ゲスト
(ka0000)
【詩天】東西交流の宴
マスター:近藤豊

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/07/15 19:00
- 完成日
- 2016/07/18 09:16
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
東の三城。
若峰の防衛拠点として知られている城も、残すのは伊須群城のみとなった。
先日、二つ目の城である駒種城もハンターの活躍により奪還。若峰の東部地域は人類が戦局を優勢に進めていた。
伊須群城を占拠する敵も沈黙を守り、今の所動きを見せていない。
――膠着状態。
戦況が動かない状態が数日続いた、ある日。
「水野殿っ! 水野殿は、こちらか!」
若峰からやってきた武将が、水野 武徳 (kz0196)を訪ねて墨子城までやってきた。
武将がやってきた理由は、『ハンター達を正当に評価した上で、早期に伊須群城奪還を成功させるように進言する為』である。
ハンターの報告によれば、駒種城で『三つ扇』の旗印が大量に見つかった。もし、敵が武将の知る者ならば詩天にとって大事だ。
「…………」
武将が大広間へ足を踏み入れると、武徳が腕を抱えて何かを思案している。
先日の話では、武徳もハンターの優秀さは充分に理解していた。
しかし、傭兵という立場を鑑みれば、幕府の依頼でいつ詩天に剣を向けるか分からない。その為、武徳はハンターに対して強い警戒を持って望んでいると話していた。
武将は、何としてもその考えを改めさせたいのだ。
「水野殿、話が……」
「やはり、ハンターは信用に値するな。彼らをもっと重用せねばならん」
「……は?」
武将は、開いた口が塞がらなかった。
何せ、数日前に言ってた事と態度が異なっているからだ。
「水野殿」
「なんじゃ?」
「先日、水野殿は『ハンターは危険だ。警戒している』と申されたが……」
「そんな事を言ったか? わしはまったく記憶がないぞ。
それより、この墨子城と駒種城を奪還できたのはハンターが居てこそじゃ。わしは、彼らを高く評価しておる」
武徳は、素知らぬ顔で言い放つ。
軍師としては有能な存在なのだが、朝令暮改を平気で繰り返す事から周囲は常に振り回されっぱなしだ。
そうだとしても、武将からすればハンターの評価が上がったのなら何よりだ。
ため息をついた後、武将は本題を切り出す。
「ま、まあ、考え直してくれたのなら何より。早速、伊須群城の奪還を……」
「だが、お主のいう事も分からぬでもない。わしらはハンターの事を知らぬし、彼らがやってきた西方について何も知らん。頭から信じて良いものか」
武将の言葉を遮って、武徳は独り言を呟いた。
ハンターは幕府の後押しがあって詩天へやってきた。武徳としては傭兵として便利な存在ではあるが、感じの彼らがどういう存在なのかをまったく知らない。
これからハンターを重用しようというのならば、彼らの事や西方の事をもっと知っておくべきだ。
「ここは、詩天とハンターで宴を開くべきだな。酒があれば何とかなるだろう」
「水野殿、それは良い案かも知れぬ。だが、ここで宴を開くには少々寂しくならぬか?」
武将が不安そうな顔を浮かべる。
墨子城は最前線である事から食事は干し飯、酒もどぶろくのような『にごり酒』が少しあるだけだ。詩天はかつて酒の産地としても知られ、銘酒『詩天盛』は東方各地へ送られていた。しかし、歪虚の襲撃や千石原の乱で蔵本は大打撃。現在は詩天盛も作られておらず、にごり酒がメインとなっている。
――それでも、武徳はまったく気にしていない。
「心配するな。ハンターの連中もこの国の事を知りたいのだろう。酒の肴に困りはせん」
若峰の防衛拠点として知られている城も、残すのは伊須群城のみとなった。
先日、二つ目の城である駒種城もハンターの活躍により奪還。若峰の東部地域は人類が戦局を優勢に進めていた。
伊須群城を占拠する敵も沈黙を守り、今の所動きを見せていない。
――膠着状態。
戦況が動かない状態が数日続いた、ある日。
「水野殿っ! 水野殿は、こちらか!」
若峰からやってきた武将が、水野 武徳 (kz0196)を訪ねて墨子城までやってきた。
武将がやってきた理由は、『ハンター達を正当に評価した上で、早期に伊須群城奪還を成功させるように進言する為』である。
