ゲスト
(ka0000)
物は譲れど人は譲らず
マスター:植田誠

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/07/07 15:00
- 完成日
- 2016/07/19 23:53
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「ふん、これ以上話すことは無いぞクロウ」
「おい! ちょっと待てよ!」
苛立たし気に立ち上がった男を引き留めようとクロウが声を大にする。
目の前にいる男はホルスト・プレスブルク。簡単に言うと旧貴族だ。
趣味が金儲けと言われるほどの男であり、手広く商売を行い多額の資産を蓄えてきた。だが、別に領民に無理を強いて搾取したわけではなく、仕事には適正と言える報酬も払うなど管理はしっかり行っていた。その為領民との関係は雇主と労働者の関係に近く、良くは無いが悪くも無かった。加えて革命の際にはいち早く皇帝を支持していたため、結果としてその資産は保障された。
では、何故クロウがホルストのところに来たのか。
それは先日錬金術師組合から逃走しようとしたスパイたちが使用した魔導アーマー。それの製造元を残骸から割り出した結果、ホルストが経営している工場が浮かび上がったからだ。
そういうわけでクロウはハンターを伴ってやってきたわけだが……
「資料は見せただろう。先の魔導アーマーに関してもうちで作ったものであるのは間違いなさそうだが、帝都に送る途中で盗難にあって、目下捜索中だった。届けも出してある」
「う……それは、まぁ確かにそうだけどよ……」
「そして、それ以外に関しては特に目立った問題も無い。そうだな?」
書類関係でおかしいところは無い。少なくとも、クロウが見る限りでは。
あるいはその筋に長けた人間なら何か見つけられるのかもしれないが、精々が脱税とかそんなものだろう。
(歪虚との関わりを示すものは何も無い、か……)
諦めたように溜息をついたクロウは、その場を後にしようとする。
「それでいい。時は金なりと言ってな、時間は大切にすべき……!?」
ホルストの言葉は突如響いた轟音で遮られた。
二人は窓から音の鳴った方……工場へと目を向け、すぐに飛び出してきた。
見ると工場の屋根部分に、最早おなじみとなった歪虚、剣機リンドヴルムの姿があったからだ。
「貴様ら! ハンターだな!」
ホルストは外で待っていたハンターたちを見て言った。
「金は払う! すぐに行って工員を助けてくれ! 物は気にしなくていい、誰一人死なせるな!」
ホルストに言われるまでも無く、ハンターたちはそれぞれ行動を開始した。
クロウは経営者たるホルストが狙われているという可能性を考慮してその場に残ることにした。
「金、金言ってる割には、人命第一なんだな。見直したぜ」
「当たり前だ! 技術者の養成には高い金がかかっているんだぞ!?」
「……なるほど」
呆れ半分、感心半分といった表情を浮かべながら、クロウも覚醒した。
●
「高い金がかかってるんだ、あまり壊すんじゃないぞ」
工場の上に降り立った剣機リンドヴルム。その更に上に立つのは歪虚、フリッツ・バウアーだった。
かつてハンターたちの活躍により受けた傷は癒えたようで、少なくとも外見上は以前と変わりない様子に見える。
その下部……リンドヴルムから降りて行ったゾンビたちは工員には目もくれず兵器……あるいはそう見えるものを片っ端から手に取りコンテナに運んでいく。
「まったく……くだらん上に面倒なことだ。だが、これも命令か……くれぐれも、物を優先しろ」
再度、フリッツは厳命する。その目の端には、向かってきているハンターたちの姿が映っていた。
「ふん、これ以上話すことは無いぞクロウ」
「おい! ちょっと待てよ!」
苛立たし気に立ち上がった男を引き留めようとクロウが声を大にする。
目の前にいる男はホルスト・プレスブルク。簡単に言うと旧貴族だ。
趣味が金儲けと言われるほどの男であり、手広く商売を行い多額の資産を蓄えてきた。だが、別に領民に無理を強いて搾取したわけではなく、仕事には適正と言える報酬も払うなど管理はしっかり行っていた。その為領民との関係は雇主と労働者の関係に近く、良くは無いが悪くも無かった。加えて革命の際にはいち早く皇帝を支持していたため、結果としてその資産は保障された。
では、何故クロウがホルストのところに来たのか。
