ゲスト
(ka0000)
巨人マティス
マスター:雪村彩人

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/07/29 15:00
- 完成日
- 2016/08/08 22:55
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ゾンネンシュトラール帝国辺境。
その街は中規模の大きさをもっていた。黄昏の光に染まる大通りは賑やかだ。
ズズン。
巨岩の落下してきたような衝撃に通りを行き交う人々は足をとめた。そして、彼らは見た。大通りに立つ巨漢の姿を。
おそらく背丈は三メートル近くあるだろう。上半身は裸で、鋼のような筋肉におおわれている。肌の色は赤に近い赤銅色であった。
呆然と見つめる人々に、ニヤリと巨漢は笑いかけた。すると獣のごとき牙がぞろりと唇の間から覗いた。
あまりにも獰猛な笑み。肉食獣を前にした時のように、人々の背に怖気がはしりぬける。
刹那、巨漢が襲った。眼前の女性の頭に拳を無造作に振り下ろす。熟したトマトのように女性の頭が粉砕された。
しぶく鮮血をあびて、ようやく人々は我に返った。悲鳴をあげ、逃げ出す。
「逃がすかよぉ」
ぎゃははは、と笑いながら、巨漢は殺戮を続行した。信じられない跳躍力で人々を飛び越し、落下。二人の男を踏み潰し、それから手近の少女を蹴り殺す。あまりに呆気ない殺戮であった。
しばらくして、ようやく自警団員たちが駆けつけてきた。剣を舞わせて殺到する。
無駄であった。わずか数十秒。自警団員たちは肉片と化していた。彼らの剣は巨漢の身に傷ひとつつけることはかなわなかったのだ。
いや、違う。正確にいえば傷はつけていた。が、浅い傷くらいならば、たちまちのうちに巨漢の身は塞いでしまうのだった。
血の海の中、巨漢は大きく息を吸い込んだ。マテリアルを吸収しているのである。
「ああ、やっぱ美味えなあ。殺したのは……」
巨漢は指を折って数え始めた。
「三十八人か。まあ、初日としちゃあ、こんなものかな。まだ二日ある。続きは明日にしよう」
欠伸をすると、巨漢は跳んだ。物理法則を無視した跳躍。巨漢はそばに建つ三階建ての建物の屋上に舞い降りると、ごろりと横になった。
「……はじめやがった」
巨漢が殺戮を始めた時のことだ。街を見下ろす丘の上で声が発せられた。月光に六つの人影がうかびあがっている。
「さあて。何人殺れるかな?」
ククッと笑ったのは声を発した男だ。二十代後半ほど。狂犬のような目つきをしている。
「けっこう殺るんじゃないか?」
こたえたのは異様に痩せた男だ。そして異様に毛深い。そうそう、とうなずいたのは可愛らしい顔をした少年であった。
「マティスは見境無しだからな」
「つまらん」
嫌悪に、その若者は顔をしかめた。十八歳ほど。端麗な顔立ちで美少年といっていい。
「ただ殺すなど、面白くもない。同じ殺るなら――」
「いいでしょ、別に」
女が美少年を一瞥した。煌く金髪に澄んだ碧眼。優美な女だ。
女は艶っぽく笑うと、
「期間は明後日の夜まで。それまで好きにやらせてあげれば?」
「勝手にしろ」
ごろりと美少年は横になった。
●
町長がハンターズソサエティにむかっている頃、巨漢――マティスは夢を見ていた。いや、歪虚は夢を見ないはずであるから、それは単なる記憶の断片であったかもしれない。
かつてマティスはごろつきであった。喧嘩はかりしていた。社会の底辺から抜け出そうという努力はひとつしなかった。そして、殺された。
死ぬ寸前に思ったのは、もっと暴れたいということであった。歪虚として蘇った今、彼はその願いをかなえようとしていた。
ゾンネンシュトラール帝国辺境。
その街は中規模の大きさをもっていた。黄昏の光に染まる大通りは賑やかだ。
ズズン。
巨岩の落下してきたような衝撃に通りを行き交う人々は足をとめた。そして、彼らは見た。大通りに立つ巨漢の姿を。
おそらく背丈は三メートル近くあるだろう。上半身は裸で、鋼のような筋肉におおわれている。肌の色は赤に近い赤銅色であった。
呆然と見つめる人々に、ニヤリと巨漢は笑いかけた。すると獣のごとき牙がぞろりと唇の間から覗いた。
