ゲスト
(ka0000)
商店街で七夕まつり?
マスター:狐野径
みんなの思い出? もっと見る
オープニング
●薬草園の主、渋面
グラズヘイム王国にある小さな町の外れにある薬草園。主たるジャイルズ・バルネが広い土地を活用し、各地から集めた薬草を育てていた。
とれたものはそのまま料理に使ったり、干したり、成分を抽出したり様々に活用する。季節によっては軟膏やシロップを作るのに忙しい。
現在は、草むしりがメーンだ。草むしりといっても飼っているヤギが大半は行う。
まだ薬草が植わっていないところは、同じ町に住む魔術師の弟子である女の子が植えた謎の草が生えている。彼女は料理の際に出た種を持ってくるらしいので、ピーマンやカボチャ、柑橘系だと思われる。
ジャイルズの助手として引き取られたコリンはその世話をする。彼女は今、エトファリカ連邦国に出かけているため、コリンが面倒を見ないと確実に枯れるだろう。
「……なんか静かだなぁ」
彼女がいると2~3日ごとにやってくる、にぎやかで楽しかった。
「にゃ」
「にゃうにゃう」
「にゃあああああああ」
ふとにぎやかになったと思ってコリンは視線を動かした。
「え?」
この薬草園に住み着いたユグディラのクロとチャ以外がユグディラがいたのだ。名前つけるなら「シロ」だろうか。後ろ足ですくっと立ち、前足で身振りをしているため、ただの猫が後ろ足で立っているわけではないだろうと判断する。
「……ど、どうしたんだろう」
コリンは気にしないように気しつつ、作業をしていた。
一方、ジャイルズは小屋において、ハンターズソサエティの職員であるロビン・ドルトスと対面していた。
そのジャイルズ、元から眉間にしわが寄る表情をするのだが、一層眉間にしわが寄っている。
「そっちの町でやってくれればいいものを」
「いや、でも、こっちの町には知恵袋がいくつもあるため、できれば協力を!」
「……魔術師にでも頼めばいいだろう」
「ルゥルちゃんいないんですよ」
「いや、弟子じゃなくて師匠のほうだ」
「……ルゥルちゃんいないため出て行きましたよ」
「いてもいなくても一緒か」
ジャイルズはため息をついた。
●職員、頭抱える
ジャイルズのもとにロビンが行くきっかけは商店街の寄り合いだった。
「のうのう、ロビンさん、何かいいアイデアありませんか」
「ハンターという特殊な技能、優秀な知識を持つ彼らと出会うあなたなら何かあるのではないですか」
この町は比較的大きい町であるが、あまり活気があるとは言えない。周りに観光名所もなく、あるのは街道。素通りポイント。例えば王都から馬で1日目のところならば、宿場となりうる。この町はそういう場所でもないため、きれいに素通りされる。
巡礼者で泊まるものがいれば巡礼路に近い隣の小さな町のほうを利用する。隣の小さな町からこちらまでのんびり馬で2時間、誰がわざわざ来るだろうか。目玉でもあれば寄り道してくれるかもしれないが。
「別に王都みたいに賑やかでなくともいいけど、こう、ちょっと活気もほしい」
一番厄介なことを言う商店街の人たち。
ハンターの出入りもそれほどない。時々、雑魔やゴブリンが出たといってもあっさり片付く。職員も開店休業に近い日が多く、掃除したり、自作のポエムを考えたりしている。
田舎の安定した町なのだ。いいことであるのだ。
「……何かアイデアを」
ということでその日の会合は終わった。
それがロビンを悩ませる。
ロビンとしても楽しいことは嬉しい。できれば可愛い女の子と知り合って、恋人になりたいなとか思ったりする。どうも、うまくいかないのが常。
受付に座りつつ、依頼人も通りすがりのハンターもないため、アイデア探し。同僚にもアイデアを求めると「ポエム大会」という案が出た。
「失礼する」
「うわっ! 領主さま! どうぞ、何かありましたか?」
この町を含む一帯の支配者というか守護者というか領主であるシャールズ・べリンガーがやってきた。ハンターもやっていたこの領主は渋くてかっこいいと評判。かくいうロビンもシャールズに憧れる。
「いや、息子からの手紙は来ていないかと思って」
「……いえ、来ていませんよ?」
「……そうか、また近くに来たら寄ろう」
シャールズの長男がエトファリカにホームステイしているため、毎日のようにやってくる。使用人でもなく本人が。
「そ、そうだ! あの!」
ロビンはアイデア出しに巻き込んだ。
「ふむ……多少の費用は出そう。頑張り給え!」
いそいそと出て行った。
「……うん、忙しい方ってこともわかってる。息子が心配なのもわかっている……」
ロビンは悲しくなった。
そこでロビンはジャイルズを巻き込むことにした。怖い印象があるため苦手であるが、背は腹に変えられない。
結果次のようなイベントをしてみることにした。町の図書室を活用し、練りに練った。
求む、参加者!
来る×月▽日 12時から20時まで商店街の祭りを催す
リアルブルーの夏越の祓と七夕を再現。
あの蒼き星に思いをはせ、夏の思い出作りませんか?
