ゲスト
(ka0000)
【夜煌】合従連衡
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/09/17 09:00
- 完成日
- 2014/09/17 21:50
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
辺境の部族は、皆苦境に立たされていた。
北から侵攻する敵に対して部族会議を中心に一丸となって戦っている。しかし、戦士が倒れて小さな部族は歪虚へと飲み込まれていった。
生き残る術があるとすれば、帝国へ帰順する事。
帝国の庇護下に入れば、生き存える事ができる。
だが――誇りある辺境の部族にとって、その選択肢を選ぶ事はできない。
帝国の庇護下に入る事は『帝国の臣民』になる事を意味している。つまり、部族の伝統や文化を捨てて帝国の文化を受け入れなければならない。
先祖が伝えてきた文化を自分の代で絶えさせても良いのか……。
辺境の部族は、思い悩み続ける。
部族の誇りを貫き戦士として倒れるか。
それとも、部族を捨てて帝国へ帰順するか。
辺境の部族は岐路へ立たされている。
●
満天の星空が、辺境の空へ広がる。
雪が地面を覆い隠し、白と黒だけの世界。
――オイマト族の族長バタルトゥ・オイマト(kz0023)は、その世界に居た。
「……星が動いたか」
族長は、流れ星の一つを目にしてぽつりと呟く。
ラッツィオ島に現れた狂気の存在は聞き及んでいた。
辺境を侵攻する怠惰とは別の軍が動いている。今回は各国の協力で狂気の軍を撃退する事はできたが、もし辺境の南部に姿を現せば部族達は挟撃を受ける事になる。
今回の一件は、辺境を襲う敵が一つではないと再認識させる結果となった。
「族長っ!」
バタルトゥの姿を見つけた戦士が、雪を掻き分けながら走り寄る。
「なんだ?」
「巫女が夜煌祭への参加を打診してきました」
大精霊に捧げる感謝と祈り、浄化と癒しの儀式――かつては、『禍をもたらせる悪魔』と考えられていた雑魔を払うのが『夜煌祭』と呼ばれる祭がある。
身を清めた巫女が大精霊へ大地に生きるすべてのものの恵みを願い、マテリアルが満ち溢れるよう祈願するのが祭の始まりだと伝えられている。
巫女は辺境の部族にとって聖なる存在。
族長も、巫女が夜煌祭をなればそれを支えなければならない事を熟知していた。
「その話か。
既に部族会議から連絡があった。辺境の部族として夜煌祭へ参加する旨は返答している。夜煌祭を平穏無事に終える事がすべての部族の願いだ。
……そんなに慌てる必要はないはずだが?」
「も、もう一つあるんです!」
息を切らせる戦士。
その様子を見た族長は、この辺境の地で何かが大きく動き始めた事を感じ取った。
「帝国の……要塞の管理者が、族長へ会いに来るそうです。
なんでも、辺境の将来について話し合いたいって……」
「辺境の将来、か。帝国は何を考えている……」
●
――数刻前。
帝国の要塞『ノアーラ・クンタウ』、要塞管理者執務室。
「夜煌祭……」
要塞管理者のヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、机の脇に置かれたチェスの駒を動かしながら呟いた。
「はい。巫女が主催する祭りで、辺境の部族は多くがこの祭り参加するそうです」
辺境部族の動きを察知した部下が、ヴェルナーへ調査報告を行っている。
当初部下は、最近になって活発な動きを見せ始めた部族達が反帝国活動が活発化したと懸念していたものの、実際には夜煌祭の準備を始めていたようだ。
「それで?」
「あ……いえ、それだけですが……」
ヴェルナーの予想外な言葉に、気圧される部下。
ヴェルナーは持っていた駒を盤に戻して視線を送る。
「おやおや。
報告だけなら子供でもできます。中間報告としてもお粗末な内容ですねぇ。
それで帝国を支える軍人が務まるとは、私には到底思えません」
立ち上がったヴェルナーは、腕を腰に回してゆっくりと部下の方へ近づいてくる。
「大切なのはこの状況を如何に帝国の利益へ誘導するか、です。
夜煌祭は、巫女の名の下に辺境中の部族が多く集まる重要なイベントです。このイベントに帝国が介入する事ができれば、帝国への恭順を考える部族が増えるかもしれません。
一つ確認しますが、部族会議から夜煌祭への招待状は……」
「届いていません」
「でしょうね。そうだと思っていました」
その言葉を口にした後、ヴェルナーは部屋の中を歩き回る。
誇り高い辺境の戦士から見れば、帝国は歪虚と変わらない侵略者として見られている可能性がある。それはヴェルナーは辺境の部族へ帰順を促したが、多くの部族は拒否してきた事からも推測できる。
このまま部族が滅ぶのを見守っていては辺境の戦線は厳しくなるばかりだ。
何とかして辺境を戦力として帝国に取り込みたいところだが――。
部屋の中は、ヴェルナーの靴音だけが鳴り響く。
「あ、あの。夜煌祭へ直接赴けば良いのではないでしょうか?
