収穫祭と黒い雑魔

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/09/17 12:00
完成日
2014/09/21 23:48

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●ある田舎の村の広場にて
「様々な苦難を乗り越え、ようやく、収穫祭が始まると思ったのに……」
 そう言いながら、村の長老がフラフラとよろめきながら、ベンチに腰をかけた。
 毎年行われる、村の収穫祭。
 数日間にわたって、開催される間、近隣からも観光客が大勢訪れる季節のイベントである。
 しかし、今年は収穫祭の準備に種々多様な障害が出て、なにか、呪われているのではないかと思うほどだ。
 蔵に雑魔が出たり、峠道が封鎖されてしまったり、熟成させていた肉が行方不明になったり、予算費用が足りなかったりしたが、ハンターの協力や長老の知恵で乗り越えてきた。
 なのに、収穫祭まで、あと少しという所で収穫祭の開催自体危ぶまれる事案が発生したのだ。
「村の近い場所に雑魔が出たとあれば、役人の言う通り、収穫祭は中止ですよね……」
 長老と同じベンチに腰をかけている村人が、重い言葉を発する。
 村はずれの小屋に雑魔が出現したのだ。村との距離は近く、雑魔が出たとあれば、村人だけではなく観光客にも被害がでるかもしれない。
 しかし、ここまで準備してきた収穫祭を中止するのも、楽しみにしている大勢の人達を悲しませる事になる。
「わしらだけで、なんとかならんのか?」
「無理ですよ……あんなの……」
 ベンチの周りに集まった村人達の中から1人の村人が青白くなった顔で震えながら言った。

●黒い雑魔
 収穫祭に必要のなくなった資材を保管する為に、小屋を訪れた彼は、小屋の中にいた雑魔と遭遇したのだ。
 小屋には昔から森に不法投棄されていたゴミが溜まっていた。その中に、きっと、よろしくないものもいつの間にか、溜まっていたのだろうか。
 ともかく、中には、雑魔がいたのだ。
 全体的に黒かった。脚は無数にあった、身体は幾節もあった。
 大自然豊かな、この村に住んでいる者なら、1年に1回以上は見かけるはず。
 それは、ムカデだった。
 ただし、身体の長さは人の身長ぐらいはあるムカデなのだが。
 彼は、そっと小屋から出て、入口を堅く封鎖したのだ。
 今の所、小屋から出てくる気配はないが、万が一、出てきてしまったらと村人達は怯えている。

●村人の機転
「役人は雑魔の件を収穫祭までに解決できなければ中止と言ってました」
「今からハンターに依頼を出しても間に合うものなのか……」
 収穫祭まで時間がない。
 どうしたものかと、顎に手をやる長老。
「長老。よろしいでしょうか?」
 一人の村人が重々しく口を開く。村人一同の視線が集まった。
「確かに、役人は収穫祭までにと言いました。文言通りならば、『収穫祭当日までに』ではなく『収穫祭までに』です」
 そして、雑魔がいる小屋のある方を指差す。
「つまり、『収穫祭が開始されるまで』猶予があるのであれば……」
 そこまで、口にして、何人かの村人達が「おぉ」と感嘆の声を発した。
「今から依頼を出せば、収穫祭の早朝には間に合うはずです」
「なるほど。ハンターに雑魔を退治してくれれば、昼前から始まる収穫祭には間に合うはずじゃな」
 村人達は、納得した様に、それぞれ頷く。
 雑魔を退治されれば、心おきなく収穫祭にも取り組めるというものだ。

●収穫祭への決意
「あとはよ、ハンターがちゃんと来てくれるべかな?」
 不安そうな村人の台詞に、別の村人が自信有り気に言った。
「そら、おめぇ、雑魔の退治が終わったら、収穫祭にも参加してもらえればいいべ」
「なるほど!」
「だろぉ。男のハンターには村中の美女を、女のハンターには村中のイケメンをだな」
「ちょっと、待て、うちの村には、美女もイケメンもいねぇぞ……」
 その言葉で全員が再び黙りこむ。
 ヒューと秋風が吹き抜けた。
 それに合わせるようにベンチに座っていた長老が立ちあがる。
「こうなっては、贅沢言ってられん。子供でも老人でも、とにかく、動ける者でハンターの方々を歓迎しようではないか。依頼書には歓迎する旨も入れるのだ」
 長老の宣言に、全員が頷く。
 是が非でも収穫祭を成功させるのだと、村人達は気持ち新たに決意したのだった。

