ゲスト
(ka0000)
路地裏工房コンフォートと薬屋
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/08/08 09:00
- 完成日
- 2016/08/17 02:45
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
極彩色の街ヴァリオス、華やかな街の裏通り、閑散とした物寂しい一角に小さな宝飾工房があった。
一度は閉店した、工房に連なる店舗の大きな窓を1人の少女が磨いていた。
店の中のショーケースには数点のアクセサリーとルースが展示されており、中には古い値札の付いた物もある。
朝の早い時間にはまだ来客は無く、少女は鼻歌交じりに掃除の手を淀みなく進めていく。
「よっし、今日も良い天気!」
夏の朝日を見上げて笑う。
その背に負われた小さな弟もふにゃふにゃと笑って手を揺らした。
少女は裏口から工房へ、キッチンを抜けて主寝室に。
この工房の持ち主たる老人はベッドに腰掛けて咳き込んでいた。
「おはよう、エーレンフリートさん。薬、ちゃんと飲んで下さいね。あたし見張ってますから」
トレイに乗せた小皿に錠剤と薬包紙に包まれた粉薬、グラスに一杯の水を差し出す。
エーレンフリートと呼ばれた老人は窶れた皺の多い顔を顰めるが錠剤を嚥下し、粉薬を眺める。
「苦いんだがな、これは」
「咳止めの薬です、ちゃんと飲んで下さいって、先生も言ってましたよ。飲まないとピノに移って大変なんですよー」
「ピノ君はまだ小さいから……ああ、また連れて入ってきたのか。この部屋に入れてはいけないよ。移っては大変だろう」
1人で待たせておく方が危ないです。少女は笑って弟のピノをあやして背を揺らす。
「そうそう、今日は午前中に薬屋に行きますから、お客さんが来たら聞いておいて下さいね」
「――ああ、分かった。……モニカは大分変わったな。向こうで、頑張ってきたようだね」
空になったグラスを手許で弄りながらエーレンフリートは目を細める。
「本当ですか!」
「ああ、この老いぼれを顎で使えるようになった」
皮肉めいたことを言いながら、エーレンフリートの眼差しは穏やかに優しい。
少女、モニカはピノを振り返る。
ピノはきゃあきゃあと笑っていた。
●
涼しい内に薬屋へ向かうが、着く頃には日がすっかり昇っていた。
帰りは暑いだろうなと外を眺めながら、調剤を待つ。
カウンターの量りに薬包紙を乗せ、褪せたラベルを貼った遮光瓶から一匙ずつ、天秤が釣り合うまで量り取り、分銅を1つ置き換えて、別の瓶から更に一匙。
五角形に折られた白い包みが1週間分並ぶと、マスクを外した薬屋の娘がモニカを呼んだ。
「お待たせしました。いつものですね……お祖父さん早く元気になると良いですね」
紙袋に収めた薬を差し出して娘が言うと、モニカはそれを受け取りながら溜息を吐く。
本当に、と手の中でかさりと紙の擦れる音が鳴った。
「そうそう、明日から暫く休みなんです。それが切れるまでには戻って来るけど……」
「何かあったんですか?」
「仕入れに。ちょっと、ジェオルジまで――あ。モニカちゃんも、ジェオルジの子だっけ?」
「え?」
モニカはぱちくりと瞬いて娘を見た。
娘は首を傾げながらまじまじとモニカを見詰め返す。
「あれ、違ったかな……この前来た時、向こうから着いたばかりって、言ってなかった?」
「ああ! フマーレですよ。長ーい街道を越えてきました。ハンターさん達にお世話になりっぱなしで……雨は降るし、ゴブリンは沸くし」
着いたばかりなのに、お祖父ちゃんの薬は無くなってるし。
そう言うと、そうだったと笑いながら娘が頷く。