あまりにも獰猛な笑み。肉食獣を前にした時のように、人々の背に怖気がはしりぬける。
刹那、巨漢が襲った。眼前の女性の頭に拳を無造作に振り下ろす。熟したトマトのように女性の頭が粉砕された。
しぶく鮮血をあびて、ようやく人々は我に返った。悲鳴をあげ、逃げ出す。
「逃がすかよぉ」
ぎゃははは、と笑いながら、巨漢は殺戮を続行した。信じられない跳躍力で人々を飛び越し、落下。二人の男を踏み潰し、それから手近の少女を蹴り殺す。あまりに呆気ない殺戮であった。
しばらくして、ようやく自警団員たちが駆けつけてきた。剣を舞わせて殺到する。
無駄であった。わずか数十秒。自警団員たちは肉片と化していた。彼らの剣は巨漢の身に傷ひとつつけることはかなわなかったのだ。
いや、違う。正確にいえば傷はつけていた。が、浅い傷くらいならば、たちまちのうちに巨漢の身は塞いでしまうのだった。
血の海の中、巨漢は大きく息を吸い込んだ。マテリアルを吸収しているのである。
「ああ、やっぱ美味えなあ。殺したのは……」
巨漢は指を折って数え始めた。
「三十八人か。まあ、初日としちゃあ、こんなものかな。まだ二日ある。続きは明日にしよう」
欠伸をすると、巨漢は跳んだ。物理法則を無視した跳躍。巨漢はそばに建つ三階建ての建物の屋上に舞い降りると、ごろりと横になった。
「……はじめやがった」
巨漢が殺戮を始めた時のことだ。街を見下ろす丘の上で声が発せられた。月光に六つの人影がうかびあがっている。
「さあて。何人殺れるかな?」
ククッと笑ったのは声を発した男だ。二十代後半ほど。狂犬のような目つきをしている。
「けっこう殺るんじゃないか?」
こたえたのは異様に痩せた男だ。そして異様に毛深い。そうそう、とうなずいたのは可愛らしい顔をした少年であった。
「マティスは見境無しだからな」
「つまらん」
嫌悪に、その若者は顔をしかめた。十八歳ほど。端麗な顔立ちで美少年といっていい。
「ただ殺すなど、面白くもない。同じ殺るなら――」
「いいでしょ、別に」
女が美少年を一瞥した。煌く金髪に澄んだ碧眼。優美な女だ。
女は艶っぽく笑うと、
「期間は明後日の夜まで。それまで好きにやらせてあげれば?」
「勝手にしろ」
ごろりと美少年は横になった。
●
町長がハンターズソサエティにむかっている頃、巨漢――マティスは夢を見ていた。いや、歪虚は夢を見ないはずであるから、それは単なる記憶の断片であったかもしれない。
かつてマティスはごろつきであった。喧嘩はかりしていた。社会の底辺から抜け出そうという努力はひとつしなかった。そして、殺された。
死ぬ寸前に思ったのは、もっと暴れたいということであった。歪虚として蘇った今、彼はその願いをかなえようとしていた。
リプレイ本文
●
暁闇に沈む街道をゆく影があった。
数は七。ある者は騎馬であり、ある者はバイクを駆っていた。
「わくわくするぜ」
ゴースロン種の馬の背に揺られた男がニヤリとした。燃えるような紅髪が特徴的で、名はエヴァンス・カルヴィ(ka0639)。ハンターであった。
「何がですか?」
エヴァンスの背につかまった娘が怪訝そうに問うた。優雅な身ごなしの娘で、名はアメリア・フォーサイス(ka4111)。エヴァンスとは顔なじみであった。
「わからねえのか」
ちらりとエヴァンスはアメリアを見やった。そして楽しそうに答えた。
「まだ見ぬ強敵との死闘が待ってるんだぜ。これぞ傭兵の醍醐味ってやつだ。わくわくしないでどうするよ」
「あなたって人は……」
アメリアはため息を零した。相変わらずエヴァンスという男の考えは理解できない。殺戮の化物との戦いを楽しむなど、どういう神経をしているのだろう。
「強力な力を持つ巨人……」
ごくりと灯實鶴・ネイ(ka5035)という名の少女が唾を飲み込んだ。
たった数時間で何十もの人々を殺害した魔人。おそらくは歪虚だろう。そんな化物と戦って本当に勝てるのだろうか。
灯實鶴は赤子の頃に中東の紛争地域で孤児となった。無論、当時のことは覚えているよしもない。が、後に知った紛争地域の悲惨さははかり知れぬものであった。
多くの人が死んだ。町も同じような状況であるかもしれなかった。圧倒的な暴力はいつも非力な人間を踏みにじるのだ。
「……斃してみせる。みんなと一緒なら」
「しかし」