リプレイ本文

●戦いの前に
 J(ka3142)が、小屋の周囲を取り囲む森の中に独り潜む。
 枯葉やら枯枝やら、森に落ちていたなにかを、汚れるのも気にせずに纏い、森と一体化しようとしている。
 雑魔が小屋にいるのは確認した。だが、警戒するにこした事はない。村は目と鼻の先なのだから。
 彼女はただ一人、先行して小屋に訪れ、警戒している
 もちろん、自分が先に狙われるかもしれないが、その場合は、仲間が来るまで耐えればいいだけだ。

 一方、収穫祭の準備が整った村では、これから、他のハンター達が出発する所だった。
(ここまでトラブルが起こるのも珍しいわよね。雑魔のせいで、収穫祭を中止なんてもったいないじゃない)
 苦笑気味にそう思っていたのは、エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)だ。
 エヴァは過去の依頼で2度この村の危機を救っている。
 そのせいか、今回、村に到着した際、虹の天使が来たぞと村人達が騒ぎたてていた。
 戦いを見学したいと申し出た村人をディーナ(ka1748)が笑みを浮かべて断る。
 万が一にも雑魔が村人に危害を加える事もあるかもしれないという配慮からだ。
「雑魔には収穫祭の迷惑料として足の一本や二本、腕の……。ムカデの足は……こ、細かいこと気にするな、ぞよ」
 ムカデの足が、一本や二本なくなった所で、あまり意味がないのではないかと誰もがそう思う。
「迷惑なムカデを退治し、祭を楽しむぞよ。朗報は寝て待てと……む? 今度もなにかが違うぞよ!?」
 その台詞に、心配そうな表情だった村人達の表情が和らぐ。
 長老が進み出て、「よろしくお願いします」とハンター達へ大げさに頭を下げる。
「お祭りを楽しめる様に、速やかに雑魔を倒してきます」
 アシェ・ブルゲス(ka3144)が、そんな長老に声をかけた。
 今日行われる収穫祭では、廃材アートを披露する予定なのだ。既に、小屋の中の物を自由に使って良いと許可を貰っている。
 一行は村人達の声援を受けながら、小屋を目指して歩きだす。
(ムカデさんを退治して、収穫祭が無事始められるかどうかの大切な依頼。私のようなゴミ虫がのこのこと顔を出してしまい、誠に心苦しいです)
 ニャンゴ・ニャンゴ(ka1590)は持ち前の超ネガティブ思考が全開の様だ。
 ゴミ虫の様な私とムカデの様な雑魔とどっちが屑なのかと想像し、やはり、自分なのだろうと辿りつく。
「万が一の時は私が生贄となり、ムカデさんに、この身を捧げることで怒りを鎮めます」
 そんな事が通じるかはともかく、思いふけっていたせいか、無意識のうちに、言葉に出ていたようだ。
「こ、小屋の戸を開ける役は、生贄なのかぞよ!?」
 先頭を歩くディーナの耳には、ニャンゴの言葉がよく聞き取れなかったようだ。
 打ち合わせではディーナが小屋の戸を開ける事になっている。
 慌てふためく彼女の身振りに一行は笑みを浮かべた。

