ゲスト
(ka0000)
こども探検団、毒の凶鳥にたちむかう
マスター:紡花雪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/07/12 12:00
- 完成日
- 2016/07/18 19:10
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●凶兆の鳥
ここは同盟領、とある山間部。
周辺の村は、主に牧畜と酪農を営んで生活をしている。
もじゃもじゃとした積乱雲のような深い緑の森、風が駆け抜ける草原、放たれた牛や羊とそれを追う牛飼いたち。自然の恵みにあふれ、平和でのんびりした土地だ。
その牧歌的な風景を脅かす事件が起こったのは、一週間前のことである。
――放牧の牛が弱っているぞ……!
――うちの羊が、急に苦しみ出して……!
いつもと同じ草を食べ、いつもと同じく草原に放たれていた家畜が、突然に謎の死を遂げたのだ。
その場に居合わせた牛飼いや羊飼いたちは、口を揃えて言う。
「黒い、大きな鳥が……気味の悪い鳥が、空を覆うように飛んでいったんだ――」
●ぼくたちの村を守るんだ
『こども探検団』の指導教官、マカレス・トービッツは悩んでいた。
例の『凶鳥』のことだ。
この村には、自然の恵みと脅威を子どもたちに体感させるための『こども探検団』という活動がある。団員は、今年10歳になる子どもたちで、一年間の活動を終えたあとには、一人前として働き手となったり、近隣の町に勉学や職業訓練に出て行くのだ。
放牧をして生きる彼らにとって、大自然と適切な距離を保って付き合っていくことはとても大切である。恐れてはいけない、だが侮ってもいけない。一人前になる前に、そのことを学ばなけらばならないのだ。
夏を前に、今年のこども探検団の結団式が行われる。そして、初めての探検として、もじゃもじゃの森へと出かける習わしになっている。もじゃもじゃの森の奥にある岩壁に自分の名前を刻んで初めて、こども探検団の一員と認められるのだ。
だが、一週間前から頻発する、家畜の突然死。獣医の見立てでは、中毒死とのことだ。つまり、毒性の物質が家畜の体内に取り込まれてしまったということである。その原因は、例の『凶鳥』――黒くて大きな、気味の悪い鳥が吐いて落とした唾が猛毒を帯びており、それに家畜が触れてしまったのだ。
その正体不明の鳥が森に巣を作っているらしく、村人は誰も近付くことができない。もちろん、幼いこどもたちを近付けるわけにはいかない。前代未聞の事態に、マカレスは結団式の取り止めを決断しなければならなくなった。
だが――
「ぼくたちの村は、ぼくたちで守るんだ!」
「トービッツさん、お願い! わたしたち、ちゃんと大人になりたいの!」
「おいらの羊、おいらがちゃんと守らねぇと!」
今年、10歳になる少年少女は、頼もしい声を上げている。
「どうすれば……」
どうすれば、危険を軽減させて、子どもたちを出立させてやれるだろうか。
ここは、彼らの協力をあおぐ他ないだろう。
マカレスは、子どもたちの親を説得する言葉を考えながら、子どもたちに答えた。
「――よし、ハンターオフィスに行こう……!」
ここは同盟領、とある山間部。
周辺の村は、主に牧畜と酪農を営んで生活をしている。
もじゃもじゃとした積乱雲のような深い緑の森、風が駆け抜ける草原、放たれた牛や羊とそれを追う牛飼いたち。自然の恵みにあふれ、平和でのんびりした土地だ。
その牧歌的な風景を脅かす事件が起こったのは、一週間前のことである。
――放牧の牛が弱っているぞ……!
――うちの羊が、急に苦しみ出して……!
