ゲスト
(ka0000)
八本足の恐怖
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/08/03 22:00
- 完成日
- 2016/08/10 01:35
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
夏の生ぬるい宵の口。
海上警備艇は、一隻のさびれた漁船が港付近をさ迷っているのを、発見した。
「おい、どこの船だありゃあ」
「地元のじゃなさそうだな」
警備員は警戒した。
最近この近海では、特産であるアワビの密猟が横行している。あれももしや、その類いではあるまいか。
「おーい、そこの船! 停止、停止しろ! 臨検だ!」
応答がない。
様子を確かめるため、数名の警備員が、警備艇から船に乗り込む。
……誰もいない。漁に必要な道具はすべて整えられているのに。
何か異常な事が起きたらしい。
これは自分たちの手に負えないと判断し、警備艇に戻ろうとする警備員たち。
漁船の下に隠れていた大ダコが姿を現したのは、その時だ。
タコは間髪入れず乗船した警備員たちに襲いかかり、飲み込む。そして、警備艇に乗り移ろうとした。
警備艇は全速力で逃げた。からくも、タコの魔の手を振り切った。
海に落ちたタコは、そのまま泳ぎ始める。警備艇が逃げた先、明かりの灯り始めた港町へと。
●
海の町に、警報とアナウンスが響き渡る。
『海上警備隊より、緊急速報です。歪虚が発生しました、住民の皆さんは、速やかに屋内へ避難してください。繰り返します。歪虚が発生しました。住民の皆さんは、速やかに屋内へ避難してください――』
上陸したタコは人影のない港を無感動な目で見回した後、町の中へと入って行く。もともと水中向きの体ではあるが、陸にいても、さして苦でない様子だ。
『ほどなくハンターオフィスから救援が参ります、どうぞ落ち着いて行動を……』
●
「物騒だなあ。歪虚が出たんだって。早くお花さんたちを避難させないと」
花屋の店主ベムブルは、外に置いていた植木鉢を店舗に仕舞い入れる。
コボルドことコボちゃんは、その手伝い。今日はハンターオフィスが休みなので、この店に貸し出されているのである。チッ。このドワーフうるせえなと思いつつも、いい子にしないとハンターに言い付けるよという脅しを受けているので、従っている状態だ。
「違う違うコボちゃん。それはこっち」
「わわわし。わし」
それぞれ所定の場所に並べ、整理整頓。
「よし、これでオッケー」
一息ついたベムブルは、何げなく外を見る。そして、路上をずるずる移動して行く大タコと目が合う。
――反射的にシャッターに飛びつき、力任せに引き下ろす。それは、タコが足を店の中に突っ込んでくるのとほぼ同時だった。
触手はシャッターに挟まれながらも、獲物を捕まえようとする。
鉢植えや花入れが幾つも引っ繰り返った。
コボちゃんの大事なシルクハットが吸盤に吸いつかれ、持って行かれる。
「わし! わししし!」
シルクハットを取り戻さんとコボちゃんは、タコの足に噛み付いた。
「おのれよくも僕のお花をー!」
大事な商品を荒らされたベムブルは怒り狂った。園芸用フォークでタコの足を刺しまくる。
タコの足が引っ込んだ。
コボちゃんは取り戻したシルクハットを改めて被り直し、勝利宣言。
「わし! わしわし!」
●
タコは建物の中に逃げ込んだ獲物を捕ることを止めた。反撃に怯んだからではない。もっと捕りやすそうな獲物を見つけたからだ。
それは、通りの向こうをふらふら歩いている酔っ払い。
「お、お? なんだおい、でけえタコがいるぞタコが」
「ふおー、ほんとだ。でけえなあ。タコのくせに生意気だあー」
相当酔いが回っているらしく、危機を危機と認識出来ていないらしい。多分アナウンスも聞こえていないのだろう。
大タコは体を左右に揺らしながら近づき、あっと言う間に酔っ払い2人を捕まえた。
そのときである。緊急連絡を受けたハンターたちが、現場に駆けつけてきたのは。
リプレイ本文
●発見から戦闘まで
