ゲスト
(ka0000)
ワルサー総帥、河坊主を退治す
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/07/23 07:30
- 完成日
- 2016/07/29 08:14
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
整備された河を一隻の船が下っていく。両岸に生える草花が強めの風に揺れ、ほのかに沸き立つ水の匂いが鼻に感じられた。
「へー、意外と早いものですのね」
船の上から身を乗り出して、サチコ・W・ルサスールは船が起こす波を眺めていた。後ろから危ないですよ、と従者のタロとジロがその身体を引き戻す。
「はっは、お嬢ちゃん。船は初めてだったか。落ちても、拾えないからな?」
サチコたちの様子を眺め、船長が冗談っぽく笑い声をあげる。
数時間前、南方へ移動するために川下りの船を探していたサチコたちを船長は快く迎え入れてくれた。しかも、実質無料である。
「思ったより穏やかで……船とは酔うものと聞いておりましたが」
「最近は天気も安定してましたからね、かといって水量は十分」
船長は行き交う水夫たちに指示を飛ばしながら、サチコにいろいろと説明をする。川の流れにそって移動するため、人手もかからず早いのだという。一方で上りならば、船引の人夫を使うなどするのだといっていた。
「それにしても、運賃は本当によろしいのでしょうか」
「最近は貨物船を襲う賊もいると聞きますから、持ちつ持たれつですよ。何かあった場合に護っていただければ、保険料もお支払いします」
安全を取るためにこの船長は、ハンターや傭兵を乗せていた。幸いなことに今まで襲われたことはないが、今回は嫌な噂を耳にしていた。海坊主ならぬ河坊主が出るというのだ。いつもならバカバカしいと一笑に付すこともあっただろう。
その噂を説明した上で、サチコたちは乗船を承諾した。
「近年の情勢を見聞するに、笑い事でもないですから」
船長の勘は当たるからちょうどいいと船員たちもサチコたちを歓迎してくれた。そう、何事もなければ無料……何事か起こった場合は解決すればお金がもらえる。
「何事もないのが一番ですわ」
笑顔で告げるサチコだが、かくしてその望みは破られた。
●
「イカリ降ろせ!」
船長の怒号に合わせて水夫たちが慌ただしく動きまわる。船の前方に半透明の物体がせり上がってきたのだ。船は急停止し、様子を見ている間に物体は増えていった。その数、4体……物体はチンアナゴのように細長く、先端部をぐるりと動かして辺りを見渡していた。
顔らしいものは何もないが、先端の部分が怪しく発光していた。
「でちまいましたな……サチコさん」
「出てきましたね、船長」
嘆息すら漏れでてこない。大きさは確かに海坊主もとい河坊主といえなくもないが、想像よりも細長い。眺めている間に、先端部分が船のほうを向く。
「……っ! 危ないですわ!」
サチコが前へ飛び出て、放たれた液体を盾で受ける。ジュッと音をたてたところをみるに、酸の類だろうか。盾を下げて見上げれば、河坊主は身体から何本もの触手を生み出していた。
「とりあえず、水夫さんには下がって頂いて……一度接岸してくださいませ。三方向から一気に攻めますわ!」
剣を抜き放ち、切っ先を河坊主へ向ける。船は再びイカリを上げ、河坊主へと少しずつ近づいていくのだった。
整備された河を一隻の船が下っていく。両岸に生える草花が強めの風に揺れ、ほのかに沸き立つ水の匂いが鼻に感じられた。
「へー、意外と早いものですのね」
船の上から身を乗り出して、サチコ・W・ルサスールは船が起こす波を眺めていた。後ろから危ないですよ、と従者のタロとジロがその身体を引き戻す。
「はっは、お嬢ちゃん。船は初めてだったか。落ちても、拾えないからな?」
サチコたちの様子を眺め、船長が冗談っぽく笑い声をあげる。
数時間前、南方へ移動するために川下りの船を探していたサチコたちを船長は快く迎え入れてくれた。しかも、実質無料である。
「思ったより穏やかで……船とは酔うものと聞いておりましたが」
「最近は天気も安定してましたからね、かといって水量は十分」
船長は行き交う水夫たちに指示を飛ばしながら、サチコにいろいろと説明をする。川の流れにそって移動するため、人手もかからず早いのだという。一方で上りならば、船引の人夫を使うなどするのだといっていた。
