ゲスト
(ka0000)
【選挙】black advance
マスター:墨上古流人

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/09/12 19:00
- 完成日
- 2014/09/20 04:31
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「うちのトップは一体何考えてんだ?」
「僕?」
「ちげーよ、もっと上だ上。芋皇帝の事だ」
「リベルト……幾ら選挙中はどんなに悪く言っても、とはいえ、軽率なのはどうかと思うよ?」
「国のトップの事ちゃんづけで呼んでるお前もどっこいだろうが」
リベルト、と呼ばれた椅子に座っている長身の男が、
新聞を放り投げてから不機嫌そうに机に脚をどかっと乗せる。
その対面の机で、くせっ毛の幸薄そうな少年のような青年が微笑み交じりで溜息をつく。
ここは帝国第九師団フリデンルーエンの執務室。
副師団長リベルトと、師団長のユウ。2人しかいない広い部屋では、しばらく一つの話題で持ちきりだった。
「どうすんだよ、もし万が一挿げ替えるなんてことになったら。まーためんどくせぇことになるかもしんねーぞ」
「リベルトは心配性だね」
「お前の下についてるおかげさまでな」
現在帝国では今、第一回皇帝選挙が行われている。
現、いや、元皇帝ヴィルヘルミナ・ウランゲルは現在皇帝を辞任しているという立場だ。
というのも、帝国は先の大規模な対歪虚作戦において、
軍事力の派遣等国を挙げての大きな対策を講じず『ハンター達の意志を尊重する』という酷く消極的なスタンスを貫いていたことによる、
批判を受けてのアクションであった。
もちろん、協力を主張する師団については「行きたければ行けば?」と止めたりはしておらず、
実際第九師団については救援部隊と言う事で、
物資と幾らかの人手で応援を行った。
そして、かの皇帝は申し訳ない、私の決断力が~とか、不甲斐無いばかりに~とか、
そんな肩を落として髪の中に顔を隠す柄ではない。
むしろ今回の彼女のスタンスとしては「それなら自分達で本当に皇帝に相応しいのは誰か選んでみるといい」
という、挑戦的且つ挑発的な姿勢で臨んでいるようだ。
「だーからわかんねー。なんでわざわざそんなことすっかね」
「騎士議会でも、何だかしれっとしてたよ」
「公務止まって俺らで尻拭いとかねーだろうな?」
「ぁ、そこは大丈夫。辞任とはいえ、選挙中も皇帝の座を退いてる訳じゃないから公務は通常通りだってさ」
彼女は選挙の結果、国民の意思を受けて退く意思があると言う事を表明したに過ぎない。
「全部自分でやるから迷惑かけない、ってのも気に喰わねぇなぁ」
「なーに? リベルトったらそういう心配のしかたするんだ?」
「どっかの誰かさんもそうだろうよ。そういう問題じゃねーんだよ」
どこか不機嫌そうにして、窓際まで大股で歩き煙草に火をつけるリベルト。
口から沢山の煙が、彼の顔を隠すようにぶわっと吐き出てきた。
「リベルトは立候補する?」
「しねーよ」
「じゃあお仕事だよ」
ぱさ、と手元にあった紙を両手で手に取り、目に入ってくる通達を噛み砕き、口で紡ぐユウ。
「今回の選挙で、もちろんよりこの国を良くしていくためにーなんて、綺麗事並べる人達が増えてくるワケだけどさ、
その中には、これを機にって感じで一部過激な人達もやっぱり出てくるんだ」
「旧体制派か? もしくは王国回帰派か」
「それだけじゃないけど、僕としては旧体制とか王国回帰とか、そうでなくても現政権に対して不満を持ってた反政府派とか、せっかくの選挙だしそういう言論の自由はこういう時こそ自由であるべきだと思ってるんだ」
現政権は歪虚による東方壊滅、その後から始まった辺境への侵攻等目の当たりにしているにも関わらず、
第三代皇帝の治める帝国の動きの鈍さを憂いて、
先代皇帝(現もとい元皇帝の父)による短期間の帝位簒奪という革命よって築かれてきたものである。
旧体制派とは、帝国のそんな革命が起きる前に帝国を統治していた元皇族や貴族、元騎士達による時代を取り戻そうとする派閥の事である。
そして王国回帰派であるが、帝国は元々、王国で武勲をあげて褒賞としてもらった北方の領土が独立して出来たという経緯があり、
エクラ教の教えの下王国に従うべきだと考える者達の事である。
「まぁ……そうだな。言えるうちに言いたいこといっとかねーと『いい国作ろう』が『いい国繕う』になっちまうからな」
「そうだね。食堂でもちゃんと食べたいものを注文しないと、食べたいものは出てこないしね」
その例えはどうなんだ……? と、吸い殻を自分の机の缶に放り込んでユウの前に立つリベルト。
「んで、俺らはそういうあぶねーことしてないかを見て、あくまで『公正な選挙運動』がされるようにすりゃいいんだな」
「そうだね、リベルトがどう思っていようがそれは君の意見を尊重するけど、仕事においてはどこかに肩入れするとかないようにね」
「了解だ。となると、師団メンバーあんまり駆り出すのもちょっと違うか……?」