女が首を傾げた。
二十歳ほど。豊満な肉体を白銀の全身甲冑――ヘパイストスで包んだ娘である。
名をセリス・アルマーズ(ka1079)というその娘は怪訝そうな声で続けた。
「その巨人、何が目的で暴れているのかな?」
「さあな」
ぶっきらぼうに男がこたえた。
これも二十歳ほど。挑むような金色の瞳が特徴的な若者だ。名を柊 真司(ka0705)という。
「ともかく、何が目的で暴れ回ってるのか知らないが、これ以上好き勝手には暴れさせないぜ」
目を光らせると、真司はナグルファル――搭乗者のマテリアルを使用した試作魔導バイクの速度を上げた。
●
「うーん」
眩しさに、建物の屋上で寝転がっていた男が目を開いた。
巨人だ。おそらく背丈は三メートル近くあるだろう。上半身は裸で、鋼のような筋肉におおわれている。肌の色は赤に近い赤銅色であった。
「朝か」
巨人は欠伸をもらした。ぼりぼりと頭を掻く。
彼の名はマティス。吸血鬼であった。
「さあて」
マティスはゆらりと立ち上がった。
「始めるか」
ニンマリ嗤うと、マティスは跳んだ。屋上を蹴り崩して。
マティスは高々と空に舞った。高さは三十メートルほどだ。その後、自由落下。石畳を陥没させて着地した。
もうと立ち上る粉塵が晴れるのを待って、マティスは辺りを見回した。
「あれ。誰もいねえじゃねえか」
マティスは眉をひそめた。が、すぐにニヤリとする。マテリアルを感じ取ったからだ。
人間どもは近くにいる。隠れていやがるんだ。
ずしん。地鳴りに似た足音を響かせ、マティスは歩き出した。一軒の家屋に歩み寄る。
「ふふん。わかってるんだぜえ、中にいるのは」
嘲笑うと、マティスはレンガ造り壁に拳を叩きつけた。呆気なく壁が崩壊する。恐るべき破壊力であった。
「見ぃつけた」
壁に開いた穴から内部を覗き込み、マティスはニヤリとした。奥に隠れる女と子供の姿を見出したからだ。
「まずは二人」
マティスが壁の穴の縁に手をかけた。
その時だ。銃声が轟き、マティスの足の肉が爆ぜた。
「何だ?」
マティスは振り向いた。そして、見た。六人の男女の姿を。一人は黒色のアサルトライフルをかまえている。――灯實鶴であった。
「どうにか間に合ったか……?」
一人の女が口を開いた。
二十歳半ばほど。穏やかな美貌の持ち主だ。どうやらシスターであるらしいのだが――その豊満な肉体は動きやすさを重視した身なりのためにかなり露わとなっている。――ハンターだ。名をアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)という。
「何だぁ、お前ら?」
のんびりした口調でマティスは問うた。その足の傷が回復しつつある。
「ハンター。俺の名は連城 壮介(ka4765)です」
静かな声音で黒髪の少年――壮介はこたえた。
「で、君は?」
「マティスだ」
「マティス?」
壮介はマティスの全身に視線を走らせた。とてつもない肉体の持ち主だ。人間とは思えない。
「歪虚だろう? 歪虚だよな! 浄化だ! 浄化してやる!」
セリスが叫んだ。
次の瞬間だ。光の杭がマティスの足を貫いた。
それは断罪の杭。確固たるセリスの信念の具現化したものだ。
「ぬっ」
マティスは呻いた。動くことができない。
瞬間、エヴァンスが動いた。マティスめがけて馳せる。
「戦いが好きな人間ってのは二種類に分かれるもんだ。自分なりの信念や誇りを持って戦うやつと、手前勝手な欲求の為にただ暴れるやつにな。お前はどっちか……ま、堕ちた時点でわかりきってることか」
「うるせえなぁ」
顔をしかめると、マティスは足元に転がった石を掴んだ。投擲する。それは砲弾の速さと威力を秘めてエヴァンスを襲った。
「何っ」
咄嗟にエヴァンスは細身で長い、青みがかった緑色の刀身を持つグレートソード――テンペストをかまえた。石を受け止める。
凄まじい衝撃にテンベストの刀身が悲鳴をあげた。のみならず、衝撃を受け止めきれずエヴァンスの身がはね飛ばされた。石畳をすべり、停止。くうっとエヴァンスの口から重い息がもれた。
「なんて力だ。化物め」
「誰が化物だ」
マティスが跳んだ。颶風と化してエヴァンスを襲う。
「させるか」
真司もまた跳んだ。マティスの眼前に着地。同時に彼は障壁を展開させた。
