くるせいだーのさいよう!

マスター:馬車猪

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/07/21 19:00
完成日
2016/07/29 06:54

みんなの思い出

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オープニング

●これまでのあらすじ
 荒野の真ん中をクルセイダーに育てる学校があるよ。
 ハンターが臨時教師として教えたり歪虚退治してるよ。
 以上!

●王国現代史
「以上がホロウレイド前の状況だ」
 黒髪の司教が生徒達を見下ろした。
 彼の背後の黒板には、国王を頂点とする国内各組織がピラミッド状に並べられている。
「これが」
 振り返り黒板消しを振るう。
 国王が消え、聖堂戦士団の実戦部隊が崩壊し、王国騎士団に亀裂が入り、貴族の抱える私兵の多くが消え去った。
「こうなった」
 新たに書き足されたのはシスティーナ王女と大司教セドリック・マクファーソン。
 消される前と比べると穴あきだらけで酷く頼りない。
「これでは王国が機能しない。王女殿下と大司教個人がどれだけ有能でも、減ったもの全て補うのは不可能だ」
 黒板の下側に書き込んだ貴族勢力を指し示す。複数にグループ分けをして主導する貴族の名を記していく。
「どこも疲弊し混乱していた。あの大司教が自由に動けなかったといえば想像がつくだろう」
 11、2歳の子供達が緊張して生唾を飲み込む。
 彼らにとり、王女の補佐として王国を差配するセドリックは国王に匹敵する権力者なのだ。
「当時は酷かった。ホロウレイドで失われた人と物が多すぎ統治不能になる諸侯もいたほどだ」
 その1つが今ここにある土地だ。
 当時この地を治めていた諸侯は、繰り返される雑魔の襲撃に耐えきれずに戦力的および財政的に破綻、聖堂戦士団が乗り出すまでに多くの命と財産が失われた。
「統治をしくじった貴族の代わりに出てきたのが」
 貴族勢力の一部を消す。
 セドリックと1貴族派閥から支配を示す線が伸びる。
「前者を構成するのは新たな官僚群、後者を支えるのはマーロウ大公の部下達だ。そしてロッソ登場以後は」
 黒板上の勢力図が書き換えられていく。
 力が足りない諸侯、派閥、勢力が崩れてセドリックとマーロウに近づいた。
「2大派閥の冷戦と半独立の小勢力群の形で安定した」
 特に出来の良い生徒達が冷や汗をかく。
 危険な予感しかしない。
 黒板は2つの大勢力が大部分を支配している。
 だが現実には他国もロッソもリアルブルーもいる。何より国土の西端を占領する歪虚がいるのだ。
 この国はこの先大丈夫なのだろうか。
「先生! 学校はどっちの派閥ですか!」
 元気の良い子供が勢いよく挙手して尋ねた。
 冷や汗の子供数人が、その気楽さを羨むように級友を見る。
「ここだ」
 左端の小勢力を黒板消しで示す。
 小さいといっても2大勢力に比べてのもので、領地持ちと比べても小さくないし抱えた戦力も大きい。
 彼らは聖堂教会の好戦派の1つ。自らの手で歪虚を倒すのを至上の喜びとする集団だ。
「君達も来年か再来年には卒業する予定だ。卒業後の進路に制限は無い。自分が何になりたいか、何をしたいか考えるためにもこの図を覚えておきなさい」
 それで授業は終わり、生徒達は短い休憩の後戦闘訓練を開始した。