「――ゴブリンが出るのか……ちょっと怖いな。……でも、そっかー、モニカちゃんはフマーレの子かー」
「はい! フマーレにはお姉さんがいます!」
良い返事、と娘が褒める。
「ハンターさんって、急な依頼でも平気なのかな?」
「大丈夫だと思いますよ、私もお姉さんもお世話になってるし、お姉さんなんて困ってる人にはしょっちゅう勧めてましたもん」
●
ハンターオフィスの前で、薬屋の娘はうろうろと歩き回る。
時にドアをノックしようと手を伸ばしながら、どうにもその勇気が出ない。
だって仕入れに行くだけだし、街道は一本道だし、1人で行く人なんて沢山いるし。
モニカちゃんみたいに小さい子を連れているわけでも、荷物を抱えて行くわけでも無い。
「……うーん、やっぱり……でも……うーん……」
でも、ゴブリンが出たら怖いし、ジェオルジは山の方だから、動物が出てくるかも。
どうしよう、と離れては戻ってきてと繰り返していると、その様子に気付いた受付嬢がドアを細く開いて声を掛けた。
引き摺り込まれてお茶を一杯。
ハンターさん、怖くないですから。優しくて強くて、すごいんですと、説得されて。
「…………じゃあ、えっと、お願い出来ますか?……明日、出発なんですけど……」
娘の言葉に、「急募」と赤字で添えた依頼が掲示された。
極彩色の街ヴァリオス、華やかな街の裏通り、閑散とした物寂しい一角に小さな宝飾工房があった。
一度は閉店した、工房に連なる店舗の大きな窓を1人の少女が磨いていた。
店の中のショーケースには数点のアクセサリーとルースが展示されており、中には古い値札の付いた物もある。
朝の早い時間にはまだ来客は無く、少女は鼻歌交じりに掃除の手を淀みなく進めていく。
「よっし、今日も良い天気!」
夏の朝日を見上げて笑う。
その背に負われた小さな弟もふにゃふにゃと笑って手を揺らした。
少女は裏口から工房へ、キッチンを抜けて主寝室に。
この工房の持ち主たる老人はベッドに腰掛けて咳き込んでいた。
「おはよう、エーレンフリートさん。薬、ちゃんと飲んで下さいね。あたし見張ってますから」
トレイに乗せた小皿に錠剤と薬包紙に包まれた粉薬、グラスに一杯の水を差し出す。
エーレンフリートと呼ばれた老人は窶れた皺の多い顔を顰めるが錠剤を嚥下し、粉薬を眺める。
「苦いんだがな、これは」
「咳止めの薬です、ちゃんと飲んで下さいって、先生も言ってましたよ。飲まないとピノに移って大変なんですよー」
「ピノ君はまだ小さいから……ああ、また連れて入ってきたのか。この部屋に入れてはいけないよ。移っては大変だろう」
1人で待たせておく方が危ないです。少女は笑って弟のピノをあやして背を揺らす。
「そうそう、今日は午前中に薬屋に行きますから、お客さんが来たら聞いておいて下さいね」
「――ああ、分かった。……モニカは大分変わったな。向こうで、頑張ってきたようだね」
空になったグラスを手許で弄りながらエーレンフリートは目を細める。
「本当ですか!」
「ああ、この老いぼれを顎で使えるようになった」
皮肉めいたことを言いながら、エーレンフリートの眼差しは穏やかに優しい。
少女、モニカはピノを振り返る。
ピノはきゃあきゃあと笑っていた。
●
涼しい内に薬屋へ向かうが、着く頃には日がすっかり昇っていた。
帰りは暑いだろうなと外を眺めながら、調剤を待つ。
カウンターの量りに薬包紙を乗せ、褪せたラベルを貼った遮光瓶から一匙ずつ、天秤が釣り合うまで量り取り、分銅を1つ置き換えて、別の瓶から更に一匙。
五角形に折られた白い包みが1週間分並ぶと、マスクを外した薬屋の娘がモニカを呼んだ。
「お待たせしました。いつものですね……お祖父さん早く元気になると良いですね」
紙袋に収めた薬を差し出して娘が言うと、モニカはそれを受け取りながら溜息を吐く。
