ゲスト
(ka0000)
仁義なき逃走【脂】
マスター:小宮山

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/09/10 22:00
- 完成日
- 2014/09/16 01:41
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
昏き森の中。そこでは獣の気配は久しく絶えていた。
何故か。
数多の歪虚が、犇めいてるからだ。人のように二足で立つ、羊の歪虚達。
獣臭は質量を感じさせる程に満ち溢れていた。中心に座す赤羊。周囲の羊達より二回り程大きい巨体の羊が、その群れの長であろう。
瞑想するかのような赤羊の周囲では、羊達も大人しくしていた。
様相の異なる羊の集団が現れてから、様相が些か変わってきた。
その群れを率いていたのは赤羊を遥かに上回る巨体。赤羊に比べ背丈はさらに二回り。腹回りは四倍程もある。
じきに。赤羊は立ち上がった。
巨体をだらしなく揺らす羊が歓喜するように鳴くと、森全体が唸るかのように、低く、音が響いた。
●
以前の依頼により、ハンター達に助け出されたバカップルことクリス・アドレとティア・グラッジは、デュニクスの街へ迫る脅威への対応という依頼の為、転移門へと向かっていた。
「今度はけっこー人の多い作戦なんだよね? クリス、詳細は聞いてないの?」
ちょこまかと横を歩きながらティアが問う。
「報酬に釣られてお前がさっさと手続きしたおかげでな。……つっても、現地での説明があるまで詳細はよくわかんねーんだけど」
「なによー! あたしのせいじゃないじゃん!」
「ああ、ほらほら、転移門だ。さっさと向かおうぜ」
ティアの手を引いてクリスが転移門へとズンズン進む。このまま話を続けると周囲の目が痛いというのもある。何より口喧嘩でティアに勝てない事は身に染みて解っている事だ。ちなみに物理的な喧嘩でも勝てる気がしないのは決して口に出さない。
「ちょっとクリス聞いてる? ねえったらね──」
ともあれ、静かに光を放つ転移門へと二人の姿は吸い込まれていった。
●
──羊達の集団が、この街に向かっているのだという。
「で、今度はハンターが見つけたという訳だ」
詰所で騎士団員の一人が事情を告げた。今度は、とは、羊達の一団がこの地を襲った六月の一件を指していた。その時は行商人が見つけたそうだ。
「数は七十体以上。うち二体、指揮官級のやつが居たそうだ。ハンターの見立てだから、ある程度は正確だろう」
同盟での大規模作戦の影響もあり、緊急的に動かせる騎士の数に限りがある。
その為にクリス達ハンターに声が掛かった、のだが。
「うげ……多くね?」
「多いね……」
「どうしようクリス。退く? 帰る?」
「しっ! 静かにしろよティア。聞こえたら気まずいだろ?!」
囁き声でも、静かなこの場ではよく響く。本人達だけがその事実に気づいていない。二人の後ろに立っていた男は小さく微笑みを零し、言った。
「集められた戦力で、この街を何とか守らねばならない、ですね」
「ええ、その通りです。フォーリ殿」
騎士団員は男の事を知っているようだった。フォーリ、というらしい。
「ご意見を聞かせて頂いても?」
頼る騎士の声に、思わずクリスとティアは振り向いた。優しげな風貌が印象に残る男。
「……聞いたか?」
「生意気そうなあの騎士が……」
途端に満ちた騎士の憤怒の気配に、クリス達バカップルは気づきもしない。苦笑を返して、フォーリは言った。
「打って出るしか、無いでしょう」
「……何故、ですか?」
「この街は、既に傷ついている。この街を真に護るのであれば、それ以外にありえません」
「……なんで?」
「……さあ」
二人は知る由もないが、この街は農業、そして、造酒で知られる街だ。二度も土地を荒らされては取り返しのつかない事になる、という事情があった。
「それに……この場に居る私達なら、十分に成し遂げることが出来ると思います」
フォーリは、クリス達ハンターを見回すと、そう言った。
やけに耳に残り、響く声だった。
●
デュニクスから十分に離れた土地での迎撃となった。
夏雲が浮かぶ空の元、小さかった敵の影が徐々に大きくなってくる。
相対するのは騎士とハンター達の混成集団だ。敵はその種類、配置から二群からなるという想定の元、右翼と左翼に分かれる。左翼は騎士が多く、右翼はフォーリとハンター達が中心である。クリスとティアは騎士のご指名で左翼に配された。
「…………あの街には、触れさせません」
フォーリが、言う。
「我らに光の加護があらん事を!」
鼓膜に響く勇ましい声と共に、右翼と歩調を合わせて左翼も動いた。
●
先手は、人類側が取った。情報では羊達の獲物は近接武器のみ。それを見越していた騎士とハンター達は、距離を詰められるまでに大量に矢弾を使い、魔術を放った。左翼と相対するのは、巨体かつ肥満の羊に率いられる、肥満体の羊達。右翼側は、赤羊を後方に据えた羊達だ。
「……ねえクリス、あたし達の相手って何かふざけてるのかな……小デブとメタボ?」
「見た目に騙されんなよ。コイツらだって、以前襲ってきた羊と大して変わらないかもしれない」
体型のせいか、右翼が戦闘を開始しているのに比べ、左翼の敵とは少しばかり距離があった。
クリスはふと右翼の大将であるフォーリの姿を目に入れる。
フォーリの鬼神の如き戦ぶりを目にし、一人ごちる。
「何かを守る力っていうのは、すげえな……俺にもあんな力があれば──」
「ん? 何か言った?」
横に並ぶティアの問いにクリスは軽く笑って応える。
「何でもないよ。さあ、始まるぞ」
「……? うん! 頑張ろうね!」
●
異変はフォーリ達が敵陣を抜き、赤羊に至ろうとする時に起こった。
『………』