緊急通報による呼び出しを受けた玉兎 小夜(ka6009)は、御機嫌斜めだ。遠藤・恵(ka3940)と楽しくデートの予定が、この騒ぎでキャンセル。急遽依頼に引っ張られ……まことに災難だ。
「あー、もう! 見つけたらタダじゃおかないからね、歪虚!」
警報が効いているのだろう。どの商店もシャッターを閉めている。通りに人の姿はない。
アルマ・A・エインズワース(ka4901)にとってこの町は、思い入れのある場所だ。
「この辺って確かベムブルさんの……何としてもここでやっつけるですよ!」
意気盛んな彼とは対照的に、チマキマル(ka4372)は沈んだ調子。盛んにぶつぶつ言っている。
一体何を言っているのかなと、天竜寺 詩(ka0396)は耳をすませてみた。
「もう疲れちゃったよ……もういいよね、私は頑張ったよ、精一杯今日まで頑張ったよ……自分を褒めたいくらいだ……」
(……何か色々あったみたいだけど……大丈夫かなあ)
大丈夫かなと言えばパーティーには、もう一人大丈夫かなと思わせる人がいる。御酒部 千鳥(ka6405)がそれだ。
任務に来る直前、どこかで一杯か二杯かそれ以上引っかけてきたらしく、名前のとおりの千鳥足。右に左にぶれつつも走る速度が全然落ちないので、かえって危ない。
鹿島 雲雀(ka3706)と葛音 水月(ka1895)が、それをフォローしている。
「おかしい、この町やけに道が斜めっておる」
「違う。お前が斜めになってんだよ」
「ぬおっ! 誰じゃ、道の真ん中に立て看板なぞ置いたのは。思わずぶつかりかけたではないか不届きな」
「千鳥さん、その立て看板道の端にあります……大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫――おおっとっとっと! 危ないのう。今度は誰じゃ、道路に水なぞ撒きおってからに」
足を取られ滑りかけた千鳥は、不服そうに地面を見やる。水月が、クンクン鼻を蠢かした。
「これは、水ではないのでは?」
なるほど、臭いからすると確かに水では無い。生臭いし、ぬめってもいる。
よく見ればその濡れた箇所は一つの筋となって、石畳の上に続いている。
見るからに怪しい。これは追ってみる価値がありそうだ。ハンターたちがそう思ったとき、行く手から、ほわあだのほええだのいう叫び声が聞こえてくた。
(――お花屋さんがある方角だ!)
アルマは魔導バイクで全力疾走、一番に現場へ駆けつけた。彼がそこで目にしたものは。
「……タコ」
もちろん歪虚ということは分かっている。だが本物のタコを大きくしたという芸のない姿なので、あまりそれらしく感じられない。
追いついてきた詩も、思わずこう言ってしまう。
「わ、すっごい大きなタコ!」
三番手に来た小夜も似たようなものだった。
「って蛸だ……オナカ、ヘッタ」
しかしいくらタコタコしいタコだといっても、歪虚であることは間違いない。
恵はすぐさま吸盤だらけの足に、人間が巻き込まれていると気づいた。
「あっ、誰か捕まってますよ!」
ハンターの間に緊張が走る。だが、千鳥だけはほろ酔い加減。呑気に構えている。
「ほっほっほっ、いっぺんに人間二人も捕まえるとは欲張りなタコじゃのう」
無感動な目をしたタコは、手近な水路に向け横滑りに移動して行く。人間を抱えたままで。
詩は間髪入れずジャッジメントを放った。タコの動きが一瞬止まる。
それが再び動き出す前に、チマキマルが、ファイアーアローを打ち込んだ。
「人質さえいなければなぁ……数秒で消し炭なんだがなぁ………灰すら残さないんだがなぁ……」
雲雀が吠え、大タコ目がけ飛び込んで行く。
「人を食うタコだぁ? ふてぇ野郎だ。逆に食ってやる!!」
酔っ払いその1を掴んだ足の付け根に、叩きつけられるハルバート。
「オイタをする足は、さっさとチョン切ってやるよ?」
血の出ない傷口が、ぱくりと大きく開く。逆側から小夜が、斬魔刀で切り込む。
「足、いただきます!」
足が1本からそぎ落とされた。巻き込んでいた酔っ払いと共に。
小夜はタコに指を突き付け、宣言する。
「一本時点で足八本でなくなったお前は、すでにタコじゃなくなった! 私たちのご飯だ!」
アルマは酔っ払いその2を捕まえている足を狙う。この上ないほどの侮蔑的な表情を浮かべて。