それは先日錬金術師組合から逃走しようとしたスパイたちが使用した魔導アーマー。それの製造元を残骸から割り出した結果、ホルストが経営している工場が浮かび上がったからだ。
そういうわけでクロウはハンターを伴ってやってきたわけだが……
「資料は見せただろう。先の魔導アーマーに関してもうちで作ったものであるのは間違いなさそうだが、帝都に送る途中で盗難にあって、目下捜索中だった。届けも出してある」
「う……それは、まぁ確かにそうだけどよ……」
「そして、それ以外に関しては特に目立った問題も無い。そうだな?」
書類関係でおかしいところは無い。少なくとも、クロウが見る限りでは。
あるいはその筋に長けた人間なら何か見つけられるのかもしれないが、精々が脱税とかそんなものだろう。
(歪虚との関わりを示すものは何も無い、か……)
諦めたように溜息をついたクロウは、その場を後にしようとする。
「それでいい。時は金なりと言ってな、時間は大切にすべき……!?」
ホルストの言葉は突如響いた轟音で遮られた。
二人は窓から音の鳴った方……工場へと目を向け、すぐに飛び出してきた。
見ると工場の屋根部分に、最早おなじみとなった歪虚、剣機リンドヴルムの姿があったからだ。
「貴様ら! ハンターだな!」
ホルストは外で待っていたハンターたちを見て言った。
「金は払う! すぐに行って工員を助けてくれ! 物は気にしなくていい、誰一人死なせるな!」
ホルストに言われるまでも無く、ハンターたちはそれぞれ行動を開始した。
クロウは経営者たるホルストが狙われているという可能性を考慮してその場に残ることにした。
「金、金言ってる割には、人命第一なんだな。見直したぜ」
「当たり前だ! 技術者の養成には高い金がかかっているんだぞ!?」
「……なるほど」
呆れ半分、感心半分といった表情を浮かべながら、クロウも覚醒した。
●
「高い金がかかってるんだ、あまり壊すんじゃないぞ」
工場の上に降り立った剣機リンドヴルム。その更に上に立つのは歪虚、フリッツ・バウアーだった。
かつてハンターたちの活躍により受けた傷は癒えたようで、少なくとも外見上は以前と変わりない様子に見える。
その下部……リンドヴルムから降りて行ったゾンビたちは工員には目もくれず兵器……あるいはそう見えるものを片っ端から手に取りコンテナに運んでいく。
「まったく……くだらん上に面倒なことだ。だが、これも命令か……くれぐれも、物を優先しろ」
再度、フリッツは厳命する。その目の端には、向かってきているハンターたちの姿が映っていた。
リプレイ本文
●
「了解。ボーナス期待してるっすよ!」
ホルストが言い終わるのを聞かないまま、無限 馨(ka0544)が飛び出していく。瞬脚とランアウトを利用した移動速度は他の追随を許さない。すぐさま工場にたどり着く。
「全員! 無事に助け出すよ!」
馨に続いたのはジェットブーツを使用した時音 ざくろ(ka1250)。馨には及ばないがこちらも速い。
「まったく……工場見学気分でいたのに、まーたこうなるのね……」
「愚痴は後にしようぜ。今は……」
「ええ。技術者は貴重なんだから死なせやしないわ!」
やれやれと言った表情で頭を掻くロベリア・李(ka4206)もヴァイス(ka0364)に続いていく。
「……捉え方の差はあれど、職人の腕は僕も大事にしたい」
「その通りじゃ。工員の保護を第一に……そちらは頼むのじゃ」
金目(ka6190)の後に続くミグ・ロマイヤー(ka0665)はエアルドフリスに向けて言った。
「あぁ。取ったらすぐに行く」
そう言ってエアルドフリス(ka1856)は事務所に入る。工員名簿と出勤表、脱出者の見落としが無いか確認するためには必要になってくる。
(他にも何かあれば……いや、今は救助優先、と)
元々の仕事はホルストの調査であり、事務所にそれとわかるものがあれば好都合だったのだが、さすがにそれを探す程の時間はなかった。
「さて……スパイの尻尾探しが剣機退治かよ。しかも……お前かよ」
その時、レオーネ・インヴェトーレ(ka1441)は工場の外で輸送のために取りついていたと思われる剣機、そしてそれに乗った歪虚フリッツ・バウアーを見つめ魔導銃を構えていた。
●
工場内は機械の駆動音がうるさく鳴り響き、直前まで作業が続けられていたことを物語る。
「物より自分の命優先で、早く逃げるっすよ!!」
