ゲスト
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【詩天】夏越しの祓
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/07/03 22:00
- 完成日
- 2016/07/14 20:03
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
詩天領内、ある小さな村。
そこにはむかしから、一年に二回、厄払いをするという習慣があった。
具体的には紙に自分のこれまでの『厄』を肩代わりさせ、川へ流してしまうと言うもの。
リアルブルーにも似た様な行事があるが、無論彼らは知らぬ事である。
ただこの何年かの間、その行事は執り行われていなかった。
それはエトファリカ全体がそれどころでなかったせいもあるわけだが、その余波なのだろうか、厄流しをする川が荒れてしまっていたのだ。
しかし、それも今年ならば問題がなかろうということで、復興の一環として執り行われることが決まったわけである。
●
「詩天の、珍しいお祭り……デスか?」
厄払いのことを聞いたリムネラが、そうわずかに首をかしげる。
「ええ、なんでも久々に行なうとかで」
そう言って微笑むのは、ガーディナの補佐も担当しているジーク・真田。彼はリアルブルーの故郷に似た行事があったこともあるせいか、少し楽しそうに鼻歌なんぞも口ずさんでいる。
「ジーク、楽しそうデスね?」
「はい。ふるさとでも子どもの頃、同じような行事があったものですから」
「ヘェ……」
いつにもまして熱っぽく話すジークに、リムネラは微笑む。そして思うのだ、彼もまた異邦人であったと言うことを。
「……ジーク、モシよかったらその祭りを視察シテきてくれマスカ?」
その言葉におどろいたのはジークだ。はっとリムネラの顔を見ると、いつもの穏やかな微笑みを浮かべていた――ジークに向けて。
その表情を見て、ジークは察することができた。リムネラは、少しでも故郷の祭りに似たその祭りで、骨休めをするといいと訴えているのだと。
「あ……あ、ありがとう、ございます」
もともとリムネラファンクラブ会長でもあるジークは目尻に涙を浮かべながら、嬉しそうに頷いた。
詩天領内、ある小さな村。
そこにはむかしから、一年に二回、厄払いをするという習慣があった。
具体的には紙に自分のこれまでの『厄』を肩代わりさせ、川へ流してしまうと言うもの。
リアルブルーにも似た様な行事があるが、無論彼らは知らぬ事である。
ただこの何年かの間、その行事は執り行われていなかった。
それはエトファリカ全体がそれどころでなかったせいもあるわけだが、その余波なのだろうか、厄流しをする川が荒れてしまっていたのだ。
しかし、それも今年ならば問題がなかろうということで、復興の一環として執り行われることが決まったわけである。
●
「詩天の、珍しいお祭り……デスか?」
厄払いのことを聞いたリムネラが、そうわずかに首をかしげる。
「ええ、なんでも久々に行なうとかで」
そう言って微笑むのは、ガーディナの補佐も担当しているジーク・真田。彼はリアルブルーの故郷に似た行事があったこともあるせいか、少し楽しそうに鼻歌なんぞも口ずさんでいる。
「ジーク、楽しそうデスね?」
「はい。ふるさとでも子どもの頃、同じような行事があったものですから」
「ヘェ……」
いつにもまして熱っぽく話すジークに、リムネラは微笑む。そして思うのだ、彼もまた異邦人であったと言うことを。
「……ジーク、モシよかったらその祭りを視察シテきてくれマスカ?」
その言葉におどろいたのはジークだ。はっとリムネラの顔を見ると、いつもの穏やかな微笑みを浮かべていた――ジークに向けて。
その表情を見て、ジークは察することができた。リムネラは、少しでも故郷の祭りに似たその祭りで、骨休めをするといいと訴えているのだと。
「あ……あ、ありがとう、ございます」
もともとリムネラファンクラブ会長でもあるジークは目尻に涙を浮かべながら、嬉しそうに頷いた。
リプレイ本文
●
エトファリカの一地方、「詩天」。
ここにある、さほど大きくは無い村で行なわれる夏の祭礼――それが『夏越しの祓』と呼ばれるものなのだという。
これまで半年分の厄を祓うための、儀式だ。
そして、そこに――ジーク・真田はわずかに胸躍らせ、向かっていた。
無論、ひとりではない。
この世界では、リアルブルーのような安全な一人旅は困難である。たいていにおいて、長旅をする者は腕の立つ用心棒を雇うことが多い。そしてこの世界における『腕の立つもの』と言えば、それは暗にハンターを刺しているのだった。
「今回は改めてよろしくお願いします」
