ゲスト
(ka0000)
バブるバブれバブれば
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/07/14 22:00
- 完成日
- 2016/07/21 00:46
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
● どこかの世界の誰かの言葉
「……このまま消滅するのが最良ではないかしら……アナタにとっては……ああそう。嫌なの……もう一旗上げたいの……まあ、そこまで言うなら……あっちに送ってあげてもいいけど……見込はないと思うのよね……多分……」
● 変なの出ちゃった
指名手配犯のスペットとブルーチャーは、本日も逃亡中。
彼らが頭を悩ませる問題はただひとつ、衣食住の確保。
そのためには金が必要だ。
金が無ければあるところから拝借しよう――というわけで両者は、銀行を狙うことにした。
下水道に入り、銀行の真下地点まで移動。そこから地上に向かって穴を空け、潜入しようという計画。
「フマーレにもうちょい長居出来たらよかったねんけどな」
「あれだけ派手なことやらかしちゃあ無理ってもんでしょうよ」
「まあせやけど。あーあ、金が無いと研究も進まへんわ。俺はいつ人間の顔に戻れるのやろ……ここらへんかな、銀行は」
「そうですな。歩数から考えても、大体このへんで間違いないですぜ。じゃあ早速始めますか」
「よっしゃ」
スペットは周囲に結界を張り始めた。下から床をぶち抜くとなると、どうしても物音が出てしまう。それを極力防ぐための処置だ。
ランプ片手に白墨を取り出し、自分たちの周囲に魔法陣を書き始める。
「指輪が取り戻せたらなあ、こんなめんどい手続きとかいらんねやけどなあ」
ぶつぶつ言いながら、書き上がった魔法陣に向け両手をかざす。そこで異変が起きた。結界の中に突然、黒い穴があいたのだ。
その穴の中から、蜘蛛のような足を生やした球体が這い出してくる。
「うおっ!? な、なんですかいこれは!?」
「い、いや、知らんがな!」
まずいことが起きそうだと一目で判断がついたので、スペットとブルーチャーは強盗計画を中止。一目散に逃げ出した。
● ノリノリだぜ!
『異様なことが起きている』というはなはだ漠然とした報告を受け取ったハンターたちは、現場である地方都市に飛んだ。
「こ、これは……」
それは、確かに異様な光景だった。夜も更け切ったというのに、人々が路上に繰り出し踊り狂っている――リアルブルー風であることは間違いないが、これまで見たこともない衣装を身にまとって。
「な、なんだか皆さん肩パッド入り過ぎじゃないですか?」
一体何事なのか。ハンターは踊り狂う人々を捕まえて聞いてみる。
「もしもし、一体何が起きたんですか?」
すると彼らは一様に、底が抜けた朗らかさでこう答えるのだった。
「何って、決まってんジャン! 来たんだよ、バブルが!」
バブル。バブルって何。
聞き返そうとしたハンターたちの耳を、馬鹿に楽しげな声が打つ。
『みんなー! 今日はっ、朝までフィーバーフィーバーっ!』
「「「「イエーッ!!」」」
盛り上がりの中心まで行ってみれば、脚の生えた巨大な球体が七色の光を放っている。
それを見ているとハンターたちは、なんだか楽しくなってきた。
給料は右肩上がりで株価は天井知らずで明日はボーナス支給日で毎日がウハウハで未来はバラ色――とかいう幻想が心に忍び込んで来た。
そして、ついには踊り始める。我を忘れて。
『みんなー! ノってるかーい!』
「「「「イエーッ!!」」」
「……このまま消滅するのが最良ではないかしら……アナタにとっては……ああそう。嫌なの……もう一旗上げたいの……まあ、そこまで言うなら……あっちに送ってあげてもいいけど……見込はないと思うのよね……多分……」
● 変なの出ちゃった
指名手配犯のスペットとブルーチャーは、本日も逃亡中。
彼らが頭を悩ませる問題はただひとつ、衣食住の確保。
そのためには金が必要だ。
金が無ければあるところから拝借しよう――というわけで両者は、銀行を狙うことにした。
下水道に入り、銀行の真下地点まで移動。そこから地上に向かって穴を空け、潜入しようという計画。
「フマーレにもうちょい長居出来たらよかったねんけどな」
「あれだけ派手なことやらかしちゃあ無理ってもんでしょうよ」
「まあせやけど。あーあ、金が無いと研究も進まへんわ。俺はいつ人間の顔に戻れるのやろ……ここらへんかな、銀行は」
「そうですな。歩数から考えても、大体このへんで間違いないですぜ。じゃあ早速始めますか」
「よっしゃ」
スペットは周囲に結界を張り始めた。下から床をぶち抜くとなると、どうしても物音が出てしまう。それを極力防ぐための処置だ。
ランプ片手に白墨を取り出し、自分たちの周囲に魔法陣を書き始める。
「指輪が取り戻せたらなあ、こんなめんどい手続きとかいらんねやけどなあ」
ぶつぶつ言いながら、書き上がった魔法陣に向け両手をかざす。そこで異変が起きた。結界の中に突然、黒い穴があいたのだ。
その穴の中から、蜘蛛のような足を生やした球体が這い出してくる。
「うおっ!? な、なんですかいこれは!?」
「い、いや、知らんがな!」
まずいことが起きそうだと一目で判断がついたので、スペットとブルーチャーは強盗計画を中止。一目散に逃げ出した。
● ノリノリだぜ!
