ゲスト
(ka0000)
初夏の夜の夢
マスター:チャリティーマスター

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/07/07 07:30
- 完成日
- 2016/07/15 09:56
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
――その日は、やけに疲れていた。
「はぁ。さすが疲れたな……」
「そーねー。龍奏作戦もようやっとひと段落ついたし……」
「あー。身体痛い……」
「っていうか、外雨降ってんじゃん! やだもう外出たくない」
いつもと変わらぬ賑やかなハンターズソサエティ。ハンターオフィス職員、イソラはその一角でぐったりとしている一団を見つけて声をかける。
「皆さん、こんにちはですー! ……って、どうしたです? 元気ないですね」
「ちょっとねー。さすがにお疲れ気味なのよ」
「俺、この間の依頼で重傷になっちまってさ……」
「雨きらーい」
イソラの問いに、それぞれボヤくハンター達。それに、彼女も納得したように頷く。
「……本当、皆さん毎日色々あるですものね。お疲れ様ですよ。……そーだ。お疲れみたいですし、いっそ、今日これから休暇にしちゃったらどうです?」
「ん? でも、依頼もあるしな……」
「お休みして、体調を整えるのもお仕事のうちですよー? 疲れ過ぎたら力も出ないのです。たまに1日くらい休んだってバチ当たりませんよー。ね?」
「そうね。たまにはいいかもね……」
イソラの労いにうんうんと頷く開拓者達。
彼女の言葉が有難いと思うくらいには、疲れているようで――。
そんなことがあり、休暇を取ることに決め、重い身体を引きずって家に戻ってきたハンター達。
そのままベッドに倒れこんでため息をつく。
ああ、着替えるのも面倒くさい。
……目を閉じると、猛烈な眠気が襲ってくる。
「ん? あれ?」
目を開けたハンター。
そこには、信じられないような光景が広がっている。
おかしい。疲れて家に戻って、それからどうしたっけ。
そうだ。ベッドに転がって……。
そう。目を閉じてうとうとしていたはずなのに、ここはどこだろうか。
――もしかして。これは夢、か?
それにしてはなんだかリアルな気がするけれど……。
ハンター達の、初夏の夜の夢が始まる。
「はぁ。さすが疲れたな……」
「そーねー。龍奏作戦もようやっとひと段落ついたし……」
「あー。身体痛い……」
「っていうか、外雨降ってんじゃん! やだもう外出たくない」
いつもと変わらぬ賑やかなハンターズソサエティ。ハンターオフィス職員、イソラはその一角でぐったりとしている一団を見つけて声をかける。
「皆さん、こんにちはですー! ……って、どうしたです? 元気ないですね」
「ちょっとねー。さすがにお疲れ気味なのよ」
「俺、この間の依頼で重傷になっちまってさ……」
「雨きらーい」
イソラの問いに、それぞれボヤくハンター達。それに、彼女も納得したように頷く。
「……本当、皆さん毎日色々あるですものね。お疲れ様ですよ。……そーだ。お疲れみたいですし、いっそ、今日これから休暇にしちゃったらどうです?」
「ん? でも、依頼もあるしな……」
「お休みして、体調を整えるのもお仕事のうちですよー? 疲れ過ぎたら力も出ないのです。たまに1日くらい休んだってバチ当たりませんよー。ね?」
「そうね。たまにはいいかもね……」
イソラの労いにうんうんと頷く開拓者達。
彼女の言葉が有難いと思うくらいには、疲れているようで――。
そんなことがあり、休暇を取ることに決め、重い身体を引きずって家に戻ってきたハンター達。
そのままベッドに倒れこんでため息をつく。
ああ、着替えるのも面倒くさい。
……目を閉じると、猛烈な眠気が襲ってくる。
「ん? あれ?」
目を開けたハンター。
そこには、信じられないような光景が広がっている。
おかしい。疲れて家に戻って、それからどうしたっけ。
そうだ。ベッドに転がって……。
そう。目を閉じてうとうとしていたはずなのに、ここはどこだろうか。
――もしかして。これは夢、か?
