ゲスト
(ka0000)
【詩天】風の戯れ
マスター:鷹羽柊架

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/07/09 15:00
- 完成日
- 2016/07/14 06:19
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
東方のとある地方にある千早城。
現在、楠木家は前当主の娘が長となり、城を治めている。
度重なる歪虚との戦にて武家としてその力を衰退させているのが実情であるものの、若き当主は娘ながらに武器を持ち、兵を率いては雑魔討伐や他の家の兵との演習に積極的に参加していた。
愛らしい姿と臣下、民を守ろうとする凛々しい武士の心構えに人望は厚い。
私室にて香は手紙を読んでいると、楠木家の老臣である新田勝久が姿を現す。
「香様」
「爺、ご足労だった」
読んでいた手紙を膝の上に置いた香は新田の顔を真っ直ぐ見て労わった。
「幕府より文が届いたと聞きました」
新田の声に香は一度頷く。
「詩天へと向かうようにとあった」
「詩天ですと……!」
声を荒げてしまう新田に香は傍らに置いてある手紙を手に取った。
「大川殿より打診をもらった件といい、物事がこうも重なるとはな」
そっと呟く香の表情は曇っている。
香の手の中にある手紙の差出人は詩天を統治する三条家が臣下、大川真次郎匡彦である。
内容は兵の派遣だった。
詩天の話は聞いており、応えたいと香は思っている。
だが、この地もまた、歪虚の襲撃に遭っており、その傷跡は香が何故若くして城主となったのが分かりやすいだろう。
簡単に兵を出せるかどうか判断がつかない、しかし、思いに応えたい。
「爺、詩天に行こうと思う」
観光ついでの思いつきの様子などではない、真剣な顔で香は思いを口に出す。
「香様、なりません……今、あの土地は……」
「爺、分かっている。そこにもまた、力なき民がいるのだ」
「香様……!」
新田が止めるのは香も理解していた。
「爺、私は千早城を……城下の民を守る者として、詩天の状況をこの目で見極めたい。行かせてほしい!」
語気を強め、真摯な黒い瞳が新田を真っ直ぐ見つめる。
「お一人で行かせる訳には行きません」
「大仰な共をつけて行っては調査に差し支える」
新田が妥協しようとすると、香は応じようとしない。
「一人の人間として、詩天を見極めたい。頼む」
熱心な香の言葉に新田はため息をついて肩を落とした。
手紙をもらってから数日後、香は一人で詩天の道を歩く。
梅雨時期の東方は何かと雨が多いが、今日は久々の晴れの日であった。
雨が降った後の晴れ間ゆえか、やたらと蒸し暑い。
もう、視界には詩天の街が見えてきた。
詩天の首都、若峰はにぎやかな街と香は眺めていた。
自分がいる場所とは違うことを思うと、自然と香の足取りは軽い。浮ついた気分がないとは決していえないのだが、香は調査に乗り出す気満々である。
しかし、結構な道を歩いて香は喉の渇きを覚える。
どこか適当な店でお茶を頂こうと思った矢先だ。
物がひっくり返るような音が響き、どよめきと共にその場にいた人々の視線を奪う。
「なにするんだ!」
叫んだのは少年の声。
「人の通行の邪魔をするなよ」
少年を小ばかにするように言ったのは浪人であり、同行していただろう数人の浪人達が転がっている少年に対して笑っていた。
「返せ! 大事な物なんだ……いてて……」
威勢のいい少年の声に浪人達は「取り返してみろよ。へへ」と言って歩き去ってしまう。
浪人達の姿が見えなくなった頃、人だかりを掻き分けた香が少年へと駆け寄る。
「大事無いか」
香の気遣う声に少年は「平気……」と返す。
店の軒先においてあった竹の長いすへ突き飛ばされて椅子がひっくり返ってしまったようだった。
「それよりも、旦那様より言いつかった物をとられてしまったんだ……」
困ったようにしょんぼりとする少年に香は悲しそうに眉を下げてしまうと、意を決したように、少年へと向き直る。
「私が取り戻そう」
「え、お姉さんが?」
きょとんとする少年に香は頷いた。
「お嬢さん、危ないよ!」
「そうだよ。可愛い顔に傷なんかついたら、親が悲しむよ」
周囲の野次馬達が香を心配して声をかける。
「おい! 即疾隊だ!」
一瞬にしてざわめく周囲は逃げるように道を空けていく。
隊を名乗るわりには衣服はバラバラ。鉢金を巻いており、香はその紋に心当たりがあった。
この地を統治せんとする三条家の紋。
治安部隊なのだろうかと香は思案する。
即疾隊の者達は香を見て何か言い合っているようであった。
「どうかしましたか」
隊士が尋ねると、少年はびくっと、肩を竦めて怯えてしまう。
「この子が大事な使いの品を浪人に奪われたそうだ」
「お、お姉さん……っ」
関わっちゃだめだと言いたげに子供は香の袖を引っ張るが、彼女はそのまま話を続ける。
「手伝おう」
隊士の言葉に子供がきょとんとなる。
「頼む。少年、奴らの居所は分かるか?」