グラズヘイム王国にある小さな町の外れにある薬草園。主たるジャイルズ・バルネが広い土地を活用し、各地から集めた薬草を育てていた。
とれたものはそのまま料理に使ったり、干したり、成分を抽出したり様々に活用する。季節によっては軟膏やシロップを作るのに忙しい。
現在は、草むしりがメーンだ。草むしりといっても飼っているヤギが大半は行う。
まだ薬草が植わっていないところは、同じ町に住む魔術師の弟子である女の子が植えた謎の草が生えている。彼女は料理の際に出た種を持ってくるらしいので、ピーマンやカボチャ、柑橘系だと思われる。
ジャイルズの助手として引き取られたコリンはその世話をする。彼女は今、エトファリカ連邦国に出かけているため、コリンが面倒を見ないと確実に枯れるだろう。
「……なんか静かだなぁ」
彼女がいると2~3日ごとにやってくる、にぎやかで楽しかった。
「にゃ」
「にゃうにゃう」
「にゃあああああああ」
ふとにぎやかになったと思ってコリンは視線を動かした。
「え?」
この薬草園に住み着いたユグディラのクロとチャ以外がユグディラがいたのだ。名前つけるなら「シロ」だろうか。後ろ足ですくっと立ち、前足で身振りをしているため、ただの猫が後ろ足で立っているわけではないだろうと判断する。
「……ど、どうしたんだろう」
コリンは気にしないように気しつつ、作業をしていた。
一方、ジャイルズは小屋において、ハンターズソサエティの職員であるロビン・ドルトスと対面していた。
そのジャイルズ、元から眉間にしわが寄る表情をするのだが、一層眉間にしわが寄っている。
「そっちの町でやってくれればいいものを」
「いや、でも、こっちの町には知恵袋がいくつもあるため、できれば協力を!」
「……魔術師にでも頼めばいいだろう」
「ルゥルちゃんいないんですよ」
「いや、弟子じゃなくて師匠のほうだ」
「……ルゥルちゃんいないため出て行きましたよ」
「いてもいなくても一緒か」
ジャイルズはため息をついた。
●職員、頭抱える
ジャイルズのもとにロビンが行くきっかけは商店街の寄り合いだった。
「のうのう、ロビンさん、何かいいアイデアありませんか」
「ハンターという特殊な技能、優秀な知識を持つ彼らと出会うあなたなら何かあるのではないですか」
この町は比較的大きい町であるが、あまり活気があるとは言えない。周りに観光名所もなく、あるのは街道。素通りポイント。例えば王都から馬で1日目のところならば、宿場となりうる。この町はそういう場所でもないため、きれいに素通りされる。
巡礼者で泊まるものがいれば巡礼路に近い隣の小さな町のほうを利用する。隣の小さな町からこちらまでのんびり馬で2時間、誰がわざわざ来るだろうか。目玉でもあれば寄り道してくれるかもしれないが。
「別に王都みたいに賑やかでなくともいいけど、こう、ちょっと活気もほしい」
一番厄介なことを言う商店街の人たち。
ハンターの出入りもそれほどない。時々、雑魔やゴブリンが出たといってもあっさり片付く。職員も開店休業に近い日が多く、掃除したり、自作のポエムを考えたりしている。
田舎の安定した町なのだ。いいことであるのだ。
「……何かアイデアを」
ということでその日の会合は終わった。
それがロビンを悩ませる。
ロビンとしても楽しいことは嬉しい。できれば可愛い女の子と知り合って、恋人になりたいなとか思ったりする。どうも、うまくいかないのが常。
受付に座りつつ、依頼人も通りすがりのハンターもないため、アイデア探し。同僚にもアイデアを求めると「ポエム大会」という案が出た。
「失礼する」
「うわっ! 領主さま! どうぞ、何かありましたか?」
この町を含む一帯の支配者というか守護者というか領主であるシャールズ・べリンガーがやってきた。ハンターもやっていたこの領主は渋くてかっこいいと評判。かくいうロビンもシャールズに憧れる。
「いや、息子からの手紙は来ていないかと思って」
「……いえ、来ていませんよ?」
「……そうか、また近くに来たら寄ろう」
シャールズの長男がエトファリカにホームステイしているため、毎日のようにやってくる。使用人でもなく本人が。
「そ、そうだ! あの!」
ロビンはアイデア出しに巻き込んだ。
「ふむ……多少の費用は出そう。頑張り給え!」
いそいそと出て行った。
「……うん、忙しい方ってこともわかってる。息子が心配なのもわかっている……」
ロビンは悲しくなった。
そこでロビンはジャイルズを巻き込むことにした。怖い印象があるため苦手であるが、背は腹に変えられない。
結果次のようなイベントをしてみることにした。町の図書室を活用し、練りに練った。
求む、参加者!
来る×月▽日 12時から20時まで商店街の祭りを催す
リアルブルーの夏越の祓と七夕を再現。
あの蒼き星に思いをはせ、夏の思い出作りませんか?
リプレイ本文
●準備中
祭りの日のハンターズソサエティの支部は賑やかだった。イベントの委員長に祭り上げられた職員ロビン・ドルトスがいるため。
隣町から荷物を持ってやってきたコリンとジャイルズ・バルネはそれに巻き込まれる。大きな荷物はすでに馬車で別途運んだため、仕上げや個人で必要な物ばかりで大したことはないが。コリンの荷物はユグディラが3匹入った大きなカバンだ。時々、そろそろ出してと言わんばかりに鳴かれる。
札抜 シロ(ka6328)は舞台で行う出し物について、舞台担当の職員と話す。
この職員「ポエム大会」を言い出したが、人が集まらず困っていたところだった。舞台で何をするのか、ひとまずカラオケ大会ならぬ十八番披露のアカペラ大会だけかもしれないという危機だった。
「七夕要素があるほうがいいかな? トランプを使う手品が多いけど。こんな感じのを考えてきたのよ」
職員にプランを説明する。
コリンはそれを聞きながら手品がどんなものか興味をそそられる。
「君もぜひ見に来てね」
シロに声をかけられ、コリンは緊張気味にうなずいた。
「おねーちゃんたち、張り切りすぎなのよ」
カリアナ・ノート(ka3733)はまだ準備中の屋台を見てむっつりする。
「四姉妹が一緒なのは久しぶりなのです。リアちゃんは楽しくないのですか?」
カティス・ノート(ka2486)はおっとりと微笑む。
「そ、それはそうだけど。お祭りで楽しいのとは違うの」
カリアナが頬を赤らめぷいっとそっぽを向いた。
「……猫っ! なんか、ここにいたような気がする」
祭だと楽しみにしていたフィリテ・ノート(ka0810)の表情が一気に曇った。きょろきょろしていると見知らぬ少年であるコリンと目があった。荷物が不自然かもしれない。
「リテ姉さん、町の中だし通り過ぎただけかもしれません」
「おねーちゃん、猫は通りすがり関係ないよ。さあ、どこへ行こうか? 今のうちにチェックしていれば制覇も確実です!」
長姉をなだめる妹に同意しつつリディア・ノート(ka4027)はこぶしを固め天に伸ばしていた。
