ゲスト
(ka0000)
【蒼乱】王国騎士の宇宙戦艦生活
マスター:馬車猪
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~16人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/07/19 22:00
- 完成日
- 2016/07/24 19:25
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
※この依頼に参加しなくても転移実験に参加可能です※
※この依頼に参加しただけでは転移実験参加扱いになりません※
●朝。目覚ましの止め方が分からない
騎士メーガンの朝は早い。
テント内で目を覚まし、熟睡中のパルムを腹から下ろして身支度を整える。
「行ってくる」
一言言い残して残してねぐらから出た。
暖かな光が肌を温め豊かな緑が目を楽しませてくれる。
街だ。道の舗装から個々の家まで、リゼリオを上回る技術と資材が使われていた。
「すごいな」
ここはサルヴァトーレ・ロッソ居住区。
地球への転移実験参加者が住む、ロッソ内で最も騒がしい場所の1つである。
●午前。ネジの1つも締められない
「スラスターを5セット持ってこい!」
古参の整備兵が部下を怒鳴りつける。
肌は荒れ目の下のくまが酷い。
「無理です。小型のフォークリフトも出払って……」
十分な休養をとった若手がなんとか宥めようとする。
「馬鹿野郎地球に戻ったらお前等がなんとかするんだよ。ここでもなんとかしろ!」
無茶苦茶な言いかがりを浴びせられてしまい、若手がひぃっと情けない悲鳴をあげた。
整備兵が奥歯を噛みしめる。
彼は転移実験に参加できない。
一部ハンターのような高度整備技術を持たず、苛酷な環境に耐えうる覚醒者でもなく、何より妻と産まれたばかりの子がクリムゾンウェストにいるからだ。
「スラスターはこれで良かったか?」
唐突に、巨大なCAMパーツが整備士達の目の前に差し出された。
古参整備兵が目を見開き呆然と大口を開ける。
若手整備士がやれやれと肩をすくめメーガンに向き直った。
「これじゃないです。あれですあれ」
「そうか」
手間をかけたと言って軽く頭を下げる。
脚部パーツが動いて古参整備士の前髪を揺らす。
「なんて力だ。覚醒者ってのは人型重機か?」
古参整備兵が感嘆半分混乱半分で呟く横で、若手はいきなり迷うメーガンを声で誘導していた。
●昼。コンロの火すら付けられない
よく冷えたジュースの缶を、一見なんの変哲もない指で平然と剥いた。
中身は炭酸飲料だ。
当然のように勢いよく噴き出し、メーガンの顔と髪を甘い汁で染め上げた。
「むずかしい」
「あんたへの教育が難しいよ!」
教育担当の士官が制帽を床に叩きつけた。
「あなたの教育には満足している。昨日は」
メーガンの瞳に伶俐っぽい光が浮かぶ。
「勝手に動くドアにすべり込めたのだ」
「自動ドアくらい最初の5分で使えるようになれよもう3日目だよ3日目!」
わめき散らすのは士官として相応しくない態度なのは分かっているのに止まらない。
「むずかしいな」
ジュースまみれの手ぬぐいを絞るメーガン。
無力感と虚無感に負けうずくまりそうになる士官。
ここ数日ロッソ内で良く見られる光景だった。
そんな光景を、複数の士官がブリッジから注視していた。
「王国の教育水準は恐ろしく低いのかね?」
「異世界の義勇兵というのは政治的には有用だ。だがさすがにこれは」
目がどんよりした2人に、CAMおよびクリムゾンウェスト機体担当の士官が声をかけた。
「王国にとっては苦渋の決断だったのでしょう。彼女もなかなかの人材ですよ」
実機での操縦記録とシミュレータの記録を呼び出し2人に示す。
「10時間以上集中を切らさず戦闘可能だと!」
「この体力、彼女は本当に人間かね」
疑わしげな視線がディスプレイ上のメーガンに向けられた。
「それを決めるのは我々ではありませんよ」
肩をすくめる仕草が非常に似合っている。
「人力パワードスーツとしても人型重機としても期待できます。何が出てくるか分からない実験への道連れとしては、個人的には大歓迎ですよ」
画面のメーガンは、箸でヌードルを摘もうとして鉄製のそれを折り曲げてしまっていた。
●午後。宇宙服を1人で着られない
真空に近い部屋で、緊急事態を示すランプがいくつも灯った。
『実験を中止します。被験者は直ちに酸素ボンベを……』
メーガンが自分の手足を見た。
いつもの間隔で動いただけなのに、とても立派に見える装備に細かな亀裂が入ってしまった。
それとちょっと息苦しい。
なお、彼女にとってもいつも通りは平均的人間の非常識だ。
「メーガンさん! 意識は、この指何本に見えますか!?」
酸素ボンベ装備の医師と看護婦が実験場に飛び込んできた。
まるで瀕死の重傷者がいるかのような態度だ。
「1、2、3……3本だ」
重々しくうなずく。見た目だけなら頼りがいがあった。
2時間後。
頑丈すぎるメーガンと精密検査しようとする医師の戦いは、検査結果に頭を抱える医師と腹を空かせたメーガンの引き分けで終わった。
メーガンはいつも通りの足取りで仕事場に向かう。
格納庫は相変わらず喧噪に満ち、CAMと魔導アーマーの宇宙戦仕様への改造に苦戦していた。
「無理です!」