香が言えば、少年は知っていると頷いた。
丁稚少年の案内で浪人達の居所へ向かうと、小走りで走る男と鉢合わせた。
「即疾隊……?」
端正な顔をした男は即疾隊を見て目を細めて睨む。
「風待の親分さん!」
丁稚少年は顔をぱっと輝かせて、事情を話す。
「そいつはぁ、大変だなあ、お前さん方も手伝うってぇのか」
風待の親分と呼ばれた男は目を丸くする。
「じゃぁ、共同戦線と行こうじゃねぇか!」
親分の声に全員が頷いた。
現在、楠木家は前当主の娘が長となり、城を治めている。
度重なる歪虚との戦にて武家としてその力を衰退させているのが実情であるものの、若き当主は娘ながらに武器を持ち、兵を率いては雑魔討伐や他の家の兵との演習に積極的に参加していた。
愛らしい姿と臣下、民を守ろうとする凛々しい武士の心構えに人望は厚い。
私室にて香は手紙を読んでいると、楠木家の老臣である新田勝久が姿を現す。
「香様」
「爺、ご足労だった」
読んでいた手紙を膝の上に置いた香は新田の顔を真っ直ぐ見て労わった。
「幕府より文が届いたと聞きました」
新田の声に香は一度頷く。
「詩天へと向かうようにとあった」
「詩天ですと……!」
声を荒げてしまう新田に香は傍らに置いてある手紙を手に取った。
「大川殿より打診をもらった件といい、物事がこうも重なるとはな」
そっと呟く香の表情は曇っている。
香の手の中にある手紙の差出人は詩天を統治する三条家が臣下、大川真次郎匡彦である。
内容は兵の派遣だった。
詩天の話は聞いており、応えたいと香は思っている。
だが、この地もまた、歪虚の襲撃に遭っており、その傷跡は香が何故若くして城主となったのが分かりやすいだろう。
簡単に兵を出せるかどうか判断がつかない、しかし、思いに応えたい。
「爺、詩天に行こうと思う」
観光ついでの思いつきの様子などではない、真剣な顔で香は思いを口に出す。
「香様、なりません……今、あの土地は……」
「爺、分かっている。そこにもまた、力なき民がいるのだ」
「香様……!」
新田が止めるのは香も理解していた。
「爺、私は千早城を……城下の民を守る者として、詩天の状況をこの目で見極めたい。行かせてほしい!」
語気を強め、真摯な黒い瞳が新田を真っ直ぐ見つめる。
「お一人で行かせる訳には行きません」
「大仰な共をつけて行っては調査に差し支える」
新田が妥協しようとすると、香は応じようとしない。
「一人の人間として、詩天を見極めたい。頼む」
熱心な香の言葉に新田はため息をついて肩を落とした。
手紙をもらってから数日後、香は一人で詩天の道を歩く。
梅雨時期の東方は何かと雨が多いが、今日は久々の晴れの日であった。
雨が降った後の晴れ間ゆえか、やたらと蒸し暑い。
もう、視界には詩天の街が見えてきた。
詩天の首都、若峰はにぎやかな街と香は眺めていた。
自分がいる場所とは違うことを思うと、自然と香の足取りは軽い。浮ついた気分がないとは決していえないのだが、香は調査に乗り出す気満々である。
しかし、結構な道を歩いて香は喉の渇きを覚える。
どこか適当な店でお茶を頂こうと思った矢先だ。
物がひっくり返るような音が響き、どよめきと共にその場にいた人々の視線を奪う。
「なにするんだ!」
叫んだのは少年の声。
「人の通行の邪魔をするなよ」
少年を小ばかにするように言ったのは浪人であり、同行していただろう数人の浪人達が転がっている少年に対して笑っていた。
「返せ! 大事な物なんだ……いてて……」
威勢のいい少年の声に浪人達は「取り返してみろよ。へへ」と言って歩き去ってしまう。
浪人達の姿が見えなくなった頃、人だかりを掻き分けた香が少年へと駆け寄る。
「大事無いか」
香の気遣う声に少年は「平気……」と返す。
店の軒先においてあった竹の長いすへ突き飛ばされて椅子がひっくり返ってしまったようだった。
「それよりも、旦那様より言いつかった物をとられてしまったんだ……」
困ったようにしょんぼりとする少年に香は悲しそうに眉を下げてしまうと、意を決したように、少年へと向き直る。
「私が取り戻そう」
「え、お姉さんが?」
きょとんとする少年に香は頷いた。
「お嬢さん、危ないよ!」
「そうだよ。可愛い顔に傷なんかついたら、親が悲しむよ」
周囲の野次馬達が香を心配して声をかける。
「おい! 即疾隊だ!」
一瞬にしてざわめく周囲は逃げるように道を空けていく。
隊を名乗るわりには衣服はバラバラ。鉢金を巻いており、香はその紋に心当たりがあった。
この地を統治せんとする三条家の紋。
治安部隊なのだろうかと香は思案する。
即疾隊の者達は香を見て何か言い合っているようであった。
「どうかしましたか」
隊士が尋ねると、少年はびくっと、肩を竦めて怯えてしまう。
「この子が大事な使いの品を浪人に奪われたそうだ」
「お、お姉さん……っ」
関わっちゃだめだと言いたげに子供は香の袖を引っ張るが、彼女はそのまま話を続ける。
「手伝おう」
隊士の言葉に子供がきょとんとなる。