雷鳴。
そうとしか思えぬ轟音と閃光が辺りを震わせた。紫電を散らし、障壁にはじかれたマティスは後方に跳び退っている。
「やるじゃねえか」
マティスはニンマリした。そして、再び跳ぼうとし――呻きをもらした。わずかではあるが身体が痺れている。
刹那である。アデリシアの手から紐状のものが唸りをあげて飛んだ。魔法で強化された銀を用いた白銀ワイヤーウィップ――ジルベルリヒトだ。
ジルベリヒトがマティスを襲った。魔力を込められたその一撃は鋭い。まともに喰らえばただでは済まないだろう。
ジルベリヒトがマティスの腿をうった。肉が爆ぜる。が――。
マティスの手がジルベルリヒトを掴んだ。
「調子にのるなよ、女」
ぐい、とマティスがジルベルリヒトを引いた。
●
「あっ」
咄嗟にアデリシアは手をはなした。が、遅い。空を滑るようにアデリシアの身が引きずり寄せられた。
「ぬうん」
マティスの足がはねあがった。蹴りをアデリシアの腹にぶち込む。
異様な音。骨と内蔵が潰れる音だ。
アデリシアの身が吹き飛んだ。反射的にセリスが跳んで抱きとめる。が、勢いは殺しきれない。建物の石壁に激突、砕けた破片とともに石畳に転がった。
「やるじゃないですか」
ぐん、と。一瞬で壮介が間合いを詰めた。彼の氷の視線とマティスの炎のそれとがからみあう。
「どうやら力自慢で頑丈なようですが、さて……首が落ちれば止まるでしょうか」
壮介は刃をたばしらせた。疾る銀光は流星のよう。
戛然。
火花を散らせ、壮介の刀――骨喰がはじかれた。マティスの手のムチによって。アデリシアのジルベルリヒトだ。
「なっ」
さすがに壮介の顔色が変わった。この巨人、ただの力自慢ではない。
はじかれた衝撃をむしろ利用し、壮介は横に跳んだ。間合いを開ける。
「逃がすかよ」
マティスの脚に力が込められ――銃声が轟き、マティスの脚の肉が爆ぜた。
「まずは脚からです」
建物の屋上。プローンポジション――いわゆる伏せ撃ちの姿勢でライフルをかまえたアメリアがいった。
「くそが」
マティスが跳んだ。アメリアにむかって。彼女が伏せる屋上より、さらに高みに舞い上がる。
「空中では逃げられませんよ?」
アメリアが銃口を上げた。化鳥のように舞い降りてくるマティスをポイント。撃つ。
轟音とともに吐き出された熱弾がマティスの腹をえぐった。が、マティスの降下はとまらない。
慌ててアメリアは転がって逃れた。が、間に合わない。マティスがアメリアの身体上に飛び降りた。
とてつもない破壊力がぶちまけられ、屋上が陥没、崩落した。瓦礫とともにアメリアが階下の床に叩きつけられる。
「へえ」
同じく床に降り立ったマティスが感心したような声をもらした。
踏み潰した。そうマティスは思ったのだが、違う。咄嗟にアメリアはライフルを盾としたのであった。彼女がクローズコンバットの使い手なればこその手練であった。
「止めを指し手るよ」
足を踏み出そうとしてマティスは顔をしかめた。思いの外、傷が深い。脚にのみ攻撃を受けすぎ、再生が追いつかないのだった。
「……まずいな」
マティスが舌打ちした。
その時だ。またもや銃声が鳴り響き、マティスの足の肉が爆ぜた。着弾の衝撃にマティスの巨躯がゆらめく。
「戦場に於いて、脅威となる要素の一つは機動力。まずは、それを潰す!」
窓のむこう。ブラック・ペインをかまえた灯實鶴が叫ぶ。
「くそが」
マティスが拳を壁に叩きつけた。粉砕された石が礫と化してハンターたちを襲う。正面にいた灯實鶴が石礫の嵐をうけて石畳に叩きつけられた。
「ぎゃはは。馬鹿が」
壁に開いた大きな穴からマティスが飛び出した。が、その動きにはかつての俊敏さは失われている。
いや、それどころかマティスはたたらを踏んだ。度重なる銃撃のためだ。
「どうした、でかぶつ」
真司はマテリアルを凝縮、破壊熱量に変換して放出した。炎がマティスを炙る。
「くっ」
たまらずマティスが手で顔をかばった。なんでその隙を見逃そうか。
獰猛な笑みをうかべ、エヴァンスは刃を横殴りに払った。剣先から迸り出るのは衝撃波である。石畳をえぐりつつ、鋭利な刃と化した疾風がはしる。
咄嗟にマティスが腕を組み合わせ、防いだ。が、遅い。衝撃波によりマティスの身がのけ反った。