リゼリオを出る前、ジークはそう言って頭を下げた。一応彼自身も覚醒者であり、ハンターズソサエティにも登録されているのだが、なにぶん実戦から遠ざかってずいぶんと経つ。もともと大した依頼もこなしていなかったので、腕前自体は素人に毛の生えた程度であるのは言うまでもない。だからこそハンターに同行を頼んでいるのだし。
「こちらこそ、ジークさん。はじめまして、よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げるのは、一瞬東方の人間と見間違えてしまいそうな程に艶やかなうばたまの髪と瞳を持ったエルフの少女、夜桜 奏音(ka5754)。彼女自身も巫術師であるからか、符術が栄えるという詩天の地に興味を持っているらしい。事前に旅でなにか厄介ごとが起こらないかを占術を使ってみたところ、不確定要素のない限りは滞りのなさそうな結果が出たと言うことだった。
――そして転移門を使い、いま、彼らはその村に向かっている。
「いやいや、こういうのってリアルブルーでも経験なかったし。もともと外に出ない現代っ子だったし、当然と言えば当然なんだけど……」
そう笑うのは眼鏡をかけた、どこか風変わりなリアルブルー出身者、南條 真水(ka2377)。おのれのことを「南條さん」と呼び、その眼鏡もいわゆる分厚い瓶底眼鏡というやつだ。目つきの悪さをそれでかくしているらしい。
「でもなんだろうね、異世界にきて日本文化を初体験って……なんか、負けた気分だよ」
そう苦笑い。でも普通のひとにとっては案外そんなものなのかも知れない。リアルブルーでも、古式ゆかしい祭りはどんどん消えているのが現状だ。あるいは、見世物のように形ばかり、形骸化しているか。
「今回の詩天の祭りに似たものを経験したと聞いていますけれど……どんなものだったんですか?」
奏音が不思議そうに首をかしげると、
「専門外ではありますけれど、一応の知識なら」
と、説明してくれたのは天央 観智(ka0896)。そして、うーん、と唸りこむ。
「そう……そうですね。僕も民俗学は……どちらかというと専攻外より、だったんですけれど。たまには、いいですよね。東方の話を聞いていると、なんだか……古代から中世頃の日本と類似した文化がふしぎと良くありますよね。辿った経緯、歴史などを考えれば似てくるのが不思議なくらいなのですけれど……歪虚の侵攻がある前は……割りと似た経緯で文明が構築されたのでしょうか?」
研究者肌の観智はそう考えながら、ふむふむと頷いている。こういうことをついつい考えてしまうのは、やはり研究熱心な彼の特徴と言えるのだろう。しかし彼の言うとおり、詩天に限らず東方と中世の日本――リアルブルーの極東地域との類似性は特筆すべきものがあった。調べてみる価値はあるのかも知れない。そう思うと、研究者としての好奇心が疼いてくる。
「でも夏祭りか! 花火とか、屋台とか、あるのか?」
一方、知的好奇心ではなく純粋な興味から、そうちょっと興奮気味に問いかけているのは、今回のメンバーでもとくに幼さの残る鎬鬼(ka5760)。名は体を表すというか、鬼の少年である。そして、幼いながらも一族の長という立場にあるのだ。
「鎬鬼様、違う違う。厄を祓う、ってコトらしいから古い形式の祭りじゃないかな。そういうのを期待しないほうがいいかも知れない」
そう冷静に言ってみせるのは兄貴分にあたる、やはり同族の青年一青 蒼牙(ka6105)。といっても、鎬鬼率いる様兵団の部下であるという立場を忘れることなく、少年を敬う気持ちを忘れない。
「ふーん……で、食い物はないの?」
そう食い下がる鎬鬼だが、これにはジークも思わず苦笑。
「もともと東方はまだ復興途中だからね」
ついでに言うと、リゼリオでは闘技大会の話題で盛り上がっていたりもしていたから、余計にそう言う発想に至りやすかったのだろう。そう考えた蒼牙はそちらのどんちゃん騒ぎな『祭り』とはまったく質の違うものなのだ、ときちんと注意してやる。
「ふふ、でもなんだか二人とも楽しそうね。改めて、皆様にはよろしくお願いします」
蒼牙よりも更に大人びて、どきりとするような色気をそなえた風華(ka5778)が、いかにも保護者らしくぺこりと頭を下げる。
(視察と言うよりも楽しみたいという気持ちのほうが大きいみたいですから、警護をするときもその辺りを注意しないといけませんね)
年長らしくそんなことを考えながら、口元をわずかにほころばせる。鎬鬼はそれを見て満足そうに頷いた。
「でもでもぉ、名前は聞いたことはありましたけれどぉ、実際に目にするのは初めてですぅ。六月に神社に行くのは面倒くさくてぇ……えへ」
リアルブルー出身者の星野 ハナ(ka5852)は、そんなことをいっててへ、と笑ってみせる。……相変わらずほんのりあざとい。
