【闘祭】決勝トーナメント・ルーキーリーグ

マスター:WTRPGマスター

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • duplication
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
5~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
4日
締切
2016/07/25 19:00
完成日
2016/08/08 18:55

みんなの思い出? もっと見る

青柳るう

オープニング

『武闘大会イベント【闘祭】もついにクライマックス! 決勝リーグの開催です!』
 響き渡る竹村 早苗(kz0014)のマイク越しの声に続き、観客席からは歓声が上がる。
 リゼリオの特設ステージのボルテージは今、まさに最高潮に達しようとしていた。
 観光客の数は例年と比べるべくもない。この熱気を支えている物、それは武闘大会!
『皆の者、よくぞここまで戦い抜いてくれた! ソサエティ総長として誇りに思うぞ!』
『とまあ、そんな前置きはみんな聞き飽きてるだろうけどな』
 スメラギ(kz0158)がため息交じりに語ると、ナディアもそれに同意するように頷く。
『まあ一応アレじゃの。お約束っていうか、急に始まらない為の前置きっていうかの』
『それはもう十分だよな? それじゃあ野郎共、早速最高のハンターどもを紹介していくぜ!!』
『スメラギ様、ヤケになってない?』

『それではルーキーリーグ、選手登場です! まずはAブロック勝者、アルルベル・ベルベットーーーー!!』
 割れんばかりの歓声に顔を顰めながらアルルベル・ベルベット(ka2730)は門をくぐり、ステージを目指す。
「これは……まったくひどい騒ぎだな」
『外見年齢15歳、身長147㎝、体重秘密! クラスは機導師! 予選決勝では機導術による華麗な勝利を決めました!』
『メンカルとの試合では、ジェットブーツを活用していたな。丁度その時と同じステージBでの決勝になるぜ』
『クールで可憐な外見から繰り出される機導術はまさに機導天使! 帝国トトカルチョの希望を背負って今、リングに舞い降ります!』
『えー、続いてBブロックより、アルフレート・ウォーダンの登場じゃ! ルーキーリーグではわらわ一押しのメンズじゃぞ!』
『お前の外見的好みじゃねーか……』
『武闘大会に颯爽と現れた謎のルーキー! 外見年齢18歳、身長181㎝、体重74㎏! 帝国勢として登場です! この大会に突然現れ、強力な剣撃で強者たちを打倒してきたダークホース! この男、一体何者なのか~~!?』
 アルフレート・ウォーダン(ka6161)はズボンのポケットに片手を突っ込み、目を伏せて静かに歩いてくる。
『アルフレートは素性に謎が多いのう。わらわがソサエティの権力をかざして調査してもよくわからんかったし』
『おい』
『割とそういうオトコ、わらわ嫌いじゃないから』
『ミステリアルな香りと共に闇から現れた貴公子! この武闘大会で女性ファン増大か~~!?』
『背負っている背景が重そうだからあんまり茶化せぬぞ!』
『そんなん言ったら誰にもコメントできねーだろ……』
『続きましてCブロック、金鹿選手~~~~!!』
 恭しく方々に一礼してから歩き出した金鹿(ka5959)は、声援に小さく手を振って応じる。
『外見年齢18歳、身長154㎝、体重はさておき! 東方からやってきた符術師です!』
『同じ東方の符術師としてうれしく思うぜ。ジャッジするのは俺様じゃねーから、外野として応援させてもらおう』
『ルーキーとは思えない圧倒的な魔法攻撃力は勿論、どのように戦いを鮮やかに彩ってくれるのか、目が離せまん! 蝶よ華よと侮るなかれ! 今、舞台の幕開けです!』
『ひらひらしていて可愛らしいのう~。なんかめっちゃいいにおいしそう』
『ナディアお前、最近大丈夫か?』
『更に続いて東方勢! 全国のお姉さま方お待たせしました! 今をときめく舞刀士、七葵選手ーーーー!!』
 ぐっと腕にさらしをまき直し、一礼と共に入場する七葵(ka4740)。
『外見年齢18歳、身長172㎝、体重54㎏! 予選でも力強く華麗な戦いを見せてくれましたね!』
『イケメンじゃけど、なんか一人でもしっかりしてそうじゃからの~個人的にはイマイチ……』
『アルフレートに謝れ』
『違う、わらわはちょっとダメそうだったり、すぐどっか行っちゃいそうな感じがじゃな……』
『これまで安定感のある戦いを見せてくれた七葵選手! 別枠でポートレートも作成されており、若干本人の予期せぬ形で目立っていますが、決勝リーグの選手を相手にどう立ち回るのでしょうか!?』
『俺様としても頑張って欲しいぜ。是非東方の底力を見せてやってくれ』
『最後に、あのしっちゃかめっちゃかな敗者復活戦を生き残った、強運と実力の持ち主! パワフル笑顔で大逆転! 里見 茜~~!!』
 歓声に笑顔で大きく腕を振り、軽やかに里見 茜(ka6182)は入場する。
『なんとこちらも東方勢! 身長132㎝、体重は秘密! 13歳の元気な女の子です!』
『これで符術師、舞刀士、格闘士の東方職は全職決勝に残っておる事になるのう?』
『東方がハンターズソサエティに本格参入したのは最近の事で、そういう意味でまだルーキーが多いというのはあるだろうな。それを差し引いても東方のハンターは強いのだと、俺は思いたいがね』
『茜は鬼でもある。それが笑顔でこうしてソサエティのイベントに登場してくれる事は、人類にとっても意義あることじゃな』
『まあちっと大げさだが、東方が西方とうまくやってますって証明ではあるな。みんな、ありがとうな』
『三名の東方勢に対し、立ち向かうアルルベル&アルフレートは帝国勢! ルーキーリーグ決勝は、帝国VS東方の様相です!』
 ステージ上に5名の決勝進出者が揃った。いよいよ、ルーキーリーグの決勝戦が始まる。
 数多のドラマを生み出してきたこの武闘大会がどのような決着を迎えるのか……。
『今、運命の対戦発表です!!』
 ソサエティの歴史に名を刻む戦いが、始まろうとしていた……!