『異様なことが起きている』というはなはだ漠然とした報告を受け取ったハンターたちは、現場である地方都市に飛んだ。
「こ、これは……」
それは、確かに異様な光景だった。夜も更け切ったというのに、人々が路上に繰り出し踊り狂っている――リアルブルー風であることは間違いないが、これまで見たこともない衣装を身にまとって。
「な、なんだか皆さん肩パッド入り過ぎじゃないですか?」
一体何事なのか。ハンターは踊り狂う人々を捕まえて聞いてみる。
「もしもし、一体何が起きたんですか?」
すると彼らは一様に、底が抜けた朗らかさでこう答えるのだった。
「何って、決まってんジャン! 来たんだよ、バブルが!」
バブル。バブルって何。
聞き返そうとしたハンターたちの耳を、馬鹿に楽しげな声が打つ。
『みんなー! 今日はっ、朝までフィーバーフィーバーっ!』
「「「「イエーッ!!」」」
盛り上がりの中心まで行ってみれば、脚の生えた巨大な球体が七色の光を放っている。
それを見ているとハンターたちは、なんだか楽しくなってきた。
給料は右肩上がりで株価は天井知らずで明日はボーナス支給日で毎日がウハウハで未来はバラ色――とかいう幻想が心に忍び込んで来た。
そして、ついには踊り始める。我を忘れて。
『みんなー! ノってるかーい!』
「「「「イエーッ!!」」」
リプレイ本文
町は底抜けにフィーバー。
イケイケな人々が口々に、耳慣ぬ叫びを上げている。
「ナウいね!」
「ゴキゲンだぜ!」
「ハイホー!」
まさにダンシングオールナイツ。ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)の考えによれば、原因はあの変なミラーボール。あれが何らかの手段で、住人たちの正気を失わせているに違いない。
「早く排除して皆の目を覚まさせなくちゃ……」
人波の間を縫い、元凶に近づこうとするルンルン。
そんな彼女を七色ビームが直撃した。
「こっ……これが噂に聞いてたバブル! なんか未来はバラ色で、タイムマシンはドラム式な気がしてきちゃいました!」
ボディコン、ワンレン、これ見よがしにド派手なアクセサリー。手にしていた護符は福沢さんのジュリ扇へ。
「バブル、バブルがやってきたのです! これで土地と株を買い増し、ころがしなんだからっ」
バブルチェンジした彼女はお立ち台に駆け上がる。胡蝶蘭を背景にして、ダンス・ダンス・ダンス。
「さぁ、踊る私の姿をその目に焼き付けるのです」
エレキギターをかき鳴らし、場の狂乱を焚き付けるのは、メイム(ka2290)。
普段の5割身長を水増しするシークレットブーツ。フリンジのついた上下のジャンパー、リーゼント。
飛びかうレーザービーム、もうもうと立ち込めるスモーク、客席からの黄色い声。
「闘祭があたしにあぶく銭くれるんだーやっほー♪」
どうやら彼女もルンルンに負けず劣らず脳内汚染されているらしい。
天竜寺 舞(ka0377)も、その点かなり危うくなっていた。何しろ歌舞音曲を生業とする家に生まれし者。数多の群衆が踊り狂う光景を前に、感化を受けずいられるわけがない。
(あー……これってジュリアンだか何だかいうディスコの風景かな……ワンレンボディコンとかいうのが流行ってた時代だっけ……確か近現代史の教科書にこういう写真が載ってたような……)
いいや違う。これは過去ではない。リアルだ。リアルに現代なのだ。今こそまさに天下無敵の好景気なのだ。
――という錯覚に陥るまでに、そう時間はかからなかった。
「あー、でも踊るのは楽しそう……踊り好きの血が騒ぐ! むしろ踊らなきゃ!」
気が付けばゴスロリ浴衣を身に纏い、高笑い。扇子を取り出しばっと広げる。
「ふはははは! 土地も会社も絵画も、根こそぎ買い占めてやるーっ!」
興奮してぐるぐる駆け回っている愛犬ゴエモンと共に、バブルピーポーの群れへ躍り込み、三倍速かと疑うくらい激しい動きの盆踊りを始める。
「イェーイ! これがリアルブルーのボン・ダンスだー!」
マルカ・アニチキン(ka2542)はそれを見て、大いに恐れおののく。