でも確かに、リアルブルーの該当地域は同じ季節は雨が多い。結果として、真水ほどではないにしろ出不精になるのも仕方がないのかも知れなかった。
「そう言えばぁ、この季節に食べるお菓子って言うのがあってぇ……故郷で『六月』を表わす古い言葉の『水無月』って名前なんですけれどぉ」
「へぇ……?」
お菓子、と聞いて視線が一気にハナに向かう。
「折角だから、あちらに行って作るのもいいかなって思ってぇ、材料とかを持っていくつもりなんですぅ」
そう言って、彼女は傍らの戦馬をぽんと叩いてみせる。そこに必要な道具が詰まっているらしい。その用意周到ぶりに、みんながつい笑顔になった。
(でもまあ、今回は警備はそれほど重要か判らないし、デートと最近の不運の厄落としをしたいかなぁ)
自らを「兎」と認識している少女、玉兎 小夜(ka6009)は表情を動かさずに視線だけを動かした。表情の変化に乏しい彼女だが、それも小夜のこれまでの経験の影響と考えると少しばかり切ないものである。そしてそんな彼女の視線の先、『デート相手』としているのは天の原 九天(ka6357)。
「ふふ、他の信仰の祭りを見学するというのも、良き学びの場よな」
そんなことをつい口に出してしまっている彼女は、自称神。何故そうなったかというと彼女の出自がそうさせているのである。太陽を崇める彼女の故郷では、太陽神は狐の姿を取ると言われており、その狐と縁深いとされたことでいっそう崇拝の対象とされたという経緯の持ち主である。何しろ覚醒すると、狐を彷彿とさせる耳と尾が出現するのだから。
対する小夜は、覚醒時に兎の耳が出現する。リアルブルーでは月にいるという伝説のある兎ゆえ、小夜と九天はそう言う意味で対の存在と言えるのかも知れない。リアルブルー出身の小夜からすれば、なおのことだ。
「事前に警戒をして、怪しいものがおれば声をかける。ハンターの存在をちらつかせておれば、危険は減るかもしれんの」
九天はそう言って満足そうに笑んで見せた。
(にしても、これって視察というか、参加しに行くようなもんだよな)
そう胸の奥で呟くのは骸香(ka6223)、鎬鬼らとは違うが彼女もまた鬼である。東方出身とは言え故郷は既にない彼女としては、エトファリカの地を踏むことはなんとなく複雑な心持ちだ。
(それにしても厄払い、ねぇ……冤罪とはいえ罪人のうちなんか、穢れそのものじゃないのかねえ)
そう自嘲気味に笑うと、ジークは不思議そうに彼女を見つめている。
「どうかしたんですか?」
尋ねられて、彼女はまた笑う。
「いいや、こっちの話」
それだけ言って、また歩き出した。
●
たどり着いたのは、本当にこぢんまりとした村、というか集落だった。詩天はまだまだ復興する必要性の高い土地ではあるが、幸い戦禍という意味ではこの地域、余り被害が大きくなかったらしいことがうかがわれる。
遠くまで広がる田畑に、さらさらと心地よい音を立てて流れゆく川。
牧歌的という言葉に相応しい光景が目の前に広がっている。
集落のほうも、まるで身を寄せ合うようにして立っているかやぶき屋根の家々。まるで人々の心に眠る原風景の様なその姿に、だれもが一瞬、胸をどきりとさせる。
近づいてみると、鳥居も見えた。恐らくそこが今回の祭礼を行なう社に繋がっているのだろう。
小さい村ゆえハンターという存在を見慣れないのだろう、見慣れぬ服装をした一行に子どもたちが近寄ってくる。
「おにいさんたちだれ?」
子どもの一人があどけない声で尋ねてくるので、蒼牙が
「ここの祭りのことを聞いて、俺たちも厄払いに来たんだ」
そう説明すれば、子どもたちはきゃっとさわいで社の奥にいた古めかしい服装をした男性を連れてくる。
「なになに、珍しいお客様だって……?」
三十路ほどの、いわゆる狩衣姿の男性はどうやらこの社の神職らしい。彼はハンターたちを見て目を丸くした。
「これは、もしかして西方からわざわざ?」
「ええ、まあ」
ジークが代表して頭を下げる。
「昔は、迷信の類と……検出できるデータがなさ過ぎて、放置していたことなんでしょうけれど……こういう祭事も……」
観智は興味深そうにぶつぶつと呟きながら杜を見つめていた。鳥居のそばには大きな人も通れるくらいの茅でできた輪――茅の輪がそなえられ、社殿とおぼしき建物の近くにはヒトの形を模した紙が準備されている。そんな古式ゆかしい社の祭礼の準備を見ながら、
「いっそ三年くらい先の厄まで祓っておきたいくらいなんだよね、南條さん的には」
真水はそう言って苦笑した。
「……とくに眼鏡がことあるごとに割れるのはね」
●
先ほどの男性はやはりこの村の神職だったらしい。板葺きの間にとおされ、さっくりと説明を受ける。