「頼む。少年、奴らの居所は分かるか?」
香が言えば、少年は知っていると頷いた。
丁稚少年の案内で浪人達の居所へ向かうと、小走りで走る男と鉢合わせた。
「即疾隊……?」
端正な顔をした男は即疾隊を見て目を細めて睨む。
「風待の親分さん!」
丁稚少年は顔をぱっと輝かせて、事情を話す。
「そいつはぁ、大変だなあ、お前さん方も手伝うってぇのか」
風待の親分と呼ばれた男は目を丸くする。
「じゃぁ、共同戦線と行こうじゃねぇか!」
親分の声に全員が頷いた。
リプレイ本文
即疾隊の見回り手伝いを受けたハンター達は湿気を含むぬるい風を受けつつ、詩天は州都、若峰の大きな通りを歩いていた。
大きな物音と悲鳴に気付いたアメリア・フォーサイス(ka4111)が反応すると、ハンター達は駆け出した。
行ってみると、少年が倒れており、娘が介抱している。加害者はいない様であった。
「あれ」
反応したのは神楽(ka2032)。
「どうかしましたか?」
状況を聞かねばならないと判断したアメリアが娘と少年に尋ねると、少年の大事なものを浪人に奪われたと説明があった。
「やっぱ、姫っすよね?」
神楽が三條 時澄(ka4759)の背後から顔を出す。
姫と呼ばれた香は既知である神楽の顔を見てぱっと、顔を明るくさせる。
「神楽殿。久しぶりだな、息災で何より」
「いやいやいや! 一人っすよね!? こんなところにお忍びの息抜きにしちゃ領地から離れっすぎっす!」
ぎょっとなる神楽に香はとりあえず、神楽を落ち着かせて話を進める。
「はじめまして、私はアメリアといいます」
少年の目線に合わせて挨拶をしたアメリアに少年は目を丸くする。
「あ……とう、じ……冬治です」
「薬はお姉さん達が取り戻してあげます。だから安心してください」
穏やかなアメリアの声に冬治は目を丸くしてこくこく頷く。
「悪い人は出てきちゃうんだね」
ため息まじりのステラ=ライムライト(ka5122)の言葉にこの街なら仕方ないと困ったように言うのは和音・空(ka6228)だ。
「じゃあ、奪還といきましょ」
守原 由有(ka2577)が言えば、丁稚の少年が塒を知っていると答えて皆で向かった。
移動中は冬治より、浪人の話を聞いていた。
丁稚奉公している店の旦那様は気がいい人で、知り合いの飲食店で店員の女性にちょっかいをかけていた浪人達を窘めたそうだ。
周囲の白い目や、近隣に番所があったせいもあって、その日は収まったが、逆恨みをした浪人達は旦那様の店へ嫌がらせをすることが多くなったと冬治は言う。
「人助けをしたのに逆恨み? 反省してもらわないと」
ぱっちりした目を細める空に同意するように香が頷く。
「あ、風待の親分!」
冬治が顔を輝かすと親分は即疾隊の姿を見て警戒するような表情を見せる。
「私たち、冬治君のお手伝いをしに同行してるんです」
ステラが声をかけると、風待は目を瞬いた。
更に冬治が説明をすると、風待はよしと手を打つ。
「じゃぁ、共同戦線と行こうじゃねぇか!」
親分の声に全員が頷いた。
急に塒に行っても、裏目に出かねないため、様子を見つつ、打ち合わせる。
「親分は岡っ引きですか?」
香の素朴な疑問に風待は首を横に振る。
「俺ぁ、しがねぇ渡世人です」
にんまり笑う風待に、そっちのひとかと由有は納得した。
「風待の、警告の際に薬のことは……」
時澄の言葉に風待は頷く。
「あっしはあいつらが飲み屋でツケを踏み倒して、そこの親父さん殴ったことに腹立ててきたんだ。そこは黙ってるさ」
更に悪さをしていたことにアメリアが呆れた表情を見せる。
「じゃ、警告は親分に決めてもらいましょ」
空が言えば、ハンター達は頷いた。
皆でばらけて配置についている時、神楽は香を心配そうに声をかけた。
「……何かあったら家臣と領民と全俺が泣くから安全第一で頼むっす!」
神楽の気遣いに香はくすりと、微笑む。
「心配性だな、神楽殿は。確かにこの身は私一人ではないからな。気を付けよう」
「俺はここでサ……ごほん。逃亡とかがないように見張ってるっす」
数名の視線に神楽は即座に言い直す。
「お姉ちゃん達いったけど、大丈夫かな……」
心配そうに言う冬治にアメリアが微笑む。
「大丈夫ですよ。あんな人達に負けません」
安心させるように返すアメリアの両腕で掴んでいるのは漆黒のライフル。
「見てるっすよ。即疾隊っていうのも、姫もやるっす」
神楽が言えば、風待が開けっ放しのあばら家の戸口に立った。
人の姿に浪人達は胡乱な目を向けて、値踏みをする。
前にいるのは渡世人らしき男と、若い浪人と女が数人。
「つるむネズミがお揃いで?」
風待が言えば、浪人達が睨みを利かせる。
「なんだ、お前らは」
「あっしは、風待。若峰の街を荒らす、浪人集団とお見受けいたしやす」
低い声が響くと、浪人の一人が鼻で笑う。
「だから何だ」
「町を荒らしてるのは即疾隊じゃねぇか」
一人の浪人が野次を言えば、「そりゃそうだ」と笑う。