「それにしても、運賃は本当によろしいのでしょうか」
「最近は貨物船を襲う賊もいると聞きますから、持ちつ持たれつですよ。何かあった場合に護っていただければ、保険料もお支払いします」
安全を取るためにこの船長は、ハンターや傭兵を乗せていた。幸いなことに今まで襲われたことはないが、今回は嫌な噂を耳にしていた。海坊主ならぬ河坊主が出るというのだ。いつもならバカバカしいと一笑に付すこともあっただろう。
その噂を説明した上で、サチコたちは乗船を承諾した。
「近年の情勢を見聞するに、笑い事でもないですから」
船長の勘は当たるからちょうどいいと船員たちもサチコたちを歓迎してくれた。そう、何事もなければ無料……何事か起こった場合は解決すればお金がもらえる。
「何事もないのが一番ですわ」
笑顔で告げるサチコだが、かくしてその望みは破られた。
●
「イカリ降ろせ!」
船長の怒号に合わせて水夫たちが慌ただしく動きまわる。船の前方に半透明の物体がせり上がってきたのだ。船は急停止し、様子を見ている間に物体は増えていった。その数、4体……物体はチンアナゴのように細長く、先端部をぐるりと動かして辺りを見渡していた。
顔らしいものは何もないが、先端の部分が怪しく発光していた。
「でちまいましたな……サチコさん」
「出てきましたね、船長」
嘆息すら漏れでてこない。大きさは確かに海坊主もとい河坊主といえなくもないが、想像よりも細長い。眺めている間に、先端部分が船のほうを向く。
「……っ! 危ないですわ!」
サチコが前へ飛び出て、放たれた液体を盾で受ける。ジュッと音をたてたところをみるに、酸の類だろうか。盾を下げて見上げれば、河坊主は身体から何本もの触手を生み出していた。
「とりあえず、水夫さんには下がって頂いて……一度接岸してくださいませ。三方向から一気に攻めますわ!」
剣を抜き放ち、切っ先を河坊主へ向ける。船は再びイカリを上げ、河坊主へと少しずつ近づいていくのだった。
リプレイ本文
●
ゆったりとした流れの河に、そいつらは墓標のように突っ立っていた。うねうねとくねらせた触手が、ハンターたちの乗った船に向けられている。水夫たちは一様にその姿を見て、河坊主が出たと述べていた。
船の前方では、一人の少女が河坊主に睨みを利かせていた。彼女の名は、サチコ・W・ルサスール。ルサスール家の一人娘にして、ワルワル団なる組織の総帥である。
「咄嗟な判断に冷静な指示……わかってはいたが、サチコも成長したんだと実感するな」
サチコの背中を見て、頼もしい限りだぜ、と結ぶのはヴァイス(ka0364)だ。感慨深く笑みを浮かべて、ヴァイスは左の岸へ降りる。ヴァイスに続いて、アシェ-ル(ka2983)も降りる。
「……おっと、ととと!?」
地面に足を置いたところで、転びそうになり、ヴァイスに支えられた。
「気をつけろよ?」
「あ、ありがとうございます」
しっかりと足元を確認して、アシェールは改めてヴァイスに頭を下げる。
「よろしくお願いします、ヴァイスさん」
「おう、よろしくな!」
さて、とヴァイスが顔を上げれば船は反対側へ接岸していた。向こうでもアメリア・フォーサイス(ka4111)とコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)が降りたのを確認する。トランシーバーのスイッチを入れて、連絡を取る。
「そっちの準備はどうだい?」
「所定の位置に着きましたわ」
ヴァイスの問いかけに応え、アメリアは漆黒のライフルを構える。じっくりと見据えた先で、うにょうにょと触手が蠢いていた。河坊主から目を離し、アメリアは小さくため息を漏らす。
「出会わなければいいなーというのはフラグだったかもしれない。そんな気がします」
「だが、目の前で悪事を働く歪虚に出会ってしまったのなら、容赦なく制裁する。そうだろう?」
コーネリアの言には、もちろん、とアメリアも首肯する。コーネリアとアメリアは河坊主が自分たちに関心を持っていないことを確認し、それぞれ銃を構える。
それにしても、とアサルトライフルの銃口を河坊主へ向け、コーネリアは静かにほほ笑む。
「馬鹿め。水上戦でこの私に勝てると思っているのか?」
元軍人、それも海軍大尉であった意地にかけて確実に葬り去る。コーネリアは、静かに狙いを定めて合図を待つのだった。
