ゲスト
(ka0000)
サーラトリア~ハンティングとピクニック
マスター:草なぎ

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/07/05 19:00
- 完成日
- 2016/07/11 21:44
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国南部シエラリオ地方。この地は、国内有数の貴族であるウェルズ・クリストフ・マーロウ大公が根を張る地方である。王国のみならず、世界有数の穀倉地帯を有するこの地域では、人々はほぼ豊かに平穏に暮らしている。敵性勢力と言えば雑魔か獣程度であり、人類が戦うべき敵らしい敵はいない。
フレデリック・ゴールド(kz0199)は、この地方の貴族であり、領内に豊かな穀倉地域を持つ伯爵家の頭首である。ゴールド伯爵領サーラトリアを治め、首都ゴールド=エルシードの邸ホープキャシニングに居を構える人物であった。
妻はスカーレット。五歳の娘フレデリカと六歳の息子ウィリアム・レオンがいる。また、姉のクリスティーナは子爵夫人の爵位を賜っている。フレデリックの幼馴染の筆頭騎士フランシス・マレアがおり、フレデリックを補佐している。騎士は上級騎士にウォレン・パレスなど若手の人材がおり、日々領内を巡回し鍛錬に励んでいた。
また、領内には五人の貴族家がある。マクシミリアン・テオール子爵、アルバート・セシル子爵、ベン・ブラック子爵、キャサリン・シャイル子爵夫人、クラーク・ゲインズ子爵らである。
また伯爵領教会教区筆頭にローランド・ウィン司教がおり、エスメラルダ・ワイズといった領内では変人で有名な女魔術師がおり、またこちらもちょっと変わった第六商会の大富豪リチャード・ベインという人物がいる。
……ユグディラという生き物をご存じだろうか? 王国内に生息する猫の姿に酷似した妖精のような生き物であり、畑を荒らしたり旅人にいたずらしたりする困りものだが、その愛くるしい外見から子供たちには人気があり、ユグディラ伝承なる噂レベルの荒唐無稽な話が残っていたりする。ともあれ、何故ユグディラが王国に存在するのか、それは全く不明である。
この時期収穫を迎える作物を育てる農家にとって、ユグディラは天敵である。
ユグディラと子供が戯れているのを見た畑のおじさんが、仰天して走り出した。
「こら~!」
ユグディラが野菜を手にけらけら笑いながら逃走していく。子供は「ばいば~い」と手を振った。
平和である。
「さーてと……」
フレデリックは、仕事を終えると、次のスケジュールをフランシスに確認していた。
「そろそろハンティングに行きたいなあ」
「ええ。仕事が片付きましたら」
フレデリックの言葉ににべもなく言葉を返すフランシス。
ウィリアムとフレデリカが室内に駆け込んで来る。
「フランシス~! 遊ぼうよ~!」
「元気が過ぎますねえ……。私は忙しいんですよお二人とも」
困った顔のフランシスに、フレデリックが声を掛ける。
「へいへいリトルモンスター、あんまり筆頭騎士様を困らせるんじゃないよ」
「い~や~だ~! 遊ぶ~!」
そこへ、スカーレットが姿を見せる。
「二人とも、家庭教師が待ちくたびれていますよ。部屋へ戻りなさい」
「は~あ……面白くないなあ……」
――というわけで。
「次の休みにハンティングに行こう」
フレデリックが改めて言った。
「了解しました。では、ハンターを手配しておきますね」
フランシスが頷いた。こういう時にハンターは最適の任である。騎士たちとともに有事の警護に当たれるし、立場上フリーな彼らはフレデリックや貴族とともにハンティング遊びも出来る。
「各家の連中にも声を掛けておいてくれ。スカーレットはピクニックに行きたがるだろう。御夫人たちにも声を」
「かしこまりました」
フランシスは軽く笑ってお辞儀した。
そうして、ハンターオフィスにサーラトリアからの依頼が届くのであった。
フレデリック・ゴールド(kz0199)は、この地方の貴族であり、領内に豊かな穀倉地域を持つ伯爵家の頭首である。ゴールド伯爵領サーラトリアを治め、首都ゴールド=エルシードの邸ホープキャシニングに居を構える人物であった。
妻はスカーレット。五歳の娘フレデリカと六歳の息子ウィリアム・レオンがいる。また、姉のクリスティーナは子爵夫人の爵位を賜っている。フレデリックの幼馴染の筆頭騎士フランシス・マレアがおり、フレデリックを補佐している。騎士は上級騎士にウォレン・パレスなど若手の人材がおり、日々領内を巡回し鍛錬に励んでいた。
また、領内には五人の貴族家がある。マクシミリアン・テオール子爵、アルバート・セシル子爵、ベン・ブラック子爵、キャサリン・シャイル子爵夫人、クラーク・ゲインズ子爵らである。
また伯爵領教会教区筆頭にローランド・ウィン司教がおり、エスメラルダ・ワイズといった領内では変人で有名な女魔術師がおり、またこちらもちょっと変わった第六商会の大富豪リチャード・ベインという人物がいる。
……ユグディラという生き物をご存じだろうか? 王国内に生息する猫の姿に酷似した妖精のような生き物であり、畑を荒らしたり旅人にいたずらしたりする困りものだが、その愛くるしい外見から子供たちには人気があり、ユグディラ伝承なる噂レベルの荒唐無稽な話が残っていたりする。ともあれ、何故ユグディラが王国に存在するのか、それは全く不明である。
この時期収穫を迎える作物を育てる農家にとって、ユグディラは天敵である。
ユグディラと子供が戯れているのを見た畑のおじさんが、仰天して走り出した。
「こら~!」
ユグディラが野菜を手にけらけら笑いながら逃走していく。子供は「ばいば~い」と手を振った。
平和である。
「さーてと……」
フレデリックは、仕事を終えると、次のスケジュールをフランシスに確認していた。
「そろそろハンティングに行きたいなあ」
「ええ。仕事が片付きましたら」
フレデリックの言葉ににべもなく言葉を返すフランシス。
ウィリアムとフレデリカが室内に駆け込んで来る。
「フランシス~! 遊ぼうよ~!」
「元気が過ぎますねえ……。私は忙しいんですよお二人とも」
困った顔のフランシスに、フレデリックが声を掛ける。
「へいへいリトルモンスター、あんまり筆頭騎士様を困らせるんじゃないよ」
「い~や~だ~! 遊ぶ~!」
そこへ、スカーレットが姿を見せる。
「二人とも、家庭教師が待ちくたびれていますよ。部屋へ戻りなさい」
「は~あ……面白くないなあ……」
――というわけで。
「次の休みにハンティングに行こう」
フレデリックが改めて言った。
「了解しました。では、ハンターを手配しておきますね」
フランシスが頷いた。こういう時にハンターは最適の任である。騎士たちとともに有事の警護に当たれるし、立場上フリーな彼らはフレデリックや貴族とともにハンティング遊びも出来る。
「各家の連中にも声を掛けておいてくれ。スカーレットはピクニックに行きたがるだろう。御夫人たちにも声を」
「かしこまりました」
フランシスは軽く笑ってお辞儀した。
そうして、ハンターオフィスにサーラトリアからの依頼が届くのであった。
リプレイ本文
「にゃああああ……」
ユグディラはのんびりと伸びをした。ユグディラは、リアルブルーのケットシーのような風体をしている。この黒猫風ユグディラは、草で編んだ帽子を被って花のネクタイを付けていた。
「にゃにゃ?」
ユグディラが目を凝らすと、森の中に人間たちがやってくる姿が見える。
ひょこ、と別の木陰からユグディラがまた顔を出す。
ぴょこ、ぴょこ……あちこちの木陰や木の上から、ユグディラたちが顔をのぞかせている。
「にゃふう……?」
ユグディラたちは、動き出した。
「いや~、良い天気になってよかったね」
フレデリック・ゴールド(kz0199)伯爵は、隣のハンターに声を掛けた。ガンスミス、マリィア・バルデス(ka5848)だ。
「ええゴールド伯。絶好のハンティング日和となって何よりです」