「若峰の町民を脅かすあんた達を番所に引き渡すために来やした。素直に応じるもよし、抵抗するとなりゃ、容赦はご勘弁を」
姿勢を低くする風待に浪人達は舌を打ち、数人が鯉口を切る。
「痛い目見たいようだな」
「どうなっても知らないぞ」
刀身をチラつかせば恐れられると思ったのだろう。しかし、彼らは怯みはしない。
「身ぐるみ剥がしてやっちまえ!」
浪人達が鞘より刀身を抜く。日の光を反射する刀の輝きは人の本能を脅かす。
軽やかに一歩踏み出したのは由有だ。
「女。やめてほしくば、すぐに言えば、可愛がるだけで済ませてやる」
由有の身体を舐めるようにゆっくり見下ろす。黙ってその視線を受けた由有は迷わずジェットブーツを発動させて、浪人が瞬きをする事も許さなかった。
息を詰めた浪人はそのまま、鼻の穴からの圧迫感と衝撃に頭の中が真っ白になる。
次の瞬間には大柄な浪人の身体が宙を浮いていた。
地面に叩きつけられた浪人の鼻は血で真っ赤であり、伸びてしまっている。
「やるな」
風待が囃すように言えば、由有は微笑む。
その現場を見ていた浪人はステラへと向けられた。幼く華奢な娘で、手に持っているのが木刀ならば、と思ったからだろう。
大人しく木刀を構えているステラに浪人は勝機を見たのか、人質にしようと手を伸ばす。
大きく息を吸い込み、ぱちっと、瞬いた青い瞳に強い意志が灯った。
ステラは木刀を素早く振り降ろし、伸ばされた浪人の手を木刀で打つ。
「うっ、こいつ!」
鈍い痛みに手を引っ込めた浪人は刀を抜き、突きの姿勢となってステラへと向けられる。
ステラは半身の姿勢となっており、武器を水平に構えた。
浪人が構える余裕など与えず、ステラは一気に間合いを詰めて一撃をくわえる。
疾風剣をくらった浪人はそのまま悶絶して倒れる。
浪人達は自分が対峙している連中が覚醒者であることに気づく。
一人ではやられると判断し、だんまり立っていた空へ二人の浪人が向かう。
小柄な小娘ならばと思ったが、空は顔を上げて浪人達をまっすぐ見る。
「最終警告よ」
空が静かに凛とした声を上げた。
「このまま引き下がるならよし。そうでなければ容赦しないわ」
真面目な顔の空を見た浪人達は顔を見合わせて口端を笑みに歪ませる。
「そんなわけねぇだろ!」
「二対一なら!」
浪人達は獲物を振り上げて空へと斬りかかった。
耳元で騒がしい声を聴いて、空は符を空中へと投げる。
ひらり……と、中空を舞う符は、紫電を纏い、瞬時に稲妻へと変化を遂げ、二人の浪人へと落とされた。
覚醒者ではなかっただろう、浪人達はそのまま白目をむいて倒れてしまう。
やりすぎという言葉がよぎったが、身体をひきつかせている状態からして、生きてはいたので、暫くは気を失っていることだろう。
その一方、香が一撃で浪人の刀を飛ばしていた。刀の切っ先を浪人の鼻先に突きつけている。
戦況を見極めていた時澄であったが、そんな暇がなくなってしまっていた。
相手の浪人は覚醒者であったようで、時澄と間合いを測り、睨み合いをしている。
二人がにらみ合っていると、相手は時澄に対し、半身の姿勢を取った。
その技のタイミングを計った時澄は即座に斬りかかり、素早く踏み出す。
攻撃を繰り出すのは敵の方が速かった。
時澄が選んだのは敵の退路を断つ事。
肩を斬られた時澄の刃は浪人を捉え、浪人もまた、退路がない事に気づく。足を斬られた浪人はその場に膝をつき、痛みを堪えている。
後方にいたアメリアが空の名を叫ぶ。
直感視を発動していたアメリアに違和感が本能に訴えていた。
危険という名の違和感を。
「周囲の生命反応を確認してください!」
空は即座に対応し、術を展開した。
風待と対峙していたのは浪人二人。
しかし、その片方の様子がおかしいとすぐに気づく。
浪人はガクガクと身体を震わせる。
頭は空を仰ぎ、目は白目を剥き、口を大きく開けて刀を握っている右腕を大きく回していた。
「お、おい……」
もう一人の浪人も様子に気づき、声をかける。
様子がおかしい浪人の右腕がはち切れんばかりに膨れ上がっていく。
「どういうこと……」
慌てるように周囲を見やったのは空だ。他に捕縛する相手がいないか符を展開して確認をしていたのだ。
今眼前にいるはずの生命の数が足りない。
ひとつ、たりないのだ。
ぞっとする回答をみつけた空が叫ぶ。
「そいつ、歪虚化してる!」
ハンター達の視線が一気に様子がおかしい浪人へと向けられる。
「おい、逃げろ!」
風待が叫ぶと、浪人は腰を抜かしてしまって動けないようだ。
歪虚化した浪人はもはや、腰を抜かした浪人が仲間だったことも忘れてしまったかのように刀を振り上げる。
「ひぃいいいいいいいいいいい!」
断末魔の声を上げる浪人に凶刃は落ちることはなかった。
歪虚化した浪人の右腕は一発の銃弾と、三つの光を撃ち込まれていた。
二つの方向より動きを疎外されても刀は振り降ろされており、凶刃を風待が受け止めている。
精神統一をしたステラが腕を切り落とすべく、一撃を入れるも、その腕を切り落とすのは容易ではなかった。