一瞬右翼の方へ羊達が視線をやり、そして左翼のハンター達をじっと見つめたかと思うと──メタボ羊が吠えた。
それに呼応した形で、小デブ羊が一斉に回れ右をして逃走を始めたのだ。
交戦開始の矢先の出来事に、騎士とハンター達は唖然とした表情で硬直する。
そんな中、一際巨大なメタボ羊が小デブ羊とハンターをキョロキョロと見比べた後、逃走態勢に入る。
「え? ちょ……逃げんなー!!」
ティアの怒号が飛び、小デブ羊達を追いかけていく。
「ティア! ちょっと待てよ! 深追いは──くそっ!!」
クリスも仕方なくティアの後を追う。
が。
メタボ羊は遅かった。身体に付いた脂肪をゆっさゆっさと揺らして走るのだが、小デブ羊には追いつけない。
メタボ羊は小デブ羊達に向かって地響きを起こす様な咆哮を放つと、小デブ羊達は戸惑った様に足を止めて振り向く。
表情には『え? 戦うの? マジで?』とでも言いたげな戸惑いが浮かんでいる様にも見える。
「我々は小デブ羊の追撃相当に移る! 君達は全員であのデカい奴を頼むぞ!!」
騎士が叫び、バカップルの後を追いかけていった。
●
そしてハンター達はメタボ羊へと視線を向ける。
必死に逃げようとするのだが、体系のせいで小デブ羊との速度差は歴然。そして、案の定取り残された事を悟った様だった。
くるりとハンター達の方へと向き直り、怒りを目に灯し、地響きを立てる様な咆哮を発した。
何故か。
数多の歪虚が、犇めいてるからだ。人のように二足で立つ、羊の歪虚達。
獣臭は質量を感じさせる程に満ち溢れていた。中心に座す赤羊。周囲の羊達より二回り程大きい巨体の羊が、その群れの長であろう。
瞑想するかのような赤羊の周囲では、羊達も大人しくしていた。
様相の異なる羊の集団が現れてから、様相が些か変わってきた。
その群れを率いていたのは赤羊を遥かに上回る巨体。赤羊に比べ背丈はさらに二回り。腹回りは四倍程もある。
じきに。赤羊は立ち上がった。
巨体をだらしなく揺らす羊が歓喜するように鳴くと、森全体が唸るかのように、低く、音が響いた。
●
以前の依頼により、ハンター達に助け出されたバカップルことクリス・アドレとティア・グラッジは、デュニクスの街へ迫る脅威への対応という依頼の為、転移門へと向かっていた。
「今度はけっこー人の多い作戦なんだよね? クリス、詳細は聞いてないの?」
ちょこまかと横を歩きながらティアが問う。
「報酬に釣られてお前がさっさと手続きしたおかげでな。……つっても、現地での説明があるまで詳細はよくわかんねーんだけど」
「なによー! あたしのせいじゃないじゃん!」
「ああ、ほらほら、転移門だ。さっさと向かおうぜ」
ティアの手を引いてクリスが転移門へとズンズン進む。このまま話を続けると周囲の目が痛いというのもある。何より口喧嘩でティアに勝てない事は身に染みて解っている事だ。ちなみに物理的な喧嘩でも勝てる気がしないのは決して口に出さない。
「ちょっとクリス聞いてる? ねえったらね──」
ともあれ、静かに光を放つ転移門へと二人の姿は吸い込まれていった。
●
──羊達の集団が、この街に向かっているのだという。
「で、今度はハンターが見つけたという訳だ」
詰所で騎士団員の一人が事情を告げた。今度は、とは、羊達の一団がこの地を襲った六月の一件を指していた。その時は行商人が見つけたそうだ。
「数は七十体以上。うち二体、指揮官級のやつが居たそうだ。ハンターの見立てだから、ある程度は正確だろう」
同盟での大規模作戦の影響もあり、緊急的に動かせる騎士の数に限りがある。
その為にクリス達ハンターに声が掛かった、のだが。
「うげ……多くね?」
「多いね……」
「どうしようクリス。退く? 帰る?」
「しっ! 静かにしろよティア。聞こえたら気まずいだろ?!」
囁き声でも、静かなこの場ではよく響く。本人達だけがその事実に気づいていない。二人の後ろに立っていた男は小さく微笑みを零し、言った。
「集められた戦力で、この街を何とか守らねばならない、ですね」
「ええ、その通りです。フォーリ殿」
騎士団員は男の事を知っているようだった。フォーリ、というらしい。
「ご意見を聞かせて頂いても?」
頼る騎士の声に、思わずクリスとティアは振り向いた。優しげな風貌が印象に残る男。
「……聞いたか?」
「生意気そうなあの騎士が……」
途端に満ちた騎士の憤怒の気配に、クリス達バカップルは気づきもしない。苦笑を返して、フォーリは言った。
「打って出るしか、無いでしょう」
「……何故、ですか?」
「この街は、既に傷ついている。この街を真に護るのであれば、それ以外にありえません」
「……なんで?」
「……さあ」
二人は知る由もないが、この街は農業、そして、造酒で知られる街だ。二度も土地を荒らされては取り返しのつかない事になる、という事情があった。
「それに……この場に居る私達なら、十分に成し遂げることが出来ると思います」
フォーリは、クリス達ハンターを見回すと、そう言った。
やけに耳に残り、響く声だった。
●
デュニクスから十分に離れた土地での迎撃となった。
夏雲が浮かぶ空の元、小さかった敵の影が徐々に大きくなってくる。
相対するのは騎士とハンター達の混成集団だ。敵はその種類、配置から二群からなるという想定の元、右翼と左翼に分かれる。左翼は騎士が多く、右翼はフォーリとハンター達が中心である。クリスとティアは騎士のご指名で左翼に配された。
「…………あの街には、触れさせません」
フォーリが、言う。
「我らに光の加護があらん事を!」
鼓膜に響く勇ましい声と共に、右翼と歩調を合わせて左翼も動いた。
●
先手は、人類側が取った。情報では羊達の獲物は近接武器のみ。それを見越していた騎士とハンター達は、距離を詰められるまでに大量に矢弾を使い、魔術を放った。左翼と相対するのは、巨体かつ肥満の羊に率いられる、肥満体の羊達。右翼側は、赤羊を後方に据えた羊達だ。