ハンターの報告によれば、駒種城で『三つ扇』の旗印が大量に見つかった。もし、敵が武将の知る者ならば詩天にとって大事だ。
「…………」
武将が大広間へ足を踏み入れると、武徳が腕を抱えて何かを思案している。
先日の話では、武徳もハンターの優秀さは充分に理解していた。
しかし、傭兵という立場を鑑みれば、幕府の依頼でいつ詩天に剣を向けるか分からない。その為、武徳はハンターに対して強い警戒を持って望んでいると話していた。
武将は、何としてもその考えを改めさせたいのだ。
「水野殿、話が……」
「やはり、ハンターは信用に値するな。彼らをもっと重用せねばならん」
「……は?」
武将は、開いた口が塞がらなかった。
何せ、数日前に言ってた事と態度が異なっているからだ。
「水野殿」
「なんじゃ?」
「先日、水野殿は『ハンターは危険だ。警戒している』と申されたが……」
「そんな事を言ったか? わしはまったく記憶がないぞ。
それより、この墨子城と駒種城を奪還できたのはハンターが居てこそじゃ。わしは、彼らを高く評価しておる」
武徳は、素知らぬ顔で言い放つ。
軍師としては有能な存在なのだが、朝令暮改を平気で繰り返す事から周囲は常に振り回されっぱなしだ。
そうだとしても、武将からすればハンターの評価が上がったのなら何よりだ。
ため息をついた後、武将は本題を切り出す。
「ま、まあ、考え直してくれたのなら何より。早速、伊須群城の奪還を……」
「だが、お主のいう事も分からぬでもない。わしらはハンターの事を知らぬし、彼らがやってきた西方について何も知らん。頭から信じて良いものか」
武将の言葉を遮って、武徳は独り言を呟いた。
ハンターは幕府の後押しがあって詩天へやってきた。武徳としては傭兵として便利な存在ではあるが、感じの彼らがどういう存在なのかをまったく知らない。
これからハンターを重用しようというのならば、彼らの事や西方の事をもっと知っておくべきだ。
「ここは、詩天とハンターで宴を開くべきだな。酒があれば何とかなるだろう」
「水野殿、それは良い案かも知れぬ。だが、ここで宴を開くには少々寂しくならぬか?」
武将が不安そうな顔を浮かべる。
墨子城は最前線である事から食事は干し飯、酒もどぶろくのような『にごり酒』が少しあるだけだ。詩天はかつて酒の産地としても知られ、銘酒『詩天盛』は東方各地へ送られていた。しかし、歪虚の襲撃や千石原の乱で蔵本は大打撃。現在は詩天盛も作られておらず、にごり酒がメインとなっている。
――それでも、武徳はまったく気にしていない。
「心配するな。ハンターの連中もこの国の事を知りたいのだろう。酒の肴に困りはせん」
リプレイ本文
「今日はよくぞ参った。楽しんでいくが良い」
杯を掲げて宴の開催を宣言する水野 武徳(kz0196)。
その宣言を受けて武将達が杯を口にし始めるのだが……。
「なるほど……これが精一杯の『もてなし』なのですね」
黒耀 (ka5677)は眼前に置かれたお膳に視線を落とした。
そこには干飯とにごり酒が注がれた杯のみ。少々寂しい食卓となっている。
「黒耀 さん。今の詩天を鑑みれば致し方ありません」
悠里(ka6368)は武徳をフォローする。
墨子城は敵にもっとも近い最前線である。州都『若峰』が復興中の真っ直中である事を考えても、豪勢な食事を用意するのは困難だったのだろう。
「すまんのう」
「大丈夫。ボク達のお土産もあるから宴はこれからもっと盛り上がるよ」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は持参した西方の土産を並べ始める。
「こっちがシードル『エルフハイム』とハーブティー『リスペルン』。エルフの友人からもらったんだ」
次々と並べられるボトルに、周囲の武将も集まってくる。
「詩天には入ってきた事がねぇもんばかりだ」
「知らなければ飲んでみるといい。これも西方の酒だ」
鞍馬 真(ka5819)は、アルトの用意したボトルに集まる武将達へ持参したワインとシードルを勧めた。
恐る恐る口にする武将達。
「酸っぱいが酒の味がするぞ」
「ちゃんと発酵してるのか。西方の酒は変わっておるのう」
感心頻りの武将達。
明らかにハンター達は武将達の心を掴んだ。
ここでエルバッハ・リオン(ka2434)は、立ち上がる。
「交流会ですか。今後の事を考えると、ハンターの信頼を更に上げておきたいところですね」
リオンの手に握られているのは山菜セットだ。