マリィアは微笑んで、軽くお辞儀した。
花(ka6246)は広大な森を軽く見渡してフレデリックに声を掛けた。
「美しい森ですな。羨ましいことです」
「恵みは、天からの賜物だね」
「左様ですか……」
花は微笑んで、アルス・テオ・ルシフィール(ka6245)をそっと見やる。
アルスは、フレデリカやウィリアムと仲良くなっていた。
「はじめましてなの。あたし、ルーシー。 はうぅ! ユグディラ見たいにゃ! ルーシーの覚醒は、ざ・にゃんこ♪」
「はじめましてね♪ 私フレデリカ。最近ね、ユグディラを見たって子がいるのにゃ!」
「僕はウィリアム。ユグディラ見たいなあ……」
エルバッハ・リオン(ka2434)は、子供たちに挨拶していた。
「初めまして、エルバッハ・リオンと申します。よろしければ、エルとお呼びください。よろしくお願いします」
「エル、私フレデリカ! ねえユグディラ見たいにゃ!」
「そうですね(笑) 良い子にしていればきっと現れてくれるのではないでしょうか」
「エル、僕はウィリアム。エルは何を生業としているのだ?」
「魔術師です」
「そうかあ! 魔法が使えるんだな!」
ウィリアムの目がきらきらする。エルは微笑んだ。
「フレデリカ、ウィリアム、おいらはヨハナ(ka0435)! よろしくな!」
ヨハナが笑うと、フレデリカとウィリアムは笑った。
「ヨハナは何をしているの?」
「おいらは聖導士なのだ!」
ヨハナは胸を張る。
「聖導士さんなのね!」
「ユグディラさまが出るって聞いたの、是非お近づきになりたいの~」
ディーナ・フェルミ(ka5843)は両手握りしめ鼻息ふんすふんす。貴族らの子弟と交わっていた。
「ユグディラさまと仲良くなりたいの、どこで会えたか教えてほしいの」
中に会っていたという女の子がいたので、蜂蜜の賄賂(笑)を渡して情報を聞く。
「私はね、うちの庭にやって来ていたの。ユグディラは花と戯れていたわ」
「ほんとなの? 家に来るんだあ……。羨ましいなあ~」
「でもね、すぐに逃げちゃって」
ハンターたちと貴族たちは、森の中に分け入っていく。
シルヴェイラ(ka0726)とエルティア・ホープナー(ka0727)は、貴族たちの護衛に付いていた。
「狩りにハンターを狩り出すとは、優雅な事だな」
シルヴェイラが零すと、エルティアは肩をすくめた。
「伯爵ともなるとね……シーラ」
「エア、可愛いよ、あ、いや、かっこいいね」
「ん? 何よ」
エルティアは髪を結い上げ首元迄かっちりとしたシャツにハイウエストのパンツスタイル。
「だって護衛も仕事の内でしょう? 動けない格好では意味が無いわ?」(かくり
「どうしたの?」
シルヴェイラは微笑する。
「森の空気は綺麗ね……これが、私の息吹……」
「エア?」
「何てね……らしくないわね。ああもう、シーラ。ユグディラに会いたい!」
「君もか。うーん……会えると良いなあ……。どうしたらいいんだろうね」
ザレム・アズール(ka0878)は、フレデリックと駒を並べて、森の中を進んでいた。
「伯、ユグディラは、最近目撃されるのですか?」
「そうだね。何だか最近、王国で目撃例が増えているらしいよ」
「そうなんですね」
「君は歴戦のつわものらしいが、どこかに所属するつもりはないのかね」
「何かに挑む者。それがハンターだと思うんです。未知の世界だったり、味だったり、敵だったり、謎だったり」
「……味? とは何だね」
「私は副業がシェフなもので」
ザレムは肩をすくめる。
「ほう、そうなのか」
クリスティーナ=VI(ka2328)は、キョウカ=アルカナ(ka3797)を伴って、その後ろから付いていた。
「今日も愛こそ全て……なあ、キョウカ」
クリスティーナは、キョウカの腰にそっと手を回す。
「クリス様……愛していますわ」
「俺もお前を愛してる……もちろん……」
「私もあなたを愛しますわ」
「良い子だ、キョウカ」
クリスティーナは、キョウカの頬にそっと口付した。キョウカは微笑み、そっとクリスティーナに手を重ねる。ああ……クリス様、本当は、もっと欲しい……でも、今は駄目ね……。でも……帰ったら……きっとクリス様は優しくして下さるわ……。キョウカの脳内に駆け巡るめくるめく想い……女は気が狂いそうな衝動に身を委ね、この平和な時間に身を置く。
「俺の可愛い恋人は今日も一段と綺麗だ」
クリスティーナが言うと、キョウカはハンカチを取り出した。
「クリス様……汗が」
汗を拭いて差し上げるキョウカ。
「そういえば、こうして日中二人で出かけるのも久しぶりだったな…」とクリスティーナしみじみ。
「いいところだ、あいつも連れてきてやれればよかった」とまた恋人の一人であるキョウカの弟を思い出しつつ目を細める……。
「クリス様、今はわたくしのことだけお考えくださいませ」
「キョウカ……罪な女だ」
「ともあれクリス様、あまりご無理はされませぬよう」
二人で歩くとまるで忙しい日常から切り取られたデートのように一瞬感じるも、 あくまでも「護衛」という仕事だと言う事に頭を振るも小さな幸せを噛みしめるキョウカ。
「それでも、こうしてクリス様と外を歩くのは久しく嬉しく思いますわ」
鞍馬 真(ka5819)が、ザレムとフレデリックの傍らにやってきた。
「空気が綺麗ですな、伯爵。やあザレム君」
「全くだ。良い日になったものだ」
「鞍馬」
「君は鞍馬かね。クラスは?」
「闇狩人ですな」
「闇狩人だからな……光の騎士とか、光の戦士とか、他に呼び名はないものかね」
フレデリックが零すと、鞍馬は肩をすくめた。
マリィアは、愛犬のアルファとガンマを伴っていた。苦笑する。
「伯爵閣下。ハンティングの最大の醍醐味をご存知ですか?」
「醍醐味? それは何かな」
「獲物を撃つ瞬間です。命を奪う銃弾を撃ち込む、その瞬間こそ、ハントの醍醐味なのです」
「君は凄いことを言うなあ……。何と言ったっけ?」
「ガンスミス、マリィアと申します」
「マリィア、覚えておこう」
「伯爵閣下」
花が言った。
「この先に家があるようです。人の気配が……」
「ああ、森の住人たちだ。森人たちだな」
「ちょっと話を聞いて来ても?」
「構わんよ」
フレデリックは頷き、花は家に向かって馬を進めて行った。
花は馬から降りると、家のドアをノックした。
「ごめん下さい」
「はーい」
ドアが開いて、娘が姿を見せた。
「どなた?」
「ハンターだがね。伯爵閣下の狩りの伴に来ているのだよ」
「ハンター? まあ珍しい。お父さん! お母さん! ハンターですって!」
ざわざわと、奥から夫婦が姿を見せた。
「ハンターの方ですか?」
「ええ。花と言うんだがね」
「この辺りはハンティングには良いですよ。俺達もまあ、狩りはしますがね。鹿、イノシシ、鳥、熊……狐やアライグマなんぞも出ますがね」
「ほう……」
花は感心した。
「森人、と伯が言われていたが、ここに暮らしているのかい」
「はっはっは。住めば都ですよ。性分なんですなあ……。昔は都会に住んでましたがね。後はまあ、これの婿を探して、日々安穏ですわ」
「邪魔をした。失礼するよ」
「フレデリック様によろしくお伝えくだされ――」
ハクラス・ヴァニーユ(ka6350)は、ひとまず護衛に付いていた。鞍馬やザレムらと談笑しながら、森を見渡していた。
「うーん……ここはのどかだねえ。ユグディラが出るというのは本当だろうか?」
マリィアがハクラスに応じた。
「子供たちの夢を壊したくないわよね」
「猫の妖精なんだよね?」
「そうみたいね」
「まあ……ここなら出てもおかしくなさそうだが……」
「ハクラス君、ユグディラは、王国にしか住んでいないらしい。何ゆえかは知らないが」
鞍馬が言うと、ザレムは肩をすくめた。
「不思議な生き物だね。もしかして、王国の守護幻獣か何かなのかもね」
「夢のある話だね」
ハクラスはくすくすと笑った。
「ともあれ、ユグディラは実在するわけだから、お目には掛かりたいものだがね」
その時だった。
「にゃあああああ~」
どこかから猫の声がする。どこだ?
