ゲスト
(ka0000)
首なしの狩り
マスター:からた狐

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~20人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2016/06/29 19:00
- 完成日
- 2016/07/23 19:50
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
その道は、断崖絶壁に無理矢理くっつけたような場所にある。
幅は十分とは言えない。大型の馬車は使えず、小型の荷車でもすれ違う時は、崖側が転落しないよう慎重になるほど。
それでも商人たちが通行を止めないのは、安全の為。切り立った崖は、つまり身を隠す場所が何も無いのだ。
危険な動物がうろつくことも無ければ、谷からの風が強すぎて鳥も来ない。盗賊なんぞ待ち伏せてもすぐに分かる。
崖っぷちの危険は確かにあるが、一時間もあれば山越えも出来てしまうので、麓でわざわざ馬車から荷車に移し替えて行列を作る商人もいるほど。
●
いつものように、危険なその道を商人たちは進んでいた。
おっかなびっくり歩くのはまだ若い新人ぐらい。慣れた商人ほど、勝手も分かっている。すれ違う際もお互いに譲り合って、笑みさえ浮かべて荷車を進めていたのだが。
その頭上から、小石が降ってきた。
気付いた者は、落石を予感して顔色を変えた。硬い岩盤を削ってできた道だが、たまにそんな事故も起きていた。
とっさに上を向いたのは仕方がない。だが、彼らの目に映ったのは、想像とは全く違う光景だった。
崖を、騎士を乗せた馬が駆け下りていたのだ。
ほぼ垂直に近い崖。落ちて来たとも言える。
その道より、上に至る道は無い。わずかな岩のでっぱりを利用してロッククライミングでもすれば行けるかもしれないが、にしても馬など考えられない。
普通であれば。
馬も騎士も、どちらもあからさまに首を持たず、なのに動いていた。
「歪虚だ!!」
誰かが声を上げたのと、騎士たちが道に降り立ったのはどちらが先か。
返事をする口も騎士たちは持たない。道へと降り立った馬の背で、騎士はこれが答えとばかりに剣を抜き、人々へと襲いかかっていった。
商人たちから悲鳴が上がり、隊列が崩れ、荷を捨てても逃げようとする。しかし、ただでさえ狭い道。荷が散乱すればなお狭い。
怪馬の動きもすさまじかった。絶壁の崖すら巧みに駆け上がり駆け下り、逃げる人たちの前へと回り込んでくる。
正面に立った騎士が斬りかかれば、引き返す人々を怪馬が追いかけ、踏みつけ。辺りはたちまち血で満たされた。
逃げ延びたのは強運に恵まれた数名のみ。たまたま馬を手に入れ、かつ、騎士の隙をかろうじてついて狭い道を全力で駆け抜け転落しなかった者だけが、なんとか麓の村まで逃げ込み、山の上で起きた事件を知らせた。
●
そして、ハンターオフィスに報告が入り、まず調査隊が赴いていた。
見晴らしのいいその場所では、多くの荷と血の跡だけが残されていた。痕跡から察するに、遺体は崖下へと落とされたらしい。
崖の高さと風の強さから降りるのは不可能で、すなわち遺体の回収も無理と判断される。
首なしたちはその場所に留まっていた。事件跡に近付けば、先の話と同じく頭上から駆け下りてきて戦闘となったという。
騎士の剛腕に異常な脚力で崖すら巧みに駆け回る怪馬。道の狭さが加わり手こずったものの、退却できたのは心構えも出来ていたから。
その時は、あくまで調査目的だったので、深くも踏み込まずにオフィスに報告に戻る。
けれどもいつまでもそのままではいられない。
情報を精査すると、討伐の為にハンターたちが呼び集められた。
「騎士と馬、両方の歪虚を退治して下さい。放っておけば、いずれ山を下り、平地の人々に害をなすでしょう」
歪虚であれば、見逃すという選択肢はない。
どう討伐すべきか。その前に受けるべきか。
集まったハンターたちは顔を見合わせ、対策を話し合いだしていた。
幅は十分とは言えない。大型の馬車は使えず、小型の荷車でもすれ違う時は、崖側が転落しないよう慎重になるほど。