「うーん、師団の目的としてはホワイトに近いグレーなのかもね? でも、怪我人出ちゃったら僕らがどうこうしなきゃだから、警備じゃなくて予防ですとか屁理屈こねればいいんじゃないかな。実際、怪我人は増やしたくないしね」
「わかった。じゃあ師団メンバーは怪我人が出た場合に動いてもらうようにしよう。警備については俺がAPVからハンター連れていくわ」
申請はやっとくね、とユウが書類を用意して、リベルトは外出の用意をしだす。
「ところで……この選挙、お前はどう思っているんだ? ユウ」
「ふふ……リベルト、教えてあげるようか」
逆光に遮られるユウの顔は、きっと微笑んでいたに違いない。
「コミュニケーションにおいて、スポーツと年収と政治の話は避けた方がいいんだよ」
「お前にコミュニケーションとは何たるかを説かれたかねーやい」
ぷい、と踵を返して部屋を出ていくリベルト。
光で作られた影の中に隠れる小さな顔は、最後まで読み取る事は出来なかった。
「僕?」
「ちげーよ、もっと上だ上。芋皇帝の事だ」
「リベルト……幾ら選挙中はどんなに悪く言っても、とはいえ、軽率なのはどうかと思うよ?」
「国のトップの事ちゃんづけで呼んでるお前もどっこいだろうが」
リベルト、と呼ばれた椅子に座っている長身の男が、
新聞を放り投げてから不機嫌そうに机に脚をどかっと乗せる。
その対面の机で、くせっ毛の幸薄そうな少年のような青年が微笑み交じりで溜息をつく。
ここは帝国第九師団フリデンルーエンの執務室。
副師団長リベルトと、師団長のユウ。2人しかいない広い部屋では、しばらく一つの話題で持ちきりだった。
「どうすんだよ、もし万が一挿げ替えるなんてことになったら。まーためんどくせぇことになるかもしんねーぞ」
「リベルトは心配性だね」
「お前の下についてるおかげさまでな」
現在帝国では今、第一回皇帝選挙が行われている。
現、いや、元皇帝ヴィルヘルミナ・ウランゲルは現在皇帝を辞任しているという立場だ。
というのも、帝国は先の大規模な対歪虚作戦において、
軍事力の派遣等国を挙げての大きな対策を講じず『ハンター達の意志を尊重する』という酷く消極的なスタンスを貫いていたことによる、
批判を受けてのアクションであった。
もちろん、協力を主張する師団については「行きたければ行けば?」と止めたりはしておらず、
実際第九師団については救援部隊と言う事で、
物資と幾らかの人手で応援を行った。
そして、かの皇帝は申し訳ない、私の決断力が~とか、不甲斐無いばかりに~とか、
そんな肩を落として髪の中に顔を隠す柄ではない。
むしろ今回の彼女のスタンスとしては「それなら自分達で本当に皇帝に相応しいのは誰か選んでみるといい」
という、挑戦的且つ挑発的な姿勢で臨んでいるようだ。
「だーからわかんねー。なんでわざわざそんなことすっかね」
「騎士議会でも、何だかしれっとしてたよ」
「公務止まって俺らで尻拭いとかねーだろうな?」
「ぁ、そこは大丈夫。辞任とはいえ、選挙中も皇帝の座を退いてる訳じゃないから公務は通常通りだってさ」
彼女は選挙の結果、国民の意思を受けて退く意思があると言う事を表明したに過ぎない。
「全部自分でやるから迷惑かけない、ってのも気に喰わねぇなぁ」
「なーに? リベルトったらそういう心配のしかたするんだ?」
「どっかの誰かさんもそうだろうよ。そういう問題じゃねーんだよ」
どこか不機嫌そうにして、窓際まで大股で歩き煙草に火をつけるリベルト。
口から沢山の煙が、彼の顔を隠すようにぶわっと吐き出てきた。
「リベルトは立候補する?」
「しねーよ」
「じゃあお仕事だよ」
ぱさ、と手元にあった紙を両手で手に取り、目に入ってくる通達を噛み砕き、口で紡ぐユウ。
「今回の選挙で、もちろんよりこの国を良くしていくためにーなんて、綺麗事並べる人達が増えてくるワケだけどさ、
その中には、これを機にって感じで一部過激な人達もやっぱり出てくるんだ」
「旧体制派か? もしくは王国回帰派か」
「それだけじゃないけど、僕としては旧体制とか王国回帰とか、そうでなくても現政権に対して不満を持ってた反政府派とか、せっかくの選挙だしそういう言論の自由はこういう時こそ自由であるべきだと思ってるんだ」
現政権は歪虚による東方壊滅、その後から始まった辺境への侵攻等目の当たりにしているにも関わらず、
第三代皇帝の治める帝国の動きの鈍さを憂いて、
先代皇帝(現もとい元皇帝の父)による短期間の帝位簒奪という革命よって築かれてきたものである。
旧体制派とは、帝国のそんな革命が起きる前に帝国を統治していた元皇族や貴族、元騎士達による時代を取り戻そうとする派閥の事である。
そして王国回帰派であるが、帝国は元々、王国で武勲をあげて褒賞としてもらった北方の領土が独立して出来たという経緯があり、
エクラ教の教えの下王国に従うべきだと考える者達の事である。
「まぁ……そうだな。言えるうちに言いたいこといっとかねーと『いい国作ろう』が『いい国繕う』になっちまうからな」
「そうだね。食堂でもちゃんと食べたいものを注文しないと、食べたいものは出てこないしね」
その例えはどうなんだ……? と、吸い殻を自分の机の缶に放り込んでユウの前に立つリベルト。