●校長先生の悩み
「司教様。イコニア司祭はいつ戻ってくるのでしょうか」
「当分無理だ」
 深夜。
 12歳児(助祭)と校長(司教)が必死にペンを動かしていた。
「提出期限を過ぎた書類が1山あるのですが」
「言うな。頼むから」
 司教からは、昼間の威厳を一切感じられない。
 子供の限界を見切って潰さず高速で鍛え上げる事は得意でも、事務仕事は平凡でしかないなのだ。
 なお、イコニアの処理能力は中央官僚基準で辛うじて可、聖堂教会のこの派閥基準では極めて優秀である。
「いいえ言わせていただきます。この件だけは早期に決めてください」
 履歴書の束を校長の執務机に置いて広げる。
 教師。
 司書。
 農業技術者。
 入植希望者。
 大量の候補者の情報がずらりと並んでいる。
「マーロウ派の有力者に近い方も含まれています。不採用なら不採用で早めに伝えないと」
「うむ、だが」
 司教の目が虚ろだ。
 検算と明日の授業と人事まで考えた結果、完全に処理能力を超えていた。
「だが」
 ペンは動いていても口から出る言葉は繰り返しだ。
 助祭はひとつため息をつく。
 候補者は基本的に能力が高いほどマーロウ派。低いほど派閥の影響が薄い。
 入植希望者の場合はさらに複雑だ。王国騎士団退役者や聖堂戦士団退役者まで候補にいる。
「仕方が無いです」
 もうひとつため息をつき、直属上司へ事情を説明するため手紙を書き始めた。

●司祭のお仕事
 ハンターズソサエティー支部の前に豪華な馬車が止まり、執事風の紳士が1人の女性を馬車から降ろした。
 彼女は貴族然とした態度で礼を述べ、優雅な足取りで転移装置に向かった。
「その仮装似合ってますねー」
 自称本部美少女受付がイコニアを出迎える。
「仕事着です」
 凝った装飾品を外して表情筋を緩めると普通の少女に……ちょっとだけ過激な少女に見えないこともない。
「どんな仮装パーティだったんです?」
「だからお仕事ですってば。人材紹介とテクニカル1台調達するのにコネ使ったのでそのおかえしに」
「最近マーロウ大公派が元気らしいですね」
 イコニアはそっと視線を外し、依頼のための書類を差し出した。


●依頼票

依頼内容
 クルセイダー養成校の臨時教師または学校周辺の安全確保

教職員
 校長。司教。教師としては有能。リアルブルーに詳しくない
 守備兵兼戦闘指導教官。覚醒者。計8人。中堅ハンター相当

在校生
 2年生。10~12歳覚醒者計12人。読み書き可能、専門書読解は難しい。戦闘力は初心者ハンター未満。戦闘慣れ
 1年生。8~10歳覚醒者計10人。新入生。基本的な読み書き可能。戦闘技能を持たない者有り

滞在者
 助祭2

校舎
 教室・食料庫・井戸・貯水タンク・図書館
 武器庫 剣槍斧槌弓メイス猟銃・皮鎧金属鎧

宿舎
 5人部屋10
 厨房

見張り台
 木製。古い

周辺状況
 校舎周辺を除いて無人



●土地返還請求
 脂肪を震わせ司教が哄笑する。
「今年一番の冗談ですな」
 嫌らしい笑みを浮かべて葉巻を手に取り、相手の了承を得ず火を付ける。
「貴様っ」
 向かい合う司祭は司教とは対照的に細い。
「司祭殿がお帰りだ」
 部下に銘じて有無を言わさず退出させる。
 豪華な執務室に、遠くから集団による抗議の声が聞こえてくる。
 内容は、聖堂教会が領地を不法占拠しているだの、農地を返せという内容だ。
「今喚いている連中の寝床周辺に悪評をばらまいておけ。この街でまともな仕事ができないようにな。ばれないよう人を使うの忘れるな」
「直ちに」
 土地を失い必死に日銭を稼ぐ人々になんという仕打ちを、という人間はこの場にはいない。
「今回の顛末を学校のハンターに伝えろ。止めを刺しても飴を与えても構わないとな」
「ハンターに、ですか?」
 よほど意外だったらしく、切れ者かつ酷薄に見える助祭が問い返した。
「人が足りんのだ。成果をあげるなら融通は利かせるさ」
 平然と言い放ち、真っ昼間から蒸留酒に手を伸ばした。

