【刻令】ディフェンス・ゲーム

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
6~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2016/08/03 07:30
完成日
2016/08/04 20:11

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●騎士団本部の一室
 刻令術に関する研究資料が山積みとなっている。その積み重なった本やら資料やらの間からノセヤは顔を出した。
「ソルラ先輩じゃないですか」
 部屋に入って来た女性騎士に向かって呼び掛ける。
「相変わらず、ね」
 通路にすらも高く積まれた資料を眺めながら、ソルラ・クート(kz0096)は言った。
 刻令術に関連する一大事業の1つ――大型艦造船――は、いよいよ、大きな山場を迎えた。
 すなわち、『燃料となる高純度マテリアル鉱石の確保』と『刻令術式全通甲板型外輪船の進水』である。
「……ソルラ先輩は……平気なのですか?」
「エリオット元団長の事を言ってるのであれば、心配は無用です」
 グラズヘイム王国の若き騎士団長エリオット・ヴァレンタイン(kz0025)が自室から行方不明になって、久しくなる。
「噂では致死量を越える血で、部屋が真っ赤に染まっていたとか」
「……ノセヤ君は『ホロウレイドの戦い』には参加していないよね?」
 ソルラの質問に彼は頷いた。
 『ホロウレイドの戦い』――王国歴1009年の事である。突如として歪虚の軍勢が攻め寄せ、先王を始め、多くの騎士、兵士が倒れた。
 その後、エリオット・ヴァレンタインが騎士団長に就任する訳なのだが……。
「その戦いで、あの人の獅子奮迅ぶりを直接見た人は、きっと、信じていない。団長が、そう簡単に死ぬ訳がないと」
「しかし、調査の結果、推定ではありますが、死亡と……。それに、ソルラ先輩の左腕の喪章は……」
 確かにソルラの左腕には喪章が付けられていた。
「これは団長に向けてではありません」
 締め切られた窓の外を見つめながらソルラは答えた。
「それで、ノセヤ君の方は大丈夫なの?」
「作戦は順調に進んでいますからね。ハルトフォート砦からも取り寄せて訓練するのに時間はかかりましたが」
「必ず、あの歪虚は来る……気をつけて」
 ハンター達が発見した『聖火の氷』。高純度のマテリアルが凝縮された氷の掘削と輸送は順調である。
 魔導冷蔵庫を備えた特殊な馬車の用意、そして、輸送ルートの確保。この一連の手配ですらも骨が折れるはずだ。
「ソルラ先輩も、陽動、よろしくお願いします」
 頭を下げるノセヤ。
 進水した大型艦の最終艤装・海上公試は港町ガンナ・エントラータで行われる。故に、造船ドックから港町へと危険な王国西部の海を通過しなくてはならない。
 その為、ソルラと『アルテミス小隊』は、艦隊を率いて大規模な陽動へと向かう作戦となっているのだ。
「折角だから、イスルダ島に乗り込んでくるわ」
 そんな冗談を言いながら、女性騎士は踵を返した。

●荒野にて
 秘宝の輸送ルートは街道ではなかった。これは、人目を避けるのと、歪虚からの襲撃時の影響を考えての事。
 ――というのが表向きの理由であった。

 荒野の輸送ルート上が一望できる小高い丘の茂みに、ゴーレムが数体並んでいる。
「こうして、並ぶと壮観ですね」
 ノセヤが満足そうに呟いた。
 ハルトフォート砦で試作中であった砲戦用ゴーレムに目を付け、いくつか借り受けたのだ。
 既に必要なデータは取れているので万が一、戦闘で壊してしまっても問題もない。
「しかし、命中率の悪さ、有効射程の問題……数々の問題は、まだ、完全に解決された訳ではありません」
 ゴーレムの整備の為にハルトフォート砦から派遣された技術者が申し訳ない様子で言った。
「確かに、ここに送られた試作砲戦用ゴーレムの命中率は極めて悪いとしか言いようがないでしょう」
 苦笑を浮かべるノセヤ。
「しかし、新開発された試作砲弾によって、安定性は増しています。後は――」
 ノセヤは自身の頭を指でつついた。
「ここの使い方です」
「本当に歪虚の襲撃はあるのでしょうか。しかも、こんなピンポイントに」
 眼下に広がる荒野に心配そうな表情を向ける技術者。
「来ますよ。王都にほど近く、かつ、秘宝を奪った後、速やかに西方へと逃れる場所は『ここ』しかルート上にありませんからね」
 輸送ルートの情報は重大機密情報だが、実はノセヤ自身がリークしていた。
 その情報は、必ず、歪虚の元へと届いているはずである。
「歪虚ネル・ベル……王国の未来の為、必ず仕留めましょう」

