Stray cat Back home

マスター:楠々蛙

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
3日
締切
2016/07/03 07:30
完成日
2016/07/10 01:34

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「ここ来んのも久々だな。あのクソ爺ぃ、くたばってねえと良いが」
 とある町の裏通りで口端を曲げながら呟く男が一人。その両手には、一抱えもある木箱が。
 癖のある黒髪の男──キャロル=クルックシャンクは、裏通りに面する建物の前に立ち、軒上に掲げられた看板を見上げる。
 そこには『ガーンズバック銃砲工房(Gernsback Gun's workshop)』と記されていた。
「で、何でお前が付いて来てんだ?」
 扉を押し開こうとして、キャロルはふと足下に視線を落とした。そこには、こちらを見上げる黒猫が一匹。首輪に記されたルーナという名が示す通り、女性である。
 彼女は『そんにゃの私の勝手でしょ。良いからここ開けにゃさいよ』とでも言いた気な視線をキャロルへ送った。
「……何なんだよ、ったく」
 舌打ちを漏らしながら、取り敢えずキャロルは扉を開いた。
 隙間にしなやかな身体を入れる黒猫に続き、金管の軽やかな音を響かせながら店内に足を踏み入れると、客の来訪を告げる音に気付いた店員が、こちらに視線を寄越した。
「いらっしゃ──」
 はたきを持つ店員の口が止まった。
 十五、六歳頃の店員──ウェーブの掛かった金髪を肩口まで靡かせた少女は、我に戻ったのか、止まったままだった唇の動きを再開させる。
「キャロルさん!?」
「よお、エルネ」
 驚きを籠めて自分の名を呼んだ少女──エルネ、エルネスタ=ラヴィナーレに、肩を竦めて応じる。
「よお、じゃないですよ。来る時は予め連絡くらい入れて下さいって──」
「んな事より、コイツを下ろさせろ。いい加減に重いったらねえんだ」
 捲し立てるエルネを放置して、キャロルは両手に抱えていた木箱を、カウンターの上に乗せた。
「……何なんですか、それ?」
 どうやら彼の性分について熟知しているらしく、エルネは溜息一つ零すと、木箱に視線を移した。
「あら、この子は?」
 しかし、不意に足下に近付いて来た黒猫に気付き、眼を落とす。
「キャロルさんの猫さんですか?」
「俺のってわけじゃねえが、似たようなもんだ」
「へー、かなりの美人さんですね。触ってみてもいいですか?」
「俺に聞くな。そいつに聞け」
「この子に? ──えーと、少し撫でさせて貰っても良いですか?」
 半信半疑といった様子で、許可を申し出るエルネ。すると、差し出したその手に、長い尻尾が絡み付いた。
「うわ、賢い子ですね。それに素敵な触り心地です」
「そんで、爺ぃは? もう棺桶の中か?」
 幸せそうな笑みを浮かべながら黒猫を撫でるエルネに、紙箱を懐から取り出し煙草を一本咥えつつ、キャロルは問い掛ける。
「またそんな憎まれ口叩いて。お爺ちゃんなら工房に──」
 猫を愛でる手を止め、エルネが振り仰いだ直後──
 
 BAANG!

 銃声が響き、キャロルが加える煙草の先端が消し飛んだ。
「ここは禁煙だと何べん言やわかるんだ、クソ坊主」
 低く重い声が、地下へと下る階段から聞こえかと思えば、暗がりの中より銃身が出でて、それを持つ腕と、その主が姿を現した。
「クソ爺ぃ……! 人様の煙草消し飛ばして、ただで済むと思うなよ?」
「知った事か。人様の店で煙草吹かそうとするからだ。それに、こいつの試し撃ちにも丁度良かったもんでな」
 苛立つキャロルに鼻を鳴らして応えつつ、手元のリボルバーを眺める男。その顔には、年齢を感じさせる皴。少なく見積もっても、六十には達しているだろう。だが、その眼光は鋭く、老いを一切感じさせない精悍さを誇っている。
「それでクソ坊主、今度は何しに──」
「お爺ちゃん! 店の中で銃を撃つのは止めてって言ってるでしょ!」
「元はと言やあこいつが──」
「問答無用!」
「だが、この店は俺の──」
「壁、自分で直して下さいね」
 壁に刻まれた弾痕を指差すエルネに、男はたじろぎつつ頷いた。
「クソッ、近頃アレに似てきやがって。とっくにくたばったってのに、孫に憑いてんじゃあるめえな」
「何か言いました?」
「……何でもない」
 彼の名は、ジェフリー=ガーンズバック。孫娘にうだつの上がらない、熟練のガンスミスである。