先行していた馨が声を張り上げる。搬出用の大扉はすでに大きく開かれていたものの、逃げ出してくる工員は疎らだ。工場内は多数のゾンビとそれに怯える工員たちで混沌としていた。
「……血の匂いはしないね。機械油とかでごまかされているだけかもしれないけど」
「やっぱゾンビは刺激しないようにする方向の方がよさそうっすね」
ざくろの言う通りだった。ざっと見た感じ怪我人は……少なくとも死につながるような怪我を負った人間はいない。ただ、羽剣機が屋上を突き破っている以上、その余波を被った工員もいるはずだ。
「ざくろは奥に! 手分けしていこう!」
「了解っす!」
機動力の高いざくろは、馨と手分けして奥へと駈け出していく。
大扉付近にはミグが入れ替わるように立つ。
『こちらエアルド。名簿及び出勤表は確保した。俺もすぐに合流する』
「班長などの名前は? 読み上げてほしいのじゃ!」
エアルドフリスからの連絡を受けてミグはそう伝える。
(工場ともなれば工員は親方を元に厳格な縦社会に組み込まれているのは容易に想像が出来るのじゃ。これを利用しない手は無い)
ホルストは経営上手と言っても一貴族であるから、それが所有している工場が通例通りにきっちりしているとは限らない。が、縦の動きが全くないはずもない。そんなミグの予想は当たり、班長の名前がエアルドフリスから読み上げられた。
「感謝するのじゃ! さて……」
ただ、工員の動きを見ている限り混乱はみられる。火災などの事故は想定していても、歪虚の襲撃は想定外だったのかもしれない。
「各員は避難の後所属班長の元に集合! 点呼の後揃っていない人員を報告するのじゃ!!」
ミグも声を張り上げ少しでも避難をサポートする。
「やはりこいつらの狙いはここの兵器か……ん?」
ヴァイスも工場に入り避難誘導を行う。そんな中、動こうとしない工員を見つける。工員は震えながらも機械を持ちだしていくゾンビを見つめていた。
「諦めろ!」
「で、ですが……みすみす歪虚に利用させるなんて」
ヴァイスの想像通り、工員は兵器が持ちだされていくことに戸惑いを覚えていた。これが憤りに転じ、ゾンビを攻撃しようとするとまずい。
「今は生き残ることが最優先だ。それに、みすみす連中の好きにはさせない。信じてくれ」
ヴァイスに説得され、工員は駆けだした。
単なる口から出まかせであれば、あるいは動かなかったかもしれない。
そう、ヴァイスは知っていた。仲間たちが、事実連中の好きにはさせないだろうことを。
「道具や機械には構わんでくれ。あんた方の命が最優先だ」
遅れて工場に入ったエアルドフリスは出口を示しながら脱出を促す。
「だ、だがあっちに怪我人が……」
「俺が行く。あんたは脱出してくれ」
そう言って怪我人がいる方へと走り出すエアルドフリス。その途上、ロベリアの姿があった。
「そっちはどう?」
「今から怪我人の救助へ向かうところだ。そっちは……」
「ちょっとね……このままやられっぱなしだと癪でしょ?」
そう言ってロベリアが指差したのは、大きな空箱。そして、その先には火薬が置いてある。
ようは、爆発物をわざと敵に渡して然るのちに爆破。兵器諸共吹っ飛ばそうという事だ。これをゾンビが運びやすい位置に置くことで工員に目が向かないようにして安全を確保する、一石二鳥の手と言えよう。
「……ふむ、敵に渡るくらいなら、か……悪くない」
その意図を察したエアルドフリス。だが、薬師としては怪我人を放ってもおけない。
「過激だなぁ」
不意に聞こえた声。それは避難効率を上げるために別の入り口を開けて入ってきた金目だった。
「まぁ僕も敵の手に渡すくらいなら、とは思ったけれど」
だが、ロベリアの動きを見てその意図をくみ取って協力してくれるつもりのようだ。
「助かるわ。工員にも手伝ってもらおうかと思ってたけど、危ない橋を渡らせるわけにもいかないからね。どうしようかと思ってたの」
「分かった、そちらは任せる……頼んだぞ」
その様子を見たエアルドフリスは、怪我人の下へ再度走り出す。
「さて、始めましょうか」
「ええ……フリッツの目につかないといいんですが……」
「それは、外のレオーネに期待するしかないわね」
そのころ、工場の外ではフリッツとレオーネの睨み合いが続いていた。と言っても、フリッツの方は興味なさげであったが。
(動けばすぐ撃つ……当たるかは別としてだけど……)
下手な攻撃でフリッツの怒りを買えば、自分が攻撃される……ことよりも恐ろしいのは逃げ出してきた工員が攻撃されることだ。今は攻撃する気はなさそうだが、いつそう言う気になるかは分からない。