「僕のお友達のお店の近くで暴れるなんて、自殺……いや、他殺志願ですかねェ? アハハハッ!」
彼の手に、青い光の刃が現出した。一瞬の閃きの後、足が落ちる。小夜はそれも、律義にカウントした。
「6本!」
しかし足は、切られてもすぐには力つきなかった。締め込んだ人間を離そうとしない。のたうった揚げ句、水路に転がり落ちる。
それを見た千鳥は、自身の頬をパンパンとはたいた。
「おっとイカン、あの二人が丸かじりされる前に救出せねばならんかったのじゃ」
言いながらタコに向け、ボーラルナックルを発射。タコは体を覆うように足を丸め、ナックルを弾く。
その隙に千鳥は、水路に飛び込む。
「おーい、どこに沈んだのじゃー!」
恵も急いでワンピースを脱ぎビキニ姿となり、救助に向かう。
彼女らの後を追おうとするタコを、詩が再びジャッジメントをかけ、停止させる。
「あんたはこっちに来なくていいの!」
ここにいたってタコはようやく、捕食目標をハンターたちに切り替えた。
ハンターたちに向かって足を延ばし、搦め捕ろうとしてくる。水月は絡み付いてこようとしたそれを、素早く切り落とした。
タコの足は、5本となる。
「こういうタイプの敵ってあれな雰囲気になりがちですけど、今回はなんだか食欲! ですよねー」
アルマはシールドで魔杖から吹き出る炎でタコを炙り、注意を引き付ける。
そうやってタコが引き留められている間に、酔っ払いたちは、無事水中から引き上げられた。
触手にきつく締め込まれていたせいか、どっちも気絶している。恵は千鳥と力を合わせ、彼らを岸に戻しながら、仲間に告げた。
「2名確保しました! 意識はありません!」
詩は大急ぎで彼らに駆け寄り、ディヴァインウィルを発動する。続けてヒーリングスフィアをかけてやる。
意識を取り戻した酔っ払いたちがまずしたことは、しこたま飲んだ酒と水を吐きあげることだった。
詩は、そんな彼らの背を叩いてやる。
「大丈夫、タコは寄せ付けないからね」
●戦闘から終息まで
タコは地面すれすれに足を振り抜いた。
小夜は縦横無尽に刃を走らせ、その足を切り落とした。
「4本!」
続けて落ちた足を細切れにし、水路に蹴り落とした。本体と接触したら、またくっついてしまうかも知れないので。なにしろこれは、タコに見えてもタコではない。
「大丈夫。無駄になんてしないよ、おいしくイタダキマス」
雲雀は向かってくる足を、ハルバードの石突きで払う。
「おおっと、お触りは厳禁だぜ?」
そのまま勢いを止めず腕を伸ばし、刃の側で切り飛ばす。
すかさず小夜のカウント。
「3本!」
恵は水路に身を潜めたまま、援護射撃を始める。水中での使用に特化した型のロングボウ、シーホースで。
「さあ、出番ですよタツノオトシゴさん!」
力いっぱい弦を引き、発射。的が大きいだけに当たりやすい。
「うふふ。私の小夜さんの攻撃を避けようなんてさせませんよー?」
もちろんチマキマルの援護も続行中だ。ウィンドスラッシュがぬめった灰色の皮膚を切り刻んでいく。
タコは建物と建物の間にある隙間へ後退し始めた。アルマがその前に立ち塞がり、炎を浴びせる。
「ふはははは。今更逃げ隠れしようなんてナシですからねー?」
千鳥も後ろから、ぶよんぶよんした胴に蹴りと殴打で挑む。
「お主はもはや干しタコとなるが定め、潔く往生せいっ!」
足がびしりと打ち下ろされてきたので、後退。代わって水月が挑む。
まずは鏖竜剣で足を打ち落とす。
続いてバンカーナックルから、タコの頭部(見た感覚で言うと眉間)目がけ、鋼鉄の杭を次々打ち込んだ。
その箇所への衝撃は、かなりのショックだったらしい。タコは残った2本の足を無茶苦茶に波打たせ、転げ回る。
そこに雲雀が躍りかかった。
「これが本当のタコ踊りってか!」
足は残り1本となった。
続いて小夜が切りかかる。
「さあ、これで残り0!」
タコは文字通り手も足も出なくなった。
アルマは杭が突き刺さっている眉間を狙い、青い光の刃を突き刺す。タコの目がぐるりと裏返った。
「タコの頭って、意外と美味しいよね」
うそぶく小夜はその目玉目がけて、携帯用の仕込み傘を、情け容赦もなく突き刺す。
「目打ち!」
