ゲスト
(ka0000)
巡礼者たちと坊やと川船。それとド(以下略
マスター:柏木雄馬

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/07/13 09:00
- 完成日
- 2016/07/21 18:47
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
(これまでのあらすじ)
王国巡礼の旅を行く貴族の娘クリスティーヌと幼馴染みの若き侍女マリーの2人は、ある日、王国北東部フェルダー地方で貴族の馬車の事故現場に出会う。
唯一事故を生き残った使用人に頼まれ、大貴族ダフィールド侯爵家が四男ルーサーを屋敷へ送っていくことになったものの、わがままいっぱいに育ったお坊ちゃんはクリスらに反発して『家出』。自ら荒くれ者らを頼った挙句、『誘拐』までされてしまう。
謎の騎兵たちの介入を廃し、どうにかルーサーを助け出したクリスたちであったが、温室育ちで箱入りで世間知らずのルーサーは、自分に手を上げる者、害しようとする者が存在する事を知り、幼い価値観を崩壊させる。
宿の一室に閉じ篭ってしまったルーサー。ハンターたちは少年を半ば強引に部屋から連れ出して、世界はルーサーが思っているよりもずっと広くて深いものだと諭すのだった。
●
なんだかんだで一週間ほど逗留した宿を出て。クリスとマリーの主従コンビは再びルーサーを侯爵家へと届ける旅を再開した。
久方ぶりの旅の日は、抜けるような青空だった。マリーは大きく伸びをすると、朝の心地よい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
それを微笑で見守りながら、クリスがルーサーを振り返る。……少年は2人の後に続いてとぼとぼ出た後、足を止めて俯いた。その両肩には己が荷の背嚢── 誂えた高価な服も着替え、今ではクリスらと同じ巡礼者の装束に身を包んでいる。
「生意気が収まったのはいいけど…… なんか調子が狂うわね」
そんなルーサーを見返して。むー、と不機嫌な表情でマリーが呟いた。
クリスもまた心配そうに少年を見やった。一時期より大分良くなったものの、ルーサーはすっかり元気を失っていた。わがままばかりを言われるのも困ったものだったが、これはこれで喜ばしい状態であるとは言えない。
「……で、クリス。大分遅れが出ちゃっているけど、予定していたルートを進むの?」
「…………。いえ、コースを変えましょう」
数日後、辿り着いたのは、ティベリス河沿いのとある町の川べりだった。この町には中型船が入れる船着場が整備されていた。侯爵領に向かうには若干遠回りではあるが、王都とフェルダー地方深部を結ぶ船便も就航している。
「……船だ!」
「…………船だ!!!」
艀に停泊した中型規模の船を初めて目にして喜色を浮かべたマリーの横で。ルーサーがこれ以上ない感動の面持ちでその瞳を輝かせた。
「小さい頃、母上に連れられて旅行に行ったことがある…… その時、『双丘の泉』(湖)で船に乗った。船を見るのはあの時以来だ……!」
まるで子供の様なきらきらとした表情で──いや、今も子供なのだが──船を眺め続けるルーサー。それを見てクリスはホッと笑みを浮かべた。──遠回りにも関わらず、彼女が陸路ではなく船旅を選んだのは、『謎の騎兵勢力による再度の襲撃を危惧したから』というのが最大の理由であったが、ルーサーの気分転換と言う理由も大きなウェイトを占めていたのだ。
艀の係員が、大声で周囲に船の出発を呼びかける。
クリスは慌ててマリーらに船へと乗り込むように告げた。ルーサーの手を取って、船へと続く渡り板をおっかなびっくり急ぐマリー。3人分のチケットを購入したクリスがにこにこしながらそれに続き…… 直後。艀上に詰まれた荷の陰から、ちっちゃな(犬猫大の)『二足歩行で立った四足歩行の獣』がひょっこりと顔を出し…… 外されかけた渡り板を見て慌てて地面をシュタタタ駆けると、ジャンプ一番、渡り板から船縁へと飛びついて。落ちかけてワタワタしながらどうにか中へと転がり込む……
出航した中型船は、客船ではなく輸送船だった。
フェルダー地方の石切り場から切り出された石材を筏で王都へと運び、帰りに人や物資を運ぶ。流れに逆らって航行する為、船足は遅く、荷は少ない。あくまで上流へ戻る『ついで』の貨客輸送であり、望んでこれに乗る客はよほど急ぎの者だけだ。
「ふぅ。これでようやっと、数日後にはハルトフォートに到着すると言うわけだな」
「これというのも、ダニム。お主が道になんぞ迷うからじゃ。いったい何日を無駄にしたことやら」
「まったくのぅ…… 手紙で呼ばれたのは年初と言うに。ラーズスヴァンの奴、首を長くして待ちかねておるぞい」
クリスたちが船に乗り込み、船室代わりの大部屋に下りると、そこには3人の先客がいた。
(髭、小人──ドワーフだ……!)