●雑魔退治
 小屋の場所は森に入ってすぐだった。
 村との距離は近い。ムカデ雑魔を逃してならないと一行は再認識する。
 Jが森の中から小屋を見張っているはずだが、動きがないので、ムカデ雑魔は小屋の中にいるはずだ。
 小屋の戸を開け、ムカデ雑魔を外におびき出す役目を引き受けたディーナが静かに戸に近づく。
 エヴァとアシェが左右に展開し、ニャンゴはディーナの斜め後ろに位置着いた。
 鍵を音を立てぬ様に慎重にはずし、そこで、一度振り返ると、手を大きく振る。
 いよいよ戸を開けるのだ。
「おじゃまするぞよ!」
 掛け声と共に勢いよく戸を開け、直後、槍を構えた。
 だが……。
「出てきませんね」
 アシェの言葉通り、戸は開いたが、ムカデ雑魔が出てくる様子がない。
(私が屑過ぎて、ムカデさんが出てこないのでしょうね。皆様方には、申し訳ないです)
 ニャンゴが、そう思いながら頷く。
 周りからは、アシェの言葉に同意している様にしか見えなかったのだが。
「仕方ないぞよ。叩きだしてくるぞよ」
 ムカデ雑魔がハンターに気がついていなければ、機先を制し、外に叩きだすつもりなのだ。
 ディーナがそっと小屋の中を覗き込んだ。
 だが、ゴミが散乱しているだけで、小屋の中にムカデ雑魔の姿は見当たらない。
「来ますよ!」
 たぶん、Jの声だ。
 だが、ディーナには、なにかが落ちてくる音で、警告がちゃんと聞き取れなかった。
 天井から、ムカデ雑魔が降ってきたのだ。
 ディーナは咄嗟の事で、避けきれなかった。
 ムカデ雑魔が覆いかぶさって、巻きついてくる。
「ぞ、ぞよー!」
 彼女の悲鳴が辺りに響く。
 とっさにニャンゴは斧を構え直したが、振り下ろせない。下手したら、ディーナに斧が当たってしまう。
 同様の理由で、後衛組も手出しが出来なくなった。
 ムカデ雑魔は長い胴体でディーナの身体に巻きつくと、獲物を殺す様に締め付け始め……る事はなかった。
「ちょ、どこ、触るぞよ! く、くすぐったいぞよ!」
 巻きつかれた状態で、ムカデ雑魔が的確にディーナの笑いのツボをまさぐる。
 逃れようにも巻き付けから、脱出が出来ず、笑い死にそうな状態の必死なディーナの姿に、一行は茫然としていた。
 強烈な締め付けで、身体の骨が粉々に砕けるよりかは、マシではあるが、なにか、違う。
 その時、ムカデ雑魔とディーナを中心に煙が発生した。
 発火したわけではない。エヴァが睡眠を誘う魔法を使用したのだ。
 ディーナはムカデ雑魔に抱きつかれたまま、寝てしまった。
 ムカデも寝るのかどうかはわからないが、動きが止まっている。
 巨大なムカデと女性が抱き合っている様に見えるのは、パッと見、凄く違和感がある光景だった。
(熱湯を持って来れなくて、逆に良かったかもしれない)
 アシェがその光景を見ながら、そんな事を思った。
 ムカデ雑魔に熱湯をぶっかけようと思っていたが、幸か不幸か、耐熱性の瓶が用意出来なかった。
 もし、熱湯を持っていたなら、ぶっかけるのにある程度近づく事になっていただろうから、もしかして、ムカデ雑魔と寝ていたのはアシェだった可能性もある。
「私の様なゴミ虫には、相応しい仕事です」
 ニャンゴが、そんな感想を呟きながら、ディーナをムカデから救出しようとする。
 幸いな事に、巻き付ける力は緩んだ様だ。掛け声と共に彼女の身体を引き抜く。
 魔法の効果が切れた。我に返った様に、ムカデ雑魔が小屋の外に引っ張られていくディーナに迫る。