「えらい骨董品を持って来たもんだな」
 ジェフリーは木箱の中身を見るや、呆れた声を上げた。無理もない。木箱に納められているのはクランク式のガトリング砲──一世紀前の遺物である。だが、彼の声に幾ばくかの関心があった事も否定できないだろう。
「良く言うぜ、あんたが俺に押し付けたコイツも、相当な年代物じゃねえか」
 キャロルの愛銃──シングルアクションリボルバーは、元はと言えばジェフリーが所有していたものだ。
「つうかよ、マジでコイツは西部開拓時代に作られた物なのか?」
「当たり前だ。てめえにゃあ、そのブルーフィニッシュが見えねえのか」
 キャロルがホルスターから取り出した銃を顎で指すジェフリー。確かに銃の表面には、現在の銃には見られないまだら模様が浮き出ていた。
「そいつはな、焼き入れした炭素鋼をオイルで冷やす、昔ながらの錆防止の証だ。今時のガンブルーじゃあ、その色合いは出せやせん。つまり、その銃は復刻版なんぞじゃねえって事だ」
「そうかい。まあ、弾が前に飛ぶならそれで構わねえさ。そんで? そっちの方はどれくらい掛かりそうだ?」
 拳銃をホルスターに仕舞って、キャロルはガトリング砲を指差した。
「物の価値のわからん奴め。──オーバーホールとなると、ちと時間が掛かる。交換が必要な部品がありゃあ、一から作らんとならんだろうしな。まあ、一月は覚悟しろ」
「そんなにか?」
「どうせ、次の当てがあるわけでもないんだろう」
「……ほっとけ」
「……お前さんら、まだ奴さんを探してんのか?」
「ほっとけっつってんだろ……!」
 キャロルは険を籠めた眼で、ジェフリーを睨み付けた。
「野良猫みたいに威嚇した所で、痒くもねえさ。ここに転がり込んで来た時も、そんな目をしてやがったからな」
 ともすれば殺気すら感じさせる視線を、ジェフリーは鼻を鳴らしてやり過ごす。
「まあ、エルネが拾って来なけりゃ、中に入れたりはしなかったがな」
「いつの話を──」
「また喧嘩ですか? いい加減にして下さいね」
 湯気立つカップを盆に乗せて、店の奥から姿を現したエルネが割って入った。
「あの、バリーさんは来ないんですか?」
「今日は来ねえよ。あいつは買い出しに行ってる」
 珈琲の入ったカップを受け取りながら、エルネの問いに答えるキャロル。
「そう、ですか……。──あら?」
 肩を落としたエルネは、キャロルのポンチョに修繕跡があるのを見て取った。綺麗な縫い目だが、藍色の生地とは不釣り合いな赤い糸。服飾屋の仕事ではない。とは言えエルネの記憶では、キャロルもバリーも、裁縫の腕はからきしだった筈だ。
「もしかして、良い人でもできたんですか!?」
 前のめりになって食い付くエルネから身を引いて、キャロルは溜息を零した。
「……勘弁してくれ」