リプレイ本文

●決勝リーグ開幕!
『皆さんおまたせしました! これより武闘大会ルーキーリーグ決勝戦を開催致します!!』
『実況中継は引き続き、俺たち三人でやらせてもらうぜ』
『わらわ基本見てるだけじゃがの。というわけで、まずはオッズの方を見ていこうかの!』
 ナディアの呼びかけに伴い、電光掲示板にそれぞれの出場者の写真と共にオッズが並んでいく。

アルルベル:5.28
アルフレート:3.77
金鹿:2.64
七葵:2.93
茜:13.2

『うーむ。茜が優勝したら大変な事になるのう』
『予想はあくまでも予想。ここまで来たら誰が優勝しても全くおかしくねぇからな』
『そうじゃな。勝負事は実力プラス運というのがハッキリわかったからの。もうここまで来たら主に運っていう』
『どの試合も最後までお見逃しなく! 皆さん、声援とお土産購入の準備はよろしいですか~!?』
『それでは時間も押しているので、どんどん始めるとしようかの!』
『三リーグあるからな……俺様途中で誰かと交代していい?』


●里見 茜 VS 七葵
『さぁ! 武闘大会も決勝戦! ここからの試合は全て目が離せませんよ!』
『バトルフィールドは全てリングBでお送りするぜ。まずは茜と七葵、互いの東方勢の試合からだぜ』
『この試合の見どころは七葵の顔以外にどの辺があるかの?』
『そうだな……茜も七葵も、能力や性質的に近距離の激突を望むだろうな。茜の方は格闘士で色々と絡め手もあるが、性格的にガチンコの殴り合いになるだろうぜ』
『東方勢の“自分が死ぬより先に相手を殴り倒せばいいや”って考え方はデフォルトなの?』
『そんなことないと思うが……まあそういう奴が多いのは否めんな……。あいつら自分が死ぬまでに出来るだけ多くの歪虚を倒せればそれでいいと思ってるとこはある』
『そ、そんな物騒なことはさておき! 実際の試合がどうなっているのか見ていきましょう!!』
 七葵(ka4740)は壁の間を進むようにして里見 茜(ka6182)を探していた。
 これは気功波による遠距離攻撃を警戒しての事。目論見通り、移動中に攻撃を受ける事はなかった。
 壁と壁の隙間から身を乗り出した七葵が見たのは、フィールドの隅に立って待ち受ける茜の姿。
 奇襲を警戒していた茜は正面衝突せざるを得ない隅に陣取り、七葵を待っていたのだ。
(ここから先に壁はなし。だが元よりその腹積もりだ)
 降魔刀を手に、迷わず七葵は突進する。その様に茜は笑みを浮かべ。
「真正面から来る……潔いですね! 好きですよ、そういうのっ!!」
 構えると共に聖拳「プロミネント・グリム」に“気”が集束する。
 繰り出される拳から放たれる気功の弾丸。これを七葵は刀を古い、一刀に切り払う。
『おっとー!? 七葵選手、完全に気弾を防ぎきりました!』
 更に脚部にマテリアルを集束。強く地を蹴り、滑るようにして一気に茜への距離を詰める。