●馬車の中
 秘宝を運ぶ輸送隊の護衛の為、馬車で移動していたハンター達。
 そこに別の馬車から、突然、依頼主であるノセヤが乗り移ってきた。
「集まっていただいたハンターの皆さん、王国騎士のノセヤです」
 ノセヤは、本来、ここには居ない。なのに、である。
「実は、最後に皆さんだけにお伝えする事があり、直接来ました」
 そう前置きしてからノセヤは、いくつかの資料を手渡した。
 それらには護衛する対象の事が書かれていたのだが……。
「皆さんが護衛する魔導冷蔵庫の馬車には、小さい龍鉱石がいくつかしか積んでありません」
 あるハンター達の活躍により、敵の情報網を把握している事、秘宝についての早い推測のおかげで、輸送は半分ほど終了しているという。
 つまり、この護衛依頼そのものがブラフなのだ。
「この依頼の真の目的は、歪虚ネル・ベルとその一味の殲滅です」
 その歪虚は王国内で度々、暗躍していた。
「輸送ルート上で、いくつかのポイントに絞って、砲戦用ゴーレムによる援護射撃が可能です。皆さんの意見を聞いて、最終調整したいのです」
 ノセヤが全員を見渡して言ったのであった。

●???
「七本槍、全員の堕落者化は完了したか」
 傲慢の歪虚ネル・ベル(kz0082)は眼前に並んだ七つの影を見て、そう呟く。
 元山賊らである彼らは全員が堕落者となった。
「ネル・ベル様。次のご命令を」
「貴様らは、先回りして輸送車の足を止めろ」
 その言葉に返事をすると七つの影は早々に立ち去っていく。
 入れ替わるように闇の中から、犬のような人のような姿をした娘が姿を現した。
「オ呼ビ、デスカ」
 ネオピアという名の者だ。
 元々は犬だった。どういう訳か、堕落者となり、不便ではあるが片言も通じる。王国内をアチコチふらふらとさせていたが、今回の作戦の為、ネル・ベルが呼び寄せたのだ。
 ふわふわの茶色の頭を撫でながら歪虚は命令する。
「七本槍が輸送隊を足止めしている間に、秘宝を奪うぞ」
「ハイ」
 嬉しそうに歪虚の腰にしがみつくネオピア。
 尻尾をブンブンと振り、気持ちを露わにしていたが、急に動きが止まる。
「オキナ」
 一人の老人が姿を現したからだ。
 畏まるように歪虚へ一礼すると報告する。
「輸送ルートからそう遠くない街道を行く魔導冷蔵庫の馬車があるそうです」
「ふむ……先のブラフの事もあるからな。オキナは、その馬車を追跡しておけ」
 その言葉に、仰せのままにと返事をして、老人は立ち去った。
 歪虚は刀身が湾曲した刀を取り出した。
「……使わせて貰うぞ、東方の刀よ」
 湾曲した中に映し出された光景を眺めながら歪虚は口元を緩めたのであった。

リプレイ本文


「此奴を渡しておくぜェ」
 魔導短電話を騎士ノセヤに渡すシガレット=ウナギパイ(ka2884)。
 この痩せた騎士は頭を下げながら、それを受け取った。
「使わせていただきます」
 バカ丁寧な彼の姿勢は出会った頃からまったく変わらない。
 黒大公ベリアルが王国を襲撃した際にも、王国の北方で亜人の襲撃があった際にも、なにかと騎士ノセヤが絡む依頼をシガレットは受けていた。
「ちゃんと全員で連絡が取れ合うように調整してあるんだぜェ」
「わざわざ、ありがとうございます。これで、準備は万全ですね」
 物腰優しげな表情を浮かべたノセヤに対して小鳥遊 時雨(ka4921)は複雑な表情を浮かべていた。
「う~ん……」
「どうした? 時雨」
 心配の声を上げたのはヴァイス(ka0364)だった。
「いやさ、馬車が囮だって私たちにバラして大丈夫……かなって?」
「確かにそうですね」
 追随したのはUisca Amhran(ka0754)だ。
 彼女らが心配するのも無理はない。傲慢の歪虚には【強制】という能力がある。
 これ受けてしまい、作戦が筒抜けになる可能性があるからだ。これを逆手にとって、クラベル戦やメフィスト戦では味方を偽って、作戦を有利に進めた経緯がある。
 その答えはノセヤではなく、星輝 Amhran(ka0724)が応えた。
「有るかも知れぬし、無いかも知れぬ。己が眼で見て触れて、感じたモノだけが、現実にソコに存在するだけじゃ」
 ワイヤーウィップの最終調整に余念がない様子で言った台詞にノセヤが頷く。
「これまで、ブラフにブラフを重ねて来ました。もはや、【強制】で得た情報も正しいかどうか判別できないでしょうから」
「ふ~ん。ま、いいけどさ」
 気持ちを入れ替えるように返した時雨。
 それでも、まだ、言いたげにノセヤは続ける。
「あとは、ネル・ベルが襲撃にやってきた時点で、輸送作戦全体で見れば成功ですから」
 『聖火の氷』の輸送は別ルートで行われている。
 今から気がついても、余程の事がない限りは大丈夫だろう。
「今度は、返り討ちにしよっか」 
 十色 エニア(ka0370)がボソッと呟いた。
 前回の『聖火の氷』を巡る依頼では、ネル・ベルと戦い、敗れている。その時の事を思い出すと、いささか、弱気にはなるが。
 隣に居る時音 ざくろ(ka1250)は対照的に意気込んでいる。
「せっかく手に入れた秘宝を、あいつなんかに絶対渡したくないから!」
 秘宝『聖火の氷』。確かに、秘宝と呼ぶのに相応しいモノであった。
 高濃度のマテリアルは歪虚にとっては成長の糧になるものでもある。
「偽の秘宝輸送隊を護衛して、ネル・ベルや七本槍を引き付け、戦域の突破を目指す冒険だ!」
「そ、そうだね……」
 無駄に勢いがある仲間に飲まれそうなるエニア。
 そんな雰囲気に龍崎・カズマ(ka0178)が声を投げ掛けた。
「奴は聡い、下手な動きをすれば見破るだろうよ」
 ヘルムとアナライズデバイスを接続を調整しながら言った彼の言葉にざくろとエニアは深く頷く。
 あの歪虚は実力もあるが、それ以上に、傲慢らしからぬ所が驚異だ。
「よし! では、皆、行こうか」
 宣言するようなヴァイスの言葉に一行は頷く。作戦開始だ。
 次々に作戦室代わりだった馬車から降りて、各々が持ち場へと向かう中、時雨はノセヤを呼び止めた。ゆっくりと振り返るノセヤ。
「なんでしょうか? 時雨さん」
「ほら、ソルラとノセヤは、今後も青の隊の要になるだろうし、ね」
 時雨はそう前置きしてから、ノセヤの耳元で要件を伝えたのであった。