「今度こそ首をもらいます」
するすると壮介が迫った。白光をはね、刃を逆袈裟に薙ぎ上げる。刃は首めがけて疾った。
反射的にマティスは後方に跳んだ。が、躱しきれない。地に降り立った時、マティスの胴は逆袈裟に斬り裂かれていた。
「そろそろ跳ね回るのはやめたら、どうなの?」
セリスは光を放った。ただの光ではない。強力な破壊力を秘めた破邪の光だ。
ぎゃああああ。
マティスは苦悶した。が、すぐに牙をむき出すと、怒号を発した。
「そんな光なんぞに殺られる俺かぁ!」
「しぶとい奴だ……再生能力持ちは伊達ではないといったところか」
ヒールで傷を癒したアデリシアがごちた。が、終わりは近い。戦神を信仰するシスターとしての本能が告げていた。
その本能に従ってアデリシアは襲った。八角形状の木の棒――紫電と名づけられた八角棍をマティスの身にぶち込む。
魔力を注ぎ込んだ強力な一撃だ。マティスの魔性の肉体がひしゃげた。
「終わりにしてやろう」
真司が肉薄した。そうと気づいたマティスが丸太のような巨腕をふるう。空間そのものを粉砕するかのよう重い一撃であった。が――。
真司は身を沈めて躱した。と同時に柄に特殊装置を搭載した日本刀――試作光斬刀『MURASAMEブレイド』にマテリアルを流し込む。
刹那、MURASAMEブレイドが巨大化した。まるで巨人を斃すためにのみ造りあげられたかのように馬鹿馬鹿しいほど巨大な刃に。
人に扱えぬと思えるほどのそれを、真司は軽々と振り上げた。
逆袈裟の一閃。ごうと風を斬り、さらに刃はマティスの首を斬った。
しぶいたのは黒血か。それとも魔性の体液か。
黒い飛沫の中、刎ねられたマティスの首が宙に舞った。
「……まだだよ」
塵と変じたマティスの痕跡にむけて、さらにセリスは白光を浴びせた。塵一つ残すつもりはないらしい。徹底した浄化こそ彼女の信念であった。
そのセリスをちらりとみやってから、エヴァンスは瓦礫をどかした。倒れたアメリアを抱き起こす。
「……ひどい顔だな」
「もっと優しく抱き起こしてください」
痛そうに顔をしかめながら、しかしアメリアは可愛らしく口を尖らせた。
「その様子では大丈夫そうですね」
壮介が苦笑した。するとアデリシアが街路を見回した。多くの建物が崩れている。戦いの余波だ。ひどい有様であった。
「大変なのはこっちの方ですね。しかし」
あの歪虚の目的はなんなのでしょうか。アデリシアは誰にともなく問うた。が、答えることのできる者は誰もいなかった。
●
「……遅いな、マティスのやつ」
異様に痩せた男がつぶいた。
「殺られたんじゃねえの」
ククッと男が笑った。狂犬の目つきで。すると可愛らしい顔をした少年が顔を上げた。
「嘘だろ。あのマティスが殺られるなんて」
「でしょうね。でも」
優美な女が眉をひそめた。
マティスが無事ならもう戻ってきてもおかしくないはずだ。それなのに戻らないというのは――。
「もし殺られたとするなら誰の仕業なのかしら? あの街の自警団なんかじゃマティスにはかなわないはず……」
「さあな」
ふっと。端麗な相貌の美少年が口を開いた。あまり興味はないようである。
「それより、次は誰がやるんだ?」
「俺がやる」
痩せた男がニヤリとした。
刹那だ。その背に開いたものがある。――巨大な蝙蝠の翼であった。
暁闇に沈む街道をゆく影があった。
数は七。ある者は騎馬であり、ある者はバイクを駆っていた。
「わくわくするぜ」
ゴースロン種の馬の背に揺られた男がニヤリとした。燃えるような紅髪が特徴的で、名はエヴァンス・カルヴィ(ka0639)。ハンターであった。
「何がですか?」
エヴァンスの背につかまった娘が怪訝そうに問うた。優雅な身ごなしの娘で、名はアメリア・フォーサイス(ka4111)。エヴァンスとは顔なじみであった。
「わからねえのか」
ちらりとエヴァンスはアメリアを見やった。そして楽しそうに答えた。
「まだ見ぬ強敵との死闘が待ってるんだぜ。これぞ傭兵の醍醐味ってやつだ。わくわくしないでどうするよ」
「あなたって人は……」
アメリアはため息を零した。相変わらずエヴァンスという男の考えは理解できない。殺戮の化物との戦いを楽しむなど、どういう神経をしているのだろう。
「強力な力を持つ巨人……」