『予選でも繰り出された疾風剣です!』
 繰り出される刃。しかし茜は一切の無駄のない回避動作から、すぐさま反撃に移る。
「素晴らしい踏み込みです! では、こちらも遠慮なく行きますよ!」
 渦巻く“気”を纏った拳。茜の螺旋突は、しかし七葵によって回避される。
 横にステップを踏むような回避動作の後、すぐさま繰り出される斬撃。これを茜はバックステップ気味に回避する。
『激しい打ち合いですが、お互いに攻撃が命中しません!』
 入れ替わり立ち代わりの攻防。その最中、葵の震撃が七葵を捉えた。
 七葵の防御動作に問題はなかった。それ以上に茜の一撃が、鋭かっただけの事。
『これは、聖拳がクリーンヒットォオオーーーー!!』
 目を見開き、身体をくの字に折り曲げる七葵。ダメージは大きい。しかし、まだ彼には余力があった。
 反撃の刃をシールド「リパルション」で受け止める茜の顔に驚きが広がる。
「今ので倒れませんか……!?」
「いい打ち込みだ。しかし、俺もそう簡単に倒れるわけには行かぬのでな」
『二人共防御能力が高ぇから、単純な殴り合いじゃなかなか決着しねぇ。結局こりゃ、会心の一撃を狙う戦いになるぜ』
 解説のスメラギの言う通り、二人の防御性能は攻撃性能を上回っている。
 きちんと回避や防御が決まれば、互いのダメージを極限までゼロに抑えられるのだ。
 そんな中で相手を打ち倒す為には、クリーンヒットを狙うしかない。
「凄いです! こんなに長く戦えるなんて!」
「実に見上げた意気だ。これだけ打ち込んで尚、倒れぬとはな」
 互いの身体に増えていくかすり傷。しかし二人の顔には笑顔があった。
 正々堂々とした戦いは心地よい。それが、実力の拮抗した者同士であれば尚の事。
 しかし、楽しい時間にもやがて終わりが訪れようとしていた。
 至近距離から身体を回転させるようにして放った疾風剣。これが、茜のリパルションによるガードをすり抜けたのだ。
 防御の余地すらない、早業の一撃。斬撃は茜の胴を鋭く斬りつけた。
『あーーーっと、クリーンヒットです!? これは勝負あったか~~!?』
 二歩、三歩をよろけるように後退し、腹に手を当てながら肩を上下させる茜。
「えへへ、おかしいな……。気持ちはまだまだ前に進もうとしてるのに、身体がついてこないみたいです……」
 七葵は刀を鞘に納め、前のめりに倒れかけた茜の身体を抱き留めた。
「俺の刃が僅かながら武運に恵まれた、それだけの事。見事な立合いに感謝する」
「悔しいけど……楽しかったです。きっと勝ってくださいね……七葵……さん……」
『決着だな。勝者七葵! だが、茜も良く頑張ったな。早いところヒーラー班、手当してやってくれ』
 抱き留めた茜をヒーラー班に託し、七葵は自らの掌を見つめる。
 そこについた茜の血を握り締め、男は次の試合へと挑む……。