「馬鹿野郎、量産型は無理でもヘイムダルなら気密維持は可能だ。出発までに仕上げるんだ! 量産型用の宇宙服も忘れるなよ」
「処理能力の割当てを増やしてくださいよぉ! 背中のスラスター1つで宇宙戦闘なんて無理って言ってるでしょぉっ。計算し尽くした位置に複数要るんですってばっ」
「宇宙専用武器? ンなもん作ってる余裕なんてねぇよほらまだ今日のノルマ10機以上残ってっぞ」
何を言っているのかさっぱり分からない。
メーガンは見た目だけ重々しく首肯して、整備兵の指示に従い荷運びを再開するのだった。
●夜。噴水付きトイレは魔性の発明
数日前まで無人だった区間は、夜になっても眠る気配がない。
物思いに耽る者。
親しい相手と別れを惜しむ者。
実験に志願したクリムゾンウェスト人だけでなく、故郷へ戻る地球人の中にも迷い戸惑う者達がいる。
無論、とうに覚悟を決めた人物もいるし、深く考えていないメーガンもいる。
「おやすみ」
夜遊びに出かけるパルムを見送って、メーガンは公園内のテントで横になる。
明日も早い。
何人か増援が、特にハンターの増援が欲しいと思いながら眠りの世界に旅立った。
※この依頼に参加しただけでは転移実験参加扱いになりません※
●朝。目覚ましの止め方が分からない
騎士メーガンの朝は早い。
テント内で目を覚まし、熟睡中のパルムを腹から下ろして身支度を整える。
「行ってくる」
一言言い残して残してねぐらから出た。
暖かな光が肌を温め豊かな緑が目を楽しませてくれる。
街だ。道の舗装から個々の家まで、リゼリオを上回る技術と資材が使われていた。
「すごいな」
ここはサルヴァトーレ・ロッソ居住区。
地球への転移実験参加者が住む、ロッソ内で最も騒がしい場所の1つである。
●午前。ネジの1つも締められない
「スラスターを5セット持ってこい!」
古参の整備兵が部下を怒鳴りつける。
肌は荒れ目の下のくまが酷い。
「無理です。小型のフォークリフトも出払って……」
十分な休養をとった若手がなんとか宥めようとする。
「馬鹿野郎地球に戻ったらお前等がなんとかするんだよ。ここでもなんとかしろ!」
無茶苦茶な言いかがりを浴びせられてしまい、若手がひぃっと情けない悲鳴をあげた。
整備兵が奥歯を噛みしめる。
彼は転移実験に参加できない。
一部ハンターのような高度整備技術を持たず、苛酷な環境に耐えうる覚醒者でもなく、何より妻と産まれたばかりの子がクリムゾンウェストにいるからだ。
「スラスターはこれで良かったか?」
唐突に、巨大なCAMパーツが整備士達の目の前に差し出された。
古参整備兵が目を見開き呆然と大口を開ける。
若手整備士がやれやれと肩をすくめメーガンに向き直った。
「これじゃないです。あれですあれ」
「そうか」
手間をかけたと言って軽く頭を下げる。
脚部パーツが動いて古参整備士の前髪を揺らす。
「なんて力だ。覚醒者ってのは人型重機か?」
古参整備兵が感嘆半分混乱半分で呟く横で、若手はいきなり迷うメーガンを声で誘導していた。
●昼。コンロの火すら付けられない
よく冷えたジュースの缶を、一見なんの変哲もない指で平然と剥いた。
中身は炭酸飲料だ。
当然のように勢いよく噴き出し、メーガンの顔と髪を甘い汁で染め上げた。
「むずかしい」
「あんたへの教育が難しいよ!」
教育担当の士官が制帽を床に叩きつけた。
「あなたの教育には満足している。昨日は」
メーガンの瞳に伶俐っぽい光が浮かぶ。
「勝手に動くドアにすべり込めたのだ」
「自動ドアくらい最初の5分で使えるようになれよもう3日目だよ3日目!」
わめき散らすのは士官として相応しくない態度なのは分かっているのに止まらない。
「むずかしいな」
ジュースまみれの手ぬぐいを絞るメーガン。
無力感と虚無感に負けうずくまりそうになる士官。
ここ数日ロッソ内で良く見られる光景だった。
そんな光景を、複数の士官がブリッジから注視していた。
「王国の教育水準は恐ろしく低いのかね?」
「異世界の義勇兵というのは政治的には有用だ。だがさすがにこれは」
目がどんよりした2人に、CAMおよびクリムゾンウェスト機体担当の士官が声をかけた。
「王国にとっては苦渋の決断だったのでしょう。彼女もなかなかの人材ですよ」
実機での操縦記録とシミュレータの記録を呼び出し2人に示す。
「10時間以上集中を切らさず戦闘可能だと!」
「この体力、彼女は本当に人間かね」
疑わしげな視線がディスプレイ上のメーガンに向けられた。
「それを決めるのは我々ではありませんよ」
肩をすくめる仕草が非常に似合っている。
「人力パワードスーツとしても人型重機としても期待できます。何が出てくるか分からない実験への道連れとしては、個人的には大歓迎ですよ」
画面のメーガンは、箸でヌードルを摘もうとして鉄製のそれを折り曲げてしまっていた。
●午後。宇宙服を1人で着られない
真空に近い部屋で、緊急事態を示すランプがいくつも灯った。
『実験を中止します。被験者は直ちに酸素ボンベを……』
メーガンが自分の手足を見た。
いつもの間隔で動いただけなのに、とても立派に見える装備に細かな亀裂が入ってしまった。
それとちょっと息苦しい。
なお、彼女にとってもいつも通りは平均的人間の非常識だ。
「メーガンさん! 意識は、この指何本に見えますか!?」
酸素ボンベ装備の医師と看護婦が実験場に飛び込んできた。
