切り離すベルデグリ

マスター:鹿野やいと

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/06/16 12:00
完成日
2014/06/24 12:13

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 魔術学院の若い魔術師、セレーナ・メラスは石で組まれた見張り塔の屋上から村の全景を見渡していた。
 白い魔女帽子が風に飛ばないように鍔を掴む。森を抜けてくる空気は爽やかで、日中の暑さをいくらかやわらげてくれていた。
 彼女の見下ろす先、緑が眩しい山の麓に広がる森に沿うように一面の大麦畑が続いている。
 茶色の大きな実が重たそうに垂れさがり、素人目にも収穫が間近なのがわかった。
 農耕推進地域「ジェオルジ」の一角にあるこの村は大麦の生産と、そこから作る食料品で生計を立てているという。
 大麦で麦芽を作ると聞いてエールを思い出した同期が居たけども、ここではエールではなく水飴が主流らしい。
 周辺の村との提携でその方が便利だからと村長は説明していた。どちらにせよそれは、セレーナの興味を引く内容ではなかった。
 彼女の興味は森の向こうからやってくるからだ。
「どうです。見えますか?」
 まだ若く筋骨逞しい村長のガエルは言いつつもセレーナのすぐ側にたった。
 セレーナは見えない位置で眉を潜める。意識して離れるのも失礼になると深呼吸で表情を元に戻した。
 彼女には学院の一員として仕事で来ているという自負があった。
 だから余計な感情を抱かせまいと野暮ったいローブとマントを着てきたが、思う程効果はなかったようだ。
 小さくない胸と細い腰が見えなくても、良く手入れされた長い金髪が見えれば十分すぎたのだろう。
 気の強そうな細い面立ちは絶世の美女というほどではないにせよ、外見に無頓着では居られるわけでもなかった。
「あのあたりですか?」
「そうです。今柵を作りなおしてるあたりです」
 セレーナが指差す先は山と山の合間を抜ける小さな谷になった場所だった。
 中央を細い川が流れ、川は街に流れ込んで農業用水として利用されている。
 境目では何人もの農夫らしき男たちが、上半身裸になって木材をくみ上げていた。
 資料で見たの概略図とそう大きな差異は見られない。
 セレーナは事前の報告が確かである事を確認すると、手配書を丸めて腰のポーチにしまった。
「ゴブリンが現れたのは何日前?」
「ええと……今日で10日前になります」
 村長は指折り数える。ゴブリンの襲撃は今回も小さくない規模だったらしいが、備えていたハンター達によって蹴散らされたそうだ。
 災害に近しい雑魔の襲撃だが、何度も続けば予測も付く。ここで問題となるのは何度も続いたという事実だ。
「それでどこかに巣があるかもと?」
「はい。ここら一体で巣になりそうな洞窟はないはずなのですが…」
 村を作る前に彼らは一度森に詳しい猟師と共に現地調査を行っている。
 雑魔が巣を作りにくい環境であることは確認済みだ。だからこそ今回の連続した襲撃は解せない。
 その為に今回の依頼は、ハンターではなく研究機関でもあるヴァリオス魔術学院に依頼が回ってきた。
 雑魔の生態に詳しい人物ならこの状況に答えを示してくれるだろうと思われたからだ。
 セレーナの派遣はその意味で正解と言えた。
「辺境に現れる【強欲】に属するヴォイドには、地面を掘って巣を作る巨大なミミズみたいやつが居るらしいわ」
 外見は足や翼の無いドラゴンと言えばわかりやすいが、ドラゴンと呼ぶには低能な存在なためワームと呼ばれている。
「では連中が地中を掘って巣を?」
「単に横切っただけかもしれないし、ワームじゃないかもしれない。けどそういう可能性もあるということよ」
 可能性としては【憤怒】の系統の雑魔が根を張っていた事例もある。
 一概には言えないが、幾つかの候補がセレーナの頭の中に浮かんでは消えていく。
「なんとかなりそうですか?」
「何とも言えません。最低限今回で調査は終わらせるつもりですが、巣穴があれば封鎖にまた人が必要でしょう」
「そうですか…」
 村長は大きく溜息をつく。ハンター8名を2回雇うとなれば小さくない出費になる。
 出来てまだ間もないこの村には重い負担になるだろう。
 これが他の国であるならば国の軍隊が常駐し、彼らが調査するのが常だがこの国は違った。
 強力無比の海軍に比べて陸軍はお粗末なもので、地方にはほとんど戦力が置かれていない。
 この見張りの塔は陸軍の建てた物だが、常駐している兵士は2名だけだった。
 これがために農耕推進地域「ジェオルジ」では、村長からハンターへ直接依頼ができる体制が作られている。
 しかし金のかかる話である。常に万全の警備ができるわけではなかった。
 そう言った事情で二度手間三度手間だけは避けたいとセレーナは考えた。
 依頼主からの評価もあるがそれ以上に、今取り組んでいるヴォイドの研究を少しでも進めたかった。
 来なくても良いのに現地に足を伸ばしたのは、実地で成果を見せる以上の意味はないのだから。
「今の話、だいたい付いて来てるわよね? 森での護衛をお願いするわ」
 セレーナは振り返り、話を黙って聞いていたハンターに向き直る。
 ようやくかと8人はそれぞれ装備を手に取った。
「それと、調査するルートもお任せして良いかしら?
 私、森を歩くのは素人なのよね。貴方達が得意だっていうなら任せたいんだけど」
 セレーナの仕事はここまでだった。
 ハンター達は顔を見合わせ、今後の手順を相談し始めた。