四人のハンターを下した船の上では、慌ただしさが増していた。アメリアなどは水夫たちにもできる限り、船から離れておいてもらいたかったが……。
「俺たちがいなくて、誰が船を動かすんだ?」という水夫一丸の言葉に諦めざるを得なかった。代わりに、天竜寺 舞(ka0377)がサチコの従者を伴わせ、後方に下がるよう指示していた。
船上を行きかう水夫を避けながら、ラジェンドラ(ka6353)はトランシーバーを手に持っていた。
「コーネリアの姐さん、今回はよろしく頼む」
連絡を仲介していた彼は、左岸右岸の準備が整ったことをサチコに伝えた。
「さて、準備は完了。サチコの嬢ちゃんも覚醒者なんだろう。頑張ろうな」
「えぇ、そして、ワルワル団総帥ですわ」
「わるわる団……なんだいそれは?」
聞きなれない単語にラジェンドラは問いかけ、サチコは答えようと口を開く。そこへ舞が、割って入った。
「はいはい。お話は気の利かない雑魔をさっさと片づけて華麗なるクルージングを再開してからね!」
舞と反対側に、ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)も姿を見せた。河坊主の望み、おやぁ、と声を上げる。
「サイズは全然でかいけど、リアルブルーにいるって聞いた生き物と似ている気がするぞぉ」
えぇーと、と考えながら、
「ニュルニュル……いや、ニョレニョレだっけ?」
「ニョロニョロかな?」
それだ、と叫びながらヴォーイは自らの目に動物霊の力を宿しておく。
「やれやれ、あんなのが居ちゃあ釣り糸垂らしてても当たりがねー訳だぜ」
「それに、あまり長時間。強引に船を止めておくのも拙いだろう」
ロニ・カルディス(ka0551)は続けて、
「早急に航路を開けてもらわねばな」と告げて盾を構える。
ロニの視線は、左岸に注がれていた。
●
ロニの視線の先、左岸ではヴァイスが紅蓮のオーラを炎のように増大させていた。
「さて、少しでも効果があればいいが……この距離では難しいか?」
ソウルトーチを使用し、少しでも河坊主たちの注意を引き付けるつもりでいた。船に向いていた触手が、一斉に左岸へと向けられた。どうやら、何かがいる、ということは伝わったらしい。
「気がついたみたいだが、さてはて……」
まずは様子見と弓を取り出すヴァイスの隣で、アシェールは魔法で石つぶてを放つ。
「サチコ様の行く道を、よくわからない雑魔如きに邪魔させません! 水属性には、土属性なのです!」
だが、石つぶては河坊主の本体をわずかに逸れて、流線を描いて河へと落ちる。歯噛みをするアシェールの目の前で、河坊主が身震いした。
身震いの原因を引き起こしたのは、ロニの旋律であった。正ならざるモノの行動を阻害する旋律は、等しく河坊主にも効果を及ぼした。
ヴァイスの灯りと、ロニの旋律起こした隙を見逃さず、船はゆっくりと河坊主へと動く。触手のどまんなかに飛び込まないよう、流れよりもゆったりと……。
惹きつけられた河坊主と動き出した船を見やり、動き出したのはコーネリアだった。河坊主が下手に動かないよう、的を絞り、引き金を引く。
弾丸が空中をかすめ、船に向かおうと動いた一体を釘付けにした。河坊主の中で、注意を船へ引き戻されたのは、その一体だけだ。あとは、ヴァイスへの興味を振り払えないでいた。
「愚かだな」
「でも、おかげで上手くいきましたわ」
コーネリアの感想に、アメリアは頷く。そして、自らも銃口をしかりと船へ蠢く河坊主へ向ける。弾丸を撃ちだす瞬間に、マテリアルを込め、高加速度射撃を行う。
弾丸は河坊主の本体をまっすぐに貫いた。身体の一部が砕け落ちた一方、風穴はすぐに修復される。
「再生されるとしても、最後まで削りきればいいだけです」
そして、とアメリアは口を紡いで素早く弾丸をライフルへ込め、引き金を引いた。
アメリアの弾丸は、船へと伸ばされた触手の一本を逸らす。触手は水面を叩いて、水しぶきが飛んだ。触手は一本だけではない、二本目の触手はロニへと伸びる。
「む」
「割り込み、ごめん!」
盾を構えたロニの前に、舞が飛び込む。足で弧を描きながら、触手を捌き、根本に近い部分から断ち切る。そのまま、マテリアルで身体の動きを滑らかに、宙を舞う別の触手へも刃を叩き入れる。
「ほらほら、さっさとお寝んねしちゃいなよ!」
切り飛ばされた触手が空中で、霧散する。舞が目配せし、ロニはレクイエムを継続する。