それでも商人たちが通行を止めないのは、安全の為。切り立った崖は、つまり身を隠す場所が何も無いのだ。
危険な動物がうろつくことも無ければ、谷からの風が強すぎて鳥も来ない。盗賊なんぞ待ち伏せてもすぐに分かる。
崖っぷちの危険は確かにあるが、一時間もあれば山越えも出来てしまうので、麓でわざわざ馬車から荷車に移し替えて行列を作る商人もいるほど。
●
いつものように、危険なその道を商人たちは進んでいた。
おっかなびっくり歩くのはまだ若い新人ぐらい。慣れた商人ほど、勝手も分かっている。すれ違う際もお互いに譲り合って、笑みさえ浮かべて荷車を進めていたのだが。
その頭上から、小石が降ってきた。
気付いた者は、落石を予感して顔色を変えた。硬い岩盤を削ってできた道だが、たまにそんな事故も起きていた。
とっさに上を向いたのは仕方がない。だが、彼らの目に映ったのは、想像とは全く違う光景だった。
崖を、騎士を乗せた馬が駆け下りていたのだ。
ほぼ垂直に近い崖。落ちて来たとも言える。
その道より、上に至る道は無い。わずかな岩のでっぱりを利用してロッククライミングでもすれば行けるかもしれないが、にしても馬など考えられない。
普通であれば。
馬も騎士も、どちらもあからさまに首を持たず、なのに動いていた。
「歪虚だ!!」
誰かが声を上げたのと、騎士たちが道に降り立ったのはどちらが先か。
返事をする口も騎士たちは持たない。道へと降り立った馬の背で、騎士はこれが答えとばかりに剣を抜き、人々へと襲いかかっていった。
商人たちから悲鳴が上がり、隊列が崩れ、荷を捨てても逃げようとする。しかし、ただでさえ狭い道。荷が散乱すればなお狭い。
怪馬の動きもすさまじかった。絶壁の崖すら巧みに駆け上がり駆け下り、逃げる人たちの前へと回り込んでくる。
正面に立った騎士が斬りかかれば、引き返す人々を怪馬が追いかけ、踏みつけ。辺りはたちまち血で満たされた。
逃げ延びたのは強運に恵まれた数名のみ。たまたま馬を手に入れ、かつ、騎士の隙をかろうじてついて狭い道を全力で駆け抜け転落しなかった者だけが、なんとか麓の村まで逃げ込み、山の上で起きた事件を知らせた。
●
そして、ハンターオフィスに報告が入り、まず調査隊が赴いていた。
見晴らしのいいその場所では、多くの荷と血の跡だけが残されていた。痕跡から察するに、遺体は崖下へと落とされたらしい。
崖の高さと風の強さから降りるのは不可能で、すなわち遺体の回収も無理と判断される。
首なしたちはその場所に留まっていた。事件跡に近付けば、先の話と同じく頭上から駆け下りてきて戦闘となったという。
騎士の剛腕に異常な脚力で崖すら巧みに駆け回る怪馬。道の狭さが加わり手こずったものの、退却できたのは心構えも出来ていたから。
その時は、あくまで調査目的だったので、深くも踏み込まずにオフィスに報告に戻る。
けれどもいつまでもそのままではいられない。
情報を精査すると、討伐の為にハンターたちが呼び集められた。
「騎士と馬、両方の歪虚を退治して下さい。放っておけば、いずれ山を下り、平地の人々に害をなすでしょう」
歪虚であれば、見逃すという選択肢はない。
どう討伐すべきか。その前に受けるべきか。
集まったハンターたちは顔を見合わせ、対策を話し合いだしていた。
リプレイ本文
駆けつけたハンターは五名。多いとは言えないが、敵も二体のみ。対処可能な戦力なはず。
「……よね? お久しぶりだけど大丈夫?」
見知った顔にイリアス(ka0789)は挨拶する。しかし、何 静花(ka4831)からの返事は無い。まるで屍のようだが、よく見ればちゃんと生きている。ペットの狛犬も慣れた動作で主人を運んでいる。
駆けつけた現場は、遠くからでも見晴らし良く、動く者は無い。近付いても、あるのは襲撃の痕跡ばかりで、犠牲者たちの姿も無かった。
「御遺体は崖下に放り出されたようだねぇ。残された荷物はさてどうするか」
ルーデンス・フクハラ・LC(ka6362)は引きずった痕跡を見つけて崖下をのぞき込み、その高さに冗談めかして身震いをした。地面まではるか遠く、そこに何があるかなどさっぱりわからない。ハンターでもこの高さから落ちればどうなるのやら。