リプレイ本文


 一行は森を進む。初夏の陽気も森の中に入れば少しは和らいだ。
 森と一口に言っても人里の近くは近隣の農家や猟師の手によって、ある程度間伐が実施されている。
 見通しはそこまで悪くはなく、爽やかな空気を感じることもできた。
 ここはまだ人の領地と言えるだろう。案内役をかって出てくれた猟師は開けた森の更に奥を指差した。
「ここから半日ぐらいは歩きます。捜索で回るならもう少し時間はかかるかと」
「かったる……こほん。仕方ありません。時間が掛かるの承知の上です」
 汚い言葉を誤魔化しながら、天川 麗美(ka1355)は柔和な笑みを作る。
 猟師はぎょっとした顔で振り返るが、その時には既にいつもの優しいシスターの顔に戻っていた。
 辰川 桜子(ka1027)が取り繕うように間に入っていく。前途多難ではないが、猟師の男は困惑した顔だ。
「大丈夫ですよ。ちゃんと説明は受けていますから」
 サルヴァトーレ・ロッソの不時着によりハンターにリアルブルーの人間が一気に増えた。
 その為、クリムゾンウェストに住む者にとって、変わりつつあるハンター達の文化は注目の的であった。
 年の功と言えば失礼かもしれないが、辰川はその注目される事実を敏感に感じ取っていた。
「フム、雑魔のゴブリン、そしてその巣か……興味深いな。どのような生態か、どのような行動性を持つのか……」
「ゴブリンなんてどこにでもいる雑魔だよ。そんなに珍しいかな?」
 テルヒルト(ka0963)はよくわからないといった顔で、久延毘 大二郎(ka1771)の様子を見ていた。
 森に慣れている分、彼女の荷物は少ない。
「それよりはエールのほうが気にならない? あーしはエールを作るところ、見たことないんだ」
「麦芽を砕いて発酵させるのだろう? リアルブルーにもあったから珍しくは無いな」
 彼にしてみれば調べればライブラリから写真付きで見られるようなもの。
 興味のありようはばらばらだった。未踏の大地こそが彼と彼女の楽園なのだろう。
 久延毘は嬉しそうに率先して森に入っていくが、振った話題が流されたテルヒルトは少し不満げだった。
「リアルブルーに居た頃を思い出すな」
 久延毘の声は望郷の念とやや陶酔した空気に滲んでいる。
「嗚呼、我が愛しの学生生活……こうやって木々の生い茂る山野を駆けまわり、スコップを片手に大地をひたすらに掘り返していたものだ。もしかしたらこの地にも、まだ見ぬ文明の遺跡が土の下に埋まっているのかも知れないな、ククク」
「それは無いと思うけど……」
 考古学や歴史に興味の薄いセレーナは無いと言い切れない。
 言い切れないので久延毘はますます嬉しそうに可能性の話を始める。
「あるかもしれない。ロマンに溢れてるじゃあないか」
「本当に楽しそうだね」
 冷静に突っ込んだのはフラン・レンナルツ(ka0170)だった。
 彼女達の教本に忠実な無駄の無い動きで斥候を務めている。
 足取りは森の中であるのに軽く、庭を歩くような落ち着きぶりだ。
「楽しいとも! 異国の森だが宇宙船暮らしよりはよほど良いとは思わないかね? サーシャ君やフラン君は軍の任務でおなじみだろう」
「確かにそうだけど、森に良い思い出はないよ」
 振られたサーシャ・V・クリューコファ(ka0723)の方はうんざりした顔をしていた。
「ほう? なぜかね?」
「森なんて訓練の時以来だ。苦しかった記憶しかない」
「へえ。サーシャは落ち零れのほうか?」
 フランは興味津々といった様子でサーシャの顔を覗き込んだ。
 その様は好きな子をいじめるガキ大将にも似ていた。
「そこまでじゃないけど成績は良くなかったわよ」
 彼女の本領は管制などの後方支援だ。同じ軍人でもサーシャとフランは大きく様相が違っていた。
 どちらも丁寧に手入れされてるが、フランのほうが使いこまれている分指が太い。
「そういうフランも楽しそうね」
「楽しいっていうより、ちょっとした使命感かな」
 苦しい訓練をいくつも受けてきた。これぐらいは軽くこなさないとその時の上司にどやされる。
 そう思う一方で、鍛えた自分を使うチャンスがあるという状況は気分が高揚した。
 敵は人でなく人類の敵。引き金を引くのを躊躇うような要素もない。
「皆さんのふるさとの森も、こんな森だったんですかー?」
 森の話となると、テルヒルトは嬉しそうだった。
 植生は違っても確かに森に大きな差異は無い。
 1人サーシャだけが首を横に振る。彼女の故郷は寒冷地帯。
 植生の違いもそうだが肌を刺す寒さが無い。
「……少し心配してたけど、辰川さんも虫は平気なんですね」
「え? そうかしら?」
 フランは感心したように辰川の行動を眺めている。虫どころか蛇が出ても怯む様子が無い。
 彼女が蛇を持ち上げ「お昼にどうかしら?」と言い出すあたりになり、サーシャの眼差しは尊敬へと色を変えていた。
「セレーナさん、ゴブリンの生態について今の内に詳しく聞いておきたいのだけど、よろしいですか?」
「私も興味があるな。簡単なことは聞いたが全部ではないだろう?」
 天川に便乗して久延毘も近くに寄ってくる。
 と言われても、セレーナには喋る話がなかった。
 どこの地方でも変わらない共通の特性ならば既に話したとおり、性質が残忍なのも民間で伝わっている通りだ。
 集団での活動に向いていないために道具を作るようなことはない。
 脅威度は低いが自然発生も含めると相当の数が山や森に潜伏していると思われる。
 セレーナは過去の事例にあったゴブリンの大集団の話をしようと考えたが、そこで思考は中断された。
 先発した2人から不穏な影を見たと連絡があったのだ。
 話をそこで打ち切ると、ハンター達は暗くなる森の中を駆け出して行った。