「そうね。それより、どこから行くか……チラシを見て決めよう」
「おねーちゃん、これこれ」
上の二人は計画を練り始めた。
コリンは浴衣姿のカップルの横を通りすぎつつ、まつり紹介のチラシを渡した。
「早く来すぎたがのぅ……こういうのは嫌か?」
ヴィルマ・ネーベル(ka2549)は受け取ってチラシを見つつ、同行人に問う。友人というか、特別な相手か、ともかく気になる相手であるのは間違いない。
「あ、ああ。その紙で店とかわかるのか?」
ヨルムガンド・D・アルバ(ka5168)はチラシを受け取った。その際に、ヴィルマの服装が見え、心臓が激しくなった。
「あれ、バルデスさん」
コリンは足を止めて屋台にいる女性に声をかけた。
「コリン君、お久しぶり」
マリィア・バルデス(ka5848)は銃ではなくボウルと包丁に持ち替え、屋台で準備を忙しくしている。
「お久しぶりです。何をやられるんですか?」
「七夕って話だったから、それにちなんだものを出そうと思ったのよ。素麺や索餅かなって」
「そうめん? さくべい?」
「そうそう。素麺はまあ麺類なのはわかったけれど、よくわらからなかったのよね作り方。索餅は分かったからせっかくなら作ろうと思って、それと材料が似ているということも考えクレープってことにしたの」
「へぇ」
クレープ用の材料はキャベツにソーセージをはじめとしたおかず食材と、チョコレートやフルーツといったデザート向けの食材がある。
コリンは暴れるユグディラを抑える。
カバンが暴れているのを見てマリィアはピンと来た。
「……あの子たちも来ているの?」
「はい」
「気を付けてね。でも、まあ、いる気があるならいうことも聞いてくれるでしょうし。またあとでいらっしゃいね?」
コリンはマリィアと別れて、持ち場である茅の輪のところに向かった。
コリンがあちこち人と話している間に薬草園の主のジャイルズは茅の輪の最終調整をしていた。
ワラのふわっとした匂いと、ローズマリーのすっとした匂い。それらが相まって不思議な空気が生まれる。
コリンはユグディラたちを取り出す。3匹はすぐにでもどこかに飛び出しそうだ。
「約束は守ってね……うちに帰りたければ」
クロとチャはうなずいた。
コリンは白い通りすがりのユグディラは旅に出るのかなと勝手に想像しておいた。
●祭り前半
「チャさま~、クロさま~、シロさま~……え?」
ディーナ・フェルミ(ka5843)はすごい勢いで走ってきた。
「こんにちは、フェルミさん」
コリンは挨拶する。
「……どういうこと、1匹増えているというのは?」
「わからないです。ただ、知り合いのようです」
3匹は何か言っているが不明。
「これが茅の輪なのね! これで身についた穢れを落とすのよ」
ディーナは輪をくぐる。
風が起こり取り付けられている葉が揺れる。さわやかな香りが漂う。
『にゃー』
ユグディラたちは茅の輪にじゃれつき始める。爪を立て、よじ登り入ったり出たりを繰り返す。
「だめ」
コリンがよじ登ったチャを下ろそうとした。とろうとしてもよじ登るために手が届かない。ジャイルズが無言でそれを下した。
「言うことを聞かないとこうなの」
ディーナが叱りつつ、チャを撫でまわす。これを見てクロと白いユグディラは「うにゃうにゃ」言いながらおとなしくなった。
「ここで厄は落としたの! 後は希望を書くとかなうかもしれないおまつりなの。ぜひ、チャさまたちの希望も代筆するので一緒に行こうなの!」
ユグディラたちは何か言っている。人間についていくか否か、渋って会議しているようである。
「それに、お財布が空になるまでおごるの」
「だめです、それは!」
ユグディラたちはきらめいたが、コリンが慌てて止める。
「なら、適度に!」
ディーナに連れられてユグディラたちは出かけた。一応、ジャイルズが持たせた小銭の入った財布とともに。
ディーナの背中を見送った後、コリンは茅の輪係として説明をしたり、チラシを渡したり。
「行ってくればいい」
ジャイルズはいう。
「手品も見に行くんだろう?」
あの場所での会話も聞いていたと知り、コリンは胸が熱くなる。
「……いいんですか?」
「小遣いもこういう時じゃないと使わないだろう。どうせ、地元だと菓子くれる人もいて使い道もない」
「……はいっ」
コリンは笑った。
「あ、これおいしそう。おねーさん、おねーさん、これ2つくださいな」
「はい」
フィリテはマリィアの屋台でを索餅を2つ購入する。
「固い……といっても歯ごたえがあっておいしい。リナたちも食べてみる?」
「ひねったドーナツじゃないの?」
リディアが一口もらって食べる。
「……あ、違う。何だろう、ドーナツと違うけど似ているような、懐かしいというかなんかこう……」
「少しいただきます」
リディアの感想を聞きながらカティスは折ってつまむ。
「全然わからないから、仕方がないわね! 食べてみるわ……むぐむぐ?」
カリアナはしぶしぶという様子で食べてほんのり温かくおいしいのはよくわかった。
「クレープもおいしそうです。これを食べると、別の屋台で食べられなくなってしまうでしょうか?」
「そうね……でも、あたしたち4人で食べれば制覇できないものはないわ。これは中身を選ばせてくれるの?」
「おねーちゃんたち何言ってんの? 制覇? 信じられない!」
「おねーちゃんに妹たちよ! 少しずつ食べて行けばいいんだから、制覇できます!」
カティス、フィリテ、カリアナにリディアと次々に楽し気にしゃべる。
屋台で注文を待つマリィアから見て、嫌々な様子のカリアナだって十分楽しんでいるし、仲の良い姉妹だ。
「具材の質問ね? 一応決まっているけれど、相談には応じるわ」
マリィアはフィリテの問いかけに答えた。
「これは全部入りってできるかな?」
リディアは思わずつぶやいた。選べる機会ならそれを試さない手はない。味のけんかが起こるか否かがカギだ。
「リナ姉さん、それは結構大冒険ですよ?」
「そうよ、適度にするのが一番素敵だわ」
カティスがやんわりと止め、カリアナはレディにあるまじきという観点で止める。二人とも止めつつも「実際にやったらどうなるか」と想像しているのか、楽しそうではある。
「じゃー、全部入りを2つ」
フィリテが長女の決断をした。Vサインのように指を折り、示す。
「……大冒険ね」
マリィアはごくりと唾を飲み込む。うまく包めるかはこの載せる動作にかかっている。腕の見せ所だ。
そして、完成した2つは引き渡され、感想が漏れた。味はお祭りだったとのこと。
姉妹が立ち去った後、目を丸くしたコリンがやってきた。
「……大きなクレープでしたね。味は……」
「……まずくはないと思うけど、この辺がけんかする可能性はあるわ」
マリィアは具材をさして答えた。
「索餅というのをいただいてみたいです」
「せっかくだからね」