「んで、俺らはそういうあぶねーことしてないかを見て、あくまで『公正な選挙運動』がされるようにすりゃいいんだな」
「そうだね、リベルトがどう思っていようがそれは君の意見を尊重するけど、仕事においてはどこかに肩入れするとかないようにね」
「了解だ。となると、師団メンバーあんまり駆り出すのもちょっと違うか……?」
「うーん、師団の目的としてはホワイトに近いグレーなのかもね? でも、怪我人出ちゃったら僕らがどうこうしなきゃだから、警備じゃなくて予防ですとか屁理屈こねればいいんじゃないかな。実際、怪我人は増やしたくないしね」
「わかった。じゃあ師団メンバーは怪我人が出た場合に動いてもらうようにしよう。警備については俺がAPVからハンター連れていくわ」
申請はやっとくね、とユウが書類を用意して、リベルトは外出の用意をしだす。
「ところで……この選挙、お前はどう思っているんだ? ユウ」
「ふふ……リベルト、教えてあげるようか」
逆光に遮られるユウの顔は、きっと微笑んでいたに違いない。
「コミュニケーションにおいて、スポーツと年収と政治の話は避けた方がいいんだよ」
「お前にコミュニケーションとは何たるかを説かれたかねーやい」
ぷい、と踵を返して部屋を出ていくリベルト。
光で作られた影の中に隠れる小さな顔は、最後まで読み取る事は出来なかった。
リプレイ本文
◆
「正直……政治的な話は苦手の部類ですが、警備となれば話は別ですね」
黒スーツを私服と称し、穏やかな口調で話すのは米本 剛(ka0320)
あくまで平和的に解決したいと話す彼に、そう上手くいきゃあいいが……とぼやくのは、第九師団の副師団長、リベルトだ。
「帝国は確かに強いヤツが正義な節がある。でも、強いってのは拳振り回すだけじゃねぇ」
「えぇ、……ですが、好んで暴れたい様な『物好き』は早々居ないと自分は考えますし、もちろんどの派閥に賛同する訳でもありませんし否定もしませんよ」
ただただ『依頼』として警備に全力を以て当たらせて頂きます、との米本の言葉は、師団長のユウがリベルトに伝えた内容と同じ。
それならば任せておいても大丈夫だろう、とリベルトは一定の信頼を置いてみることにした。
米本が付き添っているメイム(ka2290) は、王国回帰派に同行して街を回っていた。
街宣活動経路等を確認して、不穏な動きを見せないか、それと並行して、
改めて意見を整理することで冷静にならないか試みていた。
周辺の住民及び選挙活動中の者には、第九師団の依頼で警備に当たっていると話して治安の維持に努めていく。
「今回はどなたを推して、当選の暁にはどんな帝国にしたいのかな?」
頃合いを見て、メイムがこの団体の傾向を探ってみる質問を投げてみる。
「我々の活動は特に誰推しというものではない。むしろ立候補も可能な今、王国とエクラ教の下で暮らしを展開する方がどれだけ今の国民に対して豊かになるものか、という、王国回帰の思考を普及しているのだよ」
「なるほど……話してくれてありがとう」
押し付けるでもなく、説明も穏やか。このグループは問題を起さなそう、と米本と目を合わせる。
この様子なら大丈夫だろう、とリベルトも次のハンター達の様子を見に行く事にした。
◆
ここは喧噪が油と酒の沁みた板に跳ね返り、一段と賑わいを見せている帝国のとある酒場。
ユージーン・L・ローランド(ka1810) とミグ・ロマイヤー(ka0665) イシャラナ・コルビュジエ(ka1846) の3人は、
役所や出張所については既に人員が足りている。ハンターにはより国民に近い場所での活動を行って欲しい……
とリベルトからの提案で、彼らは人の集まる所を回っていた。
「何の意見も主張もなくて無反応な人よりも、自分の想いを熱く語れる人の方が、活力があっていいわね」
傾けていた樽のカップを置いて、イシャラナが酒場全体を見やる。
酒の肴に政治の話はついついついてきてしまうもの。調子はどうだ? と様子を見に来たリベルトに、ユージーンが答える。
「王国よりも一般市民の政治への関心は高いみたいですね。あるいは、女帝の狙いもその辺りに……っと」
王国ユニオン所属の彼は、王国民として、自らの所属と決して関係のなくはない帝国に対し、大局的な意見を述べる。
「ああ、いけませんね。今の僕はただのハンターです。職務に専念せねば」
苦笑して立ち寄る客の質疑に応答するユージーン。
王国側視点の意見、それはリベルトとしても貴重な意見である。
「陛下も中々言うもんだよ。そこらのぼんくらどもには爪の垢を煎じて飲ませてやりたい物さ」
と、切符のいい台詞を言うのはミグだ。
「あんたも中々言うもんだね。どうだ、今からでも立候補してみるか? 口なら利いてやるぜ」
「……」
「ん? どした」
「な、なんでもないさ。ほれ、次の者話してみい」
ミグは元々ヴィルヘルミナの気風の良さには好感を持っており、そんな皇帝に対抗して出てくる人物にも期待していた。
軍人としても大人としても一回り勤め上げているミグとしては、実は立候補しようかとも思っていたが……
まさか息子たちに泣いて止められていたとは、頭に? を浮かべているリベルトには想像もつかない話であった。
「おう、俺の番だな! いいか、要するに今の帝国をこの芋に例えるとだな……」
