ゲスト
(ka0000)
【西参】消魂の肺腑 ~前編~
マスター:赤山優牙
このシナリオは5日間納期が延長されています。
オープニング
●王国歴1015年初夏
悲鳴と怒号が飛び交う混乱した小さい村。
歪虚王 九蛇頭尾大黒狐 獄炎とその配下が天ノ都を守る結界に至る前の事である。
「イチガイ兄貴!」
筋肉ムキムキで暑苦しい三兄弟が名前を呼び合った。
「ジロウ、サブロウ! 無事だったか!」
「あぁ、なんとか。それより、あれを!」
三兄弟が指さした方角に歪虚の一団が迫っていた。
その先頭に居るのは――。
「親方じゃねぇか!」
この三兄弟の主にして、ある武家の頭領は、堕落者と化していた。
意識があるのかないのか、怒り狂った表情でひたすらに自身の村を破壊している。
「まさか……親方ぁぁぁ!」
飛び出そうとした長兄を押さえる三男。
「だ、だめだ! イチガイ兄貴!」
「馬鹿言え! 今こそ、我らが頭領を解放するのが我ら兄弟が果たすべき役目だろ!」
「分かってる! 分かってるけど、この状況じゃ!」
万が一の事があれば、討って欲しいと頼まれていた三兄弟は主の願いを叶える事ができず、余儀なく撤退した――。
「それじゃ、親父、行ってくるぜ」
刀を差したのは一人の青年の侍。
中年のおっさんからは返事は無かった。
ただ、歪虚によって惨殺された妻と娘の思い出を握り締め放心状態だった。
「親父……」
ぐっと青年は拳を握った。
父親は周囲からゲンタと呼ばれていた。験担ぎの太郎からの異名だ。
だが、先日の歪虚の襲撃で験担ぎでは無くなった。放心状態の父親を息子の青年は見ていられなかった。
「母さん達の仇は必ず取る……例え、この命、投げ出す事になっても。だから、親父。親父は、いつまでも験を担いでくれ」
その声が届いているのかいないのか――やはり、返事はない。
一礼をすると長屋の戸を開けた。
北の空には、歪虚の巨大兵器ヨモツヘグリの姿が見えた。
「きっと、生きて帰れない。だとしても、だとしても!」
この青年は一兵士としてハンター達と供に、巨大兵器ヨモツヘグリへと乗り込む事になっている。
ハンター達が中枢を破壊するまで、彼らの退路を守る為に――。
一人の青年が龍尾城の廊下を歩いていた。
ヒソヒソとした会話と哀れみの視線を感じる。
「彼奴か……一族徒党、領民を置いて真っ先に逃げ出した武家の生き残りは」
「あぁ……なんでも、報告のため、難を逃れてたらしいぜ」
「いや、危険を察知して、真っ先に逃げ出したんだ」
心無い者達の言葉が突き刺さる。
分かっている。この国を守る為に、命を掛けて戦い、そして散っていった身内が彼らにも居る事を。
だからこそ、『逃げた卑怯者の生き残り』のレッテルを貼られても青年は反論せず、耐えていた。
「一応、歪虚に包囲される前に突撃したっていうのが表向きらしいがな」
「そんなもの、死んでしまえば、幾らでも言えるよな」
「声が大きい。聞こえているぞ」
会話が聞こえない振りをして青年は、軽く頭を下げながら、心無い者達とすれ違う。
十分に青年が立ち去ってから一人が言った。
「思い出した。彼奴の名前、確か、瞬といったか――」
●草原にて
機導術の光が雑魔を貫き、消滅させた。
「許さない……絶対にッ!」
紡伎 希(kz0174)だった。殺気に満ちた視線を次の標的に向けた。
だが、再び機導術が放たれる前に、その雑魔は槍と刀で貫かれ、消滅する。
「何度言えば分かる! 無駄に技を使うな!」
「そう、怒るな、瞬」
「正秋……お前は、ほんと、女には甘いよな」
その言葉で正秋と呼ばれた青年が顔を真っ赤にした。
「な、な、何を言っている!」
「この前も女のハンターらと一緒に探索に行っていたじゃないか」
女性の話になるとすぐに照れるのが正秋という男だ。
慌てて弁解する侍と、追い打ちを次から次へと掛ける侍を交互に見比べ、中年のおっさん――ゲンタ――が声を出して笑った。
「若さだな。嬢ちゃんは、そういうのは無いのかい?」
「ありません」
冷たい声で即答する希。
あまりの迫力にゲンタは思わず両肩を竦めた。これは、触れてはいけない話題なのだろう。
「陣地に戻りましょう。構築の進捗状況が気になります」
希の宣言に頷く一同。
災狐軍勢を迎え撃つための陣地を構築する一方、周囲の安全を確保する為に、雑魔を退治していたのだ。
●牡丹再び
「なんですか、これは!?」
希が、構築中の陣地に帰って来て声を上げた。
そこには惨状が広がっていたからだ。
「……ぐ、ぐぅ……生きてるか? ジロウ? サブロウ?」
「盾でなんとか支えてるよ、イチガイ兄さん……」
「イチガイ兄さん、こんな所で、まさか……」
筋肉が溢れているのではないかと思うほど、筋肉質の三兄弟が息も絶え絶えだった。
みれば、構築に必要な資材が崩れて、その下敷きになっているようだった。
彼らだけではなく、陣地のアチラコチラで資材がひっくり返っている。
「これは……一体、何が……」
呆然とする希の所へ、木材を肩に担いで牡丹が通りがかった。
「やぁ、ノゾミ。討伐はどうだった?」
「えぇ……そこそこ、周囲の安全は確保できてきた感じですが……ところで、牡丹様、これは一体、何があったのですか?」
周囲の惨状は酷いの一言だ。
まるで、戦闘でもあったのかと思うほどである。いや、既に攻め込まれたのかとも思う。
「あんまりにも暇だったから、資材の片付けを手伝っているんだよ」
嫌な予感がした。
凄く、嫌な予感がした。下駄の鼻緒が切れてしまいそうな位に。
牡丹が――何かを察知して振り返ると――
担いでいた棒が高速で振られ――
新しい荷崩れと犠牲者が出る――
まさに、この惨状を作り出しているのは、女将軍、鳴月 牡丹(kz0180)その人であった。
「あの、念の為、もう一度尋ねますが、牡丹様はなにを?」
「片付けだよ」
震えながら確認する希に、木材を担いだままブンブンと廻る牡丹は、ニッコリとした笑顔だった。
「そんな大きいものを振りながら、ナニを即答しているのですかぁ! 片付けすら出来ないのですか!」
ノゾミの叫びは、遠く、北の果てまで届きそうだった。
悲鳴と怒号が飛び交う混乱した小さい村。
歪虚王 九蛇頭尾大黒狐 獄炎とその配下が天ノ都を守る結界に至る前の事である。
「イチガイ兄貴!」
筋肉ムキムキで暑苦しい三兄弟が名前を呼び合った。
「ジロウ、サブロウ! 無事だったか!」
「あぁ、なんとか。それより、あれを!」
三兄弟が指さした方角に歪虚の一団が迫っていた。
その先頭に居るのは――。
「親方じゃねぇか!」
この三兄弟の主にして、ある武家の頭領は、堕落者と化していた。
意識があるのかないのか、怒り狂った表情でひたすらに自身の村を破壊している。
「まさか……親方ぁぁぁ!」
飛び出そうとした長兄を押さえる三男。
「だ、だめだ! イチガイ兄貴!」
「馬鹿言え! 今こそ、我らが頭領を解放するのが我ら兄弟が果たすべき役目だろ!」
「分かってる! 分かってるけど、この状況じゃ!」
万が一の事があれば、討って欲しいと頼まれていた三兄弟は主の願いを叶える事ができず、余儀なく撤退した――。
「それじゃ、親父、行ってくるぜ」
刀を差したのは一人の青年の侍。
中年のおっさんからは返事は無かった。
ただ、歪虚によって惨殺された妻と娘の思い出を握り締め放心状態だった。
「親父……」
ぐっと青年は拳を握った。
父親は周囲からゲンタと呼ばれていた。験担ぎの太郎からの異名だ。
だが、先日の歪虚の襲撃で験担ぎでは無くなった。放心状態の父親を息子の青年は見ていられなかった。
「母さん達の仇は必ず取る……例え、この命、投げ出す事になっても。だから、親父。親父は、いつまでも験を担いでくれ」
その声が届いているのかいないのか――やはり、返事はない。
一礼をすると長屋の戸を開けた。
北の空には、歪虚の巨大兵器ヨモツヘグリの姿が見えた。
「きっと、生きて帰れない。だとしても、だとしても!」
この青年は一兵士としてハンター達と供に、巨大兵器ヨモツヘグリへと乗り込む事になっている。
ハンター達が中枢を破壊するまで、彼らの退路を守る為に――。
一人の青年が龍尾城の廊下を歩いていた。
ヒソヒソとした会話と哀れみの視線を感じる。
「彼奴か……一族徒党、領民を置いて真っ先に逃げ出した武家の生き残りは」
「あぁ……なんでも、報告のため、難を逃れてたらしいぜ」
「いや、危険を察知して、真っ先に逃げ出したんだ」
心無い者達の言葉が突き刺さる。
分かっている。この国を守る為に、命を掛けて戦い、そして散っていった身内が彼らにも居る事を。
だからこそ、『逃げた卑怯者の生き残り』のレッテルを貼られても青年は反論せず、耐えていた。
「一応、歪虚に包囲される前に突撃したっていうのが表向きらしいがな」
「そんなもの、死んでしまえば、幾らでも言えるよな」
「声が大きい。聞こえているぞ」
会話が聞こえない振りをして青年は、軽く頭を下げながら、心無い者達とすれ違う。
十分に青年が立ち去ってから一人が言った。