リプレイ本文

●野外授業
 草ぼうぼうの野原に銃声が響いた。
 音と衝撃で涙目の少女が、銃を落とさないよう必死に力を込めていた。
「戦場じゃ目標との距離なんて正確に判らない事が殆どだから、まずはカンで見極めて後は撃った弾から調整していくようにしなさい」
 聴覚が少し回復した頃を見計らい白金 綾瀬(ka0774)が指示を出す。
 慎重に銃口の向きを変える。
 草の上から出ているスケルトンに狙いをつけようとする。しかしなかなか狙いが定まらない。
 足場が移動中の魔導トラック、しかも運転は初心者だという悪条件だからだ。
「近づいて来るわ。殺されるまで動かないつもり?」
 叱咤で体が震えて無意識に引き金を引く。
 目標から3メートルは離れた草が大きく揺れて、スケルトンがはじかれたように駆け出し草の中から飛び出した。
「目を閉じない所は評価してあげる」
 綾瀬は一度だけ発砲しスケルトンを仕留めた。
「次の目標が来ているわ。相手が動いてる場合は着弾までの時間と相手の移動速度から見越し距離を取って撃ちなさい」
「ひゃいっ」
 頬を伝う涙にも気づかず、少女は40メートル先に見える骨に狙いをつけた。
「良い感じに仕上がっているじゃないか」
 柊 真司(ka0705)がにやりと笑う。
 銃声と頭蓋が砕ける音と一緒に生徒たちの歓声が響いた。
「付近の脅威排除は完了した。次の演習に移るぞ。急げ!」
 声は優しげでも籠もった威圧感はいつもの教官の倍以上だ。
 生徒たちは2班に分かれて1台ずつの魔導トラックに分乗し、100メートル近く離れて正面から向かい合う。
「今持っているのを本物の銃だと思え。撃っても撃たれても人は死ぬ。暴発しても死ぬ。絶対に気を抜くな」
 運転手と車載機銃担当以外の子供は水鉄砲を構えている。中身は色水なので誤射しても死にはしない。
 本来機銃が載っている場所には玩具の銃と安物のデジタルカメラが組み合わせたものがある。
「演習を開始する。行け!」
 シャッター音に似せた合成音が響く。カメラ付属のディスプレイに命中箇所が表示される。
「面白いものを造るのね?」
「ペイント弾が高くてな。削れる所は削るさ」
 魔導トラック2台が加減速を繰り返し障害物を活かした射撃を繰り返す
 適度に耕された土地が水を吸うように、少年少女たちが銃と車の扱いに慣れていくのだった。