今回の警備では、聞きに徹するつもりだ――というのはミグの談。
彼女の周りには、声高々に政治について語っていた者達が輪になって議論を繰り広げていた。
師団の下で活動していると話せば、逆にこれをチャンスと見て話をしに来るものもいれば、
普段の政治に対する鬱憤を爆発させるようにクダをまく者もいる。
そういった人達に対しては、事前に釘を刺すようにユージーンが語りかけた。
「血気に逸る若者もいるかもしれないですが、暴力沙汰は禁止されておりますのでお忘れなく……不安に思う事があれば何でもおっしゃって下さい」
(吐き出し口があるというのは人を落ち着かせる。これなら今日明日暴徒になりそうな奴らも減らせるかもな……)
人と政治の緩衝材の役目を果たそうとしている二人にここは任せて、リベルトとイシャラナは、近くを通る警邏組への合流の為に席を立った。
◆
「ようやく、市警隊の仕事から解放されたと思ってたんだがねぇ」
なんで俺は似たような事をやってんだ? とは、シリル・ラングフォード(ka0672) のため息交じりの言葉だ。
「運命が適性を見出してるんじゃねぇか? やれることからやるのはいいことさ」
神代 廼鴉(ka2504) の慰めに、勘弁してくれ……と馬上からシリルの重たい言葉が降りかかる。
(運命ね……人が多いところなら、とは考えたけど、アテにならないもんだ)
神代も神代なりに、思う所があって人の多い場所に来たようだが、何を探しているかは彼のみぞ知る。
ジャック・J・グリーヴ(ka1305) はどこか気分を良くしながら警備に追従していた。
「よぅ、精が出るな。あんま暴れすぎたりすんなよー」
選挙という堅苦しい感じだけではなく、イベントとして国中一丸となって動いているものに、
あんまり厳しく言うと興が削がれるだろう、という彼なりの考え方だった。
リベルトとイシャラナが合流したところで、シリルの馬に青年が駆け寄ってきた。
「よう兄ちゃん、選挙はどんな感「大変です! あっちの広場で、今にも暴動が起きそうな……! 一触即発で……!」
そこまで聞いてから、5人は急いで広場の方へと走っていった。
離れている仲間達に伝えるべく、急ぎ伝話を取り出す。
(政が動きゃ人も動く、人が動きゃ金も動く。商人としちゃ嬉しい限りだが……こんな事してる場合じゃねぇだろうに)
「……詰まんねぇ世の中だぜ、クソッタレ」
種々の絡みつく思いは、まず一つの悪態へと留めて。
ジャックが険しい顔をして飛び込んだ先では、掴めそうな程に濃密な重い空気が漂っていた。
◆
大勢の群衆の塊を抜けると、大きな噴水広場へとたどり着く。
商店が囲うその広場では、東西に分かれて群衆がやいのやいのと激しい言葉を投げ合っていた。
「騒がしいと思ったら、政権維持派を突き抜けてきたのか」
神代が振り返ると、そこには現政権に関するプラカードや横断幕を掲げた人達、
そして反対側には、旧体制派、王国回帰派を含む反政権派が同じように騒がしくしていた。
『ヴィルヘルミナ様のカリスマなくしてこの国があると思うのか!!』
『あの決断! 行動力! 安穏に生きてきたくせに何を今更掌を返すか!!』
『ヴィルヘルミナ様の蒸かした熱々の芋を投げつけられたいぞー!!』
『黙れ! 裏切りの政権になど育てられた覚えはない!!』
『練魔院による環境汚染! 独裁政権! 帝国は光の元に戻らなければ神の裁きを受けるぞ!』
『ゼナイド様の椅子になりたいぞー!!』
各々が各々の信じる者の為に好きな事を叫び、その熱は周りの空気も相まって我を見失う。
周りがやってるから大丈夫、多くの勘違いが一種の集団催眠を引き起こし、後には引けなくなる。
「さて、どうするか」
「毅然とすればいい。警備がうろたえたら負けだ」
リベルトに馬を預けると、シリルが噴水の傍へと立ち、声を張り上げる。
「こちらは帝国ユニオンAPVだ。帝国軍第九師団より市中警備を任されている!」
がならず、しかし遠くまで届くように、群衆へと声をかけるシリル。
背後に帝国軍、つまり権力という確かな存在を示されれば、幾らかの人は、
特に現政権維持派のものはかなり狼狽えだしたようだ。
だが――
『うるせぇ! ぽっと出のハンターなんかに口挟まれたって怖くねーんだよ!!』
全員に届くわけではない。群衆は、幾つかの見境を無くした野生動物のようにその動きを激化させる。
「口でなく手を出してどうする」
「落ち着けバカ野郎!」
鞘に収めたままのサーベルを横に、何とか押し寄せてくる人波を押さえつけようとするシリル。
ケンカは先に手を出した方が負け。ジャックも守りの構えのままなんとか耐えていた。
「ああいうのも、国を思えばこそなのかね。なぁ、そこのあんた。乱痴気騒ぎに混ざる気が無ぇなら離れといた方がいいぜ?」
神代が盾を取り出し、傍にいた親子に声をかける。
イシャラナもバットを抜き、口角泡を飛ばして前に出ようとする群衆を抑えている。
「ちょっと周りの一般市民もそろそろ限界だな……責任は俺が持つ。こらしめてやりなさい」
「……これが面倒で市警隊抜けたんだがな」
シリルががっ、とサーベルの柄を前の男の腹部に突きつける。