 先へ進む神原 菫(ka0193)とアルテ・ゴットシール(ka1322)は木と茂みの陰に陣取る。
 幸い森の中はそれほど闇は深くなく、ゴブリン達に先手を取られることもなかった。
 尤も、ゴブリンの一団は隠れるような素振りはない。
 例え闇の中であっても彼らを先に発見できただろう。
 一緒に居た猟師は既に兵士と共に避難させている。
 2人は落ち着いて周囲を監視し、近づきつつある気配を数えた。
 茂みを揺らす音、木の枝を踏む音。自身が同じように音を立てぬように身を低くし、足元から覗き見る。
 ゴブリン達の姿を視界に捉えると、菫は見つからないように再び身を隠した。
 アルテは安心させるように、震える菫の肩にそっと手を置いた。
「何匹居ると思う?」
「4……いや、5……それ以上いるかも」
「ボクも同じ。奥の一匹があんまり動いてないしね」
 2人はそっと陰からゴブリンの様子を再度窺った。
 ゴブリンの装備は粗末なものだった。
 奪い取った布を身にまとい、手頃なサイズの太い木の棒を握っているだけだ。
 そんな中、まともな鎧を着ている個体が居る。
 錆が目立つ具足一式だが、他のゴブリンとは明らかに格が違った。
 あれがリーダーといわれる連中に間違いない。幸い、シャーマンといわれる魔法使いは一緒には居ないようだ。
 トランシーバーで伝えた状況に変更はなさそうだが、放置すれば連中がどこに移動するか読めない。
 気を引いて味方の居る場所に誘導しなければならない。
 菫は深呼吸して相棒であるアルテのほうを見た。
 アルテは慌てることもなく、ゴブリンの様子をじっと窺っていた。
「アルテさんは、落ち着いてるんですね」
「年の功さ」
「……年の?」
「何でもないよ。それより、逃がすとまずい」
「そうですね」
 菫は足元の握り拳大の石を拾い上げると、近くにいたゴブリンに向けて思い切り投げつけた。
 石はゴブリンの頭にあたり、額から血が流れる。
 致命傷ではないが、血をみてゴブリン達が騒ぎ始めた。
「逃げるよ!」
「了解っ」
 2人は一斉に来た道へと走り出した。
 全力で走れば振り切ってしまうため、ぎりぎり追いつける程度に速度を緩める。
 相手が人間ならこの余裕ぶりはばれてしまって居たかもしれないが、元からそう頭も良くない上に怒り心頭のゴブリンには気付かれなかった。
 周囲に見知った気配を感じ、2人は足を止めゴブリンと向かい合う。
 ゴブリンは走る勢いそのままに、棍棒を振り上げ襲い掛かってきた。
「油断したらダメだよ」
 4匹が2人に飛び掛る。散漫な狙いの一撃は後ろに引けば容易に逃げ切れた。
 アルテは後退後すぐに小さくかがむと、バネが跳ねるような動きで突撃する。
「もらった!」
 右手を一閃。ジャマダハルの刃が無防備なゴブリンの脇腹を抉り、血をしぶかせる。
 アルテは追撃せずに前転しつつ距離を取り、バックラーを前に構えて立ち上がる。
 痛みで転げまわる仲間を見て周囲はさらにいきり立っていた。
 今のは狙い方によっては殺せたが、今回の目的ではない。
 2人は揃って樹上を見上げる。
 ゴブリン達は釣られて上を見たが、強襲を防ぐことはできなかった。
 テルヒルトが剣を掲げたポーズのまま無言で飛び降りる。
 振り下ろされた剣は狙い違わずリーダー格のゴブリンの肩を切り裂いた。
 大声で耳障りな悲鳴あげるゴブリン・リーダー。
 茂みから姿を現したフランは転げまわる彼の脳天めがけて銃弾を撃ちこんだ。
「此処に来て初めて銃を向ける相手がおとぎ話に出てくるモンスターだなんてステキだな」
 幾ら頑健なゴブリンと言っても、ここまでされてはひとたまりもない。
 血を撒き散らしてリーダーは絶命する。残ったハンター達も一斉に姿を現し、見かけの情勢は完全に逆転した。
「まさかここまで脆いとは。鎧袖一触とはまさにこの事ですね」
 サーシャはゴブリン達に見えるように銃の撃鉄をあげた。
 その威力は今しがた彼らのリーダーに見せ付けたばかり。
 ゴブリン達は戦況の逆転に加え、リーダーが居なくなったことで恐慌状態に陥っていた。
「学者さん、ゴブリンの急所は知っていますか?」
「人間とそう大きくは変わらないわ。それに……」
 セレーナは術具のタクトをしまいこんだ。
 現れた時以上の素早さでゴブリン達は逃げていく。
 フランはすかさず一匹の背中を撃った。
 地面に突っ伏した個体の背中に辰川が剣を振り下ろす。
 もう一方では久延毘が怪我をしているゴブリンにマジックアローを放つ。
 こちらも逃げ切るだけの体力を失い、天川から機導砲を受けて死んだ。
「ったく……。雑魚ばっかりでイヤに……ゴホン」
 ここしばらくの行動で彼女の奇行は周知になり、誰もその事には触れなくなった。
 その後も戦闘らしい戦闘は起きなかった。セレーナは使いかけていたワンドをしまいなおす。
 残りの個体にはテルヒルトとアルテが逃さぬように後を付けて行く。
 残ったハンター達はそれを見送ると、近くの水場で野営の準備を始めた。