香は浪人の襟首をつかんで無理やり移動させようとする。
「離れて!」
空が叫ぶと、風待とハンター達は歪虚化した浪人より離れた。
風雷陣が発動されて、稲妻が歪虚化した浪人へと落とされるが、身体を引きつかせて動きが鈍くなるものの、さほどダメージはないように見える。
MURASAMEを構えたステラがもう一度歪虚化した浪人へ一撃を加えるも、浪人はものとせずに、ステラへと斬りかかり、腕を斬られた。
「きゃあ!」
短い悲鳴を上げるステラは地を滑る。に香がステラを庇うように浪人へと一撃を叩くも、浪人の右腕が横へ振られ、香の側頭部を思いっきり打った。
地を這う香の頭に血が流れ、白い細面に赤く汚れる。
「姫!」
高みの見物を決めていた神楽だが、香がやられた姿を見て走り出した。
「そろそろ、手伝わないと不味いっすね!」
呑気に言っている神楽であるが、顔をしかめて走り出している。
戦槍「ボロフグイ」を構えた神楽は浪人の足払いを狙って横に振るうも、その刀は神楽が振るう槍の穂先を捉えてかわした。
目を細めた神楽は一度下がり、香を守るように立つ。
「姫、大丈夫っすか!」
心配そうに神楽が尋ねると、香は頷いてすぐに立ち上がる。
「心配かけました。大丈夫です」
香が立ち上がると、再び剣を構え、歪虚の様子を見つつ、仲間の方へと歩いていく。
「歪虚となった浪人の足元を見てください」
アメリアも冬治を守りつつ、前に出ていた。彼女が指し示すのは歪虚化した浪人の足元。
「もしかして……」
「あれなんだ」
アメリアの後ろに隠れている冬治がこくりと頷く。
浪人の足元には萌黄色の巾着があった。
「ちぃと、手を貸してくれるか?」
そう言ってきたのは風待だ。
ハンター達は彼の言葉に耳を向け、少しの間打ち合わせをしたのち、散開した。
ハンター達は空の動きに注目している。
空が符を宙へ放り投げ、風雷陣の発動のタイミングを見ていた。
紫電が浪人へと駆けるように稲妻となって落ちる。
浪人は電撃に身体を貫かれ、動きを止めたのを確認すると、アメリアがライフルから拳銃へと持ち替えた。
「耳、塞いでてね」
冬治に注意を促せば、素直に応じる姿を肩越しに確認したアメリアは威嚇射撃を始める。
二丁の拳銃より打ち出される弾丸は浪人の身体を打ち抜いていくも、その体躯は倒れることはなかった。
目標の浪人は右腕だけが異常に膨れ上がり、頭も身体も皮膚が引っ張られて膨れていた。
それはもはや、人の姿とは言えない。
動きを止められた浪人へ駆け出したのは神楽、香、風待。
まずは間合いの長い神楽が槍を浪人へと突き出す。穂先は浪人の右肩を抉り、腕の動きを止める。
浪人は自身の右肩にめり込む穂先を押し出すように力を入れる。腕に力を入れている間に飛び込んできたのは香だ。
刀を振りかぶって自分がやられたところと同じところを斬りつける。勢い余って、眼球まで斬りいれ、視界を奪う。
更に風待が浪人の左胸を深く斬りつけるも、浪人は動いていた。
三人がかりで動きを止めている間にジェットブーツで加速して浪人達の足元を滑り込んだのは由有だ。
狙いは薬の入った巾着。
スライディングの姿勢で低く地面を滑り込み、砂埃を起こして由有は巾着を奪取した。
由有がその場から離れると、三人は離れ、入れ違いにステラが疾風剣の構えで浪人の右腕を狙いすます。
呼吸を整え、マテリアルと自身の身体の呼応を読み、浪人の腕へと刀を振るう。
ステラが放った鋭い一撃は浪人の腕を切り裂き、血が流れても尚、浪人は刀を振るうことを辞めず、もう一撃を振るうステラの刀を受け止めた。
浪人の刀と鍔迫り合いをするステラの視界に動く何かを見つける。
ステラが傷つけた腕の斬り口から、血に塗れた楕円のような白い肉片が出てきて、ぎょろりと肉片に浮かぶ血管のようなものが動く。
「ひ……っ!」
瞬間、ステラが飛びずさり、間合いを取った瞬間を時澄は逃さなかった。
浪人に命の退路は与えるつもりはない。
この『浪人』がこのまま生きたいと思っても、ハンターはそれを赦すことはできない。
時澄もまた、ステラが見た白い肉片を見据えている。
逃げると直感した時澄は素早く一撃を振り下ろし、白い肉片ごと、浪人の腕を切り落とした。
ゆっくりと倒れた音がし、場に静寂に襲われたとき、動く音が聞こえた。
気を取り戻した浪人が逃げようとしているのだ。
アメリアが制圧射撃を行うった直後、駆ける姿が一つ。
「無辜の人々の安寧を踏み躙った報い、馳走するわ!」
由有のしなやかな脚線が無粋な浪人の顎に入った。
「即疾隊ってすごい」
ぽつりと、冬治が呟いた。
浪人達は番所に放り投げ、無事にお得意さんへのお使いを終え、同行した即疾隊もまた、お得意さんに礼を言われる。
「お礼に、僕がお団子をごちそうします!」
少ない小遣いなのに香が辞退しようとすると、風待が甘味をご馳走することになった。
「お前さん方の戦いっぷりに惚れたぜ!」
との事だ。
「姫に惚れるのはしかたねーっすけど、年齢が……」
神楽が言えば、風待は「俺には恋女房がいる」と豪快に笑う。