「大変……っ、このままだと皆さんが明日全身筋肉痛になってしまう……!」
助力を求める意味で、ザレム・アズール(ka0878)に視線を向ける。
一体いつの間に着替えたのだろう。ダブルスーツ姿になっていた彼は、赤い液体の入ったグラスを手にして、フッ……とニヒルに微笑む。
「今のキミは……ピカピカに輝いてるよ?」
台詞のあまりのダサさに、マルカは正直ちょっと引いた。
しかしザレムは気づいた様子がない。というか、気づく訳がない。自分では『ナウなファッションを着こなすオレのセンス最高』という意識になっているのだから。
細めのサングラスを外し胸ポケットに入れ、傍らにあるテーブルにグラスを置き、両手を広げる。
「待たせたな。ザレムガール」
呼びかけに反応している女性は一人もいなかった。全員彼を無視して踊っている。
けれどザレムはやっぱり気づく様子もなく、こう続ける。
「今日はなんでも好きなものおごっちゃうよ!」
「エッ、ウソー、ホントー!」
「ザレムくんイカすーっ!」
「かーっこいーい!」
(……正気を失ってはいても、きちんと損得勘定を働かせられるみたいですね……)
そんなことを思うマルカに向け、七色ビーム発射。
それを受けた彼女の顔に変化が起きた。
眉毛はあくまで太く、口紅は惜しみ無くたっぷりと、前髪は全力でカールさせ、バブリーフェイスに早変わり。
「こ、この程度の光線なら効かな―――ッヘッヘエエェエェエエイ!!! 同じアホならおどらにゃソンソンッ 皆さん一緒にレッツラゴー!」
はっちゃけた掛け声を上げ狂乱の渦に飛び込み、絶対領域ギリギリのミニスカートで踊り狂い始める。
●
お立ち台の最前列で福沢扇を振り回しているルンルンは、群衆のうちに見覚えのある顔を見つけた。
1人はブルーチャー。サングラスにズートスーツ。ごっつい金のネックレスに重そうな時計……いかにも成り金だ。
もう1人は又吉ことスペット。猫顔なのですぐ分かる。ケミカルウォッシュジーンズに半袖ポロシャツ、ニットのプロデューサー巻き……どこかのあやしい業界人みたい。
「あっ、又吉逮捕……じゃなくてあっしー、めっしーにしてあげちゃいます、だってモーレツに高度経済的成長だもの♪」
時代が微妙にずれているが、それもバブル、これもバブル、あれもバブル、みんなバブル。問題ない。
「ヘイ又吉、又吉-! イタメシ奢ってハマヨコドライブしてメルエスのバッグ買ってー! そしたらアークヒルズまで運転手させてあげるからー!」
●
舞は思った。この踊りへの情熱を噴出させるに、盆踊りでは力不足だと。
もっとパッショナブルでなければならない。なぜって芸術はバクハツだから。
「なら次はこれだー!」
手にした団扇をなげうち、ブレイクダンスを踊り始める舞。
ウィンドミル、ヘッドスピンを交えた旋風のごとき舞踏が周囲の観客をなぎ倒して行くが、本人は歯牙にもかけない。
近づくと危ないので周囲の人垣が引く。
動きを妨げるものがなくなったのでますます熱を入れ踊りつつ、徐々に熱狂の中心、お立ち台へ。自分では意識しないまま、ミラーボールを蹴りまくる。
●
ザレムは女の子たちとノリノリでランバダをしつつ、お立ち台にいる仲間の動きに目を配る。
(舞のあれ、もうブレイクダンスじゃなくなってるな……完全にカポエラだろ、あの動き)
ミラーボールは蹴ってくる舞に対し、脚で防戦している。
(……普通にあのミラーボール、あやしいよな)
とはいえもしかすると単に脚が生えただけの愉快なミラーボールかも知れない……とつい考える程度には、ザレムも精神汚染されている。
(とにかく正体をはっきりさせなきゃな)
そのためには軽く攻撃を仕掛けてみるのが一番。だが、慎重にやらなければ。周囲は人で溢れかえっているのだからして。
●
一方メイムは一幕終えて舞台を降り、バーのある会場端に移動していた。
「はーやれやれ、喉が渇いちゃった」
隣には、キャビアをつまみにシャンペンを傾ける男女。
「ほんとほんと会員になれば投資金を預けるだけで、寝てても稼げますから。利子は毎月200パーセント」
「うそー、本当?」
「ほんとほんと。会員枠の残りは後僅か、入るなら今、今しかない!」