本当に、と手の中でかさりと紙の擦れる音が鳴った。
「そうそう、明日から暫く休みなんです。それが切れるまでには戻って来るけど……」
「何かあったんですか?」
「仕入れに。ちょっと、ジェオルジまで――あ。モニカちゃんも、ジェオルジの子だっけ?」
「え?」
モニカはぱちくりと瞬いて娘を見た。
娘は首を傾げながらまじまじとモニカを見詰め返す。
「あれ、違ったかな……この前来た時、向こうから着いたばかりって、言ってなかった?」
「ああ! フマーレですよ。長ーい街道を越えてきました。ハンターさん達にお世話になりっぱなしで……雨は降るし、ゴブリンは沸くし」
着いたばかりなのに、お祖父ちゃんの薬は無くなってるし。
そう言うと、そうだったと笑いながら娘が頷く。
「――ゴブリンが出るのか……ちょっと怖いな。……でも、そっかー、モニカちゃんはフマーレの子かー」
「はい! フマーレにはお姉さんがいます!」
良い返事、と娘が褒める。
「ハンターさんって、急な依頼でも平気なのかな?」
「大丈夫だと思いますよ、私もお姉さんもお世話になってるし、お姉さんなんて困ってる人にはしょっちゅう勧めてましたもん」
●
ハンターオフィスの前で、薬屋の娘はうろうろと歩き回る。
時にドアをノックしようと手を伸ばしながら、どうにもその勇気が出ない。
だって仕入れに行くだけだし、街道は一本道だし、1人で行く人なんて沢山いるし。
モニカちゃんみたいに小さい子を連れているわけでも、荷物を抱えて行くわけでも無い。
「……うーん、やっぱり……でも……うーん……」
でも、ゴブリンが出たら怖いし、ジェオルジは山の方だから、動物が出てくるかも。
どうしよう、と離れては戻ってきてと繰り返していると、その様子に気付いた受付嬢がドアを細く開いて声を掛けた。
引き摺り込まれてお茶を一杯。
ハンターさん、怖くないですから。優しくて強くて、すごいんですと、説得されて。
「…………じゃあ、えっと、お願い出来ますか?……明日、出発なんですけど……」
娘の言葉に、「急募」と赤字で添えた依頼が掲示された。
リプレイ本文
●
荷物を背負って街道へ向かう、行きは身軽なものだと夏の陽差しに手を翳しながら娘は呟く。
勧めた少女は平気そうなことを言っていたけれど、とすぐ先で待ち合わせているハンター達に足が竦んだ。
どんな人達だろうと足が重い。
「こんにちは」
肩の隣で花を飾った銀色の髪が揺れた。
娘に声を掛けた、小柄でほっそりとしたエルフはリアリュール(ka2003)と名乗る。
「お名前を、教えてくれると嬉しい、かな?」
アメジストの双眸が娘を見上げて静かに瞬く。
娘は一歩後退り、逃げだそうと地面を蹴って、あ、と声を上げて思い至る。
「はんたーさん?」
へたり込んでリアリュールを見上げた娘を、朗らかな笑い声で青年の影が覗き込む。
「そんなに恐縮しなくても良いぞ」
鞍馬 真(ka5819)が手を掴んで立たせると、娘は深々と頭を下げた。
「あ、あの、きょ、今日は、その……」
やはりご迷惑だったでしょうか、と怯えた目が集まったハンター達を見回す。
「急な依頼は、ハンターにとっちゃ日常茶飯事だ。そういうもんに対する心構えってのは、常に出来ているもんさ」
鹿島 雲雀(ka3706)が励ます様に肩を叩く。
そうだろう、とハンター達を見回せば、それぞれ頷いて肯定の言葉を返した。
「何も無かったら無かったで、楽な仕事で良かったってなるだけだ。あんま気負うなって」
な、と笑って向けられた柔らかでなつっこい茶色の双眸に、娘は視線を彷徨わせながら小さく頷いた。
その声に同意するようにカイン・マッコール(ka5336)が一瞥を向けた。
「ゴブリンが出るかもしれないなら」
低い声がそう応える。