甘味を食べ、詩天の話を聞き、即疾隊へと戻った。
大きな物音と悲鳴に気付いたアメリア・フォーサイス(ka4111)が反応すると、ハンター達は駆け出した。
行ってみると、少年が倒れており、娘が介抱している。加害者はいない様であった。
「あれ」
反応したのは神楽(ka2032)。
「どうかしましたか?」
状況を聞かねばならないと判断したアメリアが娘と少年に尋ねると、少年の大事なものを浪人に奪われたと説明があった。
「やっぱ、姫っすよね?」
神楽が三條 時澄(ka4759)の背後から顔を出す。
姫と呼ばれた香は既知である神楽の顔を見てぱっと、顔を明るくさせる。
「神楽殿。久しぶりだな、息災で何より」
「いやいやいや! 一人っすよね!? こんなところにお忍びの息抜きにしちゃ領地から離れっすぎっす!」
ぎょっとなる神楽に香はとりあえず、神楽を落ち着かせて話を進める。
「はじめまして、私はアメリアといいます」
少年の目線に合わせて挨拶をしたアメリアに少年は目を丸くする。
「あ……とう、じ……冬治です」
「薬はお姉さん達が取り戻してあげます。だから安心してください」
穏やかなアメリアの声に冬治は目を丸くしてこくこく頷く。
「悪い人は出てきちゃうんだね」
ため息まじりのステラ=ライムライト(ka5122)の言葉にこの街なら仕方ないと困ったように言うのは和音・空(ka6228)だ。
「じゃあ、奪還といきましょ」
守原 由有(ka2577)が言えば、丁稚の少年が塒を知っていると答えて皆で向かった。
移動中は冬治より、浪人の話を聞いていた。
丁稚奉公している店の旦那様は気がいい人で、知り合いの飲食店で店員の女性にちょっかいをかけていた浪人達を窘めたそうだ。
周囲の白い目や、近隣に番所があったせいもあって、その日は収まったが、逆恨みをした浪人達は旦那様の店へ嫌がらせをすることが多くなったと冬治は言う。
「人助けをしたのに逆恨み? 反省してもらわないと」
ぱっちりした目を細める空に同意するように香が頷く。
「あ、風待の親分!」
冬治が顔を輝かすと親分は即疾隊の姿を見て警戒するような表情を見せる。
「私たち、冬治君のお手伝いをしに同行してるんです」
ステラが声をかけると、風待は目を瞬いた。
更に冬治が説明をすると、風待はよしと手を打つ。
「じゃぁ、共同戦線と行こうじゃねぇか!」
親分の声に全員が頷いた。
急に塒に行っても、裏目に出かねないため、様子を見つつ、打ち合わせる。
「親分は岡っ引きですか?」
香の素朴な疑問に風待は首を横に振る。
「俺ぁ、しがねぇ渡世人です」
にんまり笑う風待に、そっちのひとかと由有は納得した。
「風待の、警告の際に薬のことは……」
時澄の言葉に風待は頷く。
「あっしはあいつらが飲み屋でツケを踏み倒して、そこの親父さん殴ったことに腹立ててきたんだ。そこは黙ってるさ」
更に悪さをしていたことにアメリアが呆れた表情を見せる。
「じゃ、警告は親分に決めてもらいましょ」
空が言えば、ハンター達は頷いた。
皆でばらけて配置についている時、神楽は香を心配そうに声をかけた。
「……何かあったら家臣と領民と全俺が泣くから安全第一で頼むっす!」
神楽の気遣いに香はくすりと、微笑む。
「心配性だな、神楽殿は。確かにこの身は私一人ではないからな。気を付けよう」
「俺はここでサ……ごほん。逃亡とかがないように見張ってるっす」
数名の視線に神楽は即座に言い直す。
「お姉ちゃん達いったけど、大丈夫かな……」
心配そうに言う冬治にアメリアが微笑む。
「大丈夫ですよ。あんな人達に負けません」
安心させるように返すアメリアの両腕で掴んでいるのは漆黒のライフル。
「見てるっすよ。即疾隊っていうのも、姫もやるっす」
神楽が言えば、風待が開けっ放しのあばら家の戸口に立った。
人の姿に浪人達は胡乱な目を向けて、値踏みをする。
前にいるのは渡世人らしき男と、若い浪人と女が数人。
「つるむネズミがお揃いで?」
風待が言えば、浪人達が睨みを利かせる。
「なんだ、お前らは」
「あっしは、風待。若峰の街を荒らす、浪人集団とお見受けいたしやす」
低い声が響くと、浪人の一人が鼻で笑う。
「だから何だ」
「町を荒らしてるのは即疾隊じゃねぇか」
一人の浪人が野次を言えば、「そりゃそうだ」と笑う。
「若峰の町民を脅かすあんた達を番所に引き渡すために来やした。素直に応じるもよし、抵抗するとなりゃ、容赦はご勘弁を」
姿勢を低くする風待に浪人達は舌を打ち、数人が鯉口を切る。
「痛い目見たいようだな」
「どうなっても知らないぞ」
刀身をチラつかせば恐れられると思ったのだろう。しかし、彼らは怯みはしない。
「身ぐるみ剥がしてやっちまえ!」
浪人達が鞘より刀身を抜く。日の光を反射する刀の輝きは人の本能を脅かす。
軽やかに一歩踏み出したのは由有だ。
「女。やめてほしくば、すぐに言えば、可愛がるだけで済ませてやる」