驚きを隠せぬマリーに対して、ルーサーがつまらなそうに言う。
「そんなにドワーフが珍しいか? 僕なんか、お父様の持つ鉱山で働いているのを何人か見た事があるけどなぁ」(←得意気)
「クッ…… でも、私なんかユグディラの友達がいるけどね!」(←ドヤ顔)
「ユグディラの…… 友達、だって……?!」(←驚愕&うらやましい)
自慢合戦を繰り広げるルーサーとマリーを一筋の汗と微苦笑で見やって…… クリスはドワーフたちに向き直ると、余計なお世話かもしれないと思いつつ、挨拶がてら話しかけた。
「あのー…… ハルトフォート砦でしたら、こちらと反対方向ですよ?」
恐る恐る切り出したクリスの言葉に、ドワーフたちは戦慄し、恐怖した。
「なん……じゃと……?!」
「バカな。ポルトンは言っていたぞ。ハルトフォートはティベリス河沿いにある、と!」
はい、とクリスは頷いた。確かに砦は川沿いにある。……下流側に。
「でも、この船は上流に遡っていますから……」
「そんな……!」
「ならばお嬢さん、わしらは、わしらはこれからどうすればいいんじゃぁ~!」
あっちこっちでわちゃわちゃしてると、船を振動が襲った。
好好爺──というか泣き顔のそれから戦士のそれへと表情を変えるドワーフたち。びくりと身を竦ませるルーサーにしっかりするよう声を掛けるマリーの耳に、事態急を告げる鐘の根が甲板上から聞こえて来る。
「雑魔だ! 雑魔が出たぞー!」
どたどたと戦闘準備に忙しくなる上甲板。ドワーフ3人がやいのやいのと愚痴を零しながら鎚や銃を取り出す横で、クリスが止める間もあればこそ。マリーがルーサーの手を取って「見に行こう!」と廊下へ飛び出し、昇降口を上へと上がる。
マリーがルーサーの尻を無理矢理持ち上げ、自身も上へと上がった時。その雑魔は川から船へと取り付き、張り付くように舷側から上デッキに上がってきたところだった。
『ソレ』は一瞬、毛むくじゃらに見えた。ある種の長毛種の犬を、二足歩行にした様な。
だが、それは毛ではなかった。べちゃべちゃと濡れ光るそれは長い短冊状……強いてあげるなら、若布か昆布(と訳された)のよう。そのワカメ人間が舷側を越えた所で、船員たちが一斉に弩を撃ち放つ。ドドド、と一斉に突き立った矢の雨は、しかし、その本体まで届かない……
王国巡礼の旅を行く貴族の娘クリスティーヌと幼馴染みの若き侍女マリーの2人は、ある日、王国北東部フェルダー地方で貴族の馬車の事故現場に出会う。
唯一事故を生き残った使用人に頼まれ、大貴族ダフィールド侯爵家が四男ルーサーを屋敷へ送っていくことになったものの、わがままいっぱいに育ったお坊ちゃんはクリスらに反発して『家出』。自ら荒くれ者らを頼った挙句、『誘拐』までされてしまう。
謎の騎兵たちの介入を廃し、どうにかルーサーを助け出したクリスたちであったが、温室育ちで箱入りで世間知らずのルーサーは、自分に手を上げる者、害しようとする者が存在する事を知り、幼い価値観を崩壊させる。
宿の一室に閉じ篭ってしまったルーサー。ハンターたちは少年を半ば強引に部屋から連れ出して、世界はルーサーが思っているよりもずっと広くて深いものだと諭すのだった。
●
なんだかんだで一週間ほど逗留した宿を出て。クリスとマリーの主従コンビは再びルーサーを侯爵家へと届ける旅を再開した。
久方ぶりの旅の日は、抜けるような青空だった。マリーは大きく伸びをすると、朝の心地よい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
それを微笑で見守りながら、クリスがルーサーを振り返る。……少年は2人の後に続いてとぼとぼ出た後、足を止めて俯いた。その両肩には己が荷の背嚢── 誂えた高価な服も着替え、今ではクリスらと同じ巡礼者の装束に身を包んでいる。
「生意気が収まったのはいいけど…… なんか調子が狂うわね」
そんなルーサーを見返して。むー、と不機嫌な表情でマリーが呟いた。
クリスもまた心配そうに少年を見やった。一時期より大分良くなったものの、ルーサーはすっかり元気を失っていた。わがままばかりを言われるのも困ったものだったが、これはこれで喜ばしい状態であるとは言えない。
「……で、クリス。大分遅れが出ちゃっているけど、予定していたルートを進むの?」
「…………。いえ、コースを変えましょう」
数日後、辿り着いたのは、ティベリス河沿いのとある町の川べりだった。この町には中型船が入れる船着場が整備されていた。侯爵領に向かうには若干遠回りではあるが、王都とフェルダー地方深部を結ぶ船便も就航している。
「……船だ!」
「…………船だ!!!」
艀に停泊した中型規模の船を初めて目にして喜色を浮かべたマリーの横で。ルーサーがこれ以上ない感動の面持ちでその瞳を輝かせた。
「小さい頃、母上に連れられて旅行に行ったことがある…… その時、『双丘の泉』(湖)で船に乗った。船を見るのはあの時以来だ……!」
まるで子供の様なきらきらとした表情で──いや、今も子供なのだが──船を眺め続けるルーサー。それを見てクリスはホッと笑みを浮かべた。──遠回りにも関わらず、彼女が陸路ではなく船旅を選んだのは、『謎の騎兵勢力による再度の襲撃を危惧したから』というのが最大の理由であったが、ルーサーの気分転換と言う理由も大きなウェイトを占めていたのだ。
艀の係員が、大声で周囲に船の出発を呼びかける。
クリスは慌ててマリーらに船へと乗り込むように告げた。ルーサーの手を取って、船へと続く渡り板をおっかなびっくり急ぐマリー。3人分のチケットを購入したクリスがにこにこしながらそれに続き…… 直後。艀上に詰まれた荷の陰から、ちっちゃな(犬猫大の)『二足歩行で立った四足歩行の獣』がひょっこりと顔を出し…… 外されかけた渡り板を見て慌てて地面をシュタタタ駆けると、ジャンプ一番、渡り板から船縁へと飛びついて。落ちかけてワタワタしながらどうにか中へと転がり込む……
出航した中型船は、客船ではなく輸送船だった。
フェルダー地方の石切り場から切り出された石材を筏で王都へと運び、帰りに人や物資を運ぶ。流れに逆らって航行する為、船足は遅く、荷は少ない。あくまで上流へ戻る『ついで』の貨客輸送であり、望んでこれに乗る客はよほど急ぎの者だけだ。
「ふぅ。これでようやっと、数日後にはハルトフォートに到着すると言うわけだな」
「これというのも、ダニム。お主が道になんぞ迷うからじゃ。いったい何日を無駄にしたことやら」
「まったくのぅ…… 手紙で呼ばれたのは年初と言うに。ラーズスヴァンの奴、首を長くして待ちかねておるぞい」
クリスたちが船に乗り込み、船室代わりの大部屋に下りると、そこには3人の先客がいた。
(髭、小人──ドワーフだ……!)