道に目を向ければ、横転した荷車が視界を遮り、散乱した商売品の数々が足元の邪魔になっている。
今回、回収は頼まれていない。なんなら手っ取り早く崖下に投げ捨てても構わないのだが。
星野 ハナ(ka5852)は、邪魔にならないよう、ひとまず道の片隅に荷物を集める。
「微々たるものでも持ち帰られれば商売の足しになるでしょうしぃ、もしかしたら形見を見つけられるかもしれませんしぃ」
離れた場所に、愛馬のまーちゃんも待機させている。
ルーデンスは頷くと、さっそくハナを手伝い、壊れた荷車を解体にかかる。戦闘の不利というのも多少はあるが、何よりも女性を困らせる真似などする気は無い。
「首なし歪虚か……。彼は私が首なしになっても愛してくれるかしら?」
アルスレーテ・フュラー(ka6148)は見上げながら、ふと思う。その緑の瞳が青へと変わり、鉄扇「北斗」を盾のように広げた。
上を見ても、崖。むき出しの地面が垂直に伸び、その向こうはせいぜい空だ。
報告によれば、首なし歪虚たちはその崖を駆け下りてきたと言う。他に隠れる場所も無いのであれば、同じ手で来るのも当然。そうと分かっていて警戒を怠るのんきなハンターなどいない。
上空に影を見た途端、ハンターたちの対処は素早かった。
陰陽符「降魔結界」を構えてハナが地縛符を仕掛ける。駆け下りていた地面が泥となり、馬が足をとられる。
歪虚たちの突撃は落下の速度も合わさり恐ろしい限り。であるが故に、移動を阻害された途端に、一気に体勢が崩れた。
「……。けどね、白馬の王子様でも無い歪虚からの求婚はお断りよ!」
それをアルスレーテは鉄扇と金剛でいなすと、突撃の勢いを逆に利用し、気合と共に馬の巨躯を騎士ごと投げ飛ばしていた。
●
投げられながらも、騎士は馬を制御し何とか姿勢を保とうする。
しかし、さらに銃弾が追い打ちをかけた。
集めた荷物の山の上でイリアスは、荷物を銃架代わりにスナイパーライフル「バベル13」を固定。上からマントを被ってシャープシューティングで感覚を研ぎ澄ますと、マテリアルを込めた強弾で敵を捉える。
持ち主たちには悪いが、射線はなるべく通るようにしたい。他の人と同じ地上で構えていては乱戦になった時、仲間が邪魔で撃てない時がある。いくつかの荷物を踏み台にして、少しでも上から狙いをつけていた。
よろめいたところにさらに銃弾。重なる危機に対処しきれず、馬が倒れた。と、騎士も地面へと投げ出される。
すぐに起き上がろうとする馬と、それを助けようとする騎士。その一組に向け、ルーデンスは火炎符を放つ。
「うるぁあああ!」
そして火炎を気にも止めず、静花は崖を蹴って騎士へと突っ込む。
闘心昂揚、筋力充填。覚醒した静花はマテリアルを巡らせ身体能力を上昇させると、ただひたすらに騎士を殴り飛ばした。
軽い金属音を上げて、騎士が吹っ飛ぶ。
首なし馬から無理矢理に離され、地面を転がった騎士だが。さすがに一応『騎士』であるらしい。転がされながらも勢いを利用して体勢を整え、剣を抜き放った。
間近に迫っていたのはアルスレーテ。
振るわれた剣を見定めると、やはり竜巻落としで投げ返す。転べば相手の動きも制限され、その間にハンター側は有利に動ける。
転んだ相手に静花はひたすら拳を叩きこむ。スピニングナックルによって速度を増している打撃が鎧を鳴らすも、どの程度歪虚に効いているのかは分かりづらい。
しかし、何も構わず。振るわれる剣さえどの程度静花の邪魔になるのか。というよりも、その邪魔を取り除いてくれる信頼もあってこその猛攻。
「足元もちゃんと気にしてよ。怖いったら無いわ」
静花が突撃する分、アルスレーテが器用に立ち回り、隙あれば投げ飛ばす。二人が危うくなっても、イリアスの銃弾が退所できるだけの間を作る。
何せ道が狭い。戦闘する程度の余裕はあるが、調子に乗って派手に動きまわれば、いずれ崖っぷちに追いやられかねない。
散乱する荷物も整理してマシにはなったが、まだ転がっている。障害物として逃げ場を失うのも勘弁だし、うっかり踏んで転ぶなんて真似はもっと御免だ。