いつもと同じ草を食べ、いつもと同じく草原に放たれていた家畜が、突然に謎の死を遂げたのだ。
その場に居合わせた牛飼いや羊飼いたちは、口を揃えて言う。
「黒い、大きな鳥が……気味の悪い鳥が、空を覆うように飛んでいったんだ――」
●ぼくたちの村を守るんだ
『こども探検団』の指導教官、マカレス・トービッツは悩んでいた。
例の『凶鳥』のことだ。
この村には、自然の恵みと脅威を子どもたちに体感させるための『こども探検団』という活動がある。団員は、今年10歳になる子どもたちで、一年間の活動を終えたあとには、一人前として働き手となったり、近隣の町に勉学や職業訓練に出て行くのだ。
放牧をして生きる彼らにとって、大自然と適切な距離を保って付き合っていくことはとても大切である。恐れてはいけない、だが侮ってもいけない。一人前になる前に、そのことを学ばなけらばならないのだ。
夏を前に、今年のこども探検団の結団式が行われる。そして、初めての探検として、もじゃもじゃの森へと出かける習わしになっている。もじゃもじゃの森の奥にある岩壁に自分の名前を刻んで初めて、こども探検団の一員と認められるのだ。
だが、一週間前から頻発する、家畜の突然死。獣医の見立てでは、中毒死とのことだ。つまり、毒性の物質が家畜の体内に取り込まれてしまったということである。その原因は、例の『凶鳥』――黒くて大きな、気味の悪い鳥が吐いて落とした唾が猛毒を帯びており、それに家畜が触れてしまったのだ。
その正体不明の鳥が森に巣を作っているらしく、村人は誰も近付くことができない。もちろん、幼いこどもたちを近付けるわけにはいかない。前代未聞の事態に、マカレスは結団式の取り止めを決断しなければならなくなった。
だが――
「ぼくたちの村は、ぼくたちで守るんだ!」
「トービッツさん、お願い! わたしたち、ちゃんと大人になりたいの!」
「おいらの羊、おいらがちゃんと守らねぇと!」
今年、10歳になる少年少女は、頼もしい声を上げている。
「どうすれば……」
どうすれば、危険を軽減させて、子どもたちを出立させてやれるだろうか。
ここは、彼らの協力をあおぐ他ないだろう。
マカレスは、子どもたちの親を説得する言葉を考えながら、子どもたちに答えた。
「――よし、ハンターオフィスに行こう……!」
リプレイ本文
●こども探検団、森へ行く
自由都市同盟領内のとある山間部、爽やかな草原と豊かな森を臨む村。酪農と羊毛生産を営み、のんびりとした平和な村である。
だが、黒く大きな凶鳥が毒を撒き散らすようになってから、村にはどんよりした雰囲気が漂っていた。そしてハンターに救いの手を求めるべく立ち上がったのが、こども探検団の面々である。
「手前達だけで鳥をどうにかできると考えるほどでも無謀でもねえ、一丁前に前を見据えた立派ながきんちょどもだ。これから俺達がやるのは命のやりとりだ。おっぱじまったら、どちらかがくたばるまで終わらねえ。それでも行きてえか?」
ボディーアーマーを身にまとい、小粋なべらんめえ口調を聞かせるのは、J・D(ka3351)である。落ち着いた物腰の彼の表情は、黒水晶の眼鏡で隠されている。
力強くあたたかい眼差しでこども探検団の少年少女を見つめているのは、神代 誠一(ka2086)だ。
「これが社会勉強だというのなら、俺には何が出来るだろうか……」
リアルブルーにいた時分に高校教諭であった彼は、十代を迎えようとしている子どもたちには特に思い入れがある。こども探検団のために何をしてやれるか、何を残してやれるかを静かに考えていた。
「それでは、みんなに注意事項なの。今日はみんなで大人になるための第一歩を刻みに行くと聞いているの。みんなは、大人って何だと思う? 今日のこと、私たちが何をするか、しっかり見て考えてほしいの」
森の奥に進んでいく前に、ディーナ・フェルミ(ka5843)は子どもたちに向かい合った。持参したマカロンを配りながら、大切な話をしている。今日これから何が起こるのか、大人とはどういうものか。そして、戦闘態勢に入ったとき、彼らが怯えて散り散りにならないように、結界の説明をした。
「わたしからも、大切な事を言うわ。自分の身は自分で守りなさい」
少しぶっきらぼうにも聞こえる凛とした声で言ったのは、八原 篝(ka3104)だ。彼女が子どもたちに言いたいのは、自分で戦えということではなく、落ち着いて行動し、逃げる時には逃げ、隠れる時には隠れるということだ。そして篝は、方向感覚を発揮させ、森の道なき道を覚えながら進んでいく。
「はい、この旗を持っていて」
ルドルフ・デネボラ(ka3749)は、凶鳥の毒唾やその他痕跡に目印が付けられるようにと、布を取り付けた杭や棒を用意していた。それを子どもたちに持たせ、充分な安全確認をしてから旗を立てさせている。役割を子どもに与える工夫である。
村を出発する前、指導教官のマカレス・トービッツが言っていた。本来ならば自分がこども探検団に同行するのだが、今回はすべてをハンターに任せたい。ハンターからしか学べないこと、それを教えてやってほしい、と。
ハンターとこども探検団は、もじゃもじゃの森の奥――凶鳥の巣がある場所の手前まで来ていた。そのとき、雲ではない黒い何かが、木漏れ日を遮った――。
●こども探検団、凶鳥に会う
陰る空、ごぅんと唸る風――ギャァァァァーン!