「この行事は、随分昔からあるのですが、期限は自分も判らないくらいで……まさか西方の方がいらっしゃるとも思いませんでした」
聞くと、彼の知人にもハンターを目指してリゼリオに向かった者がいるのだという。
「リアルブルーにも、これに似た行事がありまして。折角なので、と」
ジークがそんな説明をすると、ハナがぽん、と手を打った。
「そうですぅ! 私、お菓子を作る用意を持ってきたんですぅ……場所を借りることはできませんかぁ?」
「お菓子?」
「はい! 水無月って言う、この季節のリアルブルーに伝わるお菓子なんですけれどぉ」
(……あの人がいたら大納言も作ってくれたかもですけれどぉ……はふぅ)
恋する乙女、食い気も大事だが今回一緒に参加できなかった片恋相手を思ってほんのりため息。そんなため息には気付いてか気付かずか、神職の青年は笑う。
「この近くの家にお願いしましょう。祭りに食べものがあると、確かに華やぎますしね」
「ありがとうございますぅ!」
ハナが嬉しそうに言うと、逆にむう、と唸ったのは小夜。
「出店とかはないのか?」
「そうですね……どういうものを想像なさっているかは判りませんが、基本的には香具師も滅多に訪れない祭りです。もっとも、厄払いに来る方は結構村の外からもいるんですけれどね」
恐らく信仰の面が強い祭りなのだろう。残念そうにしているのは鎬鬼も同様だが、しかしそんな静かな祭りもオツなもの、とも思う。
「この辺には歪虚や不審者の出没はないかの? 儂らはこちらのお人の護衛も兼ねておるのでのう」
内心では祭りの良いところを自分の信者を増やすために取り入れたい、と思いながら九天が尋ねると、神職の男は助かります、と言って頭を下げた。鄙びた土地と言うこともあってそういう被害は少ないが、東方全体がそうであるように、全体的にまだどこか言葉にしがたい物寂しさがある。
けれど人々はそんな逆風にもめげず、元気に身体を動かしている。こういった人々の活気は正のマテリアルにつながり、必ず復興に繋がるだろうと言う確信が持てる。それは喜ばしいことだった。
そして、夕闇が少しずつ迫ってきたころ。
ぽつりぽつりと、提灯がともされる。
祭りの時間だ。
●
村に住んでいるものは殆どが訪れているのだろうか。
はじめに訪れたときはあんなにも静かだった鎮守の森が、今は人のざわめきでいっぱいだ。
ヒトガタを、ひとり一枚ずつ渡されていく。安っぽい紙で作られてはいるが、それが心のこもったものであることは容易に想像がついた。
「名前を書いたり、息を吹きかけたりすると、ヒトガタに穢れを移すことができるんだ。お客さん達もやってご覧」
村の老人にそう言われ、それぞれためしてみる。
「病は気から、じゃないけど……澱んだ思考は穢れに繋がる。こうやって出来る限りのことをやって、一つの区切りにしちゃおう。それに、折角禊ぎ清めるものの名前を持ってるんだものね」
真水はそう言いながら、ヒトガタを数枚もらって書き込んでいる。まあ、これまでの不運――厄を考えれば、そうしたくもなるのだろう。
「わたしはどうせなら……戦闘で使う式符も紙なので、これに名を書いて流して、厄を祓いましょう」
そう考えたのは奏音。事前に茅の輪もくぐってある。
茅の輪くぐりももともとは厄落としの一つのプロセスだ。そしてこの茅の輪も、川に流すのが本来の形式。そう聞いて、風華がそっと目を細めながらふたりの弟分――いや、息子かも知れないが――に語りかける。
「しきたりを守るのも大事ですからね」
ちなみに茅の輪のくぐり方にも当然ながら作法がある。『8』の字を描くように、左回り、右回り、再度左回りの順にくぐる。そして最後に、茅の輪の奥にあるご神体に手を合わせるのだ。無論、くぐる前には礼も忘れないようにして、だ。鎬鬼と蒼牙が羽目を外さないように見守りながら、風華もつい微笑む。
「ちゃんと作法を守らないと効き目ないから、きちんと聞いて下さいよ!」
蒼牙の言葉にわずかに気圧されたのか、頷く鎬鬼。
「でも、……みんな流して忘れちゃうのかな」
小夜がぽつりと呟く。忘れないことを誓いにしている小夜としては、もしそうなら自分の主義に反すると思ったのだ。でも、茅の輪くぐりなら問題なかろうと、くるくると回る。それをよこで眺めていた九天は、目を細めて嬉しそうな顔をした。
「でも、きっと闇の川を流れゆくヒトガタというのは、さぞや神秘的じゃろうのう……ま、儂自身は流す厄などないのじゃがの。儂神じゃから、そのくらいは自分で祓えるのじゃっ。ゆえ、この光景をしかと記憶に留めるとしよう――玉兎との思い出として、の」
九天にそんなことをさらりと言われ、小夜も頬を思わず赤らめる。更にそっと手を繋がれれば、なおのこと夜でよかったと、少しだけ思った。そんな一方、川縁でヒトガタをじっと見つめているのは骸香。