刺した傘を足場にし、斬魔刀でぎりぎりぎりと、傘の刺さった周囲を切り開いて行く。
「ヴォーパルバニーが、刻み刈り獲らん!」
タコは全身痙攣を起こし、皮膚を赤くさせたり白くさせたりしている。
もう援護の必要なしと見た恵が水から上がってきた。チマキマルも援護の手を止め、言う。
「そろそろ止めを差してもいいか……?」
水月がそれを遮る。
「まあちょっと待ってくださいチマキマルさん。タコさんの中でまだ、誰かが生きている可能性がありますから」
雲雀がタコの上に飛び乗った。
「テメェがまともな生物だってのなら……後は、脳を潰せば終いだ!」
ハルバードで顔の部分をずたずたに切り刻み動きを止めてから、彼女は、皆の顔を見回した。
「望み薄だとは思うが、確認しない訳にはいかねぇ。……開くぜ?」
タコの腹部が切り開かれた。酸っぱい液とともに転がり出てきたのは骸骨だった。それと、身の回り品――メガネとか、腕時計とか。
一同は黙祷を捧げ、手早くそれらを回収する。
それが済んでから、チマキマルが止めを差す。溜まった鬱憤の解放は、はた目にかなり怖いものであった。
「キィィィエェエエエエエエエ!! 死ニサララセェェェエ!!!!!」
本人としては形が残る程度に焼くつもりだった。しかし残念ながらタコは、影も形も残さず消え去った。
●安否確認と材料調達
警報解除の方を受け再開した花屋へ真っ先にやってきたお客は、アルマ。
「ベムブルさん! おひさしぶりですっ、僕ですー!」
「あれっ、アルマさん。お久しぶりだねえ」
「わあー、うれしいです、覚えていただけてたんですねー! 初めて会った時に貰った鉢植え大事にしてるですよー」
店長を嬉しそうにハグした彼は、レジ棚の後ろに隠れているコボちゃんを捕獲。
「あ、コボちゃん! ここでお手伝いしてるです? 相変わらず可愛いですー」
相手が迷惑そうな顔をしている事は意に介せず抱っこし、もふくりまくる。
「そろそろ会いに行こうと思ってたですー。この間汚しちゃって大変だったって聞いたので、これ」
言いつつ持参した紙袋から、デザインの異なるコボ用ジャケットを何枚も取り出した。
コボちゃんは興味を示し匂いを嗅ぐ。
「気に入りました?」
「わし!」
そこへ詩がやってきた。
「すいませーん、椿って置いてありますか?」
彼女も早速コボちゃんを発見。
「あれ? 此処でお手伝いしてるんだ?」
と言って、頭を撫で撫で。
「うんうん、感心感心」
●仕事納めの食事会
恵は予定を変更し、タコ焼きパーティーならぬ、タコづくしパーティーを行うことにした。小夜だけでなく、今回一緒に戦った人々と、ベムブル、コボちゃんも招いて。
皆でわいわいしながら食べるのは、とても楽しいことだ。
「水月さん、手慣れてますねー」
「これでも飲食店やってたりですし、調理の腕に自信はそこそこ。でも恵さんも、すごく段取りがいいですよね」
「ふふふ、メイドですから。私も家事得意なんですよ? 詩さんは、何を作ってるんですか?」
「タコの赤ワイン煮だよ。椿の葉っぱを入れるとね、タコが柔らかく煮えるの」
「……あっ、それいー匂いですね。おいしそー」
恵はタコ焼き機に種を流し込み、タコを一つ一つ投入。
雲雀も、同じくタコ焼き作りに勤しんでいる。肝腎要のタコは、玉からはみ出すほどの大きさ。見た目は悪いが歯ごたえは十分そうだ。
先に完成したのは、恵のタコ焼きたち。手早く裏返され形を整えられ、お皿に。適宜ソース、適宜アオノリ、適宜マヨネーズ。そしてかつをぶし。ひと手間加えてベニショウガ。
小夜は舌なめずりをする。彼女は食べる専門だ。
「んじゃ、喰うか! ごはん!!」
いそいそと恵の膝に乗り、甘えた声で言う。
「恵さん、食べさせてぇ」
「はい、お疲れ様でした。小夜さん♪」
アーンをやってもらってご満悦の恵。
そこで雲雀の豪快なタコ焼きも完成した。
「さて、お待ちかねの食事タイムだ。これも、因果応報ってヤツだな?」
と高笑いしながら、大胆不敵に天かすドバー。マヨネーズビームビーム。
「へへへ。脂肪感がこたえられねえぜ……じゃ、いただきまーす」
ツマヨウジを突き刺そうとしたところで、目の前のタコ焼きが消えた。
「いただきうさぎ!」