まるで瀕死の重傷者がいるかのような態度だ。
「1、2、3……3本だ」
重々しくうなずく。見た目だけなら頼りがいがあった。
2時間後。
頑丈すぎるメーガンと精密検査しようとする医師の戦いは、検査結果に頭を抱える医師と腹を空かせたメーガンの引き分けで終わった。
メーガンはいつも通りの足取りで仕事場に向かう。
格納庫は相変わらず喧噪に満ち、CAMと魔導アーマーの宇宙戦仕様への改造に苦戦していた。
「無理です!」
「馬鹿野郎、量産型は無理でもヘイムダルなら気密維持は可能だ。出発までに仕上げるんだ! 量産型用の宇宙服も忘れるなよ」
「処理能力の割当てを増やしてくださいよぉ! 背中のスラスター1つで宇宙戦闘なんて無理って言ってるでしょぉっ。計算し尽くした位置に複数要るんですってばっ」
「宇宙専用武器? ンなもん作ってる余裕なんてねぇよほらまだ今日のノルマ10機以上残ってっぞ」
何を言っているのかさっぱり分からない。
メーガンは見た目だけ重々しく首肯して、整備兵の指示に従い荷運びを再開するのだった。
●夜。噴水付きトイレは魔性の発明
数日前まで無人だった区間は、夜になっても眠る気配がない。
物思いに耽る者。
親しい相手と別れを惜しむ者。
実験に志願したクリムゾンウェスト人だけでなく、故郷へ戻る地球人の中にも迷い戸惑う者達がいる。
無論、とうに覚悟を決めた人物もいるし、深く考えていないメーガンもいる。
「おやすみ」
夜遊びに出かけるパルムを見送って、メーガンは公園内のテントで横になる。
明日も早い。
何人か増援が、特にハンターの増援が欲しいと思いながら眠りの世界に旅立った。
リプレイ本文
●死地へ送る者の覚悟
クオン・サガラ(ka0018)は困り果てていた。
目の前にはクリムゾンウェスト出身者が十数名。
優れた体力知力と冒険心に富んだ精鋭たちが、無重力状態を全く理解出来ないでいる。
「そうですね。無重力に似た環境を経験してもらいましょう」
実験の成功率は6割。
成功しても結果として努力が無駄になる確率を引くと5割を切る。
それでも志願した彼らの覚悟に答えるため、クオンは20名近い男女を引き連れ訓練施設へ移動を開始した。
その仮設プールでは小柄な宇宙服が機敏に動いていた。
梯子を登って密閉されたドアに取り付き、所定の動作を行い解錠する。
「無駄な力がかかっているわ。宇宙服の大きさを意識して最初からやり直し」
ミュアリスは、はいと返事をしようとして通信機の操作に戸惑う。
そんなささいな失敗も貴重な情報だ。
初めて宇宙服を着た者が何に戸惑い何を知らないのか。それが分かれば効率よく知識と技術を教え込むことが可能になる。
「厳しいな」
鹿島 雲雀(ka3706)がキーを叩きながらちらりと見ると、フィルメリア・クリスティア(ka3380)はミュリアスをディスプレイ越しに注視しながら軽くうなずいた。
ここならいつでも助けにいける。
冷たさを感じるほど整った顔には、母としての情が浮かんでいた。
「よし出来た」
雲雀が伸びをする。
長時間ディスプレイと向き合っていたので体のあちこちが凝っている。
「一応確認してくれ」
転送する。フィルメリアは画面端に表示された文章を短時間に確認し終え、感心半分驚き半分で瞬きする。
「子供でも分かる宙間戦闘マニュアル?」
文章が短く内容も平易。付け足そうと思えばいくらでも付け足せるが最低限の内容は全て含まれている。
「言葉を飾らなくてもいいぜ。メーガンでも分かる内容にしたからな」
この場合メーガン(kz0098)と書いて馬鹿と読む。
「あの馬鹿直感型ですらなかったからなー」
直接の知り合いから情報収集した後、本人と飯を食いながら話をした。
「体で覚えるまで繰り返してただけだもんな。耐久力と体力のごり押しで」
王国の教育力ってすげー、と数時間遅れの昼食をとりながらため息をつく。
『クオンです。今志願者第2班と一緒にプール前に到着しました。今宙間戦闘マニュアルを受け取りました』
「了解。ミュア、一度上がって」
「そこに並べている宇宙服を使ってくれ。クリムゾンウェストに残る整備の連中がくれた奴だ」
『はい』
この世界で生まれた男女が、クオンに指揮され初めて見る装備を身につけていく。
『メーガンさんヘルメットが逆です。1時間前に教えましたよね?』
クオンに散々迷惑をかけたメーガンだが準備を終えるのは早かった。
「身体能力は高いのね。リアルブルーの常人が使用する既存の物では足りないか」
今回集まったハンターは皆、地球の宇宙服を壊さず使えている。
しかしメーガンを見ると既存の宇宙服では足りないと感じてしまう。
『メーガンさん!』
成人女性サイズの宇宙服が勢いよく回転して水中を進む。
壁で受け身をとろうとして失敗。聞くだけで痛そうな音が生じた。
『問題ない』
『空気が漏れています。上がってください!』
こんな状況でも指導できるクオンの精神力が光っていた。
「細かい力加減の調整は転移までに出来る限り教え込むとして」
フィルメリアがメーガンを無慈悲にクオンへに任せる。
「後は耐久性と柔軟性の強化が間に合うか、ね」
「難しいと思うぞ。予定外のは小改造でも難しいらしいし」
雲雀はパックの紅茶でサンドイッチを流し込み、設計用ソフトを立ち上げた。
「装甲宇宙服は無理でもなんとかしないとな。最悪補修用テープを貼るにしても巻き方を考えおかないと」