「……ねえクリス、あたし達の相手って何かふざけてるのかな……小デブとメタボ?」
「見た目に騙されんなよ。コイツらだって、以前襲ってきた羊と大して変わらないかもしれない」
体型のせいか、右翼が戦闘を開始しているのに比べ、左翼の敵とは少しばかり距離があった。
クリスはふと右翼の大将であるフォーリの姿を目に入れる。
フォーリの鬼神の如き戦ぶりを目にし、一人ごちる。
「何かを守る力っていうのは、すげえな……俺にもあんな力があれば──」
「ん? 何か言った?」
横に並ぶティアの問いにクリスは軽く笑って応える。
「何でもないよ。さあ、始まるぞ」
「……? うん! 頑張ろうね!」
●
異変はフォーリ達が敵陣を抜き、赤羊に至ろうとする時に起こった。
『………』
一瞬右翼の方へ羊達が視線をやり、そして左翼のハンター達をじっと見つめたかと思うと──メタボ羊が吠えた。
それに呼応した形で、小デブ羊が一斉に回れ右をして逃走を始めたのだ。
交戦開始の矢先の出来事に、騎士とハンター達は唖然とした表情で硬直する。
そんな中、一際巨大なメタボ羊が小デブ羊とハンターをキョロキョロと見比べた後、逃走態勢に入る。
「え? ちょ……逃げんなー!!」
ティアの怒号が飛び、小デブ羊達を追いかけていく。
「ティア! ちょっと待てよ! 深追いは──くそっ!!」
クリスも仕方なくティアの後を追う。
が。
メタボ羊は遅かった。身体に付いた脂肪をゆっさゆっさと揺らして走るのだが、小デブ羊には追いつけない。
メタボ羊は小デブ羊達に向かって地響きを起こす様な咆哮を放つと、小デブ羊達は戸惑った様に足を止めて振り向く。
表情には『え? 戦うの? マジで?』とでも言いたげな戸惑いが浮かんでいる様にも見える。
「我々は小デブ羊の追撃相当に移る! 君達は全員であのデカい奴を頼むぞ!!」
騎士が叫び、バカップルの後を追いかけていった。
●
そしてハンター達はメタボ羊へと視線を向ける。
必死に逃げようとするのだが、体系のせいで小デブ羊との速度差は歴然。そして、案の定取り残された事を悟った様だった。
くるりとハンター達の方へと向き直り、怒りを目に灯し、地響きを立てる様な咆哮を発した。
リプレイ本文
「ブヒィン!」
「まぁてコラー!!」
大規模な戦場の中で場違いな鳴き声と怒号が響き渡る。
「グラッジさんって、確かクルセイダー……クルセイダーが法具も持たずに前線に出るなんて、何を考えているのかしら!?」
怒号を上げながらモーニングスターを振り回すティアを眺めながら、聖盾(ka2154)が一人ごちる。そして、目下の敵となるメタボ羊へ目をやり、感想を述べた。
「しかし、なんとも醜い雑魔ですね……薄い本にはとても登場させられません!」
太った豚の出演する薄い本という物が第一の発想に絡むというのは、相当の上級者である。
「大規模戦闘はいまいち慣れないわねぇ……」
と、ボヤキながら解体だの美味しくなさそうだのと呟くのはエリシャ・カンナヴィ(ka0140)。聖盾とは180度違ったスタンスでガチガチの戦闘思考である。果たしてどのように噛み合うのか。
脂ぎった羊を眺め、メタボというよりマッチョな脳筋……と思ったのだが、ぶるんぶるんと垂れて震える肉を見て「ちょっとキモ過ぎ……」と零した天川 麗美(ka1355)はゴホンと咳払いをして気持ちを切り替える。
確かにあの人の背丈を遥かに超えるウォーハンマーを扱えるという事は、筋肉量も多いのだろうが。
「……ふわもこウール……GETしたいわね……うふふ」
と、これまた違った目的意識が見える。
「まーまー、とんだマトンじゃん? ちょちょっとチョップにしちゃおうぜい──なあ、紅鬼殿?」
「切り刻みますわぁぁぁ!!」
カラカラと笑いながら紅鬼 姫乃(ka2472)に声をかけるのはアンフィス(ka3134)。
一方紅鬼はと言うと、既にアンフィスの隣にはおらず、メタボ羊の方へと走り出していた。
「あっちゃー……紅鬼殿行っちゃった。僕たちも行きますかぁ!」
アンフィスは【地を駆けるもの】を使用して紅鬼の後を追う。
──そして戦闘が始まった。
「──私の力は未だ未熟なれど、憂いは此処で断てるよう、最善を」
シメオン・E・グリーヴ(ka1285)は位置取りを素早くし、ホーリーライトをメタボ羊に放つ。
集約した光がメタボ羊へ一直線に飛び腹の中央へと炸裂すると、メタボ羊が吠える。
小デブ羊は「ブヒブヒ」と豚の様な鳴き声なのだが、対して親玉であろうメタボ羊は流石に豚の声ではない。地響きを立てる様な化け物の咆哮であった。
「さぁ羊さん、おとなしく……は無理でしょうけど切り身になってもらいましょうか」
ミリア・コーネリウス(ka1287)はジリジリと間合いを詰める。
幸い紅鬼がバーサーカーよろしく突っ込んでいる為、攻撃の間合いは測りやすい。
「私が囮の意味もあまり無い気もするけど、行くわよ」
暴れる紅鬼を眺めつつエリシャがミリアに頷き、メタボ羊への攻撃を開始する。
ミリアのツヴァイハンダー、エリシャの太刀でメタボ羊の足を斬りつけようと振り抜かれた時、メタボ羊のウォーハンマーの柄が武器の進行方向へと突き立てられ、不快な金属音と共に弾かれる。
「そう簡単に狙えないって訳ね……でも、防ぐって事は当てられたくないって事と一緒よ!」
「後衛のみなさんは援護お願いします。アイツの攻撃範囲に入らないように!」
エリシャとミリアは再度攻撃を行う為に、間合いを計る。その間にも紅鬼はデスサイズをメタボ羊に叩き付けようとしていた。そして、メタボ羊が邪魔な虫を追い払うかの様に無造作に見える動きでウォーハンマーを振る。
────!!