「思い出した。彼奴の名前、確か、瞬といったか――」
●草原にて
機導術の光が雑魔を貫き、消滅させた。
「許さない……絶対にッ!」
紡伎 希(kz0174)だった。殺気に満ちた視線を次の標的に向けた。
だが、再び機導術が放たれる前に、その雑魔は槍と刀で貫かれ、消滅する。
「何度言えば分かる! 無駄に技を使うな!」
「そう、怒るな、瞬」
「正秋……お前は、ほんと、女には甘いよな」
その言葉で正秋と呼ばれた青年が顔を真っ赤にした。
「な、な、何を言っている!」
「この前も女のハンターらと一緒に探索に行っていたじゃないか」
女性の話になるとすぐに照れるのが正秋という男だ。
慌てて弁解する侍と、追い打ちを次から次へと掛ける侍を交互に見比べ、中年のおっさん――ゲンタ――が声を出して笑った。
「若さだな。嬢ちゃんは、そういうのは無いのかい?」
「ありません」
冷たい声で即答する希。
あまりの迫力にゲンタは思わず両肩を竦めた。これは、触れてはいけない話題なのだろう。
「陣地に戻りましょう。構築の進捗状況が気になります」
希の宣言に頷く一同。
災狐軍勢を迎え撃つための陣地を構築する一方、周囲の安全を確保する為に、雑魔を退治していたのだ。
●牡丹再び
「なんですか、これは!?」
希が、構築中の陣地に帰って来て声を上げた。
そこには惨状が広がっていたからだ。
「……ぐ、ぐぅ……生きてるか? ジロウ? サブロウ?」
「盾でなんとか支えてるよ、イチガイ兄さん……」
「イチガイ兄さん、こんな所で、まさか……」
筋肉が溢れているのではないかと思うほど、筋肉質の三兄弟が息も絶え絶えだった。
みれば、構築に必要な資材が崩れて、その下敷きになっているようだった。
彼らだけではなく、陣地のアチラコチラで資材がひっくり返っている。
「これは……一体、何が……」
呆然とする希の所へ、木材を肩に担いで牡丹が通りがかった。
「やぁ、ノゾミ。討伐はどうだった?」
「えぇ……そこそこ、周囲の安全は確保できてきた感じですが……ところで、牡丹様、これは一体、何があったのですか?」
周囲の惨状は酷いの一言だ。
まるで、戦闘でもあったのかと思うほどである。いや、既に攻め込まれたのかとも思う。
「あんまりにも暇だったから、資材の片付けを手伝っているんだよ」
嫌な予感がした。
凄く、嫌な予感がした。下駄の鼻緒が切れてしまいそうな位に。
牡丹が――何かを察知して振り返ると――
担いでいた棒が高速で振られ――
新しい荷崩れと犠牲者が出る――
まさに、この惨状を作り出しているのは、女将軍、鳴月 牡丹(kz0180)その人であった。
「あの、念の為、もう一度尋ねますが、牡丹様はなにを?」
「片付けだよ」
震えながら確認する希に、木材を担いだままブンブンと廻る牡丹は、ニッコリとした笑顔だった。
「そんな大きいものを振りながら、ナニを即答しているのですかぁ! 片付けすら出来ないのですか!」
ノゾミの叫びは、遠く、北の果てまで届きそうだった。
リプレイ本文
―――陣地―――
●ラジェンドラ(ka6353)&アルラウネ(ka4841)&ヴァイス(ka0364)
「私の師匠は、昔、凄腕の機導師だったというお爺さんでした」
緑髪の少女――紡伎 希(kz0174)――が、ラジェンドラからの質問に答えていた。
探索に行く前に、この少女に聞いておきたかった事があったからだ。
「ラジェンドラ様は何故、その様な質問を?」
ハンターズソサエティに登録してあれば、訓練所には優秀な教官達がいるからだ。
「いや、ちょっと強くなりたくてね。覚醒者の先輩としてアドバイスを貰えたらありがたいかな」
「それなら……」
首を少し傾げながら希は答えた。
「目標を持つのが良いと思うのです」
「なるほど、目標か……ノゾミの嬢ちゃんには、目標はあるのかい?」
ラジェンドラの質問。希の顔に陰りが見えた。
だが、それも一瞬の事。この緑髪の少女は誇らしく胸を張って答える。
「ある機導師のお姉さんです。私の憧れの人なのです」
希と話していたハンターが別れ、探索に出発するのを見計らってアルラウネがニヤニヤとした表情を浮かべていた。
「ノゾミちゃん。今の人誰かな~。彼氏?」
「違いますよ」
呆気ない程の早い即答。
「でも……ずっと前から知っているような……そんな気がして」
「ふーん。なんだか、私一人で取り残されてる気分なのよね~」
「そ、そんな事ないですよ」
誤魔化すように笑う希に、アルラウネが悲しそうな表情を浮かべて少女を抱擁した。
「お姉さん怖いのよ……傍から人が、次々と居なくなってしまう気がして……」
「……それは、私も、そう思います」
「結構寂しがりやなのよ? だから、どんなに無様でも生きていて欲しいの」
抱擁していた腕を解くアルラウネ。
しんみりとした雰囲気に耐えかねたように微笑を浮かべながら言葉を続ける。
「ノゾミちゃん達がいなくなったら、私ただの痴女でしかないわ」
「自覚あるなら、そのお姿を変えるのが良いですよ」
希の恨みしそうな視線がアルラウネの豊かな胸に向かれていた。
そこへ、ヴァイスが視線を、どこに向けていいか分からない様子でやって来た。
「希、受付嬢の仕事、お疲れ様だ」
優しい笑みを浮かべて、ヴァイスは緑髪の少女の頭を優しく撫でる。
嬉しそうな表情を希は向けたが、その顔を見て、以前と違うと感じた。まるで、何かを抱えている……そんな気をさせた。
だが、今は、見守ろうと思った。少女は一人ではないのだから。
「それよりも、さっきのハンターだが?」
立ち去っていく銀髪の機導師の後ろ姿を眺めながら尋ねた。
「ラジェンドラ様ですか? ヴァイス様も気になります?」
「あ……あぁ……」
多分、希と違った意味で気になるのだが、そこは伏せておこうと思った。
そんな彼の心情を気にもせず、希は唇に指を当てて言う。
「……やっぱり、どこかで会った事がある気がするのですが……ヴァイス様も心当たりはあるのですね」
「そ、そんな所だ」
苦笑を浮かべながら答えつつ、頭の中で銀髪の知り合いを思い浮かべ――人数が多くて諦める。
機会があれば直接、話してみるのもいいかもしれない。そんな風に感じた時だった。
アルラウネがニヤニヤと不気味な笑いを浮かべている。
「ヴぁっくんったら、こんなに可愛い女の子が二人もいるのに、頭の中で、男の人の事考えてるの? そんな趣味?」
「断じてない!」
歴戦の戦士の必死な否定ぶりに、希とアルラウネの笑い声が響いた。
●クリスティン・ガフ(ka1090)&春日 啓一(ka1621)
突貫工事の音が陣の中を駆ける。同時にクリスティンの叫び声も轟く。
「行う事は多いぞ! 各自、役割を分担して取り掛かれ!」
彼女の言葉に征西部隊の隊員らが威勢良く返事した。
クリスティンは陣の周囲に、空堀、坂、塀、櫓を作る事を提案したのだ。牡丹はその提案を受け入れ、征西部隊の隊員らの中から適任者を預けてくれた。
「櫓の上での見張りは、敵を発見したらすぐに味方に知らせる必要がある」
一方、櫓の作成に取り組みながら、啓一は見張り担当の隊員らに軍用双眼鏡や発炎筒の使い方を説明していた。
森の中ではあるので視界が良好とは言えない。だからこそ、見張りの重要性は高い。
「方角に対応した色を――」
「啓一君! そっちの木の根を取り除いて!」
嫁の言葉に、一時、説明を中断して魔導鋸を起動させる啓一。
「方角によっては――」
「啓一君! 今度は、あっちの木の幹を切って!」
森の中であるだけに、伐採する木が多いみたいだ。
「色を組み合わ――」
「啓一君! 啓一君!」
立て続けに呼ばれる事に対し、樹上にいるクリスティンに両手を広げた。
「少し、待ってくれ!」
「待てない。早く、だよ」
満面の笑みを向けてくる嫁の言葉に、後頭部を掻きながら返事をする啓一。
その光景に、作業中だった隊員らから笑い声があがる。
「完全に、尻に敷かれてるじゃねぇか、兄ちゃんよ」
啓一の背をバンバンと叩く隊員の男。
見張り担当の者の一人で、野太という名の者だった。
「なにか……悪いな」
「気にするなよ。この中には、そんなやり取りを懐かしむ連中もいるんだからな」
その言葉で啓一は作業に協力している隊員らを見渡した。
何人かが静かに頷いていた。
(懐かしむ……まさか……)
頷いている隊員らの年齢は、啓一とさほど変わらない。
なのに、『懐かしむ』――その意味を察する事はすぐに出来た。
「野太もそうなのか?」
「あぁ……気の強い女だったよ。気が強すぎて、退く事すら忘れちまう位にな」
複雑な表情を浮かべる野太。
首にぶら下がっているネックレスには指輪が揺れていた。
「嫁を大事にな」
野太の言葉が重く感じられた中、クリスティンの旦那を呼ぶ声が流れて行った。
●ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)
「うぉぉぉ! ユーリ嬢、ありがとうございます!」
築陣作業の休憩時に、盛り上がる筋肉で暑苦しい三兄弟の叫び声。