着替えてもう一度プールに入ったメーガンが格闘武器を振る。
水の抵抗を力尽くで突破する。
しかし狙いは大きくはずれて壁を打ち据え反動でまた吹き飛ぶ。
「期間中にCAMの訓練に入れるか不安になってきたわ」
「同感だ」
2人同時に冗談を飛ばし、宇宙服とCAM訓練の準備を進めていった。
●不夜城
ロッソの格納庫は深夜でも真昼のようだ。
大量の物資が外から運び込まれ、大勢の整備士がロッソと兵器群の面倒を見て、少量の装備が外部へ運び出されていく。
「ドワーフ殿、いつも通りたくましいな」
「それ普通は侮辱的表現ですからね!」
メーガンとアルシュナが連れだって歩いている。
あちらで資材を受け取りこちらではCAMのパーツを渡され指示通りの場所へ置いてくる。
なお、整備兵の間ではメーガンが被保護者扱いだ。
「おい兄ちゃん、休まないとぶっ倒れるぜ」
仮眠開けの整備士が電算室に入ってきて席についた。
「後4時間程度なら問題ありません」
アルファス(ka3312)は組終えたプログラムに仮想環境での実行を命じ、席から立って魔法瓶とカップ2つを取ってくる。
中身は昨日差し入れられたコーヒーだ。
「誰だよこのコード書いたの! 昨日の俺だよ畜生。って悪いね」
カフェインを摂取すると整備士の顔色が少しましになる。
自分の分も煎れて席に戻ると、数日前の上申の返事が着信していた。
『人足りな。助けてち』
差出人は高位の軍人で間違いない。
直後複数のメールが新たに着信する。
高級軍人とは思えない誤字脱字まみれの書面だが書いていることは簡単だ。
受け取った。考慮する。採用するかどうかは分からない。
ふと気づいてロッソから搬出される予定の荷を調べてみると、無改造のガトリングが複数含まれていた。これだけはなんとかなるかもしれない。
酸味が濃すぎるコーヒーでカフェインを補給していると、実行結果が出力された。
操縦者が上と認識した方向を基準に機体が自動で姿勢調整する機能。
簡単なコマンドで急制動をかけ機体安定させる機能。オプションで援護要請を自動発信とコクピットをシールドで保護する機能。
1から作っても骨格を作ってロッソの人間に任せても全く時間が足りないので、全て既存のソフトの改修版だ。
「あちらで1戦交えた後は全修正必須でしょうけど、ね」
このソフトは完成次第シミュレータールームに送られた。
「な」
ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)の青い瞳が見開かれる。
情報の更新が早すぎヘッドマウントディスプレイがフレーム落ちしたのだ。
僚機からの信号が途絶える。
メーガン機の撃墜は今日だけで5度目だ。
仮想の凶器が巨大な触手を伸ばしてくる。
ユーリ機が状態を逸らす。
数センチの差で衝突が回避され、勢いのつきすぎた触手と本体がCAMをかすめて仮想の深淵に消えていく。
『敵第三陣ポップ』
操縦桿を動かし機体とスラスターの向きを調節し、高難度ピアノ曲以上の難度の操作をボタンで行う。
ユーリはCAMの各関節を駆動範囲を把握している。だから生身に近い動きが出来る。
歪虚に囲まれる前にスラスターを吹かせて離脱。
単独で立ちふさがる狂気にカタナを振り下ろし、またフレーム落ちしかかったところでアルファスのプログラムが効果を発揮しフレーム落ちを回避する。
「アル、これは正しく動いているの?」
戦闘中の思考を記録に残すつもりで口に出す。
プログラマーから見れば単身数日での仕事としては最高の最高だけれども、実際に乗り込むユーリ達にとっては信頼しきれない新装備でしかない。
そうしているうちに味方戦力が崩壊する。
コマンド連打で各関節をほぼ直接操作するユーリも消耗が激しい。地上でなら1日でも戦える精神が疲弊しきり、1会戦乗り切る前に直撃打を浴びた。
HMDを外すとフィルメリアがすぐ近くにいた。
渡された冷たいスポーツドリンクが気持ちいい。
「ユーリの操縦は問題ないわ。休憩時間で地球近傍の地形を覚えておいて」
シミュレーターが、歪虚のいる戦場ではなく天文学的に広い空間を映し出していた。
●裏方の戦場
「ブル! 生きてたか!」
苦労が刻まれた顔を笑みでしわくちゃにして、古参の整備兵たちがブル・レッドホーン(ka3406)を取り囲んだ。
「久しぶりだな」
親愛を込めたパンチに軽いパンチで応える。
「応、お前も元気そうで何よりだ」
「何の用だってのは愚問だな」
「ああ。しばし代わろう。何、少しの間なら2~3人分の働きくらいできる。一服して来ると良い。張り詰め過ぎても能率が落ちるからな」
ブルが喫煙所を指さす。
男達はにやりと笑い、疲労した心身で精一杯の見栄を張って堂々と休憩所に向かっていった。
「変わっていないな」
格納庫の一角をデュミナスの群れが占領している。
数年前は新奇な兵器だったものも今では古参だ。
整備途中の機体をざっと見て状況を把握。ボトルネックとなる作業を慣れた様子で片付けていく。
パーツを取り替えすらしない、大きなパーツの固定を緩めたり締めたりするだけの非常に地味な作業だ。
ひたすら体力と精神力を消耗するだけの仕事を、ブルは倦まず弛まず正確に仕上げていった。
「帝国からのトラックが来るぞー」
離れた区画から大声が響いてきた。
最近よく聞く音だ。魔導トラック、しかも大型だ。
作業中のブルの10メートル先で危なげ無く停車する。