「……でも、祓うもなにも、うちは罪人だったんだから穢れなんて祓い尽くせないでしょ」
そう自嘲気味に呟く骸香だったが、ヒトガタを撫でているうちに、ふと遠くなってしまった故郷を思い出した。
(もしこれで本当に穢れが落ちたら苦労なんてないのに……まあ、良いことがあれば、それでいいか)
自身のことについては人一倍無頓着だが、この程度は考えてもいいだろう。なんだかそう思うと口元が少しだけ緩んだ。
「本当に……まるきり、古き良き故郷の原風景、という感じですね……」
観智がそう呟くと、近くでそれを聞いていたジークも頷いた。
「リアルブルーでは喪われつつある闇を感じられる、そんな感じですね」
青年達は、そう言ってじっと神事を眺めていた。
●
「みんなぁ~! お疲れさまですぅ、はい、これが水無月ですよぉ」
さっきまできゃーきゃーいいながらヒトガタを撫でていたハナが準備していた水無月を持ってくる。
蒸し上がったういろうに甘納豆をのせ、それが落ちないように寒天をかけて固定した和菓子、それが水無月である。厳密には、少し違うのだが。
「レンジがあればもっと時間短縮できるんですけどねぇ……やっぱりレンジは偉大ですぅ」
言いながらも、食べてみればしっとりとした甘さが口の中に広がった。
「出店が余りなさそうだったし、お祭りに食べものないと寂しいクチなのでぇ……なんちゃって、ですけどねぇ」
しかしハンターたちはそれを嬉しそうに口に入れる。心遣いへの感謝と、祭りという名に反しての口寂しさはだれもが抱いているからだ。
「うまい!」
「出店がないのは残念だったけれど、こういうのもオツなものじゃ」
口々に言いあいながら、だれもが笑顔。
●
今年半分の厄は、きっと祓えたことだろう。
だって、この旅の間、だれにも襲われることがなかったのだから。
穢れを捨てたことで、きっと負のマテリアルも近づけないのだ。
そういうことに、しておこう。
だれもがいつも以上の笑顔で、帰り道をいく。
幸せを噛みしめながら、帰路につく――。
エトファリカの一地方、「詩天」。
ここにある、さほど大きくは無い村で行なわれる夏の祭礼――それが『夏越しの祓』と呼ばれるものなのだという。
これまで半年分の厄を祓うための、儀式だ。
そして、そこに――ジーク・真田はわずかに胸躍らせ、向かっていた。
無論、ひとりではない。
この世界では、リアルブルーのような安全な一人旅は困難である。たいていにおいて、長旅をする者は腕の立つ用心棒を雇うことが多い。そしてこの世界における『腕の立つもの』と言えば、それは暗にハンターを刺しているのだった。
「今回は改めてよろしくお願いします」
リゼリオを出る前、ジークはそう言って頭を下げた。一応彼自身も覚醒者であり、ハンターズソサエティにも登録されているのだが、なにぶん実戦から遠ざかってずいぶんと経つ。もともと大した依頼もこなしていなかったので、腕前自体は素人に毛の生えた程度であるのは言うまでもない。だからこそハンターに同行を頼んでいるのだし。
「こちらこそ、ジークさん。はじめまして、よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げるのは、一瞬東方の人間と見間違えてしまいそうな程に艶やかなうばたまの髪と瞳を持ったエルフの少女、夜桜 奏音(ka5754)。彼女自身も巫術師であるからか、符術が栄えるという詩天の地に興味を持っているらしい。事前に旅でなにか厄介ごとが起こらないかを占術を使ってみたところ、不確定要素のない限りは滞りのなさそうな結果が出たと言うことだった。
――そして転移門を使い、いま、彼らはその村に向かっている。
「いやいや、こういうのってリアルブルーでも経験なかったし。もともと外に出ない現代っ子だったし、当然と言えば当然なんだけど……」
そう笑うのは眼鏡をかけた、どこか風変わりなリアルブルー出身者、南條 真水(ka2377)。おのれのことを「南條さん」と呼び、その眼鏡もいわゆる分厚い瓶底眼鏡というやつだ。目つきの悪さをそれでかくしているらしい。
「でもなんだろうね、異世界にきて日本文化を初体験って……なんか、負けた気分だよ」
そう苦笑い。でも普通のひとにとっては案外そんなものなのかも知れない。リアルブルーでも、古式ゆかしい祭りはどんどん消えているのが現状だ。あるいは、見世物のように形ばかり、形骸化しているか。
「今回の詩天の祭りに似たものを経験したと聞いていますけれど……どんなものだったんですか?」
奏音が不思議そうに首をかしげると、
「専門外ではありますけれど、一応の知識なら」
と、説明してくれたのは天央 観智(ka0896)。そして、うーん、と唸りこむ。