「……暑くなる時期だし、いいなぁ、ざくろも、拠点にこれ一台欲しいな」
 魔導冷蔵庫を備えた馬車の中でざくろが一人で涼んでいた。
 冷蔵庫の扉を無駄に開けると冷気が気持ちいい。
「外は暑そうだな~。そう……これは、馬車を守る為に必要な事」
 締め切っているので馬車の中は暑いのだ。
 敵と戦う前に熱中症で倒れてしまっては話にならない。
 ざくろは決意を新たに――再び冷蔵庫の扉を開けた――。

 荒地をなるべく物陰を利用して七つの影が移動する。
 その様子をエニアは遠くから確認していた。
「作戦通り、だね」
「このまま追跡するかァ。例の位置にそろそろ近いんだぜェ」
 シガレットがニヤリと悪人っぽい表情を作った。
 二人は川を遡り、七本槍が目撃されていた場所よりも背後に回っていたのだ。

 追跡されているとは知らず、七本槍は土煙を上げて迫る魔導冷蔵庫仕様の馬車を見つめていた。
「お頭……」
 一人が声を出した。
 その表情は人であった時よりも動きはなく、全体の生気も当然無い。
「ネル・ベル様の命令だ。行くぞ」
 細かい作戦はいらない。
 全員で突貫するのみだ。

 前方から七つの影が走って向かって来る様子は、馬車の先頭に立つヴァイスからも確認できた。
「例えお前が望んでいても、もっと警戒していれば堕ちない道もあったはずだ……済まない」
 黙祷を捧げるように瞳を閉じながら、斬龍刀を抜き眼前に構えた。
 構え終わると閉じていた瞳をカッと見開く。
「……罪を抱き安らかに眠れ」
 七人全員で向かって来る。
 だが、ハンター達の動きは冷静だった。それぞれの持ち場を維持している。
 ヘルムのバイザーを下げ、カズマが周囲を警戒しながら馬車の御者に声をかけた。
「可能なら速度を上げられるか? 一気に突破する」
 七本槍が馬車の足を止めるつもりなのは想像に容易い。馬車の歩みが止まった所で、残りの歪虚勢力が必ず姿を現すはずだ。
 馬車を挟んでカズマと反対側にいたUiscaは愛用の短杖を構える。
「後戻りする、手を取り合う、そんなタイミングは今まであったはず……」
 向かってくる堕落者と化した七本槍の幾人かをUiscaは生きている時から接触していた。
 だからこそ、この結末が悲しかった。
「それでも……人に害を為すなら、容赦しませんよっ」
 力強く握った杖にマテリアルを集中させる。
 彼らを解放できるチャンス。次、あるかどうか分からない。ならば、ここで決着をつけるのみだ。
 一方、馬車の屋根では星輝は全周囲を注意深く警戒している。
(絶好の機会じゃ……間違いなく来る)
 胸の疵が疼いた。
(強制と奇襲性の高い瞬間移動。犬娘の能力。包囲による人海戦術の槍共……合わされば危険じゃが、足並みを潰せば?)
 同時に来られると厄介だ。
 しかし、各個撃破できるチャンスでもある。
 弓を構えたままの時雨も全周囲を警戒していた。特に後方は襲撃の可能性が高い。
「…………」
 獣のような影が見えた……気がした時だった。