「船もそうだが、ロニの旦那を倒されるわけにはいかないな」
ラジェンドラが防御性能を上げるエネルギーをロニに流し込む。レクイエムは今のところ有効だった。このまま、行動をかき乱し続ければ、一気に片付けることも可能だろう。
「さて、攻撃にも転じるか。うっとおしい触手とまとめて落ちろ」
続けて光の三角形を作り出す。各頂点から伸びた光が、真正面に来た河坊主を穿つ。触手を焼き払い、本体にも風穴を開く。
「おらよ、おまけにドリル攻撃だ!」
ロニが一歩下がり、代わりにヴォーイが間を埋める。ドリルのモーター音を響かせながら、的確に触手を打ち払っていた。船へより近づかんとする河坊主であったが、コーネリアの弾丸がそれを防ぐ。
重ねて、アメリアが攻撃をも防いでいた。
もっとも、これだけ集中攻撃が可能なのは、
「上手く此方に引き付けられた奴がいるみたいだ。奴は俺が引き付けるから、アシェールは船の敵を攻撃してくれ」
ニ、三本矢を放ったところで、ヴァイスは剣に得物を切り替える。振り下ろされた触手を受払い、返す刃で切り飛ばす。躍起になって近づくものがいれば、狙いすまして刺突を放つ。
刃が伸びたように見える、紅い軌跡を残しながら、ヴァイスの突きは河坊主を穿つのだ。
「あ、もう一体サチコ号へ……指一本足りとも触れさせませんからね!」
ヴァイスの呪縛を逃れ、二体目が船へと方向を変えたのをアシェールは見逃さない。石の弾丸が河坊主を捉え、その身を触手ごと破壊した。属性の優越が、ここにハッキリと現れる。
「サチコ様は、大丈夫でしょうか……」
船へ向かう触手が、増えたことにアシェールは心配の色を見せる。
●
「さすがに、酸と触手が両方来たら……耐え切れないね」
やるせない気分で焦げた甲板を見下ろし、舞は告げる。サチコに大丈夫かと声をかけ、教えたとおりに守りを固めていることを確認した。
「サチコはそのまま、触手と酸の対応をお願い。でも、無茶はしないでね?」
「多少なら、こちらも助太刀できるが……限界はあるからな」
ラジェンドラが創りだした光の障壁が、ロニの前で割れる。
「でも、河坊主も……そろそろ限界ですわ」
最初にこちらへ向かってきた河坊主は、身体の破壊に再生が追いついていなかった。触手は半数以下に減り、体積も心なしか減少している。自らの不利を悟ったのか、体ごと船へ向かおうとしてコーネリアに阻止されていた。
だが、二体目が動き出したことで、そいつはついに船に横付けした。
残っていた触手をフル活用した攻撃。だが、アメリアによって逸らされ、舞が残りを切り払う。手薄となった胴体に、ヴォーイがここぞとばかりに攻勢を仕掛けた。
「んぬぅおらああ!」
野生の力を引き出し、ドリルをぶん回す。一撃目が河坊主の中心を吹き飛ばし、二撃目は崩れていく身体の中で空振り……そして、落ちた。
「ぬぉおお!?」
ヴォーイは、このまま水中で囮になることも考えたが、水面にぶつかる気配はない。何かが腕をしっかりと掴んでいた。見上げれば、か細い腕の先に、サチコの顔が見えた。
「サチコ様!?」
「ん……んぅー!」
流石にサチコが助けようとしたのであれば、助かるしかない。ヴォーイは動物霊の力を足に用いて、船体を蹴りあげた。跳んだ勢いで、船のへりを掴む。サチコの声と合わせて、自らの身体を引き上げた。
「ありがとうございます、サチコ様」
「どう、いたしまして……ですわ」
立ち上がったヴォーイの目の前で、近づこうとしていた二体目の河坊主が無残な姿になっていた。アシェールの石とラジェンドラのデルタレイが、見事に噛み合ったらしい。根本から折れるようにして、崩れていった。
残るニ体は、それぞれ左岸と右岸へ注意を持っていた。
まずは右岸――接近されたコーネリアは戦いの興奮に声を上げていた。
「船一隻程度沈めるのに手こずっている貴様らに、この私を倒そうなど笑止千万!」
向かってくる触手を神罰銃で、迎え撃つ。
「その愚かさ、死を以って思い知るがいい!」
「もう決着、ついてますしね」
船が河坊主の背後を取るのを見届け、アメリアが告げる。
左岸では、一足先に河坊主が吹き飛んでいた。
「逃しはしないぜ?」
沈もうとした河坊主を畳み掛けるように、ヴァイスの刃が根本を貫く。合わせてアシェールが、爆炎を放ち、触手ごと河坊主を散らしていく。