●金鹿 VS アルルベル・ベルベット
『さてさて、お次はこちら! 金鹿選手VS、アルルベル選手の試合です!』
『符術師の金鹿と機導師のアルルベルの戦いか。さて、これはどうなるかな?』
『んー、金鹿は純粋な符術師。魔法威力に特化したタイプじゃが、アルルベルは予選では銃も使っておったのう』
『そこは、機導師の汎用性だな。機導師は相手によって色々と戦い方を変えられる。アルルベルがこの試合にどういう挑み方をするのかで、勝負の形も変わってくると思うぜ』
 金鹿(ka5959)とアルルベル・ベルベット(ka2730)の試合は、お互いに警戒の一手から幕を開けた。
 互いに出方を待つような形で身を隠し、やがてアルルベルが動き出す。
『アルルベル選手、隠れている金鹿選手を探し始めました。これは、待ち伏せの危険があるのでは?』
『あるにはあるが、こと遠距離攻撃同士の場合、あんまり大きく戦況を左右するモンでもないかな』
 遠距離攻撃は基本、“自分の攻撃が相手に届く”事と“相手の攻撃が自分に届く”事はイコールだ。
『射線が通ってからはイーブン。近距離VS遠距離とかなら、奇襲や待ち伏せも有効だけどな』
(その通り……遠距離攻撃の場合、“先手を取りやすい”くらいの効果しかありませんわ)
 慎重に歩みを進めるアルルベルの姿を、金鹿は物陰から捉えていた。
 アクセサリである桃のコンパクトにつけられた小さな鏡で相手の位置を確認したのだ。
 扇符「六花」から五枚の符を抜き取り、それを手に物陰から姿を表す。
 当然アルルベルもそれに気づくが、先手を打てるのは事前に状況を理解していた金鹿だ。
(しかし……この先手で大きく相手を揺らがす事が出来れば……!)
 空に放った五枚の符がアルルベルの頭上に輝き、五色の光を降り注がせる。
「五色の光よ!」
(回避……いや、範囲が広すぎる……間に合わないか)
 アルルベルは顔を顰め、頭上に向かってシールド「フンケルン」を構える。
 降り注ぐ光を大きく減衰する事に成功するが、それでもなお金鹿の魔法威力はアルルベルに大ダメージを与える。
(なんという強力な術だ……まともに浴びてはひとたまりもないな)
 それに何より、先の魔法“五色光符陣”はその光で相手の行動を阻害する。
 行動阻害効果を受けてしまったアルルベルは一度物陰へ移動する。金鹿はそこに追撃を仕掛けたいが、今はリロードが先だ。
 五色光符陣は手持ちの符を大きく消費してしまう。万全な戦いに備えるのなら、符の追加が必須。
「やれやれ……運動強化を施しても回避は困難か」
 壁の裏で呼吸を整えるアルルベル。ここまで、やれるだけの事はやってきたつもりだ。
 心を落ち着けよう。大丈夫、もう視界は開けている。
「褒美の菓子三昧が待っている……是が非でも、勝ち抜かねば」
 ふっと口元に笑みを浮かべ、金鹿がいると思しき場所へと飛び出した。
 厳密に相手がどこにいるのか把握していなくとも、方向がわかっていればそれでいい。
「回避困難なスキルならば、私も持っているのでな」
 ワンド「ドラゴンコール」から放出されるのは火炎の渦。それはフィールドを薙ぎ払うように放たれた。
 今回の場合、距離を詰めて有利にはるのはアルルベルの方だったと言えよう。
 金鹿は咄嗟に瑞鳥符を発動。光り輝く鳥の幻影が翼を広げて盾となるが、アルルベルのファイアスローワーは幻影を焼き払い、金鹿を襲った。
 これもまた、回避が困難な範囲攻撃。元々身を守る能力に欠ける金鹿では、防ぐのは困難であった。
『あーーっと、炎が顔に直撃! 女子的にきつい攻撃です!!』
 炎に顔を焼かれながらも金鹿は符を抜く。扇符「六花」の枚数は先の瑞鳥符で消費されている。
 故に、着物を翻し太腿に巻いた呪符「神柱黒陽」から符を揃え、再度五色光符陣を放つ。
 アルルベルはこれをフンケルンでガードし持ちこたえる。
「お互い、なかなか倒れるには至らないか……ああ、根比べと行こう」
 更にファイアスローワーを放とうと身構えるアルルベル。だがしかし、火炎が杖から放たれる事はなかった。
 五色光符陣の行動阻害効果により、魔法を成す事ができなかったのだ。それにアルルベルは驚きを隠せない。
 アルルベルの集中力は十二分にあった。阻害を受けても尚、高い確率で魔法を編めた筈だ。しかし、そうはならなかった。
 その間に更に金鹿は別の神柱黒陽から符を抜き、三度目の五色光符陣を放った。
 これをアルルベルは回避。決して回避能力が高いわけではないアルルベルだが、その反応は的確だった。
 しかし、ここでも行動阻害の効果にて間合いを見誤る事となる。
「しま……っ」
 気づいた時には既に遅い。フンケルンでのガードを吹き飛ばし、符術の光がアルルベルへ止めを刺した。
『……勝負あり! 勝者、金鹿選手ーーーーッ!!』
『最後の攻防、アルルベルが正常に動けてれば話が違った可能性は高いな。特に最後の魔法への回避反応は見事だったんだが』
 行動阻害を受けていなければ、きっと回避できたはずだ。仰向けに倒れて空を見上げるアルルベルは小さく息を吐く。
「どうやら私の根負けのようだ。やるだけやったのだ、まあこんなものだろう……。あなたは最後まで勝ち残ってくれたまえよ」
 側に立つ金鹿は焼けた魔道面「白狐」を外し、穏やかに微笑んだ。
「勿論ですわ。これまでお相手してくださった方々の為にも、全力で挑ませて頂きます」