コリンは索餅の説明をマリィアに受ける。菓子だったが細長くなって素麺になったとか、索餅は食べると病気を防ぐといわれたとか、食べ物の歴史だった。
食べながら聞いていたコリンはふと、幼いころに亡くなった母を思い出した。
屋台の内容は商店街の人が出したり、屋台を生業にしている人など様々なようだ。食べ物や雑貨、景品がとれるかもしれないゲームまで様々ある。
「……意外と飴の店がない」
ヨルムガンドが食べていた飴をガリッとかみ砕く。
「田舎だからかのう? しかし、一応、菓子屋の記載はあったし、行ってみるよのう?」
ヴィルマはヨルムガンドが一番楽しみにしていた部分が少ないのがつらかった。飴をせわしなく口に放り込むヨルムガンドの袖が当たり、彼を見上げる。
浴衣を着てきたために、見慣れれず不思議な気持ちになる。
「どうかした? 別に……ヴィルマのせいじゃないし」
視線を感じたヨルムガンドが見る。視線が絡み合った瞬間、二人は顔をそらした。
琥珀糖をぜひ食べたいと思った。寒天に砂糖を入れて作った飴のようで飴でない、水晶や宝石のようなお菓子。
普段と違う恰好に互いに思いが募る。しかし、口にしない。まだ、告げられないというのが正しいのかもしれない。
「あ、綿あめ買う? リンゴ飴」
「両方買うよ!」
「リアちゃんも食べますか?」
「わ、おいしそうっ。違う、楽しんでいるふりだもん!」
姉妹と思われるにぎやかな声が通り過ぎる。
「綿あめ……?」
「リンゴ飴?」
ヴィルマとヨルムガンドの視線が屋台に移る。
「これを飴というか」
「綿菓子じゃのう」
足を止めて思わず、ふわふわする物を眺める。
少女たちがおいしそうに食べている姿はほほえましくもある。
「なぜ飴かわからないが食べてみるかの?」
「……ああ」
1つ買ってみる。手でつまむとべたべたなるが、最初はふわっとして飴とは違う感触。口の中では溶ける、砂糖の味。
「かまないでも消える」
ヨルムガンドは物足りない。
「このふわっがよいのかもの。溶けるから『飴』と称するのか」
答えはない。
「ああ……人が増えてきたよね」
「そうだのう」
2人は自然と手を結んだ。リンゴ飴を買って、そのまま進む。
チラシにあった菓子屋にたどり着く。店舗前の屋台ではパティシエらしい人物が、飴を練って実演をしている。
熱い素材を練り、色とりどりの素材を組み合わせ、長く伸ばす。そして、切る。
2人は見入る。隣にいる気になる相手の体温を感じつつ、視線は時折動かす。甘い飴の香りが心を安らげ、周囲の音を消すように2人を包み込む。
「出来立て試食しませんか?」
売り子が小鉢を持ってやってくるまで、世界は2人だけだった。
適度に冷えている飴は甘く、どこか新鮮な味がする。
「これはリンゴ味?」
「我のはプラムかの?」
飴はよく見ると味を示している絵が描かれているようだ。
「味によって違う」
「かわいいのう」
「これを買おう、ミックス」
飴を買っていそいそと食べ始める。
「琥珀糖はないのは残念じゃ」
「……どんなものなんですか?」
飴を作っていたパティシエが尋ねる、飴で残った部分を大きなリンゴに仕上げつつ。
2人は話す。パティシエは面白い話を聞かせてくれたとからと、渦巻き状の大きな飴をくれた。
「……大きい」
「ふふっ」
ヴィルマには見上げたヨルムガンドが嬉しそうに笑っているように見えた。
●夕方
「手品をやるの、ぜひ見に来てね」
祭りに来ている人たちに声をかけながらシロは舞台のある広場に向かう。
「チャさま、こちらの鳥もおいしいの。クロさま、しぶい選択です。シロさまはその冷たいものがお気に召し……」
「はい?」
シロは思わず足を止めた。
「……ああ、あなたもユグディラ様をあがめに来られたのね」
「あたしの名前聞こえたから一瞬どきりとしたの。でも、この子見てよくわかったの」
シロはディーナの連れのユグディラたちに白い毛並みのを指した。白でもところどころ黒い毛もあるが、基本白だ。
「へえ、ユグディラ……」
シロはしゃがんで眺める。勝手に触っていいのか手が伸び掛け途中で止まる。
「そうだ、手品するの、時間があれば来てね」
「はい、時間があれば」
ディーナはすでに次何を買うか周りを見ている。ユグディラたち、特にチャがじっとしていない。
シロはディーナと別れて舞台があるほうに足を向けたとき、近くに事務所で見た少年コリンを見つけた。
「奇遇だよね。これからショーをやるけど見に来る?」
「え? あ、はい! 行きます。手品って見たことがないので」
「……え? それは! あたしの手品が人生初の手品ってことになるの? 気合を入れていくよ」
シロは袖からトランプを取り出した。
「こんな感じで!」
カードはパッと飛ぶ。アーチ状に連なり右から左へ。
「うわ」
コリンの目が輝くのを見て、シロは胸の中でガッツポーズをとる。
「後は舞台でね」
「はい!」
コリンは一旦屋台に向かった。おやつより食事となる物がほしかった。
「どうしよう……バルデスさんのところに戻ってクレープ買ってこようかな」
しかし、そろそろ公演は始まるだろう。人込みを行くのは大変だ。
コリンが右往左往していると、ディーナがユグディラに接待のように移動するのが見えた。その屋台にしようとコリンは決め走る。そこでアツアツのから揚げを入手し、隣でゆでたジャガイモを購入して舞台があるところに急いだ。
空いている席に着くと、ドキドキして待つ。
「アカペラ大会の集計に入っています。いやー、みなさん熱戦でした」
ソサエティの職員ロビンが疲労した顔に笑みを浮かべ挨拶している。
「さあ、続きまして、札抜 シロ嬢による、マジックショーです! 可憐な容姿に見とれていると、トリックは絶対に見抜けないですよ! 拍手でお迎えください」
ロビンが袖に下がると、シロが軽やかに中央に出てきた。
「みなさん、こんにちは! まずはこのようなところから!」
シロがトランプを手に手品を披露した。
コリンは見入る、どうやってカードは置いた台から移動したんだろうと。
「七夕まつりも兼ねていると聞いたの。天の川を挟んで牽牛星と織女星が年に一度出会うといわれている恋の物語……というわけで、ここにある紙がこうすると、天の川に!」
シロが丸めた紙が、切れ目のある長い川のようなものになる。2枚の紙が振られただけで女と男のように見えるように折られた。
別の紙を広げると鳥のようになる。川を渡る橋のように鳥は止まり、人形は出会った。
「そして、今はこの恋人に願いをかなえてもらえる不思議な力があると願いを書くの」
シロは何枚かの紙を重ねる。そして、開くと一枚の紙になっている。小さく折って広げると無数の星の形の紙が手から飛び出した。客席にも短冊や飾りが舞い落ちる。
「さっき覗いたら七夕飾り、まだ寂しかったの! ぜひ、みんなの思いも込めて飾ってね!」
続いてシロはいくつもの飾りを手品で生み出す。
カードを使った手品で締めるまでしばらく、観客を喜ばせた。