「そう……そうですね。僕も民俗学は……どちらかというと専攻外より、だったんですけれど。たまには、いいですよね。東方の話を聞いていると、なんだか……古代から中世頃の日本と類似した文化がふしぎと良くありますよね。辿った経緯、歴史などを考えれば似てくるのが不思議なくらいなのですけれど……歪虚の侵攻がある前は……割りと似た経緯で文明が構築されたのでしょうか?」
研究者肌の観智はそう考えながら、ふむふむと頷いている。こういうことをついつい考えてしまうのは、やはり研究熱心な彼の特徴と言えるのだろう。しかし彼の言うとおり、詩天に限らず東方と中世の日本――リアルブルーの極東地域との類似性は特筆すべきものがあった。調べてみる価値はあるのかも知れない。そう思うと、研究者としての好奇心が疼いてくる。
「でも夏祭りか! 花火とか、屋台とか、あるのか?」
一方、知的好奇心ではなく純粋な興味から、そうちょっと興奮気味に問いかけているのは、今回のメンバーでもとくに幼さの残る鎬鬼(ka5760)。名は体を表すというか、鬼の少年である。そして、幼いながらも一族の長という立場にあるのだ。
「鎬鬼様、違う違う。厄を祓う、ってコトらしいから古い形式の祭りじゃないかな。そういうのを期待しないほうがいいかも知れない」
そう冷静に言ってみせるのは兄貴分にあたる、やはり同族の青年一青 蒼牙(ka6105)。といっても、鎬鬼率いる様兵団の部下であるという立場を忘れることなく、少年を敬う気持ちを忘れない。
「ふーん……で、食い物はないの?」
そう食い下がる鎬鬼だが、これにはジークも思わず苦笑。
「もともと東方はまだ復興途中だからね」
ついでに言うと、リゼリオでは闘技大会の話題で盛り上がっていたりもしていたから、余計にそう言う発想に至りやすかったのだろう。そう考えた蒼牙はそちらのどんちゃん騒ぎな『祭り』とはまったく質の違うものなのだ、ときちんと注意してやる。
「ふふ、でもなんだか二人とも楽しそうね。改めて、皆様にはよろしくお願いします」
蒼牙よりも更に大人びて、どきりとするような色気をそなえた風華(ka5778)が、いかにも保護者らしくぺこりと頭を下げる。
(視察と言うよりも楽しみたいという気持ちのほうが大きいみたいですから、警護をするときもその辺りを注意しないといけませんね)
年長らしくそんなことを考えながら、口元をわずかにほころばせる。鎬鬼はそれを見て満足そうに頷いた。
「でもでもぉ、名前は聞いたことはありましたけれどぉ、実際に目にするのは初めてですぅ。六月に神社に行くのは面倒くさくてぇ……えへ」
リアルブルー出身者の星野 ハナ(ka5852)は、そんなことをいっててへ、と笑ってみせる。……相変わらずほんのりあざとい。
でも確かに、リアルブルーの該当地域は同じ季節は雨が多い。結果として、真水ほどではないにしろ出不精になるのも仕方がないのかも知れなかった。
「そう言えばぁ、この季節に食べるお菓子って言うのがあってぇ……故郷で『六月』を表わす古い言葉の『水無月』って名前なんですけれどぉ」
「へぇ……?」
お菓子、と聞いて視線が一気にハナに向かう。
「折角だから、あちらに行って作るのもいいかなって思ってぇ、材料とかを持っていくつもりなんですぅ」
そう言って、彼女は傍らの戦馬をぽんと叩いてみせる。そこに必要な道具が詰まっているらしい。その用意周到ぶりに、みんながつい笑顔になった。
(でもまあ、今回は警備はそれほど重要か判らないし、デートと最近の不運の厄落としをしたいかなぁ)
自らを「兎」と認識している少女、玉兎 小夜(ka6009)は表情を動かさずに視線だけを動かした。表情の変化に乏しい彼女だが、それも小夜のこれまでの経験の影響と考えると少しばかり切ないものである。そしてそんな彼女の視線の先、『デート相手』としているのは天の原 九天(ka6357)。
「ふふ、他の信仰の祭りを見学するというのも、良き学びの場よな」
そんなことをつい口に出してしまっている彼女は、自称神。何故そうなったかというと彼女の出自がそうさせているのである。太陽を崇める彼女の故郷では、太陽神は狐の姿を取ると言われており、その狐と縁深いとされたことでいっそう崇拝の対象とされたという経緯の持ち主である。何しろ覚醒すると、狐を彷彿とさせる耳と尾が出現するのだから。
対する小夜は、覚醒時に兎の耳が出現する。リアルブルーでは月にいるという伝説のある兎ゆえ、小夜と九天はそう言う意味で対の存在と言えるのかも知れない。リアルブルー出身の小夜からすれば、なおのことだ。
「事前に警戒をして、怪しいものがおれば声をかける。ハンターの存在をちらつかせておれば、危険は減るかもしれんの」
九天はそう言って満足そうに笑んで見せた。
(にしても、これって視察というか、参加しに行くようなもんだよな)