それにしてはなんだかリアルな気がするけれど……。
ハンター達の、初夏の夜の夢が始まる。
リプレイ本文
「うな。どこ行っちゃったのな?」
キョロキョロと周囲を見渡す黒の夢(ka0187)。広がる一面の淡い蒼。尻尾が2本ある猫を追いかけていたら、気がついたらネモフィラの花畑にいて……。
視界の隅で動いた何かに目線をやると、そこに見覚えのある大男が歩いていく。
「あっ! 待ってなのな!」
慌ててハイルタイの背を追う黒の夢。
花畑突き進んだ先にあったのは小さな家で……大男はそこに迷わず入って行く。
黒の夢もそれに続くと、バタルトゥが何やら裁縫をしているのが目に入った。
「……おかえり」
「バターちゃん、何作ってるのな?」
「……お前の夏服だ。これから暑くなるからな……」
「わ。ホント? 嬉しいのな! 素敵ヘアーちゃんは何運んで来たのな?」
「夕飯の食材じゃ。お前が儂に頼んだんだろうに」
「へ? そーだっけ??」
きょとんとする黒の夢。……そういわれてみれば、ここにずっと住んでいたような気がする。
そこに聞こえてくる足音。勢い良く扉が開いて、スメラギとチューダが駆け込んできた。
「うおおお! あっちー!! おい、麦茶くれ!」
「我輩お菓子食べたいのです!」
「……菓子なら用意した。手を洗って来い……」
「2人共遊びに行ってたみたいだけど、スーちゃんもチューダちゃんも宿題終わったのな?」
冷たい麦茶を出すバタルトゥに面倒だと抗議する2人。黒の夢の言葉に、ギクリとして固まる。
「やっぱり宿題しないで遊びに行ってたのな。ほら、見てあげるからやるのなー」
「ちょっと休憩させろよ!」
「我輩を敬うべきなのです!」
「休憩って言って遊びに行ってたの知ってるのな。それに……今日の夕飯はオムライスなんだけどなー。そっかー。2人共食べたくないのなー」
「……やる。すぐやる」
「我輩がんばるのです!」
「うん。分かればいいのな。頑張ったらご褒美に一緒にお風呂入って身体洗ってあげるのな」
「……それは謹んで遠慮する」
「うむ! 苦しゅうないのです!」
それぞれの反応にくすくすと笑う黒の夢。インターホンが鳴って玄関の扉を開けると、そこには黒装束の男が立っていた。
「あれ? ツバメちゃんも来たのな? 上がってなのな。麦茶出でいい?」
「……麦茶より酒がいい」
「……わ、わわわわかったのな」
突然壁に押し付けられて慌てる彼女。
振り返ると、バタルトゥとハイルタイが晩酌の準備を始めている。
黒の夢の金色の双眸に、敵のいない、優しい世界が映る――。
――王国暦20xx年。世界は滅亡の危機に瀕していた。
魔王チューダを打ち倒すべく、勇者スメラギが一人立ち向かう……!
「髭の戦士ヨアキムが敗れたか。だが、奴は四天王の中でも最弱……」
「最弱っていうかあいつ自爆したよな」
「勝負よ! 勇者スメラギぃ!」
スメラギのツッコミをキメポーズで受け流した桃色の髪の少女。
彼女こそが魔王チューダの忠実な部下で四天王が一人、チョコ餅の女王アシェ-ル(ka2983)である。
彼女はハート型の杖を大きく振りかぶると、ピンク色の光と共にチョコ餅を放つ。
「私の愛の力、受けとれえええ!!」
「お前食いもん投げるなよ! 勿体ないだろうが!!」
「そんな……私のチョコ餅が……通じない!? こうなったら……! チューダ様! お願いします!」
「もう真打登場なのです? 仕方ないのです……!」
高笑いと共に巨大化する魔王。円らな瞳から発射される必殺メロキュン☆ビーム。それをスメラギは寸でのところで避ける。
「援護します!!」
再び放たれたチョコ餅。何故か全弾チューダに命中し、アシェールが地団駄を踏む。
「ああっ! おのれスメラギ! よくもチューダ様を……!」
「いやいや、そいつが勝手に当たりに行ったんだろうがよ」
「かくなる上は……! 覚悟!」
必殺技が通じないと覚るや、直接攻撃に転じる女王。
大きく踏み込もうとして、魔王の巨体に思い切り躓く。
「ああああ!?」
「……おい。大丈夫か?」
転ぶはずが、いつまでも来ない衝撃。代わりに感じる温もりに目を開けると、勇者スメラギの顔があって……。
敵なのに助けるなんて、何て素敵な御方……!
何かしらこの胸の高鳴りは……!
これってもしかして、恋……?
「……私、決めました。安月給の四天王辞めて、スメラギ様に嫁ぎに行きます!」
「何ですと!? チョコ餅の女王、我輩を裏切るのですか!?」
「ぶっちゃけ自分の攻撃邪魔してくる巨大なボールより、将来有望でイケメンな勇者の方がいいんですよ!!」
「お前それぶっちゃけすぎだろ……」
「さぁ、スメラギ様、一緒に攻撃を合わせましょう!」
なし崩しに始まる総攻撃。それを全て食らい、魔王は消えて行った。
――こうして世界の平和は守られた! ありがとう勇者! ありがとうチョコ餅の女王!!