何も辺境部族の許可を取る必要はありません。辺境でも中立の巫女が行う儀式ですから、遠慮する必要は……」
「黙っていて下さい。私は考え事をしています」
自分の失点を必死で取り繕うとする部下を一喝したヴェルナー。
そして、次に口を開いた時――ヴェルナーは突飛な発言をする。
「ハンターズソサエティへ依頼を出して下さい」
「は、はい」
「オイマト族は先日ハンターへ雑魔退治を依頼して能力を推し量ったと聞いています。
つまり、オイマト族はハンターの力量をある程度認めている可能性があります。言い換えてみれば、オイマト族はハンターの言葉ならば耳を貸すかもしれません。
そうですねぇ……辺境の将来について彼らに自由な発言を行ってもらいましょう。説得し易い空気を作っていただいた上で、オイマト族の説得を試みます」
オイマト族は帝国側に対して穏健的な態度を取っている。
しかし、まだ親帝国と評して良い程の関係ではない。オイマト族は帝国を意識しているが、まだ帰順しなければ滅亡するまでには至っていない。言ってみれば、お互いが干渉せずに様子見を行っていた状況だ。
そこでオイマトが注目するハンターを連れて、対歪虚を念頭に置いた辺境の将来をハンターに論じてもらう。ハンターが意見を述べて議論する空気を醸成した後、ヴェルナーがオイマトへ懐柔を仕掛けつもりのようだ。
「うまくいくかは分かりませんが、やってみる価値はあります」
ヴェルナーはポーンを握ると、一歩駒を進める。
帝国にとってみれば英断とも言える行動だ。うまくいけば夜煌祭だけではなく、今後も良好の関係を構築できるかもしれない。
「なるほど。部族会議でも発言力の高いオイマト族であれば、帝国を招待してくれるかも、しれません。
しかし、この事は部族会議のスコールの耳にも入ります。
それだけではありません。もし、ハンターが反帝国の発言を繰り返せば……」
失敗の可能性を口にする部下。
それに対してヴェルナーは、部下を一瞥。
大きくため息をついた後、はっきりとした口調で答えた。
「その時は、また別の方法を用います。
少々強引ではありますが……」
北から侵攻する敵に対して部族会議を中心に一丸となって戦っている。しかし、戦士が倒れて小さな部族は歪虚へと飲み込まれていった。
生き残る術があるとすれば、帝国へ帰順する事。
帝国の庇護下に入れば、生き存える事ができる。
だが――誇りある辺境の部族にとって、その選択肢を選ぶ事はできない。
帝国の庇護下に入る事は『帝国の臣民』になる事を意味している。つまり、部族の伝統や文化を捨てて帝国の文化を受け入れなければならない。
先祖が伝えてきた文化を自分の代で絶えさせても良いのか……。
辺境の部族は、思い悩み続ける。
部族の誇りを貫き戦士として倒れるか。
それとも、部族を捨てて帝国へ帰順するか。
辺境の部族は岐路へ立たされている。
●
満天の星空が、辺境の空へ広がる。
雪が地面を覆い隠し、白と黒だけの世界。
――オイマト族の族長バタルトゥ・オイマト(kz0023)は、その世界に居た。
「……星が動いたか」
族長は、流れ星の一つを目にしてぽつりと呟く。
ラッツィオ島に現れた狂気の存在は聞き及んでいた。
辺境を侵攻する怠惰とは別の軍が動いている。今回は各国の協力で狂気の軍を撃退する事はできたが、もし辺境の南部に姿を現せば部族達は挟撃を受ける事になる。
今回の一件は、辺境を襲う敵が一つではないと再認識させる結果となった。
「族長っ!」
バタルトゥの姿を見つけた戦士が、雪を掻き分けながら走り寄る。
「なんだ?」
「巫女が夜煌祭への参加を打診してきました」
大精霊に捧げる感謝と祈り、浄化と癒しの儀式――かつては、『禍をもたらせる悪魔』と考えられていた雑魔を払うのが『夜煌祭』と呼ばれる祭がある。
身を清めた巫女が大精霊へ大地に生きるすべてのものの恵みを願い、マテリアルが満ち溢れるよう祈願するのが祭の始まりだと伝えられている。
巫女は辺境の部族にとって聖なる存在。
族長も、巫女が夜煌祭をなればそれを支えなければならない事を熟知していた。
「その話か。
既に部族会議から連絡があった。辺境の部族として夜煌祭へ参加する旨は返答している。夜煌祭を平穏無事に終える事がすべての部族の願いだ。
……そんなに慌てる必要はないはずだが?」
「も、もう一つあるんです!」
息を切らせる戦士。
その様子を見た族長は、この辺境の地で何かが大きく動き始めた事を感じ取った。
「帝国の……要塞の管理者が、族長へ会いに来るそうです。
なんでも、辺境の将来について話し合いたいって……」
「辺境の将来、か。帝国は何を考えている……」
●
――数刻前。
帝国の要塞『ノアーラ・クンタウ』、要塞管理者執務室。
「夜煌祭……」
要塞管理者のヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)は、机の脇に置かれたチェスの駒を動かしながら呟いた。
「はい。巫女が主催する祭りで、辺境の部族は多くがこの祭り参加するそうです」
辺境部族の動きを察知した部下が、ヴェルナーへ調査報告を行っている。
当初部下は、最近になって活発な動きを見せ始めた部族達が反帝国活動が活発化したと懸念していたものの、実際には夜煌祭の準備を始めていたようだ。
「それで?」
「あ……いえ、それだけですが……」
ヴェルナーの予想外な言葉に、気圧される部下。
ヴェルナーは持っていた駒を盤に戻して視線を送る。
「おやおや。
報告だけなら子供でもできます。中間報告としてもお粗末な内容ですねぇ。
それで帝国を支える軍人が務まるとは、私には到底思えません」
立ち上がったヴェルナーは、腕を腰に回してゆっくりと部下の方へ近づいてくる。
「大切なのはこの状況を如何に帝国の利益へ誘導するか、です。
夜煌祭は、巫女の名の下に辺境中の部族が多く集まる重要なイベントです。このイベントに帝国が介入する事ができれば、帝国への恭順を考える部族が増えるかもしれません。
一つ確認しますが、部族会議から夜煌祭への招待状は……」
「届いていません」
「でしょうね。そうだと思っていました」
その言葉を口にした後、ヴェルナーは部屋の中を歩き回る。
誇り高い辺境の戦士から見れば、帝国は歪虚と変わらない侵略者として見られている可能性がある。それはヴェルナーは辺境の部族へ帰順を促したが、多くの部族は拒否してきた事からも推測できる。
このまま部族が滅ぶのを見守っていては辺境の戦線は厳しくなるばかりだ。
何とかして辺境を戦力として帝国に取り込みたいところだが――。
部屋の中は、ヴェルナーの靴音だけが鳴り響く。
「あ、あの。夜煌祭へ直接赴けば良いのではないでしょうか?