不穏な話を聞き流し、大ジョッキの冷たいコーラを一杯ぐぐっと。次いで、不意に目を見開く。
「ん? なんと!」
ドリンクに映った自分は世紀のロカビリースターではなかった。ただのサングラスをかけたメイムであった。
憑き物の落ちた眼でもう一度周囲を見回す。
隣で談笑している男女はシャンペンではなく、ビールを飲んでいた。
食べているのはキャビアではなくタコスだった。
男はただのこ汚い格好をしたブルーチャ。
女はただの地味な銀行員ぽいおばちゃん。
そしてお立ち台の上、ルンルンの隣で踊っているのは……。
「ルンルンさん! 隣の踊れるおにーちゃんじゃなくて逃亡中の猫幻獣、捕まえなきゃ」
せっかくの呼びかけも周囲が姦し過ぎるのか、一向に聞こえていない様子。
バブルの熱狂に浮かされているルンルンからは、分別というものが消えうせていた。あろうことか『まだ明るさが足りない』と、手にした札束(実のところは扇符)に火をつける。
「ほーら、明るくなったろです☆」
こんなことでアイテムを無くしたら笑うに笑えないが、幸いマルカがノリで、ウォーターシュートを乱射し始めた。
「ジュッリッアッナー!」
水球は扇についた火を消し、踊っていたスペットをなぎ倒す。
(……まあ、あっちを捕まえるのは後でいいか)
早々片付けたメイムは、近場にある問題から着手する。
「隣で飲んだり食べたりしてるブルーチャさんあんたも逮捕だー!」
台詞と同時にハンマーの柄で、思い切りみぞおちをドン。ブルーチャーは飲んでいたビールを吹き出しぶっ倒れる。
逃げないよう縛り上げた後、ついでだからと、マルカの問題にも着手。
フィーバーしている背後から近づき、後頭部へ会心の一撃。
「目をさませっ!」
ばったり倒れるマルカ。でもすぐ起きあがる。
「え? あれ? い、一体……バブルは?」
「そんなもの最初からなかった」
無情な一言は、マルカの楽しい幻想を吹き飛ばした。再度狂気に浸されないよう彼女は、急いでサングラスをかける。
観客席からザレムの放った光線が、ミラーボールに当たった。その箇所だけ光が消える。
●
ミラーボールと格闘を繰り広げている舞には、またしても『これではない』という思いが生まれていた。
(まだ、まだ熱狂が足りない……ッ! この場にふさわしい踊り、それは――「ええじゃないか」だ! 歴史の授業で習った気がする!)
お餅を餡子でくるんだ地方銘菓のCMが脳裏を駆け抜けたが打ち消し、伝説のダンスを踊り始める。
「ええじゃないかええじゃないか」
すると天から福沢のお札が降ってきた。小切手と株券も降ってきた。
群衆は狂喜乱舞。興奮も最高潮。
「ええじゃないかええじゃないか」
「ええじゃないかええじゃないか」
「我が国のGDPは世界一ィイイイ!」
押し合いへし合いの最中、倒れるものも出てきた。
このままでは危険なので、スリープクラウドをかけ人々を眠らせていくマルカ。
ザレムはお立ち台に移動した。軽やかに踊りつつ、ミラーボールに近づいて行く。
一気に間合いを詰め。グローブをつけた手で一撃。
案外弱い素材で出来ていたミラーボールは、凹んだ。
「あんた、ミラーが煤けてるぜ……」
続けてかなり執拗に、がんがん殴り続ける。
そこにメイムも参加した。
「行ってキノコっ」
ミラーボールの脚が折れた。
七色ビームが乱射される。
「そう来ると思ったぜ」
ザレムはカードミラーをかざし、跳ね返した。
跳ね返された光線がルンルンに当たる。
彼女の中のバブルは、さらに沸騰した。あくなき成長を求め、五色光符陣が炸裂する。
「ジュゲームリリカル……もっと明るく、輝く未来☆」
真実なる五色の光が、虚飾でしかない七色の光を吹き飛ばす。
ミラーボールは滅びの呪文を唱えられでもしたかのように、一気に崩壊した。土地、株、金、そういったもろもろの幻影と共に。
餞の言葉がザレムより贈られる。
「地獄で会おうぜベイベー」
経済大国は儚く消えた。かくして人だけが現実に取り残される。
舞はぺたんと座り込み、頭を振った。
「あれ、何か物凄く疲れてるんだけど?」
気づけば周囲の騒ぎは収まっている。踊っていた人々は、皆路上で寝込み済み。