リプレイ本文

「あ、いらっしゃいませ」
 金管の音に、エルネは扉の方へ視線を向ける。
 店内に足を踏み入れて来たのは、大胆に生地をカットした迷彩服姿をマントで覆う女性──フォークス(ka0570)だ。
「表の看板を見たんだけどさ、ここ、銃を扱ってる店だろ? なら、交換用のパーツを幾つか買いたいんだけどね」
「パーツをですか? 交換なら当店で請け負いますけど」
「いや、物さえ貰えれば、後はこっちで──」
「なら他所を当たるんだな、小娘」
 ジェフリーが不機嫌な声を発し、フォークスを遮る。
「うちは工房だ。ガンショップじゃねえ。わかったら、出て──」
「お爺ちゃんは黙ってて!」
 商売人としてあるまじき祖父の口の利き方を一喝して制すると、エルネは算盤を手に取った。
「それで、ご注文の品は何ですか?」
「四五口径のオートマチック用バレルと、七・六二ミリのアサルトライフル用のバレルを一つずつ。リコイルスプリングを……一ダースずつで良いか。あとは、ガンオイルを二缶だ」
「じゃあ、交換の手間賃を除いてっと──」
 算盤を弾き終えて顔を上げると、エルネは愛想の良い笑顔と共に告げる。
「しめて、五万に」「高いね、三万だ」
「……」「……」
 相好を崩さないエルネと、涼しい顔のフォークス。次の瞬間、火花散らす値段交渉が繰り広げられた
「四万七千」「三万二千」「四万五千」「三万四千」「四万三千」「三万七千」
「……やりますね。わかりました、四万です」
「OK、ならこいつの鑑定も含めて、四万だ」
 そう言って、フォークスが取り出したのは一挺の魔導拳銃だ。
「鑑定ですか? 検査じゃなくて」
「拾いもんでね。ちょっとばかり意見が聞きたいだけさ、専門家のね」
 フォークスがちらりと視線を向けると、ジェフリーは手を差し出した。
「……貸してみろ。──排莢孔がねえな。いや、ケースレス弾か。なら、確かに排莢機構は要らねえが」
「その銃は馬鹿みたいに軽いだろ? 反動はどうやって処理してるんだ?」
「見て見ろ、マズルブレーキだ」
「けどそいつは、魔導銃だろ?」
「マテリアルを発射ガスと見立てりゃ、できねえ事もねえだろう。ガスポートならぬ、マテリアルポートって所か──ま、こんなもんだな」
「ふぅん、ま、参考にさせて貰うさ。そんじゃ、パーツが入り用になったらまた来るよ」
 ジェフリーが寄越した魔導拳銃を受け取り、フォークスは店外へと出て行く。
「二度と来るんじゃ──」
「またのご来店をお待ちしてます」



「あ、ユーリさん! いらっしゃいませ」
 金管の音を響かせ、来店してきた年若い淑女──ユリシウス(ka5002)の姿を認め、エルネは歓迎の挨拶を向けた。
「ごきげんよう、エルネ。今日は──あら?」
 慣れた様子で早速用向きを告げようとした彼女は、来客用のソファに横たわっている、一匹の黒猫を見て首を傾げた。
「ルーナ、ですか?」
「──クソッ、持って来たぞ爺ぃ!」
「……キャロル様まで?」
 銃の部品を雑多に詰めた木箱を抱え、地下より上がって来たキャロルを見て、更に首が傾ぐ。
「あんた……ユリシウス、だったか?」
「二人とも、お知り合いだったんですか? 世間は狭いですねえ」
 キャロルも彼女に気付き、訝しむ表情を浮かべると、エルネが二人の様子を見て、溜息を漏らした。
「キャロル様は何をなさってるんですか?」
「ツケの利子分働いて貰ってるんですよ。──それは廃品なんで、裏に運んで下さい」
 エルネの命を受け、ぶつくさと零しながら店の裏手へと向かうキャロル。それを見送るユリシウスへ、ジェフリーが声を掛ける。
「それで、今日は何しに来た?」
「そうでした。バックアップ用のリボルバーの調整を頼みたいのですが」
 そう言ってユリシウスが差し出したのは、大振りのリボルバー。
「こいつはまた、えらい銃を選んだもんだな」
 とある銃器メイカーで、二匹目の蛇と謳われた銃である。ダブルアクション機構を持ち、使用する弾丸は.三五七口径のマグナム。フルレングスのアンダーラグで跳ね上がりを抑制しているとは言え、女性の細腕には余る銃なのだが。
「接近された際に使う最後の手段となれば、必殺に足る威力が必要ですので」
「そりゃ申し分はねえだろうさ。まあ良い、調整はしといてやる」
「ええ、よろしくお願いします」
 優雅に一礼したユリシウスは、ソファに寝そべる黒猫の傍へと近付いた。
「……ルーナ、ラウラの事をよろしくね。あの子も年相応に甘えたがりの所があるから、貴女が支えてあげて頂戴」
 そっと耳打ちするように囁くと、黒猫は瞳を閉じたまま尻尾を立たせ、ゆらりと揺らす。
「ふふ、ありがとう。──それじゃあ、エルネ。二、三日したらまた寄りますわ」