ごくりと灯實鶴・ネイ(ka5035)という名の少女が唾を飲み込んだ。
たった数時間で何十もの人々を殺害した魔人。おそらくは歪虚だろう。そんな化物と戦って本当に勝てるのだろうか。
灯實鶴は赤子の頃に中東の紛争地域で孤児となった。無論、当時のことは覚えているよしもない。が、後に知った紛争地域の悲惨さははかり知れぬものであった。
多くの人が死んだ。町も同じような状況であるかもしれなかった。圧倒的な暴力はいつも非力な人間を踏みにじるのだ。
「……斃してみせる。みんなと一緒なら」
「しかし」
女が首を傾げた。
二十歳ほど。豊満な肉体を白銀の全身甲冑――ヘパイストスで包んだ娘である。
名をセリス・アルマーズ(ka1079)というその娘は怪訝そうな声で続けた。
「その巨人、何が目的で暴れているのかな?」
「さあな」
ぶっきらぼうに男がこたえた。
これも二十歳ほど。挑むような金色の瞳が特徴的な若者だ。名を柊 真司(ka0705)という。
「ともかく、何が目的で暴れ回ってるのか知らないが、これ以上好き勝手には暴れさせないぜ」
目を光らせると、真司はナグルファル――搭乗者のマテリアルを使用した試作魔導バイクの速度を上げた。
●
「うーん」
眩しさに、建物の屋上で寝転がっていた男が目を開いた。
巨人だ。おそらく背丈は三メートル近くあるだろう。上半身は裸で、鋼のような筋肉におおわれている。肌の色は赤に近い赤銅色であった。
「朝か」
巨人は欠伸をもらした。ぼりぼりと頭を掻く。
彼の名はマティス。吸血鬼であった。
「さあて」
マティスはゆらりと立ち上がった。
「始めるか」
ニンマリ嗤うと、マティスは跳んだ。屋上を蹴り崩して。
マティスは高々と空に舞った。高さは三十メートルほどだ。その後、自由落下。石畳を陥没させて着地した。
もうと立ち上る粉塵が晴れるのを待って、マティスは辺りを見回した。
「あれ。誰もいねえじゃねえか」
マティスは眉をひそめた。が、すぐにニヤリとする。マテリアルを感じ取ったからだ。
人間どもは近くにいる。隠れていやがるんだ。
ずしん。地鳴りに似た足音を響かせ、マティスは歩き出した。一軒の家屋に歩み寄る。
「ふふん。わかってるんだぜえ、中にいるのは」
嘲笑うと、マティスはレンガ造り壁に拳を叩きつけた。呆気なく壁が崩壊する。恐るべき破壊力であった。
「見ぃつけた」
壁に開いた穴から内部を覗き込み、マティスはニヤリとした。奥に隠れる女と子供の姿を見出したからだ。
「まずは二人」
マティスが壁の穴の縁に手をかけた。
その時だ。銃声が轟き、マティスの足の肉が爆ぜた。
「何だ?」
マティスは振り向いた。そして、見た。六人の男女の姿を。一人は黒色のアサルトライフルをかまえている。――灯實鶴であった。
「どうにか間に合ったか……?」
一人の女が口を開いた。
二十歳半ばほど。穏やかな美貌の持ち主だ。どうやらシスターであるらしいのだが――その豊満な肉体は動きやすさを重視した身なりのためにかなり露わとなっている。――ハンターだ。名をアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)という。
「何だぁ、お前ら?」
のんびりした口調でマティスは問うた。その足の傷が回復しつつある。
「ハンター。俺の名は連城 壮介(ka4765)です」
静かな声音で黒髪の少年――壮介はこたえた。
「で、君は?」
「マティスだ」
「マティス?」
壮介はマティスの全身に視線を走らせた。とてつもない肉体の持ち主だ。人間とは思えない。
「歪虚だろう? 歪虚だよな! 浄化だ! 浄化してやる!」
セリスが叫んだ。
次の瞬間だ。光の杭がマティスの足を貫いた。
それは断罪の杭。確固たるセリスの信念の具現化したものだ。
「ぬっ」
マティスは呻いた。動くことができない。
瞬間、エヴァンスが動いた。マティスめがけて馳せる。
「戦いが好きな人間ってのは二種類に分かれるもんだ。自分なりの信念や誇りを持って戦うやつと、手前勝手な欲求の為にただ暴れるやつにな。お前はどっちか……ま、堕ちた時点でわかりきってることか」
「うるせえなぁ」
顔をしかめると、マティスは足元に転がった石を掴んだ。投擲する。それは砲弾の速さと威力を秘めてエヴァンスを襲った。