その時、ハンター達は何が起こったのかが一瞬解らなかった。紅鬼が遥か後方に一瞬で吹き飛ばされたのである。
「……何アレ……やっばいよ。アレ食らったら僕死んじゃうんじゃないの? アレが聞いてた攻撃って奴?」
依頼前に聞いていたとはいえ、実際の威力を目にしたハンター達の動きが鈍る。
(アレは、重いなんて物じゃない──)
「紅鬼さん!」
「今治療を!」
我に返った様に聖盾とシメオンが紅鬼に駆け寄り、ヒールで治療する。しかし、傷が思ったより深く二人掛かりでギリギリの深手だった。
「当たらなければ、ただの大振りよ!」
正面から囮としてエリシャが太刀で注意を引く合間に、アンフィスは側面からの攻撃を行う。
サーベルでメタボ羊を斬りつけるのだが、脂ぎった剛毛と厚い脂肪、元から緩慢な動きのせいでダメージがあるのかが今イチ解らない。
上手く間合いを計って付かず離れずで行動しなければ、先程の紅鬼の様に一撃で生死の境を彷徨いかねない。
「様子がわからない内は安全運転しないとな!」
軽くステップしながら後退し、息を整える様に距離を置く。
「……援護します! ミリアさん!」
天川の魔導銃から弾丸が放たれると同時に、ツヴァイハンダーを構えたミリアが駆ける。
「くらえっ!!」
踏込と渾身撃を使用した一撃を、メタボ羊の脇腹目がけて振り抜いた。
厚い脂肪に筋が入ったかと思うと、メタボ羊の体液が軽く噴き出す。初めてハンター達の攻撃が目に見えてダメージを与えた一撃だった。
「やっと目に見えてダメージが入りましたね……」
今までの戦闘で攻撃が通用しないのではないかと危惧し始めていたハンター達は安堵の息を吐く。
「お待たせしました! バックアップに入ります!!」
そして、紅鬼の治療が一段落し、シメオンに任せた聖盾がエリシャへプロテクションのかけ直しと回復を行う。
「助かる!」
いくら回避に自信があるとはいえ、避けきれないときは避けきれない。ジリジリと削られていたエリシャが太刀を振りながら声を上げた。
「ミリア殿、ナイスナイス! 狙う場所があると攻撃しやすいぜ!」
聖盾からのバックアップを受けたアンフィスは、執拗にメタボ羊の体液の流れ出る傷口へとナイトメアを叩き込む。
傷はある物の、脂肪のせいで芯まで攻撃が届かないのであれば、その傷を深くしていけばいい。樵の様な作業になるが、確実な手段でもあった。
天川の射撃がアンフィスの攻撃を後押しする様に、アンフィスへ振り下ろされかけるウォーハンマーの動きを押さえる。そしてミリアとエリシャの斬撃が確実にメタボ羊の足へとダメージを与えて行く。
一度体制を整える為に、ハンター達はメタボ羊から距離を取る。
「結構長期戦になりそうな感じだけど、みんな大丈夫?」
「ええ、何とか……」
メタボ羊を睨みながらミリアが仲間に問いかけると、紅鬼の治療が終わったのか、倒れる紅鬼の横で答えた。
「タフなのは聞いてたから……大丈夫よ。行ける」
互いの無事を確認し、再度攻撃を開始しようとしたその時。
低いうなり声と共に、今までに無い大きく伸びをする様な仕草を見せたメタボ羊の姿を目に入れたシメオンが、鋭い声を上げた。
「警戒を!!」
シメオンの声が響いたと同時に、ハンター達は左右へと散開した瞬間、先程まで十分に距離を取っていた筈のメタボ羊が、今、目の前に居る。
先程までメタボ羊が居た場所から一直線に地面に浅い轍が出来ていた。
そして、その勢いを殺さずにエリシャへとウォーハンマーが振り抜かれる。
「──ッ!!」
「エリシャさん!!」
とっさに身体を捻り後方に飛んだ、いや、飛ばされたエリシャを聖盾が受け止め、地面への激突を避けた。
「脂ぎった肢体、肉と肉のぶつかり合い……なんだか新しい扉が開きそうな……次はOSUMOUの本でも書こうかしら」
「……えっ?」
聖盾のポツリと漏れた言葉に、エリシャが聞き返す。
「あっ、いえ、何でもありません……」
「……?」
首を傾げるエリシャへシメオンからヒールが飛ぶ。
「傷は浅いですけど、エリシャさんが切り崩されると、戦況が苦しくなっちゃいますからね」
「ありがと」
短く礼を述べてミリア達と共に攻撃をしようとメタボ羊に目を向けると、そこには。
──笑い声を上げながらメタボ羊に向かってデスサイズを振る紅鬼の姿があった。
「あー……またかー……」
アンフィスが呆れ顔で眺めながら声を上げる。
「仕方ないですね。また吹き飛ばされない様に周囲でカバーするしか」
ミリアが応えてメタボ羊へと向かう。
「大丈夫です。死なない限りは何とかしますから」
「ええ!」
シメオンと聖盾がホーリーライトをメタボ羊へと飛ばす。
戦闘前と見比べれば、確実にダメージが蓄積しているかの様に見えるメタボ羊だが、未だ攻撃の重さは変わらず、避けるのにも命がけ、受けるならダメージを覚悟しなければいけない状況、未だ有効打となる攻撃は与えられていない様に見える。