●アルフレート・ウォーダン VS 七葵
『お次はアルフレート・ウォーダン選手対、七葵選手の戦いです!』
『わらわが楽しみにしていたイケメン対決じゃな! これはどっちを応援すればいいのか悩むのう~!』
『お前って本当に人生が楽しそうだよな。それはさておき、この試合はわかりやすい構図になるかもしれないぜ』
『ん? どういう意味じゃ?』
 試合が開始すると、アルフレート・ウォーダン(ka6161)はスタスタとリング上を歩いて行く。
 そして七葵もまた、真っ直ぐにアルフレートを目指して歩みを進め、二人はリング中央付近で相対する事となった。
『隠れるとか先手だの後手だの、あの二人は考えちゃいねぇらしい』
『まさに決闘じゃな。イケメンの決闘とか完全にご褒美じゃが』
『七葵の性格は言わずもがな。アルフレートも基本は“決闘型”の闘狩人だ。まあ、こうなるのは不自然ではないな』
「……まさか、そちらもそう来るとは驚きですね」
「剣を交わすは本望。元より俺にできるのはそれだけだ。アルフレート殿もそうであるならば、是非もない」
 二人は同時に剣を抜き、そして構える。
「迷いのない良い面構えです。相手にとって不足はありません……」
 目を瞑り、小さく微笑んだアルフレートは、覚醒と同時に鋭く瞳を開く。
「ならば私は……いや、俺は俺の全力を尽くすまで。勝たせてもらおう。敗北の二文字を背負う気は、ないんでな!」
「いざ尋常に。七葵――推して参る!」
 相対するは二人の剣士。不思議と二人の性質は良く似通っていた。
 戦い方。勝負に挑む心構え。そして――背負った過去の重さまでもが。
 “それ”を取り戻す手段を、二人の男は一つしか知らなかった。戦いの中で、武の中で示す事。
 戦いとは矜持を守る手段。故にそれは神聖であり、純粋である。
 七葵の得物はこれまでの試合を支えてくれた降魔刀。
 対するアルフレートは二刀を左右の手に構える。影殺剣「カル・ゾ・リベリア」、そして莫邪宝剣。
 先手を取った七葵は疾風剣を繰り出す。しかし、その攻撃は莫邪宝剣によって受け止められていた。
 渾身の打ち込みは、しかしアルフレートの片手で留められている。
 アルフレートもまた防御能力に優れたハンターだ。だがそれ以上に、彼の持つ剣に堅牢さの根拠があった。
 莫邪宝剣は光属性を持つ。そして七葵の降魔刀の属性も光……。
『光属性同士が衝突する場合、互いの威力を減衰する関係性にある。早苗ももう覚えたな?』
 故にアルフレートは力任せに七葵を突き飛ばし、もう片方の剣、カル・ゾ・リベリアを振り上げた。
 構えた瞬間にアルフレートの纏うマテリアル量が増幅する。そして前に力強く踏み出しながら繰り出された一撃。
(刀で受け……いや……刀で受けては堪えきれない……!?)
 七葵は咄嗟に降魔刀で受けることを断念する。
 カル・ゾ・リベリアは闇属性。この一撃を降魔刀で受けては、余計にダメージが増幅する可能性があった。
 繰り出される刃はありったけのマテリアルを帯びている。回避――それもできない。
 ならばと七葵は腕を十字に構え防御に乗り出した。アルフレートは瞳を見開き、雄叫びを上げる。
「――おぉおおおおおっ!!」
 漆黒のマテリアルを纏った闇の剣が振り下ろされる。
 その衝撃は七葵を突き抜け、更にリングを突き抜け観客席までを震わせた。
(……何?)
 状況がよく理解できないまま、七葵は空を見上げていた。
 確かに攻撃を防御した。次の反撃のことまで脳は既に意識していた。
 だが、身体が全く動かない。そこに来て、先の一撃で既に勝負が決した事を知った。
『やばくね?』
『い……一撃です! アルフレート選手、一撃で七葵選手をダウンさせましたーーーーッ!?』
『おっ……おいおい、ルーキーリーグの威力じゃねぇぞ!?』
『レギュレーションに不正はありません! 繰り返します! レギュレーションに不正はありませんんんッ!!』
『攻撃能力に特化か……まさに全身が“剣”って感じじゃな……』
 倒れた七葵は上体を持ち上げながら血を吐く。間違いない。この身体はこれ以上動けない。
「まさか……ただの一太刀で動けぬとは……情けない。すまない、茜殿……」
「それは少し違うな。今のは確かにただの一太刀だが、俺の死力を込めた一撃だ」
 アルフレートは左右の剣をくるりと回し、それぞれの鞘に収める。
「俺もお前と同じ、正面からの一撃に全力を注ぐしかできない男だ。七葵、お前がそれに応じてくれたからこそ、俺は最大の力を発揮できた」
 そう言って踵を返し、アルフレートは去っていく。
「お前はウォーダンの名へ、箔をつけるに相応しい相手だった」
 遠ざかるアルフレートの背中を見つめ、七葵は目を瞑る。
 意識を失った七葵にヒーラー班が駆けつけ、騒然とした試合は幕を閉じた。