イシャラナも両手に持っていたバットで前にいた青年をいなし、地面に組み伏せた後で近くの一般市民を安全な道へと誘導していった。
イシャラナとすれ違う形で米本とメイム、ユージーンが駆けつける。
「『物好き』はどこにでもいると言う事ですか……残念ですが……!」
「やむ得ないけれど……」
米本が鞘に納めた日本刀で反政府派の前線を抑え、その影に隠れてメイムがきょろきょろと辺りを見回す。
天啓、いや、友人、天川 麗美の祈りがメイムへ閃きを与える。
蠢く人波の中で、リーダー格と思わしき人物に視線が止まる。
「フリ~ズっ!」
ノックバックで前線を弾き、男へと届ける声の道を開く。叫びはブロウビートとなり、リーダー各の男の動きが鈍る。
政権維持派からの投石等から庇うようにして、メイムも人の中へと入り暴徒を嗜めていった。
「しかし……キリがありませんね。一度ピシャっと空気を変えるインパクトでもあれば……」
ユージーンが逃げる市民にプロテクションをかけていく。
そろそろ一般人の避難は完了しそうだったが、頭に血の上った一部の活動家達は、シリルや米本達を挟んで今にも拳を振り下ろそうとしているのである。
「リベルト、手を貸して」
「……あんた今日は面白いもんばっか持ってんな。レジャーなデートならもっといい場所知ってるぜ?」
イシャラナが取り出したのはゴムボート。膨らんだそれを2人で抱えて噴水へと近寄ると、その中へ水を入れ―――
『せーのっ!』
陽に煌めく塊が、宙で踊り、張力を無くした水は、飛散して人波の衝突最前線へと襲い掛かり―――
「頭を冷やして冷静になりなさい」
腰に手を当て、水を滴らせる群衆を見下ろすように、イシャラナが言った。
流石の突拍子もない状況と行動に、ほとんどの者がきょとんとして口も手も止めてしまった。
「水も滴るいい男……だらけだな、これは」
ストーンアーマーでどっしりと構えて壁になっていた神代含め、警備担当もかなり喰らっていたが。
だが、さっきまで場を支配していた空気は、確かにがらりと変わっていた。
それでもなお動こうとした旧体制派の初手を抑えるように出たひとつの影。
「おい、旧体制派の連中には言っときてぇ事があんだよ、特に元貴族って奴らによ―――てめぇらは何が気に食わねぇ?」
ジャックが静かに、だが静かな威圧を確かに秘めて啖呵を切る。
「昔みてぇにデカイ顔出来ねぇのが気に食わねぇのか?」
『違う! なるべくして知と力を備えている上流権者が正しく導くことが広く幸福に繋がると』
「もしそんな程度でギャアギャア騒いんでんなら、てめぇらのその、上流だかなんだかって誇りなんざ大した事ねぇぞ」
貴族の出らしき豪奢な成りの男の言葉を遮るように、ジャックが言葉を続ける。
「貴族が力を持ってんのはてめぇのプライドを満たすためじゃねぇ……てめぇより弱い連中をその力で守ってやるためにあんだよ! 力の使い方間違えといて、何が民のタメだ! 酔っ払ってんじゃねぇぞ!!」
勢いのあるジャックの言葉は、ただの主張ではない。
それは、しっかりと『貴族』という立場に真剣に向き合っている者の素直で、重くのしかかる思いだった。
「落ち着いたようだの。さっきまでの通り、わあわあ、言ってばかりでは何も始まらん。それでもなお轍を踏みたいというのであれば相手になる用意もあるが……不毛なのはわかるだろう。ミグがそなたらの意見を聞いてやるので、一人ずつ主張するがよい」
ミグは別に濡れる事を察して前に出ていなかった訳ではない。
後方で、群衆の様子をよく観察し、その中でもっとも声高かつ派閥のリーダーと思しき人物に目星を付けていたのだ。
そんな者からは名前を聞き出し、事細かに質問し、メモをまとめ、順繰りに対応していく。
もちろん、興が削がれたと帰るものもいたが、
ミグのこのヒアリング重視の狙いとしては、主張者にいい気持ちになってもらい、大物感を抱かせ、そうやって話を吐き出させる事で牙を引っこ抜いていく寸法だ。
「女帝陛下のお決めになったルールでは暴力沙汰は禁止されております」
ひそ、と現政権維持派の方で活発に活動していた者の傍で囁くのはユージーン。
「女帝陛下以上に皇帝に相応しいお方などおりません。部外者のいちハンターですらそう思うのですから、負け犬の安い挑発に乗ることはありませんよ」
こちらもまるで牙を抜くような、持ち上げて、拳を収めさせる籠絡の言葉。
「女帝陛下のお決めになった規則を破ってしまうのは本意ではないでしょう? 堂々と選挙で勝ちを見せつけてやればいいのです」
自分達の崇めているものを良く言われて、悪い気分になることはない。
既に活動家達を浸食した愉悦は、これ以上の荒事を無用と判断させたようだ。
「あら……それでも暴れるお馬鹿さんは、潰さない程度に蹴りあげようかと思ったのに」
「出たよ……」
病院での出来事を報告されているリベルトは、イシャラナの不穏な言葉に苦い顔をする。
「はは……あくまで『過激な扇動』をするものを注意する…という感じに留めないと、ある意味此方の行いが『意見の弾圧』になりかねませんからな」
落ち着いてスーツの埃をはたきながら、米本が言う。
確かに政治活動に置いては、さじ加減が難しい部分がある。