だが、このまま何もしないわけにもいかないという気持ちがレオーネにはあった。
「よぉ……っても、憶えちゃないだろうけどな!」
だから、レオーネは声を上げた。少しでも敵の真意を探るために。
何しろ、フリッツがただ一つの目的を達するためだけにわざわざ出てきたとは考えにくいのだから。
●
「何企んでるのかしらねーが、タイミングよすぎじゃねえか? 狙ったように見えるぜ!」
「……そうだな。狙っていなければわざわざこんなところ襲撃しないだろう」
レオーネに対し、興味なさげに返答するフリッツ。
「そう言う意味じゃねぇ! アンタがただの強奪任務で前線ってのが既に怪しいんだぜ!」
「ふん、俺が前線に出てくることは別段稀なことではないのでな」
レオーネに律儀に返答してくるフリッツ。勿論大事なことを言うはずもないのだが、有無を言わさず攻撃してこないあたり、やはり戦闘を目的としてはいないようだ。尤も、ここにヒンメルリッターの団員でもいたら、あるいはヒンメルリッターとレオーネの関わりが案外深いことを知っていれば……ただ、その場合どちらにせよ悪い方に転ぶのは目に見えていた。
(やっぱり、戦闘が目的じゃない。ゾンビたちもそうなんだろうな)
連結通話を使うことで、このフリッツとの会話を仲間にも伝えるレオーネ。それが少しでも仲間の助けになると信じて。
「班長は点呼して揃っていない人員を報告するのじゃ」
ミグは工員を護衛しつつ班長にそう促す。
「こちらは全員そろっています!」
「うむ。ではこのまま工場から離れるのじゃ」
ミグは言いつつ再度工場に入り込む。まだ全員には足りていない。
「はい、連れてきたっすよ!」
だが、それらが揃うのも時間の問題だ。また一人馨が足を活かして連れ出してきた。
「大丈夫! もう出口だよ! あわてないで!」
ざくろも一人を抱えながらジェットブーツで工場から飛び出してくる。その後ろには数人の工員が着いてくる。
「数の確認お願い!」
「心得たのじゃ!」
すぐさま点呼を呼びかけるミグ。
その様子を見ながらエアルドフリスが出てくる。
「今ヴァイスがゾンビを監視しながら最後の見回りをしている……あれが、サヤ痛い目を見せたフリッツ・バウアーか」
「そうっす……このところ姿をみなかったからてっきり討伐されてたと思ったのに……」
呟く馨。その姿をフリッツは見た。
「……貴様は確かあの時の戦いにいたな……腕の借りはいずれ返してやらなければならないと思っていた」
そう言って、斬り落とされたはずの腕を上げる。
「斬ったのは俺じゃないっすけど……絶対面白ギミック搭載してるっすよね、あれ」
ゾクリと背筋に寒気を感じた馨。だが……その威圧感もすぐに消えた。
「まぁいい。今日はこれまでだ」
不意に、剣機が羽ばたいた。積み込みが終わったのだろうか。足回りにはゾンビもしがみついている。
『こっちは準備OKよ!』
短電話からロベリアの声が聞こえる。
だが、仕掛けるには工員の安全確認を行ってからでなくてはいけない。爆発の余波に巻き込まれないようにするためだ。
「……よし、これで全員じゃ!」
それも、ミグの挙げた声で確認が取れた。
「了解。ただでは渡さない……デルタドライブインストール!!」
「均衡の裡に理よ路を変えよ。我が血に流るる命の炎、矢となりて我が敵を貫け」
ざくろがデルタレイ、エアルドフリスも蒼炎箭を剣機に向かって放つ。工場の方からも光があがる。ロベリアと金目のデルタレイだろう。
それらは剣機の持つコンテナの一つに命中する。
「ふん、今更遅っ……!」
遅い、と言おうとしたフリッツの体が大きくゆすられる。コンテナの一つが爆発したのだ。ハンターたちの作戦通りだ。
想像よりは大きな爆発にならなかったのはコンテナの耐久性と、時間の都合でそこまで大量の爆発物を詰め込めなかったからだ。だが、それでも効果はあった。コンテナの一つは底が抜け、そこからボロボロと資材が落ちていく。しがみついていたゾンビも半数ほどは爆発で落とされていく。他のコンテナにも多少傷はついただろう。
それでも剣機は降りては来ず、そのまま飛び去っていく。落ちた兵器を拾うほどの重要さはないということだろうか。
「ハハハ! ざまぁ見ろフリッツ!!」
なんにせよ、してやられたいう表情で飛び去って行ったフリッツに、レオーネは言った。もう声が届かない距離までは飛んで行ってしまったが。