しかし、メタボ羊の怒りは蓄積している様で、心無しか攻撃のペースが上がっている様にも見える。
「エリシャ殿、牽制頼む!!」
アンフィスはナイトメアからデッドリーキッスに持ち替え、エリシャの行動と同時に先程と同じく脇腹への攻撃を再開する。
積み重なった攻撃が徐々に傷を深くしている事を証明する様に、傷口からの血の量は増えている。もう少し。焦らずもう少し。そう考えて削ってきた箇所へ、一撃、また一撃と弾丸を撃ち込んでいく。
「伸び上がった! また突進が来るかもです!」
魔導銃で狙いを付けていた天川が叫び、その声と共にシメオンは事前に準備していたロープに石を結びつけた物をメタボ羊の足に向かって投げつけ、足に絡めつける。
予想通りの突進にハンター達は巻き込まれない様突進の進行方向から左右に割れる。──一人を除いて。
「危ない!!」
「紅鬼殿──ッ」
シメオンが叫びアンフィスが突き飛ばす様に紅鬼を突進の進行方向から追い出し倒れ込み、片足を突進で弾かれ、きりもみ状態で地面に叩き付けられる。
「アンフィスさん──!!」
既にヒールが使えなくなっていた聖盾はシメオンがアンフィスを抱き起こして治療を始めるのを見届け、ホーリーライトをメタボ羊の傷口に向かって放つ。傷口に命中した光の弾は傷口を抉り、ついに深手を与えた事を意味する様に鮮血を吹き出させる。
『────ッ!!!!』
これまでの低い地響きを立てる様な咆哮ではなく、明らかに甲高い、悲鳴の様な叫び。
ハンター達は、この戦いがやっと優位になりつつある事を確信し、各々の身体を奮い立たせる。
そして、改めて敵に目をやると、メタボ羊の様子がおかしい事に気がついた。シメオンの投げて足を搦め捕ったロープのせいで、起き上がれないのだ。
「皆さん、ロープは長く持ちません! 今がチャンスです!!」
「了解!!」
ミリアが叫び、エリシャと共に駆け出し、天川の弾丸と聖盾のホーリーライトが脇腹の傷口へと一撃を加えていく。
一撃、また一撃と攻撃を受ける度、メタボ羊は叫び声を上げてもがく。何とか手にしたウォーハンマーを振ろうとするのだが、贅肉のせいで腕を振る事もままならない。
やがてミチミチと音を立てていたロープが音を立てて切れそうになると、ハンター達は一度距離を取る。薙ぎ払われる可能性を危惧しての事だ。今度は取り残されない様にミリアが紅鬼を突き飛ばす。
ハンター達の予想通り、怒り狂った様にウォーハンマーを振り回すメタボ羊だが、予測されている攻撃程避ける事が簡単な物は無い。
メタボ羊は囂々と恐ろしい風切り音を発していた獲物をドスンと立て、ブフゥと息をして額の汗を拭う様な仕草をする。
「羊なのに汗なんかかくのかしら……」
「ひょっとして、あの脂っぽい毛並みって汗なのかしら……洗ったらふわもこウールになるかな……」
命のやり取りを行っている戦場に似つかわしくない突然のコミカルな仕草に、各々が感想を口にする。
先程思わず脳内の妄想が口に出てしまった聖盾は、何やらしきりにコクコクと頷いていた。もしかすると薄い本の何かを思い付いたのかもしれない。
ひとときの間の抜けた空気が流れた時、シメオンの治療で回復したアンフィスが声を上げる。
「よっしよし、回復っと。シメオン殿、サンキュー。そろそろ畳み掛けちゃう?」
「そうね。勝負をかけましょうか」
エリシャが頷き、ミリアが提案する。
「じゃあ、私とエリシャさんが正面から。──紅鬼さんは……おいといて。アンフィスさんは側面から。聖盾さんと天川さんは遠距離からで、シメオンさん。回復、大変だけどお願いしますね」
「はい。頑張ります!」
現状を分析してミリアが確認、聖盾と天川の魔法と弾丸の発射で戦闘が再開される。
「流石に消耗してるのが解るわね。足下がお留守よ!」
エリシャの太刀が脂肪の薄い足を切り裂き、ミリアのツヴァイハンダーがもう片方の足を斬りつける。自重のせいで踏ん張りが利かなくなったメタボ羊が片膝を付いた姿勢でウォーハンマーを大きく振るが、エリシャは瞬脚を使用してひらりと避ける。
振り抜かれたウォーハンマーを確認したアンフィスが、これまでコツコツと広げてきたメタボ羊の傷口へと筋力充填を使用し、クラッシュブロウを叩き込む。
「──オォッ!!」
分厚い脂肪を引き裂き、深々と刺さったナイトメアを気合いと共に大きく振り抜いた時、メタボ羊の身体が痙攣した様に震えた後、崩れ落ちる様に黒い塵へと帰った。
「やっと、倒せた……」
ほうと息を吐き、武器を下ろすミリアが小デブ羊達を追った別隊の方に目をやると、どうやらあちらも片がついた様で、ハンター達の方へと歩み寄ってくる。
「うう……ふわもこウール……」