だが、今回のハンター達の活動は、そのさじ加減を確りと理解し、
良い意味で政治に介入しすぎず、各々の意志を持ちながら、治安維持及び選挙活動の円滑化に努めた。
今回の選挙は、公平に、万人の為の道を歩めるようである。
「正直……政治的な話は苦手の部類ですが、警備となれば話は別ですね」
黒スーツを私服と称し、穏やかな口調で話すのは米本 剛(ka0320)
あくまで平和的に解決したいと話す彼に、そう上手くいきゃあいいが……とぼやくのは、第九師団の副師団長、リベルトだ。
「帝国は確かに強いヤツが正義な節がある。でも、強いってのは拳振り回すだけじゃねぇ」
「えぇ、……ですが、好んで暴れたい様な『物好き』は早々居ないと自分は考えますし、もちろんどの派閥に賛同する訳でもありませんし否定もしませんよ」
ただただ『依頼』として警備に全力を以て当たらせて頂きます、との米本の言葉は、師団長のユウがリベルトに伝えた内容と同じ。
それならば任せておいても大丈夫だろう、とリベルトは一定の信頼を置いてみることにした。
米本が付き添っているメイム(ka2290) は、王国回帰派に同行して街を回っていた。
街宣活動経路等を確認して、不穏な動きを見せないか、それと並行して、
改めて意見を整理することで冷静にならないか試みていた。
周辺の住民及び選挙活動中の者には、第九師団の依頼で警備に当たっていると話して治安の維持に努めていく。
「今回はどなたを推して、当選の暁にはどんな帝国にしたいのかな?」
頃合いを見て、メイムがこの団体の傾向を探ってみる質問を投げてみる。
「我々の活動は特に誰推しというものではない。むしろ立候補も可能な今、王国とエクラ教の下で暮らしを展開する方がどれだけ今の国民に対して豊かになるものか、という、王国回帰の思考を普及しているのだよ」
「なるほど……話してくれてありがとう」
押し付けるでもなく、説明も穏やか。このグループは問題を起さなそう、と米本と目を合わせる。
この様子なら大丈夫だろう、とリベルトも次のハンター達の様子を見に行く事にした。
◆
ここは喧噪が油と酒の沁みた板に跳ね返り、一段と賑わいを見せている帝国のとある酒場。
ユージーン・L・ローランド(ka1810) とミグ・ロマイヤー(ka0665) イシャラナ・コルビュジエ(ka1846) の3人は、
役所や出張所については既に人員が足りている。ハンターにはより国民に近い場所での活動を行って欲しい……
とリベルトからの提案で、彼らは人の集まる所を回っていた。
「何の意見も主張もなくて無反応な人よりも、自分の想いを熱く語れる人の方が、活力があっていいわね」
傾けていた樽のカップを置いて、イシャラナが酒場全体を見やる。
酒の肴に政治の話はついついついてきてしまうもの。調子はどうだ? と様子を見に来たリベルトに、ユージーンが答える。
「王国よりも一般市民の政治への関心は高いみたいですね。あるいは、女帝の狙いもその辺りに……っと」
王国ユニオン所属の彼は、王国民として、自らの所属と決して関係のなくはない帝国に対し、大局的な意見を述べる。
「ああ、いけませんね。今の僕はただのハンターです。職務に専念せねば」
苦笑して立ち寄る客の質疑に応答するユージーン。
王国側視点の意見、それはリベルトとしても貴重な意見である。
「陛下も中々言うもんだよ。そこらのぼんくらどもには爪の垢を煎じて飲ませてやりたい物さ」
と、切符のいい台詞を言うのはミグだ。
「あんたも中々言うもんだね。どうだ、今からでも立候補してみるか? 口なら利いてやるぜ」
「……」
「ん? どした」
「な、なんでもないさ。ほれ、次の者話してみい」
ミグは元々ヴィルヘルミナの気風の良さには好感を持っており、そんな皇帝に対抗して出てくる人物にも期待していた。
軍人としても大人としても一回り勤め上げているミグとしては、実は立候補しようかとも思っていたが……
まさか息子たちに泣いて止められていたとは、頭に? を浮かべているリベルトには想像もつかない話であった。
「おう、俺の番だな! いいか、要するに今の帝国をこの芋に例えるとだな……」
今回の警備では、聞きに徹するつもりだ――というのはミグの談。
彼女の周りには、声高々に政治について語っていた者達が輪になって議論を繰り広げていた。
師団の下で活動していると話せば、逆にこれをチャンスと見て話をしに来るものもいれば、
普段の政治に対する鬱憤を爆発させるようにクダをまく者もいる。
そういった人達に対しては、事前に釘を刺すようにユージーンが語りかけた。
「血気に逸る若者もいるかもしれないですが、暴力沙汰は禁止されておりますのでお忘れなく……不安に思う事があれば何でもおっしゃって下さい」
(吐き出し口があるというのは人を落ち着かせる。これなら今日明日暴徒になりそうな奴らも減らせるかもな……)
人と政治の緩衝材の役目を果たそうとしている二人にここは任せて、リベルトとイシャラナは、近くを通る警邏組への合流の為に席を立った。
◆
「ようやく、市警隊の仕事から解放されたと思ってたんだがねぇ」
なんで俺は似たような事をやってんだ? とは、シリル・ラングフォード(ka0672) のため息交じりの言葉だ。
