• 詩天

【詩天】駒種城潜入

マスター:近藤豊

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2016/07/02 07:30
完成日
2016/07/04 06:25

みんなの思い出

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オープニング

 詩天――東の三条が一つ、墨子城。
 歪虚より奪還した三条家であったが、軍師 水野 武徳 (kz0196)は未だ残り二城の攻略を実行していなかった。
 ただ、時間ばかりが無情にも過ぎていく……。

「水野殿っ! これはどういう事でござるか!」
 若峰より来訪した武将が墨子城の大広間へ足を踏み入れるなり、部屋中に響き渡る声を発する。
 誰が聞いても怒気が孕んでいる事は明白であった。
「なんじゃ、騒々しい」
 耳かきで己の耳を掃除していた武徳。
 明らかに面倒そうな対応が、武将の怒りが更に燃え上がる。
「何を暢気に耳掃除などされておるっ! 墨子城を攻略してから何日経過したと思っておられるか!」
「はて……五日あまりだったか」
「八日じゃ! それまで水野殿は攻めもせず墨子城へ籠もっているだけではないか!」
 武将の怒りは、収まらない。
 武徳はハンターの助けもあって、墨子城を奪還する事ができた。
 しかし、武徳は残り二城の奪還に動き出していない。
 若峰へ補給打診を行ったものの、それ以上は何もしなかったのだ。
「水野殿は分かっておられるのかっ! 拙者は……」
「まあ、待て。わしもただ寝ておった訳ではないぞ。待っておったのじゃ」
「待つ? 待つとは何を……」
「――敵。敵の動きを見定めておった」
 武徳は、敵の襲来を待っていたのだ。
 いつ敵が襲来しても良いように備えていたのだが、敵が城の周辺に姿を見せる事はなかった。
「わしらが墨子城を奪還したと知れば、敵は奪い返す為に兵を差し向けてくると思っておった。
 だが、奴らは一向に動こうとせん。
 考えられるとすれば墨子城を攻略する兵力を持ち合わせておらぬか、わしらを罠にかけようと待っておるか……」
 仮に墨子城にいた歪虚のように烏合の衆に等しい集団なら、感情に任せ物量に物を言わせた攻撃を仕掛けていただろう。
 だが――その気配はまったくない。
 武徳の言うように兵力増強や策を講じようとしているのであれば、敵に指揮官クラスの存在が考えられる。
「そうであったか。水野殿、無礼を謝ろう。
 しかし……このまま待っているだけでは城は奪い返せませぬぞ」
「分かっておる。
 ちょうど、物見から伊須群城に敵が集結しつつあると報告があった。指揮官がいるとすればこちらであろう。
 ならば、わしらも動く頃合いよ。打診していた若峰からの増援は如何か?」
「間もなく到着する手筈となっておる」
「結構」
 武徳は、武将の返事に頷くと傍らにあった紙を広げる。
 そこには墨子城を含む東の三城が描かれていた。
「わしは増援と共に伊須群城へ向かう。敵もおそらくこの動きを待っていたはずじゃ。兵力を集めているのがその証拠よ。おそらくわしらが伊須群城へ向かえば、駒種城の兵を増援として送るに違いない。
 そうなれば絶好の機会。後発部隊は急ぎ駒種城を落とす。本体を囮として後発部隊で城を奪い返すのじゃ」
「しかしどうやって……」
「駒種城は大須賀川を天然の堀とする平山城よ。西から南に流れる川と傾斜の強い斜面に守られ、攻撃を仕掛けるならばは北の正門のみじゃ」
 駒種城自体は、それ程大きな城ではない。
 城壁は土壁。正門は丸太を格子状に組み合わせ、門の上部から丈夫な縄で巻き上げるタイプの簡単な作りだ。
 だが、西と南は大須賀川が城に沿って横たわり、天然の掘となっている。
 さらに山の上に築城されている上、崖の傾斜も強い。結果的に攻める場所は北へ集中する事となり、防衛側も北からの侵入を注意すれば良い。櫓で上から弓を打ち下ろすだけでも攻める側にとっては厄介な存在だ。
 駒種城は、見掛け以上に堅牢な城と評しても差し支えは無いだろう。
「敵は北に防御を固めておる。言い換えれば、西と南は防御が手薄……そこが付け所よ」
「馬鹿な。駒種城の西側と南側は忍びでも発見されずに登るのは……」
「不可能だろうな。だが、先日の戦いで見たはずじゃぞ。
 ――報酬次第で任務を遂行するハンターと呼ばれる傭兵を」
「!」
 武徳は、駒種城の攻略にハンターを駆り出すつもりだ。
 作戦は、こうだ。
 後発部隊は、駒種城の北から攻める。敵も駒種城の北側へ注意を向けるはずだ。その隙にハンターは南の崖を上がり城へ潜入する。ハンターは陽動を行いながら、正門を開き、一気に味方を引き入れる。
「あの者達であれば、隠れながら崖も容易に登れよう。できれば敵の指揮官に関する情報を駒種城で発見して欲しいが……それはちと都合が良すぎるか。
 勝負は、本体のわしらが伊須群城に接近する前に駒種城を落とせるか、じゃな。あまり接近すれば敵と正面から衝突する事になる。今は避けたいところじゃ」
「なるほど。
 それにしても、水野殿はハンターを信用しておられるのじゃな。一度ならず、二度までも重用しようというのだから」
 今回の作戦を語る武徳であったが、武将の返答で顔を曇らせる。
「信用? そんな訳なかろう。むしろ危険な存在じゃと思っておる」
「何故でござるか?」
「敵は歪虚ばかりではないぞ。幕府や朝廷も利が無ければ動かぬだろう。仮に詩天に仇為す者がハンターを雇えばどうなる? われらはハンターが来たという西方の事すら知らぬのだ。心から信用するはずがあるまい」
 苦々しい顔の武徳。
 さらに、言葉を続ける。
 その顔はより一層曇った。
「生き残る事は容易ではない……その事、そなたも先の乱で知っておるはずじゃ」
 