そう胸の奥で呟くのは骸香(ka6223)、鎬鬼らとは違うが彼女もまた鬼である。東方出身とは言え故郷は既にない彼女としては、エトファリカの地を踏むことはなんとなく複雑な心持ちだ。
(それにしても厄払い、ねぇ……冤罪とはいえ罪人のうちなんか、穢れそのものじゃないのかねえ)
そう自嘲気味に笑うと、ジークは不思議そうに彼女を見つめている。
「どうかしたんですか?」
尋ねられて、彼女はまた笑う。
「いいや、こっちの話」
それだけ言って、また歩き出した。
●
たどり着いたのは、本当にこぢんまりとした村、というか集落だった。詩天はまだまだ復興する必要性の高い土地ではあるが、幸い戦禍という意味ではこの地域、余り被害が大きくなかったらしいことがうかがわれる。
遠くまで広がる田畑に、さらさらと心地よい音を立てて流れゆく川。
牧歌的という言葉に相応しい光景が目の前に広がっている。
集落のほうも、まるで身を寄せ合うようにして立っているかやぶき屋根の家々。まるで人々の心に眠る原風景の様なその姿に、だれもが一瞬、胸をどきりとさせる。
近づいてみると、鳥居も見えた。恐らくそこが今回の祭礼を行なう社に繋がっているのだろう。
小さい村ゆえハンターという存在を見慣れないのだろう、見慣れぬ服装をした一行に子どもたちが近寄ってくる。
「おにいさんたちだれ?」
子どもの一人があどけない声で尋ねてくるので、蒼牙が
「ここの祭りのことを聞いて、俺たちも厄払いに来たんだ」
そう説明すれば、子どもたちはきゃっとさわいで社の奥にいた古めかしい服装をした男性を連れてくる。
「なになに、珍しいお客様だって……?」
三十路ほどの、いわゆる狩衣姿の男性はどうやらこの社の神職らしい。彼はハンターたちを見て目を丸くした。
「これは、もしかして西方からわざわざ?」
「ええ、まあ」
ジークが代表して頭を下げる。
「昔は、迷信の類と……検出できるデータがなさ過ぎて、放置していたことなんでしょうけれど……こういう祭事も……」
観智は興味深そうにぶつぶつと呟きながら杜を見つめていた。鳥居のそばには大きな人も通れるくらいの茅でできた輪――茅の輪がそなえられ、社殿とおぼしき建物の近くにはヒトの形を模した紙が準備されている。そんな古式ゆかしい社の祭礼の準備を見ながら、
「いっそ三年くらい先の厄まで祓っておきたいくらいなんだよね、南條さん的には」
真水はそう言って苦笑した。
「……とくに眼鏡がことあるごとに割れるのはね」
●
先ほどの男性はやはりこの村の神職だったらしい。板葺きの間にとおされ、さっくりと説明を受ける。
「この行事は、随分昔からあるのですが、期限は自分も判らないくらいで……まさか西方の方がいらっしゃるとも思いませんでした」
聞くと、彼の知人にもハンターを目指してリゼリオに向かった者がいるのだという。
「リアルブルーにも、これに似た行事がありまして。折角なので、と」
ジークがそんな説明をすると、ハナがぽん、と手を打った。
「そうですぅ! 私、お菓子を作る用意を持ってきたんですぅ……場所を借りることはできませんかぁ?」
「お菓子?」
「はい! 水無月って言う、この季節のリアルブルーに伝わるお菓子なんですけれどぉ」
(……あの人がいたら大納言も作ってくれたかもですけれどぉ……はふぅ)
恋する乙女、食い気も大事だが今回一緒に参加できなかった片恋相手を思ってほんのりため息。そんなため息には気付いてか気付かずか、神職の青年は笑う。
「この近くの家にお願いしましょう。祭りに食べものがあると、確かに華やぎますしね」
「ありがとうございますぅ!」
ハナが嬉しそうに言うと、逆にむう、と唸ったのは小夜。
「出店とかはないのか?」
「そうですね……どういうものを想像なさっているかは判りませんが、基本的には香具師も滅多に訪れない祭りです。もっとも、厄払いに来る方は結構村の外からもいるんですけれどね」
恐らく信仰の面が強い祭りなのだろう。残念そうにしているのは鎬鬼も同様だが、しかしそんな静かな祭りもオツなもの、とも思う。
「この辺には歪虚や不審者の出没はないかの? 儂らはこちらのお人の護衛も兼ねておるのでのう」
内心では祭りの良いところを自分の信者を増やすために取り入れたい、と思いながら九天が尋ねると、神職の男は助かります、と言って頭を下げた。鄙びた土地と言うこともあってそういう被害は少ないが、東方全体がそうであるように、全体的にまだどこか言葉にしがたい物寂しさがある。
けれど人々はそんな逆風にもめげず、元気に身体を動かしている。こういった人々の活気は正のマテリアルにつながり、必ず復興に繋がるだろうと言う確信が持てる。それは喜ばしいことだった。
そして、夕闇が少しずつ迫ってきたころ。
ぽつりぽつりと、提灯がともされる。
祭りの時間だ。
●