超絶勇者スメラギを応援してくれた皆、ありがとう!
来週からはアイドル戦士プリティアシェールが始まります! お楽しみに!
青木 燕太郎はリューリ・ハルマ(ka0502)の斧の一撃を受け流しつつ、心底面倒臭そうな目で見つめていた。
無理もない。彼女は攻撃の手を緩めることなく、彼に質問を浴びせ続けていたので。
どうしてこうなったかと言うと……道に迷った彼女がばったり出会ったのがこの歪虚だったのだ。
以前、大事な友達を痛めつけたこの人物を、リューリが忘れるはずもなかった。
それがどうして質問攻めに繋がるのかは、彼女にしか分からなかったが。
「ねーねー、燕太郎さん! 歪虚ってお腹空かないの? 味覚ってあったりする?」
「……そんなこと知ってどうする気だ?」
「燕太郎さん元ハンターなんでしょ? 何で歪虚になっちゃったの?」
「答える必要性を感じない」
「一番気になるのはねー。歪虚って体温あるの?」
「煩い小娘だな」
「もー! 1つくらい答えてくれてもいいでしょ!」
「断る。お前の相手をすること自体が面倒だ。死ぬ気がないならさっさと帰れ」
「死ぬ気もないけど帰る気もないよ! 答えてくれないなら身体に直接聞くからいいもんね!」
言うが早いか、斧を振るうリューリ。青木はそれを跳躍で避ける。
攻撃に転じてくれば、近づく隙もありそうだが、残念ながら青木はそのつもりはないらしい。
戦う程の相手だと思われていないということなのだろうか。
それはちょっと悔しい。けど、食らい付いてみせる……!!
ひたすら槍で受け流し、横に後ろにと跳躍する黒い歪虚。
踏み込み、走っては距離を詰めるリューリ。
近づき、離れて……幾度となく繰り返すそれは、まるで輪舞のよう。
踏み込んだ瞬間、にっこりと笑った彼女。
ぶつかり合う目線。斧を投げ捨てて、青木に飛び掛り――。
青木はその腕を掴むと、上に引き上げてリューリを軽々と組み伏せた。
「いたたた……。ちぇー。私の負けかー」
「俺に一撃入れるなんて100年早いぞ、小娘」
「小娘って言うけど、燕太郎さんも私とそんなに歳変わらないじゃない」
「俺は歪虚だぞ? 見た目など判断材料にならん」
「そーなんだ。一体何年くらい生きてるのかな……? 次会ったら教えてね、燕太郎さん」
「お前のような喧しいのに会うのは御免蒙る。……今回は見逃してやるが、次は殺すぞ」
「うん! 私も殺しに行くよ! 楽しみにしてるね!」
「……変な女だな」
リューリの腕を離す青木。手袋越しで、はっきりとは分からなかったけれど。
彼の身体から、生物らしい暖かさは感じなかった。
鷹藤 紅々乃(ka4862)は目の前に広がる光景に目を瞬かせた。
何故って、己の故郷である家の近所だったから。
――リアルブルーに戻れる訳がないし、これは夢、でしょうね。妙にリアルだけれど。
だって。その証拠にほら、いるはずのない大巫女様が前から歩いて来る……って、えぇええ!?