●人事会議
「学生数が少ないので、教師は少なめでも構いません。とにかく能力の高い方、人柄の良い方を希望します」
 ソナ(ka1352)の主張は明確だった。
 生徒の能力を高めるのが最優先。教師の出身は考慮しない。
「医療課程については……」
 議事録担当のマティ助祭をちらりと見て説明の速度を調節する。
 治療看護や薬学等を一通り、理論から実践まで学べる体制を目指す。
 薬学は専門で1名欲しいので医師、薬師、看護の3人を推す。
「それでは王国、リアルブルー、東方の知識網羅は無理になるわね」
 ルシェン・グライシス(ka5745)が議論を深めるために敢えて反対意見に近いものを述べる。
「はい。長期の雇用になるので人件費も高額になりますから。3人でも予算的に厳しいですがこれ以上削れません」
 2人のエルフの視線がぶつかり合う。
「司書と薬草園は?」
「司書は1人、薬草園の管理は2人。医療課程のため拡大することになっても農業部門からのフォローでなんとかしてもらいます」
 校長は黙ったままだ。
 ボルディア・コンフラムス(ka0796)から預かった資料に目を落とし、無言でいることで結果を受け入れる意思を示す。
「採用を絞るのね。なら」
 机の上に広げられた履歴書から数枚を抜き出す。
 10代前半で王立学校……王国の最高学府に入るような最上位のエリートは最初から含まれていない。
 時間と金をかけて学歴や経歴を積み重ねた、つまり貴族の子弟のうちある程度まともな人材だ。
「能力を優先してこの子は採用でいいわね?」
 1枚を全員に示す。
 白黒写真が貼られた履歴書は、先日からこの地に留まっている女性のものだった。専門は初等教育。教える難易度の低い授業を校長から複数任されている。
「待ってくれ。いや、確認させてくれ」
 最後まで黙っているつもりだったクルス(ka3922)が思わず口を挟む。
「その人は問題ない」
 子供好きで面倒見もよいのが見ているだけで分かる。
 貴族の次男次女以降の元冷や飯食い生徒だけでなく、散々苦労し捻くれた者も多い下層出身生徒にも好かれている。
「だが」
 十分な能力と優れた人格を兼ね備えた上で極端に保守的なのだ。
 授業内容を歪めたりはしない。けれどリアルブルーの価値観の多くに拒否感を抱き、決して激しくはないが穏やかかつ明確に反対している。
「ああいうのばかりだと子供が完全に染められるぞ」
 ハンターがいるときなら問題ない。
 子供が極端に振れる前に誘導すれば良いだけだ。ただ、ああいう人物ばかりを採用して放置した場合、子供たちの価値観が貴族よりの保守で固まってしまいかねない。
 子供達は自らの意思でマーロウ派に近い就職先を選ぶことになる。
「そんなのは些細な事ですね」
 ルシェンは無造作に断言する。
「ここの生徒たちの将来を考えるのであれば出来る限りの事をやるべきだと思うわ」
 この学校に求められているのは役に立つ人材の供給。
 後ろ盾のない子供たちに最も必要なのは本人の能力。
 故に子供の事を思うなら能力を高めるのが最優先。
「王国基準で保守的なものだろうと世の中に出ればどれだけ小さいものか嫌でも味わいます。絶対に」
 この学校は歪虚滅殺を除けば非常に緩い。身分の差を感じることも皆無で教師と生徒の立場以外は平等に扱われる。
 だがそれは王国では例外だ。王国内では、程度の差はあっても身分による扱いの違いは明確に存在する。
「それに私達ハンターという外部の存在がある限りバランスはとれると思いますわよ?」
 楽しげに、毒が含まれた妖艶な笑みを浮かべる。
「外で無能な貴族子弟に会えば愛憎が反転する子も出てくるでしょうしね」
 校長が苦く笑って深くうなずく。
 クルスも酷い悪臭を嗅いだような顔になる。
 ハンター達が採用しようとしている人材は、貴族の中では珍しい存在だ。
 能力がない貴族や私欲を肥やすことしか考えない貴族は確実に存在し、両方を兼ね備えた存在だって皆無ではない。
 そんな者たちに会った後では、保守的価値観を無邪気に保つのは難しい。
「次に移りましょう?」
 よどみかけた空気に気付いてルシェンが議題を変える。
「入植者希望ですけど、これは取り込んでもいいと思いますよ。最初は色々とあるでしょうけど、退役した王国騎士・聖堂戦士団なら自警団は組められると思います。私達がいなくても戦う術等学ぶ事は彼らからも得られますし、それに手元に管理をするのであれば学校近辺の治安はより安定するでしょう」
 退役者の能力とその後の生活を考えれば悪くない選択だ。
「条件はどうする」
 校長が、ボルディアの資料の該当箇所を見て困惑していた。
 どうやら農業や農地経営に詳しくないらしい。
「自衛能力がない方を採用する訳には……。スケルトンはまだ新規に沸いています。軍務経験者はともかく元住民の方は難しいのではないでしょうか」
 校長はソナの言葉に熱心にうなずき手元の書類に修正を加えている。
「土地は貸し出しという形で?」
「はい」
「それが妥当でしょうね」
 成功して裕福な経営者になるか、失敗して過酷な貧しさの中で生きるか、全ては本人達の努力に全てがかかっている。
 その後も詳細な条件の取り決めが話し合われ、最終的に農業技術者3人、入植者が10人から15人の受け入れが決定された。