●アルフレート・ウォーダン VS 金鹿
『さあーーーーいよいよルーキーリーグ決勝も最終戦! この一戦にて、ルーキーリーグ最強のハンターが決定されます!』
『いや~実に長かったのう~。ここまで来ると、ユルく見てただけのわらわの感動もひとしおじゃ』
 幾度も繰り返し湧き上がった歓声もいよいよこれで最後とばかりに響き渡る。
 アルフレートと金鹿。二人の選手がステージニ上がる。
 障害物である壁で互いの姿は目に見えない。だが、二人の選手は確かに互いの存在を感じていた。
『彗星のように現れ、次々と立ちはだかるライバルを薙ぎ倒してきたアルフレート・ウォーダン! この男、一体何者なのでしょうか!?』
『いやぁ、俺様正直ノーマークだったが、ハンパな実力者じゃねぇな。帝国ってこんなレベルのやつがその辺に転がってんのか?』
『なにその修羅の国』
「何者……というほどの事でもないのですがね。いえ……今は何者でもない、と言うべきでしょうか」
 男は小さく呟き、二刀を抜く。この武闘大会では、どうにも素の自分が露わになりがちだ。
 それは、あるいは彼の望んだ舞台だからなのかもしれない。
 この大会は醜い人と人との命の奪い合いとは違う。正々堂々と武を競い合う場。
 きっとこの手を染める返り血が復讐に色づいていたのなら、こんな風に高揚を感じる事もなかっただろう。
『そして、これまで圧倒的な魔法威力で突き進んできた金鹿選手! 決勝進出した三人の東方勢、最後の生き残りとなりました!』
『今、わらわの中でいいにおいがしそうな女子ハンターランキング第一位な』
『その情報いるか?』
『わらわイケメンは勿論好きじゃけど、かわいい女の子も好きだから公正な』
『別にお前がジャッジするんじゃねーだろ……』
「えーと……喜んで良いのか、反応に困りますわね……」
 苦笑を浮かべ、それから直ぐに対戦相手の事に思考を切り替える。
 アルフレート・ウォーダン。先の七葵との試合では、ただの一撃で勝負を決めたパワーファイター。
(厄介なのは、光属性の剣……莫邪宝剣)
 戦闘のペースメイクに役立つ切り札、五色光符陣は光の属性を持つ。
 安直に使用したところで、七葵と同じく属性防御でダメージを大きく軽減されてしまうだろう。
(同じ轍を踏む愚は犯せませんが……)
『この二人はお互いに攻撃能力に大きく偏った性能を持っている。つまり、耐えて勝利するという戦いよりは、先に相手を倒す方に向いてるってわけだ』
『確かに、金鹿選手の魔法も、アルフレート選手の剣も、まともに受けたら耐えられるものじゃないですよね』
『距離を詰められたら金鹿は相当不利だ。なんだかんだでアルフレートは体力もあるからな。距離が詰まるまでにどう動くかが、勝負の鍵になるぜ』
 扇符「六花」を広げるように構える金鹿。覚悟は既に決まっている。やるべきことも、見えている。
『それでは、いよいよ決勝リーグ最終戦! 試合……開始ーーーーッ!!』
 アルフレートと金鹿、双方が同時に走り出した。
『おっと、今回は金鹿選手も前に出ますね?』
『と言っても、恐らくこの辺で足を止めるぜ』
 金鹿は停止し、符を構える。リング中央付近、可能な限り広く射線を取った場所で停止したのだ。
 アルフレートは壁に隠れるようにリング外周を走っている。それは、視界を広く取った時点で理解できた。
 であれば、距離を詰めるまでに射線が通りやすく、最も障害物のない直線……。
(つまり……ここで迎え撃つ!)
 最後の壁から一気にアルフレートは全力で走り出す。