「辺境部族が集めた季節の野菜を調理致します。この清酒『月見』を楽しみながらお待ち下さい。調理場をお借りしてもよろしいでしょうか」
「良かろう。誰かに案内させるとしよう」
武徳の許可も下りた事で、リオンは軽く会釈する。
山菜であれば詩天にもある。だが、重要なのは辺境部族が採取した山菜であるという事だ。詩天と同じ山菜があれば親近感も沸くだろうし、変わった山菜があれば詩天の民にとって珍しい山菜という事になる。
いずれにしても西方の紹介としては良い選択だ。
「あ、ボクの持ってきた山菜セットもお願いしちゃっていいかな?」
実は、アルトも山菜セットを持参していたのだ。
「はい。承知しました。お任せ下さい」
「お願いするね」
アルトとリオンのやり取りをよそに、武将達はハンター達が持ち込んだボトルを勝手に開け始める始末だ。
リオンの持参した清酒『月見』も注目を集めたが、武将を驚嘆させたのは意外な酒であった。
「これも西方にあるのか!?」
武将達が驚いたのも無理はない。
最近出回りだした『ヨアキム』純米大吟醸。これは同盟のまめしを元に辺境ドワーフが東方の民より得た情報だけで生み出した清酒である。東方の酒所としても知られている詩天に取っては、思わぬライバルの登場だ。
「うん。最近手に入れたので持ってきたんだ。喜んで貰えて何よりだよ」
持参したアルトも狙いが的中した事で大満足だ。
「いやー、こりゃ負けてられねぇ。早く詩天の酒を復活させねぇとな」
武将達は一応に気合いを入れる。
若峰を復興させれば、詩天の酒もいずれ復活する。そうなればヨアキムにも負けない酒が西方にもやってくるかもしれない。
その為にも――詩天を平和にしなければ……。
●
「グラズヘイム王国。西方にそのような大国があるのか」
武徳は、アルトの持参したヒカヤ紅茶とデュニクスワイン「ロッソフラウ」を口にしながらグラズヘイム王国の話に耳を傾けていた。
武将達のお膳にはリオンが調理場で製作した山菜汁と黒耀 がじゃがいもを薄く切って油で揚げた『ぽてち』なる食品なども並べられていた。今まで干飯しかなかった食卓に、一気に彩りが添えられる。
「ハンターのおかげという奴じゃな。感謝しよう」
武徳は、ハンターに礼を述べた。
武将達は詩天で良く食される出汁ではあるが異国の山菜で感動し、天ぷらとは異なるぽてちの存在に衝撃を受けていた。
「わしから一つ聞いておきたい。ハンターとはなんじゃ?」
武徳はハンター達へ率直な疑問をぶつけた。
最近になって詩天へやってきたハンターという存在。有能かつ強力な力を持って歪虚を排除する。反面、詩天の民からすればその強力な力は脅威とも受け取れる面もある。
「その点について、まずは私から説明致します」
西方で仕立てた新しいスーツに身を包んだ門垣 源一郎(ka6320)。
リアルブルー出身ではあるが、東方から西方でハンターとして登録した経緯を持っている。
「彼らの多くは根無し草です。特にリアルブルー出身者は、多くが自ら望んで根無し草になったのではありません」
「待て。なんだ、その『りあるぶるー』というのは? 新しい国が出てきたな」
「国ではありません。今我らがいる世界はクリムゾンウェストと呼ばれる世界です。リアルブルーはこのクリムゾンウェストと異なる世界になります」
「何だと? 異なる世界じゃと?
うーむ……見る限り、嘘を申しているようには見えんな」
源一郎と同じくリアルブルー出身の鞍馬や悠里。
彼らも武徳に向かって大きく頷いている。
「ハンターの目的は多種多用。言うなれば、ハンター個々に目的が異なります。
安住の地を、仕えるべき国を、信頼する仲間を求める者いれば、財産、地位、名声、あるいは闘争そのものを求める者がございます。
閣下がお望みであれば、忠義に篤い武人と同様に動くでしょう」
「なるほど。ハンターの中には報酬以外の物を求める者もいる。仮にこの三条家に忠を尽くすハンターが現れれば……」
「忠に篤い武人、否それ以上の働きを見せるでしょう」
源一郎の口から期待通りの回答が出て、武徳は満足げに笑みを浮かべる。
そこへリオンがハンターについて補足する。
「ハンターは、ハンターズソサエティという国に属さない中立の組織に属しています。といっても、ハンターはソサエティから命令を受けることはなく、あくまでも公開されている依頼を選んで活動しています」
「ほう」
