心狂いし異形の侵攻

マスター:鳴海惣流

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
6日
締切
2016/07/22 12:00
完成日
2016/07/26 17:55

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 木々が高く覆い茂る人けのない場所で、男は膝に両手をついて大きく肩を揺らす。

「くそっ! どうして私の復讐を邪魔するんだ! 力さえあれば、どのような障害をも打ち砕けるものを!」

 怒りを込めた吐息をぶちまけ、激情のままに正面の木を殴りつける。
 何度も。何度も。何度も。
 手の皮がめくれ血が出ようとも気にしない。怒りと興奮で、商人と思われる服装の男は顔を般若のごとく歪めた。

「私の復讐を成し遂げるためには力が必要だ。正義を盾にして邪魔をする者達を倒さねばならない」
「……力が欲しいのですか」

 聞こえた声に男は身を震わせる。
 男か女かわからない中世的な声は、闇の中から響くような不気味さと例えようのない恐怖を男に与えた。

「お、お前は……」

 いつからそこにいたのか、男の前には黒マントを衣服のように纏った者がいた。顔はわからない。フードに隠れた頭部は、まるで闇そのもののようであった。

「……力が欲しいのですか」

 黒衣の者は再度、男に問いかけた。
 本能が危険だと警告し、すぐに逃げなければいけないと男は理解していた。
 けれど足が動かない。やがて男は魅入られたように、黒衣の者のフードの中を覗いてしまう。
 暗闇の底から這い出るように浮かび上がった両目が金色に光る。
 同時に男の意識は途切れた。
 実にあっさりと。最初からそうなるのが運命だったかのように。

「欲しいなら差し上げましょう。その力で存分に暴れてください。フフフ」

 それが、倒れた男が最期に聞いた言葉となった。


 グラズヘイム王国ラスリド領アクスウィル。
 領主の館も存在する領地の中心街が、にわかに騒がしさを増す。
 穏やかに会話し、露店が営業を開始する爽やかな朝が悲鳴に支配される。
 一報を受けた領主のゲオルグ・ミスカ・ラスリドは腹心の部下ザスターを連れて、現場へ来ていた。
 街の出入口付近で雄叫びを上げているのは、一体の異形であった。

「何だ、あれは。よもやオークか?」

 豚に似た顔を持ち、全身を筋肉の鎧で覆っている。丸太よりも太い腕が叩きつけられるたび、容赦なく地面がえぐられる。
 ゲオルグの隣に立つザスターが、かつて冒険者だった頃の知識と経験から謎の異形をオークではなさそうだと告げる。
 それにしても奇妙な異形である。
 上半身は裸だが、下半身は商人が好みそうな、動き易さを第一にした白いズボンをはいている。
 やはりオークや他の亜人と比べると、それらしくないとザスターは判断した。

「どちらかといえば、歪虚に近そうな感じです。正体はともかく、悪意ある危険な存在に変わりはないでしょう」
「ふむ。ならば倒すしかあるまい。ラスリドの兵たちよ! 日々、魔獣とも戦う勇猛さを見せつけろ! この地の蹂躙を許すな!」

 勇ましく呼応した兵士たちが、異形に飛びかかる。
 だが一般の兵士たちは無残に吹き飛ばされ、一撃で命を奪われる。
 さらに異形が大きく吼えると、背後から無数のコボルドが姿を現した。

「フン。コボルドを手勢に使うか。ますますもって気に入らんな」
「伯爵閣下が前に出るのは危険です。おい! ハンターズソサエティに出向き、協力を依頼してくるんだ」

 ゲオルグを抑えながら、ザスターは部下の一人に指示を飛ばす。
 何者なのかは依然不明なままだが、生半可な相手でないのだけは直感で理解できていた。


 一人の兵士が飛び込むように、アクスウィルにあるハンターズソサエティに入った。
 視線だけで訪問者の姿を確認したあなたは、椅子に座ったままで様子を見る。
 乱雑に開けたドアを閉めるのも忘れ、必死の形相で兵士がカウンターに両手を置く。

「謎の異形を倒すために力を貸してほしい!」

 受付の若い男性が何か言う前に、すでに騒ぎを聞きつけた幾人かのハンターは油断なく外の状況を確認していた。

「前衛部隊を預かるザスター様からの伝言だ。正面は我らラスリドの兵士で抑えるので、ハンター各位には背後からの挟撃及び右方からの強襲を担当してほしい。家の中にいる民は周囲に敵の影がなくなれば兵士が保護をする。どうか依頼を引き受けていただきたい!」