ユーリが、差し入れに持ってきた食事と飲み物を、物凄い勢いで口へと運んでいる。
が、突然、三兄弟の末が涙をボロボロと流す。
「うぅ……お頭のお嬢も生きていたら、ユーリ嬢と同じ位だと思い出したら」
「泣くな、泣くな、サブロウ」
次男のジゴロが泣き咽る弟の背中をさする。長兄であるイチガイがユーリに説明するように言った。
「俺達兄弟が仕えていた武家のお頭の娘さんは優しい御方で」
「……イチガイ達が征西部隊にいるのと関係が?」
武家に仕えていたのであれば、征西部隊に席を置く必要はないだろう。
「お頭も含め、仕えていた武家一族は、歪虚の襲撃で全滅しました……我ら三兄弟はお頭の無念を晴らす為……」
長兄の話にジゴロも泣き出す。
「仇討ちという事?」
「早い話が、そういう事なのですぅぅ!」
強い決意で叫びながらイチガイは筋肉を奮い立たせるのであった。
●七夜・真夕(ka3977)
築陣を手伝う事を禁じられた為、椅子に座って監督していただけの女将軍はブスっとした表情をようやく緩めた。
鳴月 牡丹(kz0180)が散らかした資材を改めて集積し、まとめ終わった真夕が、目録を渡したからだ。
「牡丹とは久しぶりね。元気かしら?」
「僕はいつだって元気だよ。真夕君も元気そうだね」
小高砦の事は、もはや去年の話だ。
「いやー。真夕君のおかげで、僕は凄く助かったよ。ノゾミに怒られなくて済むし」
「陣を保持する為の資材は、きちんと整理されていると、いざと言う時も速やかに動けますよね」
ニッコリと笑う真夕にウンウンと牡丹は頷く。
「君達ハンターが提案してくれた築陣だと、結構大規模になりそうだし」
依頼の中で終わらなかった分に関しては征西部隊が引き継ぐ事になっている。
その為、真夕の集積は今後、とても大きな意味を成すだろう。
「あとは陣が完成するまでに襲撃が無ければいいのですけどね」
「そればっかりは、歪虚の気分次第だからな~。真夕君が祈っててよ」
「祈っておきますから、折角整えた資材、崩さないでよね、牡丹」
真夕の言葉に、保証はできないと女将軍は笑いながら答えた。
●連城 壮介(ka4765)&ソルネイティア(ka5932)
魔導ドリルが唸り、地中に埋まっていた岩が砕ける。
壮介の動きは単純だった。仲間のハンターが提案した堀を作る為、ひたすら、大地を削っているのだ。
(どんどん掘るとしましょう……この軍も、何だか色々ありそうですが……)
連城家は四十八家門の下で長く戦線を支えてきたという自負がある。征西部隊は他人事ではない。
森の中であるので、木々の根が邪魔するが容赦なくドリルで砕く。
「木を切る時は、感謝の祈りを忘れないでね」
振り返るとエルフらしい言葉を発したソルネイティアが居た。
だが、視線は根っこよりも、壮介の持つ魔導ドリルに向けられている。
「それを大きくできたら、巨大な魔導兵器として使えそうですよね」
「そ、そうですね……」
ソルネイティアの台詞に思わずドリルを掲げ見ながら壮介は返した。
そんな兵器で一体、何をするのだろうか。
「いいね! いいね! それに乗ってみたいなぁ!」
そんな物騒な事を言いながら女将軍――牡丹――が姿を現した。
自分の天幕に戻る途中だったようだ。
「木の事ならエルフに任せなさい、牡丹様」
胸を張って堂々と宣言するソルネイティア。牡丹は何度も頷く。
「ここは完全に森の中だからね。エルフには色々と期待するよ」
「牡丹様、柵だけではなく拒馬も作ってはいかがでしょうか?」
その提案に、牡丹はワザとらしくポンと手を叩いた。
「いいね! 緊急時の壁にもなるし、いくつか予備があってもいいし」
「それに門の外にもおけば、防御の足しにはなりますから」
「それじゃ、そこの君、手伝ってあげてよ」
壮介に向けて指差す牡丹。なにか勘違いしているみたいだ。
「俺は……ハンターですよ」
「おっと。それは失礼したよ。というか、これ、君が掘ったの?」
木々の間に伸びる堀を目にして牡丹が感心する。
壮介は頷くと再びドリルを動かし始めた。
「良い陣地が出来上がりそうだね。後は任せたよ」
「はい。牡丹様」
嬉しそうに自身の天幕へと戻る女将軍の背をソルネイティアは見送った。
その後、堀と土塁の補強、逆茂木の作成など、魔術師らしい知識を披露しつつ、彼女の提案で陣の防御が作らていった。
●ボルディア・コンフラムス(ka0796)
「しかし……どうやったらこんな、竜巻の通り過ぎた後みたいにできるんだ」
呆れながら壊れた柵や資材を眺めてボルディアは言った。
戦闘があった訳ではない。女将軍が『片付けた』後だった。
「まさか、牡丹は歪虚の手先……わざと陣を崩して敵に襲わせようと!?」
ハッとしながら、そんな言葉を発し――そんな事がある訳ないかと鼻で笑う。
「……バカな事言ってねえでやるか。オイ、テメェ等ももっと動け! その筋肉はお飾りか?」
「我ら、三兄弟の意地を見せるぞ!」
ムキムキの筋肉が暑苦しい三兄弟が、ボルディアの挑発に奮起をみせた。
「行くぞ! サブロウ! ジロウ!」
長兄であるイチガイが丸太を水平に掲げ、そこに、二人の弟が飛び乗る。
かなりの重量のはずだが、びくともしていない。弟達は筋肉を見せつけるようにポーズをとる。
「我ら三兄弟!」
「いいから、さっさと動けって言ってるだろ」
再び呆れるボルディアだった。指揮官があれなら、その部下も、似たようなものかもしれないと思いながら。
●門垣 源一郎(ka6320)
防御に対する戦術のいくつかを征西部隊の隊員らに説明し、源一郎は陣内を見回っていた。
多方面から同時に襲われる事がないように、敢えて、攻め寄せる敵が集中しやすいように堀や柵を構築。
そこに対し、陣の中からの火力が集中しやすくするように進言したり、陣地内の整地にも気を配る。
「火力の集中ができれば、数での不利も覆す事ができるはず」
逆襲できる能力を持たなければ、専守防衛は達成できないのだ。
(それにしても、不思議な部隊だ)
血気に逸る者が居そうで居ない。それでいて、やる気がないという訳ではない。
それが全員だったらそんな雰囲気の部隊なのだろう。だが、通信兵や工兵といった後方支援の兵士達には、感情の揺らぎを感じる。
(戦闘に参加する者達とは性質が違うようだが……なるほど、そういう事か)
明らかに己とは違う。
だからこそ、源一郎の征西部隊の雰囲気を理解した。
自分と同じように『枯れて』いるのだ。『枯れた』まま、どこに倒れたいか分かっていないのが『彼ら』。そんな雰囲気を感じた――。
●シェルミア・クリスティア(ka5955)
人気のない場所に瞬という名の青年の侍を呼び出した彼女は、前回、彼が言った言葉の真意を尋ねていた。
「正秋は言ったわ。『西方へ至る。それが未来へと繋ぐ希望』だと」
「彼奴は変わった。お前やハンター達の言葉でな。だが、俺は違う。俺には成さなければならない事がある」
真剣な表情で空を仰ぐ。
「それは一体なに?」
シェルミアの質問に瞬は視線を彼女へと向けた。
その瞳をどこかで見た気がする――そう、あれは、死に逝く事を悟った者の瞳だ。
「俺の一族は、不名誉を残した。一族の唯一の生き残りの俺は、名誉を取り戻す使命がある」
「命と引換にするほどに?」
「どうせ人は遅かれ早かれ死ぬ。なら、不名誉を残すより名誉を、俺は取り戻す。それだけだ」
話は終わりとばかり、瞬は立ち去った。
「『未来を託す』……そう言う意味なの……」
瞬という青年は最初から死ぬつもりだったのだろう。それは、正秋も同様だったかもしれない。
彼も『堕落者に仕えた者の息子』という不名誉を背負っていたのだから。
「……もしかして、征西部隊は……」
ふと、ある予感めいたものを彼女は感じたのであった。
―――探索―――
●銀 真白(ka4128)&七葵(ka4740)&ミィリア(ka2689)
「これは?」
十鳥城の代官だった息子の正秋は受け取った天藍石の指輪と真白を交互に見つめる。
「邪気からの護りになる。これから災狐勢力との戦いがあるのだろう」
因縁浅からぬ相手だ。
「かたじけない。真白殿」
「そうだ、正秋殿。征西部隊の皆で御守代わりに揃いの鉢巻を誂るのはどうか」
遠征の目的が、陸路で西へ至り、希望とする事なら屍の上に作られた道では哀しい。
全員で生き残り、到着するからこそ、意味があるはずだ。
「それは、良いかもしれませんね」
「ミィリアも、それに賛成で、ござる!」
元気な声を出してミィリアが賛同した。
「未来に向かっていくミィリア達は、死線を越えて、胸を張ってどうだー! って、言えるような結果を出さなくちゃ!」
その力説の様を見て正秋は苦笑を浮かべた。
この人なら、本当にやってのけてしまうような、そんな気がしたからだ。
「必ず、全員で生きて辿り着く。その為の決意の証としてお守りっ!」
「さっそく、できないかどうか、確認したいと思います」
きっと部隊を率いる牡丹から許可はでるはずだ。
そこへ、七葵も彼に言った。