由有の身体を舐めるようにゆっくり見下ろす。黙ってその視線を受けた由有は迷わずジェットブーツを発動させて、浪人が瞬きをする事も許さなかった。
息を詰めた浪人はそのまま、鼻の穴からの圧迫感と衝撃に頭の中が真っ白になる。
次の瞬間には大柄な浪人の身体が宙を浮いていた。
地面に叩きつけられた浪人の鼻は血で真っ赤であり、伸びてしまっている。
「やるな」
風待が囃すように言えば、由有は微笑む。
その現場を見ていた浪人はステラへと向けられた。幼く華奢な娘で、手に持っているのが木刀ならば、と思ったからだろう。
大人しく木刀を構えているステラに浪人は勝機を見たのか、人質にしようと手を伸ばす。
大きく息を吸い込み、ぱちっと、瞬いた青い瞳に強い意志が灯った。
ステラは木刀を素早く振り降ろし、伸ばされた浪人の手を木刀で打つ。
「うっ、こいつ!」
鈍い痛みに手を引っ込めた浪人は刀を抜き、突きの姿勢となってステラへと向けられる。
ステラは半身の姿勢となっており、武器を水平に構えた。
浪人が構える余裕など与えず、ステラは一気に間合いを詰めて一撃をくわえる。
疾風剣をくらった浪人はそのまま悶絶して倒れる。
浪人達は自分が対峙している連中が覚醒者であることに気づく。
一人ではやられると判断し、だんまり立っていた空へ二人の浪人が向かう。
小柄な小娘ならばと思ったが、空は顔を上げて浪人達をまっすぐ見る。
「最終警告よ」
空が静かに凛とした声を上げた。
「このまま引き下がるならよし。そうでなければ容赦しないわ」
真面目な顔の空を見た浪人達は顔を見合わせて口端を笑みに歪ませる。
「そんなわけねぇだろ!」
「二対一なら!」
浪人達は獲物を振り上げて空へと斬りかかった。
耳元で騒がしい声を聴いて、空は符を空中へと投げる。
ひらり……と、中空を舞う符は、紫電を纏い、瞬時に稲妻へと変化を遂げ、二人の浪人へと落とされた。
覚醒者ではなかっただろう、浪人達はそのまま白目をむいて倒れてしまう。
やりすぎという言葉がよぎったが、身体をひきつかせている状態からして、生きてはいたので、暫くは気を失っていることだろう。
その一方、香が一撃で浪人の刀を飛ばしていた。刀の切っ先を浪人の鼻先に突きつけている。
戦況を見極めていた時澄であったが、そんな暇がなくなってしまっていた。
相手の浪人は覚醒者であったようで、時澄と間合いを測り、睨み合いをしている。
二人がにらみ合っていると、相手は時澄に対し、半身の姿勢を取った。
その技のタイミングを計った時澄は即座に斬りかかり、素早く踏み出す。
攻撃を繰り出すのは敵の方が速かった。
時澄が選んだのは敵の退路を断つ事。
肩を斬られた時澄の刃は浪人を捉え、浪人もまた、退路がない事に気づく。足を斬られた浪人はその場に膝をつき、痛みを堪えている。
後方にいたアメリアが空の名を叫ぶ。
直感視を発動していたアメリアに違和感が本能に訴えていた。
危険という名の違和感を。
「周囲の生命反応を確認してください!」
空は即座に対応し、術を展開した。
風待と対峙していたのは浪人二人。
しかし、その片方の様子がおかしいとすぐに気づく。
浪人はガクガクと身体を震わせる。
頭は空を仰ぎ、目は白目を剥き、口を大きく開けて刀を握っている右腕を大きく回していた。
「お、おい……」
もう一人の浪人も様子に気づき、声をかける。
様子がおかしい浪人の右腕がはち切れんばかりに膨れ上がっていく。
「どういうこと……」
慌てるように周囲を見やったのは空だ。他に捕縛する相手がいないか符を展開して確認をしていたのだ。
今眼前にいるはずの生命の数が足りない。
ひとつ、たりないのだ。
ぞっとする回答をみつけた空が叫ぶ。
「そいつ、歪虚化してる!」
ハンター達の視線が一気に様子がおかしい浪人へと向けられる。
「おい、逃げろ!」
風待が叫ぶと、浪人は腰を抜かしてしまって動けないようだ。
歪虚化した浪人はもはや、腰を抜かした浪人が仲間だったことも忘れてしまったかのように刀を振り上げる。
「ひぃいいいいいいいいいいい!」
断末魔の声を上げる浪人に凶刃は落ちることはなかった。
歪虚化した浪人の右腕は一発の銃弾と、三つの光を撃ち込まれていた。
二つの方向より動きを疎外されても刀は振り降ろされており、凶刃を風待が受け止めている。
精神統一をしたステラが腕を切り落とすべく、一撃を入れるも、その腕を切り落とすのは容易ではなかった。
香は浪人の襟首をつかんで無理やり移動させようとする。
「離れて!」
空が叫ぶと、風待とハンター達は歪虚化した浪人より離れた。
風雷陣が発動されて、稲妻が歪虚化した浪人へと落とされるが、身体を引きつかせて動きが鈍くなるものの、さほどダメージはないように見える。
MURASAMEを構えたステラがもう一度歪虚化した浪人へ一撃を加えるも、浪人はものとせずに、ステラへと斬りかかり、腕を斬られた。
「きゃあ!」
短い悲鳴を上げるステラは地を滑る。に香がステラを庇うように浪人へと一撃を叩くも、浪人の右腕が横へ振られ、香の側頭部を思いっきり打った。