「何っ」
咄嗟にエヴァンスは細身で長い、青みがかった緑色の刀身を持つグレートソード――テンペストをかまえた。石を受け止める。
凄まじい衝撃にテンベストの刀身が悲鳴をあげた。のみならず、衝撃を受け止めきれずエヴァンスの身がはね飛ばされた。石畳をすべり、停止。くうっとエヴァンスの口から重い息がもれた。
「なんて力だ。化物め」
「誰が化物だ」
マティスが跳んだ。颶風と化してエヴァンスを襲う。
「させるか」
真司もまた跳んだ。マティスの眼前に着地。同時に彼は障壁を展開させた。
雷鳴。
そうとしか思えぬ轟音と閃光が辺りを震わせた。紫電を散らし、障壁にはじかれたマティスは後方に跳び退っている。
「やるじゃねえか」
マティスはニンマリした。そして、再び跳ぼうとし――呻きをもらした。わずかではあるが身体が痺れている。
刹那である。アデリシアの手から紐状のものが唸りをあげて飛んだ。魔法で強化された銀を用いた白銀ワイヤーウィップ――ジルベルリヒトだ。
ジルベリヒトがマティスを襲った。魔力を込められたその一撃は鋭い。まともに喰らえばただでは済まないだろう。
ジルベリヒトがマティスの腿をうった。肉が爆ぜる。が――。
マティスの手がジルベルリヒトを掴んだ。
「調子にのるなよ、女」
ぐい、とマティスがジルベルリヒトを引いた。
●
「あっ」
咄嗟にアデリシアは手をはなした。が、遅い。空を滑るようにアデリシアの身が引きずり寄せられた。
「ぬうん」
マティスの足がはねあがった。蹴りをアデリシアの腹にぶち込む。
異様な音。骨と内蔵が潰れる音だ。
アデリシアの身が吹き飛んだ。反射的にセリスが跳んで抱きとめる。が、勢いは殺しきれない。建物の石壁に激突、砕けた破片とともに石畳に転がった。
「やるじゃないですか」
ぐん、と。一瞬で壮介が間合いを詰めた。彼の氷の視線とマティスの炎のそれとがからみあう。
「どうやら力自慢で頑丈なようですが、さて……首が落ちれば止まるでしょうか」
壮介は刃をたばしらせた。疾る銀光は流星のよう。
戛然。
火花を散らせ、壮介の刀――骨喰がはじかれた。マティスの手のムチによって。アデリシアのジルベルリヒトだ。
「なっ」
さすがに壮介の顔色が変わった。この巨人、ただの力自慢ではない。
はじかれた衝撃をむしろ利用し、壮介は横に跳んだ。間合いを開ける。
「逃がすかよ」
マティスの脚に力が込められ――銃声が轟き、マティスの脚の肉が爆ぜた。
「まずは脚からです」
建物の屋上。プローンポジション――いわゆる伏せ撃ちの姿勢でライフルをかまえたアメリアがいった。
「くそが」
マティスが跳んだ。アメリアにむかって。彼女が伏せる屋上より、さらに高みに舞い上がる。
「空中では逃げられませんよ?」
アメリアが銃口を上げた。化鳥のように舞い降りてくるマティスをポイント。撃つ。
轟音とともに吐き出された熱弾がマティスの腹をえぐった。が、マティスの降下はとまらない。
慌ててアメリアは転がって逃れた。が、間に合わない。マティスがアメリアの身体上に飛び降りた。
とてつもない破壊力がぶちまけられ、屋上が陥没、崩落した。瓦礫とともにアメリアが階下の床に叩きつけられる。
「へえ」
同じく床に降り立ったマティスが感心したような声をもらした。
踏み潰した。そうマティスは思ったのだが、違う。咄嗟にアメリアはライフルを盾としたのであった。彼女がクローズコンバットの使い手なればこその手練であった。
「止めを指し手るよ」
足を踏み出そうとしてマティスは顔をしかめた。思いの外、傷が深い。脚にのみ攻撃を受けすぎ、再生が追いつかないのだった。
「……まずいな」
マティスが舌打ちした。
その時だ。またもや銃声が鳴り響き、マティスの足の肉が爆ぜた。着弾の衝撃にマティスの巨躯がゆらめく。
「戦場に於いて、脅威となる要素の一つは機動力。まずは、それを潰す!」
窓のむこう。ブラック・ペインをかまえた灯實鶴が叫ぶ。
「くそが」
マティスが拳を壁に叩きつけた。粉砕された石が礫と化してハンターたちを襲う。正面にいた灯實鶴が石礫の嵐をうけて石畳に叩きつけられた。
「ぎゃはは。馬鹿が」
壁に開いた大きな穴からマティスが飛び出した。が、その動きにはかつての俊敏さは失われている。