じっくりとヴァイスに料理されていた一体は、背後から撃たれたラジェンドラのデルタレイとアシェールの爆炎に挟まれ、再生することなく身を崩す。崩れていった河坊主の向こうでも、レクイエムから攻撃に転じたロニが影の塊を放って、トドメを刺していた。
最後の一体が崩れ落ちると同時に、船上からは水夫たちの歓声が送られるのであった。
●
「よし、被害は軽微ですんだみたいだ」
ヴァイスは酸で焦げ付いた甲板を足でこすりながら、その根本まで爛れていないことを確認していった。水夫たちは奥に引っ込ませていたため、けが人はほとんどいない。
「にしても、何やってんだ……あいつら?」
「さぁね。リアルブルーの儀式とかじゃないの」
ヴァイスの疑問に答えたのは、釣りを再開したヴォーイだ。上半身の装備は落下しかけた際に、水に濡れたため外していた。
日が暖かいねぇ、とのんきなことを言いながらヴァイスに釣られて視線を送る。
その先では両腕を水平に広げるサチコとそれを支える舞の姿があった。
「船に乗ったらこれをやるのがリアルブルーの常識だよ!」
舞に唆され、勉強になりますわ、とまじめに捉えるサチコ。その姿を見たリアルブルー出身者の中には、縁起でもない、と心中で叫びを上げたとかなんとか。
縁起でもないといえば、
「一度あることは、二度三度ありえる。警戒は怠るな!」と軍人気質で命令を下すコーネリアを見て、
「また、フラグがたった……気がしますわ」
そうアメリアは呟くのだった。
「そういえば、サチコの嬢ちゃんは何で旅をしているんだ?」
あけすけにラジェンドラが、船先から戻ってきたサチコに尋ねる。サチコは、自らの身上、ルサスール家の令嬢であり、領民のため見聞を広めたいのだと答えた。
そして、
「まずはまだ見ぬ海を見てみるのですわ!」と私欲をむき出しにしていた。
「へぇ、海ね」
息巻くサチコをラジェンドラは面白そうに、眺める。そこへアシェールが海に行くのでしたら、と駆け寄ってきた。
「水着を選ばないといけませんわ! さっそく着替えてみましょう! それぐらいの用意は従者はしているでしょうし……」
連行されそうになるサチコは、人が多すぎるからと必死の抵抗を見せる。思わずヴァイスとロニが近寄ってきて、仲裁に入った。
「海についたら、存分に着替えさせればいいさ」
ヴァイスの言葉に、サチコは不穏なにおいを感じたものの、今を逃れるべく何も言わなかった。アシェールも、タイミングが合えば必ず、と鞘に納める。
「ん~、そうだ。夏といえば、恋! ずばり、サチコ様の意中の男性は!」
「え、それはもちろん……昔私を助けてくれた義賊ですわ」
迷うことなく父親ではなく、義賊を上げるサチコにアシェールは関心をよせる。
「その話、もっと聞かせてくださいますか!?」
「え、えーと、私もよく覚えていないのですけれど……」
サチコがかつて助けられたという話をしている間に、何故か皆が近づいてきていた。川の流れにゆったりと進む船の上で、ハンターたちはサチコの昔話から広がる雑談に花を咲かせるのであった。
ゆったりとした流れの河に、そいつらは墓標のように突っ立っていた。うねうねとくねらせた触手が、ハンターたちの乗った船に向けられている。水夫たちは一様にその姿を見て、河坊主が出たと述べていた。
船の前方では、一人の少女が河坊主に睨みを利かせていた。彼女の名は、サチコ・W・ルサスール。ルサスール家の一人娘にして、ワルワル団なる組織の総帥である。
「咄嗟な判断に冷静な指示……わかってはいたが、サチコも成長したんだと実感するな」
サチコの背中を見て、頼もしい限りだぜ、と結ぶのはヴァイス(ka0364)だ。感慨深く笑みを浮かべて、ヴァイスは左の岸へ降りる。ヴァイスに続いて、アシェ-ル(ka2983)も降りる。
「……おっと、ととと!?」
地面に足を置いたところで、転びそうになり、ヴァイスに支えられた。
「気をつけろよ?」
「あ、ありがとうございます」
しっかりと足元を確認して、アシェールは改めてヴァイスに頭を下げる。
「よろしくお願いします、ヴァイスさん」
「おう、よろしくな!」
さて、とヴァイスが顔を上げれば船は反対側へ接岸していた。向こうでもアメリア・フォーサイス(ka4111)とコーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)が降りたのを確認する。トランシーバーのスイッチを入れて、連絡を取る。