「正秋殿。命を賭して戦うという事について、話しておこう」
お守りの見本なのだろう。緑色の鉢巻きを正秋に渡す。
同じ物を真白とミィリアも持っていた事に、彼は気がついた。
「生き残るには、選ばれた者ではない。諦めなかった者だ」
「諦めなかった者……」
七葵の言葉を続ける正秋。
これから先、苦しい戦いが待っていたとしても。諦めず戦い続けた結果、生き残れると信じ。
「皆さん、本当に、本当にありがとうございます」
しっかりと緑色の鉢巻きを握り締め、意を決める正秋。
周りに他の隊員が居ない事を確認し、三人のハンターを見渡す。
「皆さんにお伝えしたい事があるのです」
その深刻そうな言葉に思わず三人は交互に顔を見合わせた。
「実は、征西部隊の目的なのですが……」
「赤き大地のホープを目指しているのではないのか?」
真白が怪訝な表情で首を傾げる。
「それは、部隊が編成された後に伝えられた内容でした。この話は、瞬から聞かされたのですが――各隊から選出される際に、呼び掛けられた内容があるのです」
一区切りして続ける正秋。
参加の呼びかけは、今年に入ってからだという。
「……当初、『獄炎の残党を倒せる機会が高い』としてでした。それも、全員ではなく、特定の人に」
「特定の人……で、ござるか?」
「はい……歪虚に強い恨みがある者や、一族を失い、途方に暮れる者達……と」
正秋の告白に、七葵は考える仕草をみせた。
そして、ある結論へと至る。
「ただの残党討伐で編成された訳では無さそうだ、な」
共通認識を予め持った者達で編成された部隊。
士気の維持には有効だろう。だが、拘る必要はないはずだ。
「正秋殿。その『特定の人』というのは詳しくは分からないのか?」
「残念ながら詳しい事は……ただ、この鉢巻きの話。私から全員に呼び掛けたいと思います」
ここに来て表出したひと株の不安をハンター達は感じずにはいられなかった。
「もし、征西部隊の隊員らが希望を失っていたとしたならば……」
真白の言葉には重かったが、そう言いながら視線をミィリアへと向けた。
桃色の侍ガールは力強く頷く。
「ミィリア達が頑張る! 希望を再び手にできるように!」
「そういう事だな」
七葵も同意した。それがハンターというものなのだから。
●アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)&リューリ・ハルマ(ka0502)
天幕へと戻る牡丹は、その途中で探索から戻ってきたリューリに話しかけられていた。
「前のアルトちゃんとの模擬戦凄かったよ!」
「やぁ、リューリ君。なにかの参考になったかい?」
足止めされているとも思わずに牡丹は会話に応じる。
この女将軍が頷いたり跳ねたりするたびに、豊かな胸も動く。
「牡丹さんは、どんな生活したら、そのスタイルに?」
「……牛乳かな。起きて牛乳飲んで、朝食食べて牛乳飲んで、戦って牛乳飲んで、昼食食べて牛乳飲んで、戦って牛乳飲んで、夕飯食べて牛乳飲んで、水浴びしてから寝て、これを繰り返していたら……」
「そ、そうなんだ……」
あまり、参考にはならないようだ。
単なる牛乳好きかと思う。というか、ハンターが救援に来るまでの東方とは、そういう状況だったかもしれない。
「じゃ、部下の隊員さん達好き? っていうか大事?」
「そりゃ、もう大好きさ。みんな、ね」
両手を広げ満面な笑みを浮かべた牡丹だった。
大親友が足止めしていた間に、アルトは牡丹の天幕へと入っていた。
「これは……征西部隊の名簿? が、2つ?」
パラパラと名簿を確認する。
一つは通信兵や工兵といった後方支援を主体とする兵士達の名簿。
もう一つは、戦闘を主体とする兵士達の名簿のようだった。
「なんで、2つ?」
同じ部隊なのに、名簿が分かれている。
管理するのであれば1つの方が良いに決まっている。なにか意図があるからこそ、2つに分かれているのだろう。だが、その意味をアルトは計りかねた。
その時、天幕の外に気配を感じて中央に移動して待つ。
「あれ? アルト君じゃないか。なにか用かい?」
「お茶の差し入れをね。それと、聞きたい事があってさ」
率直にアルトは尋ねた。
「一体、この遠征の裏には何がある?」
「……アルト君も十鳥城で災狐の勢力と戦ったよね? 変だと思わない? 憤怒の残党の多さにさ」
十鳥城でそれなりの戦力を削った。だが、以後も相当数が残っていると思われている。
すでに憤怒の王たる獄炎は消滅したはずなのに、だ。
「まさか、西に向かうのは……」
「そこから先、今は言えない。さぁ、天幕の外で君の仲間が待ってるよ」
『落ちていた』魔導短伝話を手渡しながら含みのある表情で牡丹は言ったのであった。
●星輝 Amhran(ka0724)&Uisca Amhran(ka0754)
「ノゾミちゃん、気持ちを内に溜め込んでいるみたい……」
心配するようにUiscaは言いながら、雑魔を一撃で粉砕した短杖を降ろした。
探索に赴く前に希に会っていた事を思い返す。
「歪虚への復讐でいっぱいみたい……ノゾミちゃん」
Uisca自身も歪虚と対峙する際は全力で立ち向かう。
だが、復讐で戦っている訳ではない。仲間や多くの人々を守る為に戦っているのだ。
「しっかりしてそうに見えて、ノゾミは、まだまだ子供じゃしな」
これが年の功というものなのだろうか、星輝が諭すように言った。
星輝の手元は罠の道具。森の中を探索すると同時に簡単な罠を設置している。
「……いや、若さだけじゃないかの。性格や経験もあるかのぅ」
出発前に出会った正秋という名の若き侍を思い出す星輝。
十鳥城で何度か会った代官の息子という。良い面構えをしていた。
「『本当に泣くのは歪虚を全部倒しきってからです』そんな風にノゾミちゃんは……」
緑髪の少女は過去に囚われている。
それが分かるこそ、手遅れになる前になんとかしたかったのだが……自分の声が、少女のどこかに届いていると祈るのみだ。
「大きなショックを受けると、それを処理する為の突発的な行動を起こす人もいる故、ノゾミのそんな時期かもしれん」
両肩を落としているUiscaの肩を励ますように星輝はポンポンと叩いた。
「今はノゾミを信じて待つのじゃ。大丈夫じゃ、あの娘は、あの絶望を乗り越えたのじゃから」
「……そう、ですね、キララ姉さま」
静かに頷き、短杖を再び力強く握る。
「という事で更に探索と調査を進めるのじゃ。この先、戦って生き残らないと意味がないからの」
「はい!」
森の中の細かい地形を記録している。
例えば、敵が隠れそうな場所。逆に、征西部隊が利用できそうな場所。
罠の位置も含め把握していれば、後ほど役立てるはず。
「にしても、出現する雑魔が単一じゃな」
「確かに、犬の姿をした雑魔ばかりでしたね」
いずれもUiscaの高い女子力で一撃粉砕していたが、確かに犬の形をした雑魔だった。
「……威力偵察じゃ……いや、まさか、のう……」
もし、これが威力偵察だったら、もしかしたら、ハンター達は『倒しすぎた』可能性がある。
「まさか、これを見越してだったらの……」
森の中であれば、征西部隊の数を敵は把握しきれないだろう。
威力偵察の結果を参考にされるのであれば、征西部隊は過大評価される――その結果、敵は――星輝の脳裏に悪い予感が過ぎった。
●アイビス・グラス(ka2477)&柊 真司(ka0705)
仲間からのデータも合わせ、水を飲みながら、荒地の細かい地形を確認していた。
陣地は森の中だ。目指す方角の西には歪虚勢力が待ち構えているはずであり、襲撃があるとすれば、その西側は可能性が高い。
「本当に荒地だね。なにも無いよ」
「そのようだな」
真司も周囲を警戒しつつ、口の中に水を入れる。
生温いが喉の渇きを潤すには十分だった。
「ん……」
何かを発見して真司は魔導機械の取り付けられた杖を構えた。
そんな友人の動きを見てアイビスも視線を上げる。
「雑魔……今までとは様相が違うみたいだね」
キュッと拳を握る。
森の中で遭遇した雑魔は犬の姿をしていた。
だが、今、こちらに向かって来るのは、直立した熊だ。ただし、頭部は狐のそれである。
数も4体。二人目掛けて真っ直ぐに走ってきている。既に見つかっているという事なのだろうか。
「あれだ」
真司は上空を指差す。空高い所に何かが飛んでいる。
獲物を探している猛禽類のようには見えない。奇怪な形をしているようにも見える。
「上空から偵察されていたという訳ね」
「憤怒の歪虚という事なら、ありえる話か」
東方を破滅に追い込もうとしていた歪虚王獄炎は、憤怒に属している。
この先、憤怒の残党である勢力が待ち構えている以上、そういった雑魔や歪虚が居ると思う方が当たり前だろう。
憤怒の歪虚は、動物、あるいは植物の集合体のような形状を取る歪虚群なのだ。当然、空を飛ぶのが居ても不思議ではない。
「……そうか、牡丹さんが森の中に陣を敷いた理由……」
真司よりも前に進み出ながらアイビスは言葉を続ける。
「征西部隊の数を敵に伏せるつもりだったんだ」