コリンはふと「母さんに父さんは会えたかな?」と牽牛と織女を見て思った。それとこの1年を思い出す間に、ショーは終わった。
村や近くの町にはないにぎやかさを持つ新しい住む町。ここも田舎と言われるらしいが、かつての住まいに比べれば十分都会だ。
1年、あっという間であり、村にいたのとは比べられないほど人と出会った、学んだ。毎日が刺激だった。
舞台から降りたシロが箱を持ってコリンの前にいる。
「どうだった?」
「なんか、もう、ワクワクしました」
言葉が見つからなかった。どういえばいいかわからないが、町に住む魔術師の女の子の言葉を借りた。そう、ワクワクドキドキしたのだ。
「ありがとう! 食べるの忘れるくらいだったみたいだね」
「あっ」
「時間があるなら、これを一緒に飾りに行こう? その前に食べちゃえ!」
コリンは「はい」と答え、急いで食べ始めた。
●花火
屋台を食べたのではないかというノート四姉妹は、腹ごなしに金魚すくいや水風船すくい、射的等を行う。お面を横かぶりしたり、腕にはとれた景品を提げたりまつりを楽しんだ姿になっている。
コリンたちが通るとき、射的で何かよくわからない人形を取ろうとしていた。
「食べ過ぎたのがいけないのかな? 集中力がない! 当たらないっ」
リディアが顔をしかめるが、笑いが漏れている。
「リアちゃんもやってみましょう?」
兔の面を横被りしているカティスは妹カリアナに促すが、彼女はやりたいという年相応の反応とレディはやらないという理想のはざまで悶える。
「真打登場ということであたしがあの景品を取って見せようじゃないの」
フィリテはいいところを見せようとやってみる。外れるがそれはそれ。仕方がないという反面、悔しいとも思うのが恐ろしい射的。お金をつぎ込むところを止めるのも重要だ。
「リテおねーちゃん、意識しすぎなのよ。こういうのは無欲が一番よ?」
カリアナがお金を払い玉をもらって景品を狙う。意外と当たらず「無欲じゃない」と慌てるが、最後の1発で当たった。
周囲がどよめく。
「リアちゃん、おめでとうございます」
「なかなかの腕前だったよ」
カティスとリディアに褒められてカリアナは照れる。
「なんだかんだ言って、リアも堪能しているじゃない! なによりなにより」
「ち、ち違うもん! 何度も言わせない」
お面やヨーヨー……今とった景品が手渡されたところで否定しても説得力はない。姉たちは笑う。
このとき花火の音が響いた。
「ああ、チャ様、危ないの!」
「うわああ」
ディーナははしゃぐチャを止めたが、背中に体当たりされたコリンがすでに悲鳴が上げていた。
「……ごめんんさいなの! あ、コリン君」
「ちょっと会わない間にチャが一回り大きくなった気がする」
コリンが言うと、チャは胸を張る。クロと白いユグディラは真意に気づいているのか、首を横に振っている。2匹も買ってもらったらしい、串焼きを手にしているので同じ道を歩んでいるかもしれない。
「……それ、食べ過ぎだよ、ってことかな?」
「はい」
シロがコリンに確認を入れた。
「あれ? これ七夕飾りなの?」
ディーナがシロの持つ箱に気づいて確かめる。
「そうです、これから、七夕飾りをしにいこうかと」
「行くの! 行きそびれるところだったの」
コリンとシロにディーナとユグディラ3匹が加わった。
「ヴィルマ、危ない」
手をつないだヨルムガンドは飛び跳ねる猫からヴィルマを守るように、引っ張る。
「……礼はいうが……あのくらいではびくともせぬぞ」
「そ、そうかもしれないけど」
パティシエと話し込み、彼からいろんな飴の試食させてもらったり、飴細工を見せてもらったりかなり長い時間いた。
「飴も様々じゃな。食べられるとはいえ、あんな細工されるともったいない」
「食べたら終わり……でも、見た目がきれいだと、味も違う……かな」
「そうかものう」
ヴィルマの小さな笑い声を聞き、」ヨルムガンドは口に含んだ飴をカリッとかんだ。口いっぱいにこれまでにない味が広がり、ふっと口元が緩んだ。
空に小さな花火があがる。
花火が上がるとはマリィアは思っていなかった。5発で終わったので寂しい気もしたが、小さい花火でも心は華やいだ。
屋台で適度に忙しく動いていたマリィアは終わりの時間が来たもと感じた。
「材料代、場所代……なんだかんだでトントンねぇ」
楽しまなかったわけではないが、商売にするには考えないといけない。
「さて、片づけが終わるまでがお祭りってね」
熱気が残る周囲を見つつ、最後まで客と周囲の店主としゃべり楽しんだのだった。
花火をちらりと見たコリンは「領主様のお屋敷のほうです」という。予定外らしいが、領主なりのプレゼントなのかもしれない。
「飾っちゃおう」
シロが取り出した七夕飾りに3匹が反応を示す。
短冊と筆記用具を手にディーナはユグディラを近くに集合させる。
「これに希望を書くのよ? 人間の言葉は理解していると聞いたの。どれがいいのか、反応してくれると嬉しいの。あたしが代筆するの」
3匹は首を傾げ、にゃあにゃあ言う。
「ごはんがいっぱい食べられますように……世界がユグディラで満ち溢れますように……世界が幸せになりますように……楽しいことがいっぱいありますように……」
思いつくまま告げるディーナ。前足をあげて反応するユグディラ。
「えと、チャ様が『楽しいこと』、クロ様が『世界平和』……ホワイト様が『幸せいっぱい』。あたしは『世界中のふわもこを愛でる!』」
「コリン君は?」
「……秘密です!」
短冊は2人の連携で竹に飾られる際に読まれた。内容は隠すこともない、薬草園の主の助手となった彼らしいものだった。
祭りの日のハンターズソサエティの支部は賑やかだった。イベントの委員長に祭り上げられた職員ロビン・ドルトスがいるため。
隣町から荷物を持ってやってきたコリンとジャイルズ・バルネはそれに巻き込まれる。大きな荷物はすでに馬車で別途運んだため、仕上げや個人で必要な物ばかりで大したことはないが。コリンの荷物はユグディラが3匹入った大きなカバンだ。時々、そろそろ出してと言わんばかりに鳴かれる。
札抜 シロ(ka6328)は舞台で行う出し物について、舞台担当の職員と話す。
この職員「ポエム大会」を言い出したが、人が集まらず困っていたところだった。舞台で何をするのか、ひとまずカラオケ大会ならぬ十八番披露のアカペラ大会だけかもしれないという危機だった。
「七夕要素があるほうがいいかな? トランプを使う手品が多いけど。こんな感じのを考えてきたのよ」
職員にプランを説明する。
コリンはそれを聞きながら手品がどんなものか興味をそそられる。
「君もぜひ見に来てね」
シロに声をかけられ、コリンは緊張気味にうなずいた。
「おねーちゃんたち、張り切りすぎなのよ」
カリアナ・ノート(ka3733)はまだ準備中の屋台を見てむっつりする。
「四姉妹が一緒なのは久しぶりなのです。リアちゃんは楽しくないのですか?」