「大巫女様!? どうして地球に!!?」
「おや、誰かと思えば紅々乃じゃないか。ここはチキュウって言う場所なのかい?」
「ええと、多分私の夢の中ですが……ここは私の故郷。蒼の世界です。私の家、近所なので行きましょう!」
大巫女の手を取って歩き出す紅々乃。変わらない古都の風情。見える大鳥居。懐かしい光景だが、人の気配を全く感じない。
辿りついた紅々乃の実家にも、誰もいなかった。
「家族を大巫女様にご紹介したかったのに……」
「今はまだ会う時ではないということだろうさ。元気をお出し」
しょんぼりする少女の背をさする大巫女。
感じる優しさに、紅々乃の顔が綻ぶ。
「お見苦しいところお見せしてすみません。あ、折角ですし、地球のお菓子食べませんか? 美味しいんですよ! ちょっと待っててくださいね」
パタパタと台所へ走っていく紅々乃。手馴れた様子で冷たい冷たいほうじ茶と水羊羹と麩饅頭を用意して戻ると、大巫女は庭をしげしげと見つめていた。
「……大巫女様、何か面白いものありました?」
「いや、随分と花が多いと思ってね。一生懸命手入れしてるんだろうね。皆生き生きとしていい子だ」
目を細める大巫女。庭には紫陽花、山吹、凌霄花、紅花、撫子、山百合……様々な花が満開を迎えている。
以前はそんなに珍しくない光景だったが、今はとても懐かしくて……紅々乃は大巫女にお茶を薦めながら口を開く。
「普段は祖母が手入れをしているんです。私もクリムゾン・ウェストに来る前は、お手伝いをしていたんですけど」
「そうかい。……夢でも会いたかったろうにね」
「大巫女様が一緒にいて下さるから大丈夫です! それに、私の故郷もお見せ出来ましたし……そうだ! 私の家族、直接紹介出来なくても、写真でなら紹介できます! ちょっと待って下さいね。アルバム持って来ます!」
感じる故郷の風。楽しかった日々。それを大巫女に全て伝えたくて、紅々乃は再び廊下を走る。
――そんな夢を見た数日後。紅々乃の元に『お前の夢を見た』と大巫女から手紙が届き、更に目を瞬かせる結果になった。
「ソフィ。起きるのです! 我輩を褒め称えるのです!」
ソフィ・アナセン(ka0556)を呼ぶ甲高い声。顔を上げると目に入ったのは輝く白。
とてももふもふしていて、気持ちが良さそうな丸くて良く肥えた腹。
王冠に赤いマント、巨大な錫を身につけた巨大なハムスターを、彼女は良く知っている。
「……チューダ様……?」
目をこするソフィ。何故に幻獣王がここにいるのだろう。
「きゅ?」
「きゅー!」
そして、頭上に並ぶ黒い円らな瞳。
保護欲をそそる鳴き声と、チューダをかなり小さくしたその愛らしい姿に、ソフィは一気に覚醒した。
「キューソちゃんじゃないですかあああ! 逢いたかったですよおおお!!」
「きゅー!!」
がばっ! と起き上がり、キューソ達に顔を寄せるソフィ。
キューソ達もハムスターの姿に良く似ているが、チューダよりは大分小さい。が、だからこそ愛らしい。
彼女の周囲を埋め尽くさんばかりのキューソに、ソフィは感動で顔を覆う。
――ちょっと何ですかこれ。ご褒美ですか!? 生きてて良かった……!
「ソフィ! 我輩もいるのです! 忘れないで欲しいのです!」
「勿論ですよ! お会いしたかったです!! 今日は一体どうされたんです?」
「我輩、全世界の歪虚をなぎ倒してきたのです! かくかくしかじかこんな大活躍をした結果、世界は平和になったのであります!」
「な、なんですってーー!? チューダ様すごいです! 可愛いです! 天才です!!」
ドヤ顔のチューダを拍手で称えるソフィ。それを見ていたキューソ達も短い手でぱちぱちと拍手する。
胸を張って偉そうなチューダも、小さい手を必死に動かしているキューソ達も可愛くてもう……!
「あ、そうだ、お菓子あるけど食べませんか?」
「おおっ。さすがソフィ! 気が利くのです! 食べるのです!」
「きゅー!!」
「沢山ありますから遠慮なく食べてくださいね。あ、チューダ様。高級毛皮の御髪を整えてもいいですか……?」
「む? 勿論です。好きなだけモフモフするといいのです!」
「ありがとうございます。キューソちゃんも触って……いいですか?」
「きゅ? きゅー」
「ありがとうございます! ありがとうございます! ふかふか! もふもふ! 尊いぃ! もう凄過ぎて言葉にならないぃ!」
チューダとキューソ達を両手いっぱいに抱きしめて感涙に咽ぶソフィ。
若干壊れ気味ではあるが、何だかとても幸せそうだった。
「へ? あれ!? 父ちゃんなんでここにいんの!?」
「よう。元気にしてたかァ、坊主?」
黒い髪に黒い肌、黒の二本角……目の前にいた大柄な男に、ユキトラ(ka5846)はひっくり返る程驚いた。