「よお、エルネちゃんに、爺さん。元気にしてたか?」
 店内に足を踏み入れ、開口一番陽気な挨拶を放ったのは、エリミネーター(ka5158)だ。
「エリーさんじゃないですか。それにマックスも、逢いたかったですよ~♪」
 主に伴って店に入ったシェパードの首に腕を回すエルネ。元来人懐こいマックスも、尻尾を振って喜びを露にする。
「おうおうマックス、俺相手にした時よりも嬉しそうじゃねえか。ま、エルネちゃんは可愛いから仕方ないわな。そうだな、あと十年もすれば──」
「おう、ヘビースモーカー。今だけ、煙草吸っても構わねえぞ。もういっぺんこいつを試したかった所だ」
「HAHA、ほんの冗句だろう? そんなに青筋浮かべてると、棺桶行の切符が急行に切り変わっちまうぜ?」
 リボルバーの銃口を向けられ、両手をあげておどけるエリミネーター。
「余計な世話だ。──それで、今日もいつものやつか?」
「ああ、頼まれてくれるかい?」
 ジェフリーの問いに頷き返すと、彼は自動拳銃とアサルトカービンをカウンターに置いた。
 自動拳銃は、アメリカの象徴ともいえる大口径の銃がベースだろう。木製の銃把にラバータイプのフィンガーチャンネルを取り付けて握り心地を良くし、撃鉄と銃爪はMEU──海兵遠征部隊仕様にカスタムされている。
 アサルトカービンには、特殊作戦部隊で運用する為に開発された、SOPMOD仕様のアクセサリが取り付けてある。ピカティニーレール上部にレーザーサイトを、下部には折り畳み式のフォアグリップ、そしてレシーバーレールにはリアサイトが装備されていた。
「拳銃の方は、バレルとスプリングの交換。カービンの方は微調整で──どうしたんだ、マックス」
 エリミネーターがいつも通りの注文をつけていると、彼の飼い犬が哀し気な鳴声を上げる。相棒に目を向けると、マックスは一匹の黒猫と対峙していた。がっくりと項垂れたマックスの前で、澄まし顔を浮かべている猫には見覚えがあった。
「ルーナちゃんか?」
「エリーさんもこの子を知っているんですか?」
 エルネがキョトンとした表情を浮かべると、地下に下る階段から重々しい足音を響かせ、汗だくのキャロルが姿を現した。
「クソッ垂れが……、エルネ、水だ。水を寄越せ」
「キャロルちゃんまで居たのか?」
「エリーのオッサンか? いや、んなこたぁどうでも良い。今は水だ」
「しょうがないですね、じゃあ休憩しても良いですよ。でも、まだまだ働いて貰いますからね?」
 キャロルとエルネのやり取りを見て、エリミネーターは肩を竦める。
「何がどうなってるんだ?」