カティス・ノート(ka2486)はおっとりと微笑む。
「そ、それはそうだけど。お祭りで楽しいのとは違うの」
カリアナが頬を赤らめぷいっとそっぽを向いた。
「……猫っ! なんか、ここにいたような気がする」
祭だと楽しみにしていたフィリテ・ノート(ka0810)の表情が一気に曇った。きょろきょろしていると見知らぬ少年であるコリンと目があった。荷物が不自然かもしれない。
「リテ姉さん、町の中だし通り過ぎただけかもしれません」
「おねーちゃん、猫は通りすがり関係ないよ。さあ、どこへ行こうか? 今のうちにチェックしていれば制覇も確実です!」
長姉をなだめる妹に同意しつつリディア・ノート(ka4027)はこぶしを固め天に伸ばしていた。
「そうね。それより、どこから行くか……チラシを見て決めよう」
「おねーちゃん、これこれ」
上の二人は計画を練り始めた。
コリンは浴衣姿のカップルの横を通りすぎつつ、まつり紹介のチラシを渡した。
「早く来すぎたがのぅ……こういうのは嫌か?」
ヴィルマ・ネーベル(ka2549)は受け取ってチラシを見つつ、同行人に問う。友人というか、特別な相手か、ともかく気になる相手であるのは間違いない。
「あ、ああ。その紙で店とかわかるのか?」
ヨルムガンド・D・アルバ(ka5168)はチラシを受け取った。その際に、ヴィルマの服装が見え、心臓が激しくなった。
「あれ、バルデスさん」
コリンは足を止めて屋台にいる女性に声をかけた。
「コリン君、お久しぶり」
マリィア・バルデス(ka5848)は銃ではなくボウルと包丁に持ち替え、屋台で準備を忙しくしている。
「お久しぶりです。何をやられるんですか?」
「七夕って話だったから、それにちなんだものを出そうと思ったのよ。素麺や索餅かなって」
「そうめん? さくべい?」
「そうそう。素麺はまあ麺類なのはわかったけれど、よくわらからなかったのよね作り方。索餅は分かったからせっかくなら作ろうと思って、それと材料が似ているということも考えクレープってことにしたの」
「へぇ」
クレープ用の材料はキャベツにソーセージをはじめとしたおかず食材と、チョコレートやフルーツといったデザート向けの食材がある。
コリンは暴れるユグディラを抑える。
カバンが暴れているのを見てマリィアはピンと来た。
「……あの子たちも来ているの?」
「はい」
「気を付けてね。でも、まあ、いる気があるならいうことも聞いてくれるでしょうし。またあとでいらっしゃいね?」
コリンはマリィアと別れて、持ち場である茅の輪のところに向かった。
コリンがあちこち人と話している間に薬草園の主のジャイルズは茅の輪の最終調整をしていた。
ワラのふわっとした匂いと、ローズマリーのすっとした匂い。それらが相まって不思議な空気が生まれる。
コリンはユグディラたちを取り出す。3匹はすぐにでもどこかに飛び出しそうだ。
「約束は守ってね……うちに帰りたければ」
クロとチャはうなずいた。
コリンは白い通りすがりのユグディラは旅に出るのかなと勝手に想像しておいた。
●祭り前半
「チャさま~、クロさま~、シロさま~……え?」
ディーナ・フェルミ(ka5843)はすごい勢いで走ってきた。
「こんにちは、フェルミさん」
コリンは挨拶する。
「……どういうこと、1匹増えているというのは?」
「わからないです。ただ、知り合いのようです」
3匹は何か言っているが不明。
「これが茅の輪なのね! これで身についた穢れを落とすのよ」
ディーナは輪をくぐる。
風が起こり取り付けられている葉が揺れる。さわやかな香りが漂う。
『にゃー』
ユグディラたちは茅の輪にじゃれつき始める。爪を立て、よじ登り入ったり出たりを繰り返す。
「だめ」
コリンがよじ登ったチャを下ろそうとした。とろうとしてもよじ登るために手が届かない。ジャイルズが無言でそれを下した。
「言うことを聞かないとこうなの」
ディーナが叱りつつ、チャを撫でまわす。これを見てクロと白いユグディラは「うにゃうにゃ」言いながらおとなしくなった。
「ここで厄は落としたの! 後は希望を書くとかなうかもしれないおまつりなの。ぜひ、チャさまたちの希望も代筆するので一緒に行こうなの!」
ユグディラたちは何か言っている。人間についていくか否か、渋って会議しているようである。
「それに、お財布が空になるまでおごるの」
「だめです、それは!」
ユグディラたちはきらめいたが、コリンが慌てて止める。
「なら、適度に!」
ディーナに連れられてユグディラたちは出かけた。一応、ジャイルズが持たせた小銭の入った財布とともに。
ディーナの背中を見送った後、コリンは茅の輪係として説明をしたり、チラシを渡したり。
「行ってくればいい」
ジャイルズはいう。
「手品も見に行くんだろう?」
あの場所での会話も聞いていたと知り、コリンは胸が熱くなる。
「……いいんですか?」
「小遣いもこういう時じゃないと使わないだろう。どうせ、地元だと菓子くれる人もいて使い道もない」
「……はいっ」
コリンは笑った。
「あ、これおいしそう。おねーさん、おねーさん、これ2つくださいな」
「はい」
フィリテはマリィアの屋台でを索餅を2つ購入する。
「固い……といっても歯ごたえがあっておいしい。リナたちも食べてみる?」
「ひねったドーナツじゃないの?」
リディアが一口もらって食べる。
「……あ、違う。何だろう、ドーナツと違うけど似ているような、懐かしいというかなんかこう……」
「少しいただきます」
リディアの感想を聞きながらカティスは折ってつまむ。
「全然わからないから、仕方がないわね! 食べてみるわ……むぐむぐ?」
カリアナはしぶしぶという様子で食べてほんのり温かくおいしいのはよくわかった。
「クレープもおいしそうです。これを食べると、別の屋台で食べられなくなってしまうでしょうか?」
「そうね……でも、あたしたち4人で食べれば制覇できないものはないわ。これは中身を選ばせてくれるの?」
「おねーちゃんたち何言ってんの? 制覇? 信じられない!」
「おねーちゃんに妹たちよ! 少しずつ食べて行けばいいんだから、制覇できます!」
カティス、フィリテ、カリアナにリディアと次々に楽し気にしゃべる。
屋台で注文を待つマリィアから見て、嫌々な様子のカリアナだって十分楽しんでいるし、仲の良い姉妹だ。
「具材の質問ね? 一応決まっているけれど、相談には応じるわ」
マリィアはフィリテの問いかけに答えた。
「これは全部入りってできるかな?」
リディアは思わずつぶやいた。選べる機会ならそれを試さない手はない。味のけんかが起こるか否かがカギだ。
「リナ姉さん、それは結構大冒険ですよ?」
「そうよ、適度にするのが一番素敵だわ」
カティスがやんわりと止め、カリアナはレディにあるまじきという観点で止める。二人とも止めつつも「実際にやったらどうなるか」と想像しているのか、楽しそうではある。