驚きを隠せぬマリーに対して、ルーサーがつまらなそうに言う。
「そんなにドワーフが珍しいか? 僕なんか、お父様の持つ鉱山で働いているのを何人か見た事があるけどなぁ」(←得意気)
「クッ…… でも、私なんかユグディラの友達がいるけどね!」(←ドヤ顔)
「ユグディラの…… 友達、だって……?!」(←驚愕&うらやましい)
自慢合戦を繰り広げるルーサーとマリーを一筋の汗と微苦笑で見やって…… クリスはドワーフたちに向き直ると、余計なお世話かもしれないと思いつつ、挨拶がてら話しかけた。
「あのー…… ハルトフォート砦でしたら、こちらと反対方向ですよ?」
恐る恐る切り出したクリスの言葉に、ドワーフたちは戦慄し、恐怖した。
「なん……じゃと……?!」
「バカな。ポルトンは言っていたぞ。ハルトフォートはティベリス河沿いにある、と!」
はい、とクリスは頷いた。確かに砦は川沿いにある。……下流側に。
「でも、この船は上流に遡っていますから……」
「そんな……!」
「ならばお嬢さん、わしらは、わしらはこれからどうすればいいんじゃぁ~!」
あっちこっちでわちゃわちゃしてると、船を振動が襲った。
好好爺──というか泣き顔のそれから戦士のそれへと表情を変えるドワーフたち。びくりと身を竦ませるルーサーにしっかりするよう声を掛けるマリーの耳に、事態急を告げる鐘の根が甲板上から聞こえて来る。
「雑魔だ! 雑魔が出たぞー!」
どたどたと戦闘準備に忙しくなる上甲板。ドワーフ3人がやいのやいのと愚痴を零しながら鎚や銃を取り出す横で、クリスが止める間もあればこそ。マリーがルーサーの手を取って「見に行こう!」と廊下へ飛び出し、昇降口を上へと上がる。
マリーがルーサーの尻を無理矢理持ち上げ、自身も上へと上がった時。その雑魔は川から船へと取り付き、張り付くように舷側から上デッキに上がってきたところだった。
『ソレ』は一瞬、毛むくじゃらに見えた。ある種の長毛種の犬を、二足歩行にした様な。
だが、それは毛ではなかった。べちゃべちゃと濡れ光るそれは長い短冊状……強いてあげるなら、若布か昆布(と訳された)のよう。そのワカメ人間が舷側を越えた所で、船員たちが一斉に弩を撃ち放つ。ドドド、と一斉に突き立った矢の雨は、しかし、その本体まで届かない……
リプレイ本文
べちゃり、とぬめった音と共にその『化け物』が舳先から姿を現した瞬間── それまで反応できずにいた乗客と船員たちはようやく止まっていた時間を取り戻した。
悲鳴を上げつつ船尾側へと逃げていく船客たち── 低く、昏く、まるで深淵の底から漏れ聞こえてくるような呻き声と共に、何かを渇望するようにその腕を前へと伸ばして、海藻を纏った化け物がのろのろとそれを追い始める。
「妖怪……? あ、こっちでは雑魔じゃったか。たまたま乗っとった船が襲われるとは、運が良いのか、悪いのか……」
「やれやれ。たまの気紛れに外に出てみればこれだ…… やはり家で研究をしていた方がよかったかな?」
客の一人として右舷中央の舷側にてそれぞれのんびり時を過ごしていた御酒部 千鳥(ka6405)とフワ ハヤテ(ka0004)が、気だるそうに、或いは面倒くさそうに、騒動の根源たる化け物へと視線を向ける。
「あまりお近づきになりたくない類の輩だな。とはいえ、放っておくわけにもいくまい」
「……まぁ、雑魔と同船なんて冗談じゃないからね。手は貸すとも。良い運動にはなりそうだしね」
船の護衛として雇われていた聖導士、ロニ・カルディス(ka0551)の言葉に、腰かけていた舷側からよっと飛び降りるハヤテ。千鳥もまた心底楽しそうに、「酒代、いただきじゃな♪」と人の悪い笑みを浮かべながら、腕の上に乗せた瓢箪を傾げ、中の酒をグイッと呷る。
一方、打ち鳴らされる警鐘の音に急を察した船中組は、ルーサーの手を引いて上甲板へと飛び出していくマリーに気づいて、慌ててその後を追っていた。
「クリスはここに! 2人は私たちが連れ戻して来やがるです!」
シレークス(ka0752)が素早く傍らの友人へ視線を振り── その意を受けたサクラ・エルフリード(ka2598)がコクリと頷き、得物を手に立ち上がる。
「マリーにルーサー? なんだってこんな所に…… おい、クリスは一緒じゃないのか?」
逃げ来る人の流れに逆らって上甲板に出てきたマリーとルーサーに最初に気づいたのはヴァイス(ka0364)だった。
問い掛けられてヤバッとマリーが足を止めた瞬間、追いついてきたシレークスが2人を背後から抱え込んだ。
「おらあ、何を考えてやがりますか、2人とも! 余計な手間こさえやがって……!」
「障害は乗り越えるものだって、ルーサーに見せてやりたかったのよ! ハンターたちが雑魔と戦って打ち克つところを、その目で、実際に!」
だからといって、2人が身を危険に晒していい理由にはならない── だが、既に船内へ続く昇降口は逃げてきた客らでごった返し始めており、今からではもう2人を船内に戻せそうもなかった。
「~~~~~! サクラ! ヴァイス! 前衛は任せやがります。こいつらは私が見ときますんで……!」
苦虫を噛み潰したような表情で、シレークス。サクラはコクリと頷くと、急ぎ付近の船員たちへ話しかけた。
「雑魔の相手は私たちに任せてください。船員の皆さんは、何か不測の事態が起こった為に備えを」
「不測の事態……?」
「誰かが川に落ちたり、とか……」