 追跡の結果、ハンター達は思惑通りゴブリンの巣に行き当たる。
 場所は山の麓の洞窟だが、この存在を地元の猟師は知らなかった。
 後から掘られたことは明白で、大型のヴォイドの仕業だろうと推測された。
 それがどんなヴォイドの仕業かは結局不明なままだったが、周囲にそれらしい敵は居らず、詳しく調べられる程近づく事はできなかった。
 ゴブリンの総数は不明で、中にはリーダー格が1体は居ることも確認していた。敵は最低でも10匹。戦いを仕掛けるには分が悪い。
 気付かれぬうちにハンター8名と随伴の猟師2名、兵士1名はその場を後にし、野営の後1日後には無事農村へと帰還した。
 猟師2人は戻ってから興奮してハンター達の戦いぶりを仲間の農夫達に話している。
 聞いていると少々誇張が過ぎるような箇所もあり、聞いていたフランはそっぽ向いて聞こえない振りをしていた。
「場所の詳細は一緒に来てくれた彼に伝えてあります。
 攻めるには少々厄介な地形ですが、水辺が遠いので篭城には向きません。入り口も狭いので押し込むのは容易いでしょう。
 大型のヴォイドも居ませんでしたから、ハンターに出す給金も今回と同じぐらいで大丈夫です。
 よろしければ私が帰ってハンターギルドに要請しておきますが、よろしいですか?」
「それはもう、もちろん!」
 セレーナの説明に村長は大喜びであった。
 お金も時間も掛かりそうではない。根本的解決が出来る。言うことは無しだった。
 問題がなくなり安心したのか、村長は相好を崩して緩みきった顔になる。
 女性陣は揃って顔に不安を覚えた。
「皆さんのためにお酒と料理を用意しますので、是非屋敷にきてください」
「いえ。お心遣いはありがたいですが、今日はもう休ませていただきます」
「まあまあ、そう言わずに。軽く一杯ぐらい良いじゃないですか。この地方のエールは自慢なんですよ」
 自然な、とは言い難い有無を言わせぬ雰囲気で村長は大きな手をセレーナの肩に置く。
 またかとハンター達はげんなりした顔をする。
 確かに外から女性は中々来ないような地域だろうけど、最初に会った頃から露骨ではあった。
 流石にセレーナがその手を払おうと思った矢先、アルテが先に動いた。
 アルテはセレーナと反対側から彼の背中を叩いた。
「村長さん。あまり公私を無視した行動はどうかと思うな?
 じゃないと、素敵な未来の前に大切な物失っちゃうよ?」
 振り向く村長に見えるようアルテはわざとらしく武器に手をかける。
 最初に見たのと変わらない笑顔が、かえって恐ろしさを煽った。
 村長は「あ…ああ」と曖昧な返事をして一歩後ろに下がる。
 十分な脅しになったのを見届け、アルテはおどけた笑いを見せた。
「なーんて、ね? あはっ♪」
「こーら、何してるの」
 辰川は嗜めながらアルテの手を引いて、依頼人達の前から下げた。
 溜息がもれる。
「男の人がちょっとバカなくらい、見逃してあげなさい」
「でも今のは……」
「やりすぎよ。仮にも依頼人なんだから、そういうのはダメ」
 辰川はアルテを向いていたが、その言葉は村長に聞かせるための言葉だった。
 暴力を秘めた存在には変わらない。暴力を扱いなれている人間だと、暗に聞かせる言葉でもあった。
「すみません。お誘いはありがたいですが、今日はもう疲れているので休ませてください」
「わ……わかりました。宿に後で食べる物を運ばせます」
「お願いします」
「お酒も一緒にお願いしますね」 
 テルヒルトが間延びした口調で言ったおかげで緊張は少し和らいだ。