「ブルさん」
エイリア・ミルトン(ka3453)が運転席から顔を出す。
艶のある髪が窓の外に垂れて揺れる。
「スラスターの在庫あります? 進路変更用でもいいので」
「うん? CAMの修理かい?」
4機目の作業を終え引き継ぎのメモ書きを残して車両に近づく。
「なかなかのものでしょう」
荷台には魔導アーマー「ヘイムダル」が固定されている。
CAMの影響を受けた、覚醒者専用魔導アーマーだ。
デュミナスに迫る性能を持つといえ陸上兵器として開発されたのでスラスターは標準装備では無い。
「後、設計用の端末と処理能力の申請を」
したいのです、と言う前にブルがタブレット状端末を投げ渡した。
「急ぎなんだろう? 私が運んでおくよ」
入れ替わりで運転席に入り開いた空間へ移動させていった。
「さて、私はヘイムダルの改修……の前に配置の計算だね。スラスター1つって訳にもね」
スラスター故障即未帰還という展開は絶対に避けたい。
膨大なパラメーターを高速で打ち込み終え、ロッソ内部の高性能計算機にアクセスして最も効率の良い位置を探らせる。
「何この計算結果」
画面をつんつんしても結果は変わらない。
実際の運用では問題が多発しそうな配置が複数表示されている。宇宙戦闘に慣れたCAM乗りを前提に計算しているようだ。
「時間がない。多めの取り付け案を採用して……最悪でも砲台化できるよう、ロッソや輸送船の上に固定できるようしないと」
数を確保できる改造とパーツを脳内で検索。
覚醒者の体力があれば個人の工夫でなんとかなりそうだ。ロープぐるぐる巻きという手もあるし。
「メーガン君か。機体を持っているなら重装甲仕様にチューンしようか?」
荷物を置いて帰ってきたブルとメーガンが遭遇して話をしている。
本人は熱心に同意する。だが同行していたゼクスが慌てて割って入った。
先程までシミュレータでのCAM戦闘につきあっていた彼は、メーガンの欠点についてよく知っている。
AR、カタナ、シールドの基本装備で可能な限り搭載ソフトに任せないとまともに操縦出来ない。
「大変だね」
「制御効率化プログラムをそっちにも回しておきますね」
エイリアが口を挟み、ブルが安堵に近い表情を浮かべた。
「エイリア! 時間の使いすぎよ。この私が手伝ってあげているのを忘れないでよね」
ヘイムダルが立ち並ぶ一角からソルネイティアの声が聞こえた。
魔術師ギルドに所属する彼女にとって、ヘイムダルの整備と改造は容易ではないが可能な仕事だ。
彼女が頑張るほどCAMに慣れたロッソ整備員が効率よく仕事をできる。
「うん、今行くね」
エイリアが取り付け作業前に作成したものが、いつの間にかソフトに組み込まれ多くの機体に反映されることになる。
●未知への備え
「目的は一つ。何も考えずとも、反射で動けるようになるまで訓練だ。小手先の技は不要!」
仁王立ちで訓練会場を見下ろす雲雀の後ろで、フィルメリアがロッソの現役士官から報告を受けている。
「素晴らしい仕上がりです」
紅潮する若手士官。
しかし報告を受けた彼女は訓練生から見えない角度で首を横に振った。
「あの」
フィアリスが母の怒りに気づき恐る恐る声をかけようとした。
「この機会にロッソに慣れておきなさい。フィアはもうCAM初心者とはいえないから」
CAM初心者だった彼も今では結構な熟練者だ。一般訓練生とは差がつきすぎてしまっている。
『誰が戦場でのんびりしろと言った! 躱……ちっ』
グレイブの叱責はメーガン機が墜ちたことで中断される。
『何万回でも死んで身体で覚えろ』
休憩時感無しで、別グループの演習にメーガン機を出現させた。
榊 兵庫(ka0010)のCAMが容赦なく30ミリ弾を撃ち込む。
メーガンは実戦経験だけは豊富な覚醒者だ。
人間の限界について調べ直したくなる速度で反応しCAMへ回避および防御を指示をした。
「地に足が付いた状態と宇宙空間ではまるっきり別物だからな。ソフトの設定の切り替えを機体に頼るな」
兵庫の推測は当たっていた。
メーガンの機体は新兵以下の雑な動きで回避に失敗。シールドで受けることにもしくじり胸部装甲を凹ませた。
「まだ切り替わっていないぞ」
メーガン機が発砲。
兵庫は反撃の30ミリを最小限の横移動で回避。
遮蔽物のない場所へおびき寄せて友軍の105ミリで仕留めさせた。
『大将、すまねぇ、息苦しい』
友軍パイロットの声が乱れている。
兵庫の顔色が変わった。
「オペレーター、演習参加者の隊長を確認してくれ」
『はい、今……演習を中断しますっ!』
メディーック! という叫びと同時に映像が止まり全く動かなくなる。
兵庫がHMDを外す。
宇宙服が鬱陶しい。元々鍛えていた上にハンターとしても鍛え抜いた彼なら何時間でも耐えられるがそうでない者もいる。
「ハンター以外で無事なのはメーガンだけか。いや別の意味で無事ではないが」
参加者の多くは慣れない宇宙服のストレスや体力不足で体調不良。例外の女騎士はそれ以前の問題だ。
「なるべく分かりやすい形まで落とし込まないと、な」
CAMの設定修正案と宇宙戦闘マニュアルの修正案を素早く打ち込み上へ送信する。
「転移実験が成功すればあちらに戻ることも可能か。あちらへの帰還を望む者の為にも俺も尽力せねばならないな」
休憩ともいえぬ休憩をとってすぐ、次の演習参加者と共にシミュレータを起動した。