刺々しく耳をつんざく鳴き声を上げて、禍々しい黒の大きな鳥が上空を旋回した。子どもたちがにわかにそわそわとし始めたが、ハンターに守られ、その瞳に強い光を見せる。
ばさりと巣に降り立った凶鳥は、ぬらぬらと黒光りする嘴から、猛毒の唾を吐き出した。凶鳥に気付かれる前にと、ハンターたちはそれぞれに戦闘態勢を整える。だが、ルドルフが誠一に運動強化の魔法を施しているとき、凶鳥の真っ黒な眼がハンターたちに向けられた。
――キシャァァァァァーッ!
威嚇の咆哮を上げた凶鳥に相対し、真っ先に攻撃に移ったのはJ ・Dである。
「……よう、がちんちょども。呉々も俺達の言う事はようく聞いて、いい子でついて来るンだぜ」
J・Dは、前衛の誠一とルドルフを盾にして、後方から黒色のリボルバー拳銃を唸らせた。マテリアルで加速された銃弾は、羽ばたきが巻き起こす風に呑まれてしまう。凶鳥の首がぐるりと回り、敵意に満ちた視線が後方へと注がれた。
すかさず、誠一は薄白色のレーザーを放射する刀をひらめかせて、凶鳥の視線を断ち切る。凶鳥の視線が泳いだのを見逃さず、試作光斬刀「MASAMUNEブレイド」を煌かせた。若芽色のオーラを放つその一撃は、鮮やかに凶鳥の頭部を薙いだ。
「みんな、すぐ私の傍に集まってしゃがむの!」
最後方にいるディーナは、凶鳥の羽音や咆哮に怯える子どもたちに声をかけて、呼び集める。同時に、白亜のカイトシールドを構えて毒唾の飛散を防ぎつつ、魔法で不可視の境界を構築した。
子どもたちを後方の死角へと逃がすように立ちはだかった篝は、凶鳥の足元へと銃弾を撃ち放つ。凶鳥が上空へ回避しないよう、足止めする作戦だ。子どもの命を預かる上で大事な情報は、すでに彼女の頭に入っている。岩壁までの距離、他の獣や虫の気配、植物の生育状況、森の地形――篝にとって使い慣れたオートマチックピストルから放たれた銃弾のうち数発が、凶鳥の真っ黒な翼を貫いた。
――ギャィィィィィィィーッ!
巣材の枝をメキメキと割って、凶鳥がバサバサと暴れる。ぐいんと首を後ろに捻ったかと思うと、毒唾が高速で撃ち出された。
内側に特殊モーターが取り付けられた盾を構えたルドルフは、高速でその盾を動かし、毒唾を受け流した。前衛のルドルフと誠一とで交互に敵の的となり、凶鳥を後方には向かわせない作戦だ。
ギャァッ、と低く鳴いた凶鳥は飛び上がり、巨大な翼を振り回して旋回する。振り上げたのは肢――黒色の巨躯の先端に伸びる尖った毒爪が、ハンターたちに襲いかかる。
だが、ハンターたちは凶鳥の動きを見切っていた。
子どもたちに危害が及ぶことを考えたディーナは、不可視の境界をより強度が高いものへと切り替えた。
篝は瞬時にピストルの引き鉄を絞り、凶鳥の肢の爪を的確に撃ち抜いて毒爪の攻撃を妨害する。入射角や反射角を考えているのは、子どもたちが名を刻むことになる岩壁を傷つけないためだ。
そしてルドルフはマテリアルで形成した光の障壁に雷撃を纏わせ、自らを盾としながら凶鳥を弾き飛ばした。
どふっ、と鈍い地鳴りを起こして、凶鳥は地面に転がる。起き上がろうと巨躯をばたつかせる凶鳥に、J・Dが阻害の射撃を放つ。
誠一もまたマテリアルを体内に流し、洗練された動きで凶鳥に迫る。繰り出された斬撃は凶鳥の黒色に光の帯を引いた。
●こども探検団、恐怖に打ち勝つ
――ギィィシャァァァァァーッ!