「深い森の中であれば、正確な数は確認できないからな」
マテリアルを集中させる真司。
牡丹が女将軍と言われる所以を垣間見た気がした。敵の制空権下での戦いを想定していたのだ。
となると、この雑魔らは敵勢力の戦力なのだろう。それならば、ここで少しでも削るだけだ。
「行くよ! 真司さん!」
「援護は任せろ」
二人のハンターのマテリアルが荒地を駆け巡った。
ほどなく、雑魔達を倒した二人は、荒地の奥に広がって待ち構えている災狐の勢力を目撃するのであった。
●歩夢(ka5975)
女将軍から貰ったお菓子――蠢くクッキー――を広げ、再び包み、仕舞い込んだ。
念の為、料理を作ってないか確認しに牡丹の所へ向かったら、貰ったのだ。彼女は彼女なりに研究しているという事なのだろう。
「どうするか……残す訳にもいかないし、まさか、この川へ流す訳にもいかない」
川に流したら最後、雑魔になって化けて出てきそうな雰囲気のあるお菓子だ。
処分する方法は後で考える事にして、歩夢は川沿いの調査を続行する事にした。
「水攻めできる地形では無さそうだ」
万が一でも水を利用されてしまったらと思ったが、川の状況を見て安心した。
川はそれなりに深い所を通っているし、急な流れでもある。
「しかし、これだと、渡るのは苦労しそうだな」
普段、何気ない時は良いかもしれないが、戦闘状態で撤退する際には困るだろう。
陣から見れば後方に位置している川をみつめ、歩夢は呟いた。
「まさか、逃げるつもりはない……いや、負けなければ良いのだろうが……」
●夜桜 奏音(ka5754)&ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)
二人の符術師が森の中でばったり遭遇したのは占いの結果の偶然か必然か。
「ルンルン忍法とカードの力を駆使して、森の中を探索し、雑魔を見敵必殺です!」
「人数が少なそうな場所の探索と思ったら、これは思いの外、多く探索できそうです」
豊満な胸を揺らしながら、大きな身振りで式神を使って探索するルンルンと、占術を駆使し、森の中に罠を仕掛けるポイント探す奏音。
と、ルンルンが段差を飛び越え――胸が激しく上下しながら――地面に降り立った。
その衝撃だけで、両肩にかなりの負担が――と奏音は思わず心の中で呟く。
バランスを取りながら、ルンルンは窪みの確認をした。
「森の中を選んだのは、木を利用して、一度に攻めてこれる敵の数を制限して討つつもりなのかな?」
「その、可能性は高いかもしれませんね」
奏音は応えながら、先ほどの雑魔退治を思い出していた。
犬の姿をした雑魔が数体、姿を現したのだ。距離があったので遠距離から符術で殲滅させた。
いかに悪路でも優位な四足歩行ができるとしても、これだけ深い森と地形だ。そう簡単に前には進めないだろう。
「これなら、相手が大軍であってもまとまった戦術は取りにくいと思います」
奏音の冷静な分析に、ルンルンが無駄な動きを加えて頷く。
「それなら、ルンルン忍法が大活躍です!」
森の中でのゲリラ戦は、忍者向きな活躍の場の1つだろう。
「その為なら、視界を妨げ、邪魔になる所を排除しておいた方が良さそうですね」
先程の戦闘の際、遠距離攻撃が可能だったのは、たまたま射線が通っていたからだ。
そうそう何度も偶然が重なる訳ではないなら、人の手で作る事も大事だ。
「では、ますます! ここで、分身の術なのです!」
術を唱えだしたルンルンを見て、奏音もカードを取り出した。
敵が通りそうな道を占ってみようと思ったからだ。
舞ながら符をマテリアルで操り――符が指した方角は、西。
「とりあえず、不意は突かれたくないので死角は、なるべく減らすに限ります」
改めて罠を張っていこうと思う奏音であった。
敵も愚かではないはずだ。それでも正面から来るという事は、それなりの策を持っている可能性が高いのだから。
ハンター達の働きによって、陣地周囲の探索と雑魔の討伐、築陣が行われた。また、あるハンターの提案により、戦闘隊員には揃いの緑色の鉢巻きが配られた。
一大防御陣地が出来上がるまで、もう少し時間は掛かるだろうが、次の戦いでは陣地が大きな意味を成す事になるだろう。
おしまい
●龍崎・カズマ(ka0178)
探索を終えて女将軍の天幕に、酒を持って入ったカズマを牡丹は出迎える。
「カズマ君、僕にお酒を飲ませて、ナニするつもり?」
両腕で自身の体を覆うが、覆いきれない胸が、無駄に艶かしく色っぽい。
「ナニもしねぇよ」
「されたい側!?」
縄を手にする牡丹。
前回、椅子に縛り上げられた事を思い出した。この女に油断は禁物だ。
「……冗談を言い合いに来たつもりはねぇ。それより、この前聞いた言葉の意味を知りたい」
その時、牡丹は確かに言った『どうせ、死んじゃうのだろうけど』と――。
カズマの言葉に、牡丹は目をクリクリとさせた。今、そんな事? でも言いたそうである。
「言葉通りの意味だよ……征西部隊の目的は赤き大地のホープ。でも、『彼ら』の目的は、死に場所を見つける事だよ」
「どういう意味だ」
部隊の目的は隊員が生存しているからこそ、成し遂げられるものではないのか。
死に場所を見つけさせ、誰も居なくなっては部隊が成立しない。
「カズマ君。良い機会だから、教えてあげるよ」
ゆっくりと近づいた牡丹がカズマの耳元で囁いた。
まるで、二人だけの秘密にするかのように。
「征西部隊はね、死にたがりの部隊なんだ。死にたがりで組織運営上に問題のある者達のね」
●ラジェンドラ(ka6353)&アルラウネ(ka4841)&ヴァイス(ka0364)
「私の師匠は、昔、凄腕の機導師だったというお爺さんでした」
緑髪の少女――紡伎 希(kz0174)――が、ラジェンドラからの質問に答えていた。
探索に行く前に、この少女に聞いておきたかった事があったからだ。
「ラジェンドラ様は何故、その様な質問を?」
ハンターズソサエティに登録してあれば、訓練所には優秀な教官達がいるからだ。
「いや、ちょっと強くなりたくてね。覚醒者の先輩としてアドバイスを貰えたらありがたいかな」
「それなら……」
首を少し傾げながら希は答えた。
「目標を持つのが良いと思うのです」
「なるほど、目標か……ノゾミの嬢ちゃんには、目標はあるのかい?」
ラジェンドラの質問。希の顔に陰りが見えた。
だが、それも一瞬の事。この緑髪の少女は誇らしく胸を張って答える。
「ある機導師のお姉さんです。私の憧れの人なのです」
希と話していたハンターが別れ、探索に出発するのを見計らってアルラウネがニヤニヤとした表情を浮かべていた。
「ノゾミちゃん。今の人誰かな~。彼氏?」
「違いますよ」
呆気ない程の早い即答。
「でも……ずっと前から知っているような……そんな気がして」
「ふーん。なんだか、私一人で取り残されてる気分なのよね~」
「そ、そんな事ないですよ」
誤魔化すように笑う希に、アルラウネが悲しそうな表情を浮かべて少女を抱擁した。
「お姉さん怖いのよ……傍から人が、次々と居なくなってしまう気がして……」
「……それは、私も、そう思います」
「結構寂しがりやなのよ? だから、どんなに無様でも生きていて欲しいの」
抱擁していた腕を解くアルラウネ。
しんみりとした雰囲気に耐えかねたように微笑を浮かべながら言葉を続ける。
「ノゾミちゃん達がいなくなったら、私ただの痴女でしかないわ」
「自覚あるなら、そのお姿を変えるのが良いですよ」
希の恨みしそうな視線がアルラウネの豊かな胸に向かれていた。
そこへ、ヴァイスが視線を、どこに向けていいか分からない様子でやって来た。
「希、受付嬢の仕事、お疲れ様だ」
優しい笑みを浮かべて、ヴァイスは緑髪の少女の頭を優しく撫でる。
嬉しそうな表情を希は向けたが、その顔を見て、以前と違うと感じた。まるで、何かを抱えている……そんな気をさせた。
だが、今は、見守ろうと思った。少女は一人ではないのだから。
「それよりも、さっきのハンターだが?」
立ち去っていく銀髪の機導師の後ろ姿を眺めながら尋ねた。
「ラジェンドラ様ですか? ヴァイス様も気になります?」
「あ……あぁ……」
多分、希と違った意味で気になるのだが、そこは伏せておこうと思った。
そんな彼の心情を気にもせず、希は唇に指を当てて言う。
「……やっぱり、どこかで会った事がある気がするのですが……ヴァイス様も心当たりはあるのですね」
「そ、そんな所だ」
苦笑を浮かべながら答えつつ、頭の中で銀髪の知り合いを思い浮かべ――人数が多くて諦める。
機会があれば直接、話してみるのもいいかもしれない。そんな風に感じた時だった。
アルラウネがニヤニヤと不気味な笑いを浮かべている。
「ヴぁっくんったら、こんなに可愛い女の子が二人もいるのに、頭の中で、男の人の事考えてるの? そんな趣味?」
「断じてない!」
歴戦の戦士の必死な否定ぶりに、希とアルラウネの笑い声が響いた。
●クリスティン・ガフ(ka1090)&春日 啓一(ka1621)