だって、もう会えるはずがない――彼の父は戦で、その命を散らしていたから。
「坊主、久方ぶりに手合せでもすっか!」
「望むところだァ!!」
覚醒し、白い狼耳と尻尾を出現させるユキトラ。
本気で打ち込んでいるはずなのに、黒い鬼は軽々とその攻撃をかわす。
時々当たる一撃も、微妙に急所から外れている。避けられていると感じて、彼は唇を噛む。
「ちっくしょー! 何でだ!! 何で当たらないんだよ!」
「はっは。父ちゃんに勝とうなんざ十年早いぜ~」
「いっぱい戦ったし、修行もしたんだぞ! 東方にいた時より、オイラもっとずっと強くなったハズなのに!」
「背丈も力も技も、まだまだこれから伸びる。焦るんじゃねぇよ。……ついこの前まで、赤ん坊だと思ってたのn」
言いかけて、情けない声をあげる黒い鬼。鳩尾に渾身の一撃を食らって悶絶する。
「お、俺に一撃加えるとはやるじゃねーか息子よ……」
「……つーか、オイラ父ちゃんより強くなりたかったのに、サクッと戦死しやがってコンニャロウ! 大勢大人がいなくなっちまって、一族大変なんだぞォォォ!」
「そうかー。……お前ら若い衆に多大な苦労かけることになっちまって、悪ィ」
「何だよ! 素直に謝るなよ!! 怒れなくなんだろ!!」
「まあ、でもアレだ。俺達がいなくたってお前らはやってけるさ。大丈夫。だってお前、俺の自慢の息子だもんなァ」
「褒めたってダメだぞ! オイラ怒ってんだかんな!!」
「ハイハイ。族長も若いだろ。周囲の者達も……お前が強くなって助けてやんな」
「言われなくたってそうするっつーの!」
威勢のいいユキトラにハハハと笑う黒い鬼。紫の目を細めて、息子をまじまじと見つめる。
「……今は、東方じゃなくて西の世界にいるんだろ? 俺らが見られなかったモンを、お前らは見てるわけだ。羨ましいなぁ。父ちゃんも見たかったぜ。いつかこっちに来た時に、土産話として聞かせてくれや」
「……おうよ。強くなって、長生きして、たらふく土産話を持っていくかんな! 覚悟しろってんだィ!」
こつん、と。拳を付き合わせる白い鬼と黒い鬼。
父の拳は逞しく、そして大きくて……いつかこんなでっかい男になる、と。ユキトラは心に誓った。
キョロキョロと周囲を見渡す黒の夢(ka0187)。広がる一面の淡い蒼。尻尾が2本ある猫を追いかけていたら、気がついたらネモフィラの花畑にいて……。
視界の隅で動いた何かに目線をやると、そこに見覚えのある大男が歩いていく。
「あっ! 待ってなのな!」
慌ててハイルタイの背を追う黒の夢。
花畑突き進んだ先にあったのは小さな家で……大男はそこに迷わず入って行く。
黒の夢もそれに続くと、バタルトゥが何やら裁縫をしているのが目に入った。
「……おかえり」
「バターちゃん、何作ってるのな?」
「……お前の夏服だ。これから暑くなるからな……」
「わ。ホント? 嬉しいのな! 素敵ヘアーちゃんは何運んで来たのな?」
「夕飯の食材じゃ。お前が儂に頼んだんだろうに」
「へ? そーだっけ??」
きょとんとする黒の夢。……そういわれてみれば、ここにずっと住んでいたような気がする。
そこに聞こえてくる足音。勢い良く扉が開いて、スメラギとチューダが駆け込んできた。
「うおおお! あっちー!! おい、麦茶くれ!」
「我輩お菓子食べたいのです!」
「……菓子なら用意した。手を洗って来い……」
「2人共遊びに行ってたみたいだけど、スーちゃんもチューダちゃんも宿題終わったのな?」
冷たい麦茶を出すバタルトゥに面倒だと抗議する2人。黒の夢の言葉に、ギクリとして固まる。
「やっぱり宿題しないで遊びに行ってたのな。ほら、見てあげるからやるのなー」
「ちょっと休憩させろよ!」
「我輩を敬うべきなのです!」
「休憩って言って遊びに行ってたの知ってるのな。それに……今日の夕飯はオムライスなんだけどなー。そっかー。2人共食べたくないのなー」
「……やる。すぐやる」
「我輩がんばるのです!」
「うん。分かればいいのな。頑張ったらご褒美に一緒にお風呂入って身体洗ってあげるのな」
「……それは謹んで遠慮する」
「うむ! 苦しゅうないのです!」
それぞれの反応にくすくすと笑う黒の夢。インターホンが鳴って玄関の扉を開けると、そこには黒装束の男が立っていた。
「あれ? ツバメちゃんも来たのな? 上がってなのな。麦茶出でいい?」
「……麦茶より酒がいい」
「……わ、わわわわかったのな」
突然壁に押し付けられて慌てる彼女。
振り返ると、バタルトゥとハイルタイが晩酌の準備を始めている。
黒の夢の金色の双眸に、敵のいない、優しい世界が映る――。
――王国暦20xx年。世界は滅亡の危機に瀕していた。
魔王チューダを打ち倒すべく、勇者スメラギが一人立ち向かう……!