 七本槍の幾人かが爆発に巻き込まれる。
 遠距離から放ったエニアの火球の魔法によるものだ。
 爆発の範囲外に居た七本槍のうち、咄嗟に振り返った一人に対してシガレットが魔法を唱える。
「……光が生み出せし闇の力を我を望む。闇よ。光が作り出し闇よ。我に仇なす者に天罰を、だぜェ!」
 黒い影の塊みたいなものが出現すると堕落者に向かって飛翔する。
 背後からの二つの魔法に突撃を失った七本槍。
 追い打ちを掛けるように、砲声と共に、多数の飛来音が響く。
「お、お頭!」
 堕落者の一人が叫んだ。
 ノセヤが率いる砲戦用ゴーレム隊による一斉射撃だ。
 範囲内にいるのは、七本槍だけ。降り注ぐ弾丸の雨を避ける事はできず大ダメージを受ける。
「散開しろ!」
 堕落者の頭が命令するが、それよりも早く、再びエニアの魔法。
「……炎よ、森羅万象を灰燼と帰す絶対なる力となり、あらゆるものを焼き尽くして!」
 吹き飛ぶ堕落者。
 更にシガレットの魔法が放たれる。
「成功じゃ」
 馬車の上にいた星輝は戦況を見ながら弓矢を放つ。
 堕落者達に向かってマテリアルを込めた矢を放ちつつ、自身が言った方向を警戒する時雨。
「来たよ、崖側後ろ!」
「まだ距離はあるか」
 彼我の距離をバイザー越しに確認したカズマのバイザーには、柴犬を思わすような茶色の髪を持つ歪虚が表示されている。

 揺れる馬車の中から、ざくろは着弾の様子を確認していた。
 もう一度、砲撃のチャンスはあるはずだ。
「着弾を確認……距離、誤差……」
 魔法短伝話でノセヤに伝える。
 その報告に従い、微調整された砲撃が一斉に火を吹いた。


 結果的に言うと七本槍が接敵する前に、ほぼ勝負は着いた。
 後方からの遠距離魔法攻撃による奇襲とノセヤの砲撃の前に壊滅した七本槍は残ったメンバーで馬車へと突貫するが、ヴァイスとUiscaの一撃で消滅した。
「ネオピアじゃ」
 馬車の上で星輝が注意を促す。
 犬娘な歪虚であるネオピアは一際大きく咆哮すると、その姿を巨大な犬へと変える。
「来たか……奴は俺が抑える。皆は先へ!」
 ヴァイスがネオピアの進路上に立ち塞がった。
 歪虚の襲撃タイミングに若干のズレ。ハンター達が予想よりも早く七本槍を始末したからだ。
「もふもふしたいですが……あのイケメンさんも必ず来るはずです」
 駆け出したい気持ちを抑えながらUiscaが言いながら周囲を見渡す。
 今の所、ネル・ベルの気配は見られないが……。
 無数のマテリアルが降り注ぐ中、俊敏な動きでそれらを避けるネオピアを見て時雨が驚きの声をあげる。
「避けられた! 早い!」
 跳ねるように距離を詰める犬歪虚に対してシガレットはバイクのスロットルを回した。
 ネオピアという犬歪虚に恨みはないが、少しでも馬車との距離を稼ぐ為にバイクごとぶつかってやろうと思った。
 しかし、その動きを止めた。妙な胸騒ぎがした直後だった。
 突然の炎の爆発。
「ネルッ……なんだっけ?」
 エニアが苦笑を浮かべながらシガレットと共にバイクを疾走させ、爆発から逃れる。

 歪虚ネル・ベルが馬車の前方で姿を現した。
「予定通りルートを通れ」
 カズマは馬車の御者に伝えると前進した。ヴァイスが抜けた馬車の前方に出る為だ。
 護衛任務が表向きの依頼なのだ。ここで、護衛をアピールする事に意味はあるはず。
「機会をモノに出来るか……角折よ? 残念、阻止じゃ!」
 大きくバツ印を作りながら、馬車の上で歪虚を挑発する星輝は言葉を続ける。
「この馬車に氷があるとでも? 此処に氷が無かったら……間抜けじゃのぅ?」
「……ブラフとでも言いたいようだな。ならば、中身を確認するまでだ」
 あっさりとした歪虚の反応。
 誘き出されたという自覚はあるのだろう。その上で挑んでくるとは傲慢らしいというのか……。
 星輝は馬車から降りた。前に立つカズマを援護する為だ。ワイヤーウィップを構える。
「今日こそ決着をつけます? それとも、今度こそ、私を攫います?」
 Uiscaも前に並ぶ。
 光属性の魔法が通り難い事は前回確認済みだ。ならば、圧倒的な威力と回数で押し切るのみ。
「攫うのは次回、だな」
 歪虚が言い放つと同時に動き出そうとした歪虚が回避行動に移る。
 空から無数のマテリアルの矢が降り注いだからだ。
「どいてくれると嬉しいんだけどなぁ」
「この私を足止めしようなどど、無駄な事だぞ」
 時雨の言葉に応えながら、歪虚は両角の間に炎の渦を作り出した。

 ネオピアの突撃をヴァイスは受けて強烈な反撃を繰り出す。
「【懲罰】は使わないのか? それとも、使えないのか?」
「ヲ前、邪魔。ソコヲドケ」
 彼の言葉が聞こえていないのか、無視しているのか、ネオピアは片言で話すとヴァイスに向かって牙を剥いた。
 刀で受け止めきれずに皮膚が避けるが、牙を受け流しつつ、カウンターでネオピアに斬撃。
 ふかふかもふもふの毛で覆われているが、確実にダメージを与えている実感はある。
 くんくんと鼻でヴァイスを嗅ぎ――
「ヲ前、悪イ人間ジャナサソウ。ダカラ、今ハ、見ノガス」
 ネオピアの狼を思わすような顔が、ニヤリと笑ったように見えた。
 戦場から崖側に向かって去っていくネオピアの姿を見送りながら、ヴァイスは思った。
(退いた……? いや、違うな。機会を狙っているのか)
 推測でしかないが、恐らく、馬車を引くという役目があるのかもしれない。
 ともかく、彼はネル・ベルとの激戦が続く馬車前へと向かってバイクを駆った。