 受付カウンターから離れた兵士と、あなたの視線があった。
 兵士は深々と頭を下げた。

「生まれ故郷を守りたくて兵士となったのに、力ない身が恨めしい。住民の保護などできることは精一杯するつもりだが、元凶の異形には歯が立たない。どうかこの街に平和を取り戻してほしい!」

 兵士の懸命な願いを受けて、あなたは立ち上がる。
 目指すのはソサエティのドア。
 開けた先にある、戦場と化したアクスウィルの街だ。

リプレイ本文

●序盤戦

 ハンターは一斉に動き出した。
 馬に乗った蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は左斜め前にいるコボルドに接近。注意を引くと、馬上からさらに左前にいるコボルドをアイスボルトで狙う。
 普通のコボルドなら即死の一撃だが、標的は頭部に氷の矢が突き刺さっても生きていた。
 瀕死に近い状態ながらも睨むコボルドを見て、蜜鈴は不敵に笑う。

「あまりにいきりたっておるから妾の氷で冷やしてやったのじゃが、お気に召さなかったかの?」

 挑発と認識できないコボルドが二体、蜜鈴へ突撃する。


「コボルドか。ゴブリンじゃないけど、奴らと似たようなものだ、殺す理由は十分にある」

 並々ならぬ殺意を瞳に宿すのは、カイン・マッコール(ka5336)だ。

「あの亜人……似たようなやつ、アレがコボルドを指揮してるのか?」

 疑問はあるがどちらもいい。何時も通り奴らを殺して村を助ける。それだけだ。
 カインは武器を構え、民家を狙うコボルドのところまで一気に移動する。
 今にも民家を壊そうとしていたコボルドが、カインの気配に気づいて注意を向けた。


 不動シオン(ka5395)が跨るバイクを唸らせる。
 目指すのはカインのとは違う、民家を狙うコボルドだ。
 先手必勝とばかりにシオンはチャージングからの邪煌滅殺で仕掛ける。
 並のコボルドなら三回は殺せそうな威力でも、目の前にいる奴はなんとか生き残る。しかもまだ動けていた。

「メインの前に前菜を頂くのも悪くないと思ったが、今ので死なないとはな。随分と食いごたえのある前菜だ」

 悲観も驚きもない。ただただ彼女はこの状況を愉しんでいる。


 住民の保護をする兵士を補助するべく、瀬崎 琴音(ka2560)は全速力で走る。

「(異形の人は気になるけど、まずは住民の安全確保しないと、ね」

 彼女から見て左端にいるコボルドとの距離を、ジェットブーツを使用して一気に詰める。

「兵士さんの邪魔はいけないな?」

 言葉が通じないと理解しつつも、眼前に迫ったコボルドへ告げた。
 すでにそのコボルドの元へはカインも到着しており、二対一の状況となる。


 仲間がコボルドと対峙する中、シリル・B・ライヘンベルガー(ka0025)はザスターとの合流を目指していた。
 異形相手に立ち向かおうとする彼をサポートするためだ。
 ザスターも行動を開始していたため、彼が元いた地点より前で顔を合わせることができた。