「それで、ゴブリンは何処だ?」
仄暗く恨みに染めた青い瞳がじっと道の先を睨んでいる。
カリアナ・ノート(ka3733)はハンター達を見る娘の表情に一旦は止まった足をゆっくりと進ませて隣へ近付く。
今まで引き受けた依頼の依頼人達は、概ね好意的だったから向けられる怯えた目が、痛い。
どんなイメージを持たれているのだろうと、表情を覗いながらそれでも。
「しっかり護るわ」
大丈夫よと声を掛ける。
「慣れた道です、ご安心下さい」
娘が砂を払って荷物を背負い直し、ハンター達も出発の支度が整うと、マキナ・バベッジ(ka4302)が振り返って声を掛けた。
鞍馬も穏やかに目を細めた。楽しい道中に出来ればいいと。
「護衛をきちんと頼めるってーのは立派な事だ。その心構え、忘れんなよ」
じゃあ行くぞ、と街道へ出るハンター達へ鹿島が声を掛ける。高い位置で括った赤い髪が夏の風に揺れた。
「ええ……それにしても、この辺りの被害はなかなか無くなりませんね。この前もここへ護衛して来たばかりで」
気を引き締めて頷くマキナが道を眺めて呟いた。
もしかして、モニカちゃんのと娘が問う。マキナが頷くと娘の表情が幾らか和らいだように見えた。
先行するマキナと鞍馬が歩き出し、娘を囲うように並ぶ4人のハンター達もゆっくりとその後に続いて歩き始める。
背中が見えるか見えないかの距離を保ちながら、明るい日の差す街道を進んでいく。
さっきは驚いてしまってごめんなさいと娘はリアリュールに声を掛けた。
隣を歩きながら周囲を眺めていたリアリュールは、ふわりと髪を揺らして首を傾けた。
「不安だったのよね。道中は、傍にいるわね」
お喋りしながら歩きましょうと笑顔を向けると、娘も頷いてリアリュールに顔を向けた。
「――軽くでも雨降ってくれないと、陽が熱くて参っちゃうわ。……なんで夏って暑いのかしら」
娘の反対隣で道や茂みを観察しながら歩くカリアナが、乾いた土埃を眺めて呟いた。
差す日差しは眩しく、暑い。
溜息交じりの言葉に、リアリュールと娘が顔を見合わせて頷いた。
「本当に暑いわね、疲れてない?」
そう尋ねる言葉に娘はありがとうと頷いて、平気だと眦を下げた。
●
鞍馬が足を止める。
近付いてマキナもグリップを握り締め、逆側の茂みを警戒しながら鞍馬の睨む先へ視線を移した。
鋼を編んだ鞭を下ろすと、とぐろを巻くそれはグリップが引き寄せられると乾いた地面を舐めるように這って僅かな砂埃を上げる。
「……いますね」
「向こうに、伝えよう。警戒した方が良い」
仕込みの刃を下ろした拳銃を構えて照星を据える。照門に覗く青い瞳にその一瞬、金の煌めきが浮かび上がった。
マキナがトランシーバーを取り、周囲を見回しながら遭遇を伝える。その声に銃声1つ、もう1つと混ざり、鞍馬が得物を切り替える金属音が鳴った。
「――もう1匹いたみたいだ」
刀と、拳銃に仕込む直剣を左右に構え、飛び出してきたゴブリンの棍棒を躱して斬りつける。
胸に浅い傷を二筋追って、怯むゴブリンへ通信を終えたマキナが鞭の正確な一撃を放ち弾き飛ばした。
グリップを握る手に浮かぶ熱、マテリアルに呼応して浮き上がり時を刻む歯車がゆっくりと回っている。
「先も、警戒しながら進みましょう。……まだいると思いますので」
鞍馬が頷いて振り返る、依頼人の娘を囲むように続くハンター達との距離を推し量りながら、先行を続けると伝えた。
鹿島が数回の通信を終えてトランシーバーを下ろすと、娘は何かあったのかと尋ねた。
「心配すんな。すぐにぶっ飛ばしてやっから!」
少し先で見付けたゴブリンは先行の二人が倒したと伝えると、娘はほっと息を吐いた。
娘の安堵にカインは僅かに眉を寄せた。
ゴブリンの恐ろしさは、その本性は、よく知っている。