何も辺境部族の許可を取る必要はありません。辺境でも中立の巫女が行う儀式ですから、遠慮する必要は……」
「黙っていて下さい。私は考え事をしています」
自分の失点を必死で取り繕うとする部下を一喝したヴェルナー。
そして、次に口を開いた時――ヴェルナーは突飛な発言をする。
「ハンターズソサエティへ依頼を出して下さい」
「は、はい」
「オイマト族は先日ハンターへ雑魔退治を依頼して能力を推し量ったと聞いています。
つまり、オイマト族はハンターの力量をある程度認めている可能性があります。言い換えてみれば、オイマト族はハンターの言葉ならば耳を貸すかもしれません。
そうですねぇ……辺境の将来について彼らに自由な発言を行ってもらいましょう。説得し易い空気を作っていただいた上で、オイマト族の説得を試みます」
オイマト族は帝国側に対して穏健的な態度を取っている。
しかし、まだ親帝国と評して良い程の関係ではない。オイマト族は帝国を意識しているが、まだ帰順しなければ滅亡するまでには至っていない。言ってみれば、お互いが干渉せずに様子見を行っていた状況だ。
そこでオイマトが注目するハンターを連れて、対歪虚を念頭に置いた辺境の将来をハンターに論じてもらう。ハンターが意見を述べて議論する空気を醸成した後、ヴェルナーがオイマトへ懐柔を仕掛けつもりのようだ。
「うまくいくかは分かりませんが、やってみる価値はあります」
ヴェルナーはポーンを握ると、一歩駒を進める。
帝国にとってみれば英断とも言える行動だ。うまくいけば夜煌祭だけではなく、今後も良好の関係を構築できるかもしれない。
「なるほど。部族会議でも発言力の高いオイマト族であれば、帝国を招待してくれるかも、しれません。
しかし、この事は部族会議のスコールの耳にも入ります。
それだけではありません。もし、ハンターが反帝国の発言を繰り返せば……」
失敗の可能性を口にする部下。
それに対してヴェルナーは、部下を一瞥。
大きくため息をついた後、はっきりとした口調で答えた。
「その時は、また別の方法を用います。
少々強引ではありますが……」
リプレイ本文
「まず申し上げたいのは……」
そう切り出したのはマッシュ・アクラシス(ka0771)だった。
マッシュは帝国出身であるが、今はハンターとしてこの場にいる。
あくまでも中立な立場である事を強調してから話し出した。
「歪虚を排除する。これは双方の共通目的でもあります。
その上で、帝国と辺境部族は自らの利になるよう動くでしょう。ならば、部族会議の利となる事が何かを第一に考えてみては如何でしょうか」
マッシュは、オイマト族の族長バタルトゥ・オイマト(kz0023)へ部族会議の利を考えるよう進言した。
打倒歪虚は共通する目的である。
だが、双方は反発。下手をすれば双方とも歪虚に滅ぼされてしまう。
それを回避する為には帝国と部族会議の間で妥協点を見出す必要がある。マッシュが部族会議の利を模索するよう提案するのは、その事を見越しての事だ。
「難しいだろうな」
マッシュの言葉に、族長は答える。
それに続けてヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)が族長の言葉を補足する。
「マッシュさん、よろしいですか?