 カズマの素早い連撃に合わせるように、星輝のウィップがしなり、歪虚の動きを止める。
 反撃に振るわれる歪虚の剣を受け流すカズマを援護するように、時雨が矢を放ち、シガレットが闇属性の魔法を撃つ。
「イケメンさんを押してますよ!」
 仲間達が受けたダメージをUiscaは魔法で回復させていた。
 戦況は今の所、有利に進んでいる。これが七本槍との混戦中であれば、もっと違っただろう。
「……攻守、共に素晴らしい連携だ。さすが、この私のライバル」
 歪虚が瞬間移動でやや下がるとそう言った。
 主攻撃のカズマにそれを援護する星輝の動き。
 後方からは、時雨とシガレット、Uiscaが必要に応じたスキルを放っている。
「それで、貴様は何をしているのだ?」
 ネル・ベルが指差したのはエニアだった。
「た、待機だよ。ここぞと言う時のね」
 エニアはネル・ベルに火球の魔法を撃ち尽くしていたのだ。
 それでも何かできる事は必ずあるはず。そのチャンスを待っていた。
「聞いていいかな? もし、イスルダ島へ連れて行かれたらどうなるの?」
「想像通りでいいぞ」
「……それじゃ、このまま待機でいいかな」
 ナニな事を思わず想像してしまい身震いしながらエニアは応えた。
「そうか。では、愚者は愚者らしく、ただ前に進めばいい」
 大袈裟な身振りと共に放たれる歪虚の言葉と負のマテリアル。傲慢の歪虚が扱える特殊能力【強制】だ。
 誰もがそれに対して、心を強く持って対抗する――。

 馬車の中で息を潜めていたざくろは身体を固定した。
 冷蔵庫の扉が開いたままで涼しいが――手を伸ばして、諦める。
「なにかあったかな」
 外の様子は分からない。
 だとしても、課せられた役目は馬車の死守だ。
 ざくろはしっかりと馬車の入口を睨んだ。

「……馬か」
 カズマは呟いた。
 御者と馬は歪虚の術に対抗できず、遠くを見つめたままの視線で、まっすぐと進む。
 それは、予定されたルートから外れる事を意味していた。
 対抗する事に意識を強く持ちすぎたかもしれない。おかげでハンター達の動きに若干の遅れが出た。
「馬車と馬を切り離すのじゃ!」
 星輝はこの事態があると予想していた。
 だが、準備が若干足らなかった。事前に何らかの準備をしていたら、切り離しはスムーズだったかもしれない。しかし、ひたすらに前へと進む馬車に対して、それを行うのは無理があった。
 物理的に止め様にも御者がいるので、無茶もできない。
「馬車を追いかける」
「わたしも行くよ」
 魔導エンジンを唸らせてカズマが馬車を追いかける。エニアもここが活躍の場とばかりに後に続いた。
 そこへネオピアを退けたヴァイスが戦線に復帰する。
「残念じゃったな、角折」
 一瞬焦ったがワイヤーを構えなす星輝。
 状況的には先程とほとんど変わらない。カズマのポジションにヴァイスが変わっただけだ。
 馬車もやがては、カズマとエニアが――そして、馬車の中にいるざくろが――なんとかするだろう。仮にネオピアが迂回してきても対応は可能なはずだ。
 戦闘状況自体もハンター達の有利は変わらない。
「それは、こちらの台詞だ」
 不敵な笑みと共に歪虚が手にしているのは、三日月を思わす程、湾曲した刀――虚月――だった。
「九弦の刀、虚月。ここで使わせてもらう」
 その言葉にハンター達は警戒する。
 ある者は【強制】の能力拡大を意識して。ある者は幻覚洗脳を意識して。
「話には聞いていたが、九弦の忘れ形見の一振りがお前の手にあるとはな……」
 注意を促すように言ったのはヴァイスだった。
 彼は吹上九弦の死地に立ち会っている。当然、その刀の持つ力――刀気開放――の事は知っていた。
 ネル・ベルがどういう経緯でその刀を手にしているかは不明だが、今はそれを考えている場合ではない。
「刀を破壊させると力が開放される」
「なら、邪魔するよ」
 一斉に駆け出したハンター達に先んじて時雨が牽制の矢を放つ。
 それを歪虚は余裕の表情で避けると、虚月にある光景が流れた。
「あれはCAMかのぅ?」
「にしてはいびつと言いますか、なにか色々合わさっているようにも見えます」
 三日月の弧の中に映し出されたのはCAMっぽい何かだった。
 歪虚はニヤリと笑い――