 先の乱――千石原の乱の嫌な記憶が蘇る。

リプレイ本文

 東の三城が一つ――駒種城。
 この城を奪還すべく、墨子城から水野 武徳 (kz0196)が出陣。武徳本人が囮になる事で、敵に新たな動きを促そうというのだ。敵が武徳の動きに呼応して駒種城から伊須群城へ救援打診すれば駒種城は手薄となる。
 そこへ後発部隊とハンターが駒種城へ襲撃を仕掛けるのだ。

「これが……城の見取り図だ」
 鬼揃 紫辰(ka4627)が事前に入手していた駒種城の見取り図を広げる。
 今回の作戦でもハンターは非常に重要なポジションを任されている。南の崖を登攀して駒種城へ潜入。敵を陽動しつつ、正門を開いて味方を引き入れるのだ。
「なるほど。この見取り図があれば、最短ルートで正門まで近付けます」
 見取り図で自らが動くルートを指でなぞる黒耀 (ka5677)。
 今回ハンターは陽動班と開門班の二手に分かれる。陽動で可能な限り敵を減らしながら、迅速に門を開く事が今回の作戦の肝である。
「陽動が成功すれば、戦闘を避けながら正門へ近付けるはずです。
 トランシーバーで連絡を取りながら、タイミングを計るべきでしょう」
 同じく開門班である和泉 澪(ka4070)。
 ニンジャのようなミッションで内心依頼を楽しんでいるが、仕事は仕事。迅速かつ確実に任務を遂行しなければならない。
「陽動の方は……そうね、この広場など良いのでは?
 私の風雷陣を敵にお披露目するには充分ですわ」
 和音・空(ka6228)は、城の中央に存在している大きめな広場を指し示した。
 駒種城は城といっても平山城、それも本丸等は存在していない。平屋の建物があるだけで、高い物と言えば櫓ぐらいだ。
 陽動を仕掛けるならば、なるべく広いところで派手に立ち回る必要がある。
「そうだな。陽動である以上、逃げ回るよりも場所を定めた方が良い」
 同じ陽動班の鬼揃も空の意見に賛同する。
 万一を考えても屋内での戦いは避けたいところだ。
「大まかな作戦はこのようなところでしょうか。
 では、参りましょうか。あの崖を登って駒種城へ」
 黒耀 は、視線を上へと向けた。
 そこには急斜面で登る者を寄せ付けない崖が聳え立っていた。

