辺境へ行くだけだ。
「昼は兎も角、夜に歪虚に出くわすのは避けたい。できれば最短ルートを通っていきたいんだが」
「近道ですにゃ? ありますけど、割とデンジャラスですにゃ」
 霧華が渋るテトを諭す様に、言葉を付け足す。
「移動や野営の時間が長びけば、その分敵を引きつけて危険が増すかもしれません。ここは一気に、抜けてしまいましょう」
「にゃぁ、そういう事でしたら」
 テトは地図上の、鋸状に入り組んだ海岸線を指さした。地図に載っていない近道らしい。
 崖や岩場で見通しが悪く、不意をつかれやすいとの事だった。
「私が自分の馬で少し先を行くよ。早期警戒って奴だねー。ロミーさんも一緒に行く?」
「わ、私は……ば、馬車で後方を……」
 唐突にドロテアに振られ、ロミーは慌て気味に答えた。
 ロミーの極端な屋内嗜好はこの数日で仲間にも知れ渡った事で、その上でドロテアは彼女をからかったのだ。
「はは、いいよいいよー」と笑い流して、ドロテアは馬で道の先へ駆けていく。
 彼女の先導を受けつつ、残りの起きているハンターは、馬車で全周を警戒しながら道を進んだ。

 歪虚に出くわしたのは、海岸線を進み始めて二日目の昼過ぎ頃、視界を遮る崖の様な巨岩群に囲まれた道での事だった。
「この音……」
 潮騒に混じる異音に気づいたウーナが、はたと顔を上げた。同時に、岩場の向こうからドロテアの叫び声が聞こえる。
「来た! 歪虚が、いち、に……と、とにかく沢山!」
 慌てて愛馬と共に駆け戻ってきたドロテアの背後に、それを追ってくる巨大な影。
 直ぐに5メートル程の大きさの、タカアシガニの様な歪虚が視界に入る。
 しかもそれが、『とにかく沢山』。
「全部で九匹いますね」
「おいおい、大歓迎だな」
 冷静に数えたライエルに、海斗が乾いた笑いを返す。ロミーが慌てて、荷台で仮眠していたさくらと鈴蘭を揺すり起こした。
「全部倒すのは無理そうだね。一気に突破……できるかな?」
 ウーナは、隠す必要の無くなった懐の銃を抜き、安全装置を解除する。
「賭けるしかないでしょう。見た限り動きは緩慢ですから……可能性はあります」
 霧華が、腰の刀を抜いて馬車を飛び降りた。
 危急の事態にハンターの全員が覚醒し、続くドロテア、さくら、鈴蘭も前に出る。
 海斗が手綱を握った馬車が走りだすと同時に、歪虚達は馬車を追うようにして動き出した。
「この動き……やはり相手は『破片』に引き寄せられています、馬車に近づけないで!」
 ライエルは、霧華とすれ違い様、彼女にプロテクションを施す。
 その霧華は、歪虚から振り下ろされた鋏を、諸手に握った刀で受けとめた。
「……っ、そう易々と……!」
 足腰を跳ね上げ、歪虚の巨体を、渾身の力で押し返す。
「……抜かせはしませんよ!」
 体勢を崩した蟹の足元に霧華が大きく踏込み、その関節目掛けて強打を叩き込んだ。
 重心の偏った足が切断され、蟹型歪虚の身体が傾く。
「破片を渡す訳には行かないんだよね。ここは通してもらうよ!」
 ウーナは馬車の上から、進路を塞ぐ別の歪虚を遠射で銃撃する。
 それに合わせる様に、ロミーはファイアアローを詠唱。拳銃と魔法の閃光が重なり、歪虚の足の一本が弾け飛ぶ。
 そうしてハンター達が歪虚の動きを抑える中、海斗の操る馬車は戦場を突破しようと疾駆した。
「皆しっかり掴まってろよォ!」
 踏み下ろされる歪虚の足を、右へ左へと躱し前進する馬車。揺れる荷台の端からテトが転げ落ちる。
「みぎゃーっ!」
「ちぃッ! 嬢ちゃん掴まれ!」
 海斗は咄嗟、腰に下げたショットアンカーを抜き、テトの頭上の空間目掛けて放つ。
 錨と縄は、テトが伸ばした腕に絡みつき、かろうじて脱落を防いだ。
 やがて馬車は歪虚の布陣を突破、敵に対し背を向ける。
 後は、足止めに馬車を降りたハンター達の撤退を待つだけだがーー九匹の歪虚を食い止めるにはやはり無理があった様で、殿の四人は徐々に劣勢に陥り始めていた。
「先行って、ここはあたし達でやるから!」
 やむを得ずウーナやライエルも馬車を降りて、殿に加わろうとした時だった。
「いや、その必要は無い」
 崖上から野太い声が響く。
 返事を待たず、矢と銃弾の一斉射撃が、歪虚に降り注いだ。 
 見上げれば、崖上に十数人の兵士達の姿。
 山岳猟団……帝国軍が迎えに来たのだ。
「事情はシバから聞いた。後は引き受ける。行け」
 指揮官らしき大男が、ハンター達に言った。出発前にウーナが、シバに便宜を頼んでおいたのが功を奏したのだろう。
 ハンター達は、その場を帝国軍に任せて戦場を抜け、辺境へと続く残りの道程を急いだ。