『こちらヴァイス。落下したゾンビを確認した。これより戦闘に入る』
工場に残っていたヴァイスから連絡が入る。まだゾンビが残されているのを思い出したハンターたちは、各々工員の防衛とゾンビの掃討に入った。
●
周辺に敵影なし。被害者も無し。
「うむ。文句なしの成果じゃな」
無事を喜び合う工員を見て息を吐くミグ。だが、まだハンターたちには仕事が残されている。
ヴァイスは爆発によるパーツの残骸がなんらかの被害を出していないか周辺の調査へ向かっていた。
「フリッツが唯襲撃してきたってことは無い……と、思うけど実際はどうなんだろう」
レオーネは考えていた。ヒントは工員に手を出さないことを徹底していた点ぐらいか。
「で、持ちだされたものはなんなんすか?」
剣機が去った後は元の任務が待っていた。馨は持ちだされていったものに関しての調査を行う。これがどうでもいいものなら、この襲撃が無実をアピールするための偽装の可能性がある。
持ちだされたのは主に魔導機械の部品が多かったようだ。ただ、あくまでパーツであり、完成品がどういうものかは知られていない。
「工員には様子のおかしい人はいませんでしたか?」
「……少なくとも、視界に入った中にはいなかったよ。ただ、ざくろもコンテナを狙うのを優先してたから絶対とは言えないけど」
「そうですか……僕が直接見ていられれば良かったんですけど、工場の中にいましたから……」
金目の問いにざくろが答える。
そこに、臨時の依頼主であるホルストがクロウとともにやってきた。
「工員の被害は無しか。礼を言う。報酬はきちんと払わせてもらう」
「そうですか。では報酬ついでに一つ。魔導アーマーについてなんですが」
ホルストに対し、エアルドフリスが疑問をぶつける。発注主は誰なのか、運搬体制はどうだったのか。だが、これに対しホルストは「依頼人に関しては守秘義務があるため何も言えん」と言って、そのまま苛立たし気に去って行った。
「……名簿は素直に渡したのに、これは拒否か……」
「火の無いところに煙は立たずと……このことも合わせて工員にも確認してみましょうか」
肩を竦めるエアルドフリスに、金目が言った。
この後、手分けして工員への聞き込みを行ったが、特に怪しい人物は浮かび上がってこなかった。また、出荷先等の情報に関して詳しい者に確認を取ったが、大口の仕事はホルストが直接取引している為分からないとのことだった。
「謎の取引、謎の魔導機械、そして人を襲わない歪虚らしからぬ襲撃と……」
「決定的な証拠は見つからないわね……状況的にはやっぱり黒いと思うけど……」
ヴァイスやロベリアが言う通り、ホルストが怪しいのには間違いないが、断言できるほどの情報は無い。
「魔導アーマー盗難時の調査は行った方が良いと思うよ」
クロウにエアルドフリスはそう勧めたところで、今回の依頼はお終いとなる。
敵から無事工員を守りきり、しかも肝心の持ち去ろうとした品にも打撃を与えた。調査に関しても、少なくとも今のところ工員に怪しいものはおらず、逆にホルストは怪しさの度合いを増した。これだけでも、大成功に値する十分な成果と言えるだろう。
「了解。ボーナス期待してるっすよ!」
ホルストが言い終わるのを聞かないまま、無限 馨(ka0544)が飛び出していく。瞬脚とランアウトを利用した移動速度は他の追随を許さない。すぐさま工場にたどり着く。
「全員! 無事に助け出すよ!」
馨に続いたのはジェットブーツを使用した時音 ざくろ(ka1250)。馨には及ばないがこちらも速い。
「まったく……工場見学気分でいたのに、まーたこうなるのね……」
「愚痴は後にしようぜ。今は……」
「ええ。技術者は貴重なんだから死なせやしないわ!」
やれやれと言った表情で頭を掻くロベリア・李(ka4206)もヴァイス(ka0364)に続いていく。
「……捉え方の差はあれど、職人の腕は僕も大事にしたい」
「その通りじゃ。工員の保護を第一に……そちらは頼むのじゃ」
金目(ka6190)の後に続くミグ・ロマイヤー(ka0665)はエアルドフリスに向けて言った。
「あぁ。取ったらすぐに行く」
そう言ってエアルドフリス(ka1856)は事務所に入る。工員名簿と出勤表、脱出者の見落としが無いか確認するためには必要になってくる。
(他にも何かあれば……いや、今は救助優先、と)