ハクラスが見上げると、木の上に、藁で編んだベストを着て藁靴を履いた白い猫がいた。
「にゃにゃん♪」
ユグディラは枝の上でくるりと一回転した。
「ユグディラ……?」
「あれが……」
マリィアの愛犬たちがバウ! バウ! と吼えると、ユグディラは「にゃにゃにゃ!」と逃げて行った。
「ちょっと、アルファ、ガンマ、吼えちゃ駄目でしょ」
マリィアは愛犬たちを撫でまわして、落ち着かせる。クウウウン……アルファとガンマはすり寄ってマリィアの顔を舐めまわした。
「こらっ、二匹ともおとなしくしなさいってば」
「はっはっは……。犬の方が驚いた様子だね」
フレデリックは面白そうだった。
マクシミリアン・テオール子爵、アルバート・セシル子爵、ベン・ブラック子爵、キャサリン・シャイル子爵夫人、クラーク・ゲインズ子爵らは、それぞれに語り合っていた。
「あれがユグディラなる生き物か……」
テオール子爵が言うと、
「王国の吉兆か、災いか……」
セシル子爵が眉間にしわ寄せ。
「平和と言うことでしょう。妖精が闊歩するのは」
ブラック子爵が応じ、
「かわいいですね。我が家で飼いたいわ」
シャイル子爵夫人が微笑み、
「ううむ……幻獣が出現するとは……この地に侵略する気か?」
ゲインズ子爵が思案顔だった。
「見たかい、エア?」
「ええ、シーラ。ユグディラなのね……可愛いわねえ……」
シルヴェイラとエルティアは、ユグディラが消えて行った方角を見ていた。
「花さん、見ましたか? ユグディラ」
ハクラスの言葉に、花は微笑んだ。
「ああ……アルスが喜びそうだ。本当に出るんだねえ」
クリスティーナは、キョウカからもらった水を口に含んで、言った。
「キョウカ、ユグディラは欲しいか?」
「捕まえて下さるの? いいえ、クリス様……そのような残酷な。止めて下さいませ。私にはクリス様がいらっしゃれば十分ですわ」
「そうか……。しかし、太陽が暑いな……。キョウカ、お前も水分補給を忘れないようにな」
「ありがとうございますクリス様」
「もっとも、ユグディラより、俺にとってはお前の方が命だ。それこそ燃える……幻想……ハートのな」
「いやですわ。わたくし、幻想などではなく、クリス様の中に住みたいのです」
「キョウカ……愛い奴。俺の心を独占したいか」
「わたくし……叶わぬと知っても、本心を言えば……独占したい……こうして二人きりでいれば、わたくしだけを見て頂きたいのです」
「今日は、お前しか俺の目には映らぬ」
「クリス様……」
キョウカはクリスと手をつないだ。
「伯爵」
マリィアは、望遠鏡で、小川の水を飲んでいる鹿を発見した。
すでに全員徒歩である。マリィアは手を上げて、全員の動きを止めた。
鹿は平和に、水を飲んで、首を動かしていた。
「ハンティング……自分で狩った獲物を楽しむってことよね。熟成期間が置けないのは残念だけど、ちょっと楽しみだわ。……今回の仕事、勢子ってわけじゃないみたいね。ふふ……」
マリィアは微笑した。愛犬二匹は待機。
「どれ……ではまず私から」
フレデリックが進み出た。猟銃を構える。マリィアは呼吸を止めた。そして――。
銃声が響き渡る。鹿は倒れた。
「アルファ! ガンマ! 行け!」
マリィアは愛犬を解き放った。アルファとガンマは駆けだした。ややあって、ワン! ワン! と声がする。
「やったな」
フレデリックは笑った。
「お見事です」
マリィアは歩いて行った。鹿は一発で倒れていた。伴の騎士たちがやって来て、鹿を担ぎ上げる。あとで捌いて貯蔵室行きだろう。
それから、ハンターたちは森の中を散策していった。
「エア、ご覧。あそこにも鹿が」
「シーラ、あなたが撃ちなさいよ」
「エアと弓の腕を競うのも楽しみなんだけどな」
「仕方ないわねえ……」
「それ!」
二人は矢を放った。命中! 駆け寄るシルヴェイラとエルティア。鹿は倒れていた。矢は二本とも突き刺さっていた。
「腕は鈍って無いね」
「そっちこそ」
ザレムは、貴族や騎士らと談笑しながら、森を進む。
鞍馬もまた、矢を番えていた。
「狩り……か。また違った雰囲気だな。マリィア?」
「しっ……あそこ見て?」
マリィアは、望遠鏡を向けた。
「何だ?」
「兎よ」
「見えるのか?」
「ほら」
マリィアは望遠鏡を鞍馬に渡した。
「あそこ」
「あ、ほんとだ。よおし……」
鞍馬は弦を引き絞った。射撃。矢は兎に命中した。鞍馬は歩いて行って、兎を持ち上げた。
「やったよ」
「それもご飯になるわね」
フレデリックは、花とハクラスとともに、進んでいた。傍らには、花の愛犬二頭がいる。
「狩りもたまにはいいだろう? モンスターとばかり戦っていたら、疲れるだろ?」
「全くです」
花は苦笑する。ハクラスはのんびりしたものだった。
「私など、これが初めての依頼ですからね」
「そうなのか? それはまた……奇遇だな」
と、そこで花が皆を制止させる。
「木の上に、野鳥が」
「ん? ああ……」
ハクラスは、肩をすくめた。
「花さん?」
「では、私が仕留めてみようか」
愛犬は待機。花は、野鳥に狙いを定めた。――銃声がこだまする。野鳥は落ちた。愛犬たちが駆けだす。
「やったな」
フレデリックが花の肩を叩いた。
三人は歩いて行って、仕留めた野鳥を確認する。愛犬たちが待機している。花は愛犬を撫でてやると、猟銃を肩に掛け、野鳥を取り上げた。
「お見事だね」
ハクラスが微笑んだ。
「アルファ、ガンマ……久々に本当の狩りよ! こっちに獲物を追いたてていらっしゃい……行けっ!」
マリィアは、鹿の群れに向かって愛犬たちを解き放った。
駆け抜けるアルファとガンマ。鹿の側面から、回り込むように走っていく。異変を察知した鹿達が、動き出す。
貴族たちは猟銃を撃った。子爵たちは一般人だ。熟練ハンターほどの正確さはない。鹿相手に外すこともある。鹿が逃げる。
マリィアは、威嚇射撃を連射する。びっくりした鹿の足が止まる。
貴族たちは、この機に乗じて、鹿の群れを次々と倒した。
騎士たちから歓声が上がる。
「お見事!」
貴族たちは満足そうだった。
「さすがはハンターだな」
テオール子爵が、豪放快活に笑って、マリィアの肩を叩いた。
「ハンティングの楽しみを経験していただく方が先ですから。食べるより当てる楽しみをご堪能下さい」
「存分に堪能したよ。はっはっは!」
ハンター達は、ハンティングに赴いた者たちは、それぞれに獲物をしとめ、森を散策した。
スカーレットら夫人たちは、ピクニックに興じていた。パラソルを開いて、シートを敷いて、持参したお弁当を広げる。水辺では貴族の子弟たちが水遊びに興じている。
そんな様子を傍目に、ノーマン・コモンズ(ka0251)は、草むらに寝そべっていた。シャルア・レイセンファード(ka4359)が傍らにいる。
ノーマンはシャルアを見上げ、思う。人との関わりなんて上辺だけだった、どんなに求めたって手に入りはしない、だから道化の様のに笑って過ごしてきた。だけど彼女は何なのだろう、捨て去ったはずのぬくもりを求める心を思い出させる、彼女は僕に与えてくれる者なのだろうか?
シャルアは、(ノーマンさん、女性とお出かけするのは初めてって言ってましたね。あたしでよかったのかなぁ……でも、一緒にゆっくりしたいなぁ)などとのんびりと考えていた。
「あの、ノーマンさん……て、昔は何をしていたんですか?」
来たか。ノーマンは心中で零した。でも……。
「僕はね……とある人物を守る為の駒として、貧しい家庭から買い取られたんですよ」
「買い……とられた?」
「そこからね……修練を重ねる日々を過ごしてきました……。だからさ、戦う事の基本は身についている。ある意味、狂ってるんです」
「そんな……こと。ないですよ」
「もう元には戻らないんですよ。ぐにゃぐにゃにねじ曲がったこの人格も、温厚な皮を被った残忍さも……。時々止められない……。自分の中の破壊活動のスイッチが。戦って、戦って、殴り合う事が楽しくて仕方がない。みんな、ぶっ壊して……僕もみんなも、みんな、壊れてしまえばいいって……。だから……さ、狂ってるんです」
きゅっ……! と、シャルアはノーマンを抱きしめた。
「そんな……ことないですっ。みんな……狂ってるんです……。同じですよ。あたしだって……あたしだって……どうにかなってしまいそうな時がある」
「シャルアさん……」
「ん……よしよし」
シャルアは、ノーマンを撫でていた。
「はっ!? お話しを聞いたら撫でたくなってしまってつい撫でてしまいました。ごめんなさい!」
「別に良いですよ」
ノーマンは笑った。
「わぁ、コモンズさん、髪さらさら……もう少し触っていてもいいですか? でもでも、このままだと触りづらいので膝枕とかどうでしょう?」
「シャルアさんがいいなら、甘えちゃおっかな」
ノーマンは、シャルアの膝に、頭を乗せた。そのまま彼女のぬくもりの中へ……落ちた。
「ノーマンさん……? むぅ………? 眠ってしまいました……?」
シャルアは、ノーマンの髪をそのままいじって、微笑んでいた。
「コモンズさん寝ちゃった……起こした方がいいのでしょうけど、もう少しだけ」
…………。
かくり。
「……!?」
シャルアは赤面した。ノーマンの寝顔を見てたら、自分も寝てしまったのだ。
ふっと、何かが離れて行った。ノーマンのぬくもり……?