●終着点
 その後はごく弱い雑魔の襲撃を二度ほど凌いだが、ハンター達は概ね平穏に辺境へ入る事が出来た。
 海岸線から離れて森の中を進み、一日程経過した頃……
「皆、要塞が見えたよ! やぁっとついたー!」
 先行していたドロテアが歓声を上げた。直ぐに後続の馬車にも、辺境要塞ノアーラ・クンタウが見えてくる。
「こんなにも長い間、自分の部屋に帰らないというのは……ちょっと、記憶にないです……」
 すっかり定位置と化した荷台の隅で、ロミーが胸を撫で下ろし、ほうと息を付いた。
 その後要塞に到着して直ぐに、『破片』はハンターズソサエティへと受け渡された。
「『破片』についてはこの後の夜煌祭で、大巫女達による浄化の儀式が行われるそうです」
 所要の手続きを終え、霧華が仲間に告げた。
「大巫女か……巫女……か……いや、リアルブルー式の巫女服じゃないから大丈夫かな……」
 巫女という単語に、鈴蘭は難しい表情を浮かべている。何やら良からぬ思い出があるらしい。
「山岳猟団も、無事撤退したようですね。あの歪虚は、後日改めて討伐すると」
 ライエルの方は、顔見知りも多い帝国軍の兵舎に顔を出していた。今回の任務も相まって、好意的な対応を受けた様だ。
「爺さんに貰った保存食も売りさばけたよ……ま、小遣い稼ぎ程度だがな。土産の酒でも買ってリゼリオに帰ろうぜ」
 と、海斗。擬装用の荷物は、これを見越してのチョイスだったらしい。得られた報酬も、若干ながら増えた。
「お土産、腰の薬とかもいいんじゃないかな。あと、湿布とか入浴剤とか」
「そうだなぁ……テトちゃんは何がいいと思う?」
 ウーナの提案を受けて、さくらは何気なくテトに尋ねた。
 問われたテトは、ぽつりと、
「シバ様は蛇が好物ですにゃ」
「……え?」
「へび」
 …………。
 
 兎にも角にも、『破片』の護送は成功した。
 この後、ある者はリゼリオに戻り、またある者は辺境に残って夜煌祭へと足を向ける。
 ハンター達の旅路もまた、ここに一旦の区切りを迎え……彼等はそれぞれの、次の冒険へと備えるのだった。

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  • 自爆王
    紫月・海斗(ka0788
    人間(蒼)|30才|男性|機導師
  • 不屈の鬼神
    白神 霧華(ka0915
    人間(蒼)|17才|女性|闘狩人
  • 青竜紅刃流師範
    ウーナ(ka1439
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士
  • 仁愛の士
    ライエル・ブラック(ka1450
    人間(紅)|15才|男性|聖導士
  • 山岳猟団即応員
    美作さくら(ka2345
    人間(蒼)|14才|女性|霊闘士
  • 世界の北方で愛を叫ぶ
    樹導 鈴蘭(ka2851
    人間(紅)|14才|男性|機導師
  • インドア系ハンター
    ロミー・デクスター(ka2917
    人間(紅)|15才|女性|魔術師

  • ドロテア・フィリアス(ka2999
    人間(紅)|14才|女性|霊闘士

サポート一覧

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白神 霧華(ka0915
人間(リアルブルー)|17才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2014/09/11 07:53:26
アイコン 相談卓
ドロテア・フィリアス(ka2999
人間(クリムゾンウェスト)|14才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2014/09/11 17:35:46
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/09/07 05:48:39