 ――東の三城、二つ目の奪還作戦が開始する。


「ほいほーい。まるでニンジャさんですねー」
 小宮・千秋(ka6272) は、筋力と持ち前の器用さを武器に崖を器用に登っていく。
 正門を攻める後発部隊も動き後出したらしく、敵の目は北側へ向いている。この為、南側は手薄となり、ハンター達は比較的楽に登っていく。
 しかし、すべてのハンターが楽に登れている訳ではない。
「……覚醒者であっても、これは厳しいです」
 悠里(ka6368)は、他のハンターからやや出遅れていた。
 東方、それも戦闘そのものが初めて悠里。震える心を気合いで奥に押し込みながら、必死に崖を登る。
「私も……肉体労働は得意ではないのだけれど……」
 悠里に続いて空もやや出遅れる。
 立体感覚で次に掴むべき岩は予測できるものの、想像よりも手足がついていかない。しかし、ここを登らなければ作戦に参加する事もままならない。
「大丈夫だよー。登り終わったらロープを上から下ろすので、それを使って登れば楽になるからー」
 やや疲労が浮かぶ二人の先を千秋がスイスイと登っていく。
 登攀後、先に登った者が上からロープを下ろせば、後から登ってくる者も容易に崖を登る事ができる。千秋だけでなく澪や鬼揃もロープを準備していた為、悠里や空も困る事はないだろう。
「みんなに感謝ね。借りは作戦で返させてもらうわ」
「……」
 空が微笑みを浮かべる横で、悠里は押し黙っていた。
 沈黙を続ける悠里に空は声を掛ける。
「どうしたの?」
「ずっと考えていたのですが……何故敵は墨子城を攻めなかったのでしょう?
 墨子城を物量で攻め落とす事も不可能ではなかった気がするのです」
 悠里の脳裏には、敵の動きが気になっていた。
 敵の戦力が上回っているのであれば、伊須群城と駒種城の双方から進軍して墨子城を襲撃すればいい。堅牢な墨子城であったとしても物量で押せば陥落は難しくない。
 だが、武徳の話によれば墨子城へ襲撃をかける事は無く、何故か伊須群城に戦力を集めているらしい。
「墨子城を攻め落とした時の作戦やハンターの助力……それを確認したからこそ、沈黙を保っていたのではないでしょうか」
 悠里は登攀しながら、小声で話す。
 もし、その通りであるならば敵は冷静に物事を見極められる。言い換えれば、歪虚でも高位の者が存在している事になる。
「確かに高位の敵は厄介ね」
「その説に近いのですが、もう一つの可能性もあります」
 二人の前を登っていた澪が振り返った。
「できれば、その説を拝聴したいのですが」
「敵が墨子城の戦いを見て沈黙を守ったのは同じなのですが、作戦やハンターの活躍を見たからではなく……攻めてきた三条家の者を知ったからかもしれません」
「三条家、つまり武徳様の事でしょうか」
 黒耀 と鬼揃が言わんとしていた事――それは、敵が武徳を既に知っている。それも武徳が軍師であり、策を弄する事も知られているという事だ。
「えー? それってどういう事ー?」
 ペットの黒猫を抱えながら、千秋は首を捻る。
 そこへ崖を登り終えた澪が地面へと降り立った。
「既に手の内が知られているという事です。敵は水野さんの戦い方を知っていたから慎重にならざるを得なかった。そうとも考えられます」
「……ちょっと待って。だったら伊須群城へ陽動に向かった部隊は危ないんじゃない?」 ロープを伝って崖を登り終えた空。やや息を切らせながらも、武徳達の身を案じた。
 敵が武徳の作戦を読んでいれば、進軍ルートに罠を張っている可能性もある。
 だが、その可能性を同じくロープを伝って崖を登ってきた悠里が否定する。
「いえ。罠の可能性は低いと思います。水野さんのやり方をご存じならば、この駒種城にも罠があって然るべきです。ですが、今まで罠は存在せず、こうして城へ潜入できた」
「敵の物量は想像よりも低いとも考えられます。戦力を集めるだけで必死なのかもしれません」
 黒耀 は、ぽつりと呟いた。
 おそらく敵は武徳の事を知っていたとしても、それに対抗する物量を持っていないのだろう。考えてみれば憤怒の怠惰王が倒され、東方の歪虚は激減した。詩天で未だに歪虚が跋扈しているものの、ハンターの活躍で残存兵力も減りつつある。
「皆、城へ潜入できたか。
 では、始めるとするか。俺達の仕事を……」
 鬼揃は、鬼面を抑えながら進むべき道へ視線を向けた。