わ、私が落ちる、とは言っていませんヨ……? まぁ、万が一の場合でもこのビキニアーマーなら水着に似てるから…… って、いやいや、さすがに勘弁ですが。
「……2人とも。死にたくなければシレークスから離れるな。くれぐれも勝手な行動はするなよ」
不満げに頷くマリーを見て口の端に笑みを浮かべて。「そこでよく見ていろ」と戦場へ走っていくヴァイス。
その言葉にパアァァァと笑顔を輝かせた2人の子供は、だが、直後、頭上に浮かんだシレークスの『満面の笑み』に戦慄した。
「二人とも」
シレークスは、笑っている。
その笑顔がグイと2人に近づけられた。
「後でありがたいお説教をくれてやるです。……覚悟しておくですよ♪」
●
「やあ皆さん落ち着いて。慌てず騒がず迅速に。避難する時の鉄則だよ」
船中央── 船首側より逃げて来る乗客たちに向かって呼びかけるハヤテとロニ、千鳥たちの傍らを、前衛のハンターたちが駆け抜けた。
金色の片手半剣を手に全力で走るヴァイスとサクラ。それを見た千鳥が危なっかしくその身を左右に揺らしながら、「なに、酒が効いとるこのくらいでちょうど良いのじゃ♪」と言いつつ2人に後続する。
「うおっ!? なんか変なヴォイドが出てきた! 何だアレ!? ひっついてんのは、昆布か!? 若芽か!?」
ルーエル・ゼクシディア(ka2473)と共に左舷側を駆けつけてきた岩井崎 旭(ka0234)が、その『海藻人間』を初めて目にした瞬間、慄きつつそう叫んだ。
「うーん…… この川で亡くなった人が雑魔化した……のかな?」
「つーか、若芽とか昆布とか…… せめて海で出て来いよ!」
「どちらにせよ供養してあげないと。幸い、祈り手(聖導士)は多いみたいだし。僕も含めてねっ!」
そう言って、同じ聖導士であるロニの元へと駆け出すルーエル。旭は船外転落に備えてロープの束を準備しながら、他から別の個体が上がって来ないか、暫し警戒した。だが、それ以降、同種が現れることはなく…… え? まさか本当に海からここまで歩いてきた……?
「これ以上、敵を昇降口に近づけさせるわけにはいかない。遠距離攻撃を主軸に、足止めしつつ撃破する」
「了解です、ロニさん。まだ避難できてない人も多いですものね…… 『杭』は2人で同時に撃ちますか? それとも、交互に?」
「時間差でいこう。俺が足止めに失敗したら、ルーエル、お前が二の矢を放て。そちらが足止めに成功したら、俺は『鎮魂歌』で雑魔の動きを阻害する」
「では、時間差で。レクイエムは僕も歌えます。船上ライブってわけじゃないけど、せめて安らかに逝ってもらいましょう」
手早く相談を終えるや否や、早速、ロニがその手に生じせしめた光の杭を迫る雑魔へ投射する。霊的に甲板上へと縫い付けた足元の『杭』を見、それを成し得たロニへ再び視線を上げる敵。その腕がロニを指向するより早く、ルーエルが性別と歳の割には高い声にマテリアルを乗せ、まるで聖楽隊の如く『レクイエム』を紡ぐ。瞬間、苦し気な呻き声と共にその身をよじらせ始める雑魔。そこへサクラが首から提げたロザリオを掴み、敵へと接近しながら輝く光弾を撃ち放ち。ヴァイスが雄叫びと共に己が体内にマテリアルを燃焼。見えざるオーラを炎の如く噴出させて、敵の注意を惹きつける。
迫り来る敵性存在に海藻人間はぶるりと身を震わせると、差し伸ばした両腕から前方、扇状の範囲に蔦状の『昆布』を一斉に投射した。「どわぁっ!?」と悲鳴を上げながら、しかし、鷹の如き動体視力でクルリと触手を躱し、そのまま流れるように細身の白刃を振ってその触手昆布を斬り飛ばす旭。ヴァイスはその足を止めると剣を鞘走らせ、居合の如きカウンターを一閃して板状昆布を跳ね飛ばし。身体を揺らすように触手を躱した千鳥はそのままタンッ! と舷側の縁を蹴り飛び、雑魔の背後へ回り込む。
その動きに呼応し、ヴァイスと入れ替わるように前に出たサクラが手早く白刃を──ガンソードを抜き放ち。一瞬の間に刃の軌跡と身体の動きとで2度のフェイントを入れた後、肉薄して雑魔へ斬りかかった。
だが……
「っ! なんですか、この粘性は……! べたべたして刃が走らない……!」
「へぇ。だったら……」
敵の背後に立つ千鳥がすぅっ、と目を細めつつ息を吸い…… 呼吸を止めた瞬間、それまでの揺れる様な動きを直線的な動きに転換。ダンッ! と強く踏み込みながら、飾り気のない最速の突きでもって雑魔の背中を殴打する。
(入った……!)との感触は、だが、続く2打目の時には失われていた。昆布表面のベトベトが瞬間的にツルツルへと変わり、打点を滑らされたのだ。
「厄介そうな気配と磯臭さがプンプンしてくるぜ……! 川の上だけどな!」
「見た目的にも何とも嫌な相手ですね…… ぬるぬるですし、硬いですし」
視覚的にも、聴覚的にも、おまけに嗅覚的にも(近づいてわかった)おぞましいその強敵から一歩、後退さりながら、旭とサクラ。
再び雑魔の腕から昆布が放たれ── 速度と射程を重視した単線のソレが、前衛の味方を支援すべく『ウォーターウォーク』を掛けようとしていたハヤテへと伸ばされた。
「おや」
まるで意志あるもののように蠢くそれに右腕を絡み取られつつ、飄々と呟くハヤテ。筋肉の如く脈動した触手がハヤテを投げ飛ばさんとしたまさにその時。横合いから踏み込んできたヴァイスが刃を振るい、伸ばされた触手の半ば当たりを一刀の元に両断する。
「伸ばされた蔦? は俺が断つ。皆は本体への攻撃に集中しろ」
「そいつはありがたい、ね」