「ですから、報酬が良い依頼が出されたとしてもハンター自身が依頼の内容に納得しなければ、その依頼を引き付ける事は無いと思います」
「それは、『幕府が詩天討伐の依頼を出したとしても、ハンター全員が従う事は無い』……そう申しているのだな?」
リオンの言葉の意味を察した武徳は、敢えてその真意を問い返した。
真意を言葉にさせる事で、揺るがない答えとする。
そんな武徳の狙いに対して、リオンはきっぱりと断言する。
「その通りです。詩天に心寄せるものがあれば、幕府の依頼に応じるハンターは減る事でしょう」
「そうか」
「次は私が。水野様及びその配下の方々とは三度目となりましょうか」
東方生まれの鬼の符術師、黒耀 が深々と頭を下げる。
角が欠けている為か、外見から見ても鬼特有の威圧感は感じられない。
「西方は……歪虚に対して団結致しますが、他の事については一枚岩ではありません。そうですね、四~五勢力が様々な想いで動いております。それにどう付き合うかはハンター個々人の判断によりますでしょうか」
黒耀 自身は比較的東方寄りの依頼を選ぶ事が多いようだ。
生まれ故郷の依頼であるというのも理由の一つだが、他にも大きな理由はある。
「ボクからもいいかな?」
僅かな沈黙を縫って、今度はアルトが元気よく声を上げる。
アルトはハンターである前に傭兵であり、守る為に敵を殺す事を選んだ一族であるという前置きをした上で話し出した。
「誰か……権力者にではなく、一般人。彼らの為に戦える人かな。
例えば、詩天と中央が諍いを起こしたとするでしょ。ハンターなら、詩天でも中央でもなく、そこに住む人が一番幸せになれるような選択肢を探すはずだよ」
アルトは、ハンターであるならば権力者よりも民を案じると答えた。
だが、この答えに対して武徳は一変する。
先程まで満足げな笑顔だったのだが、今はやや影が見え隠れしている。
「現実はそう甘くはない」
「そう理想だよ。
でも、少なくともボクはそうしたいかな。その為に強くなったしね」
率直に答えるアルト。
それでも武徳の顔色は晴れない。
「ハンターという自由な身故、なのかもしれぬな」
そう呟いた武徳は杯に注がれたロッソフラウを一気に飲み干した。
●
発端は悠里が武徳へ投げかけた質問であった。
「宴の席で恐縮なのですが、一つお伺いしてもよろしいでしょうか」
悠里は、先日駒種城奪還時に目撃したある事実を話し始める。
それは多数の骸骨武者が持っていた戦指物である。多くの戦指物に『三つ扇』の家紋が描かれていた。
「ボクは気になっていました。何故、三つ扇ばかりなのか。
さらに敵は伊佐群城で様子を窺ってます。三条家、あるいは水野様を敵が知っていたからではないか……ボクはそう考えています」
悠里の質問は、周囲の武将達を大きく騒がせた。
先程まで酒宴で楽しんでいたのだが、ここに来て焦りの色が見え始める。
そこへ武徳が口を開く。
「静まれ」
「水野殿、しかし……」
「良い。今日でハンターの事が少し分かった。知る権利はあろう。三つ扇の話をする前に、先の戦いの話をせねばならん」
「先の戦いとは、千石原の乱と呼ばれるものでしょうか」
源一郎の問いに、武徳は大きく頷く。
「そうじゃ。お主も東方にいたならば知っておろう?」
「はい。八代目詩天の三条氏時が死去した後、九代目詩天を巡って三条家は三条秋寿と三条真美に別れて大きな戦がありました。千石原を舞台にした戦の結果、三条真美が九代目詩天となり、三条秋寿は切腹した。そう聞いております」
源一郎は、千石原の乱について知る限りの情報を話した。
武徳が幕府を強く警戒する理由も、このお家騒動が原因だと考えれば筋が通る。
幕府がその気になればお家騒動を理由に三条家取り潰しに動く恐れがあるからだ。
「先代詩天は……それは良きお人であった。
民や家臣を常に案じる心優しき御方。周囲の意見に耳を傾け、前線で敵と戦う我らを心配されておった。
その先代が亡くなった後、九代目詩天についてわしらは話し合った。
多くの者は先代に仕えていた甥の秋寿殿を推挙した。実の子ではなかったが、先代同様に人格者で符術の腕も確か。申し分ないと誰もが思っておった。
しかし、そこへ天ノ都の陰陽寮から先代のご子息である真美様がお戻りになれられたのだ」
「真美様って、今の詩天でしたね? 何故お戻りになられたのが問題のような言い方なのでしょうか」
話に耳を傾けていたリオン。
武徳は、リオンの言葉を受けて説明を始める。
「わしらは迷ったのだ。