「運命が適性を見出してるんじゃねぇか? やれることからやるのはいいことさ」
神代 廼鴉(ka2504) の慰めに、勘弁してくれ……と馬上からシリルの重たい言葉が降りかかる。
(運命ね……人が多いところなら、とは考えたけど、アテにならないもんだ)
神代も神代なりに、思う所があって人の多い場所に来たようだが、何を探しているかは彼のみぞ知る。
ジャック・J・グリーヴ(ka1305) はどこか気分を良くしながら警備に追従していた。
「よぅ、精が出るな。あんま暴れすぎたりすんなよー」
選挙という堅苦しい感じだけではなく、イベントとして国中一丸となって動いているものに、
あんまり厳しく言うと興が削がれるだろう、という彼なりの考え方だった。
リベルトとイシャラナが合流したところで、シリルの馬に青年が駆け寄ってきた。
「よう兄ちゃん、選挙はどんな感「大変です! あっちの広場で、今にも暴動が起きそうな……! 一触即発で……!」
そこまで聞いてから、5人は急いで広場の方へと走っていった。
離れている仲間達に伝えるべく、急ぎ伝話を取り出す。
(政が動きゃ人も動く、人が動きゃ金も動く。商人としちゃ嬉しい限りだが……こんな事してる場合じゃねぇだろうに)
「……詰まんねぇ世の中だぜ、クソッタレ」
種々の絡みつく思いは、まず一つの悪態へと留めて。
ジャックが険しい顔をして飛び込んだ先では、掴めそうな程に濃密な重い空気が漂っていた。
◆
大勢の群衆の塊を抜けると、大きな噴水広場へとたどり着く。
商店が囲うその広場では、東西に分かれて群衆がやいのやいのと激しい言葉を投げ合っていた。
「騒がしいと思ったら、政権維持派を突き抜けてきたのか」
神代が振り返ると、そこには現政権に関するプラカードや横断幕を掲げた人達、
そして反対側には、旧体制派、王国回帰派を含む反政権派が同じように騒がしくしていた。
『ヴィルヘルミナ様のカリスマなくしてこの国があると思うのか!!』
『あの決断! 行動力! 安穏に生きてきたくせに何を今更掌を返すか!!』
『ヴィルヘルミナ様の蒸かした熱々の芋を投げつけられたいぞー!!』
『黙れ! 裏切りの政権になど育てられた覚えはない!!』
『練魔院による環境汚染! 独裁政権! 帝国は光の元に戻らなければ神の裁きを受けるぞ!』
『ゼナイド様の椅子になりたいぞー!!』
各々が各々の信じる者の為に好きな事を叫び、その熱は周りの空気も相まって我を見失う。
周りがやってるから大丈夫、多くの勘違いが一種の集団催眠を引き起こし、後には引けなくなる。
「さて、どうするか」
「毅然とすればいい。警備がうろたえたら負けだ」
リベルトに馬を預けると、シリルが噴水の傍へと立ち、声を張り上げる。
「こちらは帝国ユニオンAPVだ。帝国軍第九師団より市中警備を任されている!」
がならず、しかし遠くまで届くように、群衆へと声をかけるシリル。
背後に帝国軍、つまり権力という確かな存在を示されれば、幾らかの人は、
特に現政権維持派のものはかなり狼狽えだしたようだ。
だが――
『うるせぇ! ぽっと出のハンターなんかに口挟まれたって怖くねーんだよ!!』
全員に届くわけではない。群衆は、幾つかの見境を無くした野生動物のようにその動きを激化させる。
「口でなく手を出してどうする」
「落ち着けバカ野郎!」
鞘に収めたままのサーベルを横に、何とか押し寄せてくる人波を押さえつけようとするシリル。
ケンカは先に手を出した方が負け。ジャックも守りの構えのままなんとか耐えていた。
「ああいうのも、国を思えばこそなのかね。なぁ、そこのあんた。乱痴気騒ぎに混ざる気が無ぇなら離れといた方がいいぜ?」
神代が盾を取り出し、傍にいた親子に声をかける。
イシャラナもバットを抜き、口角泡を飛ばして前に出ようとする群衆を抑えている。
「ちょっと周りの一般市民もそろそろ限界だな……責任は俺が持つ。こらしめてやりなさい」
「……これが面倒で市警隊抜けたんだがな」
シリルががっ、とサーベルの柄を前の男の腹部に突きつける。
イシャラナも両手に持っていたバットで前にいた青年をいなし、地面に組み伏せた後で近くの一般市民を安全な道へと誘導していった。
イシャラナとすれ違う形で米本とメイム、ユージーンが駆けつける。
「『物好き』はどこにでもいると言う事ですか……残念ですが……!」
「やむ得ないけれど……」
米本が鞘に納めた日本刀で反政府派の前線を抑え、その影に隠れてメイムがきょろきょろと辺りを見回す。
天啓、いや、友人、天川 麗美の祈りがメイムへ閃きを与える。
蠢く人波の中で、リーダー格と思わしき人物に視線が止まる。
「フリ~ズっ!」
ノックバックで前線を弾き、男へと届ける声の道を開く。叫びはブロウビートとなり、リーダー各の男の動きが鈍る。
政権維持派からの投石等から庇うようにして、メイムも人の中へと入り暴徒を嗜めていった。
「しかし……キリがありませんね。一度ピシャっと空気を変えるインパクトでもあれば……」
ユージーンが逃げる市民にプロテクションをかけていく。
そろそろ一般人の避難は完了しそうだったが、頭に血の上った一部の活動家達は、シリルや米本達を挟んで今にも拳を振り下ろそうとしているのである。