「ノーマンさん?」
「寝てましたね、シャルアさん(笑」
「いやだ……あたしったら」
ヨハナは、子供たちと弾けていた。
「おお! ピクニックかー! 美味しい食べ物いっぱい食べて、いっぱい遊んでいっぱい楽しむのだ!」
子供たちと水を掛けあいっこ。
「こうしているとなんだか……昔を思い出すのだ」
「ヨハナちゃ~ん! 見て見て~! お魚がいるよ~!」
「おお!」
ド田舎に住んでいたヨハナにとってピクニックは昔を思い出す感慨深いイベントであり、それを思い返しつつも楽しむのであった。
スカーレットが歩み寄ってくる。
「はい、ヨハナさん。サンドイッチをたんと召し上がれ」
バスケットには沢山のサンドイッチ。
「ママ~! 僕も食べる!」
ウィリアムが駆け寄ってくる。
「ヨハナ! 一緒に食べよう!」
「おっす! 食べちゃうぞ~! ……! う、うまい! このサンドイッチうまい!」
「お気に召したかしら?」
「は、はい! ありがとうスカーレット!」
ヨハナ元気いっぱい。
そんな木陰の木の上にはエルティアの姿が。ハンモックを吊るして、ゆったりしている。
シルヴェイラのお手製お弁当が御馳走だ。
……さて、どうかな。エアが苦手なピクルスと甘く煮た人参は細かくしてわからない様にして入れておいたけど……。
「好き嫌いは良くないからな」
シルヴェイラは言って、エルティアに料理を勧めた。
「おいしい……けど、シーラ……細かくしたってダメよ。私の嫌いなモノ、入れないでって言ったでしょ?」(むぅ
頬を膨らませるエルティア。
「ごめんごめん。ご機嫌直しに、手製の珈琲でもどう?」
「仕方ないわねえ……許してあげる」
エルティアは肩をすくめて、美味しい珈琲を飲んだ。
ザレムは、御夫人らと語らいながら、御握りと色々お弁当を広げていた。
「定番のトリカラはハーブ味の衣。コールスローは取り易い様にミディトマト詰めてあり一口でパクリと幾つもいけますよ~。夏野菜の煮物はあっさり王国風……汁がこぼれない容器なんですよ、これ」
「まあ♪ おいしい♪」
御夫人たちからきらきらした目を向けられるザレムシェフ。
「でさ、アシェ-ル(ka2983)の分も……実は……あるんだ(背嚢からお弁当を出す)」
アシェール歓喜。
「やった~! ザレムさん好き~♪ これぞ護衛という名のピクニック! 今日はザレムさんのお弁当を味わいにきましたからね!」
アシェールに取って、ザレムはお菓子の師匠であり、一家に一人欲しいお兄さんなのだ。
「アシェールのために、いろいろ作って来たよ」
「うっれしい! 師匠! わあ!」
それはリアルブルーで言うところの幕の内弁当特上。高級肉と旬の魚の焼きもの、夏野菜に水菓子が添えられた美しい品であった。アシェール、わくわくして口に運ぶ。炸裂。ザレムシェフの味覚の洋と和の魔術。
「く……やはり、私の腕ではザレムさんに到底敵わない……何て奇跡だあ(弁当の味)」
アシェール感涙。
クリスティーナはキョウカの膝枕で眠っていた。キョウカは嬉しそうだった。
「時間が止まれば良いのに……」
光が差し込む。「ふふ……」とキョウカは悪戯っぽくクリスティーナの眉をいじっていた。
四弦黒琵琶の音色が響き渡る。エルである。貴族の子供であっても、琵琶は珍しい楽器であった。子供たちは、ぼーっと、琵琶の音色に聞き入っていた。その目はきらきらしている。
「ねえねえエルさん! 次は魔法を見せてよ!」
「はい、それでは! ええい!」
エルは腕を一振りすると、ピュアウォーターで泥水を清水に変えて見せる。
「すごーい! やっぱり魔法って奇跡だわ~!」
「さあ、次は、風の魔術です!」
腕を一振り。ウインドガスト。子供たちが寄ってくる。「魔法掛けて掛けて~!」エルはウィンドガストを使いきった。魔法に付いて聞かれたエルは、マテリアルや精霊の話を子供たちに聞かせる。
Gacrux(ka2726)は、貴族の親たちから了承を得て、子供たちの相手をしていた。龍鉱石もあげた。特に男の達。木の棒で剣の稽古を付けた。
貴族の子供達は、それはもう本気で打ちかかってくる。
「えい! やあ!」
Gacruxは子供の相手を余裕でしながら、怪我をさせないように、細心の注意を払っていた。自ら負ける真似もする。
「ええい!」
と打ちかかって来た子供の棒を受けて、がくりと膝をつく。
「す、凄い力だ……私には耐えきれませんねえ……」
「Gacruxよ! どうじゃ、そこの騎士とし合ってみてくれんか? 我が家の騎士じゃ!」
子供が、一人の騎士を指名する。
「それでは……」
Gacruxは立ち上がり、その騎士と打ち合った。御夫人たちがやんやの拍手を送る。Gacruxは剣士の礼儀と節度弁え、左手を後ろに剣の打ち合いを行う。Gacruxと騎士は華麗に剣撃を交わした。ひゅん! と、Gacruxの一撃が飛び、騎士が弾き返した。
「貴公、かなりの腕と見た」
「いえいえ……」
Gacruxはお辞儀して、納刀した。子供たちから歓声が上がる。
「見事なものですな」
鞍馬が言うと、フレデリックは笑った。
「ハンターはつわものぞろいだな。噂には聞いているよ。北の災厄のこともね……ここは平和だが……」
「伯には、無関心ではありませんか?」
「そう見えるかね? 見えるかも知れんな。はっはっは……」
マリィアは、銃を磨きながら、ザレムの差し入れ料理をつまんでいた。
「……ま、こんなところかしらね」
花は、アルスの様子をちらちら見やりながら、ピクニックを楽しんでいた。
ハクラスは、シャルアのもとへ歩み寄った。
「シャルア」
「ハ、ハクラスさん」
「ふふ……何を慌てているのかな。楽しそうだね」
「ハクラスさん」
ノーマンは顔を上げた。
「二人とも、仲の良いことだね」
ハクラスは微笑して、夫人たちの輪に入っていく。
「あら、優しそうなお方――」
その時だった。ユグディラが姿を見せたのは。
いつの間にか、茶色のユグディラがアシェールのお弁当を食べていた。
「にゃ♪」
「ザレムさん……実は、私……って! ああ!? ユグディラァ!」
ユグディラはけらけら笑って逃げ出す。
「待てぇ! それはわたしの肉~!」
アシェールはダイブ特攻した。
「捕まえました!」
しかしふわもこのユグディラが、するりとアシェールの手から抜け出して行く。
「にゃにゃにゃあああ~♪」
「ああ……わたしの肉~」
「あれはユグディラ?!」
ザレムはやや驚いた様子。いつの間にか、自分達の周りにユグディラが数匹集まっている。
「にゃあああああ!」
「アシェール!」
ザレムはアシェールを呼んだ。
「ああ! 泥棒が沢山!」
「アシェールは猫は好き?」
「嫌いじゃないですけど~。こんな普通に来るなんて~……」
ザレムはユグディラに声をかける。
「やあ、一緒にお弁当をどうだい?」
「にゃあああああ!」
「食べる?」
「にゃあああああ!」
ザレムは一緒にどうかと弁当やオヤツを見せる。
「お仲間も呼んできて良いよ」
「にゃああああああん!」
ザレムはユグディラを撫でた。
「俺さ、一人ぐらしなので自炊になったんで、家にも猫を飼っててさ」
「にゃにゃ?」
ヨハナは、水辺に現れた魚をくわえたユグディラを発見。子供たちと大騒ぎ。
「わーわー! 妖精さんなのか? 妖精さんなのか!?」
黄色い毛並みの赤い花のネクタイを付けたユグディラは、よっこらしょ、と岩場に腰かけ、魚をむしゃむしゃと食べ始めた。
ヨハナは子供たちと近くで観察。
「にゃああああああ~」
エルティアは、弁当をねだる人懐っこいユグディラに餌をあげていた。
「ユグディラの生体……気になるわ」
「にゃ♪」
緑色のユグディラは、おかずをもらうと、とことこと歩き出した。エルティアは追跡。
「エア?」
シルヴェイラが付いて行く。
「何か面白い物が見つかるかもしれないでしょう?」
と、ユグディラがさっと動いて消えた。
「あれ? 消え……た?」
エルティアは辺りを探したが、ユグディラを完全に見失った。