●明日に向かって走る
「誰か噂でもしてんのか」
 ボルディアは気合いでくしゃみに耐えた。
「しっかし」
 晴れで風も弱いのに肌寒い。
 放置されて朽ちゆく途中の水路から、ゼリー状の何かが揺れながら這い上がってくる。
 全長2メートル越えの戦斧を真横に振るう。
 雑魔が2つに切断され、断末魔すら残せずこの世から消えた。
「5匹めかよ」
 倒しても周囲の気配は変わらない。
 酷く寒く生命力に欠けている。
「こんな陰気くさい場所に見覚えなんぞ……あ」
 似た感触の記憶が脳内で再生される。
「歪虚汚染か」
 水路の端を踏む。
 触手じみた半透明の何かが潰れ、耐えきれずにボール大の本体ごと消滅した。
 ただいるだけで存在する力が奪われる気すらする。非覚醒者なら短時間で体調を崩してしまうだろう。
 とはいえボルディアの体力なら数日間でも滞在可能だ。
 イニシャライザー無しでは短時間で死にかねなかった北の地とは全く違う。
「龍鉱石は使えねぇだろうしなぁ」
 あれは本来とてつもない貴重品だ。
 浄化の儀式には何が必要だったっけと考えながら、ボルディアは馬を駆って水路から学校に向かう。
「1に基礎! 2に基礎! 3~4も基礎よ! 基礎こそ奥義、コレができてないヤツはなにしたって駄目よー」
 重々しい足音が軽快に聞こえる。
 息を乱していないのはセリス・アルマーズ(ka1079)だけだ。
 訓練に参加した子供達は倒れる直前で、普段は体力錬成を担当している傭兵も息が乱れてしまっている。
「それは一端クールダウンするわよ。そこ! 力は抜いても気合いは抜かない!」
 先頭近くで荒い息を吐いていた生徒が、真下に向いていた視線を無理矢理前に戻す。
「うんうん、結構根性あるわよあなたたち」
 嘔吐寸前の子供たちの前に立ち、教本に載せたくなるレベルの鋭い動きの体操するセリス。
 薄い皮装備の生徒とは恐ろしく分厚い板金鎧を身につけている。
「歪虚浄化の最前線といっても役割は様々よ。弓や銃で攻め、術で広範囲に影響を与え、ヒールで癒やす」
 重鎧だけでなく大きな盾を背負っているのに姿勢が素晴らしくいい。
「私の担当は歪虚を防いで叩く最前列ね。いずれ最前列に立つ気があるならタダで教えてあげるわよ」
「はい!」
 勢いよく挙手する手が1つ。もとい。力なく垂れたままぷるぷるしている手が1つあった。
「多少向いていない程度なら無理矢理でも引き上げてあげるけど」
 銀のガントレットでちょんとイコニアをつつく。
 汗まみれの体操着のまま、貧弱子細がその場に倒れた。
「全く向いていない子には別の道を勧めるからそのつもりで」
 鼻息荒く立ち上がり挙止しようとする生徒が3人はいた。
 イコニアは両膝をついて荒い息だ。
 漏れてるわよとセリスがささやくとイコニアの全身が固まり、マテリアルがねと付け加えるとぎにゃっと悲鳴をあげて高度なマテリアル制御で自分の体に戻していく。
「顔は覚えたわよ。今日は鎧着たら潰れそうだから次回ね。はい休憩終了、全員……イコニア司祭以外は次の演習場へ駆け足!」
 休みも水も十分には与えない。
 戦場なら補給路を酷使してでも水食料を持ち込み死を避けるため休憩もとるがここは安全だ。
 後遺症が残らない程度に追い込み成長させる方針だった。
 それから十数分後、後者の南で騒ぎが起こっていた。
「うわぁっ!?」
「きゃー」
 女の子の大声と少年の悲鳴がいくつも重なって発生する。
 行われているのは生徒と水城もなか(ka3532)の鬼ごっこだった。
 鬼は生徒で数は12人。
 これだけならもなかが圧倒的に不利に見えるが現実は逆だった。
「はい失格。5分間草取りをしてね」
 もなかは少年の背中に触れてにこりとする。
「えっ、えぇっ!?」
 少年は混乱している。
 前後左右が草に遮られた地形であるのにもなかの気配も移動の音も聞こえなかった。
「不期遭遇戦への対処は作戦行動の基本の1つですよ」
 じゃあねと言い残して草の盾にする形で移動を再開する。
「また1人やられた」
「菓子はあたしが頂く! あっちだ! 多分」
 一度でももなかを捕まえたら可愛らしいお菓子が貰える。
 参加者の半数を占める女生徒は非常に気合いが入り、男子生徒も珍しいお菓子に惹かれて士気が上がっている。
「ふふ」
 もなかの口元が緩む。
 実にほほえましい。
 子供たちは気配が剥き出しだ。彼女の古巣の特務偵察隊なら再訓練の対象になってしまうレベルだが無意味に張り詰めているよりはずっといい。
「雑魔への警戒を忘れているよ」
 丈の低い草のもとへ移動し金色の拳銃で発砲。
 紛れて入り込んでいた骸骨1体を仕留めた。
「ここままじゃ時間切れだよ。全部あたしが食べちゃっていいの?」
 悪戯っぽく、喜劇の登場人物を思わせる動作で挑発する。
「赤いのは私がもらいます!」
 子供たちが覚醒して突っ込んでくる。
 もなかは予め確保していた草の隙間を通ってうち捨てられた小屋まで移動し通り過ぎ、今度は凸凹の元畑を部隊にした追いかけっこを演出するのだった。
「巧いな」
 窓越しに真司が追いかけっこを眺めている。
 攻撃的なスキルで廃屋が崩れ、覚醒者の体力で草がなぎ倒されていく。
 もちろん全く問題ない。入植が始まれば真っ先に取り壊され刈り取られる場所であり、万一歪虚の襲撃があっても即座に助けに向かえる場所なのだ。
「行進間射撃なんてそうそう中るもんじゃないが」
 子供の歓声を楽しみつつ報告書を書き進める。
 高度な技術は習得に時間がかかる。教官を1人でも育てることが出来れば楽になるのだが。
「これからの事を考えると訓練用とはいえ銃火器が猟銃だけなのは心許ないかと、前線で戦うのであれば今の内からアサルトライフルに慣れていた方が良いかと思うのですが」
 綾瀬の言葉に学校の護衛数名が強く同意する。
 戦場での命綱であるクルセイダーには出来れば前に出て欲しくないし出ないで戦力になるなら最高だ。
 校長がなるほどとうなずこうとしたそのとき、校長室の入り口がとんでもない力と勢いでこじ開けられた。
「先生!」
「職員と生徒が1対1なんて正気ですかっ」
 随分と立派な衣装の男達だ。
 全く殺気がない上校長が心からの笑みを浮かべたので、ハンターたちは全く動かない。
「君達の活躍は聞いている。話は今の生徒達を見ながらしよう」
 1時間後。
 十数年前の校長の教え子たちが、虚ろな目で応接室のソファーに座っていた。
「2年で無学が人材に……」
「何で死人や廃人が出ないんだ」
 片方は現役領主、片方は戦士団幹部であった。