「なんだこの銃は?」
 怪訝な顔をしながら、一挺のリボルバーを眺めるジェフリー。
「見た事ねえのか、おっちゃん。ま、無理もねえよ。あんたがこっちに来た後で作られた銃だかんな」
 彼の疑問にそう答えたのは、そのリボルバーの持ち主──lol U mad ?(ka3514)である。
「バレルが銃身の下部にあるのか? ──一応スイングアウトらしいが、シリンダーが横じゃなく上に出やがる。けったいな銃だな」
「おいおい、客の愛銃に随分な口を叩くじゃねえかよ? 軍人の時から使ってんだぜ。もうすっかり手に馴染んじまって、ちょいと御機嫌斜めになっただけでもわかっちまう程さ」
「お前の好みなんぞ知った事か。──跳ね上がりを抑える目的でバレルの位置を下げてあるのか」
 撃発の際、銃口が跳ね上がるのは、支点──つまり銃把を握る拳が銃口より下に位置する為に起こる現象である。
「だが、そうなるとこのグリップは頂けねえな」
 銃身を握り、銃把をlolへと向けるジェフリー。
「この突き出してある部分が邪魔だ。こいつさえなければ、もうちっと高い位置で握れるんだが。どうだ、削ってみるか?」
「そうすっと癖が変わっちまうだろ? まあ、考えとくよ。それより、交換の部品は調達できそうか? なんせ、滅多に出回ってないもんでよ」
「ツテは当たっておいてやる。何なら馴染の工場に掛け合って、特注してやっても良い」
「あ~、でもそうなっと──」
 Lolがチラリとエルネの方を見遣ると、彼女は笑顔で算盤を弾いてみせる。
「もちろん、割増料金になります♪」
「うっわぁ~、笑顔が眩しいぜ……」
 いつものへらりとした笑みを、若干引き攣らせるlol。と、その時──
「あら? いらっしゃいませ」
 響いた金管の音が響き、新たな客が店内に入って来た。
「初めまして、ですね? 今日はどんなご用件ですか?」
 ヘッドホンを首元に提げ、愛想のない表情を浮かべた少年──アルト・ミケランジェリ(ka6162)へと近付き、エルネはやや俯きがちな彼の顔を覗き込む。
 アルトは、手に一挺の魔導拳銃を携え、ぶっきらぼうにエルネに差し出す。
「やめといた方が良いぜ、坊主。ぱっと見、可愛い可愛い赤ずきんだと思って手を出したら、尻の毛まで毟られ──」
 品のない冗句を飛ばそうとしたlolは、突如顎に突き付けられた銃口によって、黙らされた。
「失礼なのはこの口ですか?」
 カーディガンの袖口から飛び出したデリンジャーをlolに突き付けながら、微笑みを浮かべるエルネ。
「OH、暴力は良くねえな。ていうかいつの間にこんなの仕込んだんだよ」
「ちょっと前に自分で作りました。大丈夫ですよ、弾頭は軟性のゴムで被覆して、火薬の量も減らしてありますから。ちょーっとだけ痛いかもですけど、女の子の前で品のない事を口走る人には良い薬ですよね?」
「わかった、オレちゃんが悪かったから、コレ下ろしてくんね?」
「まったく、次からは気を付けてくださいね」
 デリンジャーが、袖内に戻る。
「……どうすんだよ、おっちゃん。こんなにおっかねえと嫁の貰い手が居なくなっちまうぜ?」
「……やべえな、娘からどやされる」
 ジェフリーが呻く。エルネの母親、つまり自分の娘から、孫娘に銃を教えるなと言い含められているのだ。
「なんとでも言えば良いです。ロルさんに貰ってもらおうだなんて思ってませんから。それにこれは、最低限の自衛で──」
 ふと視線を感じたエルネが振り返ると、心なし目を輝かせたアルトの顔が視界一杯に飛び込んだ。
「ど、どうしたんですか?」
「今の何だ? どうやったんだ?」
「ええと、スリーブガンですけど」
 やや身を引きながら、エルネは袖を捲って見せた。露出した前腕に、
ばね仕掛けのギミックが取り付けてある。
「あ、悪い……。その、初めて見たから」
 エルネが若干引いている事に気が付いたアルトは、顔を俯かせながら身を離す。その様子に母性でもくすぐられたのか、エルネは一転して、優し気な微笑みを浮かべる。
「いえ、大丈夫ですよ。お好きなんですね、銃が。今、外して見せてあげますから」
「ほ、本当か?」
 エルネの言葉に、微かに喜色を浮かべるアルト。しかし──
「おい、小僧。てめえはここに何しに来たんだ? 女に飢えてんなら、他所に行きやがれ」
 爺が口を挟む。その手に銃把が握られていないのは、孫娘の怒りを買わない為だろうか。
「お、俺は別にそんなんじゃ!」
「なら早く銃を見せろ」
「……わかってる。今、出そうとしたんだ」
 来店した時よりも更に仏頂面を浮かべながら、アルトはオートマチックの魔導拳銃をカウンターの上に置いた。
「──整備は、それなりにやってるようだな」
 持ち主が左利きだからだろう、機関部の右側にもセーフティーレバーが増設してある。
「……普通の銃と同じようにやってるだけだ」
「それで構わん。ただ、ガンオイルはこっちの世界のモンを使った方が良い。その方が、マテリアルとの相性が良いようだからな」
「……わかった。いや、わかりました。……ありがとうございます」
 無愛想な態度を変えて一礼するアルトに、ジェフリーは鼻を鳴らす。
「わからん事があったら、聞きに来い。……だが、エルネに手を出すんじゃねえぞ」