人には及ぶべくもないが、と周囲への警戒を強めた。
「囮役をおくくらいの知性のある連中だ」
短剣の柄頭を撫でて独り静かな声で呟く。先行の2人が遭遇した地点が迫っていた。
残党か、或いは移ってきたのか、ハンター達がその地点を抜けたところで、数匹の気配を感じ取った。
こちらへ走る影を目視したらしい先行からの連絡を受け取り、ハンター達が動く。
張り詰める空気に竦む娘にリアリュールが大丈夫だと声を掛けた。
「離れないで、ね――傍にいてくれた方が、守りやすいでしょう?」
風が揺らした銀の髪が、虹色の艶を纏い煌めいた。清廉な声が凜と告げる。
二丁の銃を手に敵影へ目を走らせ、狙いを定めた。
カリアナは娘を背に一歩進み、長い柄を器用に取り回して大鎌を構える。空気を薙いだ刃を彩る宝玉が鮮やかに流線を煌めかせる。
きっと、すごく強いと思われているのだろうなと、肩越しに娘を振り返りながら、何でも無いと言う風を装って背筋を伸ばし敵へ向けて銀の刃を振り翳す。
鹿島が大振りのハルバードを軽々と操り、空気を裂いて振るう音を立てる。
柄を握るしなやかな手には節が目立ち、ほっそりとした腕も筋張って逞しく張り詰めている。柔らかなシルエットが屈強に、背負った光輪の幻影に照らされながら、鹿島はリボンを解いた。
「行くぜ!――後で返してくれよ」
リボンを娘の手に乗せ、得物を突き出して地面を蹴る。
光輪を取り囲む5対の煌めく剣の幻影が翼のように浮かび上がった。
槍を突き付けて前進、柄を引き付けて敵を凪ぐ姿勢に振りかぶれば、斧の刃に映る夏の陽光が眩い。
「……殺す」
茂みをざわめかせた敵の気配に、カインは短剣を構えて奔る。影へ飛び込んでいく甲冑、短剣は既に抜き身で逆手に翳しながら茂る草を切り払う。
見付けた、と唸るような低い声がゴブリンの姿を捕らえて言う。
射程に捉えた敵を倒し、得物を構えたまま先行の2人が残りを追って戻ってくる。
ぎ、と濁った音で鳴いて飛び出してきたゴブリンは、集団の中庇われながら立ち竦む少女に目を付けた。
カリアナとリアリュールが娘との距離を詰めて得物を向ける。
ゴブリンが棍棒を振り上げて走り出す瞬間にマキナが鞭で腕を打ち、棍棒を払う。撓る鋼に打たれた腕をだらりと下ろすと、ゴブリンは黄色い歯を剥いて、淀んだ色の目でマキナを睨んだ。
その首を狩る様に落とされた水の礫に、ゴブリンが地面に伏せて暫くの痙攣の後動かなくなる。
マテリアルを巡らせる大鎌を擡げて、それを放ったカリアナは、ゴブリンの挙動が静まると安堵の息を吐いて無邪気に頬を綻ばせた。
「上手く当たったわ。よかったぁ……」
確かな手応えに柄を握り直して、はたと背後の視線に気付き咳払いを。
「――って、私にはできて当然なんだけどね。うん」
釣られる様に頷く娘は眼前の光景とカリアナの背を呆然と見詰めている。
細い背にもその凄惨な様は隠せているのだろう、娘の顔に不安の表情が浮かんでいるが、逃げ出すほどの混乱は見られない。
茂みを然程深く進むこともなく追い詰めたゴブリンへ、短剣の一閃、毛足を刈られたゴブリンが傷は浅いと叩き込む棍棒を鎧に軽く受け止めて、更に力を込めた刃をその腹へ。
柄が埋まり籠手に血が染みるまで深く抉り斬り上げる。
「通す気もないし、逃がす気もない、お前たちは皆殺しだ」
次は何処だ、と憎悪に双眸に滾らせて刀身の血を払った。
「おおっと、お触りは厳禁だぜ?」
道に転がってきたゴブリンをハルバードで薙ぎ払い、鹿島が長く伸びた髪を翻す。
娘を狙う棍棒を振り回すも、返す刃と長い柄がその接近を防いでいる。
「援護しよう」
「撃ち落とします」
言葉と共に放たれた矢が、銃弾が前後からゴブリンを貫いた。
●
一時、辺りの音がふと消えて、やがて渡る風が茂みを揺らす。