突貫工事の音が陣の中を駆ける。同時にクリスティンの叫び声も轟く。
「行う事は多いぞ! 各自、役割を分担して取り掛かれ!」
彼女の言葉に征西部隊の隊員らが威勢良く返事した。
クリスティンは陣の周囲に、空堀、坂、塀、櫓を作る事を提案したのだ。牡丹はその提案を受け入れ、征西部隊の隊員らの中から適任者を預けてくれた。
「櫓の上での見張りは、敵を発見したらすぐに味方に知らせる必要がある」
一方、櫓の作成に取り組みながら、啓一は見張り担当の隊員らに軍用双眼鏡や発炎筒の使い方を説明していた。
森の中ではあるので視界が良好とは言えない。だからこそ、見張りの重要性は高い。
「方角に対応した色を――」
「啓一君! そっちの木の根を取り除いて!」
嫁の言葉に、一時、説明を中断して魔導鋸を起動させる啓一。
「方角によっては――」
「啓一君! 今度は、あっちの木の幹を切って!」
森の中であるだけに、伐採する木が多いみたいだ。
「色を組み合わ――」
「啓一君! 啓一君!」
立て続けに呼ばれる事に対し、樹上にいるクリスティンに両手を広げた。
「少し、待ってくれ!」
「待てない。早く、だよ」
満面の笑みを向けてくる嫁の言葉に、後頭部を掻きながら返事をする啓一。
その光景に、作業中だった隊員らから笑い声があがる。
「完全に、尻に敷かれてるじゃねぇか、兄ちゃんよ」
啓一の背をバンバンと叩く隊員の男。
見張り担当の者の一人で、野太という名の者だった。
「なにか……悪いな」
「気にするなよ。この中には、そんなやり取りを懐かしむ連中もいるんだからな」
その言葉で啓一は作業に協力している隊員らを見渡した。
何人かが静かに頷いていた。
(懐かしむ……まさか……)
頷いている隊員らの年齢は、啓一とさほど変わらない。
なのに、『懐かしむ』――その意味を察する事はすぐに出来た。
「野太もそうなのか?」
「あぁ……気の強い女だったよ。気が強すぎて、退く事すら忘れちまう位にな」
複雑な表情を浮かべる野太。
首にぶら下がっているネックレスには指輪が揺れていた。
「嫁を大事にな」
野太の言葉が重く感じられた中、クリスティンの旦那を呼ぶ声が流れて行った。
●ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)
「うぉぉぉ! ユーリ嬢、ありがとうございます!」
築陣作業の休憩時に、盛り上がる筋肉で暑苦しい三兄弟の叫び声。
ユーリが、差し入れに持ってきた食事と飲み物を、物凄い勢いで口へと運んでいる。
が、突然、三兄弟の末が涙をボロボロと流す。
「うぅ……お頭のお嬢も生きていたら、ユーリ嬢と同じ位だと思い出したら」
「泣くな、泣くな、サブロウ」
次男のジゴロが泣き咽る弟の背中をさする。長兄であるイチガイがユーリに説明するように言った。
「俺達兄弟が仕えていた武家のお頭の娘さんは優しい御方で」
「……イチガイ達が征西部隊にいるのと関係が?」
武家に仕えていたのであれば、征西部隊に席を置く必要はないだろう。
「お頭も含め、仕えていた武家一族は、歪虚の襲撃で全滅しました……我ら三兄弟はお頭の無念を晴らす為……」
長兄の話にジゴロも泣き出す。
「仇討ちという事?」
「早い話が、そういう事なのですぅぅ!」
強い決意で叫びながらイチガイは筋肉を奮い立たせるのであった。
●七夜・真夕(ka3977)
築陣を手伝う事を禁じられた為、椅子に座って監督していただけの女将軍はブスっとした表情をようやく緩めた。
鳴月 牡丹(kz0180)が散らかした資材を改めて集積し、まとめ終わった真夕が、目録を渡したからだ。
「牡丹とは久しぶりね。元気かしら?」
「僕はいつだって元気だよ。真夕君も元気そうだね」
小高砦の事は、もはや去年の話だ。
「いやー。真夕君のおかげで、僕は凄く助かったよ。ノゾミに怒られなくて済むし」
「陣を保持する為の資材は、きちんと整理されていると、いざと言う時も速やかに動けますよね」
ニッコリと笑う真夕にウンウンと牡丹は頷く。
「君達ハンターが提案してくれた築陣だと、結構大規模になりそうだし」
依頼の中で終わらなかった分に関しては征西部隊が引き継ぐ事になっている。
その為、真夕の集積は今後、とても大きな意味を成すだろう。
「あとは陣が完成するまでに襲撃が無ければいいのですけどね」
「そればっかりは、歪虚の気分次第だからな~。真夕君が祈っててよ」
「祈っておきますから、折角整えた資材、崩さないでよね、牡丹」
真夕の言葉に、保証はできないと女将軍は笑いながら答えた。
●連城 壮介(ka4765)&ソルネイティア(ka5932)
魔導ドリルが唸り、地中に埋まっていた岩が砕ける。
壮介の動きは単純だった。仲間のハンターが提案した堀を作る為、ひたすら、大地を削っているのだ。
(どんどん掘るとしましょう……この軍も、何だか色々ありそうですが……)
連城家は四十八家門の下で長く戦線を支えてきたという自負がある。征西部隊は他人事ではない。
森の中であるので、木々の根が邪魔するが容赦なくドリルで砕く。
「木を切る時は、感謝の祈りを忘れないでね」
振り返るとエルフらしい言葉を発したソルネイティアが居た。
だが、視線は根っこよりも、壮介の持つ魔導ドリルに向けられている。
「それを大きくできたら、巨大な魔導兵器として使えそうですよね」
「そ、そうですね……」
ソルネイティアの台詞に思わずドリルを掲げ見ながら壮介は返した。
そんな兵器で一体、何をするのだろうか。
「いいね! いいね! それに乗ってみたいなぁ!」
そんな物騒な事を言いながら女将軍――牡丹――が姿を現した。
自分の天幕に戻る途中だったようだ。
「木の事ならエルフに任せなさい、牡丹様」
胸を張って堂々と宣言するソルネイティア。牡丹は何度も頷く。
「ここは完全に森の中だからね。エルフには色々と期待するよ」
「牡丹様、柵だけではなく拒馬も作ってはいかがでしょうか?」
その提案に、牡丹はワザとらしくポンと手を叩いた。
「いいね! 緊急時の壁にもなるし、いくつか予備があってもいいし」
「それに門の外にもおけば、防御の足しにはなりますから」
「それじゃ、そこの君、手伝ってあげてよ」
壮介に向けて指差す牡丹。なにか勘違いしているみたいだ。
「俺は……ハンターですよ」
「おっと。それは失礼したよ。というか、これ、君が掘ったの?」
木々の間に伸びる堀を目にして牡丹が感心する。
壮介は頷くと再びドリルを動かし始めた。
「良い陣地が出来上がりそうだね。後は任せたよ」
「はい。牡丹様」
嬉しそうに自身の天幕へと戻る女将軍の背をソルネイティアは見送った。
その後、堀と土塁の補強、逆茂木の作成など、魔術師らしい知識を披露しつつ、彼女の提案で陣の防御が作らていった。
●ボルディア・コンフラムス(ka0796)
「しかし……どうやったらこんな、竜巻の通り過ぎた後みたいにできるんだ」
呆れながら壊れた柵や資材を眺めてボルディアは言った。
戦闘があった訳ではない。女将軍が『片付けた』後だった。
「まさか、牡丹は歪虚の手先……わざと陣を崩して敵に襲わせようと!?」
ハッとしながら、そんな言葉を発し――そんな事がある訳ないかと鼻で笑う。
「……バカな事言ってねえでやるか。オイ、テメェ等ももっと動け! その筋肉はお飾りか?」
「我ら、三兄弟の意地を見せるぞ!」
ムキムキの筋肉が暑苦しい三兄弟が、ボルディアの挑発に奮起をみせた。
「行くぞ! サブロウ! ジロウ!」
長兄であるイチガイが丸太を水平に掲げ、そこに、二人の弟が飛び乗る。
かなりの重量のはずだが、びくともしていない。弟達は筋肉を見せつけるようにポーズをとる。
「我ら三兄弟!」
「いいから、さっさと動けって言ってるだろ」
再び呆れるボルディアだった。指揮官があれなら、その部下も、似たようなものかもしれないと思いながら。
●門垣 源一郎(ka6320)
防御に対する戦術のいくつかを征西部隊の隊員らに説明し、源一郎は陣内を見回っていた。
多方面から同時に襲われる事がないように、敢えて、攻め寄せる敵が集中しやすいように堀や柵を構築。
そこに対し、陣の中からの火力が集中しやすくするように進言したり、陣地内の整地にも気を配る。
「火力の集中ができれば、数での不利も覆す事ができるはず」
逆襲できる能力を持たなければ、専守防衛は達成できないのだ。
(それにしても、不思議な部隊だ)
血気に逸る者が居そうで居ない。それでいて、やる気がないという訳ではない。
それが全員だったらそんな雰囲気の部隊なのだろう。だが、通信兵や工兵といった後方支援の兵士達には、感情の揺らぎを感じる。
(戦闘に参加する者達とは性質が違うようだが……なるほど、そういう事か)
明らかに己とは違う。
だからこそ、源一郎の征西部隊の雰囲気を理解した。
自分と同じように『枯れて』いるのだ。『枯れた』まま、どこに倒れたいか分かっていないのが『彼ら』。そんな雰囲気を感じた――。