「わ、笑い死ぬかと思ったぞよ」
 目が覚めたディーナは、引っ張られながら、迫ってくるムカデ雑魔の頭を、脚で蹴りあげた。
 怯んだ所に、アシェとエヴァの魔法、Jの機導砲が十字砲火の様に放たれる。
 その攻撃に耐えきり、ムカデ雑魔は蛇の様に頭を持ち上げた。ぐるりとハンター達を見まわす。
 ニャンゴとディーナがそれぞれ、武器を拾い、態勢を整える。
 間髪を入れずに、アシェが光の矢の魔法を使い、エヴァがディーナの持つ槍に、炎の魔法を付与した。
 囲まれた事に不利を感じたのか、ムカデ雑魔が逃走を試みる。
 だが、逃げようとした方角から、機導砲が放たれた。
 Jが予期していたのか、それとも偶然か、ムカデが逃げた先には、Jが潜伏していたのだ。
 森から飛び出し、ムカデ雑魔の正面に立ち塞がる。
 彼女は自身が近接戦でムカデの逃走を抑えられれば、包囲が可能と判断したようだ。もちろん、ムカデ雑魔の意表な攻撃への警戒も怠ってはいないだろう。
「気をつけて!」
 そうだとしても、前衛に立ったJにアシェはそう声をかける。
 巻きついてきて、笑い死にさせようとしてくる雑魔である。なにをしてくるか油断できない。
 ムカデ雑魔が頭の先から酸の塊をJに向かって放ったが、Jは上体を、沈めて酸を避ける。
 その隙を、他のハンター達が見過ごすはずがない。一斉にたたみ掛けた。
 が、ムカデ雑魔も必死の抵抗を試みる。長い胴体を鞭の様に跳ねさせ、近接を仕掛けてきたハンターに逆襲した。
「いい加減にするのぞよ!」
 ディーナがムカデの逆襲を受けながらも、真上から槍を突き立てた。
 ムカデの胴体を貫通した槍は、地面に深く突き刺ささる。
 身動きが取れなくなったムカデ雑魔に、全員が攻撃を繰り返した。
「頭部を分断しても身動きができるなんて、ゴミ虫の私には到底真似ができません。ムカデさん、さすがです」
 ニャンゴが振り下ろした斧の一撃は、ムカデ雑魔の頭部を切り落としたのだが、俄然、頭部も胴体も両方まだ動く。
 頭部だけで森に逃げ込もうとしたその前に、アシェが立ちはだかると、至近距離から、光の矢の魔法を放つ。合わせる様に、エヴァの炎の矢の魔法も放たれる。
 そこに、Jが機導剣を振るって、頭部を叩き潰した。
 頭部は塵となって消えたが、胴体はいまだ健在で、びたんびたんと動き、拘束から逃れようと身悶えている。
 それを突き立てた槍に捕まりながら、必死に押さえつけるディーナ。
 先程と立ち場が逆転したようだ。もっとも、ムカデ雑魔をくすぐる様な事はしないが。
 その時、尻尾の毒針が彼女に襲いかかった。
 とっさに振り返ったが、遅かった。刺さった衝撃で地面を転がるディーナ。
「あなたの犠牲は無駄にしません」
 冷静にJが攻撃を続ける。一行の中にヒールを使える聖導士はいない。
 今は、攻撃こそが最善の手段なのだ。
「ゴミ虫の私では生贄にもなりませんでした。ディーナ君、私が至らず、申し訳ないです」
 ニャンゴが斧を胸元に掲げた。
「ディーナ君の仇です!」
 アシェは意識をより集中させ、光の矢の魔法を使う。エヴァも彼の台詞に頷きながら、炎の矢の魔法を使う。
「わ、我はまだ死んでないぞよ!」
 よろめきながら立ち上がるディーナ。
 毒針は、運が良い事に鎧で止まって、身体には毒針が刺さらなかったようだ。
 結局、ムカデ雑魔の胴体が塵となって消えるまで、この後もハンター達の攻撃が続くのであった。