なるべく移動は少なく、相手も動かさず、攻撃をたたみかけるのは理に適っている。
もっとも転んでいるだけの相手でも無い。起き上がればまた動き回る。
騎士の方は落ちた所で、たいした事ないのだろう。すでに命の無い身。動きは大胆で、突撃してくる足もためらいが無い。
向かってくる攻撃をアルスレーテは受けようとするが、崖の壁が近い。押し込まれては身動きできなくなる。そう判断すると、アルスレーテは安全な方向へと身を逃がした。追う騎士に向けて、銃弾が炸裂。さらに静花が蹴りつけ、そう簡単には狙わせない。
騎士も一人ではない。首なし馬もまた歪虚。騎士にたかるハンターたちを蹴散らそうと、前足を振り上げる。
その見えた腹に火炎符が飛んだ。
「落ちないように、落ちないように。そして荷物も傷つけないように。戦いながらも気を配る。――これはまたモテるなぁ」
距離を保ちながら、火炎符を放ち続けるルーデンス。
まずは自分の身が大事、と判断したのか。首なし馬がルーデンスに向かって駆けてきた。……と思うや、その異形の体が光に焼かれる。
「こちらの足止めも必要。走り回られると厄介ですからねぇ」
ハナがさらに続けて五色光符陣を仕掛ける。首なしに発光は通じているかは分からないが、嫌がってはいるようだ。だが、タロットと持ち替えようとした携帯品を探った隙に、馬も的確にハナめがけて突っ込んできた。
ハナの背後には崖の壁。騎士は投げられ、馬との距離を離されている。横合いから邪魔に入られる心配はない。
瞬く間に考えをまとめて覚悟を決め、ハナはディーラーシールドを構えた。落とされるよりかは、挟まれる方がまだマシと位置取りには気を付けていた。実際に挟まれると、どのぐらいの衝撃になるか。首が無いとはいえ、馬はそれなりに大きい。
しかし、ぶつかる前に輝く鳥がハナを守る。ルーデンスが放った瑞鳥符。馬にぶつかり砕けて散ったが、馬も盾で止められていた。
さらに力を込められる前に、身をそらしてハナは逃げる。
「塵も積もれば何とやら……ってね。さ、キリキリ働いて」
結果的に崖へと追い詰めた首なし馬に向けて、ルーデンスは火炎符でさらに追い込む。
大きな敵。貧弱なる自らを思うからこそ、助けは必要。それは自分にも仲間に言える。からこそ、仲間を守り、また頑張って欲しいと願う。
が、敵もさるもの。脚力生かして跳んで逃げたり、巧みに駆け回るや崖を登って頭上から蹴りつけようと暴れまわる。
「こちらに来てもらうのは困るわ」
離れて援護していたイリアスにも距離を詰めて来る。固定したライフルからは一旦離れ、デリンジャー「イクスパルシオン」で応戦する。
ハナもしっかりと立ち上がるとカードを構え直す。移動する範囲はどうせ決まっている。慌てずに五色光符陣で敵を討つ。
●
デリンジャ―はあくまで近付かれた時に。
不意をつくには便利だが、威力を見るならライフルが上。居場所はもうばれているので隠れる必要もない。その暇もなく、イリアスは狙いをつけて歪虚たちを躍らせる。
駆け回る馬には振り回されもしたが、それでも騎士と馬との合流は許さず。近付きそうならただちに狙いをつけて足止めし、他のハンターたちの攻撃で引き離される。
まず膝を折ったのは馬だった。動きは早いが、さすがに立ち回りは動物並。符から放たれる火炎と光に焼かれ、移動も出来なくなれば、その場でのたうちまわるしかない。
騎士もまた、装甲を歪ませてなお剣を振るうが、迂闊な攻撃は止められ流されて。転んでしまえば容赦なく拳が繰り出されていく。
実際かかった時間は短いものだ。ただ、限られた足場で死闘を行うには、十分長く感じる。
二体の歪虚が動きを止めて形を崩したのを認めた時は、ハンター一同、安堵の息をもらして緊張を解いた。
「他に怪我した人はいないわよね。先に戻らせて休ませるわ」
戦闘が終了するや、ばったり倒れた静花をアルスレーテは母なるミゼリアで癒しにかかる。
元々の虚弱に加えて、防御を考えない攻撃一辺倒の戦い方。狛犬に運ばれる静花は、口から血の筋垂らし、見るからに瀕死状態にあった。