「――刀気開放。虚月・幻創(きょげつ・げんそう)」

 自身の角に刀を叩きつけた。
 刀を奪う、あるいは破壊を防ごうと思った者も居たが、間に合うはずもない。
 乾いた音共に、辺りに負のマテリアルが充満した。
 その中でぼやけた輪郭で現れた“それ”は徐々に形をハッキリとさせていく。

 馬車を追いかけていたカズマはバイザーの警報が鳴り、振り返った。
 バイザー越しで見えているのか、それとも、違うのか。確認の為、バイザーをガッと上げた。
「……フレーベルニンゲン平原のはずれに現れたCAMモドキだ」
 見間違うはずはない。
 関節の位置、種類、持っている武装――それらが記憶と一致する。

「虚月は持ち主が思い描いた事を映し出す能力があるのだ」
 種明かしでもするかのようにネル・ベルはドヤ顔で説明した。
「それを具現化できる能力。それが、虚月の刀気開放という訳か」
 ヴァイスが刀を構える。
 このCAMモドキがどれほどの実力があるか分からない。だが、もしCAMと同等であれば、難敵であるのは確実だ。
「こうなったら、一気に突破するしかないのじゃ」
「はい!」
 星輝の呼び掛けに頷くUisca。
 しかし、CAMモドキが全周囲に銃撃を始めて、思うように突破ができない。
「……そっか。洞窟の中で、なんであっさり退いたと思ったら、こういう事かー」
 時雨が関心した様に言った。
 これが歪虚の切り札だったら、確かに洞窟の中で使う事はできない。
 洞窟という場所での戦闘はハンター達にとって幸運だったかもしれない。洞窟が崩れてしまっては意味がないからだ。
「形勢逆転、だな」
 それだけ言い残し、瞬間移動で立ち去るネル・ベル。
 CAMモドキは暴れまわり手がつけられない。突破するにはCAMモドキの機動力を奪うか、武装を無力化するしかないだろう。あるいは、刀が持っていた魔力が尽きる事を待つか……。


 瞬間移動からの奇襲は想定範囲内だった。
 しかし、死角である頭上に現れたら、カズマもエニアも反応が遅れる。
「く……また……」
 初撃で火渦をまともに喰らい、地に伏せたエニア。
 爆発にはカズマも巻き込まれたが狙われたのはエニアだった故、まだ無事であった。
「トドメだ」
 地面に倒れているエニアに向かって、再び炎渦を放つ歪虚。
 それに対しカズマは――。

 素早い動きで歪虚に接敵すると刀で突き、至近距離から拳銃を放った――。

「ば、馬鹿な。仲間を見捨てる、つもりか?」
「持ち帰る為に、手加減すると読んでの事だが?」

 放たれた炎渦はエニアの手前に着弾した。爆発に巻き込まれ再び吹き飛んだエニアは意識を失ったが、息はしている。
 仲間を見捨てた訳ではない。最大の目的である馬車の護衛を達成する為だ。
「仕方ない。抑え込め」
 歪虚の台詞と共に、カズマは背後から強烈な衝撃に襲われた。
 振り返ると、そこには巨大な犬――ネオピア――が姿を現していた。前足で体を押さえ付けられる。
 苦し紛れに拳銃を放ち、弾丸を直撃させるが、それぐらいで倒れる相手ではない。
(リロードを)
 だが、押さえ込まれている状況では困難だ。
 ベロリとヘルメットがネオピアの舌で外された。
「ヲ前モ悪イ、ニンゲンジャナイ、匂イガスル。ダガ、喰ベル」
 ガッと口が開き鋭い牙が太陽の光に反射した。
「残念だが、喰われる趣味はねぇ」
 開いたネオピアの口を両手で閉じるカズマ。開こうとするネオピア。
 喰うか逃れるかの接戦が繰り広げられ、業を煮やしたネオピアの強烈な鼻突きによりカズマの意識が飛んだ。

 馬車の扉を開けたネル・ベル。
「な、に!?」
 扉を開くと同時に叫び声。そして、巨大な盾。
「この秘宝には指一本触れさせない……超機導パワーオン!」
 馬車の中に潜んでいたざくろだった。
 視界と行動を塞がれる歪虚が押し入ろうとしたその時だった。
 マテリアルの電撃がネル・ベルに襲いかかった。その力に対抗しきれずに馬車から無様に転げ落ちる。
 機導術である攻性防壁の力であった。
「……ざくろの出番が無いかと思ったよ」
 全身冷え切った身体で言いながら、地面に転がった歪虚を見つめる。
 馬車は前進を続けているので、必然的に距離は広がるが――。
「おのれ!」
 剣を構えて瞬間移動する歪虚。
 馬車の入口に飛んで来て剣を突き出すが、当然のように、ざくろによって防がれる。
 今度は電撃に対抗する意識を持っていたのだろう。しかし、対抗できずに再び地面に転がる歪虚。
「何度来ても同じだよ! 絶対に秘宝は渡さないから!」
「ならば、貴様のマテリアルが尽きるまで、繰り返すだけだ」
 秘宝の奪取が目的の歪虚の不利な面が出てきた。
 中身を確認するまで、強力な炎渦でざくろを狙えないのだ。ざくろを狙えば必然的に馬車もダメージを受ける。
「ざくろ、負けないもん! 伸びろ光の剣!」
 機導術が馬車へと迫る歪虚に向かって伸びる。 
 その直撃を受けて、よろめく歪虚。先程までのダメージが蓄積されているのだ。
 そんな一進一退の状況の所にカズマを無力化させたネオピアがやって来た。
「馬車の中にハンターがいるが、ハンターごと、馬車を奪うぞ」
「ハイ」
 ネオピアが前に回り込むと、器用に前足で馬と馬車を繋いでいたソレを分断した。
 馬と御者は馬車から外れるものの【強制】の能力が残ったままであり、前進を続ける。それを放置してネオピアは人型に姿を戻すと素早い動きでロープを馬車に固定していく。
「させないよ」
 馬車から降りようとしたざくろの前に、今度はネル・ベルが立ち塞がり、ざくろは馬車の扉まで戻る。
 中身を確認されてしまう訳にはいかないからだ。