元々の仕事はホルストの調査であり、事務所にそれとわかるものがあれば好都合だったのだが、さすがにそれを探す程の時間はなかった。
「さて……スパイの尻尾探しが剣機退治かよ。しかも……お前かよ」
その時、レオーネ・インヴェトーレ(ka1441)は工場の外で輸送のために取りついていたと思われる剣機、そしてそれに乗った歪虚フリッツ・バウアーを見つめ魔導銃を構えていた。
●
工場内は機械の駆動音がうるさく鳴り響き、直前まで作業が続けられていたことを物語る。
「物より自分の命優先で、早く逃げるっすよ!!」
先行していた馨が声を張り上げる。搬出用の大扉はすでに大きく開かれていたものの、逃げ出してくる工員は疎らだ。工場内は多数のゾンビとそれに怯える工員たちで混沌としていた。
「……血の匂いはしないね。機械油とかでごまかされているだけかもしれないけど」
「やっぱゾンビは刺激しないようにする方向の方がよさそうっすね」
ざくろの言う通りだった。ざっと見た感じ怪我人は……少なくとも死につながるような怪我を負った人間はいない。ただ、羽剣機が屋上を突き破っている以上、その余波を被った工員もいるはずだ。
「ざくろは奥に! 手分けしていこう!」
「了解っす!」
機動力の高いざくろは、馨と手分けして奥へと駈け出していく。
大扉付近にはミグが入れ替わるように立つ。
『こちらエアルド。名簿及び出勤表は確保した。俺もすぐに合流する』
「班長などの名前は? 読み上げてほしいのじゃ!」
エアルドフリスからの連絡を受けてミグはそう伝える。
(工場ともなれば工員は親方を元に厳格な縦社会に組み込まれているのは容易に想像が出来るのじゃ。これを利用しない手は無い)
ホルストは経営上手と言っても一貴族であるから、それが所有している工場が通例通りにきっちりしているとは限らない。が、縦の動きが全くないはずもない。そんなミグの予想は当たり、班長の名前がエアルドフリスから読み上げられた。
「感謝するのじゃ! さて……」
ただ、工員の動きを見ている限り混乱はみられる。火災などの事故は想定していても、歪虚の襲撃は想定外だったのかもしれない。
「各員は避難の後所属班長の元に集合! 点呼の後揃っていない人員を報告するのじゃ!!」
ミグも声を張り上げ少しでも避難をサポートする。
「やはりこいつらの狙いはここの兵器か……ん?」
ヴァイスも工場に入り避難誘導を行う。そんな中、動こうとしない工員を見つける。工員は震えながらも機械を持ちだしていくゾンビを見つめていた。
「諦めろ!」
「で、ですが……みすみす歪虚に利用させるなんて」
ヴァイスの想像通り、工員は兵器が持ちだされていくことに戸惑いを覚えていた。これが憤りに転じ、ゾンビを攻撃しようとするとまずい。
「今は生き残ることが最優先だ。それに、みすみす連中の好きにはさせない。信じてくれ」
ヴァイスに説得され、工員は駆けだした。
単なる口から出まかせであれば、あるいは動かなかったかもしれない。
そう、ヴァイスは知っていた。仲間たちが、事実連中の好きにはさせないだろうことを。
「道具や機械には構わんでくれ。あんた方の命が最優先だ」
遅れて工場に入ったエアルドフリスは出口を示しながら脱出を促す。
「だ、だがあっちに怪我人が……」
「俺が行く。あんたは脱出してくれ」
そう言って怪我人がいる方へと走り出すエアルドフリス。その途上、ロベリアの姿があった。
「そっちはどう?」
「今から怪我人の救助へ向かうところだ。そっちは……」
「ちょっとね……このままやられっぱなしだと癪でしょ?」
そう言ってロベリアが指差したのは、大きな空箱。そして、その先には火薬が置いてある。
ようは、爆発物をわざと敵に渡して然るのちに爆破。兵器諸共吹っ飛ばそうという事だ。これをゾンビが運びやすい位置に置くことで工員に目が向かないようにして安全を確保する、一石二鳥の手と言えよう。
「……ふむ、敵に渡るくらいなら、か……悪くない」
その意図を察したエアルドフリス。だが、薬師としては怪我人を放ってもおけない。
「過激だなぁ」
不意に聞こえた声。それは避難効率を上げるために別の入り口を開けて入ってきた金目だった。
「まぁ僕も敵の手に渡すくらいなら、とは思ったけれど」
だが、ロベリアの動きを見てその意図をくみ取って協力してくれるつもりのようだ。
「助かるわ。工員にも手伝ってもらおうかと思ってたけど、危ない橋を渡らせるわけにもいかないからね。どうしようかと思ってたの」