怒りと敵意を剥き出しにした凶鳥はどうにか起き上がり、逃げ惑うようにハンターたちから距離を取ろうとした。
そのとき、凶鳥の死角から突如として薄白色のワイヤーウィップが放たれる。誠一のリヤンワイヤーだ。光が反射しにくい素材でできているというワイヤーが、這い上がる蔦の幻想を伴って凶鳥の頸を締め上げる。これは誠一自身の防御を投げ打つ行為だが、彼には仲間がいる。一人ではないことの強みを、子どもたちに見せたかったのだ。
――キィィェェェェェェーッ!
息の詰まった金切り声が響き、J・Dはそこにタイミングを合わせる。マテリアルを集中させて命中率を底上げした射撃を更に加速させて弾を撃ち込んだのだ。
再び、ごろんと転倒した凶鳥を銃弾の雨が襲う。オートマチックピストルとアサルトライフルを両手それぞれに構えた篝が、銃劇を浴びせているのだ。
そこに合わせて、ルドルフのリボルバー拳銃が火を噴く。1000丁に1丁しか存在しないと言われるほどの威力と命中力をもって――
――ギィィィィェェェェェ……
首を捕らえられた凶鳥にはハンターたちの銃弾が降り注ぎ、黒い羽が飛び散り、やがて黒煙を吐くようにして消滅した。
その頃、不可視の境界の中で、ディーナはひとりの男の子を癒しの光で包んでいた。凶鳥の攻撃を受けたわけではない。安全な位置まで後退しようとしたときに転んで膝を擦りむいたのだ。少年は一度は泣き出してしまいそうになったが、ディーナの癒しと優しい励ましで、口元を強く引き結ぶ。
「おいら、泣かないよ! だって、おいら、もう探検団になったんだから……!」
凶鳥に立ち向かい、ハンターに守られる後ろで、こども探検団は恐怖に打ち勝つことの意味を知ったのだ。
●こども探検団、名を刻む
凶鳥が黒い霧のように消え去った後、森の奥には崩れかけの巣と凶鳥が暴れ踏み荒らした草地が残されていた。あちこちに銃弾の痕も見えるが、歴代のこども探検団の名前が刻まれているという岩壁には傷は及んでいない。ハンターたちが戦いながらも注意深く距離を測っていたおかげだろう。
「歪虚ならそういう事もあるめえが、念の為、巣に卵でも残っちゃいねえか確認はしておいた方が良いかも知れねえな」
手近な木の棒を拾って、J・Dは凶鳥の巣を突いたり広げてみたり、危険なものが残っていないかを確認している。凶鳥の巣は名ばかりの寝床のようで、卵や毒の残留物はなさそうだった。
「せっかくです、探検団にも手伝って貰いましょう」
安全が確認できたこともあり、誠一は円匙棍「土竜」で巣を掘り起こし、子どもたちと一緒に片付けを始めた。これで彼らも、帰宅後に土産話ができるだろう。
「もう怪我をしてる子はいない? 擦りむいたりしてない?」
「おねえちゃん、大丈夫だよ!」
優しいディーナの言葉に、女の子が満面の笑顔で答える。例え転んだり枝に引っかかったりして怪我をしたとしても、子どもたちはもう泣いたりはしない。むしろ、勲章のように誇ってみせるだろう。
「探検は家に着くまで、よ。最後まで、気を付けて」
篝もまた凶鳥の巣の片付けを手伝い、子どもたちの様子を注意深く見守っていた。歪虚とハンターの戦いは、子どもにとってはとても刺激の強いものだっただろう。心に恐怖の傷が残っていないか、篝は気がかりだったのだ。
粗方の片付けが終わり、ルドルフは念のため周囲の安全を確認しながら目的の岩壁まで子どもたちを連れて行った。子どもたちは自前の小刀で、岩壁に名前を刻んでいく。
「にいちゃん、おいら、ハンターになりたい! にいちゃんみたく、強く、強くなりたいんだ!」