「じゃー、全部入りを2つ」
フィリテが長女の決断をした。Vサインのように指を折り、示す。
「……大冒険ね」
マリィアはごくりと唾を飲み込む。うまく包めるかはこの載せる動作にかかっている。腕の見せ所だ。
そして、完成した2つは引き渡され、感想が漏れた。味はお祭りだったとのこと。
姉妹が立ち去った後、目を丸くしたコリンがやってきた。
「……大きなクレープでしたね。味は……」
「……まずくはないと思うけど、この辺がけんかする可能性はあるわ」
マリィアは具材をさして答えた。
「索餅というのをいただいてみたいです」
「せっかくだからね」
コリンは索餅の説明をマリィアに受ける。菓子だったが細長くなって素麺になったとか、索餅は食べると病気を防ぐといわれたとか、食べ物の歴史だった。
食べながら聞いていたコリンはふと、幼いころに亡くなった母を思い出した。
屋台の内容は商店街の人が出したり、屋台を生業にしている人など様々なようだ。食べ物や雑貨、景品がとれるかもしれないゲームまで様々ある。
「……意外と飴の店がない」
ヨルムガンドが食べていた飴をガリッとかみ砕く。
「田舎だからかのう? しかし、一応、菓子屋の記載はあったし、行ってみるよのう?」
ヴィルマはヨルムガンドが一番楽しみにしていた部分が少ないのがつらかった。飴をせわしなく口に放り込むヨルムガンドの袖が当たり、彼を見上げる。
浴衣を着てきたために、見慣れれず不思議な気持ちになる。
「どうかした? 別に……ヴィルマのせいじゃないし」
視線を感じたヨルムガンドが見る。視線が絡み合った瞬間、二人は顔をそらした。
琥珀糖をぜひ食べたいと思った。寒天に砂糖を入れて作った飴のようで飴でない、水晶や宝石のようなお菓子。
普段と違う恰好に互いに思いが募る。しかし、口にしない。まだ、告げられないというのが正しいのかもしれない。
「あ、綿あめ買う? リンゴ飴」
「両方買うよ!」
「リアちゃんも食べますか?」
「わ、おいしそうっ。違う、楽しんでいるふりだもん!」
姉妹と思われるにぎやかな声が通り過ぎる。
「綿あめ……?」
「リンゴ飴?」
ヴィルマとヨルムガンドの視線が屋台に移る。
「これを飴というか」
「綿菓子じゃのう」
足を止めて思わず、ふわふわする物を眺める。
少女たちがおいしそうに食べている姿はほほえましくもある。
「なぜ飴かわからないが食べてみるかの?」
「……ああ」
1つ買ってみる。手でつまむとべたべたなるが、最初はふわっとして飴とは違う感触。口の中では溶ける、砂糖の味。
「かまないでも消える」
ヨルムガンドは物足りない。
「このふわっがよいのかもの。溶けるから『飴』と称するのか」
答えはない。
「ああ……人が増えてきたよね」
「そうだのう」
2人は自然と手を結んだ。リンゴ飴を買って、そのまま進む。
チラシにあった菓子屋にたどり着く。店舗前の屋台ではパティシエらしい人物が、飴を練って実演をしている。
熱い素材を練り、色とりどりの素材を組み合わせ、長く伸ばす。そして、切る。
2人は見入る。隣にいる気になる相手の体温を感じつつ、視線は時折動かす。甘い飴の香りが心を安らげ、周囲の音を消すように2人を包み込む。
「出来立て試食しませんか?」
売り子が小鉢を持ってやってくるまで、世界は2人だけだった。
適度に冷えている飴は甘く、どこか新鮮な味がする。
「これはリンゴ味?」
「我のはプラムかの?」
飴はよく見ると味を示している絵が描かれているようだ。
「味によって違う」
「かわいいのう」
「これを買おう、ミックス」
飴を買っていそいそと食べ始める。
「琥珀糖はないのは残念じゃ」
「……どんなものなんですか?」
飴を作っていたパティシエが尋ねる、飴で残った部分を大きなリンゴに仕上げつつ。
2人は話す。パティシエは面白い話を聞かせてくれたとからと、渦巻き状の大きな飴をくれた。
「……大きい」
「ふふっ」
ヴィルマには見上げたヨルムガンドが嬉しそうに笑っているように見えた。
●夕方
「手品をやるの、ぜひ見に来てね」
祭りに来ている人たちに声をかけながらシロは舞台のある広場に向かう。
「チャさま、こちらの鳥もおいしいの。クロさま、しぶい選択です。シロさまはその冷たいものがお気に召し……」
「はい?」
シロは思わず足を止めた。
「……ああ、あなたもユグディラ様をあがめに来られたのね」
「あたしの名前聞こえたから一瞬どきりとしたの。でも、この子見てよくわかったの」
シロはディーナの連れのユグディラたちに白い毛並みのを指した。白でもところどころ黒い毛もあるが、基本白だ。
「へえ、ユグディラ……」
シロはしゃがんで眺める。勝手に触っていいのか手が伸び掛け途中で止まる。
「そうだ、手品するの、時間があれば来てね」
「はい、時間があれば」
ディーナはすでに次何を買うか周りを見ている。ユグディラたち、特にチャがじっとしていない。
シロはディーナと別れて舞台があるほうに足を向けたとき、近くに事務所で見た少年コリンを見つけた。
「奇遇だよね。これからショーをやるけど見に来る?」
「え? あ、はい! 行きます。手品って見たことがないので」
「……え? それは! あたしの手品が人生初の手品ってことになるの? 気合を入れていくよ」
シロは袖からトランプを取り出した。
「こんな感じで!」
カードはパッと飛ぶ。アーチ状に連なり右から左へ。
「うわ」
コリンの目が輝くのを見て、シロは胸の中でガッツポーズをとる。
「後は舞台でね」
「はい!」
コリンは一旦屋台に向かった。おやつより食事となる物がほしかった。
「どうしよう……バルデスさんのところに戻ってクレープ買ってこようかな」
しかし、そろそろ公演は始まるだろう。人込みを行くのは大変だ。
コリンが右往左往していると、ディーナがユグディラに接待のように移動するのが見えた。その屋台にしようとコリンは決め走る。そこでアツアツのから揚げを入手し、隣でゆでたジャガイモを購入して舞台があるところに急いだ。
空いている席に着くと、ドキドキして待つ。
「アカペラ大会の集計に入っています。いやー、みなさん熱戦でした」
ソサエティの職員ロビンが疲労した顔に笑みを浮かべ挨拶している。
「さあ、続きまして、札抜 シロ嬢による、マジックショーです! 可憐な容姿に見とれていると、トリックは絶対に見抜けないですよ! 拍手でお迎えください」
ロビンが袖に下がると、シロが軽やかに中央に出てきた。
「みなさん、こんにちは! まずはこのようなところから!」
シロがトランプを手に手品を披露した。
コリンは見入る、どうやってカードは置いた台から移動したんだろうと。
「七夕まつりも兼ねていると聞いたの。天の川を挟んで牽牛星と織女星が年に一度出会うといわれている恋の物語……というわけで、ここにある紙がこうすると、天の川に!」