 CAMモドキの動きは非常にやっかいだった。
 おまけにネル・ベル戦でのダメージやスキルの消費もある。
「全方位に攻撃ができるのは卑怯じゃ。人型に拘らないようにCAM開発陣には伝えておこうかのぅ」
 星輝がそう言うのも無理はない。
 回り込んでも変な位置に取り付いている腕が銃を放ってくるのだ。
「急がないと!」
 疲労の顔を浮かべながらUiscaが言った。
「ジリ貧になる前に、イチかバチかだなァ」
 シガレットが突貫する姿勢を見せた。その姿に時雨の中で、想定して事を実行に移す時が来たと感じた。
 構えていた弓を背負い、バイクの操縦に集中する。
「……後は頼んだよ」
 涼しげな表情で仲間達に呼び掛け――時雨の駆るバイクがCAMモドキに向かって特攻する――はずだった。
 その行く手を塞ぐヴァイス。
「この先が最悪の未来だったとしても、俺達は、折れずに生き抜かなければならない」
 バイクを使っての自爆特攻の例をヴァイスはよく知っている。
 最初かどうかはともかく、それで死にかけた友人がいる故に。
「……どい、てよ」
「道は空ける。けど、それは、保険を掛けてからだ」
 厳しい視線を仲間達に見つめた。
「そういう事じゃ」
「ひゃ!」
 近寄ってきた星輝が不意に時雨の細い身体を背後から捕らえた。
 すかさず、Uiscaがワイヤーを時雨に命綱として括りつける。
「時雨さんの命は時雨さんのだけではありませんからね」
「……よく分からねぇが、悲劇は繰り返しちゃいけねぇぜェ」
 そのワイヤーの端をUiscaから受け取ったシガレットが腕に絡ませる。
「……」
「さぁ、行こうか」
 準備が終わった所で時雨の頭を撫でて、ヴァイスが宣言した。

 狙いはCAMモドキの足。
 破壊する事ができれば機動力は大幅に低下するはずだ。
「俺と星輝、Uiscaで突破口を作る。その隙に行け!」
 それだけ言い残し、CAMモドキの正面に向かって疾走するヴァイス。
「時雨、頼んだのじゃ」
「私達が囮になりますからね」
 星輝を後ろに乗せてUiscaが運転するバイクも先行した。
「タイミングが肝心だぜェ」
 ワイヤーを絡ませてある腕を掲げて言ったシガレットの言葉に時雨は頷いた。
 彼女は静かに、決意の籠った瞳でバイクのスロットルを全開に回した。

 魔導エンジンが叫び、荒野を疾走するバイク。
 無数の弾丸やら阻害するCAMモドキの動きを、仲間のハンターが防ぎ、開いた突破口を速度を落とさず突撃する。
「今だぜェ!」
 並走していたシガレットが腕を引っ張ると同時にバイクの向きを離脱する方向へ向ける。
 引っ張られるように飛び上がった時雨は宙で素早く矢を番えると、狙いを定めて放った。
「……ッ!」
 一直線に飛ぶ矢が魔導エンジンのコアを直撃すると同時に、時雨の魔導バイクがCAMモドキの足へと体当たりした。

 刹那、巨大な爆発。

 その衝撃の大きさにバイクが大きく揺れ、必死に操縦するシガレットだったが、慌てて減速したのが悪かった。
 彼の背中に時雨が直撃したからだ。
「どぉうわァ!」
「イッタァ!」
 衝撃でごろんごろんと地面を転がる二人。
「無事のようだな」
「無事のようじゃな」
「無事のようですね」
 このどこ辺りが無事なのかと思ったが、大きな怪我はしなかった様で仲間らの声が重なる。
 態勢を整えると、もどもどと動くCAMモドキを尻目にハンター達は馬車へと向かった。