「そうだね……でも、臆病なくらいがちょうどいいんだよ」
ルドルフは答えた。まずは、何が危険でどうすればそれを避けられるのか、ハンターはこれを見極められなければ、生き残ることができない。そうした大切なことを、子どもたちに伝えたかったのだ。
岩壁に名前を刻み終えた子どもたちは、正式に探検団となった。帰り道もハンターに守られてではあるが、子どもたちはより生き生きとしている。そして、行きよりもしっかり胸を張って、ハンターの後ろを歩き始めた――。
自由都市同盟領内のとある山間部、爽やかな草原と豊かな森を臨む村。酪農と羊毛生産を営み、のんびりとした平和な村である。
だが、黒く大きな凶鳥が毒を撒き散らすようになってから、村にはどんよりした雰囲気が漂っていた。そしてハンターに救いの手を求めるべく立ち上がったのが、こども探検団の面々である。
「手前達だけで鳥をどうにかできると考えるほどでも無謀でもねえ、一丁前に前を見据えた立派ながきんちょどもだ。これから俺達がやるのは命のやりとりだ。おっぱじまったら、どちらかがくたばるまで終わらねえ。それでも行きてえか?」
ボディーアーマーを身にまとい、小粋なべらんめえ口調を聞かせるのは、J・D(ka3351)である。落ち着いた物腰の彼の表情は、黒水晶の眼鏡で隠されている。
力強くあたたかい眼差しでこども探検団の少年少女を見つめているのは、神代 誠一(ka2086)だ。
「これが社会勉強だというのなら、俺には何が出来るだろうか……」
リアルブルーにいた時分に高校教諭であった彼は、十代を迎えようとしている子どもたちには特に思い入れがある。こども探検団のために何をしてやれるか、何を残してやれるかを静かに考えていた。
「それでは、みんなに注意事項なの。今日はみんなで大人になるための第一歩を刻みに行くと聞いているの。みんなは、大人って何だと思う? 今日のこと、私たちが何をするか、しっかり見て考えてほしいの」
森の奥に進んでいく前に、ディーナ・フェルミ(ka5843)は子どもたちに向かい合った。持参したマカロンを配りながら、大切な話をしている。今日これから何が起こるのか、大人とはどういうものか。そして、戦闘態勢に入ったとき、彼らが怯えて散り散りにならないように、結界の説明をした。
「わたしからも、大切な事を言うわ。自分の身は自分で守りなさい」
少しぶっきらぼうにも聞こえる凛とした声で言ったのは、八原 篝(ka3104)だ。彼女が子どもたちに言いたいのは、自分で戦えということではなく、落ち着いて行動し、逃げる時には逃げ、隠れる時には隠れるということだ。そして篝は、方向感覚を発揮させ、森の道なき道を覚えながら進んでいく。
「はい、この旗を持っていて」
ルドルフ・デネボラ(ka3749)は、凶鳥の毒唾やその他痕跡に目印が付けられるようにと、布を取り付けた杭や棒を用意していた。それを子どもたちに持たせ、充分な安全確認をしてから旗を立てさせている。役割を子どもに与える工夫である。
村を出発する前、指導教官のマカレス・トービッツが言っていた。本来ならば自分がこども探検団に同行するのだが、今回はすべてをハンターに任せたい。ハンターからしか学べないこと、それを教えてやってほしい、と。
ハンターとこども探検団は、もじゃもじゃの森の奥――凶鳥の巣がある場所の手前まで来ていた。そのとき、雲ではない黒い何かが、木漏れ日を遮った――。
●こども探検団、凶鳥に会う
陰る空、ごぅんと唸る風――ギャァァァァーン!