 早速行動を開始した陽動班。
 目指す広場へ到着する頃には、周囲から大勢の骸骨武者が集結しつつあった。
「黒猫さんのおかげで敵の居場所は丸わかりだったからねー。
 じゃあー、いっくよー!」
 体内で練り上げた気を込めた千秋の正拳が、眼前にいた骸骨武者へヒットする。
 吹き飛ばされる骸骨武者。他の骸骨を巻き込みながら後方へと押しやられる。
「仕事であれば……依頼主の期待に応えぬ訳にはいくまいよ」
 鬼揃は太刀「黎明」で骸骨武者へ斬り掛かる。
 この広場へ向かう途中も踏込を多用して骸骨武者を奇襲。敵の注目を集めつつ、葬れる敵を確実に倒してきた。
「この広場で奮戦すれば、自ずと正門に向かおうとする敵もこちらへ集う」
 骸骨武者が放った槍の一撃を弾いた後、鬼揃は踏込。
 同時に放たれた突きが、骸骨武者の顔面を貫く。
 刀身を伝わって手の中に残る奇妙な感触。骨だけの存在と斬り合いをしているのだから当然なのだが、この感触が敵の弱さと脆さを感じさせる。
 しかし、油断している暇は無い。
「ほんっっっっっとーに、いっぱいだなー!」
 千秋の鬼爪籠手が最短距離を通って骸骨武者へ突き刺さる。
 千秋と鬼揃の奮戦で確実に敵の戦力は削られている。敵も一体当たりは対して強くは無い。
 ただ、数だけは異常なまでに多いのだ。
「手薄になったとはいえ、城一つの敵を集めているのだ。致し方あるまい」
 仄かな輝きを浮かべる刀身が、骸骨武者の体を穿つ。
 骸骨武者の体が崩れ、その後を別の骸骨武者が踏み越えて攻撃を仕掛ける。
 囲まれないように注意をしながら戦いを展開するが、陽動班の奮戦は敵の注意を惹きつけるばかりだ。
「このままじゃまずくないー?」
「……そろそろいけるか、和音」
 鬼揃が振り返る事なく空へ声をかける。
 背後では符の準備を完了した空がゆっくりと立ち上がる。
「準備完了よ。
 魅せてあげる――私の名に恥じぬ『空より降り注ぐ雷』を!」
 空は符を頭上高くへと放り投げる。
 放物線を描く符。
 次の瞬間、符が呼び寄せた雷が骸骨武者へ落ちる。
 三本の雷が骸骨武者へ落ち、一瞬にして崩れ去る。
「……あ、ちょっと敵が怯んだかも。いただきー!」
 空の風雷陣は、骸骨武者達を怯ませた。
 その隙を見逃さなかった千秋は、鬼爪籠手の先から気功波を放つ。
 動かない骸骨武者は単なる的に過ぎない。
 気功波の衝撃で大きく後方へ吹き飛ばされる。
「符はまだまだあるわよ! 私の風雷陣、存分に味合わせてあげる」
 空は、再び符を放り投げる。
 次々と雷が骸骨武者へ落ちる。
 3人ハンターの活躍は、確実に敵戦力を削り取っていく。
 この調子ならば予想以上の成果を上げられそうだ。

 そして、鬼揃はトランシーバーで正門班と連絡を取る。
「……頃合いか。正門へ辿り着いた仲間を支援するべく、もう一働きしよう」
 鬼揃は、全長90センチの太刀「黎明」大きく振り回す。
 正門へ向かう敵の目を陽動班へ集めるべく、さらに派手に動き始める。