後退しつつ、再び魔力を──マテリアルを練り始めるハヤテ。前衛組もまた敵を抑え込むべく海藻人間へと斬りかかっていく……
●
逃げる人の波を掻き分けるようにして、昇降口から甲板上にドワーフの3人組が上がって来た。
「わしらも援護するぞ!」
「ぬ、狭過ぎて射線が通らんではないか!」
「人も多すぎだぞい!」
「「「どうするんじゃ、『髭なし』?!」」」
3人から髭なし、と呼ばれたロニは眉間を指で揉みつつ嘆息しながら…… 銃手はマストの上に見張り台に上るよう、槌持ちは人々の守り手としてここに残るよう指示を出した。おおっ、と感心し、ロニの背中をバンバン叩いてから、のしのしと網を登り始めるダニムとデール。ドゥーンはどんと構えながら、「あ、お疲れ様です」と会釈するルーエルにぺこりと返礼する。
「大変ですね。この後、次の船で引き返さないといけないのに……」
「うむ。いっそこのまま川に落ちて流されてけば、ハルトフォートに着けるかのぉ」
自身の周囲を舞い飛ばす様に炎のマテリアルを循環させて── 生成したその魔力の塊をハヤテは己が頭上へ浮遊させると、複数の炎弾へと分割し、2発、3発と立て続けに前方の雑魔へ撃ち放った。
空中を炎の尾を曳きながら、切り結ぶ前衛組の頭上を越えて次々と敵へと降り注ぐ『炎の矢』。マテリアルの属性攻撃に晒された直後、昆布の表面から艶が失せ…… そこを狙って踏み込んだ旭が、雑魔本体を守る昆布鎧を1枚、真横に斬り飛ばす。
「魔法攻撃は普通に本体に通りますね」
「その直後なら本体の昆布も斬れるぞ!」
この短時間の間にも、ハンターたちは次々と海藻人間の攻略法を見つけつつあった。
ツルツルは斬撃が通る。べとべとは打撃が抜ける。属性攻撃の後ならば、それらの特殊能力は一時的に効力を失う。伸ばした昆布は普通に切れる──
次々と失われていく昆布の鎧。しかも、ロニとルーエルに立て続けに光の杭を打ち込まれ、まともに近接戦もできない……
そんなハンターたちの戦いぶりを、マリーとルーサーはその瞳を輝かせながら見ていた。
その視界の隅に『何か』を見つけて、マリーが驚きに目を見開く。
避難し忘れた人がいないか気に掛けていたハヤテとルーエルも気づいた。戦場の片隅──木箱の陰に隠れてフルフルと震えている1匹のユグディラの姿に。
(あれ? あの子なんだろう? もしかして…… 密航、とか……?)
だから、避難できなかったとか? 怯えつつそーっと木箱の陰から雑魔の様子を伺おうとしたユグディラの眼前で、振るわれた昆布触手の『流れ弾』がバチンッ! と弾け。恐慌に陥ったユグディラが木箱の陰から矢面に飛び出す。
「ユグディラ!」
マリーが飛び出した。昆布人間の虚ろな目が彼女らへと向けられた。
「ったく! 言わんこっちゃねーです!」
真っ先に対応できたのは、直衛についていたシレークスだった。彼女は飛び出さんとしたマリーの襟首を猫の様に掴み上げると、そのまま、逃げて来たユグディラ(シレークスを見て「ピャッ!?」と鳴いた)と一緒にして後方へと放り投げる。
ビュルンッ、と彼らへ振るわれた昆布触手が、その眼前に立ちはだかったシレークスの身体を捉える。両腕ごと巻き付かれる寸前に、彼女は棘鉄球付きの鉄鎖を大きく横へと振るってメインマストへと巻き付けた。
「以前の様に水に転落なんて勘弁なのですよ!」
ぬらぬらとした昆布にぎちり、と身体を拘束されつつ、投げ飛ばされぬように踏ん張るシレークス。鎖を二重巻きにした拳と身体がみしりと軋む。
その間に、仲間が動いた。
後衛より放たれる、ロニとハヤテの光杭と氷礫。共に足元に着弾し敵の動きを止めたその支援攻撃の下、懐へと飛び込んだサクラが、己の速度と質量ごとガンソードの切っ先を昆布に突き入れ。ヴァイスが大上段に振り被った黄金剣を渾身の力でもって振り下ろし、丈夫な『昆布巻き』(シレークスのことだ)に繋がったごんぶとを数本ごと叩き割る。
「これでどうだッ!」
首から提げた大きな直方体の箱を抱えたルーエルが突っ込んで来るのを見て、旭は己の身体に魔力の塊を巻き付けた。チリチリと揺れる陽炎に乗って周囲へ舞い上がるマテリアルの砂塵── そこへ攻撃を加えんとした海藻人間は、背後の千鳥に昆布の『裾』を踏まれてつんのめる。
旭の傍らを駆け抜けて敵に肉薄したルーエルが、腰だめに構えた『箱』を雑魔に押し付け、起動。『パイルバンカー』──高速で撃ち出された杭で以って幾枚もの昆布を貫き、纏めて鎧を捲り上げる。
そこへ大きなミミズクの幻影を背負って跳躍した旭が、露出した敵本体へ向けて砂塵の魔力を込めた一撃を大上段から振り下ろした。その一撃は狙い過たず雑魔の本体を袈裟斬りにして…… 雑魔が咆哮と共に肉薄した4人を跳ね飛ばす。
宙を後ろへ跳ね飛ばされながら── サクラはガンソードに引き金を引き、剣先から銃弾を撃ち放った。
着弾し、傷を抉って体内へと飛び込む鉛玉。すかさずロニとハヤテ、ドワーフたちの全力攻撃が後方から雑魔に叩き込まれ── 幾本もの光の杭と炎と氷と鉛玉に貫かれて、雑魔はその場に崩れ落ちた。
●
戦いを終えて── 他のハンターたちと共に船員の治療や船の修理を行っていたヴァイスは、甲板の上に正座させられ、シレークスにこっぴどく怒られるマリーとルーサーの姿を遠目に見つけた。
最後にごつんと拳骨を落とし、説教を終えるシレークス。慰めに行った方が良いかな、と考えたヴァイスは、だが、クリスが歩み寄るのを見て彼女に任せることにする。