「髭の戦士ヨアキムが敗れたか。だが、奴は四天王の中でも最弱……」
「最弱っていうかあいつ自爆したよな」
「勝負よ! 勇者スメラギぃ!」
スメラギのツッコミをキメポーズで受け流した桃色の髪の少女。
彼女こそが魔王チューダの忠実な部下で四天王が一人、チョコ餅の女王アシェ-ル(ka2983)である。
彼女はハート型の杖を大きく振りかぶると、ピンク色の光と共にチョコ餅を放つ。
「私の愛の力、受けとれえええ!!」
「お前食いもん投げるなよ! 勿体ないだろうが!!」
「そんな……私のチョコ餅が……通じない!? こうなったら……! チューダ様! お願いします!」
「もう真打登場なのです? 仕方ないのです……!」
高笑いと共に巨大化する魔王。円らな瞳から発射される必殺メロキュン☆ビーム。それをスメラギは寸でのところで避ける。
「援護します!!」
再び放たれたチョコ餅。何故か全弾チューダに命中し、アシェールが地団駄を踏む。
「ああっ! おのれスメラギ! よくもチューダ様を……!」
「いやいや、そいつが勝手に当たりに行ったんだろうがよ」
「かくなる上は……! 覚悟!」
必殺技が通じないと覚るや、直接攻撃に転じる女王。
大きく踏み込もうとして、魔王の巨体に思い切り躓く。
「ああああ!?」
「……おい。大丈夫か?」
転ぶはずが、いつまでも来ない衝撃。代わりに感じる温もりに目を開けると、勇者スメラギの顔があって……。
敵なのに助けるなんて、何て素敵な御方……!
何かしらこの胸の高鳴りは……!
これってもしかして、恋……?
「……私、決めました。安月給の四天王辞めて、スメラギ様に嫁ぎに行きます!」
「何ですと!? チョコ餅の女王、我輩を裏切るのですか!?」
「ぶっちゃけ自分の攻撃邪魔してくる巨大なボールより、将来有望でイケメンな勇者の方がいいんですよ!!」
「お前それぶっちゃけすぎだろ……」
「さぁ、スメラギ様、一緒に攻撃を合わせましょう!」
なし崩しに始まる総攻撃。それを全て食らい、魔王は消えて行った。
――こうして世界の平和は守られた! ありがとう勇者! ありがとうチョコ餅の女王!!
超絶勇者スメラギを応援してくれた皆、ありがとう!
来週からはアイドル戦士プリティアシェールが始まります! お楽しみに!
青木 燕太郎はリューリ・ハルマ(ka0502)の斧の一撃を受け流しつつ、心底面倒臭そうな目で見つめていた。
無理もない。彼女は攻撃の手を緩めることなく、彼に質問を浴びせ続けていたので。
どうしてこうなったかと言うと……道に迷った彼女がばったり出会ったのがこの歪虚だったのだ。
以前、大事な友達を痛めつけたこの人物を、リューリが忘れるはずもなかった。
それがどうして質問攻めに繋がるのかは、彼女にしか分からなかったが。
「ねーねー、燕太郎さん! 歪虚ってお腹空かないの? 味覚ってあったりする?」
「……そんなこと知ってどうする気だ?」
「燕太郎さん元ハンターなんでしょ? 何で歪虚になっちゃったの?」
「答える必要性を感じない」
「一番気になるのはねー。歪虚って体温あるの?」
「煩い小娘だな」
「もー! 1つくらい答えてくれてもいいでしょ!」
「断る。お前の相手をすること自体が面倒だ。死ぬ気がないならさっさと帰れ」
「死ぬ気もないけど帰る気もないよ! 答えてくれないなら身体に直接聞くからいいもんね!」
言うが早いか、斧を振るうリューリ。青木はそれを跳躍で避ける。
攻撃に転じてくれば、近づく隙もありそうだが、残念ながら青木はそのつもりはないらしい。
戦う程の相手だと思われていないということなのだろうか。
それはちょっと悔しい。けど、食らい付いてみせる……!!