刺々しく耳をつんざく鳴き声を上げて、禍々しい黒の大きな鳥が上空を旋回した。子どもたちがにわかにそわそわとし始めたが、ハンターに守られ、その瞳に強い光を見せる。
ばさりと巣に降り立った凶鳥は、ぬらぬらと黒光りする嘴から、猛毒の唾を吐き出した。凶鳥に気付かれる前にと、ハンターたちはそれぞれに戦闘態勢を整える。だが、ルドルフが誠一に運動強化の魔法を施しているとき、凶鳥の真っ黒な眼がハンターたちに向けられた。
――キシャァァァァァーッ!
威嚇の咆哮を上げた凶鳥に相対し、真っ先に攻撃に移ったのはJ ・Dである。
「……よう、がちんちょども。呉々も俺達の言う事はようく聞いて、いい子でついて来るンだぜ」
J・Dは、前衛の誠一とルドルフを盾にして、後方から黒色のリボルバー拳銃を唸らせた。マテリアルで加速された銃弾は、羽ばたきが巻き起こす風に呑まれてしまう。凶鳥の首がぐるりと回り、敵意に満ちた視線が後方へと注がれた。
すかさず、誠一は薄白色のレーザーを放射する刀をひらめかせて、凶鳥の視線を断ち切る。凶鳥の視線が泳いだのを見逃さず、試作光斬刀「MASAMUNEブレイド」を煌かせた。若芽色のオーラを放つその一撃は、鮮やかに凶鳥の頭部を薙いだ。
「みんな、すぐ私の傍に集まってしゃがむの!」
最後方にいるディーナは、凶鳥の羽音や咆哮に怯える子どもたちに声をかけて、呼び集める。同時に、白亜のカイトシールドを構えて毒唾の飛散を防ぎつつ、魔法で不可視の境界を構築した。
子どもたちを後方の死角へと逃がすように立ちはだかった篝は、凶鳥の足元へと銃弾を撃ち放つ。凶鳥が上空へ回避しないよう、足止めする作戦だ。子どもの命を預かる上で大事な情報は、すでに彼女の頭に入っている。岩壁までの距離、他の獣や虫の気配、植物の生育状況、森の地形――篝にとって使い慣れたオートマチックピストルから放たれた銃弾のうち数発が、凶鳥の真っ黒な翼を貫いた。
――ギャィィィィィィィーッ!
巣材の枝をメキメキと割って、凶鳥がバサバサと暴れる。ぐいんと首を後ろに捻ったかと思うと、毒唾が高速で撃ち出された。
内側に特殊モーターが取り付けられた盾を構えたルドルフは、高速でその盾を動かし、毒唾を受け流した。前衛のルドルフと誠一とで交互に敵の的となり、凶鳥を後方には向かわせない作戦だ。
ギャァッ、と低く鳴いた凶鳥は飛び上がり、巨大な翼を振り回して旋回する。振り上げたのは肢――黒色の巨躯の先端に伸びる尖った毒爪が、ハンターたちに襲いかかる。
だが、ハンターたちは凶鳥の動きを見切っていた。
子どもたちに危害が及ぶことを考えたディーナは、不可視の境界をより強度が高いものへと切り替えた。
篝は瞬時にピストルの引き鉄を絞り、凶鳥の肢の爪を的確に撃ち抜いて毒爪の攻撃を妨害する。入射角や反射角を考えているのは、子どもたちが名を刻むことになる岩壁を傷つけないためだ。
そしてルドルフはマテリアルで形成した光の障壁に雷撃を纏わせ、自らを盾としながら凶鳥を弾き飛ばした。
どふっ、と鈍い地鳴りを起こして、凶鳥は地面に転がる。起き上がろうと巨躯をばたつかせる凶鳥に、J・Dが阻害の射撃を放つ。
誠一もまたマテリアルを体内に流し、洗練された動きで凶鳥に迫る。繰り出された斬撃は凶鳥の黒色に光の帯を引いた。
●こども探検団、恐怖に打ち勝つ
――ギィィシャァァァァァーッ!
怒りと敵意を剥き出しにした凶鳥はどうにか起き上がり、逃げ惑うようにハンターたちから距離を取ろうとした。
そのとき、凶鳥の死角から突如として薄白色のワイヤーウィップが放たれる。誠一のリヤンワイヤーだ。光が反射しにくい素材でできているというワイヤーが、這い上がる蔦の幻想を伴って凶鳥の頸を締め上げる。これは誠一自身の防御を投げ打つ行為だが、彼には仲間がいる。一人ではないことの強みを、子どもたちに見せたかったのだ。
――キィィェェェェェェーッ!