「拳骨は痛かったですか?」
「痛かった……」
「お説教は怖かったですか?」
「怖かった!」
では、荒くれ者の拳と彼女の拳骨。その違いは分かりましたか──? クリスの言葉に、ルーサーは項垂れたまま小さくコクリと頷いた。
見ていたサクラが歩み寄り、その頭にポムと手を乗せた。
「先に進む気になったことは良いことです…… が、色々と問題に巻き込まれるのは、相変わらず運命か何かなんですかね……」
悲鳴を上げつつ船尾側へと逃げていく船客たち── 低く、昏く、まるで深淵の底から漏れ聞こえてくるような呻き声と共に、何かを渇望するようにその腕を前へと伸ばして、海藻を纏った化け物がのろのろとそれを追い始める。
「妖怪……? あ、こっちでは雑魔じゃったか。たまたま乗っとった船が襲われるとは、運が良いのか、悪いのか……」
「やれやれ。たまの気紛れに外に出てみればこれだ…… やはり家で研究をしていた方がよかったかな?」
客の一人として右舷中央の舷側にてそれぞれのんびり時を過ごしていた御酒部 千鳥(ka6405)とフワ ハヤテ(ka0004)が、気だるそうに、或いは面倒くさそうに、騒動の根源たる化け物へと視線を向ける。
「あまりお近づきになりたくない類の輩だな。とはいえ、放っておくわけにもいくまい」
「……まぁ、雑魔と同船なんて冗談じゃないからね。手は貸すとも。良い運動にはなりそうだしね」
船の護衛として雇われていた聖導士、ロニ・カルディス(ka0551)の言葉に、腰かけていた舷側からよっと飛び降りるハヤテ。千鳥もまた心底楽しそうに、「酒代、いただきじゃな♪」と人の悪い笑みを浮かべながら、腕の上に乗せた瓢箪を傾げ、中の酒をグイッと呷る。
一方、打ち鳴らされる警鐘の音に急を察した船中組は、ルーサーの手を引いて上甲板へと飛び出していくマリーに気づいて、慌ててその後を追っていた。
「クリスはここに! 2人は私たちが連れ戻して来やがるです!」
シレークス(ka0752)が素早く傍らの友人へ視線を振り── その意を受けたサクラ・エルフリード(ka2598)がコクリと頷き、得物を手に立ち上がる。
「マリーにルーサー? なんだってこんな所に…… おい、クリスは一緒じゃないのか?」
逃げ来る人の流れに逆らって上甲板に出てきたマリーとルーサーに最初に気づいたのはヴァイス(ka0364)だった。
問い掛けられてヤバッとマリーが足を止めた瞬間、追いついてきたシレークスが2人を背後から抱え込んだ。
「おらあ、何を考えてやがりますか、2人とも! 余計な手間こさえやがって……!」
「障害は乗り越えるものだって、ルーサーに見せてやりたかったのよ! ハンターたちが雑魔と戦って打ち克つところを、その目で、実際に!」
だからといって、2人が身を危険に晒していい理由にはならない── だが、既に船内へ続く昇降口は逃げてきた客らでごった返し始めており、今からではもう2人を船内に戻せそうもなかった。
「~~~~~! サクラ! ヴァイス! 前衛は任せやがります。こいつらは私が見ときますんで……!」
苦虫を噛み潰したような表情で、シレークス。サクラはコクリと頷くと、急ぎ付近の船員たちへ話しかけた。
「雑魔の相手は私たちに任せてください。船員の皆さんは、何か不測の事態が起こった為に備えを」
「不測の事態……?」
「誰かが川に落ちたり、とか……」
わ、私が落ちる、とは言っていませんヨ……? まぁ、万が一の場合でもこのビキニアーマーなら水着に似てるから…… って、いやいや、さすがに勘弁ですが。
「……2人とも。死にたくなければシレークスから離れるな。くれぐれも勝手な行動はするなよ」
不満げに頷くマリーを見て口の端に笑みを浮かべて。「そこでよく見ていろ」と戦場へ走っていくヴァイス。
その言葉にパアァァァと笑顔を輝かせた2人の子供は、だが、直後、頭上に浮かんだシレークスの『満面の笑み』に戦慄した。
「二人とも」
シレークスは、笑っている。
その笑顔がグイと2人に近づけられた。
「後でありがたいお説教をくれてやるです。……覚悟しておくですよ♪」
●
「やあ皆さん落ち着いて。慌てず騒がず迅速に。避難する時の鉄則だよ」
船中央── 船首側より逃げて来る乗客たちに向かって呼びかけるハヤテとロニ、千鳥たちの傍らを、前衛のハンターたちが駆け抜けた。
金色の片手半剣を手に全力で走るヴァイスとサクラ。それを見た千鳥が危なっかしくその身を左右に揺らしながら、「なに、酒が効いとるこのくらいでちょうど良いのじゃ♪」と言いつつ2人に後続する。
「うおっ!? なんか変なヴォイドが出てきた! 何だアレ!? ひっついてんのは、昆布か!? 若芽か!?」
ルーエル・ゼクシディア(ka2473)と共に左舷側を駆けつけてきた岩井崎 旭(ka0234)が、その『海藻人間』を初めて目にした瞬間、慄きつつそう叫んだ。
「うーん…… この川で亡くなった人が雑魔化した……のかな?」
「つーか、若芽とか昆布とか…… せめて海で出て来いよ!」
「どちらにせよ供養してあげないと。幸い、祈り手(聖導士)は多いみたいだし。僕も含めてねっ!」
そう言って、同じ聖導士であるロニの元へと駆け出すルーエル。旭は船外転落に備えてロープの束を準備しながら、他から別の個体が上がって来ないか、暫し警戒した。だが、それ以降、同種が現れることはなく…… え? まさか本当に海からここまで歩いてきた……?