「……何だったのかな。そういえばさっき、猫の頭をした人物を見たような、見ないような……」
その傍らでザレムが額の汗を拭い、呟く。
「恐ろしい敵だった……全て幻覚と催眠光線の所為だな。困っただな~や」
「……ザレムさん、今何て?」
「恐ろしい敵だった……全て幻覚と催眠光線の所為だな。くうねるあそぶ」
察するに彼、まだバブルビームの影響が抜けきっていないようだ。
「わっ、私の株や土地、福沢さん達が、泡の様に消え……」
呆然と手元の焦げた扇符を見やるルンルン。
ふと顔を上げてみれば、スペットがこそこそ逃げて行くところ。
ルンルンは、激怒した。
「又吉、絶対許さないんだから、逮捕です! バブル崩壊の戦犯め!」
「なんでそうなんねや! 俺関係あらへんやんけー!」
「問答無用! 今日という今日は逃がしませんよ! 私の金融資産を返せー!」
「うおおおおおお! 危ないやんけ!」
風雷陣に追い立てられ逃げ回る猫男。
追いかけるルンルン。
「あ、やっぱりスペットいたんだ」
自分の記憶が確かであったことにほっとしつつ、舞は、追跡に参加する。
「こら待てー! いい加減野良を止めてケージに戻れー!」
「誰が野良やしばくぞお前!」
ザレムもそれに参加する。
「さては、魔物発生を誘発させた原因はお前か!」
あたしも参加した方がよさそうだな、と思うメイムの肩を、遠慮がちにつつくマルカ。
「何? マルカさん」
「あの……よろしければ私の醜態を忘れていただいた上で他言無用にしていただきたいんですが……本当に切実に……」
「……膝上丈のタイトスカートで濃い化粧して下からパンツが見えそうなお立ち台で踊ってたくらい、世間に知られたところで、特になんてことないんじゃないかなあ?」
「……お願いですから忘れてください」
「そう? そこまで言うなら忘れたことにしてもいいけど――あたしちょっと猫を捕まえてくるから、この話はまた後でね」
言い置いてメイムは、スペット捕獲に乗り出した。
マルカはそれに加わらず、もしかしたらいるかも知れない歪虚の残党を探すことにする。
「駆逐……駆逐しなきゃ……あ……でもその前にこの残骸、片付けた方がいいかも……」
月明かりを浴びて光るミラーボールの欠片を、のろのろ拾い上げる。
その表面に、白いワンピースを着た女の姿が浮かぶ。
水底から聞こえてくるような、ぼそぼそ声が聞こえた。
『……やっぱりね……こうなるんじゃないかと思ったわ……』
「え?」
マルカは思わず目をこすって二度見したが、その時にはもう、女の姿は消えていた。
翌日。
「出せ、出せやーっ!」
「このやろう覚えとけよー!」
スペットとブルーチャーは護送車に乗せられ、塀の中へ帰還。
ハンターたちはハンカチを振って彼らを見送る。
「元気でねー」
「もう野良にならないようにねー」
「変なもの呼び出しちゃ駄目ですよー」
「脱獄はしないようにしてくださいねー」
「刑期が延びるだけだからなー」
このまま双方、なんとか更生してくれればいいのだが――。
「くそおおお俺は諦めんからなあ-!」
「絶対シャバに戻るからなー!」
……無理かもしれない。
イケイケな人々が口々に、耳慣ぬ叫びを上げている。
「ナウいね!」
「ゴキゲンだぜ!」
「ハイホー!」
まさにダンシングオールナイツ。ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)の考えによれば、原因はあの変なミラーボール。あれが何らかの手段で、住人たちの正気を失わせているに違いない。
「早く排除して皆の目を覚まさせなくちゃ……」
人波の間を縫い、元凶に近づこうとするルンルン。
そんな彼女を七色ビームが直撃した。
「こっ……これが噂に聞いてたバブル! なんか未来はバラ色で、タイムマシンはドラム式な気がしてきちゃいました!」
ボディコン、ワンレン、これ見よがしにド派手なアクセサリー。手にしていた護符は福沢さんのジュリ扇へ。
「バブル、バブルがやってきたのです! これで土地と株を買い増し、ころがしなんだからっ」