「エルちゃ~ん! ユグディラだよユグディラ! たっくさん来てるの!」
エルは子供たちに呼ばれた。
「わあ……」
森の中から、色んな藁の服や帽子、靴を着た色とりどりのユグディラたちがやって来た。
「言葉は分からなくても感じるものなのどうにかなるのっ……多分?」
ディーナは持っていたユグディラのための餌を全部取り出して、近づいて行った。
「ふわもこは正義なの、是非是非お近くでお会いしてブラッシングさせたいただきたいの~」
猫じゃらしとブラシを握りしめて力説するディーナ。
ユグディラがわらわらと寄ってくる。ユグディラ餌をもらって決めポーズ。
「にゃあああああ!」
ブラッシングせよということだろうか……。
「ぷにふわ愛くるしすぎなの~」
貢ぎつつ恍惚するディーナ。周りのユグディラをブラッシングする。
「にゃにゃああああ~♪」
ディーナの脳裏に、ふしぎなきらきらしたイメージが湧いてくる。きらきらきらきら……。
「ふわあああ……何ですかこれ?」
ディーナはうっとりして微笑んだ。
アルスはフレデリカとウィリアムらとともにユグディラにダイブ。
「フレデリカちゃん~、ウィリアムちゃん~、ユグディラがこ~んなに沢山!」
「うわ~凄いな~!」
「にゃあああああ~?」
「いじめないし、驚かせないよーにがんばる……けど、もふもふしてみたいの……誘惑されちゃうにゃぁ」
アルス、おやつと 手鞠、タンバリンを持って接近。
「歌って踊って、手鞠であそぶの~♪」
ファミリアアタックで虎猫とパルムがダイブ。ユグディラと戯れるペット。アルスもタンバリンを鳴らして、手鞠でユグディラと戯れる。
「にゃあああ~」
「にゃにゃあああ~」
「にゃにゃにゃ~♪」
ユグディラたちと子供達の平和な光景が広がる。
鞍馬と花は、その様子を遠巻きに見ていた。するする……と、二人の肩にユグディラが上ってくる。
「へえ……こんなことがあるんだな……」
鞍馬はユグディラを撫でてやった。
ハクラスも、ユグディラに花を摘んでやった。
「あなたがユグディラですか」
ハクラスはにこりと笑った。
「にゃ♪」
そして――と、「にゃにゃあああああ!」と鳴き声の大合唱が沸き起こって、ユグディラたちは一斉に森の中へとかき消えた。
……夢? いや、ユグディラは確かにいるのだ。
子供達には夢のような時間だった。ユグディラが消えて、そして、ピクニックが再会する。
それは、ここ、王国南部、サーラトリアでも。
サーラトリアで、ハンターたちは束の間の休息を得るのだった。
ユグディラはのんびりと伸びをした。ユグディラは、リアルブルーのケットシーのような風体をしている。この黒猫風ユグディラは、草で編んだ帽子を被って花のネクタイを付けていた。
「にゃにゃ?」
ユグディラが目を凝らすと、森の中に人間たちがやってくる姿が見える。
ひょこ、と別の木陰からユグディラがまた顔を出す。
ぴょこ、ぴょこ……あちこちの木陰や木の上から、ユグディラたちが顔をのぞかせている。
「にゃふう……?」
ユグディラたちは、動き出した。
「いや~、良い天気になってよかったね」
フレデリック・ゴールド(kz0199)伯爵は、隣のハンターに声を掛けた。ガンスミス、マリィア・バルデス(ka5848)だ。
「ええゴールド伯。絶好のハンティング日和となって何よりです」
マリィアは微笑んで、軽くお辞儀した。
花(ka6246)は広大な森を軽く見渡してフレデリックに声を掛けた。
「美しい森ですな。羨ましいことです」
「恵みは、天からの賜物だね」
「左様ですか……」
花は微笑んで、アルス・テオ・ルシフィール(ka6245)をそっと見やる。
アルスは、フレデリカやウィリアムと仲良くなっていた。
「はじめましてなの。あたし、ルーシー。 はうぅ! ユグディラ見たいにゃ! ルーシーの覚醒は、ざ・にゃんこ♪」
「はじめましてね♪ 私フレデリカ。最近ね、ユグディラを見たって子がいるのにゃ!」
「僕はウィリアム。ユグディラ見たいなあ……」
エルバッハ・リオン(ka2434)は、子供たちに挨拶していた。
「初めまして、エルバッハ・リオンと申します。よろしければ、エルとお呼びください。よろしくお願いします」
「エル、私フレデリカ! ねえユグディラ見たいにゃ!」
「そうですね(笑) 良い子にしていればきっと現れてくれるのではないでしょうか」
「エル、僕はウィリアム。エルは何を生業としているのだ?」
「魔術師です」
「そうかあ! 魔法が使えるんだな!」
ウィリアムの目がきらきらする。エルは微笑んだ。
「フレデリカ、ウィリアム、おいらはヨハナ(ka0435)! よろしくな!」
ヨハナが笑うと、フレデリカとウィリアムは笑った。
「ヨハナは何をしているの?」
「おいらは聖導士なのだ!」
ヨハナは胸を張る。
「聖導士さんなのね!」
「ユグディラさまが出るって聞いたの、是非お近づきになりたいの~」
ディーナ・フェルミ(ka5843)は両手握りしめ鼻息ふんすふんす。貴族らの子弟と交わっていた。
「ユグディラさまと仲良くなりたいの、どこで会えたか教えてほしいの」
中に会っていたという女の子がいたので、蜂蜜の賄賂(笑)を渡して情報を聞く。
「私はね、うちの庭にやって来ていたの。ユグディラは花と戯れていたわ」
「ほんとなの? 家に来るんだあ……。羨ましいなあ~」
「でもね、すぐに逃げちゃって」
ハンターたちと貴族たちは、森の中に分け入っていく。
シルヴェイラ(ka0726)とエルティア・ホープナー(ka0727)は、貴族たちの護衛に付いていた。
「狩りにハンターを狩り出すとは、優雅な事だな」
シルヴェイラが零すと、エルティアは肩をすくめた。
「伯爵ともなるとね……シーラ」
「エア、可愛いよ、あ、いや、かっこいいね」
「ん? 何よ」
エルティアは髪を結い上げ首元迄かっちりとしたシャツにハイウエストのパンツスタイル。
「だって護衛も仕事の内でしょう? 動けない格好では意味が無いわ?」(かくり
「どうしたの?」
シルヴェイラは微笑する。
「森の空気は綺麗ね……これが、私の息吹……」
「エア?」
「何てね……らしくないわね。ああもう、シーラ。ユグディラに会いたい!」
「君もか。うーん……会えると良いなあ……。どうしたらいいんだろうね」
ザレム・アズール(ka0878)は、フレデリックと駒を並べて、森の中を進んでいた。
「伯、ユグディラは、最近目撃されるのですか?」
「そうだね。何だか最近、王国で目撃例が増えているらしいよ」
「そうなんですね」
「君は歴戦のつわものらしいが、どこかに所属するつもりはないのかね」
「何かに挑む者。それがハンターだと思うんです。未知の世界だったり、味だったり、敵だったり、謎だったり」
「……味? とは何だね」
「私は副業がシェフなもので」
ザレムは肩をすくめる。
「ほう、そうなのか」
クリスティーナ=VI(ka2328)は、キョウカ=アルカナ(ka3797)を伴って、その後ろから付いていた。
「今日も愛こそ全て……なあ、キョウカ」
クリスティーナは、キョウカの腰にそっと手を回す。
「クリス様……愛していますわ」
「俺もお前を愛してる……もちろん……」
「私もあなたを愛しますわ」
「良い子だ、キョウカ」
クリスティーナは、キョウカの頬にそっと口付した。キョウカは微笑み、そっとクリスティーナに手を重ねる。ああ……クリス様、本当は、もっと欲しい……でも、今は駄目ね……。でも……帰ったら……きっとクリス様は優しくして下さるわ……。キョウカの脳内に駆け巡るめくるめく想い……女は気が狂いそうな衝動に身を委ね、この平和な時間に身を置く。
「俺の可愛い恋人は今日も一段と綺麗だ」
クリスティーナが言うと、キョウカはハンカチを取り出した。
「クリス様……汗が」
汗を拭いて差し上げるキョウカ。
「そういえば、こうして日中二人で出かけるのも久しぶりだったな…」とクリスティーナしみじみ。