「そっちの準備はどうだい?」
「所定の位置に着きましたわ」
ヴァイスの問いかけに応え、アメリアは漆黒のライフルを構える。じっくりと見据えた先で、うにょうにょと触手が蠢いていた。河坊主から目を離し、アメリアは小さくため息を漏らす。
「出会わなければいいなーというのはフラグだったかもしれない。そんな気がします」
「だが、目の前で悪事を働く歪虚に出会ってしまったのなら、容赦なく制裁する。そうだろう?」
コーネリアの言には、もちろん、とアメリアも首肯する。コーネリアとアメリアは河坊主が自分たちに関心を持っていないことを確認し、それぞれ銃を構える。
それにしても、とアサルトライフルの銃口を河坊主へ向け、コーネリアは静かにほほ笑む。
「馬鹿め。水上戦でこの私に勝てると思っているのか?」
元軍人、それも海軍大尉であった意地にかけて確実に葬り去る。コーネリアは、静かに狙いを定めて合図を待つのだった。
四人のハンターを下した船の上では、慌ただしさが増していた。アメリアなどは水夫たちにもできる限り、船から離れておいてもらいたかったが……。
「俺たちがいなくて、誰が船を動かすんだ?」という水夫一丸の言葉に諦めざるを得なかった。代わりに、天竜寺 舞(ka0377)がサチコの従者を伴わせ、後方に下がるよう指示していた。
船上を行きかう水夫を避けながら、ラジェンドラ(ka6353)はトランシーバーを手に持っていた。
「コーネリアの姐さん、今回はよろしく頼む」
連絡を仲介していた彼は、左岸右岸の準備が整ったことをサチコに伝えた。
「さて、準備は完了。サチコの嬢ちゃんも覚醒者なんだろう。頑張ろうな」
「えぇ、そして、ワルワル団総帥ですわ」
「わるわる団……なんだいそれは?」
聞きなれない単語にラジェンドラは問いかけ、サチコは答えようと口を開く。そこへ舞が、割って入った。
「はいはい。お話は気の利かない雑魔をさっさと片づけて華麗なるクルージングを再開してからね!」
舞と反対側に、ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)も姿を見せた。河坊主の望み、おやぁ、と声を上げる。
「サイズは全然でかいけど、リアルブルーにいるって聞いた生き物と似ている気がするぞぉ」
えぇーと、と考えながら、
「ニュルニュル……いや、ニョレニョレだっけ?」
「ニョロニョロかな?」
それだ、と叫びながらヴォーイは自らの目に動物霊の力を宿しておく。
「やれやれ、あんなのが居ちゃあ釣り糸垂らしてても当たりがねー訳だぜ」
「それに、あまり長時間。強引に船を止めておくのも拙いだろう」
ロニ・カルディス(ka0551)は続けて、
「早急に航路を開けてもらわねばな」と告げて盾を構える。
ロニの視線は、左岸に注がれていた。
●
ロニの視線の先、左岸ではヴァイスが紅蓮のオーラを炎のように増大させていた。
「さて、少しでも効果があればいいが……この距離では難しいか?」
ソウルトーチを使用し、少しでも河坊主たちの注意を引き付けるつもりでいた。船に向いていた触手が、一斉に左岸へと向けられた。どうやら、何かがいる、ということは伝わったらしい。
「気がついたみたいだが、さてはて……」
まずは様子見と弓を取り出すヴァイスの隣で、アシェールは魔法で石つぶてを放つ。
「サチコ様の行く道を、よくわからない雑魔如きに邪魔させません! 水属性には、土属性なのです!」
だが、石つぶては河坊主の本体をわずかに逸れて、流線を描いて河へと落ちる。歯噛みをするアシェールの目の前で、河坊主が身震いした。
身震いの原因を引き起こしたのは、ロニの旋律であった。正ならざるモノの行動を阻害する旋律は、等しく河坊主にも効果を及ぼした。
ヴァイスの灯りと、ロニの旋律起こした隙を見逃さず、船はゆっくりと河坊主へと動く。触手のどまんなかに飛び込まないよう、流れよりもゆったりと……。
惹きつけられた河坊主と動き出した船を見やり、動き出したのはコーネリアだった。河坊主が下手に動かないよう、的を絞り、引き金を引く。
弾丸が空中をかすめ、船に向かおうと動いた一体を釘付けにした。河坊主の中で、注意を船へ引き戻されたのは、その一体だけだ。あとは、ヴァイスへの興味を振り払えないでいた。
「愚かだな」
「でも、おかげで上手くいきましたわ」