「リベルト、手を貸して」
「……あんた今日は面白いもんばっか持ってんな。レジャーなデートならもっといい場所知ってるぜ?」
イシャラナが取り出したのはゴムボート。膨らんだそれを2人で抱えて噴水へと近寄ると、その中へ水を入れ―――
『せーのっ!』
陽に煌めく塊が、宙で踊り、張力を無くした水は、飛散して人波の衝突最前線へと襲い掛かり―――
「頭を冷やして冷静になりなさい」
腰に手を当て、水を滴らせる群衆を見下ろすように、イシャラナが言った。
流石の突拍子もない状況と行動に、ほとんどの者がきょとんとして口も手も止めてしまった。
「水も滴るいい男……だらけだな、これは」
ストーンアーマーでどっしりと構えて壁になっていた神代含め、警備担当もかなり喰らっていたが。
だが、さっきまで場を支配していた空気は、確かにがらりと変わっていた。
それでもなお動こうとした旧体制派の初手を抑えるように出たひとつの影。
「おい、旧体制派の連中には言っときてぇ事があんだよ、特に元貴族って奴らによ―――てめぇらは何が気に食わねぇ?」
ジャックが静かに、だが静かな威圧を確かに秘めて啖呵を切る。
「昔みてぇにデカイ顔出来ねぇのが気に食わねぇのか?」
『違う! なるべくして知と力を備えている上流権者が正しく導くことが広く幸福に繋がると』
「もしそんな程度でギャアギャア騒いんでんなら、てめぇらのその、上流だかなんだかって誇りなんざ大した事ねぇぞ」
貴族の出らしき豪奢な成りの男の言葉を遮るように、ジャックが言葉を続ける。
「貴族が力を持ってんのはてめぇのプライドを満たすためじゃねぇ……てめぇより弱い連中をその力で守ってやるためにあんだよ! 力の使い方間違えといて、何が民のタメだ! 酔っ払ってんじゃねぇぞ!!」
勢いのあるジャックの言葉は、ただの主張ではない。
それは、しっかりと『貴族』という立場に真剣に向き合っている者の素直で、重くのしかかる思いだった。
「落ち着いたようだの。さっきまでの通り、わあわあ、言ってばかりでは何も始まらん。それでもなお轍を踏みたいというのであれば相手になる用意もあるが……不毛なのはわかるだろう。ミグがそなたらの意見を聞いてやるので、一人ずつ主張するがよい」
ミグは別に濡れる事を察して前に出ていなかった訳ではない。
後方で、群衆の様子をよく観察し、その中でもっとも声高かつ派閥のリーダーと思しき人物に目星を付けていたのだ。
そんな者からは名前を聞き出し、事細かに質問し、メモをまとめ、順繰りに対応していく。
もちろん、興が削がれたと帰るものもいたが、
ミグのこのヒアリング重視の狙いとしては、主張者にいい気持ちになってもらい、大物感を抱かせ、そうやって話を吐き出させる事で牙を引っこ抜いていく寸法だ。
「女帝陛下のお決めになったルールでは暴力沙汰は禁止されております」
ひそ、と現政権維持派の方で活発に活動していた者の傍で囁くのはユージーン。
「女帝陛下以上に皇帝に相応しいお方などおりません。部外者のいちハンターですらそう思うのですから、負け犬の安い挑発に乗ることはありませんよ」
こちらもまるで牙を抜くような、持ち上げて、拳を収めさせる籠絡の言葉。
「女帝陛下のお決めになった規則を破ってしまうのは本意ではないでしょう? 堂々と選挙で勝ちを見せつけてやればいいのです」
自分達の崇めているものを良く言われて、悪い気分になることはない。
既に活動家達を浸食した愉悦は、これ以上の荒事を無用と判断させたようだ。
「あら……それでも暴れるお馬鹿さんは、潰さない程度に蹴りあげようかと思ったのに」
「出たよ……」
病院での出来事を報告されているリベルトは、イシャラナの不穏な言葉に苦い顔をする。
「はは……あくまで『過激な扇動』をするものを注意する…という感じに留めないと、ある意味此方の行いが『意見の弾圧』になりかねませんからな」
落ち着いてスーツの埃をはたきながら、米本が言う。
確かに政治活動に置いては、さじ加減が難しい部分がある。
だが、今回のハンター達の活動は、そのさじ加減を確りと理解し、
良い意味で政治に介入しすぎず、各々の意志を持ちながら、治安維持及び選挙活動の円滑化に努めた。
今回の選挙は、公平に、万人の為の道を歩めるようである。
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プレイング メイム(ka2290) エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2014/09/12 07:50:48 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/09/08 02:33:52 |
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相談卓 米本 剛(ka0320) 人間(リアルブルー)|30才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/09/12 17:28:04 |