「分かった、そちらは任せる……頼んだぞ」
その様子を見たエアルドフリスは、怪我人の下へ再度走り出す。
「さて、始めましょうか」
「ええ……フリッツの目につかないといいんですが……」
「それは、外のレオーネに期待するしかないわね」
そのころ、工場の外ではフリッツとレオーネの睨み合いが続いていた。と言っても、フリッツの方は興味なさげであったが。
(動けばすぐ撃つ……当たるかは別としてだけど……)
下手な攻撃でフリッツの怒りを買えば、自分が攻撃される……ことよりも恐ろしいのは逃げ出してきた工員が攻撃されることだ。今は攻撃する気はなさそうだが、いつそう言う気になるかは分からない。
だが、このまま何もしないわけにもいかないという気持ちがレオーネにはあった。
「よぉ……っても、憶えちゃないだろうけどな!」
だから、レオーネは声を上げた。少しでも敵の真意を探るために。
何しろ、フリッツがただ一つの目的を達するためだけにわざわざ出てきたとは考えにくいのだから。
●
「何企んでるのかしらねーが、タイミングよすぎじゃねえか? 狙ったように見えるぜ!」
「……そうだな。狙っていなければわざわざこんなところ襲撃しないだろう」
レオーネに対し、興味なさげに返答するフリッツ。
「そう言う意味じゃねぇ! アンタがただの強奪任務で前線ってのが既に怪しいんだぜ!」
「ふん、俺が前線に出てくることは別段稀なことではないのでな」
レオーネに律儀に返答してくるフリッツ。勿論大事なことを言うはずもないのだが、有無を言わさず攻撃してこないあたり、やはり戦闘を目的としてはいないようだ。尤も、ここにヒンメルリッターの団員でもいたら、あるいはヒンメルリッターとレオーネの関わりが案外深いことを知っていれば……ただ、その場合どちらにせよ悪い方に転ぶのは目に見えていた。
(やっぱり、戦闘が目的じゃない。ゾンビたちもそうなんだろうな)
連結通話を使うことで、このフリッツとの会話を仲間にも伝えるレオーネ。それが少しでも仲間の助けになると信じて。
「班長は点呼して揃っていない人員を報告するのじゃ」
ミグは工員を護衛しつつ班長にそう促す。
「こちらは全員そろっています!」
「うむ。ではこのまま工場から離れるのじゃ」
ミグは言いつつ再度工場に入り込む。まだ全員には足りていない。
「はい、連れてきたっすよ!」
だが、それらが揃うのも時間の問題だ。また一人馨が足を活かして連れ出してきた。
「大丈夫! もう出口だよ! あわてないで!」
ざくろも一人を抱えながらジェットブーツで工場から飛び出してくる。その後ろには数人の工員が着いてくる。
「数の確認お願い!」
「心得たのじゃ!」
すぐさま点呼を呼びかけるミグ。
その様子を見ながらエアルドフリスが出てくる。
「今ヴァイスがゾンビを監視しながら最後の見回りをしている……あれが、サヤ痛い目を見せたフリッツ・バウアーか」
「そうっす……このところ姿をみなかったからてっきり討伐されてたと思ったのに……」
呟く馨。その姿をフリッツは見た。
「……貴様は確かあの時の戦いにいたな……腕の借りはいずれ返してやらなければならないと思っていた」
そう言って、斬り落とされたはずの腕を上げる。
「斬ったのは俺じゃないっすけど……絶対面白ギミック搭載してるっすよね、あれ」
ゾクリと背筋に寒気を感じた馨。だが……その威圧感もすぐに消えた。
「まぁいい。今日はこれまでだ」
不意に、剣機が羽ばたいた。積み込みが終わったのだろうか。足回りにはゾンビもしがみついている。
『こっちは準備OKよ!』
短電話からロベリアの声が聞こえる。
だが、仕掛けるには工員の安全確認を行ってからでなくてはいけない。爆発の余波に巻き込まれないようにするためだ。
「……よし、これで全員じゃ!」
それも、ミグの挙げた声で確認が取れた。
「了解。ただでは渡さない……デルタドライブインストール!!」
「均衡の裡に理よ路を変えよ。我が血に流るる命の炎、矢となりて我が敵を貫け」
ざくろがデルタレイ、エアルドフリスも蒼炎箭を剣機に向かって放つ。工場の方からも光があがる。ロベリアと金目のデルタレイだろう。
それらは剣機の持つコンテナの一つに命中する。
「ふん、今更遅っ……!」
遅い、と言おうとしたフリッツの体が大きくゆすられる。コンテナの一つが爆発したのだ。ハンターたちの作戦通りだ。