「……。ジンファくん、体弱すぎってレベルじゃないな……?!」
来た時以上に死に近づいていた彼女に、ルーデンスは驚くやら呆れるやら。事情を知るハンターたちが平然としている姿を見てさらに戸惑い、ただお大事に、と祈る。
「そうね。脅威はなくなったと伝えたら、近隣の人も来てくれてゆっくり片付けられると思うわ。無理しないで休んでてね?」
「あー……死にそう……」
イリアスの言葉も聞こえているのかどうか。
呻きながら運ばれていく静花と付き添うアルスレーテ。
二人を見送った後は、散乱した荷の整理。残念ながら、戦闘に巻き込み、残骸と化した品もある。泥にまみれた品も後で直すとして、申し訳なく思いながら拾い集める。
そうこうする内に、知らせを聞いた近隣の人々も応援に駆け付け。あっという間に道は綺麗に整い、持って来ていた花が添えられた。
「よしよし。怪我は無いですね。最後の一仕事をお願いしますよぉ」
戦馬のたてがみを撫でると、もうひとふんばりと声をかけて、ハナは荷物を運ばせる。
ハンターたちの戻りと一緒に、手伝いたちも帰っていく。が、さらに道を進む者もいた。移動できる日を待っていたのだろう。
商魂たくましい商売人たちは、へこたれた様子はない。賑わいが戻るのも、そう遠くは無さそうだ。
「……よね? お久しぶりだけど大丈夫?」
見知った顔にイリアス(ka0789)は挨拶する。しかし、何 静花(ka4831)からの返事は無い。まるで屍のようだが、よく見ればちゃんと生きている。ペットの狛犬も慣れた動作で主人を運んでいる。
駆けつけた現場は、遠くからでも見晴らし良く、動く者は無い。近付いても、あるのは襲撃の痕跡ばかりで、犠牲者たちの姿も無かった。
「御遺体は崖下に放り出されたようだねぇ。残された荷物はさてどうするか」
ルーデンス・フクハラ・LC(ka6362)は引きずった痕跡を見つけて崖下をのぞき込み、その高さに冗談めかして身震いをした。地面まではるか遠く、そこに何があるかなどさっぱりわからない。ハンターでもこの高さから落ちればどうなるのやら。
道に目を向ければ、横転した荷車が視界を遮り、散乱した商売品の数々が足元の邪魔になっている。
今回、回収は頼まれていない。なんなら手っ取り早く崖下に投げ捨てても構わないのだが。
星野 ハナ(ka5852)は、邪魔にならないよう、ひとまず道の片隅に荷物を集める。
「微々たるものでも持ち帰られれば商売の足しになるでしょうしぃ、もしかしたら形見を見つけられるかもしれませんしぃ」
離れた場所に、愛馬のまーちゃんも待機させている。
ルーデンスは頷くと、さっそくハナを手伝い、壊れた荷車を解体にかかる。戦闘の不利というのも多少はあるが、何よりも女性を困らせる真似などする気は無い。
「首なし歪虚か……。彼は私が首なしになっても愛してくれるかしら?」
アルスレーテ・フュラー(ka6148)は見上げながら、ふと思う。その緑の瞳が青へと変わり、鉄扇「北斗」を盾のように広げた。
上を見ても、崖。むき出しの地面が垂直に伸び、その向こうはせいぜい空だ。
報告によれば、首なし歪虚たちはその崖を駆け下りてきたと言う。他に隠れる場所も無いのであれば、同じ手で来るのも当然。そうと分かっていて警戒を怠るのんきなハンターなどいない。
上空に影を見た途端、ハンターたちの対処は素早かった。
陰陽符「降魔結界」を構えてハナが地縛符を仕掛ける。駆け下りていた地面が泥となり、馬が足をとられる。
歪虚たちの突撃は落下の速度も合わさり恐ろしい限り。であるが故に、移動を阻害された途端に、一気に体勢が崩れた。
「……。けどね、白馬の王子様でも無い歪虚からの求婚はお断りよ!」
それをアルスレーテは鉄扇と金剛でいなすと、突撃の勢いを逆に利用し、気合と共に馬の巨躯を騎士ごと投げ飛ばしていた。
●
投げられながらも、騎士は馬を制御し何とか姿勢を保とうする。
しかし、さらに銃弾が追い打ちをかけた。
集めた荷物の山の上でイリアスは、荷物を銃架代わりにスナイパーライフル「バベル13」を固定。上からマントを被ってシャープシューティングで感覚を研ぎ澄ますと、マテリアルを込めた強弾で敵を捉える。