●シェルミア・クリスティア(ka5955)
人気のない場所に瞬という名の青年の侍を呼び出した彼女は、前回、彼が言った言葉の真意を尋ねていた。
「正秋は言ったわ。『西方へ至る。それが未来へと繋ぐ希望』だと」
「彼奴は変わった。お前やハンター達の言葉でな。だが、俺は違う。俺には成さなければならない事がある」
真剣な表情で空を仰ぐ。
「それは一体なに?」
シェルミアの質問に瞬は視線を彼女へと向けた。
その瞳をどこかで見た気がする――そう、あれは、死に逝く事を悟った者の瞳だ。
「俺の一族は、不名誉を残した。一族の唯一の生き残りの俺は、名誉を取り戻す使命がある」
「命と引換にするほどに?」
「どうせ人は遅かれ早かれ死ぬ。なら、不名誉を残すより名誉を、俺は取り戻す。それだけだ」
話は終わりとばかり、瞬は立ち去った。
「『未来を託す』……そう言う意味なの……」
瞬という青年は最初から死ぬつもりだったのだろう。それは、正秋も同様だったかもしれない。
彼も『堕落者に仕えた者の息子』という不名誉を背負っていたのだから。
「……もしかして、征西部隊は……」
ふと、ある予感めいたものを彼女は感じたのであった。
―――探索―――
●銀 真白(ka4128)&七葵(ka4740)&ミィリア(ka2689)
「これは?」
十鳥城の代官だった息子の正秋は受け取った天藍石の指輪と真白を交互に見つめる。
「邪気からの護りになる。これから災狐勢力との戦いがあるのだろう」
因縁浅からぬ相手だ。
「かたじけない。真白殿」
「そうだ、正秋殿。征西部隊の皆で御守代わりに揃いの鉢巻を誂るのはどうか」
遠征の目的が、陸路で西へ至り、希望とする事なら屍の上に作られた道では哀しい。
全員で生き残り、到着するからこそ、意味があるはずだ。
「それは、良いかもしれませんね」
「ミィリアも、それに賛成で、ござる!」
元気な声を出してミィリアが賛同した。
「未来に向かっていくミィリア達は、死線を越えて、胸を張ってどうだー! って、言えるような結果を出さなくちゃ!」
その力説の様を見て正秋は苦笑を浮かべた。
この人なら、本当にやってのけてしまうような、そんな気がしたからだ。
「必ず、全員で生きて辿り着く。その為の決意の証としてお守りっ!」
「さっそく、できないかどうか、確認したいと思います」
きっと部隊を率いる牡丹から許可はでるはずだ。
そこへ、七葵も彼に言った。
「正秋殿。命を賭して戦うという事について、話しておこう」
お守りの見本なのだろう。緑色の鉢巻きを正秋に渡す。
同じ物を真白とミィリアも持っていた事に、彼は気がついた。
「生き残るには、選ばれた者ではない。諦めなかった者だ」
「諦めなかった者……」
七葵の言葉を続ける正秋。
これから先、苦しい戦いが待っていたとしても。諦めず戦い続けた結果、生き残れると信じ。
「皆さん、本当に、本当にありがとうございます」
しっかりと緑色の鉢巻きを握り締め、意を決める正秋。
周りに他の隊員が居ない事を確認し、三人のハンターを見渡す。
「皆さんにお伝えしたい事があるのです」
その深刻そうな言葉に思わず三人は交互に顔を見合わせた。
「実は、征西部隊の目的なのですが……」
「赤き大地のホープを目指しているのではないのか?」
真白が怪訝な表情で首を傾げる。
「それは、部隊が編成された後に伝えられた内容でした。この話は、瞬から聞かされたのですが――各隊から選出される際に、呼び掛けられた内容があるのです」
一区切りして続ける正秋。
参加の呼びかけは、今年に入ってからだという。
「……当初、『獄炎の残党を倒せる機会が高い』としてでした。それも、全員ではなく、特定の人に」
「特定の人……で、ござるか?」
「はい……歪虚に強い恨みがある者や、一族を失い、途方に暮れる者達……と」
正秋の告白に、七葵は考える仕草をみせた。
そして、ある結論へと至る。
「ただの残党討伐で編成された訳では無さそうだ、な」
共通認識を予め持った者達で編成された部隊。
士気の維持には有効だろう。だが、拘る必要はないはずだ。
「正秋殿。その『特定の人』というのは詳しくは分からないのか?」
「残念ながら詳しい事は……ただ、この鉢巻きの話。私から全員に呼び掛けたいと思います」
ここに来て表出したひと株の不安をハンター達は感じずにはいられなかった。
「もし、征西部隊の隊員らが希望を失っていたとしたならば……」
真白の言葉には重かったが、そう言いながら視線をミィリアへと向けた。
桃色の侍ガールは力強く頷く。
「ミィリア達が頑張る! 希望を再び手にできるように!」
「そういう事だな」
七葵も同意した。それがハンターというものなのだから。
●アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)&リューリ・ハルマ(ka0502)
天幕へと戻る牡丹は、その途中で探索から戻ってきたリューリに話しかけられていた。
「前のアルトちゃんとの模擬戦凄かったよ!」
「やぁ、リューリ君。なにかの参考になったかい?」
足止めされているとも思わずに牡丹は会話に応じる。
この女将軍が頷いたり跳ねたりするたびに、豊かな胸も動く。
「牡丹さんは、どんな生活したら、そのスタイルに?」
「……牛乳かな。起きて牛乳飲んで、朝食食べて牛乳飲んで、戦って牛乳飲んで、昼食食べて牛乳飲んで、戦って牛乳飲んで、夕飯食べて牛乳飲んで、水浴びしてから寝て、これを繰り返していたら……」
「そ、そうなんだ……」
あまり、参考にはならないようだ。
単なる牛乳好きかと思う。というか、ハンターが救援に来るまでの東方とは、そういう状況だったかもしれない。
「じゃ、部下の隊員さん達好き? っていうか大事?」
「そりゃ、もう大好きさ。みんな、ね」
両手を広げ満面な笑みを浮かべた牡丹だった。
大親友が足止めしていた間に、アルトは牡丹の天幕へと入っていた。
「これは……征西部隊の名簿? が、2つ?」
パラパラと名簿を確認する。
一つは通信兵や工兵といった後方支援を主体とする兵士達の名簿。
もう一つは、戦闘を主体とする兵士達の名簿のようだった。
「なんで、2つ?」
同じ部隊なのに、名簿が分かれている。
管理するのであれば1つの方が良いに決まっている。なにか意図があるからこそ、2つに分かれているのだろう。だが、その意味をアルトは計りかねた。
その時、天幕の外に気配を感じて中央に移動して待つ。
「あれ? アルト君じゃないか。なにか用かい?」
「お茶の差し入れをね。それと、聞きたい事があってさ」
率直にアルトは尋ねた。
「一体、この遠征の裏には何がある?」
「……アルト君も十鳥城で災狐の勢力と戦ったよね? 変だと思わない? 憤怒の残党の多さにさ」
十鳥城でそれなりの戦力を削った。だが、以後も相当数が残っていると思われている。
すでに憤怒の王たる獄炎は消滅したはずなのに、だ。
「まさか、西に向かうのは……」
「そこから先、今は言えない。さぁ、天幕の外で君の仲間が待ってるよ」
『落ちていた』魔導短伝話を手渡しながら含みのある表情で牡丹は言ったのであった。
●星輝 Amhran(ka0724)&Uisca Amhran(ka0754)
「ノゾミちゃん、気持ちを内に溜め込んでいるみたい……」
心配するようにUiscaは言いながら、雑魔を一撃で粉砕した短杖を降ろした。
探索に赴く前に希に会っていた事を思い返す。
「歪虚への復讐でいっぱいみたい……ノゾミちゃん」
Uisca自身も歪虚と対峙する際は全力で立ち向かう。
だが、復讐で戦っている訳ではない。仲間や多くの人々を守る為に戦っているのだ。
「しっかりしてそうに見えて、ノゾミは、まだまだ子供じゃしな」
これが年の功というものなのだろうか、星輝が諭すように言った。
星輝の手元は罠の道具。森の中を探索すると同時に簡単な罠を設置している。
「……いや、若さだけじゃないかの。性格や経験もあるかのぅ」
出発前に出会った正秋という名の若き侍を思い出す星輝。
十鳥城で何度か会った代官の息子という。良い面構えをしていた。
「『本当に泣くのは歪虚を全部倒しきってからです』そんな風にノゾミちゃんは……」
緑髪の少女は過去に囚われている。
それが分かるこそ、手遅れになる前になんとかしたかったのだが……自分の声が、少女のどこかに届いていると祈るのみだ。
「大きなショックを受けると、それを処理する為の突発的な行動を起こす人もいる故、ノゾミのそんな時期かもしれん」
両肩を落としているUiscaの肩を励ますように星輝はポンポンと叩いた。
「今はノゾミを信じて待つのじゃ。大丈夫じゃ、あの娘は、あの絶望を乗り越えたのじゃから」
「……そう、ですね、キララ姉さま」
静かに頷き、短杖を再び力強く握る。
「という事で更に探索と調査を進めるのじゃ。この先、戦って生き残らないと意味がないからの」
「はい!」
森の中の細かい地形を記録している。