我々帝国は陛下という絶対的な統治者が存在して国家を運営しています。そして国家である以上、目指す利は同一です。
一方、部族会議は対歪虚も目的として構成された組織です。つまり、歪虚討伐以外の利は部族によって異なります」
「つまり、部族会議は国家のような影響力を保持していない上、対歪虚以外の目的も統一されていないという事でしょうか」
「今は勢いを持つスコール族も、対歪虚以外の目的は『辺境で静かに暮らしたい』だけだろう」
族長が静かに語る。
元々、辺境は帝国に比べて不便な暮らしだが、過去から伝わる生活に満足している。帝国へ要求があるとするならば、辺境の地は放っておいてくれ、となるだろう。
(なるほど。やりにくい相手ですね。
それにしても、ヴェルナーさんはそれを知っていて……)
マッシュはヴェルナーを一瞥した。
警戒する族長を前にハンターの質問をぶつけて族長の口をこじ開ける。そうして本題をぶつけるつもりなのだろうが……。
「あたいは辺境の出だからなー」
リケ・アルカトゥラ(ka1593)は、そう話しだした。
「伝統や古い土地にしがみつく連中の事は知ってる。
だけどさ。
偏見を払拭して、新たな事を知る……そう願って、願ってくれた人の支えで、あたいはここにいるんだ」
リケは、自らの過去を思い浮かべながら語る。
辛いこともあったが、その体験がこの場で役立つならそれでもいい。
リケは、力強く言葉を続ける。
「そうやって帝国を見て分かった事がある。
傘下に入ったからと言って誇りを捨てる必要などないんだって。
どんな場所でも。
どんな形でも。
それまで培ってきた伝統も儀式も風習も何もかも全部……自分の中で息づいている。それがはっきりと分かったんだ」
リケは、仮に部族が帝国へ下っても部族の者として生きてきた時間は変わらないと主張する。
その時間は確実に自分の奥底に息づいてこびり付く。
そこに部族の心がある限り、決して部族が失われる事にはならない。
「この辺境が対歪虚最前線なら、この地を知り尽くしたアンタ達やあたいが協力すれば新しい何かが起こるんじゃないかい?」
「……俺もそう思う」
リケの言葉に対して族長はそう呟いた。
リケにとっても意外な答えだ。
しかし、族長は更に言葉を紡ぐ。
「心に部族があれば、滅んだ事にはならない……ならば、その部族の証をどうやって子孫へ伝えていくのだ?」
族長はここで始めて帝国へ下れない理由を口にした。
確かにリケの言う通り、部族に生きた者の心に部族は宿る。
しかし、それを後世へ伝える事ができない。
子孫に部族の生活を話しても、それは『知識』に過ぎない。実感が伴わなければ、心に部族が宿ることもない。
帝国に下れば、子孫に伝えていくべき伝統は時間と共に失われていく。
「ヴェルナーさん。念のために確認しますが、帝国と部族が肩を並べて歪虚と戦う事はできるのでしょうか?」
ここで、マッシュがヴェルナーへ問い掛ける。
その問いにヴェルナーは思わず笑みが零れる。
「ここでその質問をされるとは……仕返しですか?」
「いえ、純然たる質問です。それ以外の意図はありません」
「そうですか。まあ、いいでしょう。
回答としては、難しいでしょうね。少なくとも帝国に辺境部族を重要な存在と認識する必要があります。
帝国臣民となっていただいて庇護対象となるのが現実的な路線ですが……陛下が辺境部族の保護を唱えられるか、部族会議に特定の価値が生まれれば状況は変わります。簡単ではないでしょう」
ヴェルナーは淡々と答えた。
考えてみれば、帝国は辺境部族と接する機会は今まで無かった。つまり帝国からすれば対歪虚で辺境を守る義理はない。利が無ければ動く必要がない、という訳だ。
「特定の価値……つまり辺境部族の戦士達の強さ、ですか」
「少々違います。その強さだけなら帝国臣民となってから発揮されても同じです。
重要なのは……マッシュさん。あなたが仰った帝国にとっての利ですよ」
ヴェルナーは、族長を前にしてハッキリと言い放った。
早い話、帝国は辺境部族の戦力以外は不要だと言っているのだ。
●
ノアール=プレアール(ka1623)は、別の方面から反論する。
「王国出身の第三者――いえ、マテリアル研究に携わる者として、辺境の文化を守るべきと進言しますわ。
王国や帝国、同盟が都市を築く中で失われた物がこの辺境には残されています。
たとえば……バタちゃん、今度お祭りがあるのよね?」
「……バタちゃん……」
唐突に名付けられたあだ名に戸惑う族長。
戸惑いながらも族長は、後日開催される祭りについて説明を始める。
「夜煌祭は、巫女が大精霊に祈りを捧げ、浄化と繁栄を祈願する。大地のマテリアルに加護を与える事で辺境の者は自然から恵みをいただく……」
「そう! その思想そのものが貴重な文化なのです。
このような文化を死に絶えさせるのではなく、継続させていく事を私たちは考えていけないの。
でも、このままでは歪虚に滅ぼされちゃうなら、帝国へ譲歩することも大事だと思うの」
「譲歩?」
ノアールの言葉を繰り返した族長。
そこへオキクルミ(ka1947)が口を挟む。
「そうそう。仲は良くなくても技術交流はすべきだよね。
もう帝国とも間接的に商売しているんだし」
オキクルミもノアールに近い意見のようだ。
「そもそもさ。ぜーんぶ帝国だけでやれるなら、辺境部族に下れ! なーんて言ってこないよね? それ言う前に帝国だけで歪虚をやっつければいいんだから」
オキクルミは強気で断言してみせる。
実際、地域によっては帝国も兵站や連絡路の構築に苦慮している。もし、この点を辺境部族の協力で打開できるなら、状況は大きく変わる。
オキクルミは、ヴェルナーの視線を気にしながらも話を続ける。
「ぶっちゃけ、このままなら辺境も帝国も滅ぶと思うよ。
だから、早速帝国は変わろうとし始めた。