「いいところだ、あいつも連れてきてやれればよかった」とまた恋人の一人であるキョウカの弟を思い出しつつ目を細める……。
「クリス様、今はわたくしのことだけお考えくださいませ」
「キョウカ……罪な女だ」
「ともあれクリス様、あまりご無理はされませぬよう」
二人で歩くとまるで忙しい日常から切り取られたデートのように一瞬感じるも、 あくまでも「護衛」という仕事だと言う事に頭を振るも小さな幸せを噛みしめるキョウカ。
「それでも、こうしてクリス様と外を歩くのは久しく嬉しく思いますわ」
鞍馬 真(ka5819)が、ザレムとフレデリックの傍らにやってきた。
「空気が綺麗ですな、伯爵。やあザレム君」
「全くだ。良い日になったものだ」
「鞍馬」
「君は鞍馬かね。クラスは?」
「闇狩人ですな」
「闇狩人だからな……光の騎士とか、光の戦士とか、他に呼び名はないものかね」
フレデリックが零すと、鞍馬は肩をすくめた。
マリィアは、愛犬のアルファとガンマを伴っていた。苦笑する。
「伯爵閣下。ハンティングの最大の醍醐味をご存知ですか?」
「醍醐味? それは何かな」
「獲物を撃つ瞬間です。命を奪う銃弾を撃ち込む、その瞬間こそ、ハントの醍醐味なのです」
「君は凄いことを言うなあ……。何と言ったっけ?」
「ガンスミス、マリィアと申します」
「マリィア、覚えておこう」
「伯爵閣下」
花が言った。
「この先に家があるようです。人の気配が……」
「ああ、森の住人たちだ。森人たちだな」
「ちょっと話を聞いて来ても?」
「構わんよ」
フレデリックは頷き、花は家に向かって馬を進めて行った。
花は馬から降りると、家のドアをノックした。
「ごめん下さい」
「はーい」
ドアが開いて、娘が姿を見せた。
「どなた?」
「ハンターだがね。伯爵閣下の狩りの伴に来ているのだよ」
「ハンター? まあ珍しい。お父さん! お母さん! ハンターですって!」
ざわざわと、奥から夫婦が姿を見せた。
「ハンターの方ですか?」
「ええ。花と言うんだがね」
「この辺りはハンティングには良いですよ。俺達もまあ、狩りはしますがね。鹿、イノシシ、鳥、熊……狐やアライグマなんぞも出ますがね」
「ほう……」
花は感心した。
「森人、と伯が言われていたが、ここに暮らしているのかい」
「はっはっは。住めば都ですよ。性分なんですなあ……。昔は都会に住んでましたがね。後はまあ、これの婿を探して、日々安穏ですわ」
「邪魔をした。失礼するよ」
「フレデリック様によろしくお伝えくだされ――」
ハクラス・ヴァニーユ(ka6350)は、ひとまず護衛に付いていた。鞍馬やザレムらと談笑しながら、森を見渡していた。
「うーん……ここはのどかだねえ。ユグディラが出るというのは本当だろうか?」
マリィアがハクラスに応じた。
「子供たちの夢を壊したくないわよね」
「猫の妖精なんだよね?」
「そうみたいね」
「まあ……ここなら出てもおかしくなさそうだが……」
「ハクラス君、ユグディラは、王国にしか住んでいないらしい。何ゆえかは知らないが」
鞍馬が言うと、ザレムは肩をすくめた。
「不思議な生き物だね。もしかして、王国の守護幻獣か何かなのかもね」
「夢のある話だね」
ハクラスはくすくすと笑った。
「ともあれ、ユグディラは実在するわけだから、お目には掛かりたいものだがね」
その時だった。
「にゃあああああ~」
どこかから猫の声がする。どこだ?
ハクラスが見上げると、木の上に、藁で編んだベストを着て藁靴を履いた白い猫がいた。
「にゃにゃん♪」
ユグディラは枝の上でくるりと一回転した。
「ユグディラ……?」
「あれが……」
マリィアの愛犬たちがバウ! バウ! と吼えると、ユグディラは「にゃにゃにゃ!」と逃げて行った。
「ちょっと、アルファ、ガンマ、吼えちゃ駄目でしょ」
マリィアは愛犬たちを撫でまわして、落ち着かせる。クウウウン……アルファとガンマはすり寄ってマリィアの顔を舐めまわした。
「こらっ、二匹ともおとなしくしなさいってば」
「はっはっは……。犬の方が驚いた様子だね」
フレデリックは面白そうだった。
マクシミリアン・テオール子爵、アルバート・セシル子爵、ベン・ブラック子爵、キャサリン・シャイル子爵夫人、クラーク・ゲインズ子爵らは、それぞれに語り合っていた。
「あれがユグディラなる生き物か……」
テオール子爵が言うと、
「王国の吉兆か、災いか……」
セシル子爵が眉間にしわ寄せ。
「平和と言うことでしょう。妖精が闊歩するのは」
ブラック子爵が応じ、
「かわいいですね。我が家で飼いたいわ」
シャイル子爵夫人が微笑み、
「ううむ……幻獣が出現するとは……この地に侵略する気か?」
ゲインズ子爵が思案顔だった。
「見たかい、エア?」
「ええ、シーラ。ユグディラなのね……可愛いわねえ……」
シルヴェイラとエルティアは、ユグディラが消えて行った方角を見ていた。
「花さん、見ましたか? ユグディラ」
ハクラスの言葉に、花は微笑んだ。
「ああ……アルスが喜びそうだ。本当に出るんだねえ」
クリスティーナは、キョウカからもらった水を口に含んで、言った。
「キョウカ、ユグディラは欲しいか?」
「捕まえて下さるの? いいえ、クリス様……そのような残酷な。止めて下さいませ。私にはクリス様がいらっしゃれば十分ですわ」
「そうか……。しかし、太陽が暑いな……。キョウカ、お前も水分補給を忘れないようにな」
「ありがとうございますクリス様」
「もっとも、ユグディラより、俺にとってはお前の方が命だ。それこそ燃える……幻想……ハートのな」
「いやですわ。わたくし、幻想などではなく、クリス様の中に住みたいのです」
「キョウカ……愛い奴。俺の心を独占したいか」
「わたくし……叶わぬと知っても、本心を言えば……独占したい……こうして二人きりでいれば、わたくしだけを見て頂きたいのです」
「今日は、お前しか俺の目には映らぬ」
「クリス様……」
キョウカはクリスと手をつないだ。
「伯爵」
マリィアは、望遠鏡で、小川の水を飲んでいる鹿を発見した。
すでに全員徒歩である。マリィアは手を上げて、全員の動きを止めた。
鹿は平和に、水を飲んで、首を動かしていた。
「ハンティング……自分で狩った獲物を楽しむってことよね。熟成期間が置けないのは残念だけど、ちょっと楽しみだわ。……今回の仕事、勢子ってわけじゃないみたいね。ふふ……」
マリィアは微笑した。愛犬二匹は待機。
「どれ……ではまず私から」
フレデリックが進み出た。猟銃を構える。マリィアは呼吸を止めた。そして――。
銃声が響き渡る。鹿は倒れた。
「アルファ! ガンマ! 行け!」
マリィアは愛犬を解き放った。アルファとガンマは駆けだした。ややあって、ワン! ワン! と声がする。
「やったな」
フレデリックは笑った。
「お見事です」
マリィアは歩いて行った。鹿は一発で倒れていた。伴の騎士たちがやって来て、鹿を担ぎ上げる。あとで捌いて貯蔵室行きだろう。
それから、ハンターたちは森の中を散策していった。
「エア、ご覧。あそこにも鹿が」
「シーラ、あなたが撃ちなさいよ」
「エアと弓の腕を競うのも楽しみなんだけどな」
「仕方ないわねえ……」
「それ!」
二人は矢を放った。命中! 駆け寄るシルヴェイラとエルティア。鹿は倒れていた。矢は二本とも突き刺さっていた。
「腕は鈍って無いね」
「そっちこそ」
ザレムは、貴族や騎士らと談笑しながら、森を進む。
鞍馬もまた、矢を番えていた。
「狩り……か。また違った雰囲気だな。マリィア?」
「しっ……あそこ見て?」
マリィアは、望遠鏡を向けた。
「何だ?」
「兎よ」
「見えるのか?」
「ほら」
マリィアは望遠鏡を鞍馬に渡した。
「あそこ」
「あ、ほんとだ。よおし……」
鞍馬は弦を引き絞った。射撃。矢は兎に命中した。鞍馬は歩いて行って、兎を持ち上げた。
「やったよ」
「それもご飯になるわね」