いや、それどころかマティスはたたらを踏んだ。度重なる銃撃のためだ。
「どうした、でかぶつ」
真司はマテリアルを凝縮、破壊熱量に変換して放出した。炎がマティスを炙る。
「くっ」
たまらずマティスが手で顔をかばった。なんでその隙を見逃そうか。
獰猛な笑みをうかべ、エヴァンスは刃を横殴りに払った。剣先から迸り出るのは衝撃波である。石畳をえぐりつつ、鋭利な刃と化した疾風がはしる。
咄嗟にマティスが腕を組み合わせ、防いだ。が、遅い。衝撃波によりマティスの身がのけ反った。
「今度こそ首をもらいます」
するすると壮介が迫った。白光をはね、刃を逆袈裟に薙ぎ上げる。刃は首めがけて疾った。
反射的にマティスは後方に跳んだ。が、躱しきれない。地に降り立った時、マティスの胴は逆袈裟に斬り裂かれていた。
「そろそろ跳ね回るのはやめたら、どうなの?」
セリスは光を放った。ただの光ではない。強力な破壊力を秘めた破邪の光だ。
ぎゃああああ。
マティスは苦悶した。が、すぐに牙をむき出すと、怒号を発した。
「そんな光なんぞに殺られる俺かぁ!」
「しぶとい奴だ……再生能力持ちは伊達ではないといったところか」
ヒールで傷を癒したアデリシアがごちた。が、終わりは近い。戦神を信仰するシスターとしての本能が告げていた。
その本能に従ってアデリシアは襲った。八角形状の木の棒――紫電と名づけられた八角棍をマティスの身にぶち込む。
魔力を注ぎ込んだ強力な一撃だ。マティスの魔性の肉体がひしゃげた。
「終わりにしてやろう」
真司が肉薄した。そうと気づいたマティスが丸太のような巨腕をふるう。空間そのものを粉砕するかのよう重い一撃であった。が――。
真司は身を沈めて躱した。と同時に柄に特殊装置を搭載した日本刀――試作光斬刀『MURASAMEブレイド』にマテリアルを流し込む。
刹那、MURASAMEブレイドが巨大化した。まるで巨人を斃すためにのみ造りあげられたかのように馬鹿馬鹿しいほど巨大な刃に。
人に扱えぬと思えるほどのそれを、真司は軽々と振り上げた。
逆袈裟の一閃。ごうと風を斬り、さらに刃はマティスの首を斬った。
しぶいたのは黒血か。それとも魔性の体液か。
黒い飛沫の中、刎ねられたマティスの首が宙に舞った。
「……まだだよ」
塵と変じたマティスの痕跡にむけて、さらにセリスは白光を浴びせた。塵一つ残すつもりはないらしい。徹底した浄化こそ彼女の信念であった。
そのセリスをちらりとみやってから、エヴァンスは瓦礫をどかした。倒れたアメリアを抱き起こす。
「……ひどい顔だな」
「もっと優しく抱き起こしてください」
痛そうに顔をしかめながら、しかしアメリアは可愛らしく口を尖らせた。
「その様子では大丈夫そうですね」
壮介が苦笑した。するとアデリシアが街路を見回した。多くの建物が崩れている。戦いの余波だ。ひどい有様であった。
「大変なのはこっちの方ですね。しかし」
あの歪虚の目的はなんなのでしょうか。アデリシアは誰にともなく問うた。が、答えることのできる者は誰もいなかった。
●
「……遅いな、マティスのやつ」
異様に痩せた男がつぶいた。
「殺られたんじゃねえの」
ククッと男が笑った。狂犬の目つきで。すると可愛らしい顔をした少年が顔を上げた。
「嘘だろ。あのマティスが殺られるなんて」
「でしょうね。でも」
優美な女が眉をひそめた。
マティスが無事ならもう戻ってきてもおかしくないはずだ。それなのに戻らないというのは――。
「もし殺られたとするなら誰の仕業なのかしら? あの街の自警団なんかじゃマティスにはかなわないはず……」
「さあな」
ふっと。端麗な相貌の美少年が口を開いた。あまり興味はないようである。
「それより、次は誰がやるんだ?」
「俺がやる」
痩せた男がニヤリとした。
刹那だ。その背に開いたものがある。――巨大な蝙蝠の翼であった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/07/27 07:34:18 |
|
![]() |
相談~ セリス・アルマーズ(ka1079) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/07/29 12:44:41 |