 結局のところ、このリングは20×20スクエア。アルフレートが完全に距離を詰めるまでに打てる先手は一発が限度。
 しかし金鹿は壁から出てくるアルフレートを相手に、“範囲を置く”ようにして五色光符陣を発動していた。
 身を乗り出した瞬間に発動する魔法に一瞬気を取られたアルフレートだが、問題ないと言わんばかりに強く踏み込んでいく。
 五色光符陣は広範囲に降り注ぐ光の魔法。回避は非常に困難である。
 かつ、アルフレートは元々回避能力が特別に高いわけでもない。だというのに、男は偶然にも全くの無傷でこれを突破する。
「避けられた……そんな……!?」
『うそ~ん!?』
『いやあ、避けられるんだな、アレ。俺様もビックリ』
「まだですわ!」
 予備の符を抜いて放つ胡蝶符。五色光符陣は先打ちしたお陰で、アルフレート到達までまだ余裕がある。
 五色光符陣とどちらを使うべきかは最後まで迷った。行動阻害効果があれば、続くアルフレートの攻撃を防ぎやすくなる。
 だが、光属性の剣で防がれるという事に意識が向かった。結局迷う余地すらない僅かな時の中で金鹿が選んだのは、胡蝶符だったのだ。
 ――この選択が仮に違っていれば、結果もまた異なったかもしれない。
 光の蝶は弾丸となり、アルフレートを襲う。しかしこの攻撃もスライディングするようにしてアルフレートは回避する。
『またも回避ーーーーーーーーーッ!!??』
『うおおーーまじかーー!? お前の回避能力そんなにあったかーーーー!?』
 そしてアルフレートは強く地を蹴り、一気に踏み込んでいく。
 攻めの構えで高めたマテリアルを全て切っ先へ。影殺剣「カル・ゾ・リベリア」に纏わせ、強烈な斬撃を放つ。
(拙い――――!?)
 どっと汗が噴き出る。金鹿が動揺を隠せない程、その剣に込められた力は群を抜いていた。
 直撃すれば到底耐えられるものではない。何としてでも、躱す必要があった。
 しかし、身体がうまく動かない。最適解を出せない。金鹿もまた、ギリギリの回避行動に優れているわけではなかった。
(回避……でき……ない……っ)
 ぞくりと、背筋に寒いものが走る。符を抜き、瑞鳥符を発動する。
 光の鳥は翼を広げ、主を守る盾となる。アルフレートのカル・ゾ・リベリアは瑞鳥に激突し、激しくマテリアルを散らす。
「お願い……耐えて!」
『金鹿選手、攻撃から逃れられませーーーーん!!』
「はああああああ――っ!!」
「あ……あああっ!!」
 アルフレートの雄叫びと共に増幅されるカル・ゾ・リベリアのオーラ。
 それに伴い、光の鳥がひび割れていく。金鹿はありったけの力で守護を高めようとするが、それもままならない。
 やがて鳥は翼を失い、ただの符に戻った。それを両断し、アルフレートの剣が迫ってくる。
 光を突き抜けて迫るアルフレートの姿はとても真っ直ぐで、一途だ。
 その鬼気迫る眼差しには、しかし美しささえ覚える。
(ああ……)
 武闘大会に参加し、その道中で何人ものハンターを倒してきた。
 人と人。向き合い、競い合うことでしか得られなかった様々な触れ合い、経験。それは金鹿を大きく成長させてくれた。
 沢山の人の想いを背負ってここまで辿り着いた。それに恥じぬ戦いをして、最後まで勝ち残りたかった。
 証明したかった。自分の勝利は、彼らの敗北は、間違いなんかじゃなかったと。だが――。
(私は、まだまだ未熟者ですわ。世の中には、こんなにも……強いお人が、いらっしゃるのですね――)
 次の瞬間、カル・ゾ・リベリアが描く黒い光の軌跡が、金鹿の身体を切り裂いた。