バブルチェンジした彼女はお立ち台に駆け上がる。胡蝶蘭を背景にして、ダンス・ダンス・ダンス。
「さぁ、踊る私の姿をその目に焼き付けるのです」
エレキギターをかき鳴らし、場の狂乱を焚き付けるのは、メイム(ka2290)。
普段の5割身長を水増しするシークレットブーツ。フリンジのついた上下のジャンパー、リーゼント。
飛びかうレーザービーム、もうもうと立ち込めるスモーク、客席からの黄色い声。
「闘祭があたしにあぶく銭くれるんだーやっほー♪」
どうやら彼女もルンルンに負けず劣らず脳内汚染されているらしい。
天竜寺 舞(ka0377)も、その点かなり危うくなっていた。何しろ歌舞音曲を生業とする家に生まれし者。数多の群衆が踊り狂う光景を前に、感化を受けずいられるわけがない。
(あー……これってジュリアンだか何だかいうディスコの風景かな……ワンレンボディコンとかいうのが流行ってた時代だっけ……確か近現代史の教科書にこういう写真が載ってたような……)
いいや違う。これは過去ではない。リアルだ。リアルに現代なのだ。今こそまさに天下無敵の好景気なのだ。
――という錯覚に陥るまでに、そう時間はかからなかった。
「あー、でも踊るのは楽しそう……踊り好きの血が騒ぐ! むしろ踊らなきゃ!」
気が付けばゴスロリ浴衣を身に纏い、高笑い。扇子を取り出しばっと広げる。
「ふはははは! 土地も会社も絵画も、根こそぎ買い占めてやるーっ!」
興奮してぐるぐる駆け回っている愛犬ゴエモンと共に、バブルピーポーの群れへ躍り込み、三倍速かと疑うくらい激しい動きの盆踊りを始める。
「イェーイ! これがリアルブルーのボン・ダンスだー!」
マルカ・アニチキン(ka2542)はそれを見て、大いに恐れおののく。
「大変……っ、このままだと皆さんが明日全身筋肉痛になってしまう……!」
助力を求める意味で、ザレム・アズール(ka0878)に視線を向ける。
一体いつの間に着替えたのだろう。ダブルスーツ姿になっていた彼は、赤い液体の入ったグラスを手にして、フッ……とニヒルに微笑む。
「今のキミは……ピカピカに輝いてるよ?」
台詞のあまりのダサさに、マルカは正直ちょっと引いた。
しかしザレムは気づいた様子がない。というか、気づく訳がない。自分では『ナウなファッションを着こなすオレのセンス最高』という意識になっているのだから。
細めのサングラスを外し胸ポケットに入れ、傍らにあるテーブルにグラスを置き、両手を広げる。
「待たせたな。ザレムガール」
呼びかけに反応している女性は一人もいなかった。全員彼を無視して踊っている。
けれどザレムはやっぱり気づく様子もなく、こう続ける。
「今日はなんでも好きなものおごっちゃうよ!」
「エッ、ウソー、ホントー!」
「ザレムくんイカすーっ!」
「かーっこいーい!」
(……正気を失ってはいても、きちんと損得勘定を働かせられるみたいですね……)
そんなことを思うマルカに向け、七色ビーム発射。
それを受けた彼女の顔に変化が起きた。
眉毛はあくまで太く、口紅は惜しみ無くたっぷりと、前髪は全力でカールさせ、バブリーフェイスに早変わり。
「こ、この程度の光線なら効かな―――ッヘッヘエエェエェエエイ!!! 同じアホならおどらにゃソンソンッ 皆さん一緒にレッツラゴー!」
はっちゃけた掛け声を上げ狂乱の渦に飛び込み、絶対領域ギリギリのミニスカートで踊り狂い始める。
●
お立ち台の最前列で福沢扇を振り回しているルンルンは、群衆のうちに見覚えのある顔を見つけた。
1人はブルーチャー。サングラスにズートスーツ。ごっつい金のネックレスに重そうな時計……いかにも成り金だ。
もう1人は又吉ことスペット。猫顔なのですぐ分かる。ケミカルウォッシュジーンズに半袖ポロシャツ、ニットのプロデューサー巻き……どこかのあやしい業界人みたい。
「あっ、又吉逮捕……じゃなくてあっしー、めっしーにしてあげちゃいます、だってモーレツに高度経済的成長だもの♪」
時代が微妙にずれているが、それもバブル、これもバブル、あれもバブル、みんなバブル。問題ない。
「ヘイ又吉、又吉-! イタメシ奢ってハマヨコドライブしてメルエスのバッグ買ってー! そしたらアークヒルズまで運転手させてあげるからー!」