詩天の掟には『三条家は代々親から子へ継承されるのが原則である。しかし、三条家内で符術に優れる者が居れば、この限りではない』と。
つまり、本来であれば真美様が詩天を継承するべきだが、三条家で符術が優れている者――秋寿殿にも継承する権利があると見なされたのじゃ」
そこの掟こそ、千石原の乱の切っ掛けである。
不幸な事に真美が幼かった事に加え、秋寿は先代詩天の傍らで良く仕えていた。それを見ていた多くの者が秋寿を次の詩天にすべしと考えたのだ。
「秋寿殿も好人物じゃったが、上に立つ者としての器が無かった。民を案じ過ぎる上、周りから持ち上げられて反論できんかった」
「水野様、三つ扇の件は?」
悠里は敢えて質問の件へ引き戻した。
そこへ黒耀 へ直球の質問を付け加える。
「私は歪虚王が滅んだ地において、次の敵はなんぞや、という単純な疑問を理由に詩天で依頼を受けております。
私の勘が正しければ、三つ扇の家紋が次の敵へと繋がる鍵では無いかと見ておりますが……」
「その三つ扇は、三条家の家臣であった本田喜兵衛のものだ。常に先陣を切って突撃する様は猪武者。死者を率いる武将として恐れられとった。もうくたばったがな」
「くたばった?」
「わしが殺した。わしは千石原の乱で秋寿側として戦っておったが、土壇場で真美様の方へ付いたのじゃ。それを知らぬ喜兵衛に味方のフリして近づき、騙して罠にかけてやった。早々に奴が退場してくれたおかげで、その後の戦はかなり楽になったわ」
本田喜兵衛。
ハンター達は初めて聞く名であるが、三条家に仕えていた者ならばこの場にいる武将達は知っている。後で聞いた話だが、歪虚の大群相手に僅かな手勢で突撃して見事敵将を討ち取る猛将のようだ。特に金砕棒を好んで使っていたらしい。
「本田の兵が蘇っているなら、奴も蘇っているじゃろうな。
わしが罠を張っている可能性を考えてこの城を攻めなかったのであろうが、あの猪武者も死んで成長したようじゃな。まあ、その我慢の限界も間もなくじゃろう」
「水野殿。既に敵も分かっているのであれば、次なる作戦を立てているのだろう。是非、私達に教えていただけないだろうか。事前に知っていれば役に立てるかもしれない」
先程まで武将達に西方の横笛を演奏していた鞍馬。
敵の情報を知った上で、敢えて準備を進めているであろう作戦について切り出した。
これも今回の宴でハンターが信用されたからであろう。
「よかろう」
武徳はハンター達の前に地図を広げた。
そこに描かれているのは墨子城の絵図面である。
「敵が本田なら、間違いなく数で力押ししてくるはずじゃ。正面でぶつかればわしらに勝ち目はない。そこでこの城に出城を築いておる」
「出城……そこで敵を抑えるつもりか」
鞍馬はリアルブルーで聞いたある戦を思い出していた。
圧倒的不利である戦において出城から弓や鉄砲を用いて敵の侵攻を食い止めたという『大阪冬の陣』を。
「左様。この出城から敵の侵攻を弓と鉄砲で抑える」
「ですが、それだけでは敵を倒せません。もう一手必要となる……そうではありませんか?」
黒耀 は武徳の考えが少し分かってきた。
圧倒的な戦力差をひっくり返すには、敵の中心を少数精鋭で叩くほかない。この場合における中心は、指揮官である本田喜兵衛以外にない。
問題は如何にして討つかだが、そこについては悠里が絵図面から気付いた事がある。
「敵がまっすぐ侵攻すれば、出城で足止めを受けます。その隙に西の馬出門から迂回して敵の本隊を突くのではありませんか? 麓は真中湿原で馬は使えませんが、北回りで山伝いを走れば難しくありません。一気に馬で駆け抜けて本田喜兵衛を討つ。おそらくこの役目を担うのは……」
悠里の言葉に、武徳は大きく頷いた。
「そうじゃ。ここをお主らハンターに任せる」
杯を掲げて宴の開催を宣言する水野 武徳(kz0196)。
その宣言を受けて武将達が杯を口にし始めるのだが……。
「なるほど……これが精一杯の『もてなし』なのですね」
黒耀 (ka5677)は眼前に置かれたお膳に視線を落とした。
そこには干飯とにごり酒が注がれた杯のみ。少々寂しい食卓となっている。
「黒耀 さん。今の詩天を鑑みれば致し方ありません」
悠里(ka6368)は武徳をフォローする。
墨子城は敵にもっとも近い最前線である。州都『若峰』が復興中の真っ直中である事を考えても、豪勢な食事を用意するのは困難だったのだろう。
「すまんのう」