 その衝撃は大気を震わせる。見る者全てにアルフレートの強さを証明するに相応しい、至極の一撃であった。
 痛みは一瞬。意識は消え行き、視界が青空に染まる。時の流れさえも、穏やかに感じられた。
(ごめん……なさい。全力だったのに……ああ。敗北とは……それでも……くやしいもの、なのですね――)
 背後に吹き飛び倒れこんだ金鹿は、わずかに悔しさに顔を歪め、意識を失った。
『し………………試合終了ーーーーッ!! 勝者、アルフレート・ウォーーーーダーーーーン!!』
『い、いやあ……実力もそうだが、“持ってる”としか思えねぇな……恐れ入ったぜ……』
『イケメンだからかの!? そして倒れた金鹿のふとももな』
『強敵、金鹿選手を下し、ルーキーリーグの覇者となったのはアルフレート・ウォーダン選手! 皆さん、惜しみない拍手をおねがいしまーーーーす!!』
『東方勢が負けちまったのは個人的にはちっとばかし悔しいが、みんな本当に良く頑張ってくれた。九尾に追い詰められていた東方にもまだまだ余力があるって事を示してくれたと思う』
『ルーキーリーグは帝国勢と東方勢の一騎打ち状態でしたもんね!』
『どっちも修羅の国じゃからなんかもう歪虚を相手に暴れてほしい』
『いやいや。アルフレートの今後は楽しみだぜ。超新星のルーキーとして、目が離せないな』
 剣を収めたアルフレートは目を瞑り、降り注ぐ声援を浴びていた。
 強敵達を、しかし危なげなく撃破したアルフレートの勝利は、実に堂々としたものだ。
(俺は、あいつに負けない戦いを見せられただろうか?)
 結果として、アルフレートの戦いは一切土をつける事なく終わった。
 それが勝利の爽やかな余韻とは別に、彼の胸に次なる道を見せようとしている。
(何度敗れても、這い上がり前に進み続ける……俺も、あいつのように。そして――勝利してみせる)
 頭上に広がる真夏の青空。涼し気な風がアルフレートの前髪を揺らす。
 この大会に優勝した事で、男は確かに答えに近づいたと言える。
 歩む道は間違いなんかじゃない。それが心から望む道ではなかったとしても。
(諦めず、何度でも――前へ)
 片手を上げて声援に応じれば、アルフレートの表情も僅かに和らぐ。
(俺も――行くよ)
 “力”は、傷つけ合うためだけのモノじゃない。
 その手を汚す血には、別の色も、確かな熱もある。
 小さな答えが、青年の胸の中に、ひだまりのように差し込んでいた。


 ルーキリーグ優勝者、“アルフレート・ウォーダン”。

(執筆:神宮寺飛鳥)

依頼結果

依頼成功度普通

MVP一覧

  • 【闘祭】ルーキーリーグ優勝者
    アルフレート・ウォーダンka6161

重体一覧

参加者一覧

  • 真摯なるベルベット
    アルルベル・ベルベット(ka2730
    人間(紅)|15才|女性|機導師
  • 千寿の領主
    本多 七葵(ka4740
    人間(紅)|20才|男性|舞刀士
  • 舞い護る、金炎の蝶
    鬼塚 小毬(ka5959
    人間(紅)|20才|女性|符術師
  • 【闘祭】ルーキーリーグ優勝者
    アルフレート・ウォーダン(ka6161
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 裡に宿せしは≪業炎≫
    里見 茜(ka6182
    鬼|13才|女性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/07/25 00:48:43