 村長が前からああなのは村人に周知だったのか、その後の他の村人の対応は親切なままだった。
 酒や肉が他の者からも供されたところを見るとむしろ、良い気味と思っていたのかもしれない。
 一泊して疲れを癒したハンター達は、翌朝には村を旅立ち、本拠地であるリゼリオへと帰っていった。

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧


  • フラン・レンナルツ(ka0170
    人間(蒼)|23才|女性|猟撃士
  • 辺境調査員
    神原 菫(ka0193
    人間(蒼)|15才|女性|聖導士
  • まないた(ほろり)
    サーシャ・V・クリューコファ(ka0723
    人間(蒼)|15才|女性|機導師
  • 皇帝の飲み友達
    テルヒルト(ka0963
    エルフ|15才|女性|疾影士

  • 辰川 桜子(ka1027
    人間(蒼)|29才|女性|闘狩人

  • アルテ・ゴットシール(ka1322
    人間(蒼)|15才|男性|疾影士
  • 心の友(山猫団認定)
    天川 麗美(ka1355
    人間(紅)|20才|女性|機導師
  • 飽くなき探求者
    久延毘 大二郎(ka1771
    人間(蒼)|22才|男性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/06/11 13:33:34
アイコン 作戦相談卓
神原 菫(ka0193
人間(リアルブルー)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2014/06/16 00:53:49