「大丈夫。ボク達のお土産もあるから宴はこれからもっと盛り上がるよ」
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は持参した西方の土産を並べ始める。
「こっちがシードル『エルフハイム』とハーブティー『リスペルン』。エルフの友人からもらったんだ」
次々と並べられるボトルに、周囲の武将も集まってくる。
「詩天には入ってきた事がねぇもんばかりだ」
「知らなければ飲んでみるといい。これも西方の酒だ」
鞍馬 真(ka5819)は、アルトの用意したボトルに集まる武将達へ持参したワインとシードルを勧めた。
恐る恐る口にする武将達。
「酸っぱいが酒の味がするぞ」
「ちゃんと発酵してるのか。西方の酒は変わっておるのう」
感心頻りの武将達。
明らかにハンター達は武将達の心を掴んだ。
ここでエルバッハ・リオン(ka2434)は、立ち上がる。
「交流会ですか。今後の事を考えると、ハンターの信頼を更に上げておきたいところですね」
リオンの手に握られているのは山菜セットだ。
「辺境部族が集めた季節の野菜を調理致します。この清酒『月見』を楽しみながらお待ち下さい。調理場をお借りしてもよろしいでしょうか」
「良かろう。誰かに案内させるとしよう」
武徳の許可も下りた事で、リオンは軽く会釈する。
山菜であれば詩天にもある。だが、重要なのは辺境部族が採取した山菜であるという事だ。詩天と同じ山菜があれば親近感も沸くだろうし、変わった山菜があれば詩天の民にとって珍しい山菜という事になる。
いずれにしても西方の紹介としては良い選択だ。
「あ、ボクの持ってきた山菜セットもお願いしちゃっていいかな?」
実は、アルトも山菜セットを持参していたのだ。
「はい。承知しました。お任せ下さい」
「お願いするね」
アルトとリオンのやり取りをよそに、武将達はハンター達が持ち込んだボトルを勝手に開け始める始末だ。
リオンの持参した清酒『月見』も注目を集めたが、武将を驚嘆させたのは意外な酒であった。
「これも西方にあるのか!?」
武将達が驚いたのも無理はない。
最近出回りだした『ヨアキム』純米大吟醸。これは同盟のまめしを元に辺境ドワーフが東方の民より得た情報だけで生み出した清酒である。東方の酒所としても知られている詩天に取っては、思わぬライバルの登場だ。
「うん。最近手に入れたので持ってきたんだ。喜んで貰えて何よりだよ」
持参したアルトも狙いが的中した事で大満足だ。
「いやー、こりゃ負けてられねぇ。早く詩天の酒を復活させねぇとな」
武将達は一応に気合いを入れる。
若峰を復興させれば、詩天の酒もいずれ復活する。そうなればヨアキムにも負けない酒が西方にもやってくるかもしれない。
その為にも――詩天を平和にしなければ……。
●
「グラズヘイム王国。西方にそのような大国があるのか」
武徳は、アルトの持参したヒカヤ紅茶とデュニクスワイン「ロッソフラウ」を口にしながらグラズヘイム王国の話に耳を傾けていた。
武将達のお膳にはリオンが調理場で製作した山菜汁と黒耀 がじゃがいもを薄く切って油で揚げた『ぽてち』なる食品なども並べられていた。今まで干飯しかなかった食卓に、一気に彩りが添えられる。
「ハンターのおかげという奴じゃな。感謝しよう」
武徳は、ハンターに礼を述べた。
武将達は詩天で良く食される出汁ではあるが異国の山菜で感動し、天ぷらとは異なるぽてちの存在に衝撃を受けていた。
「わしから一つ聞いておきたい。ハンターとはなんじゃ?」
武徳はハンター達へ率直な疑問をぶつけた。
最近になって詩天へやってきたハンターという存在。有能かつ強力な力を持って歪虚を排除する。反面、詩天の民からすればその強力な力は脅威とも受け取れる面もある。
「その点について、まずは私から説明致します」
西方で仕立てた新しいスーツに身を包んだ門垣 源一郎(ka6320)。
リアルブルー出身ではあるが、東方から西方でハンターとして登録した経緯を持っている。
「彼らの多くは根無し草です。特にリアルブルー出身者は、多くが自ら望んで根無し草になったのではありません」
「待て。なんだ、その『りあるぶるー』というのは? 新しい国が出てきたな」
「国ではありません。今我らがいる世界はクリムゾンウェストと呼ばれる世界です。リアルブルーはこのクリムゾンウェストと異なる世界になります」
「何だと? 異なる世界じゃと?