「んん? よお、JDじゃねえの」
「あァ? ロルじゃねえか、それにそこのソファに寝転がってんのァ、キャロルかィ?」
 店内に入るや否や、見慣れた顔を見咎めたJ・D(ka3351)は、訝しむような声を上げる。
「いらっしゃいませ、この間リボルバーを預けられたお客さんですね?」
「ああ、そうだ。んで、シリンダーのガタは直ったのか? 爺さん」
 エルネの問いに頷くと、JDはジェフリーにサングラス越しの視線を向ける。
「勿論だ、ウィリアム=テルの真似事もできらあな」
「何の事でィ? まあ良い。直ったってんなら、是非もねえよ」
 銃把を向けて差し出された、五・五インチモデルのシングルアクションリボルバー。JDがそれを受け取ると、不意にジェフリーが問いを投げた。
「一つ聞きたいんだが、その銃は何処で手に入れた?」
「……妙な事を聞くんだな?」
「答えなくないってんなら、別に良いがな」
 ジェフリーがそう言うと、しばし沈黙した後に、JDが口を開いた。
「……昔、年老いたハンターから譲り受けたもんさ」
「そのハンターは、お前さんにその銃を渡す時、何か言ってたか」
「……銃ってのは誰でも扱えるもんだ、と。子供でも老いぼれでも、敵と対等に渡り合える武器だと言ってやがった」
 JDは、手元にある銃と、腰に巻いたガンベルトを手渡した老人の言葉を反芻する。
 老人の言葉は正しかった。確かにこの銃は、まだ経験の浅かった頃の自分を一人前の男にしてくれた。腰に提げた重みが、どれだけ頼もしかった事か。
 ただあの頃の自分は知らなかった。弾丸は目の前の敵にしか届かない事を。傍に居なければ、守りたいモノを守る事はできないという事すらも。
 目の前に映るモノを守る──その為に、名を捨てた今も、この銃だけは捨てずに居るのだ。
「……そうか」
「どうして、んな事を聞いたんでィ」
「……そいつは良い銃だ」
 JDの問いには答えず、大事に扱いやがれ、とだけ言い残し、キャロルの方へと歩いて行くジェフリー。
 キャロルを蹴り起こす彼の背から、手元のリボルバーへJDは視線を移す。
「……おめェさんにも色々あったんだな」
 ただ鈍い光を照り返す銃を、ホルスターに仕舞った。

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重体一覧

参加者一覧

  • SUPERBIA
    フォークス(ka0570
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • 交渉人
    J・D(ka3351
    エルフ|26才|男性|猟撃士
  • Two Hand
    lol U mad ?(ka3514
    人間(蒼)|19才|男性|猟撃士
  • 淑やかなる令嬢
    ユリシウス(ka5002
    人間(紅)|18才|女性|猟撃士
  • クールガイ
    エリミネーター(ka5158
    人間(蒼)|35才|男性|猟撃士

  • アルト・ミケランジェリ(ka6162
    人間(蒼)|17才|男性|機導師

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 【相談卓】BREAK OPEN
フォークス(ka0570
人間(リアルブルー)|25才|女性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2016/07/02 08:39:00
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/06/30 07:15:41