聞いたことあるでしょ? 皇帝選挙って。あれってリアルブルーの政治形態を取り入れることでリアルブルーの優秀な人材と技術が集まるって寸法だよ」
敢えてオキクルミは帝国が変わろうとしている姿勢を話題にした。
要塞はともかく帝国は変わろうと努力している。その姿を族長へ認識してもらうつもりだろう。
「だからさ。辺境も変わろうよ。
たとえば、辺境にしかない物を使って帝国と取引するんだ。
歪虚を浄化するノウハウとか……」
「無理だ」
オキクルミの言葉を聞き終わる前に族長は言葉を挟んだ。
「どうして?」
「歪虚を浄化する能力は辺境でも巫女が有している。巫女は辺境部族にとって聖なる存在。取引の材料にしたとあっては他の部族から何を言われるか……。
何より巫女がいる大聖堂は聖なる山リタ・ティト……」
「歪虚の支配地域ですね」
族長の言葉に続けてヴェルナーが補足した。
仮に巫女の身柄を確保したいのであれば、聖地奪還をしなければならない。その為には戦線を押し上げてリタ・ティトの入り口付近を奪還する必要がある。今の状況から押し上げるには相応の時間がかかる。
それにそんな重要な案件を当の巫女を無視して決められるはずがない。
そこへ再びノアールが意見を述べる。
「妥協の案はまだありますわ。辺境部族が帝国を利用する。つまり、帝国へ部族が下るのではなく、保護領化を求めるの。
帝国の領土ではあるけど、部族は今まで通りに過ごせばいいのよ」
ノアールは辺境を文化的地域としての保護を提案。帝国が辺境を欲するのであれば、領土は帝国領化。但し、自治権は辺境部族とする。
学者のノアールらしく研究対象の保護を優先した提案だが、ヴェルナーは懐疑的だ。
「帝国は領土拡大だけを求めているのではないのですがねぇ。
そもそも仰っているのは自治領の制定。これは運用が非常に難しいのです。帝国と部族がどの点で妥協するかが鍵ですねぇ」
ヴェルナーの表情は、苦々しい。
仮に辺境を自治領としても自治権をどこまで許すのかで双方は揉める。
結局、双方が話し合いを続ける構図は変わらない。
この場で結論は出ないだろうが、悩むべき課題は見え始めているようだ。
●
「俺は……剣でしか語れぬ男だ」
徐にダラントスカスティーヤ(ka0928)が立ち上がる。
その手には木刀が握られている。
オイマト族の集落までヴェルナーを護衛し続けた隻腕の無口な男が、突如発した言葉に周囲の者は耳を傾ける。
「試合を……所望する」
「……?」
族長はダラントスカスティーヤの意図を図りかねていた。
二人とも無口で多くを語らない。不足する情報は相手の意図を曇らせ、周囲に沈黙を張り巡らせる。
「仕方ありませんねぇ。では、私がお相手でもよろしいですか?」
ヴェルナーが立ち上がる。
ダラントスカスティーヤは小さく頷いた後、少し離れて木刀を構える。
「…………」
「変わった趣向ですねぇ。剣で語らうとは。話し相手が私で申し訳ありませんが」
ダラントスカスティーヤにはヴェルナーの言葉は届いていなかった。
張り詰めた空気の中、隙を伺いながら体重を移動させる。
そして、足に意識を集中させた瞬間。
――バシっ!
木刀の擦れ合う音。
ダラントスカスティーヤの木刀が振り下ろされる。素早い一撃がヴェルナーへ放たれるが、ヴェルナーも木刀で辛うじて防ぐ。
「手加減はしてくれなそうですね」
「…………」
力と力がぶつかり合い、激しい衝撃音が木霊する。
もっとも、傍目にはダラントスカスティーヤがヴェルナーを一方的に攻めているようにしか見えない。
そして――数分後。
木刀の斬り合いが行われた後、軽く肩で息をしていたヴェルナーが話し掛けた。
「私も軍人ですが、頭脳労働専門なんですよ。
それより、この試合の真意を教えていただけませんか?」
ヴェルナーの言葉に、ダラントスカスティーヤは剣を止めた。
そして、少しの沈黙の後でゆっくり語り始めた。
「これが、俺が今まで培ってきた技術だ。
……強くなるためには、相手を知り……技を盗まなければならない」
無口な男が紡ぎ出した言葉。
それは相手を知り、時に相手の技を盗んで強くなっていく。それは辺境が帝国という強者から学び取る事を示唆している。
それを無口なダラントスカスティーヤなりに伝えたかったのだろう。
「……そろそろ本題に入ってもらおう」
今までのやり取りを見ていた族長は、ヴェルナーへ切り込んだ。
「本題?」
「とぼけるな。理由もなしに、このような話し合いはしないだろう」
「そこまで御理解いただいているのなら、単刀直入に申し上げます。
夜煌祭に我々帝国を招待していただきたいのです」
「……そういう事か」
ヴェルナーの申し出で、族長は意図を概ね理解した。
ヴェルナーは夜煌祭の場に集う有力部族の族長へ接触するつもりなのだ。
その中にはスコール族のファリフもいる。おそらくその場で帝国への帰順でも促そうというのだろう。
「残された時間はないぞ」
今まで沈黙を守り続けてきたバルバロス(ka2119)が、ここで始めて口を開いた。
胡座をかき、炎の前に鎮座する堂々とした姿は独特の風格を感じさせる。
「戦いこそが至上。勇敢な戦士の誉れ。
ワシの部族『バルバロス』は、戦いの中で生きて戦いの中で死んでいく勇敢な部族だった。他のどんな部族よりも最前線で戦い、命を賭して戦った者に栄誉を与えて讃えた」
バルバロスは、自らの身の上話を始めた。
勇敢な部族であった『バルバロス』は強敵に嬉々として挑み、多くの道連れと共に散っていった。結果、バルバロス以外の部族の者は一人残らず死に絶えた。言ってみれば、部族の滅亡が決まってしまった部族である。
「このまま辺境の部族のみで戦い続ければ、ワシの部族のように死に絶える。
死ねば、何も残りはせぬ。
伝統も。
文化も。
誇りも。
信仰も。
紡がれるはずだった未来もな」
部族最後の一人となったバルバロスの言葉は、族長も届いている。