地を這う香の頭に血が流れ、白い細面に赤く汚れる。
「姫!」
高みの見物を決めていた神楽だが、香がやられた姿を見て走り出した。
「そろそろ、手伝わないと不味いっすね!」
呑気に言っている神楽であるが、顔をしかめて走り出している。
戦槍「ボロフグイ」を構えた神楽は浪人の足払いを狙って横に振るうも、その刀は神楽が振るう槍の穂先を捉えてかわした。
目を細めた神楽は一度下がり、香を守るように立つ。
「姫、大丈夫っすか!」
心配そうに神楽が尋ねると、香は頷いてすぐに立ち上がる。
「心配かけました。大丈夫です」
香が立ち上がると、再び剣を構え、歪虚の様子を見つつ、仲間の方へと歩いていく。
「歪虚となった浪人の足元を見てください」
アメリアも冬治を守りつつ、前に出ていた。彼女が指し示すのは歪虚化した浪人の足元。
「もしかして……」
「あれなんだ」
アメリアの後ろに隠れている冬治がこくりと頷く。
浪人の足元には萌黄色の巾着があった。
「ちぃと、手を貸してくれるか?」
そう言ってきたのは風待だ。
ハンター達は彼の言葉に耳を向け、少しの間打ち合わせをしたのち、散開した。
ハンター達は空の動きに注目している。
空が符を宙へ放り投げ、風雷陣の発動のタイミングを見ていた。
紫電が浪人へと駆けるように稲妻となって落ちる。
浪人は電撃に身体を貫かれ、動きを止めたのを確認すると、アメリアがライフルから拳銃へと持ち替えた。
「耳、塞いでてね」
冬治に注意を促せば、素直に応じる姿を肩越しに確認したアメリアは威嚇射撃を始める。
二丁の拳銃より打ち出される弾丸は浪人の身体を打ち抜いていくも、その体躯は倒れることはなかった。
目標の浪人は右腕だけが異常に膨れ上がり、頭も身体も皮膚が引っ張られて膨れていた。
それはもはや、人の姿とは言えない。
動きを止められた浪人へ駆け出したのは神楽、香、風待。
まずは間合いの長い神楽が槍を浪人へと突き出す。穂先は浪人の右肩を抉り、腕の動きを止める。
浪人は自身の右肩にめり込む穂先を押し出すように力を入れる。腕に力を入れている間に飛び込んできたのは香だ。
刀を振りかぶって自分がやられたところと同じところを斬りつける。勢い余って、眼球まで斬りいれ、視界を奪う。
更に風待が浪人の左胸を深く斬りつけるも、浪人は動いていた。
三人がかりで動きを止めている間にジェットブーツで加速して浪人達の足元を滑り込んだのは由有だ。
狙いは薬の入った巾着。
スライディングの姿勢で低く地面を滑り込み、砂埃を起こして由有は巾着を奪取した。
由有がその場から離れると、三人は離れ、入れ違いにステラが疾風剣の構えで浪人の右腕を狙いすます。
呼吸を整え、マテリアルと自身の身体の呼応を読み、浪人の腕へと刀を振るう。
ステラが放った鋭い一撃は浪人の腕を切り裂き、血が流れても尚、浪人は刀を振るうことを辞めず、もう一撃を振るうステラの刀を受け止めた。
浪人の刀と鍔迫り合いをするステラの視界に動く何かを見つける。
ステラが傷つけた腕の斬り口から、血に塗れた楕円のような白い肉片が出てきて、ぎょろりと肉片に浮かぶ血管のようなものが動く。
「ひ……っ!」
瞬間、ステラが飛びずさり、間合いを取った瞬間を時澄は逃さなかった。
浪人に命の退路は与えるつもりはない。
この『浪人』がこのまま生きたいと思っても、ハンターはそれを赦すことはできない。
時澄もまた、ステラが見た白い肉片を見据えている。
逃げると直感した時澄は素早く一撃を振り下ろし、白い肉片ごと、浪人の腕を切り落とした。
ゆっくりと倒れた音がし、場に静寂に襲われたとき、動く音が聞こえた。
気を取り戻した浪人が逃げようとしているのだ。
アメリアが制圧射撃を行うった直後、駆ける姿が一つ。
「無辜の人々の安寧を踏み躙った報い、馳走するわ!」
由有のしなやかな脚線が無粋な浪人の顎に入った。
「即疾隊ってすごい」
ぽつりと、冬治が呟いた。
浪人達は番所に放り投げ、無事にお得意さんへのお使いを終え、同行した即疾隊もまた、お得意さんに礼を言われる。
「お礼に、僕がお団子をごちそうします!」
少ない小遣いなのに香が辞退しようとすると、風待が甘味をご馳走することになった。
「お前さん方の戦いっぷりに惚れたぜ!」
との事だ。
「姫に惚れるのはしかたねーっすけど、年齢が……」
神楽が言えば、風待は「俺には恋女房がいる」と豪快に笑う。
甘味を食べ、詩天の話を聞き、即疾隊へと戻った。
依頼結果
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不貞浪人捕縛作戦会議室 守原 由有(ka2577) 人間(リアルブルー)|22才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/07/09 11:59:24 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/07/06 08:56:40 |