●
舞は思った。この踊りへの情熱を噴出させるに、盆踊りでは力不足だと。
もっとパッショナブルでなければならない。なぜって芸術はバクハツだから。
「なら次はこれだー!」
手にした団扇をなげうち、ブレイクダンスを踊り始める舞。
ウィンドミル、ヘッドスピンを交えた旋風のごとき舞踏が周囲の観客をなぎ倒して行くが、本人は歯牙にもかけない。
近づくと危ないので周囲の人垣が引く。
動きを妨げるものがなくなったのでますます熱を入れ踊りつつ、徐々に熱狂の中心、お立ち台へ。自分では意識しないまま、ミラーボールを蹴りまくる。
●
ザレムは女の子たちとノリノリでランバダをしつつ、お立ち台にいる仲間の動きに目を配る。
(舞のあれ、もうブレイクダンスじゃなくなってるな……完全にカポエラだろ、あの動き)
ミラーボールは蹴ってくる舞に対し、脚で防戦している。
(……普通にあのミラーボール、あやしいよな)
とはいえもしかすると単に脚が生えただけの愉快なミラーボールかも知れない……とつい考える程度には、ザレムも精神汚染されている。
(とにかく正体をはっきりさせなきゃな)
そのためには軽く攻撃を仕掛けてみるのが一番。だが、慎重にやらなければ。周囲は人で溢れかえっているのだからして。
●
一方メイムは一幕終えて舞台を降り、バーのある会場端に移動していた。
「はーやれやれ、喉が渇いちゃった」
隣には、キャビアをつまみにシャンペンを傾ける男女。
「ほんとほんと会員になれば投資金を預けるだけで、寝てても稼げますから。利子は毎月200パーセント」
「うそー、本当?」
「ほんとほんと。会員枠の残りは後僅か、入るなら今、今しかない!」
不穏な話を聞き流し、大ジョッキの冷たいコーラを一杯ぐぐっと。次いで、不意に目を見開く。
「ん? なんと!」
ドリンクに映った自分は世紀のロカビリースターではなかった。ただのサングラスをかけたメイムであった。
憑き物の落ちた眼でもう一度周囲を見回す。
隣で談笑している男女はシャンペンではなく、ビールを飲んでいた。
食べているのはキャビアではなくタコスだった。
男はただのこ汚い格好をしたブルーチャ。
女はただの地味な銀行員ぽいおばちゃん。
そしてお立ち台の上、ルンルンの隣で踊っているのは……。
「ルンルンさん! 隣の踊れるおにーちゃんじゃなくて逃亡中の猫幻獣、捕まえなきゃ」
せっかくの呼びかけも周囲が姦し過ぎるのか、一向に聞こえていない様子。
バブルの熱狂に浮かされているルンルンからは、分別というものが消えうせていた。あろうことか『まだ明るさが足りない』と、手にした札束(実のところは扇符)に火をつける。
「ほーら、明るくなったろです☆」
こんなことでアイテムを無くしたら笑うに笑えないが、幸いマルカがノリで、ウォーターシュートを乱射し始めた。
「ジュッリッアッナー!」
水球は扇についた火を消し、踊っていたスペットをなぎ倒す。
(……まあ、あっちを捕まえるのは後でいいか)
早々片付けたメイムは、近場にある問題から着手する。
「隣で飲んだり食べたりしてるブルーチャさんあんたも逮捕だー!」
台詞と同時にハンマーの柄で、思い切りみぞおちをドン。ブルーチャーは飲んでいたビールを吹き出しぶっ倒れる。
逃げないよう縛り上げた後、ついでだからと、マルカの問題にも着手。
フィーバーしている背後から近づき、後頭部へ会心の一撃。
「目をさませっ!」
ばったり倒れるマルカ。でもすぐ起きあがる。
「え? あれ? い、一体……バブルは?」
「そんなもの最初からなかった」
無情な一言は、マルカの楽しい幻想を吹き飛ばした。再度狂気に浸されないよう彼女は、急いでサングラスをかける。
観客席からザレムの放った光線が、ミラーボールに当たった。その箇所だけ光が消える。
●
ミラーボールと格闘を繰り広げている舞には、またしても『これではない』という思いが生まれていた。
(まだ、まだ熱狂が足りない……ッ! この場にふさわしい踊り、それは――「ええじゃないか」だ! 歴史の授業で習った気がする!)