「あ、おい小夜!? それは俺の分だ!」
直後また1つタコ焼きが消える。
「うん、からしまよもおいひい。あっつあつ」
「おいひいじゃねえ千鳥、俺のだぞって言ってんじゃねえか!」
と言っている間に、また1つ消える。
「わふはふ」
「あー! 何しやがんだこのコボ公! 吐き出せー!」
コボちゃんの襟首を掴んでがくがくさせるところに、アルマがひょいと顔を出す。
「まあまあ、落ち着いてください。コボちゃん、食べるものならほら、こんなにたくさんありますから。人のもの取っちゃ駄目ですよ」
彼が指し示すのは、タコめし、揚げタコ、タコマリネ、そして特製のヘルシーハーブタコ焼き。などなど。
タコの串焼きを完成させた水月は、へえ、と感心顔だ。
「いろいろ作れるんですね」
「おうちでごはん作ってるの僕ですから、少しはできますー」
そうこうしているうちに、赤ワイン煮も出来あがる。詩はそれをまず、ベムブルに持って行った。
「ベムブルさん、どうぞ」
「わ、おいしそう。詩さんありがとう」
「ううん。いつもコボちゃんがお世話になってるお礼。これからもコボちゃんを宜しくね」
そんな会話が交わされているとも知らないコボちゃんは、タコめしを手づかみで、ぱくぱく食べている。
詩はその頭に手を置いて、撫で撫で。
「お仕事頑張ってねコボちゃん」
「わふふ」
口一杯にタコ焼きをほお張った千鳥は、チマキマルに近づき肩を叩く。
「ほふいれはほぬほは?」
「……悪いが何を言っているか分からないな」
「ほふは」
そう言われると口をもごもごさせながら水月のところへ行き、串焼きをもらい、彼に差し出した。
「元気を出せよ」と言いたかったらしい。
チマキマルは串焼きを食べた。辛みダレが利いていて、とてもおいしかった。
緊急通報による呼び出しを受けた玉兎 小夜(ka6009)は、御機嫌斜めだ。遠藤・恵(ka3940)と楽しくデートの予定が、この騒ぎでキャンセル。急遽依頼に引っ張られ……まことに災難だ。
「あー、もう! 見つけたらタダじゃおかないからね、歪虚!」
警報が効いているのだろう。どの商店もシャッターを閉めている。通りに人の姿はない。
アルマ・A・エインズワース(ka4901)にとってこの町は、思い入れのある場所だ。
「この辺って確かベムブルさんの……何としてもここでやっつけるですよ!」
意気盛んな彼とは対照的に、チマキマル(ka4372)は沈んだ調子。盛んにぶつぶつ言っている。
一体何を言っているのかなと、天竜寺 詩(ka0396)は耳をすませてみた。
「もう疲れちゃったよ……もういいよね、私は頑張ったよ、精一杯今日まで頑張ったよ……自分を褒めたいくらいだ……」
(……何か色々あったみたいだけど……大丈夫かなあ)
大丈夫かなと言えばパーティーには、もう一人大丈夫かなと思わせる人がいる。御酒部 千鳥(ka6405)がそれだ。
任務に来る直前、どこかで一杯か二杯かそれ以上引っかけてきたらしく、名前のとおりの千鳥足。右に左にぶれつつも走る速度が全然落ちないので、かえって危ない。
鹿島 雲雀(ka3706)と葛音 水月(ka1895)が、それをフォローしている。
「おかしい、この町やけに道が斜めっておる」
「違う。お前が斜めになってんだよ」
「ぬおっ! 誰じゃ、道の真ん中に立て看板なぞ置いたのは。思わずぶつかりかけたではないか不届きな」
「千鳥さん、その立て看板道の端にあります……大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫――おおっとっとっと! 危ないのう。今度は誰じゃ、道路に水なぞ撒きおってからに」
足を取られ滑りかけた千鳥は、不服そうに地面を見やる。水月が、クンクン鼻を蠢かした。
「これは、水ではないのでは?」
なるほど、臭いからすると確かに水では無い。生臭いし、ぬめってもいる。
よく見ればその濡れた箇所は一つの筋となって、石畳の上に続いている。
見るからに怪しい。これは追ってみる価値がありそうだ。ハンターたちがそう思ったとき、行く手から、ほわあだのほええだのいう叫び声が聞こえてくた。
(――お花屋さんがある方角だ!)