息の詰まった金切り声が響き、J・Dはそこにタイミングを合わせる。マテリアルを集中させて命中率を底上げした射撃を更に加速させて弾を撃ち込んだのだ。
再び、ごろんと転倒した凶鳥を銃弾の雨が襲う。オートマチックピストルとアサルトライフルを両手それぞれに構えた篝が、銃劇を浴びせているのだ。
そこに合わせて、ルドルフのリボルバー拳銃が火を噴く。1000丁に1丁しか存在しないと言われるほどの威力と命中力をもって――
――ギィィィィェェェェェ……
首を捕らえられた凶鳥にはハンターたちの銃弾が降り注ぎ、黒い羽が飛び散り、やがて黒煙を吐くようにして消滅した。
その頃、不可視の境界の中で、ディーナはひとりの男の子を癒しの光で包んでいた。凶鳥の攻撃を受けたわけではない。安全な位置まで後退しようとしたときに転んで膝を擦りむいたのだ。少年は一度は泣き出してしまいそうになったが、ディーナの癒しと優しい励ましで、口元を強く引き結ぶ。
「おいら、泣かないよ! だって、おいら、もう探検団になったんだから……!」
凶鳥に立ち向かい、ハンターに守られる後ろで、こども探検団は恐怖に打ち勝つことの意味を知ったのだ。
●こども探検団、名を刻む
凶鳥が黒い霧のように消え去った後、森の奥には崩れかけの巣と凶鳥が暴れ踏み荒らした草地が残されていた。あちこちに銃弾の痕も見えるが、歴代のこども探検団の名前が刻まれているという岩壁には傷は及んでいない。ハンターたちが戦いながらも注意深く距離を測っていたおかげだろう。
「歪虚ならそういう事もあるめえが、念の為、巣に卵でも残っちゃいねえか確認はしておいた方が良いかも知れねえな」
手近な木の棒を拾って、J・Dは凶鳥の巣を突いたり広げてみたり、危険なものが残っていないかを確認している。凶鳥の巣は名ばかりの寝床のようで、卵や毒の残留物はなさそうだった。
「せっかくです、探検団にも手伝って貰いましょう」
安全が確認できたこともあり、誠一は円匙棍「土竜」で巣を掘り起こし、子どもたちと一緒に片付けを始めた。これで彼らも、帰宅後に土産話ができるだろう。
「もう怪我をしてる子はいない? 擦りむいたりしてない?」
「おねえちゃん、大丈夫だよ!」
優しいディーナの言葉に、女の子が満面の笑顔で答える。例え転んだり枝に引っかかったりして怪我をしたとしても、子どもたちはもう泣いたりはしない。むしろ、勲章のように誇ってみせるだろう。
「探検は家に着くまで、よ。最後まで、気を付けて」
篝もまた凶鳥の巣の片付けを手伝い、子どもたちの様子を注意深く見守っていた。歪虚とハンターの戦いは、子どもにとってはとても刺激の強いものだっただろう。心に恐怖の傷が残っていないか、篝は気がかりだったのだ。
粗方の片付けが終わり、ルドルフは念のため周囲の安全を確認しながら目的の岩壁まで子どもたちを連れて行った。子どもたちは自前の小刀で、岩壁に名前を刻んでいく。
「にいちゃん、おいら、ハンターになりたい! にいちゃんみたく、強く、強くなりたいんだ!」
「そうだね……でも、臆病なくらいがちょうどいいんだよ」
ルドルフは答えた。まずは、何が危険でどうすればそれを避けられるのか、ハンターはこれを見極められなければ、生き残ることができない。そうした大切なことを、子どもたちに伝えたかったのだ。
岩壁に名前を刻み終えた子どもたちは、正式に探検団となった。帰り道もハンターに守られてではあるが、子どもたちはより生き生きとしている。そして、行きよりもしっかり胸を張って、ハンターの後ろを歩き始めた――。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 八原 篝(ka3104) 人間(リアルブルー)|19才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/07/11 20:44:45 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/07/08 11:01:17 |