コーネリアの感想に、アメリアは頷く。そして、自らも銃口をしかりと船へ蠢く河坊主へ向ける。弾丸を撃ちだす瞬間に、マテリアルを込め、高加速度射撃を行う。
弾丸は河坊主の本体をまっすぐに貫いた。身体の一部が砕け落ちた一方、風穴はすぐに修復される。
「再生されるとしても、最後まで削りきればいいだけです」
そして、とアメリアは口を紡いで素早く弾丸をライフルへ込め、引き金を引いた。
アメリアの弾丸は、船へと伸ばされた触手の一本を逸らす。触手は水面を叩いて、水しぶきが飛んだ。触手は一本だけではない、二本目の触手はロニへと伸びる。
「む」
「割り込み、ごめん!」
盾を構えたロニの前に、舞が飛び込む。足で弧を描きながら、触手を捌き、根本に近い部分から断ち切る。そのまま、マテリアルで身体の動きを滑らかに、宙を舞う別の触手へも刃を叩き入れる。
「ほらほら、さっさとお寝んねしちゃいなよ!」
切り飛ばされた触手が空中で、霧散する。舞が目配せし、ロニはレクイエムを継続する。
「船もそうだが、ロニの旦那を倒されるわけにはいかないな」
ラジェンドラが防御性能を上げるエネルギーをロニに流し込む。レクイエムは今のところ有効だった。このまま、行動をかき乱し続ければ、一気に片付けることも可能だろう。
「さて、攻撃にも転じるか。うっとおしい触手とまとめて落ちろ」
続けて光の三角形を作り出す。各頂点から伸びた光が、真正面に来た河坊主を穿つ。触手を焼き払い、本体にも風穴を開く。
「おらよ、おまけにドリル攻撃だ!」
ロニが一歩下がり、代わりにヴォーイが間を埋める。ドリルのモーター音を響かせながら、的確に触手を打ち払っていた。船へより近づかんとする河坊主であったが、コーネリアの弾丸がそれを防ぐ。
重ねて、アメリアが攻撃をも防いでいた。
もっとも、これだけ集中攻撃が可能なのは、
「上手く此方に引き付けられた奴がいるみたいだ。奴は俺が引き付けるから、アシェールは船の敵を攻撃してくれ」
ニ、三本矢を放ったところで、ヴァイスは剣に得物を切り替える。振り下ろされた触手を受払い、返す刃で切り飛ばす。躍起になって近づくものがいれば、狙いすまして刺突を放つ。
刃が伸びたように見える、紅い軌跡を残しながら、ヴァイスの突きは河坊主を穿つのだ。
「あ、もう一体サチコ号へ……指一本足りとも触れさせませんからね!」
ヴァイスの呪縛を逃れ、二体目が船へと方向を変えたのをアシェールは見逃さない。石の弾丸が河坊主を捉え、その身を触手ごと破壊した。属性の優越が、ここにハッキリと現れる。
「サチコ様は、大丈夫でしょうか……」
船へ向かう触手が、増えたことにアシェールは心配の色を見せる。
●
「さすがに、酸と触手が両方来たら……耐え切れないね」
やるせない気分で焦げた甲板を見下ろし、舞は告げる。サチコに大丈夫かと声をかけ、教えたとおりに守りを固めていることを確認した。
「サチコはそのまま、触手と酸の対応をお願い。でも、無茶はしないでね?」
「多少なら、こちらも助太刀できるが……限界はあるからな」
ラジェンドラが創りだした光の障壁が、ロニの前で割れる。
「でも、河坊主も……そろそろ限界ですわ」
最初にこちらへ向かってきた河坊主は、身体の破壊に再生が追いついていなかった。触手は半数以下に減り、体積も心なしか減少している。自らの不利を悟ったのか、体ごと船へ向かおうとしてコーネリアに阻止されていた。
だが、二体目が動き出したことで、そいつはついに船に横付けした。
残っていた触手をフル活用した攻撃。だが、アメリアによって逸らされ、舞が残りを切り払う。手薄となった胴体に、ヴォーイがここぞとばかりに攻勢を仕掛けた。
「んぬぅおらああ!」
野生の力を引き出し、ドリルをぶん回す。一撃目が河坊主の中心を吹き飛ばし、二撃目は崩れていく身体の中で空振り……そして、落ちた。
「ぬぉおお!?」
ヴォーイは、このまま水中で囮になることも考えたが、水面にぶつかる気配はない。何かが腕をしっかりと掴んでいた。見上げれば、か細い腕の先に、サチコの顔が見えた。
「サチコ様!?」
「ん……んぅー!」
流石にサチコが助けようとしたのであれば、助かるしかない。ヴォーイは動物霊の力を足に用いて、船体を蹴りあげた。跳んだ勢いで、船のへりを掴む。サチコの声と合わせて、自らの身体を引き上げた。
「ありがとうございます、サチコ様」
「どう、いたしまして……ですわ」