アルマは魔導バイクで全力疾走、一番に現場へ駆けつけた。彼がそこで目にしたものは。
「……タコ」
もちろん歪虚ということは分かっている。だが本物のタコを大きくしたという芸のない姿なので、あまりそれらしく感じられない。
追いついてきた詩も、思わずこう言ってしまう。
「わ、すっごい大きなタコ!」
三番手に来た小夜も似たようなものだった。
「って蛸だ……オナカ、ヘッタ」
しかしいくらタコタコしいタコだといっても、歪虚であることは間違いない。
恵はすぐさま吸盤だらけの足に、人間が巻き込まれていると気づいた。
「あっ、誰か捕まってますよ!」
ハンターの間に緊張が走る。だが、千鳥だけはほろ酔い加減。呑気に構えている。
「ほっほっほっ、いっぺんに人間二人も捕まえるとは欲張りなタコじゃのう」
無感動な目をしたタコは、手近な水路に向け横滑りに移動して行く。人間を抱えたままで。
詩は間髪入れずジャッジメントを放った。タコの動きが一瞬止まる。
それが再び動き出す前に、チマキマルが、ファイアーアローを打ち込んだ。
「人質さえいなければなぁ……数秒で消し炭なんだがなぁ………灰すら残さないんだがなぁ……」
雲雀が吠え、大タコ目がけ飛び込んで行く。
「人を食うタコだぁ? ふてぇ野郎だ。逆に食ってやる!!」
酔っ払いその1を掴んだ足の付け根に、叩きつけられるハルバート。
「オイタをする足は、さっさとチョン切ってやるよ?」
血の出ない傷口が、ぱくりと大きく開く。逆側から小夜が、斬魔刀で切り込む。
「足、いただきます!」
足が1本からそぎ落とされた。巻き込んでいた酔っ払いと共に。
小夜はタコに指を突き付け、宣言する。
「一本時点で足八本でなくなったお前は、すでにタコじゃなくなった! 私たちのご飯だ!」
アルマは酔っ払いその2を捕まえている足を狙う。この上ないほどの侮蔑的な表情を浮かべて。
「僕のお友達のお店の近くで暴れるなんて、自殺……いや、他殺志願ですかねェ? アハハハッ!」
彼の手に、青い光の刃が現出した。一瞬の閃きの後、足が落ちる。小夜はそれも、律義にカウントした。
「6本!」
しかし足は、切られてもすぐには力つきなかった。締め込んだ人間を離そうとしない。のたうった揚げ句、水路に転がり落ちる。
それを見た千鳥は、自身の頬をパンパンとはたいた。
「おっとイカン、あの二人が丸かじりされる前に救出せねばならんかったのじゃ」
言いながらタコに向け、ボーラルナックルを発射。タコは体を覆うように足を丸め、ナックルを弾く。
その隙に千鳥は、水路に飛び込む。
「おーい、どこに沈んだのじゃー!」
恵も急いでワンピースを脱ぎビキニ姿となり、救助に向かう。
彼女らの後を追おうとするタコを、詩が再びジャッジメントをかけ、停止させる。
「あんたはこっちに来なくていいの!」
ここにいたってタコはようやく、捕食目標をハンターたちに切り替えた。
ハンターたちに向かって足を延ばし、搦め捕ろうとしてくる。水月は絡み付いてこようとしたそれを、素早く切り落とした。
タコの足は、5本となる。
「こういうタイプの敵ってあれな雰囲気になりがちですけど、今回はなんだか食欲! ですよねー」
アルマはシールドで魔杖から吹き出る炎でタコを炙り、注意を引き付ける。
そうやってタコが引き留められている間に、酔っ払いたちは、無事水中から引き上げられた。
触手にきつく締め込まれていたせいか、どっちも気絶している。恵は千鳥と力を合わせ、彼らを岸に戻しながら、仲間に告げた。
「2名確保しました! 意識はありません!」
詩は大急ぎで彼らに駆け寄り、ディヴァインウィルを発動する。続けてヒーリングスフィアをかけてやる。
意識を取り戻した酔っ払いたちがまずしたことは、しこたま飲んだ酒と水を吐きあげることだった。
詩は、そんな彼らの背を叩いてやる。
「大丈夫、タコは寄せ付けないからね」
●戦闘から終息まで
タコは地面すれすれに足を振り抜いた。
小夜は縦横無尽に刃を走らせ、その足を切り落とした。
「4本!」
続けて落ちた足を細切れにし、水路に蹴り落とした。本体と接触したら、またくっついてしまうかも知れないので。なにしろこれは、タコに見えてもタコではない。