ハンター達は依頼期間終了日の深夜まで教育と準備を進めた。
ここまでしても、実験参加者の予想生存確率は8割に達していない。
クオン・サガラ(ka0018)は困り果てていた。
目の前にはクリムゾンウェスト出身者が十数名。
優れた体力知力と冒険心に富んだ精鋭たちが、無重力状態を全く理解出来ないでいる。
「そうですね。無重力に似た環境を経験してもらいましょう」
実験の成功率は6割。
成功しても結果として努力が無駄になる確率を引くと5割を切る。
それでも志願した彼らの覚悟に答えるため、クオンは20名近い男女を引き連れ訓練施設へ移動を開始した。
その仮設プールでは小柄な宇宙服が機敏に動いていた。
梯子を登って密閉されたドアに取り付き、所定の動作を行い解錠する。
「無駄な力がかかっているわ。宇宙服の大きさを意識して最初からやり直し」
ミュアリスは、はいと返事をしようとして通信機の操作に戸惑う。
そんなささいな失敗も貴重な情報だ。
初めて宇宙服を着た者が何に戸惑い何を知らないのか。それが分かれば効率よく知識と技術を教え込むことが可能になる。
「厳しいな」
鹿島 雲雀(ka3706)がキーを叩きながらちらりと見ると、フィルメリア・クリスティア(ka3380)はミュリアスをディスプレイ越しに注視しながら軽くうなずいた。
ここならいつでも助けにいける。
冷たさを感じるほど整った顔には、母としての情が浮かんでいた。
「よし出来た」
雲雀が伸びをする。
長時間ディスプレイと向き合っていたので体のあちこちが凝っている。
「一応確認してくれ」
転送する。フィルメリアは画面端に表示された文章を短時間に確認し終え、感心半分驚き半分で瞬きする。
「子供でも分かる宙間戦闘マニュアル?」
文章が短く内容も平易。付け足そうと思えばいくらでも付け足せるが最低限の内容は全て含まれている。
「言葉を飾らなくてもいいぜ。メーガンでも分かる内容にしたからな」
この場合メーガン(kz0098)と書いて馬鹿と読む。
「あの馬鹿直感型ですらなかったからなー」
直接の知り合いから情報収集した後、本人と飯を食いながら話をした。
「体で覚えるまで繰り返してただけだもんな。耐久力と体力のごり押しで」
王国の教育力ってすげー、と数時間遅れの昼食をとりながらため息をつく。
『クオンです。今志願者第2班と一緒にプール前に到着しました。今宙間戦闘マニュアルを受け取りました』
「了解。ミュア、一度上がって」
「そこに並べている宇宙服を使ってくれ。クリムゾンウェストに残る整備の連中がくれた奴だ」
『はい』
この世界で生まれた男女が、クオンに指揮され初めて見る装備を身につけていく。
『メーガンさんヘルメットが逆です。1時間前に教えましたよね?』
クオンに散々迷惑をかけたメーガンだが準備を終えるのは早かった。
「身体能力は高いのね。リアルブルーの常人が使用する既存の物では足りないか」
今回集まったハンターは皆、地球の宇宙服を壊さず使えている。
しかしメーガンを見ると既存の宇宙服では足りないと感じてしまう。
『メーガンさん!』
成人女性サイズの宇宙服が勢いよく回転して水中を進む。
壁で受け身をとろうとして失敗。聞くだけで痛そうな音が生じた。
『問題ない』
『空気が漏れています。上がってください!』
こんな状況でも指導できるクオンの精神力が光っていた。
「細かい力加減の調整は転移までに出来る限り教え込むとして」
フィルメリアがメーガンを無慈悲にクオンへに任せる。
「後は耐久性と柔軟性の強化が間に合うか、ね」
「難しいと思うぞ。予定外のは小改造でも難しいらしいし」
雲雀はパックの紅茶でサンドイッチを流し込み、設計用ソフトを立ち上げた。
「装甲宇宙服は無理でもなんとかしないとな。最悪補修用テープを貼るにしても巻き方を考えおかないと」
着替えてもう一度プールに入ったメーガンが格闘武器を振る。
水の抵抗を力尽くで突破する。
しかし狙いは大きくはずれて壁を打ち据え反動でまた吹き飛ぶ。
「期間中にCAMの訓練に入れるか不安になってきたわ」
「同感だ」
2人同時に冗談を飛ばし、宇宙服とCAM訓練の準備を進めていった。
●不夜城
ロッソの格納庫は深夜でも真昼のようだ。
大量の物資が外から運び込まれ、大勢の整備士がロッソと兵器群の面倒を見て、少量の装備が外部へ運び出されていく。
「ドワーフ殿、いつも通りたくましいな」
「それ普通は侮辱的表現ですからね!」
メーガンとアルシュナが連れだって歩いている。
あちらで資材を受け取りこちらではCAMのパーツを渡され指示通りの場所へ置いてくる。
なお、整備兵の間ではメーガンが被保護者扱いだ。
「おい兄ちゃん、休まないとぶっ倒れるぜ」
仮眠開けの整備士が電算室に入ってきて席についた。
「後4時間程度なら問題ありません」
アルファス(ka3312)は組終えたプログラムに仮想環境での実行を命じ、席から立って魔法瓶とカップ2つを取ってくる。
中身は昨日差し入れられたコーヒーだ。
「誰だよこのコード書いたの! 昨日の俺だよ畜生。って悪いね」
カフェインを摂取すると整備士の顔色が少しましになる。
自分の分も煎れて席に戻ると、数日前の上申の返事が着信していた。
『人足りな。助けてち』
差出人は高位の軍人で間違いない。
直後複数のメールが新たに着信する。
高級軍人とは思えない誤字脱字まみれの書面だが書いていることは簡単だ。