「これ以上、敵を昇降口に近づけさせるわけにはいかない。遠距離攻撃を主軸に、足止めしつつ撃破する」
「了解です、ロニさん。まだ避難できてない人も多いですものね…… 『杭』は2人で同時に撃ちますか? それとも、交互に?」
「時間差でいこう。俺が足止めに失敗したら、ルーエル、お前が二の矢を放て。そちらが足止めに成功したら、俺は『鎮魂歌』で雑魔の動きを阻害する」
「では、時間差で。レクイエムは僕も歌えます。船上ライブってわけじゃないけど、せめて安らかに逝ってもらいましょう」
手早く相談を終えるや否や、早速、ロニがその手に生じせしめた光の杭を迫る雑魔へ投射する。霊的に甲板上へと縫い付けた足元の『杭』を見、それを成し得たロニへ再び視線を上げる敵。その腕がロニを指向するより早く、ルーエルが性別と歳の割には高い声にマテリアルを乗せ、まるで聖楽隊の如く『レクイエム』を紡ぐ。瞬間、苦し気な呻き声と共にその身をよじらせ始める雑魔。そこへサクラが首から提げたロザリオを掴み、敵へと接近しながら輝く光弾を撃ち放ち。ヴァイスが雄叫びと共に己が体内にマテリアルを燃焼。見えざるオーラを炎の如く噴出させて、敵の注意を惹きつける。
迫り来る敵性存在に海藻人間はぶるりと身を震わせると、差し伸ばした両腕から前方、扇状の範囲に蔦状の『昆布』を一斉に投射した。「どわぁっ!?」と悲鳴を上げながら、しかし、鷹の如き動体視力でクルリと触手を躱し、そのまま流れるように細身の白刃を振ってその触手昆布を斬り飛ばす旭。ヴァイスはその足を止めると剣を鞘走らせ、居合の如きカウンターを一閃して板状昆布を跳ね飛ばし。身体を揺らすように触手を躱した千鳥はそのままタンッ! と舷側の縁を蹴り飛び、雑魔の背後へ回り込む。
その動きに呼応し、ヴァイスと入れ替わるように前に出たサクラが手早く白刃を──ガンソードを抜き放ち。一瞬の間に刃の軌跡と身体の動きとで2度のフェイントを入れた後、肉薄して雑魔へ斬りかかった。
だが……
「っ! なんですか、この粘性は……! べたべたして刃が走らない……!」
「へぇ。だったら……」
敵の背後に立つ千鳥がすぅっ、と目を細めつつ息を吸い…… 呼吸を止めた瞬間、それまでの揺れる様な動きを直線的な動きに転換。ダンッ! と強く踏み込みながら、飾り気のない最速の突きでもって雑魔の背中を殴打する。
(入った……!)との感触は、だが、続く2打目の時には失われていた。昆布表面のベトベトが瞬間的にツルツルへと変わり、打点を滑らされたのだ。
「厄介そうな気配と磯臭さがプンプンしてくるぜ……! 川の上だけどな!」
「見た目的にも何とも嫌な相手ですね…… ぬるぬるですし、硬いですし」
視覚的にも、聴覚的にも、おまけに嗅覚的にも(近づいてわかった)おぞましいその強敵から一歩、後退さりながら、旭とサクラ。
再び雑魔の腕から昆布が放たれ── 速度と射程を重視した単線のソレが、前衛の味方を支援すべく『ウォーターウォーク』を掛けようとしていたハヤテへと伸ばされた。
「おや」
まるで意志あるもののように蠢くそれに右腕を絡み取られつつ、飄々と呟くハヤテ。筋肉の如く脈動した触手がハヤテを投げ飛ばさんとしたまさにその時。横合いから踏み込んできたヴァイスが刃を振るい、伸ばされた触手の半ば当たりを一刀の元に両断する。
「伸ばされた蔦? は俺が断つ。皆は本体への攻撃に集中しろ」
「そいつはありがたい、ね」
後退しつつ、再び魔力を──マテリアルを練り始めるハヤテ。前衛組もまた敵を抑え込むべく海藻人間へと斬りかかっていく……
●
逃げる人の波を掻き分けるようにして、昇降口から甲板上にドワーフの3人組が上がって来た。
「わしらも援護するぞ!」
「ぬ、狭過ぎて射線が通らんではないか!」
「人も多すぎだぞい!」
「「「どうするんじゃ、『髭なし』?!」」」
3人から髭なし、と呼ばれたロニは眉間を指で揉みつつ嘆息しながら…… 銃手はマストの上に見張り台に上るよう、槌持ちは人々の守り手としてここに残るよう指示を出した。おおっ、と感心し、ロニの背中をバンバン叩いてから、のしのしと網を登り始めるダニムとデール。ドゥーンはどんと構えながら、「あ、お疲れ様です」と会釈するルーエルにぺこりと返礼する。
「大変ですね。この後、次の船で引き返さないといけないのに……」
「うむ。いっそこのまま川に落ちて流されてけば、ハルトフォートに着けるかのぉ」
自身の周囲を舞い飛ばす様に炎のマテリアルを循環させて── 生成したその魔力の塊をハヤテは己が頭上へ浮遊させると、複数の炎弾へと分割し、2発、3発と立て続けに前方の雑魔へ撃ち放った。
空中を炎の尾を曳きながら、切り結ぶ前衛組の頭上を越えて次々と敵へと降り注ぐ『炎の矢』。マテリアルの属性攻撃に晒された直後、昆布の表面から艶が失せ…… そこを狙って踏み込んだ旭が、雑魔本体を守る昆布鎧を1枚、真横に斬り飛ばす。
「魔法攻撃は普通に本体に通りますね」
「その直後なら本体の昆布も斬れるぞ!」
この短時間の間にも、ハンターたちは次々と海藻人間の攻略法を見つけつつあった。
ツルツルは斬撃が通る。べとべとは打撃が抜ける。属性攻撃の後ならば、それらの特殊能力は一時的に効力を失う。伸ばした昆布は普通に切れる──
次々と失われていく昆布の鎧。しかも、ロニとルーエルに立て続けに光の杭を打ち込まれ、まともに近接戦もできない……
そんなハンターたちの戦いぶりを、マリーとルーサーはその瞳を輝かせながら見ていた。
その視界の隅に『何か』を見つけて、マリーが驚きに目を見開く。
避難し忘れた人がいないか気に掛けていたハヤテとルーエルも気づいた。戦場の片隅──木箱の陰に隠れてフルフルと震えている1匹のユグディラの姿に。
(あれ? あの子なんだろう? もしかして…… 密航、とか……?)