ひたすら槍で受け流し、横に後ろにと跳躍する黒い歪虚。
踏み込み、走っては距離を詰めるリューリ。
近づき、離れて……幾度となく繰り返すそれは、まるで輪舞のよう。
踏み込んだ瞬間、にっこりと笑った彼女。
ぶつかり合う目線。斧を投げ捨てて、青木に飛び掛り――。
青木はその腕を掴むと、上に引き上げてリューリを軽々と組み伏せた。
「いたたた……。ちぇー。私の負けかー」
「俺に一撃入れるなんて100年早いぞ、小娘」
「小娘って言うけど、燕太郎さんも私とそんなに歳変わらないじゃない」
「俺は歪虚だぞ? 見た目など判断材料にならん」
「そーなんだ。一体何年くらい生きてるのかな……? 次会ったら教えてね、燕太郎さん」
「お前のような喧しいのに会うのは御免蒙る。……今回は見逃してやるが、次は殺すぞ」
「うん! 私も殺しに行くよ! 楽しみにしてるね!」
「……変な女だな」
リューリの腕を離す青木。手袋越しで、はっきりとは分からなかったけれど。
彼の身体から、生物らしい暖かさは感じなかった。
鷹藤 紅々乃(ka4862)は目の前に広がる光景に目を瞬かせた。
何故って、己の故郷である家の近所だったから。
――リアルブルーに戻れる訳がないし、これは夢、でしょうね。妙にリアルだけれど。
だって。その証拠にほら、いるはずのない大巫女様が前から歩いて来る……って、えぇええ!?
「大巫女様!? どうして地球に!!?」
「おや、誰かと思えば紅々乃じゃないか。ここはチキュウって言う場所なのかい?」
「ええと、多分私の夢の中ですが……ここは私の故郷。蒼の世界です。私の家、近所なので行きましょう!」
大巫女の手を取って歩き出す紅々乃。変わらない古都の風情。見える大鳥居。懐かしい光景だが、人の気配を全く感じない。
辿りついた紅々乃の実家にも、誰もいなかった。
「家族を大巫女様にご紹介したかったのに……」
「今はまだ会う時ではないということだろうさ。元気をお出し」
しょんぼりする少女の背をさする大巫女。
感じる優しさに、紅々乃の顔が綻ぶ。
「お見苦しいところお見せしてすみません。あ、折角ですし、地球のお菓子食べませんか? 美味しいんですよ! ちょっと待っててくださいね」
パタパタと台所へ走っていく紅々乃。手馴れた様子で冷たい冷たいほうじ茶と水羊羹と麩饅頭を用意して戻ると、大巫女は庭をしげしげと見つめていた。
「……大巫女様、何か面白いものありました?」
「いや、随分と花が多いと思ってね。一生懸命手入れしてるんだろうね。皆生き生きとしていい子だ」
目を細める大巫女。庭には紫陽花、山吹、凌霄花、紅花、撫子、山百合……様々な花が満開を迎えている。
以前はそんなに珍しくない光景だったが、今はとても懐かしくて……紅々乃は大巫女にお茶を薦めながら口を開く。
「普段は祖母が手入れをしているんです。私もクリムゾン・ウェストに来る前は、お手伝いをしていたんですけど」
「そうかい。……夢でも会いたかったろうにね」
「大巫女様が一緒にいて下さるから大丈夫です! それに、私の故郷もお見せ出来ましたし……そうだ! 私の家族、直接紹介出来なくても、写真でなら紹介できます! ちょっと待って下さいね。アルバム持って来ます!」
感じる故郷の風。楽しかった日々。それを大巫女に全て伝えたくて、紅々乃は再び廊下を走る。
――そんな夢を見た数日後。紅々乃の元に『お前の夢を見た』と大巫女から手紙が届き、更に目を瞬かせる結果になった。
「ソフィ。起きるのです! 我輩を褒め称えるのです!」
ソフィ・アナセン(ka0556)を呼ぶ甲高い声。顔を上げると目に入ったのは輝く白。
とてももふもふしていて、気持ちが良さそうな丸くて良く肥えた腹。
王冠に赤いマント、巨大な錫を身につけた巨大なハムスターを、彼女は良く知っている。
「……チューダ様……?」
目をこするソフィ。何故に幻獣王がここにいるのだろう。
「きゅ?」
「きゅー!」
そして、頭上に並ぶ黒い円らな瞳。
保護欲をそそる鳴き声と、チューダをかなり小さくしたその愛らしい姿に、ソフィは一気に覚醒した。
「キューソちゃんじゃないですかあああ! 逢いたかったですよおおお!!」
「きゅー!!」
がばっ! と起き上がり、キューソ達に顔を寄せるソフィ。
キューソ達もハムスターの姿に良く似ているが、チューダよりは大分小さい。が、だからこそ愛らしい。
彼女の周囲を埋め尽くさんばかりのキューソに、ソフィは感動で顔を覆う。
――ちょっと何ですかこれ。ご褒美ですか!? 生きてて良かった……!