「シリル・B・ライヘンベルガーと申します。これよりザスターさんをフォローします」
「正直、助かる。シリル殿、よろしく頼む」

 シリルは真剣な表情で頷いた。


 他の仲間の動き出しを待ち、余った敵の殲滅を誠堂 匠(ka2876)は優先する。

「(敵が街の中にまで……!)」

 様々な問題で今、王国は傷ついている。これ以上の犠牲は御免だ。匠は心の底から思う。

「……止まるんだ。それ以上其方へ近づくなら、斬る」

 ターゲットに決めたコボルドに接近し、声で威圧する。
 守ってみせる。必ず。匠はコボルドを睨む目に力を込めた。

●対コボルド戦

 一体のコボルドが琴音を狙うも、近くにいた防御力に優れるカインが敵の攻撃を引き受ける。
 足に受けるもカインは無傷で、逆に攻め込んだコボルドがバランスを崩す。

「可能なら一刀の元に斬り捨てようと思ったんだけど無理そうだね。なら、これだ。コボルドを麻痺させるから、とどめをお願いするよ」

 友人でもある蜜鈴が、一撃でコボルドを絶命させられなかったのを見て方針を変えた。
 隙を作ったコボルドに、宣言通りエレクトリックショックをお見舞いして麻痺させる。

「せっかくだ、制御に慣れておくか。刀の鞭か、コントロールが少し難しいけど当たれば、効果は高いはずだ」

 此処で慣れておこうとカインは竜の尾を連想させる武器を振るう。刀が鞭のごとくしなり、コボルドを切り刻んだ。

「次だ」

 言ったカインが視線を動かす。その先には両手を振り回して暴れる異形がいた。

「では、行こう。今度は簡単にはいかないだろうけどね」

 民家近くのコボルドに仲間のハンターが対応しているのを受けて、琴音も異形との戦闘に同行する。


 シリルのプロテクションのおかげで、ザスターは間一髪で異形の拳をかわす。
 だがその威力にザスターのみならず、シリルも息を飲んだ。

「ザスターさん、まずは他の皆がコボルドを殲滅するまで防御に徹しましょう!」
「承知!」

 提案を受け入れたザスターとともに、シリルも削りと防御に徹する。


「生きとし生けるもので在る以上、おんし等を進んで傷つけたいとは思わぬ……が、妾もヒトじゃ。仇なすれば屠らねばならぬ」

 一体の攻撃を回避した蜜鈴に、もう一体のコボルドが迫る。

「舞うは炎舞、散るは従花、さぁ、華麗に燃え尽きよ」

 慌てない蜜鈴は華炎でもって、二体のコボルドを同時に消滅させた。

「最後の一時……せめて艶やかに踊るがよい」


 攻撃を外した敵の胴にクリティカルなダメージを与え、真っ二つにしたシオンは周囲の様子を確認する。
 カインと琴音が一体、蜜鈴が二体、そしてたった今シオンが一体。これで六体のうち四体のコボルドが倒れた。残りはまだわりと民家から離れている。
 それを見てシオンは近くにいたラスリド領の兵士へ声をかけた。

「民家近くの邪魔なコボルドはあらかた片付いた。お前らは住民の避難を急いでくれ」
「シオン殿はどうされるのですか?」

 兵士に問われたシオンは、形良い唇を愉悦に歪ませる。

「決まってる。大物を食らいにいくのさ」


 襲いくるコボルドの棍棒を、バックステップでかわした直後に匠は攻勢へ転じる。

「命を奪うのは気が進まない。けれど……人を襲うのなら、容赦は出来ない」

 一撃で仕留められずに反撃をされるも、驚きの回避能力で楽に避ける。
 直後の一刀で的確に相手の命を奪う。これで残るコボルドは一体。匠は二体を冥府へ送ったばかりの蜜鈴へ話しかける。

「蜜鈴さん、残り一体の足止めをお願いできますか」

 遠距離攻撃が可能な蜜鈴であれば、余分な移動をせずとも敵を射程に捉えられる。
 引き受けた蜜鈴はアイスボルトで最後の一体に重傷を与え、とどめを刺すために匠も動き出した。

●対異形戦

 住民を狙うコボルドが全滅したことで、いよいよ異形との戦闘が本格化する。
 すでに剣で敵の注意を引いていたザスターが、一撃をまともに食らって吹き飛ぶ。
 シリルにかけてもらっていたプロテクションのおかげで即死こそ免れたが、かなりの傷を負った。
 すぐさまシリルが倒れたザスターにヒールを使う。

「しっかりして下さい。私がこの戦場にいる限り、誰も死なせはしません」

 ザスターを回復させたあと、今度はシリルが前に出る。少しでも相手の体力を削れればと思った。
 同時に身に着けた物や攻撃の際の仕草などから、元々人じゃないのかという疑いも持った。

「正体を探る必要もありそうですし、足の一本でも切り飛ばせれば楽なんですがね」

 下段薙ぎを素直に行わず、途中で地面に引っ掛けるようにしてタイミングをずらす。
 それだけでなくさらにもう一瞬だけ引っかけて、力を溜めた上でシリルは敵の足を薙ごうとした。
 狙いは良かったが、シリルの想定以上に異形の肉体は強靭だった。
 足を飛ばせなかったシリルに異形が迫る。