立ち上がったヴォーイの目の前で、近づこうとしていた二体目の河坊主が無残な姿になっていた。アシェールの石とラジェンドラのデルタレイが、見事に噛み合ったらしい。根本から折れるようにして、崩れていった。
残るニ体は、それぞれ左岸と右岸へ注意を持っていた。
まずは右岸――接近されたコーネリアは戦いの興奮に声を上げていた。
「船一隻程度沈めるのに手こずっている貴様らに、この私を倒そうなど笑止千万!」
向かってくる触手を神罰銃で、迎え撃つ。
「その愚かさ、死を以って思い知るがいい!」
「もう決着、ついてますしね」
船が河坊主の背後を取るのを見届け、アメリアが告げる。
左岸では、一足先に河坊主が吹き飛んでいた。
「逃しはしないぜ?」
沈もうとした河坊主を畳み掛けるように、ヴァイスの刃が根本を貫く。合わせてアシェールが、爆炎を放ち、触手ごと河坊主を散らしていく。
じっくりとヴァイスに料理されていた一体は、背後から撃たれたラジェンドラのデルタレイとアシェールの爆炎に挟まれ、再生することなく身を崩す。崩れていった河坊主の向こうでも、レクイエムから攻撃に転じたロニが影の塊を放って、トドメを刺していた。
最後の一体が崩れ落ちると同時に、船上からは水夫たちの歓声が送られるのであった。
●
「よし、被害は軽微ですんだみたいだ」
ヴァイスは酸で焦げ付いた甲板を足でこすりながら、その根本まで爛れていないことを確認していった。水夫たちは奥に引っ込ませていたため、けが人はほとんどいない。
「にしても、何やってんだ……あいつら?」
「さぁね。リアルブルーの儀式とかじゃないの」
ヴァイスの疑問に答えたのは、釣りを再開したヴォーイだ。上半身の装備は落下しかけた際に、水に濡れたため外していた。
日が暖かいねぇ、とのんきなことを言いながらヴァイスに釣られて視線を送る。
その先では両腕を水平に広げるサチコとそれを支える舞の姿があった。
「船に乗ったらこれをやるのがリアルブルーの常識だよ!」
舞に唆され、勉強になりますわ、とまじめに捉えるサチコ。その姿を見たリアルブルー出身者の中には、縁起でもない、と心中で叫びを上げたとかなんとか。
縁起でもないといえば、
「一度あることは、二度三度ありえる。警戒は怠るな!」と軍人気質で命令を下すコーネリアを見て、
「また、フラグがたった……気がしますわ」
そうアメリアは呟くのだった。
「そういえば、サチコの嬢ちゃんは何で旅をしているんだ?」
あけすけにラジェンドラが、船先から戻ってきたサチコに尋ねる。サチコは、自らの身上、ルサスール家の令嬢であり、領民のため見聞を広めたいのだと答えた。
そして、
「まずはまだ見ぬ海を見てみるのですわ!」と私欲をむき出しにしていた。
「へぇ、海ね」
息巻くサチコをラジェンドラは面白そうに、眺める。そこへアシェールが海に行くのでしたら、と駆け寄ってきた。
「水着を選ばないといけませんわ! さっそく着替えてみましょう! それぐらいの用意は従者はしているでしょうし……」
連行されそうになるサチコは、人が多すぎるからと必死の抵抗を見せる。思わずヴァイスとロニが近寄ってきて、仲裁に入った。
「海についたら、存分に着替えさせればいいさ」
ヴァイスの言葉に、サチコは不穏なにおいを感じたものの、今を逃れるべく何も言わなかった。アシェールも、タイミングが合えば必ず、と鞘に納める。
「ん~、そうだ。夏といえば、恋! ずばり、サチコ様の意中の男性は!」
「え、それはもちろん……昔私を助けてくれた義賊ですわ」
迷うことなく父親ではなく、義賊を上げるサチコにアシェールは関心をよせる。
「その話、もっと聞かせてくださいますか!?」
「え、えーと、私もよく覚えていないのですけれど……」
サチコがかつて助けられたという話をしている間に、何故か皆が近づいてきていた。川の流れにゆったりと進む船の上で、ハンターたちはサチコの昔話から広がる雑談に花を咲かせるのであった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/07/19 21:37:21 |
|
![]() |
相談卓だよ 天竜寺 舞(ka0377) 人間(リアルブルー)|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2016/07/22 17:46:45 |