受け取った。考慮する。採用するかどうかは分からない。
ふと気づいてロッソから搬出される予定の荷を調べてみると、無改造のガトリングが複数含まれていた。これだけはなんとかなるかもしれない。
酸味が濃すぎるコーヒーでカフェインを補給していると、実行結果が出力された。
操縦者が上と認識した方向を基準に機体が自動で姿勢調整する機能。
簡単なコマンドで急制動をかけ機体安定させる機能。オプションで援護要請を自動発信とコクピットをシールドで保護する機能。
1から作っても骨格を作ってロッソの人間に任せても全く時間が足りないので、全て既存のソフトの改修版だ。
「あちらで1戦交えた後は全修正必須でしょうけど、ね」
このソフトは完成次第シミュレータールームに送られた。
「な」
ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)の青い瞳が見開かれる。
情報の更新が早すぎヘッドマウントディスプレイがフレーム落ちしたのだ。
僚機からの信号が途絶える。
メーガン機の撃墜は今日だけで5度目だ。
仮想の凶器が巨大な触手を伸ばしてくる。
ユーリ機が状態を逸らす。
数センチの差で衝突が回避され、勢いのつきすぎた触手と本体がCAMをかすめて仮想の深淵に消えていく。
『敵第三陣ポップ』
操縦桿を動かし機体とスラスターの向きを調節し、高難度ピアノ曲以上の難度の操作をボタンで行う。
ユーリはCAMの各関節を駆動範囲を把握している。だから生身に近い動きが出来る。
歪虚に囲まれる前にスラスターを吹かせて離脱。
単独で立ちふさがる狂気にカタナを振り下ろし、またフレーム落ちしかかったところでアルファスのプログラムが効果を発揮しフレーム落ちを回避する。
「アル、これは正しく動いているの?」
戦闘中の思考を記録に残すつもりで口に出す。
プログラマーから見れば単身数日での仕事としては最高の最高だけれども、実際に乗り込むユーリ達にとっては信頼しきれない新装備でしかない。
そうしているうちに味方戦力が崩壊する。
コマンド連打で各関節をほぼ直接操作するユーリも消耗が激しい。地上でなら1日でも戦える精神が疲弊しきり、1会戦乗り切る前に直撃打を浴びた。
HMDを外すとフィルメリアがすぐ近くにいた。
渡された冷たいスポーツドリンクが気持ちいい。
「ユーリの操縦は問題ないわ。休憩時間で地球近傍の地形を覚えておいて」
シミュレーターが、歪虚のいる戦場ではなく天文学的に広い空間を映し出していた。
●裏方の戦場
「ブル! 生きてたか!」
苦労が刻まれた顔を笑みでしわくちゃにして、古参の整備兵たちがブル・レッドホーン(ka3406)を取り囲んだ。
「久しぶりだな」
親愛を込めたパンチに軽いパンチで応える。
「応、お前も元気そうで何よりだ」
「何の用だってのは愚問だな」
「ああ。しばし代わろう。何、少しの間なら2~3人分の働きくらいできる。一服して来ると良い。張り詰め過ぎても能率が落ちるからな」
ブルが喫煙所を指さす。
男達はにやりと笑い、疲労した心身で精一杯の見栄を張って堂々と休憩所に向かっていった。
「変わっていないな」
格納庫の一角をデュミナスの群れが占領している。
数年前は新奇な兵器だったものも今では古参だ。
整備途中の機体をざっと見て状況を把握。ボトルネックとなる作業を慣れた様子で片付けていく。
パーツを取り替えすらしない、大きなパーツの固定を緩めたり締めたりするだけの非常に地味な作業だ。
ひたすら体力と精神力を消耗するだけの仕事を、ブルは倦まず弛まず正確に仕上げていった。
「帝国からのトラックが来るぞー」
離れた区画から大声が響いてきた。
最近よく聞く音だ。魔導トラック、しかも大型だ。
作業中のブルの10メートル先で危なげ無く停車する。
「ブルさん」
エイリア・ミルトン(ka3453)が運転席から顔を出す。
艶のある髪が窓の外に垂れて揺れる。
「スラスターの在庫あります? 進路変更用でもいいので」
「うん? CAMの修理かい?」
4機目の作業を終え引き継ぎのメモ書きを残して車両に近づく。
「なかなかのものでしょう」
荷台には魔導アーマー「ヘイムダル」が固定されている。
CAMの影響を受けた、覚醒者専用魔導アーマーだ。
デュミナスに迫る性能を持つといえ陸上兵器として開発されたのでスラスターは標準装備では無い。
「後、設計用の端末と処理能力の申請を」
したいのです、と言う前にブルがタブレット状端末を投げ渡した。
「急ぎなんだろう? 私が運んでおくよ」
入れ替わりで運転席に入り開いた空間へ移動させていった。
「さて、私はヘイムダルの改修……の前に配置の計算だね。スラスター1つって訳にもね」
スラスター故障即未帰還という展開は絶対に避けたい。
膨大なパラメーターを高速で打ち込み終え、ロッソ内部の高性能計算機にアクセスして最も効率の良い位置を探らせる。
「何この計算結果」
画面をつんつんしても結果は変わらない。
実際の運用では問題が多発しそうな配置が複数表示されている。宇宙戦闘に慣れたCAM乗りを前提に計算しているようだ。
「時間がない。多めの取り付け案を採用して……最悪でも砲台化できるよう、ロッソや輸送船の上に固定できるようしないと」
数を確保できる改造とパーツを脳内で検索。