「大丈夫。無駄になんてしないよ、おいしくイタダキマス」
雲雀は向かってくる足を、ハルバードの石突きで払う。
「おおっと、お触りは厳禁だぜ?」
そのまま勢いを止めず腕を伸ばし、刃の側で切り飛ばす。
すかさず小夜のカウント。
「3本!」
恵は水路に身を潜めたまま、援護射撃を始める。水中での使用に特化した型のロングボウ、シーホースで。
「さあ、出番ですよタツノオトシゴさん!」
力いっぱい弦を引き、発射。的が大きいだけに当たりやすい。
「うふふ。私の小夜さんの攻撃を避けようなんてさせませんよー?」
もちろんチマキマルの援護も続行中だ。ウィンドスラッシュがぬめった灰色の皮膚を切り刻んでいく。
タコは建物と建物の間にある隙間へ後退し始めた。アルマがその前に立ち塞がり、炎を浴びせる。
「ふはははは。今更逃げ隠れしようなんてナシですからねー?」
千鳥も後ろから、ぶよんぶよんした胴に蹴りと殴打で挑む。
「お主はもはや干しタコとなるが定め、潔く往生せいっ!」
足がびしりと打ち下ろされてきたので、後退。代わって水月が挑む。
まずは鏖竜剣で足を打ち落とす。
続いてバンカーナックルから、タコの頭部(見た感覚で言うと眉間)目がけ、鋼鉄の杭を次々打ち込んだ。
その箇所への衝撃は、かなりのショックだったらしい。タコは残った2本の足を無茶苦茶に波打たせ、転げ回る。
そこに雲雀が躍りかかった。
「これが本当のタコ踊りってか!」
足は残り1本となった。
続いて小夜が切りかかる。
「さあ、これで残り0!」
タコは文字通り手も足も出なくなった。
アルマは杭が突き刺さっている眉間を狙い、青い光の刃を突き刺す。タコの目がぐるりと裏返った。
「タコの頭って、意外と美味しいよね」
うそぶく小夜はその目玉目がけて、携帯用の仕込み傘を、情け容赦もなく突き刺す。
「目打ち!」
刺した傘を足場にし、斬魔刀でぎりぎりぎりと、傘の刺さった周囲を切り開いて行く。
「ヴォーパルバニーが、刻み刈り獲らん!」
タコは全身痙攣を起こし、皮膚を赤くさせたり白くさせたりしている。
もう援護の必要なしと見た恵が水から上がってきた。チマキマルも援護の手を止め、言う。
「そろそろ止めを差してもいいか……?」
水月がそれを遮る。
「まあちょっと待ってくださいチマキマルさん。タコさんの中でまだ、誰かが生きている可能性がありますから」
雲雀がタコの上に飛び乗った。
「テメェがまともな生物だってのなら……後は、脳を潰せば終いだ!」
ハルバードで顔の部分をずたずたに切り刻み動きを止めてから、彼女は、皆の顔を見回した。
「望み薄だとは思うが、確認しない訳にはいかねぇ。……開くぜ?」
タコの腹部が切り開かれた。酸っぱい液とともに転がり出てきたのは骸骨だった。それと、身の回り品――メガネとか、腕時計とか。
一同は黙祷を捧げ、手早くそれらを回収する。
それが済んでから、チマキマルが止めを差す。溜まった鬱憤の解放は、はた目にかなり怖いものであった。
「キィィィエェエエエエエエエ!! 死ニサララセェェェエ!!!!!」
本人としては形が残る程度に焼くつもりだった。しかし残念ながらタコは、影も形も残さず消え去った。
●安否確認と材料調達
警報解除の方を受け再開した花屋へ真っ先にやってきたお客は、アルマ。
「ベムブルさん! おひさしぶりですっ、僕ですー!」
「あれっ、アルマさん。お久しぶりだねえ」
「わあー、うれしいです、覚えていただけてたんですねー! 初めて会った時に貰った鉢植え大事にしてるですよー」
店長を嬉しそうにハグした彼は、レジ棚の後ろに隠れているコボちゃんを捕獲。
「あ、コボちゃん! ここでお手伝いしてるです? 相変わらず可愛いですー」
相手が迷惑そうな顔をしている事は意に介せず抱っこし、もふくりまくる。
「そろそろ会いに行こうと思ってたですー。この間汚しちゃって大変だったって聞いたので、これ」
言いつつ持参した紙袋から、デザインの異なるコボ用ジャケットを何枚も取り出した。
コボちゃんは興味を示し匂いを嗅ぐ。
「気に入りました?」
「わし!」
そこへ詩がやってきた。
「すいませーん、椿って置いてありますか?」
彼女も早速コボちゃんを発見。