●収穫祭
 雑魔が無事に退治され、村人達は沸き立つ。これで収穫祭が心置きなく開催できるからだ。
 昼頃には青空のもと、開始の合図となる花火が盛大に打ちあがった。
 虹の天使と5人の勇者という題名の大きな看板絵の下に、白いドレスに身を包んだエヴァがいる。
 看板絵に描かれている天使を模して、最初は持参したボロ布を纏っていたのだが、あまりに不憫に思ったのか、村人が持ってきてくれた。
『せっかくだもの。楽しみます』
 と書かれたスケッチブックをドレスを貸してくれた村人に向ける。エヴァは後天性の聴唖者なので、言葉を発する事の代わりに、筆談等でコミュニケーションを取るのだ。
 ドレスを用意してもらって、村人に気を遣わせた様だが、祭りを楽しもうと笑顔を浮かべる。
 村の危機を三度救った彼女を中心に、ちょっとしたひとだかりが出来た。

 一方、そこから少し離れた所にも、ひとだかりが出来ている。
(私の様なゴミ虫が作ったお菓子を、村人達や観光客がお世辞を言って買っていくのは、誠に心苦しい)
 ニャンゴがお菓子の出店をやっているのだ。
 お菓子はリンゴ飴の様なものだ。飴が広がった所には、猫をイメージしたイラストを一つ一つ描いてみたが、意外と村人や観光客には、その絵が好評だったらしく、なかなか良い売れ行きだ。
 もっとも、当の本人は、買っていく人達が、自分の様な哀れなゴミ虫に同情していると思っている様だが。
「ニャンゴ君、一ついいかな?」
 アシェが瞳を細めた笑顔で、ニャンゴの店にやってきた。
「こんな、お菓子でよろしければ」
 さっと差し出したリンゴ飴の様なお菓子。
 可愛らしい猫の絵が描いてある。
「よく、出来ていますねー」
「アシェ君も、ゴミ虫の様な私に気を遣ってお世辞を……」
「我もそのお菓子食べるぞよ!」
 ニャンゴのネガティブ発言を遮る様に、ディーナが割って入ってきた。
 右手にはお酒が入っている取手付きの小さいタルを持っている。
 左手には骨付き肉を持っている。
 おまけに、酒臭さが漂っていた。収穫祭が始まって、まだ少ししか経っていないのに、この有り様である。
「ディーナ君。お酒かお肉か手放そうよ」
 アシェが苦笑を浮かべた。
 リンゴ飴の様なお菓子を受け取るには、どちらかの手を空けなくてはならない。
「嫌ぞよ。あーんして、いっぱい食べさせてくれればいいのぞよ!」
 とふらつきながら大きく口を開ける。
 相当酔っている様子だ。
「飲みすぎですよー」
 アシェの台詞に首を振るディーナ。
「我より、Jの方がよく飲んでいるのぞよ!」
 どうやら、愛酒家であるJと飲んでいたようだ。
 そして、酔いがまわってきて、出店に繰り出してきたのだろう。
「私の様なゴミ虫には、相応しい仕事です」
 ニャンゴがリンゴ飴の様なお菓子を数本持って構えた。
「そ、それは、多すぎなのぞ……」
 ディーナの台詞が終わらないうちに、口の中にお菓子を突っ込まれるディーナであった。

「なにか、懐かしい感じがする品だわ」
 アシェの出店の商品を見て、Jが呟いた。
 この世界に転移してくる前に、見かけた事がある、アンティークの様な物だった。
 アシェが小屋にあった物で作った廃材アートだ。
 即席で作っている所を見た時は、なにかわからず、アシェに「これが前衛的な芸術だよ」と言われたが、こうして完成品を見るとよくできていると思う。
 少なくとも、ガラクタではなさそうねと目利きしてしまっていた。

 収穫祭は大いに盛り上がり、誰が言い出したのか、村人や観光客の一発芸が始まり、次に「野良豚のダンスの方が万倍マシ」と嫌がるニャンゴを酔っぱらったディーナが舞台に引っ張り出して舞踏を披露したり、アシェが唄ってみせたりと夕刻になっても、収穫祭はますます盛り上がる一方だった。
『ここにいたんだ』
 エヴァが会場から少し離れた場所で椅子に座って、独り、お酒を飲んでいるJにスケッチブックを見せた。
「あなたは、向こうにいなくていいのか?」
 少し酔っているのか、ほころびた表情をエヴァに向けながらJが訊ねる。
 会場の方では、ディーナがニャンゴとアシェをひっつかんで、なにか叫んでいた。その周りを大勢の村人や観光客が取り囲んで盛り上がっている。
 エヴァは返事をする代わりに、画材一式を掲げてみせた。
「そう……」
 それ以上は言わず、お酒に口をつけて、盛り上がる会場に視線を戻した。
 エヴァはJの脇を通り抜け、原っぱに腰を下ろすと、画材を広げはじめる。
 自分達が守ったものが花開き実をつけた。村人達の収穫祭を行うという想いは達成された。
 大いに盛り上がる人々の笑顔を、姿を、想いを、エヴァはカンバスに描くつもりなのだ。


 収穫祭の楽しそうな光景が描かれている1枚の絵が村の集会所に飾られた。
 きっと、歪虚との戦いが終わり、平和な世の中になったら、こんな光景がどこでも見られるのかもしれない。
 一行は気持ち新たに、帰路についたのだった。


 おしまい。

依頼結果

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重体一覧

参加者一覧

  • 雄弁なる真紅の瞳
    エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029
    人間(紅)|18才|女性|魔術師
  • Monotone Jem
    ニャンゴ・ニャンゴ(ka1590
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • ムカデに好かれた娘
    ディーナ(ka1748
    人間(紅)|20才|女性|霊闘士

  • ガーディアンズ・ストーン(ka3032
    人間(紅)|13才|男性|霊闘士
  • 世界は子供そのもの
    エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142
    人間(蒼)|30才|女性|機導師
  • 不空の彩り手
    アシェ・ブルゲス(ka3144
    エルフ|19才|男性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談用スレッド
ニャンゴ・ニャンゴ(ka1590
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2014/09/17 06:59:38
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/09/17 05:35:49