 馬車が豪快に揺れる。
 前方でネオピアが無理矢理動かしているのだ。
 転がるような馬車の中で身体を必死に支えるざくろ。
「ま、まだまだ、だよ」
「しぶとい奴め!」
 ざくろとネル・ベルの戦いは泥仕合と化していた。
 歪虚は、気配を感じ、ふと後ろを振り返ると残りのハンター達が向かって来ているのが目に入る。
「……ネオピアに馬車を牽引する方法を、しっかりと教えておくべきだったな」
 そんな事を呟いたが、もはや、後の祭りだ。
「ネオピア、馬車を放し、退け」
「ハイ」
 咥えていたロープを放すと川の方向に向かって駆ける。
 入れ替わるようにハンター達が到着した。
「どうやら、私の負けのようだな」
「自分から負けを認めるとは、傲慢の歪虚はらしからぬのぅ」
 歪虚の言葉に星輝が挑発する。
「貴様らの方が一枚上手だったという事だ。だが、一矢は報わせてもらおう」
 視線を一瞬、崖の方を見つめた後、歪虚のは瞬間移動で姿を消した。
 それにすぐにUiscaは反応した。魔導短伝話で騎士ノセヤを呼ぶ。
「ノセヤさん! ノセヤさん!」
 だが、電波状況が悪いのか、繋がらない。
 Uiscaの脳裏に、『軍師騎士』の顔が浮かんだ。
(「……ならば、私は彼らを信頼する……そう決めているのです」)
 ハンター達を深く信頼している彼の言葉が頭の中に響いた。
 ネル・ベルはノセヤがそこに居るとは知らないだろう。作戦の邪魔をした砲撃の主を求めて崖上へと飛んだだけだ。これが運命というのであれば、その結末は悲劇だ。
「……信じよう。彼を」
 ヴァイスが悔しそうな表情を浮かべた。今からどうこうなる事ではない。
 それに、カズマとエニアの姿が見えないのも気になる所だ。
 ちょうどその時、ザザと魔導短伝話が鳴った。エニアからだった。
「死神か……の……見舞いだよ……な……」
 それを受け取ったシガレットが眉間に皺を寄せた。
「どうやら、堕落者化しちまったようだぜェ」
 勘違いしたのは彼の責任ではないし、冗談を言ったエニアもそこまで悪気があった訳ではないが、この後、仲間に怒られるエニアだった。


 ハンター達はなんとか馬車を目的地となる馬車まで引っ張っていった。
 歪虚の襲撃を退け、輸送作戦は成功を治めた。これにより、刻令術式外輪船の活動が大幅に可能となったのであった。



「こりゃ、ひでぇなァ」
 崖上にやって来た一行の中で砲戦用ゴーレムの残骸を見てシガレットが言った。
 完膚なきまで叩き潰されており、修復は不可能だろう。
「相当、お怒りだったようじゃな」
「みたいですね」
 星輝の台詞にUiscaは頷く。
 周囲を見る限り、破壊されているゴーレムばかりで、人影は無い。
「だ、大丈夫かな? ここに居た人達」
「まさか……連れ去れてたとか……は、ないよね」
 ざくろに肩を抱えられながらエニアも周囲を見渡した。
 相当数の人数が居たはずなのだが……。
「無事……か……」
 痛みを表情に現さず、カズマが森の中を見て言った。
 不自然に揺れ動いていた正体を見抜いたからだ。
「俺達はハンターだ。もう、大丈夫だぞ」
 ヴァイスの言葉に、森の中からゴーレム部隊の隊員や研究員らが姿を現した。
 安堵する一行。姿を現した彼らの中に、ノセヤの姿もあった。
「助かりましたよ。ありがとうございます。時雨さん」
「うーん。まぁ……ね」
 照れを隠すように、そっぽ向きながら応える時雨。
 万が一、連絡が通じない時の合図を決めていたのだ。
「伝話でUiscaさんの只事ではない声が何か聞こえたのです。その後、すぐ、時雨さんが崖を目がけて矢を放ったので、意味が分かりました」
 歪虚の襲撃があると察したノセヤは全員を森の中へと退避させたのだった。
 ノセヤは畏まると全員を見渡して一礼する。
「皆さんのおかげで、王国の大事な希望が次に繋げました。本当に、ありがとうございました」


 凱旋気分で戻るハンター達とノセヤらだったが、ふと、Uiscaは気が付いた事を呟いた。
「……そういえば、ノゾミちゃんの声、聞こえなかった」
 ネル・ベルがピンチになった際に、時々届いていた奇跡――マテリアルリンク――は出現しなかった。
 その呟きは時雨の耳にも届いていた。
(そう、なの、ノゾミ?)
 見上げた空は雲一つなく――どこまでも澄んでいるようだった――。


 ――終局

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  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマka0178

  • ヴァイス・エリダヌスka0364

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重体一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマka0178
  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニアka0370

参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニア(ka0370
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師
  • 【魔装】の監視者
    星輝 Amhran(ka0724
    エルフ|10才|女性|疾影士
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイ(ka2884
    人間(紅)|32才|男性|聖導士

  • 小鳥遊 時雨(ka4921
    人間(蒼)|16才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 援護射撃要請卓
ソルラ・クート(kz0096
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/08/03 06:57:55
アイコン 【相談卓】守るよ‥‥!
十色・T・ エニア(ka0370
人間(リアルブルー)|15才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/08/03 02:19:29
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/07/31 07:46:02
アイコン 質問卓
シガレット=ウナギパイ(ka2884
人間(クリムゾンウェスト)|32才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/08/02 08:22:56