羊のウールを目当てにフックナイフまで用意していた天川は、心底残念そうに涙を流していた。あの脂ぎった剛毛を刈って何に使うつもりだったのか。それは彼女だけが知る。
「やーやー、おつかれさまー!」
多少の傷はある物の、元気な声でハンター達へ声をかけるティアと、ボロボロになって後ろを歩くクリス。何があったのかは聞くまい。
そして聖盾がティアに近付き声をかける。
「ティアさん。クルセイダーなら前に出るだけではなく、恋人の傷を癒すのも貴女の役目ですよ?」
「えっ?! あたしとクリスは別にそんなんじゃ……」
一瞬で真っ赤になった顔で、わちゃわちゃと両手で奇妙なジェスチャーを行った後「あ、ありがと……」と聖盾の差し出したエクラアンクを受け取った。
「(これも薄い本の題材に──)……いけない、私ったら」
「……?」
首を傾げるティア。その横でケガ人の治療をし終わったシメオンがクリスとティアに声をかける。
「アドレさん、グラッジさん。私、フォーリさんと少しお話をしてみたいのですが、紹介していただけませんか?」
「いいけど、俺達だってあまり知った仲じゃないぜ?」
じゃあ、と言葉を交わしながら、三人は戦闘の終了したフォーリの陣営へと歩いて行った。
「さて、事後処理を終わらせて替える準備をしましょうか」
ミリアの声で、皆が疲れた身体に鞭を入れて動き出した──
「まぁてコラー!!」
大規模な戦場の中で場違いな鳴き声と怒号が響き渡る。
「グラッジさんって、確かクルセイダー……クルセイダーが法具も持たずに前線に出るなんて、何を考えているのかしら!?」
怒号を上げながらモーニングスターを振り回すティアを眺めながら、聖盾(ka2154)が一人ごちる。そして、目下の敵となるメタボ羊へ目をやり、感想を述べた。
「しかし、なんとも醜い雑魔ですね……薄い本にはとても登場させられません!」
太った豚の出演する薄い本という物が第一の発想に絡むというのは、相当の上級者である。
「大規模戦闘はいまいち慣れないわねぇ……」
と、ボヤキながら解体だの美味しくなさそうだのと呟くのはエリシャ・カンナヴィ(ka0140)。聖盾とは180度違ったスタンスでガチガチの戦闘思考である。果たしてどのように噛み合うのか。
脂ぎった羊を眺め、メタボというよりマッチョな脳筋……と思ったのだが、ぶるんぶるんと垂れて震える肉を見て「ちょっとキモ過ぎ……」と零した天川 麗美(ka1355)はゴホンと咳払いをして気持ちを切り替える。
確かにあの人の背丈を遥かに超えるウォーハンマーを扱えるという事は、筋肉量も多いのだろうが。
「……ふわもこウール……GETしたいわね……うふふ」
と、これまた違った目的意識が見える。
「まーまー、とんだマトンじゃん? ちょちょっとチョップにしちゃおうぜい──なあ、紅鬼殿?」
「切り刻みますわぁぁぁ!!」
カラカラと笑いながら紅鬼 姫乃(ka2472)に声をかけるのはアンフィス(ka3134)。
一方紅鬼はと言うと、既にアンフィスの隣にはおらず、メタボ羊の方へと走り出していた。
「あっちゃー……紅鬼殿行っちゃった。僕たちも行きますかぁ!」
アンフィスは【地を駆けるもの】を使用して紅鬼の後を追う。
──そして戦闘が始まった。
「──私の力は未だ未熟なれど、憂いは此処で断てるよう、最善を」
シメオン・E・グリーヴ(ka1285)は位置取りを素早くし、ホーリーライトをメタボ羊に放つ。
集約した光がメタボ羊へ一直線に飛び腹の中央へと炸裂すると、メタボ羊が吠える。
小デブ羊は「ブヒブヒ」と豚の様な鳴き声なのだが、対して親玉であろうメタボ羊は流石に豚の声ではない。地響きを立てる様な化け物の咆哮であった。
「さぁ羊さん、おとなしく……は無理でしょうけど切り身になってもらいましょうか」
ミリア・コーネリウス(ka1287)はジリジリと間合いを詰める。
幸い紅鬼がバーサーカーよろしく突っ込んでいる為、攻撃の間合いは測りやすい。
「私が囮の意味もあまり無い気もするけど、行くわよ」
暴れる紅鬼を眺めつつエリシャがミリアに頷き、メタボ羊への攻撃を開始する。
ミリアのツヴァイハンダー、エリシャの太刀でメタボ羊の足を斬りつけようと振り抜かれた時、メタボ羊のウォーハンマーの柄が武器の進行方向へと突き立てられ、不快な金属音と共に弾かれる。
「そう簡単に狙えないって訳ね……でも、防ぐって事は当てられたくないって事と一緒よ!」
「後衛のみなさんは援護お願いします。アイツの攻撃範囲に入らないように!」
エリシャとミリアは再度攻撃を行う為に、間合いを計る。その間にも紅鬼はデスサイズをメタボ羊に叩き付けようとしていた。そして、メタボ羊が邪魔な虫を追い払うかの様に無造作に見える動きでウォーハンマーを振る。
────!!