フレデリックは、花とハクラスとともに、進んでいた。傍らには、花の愛犬二頭がいる。
「狩りもたまにはいいだろう? モンスターとばかり戦っていたら、疲れるだろ?」
「全くです」
花は苦笑する。ハクラスはのんびりしたものだった。
「私など、これが初めての依頼ですからね」
「そうなのか? それはまた……奇遇だな」
と、そこで花が皆を制止させる。
「木の上に、野鳥が」
「ん? ああ……」
ハクラスは、肩をすくめた。
「花さん?」
「では、私が仕留めてみようか」
愛犬は待機。花は、野鳥に狙いを定めた。――銃声がこだまする。野鳥は落ちた。愛犬たちが駆けだす。
「やったな」
フレデリックが花の肩を叩いた。
三人は歩いて行って、仕留めた野鳥を確認する。愛犬たちが待機している。花は愛犬を撫でてやると、猟銃を肩に掛け、野鳥を取り上げた。
「お見事だね」
ハクラスが微笑んだ。
「アルファ、ガンマ……久々に本当の狩りよ! こっちに獲物を追いたてていらっしゃい……行けっ!」
マリィアは、鹿の群れに向かって愛犬たちを解き放った。
駆け抜けるアルファとガンマ。鹿の側面から、回り込むように走っていく。異変を察知した鹿達が、動き出す。
貴族たちは猟銃を撃った。子爵たちは一般人だ。熟練ハンターほどの正確さはない。鹿相手に外すこともある。鹿が逃げる。
マリィアは、威嚇射撃を連射する。びっくりした鹿の足が止まる。
貴族たちは、この機に乗じて、鹿の群れを次々と倒した。
騎士たちから歓声が上がる。
「お見事!」
貴族たちは満足そうだった。
「さすがはハンターだな」
テオール子爵が、豪放快活に笑って、マリィアの肩を叩いた。
「ハンティングの楽しみを経験していただく方が先ですから。食べるより当てる楽しみをご堪能下さい」
「存分に堪能したよ。はっはっは!」
ハンター達は、ハンティングに赴いた者たちは、それぞれに獲物をしとめ、森を散策した。
スカーレットら夫人たちは、ピクニックに興じていた。パラソルを開いて、シートを敷いて、持参したお弁当を広げる。水辺では貴族の子弟たちが水遊びに興じている。
そんな様子を傍目に、ノーマン・コモンズ(ka0251)は、草むらに寝そべっていた。シャルア・レイセンファード(ka4359)が傍らにいる。
ノーマンはシャルアを見上げ、思う。人との関わりなんて上辺だけだった、どんなに求めたって手に入りはしない、だから道化の様のに笑って過ごしてきた。だけど彼女は何なのだろう、捨て去ったはずのぬくもりを求める心を思い出させる、彼女は僕に与えてくれる者なのだろうか?
シャルアは、(ノーマンさん、女性とお出かけするのは初めてって言ってましたね。あたしでよかったのかなぁ……でも、一緒にゆっくりしたいなぁ)などとのんびりと考えていた。
「あの、ノーマンさん……て、昔は何をしていたんですか?」
来たか。ノーマンは心中で零した。でも……。
「僕はね……とある人物を守る為の駒として、貧しい家庭から買い取られたんですよ」
「買い……とられた?」
「そこからね……修練を重ねる日々を過ごしてきました……。だからさ、戦う事の基本は身についている。ある意味、狂ってるんです」
「そんな……こと。ないですよ」
「もう元には戻らないんですよ。ぐにゃぐにゃにねじ曲がったこの人格も、温厚な皮を被った残忍さも……。時々止められない……。自分の中の破壊活動のスイッチが。戦って、戦って、殴り合う事が楽しくて仕方がない。みんな、ぶっ壊して……僕もみんなも、みんな、壊れてしまえばいいって……。だから……さ、狂ってるんです」
きゅっ……! と、シャルアはノーマンを抱きしめた。
「そんな……ことないですっ。みんな……狂ってるんです……。同じですよ。あたしだって……あたしだって……どうにかなってしまいそうな時がある」
「シャルアさん……」
「ん……よしよし」
シャルアは、ノーマンを撫でていた。
「はっ!? お話しを聞いたら撫でたくなってしまってつい撫でてしまいました。ごめんなさい!」
「別に良いですよ」
ノーマンは笑った。
「わぁ、コモンズさん、髪さらさら……もう少し触っていてもいいですか? でもでも、このままだと触りづらいので膝枕とかどうでしょう?」
「シャルアさんがいいなら、甘えちゃおっかな」
ノーマンは、シャルアの膝に、頭を乗せた。そのまま彼女のぬくもりの中へ……落ちた。
「ノーマンさん……? むぅ………? 眠ってしまいました……?」
シャルアは、ノーマンの髪をそのままいじって、微笑んでいた。
「コモンズさん寝ちゃった……起こした方がいいのでしょうけど、もう少しだけ」
…………。
かくり。
「……!?」
シャルアは赤面した。ノーマンの寝顔を見てたら、自分も寝てしまったのだ。
ふっと、何かが離れて行った。ノーマンのぬくもり……?
「ノーマンさん?」
「寝てましたね、シャルアさん(笑」
「いやだ……あたしったら」
ヨハナは、子供たちと弾けていた。
「おお! ピクニックかー! 美味しい食べ物いっぱい食べて、いっぱい遊んでいっぱい楽しむのだ!」
子供たちと水を掛けあいっこ。
「こうしているとなんだか……昔を思い出すのだ」
「ヨハナちゃ~ん! 見て見て~! お魚がいるよ~!」
「おお!」
ド田舎に住んでいたヨハナにとってピクニックは昔を思い出す感慨深いイベントであり、それを思い返しつつも楽しむのであった。
スカーレットが歩み寄ってくる。
「はい、ヨハナさん。サンドイッチをたんと召し上がれ」
バスケットには沢山のサンドイッチ。
「ママ~! 僕も食べる!」
ウィリアムが駆け寄ってくる。
「ヨハナ! 一緒に食べよう!」
「おっす! 食べちゃうぞ~! ……! う、うまい! このサンドイッチうまい!」
「お気に召したかしら?」
「は、はい! ありがとうスカーレット!」
ヨハナ元気いっぱい。
そんな木陰の木の上にはエルティアの姿が。ハンモックを吊るして、ゆったりしている。
シルヴェイラのお手製お弁当が御馳走だ。
……さて、どうかな。エアが苦手なピクルスと甘く煮た人参は細かくしてわからない様にして入れておいたけど……。
「好き嫌いは良くないからな」
シルヴェイラは言って、エルティアに料理を勧めた。
「おいしい……けど、シーラ……細かくしたってダメよ。私の嫌いなモノ、入れないでって言ったでしょ?」(むぅ
頬を膨らませるエルティア。
「ごめんごめん。ご機嫌直しに、手製の珈琲でもどう?」
「仕方ないわねえ……許してあげる」
エルティアは肩をすくめて、美味しい珈琲を飲んだ。
ザレムは、御夫人らと語らいながら、御握りと色々お弁当を広げていた。
「定番のトリカラはハーブ味の衣。コールスローは取り易い様にミディトマト詰めてあり一口でパクリと幾つもいけますよ~。夏野菜の煮物はあっさり王国風……汁がこぼれない容器なんですよ、これ」
「まあ♪ おいしい♪」
御夫人たちからきらきらした目を向けられるザレムシェフ。
「でさ、アシェ-ル(ka2983)の分も……実は……あるんだ(背嚢からお弁当を出す)」
アシェール歓喜。
「やった~! ザレムさん好き~♪ これぞ護衛という名のピクニック! 今日はザレムさんのお弁当を味わいにきましたからね!」
アシェールに取って、ザレムはお菓子の師匠であり、一家に一人欲しいお兄さんなのだ。
「アシェールのために、いろいろ作って来たよ」
「うっれしい! 師匠! わあ!」
それはリアルブルーで言うところの幕の内弁当特上。高級肉と旬の魚の焼きもの、夏野菜に水菓子が添えられた美しい品であった。アシェール、わくわくして口に運ぶ。炸裂。ザレムシェフの味覚の洋と和の魔術。
「く……やはり、私の腕ではザレムさんに到底敵わない……何て奇跡だあ(弁当の味)」
アシェール感涙。
クリスティーナはキョウカの膝枕で眠っていた。キョウカは嬉しそうだった。
「時間が止まれば良いのに……」