お餅を餡子でくるんだ地方銘菓のCMが脳裏を駆け抜けたが打ち消し、伝説のダンスを踊り始める。
「ええじゃないかええじゃないか」
すると天から福沢のお札が降ってきた。小切手と株券も降ってきた。
群衆は狂喜乱舞。興奮も最高潮。
「ええじゃないかええじゃないか」
「ええじゃないかええじゃないか」
「我が国のGDPは世界一ィイイイ!」
押し合いへし合いの最中、倒れるものも出てきた。
このままでは危険なので、スリープクラウドをかけ人々を眠らせていくマルカ。
ザレムはお立ち台に移動した。軽やかに踊りつつ、ミラーボールに近づいて行く。
一気に間合いを詰め。グローブをつけた手で一撃。
案外弱い素材で出来ていたミラーボールは、凹んだ。
「あんた、ミラーが煤けてるぜ……」
続けてかなり執拗に、がんがん殴り続ける。
そこにメイムも参加した。
「行ってキノコっ」
ミラーボールの脚が折れた。
七色ビームが乱射される。
「そう来ると思ったぜ」
ザレムはカードミラーをかざし、跳ね返した。
跳ね返された光線がルンルンに当たる。
彼女の中のバブルは、さらに沸騰した。あくなき成長を求め、五色光符陣が炸裂する。
「ジュゲームリリカル……もっと明るく、輝く未来☆」
真実なる五色の光が、虚飾でしかない七色の光を吹き飛ばす。
ミラーボールは滅びの呪文を唱えられでもしたかのように、一気に崩壊した。土地、株、金、そういったもろもろの幻影と共に。
餞の言葉がザレムより贈られる。
「地獄で会おうぜベイベー」
経済大国は儚く消えた。かくして人だけが現実に取り残される。
舞はぺたんと座り込み、頭を振った。
「あれ、何か物凄く疲れてるんだけど?」
気づけば周囲の騒ぎは収まっている。踊っていた人々は、皆路上で寝込み済み。
「……何だったのかな。そういえばさっき、猫の頭をした人物を見たような、見ないような……」
その傍らでザレムが額の汗を拭い、呟く。
「恐ろしい敵だった……全て幻覚と催眠光線の所為だな。困っただな~や」
「……ザレムさん、今何て?」
「恐ろしい敵だった……全て幻覚と催眠光線の所為だな。くうねるあそぶ」
察するに彼、まだバブルビームの影響が抜けきっていないようだ。
「わっ、私の株や土地、福沢さん達が、泡の様に消え……」
呆然と手元の焦げた扇符を見やるルンルン。
ふと顔を上げてみれば、スペットがこそこそ逃げて行くところ。
ルンルンは、激怒した。
「又吉、絶対許さないんだから、逮捕です! バブル崩壊の戦犯め!」
「なんでそうなんねや! 俺関係あらへんやんけー!」
「問答無用! 今日という今日は逃がしませんよ! 私の金融資産を返せー!」
「うおおおおおお! 危ないやんけ!」
風雷陣に追い立てられ逃げ回る猫男。
追いかけるルンルン。
「あ、やっぱりスペットいたんだ」
自分の記憶が確かであったことにほっとしつつ、舞は、追跡に参加する。
「こら待てー! いい加減野良を止めてケージに戻れー!」
「誰が野良やしばくぞお前!」
ザレムもそれに参加する。
「さては、魔物発生を誘発させた原因はお前か!」
あたしも参加した方がよさそうだな、と思うメイムの肩を、遠慮がちにつつくマルカ。
「何? マルカさん」
「あの……よろしければ私の醜態を忘れていただいた上で他言無用にしていただきたいんですが……本当に切実に……」
「……膝上丈のタイトスカートで濃い化粧して下からパンツが見えそうなお立ち台で踊ってたくらい、世間に知られたところで、特になんてことないんじゃないかなあ?」
「……お願いですから忘れてください」
「そう? そこまで言うなら忘れたことにしてもいいけど――あたしちょっと猫を捕まえてくるから、この話はまた後でね」
言い置いてメイムは、スペット捕獲に乗り出した。
マルカはそれに加わらず、もしかしたらいるかも知れない歪虚の残党を探すことにする。
「駆逐……駆逐しなきゃ……あ……でもその前にこの残骸、片付けた方がいいかも……」
月明かりを浴びて光るミラーボールの欠片を、のろのろ拾い上げる。
その表面に、白いワンピースを着た女の姿が浮かぶ。
水底から聞こえてくるような、ぼそぼそ声が聞こえた。
『……やっぱりね……こうなるんじゃないかと思ったわ……』
「え?」
マルカは思わず目をこすって二度見したが、その時にはもう、女の姿は消えていた。
翌日。
「出せ、出せやーっ!」
「このやろう覚えとけよー!」
スペットとブルーチャーは護送車に乗せられ、塀の中へ帰還。
ハンターたちはハンカチを振って彼らを見送る。
「元気でねー」
「もう野良にならないようにねー」
「変なもの呼び出しちゃ駄目ですよー」
「脱獄はしないようにしてくださいねー」
「刑期が延びるだけだからなー」
このまま双方、なんとか更生してくれればいいのだが――。
「くそおおお俺は諦めんからなあ-!」
「絶対シャバに戻るからなー!」
……無理かもしれない。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/07/09 16:17:56 |
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相談卓だよ 天竜寺 舞(ka0377) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/07/14 13:01:03 |