その時、ハンター達は何が起こったのかが一瞬解らなかった。紅鬼が遥か後方に一瞬で吹き飛ばされたのである。
「……何アレ……やっばいよ。アレ食らったら僕死んじゃうんじゃないの? アレが聞いてた攻撃って奴?」
依頼前に聞いていたとはいえ、実際の威力を目にしたハンター達の動きが鈍る。
(アレは、重いなんて物じゃない──)
「紅鬼さん!」
「今治療を!」
我に返った様に聖盾とシメオンが紅鬼に駆け寄り、ヒールで治療する。しかし、傷が思ったより深く二人掛かりでギリギリの深手だった。
「当たらなければ、ただの大振りよ!」
正面から囮としてエリシャが太刀で注意を引く合間に、アンフィスは側面からの攻撃を行う。
サーベルでメタボ羊を斬りつけるのだが、脂ぎった剛毛と厚い脂肪、元から緩慢な動きのせいでダメージがあるのかが今イチ解らない。
上手く間合いを計って付かず離れずで行動しなければ、先程の紅鬼の様に一撃で生死の境を彷徨いかねない。
「様子がわからない内は安全運転しないとな!」
軽くステップしながら後退し、息を整える様に距離を置く。
「……援護します! ミリアさん!」
天川の魔導銃から弾丸が放たれると同時に、ツヴァイハンダーを構えたミリアが駆ける。
「くらえっ!!」
踏込と渾身撃を使用した一撃を、メタボ羊の脇腹目がけて振り抜いた。
厚い脂肪に筋が入ったかと思うと、メタボ羊の体液が軽く噴き出す。初めてハンター達の攻撃が目に見えてダメージを与えた一撃だった。
「やっと目に見えてダメージが入りましたね……」
今までの戦闘で攻撃が通用しないのではないかと危惧し始めていたハンター達は安堵の息を吐く。
「お待たせしました! バックアップに入ります!!」
そして、紅鬼の治療が一段落し、シメオンに任せた聖盾がエリシャへプロテクションのかけ直しと回復を行う。
「助かる!」
いくら回避に自信があるとはいえ、避けきれないときは避けきれない。ジリジリと削られていたエリシャが太刀を振りながら声を上げた。
「ミリア殿、ナイスナイス! 狙う場所があると攻撃しやすいぜ!」
聖盾からのバックアップを受けたアンフィスは、執拗にメタボ羊の体液の流れ出る傷口へとナイトメアを叩き込む。
傷はある物の、脂肪のせいで芯まで攻撃が届かないのであれば、その傷を深くしていけばいい。樵の様な作業になるが、確実な手段でもあった。
天川の射撃がアンフィスの攻撃を後押しする様に、アンフィスへ振り下ろされかけるウォーハンマーの動きを押さえる。そしてミリアとエリシャの斬撃が確実にメタボ羊の足へとダメージを与えて行く。
一度体制を整える為に、ハンター達はメタボ羊から距離を取る。
「結構長期戦になりそうな感じだけど、みんな大丈夫?」
「ええ、何とか……」
メタボ羊を睨みながらミリアが仲間に問いかけると、紅鬼の治療が終わったのか、倒れる紅鬼の横で答えた。
「タフなのは聞いてたから……大丈夫よ。行ける」
互いの無事を確認し、再度攻撃を開始しようとしたその時。
低いうなり声と共に、今までに無い大きく伸びをする様な仕草を見せたメタボ羊の姿を目に入れたシメオンが、鋭い声を上げた。
「警戒を!!」
シメオンの声が響いたと同時に、ハンター達は左右へと散開した瞬間、先程まで十分に距離を取っていた筈のメタボ羊が、今、目の前に居る。
先程までメタボ羊が居た場所から一直線に地面に浅い轍が出来ていた。
そして、その勢いを殺さずにエリシャへとウォーハンマーが振り抜かれる。
「──ッ!!」
「エリシャさん!!」
とっさに身体を捻り後方に飛んだ、いや、飛ばされたエリシャを聖盾が受け止め、地面への激突を避けた。
「脂ぎった肢体、肉と肉のぶつかり合い……なんだか新しい扉が開きそうな……次はOSUMOUの本でも書こうかしら」
「……えっ?」
聖盾のポツリと漏れた言葉に、エリシャが聞き返す。
「あっ、いえ、何でもありません……」
「……?」
首を傾げるエリシャへシメオンからヒールが飛ぶ。
「傷は浅いですけど、エリシャさんが切り崩されると、戦況が苦しくなっちゃいますからね」
「ありがと」
短く礼を述べてミリア達と共に攻撃をしようとメタボ羊に目を向けると、そこには。
──笑い声を上げながらメタボ羊に向かってデスサイズを振る紅鬼の姿があった。
「あー……またかー……」
アンフィスが呆れ顔で眺めながら声を上げる。
「仕方ないですね。また吹き飛ばされない様に周囲でカバーするしか」
ミリアが応えてメタボ羊へと向かう。
「大丈夫です。死なない限りは何とかしますから」
「ええ!」
シメオンと聖盾がホーリーライトをメタボ羊へと飛ばす。
戦闘前と見比べれば、確実にダメージが蓄積しているかの様に見えるメタボ羊だが、未だ攻撃の重さは変わらず、避けるのにも命がけ、受けるならダメージを覚悟しなければいけない状況、未だ有効打となる攻撃は与えられていない様に見える。
しかし、メタボ羊の怒りは蓄積している様で、心無しか攻撃のペースが上がっている様にも見える。
「エリシャ殿、牽制頼む!!」
アンフィスはナイトメアからデッドリーキッスに持ち替え、エリシャの行動と同時に先程と同じく脇腹への攻撃を再開する。
積み重なった攻撃が徐々に傷を深くしている事を証明する様に、傷口からの血の量は増えている。もう少し。焦らずもう少し。そう考えて削ってきた箇所へ、一撃、また一撃と弾丸を撃ち込んでいく。
「伸び上がった! また突進が来るかもです!」
魔導銃で狙いを付けていた天川が叫び、その声と共にシメオンは事前に準備していたロープに石を結びつけた物をメタボ羊の足に向かって投げつけ、足に絡めつける。
予想通りの突進にハンター達は巻き込まれない様突進の進行方向から左右に割れる。──一人を除いて。