「あれ? 此処でお手伝いしてるんだ?」
と言って、頭を撫で撫で。
「うんうん、感心感心」
●仕事納めの食事会
恵は予定を変更し、タコ焼きパーティーならぬ、タコづくしパーティーを行うことにした。小夜だけでなく、今回一緒に戦った人々と、ベムブル、コボちゃんも招いて。
皆でわいわいしながら食べるのは、とても楽しいことだ。
「水月さん、手慣れてますねー」
「これでも飲食店やってたりですし、調理の腕に自信はそこそこ。でも恵さんも、すごく段取りがいいですよね」
「ふふふ、メイドですから。私も家事得意なんですよ? 詩さんは、何を作ってるんですか?」
「タコの赤ワイン煮だよ。椿の葉っぱを入れるとね、タコが柔らかく煮えるの」
「……あっ、それいー匂いですね。おいしそー」
恵はタコ焼き機に種を流し込み、タコを一つ一つ投入。
雲雀も、同じくタコ焼き作りに勤しんでいる。肝腎要のタコは、玉からはみ出すほどの大きさ。見た目は悪いが歯ごたえは十分そうだ。
先に完成したのは、恵のタコ焼きたち。手早く裏返され形を整えられ、お皿に。適宜ソース、適宜アオノリ、適宜マヨネーズ。そしてかつをぶし。ひと手間加えてベニショウガ。
小夜は舌なめずりをする。彼女は食べる専門だ。
「んじゃ、喰うか! ごはん!!」
いそいそと恵の膝に乗り、甘えた声で言う。
「恵さん、食べさせてぇ」
「はい、お疲れ様でした。小夜さん♪」
アーンをやってもらってご満悦の恵。
そこで雲雀の豪快なタコ焼きも完成した。
「さて、お待ちかねの食事タイムだ。これも、因果応報ってヤツだな?」
と高笑いしながら、大胆不敵に天かすドバー。マヨネーズビームビーム。
「へへへ。脂肪感がこたえられねえぜ……じゃ、いただきまーす」
ツマヨウジを突き刺そうとしたところで、目の前のタコ焼きが消えた。
「いただきうさぎ!」
「あ、おい小夜!? それは俺の分だ!」
直後また1つタコ焼きが消える。
「うん、からしまよもおいひい。あっつあつ」
「おいひいじゃねえ千鳥、俺のだぞって言ってんじゃねえか!」
と言っている間に、また1つ消える。
「わふはふ」
「あー! 何しやがんだこのコボ公! 吐き出せー!」
コボちゃんの襟首を掴んでがくがくさせるところに、アルマがひょいと顔を出す。
「まあまあ、落ち着いてください。コボちゃん、食べるものならほら、こんなにたくさんありますから。人のもの取っちゃ駄目ですよ」
彼が指し示すのは、タコめし、揚げタコ、タコマリネ、そして特製のヘルシーハーブタコ焼き。などなど。
タコの串焼きを完成させた水月は、へえ、と感心顔だ。
「いろいろ作れるんですね」
「おうちでごはん作ってるの僕ですから、少しはできますー」
そうこうしているうちに、赤ワイン煮も出来あがる。詩はそれをまず、ベムブルに持って行った。
「ベムブルさん、どうぞ」
「わ、おいしそう。詩さんありがとう」
「ううん。いつもコボちゃんがお世話になってるお礼。これからもコボちゃんを宜しくね」
そんな会話が交わされているとも知らないコボちゃんは、タコめしを手づかみで、ぱくぱく食べている。
詩はその頭に手を置いて、撫で撫で。
「お仕事頑張ってねコボちゃん」
「わふふ」
口一杯にタコ焼きをほお張った千鳥は、チマキマルに近づき肩を叩く。
「ほふいれはほぬほは?」
「……悪いが何を言っているか分からないな」
「ほふは」
そう言われると口をもごもごさせながら水月のところへ行き、串焼きをもらい、彼に差し出した。
「元気を出せよ」と言いたかったらしい。
チマキマルは串焼きを食べた。辛みダレが利いていて、とてもおいしかった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/07/30 19:25:39 |
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作戦相談卓 玉兎 小夜(ka6009) 人間(リアルブルー)|17才|女性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2016/08/02 22:17:46 |