想像よりは大きな爆発にならなかったのはコンテナの耐久性と、時間の都合でそこまで大量の爆発物を詰め込めなかったからだ。だが、それでも効果はあった。コンテナの一つは底が抜け、そこからボロボロと資材が落ちていく。しがみついていたゾンビも半数ほどは爆発で落とされていく。他のコンテナにも多少傷はついただろう。
それでも剣機は降りては来ず、そのまま飛び去っていく。落ちた兵器を拾うほどの重要さはないということだろうか。
「ハハハ! ざまぁ見ろフリッツ!!」
なんにせよ、してやられたいう表情で飛び去って行ったフリッツに、レオーネは言った。もう声が届かない距離までは飛んで行ってしまったが。
『こちらヴァイス。落下したゾンビを確認した。これより戦闘に入る』
工場に残っていたヴァイスから連絡が入る。まだゾンビが残されているのを思い出したハンターたちは、各々工員の防衛とゾンビの掃討に入った。
●
周辺に敵影なし。被害者も無し。
「うむ。文句なしの成果じゃな」
無事を喜び合う工員を見て息を吐くミグ。だが、まだハンターたちには仕事が残されている。
ヴァイスは爆発によるパーツの残骸がなんらかの被害を出していないか周辺の調査へ向かっていた。
「フリッツが唯襲撃してきたってことは無い……と、思うけど実際はどうなんだろう」
レオーネは考えていた。ヒントは工員に手を出さないことを徹底していた点ぐらいか。
「で、持ちだされたものはなんなんすか?」
剣機が去った後は元の任務が待っていた。馨は持ちだされていったものに関しての調査を行う。これがどうでもいいものなら、この襲撃が無実をアピールするための偽装の可能性がある。
持ちだされたのは主に魔導機械の部品が多かったようだ。ただ、あくまでパーツであり、完成品がどういうものかは知られていない。
「工員には様子のおかしい人はいませんでしたか?」
「……少なくとも、視界に入った中にはいなかったよ。ただ、ざくろもコンテナを狙うのを優先してたから絶対とは言えないけど」
「そうですか……僕が直接見ていられれば良かったんですけど、工場の中にいましたから……」
金目の問いにざくろが答える。
そこに、臨時の依頼主であるホルストがクロウとともにやってきた。
「工員の被害は無しか。礼を言う。報酬はきちんと払わせてもらう」
「そうですか。では報酬ついでに一つ。魔導アーマーについてなんですが」
ホルストに対し、エアルドフリスが疑問をぶつける。発注主は誰なのか、運搬体制はどうだったのか。だが、これに対しホルストは「依頼人に関しては守秘義務があるため何も言えん」と言って、そのまま苛立たし気に去って行った。
「……名簿は素直に渡したのに、これは拒否か……」
「火の無いところに煙は立たずと……このことも合わせて工員にも確認してみましょうか」
肩を竦めるエアルドフリスに、金目が言った。
この後、手分けして工員への聞き込みを行ったが、特に怪しい人物は浮かび上がってこなかった。また、出荷先等の情報に関して詳しい者に確認を取ったが、大口の仕事はホルストが直接取引している為分からないとのことだった。
「謎の取引、謎の魔導機械、そして人を襲わない歪虚らしからぬ襲撃と……」
「決定的な証拠は見つからないわね……状況的にはやっぱり黒いと思うけど……」
ヴァイスやロベリアが言う通り、ホルストが怪しいのには間違いないが、断言できるほどの情報は無い。
「魔導アーマー盗難時の調査は行った方が良いと思うよ」
クロウにエアルドフリスはそう勧めたところで、今回の依頼はお終いとなる。
敵から無事工員を守りきり、しかも肝心の持ち去ろうとした品にも打撃を与えた。調査に関しても、少なくとも今のところ工員に怪しいものはおらず、逆にホルストは怪しさの度合いを増した。これだけでも、大成功に値する十分な成果と言えるだろう。
依頼結果
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面白かった! | 6人 |
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工員保護大作戦【相談卓】 エアルドフリス(ka1856) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/07/06 23:25:59 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/07/06 20:14:42 |