うーむ……見る限り、嘘を申しているようには見えんな」
源一郎と同じくリアルブルー出身の鞍馬や悠里。
彼らも武徳に向かって大きく頷いている。
「ハンターの目的は多種多用。言うなれば、ハンター個々に目的が異なります。
安住の地を、仕えるべき国を、信頼する仲間を求める者いれば、財産、地位、名声、あるいは闘争そのものを求める者がございます。
閣下がお望みであれば、忠義に篤い武人と同様に動くでしょう」
「なるほど。ハンターの中には報酬以外の物を求める者もいる。仮にこの三条家に忠を尽くすハンターが現れれば……」
「忠に篤い武人、否それ以上の働きを見せるでしょう」
源一郎の口から期待通りの回答が出て、武徳は満足げに笑みを浮かべる。
そこへリオンがハンターについて補足する。
「ハンターは、ハンターズソサエティという国に属さない中立の組織に属しています。といっても、ハンターはソサエティから命令を受けることはなく、あくまでも公開されている依頼を選んで活動しています」
「ほう」
「ですから、報酬が良い依頼が出されたとしてもハンター自身が依頼の内容に納得しなければ、その依頼を引き付ける事は無いと思います」
「それは、『幕府が詩天討伐の依頼を出したとしても、ハンター全員が従う事は無い』……そう申しているのだな?」
リオンの言葉の意味を察した武徳は、敢えてその真意を問い返した。
真意を言葉にさせる事で、揺るがない答えとする。
そんな武徳の狙いに対して、リオンはきっぱりと断言する。
「その通りです。詩天に心寄せるものがあれば、幕府の依頼に応じるハンターは減る事でしょう」
「そうか」
「次は私が。水野様及びその配下の方々とは三度目となりましょうか」
東方生まれの鬼の符術師、黒耀 が深々と頭を下げる。
角が欠けている為か、外見から見ても鬼特有の威圧感は感じられない。
「西方は……歪虚に対して団結致しますが、他の事については一枚岩ではありません。そうですね、四~五勢力が様々な想いで動いております。それにどう付き合うかはハンター個々人の判断によりますでしょうか」
黒耀 自身は比較的東方寄りの依頼を選ぶ事が多いようだ。
生まれ故郷の依頼であるというのも理由の一つだが、他にも大きな理由はある。
「ボクからもいいかな?」
僅かな沈黙を縫って、今度はアルトが元気よく声を上げる。
アルトはハンターである前に傭兵であり、守る為に敵を殺す事を選んだ一族であるという前置きをした上で話し出した。
「誰か……権力者にではなく、一般人。彼らの為に戦える人かな。
例えば、詩天と中央が諍いを起こしたとするでしょ。ハンターなら、詩天でも中央でもなく、そこに住む人が一番幸せになれるような選択肢を探すはずだよ」
アルトは、ハンターであるならば権力者よりも民を案じると答えた。
だが、この答えに対して武徳は一変する。
先程まで満足げな笑顔だったのだが、今はやや影が見え隠れしている。
「現実はそう甘くはない」
「そう理想だよ。
でも、少なくともボクはそうしたいかな。その為に強くなったしね」
率直に答えるアルト。
それでも武徳の顔色は晴れない。
「ハンターという自由な身故、なのかもしれぬな」
そう呟いた武徳は杯に注がれたロッソフラウを一気に飲み干した。
●
発端は悠里が武徳へ投げかけた質問であった。
「宴の席で恐縮なのですが、一つお伺いしてもよろしいでしょうか」
悠里は、先日駒種城奪還時に目撃したある事実を話し始める。
それは多数の骸骨武者が持っていた戦指物である。多くの戦指物に『三つ扇』の家紋が描かれていた。
「ボクは気になっていました。何故、三つ扇ばかりなのか。
さらに敵は伊佐群城で様子を窺ってます。三条家、あるいは水野様を敵が知っていたからではないか……ボクはそう考えています」
悠里の質問は、周囲の武将達を大きく騒がせた。
先程まで酒宴で楽しんでいたのだが、ここに来て焦りの色が見え始める。
そこへ武徳が口を開く。
「静まれ」
「水野殿、しかし……」
「良い。今日でハンターの事が少し分かった。知る権利はあろう。三つ扇の話をする前に、先の戦いの話をせねばならん」
「先の戦いとは、千石原の乱と呼ばれるものでしょうか」
源一郎の問いに、武徳は大きく頷く。
「そうじゃ。お主も東方にいたならば知っておろう?」
「はい。八代目詩天の三条氏時が死去した後、九代目詩天を巡って三条家は三条秋寿と三条真美に別れて大きな戦がありました。千石原を舞台にした戦の結果、三条真美が九代目詩天となり、三条秋寿は切腹した。そう聞いております」
源一郎は、千石原の乱について知る限りの情報を話した。
武徳が幕府を強く警戒する理由も、このお家騒動が原因だと考えれば筋が通る。
幕府がその気になればお家騒動を理由に三条家取り潰しに動く恐れがあるからだ。
「先代詩天は……それは良きお人であった。
民や家臣を常に案じる心優しき御方。周囲の意見に耳を傾け、前線で敵と戦う我らを心配されておった。