道を誤れば、オイマト族もバルバロス族と同様の道を辿る事になるのだから。
「スコール族のように戦いに道を見出したならば、それも良い。
ワシのように最後の一人となっても部族を背負って歪虚と戦う道も良い。
だが、族長が道を迷っている間に部族が滅ぶ事は避けねばならん」
族長を見据えるバルバロス。
未だ沈黙を守る族長に対して、バルバロスは口にするべきか迷いながらもある単語を口にする。
「ベスタハの悲劇」
「!」
バルバロスの一言に、族長は驚いた。
無口で感情をあまり表に出さない族長からは考えられない驚愕の表情。
その表情を目撃したヴェルナーは驚きながら、口を開く。
「確か部族と歪虚の記録に残る戦闘です。
歪虚をベスタハ地方のザイタス渓谷にて反抗を試みたものの、失敗。結果、多くの戦士が倒れた……そう記憶しています」
当時のオイマト族族長は対歪虚を唱えて各部族の戦士へ共闘を呼びかけた。そして、ザイタス渓谷で防衛作戦に失敗。多くの戦士が倒れ、辺境部族は一気に劣勢となった。
その後バタルトゥが新しいオイマト族族長へ就任したのだが、ベスタハの悲劇はオイマト族にとってトラウマとも言うべき傷となっていた。
「このままでは……ベスタハの悲劇は再び起こるぞ。道を誤れば……」
「夜煌祭。帝国も招待しよう」
「ありがとうございます」
バルバロスの言葉を聞いた後で族長は、ヴェルナーに招待する旨を告げた。
頭を下げるヴェルナー。
だが、族長は笑顔を見せずに言い放つ。
「帝国を祭りで招待して何が変わるのかは分からない。
それでも何かが変わると期待しよう。
……我が部族の進むべき道は、変革の中にあるのかもしれん」
そう切り出したのはマッシュ・アクラシス(ka0771)だった。
マッシュは帝国出身であるが、今はハンターとしてこの場にいる。
あくまでも中立な立場である事を強調してから話し出した。
「歪虚を排除する。これは双方の共通目的でもあります。
その上で、帝国と辺境部族は自らの利になるよう動くでしょう。ならば、部族会議の利となる事が何かを第一に考えてみては如何でしょうか」
マッシュは、オイマト族の族長バタルトゥ・オイマト(kz0023)へ部族会議の利を考えるよう進言した。
打倒歪虚は共通する目的である。
だが、双方は反発。下手をすれば双方とも歪虚に滅ぼされてしまう。
それを回避する為には帝国と部族会議の間で妥協点を見出す必要がある。マッシュが部族会議の利を模索するよう提案するのは、その事を見越しての事だ。
「難しいだろうな」
マッシュの言葉に、族長は答える。
それに続けてヴェルナー・ブロスフェルト(kz0032)が族長の言葉を補足する。
「マッシュさん、よろしいですか?
我々帝国は陛下という絶対的な統治者が存在して国家を運営しています。そして国家である以上、目指す利は同一です。
一方、部族会議は対歪虚も目的として構成された組織です。つまり、歪虚討伐以外の利は部族によって異なります」
「つまり、部族会議は国家のような影響力を保持していない上、対歪虚以外の目的も統一されていないという事でしょうか」
「今は勢いを持つスコール族も、対歪虚以外の目的は『辺境で静かに暮らしたい』だけだろう」
族長が静かに語る。
元々、辺境は帝国に比べて不便な暮らしだが、過去から伝わる生活に満足している。帝国へ要求があるとするならば、辺境の地は放っておいてくれ、となるだろう。
(なるほど。やりにくい相手ですね。
それにしても、ヴェルナーさんはそれを知っていて……)
マッシュはヴェルナーを一瞥した。
警戒する族長を前にハンターの質問をぶつけて族長の口をこじ開ける。そうして本題をぶつけるつもりなのだろうが……。
「あたいは辺境の出だからなー」
リケ・アルカトゥラ(ka1593)は、そう話しだした。
「伝統や古い土地にしがみつく連中の事は知ってる。
だけどさ。
偏見を払拭して、新たな事を知る……そう願って、願ってくれた人の支えで、あたいはここにいるんだ」
リケは、自らの過去を思い浮かべながら語る。
辛いこともあったが、その体験がこの場で役立つならそれでもいい。
リケは、力強く言葉を続ける。
「そうやって帝国を見て分かった事がある。
傘下に入ったからと言って誇りを捨てる必要などないんだって。
どんな場所でも。
どんな形でも。
それまで培ってきた伝統も儀式も風習も何もかも全部……自分の中で息づいている。それがはっきりと分かったんだ」
リケは、仮に部族が帝国へ下っても部族の者として生きてきた時間は変わらないと主張する。
その時間は確実に自分の奥底に息づいてこびり付く。
そこに部族の心がある限り、決して部族が失われる事にはならない。
「この辺境が対歪虚最前線なら、この地を知り尽くしたアンタ達やあたいが協力すれば新しい何かが起こるんじゃないかい?」
「……俺もそう思う」
リケの言葉に対して族長はそう呟いた。
リケにとっても意外な答えだ。
しかし、族長は更に言葉を紡ぐ。
「心に部族があれば、滅んだ事にはならない……ならば、その部族の証をどうやって子孫へ伝えていくのだ?」
族長はここで始めて帝国へ下れない理由を口にした。
確かにリケの言う通り、部族に生きた者の心に部族は宿る。
しかし、それを後世へ伝える事ができない。
子孫に部族の生活を話しても、それは『知識』に過ぎない。実感が伴わなければ、心に部族が宿ることもない。
帝国に下れば、子孫に伝えていくべき伝統は時間と共に失われていく。
「ヴェルナーさん。念のために確認しますが、帝国と部族が肩を並べて歪虚と戦う事はできるのでしょうか?」
ここで、マッシュがヴェルナーへ問い掛ける。
その問いにヴェルナーは思わず笑みが零れる。
「ここでその質問をされるとは……仕返しですか?」
「いえ、純然たる質問です。それ以外の意図はありません」