覚醒者の体力があれば個人の工夫でなんとかなりそうだ。ロープぐるぐる巻きという手もあるし。
「メーガン君か。機体を持っているなら重装甲仕様にチューンしようか?」
荷物を置いて帰ってきたブルとメーガンが遭遇して話をしている。
本人は熱心に同意する。だが同行していたゼクスが慌てて割って入った。
先程までシミュレータでのCAM戦闘につきあっていた彼は、メーガンの欠点についてよく知っている。
AR、カタナ、シールドの基本装備で可能な限り搭載ソフトに任せないとまともに操縦出来ない。
「大変だね」
「制御効率化プログラムをそっちにも回しておきますね」
エイリアが口を挟み、ブルが安堵に近い表情を浮かべた。
「エイリア! 時間の使いすぎよ。この私が手伝ってあげているのを忘れないでよね」
ヘイムダルが立ち並ぶ一角からソルネイティアの声が聞こえた。
魔術師ギルドに所属する彼女にとって、ヘイムダルの整備と改造は容易ではないが可能な仕事だ。
彼女が頑張るほどCAMに慣れたロッソ整備員が効率よく仕事をできる。
「うん、今行くね」
エイリアが取り付け作業前に作成したものが、いつの間にかソフトに組み込まれ多くの機体に反映されることになる。
●未知への備え
「目的は一つ。何も考えずとも、反射で動けるようになるまで訓練だ。小手先の技は不要!」
仁王立ちで訓練会場を見下ろす雲雀の後ろで、フィルメリアがロッソの現役士官から報告を受けている。
「素晴らしい仕上がりです」
紅潮する若手士官。
しかし報告を受けた彼女は訓練生から見えない角度で首を横に振った。
「あの」
フィアリスが母の怒りに気づき恐る恐る声をかけようとした。
「この機会にロッソに慣れておきなさい。フィアはもうCAM初心者とはいえないから」
CAM初心者だった彼も今では結構な熟練者だ。一般訓練生とは差がつきすぎてしまっている。
『誰が戦場でのんびりしろと言った! 躱……ちっ』
グレイブの叱責はメーガン機が墜ちたことで中断される。
『何万回でも死んで身体で覚えろ』
休憩時感無しで、別グループの演習にメーガン機を出現させた。
榊 兵庫(ka0010)のCAMが容赦なく30ミリ弾を撃ち込む。
メーガンは実戦経験だけは豊富な覚醒者だ。
人間の限界について調べ直したくなる速度で反応しCAMへ回避および防御を指示をした。
「地に足が付いた状態と宇宙空間ではまるっきり別物だからな。ソフトの設定の切り替えを機体に頼るな」
兵庫の推測は当たっていた。
メーガンの機体は新兵以下の雑な動きで回避に失敗。シールドで受けることにもしくじり胸部装甲を凹ませた。
「まだ切り替わっていないぞ」
メーガン機が発砲。
兵庫は反撃の30ミリを最小限の横移動で回避。
遮蔽物のない場所へおびき寄せて友軍の105ミリで仕留めさせた。
『大将、すまねぇ、息苦しい』
友軍パイロットの声が乱れている。
兵庫の顔色が変わった。
「オペレーター、演習参加者の隊長を確認してくれ」
『はい、今……演習を中断しますっ!』
メディーック! という叫びと同時に映像が止まり全く動かなくなる。
兵庫がHMDを外す。
宇宙服が鬱陶しい。元々鍛えていた上にハンターとしても鍛え抜いた彼なら何時間でも耐えられるがそうでない者もいる。
「ハンター以外で無事なのはメーガンだけか。いや別の意味で無事ではないが」
参加者の多くは慣れない宇宙服のストレスや体力不足で体調不良。例外の女騎士はそれ以前の問題だ。
「なるべく分かりやすい形まで落とし込まないと、な」
CAMの設定修正案と宇宙戦闘マニュアルの修正案を素早く打ち込み上へ送信する。
「転移実験が成功すればあちらに戻ることも可能か。あちらへの帰還を望む者の為にも俺も尽力せねばならないな」
休憩ともいえぬ休憩をとってすぐ、次の演習参加者と共にシミュレータを起動した。
ハンター達は依頼期間終了日の深夜まで教育と準備を進めた。
ここまでしても、実験参加者の予想生存確率は8割に達していない。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 12人 |
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ポイントがありませんので、拍手できません
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依頼相談掲示板 | |||
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出来る事と行う事の話し合い フィルメリア・クリスティア(ka3380) 人間(リアルブルー)|25才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/07/19 20:45:02 |
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質問卓 エイリア・ミルトン(ka3453) 人間(リアルブルー)|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/07/19 07:58:56 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/07/18 20:50:48 |