光が差し込む。「ふふ……」とキョウカは悪戯っぽくクリスティーナの眉をいじっていた。
四弦黒琵琶の音色が響き渡る。エルである。貴族の子供であっても、琵琶は珍しい楽器であった。子供たちは、ぼーっと、琵琶の音色に聞き入っていた。その目はきらきらしている。
「ねえねえエルさん! 次は魔法を見せてよ!」
「はい、それでは! ええい!」
エルは腕を一振りすると、ピュアウォーターで泥水を清水に変えて見せる。
「すごーい! やっぱり魔法って奇跡だわ~!」
「さあ、次は、風の魔術です!」
腕を一振り。ウインドガスト。子供たちが寄ってくる。「魔法掛けて掛けて~!」エルはウィンドガストを使いきった。魔法に付いて聞かれたエルは、マテリアルや精霊の話を子供たちに聞かせる。
Gacrux(ka2726)は、貴族の親たちから了承を得て、子供たちの相手をしていた。龍鉱石もあげた。特に男の達。木の棒で剣の稽古を付けた。
貴族の子供達は、それはもう本気で打ちかかってくる。
「えい! やあ!」
Gacruxは子供の相手を余裕でしながら、怪我をさせないように、細心の注意を払っていた。自ら負ける真似もする。
「ええい!」
と打ちかかって来た子供の棒を受けて、がくりと膝をつく。
「す、凄い力だ……私には耐えきれませんねえ……」
「Gacruxよ! どうじゃ、そこの騎士とし合ってみてくれんか? 我が家の騎士じゃ!」
子供が、一人の騎士を指名する。
「それでは……」
Gacruxは立ち上がり、その騎士と打ち合った。御夫人たちがやんやの拍手を送る。Gacruxは剣士の礼儀と節度弁え、左手を後ろに剣の打ち合いを行う。Gacruxと騎士は華麗に剣撃を交わした。ひゅん! と、Gacruxの一撃が飛び、騎士が弾き返した。
「貴公、かなりの腕と見た」
「いえいえ……」
Gacruxはお辞儀して、納刀した。子供たちから歓声が上がる。
「見事なものですな」
鞍馬が言うと、フレデリックは笑った。
「ハンターはつわものぞろいだな。噂には聞いているよ。北の災厄のこともね……ここは平和だが……」
「伯には、無関心ではありませんか?」
「そう見えるかね? 見えるかも知れんな。はっはっは……」
マリィアは、銃を磨きながら、ザレムの差し入れ料理をつまんでいた。
「……ま、こんなところかしらね」
花は、アルスの様子をちらちら見やりながら、ピクニックを楽しんでいた。
ハクラスは、シャルアのもとへ歩み寄った。
「シャルア」
「ハ、ハクラスさん」
「ふふ……何を慌てているのかな。楽しそうだね」
「ハクラスさん」
ノーマンは顔を上げた。
「二人とも、仲の良いことだね」
ハクラスは微笑して、夫人たちの輪に入っていく。
「あら、優しそうなお方――」
その時だった。ユグディラが姿を見せたのは。
いつの間にか、茶色のユグディラがアシェールのお弁当を食べていた。
「にゃ♪」
「ザレムさん……実は、私……って! ああ!? ユグディラァ!」
ユグディラはけらけら笑って逃げ出す。
「待てぇ! それはわたしの肉~!」
アシェールはダイブ特攻した。
「捕まえました!」
しかしふわもこのユグディラが、するりとアシェールの手から抜け出して行く。
「にゃにゃにゃあああ~♪」
「ああ……わたしの肉~」
「あれはユグディラ?!」
ザレムはやや驚いた様子。いつの間にか、自分達の周りにユグディラが数匹集まっている。
「にゃあああああ!」
「アシェール!」
ザレムはアシェールを呼んだ。
「ああ! 泥棒が沢山!」
「アシェールは猫は好き?」
「嫌いじゃないですけど~。こんな普通に来るなんて~……」
ザレムはユグディラに声をかける。
「やあ、一緒にお弁当をどうだい?」
「にゃあああああ!」
「食べる?」
「にゃあああああ!」
ザレムは一緒にどうかと弁当やオヤツを見せる。
「お仲間も呼んできて良いよ」
「にゃああああああん!」
ザレムはユグディラを撫でた。
「俺さ、一人ぐらしなので自炊になったんで、家にも猫を飼っててさ」
「にゃにゃ?」
ヨハナは、水辺に現れた魚をくわえたユグディラを発見。子供たちと大騒ぎ。
「わーわー! 妖精さんなのか? 妖精さんなのか!?」
黄色い毛並みの赤い花のネクタイを付けたユグディラは、よっこらしょ、と岩場に腰かけ、魚をむしゃむしゃと食べ始めた。
ヨハナは子供たちと近くで観察。
「にゃああああああ~」
エルティアは、弁当をねだる人懐っこいユグディラに餌をあげていた。
「ユグディラの生体……気になるわ」
「にゃ♪」
緑色のユグディラは、おかずをもらうと、とことこと歩き出した。エルティアは追跡。
「エア?」
シルヴェイラが付いて行く。
「何か面白い物が見つかるかもしれないでしょう?」
と、ユグディラがさっと動いて消えた。
「あれ? 消え……た?」
エルティアは辺りを探したが、ユグディラを完全に見失った。
「エルちゃ~ん! ユグディラだよユグディラ! たっくさん来てるの!」
エルは子供たちに呼ばれた。
「わあ……」
森の中から、色んな藁の服や帽子、靴を着た色とりどりのユグディラたちがやって来た。
「言葉は分からなくても感じるものなのどうにかなるのっ……多分?」
ディーナは持っていたユグディラのための餌を全部取り出して、近づいて行った。
「ふわもこは正義なの、是非是非お近くでお会いしてブラッシングさせたいただきたいの~」
猫じゃらしとブラシを握りしめて力説するディーナ。
ユグディラがわらわらと寄ってくる。ユグディラ餌をもらって決めポーズ。
「にゃあああああ!」
ブラッシングせよということだろうか……。
「ぷにふわ愛くるしすぎなの~」
貢ぎつつ恍惚するディーナ。周りのユグディラをブラッシングする。
「にゃにゃああああ~♪」
ディーナの脳裏に、ふしぎなきらきらしたイメージが湧いてくる。きらきらきらきら……。
「ふわあああ……何ですかこれ?」
ディーナはうっとりして微笑んだ。
アルスはフレデリカとウィリアムらとともにユグディラにダイブ。
「フレデリカちゃん~、ウィリアムちゃん~、ユグディラがこ~んなに沢山!」
「うわ~凄いな~!」
「にゃあああああ~?」
「いじめないし、驚かせないよーにがんばる……けど、もふもふしてみたいの……誘惑されちゃうにゃぁ」
アルス、おやつと 手鞠、タンバリンを持って接近。
「歌って踊って、手鞠であそぶの~♪」
ファミリアアタックで虎猫とパルムがダイブ。ユグディラと戯れるペット。アルスもタンバリンを鳴らして、手鞠でユグディラと戯れる。
「にゃあああ~」
「にゃにゃあああ~」
「にゃにゃにゃ~♪」
ユグディラたちと子供達の平和な光景が広がる。
鞍馬と花は、その様子を遠巻きに見ていた。するする……と、二人の肩にユグディラが上ってくる。
「へえ……こんなことがあるんだな……」
鞍馬はユグディラを撫でてやった。
ハクラスも、ユグディラに花を摘んでやった。
「あなたがユグディラですか」
ハクラスはにこりと笑った。
「にゃ♪」
そして――と、「にゃにゃあああああ!」と鳴き声の大合唱が沸き起こって、ユグディラたちは一斉に森の中へとかき消えた。
……夢? いや、ユグディラは確かにいるのだ。
子供達には夢のような時間だった。ユグディラが消えて、そして、ピクニックが再会する。
それは、ここ、王国南部、サーラトリアでも。
サーラトリアで、ハンターたちは束の間の休息を得るのだった。
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相談卓 ハクラス・ヴァニーユ(ka6350) 人間(クリムゾンウェスト)|24才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/07/01 18:19:44 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/07/04 23:32:33 |