「危ない!!」
「紅鬼殿──ッ」
シメオンが叫びアンフィスが突き飛ばす様に紅鬼を突進の進行方向から追い出し倒れ込み、片足を突進で弾かれ、きりもみ状態で地面に叩き付けられる。
「アンフィスさん──!!」
既にヒールが使えなくなっていた聖盾はシメオンがアンフィスを抱き起こして治療を始めるのを見届け、ホーリーライトをメタボ羊の傷口に向かって放つ。傷口に命中した光の弾は傷口を抉り、ついに深手を与えた事を意味する様に鮮血を吹き出させる。
『────ッ!!!!』
これまでの低い地響きを立てる様な咆哮ではなく、明らかに甲高い、悲鳴の様な叫び。
ハンター達は、この戦いがやっと優位になりつつある事を確信し、各々の身体を奮い立たせる。
そして、改めて敵に目をやると、メタボ羊の様子がおかしい事に気がついた。シメオンの投げて足を搦め捕ったロープのせいで、起き上がれないのだ。
「皆さん、ロープは長く持ちません! 今がチャンスです!!」
「了解!!」
ミリアが叫び、エリシャと共に駆け出し、天川の弾丸と聖盾のホーリーライトが脇腹の傷口へと一撃を加えていく。
一撃、また一撃と攻撃を受ける度、メタボ羊は叫び声を上げてもがく。何とか手にしたウォーハンマーを振ろうとするのだが、贅肉のせいで腕を振る事もままならない。
やがてミチミチと音を立てていたロープが音を立てて切れそうになると、ハンター達は一度距離を取る。薙ぎ払われる可能性を危惧しての事だ。今度は取り残されない様にミリアが紅鬼を突き飛ばす。
ハンター達の予想通り、怒り狂った様にウォーハンマーを振り回すメタボ羊だが、予測されている攻撃程避ける事が簡単な物は無い。
メタボ羊は囂々と恐ろしい風切り音を発していた獲物をドスンと立て、ブフゥと息をして額の汗を拭う様な仕草をする。
「羊なのに汗なんかかくのかしら……」
「ひょっとして、あの脂っぽい毛並みって汗なのかしら……洗ったらふわもこウールになるかな……」
命のやり取りを行っている戦場に似つかわしくない突然のコミカルな仕草に、各々が感想を口にする。
先程思わず脳内の妄想が口に出てしまった聖盾は、何やらしきりにコクコクと頷いていた。もしかすると薄い本の何かを思い付いたのかもしれない。
ひとときの間の抜けた空気が流れた時、シメオンの治療で回復したアンフィスが声を上げる。
「よっしよし、回復っと。シメオン殿、サンキュー。そろそろ畳み掛けちゃう?」
「そうね。勝負をかけましょうか」
エリシャが頷き、ミリアが提案する。
「じゃあ、私とエリシャさんが正面から。──紅鬼さんは……おいといて。アンフィスさんは側面から。聖盾さんと天川さんは遠距離からで、シメオンさん。回復、大変だけどお願いしますね」
「はい。頑張ります!」
現状を分析してミリアが確認、聖盾と天川の魔法と弾丸の発射で戦闘が再開される。
「流石に消耗してるのが解るわね。足下がお留守よ!」
エリシャの太刀が脂肪の薄い足を切り裂き、ミリアのツヴァイハンダーがもう片方の足を斬りつける。自重のせいで踏ん張りが利かなくなったメタボ羊が片膝を付いた姿勢でウォーハンマーを大きく振るが、エリシャは瞬脚を使用してひらりと避ける。
振り抜かれたウォーハンマーを確認したアンフィスが、これまでコツコツと広げてきたメタボ羊の傷口へと筋力充填を使用し、クラッシュブロウを叩き込む。
「──オォッ!!」
分厚い脂肪を引き裂き、深々と刺さったナイトメアを気合いと共に大きく振り抜いた時、メタボ羊の身体が痙攣した様に震えた後、崩れ落ちる様に黒い塵へと帰った。
「やっと、倒せた……」
ほうと息を吐き、武器を下ろすミリアが小デブ羊達を追った別隊の方に目をやると、どうやらあちらも片がついた様で、ハンター達の方へと歩み寄ってくる。
「うう……ふわもこウール……」
羊のウールを目当てにフックナイフまで用意していた天川は、心底残念そうに涙を流していた。あの脂ぎった剛毛を刈って何に使うつもりだったのか。それは彼女だけが知る。
「やーやー、おつかれさまー!」
多少の傷はある物の、元気な声でハンター達へ声をかけるティアと、ボロボロになって後ろを歩くクリス。何があったのかは聞くまい。
そして聖盾がティアに近付き声をかける。
「ティアさん。クルセイダーなら前に出るだけではなく、恋人の傷を癒すのも貴女の役目ですよ?」
「えっ?! あたしとクリスは別にそんなんじゃ……」
一瞬で真っ赤になった顔で、わちゃわちゃと両手で奇妙なジェスチャーを行った後「あ、ありがと……」と聖盾の差し出したエクラアンクを受け取った。
「(これも薄い本の題材に──)……いけない、私ったら」
「……?」
首を傾げるティア。その横でケガ人の治療をし終わったシメオンがクリスとティアに声をかける。
「アドレさん、グラッジさん。私、フォーリさんと少しお話をしてみたいのですが、紹介していただけませんか?」
「いいけど、俺達だってあまり知った仲じゃないぜ?」
じゃあ、と言葉を交わしながら、三人は戦闘の終了したフォーリの陣営へと歩いて行った。
「さて、事後処理を終わらせて替える準備をしましょうか」
ミリアの声で、皆が疲れた身体に鞭を入れて動き出した──
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談用 アンフィス(ka3134) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2014/09/10 20:32:06 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/09/07 11:49:48 |