シロが丸めた紙が、切れ目のある長い川のようなものになる。2枚の紙が振られただけで女と男のように見えるように折られた。
別の紙を広げると鳥のようになる。川を渡る橋のように鳥は止まり、人形は出会った。
「そして、今はこの恋人に願いをかなえてもらえる不思議な力があると願いを書くの」
シロは何枚かの紙を重ねる。そして、開くと一枚の紙になっている。小さく折って広げると無数の星の形の紙が手から飛び出した。客席にも短冊や飾りが舞い落ちる。
「さっき覗いたら七夕飾り、まだ寂しかったの! ぜひ、みんなの思いも込めて飾ってね!」
続いてシロはいくつもの飾りを手品で生み出す。
カードを使った手品で締めるまでしばらく、観客を喜ばせた。
コリンはふと「母さんに父さんは会えたかな?」と牽牛と織女を見て思った。それとこの1年を思い出す間に、ショーは終わった。
村や近くの町にはないにぎやかさを持つ新しい住む町。ここも田舎と言われるらしいが、かつての住まいに比べれば十分都会だ。
1年、あっという間であり、村にいたのとは比べられないほど人と出会った、学んだ。毎日が刺激だった。
舞台から降りたシロが箱を持ってコリンの前にいる。
「どうだった?」
「なんか、もう、ワクワクしました」
言葉が見つからなかった。どういえばいいかわからないが、町に住む魔術師の女の子の言葉を借りた。そう、ワクワクドキドキしたのだ。
「ありがとう! 食べるの忘れるくらいだったみたいだね」
「あっ」
「時間があるなら、これを一緒に飾りに行こう? その前に食べちゃえ!」
コリンは「はい」と答え、急いで食べ始めた。
●花火
屋台を食べたのではないかというノート四姉妹は、腹ごなしに金魚すくいや水風船すくい、射的等を行う。お面を横かぶりしたり、腕にはとれた景品を提げたりまつりを楽しんだ姿になっている。
コリンたちが通るとき、射的で何かよくわからない人形を取ろうとしていた。
「食べ過ぎたのがいけないのかな? 集中力がない! 当たらないっ」
リディアが顔をしかめるが、笑いが漏れている。
「リアちゃんもやってみましょう?」
兔の面を横被りしているカティスは妹カリアナに促すが、彼女はやりたいという年相応の反応とレディはやらないという理想のはざまで悶える。
「真打登場ということであたしがあの景品を取って見せようじゃないの」
フィリテはいいところを見せようとやってみる。外れるがそれはそれ。仕方がないという反面、悔しいとも思うのが恐ろしい射的。お金をつぎ込むところを止めるのも重要だ。
「リテおねーちゃん、意識しすぎなのよ。こういうのは無欲が一番よ?」
カリアナがお金を払い玉をもらって景品を狙う。意外と当たらず「無欲じゃない」と慌てるが、最後の1発で当たった。
周囲がどよめく。
「リアちゃん、おめでとうございます」
「なかなかの腕前だったよ」
カティスとリディアに褒められてカリアナは照れる。
「なんだかんだ言って、リアも堪能しているじゃない! なによりなにより」
「ち、ち違うもん! 何度も言わせない」
お面やヨーヨー……今とった景品が手渡されたところで否定しても説得力はない。姉たちは笑う。
このとき花火の音が響いた。
「ああ、チャ様、危ないの!」
「うわああ」
ディーナははしゃぐチャを止めたが、背中に体当たりされたコリンがすでに悲鳴が上げていた。
「……ごめんんさいなの! あ、コリン君」
「ちょっと会わない間にチャが一回り大きくなった気がする」
コリンが言うと、チャは胸を張る。クロと白いユグディラは真意に気づいているのか、首を横に振っている。2匹も買ってもらったらしい、串焼きを手にしているので同じ道を歩んでいるかもしれない。
「……それ、食べ過ぎだよ、ってことかな?」
「はい」
シロがコリンに確認を入れた。
「あれ? これ七夕飾りなの?」
ディーナがシロの持つ箱に気づいて確かめる。
「そうです、これから、七夕飾りをしにいこうかと」
「行くの! 行きそびれるところだったの」
コリンとシロにディーナとユグディラ3匹が加わった。
「ヴィルマ、危ない」
手をつないだヨルムガンドは飛び跳ねる猫からヴィルマを守るように、引っ張る。
「……礼はいうが……あのくらいではびくともせぬぞ」
「そ、そうかもしれないけど」
パティシエと話し込み、彼からいろんな飴の試食させてもらったり、飴細工を見せてもらったりかなり長い時間いた。
「飴も様々じゃな。食べられるとはいえ、あんな細工されるともったいない」
「食べたら終わり……でも、見た目がきれいだと、味も違う……かな」
「そうかものう」
ヴィルマの小さな笑い声を聞き、」ヨルムガンドは口に含んだ飴をカリッとかんだ。口いっぱいにこれまでにない味が広がり、ふっと口元が緩んだ。
空に小さな花火があがる。
花火が上がるとはマリィアは思っていなかった。5発で終わったので寂しい気もしたが、小さい花火でも心は華やいだ。
屋台で適度に忙しく動いていたマリィアは終わりの時間が来たもと感じた。
「材料代、場所代……なんだかんだでトントンねぇ」
楽しまなかったわけではないが、商売にするには考えないといけない。
「さて、片づけが終わるまでがお祭りってね」
熱気が残る周囲を見つつ、最後まで客と周囲の店主としゃべり楽しんだのだった。
花火をちらりと見たコリンは「領主様のお屋敷のほうです」という。予定外らしいが、領主なりのプレゼントなのかもしれない。
「飾っちゃおう」
シロが取り出した七夕飾りに3匹が反応を示す。
短冊と筆記用具を手にディーナはユグディラを近くに集合させる。
「これに希望を書くのよ? 人間の言葉は理解していると聞いたの。どれがいいのか、反応してくれると嬉しいの。あたしが代筆するの」
3匹は首を傾げ、にゃあにゃあ言う。
「ごはんがいっぱい食べられますように……世界がユグディラで満ち溢れますように……世界が幸せになりますように……楽しいことがいっぱいありますように……」
思いつくまま告げるディーナ。前足をあげて反応するユグディラ。
「えと、チャ様が『楽しいこと』、クロ様が『世界平和』……ホワイト様が『幸せいっぱい』。あたしは『世界中のふわもこを愛でる!』」
「コリン君は?」
「……秘密です!」
短冊は2人の連携で竹に飾られる際に読まれた。内容は隠すこともない、薬草園の主の助手となった彼らしいものだった。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談など カティス・フィルム(ka2486) 人間(クリムゾンウェスト)|12才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/07/18 18:04:08 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/07/18 17:58:14 |