「機会到来か……デュエルスタンバイ」
 小声で呟いた黒耀 がカードバインダー「ゲヴェルクシャフト」を開く。
 開門班として北へ向かった黒耀 、悠里、澪の三名。陽動犯が派手な立ち回りを行った事で、大きな障害らしい障害に遭遇する事もなかった。
「櫓は2つ。その下に数名の骸骨武者、ですか」
 物陰に隠れながら、澪は正門前に気を配る。
 櫓の上には弓を持った骸骨武者が2体。正門前に5体ほどの骸骨武者が集まっている。広場で陽動は行っているものの、正門で後発部隊が攻撃を仕掛けているのだ。完全な無防備という訳にはいかない。
「ですが、敵の意識は正門の外へ向けられています。一気に襲撃を仕掛ければ門を開く事は難しくありません」
 悠里は、敵がこちらに気付いていない点を指摘する。
 事前に決めていた担当に別れて攻撃を開始すれば、奇襲を成功させる事ができる。
「では、参りましょう。あまり時間をかけてはいられません」
 悠里の声に黒耀 と澪が小さく頷く。
 建物の影に隠れながら、静かに所定の場所へ着く。
 奇襲開始の合図となったのは――悠里のホーリーライトだった。
「僕の力では目眩まし程度にしかならないかもしれませんが……隙を作る事くらいはできます」
 生み出された光弾が櫓の上にいた骸骨武者を直撃する。
 大きな振動。倒すには至らなかったが、後方からの襲撃で骸骨武者達の間に衝撃が走る。
「マジックカード発動!」
 もう1つの櫓に向けて、黒耀 は符を放り投げる。
 次の瞬間、風雷陣が骸骨武者を襲う。激しい雷により、骸骨武者は崩れ落ちる。
 そして、櫓の下では――。
「たぁっ!」
 骸骨武者の槍を瞬影でいなした澪。
 そのまま懐へ飛び込む、試作振動刀「オートMURAMASA」で逆袈裟斬り。
 下から斜めに繰り上げられた一撃は、ボロボロであった鎧もまとめて両断。さらに勢いに乗って別の骸骨武者へ斬り掛かる。
 完全に浮き足立った骸骨武者達。
「櫓の上の骸骨武者は排除しました」
 再発動した悠里のホーリーライトが、櫓の骸骨武者を葬る。
 残るは正門付近にいる骸骨武者達である。
「こちらは我々に任せて、開門をお願いします!」
 澪は黒耀 へ開門を促す。
 本当であればすべての骸骨武者を始末した後でゆっくりと門を開くべきなのだろうが、広場で陽動を続ける3人を考えれば悠長にもしていられない。
「承知した」
 黒耀 は正門横にあった縄に手をかけるとゆっくりと引き始める。
 頭上の滑車が徐々に回転を始め、丸太を組み合わせた門が持ち上げられていく。
 大人数人がかりで開く門なのだが、覚醒者とはいえ黒耀 の筋力は特筆に値するものがある。
「和泉さん、怪我は大丈夫ですか?」
 骸骨武者の攻撃をアブソーブシールドで受け止めた悠里。
 自分よりも澪の体を気遣っていた。
 地上の骸骨武者を一人で相手にしているのだから無理もない。
 だが、澪の方は未だ余裕があるらしい。
「私は大丈夫です。黒耀 さんを守ってあげて下さい」
「その心配は……無用だ。これが、デュエリストの力だ!」
 気合いと共に強く引かれる縄。
 それと同時に開く門。待ちわびたとばかりに後発部隊が駒種城へ雪崩れ込む。
 澪が相手していた骸骨武者を多人数で斬り伏せ、城の中央へ突き進む。
「……依頼完了、ですね」
 澪は試作振動刀「オートMURAMASA」を鞘へ収める。
 陽動班が骸骨武者の片付けたおかげで後発部隊が城を占拠するのも、時間の問題。
 東の三城――その二つ目を三条家は奪還した事になる。


 奪還された駒種城を探索するハンター達。
「うーん、お宝らしきものはないなぁ」
 千秋は少々がっかりした顔を浮かべる。
 てっきり城と聞いて宝があると考えていたのだが、宝らしきものは皆無。ただのあばら屋が建ち並ぶだけだった。
「致し方あるまい。長く歪虚に占拠されていた故」
 鬼揃が背後から優しくフォローを入れる。
 どのように駒種城が歪虚に奪われたのかは不明だが、金目の物は既に運び出されていたのだろう。宝探しとしては外れだった。
「気になるといえば……これでしょうか」
 澪が指摘したのは、骸骨武者達が手にしていた旗だ。
 家門の一種だと思われるが――。
「扇、かしら。円を描くように並べられた三つの扇ね」
「リアルブルーでは三つ扇と呼ばれる家門です。詩天の関係者でしょうか」
 空の言葉に澪が付け加える。
 特徴的な家門である為、澪も見かけた事がある。もっとも、見かけたのはリアルブルーでの話だが。
「悠里様、どう思われますか?」
 黒耀 は、悠里へ問いかけた。
 先程崖を登る際に適確な指摘を行っていた為だ。
 悠里は思案した後、1つの可能性を口にする。
「骸骨武者達は詩天で倒れた兵士だと思われます。彼らが蘇って敵になっただけならば、もっと他の家門を描いた旗も多数あるべきです。この三つ扇ばかり、というのが気になります。
 推測ですが、この三つ扇の家門を使っていた方が敵の指揮官かもしれません。そして、その家門を持つ者を知るのは……」
「武徳様、という事ですね」
 悠里の回答に、黒耀 は満足そうに微笑んだ。

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MVP一覧

  • 鬼面の侍
    鬼揃 紫辰ka4627
  • 真実の探求者
    悠里ka6368

重体一覧

参加者一覧

  • Centuria
    和泉 澪(ka4070
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • 鬼面の侍
    鬼揃 紫辰(ka4627
    人間(紅)|22才|男性|闘狩人
  • 千の符を散らして
    黒耀 (ka5677
    鬼|25才|女性|符術師
  • 即疾隊一番隊士
    和音・空(ka6228
    人間(紅)|19才|女性|符術師
  • 一肌脱ぐわんこ
    小宮・千秋(ka6272
    ドワーフ|6才|男性|格闘士
  • 真実の探求者
    悠里(ka6368
    人間(蒼)|15才|男性|聖導士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/06/28 22:45:11
アイコン 相談卓
和泉 澪(ka4070
人間(リアルブルー)|19才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2016/07/02 03:33:06