例えば、敵が隠れそうな場所。逆に、征西部隊が利用できそうな場所。
罠の位置も含め把握していれば、後ほど役立てるはず。
「にしても、出現する雑魔が単一じゃな」
「確かに、犬の姿をした雑魔ばかりでしたね」
いずれもUiscaの高い女子力で一撃粉砕していたが、確かに犬の形をした雑魔だった。
「……威力偵察じゃ……いや、まさか、のう……」
もし、これが威力偵察だったら、もしかしたら、ハンター達は『倒しすぎた』可能性がある。
「まさか、これを見越してだったらの……」
森の中であれば、征西部隊の数を敵は把握しきれないだろう。
威力偵察の結果を参考にされるのであれば、征西部隊は過大評価される――その結果、敵は――星輝の脳裏に悪い予感が過ぎった。
●アイビス・グラス(ka2477)&柊 真司(ka0705)
仲間からのデータも合わせ、水を飲みながら、荒地の細かい地形を確認していた。
陣地は森の中だ。目指す方角の西には歪虚勢力が待ち構えているはずであり、襲撃があるとすれば、その西側は可能性が高い。
「本当に荒地だね。なにも無いよ」
「そのようだな」
真司も周囲を警戒しつつ、口の中に水を入れる。
生温いが喉の渇きを潤すには十分だった。
「ん……」
何かを発見して真司は魔導機械の取り付けられた杖を構えた。
そんな友人の動きを見てアイビスも視線を上げる。
「雑魔……今までとは様相が違うみたいだね」
キュッと拳を握る。
森の中で遭遇した雑魔は犬の姿をしていた。
だが、今、こちらに向かって来るのは、直立した熊だ。ただし、頭部は狐のそれである。
数も4体。二人目掛けて真っ直ぐに走ってきている。既に見つかっているという事なのだろうか。
「あれだ」
真司は上空を指差す。空高い所に何かが飛んでいる。
獲物を探している猛禽類のようには見えない。奇怪な形をしているようにも見える。
「上空から偵察されていたという訳ね」
「憤怒の歪虚という事なら、ありえる話か」
東方を破滅に追い込もうとしていた歪虚王獄炎は、憤怒に属している。
この先、憤怒の残党である勢力が待ち構えている以上、そういった雑魔や歪虚が居ると思う方が当たり前だろう。
憤怒の歪虚は、動物、あるいは植物の集合体のような形状を取る歪虚群なのだ。当然、空を飛ぶのが居ても不思議ではない。
「……そうか、牡丹さんが森の中に陣を敷いた理由……」
真司よりも前に進み出ながらアイビスは言葉を続ける。
「征西部隊の数を敵に伏せるつもりだったんだ」
「深い森の中であれば、正確な数は確認できないからな」
マテリアルを集中させる真司。
牡丹が女将軍と言われる所以を垣間見た気がした。敵の制空権下での戦いを想定していたのだ。
となると、この雑魔らは敵勢力の戦力なのだろう。それならば、ここで少しでも削るだけだ。
「行くよ! 真司さん!」
「援護は任せろ」
二人のハンターのマテリアルが荒地を駆け巡った。
ほどなく、雑魔達を倒した二人は、荒地の奥に広がって待ち構えている災狐の勢力を目撃するのであった。
●歩夢(ka5975)
女将軍から貰ったお菓子――蠢くクッキー――を広げ、再び包み、仕舞い込んだ。
念の為、料理を作ってないか確認しに牡丹の所へ向かったら、貰ったのだ。彼女は彼女なりに研究しているという事なのだろう。
「どうするか……残す訳にもいかないし、まさか、この川へ流す訳にもいかない」
川に流したら最後、雑魔になって化けて出てきそうな雰囲気のあるお菓子だ。
処分する方法は後で考える事にして、歩夢は川沿いの調査を続行する事にした。
「水攻めできる地形では無さそうだ」
万が一でも水を利用されてしまったらと思ったが、川の状況を見て安心した。
川はそれなりに深い所を通っているし、急な流れでもある。
「しかし、これだと、渡るのは苦労しそうだな」
普段、何気ない時は良いかもしれないが、戦闘状態で撤退する際には困るだろう。
陣から見れば後方に位置している川をみつめ、歩夢は呟いた。
「まさか、逃げるつもりはない……いや、負けなければ良いのだろうが……」
●夜桜 奏音(ka5754)&ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)
二人の符術師が森の中でばったり遭遇したのは占いの結果の偶然か必然か。
「ルンルン忍法とカードの力を駆使して、森の中を探索し、雑魔を見敵必殺です!」
「人数が少なそうな場所の探索と思ったら、これは思いの外、多く探索できそうです」
豊満な胸を揺らしながら、大きな身振りで式神を使って探索するルンルンと、占術を駆使し、森の中に罠を仕掛けるポイント探す奏音。
と、ルンルンが段差を飛び越え――胸が激しく上下しながら――地面に降り立った。
その衝撃だけで、両肩にかなりの負担が――と奏音は思わず心の中で呟く。
バランスを取りながら、ルンルンは窪みの確認をした。
「森の中を選んだのは、木を利用して、一度に攻めてこれる敵の数を制限して討つつもりなのかな?」
「その、可能性は高いかもしれませんね」
奏音は応えながら、先ほどの雑魔退治を思い出していた。
犬の姿をした雑魔が数体、姿を現したのだ。距離があったので遠距離から符術で殲滅させた。
いかに悪路でも優位な四足歩行ができるとしても、これだけ深い森と地形だ。そう簡単に前には進めないだろう。
「これなら、相手が大軍であってもまとまった戦術は取りにくいと思います」
奏音の冷静な分析に、ルンルンが無駄な動きを加えて頷く。
「それなら、ルンルン忍法が大活躍です!」
森の中でのゲリラ戦は、忍者向きな活躍の場の1つだろう。
「その為なら、視界を妨げ、邪魔になる所を排除しておいた方が良さそうですね」
先程の戦闘の際、遠距離攻撃が可能だったのは、たまたま射線が通っていたからだ。
そうそう何度も偶然が重なる訳ではないなら、人の手で作る事も大事だ。
「では、ますます! ここで、分身の術なのです!」
術を唱えだしたルンルンを見て、奏音もカードを取り出した。
敵が通りそうな道を占ってみようと思ったからだ。
舞ながら符をマテリアルで操り――符が指した方角は、西。
「とりあえず、不意は突かれたくないので死角は、なるべく減らすに限ります」
改めて罠を張っていこうと思う奏音であった。
敵も愚かではないはずだ。それでも正面から来るという事は、それなりの策を持っている可能性が高いのだから。
ハンター達の働きによって、陣地周囲の探索と雑魔の討伐、築陣が行われた。また、あるハンターの提案により、戦闘隊員には揃いの緑色の鉢巻きが配られた。
一大防御陣地が出来上がるまで、もう少し時間は掛かるだろうが、次の戦いでは陣地が大きな意味を成す事になるだろう。
おしまい
●龍崎・カズマ(ka0178)
探索を終えて女将軍の天幕に、酒を持って入ったカズマを牡丹は出迎える。
「カズマ君、僕にお酒を飲ませて、ナニするつもり?」
両腕で自身の体を覆うが、覆いきれない胸が、無駄に艶かしく色っぽい。
「ナニもしねぇよ」
「されたい側!?」
縄を手にする牡丹。
前回、椅子に縛り上げられた事を思い出した。この女に油断は禁物だ。
「……冗談を言い合いに来たつもりはねぇ。それより、この前聞いた言葉の意味を知りたい」
その時、牡丹は確かに言った『どうせ、死んじゃうのだろうけど』と――。
カズマの言葉に、牡丹は目をクリクリとさせた。今、そんな事? でも言いたそうである。
「言葉通りの意味だよ……征西部隊の目的は赤き大地のホープ。でも、『彼ら』の目的は、死に場所を見つける事だよ」
「どういう意味だ」
部隊の目的は隊員が生存しているからこそ、成し遂げられるものではないのか。
死に場所を見つけさせ、誰も居なくなっては部隊が成立しない。
「カズマ君。良い機会だから、教えてあげるよ」
ゆっくりと近づいた牡丹がカズマの耳元で囁いた。
まるで、二人だけの秘密にするかのように。
「征西部隊はね、死にたがりの部隊なんだ。死にたがりで組織運営上に問題のある者達のね」
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 15人 |
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/07/14 10:46:35 |
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相談卓 門垣 源一郎(ka6320) 人間(リアルブルー)|30才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/07/15 00:27:55 |
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確認用に 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/07/15 03:18:22 |