 人材は揃った。
 校長個人に支えられていた学校が、ハンターにより組織で成り立つ形に変わった。
 今後数十年は続く教育機関としての再出発だ。
「どうする?」
 真司が校長に問いかける。
 ここ数日急速に回復中だったはずのに、司教の顔色は今にも倒れそうなほど酷い。
 高位貴族および戦士団経由の転入願い。今日までに届いた分だけで合計17通。
「有力スポンサーに協力派閥の有力者だ。元教え子でも引いてはくれないぞ」
 これまで黒しか無かった校長の髪に、いつの間にか白髪が混じっていた。

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MVP一覧

  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムスka0796
  • 特務偵察兵
    水城もなかka3532

重体一覧

参加者一覧

  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 《死》の未来を覆す奏者
    白金 綾瀬(ka0774
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 歪虚滅ぶべし
    セリス・アルマーズ(ka1079
    人間(紅)|20才|女性|聖導士
  • エルフ式療法士
    ソナ(ka1352
    エルフ|19才|女性|聖導士
  • 特務偵察兵
    水城もなか(ka3532
    人間(蒼)|22才|女性|疾影士
  • 王国騎士団非常勤救護班
    クルス(ka3922
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 最狂の信仰を
    ルシェン・グライシス(ka5745
    エルフ|22才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/07/18 22:13:22
アイコン 相談卓
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/07/20 04:29:09
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/07/18 12:58:34