だから、避難できなかったとか? 怯えつつそーっと木箱の陰から雑魔の様子を伺おうとしたユグディラの眼前で、振るわれた昆布触手の『流れ弾』がバチンッ! と弾け。恐慌に陥ったユグディラが木箱の陰から矢面に飛び出す。
「ユグディラ!」
マリーが飛び出した。昆布人間の虚ろな目が彼女らへと向けられた。
「ったく! 言わんこっちゃねーです!」
真っ先に対応できたのは、直衛についていたシレークスだった。彼女は飛び出さんとしたマリーの襟首を猫の様に掴み上げると、そのまま、逃げて来たユグディラ(シレークスを見て「ピャッ!?」と鳴いた)と一緒にして後方へと放り投げる。
ビュルンッ、と彼らへ振るわれた昆布触手が、その眼前に立ちはだかったシレークスの身体を捉える。両腕ごと巻き付かれる寸前に、彼女は棘鉄球付きの鉄鎖を大きく横へと振るってメインマストへと巻き付けた。
「以前の様に水に転落なんて勘弁なのですよ!」
ぬらぬらとした昆布にぎちり、と身体を拘束されつつ、投げ飛ばされぬように踏ん張るシレークス。鎖を二重巻きにした拳と身体がみしりと軋む。
その間に、仲間が動いた。
後衛より放たれる、ロニとハヤテの光杭と氷礫。共に足元に着弾し敵の動きを止めたその支援攻撃の下、懐へと飛び込んだサクラが、己の速度と質量ごとガンソードの切っ先を昆布に突き入れ。ヴァイスが大上段に振り被った黄金剣を渾身の力でもって振り下ろし、丈夫な『昆布巻き』(シレークスのことだ)に繋がったごんぶとを数本ごと叩き割る。
「これでどうだッ!」
首から提げた大きな直方体の箱を抱えたルーエルが突っ込んで来るのを見て、旭は己の身体に魔力の塊を巻き付けた。チリチリと揺れる陽炎に乗って周囲へ舞い上がるマテリアルの砂塵── そこへ攻撃を加えんとした海藻人間は、背後の千鳥に昆布の『裾』を踏まれてつんのめる。
旭の傍らを駆け抜けて敵に肉薄したルーエルが、腰だめに構えた『箱』を雑魔に押し付け、起動。『パイルバンカー』──高速で撃ち出された杭で以って幾枚もの昆布を貫き、纏めて鎧を捲り上げる。
そこへ大きなミミズクの幻影を背負って跳躍した旭が、露出した敵本体へ向けて砂塵の魔力を込めた一撃を大上段から振り下ろした。その一撃は狙い過たず雑魔の本体を袈裟斬りにして…… 雑魔が咆哮と共に肉薄した4人を跳ね飛ばす。
宙を後ろへ跳ね飛ばされながら── サクラはガンソードに引き金を引き、剣先から銃弾を撃ち放った。
着弾し、傷を抉って体内へと飛び込む鉛玉。すかさずロニとハヤテ、ドワーフたちの全力攻撃が後方から雑魔に叩き込まれ── 幾本もの光の杭と炎と氷と鉛玉に貫かれて、雑魔はその場に崩れ落ちた。
●
戦いを終えて── 他のハンターたちと共に船員の治療や船の修理を行っていたヴァイスは、甲板の上に正座させられ、シレークスにこっぴどく怒られるマリーとルーサーの姿を遠目に見つけた。
最後にごつんと拳骨を落とし、説教を終えるシレークス。慰めに行った方が良いかな、と考えたヴァイスは、だが、クリスが歩み寄るのを見て彼女に任せることにする。
「拳骨は痛かったですか?」
「痛かった……」
「お説教は怖かったですか?」
「怖かった!」
では、荒くれ者の拳と彼女の拳骨。その違いは分かりましたか──? クリスの言葉に、ルーサーは項垂れたまま小さくコクリと頷いた。
見ていたサクラが歩み寄り、その頭にポムと手を乗せた。
「先に進む気になったことは良いことです…… が、色々と問題に巻き込まれるのは、相変わらず運命か何かなんですかね……」
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 7人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/07/11 19:15:20 |
|
![]() |
相談です・・・ サクラ・エルフリード(ka2598) 人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/07/13 04:19:39 |