持ち主たちには悪いが、射線はなるべく通るようにしたい。他の人と同じ地上で構えていては乱戦になった時、仲間が邪魔で撃てない時がある。いくつかの荷物を踏み台にして、少しでも上から狙いをつけていた。
よろめいたところにさらに銃弾。重なる危機に対処しきれず、馬が倒れた。と、騎士も地面へと投げ出される。
すぐに起き上がろうとする馬と、それを助けようとする騎士。その一組に向け、ルーデンスは火炎符を放つ。
「うるぁあああ!」
そして火炎を気にも止めず、静花は崖を蹴って騎士へと突っ込む。
闘心昂揚、筋力充填。覚醒した静花はマテリアルを巡らせ身体能力を上昇させると、ただひたすらに騎士を殴り飛ばした。
軽い金属音を上げて、騎士が吹っ飛ぶ。
首なし馬から無理矢理に離され、地面を転がった騎士だが。さすがに一応『騎士』であるらしい。転がされながらも勢いを利用して体勢を整え、剣を抜き放った。
間近に迫っていたのはアルスレーテ。
振るわれた剣を見定めると、やはり竜巻落としで投げ返す。転べば相手の動きも制限され、その間にハンター側は有利に動ける。
転んだ相手に静花はひたすら拳を叩きこむ。スピニングナックルによって速度を増している打撃が鎧を鳴らすも、どの程度歪虚に効いているのかは分かりづらい。
しかし、何も構わず。振るわれる剣さえどの程度静花の邪魔になるのか。というよりも、その邪魔を取り除いてくれる信頼もあってこその猛攻。
「足元もちゃんと気にしてよ。怖いったら無いわ」
静花が突撃する分、アルスレーテが器用に立ち回り、隙あれば投げ飛ばす。二人が危うくなっても、イリアスの銃弾が退所できるだけの間を作る。
何せ道が狭い。戦闘する程度の余裕はあるが、調子に乗って派手に動きまわれば、いずれ崖っぷちに追いやられかねない。
散乱する荷物も整理してマシにはなったが、まだ転がっている。障害物として逃げ場を失うのも勘弁だし、うっかり踏んで転ぶなんて真似はもっと御免だ。
なるべく移動は少なく、相手も動かさず、攻撃をたたみかけるのは理に適っている。
もっとも転んでいるだけの相手でも無い。起き上がればまた動き回る。
騎士の方は落ちた所で、たいした事ないのだろう。すでに命の無い身。動きは大胆で、突撃してくる足もためらいが無い。
向かってくる攻撃をアルスレーテは受けようとするが、崖の壁が近い。押し込まれては身動きできなくなる。そう判断すると、アルスレーテは安全な方向へと身を逃がした。追う騎士に向けて、銃弾が炸裂。さらに静花が蹴りつけ、そう簡単には狙わせない。
騎士も一人ではない。首なし馬もまた歪虚。騎士にたかるハンターたちを蹴散らそうと、前足を振り上げる。
その見えた腹に火炎符が飛んだ。
「落ちないように、落ちないように。そして荷物も傷つけないように。戦いながらも気を配る。――これはまたモテるなぁ」
距離を保ちながら、火炎符を放ち続けるルーデンス。
まずは自分の身が大事、と判断したのか。首なし馬がルーデンスに向かって駆けてきた。……と思うや、その異形の体が光に焼かれる。
「こちらの足止めも必要。走り回られると厄介ですからねぇ」
ハナがさらに続けて五色光符陣を仕掛ける。首なしに発光は通じているかは分からないが、嫌がってはいるようだ。だが、タロットと持ち替えようとした携帯品を探った隙に、馬も的確にハナめがけて突っ込んできた。
ハナの背後には崖の壁。騎士は投げられ、馬との距離を離されている。横合いから邪魔に入られる心配はない。
瞬く間に考えをまとめて覚悟を決め、ハナはディーラーシールドを構えた。落とされるよりかは、挟まれる方がまだマシと位置取りには気を付けていた。実際に挟まれると、どのぐらいの衝撃になるか。首が無いとはいえ、馬はそれなりに大きい。
しかし、ぶつかる前に輝く鳥がハナを守る。ルーデンスが放った瑞鳥符。馬にぶつかり砕けて散ったが、馬も盾で止められていた。
さらに力を込められる前に、身をそらしてハナは逃げる。
「塵も積もれば何とやら……ってね。さ、キリキリ働いて」
結果的に崖へと追い詰めた首なし馬に向けて、ルーデンスは火炎符でさらに追い込む。