「ソフィ! 我輩もいるのです! 忘れないで欲しいのです!」
「勿論ですよ! お会いしたかったです!! 今日は一体どうされたんです?」
「我輩、全世界の歪虚をなぎ倒してきたのです! かくかくしかじかこんな大活躍をした結果、世界は平和になったのであります!」
「な、なんですってーー!? チューダ様すごいです! 可愛いです! 天才です!!」
ドヤ顔のチューダを拍手で称えるソフィ。それを見ていたキューソ達も短い手でぱちぱちと拍手する。
胸を張って偉そうなチューダも、小さい手を必死に動かしているキューソ達も可愛くてもう……!
「あ、そうだ、お菓子あるけど食べませんか?」
「おおっ。さすがソフィ! 気が利くのです! 食べるのです!」
「きゅー!!」
「沢山ありますから遠慮なく食べてくださいね。あ、チューダ様。高級毛皮の御髪を整えてもいいですか……?」
「む? 勿論です。好きなだけモフモフするといいのです!」
「ありがとうございます。キューソちゃんも触って……いいですか?」
「きゅ? きゅー」
「ありがとうございます! ありがとうございます! ふかふか! もふもふ! 尊いぃ! もう凄過ぎて言葉にならないぃ!」
チューダとキューソ達を両手いっぱいに抱きしめて感涙に咽ぶソフィ。
若干壊れ気味ではあるが、何だかとても幸せそうだった。
「へ? あれ!? 父ちゃんなんでここにいんの!?」
「よう。元気にしてたかァ、坊主?」
黒い髪に黒い肌、黒の二本角……目の前にいた大柄な男に、ユキトラ(ka5846)はひっくり返る程驚いた。
だって、もう会えるはずがない――彼の父は戦で、その命を散らしていたから。
「坊主、久方ぶりに手合せでもすっか!」
「望むところだァ!!」
覚醒し、白い狼耳と尻尾を出現させるユキトラ。
本気で打ち込んでいるはずなのに、黒い鬼は軽々とその攻撃をかわす。
時々当たる一撃も、微妙に急所から外れている。避けられていると感じて、彼は唇を噛む。
「ちっくしょー! 何でだ!! 何で当たらないんだよ!」
「はっは。父ちゃんに勝とうなんざ十年早いぜ~」
「いっぱい戦ったし、修行もしたんだぞ! 東方にいた時より、オイラもっとずっと強くなったハズなのに!」
「背丈も力も技も、まだまだこれから伸びる。焦るんじゃねぇよ。……ついこの前まで、赤ん坊だと思ってたのn」
言いかけて、情けない声をあげる黒い鬼。鳩尾に渾身の一撃を食らって悶絶する。
「お、俺に一撃加えるとはやるじゃねーか息子よ……」
「……つーか、オイラ父ちゃんより強くなりたかったのに、サクッと戦死しやがってコンニャロウ! 大勢大人がいなくなっちまって、一族大変なんだぞォォォ!」
「そうかー。……お前ら若い衆に多大な苦労かけることになっちまって、悪ィ」
「何だよ! 素直に謝るなよ!! 怒れなくなんだろ!!」
「まあ、でもアレだ。俺達がいなくたってお前らはやってけるさ。大丈夫。だってお前、俺の自慢の息子だもんなァ」
「褒めたってダメだぞ! オイラ怒ってんだかんな!!」
「ハイハイ。族長も若いだろ。周囲の者達も……お前が強くなって助けてやんな」
「言われなくたってそうするっつーの!」
威勢のいいユキトラにハハハと笑う黒い鬼。紫の目を細めて、息子をまじまじと見つめる。
「……今は、東方じゃなくて西の世界にいるんだろ? 俺らが見られなかったモンを、お前らは見てるわけだ。羨ましいなぁ。父ちゃんも見たかったぜ。いつかこっちに来た時に、土産話として聞かせてくれや」
「……おうよ。強くなって、長生きして、たらふく土産話を持っていくかんな! 覚悟しろってんだィ!」
こつん、と。拳を付き合わせる白い鬼と黒い鬼。
父の拳は逞しく、そして大きくて……いつかこんなでっかい男になる、と。ユキトラは心に誓った。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/07/03 00:45:19 |