 ――間一髪。

 琴音と一緒に異形のそばへ到着したカインが、敵の振り下ろす腕を盾で防いだ。
 凄まじい衝撃が腕に伝わり、力任せに押された結果、カインの足が微かに地面へと埋まる。

「なるほど。見掛け倒しではないか。だが甘い」

 盾で受け止めつつ、敵の腕の外側に回り込みながらカインは力を相殺していく。
 その間にシリルは下がってサポートに回り、ザスターは住民を逃がす兵の指揮を執ることになった。
 シオンも合流してカインと一緒に前衛へ立ち、その後に続いた蜜鈴がシリルと並んで後衛。中衛には琴音と、最後にやってきた匠がついた。
 正面から向かい合ったシオンは、改めて異形の姿を見て嬉しそうにする。

「面白い。何者だろうとこの刃の餌食にしてくれる!」

 今度も正体不明の敵の首を欲しいと戦場にやってきたシオンにとって、強敵をいかにして出し抜くかが生き甲斐であり、愉しみであり、美学であった。
 だからこそ謎の異形の前でも、砂粒レベルの恐れさえ抱かないのである。

「いい殺気だな。それでこそ私が戦うに値する相手だ。私を愉しませろ。嫌とは言わせん!」

 チャージングからの閃火爆砕で敵を押すが、異形の防御力と生命力はやはり倒したコボルドとは格が違った。
 受けたダメージを気にせず、振り回すようにして腕をシオンへぶつけようとする。だがその前に彼女はすでにその場から避けていた。
 ヒット&アウェイで戦うシオンとは別に、カインは敵の攻撃を盾で堪えつつも隙を見つけて体力を削っていく。
 中衛から飛び出した匠は、先ほどシリルが傷をつけた異形の足を狙う。傷を重ねるようにして敵にダメージを蓄積させるつもりだった。

「ぐおあアア! 邪魔をスルなアァァァ!」

 まとわりつくハンターへ苛立つように異形が叫ぶ。それは間違いなく人間の使用する言語であった。
 異形は足元にあった石を適当に掴み、怒りをぶつけるかのように住民を誘導している最中の兵士目掛けて投げつけた。
 誰もが間に合わないと兵士の犠牲を覚悟したが、命中する前に石は氷漬けになって空中で砕け散った。蜜鈴のアイスボルトである。

「悪いが、そう易々と手は出させぬよ。奪わせはせぬ……之は妾のエゴじゃがのう」

 紫煙をくゆらせ、蜜鈴は片側の口端を微かに斜め上に伸ばす。

「此処は妾が……民が不安を覚えて居る、早う避難させ安心させておやり。此処は、おんし等の故郷であろ?」

 真っ先に蜜鈴に応じたのは、ハンターへ助けを求めた若い兵士であった。
 やる気を漲らせる兵士に激を飛ばしながら、ザスターは蜜鈴に礼を言う。

「蜜鈴殿、恩に着る。急げ! 民を避難させろ。兵士としての本分を果たせ!」

 唸る異形をカインやシオンが牽制し、匠は周囲の投石可能な石を除いていく。

「本当に奇妙な敵だ。今後のために情報が欲しいね」

 匠の呟きに、後ろからエレクトリックショックで援護を続ける琴音が言葉を返す。

「奴が身に着けている衣服から身元を探れないかな」
「……人に取り憑く歪虚がいる話を聞いたことがあります。あるいは、何かしらの力による歪虚化……どちらかでしょうね」

 言ったのはシリルだ。
 会話は聞こえているが、主だって加わらずにカインは異形との戦闘を継続する。

「敵が何かについては、興味はない、ただ殺すだけに過ぎない」

 今のところはシオンも同意見のようで、気合の乗った声を張り上げる。

「この天墜が貴様を斬らせろと騒いで仕方がない。この程度で死ぬなよ!」

 敵が繰り出す攻撃をカインが防ぎ、他の面々はその際に生じた異形の隙をつく。
 他に気にする余裕のなくなった異形を尻目に、ザスターに指揮された兵士たちは住民の避難を完了させる。

「民間人はこれで大丈夫だね。あとはあの異形だけかな」
「琴音か。怪我は無いみたいじゃな。ところで先ほど面白そうな話をしていたみたいじゃが」
「暴れてる異形が元は人間だったんじゃないかって話だね」

 蜜鈴に聞かれた琴音は答えつつ、チラリとシリルを見た。

「私が以前遭遇したのは呪いという形でしたが、これはもっと直接的なものかと」

 異形の様子を見ていた匠も、自身の中にある考えを口にする。

「以前に服の残骸が張り付いた元人間の怪物と戦った。……この異形も、元人間だとすれば服の件も説明はつく」
「なるほどね。色々と考えられそうだけど、まずは異形と戦う仲間のフォローに戻ろう。話はそれからだね」