村に住んでいるものは殆どが訪れているのだろうか。
はじめに訪れたときはあんなにも静かだった鎮守の森が、今は人のざわめきでいっぱいだ。
ヒトガタを、ひとり一枚ずつ渡されていく。安っぽい紙で作られてはいるが、それが心のこもったものであることは容易に想像がついた。
「名前を書いたり、息を吹きかけたりすると、ヒトガタに穢れを移すことができるんだ。お客さん達もやってご覧」
村の老人にそう言われ、それぞれためしてみる。
「病は気から、じゃないけど……澱んだ思考は穢れに繋がる。こうやって出来る限りのことをやって、一つの区切りにしちゃおう。それに、折角禊ぎ清めるものの名前を持ってるんだものね」
真水はそう言いながら、ヒトガタを数枚もらって書き込んでいる。まあ、これまでの不運――厄を考えれば、そうしたくもなるのだろう。
「わたしはどうせなら……戦闘で使う式符も紙なので、これに名を書いて流して、厄を祓いましょう」
そう考えたのは奏音。事前に茅の輪もくぐってある。
茅の輪くぐりももともとは厄落としの一つのプロセスだ。そしてこの茅の輪も、川に流すのが本来の形式。そう聞いて、風華がそっと目を細めながらふたりの弟分――いや、息子かも知れないが――に語りかける。
「しきたりを守るのも大事ですからね」
ちなみに茅の輪のくぐり方にも当然ながら作法がある。『8』の字を描くように、左回り、右回り、再度左回りの順にくぐる。そして最後に、茅の輪の奥にあるご神体に手を合わせるのだ。無論、くぐる前には礼も忘れないようにして、だ。鎬鬼と蒼牙が羽目を外さないように見守りながら、風華もつい微笑む。
「ちゃんと作法を守らないと効き目ないから、きちんと聞いて下さいよ!」
蒼牙の言葉にわずかに気圧されたのか、頷く鎬鬼。
「でも、……みんな流して忘れちゃうのかな」
小夜がぽつりと呟く。忘れないことを誓いにしている小夜としては、もしそうなら自分の主義に反すると思ったのだ。でも、茅の輪くぐりなら問題なかろうと、くるくると回る。それをよこで眺めていた九天は、目を細めて嬉しそうな顔をした。
「でも、きっと闇の川を流れゆくヒトガタというのは、さぞや神秘的じゃろうのう……ま、儂自身は流す厄などないのじゃがの。儂神じゃから、そのくらいは自分で祓えるのじゃっ。ゆえ、この光景をしかと記憶に留めるとしよう――玉兎との思い出として、の」
九天にそんなことをさらりと言われ、小夜も頬を思わず赤らめる。更にそっと手を繋がれれば、なおのこと夜でよかったと、少しだけ思った。そんな一方、川縁でヒトガタをじっと見つめているのは骸香。
「……でも、祓うもなにも、うちは罪人だったんだから穢れなんて祓い尽くせないでしょ」
そう自嘲気味に呟く骸香だったが、ヒトガタを撫でているうちに、ふと遠くなってしまった故郷を思い出した。
(もしこれで本当に穢れが落ちたら苦労なんてないのに……まあ、良いことがあれば、それでいいか)
自身のことについては人一倍無頓着だが、この程度は考えてもいいだろう。なんだかそう思うと口元が少しだけ緩んだ。
「本当に……まるきり、古き良き故郷の原風景、という感じですね……」
観智がそう呟くと、近くでそれを聞いていたジークも頷いた。
「リアルブルーでは喪われつつある闇を感じられる、そんな感じですね」
青年達は、そう言ってじっと神事を眺めていた。
●
「みんなぁ~! お疲れさまですぅ、はい、これが水無月ですよぉ」
さっきまできゃーきゃーいいながらヒトガタを撫でていたハナが準備していた水無月を持ってくる。
蒸し上がったういろうに甘納豆をのせ、それが落ちないように寒天をかけて固定した和菓子、それが水無月である。厳密には、少し違うのだが。
「レンジがあればもっと時間短縮できるんですけどねぇ……やっぱりレンジは偉大ですぅ」
言いながらも、食べてみればしっとりとした甘さが口の中に広がった。
「出店が余りなさそうだったし、お祭りに食べものないと寂しいクチなのでぇ……なんちゃって、ですけどねぇ」
しかしハンターたちはそれを嬉しそうに口に入れる。心遣いへの感謝と、祭りという名に反しての口寂しさはだれもが抱いているからだ。
「うまい!」
「出店がないのは残念だったけれど、こういうのもオツなものじゃ」
口々に言いあいながら、だれもが笑顔。
●
今年半分の厄は、きっと祓えたことだろう。
だって、この旅の間、だれにも襲われることがなかったのだから。
穢れを捨てたことで、きっと負のマテリアルも近づけないのだ。
そういうことに、しておこう。
だれもがいつも以上の笑顔で、帰り道をいく。
幸せを噛みしめながら、帰路につく――。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/07/02 03:29:12 |