大きな敵。貧弱なる自らを思うからこそ、助けは必要。それは自分にも仲間に言える。からこそ、仲間を守り、また頑張って欲しいと願う。
が、敵もさるもの。脚力生かして跳んで逃げたり、巧みに駆け回るや崖を登って頭上から蹴りつけようと暴れまわる。
「こちらに来てもらうのは困るわ」
離れて援護していたイリアスにも距離を詰めて来る。固定したライフルからは一旦離れ、デリンジャー「イクスパルシオン」で応戦する。
ハナもしっかりと立ち上がるとカードを構え直す。移動する範囲はどうせ決まっている。慌てずに五色光符陣で敵を討つ。
●
デリンジャ―はあくまで近付かれた時に。
不意をつくには便利だが、威力を見るならライフルが上。居場所はもうばれているので隠れる必要もない。その暇もなく、イリアスは狙いをつけて歪虚たちを躍らせる。
駆け回る馬には振り回されもしたが、それでも騎士と馬との合流は許さず。近付きそうならただちに狙いをつけて足止めし、他のハンターたちの攻撃で引き離される。
まず膝を折ったのは馬だった。動きは早いが、さすがに立ち回りは動物並。符から放たれる火炎と光に焼かれ、移動も出来なくなれば、その場でのたうちまわるしかない。
騎士もまた、装甲を歪ませてなお剣を振るうが、迂闊な攻撃は止められ流されて。転んでしまえば容赦なく拳が繰り出されていく。
実際かかった時間は短いものだ。ただ、限られた足場で死闘を行うには、十分長く感じる。
二体の歪虚が動きを止めて形を崩したのを認めた時は、ハンター一同、安堵の息をもらして緊張を解いた。
「他に怪我した人はいないわよね。先に戻らせて休ませるわ」
戦闘が終了するや、ばったり倒れた静花をアルスレーテは母なるミゼリアで癒しにかかる。
元々の虚弱に加えて、防御を考えない攻撃一辺倒の戦い方。狛犬に運ばれる静花は、口から血の筋垂らし、見るからに瀕死状態にあった。
「……。ジンファくん、体弱すぎってレベルじゃないな……?!」
来た時以上に死に近づいていた彼女に、ルーデンスは驚くやら呆れるやら。事情を知るハンターたちが平然としている姿を見てさらに戸惑い、ただお大事に、と祈る。
「そうね。脅威はなくなったと伝えたら、近隣の人も来てくれてゆっくり片付けられると思うわ。無理しないで休んでてね?」
「あー……死にそう……」
イリアスの言葉も聞こえているのかどうか。
呻きながら運ばれていく静花と付き添うアルスレーテ。
二人を見送った後は、散乱した荷の整理。残念ながら、戦闘に巻き込み、残骸と化した品もある。泥にまみれた品も後で直すとして、申し訳なく思いながら拾い集める。
そうこうする内に、知らせを聞いた近隣の人々も応援に駆け付け。あっという間に道は綺麗に整い、持って来ていた花が添えられた。
「よしよし。怪我は無いですね。最後の一仕事をお願いしますよぉ」
戦馬のたてがみを撫でると、もうひとふんばりと声をかけて、ハナは荷物を運ばせる。
ハンターたちの戻りと一緒に、手伝いたちも帰っていく。が、さらに道を進む者もいた。移動できる日を待っていたのだろう。
商魂たくましい商売人たちは、へこたれた様子はない。賑わいが戻るのも、そう遠くは無さそうだ。
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依頼成功度 | 普通 |
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依頼相談掲示板 | |||
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![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/06/27 20:57:27 |
|
![]() |
デュラハン?退治のご相談 星野 ハナ(ka5852) 人間(リアルブルー)|24才|女性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2016/06/28 23:51:47 |