 攻性強化を使用後にエレクトリックショックを放ち続ける琴音に、蜜鈴とシリルも続く。
 前衛ではカインが異形との戦闘によって、武器に慣れ始めていた。

「そうか。ある程度勢いが乗ってきたら、少しずつ手首の角度を調整すればいいのか」

 腕に新たな傷を負った異形が狂ったように喚く。

「理性はぶっ飛んでいて耐久力はそれなりにあるみたいだが、この武器は痛いだろ。正気に戻るくらいに」

 力が残っている限り、シオンもチャージングからの閃火爆砕でカインと一緒になってダメージを与える。

「まともに入ってるのに、まだ元気があるのか。それでこそメインディッシュだ」

 攻撃後に回避動作に入るシオンの動きを見抜いて異形が蹴りを放つも、それはカインが防ぐ。数歩後退りさせられるも、無傷である。

「防御力なら引けを取らない。仮に我慢比べになったとしてもこちらが勝つ」
「私もサポートします。どんなに強大な敵でも、力を合わせれば絶対に負けません!」

 防御力を高めるのと回復はシリルが担う。
 それゆえに安心して他のハンターは一斉攻撃を行い、ついに異形は大地に崩れ落ちた。
 すかさず兵士が拘束作業に入る。彼等に蜜鈴は近づく。

「さて、住民は元より、おんし等にも怪我は無いかの? 無事なれば主や家族に顔を見せておやり。皆案じて居るじゃろうてのう」

 縄により捕縛が終わった異形を見下ろすザスターに、そばで観察していたシリルが助言をする。

「原因究明をお考えであるなら、ハンターによる調査をお勧めします。常人では、元凶を突き止められたとしても、捕まればほぼ確実に同じ末路になると思いますので」

 ザスターはすぐに領主へ伝えると頷いた。

「その前に私達で調査をして正体を探ろう。歪虚化したコボルドやゴブリンの可能性だって捨てきれないだろ」

 言い終わったあとでシオンは、動きを封じられた異形に歩み寄る匠が手に握ってるものを見つけてそれは何だと質問する。

「精神安定剤だ。効けばいいんだけどね」

 通常の歪虚への効き目は不明だが、異形には完全ではないにしろ効果を発揮した。この時点で元人間だという可能性も高まった。
 もしかしたら、異形化してまだ間がなかったのかもしれない。理由はどうあれ、精神安定剤のおかげで相手の興奮は僅かに収まった。

「……貴方は、人間なのか?」

 異形は答えない。匠はなおも言葉を続ける。

「もしそうなら、貴方の身に何があったのか……教えてくれませんか」
「黒衣……の者……金色の、目……うアア――っ!」

 突如として異形は再びの興奮状態に陥る。
 傷が悪化するのも構わずに暴れ、強引に自身を拘束していた縄を引き千切る。
 壁になろうとする兵士たちをものともせず、異形は逃走した。
 すぐに追いかけるも途中でその姿を見失い、再び異形を捕らえることはできなかった。


 敵の正体が判明しなかったのは気がかりだが、ハンターたちは住民と街を守った。
 伯爵もザスターも感謝したが、先行きを示すかのように青かった空を分厚い雲が覆いだしていた。

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MVP一覧

  • 黒の懐刀
    誠堂 匠ka2876
  • イコニアの夫
    カイン・A・A・カーナボンka5336

重体一覧

参加者一覧

  • 精霊へ誘う聖句の紡ぎ手
    シリル・B・ライヘンベルガー(ka0025
    人間(紅)|17才|女性|聖導士
  • 漆黒深紅の刃
    瀬崎 琴音(ka2560
    人間(蒼)|13才|女性|機導師
  • 黒の懐刀
    誠堂 匠(ka2876
    人間(蒼)|25才|男性|疾影士
  • ヒトとして生きるもの
    蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009
    エルフ|22才|女性|魔術師
  • イコニアの夫
    カイン・A・A・カーナボン(ka5336
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 飢力
    不動 シオン(ka5395
    人間(蒼)|27才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
カイン・A・A・カーナボン(ka5336
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/07/22 00:41:02
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/07/18 14:51:29