「そうですか。まあ、いいでしょう。
回答としては、難しいでしょうね。少なくとも帝国に辺境部族を重要な存在と認識する必要があります。
帝国臣民となっていただいて庇護対象となるのが現実的な路線ですが……陛下が辺境部族の保護を唱えられるか、部族会議に特定の価値が生まれれば状況は変わります。簡単ではないでしょう」
ヴェルナーは淡々と答えた。
考えてみれば、帝国は辺境部族と接する機会は今まで無かった。つまり帝国からすれば対歪虚で辺境を守る義理はない。利が無ければ動く必要がない、という訳だ。
「特定の価値……つまり辺境部族の戦士達の強さ、ですか」
「少々違います。その強さだけなら帝国臣民となってから発揮されても同じです。
重要なのは……マッシュさん。あなたが仰った帝国にとっての利ですよ」
ヴェルナーは、族長を前にしてハッキリと言い放った。
早い話、帝国は辺境部族の戦力以外は不要だと言っているのだ。
●
ノアール=プレアール(ka1623)は、別の方面から反論する。
「王国出身の第三者――いえ、マテリアル研究に携わる者として、辺境の文化を守るべきと進言しますわ。
王国や帝国、同盟が都市を築く中で失われた物がこの辺境には残されています。
たとえば……バタちゃん、今度お祭りがあるのよね?」
「……バタちゃん……」
唐突に名付けられたあだ名に戸惑う族長。
戸惑いながらも族長は、後日開催される祭りについて説明を始める。
「夜煌祭は、巫女が大精霊に祈りを捧げ、浄化と繁栄を祈願する。大地のマテリアルに加護を与える事で辺境の者は自然から恵みをいただく……」
「そう! その思想そのものが貴重な文化なのです。
このような文化を死に絶えさせるのではなく、継続させていく事を私たちは考えていけないの。
でも、このままでは歪虚に滅ぼされちゃうなら、帝国へ譲歩することも大事だと思うの」
「譲歩?」
ノアールの言葉を繰り返した族長。
そこへオキクルミ(ka1947)が口を挟む。
「そうそう。仲は良くなくても技術交流はすべきだよね。
もう帝国とも間接的に商売しているんだし」
オキクルミもノアールに近い意見のようだ。
「そもそもさ。ぜーんぶ帝国だけでやれるなら、辺境部族に下れ! なーんて言ってこないよね? それ言う前に帝国だけで歪虚をやっつければいいんだから」
オキクルミは強気で断言してみせる。
実際、地域によっては帝国も兵站や連絡路の構築に苦慮している。もし、この点を辺境部族の協力で打開できるなら、状況は大きく変わる。
オキクルミは、ヴェルナーの視線を気にしながらも話を続ける。
「ぶっちゃけ、このままなら辺境も帝国も滅ぶと思うよ。
だから、早速帝国は変わろうとし始めた。
聞いたことあるでしょ? 皇帝選挙って。あれってリアルブルーの政治形態を取り入れることでリアルブルーの優秀な人材と技術が集まるって寸法だよ」
敢えてオキクルミは帝国が変わろうとしている姿勢を話題にした。
要塞はともかく帝国は変わろうと努力している。その姿を族長へ認識してもらうつもりだろう。
「だからさ。辺境も変わろうよ。
たとえば、辺境にしかない物を使って帝国と取引するんだ。
歪虚を浄化するノウハウとか……」
「無理だ」
オキクルミの言葉を聞き終わる前に族長は言葉を挟んだ。
「どうして?」
「歪虚を浄化する能力は辺境でも巫女が有している。巫女は辺境部族にとって聖なる存在。取引の材料にしたとあっては他の部族から何を言われるか……。
何より巫女がいる大聖堂は聖なる山リタ・ティト……」
「歪虚の支配地域ですね」
族長の言葉に続けてヴェルナーが補足した。
仮に巫女の身柄を確保したいのであれば、聖地奪還をしなければならない。その為には戦線を押し上げてリタ・ティトの入り口付近を奪還する必要がある。今の状況から押し上げるには相応の時間がかかる。
それにそんな重要な案件を当の巫女を無視して決められるはずがない。
そこへ再びノアールが意見を述べる。
「妥協の案はまだありますわ。辺境部族が帝国を利用する。つまり、帝国へ部族が下るのではなく、保護領化を求めるの。
帝国の領土ではあるけど、部族は今まで通りに過ごせばいいのよ」
ノアールは辺境を文化的地域としての保護を提案。帝国が辺境を欲するのであれば、領土は帝国領化。但し、自治権は辺境部族とする。
学者のノアールらしく研究対象の保護を優先した提案だが、ヴェルナーは懐疑的だ。
「帝国は領土拡大だけを求めているのではないのですがねぇ。
そもそも仰っているのは自治領の制定。これは運用が非常に難しいのです。帝国と部族がどの点で妥協するかが鍵ですねぇ」
ヴェルナーの表情は、苦々しい。
仮に辺境を自治領としても自治権をどこまで許すのかで双方は揉める。
結局、双方が話し合いを続ける構図は変わらない。
この場で結論は出ないだろうが、悩むべき課題は見え始めているようだ。
●
「俺は……剣でしか語れぬ男だ」
徐にダラントスカスティーヤ(ka0928)が立ち上がる。
その手には木刀が握られている。
オイマト族の集落までヴェルナーを護衛し続けた隻腕の無口な男が、突如発した言葉に周囲の者は耳を傾ける。
「試合を……所望する」
「……?」
族長はダラントスカスティーヤの意図を図りかねていた。
二人とも無口で多くを語らない。不足する情報は相手の意図を曇らせ、周囲に沈黙を張り巡らせる。
「仕方ありませんねぇ。では、私がお相手でもよろしいですか?」
ヴェルナーが立ち上がる。
ダラントスカスティーヤは小さく頷いた後、少し離れて木刀を構える。
「…………」
「変わった趣向ですねぇ。剣で語らうとは。話し相手が私で申し訳ありませんが」
ダラントスカスティーヤにはヴェルナーの言葉は届いていなかった。
張り詰めた空気の中、隙を伺いながら体重を移動させる。
そして、足に意識を集中させた瞬間。
――バシっ!