その先代が亡くなった後、九代目詩天についてわしらは話し合った。
多くの者は先代に仕えていた甥の秋寿殿を推挙した。実の子ではなかったが、先代同様に人格者で符術の腕も確か。申し分ないと誰もが思っておった。
しかし、そこへ天ノ都の陰陽寮から先代のご子息である真美様がお戻りになれられたのだ」
「真美様って、今の詩天でしたね? 何故お戻りになられたのが問題のような言い方なのでしょうか」
話に耳を傾けていたリオン。
武徳は、リオンの言葉を受けて説明を始める。
「わしらは迷ったのだ。
詩天の掟には『三条家は代々親から子へ継承されるのが原則である。しかし、三条家内で符術に優れる者が居れば、この限りではない』と。
つまり、本来であれば真美様が詩天を継承するべきだが、三条家で符術が優れている者――秋寿殿にも継承する権利があると見なされたのじゃ」
そこの掟こそ、千石原の乱の切っ掛けである。
不幸な事に真美が幼かった事に加え、秋寿は先代詩天の傍らで良く仕えていた。それを見ていた多くの者が秋寿を次の詩天にすべしと考えたのだ。
「秋寿殿も好人物じゃったが、上に立つ者としての器が無かった。民を案じ過ぎる上、周りから持ち上げられて反論できんかった」
「水野様、三つ扇の件は?」
悠里は敢えて質問の件へ引き戻した。
そこへ黒耀 へ直球の質問を付け加える。
「私は歪虚王が滅んだ地において、次の敵はなんぞや、という単純な疑問を理由に詩天で依頼を受けております。
私の勘が正しければ、三つ扇の家紋が次の敵へと繋がる鍵では無いかと見ておりますが……」
「その三つ扇は、三条家の家臣であった本田喜兵衛のものだ。常に先陣を切って突撃する様は猪武者。死者を率いる武将として恐れられとった。もうくたばったがな」
「くたばった?」
「わしが殺した。わしは千石原の乱で秋寿側として戦っておったが、土壇場で真美様の方へ付いたのじゃ。それを知らぬ喜兵衛に味方のフリして近づき、騙して罠にかけてやった。早々に奴が退場してくれたおかげで、その後の戦はかなり楽になったわ」
本田喜兵衛。
ハンター達は初めて聞く名であるが、三条家に仕えていた者ならばこの場にいる武将達は知っている。後で聞いた話だが、歪虚の大群相手に僅かな手勢で突撃して見事敵将を討ち取る猛将のようだ。特に金砕棒を好んで使っていたらしい。
「本田の兵が蘇っているなら、奴も蘇っているじゃろうな。
わしが罠を張っている可能性を考えてこの城を攻めなかったのであろうが、あの猪武者も死んで成長したようじゃな。まあ、その我慢の限界も間もなくじゃろう」
「水野殿。既に敵も分かっているのであれば、次なる作戦を立てているのだろう。是非、私達に教えていただけないだろうか。事前に知っていれば役に立てるかもしれない」
先程まで武将達に西方の横笛を演奏していた鞍馬。
敵の情報を知った上で、敢えて準備を進めているであろう作戦について切り出した。
これも今回の宴でハンターが信用されたからであろう。
「よかろう」
武徳はハンター達の前に地図を広げた。
そこに描かれているのは墨子城の絵図面である。
「敵が本田なら、間違いなく数で力押ししてくるはずじゃ。正面でぶつかればわしらに勝ち目はない。そこでこの城に出城を築いておる」
「出城……そこで敵を抑えるつもりか」
鞍馬はリアルブルーで聞いたある戦を思い出していた。
圧倒的不利である戦において出城から弓や鉄砲を用いて敵の侵攻を食い止めたという『大阪冬の陣』を。
「左様。この出城から敵の侵攻を弓と鉄砲で抑える」
「ですが、それだけでは敵を倒せません。もう一手必要となる……そうではありませんか?」
黒耀 は武徳の考えが少し分かってきた。
圧倒的な戦力差をひっくり返すには、敵の中心を少数精鋭で叩くほかない。この場合における中心は、指揮官である本田喜兵衛以外にない。
問題は如何にして討つかだが、そこについては悠里が絵図面から気付いた事がある。
「敵がまっすぐ侵攻すれば、出城で足止めを受けます。その隙に西の馬出門から迂回して敵の本隊を突くのではありませんか? 麓は真中湿原で馬は使えませんが、北回りで山伝いを走れば難しくありません。一気に馬で駆け抜けて本田喜兵衛を討つ。おそらくこの役目を担うのは……」
悠里の言葉に、武徳は大きく頷いた。
「そうじゃ。ここをお主らハンターに任せる」
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/07/14 12:14:31 |
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無礼講の宴也 悠里(ka6368) 人間(リアルブルー)|15才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/07/14 13:42:50 |