木刀の擦れ合う音。
ダラントスカスティーヤの木刀が振り下ろされる。素早い一撃がヴェルナーへ放たれるが、ヴェルナーも木刀で辛うじて防ぐ。
「手加減はしてくれなそうですね」
「…………」
力と力がぶつかり合い、激しい衝撃音が木霊する。
もっとも、傍目にはダラントスカスティーヤがヴェルナーを一方的に攻めているようにしか見えない。
そして――数分後。
木刀の斬り合いが行われた後、軽く肩で息をしていたヴェルナーが話し掛けた。
「私も軍人ですが、頭脳労働専門なんですよ。
それより、この試合の真意を教えていただけませんか?」
ヴェルナーの言葉に、ダラントスカスティーヤは剣を止めた。
そして、少しの沈黙の後でゆっくり語り始めた。
「これが、俺が今まで培ってきた技術だ。
……強くなるためには、相手を知り……技を盗まなければならない」
無口な男が紡ぎ出した言葉。
それは相手を知り、時に相手の技を盗んで強くなっていく。それは辺境が帝国という強者から学び取る事を示唆している。
それを無口なダラントスカスティーヤなりに伝えたかったのだろう。
「……そろそろ本題に入ってもらおう」
今までのやり取りを見ていた族長は、ヴェルナーへ切り込んだ。
「本題?」
「とぼけるな。理由もなしに、このような話し合いはしないだろう」
「そこまで御理解いただいているのなら、単刀直入に申し上げます。
夜煌祭に我々帝国を招待していただきたいのです」
「……そういう事か」
ヴェルナーの申し出で、族長は意図を概ね理解した。
ヴェルナーは夜煌祭の場に集う有力部族の族長へ接触するつもりなのだ。
その中にはスコール族のファリフもいる。おそらくその場で帝国への帰順でも促そうというのだろう。
「残された時間はないぞ」
今まで沈黙を守り続けてきたバルバロス(ka2119)が、ここで始めて口を開いた。
胡座をかき、炎の前に鎮座する堂々とした姿は独特の風格を感じさせる。
「戦いこそが至上。勇敢な戦士の誉れ。
ワシの部族『バルバロス』は、戦いの中で生きて戦いの中で死んでいく勇敢な部族だった。他のどんな部族よりも最前線で戦い、命を賭して戦った者に栄誉を与えて讃えた」
バルバロスは、自らの身の上話を始めた。
勇敢な部族であった『バルバロス』は強敵に嬉々として挑み、多くの道連れと共に散っていった。結果、バルバロス以外の部族の者は一人残らず死に絶えた。言ってみれば、部族の滅亡が決まってしまった部族である。
「このまま辺境の部族のみで戦い続ければ、ワシの部族のように死に絶える。
死ねば、何も残りはせぬ。
伝統も。
文化も。
誇りも。
信仰も。
紡がれるはずだった未来もな」
部族最後の一人となったバルバロスの言葉は、族長も届いている。
道を誤れば、オイマト族もバルバロス族と同様の道を辿る事になるのだから。
「スコール族のように戦いに道を見出したならば、それも良い。
ワシのように最後の一人となっても部族を背負って歪虚と戦う道も良い。
だが、族長が道を迷っている間に部族が滅ぶ事は避けねばならん」
族長を見据えるバルバロス。
未だ沈黙を守る族長に対して、バルバロスは口にするべきか迷いながらもある単語を口にする。
「ベスタハの悲劇」
「!」
バルバロスの一言に、族長は驚いた。
無口で感情をあまり表に出さない族長からは考えられない驚愕の表情。
その表情を目撃したヴェルナーは驚きながら、口を開く。
「確か部族と歪虚の記録に残る戦闘です。
歪虚をベスタハ地方のザイタス渓谷にて反抗を試みたものの、失敗。結果、多くの戦士が倒れた……そう記憶しています」
当時のオイマト族族長は対歪虚を唱えて各部族の戦士へ共闘を呼びかけた。そして、ザイタス渓谷で防衛作戦に失敗。多くの戦士が倒れ、辺境部族は一気に劣勢となった。
その後バタルトゥが新しいオイマト族族長へ就任したのだが、ベスタハの悲劇はオイマト族にとってトラウマとも言うべき傷となっていた。
「このままでは……ベスタハの悲劇は再び起こるぞ。道を誤れば……」
「夜煌祭。帝国も招待しよう」
「ありがとうございます」
バルバロスの言葉を聞いた後で族長は、ヴェルナーに招待する旨を告げた。
頭を下げるヴェルナー。
だが、族長は笑顔を見せずに言い放つ。
「帝国を祭りで招待して何が変わるのかは分からない。
それでも何かが変わると期待しよう。
……我が部族の進むべき道は、変革の中にあるのかもしれん」
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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仮プレ置き場 ダラントスカスティーヤ(ka0928) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 |
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相談というほどのものでもない バルバロス(ka2119) ドワーフ|75才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2014/09/15 23:49:41 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/09/13 00:30:19 |