辺りにはもう敵はいないらしい。
「深追いはしなくて良いかも。他からも、もう来てないわね」
感覚を澄ませて辺りを探るリアリュールが銃を下ろしながら言う。
出発しましょうかと、マキナが垂れた鞭を束ねながら。カインは未だ警戒を緩めずに先を睨む。
「ほらな。雇って正解だったろ?」
得物を下ろして鹿島が振り返ると、娘はリアリュールの影で座り込んでいた。
その両手の上、差し出すように乗せられたリボンを受け取り、鹿島は肩を竦めた。
「お、おねーさん、大丈夫?……気持ち悪かったりしてない?」
カリアナが慌てた声を上げ、深呼吸でそれを落ち付かせながらゆっくりとしゃがんで視線を合わせる。
手を握ると娘は弱い力で握り返して、ほっとしたら力が抜けたと小さな声で答えた。
「立てそうか? 掴まってくれ」
「……あちらなら、通れそうです」
鞍馬が反対側の手を取って、マキナが屍の無い側へ促す。
微かな葉掠れを聞いた。それが風か或いは敵か判然としない。どちらだ、と柄に掛けたカインの指は震えるが、今は2人に支えられて漸く歩き始めた娘の背後に続く。
「次が来ないとも限りません、少し急ぎましょう」
この場からはもう少し離れた方が良いと促して背後の茂みを睨んだ。
支える様に娘を立たせて、戦いの跡の濃い道を進む。
土の匂いに混じ漂う血の匂いが薄れた頃、もう平気だと娘が手を離した。
鞍馬とマキナが先行へカリアナも励ます様に声を掛けながら周囲への警戒に戻る。
先程よりも落ち付いた様子でその言葉に応えながら娘は確りと歩き始めた。
言葉数は多くは無いが、ぽつりぽつりと自分のことや働いている薬屋のこと、仕入れ先のことなどを話し、ハンター達にも誤解していたと謝りながら、色色な話しを聞きたがった。
緩やかに紡ぐお喋りの最中、伝話が遭遇の連絡を受け取った。
足を止めた先行の2人が交戦しながらこちらへ数匹向かっていると伝える。
すぐにその姿は現れて、手傷を負ったそのゴブリンは正面からと、片側の茂みから向かってきた。
リアリュールとカリアナは近くの木を背に、娘の視界を庇う様に立つ。正面を鹿島がハルバードで抑え、横からの敵にカインが前へ出て応じる。
短剣と軍刀を操って、手当たり次第にといった様子で投じられる石を鎧に弾きながら斬り掛かる。
「平気、届かせないから」
カインを超えるように高く投じられた石を撃ったリアリュールの弾丸がその軌道を逸らす。
「へへ! 弾き返せたわ!」
鹿島の横から飛んできた石はカリアナが大振りの刀身に弾いた。
続けて放つ氷の矢がゴブリンを凍て付かせ、動きを止める隙にハルバードの斧が叩き込まれた。
屍からは目を逸らすようにしながら、娘はゆっくりと謝礼の言葉を告げ、トランシーバーを借りた穏やかな声で、先行の2人へも同じ言葉が伝えられた。
手を貸すという鞍馬とカリアナを断り、娘は1人で歩けると笑って、カインに急かされるように戦いの跡を通り過ぎた。
目的地が見える頃には、話題も広がり打ち解けていた。
ハンターへの怯えた様子も、街道を怖々と進む様子も無い。
明かりの灯ったジェオルジの街道口で警備の男が手を振っている。
またゴブリンや雑魔が増えたと聞いていたからと、娘の無事な到着を喜び、ハンター達へも礼を告げながら街のオフィスへと案内する。
カインはそれを断ると街道へ戻っていく。
「あの街道付近にゴブリンの巣や集落がある可能性があるので、潰してきます」
淡々とそう告げ、気を付けてと叫んだ娘とハンター達へ背を向ける。
入り口脇に座り緩んだ手甲を締め直すと得物の状態を確かめた。
軍刀を眺め刀身を撫でる。僅かに指の掛かる切れ目が、この刃に誂えられた細工を物語るが、それを起動するには、茂みや木の霜害が大きかった。
鞘に戻し、短剣も刃を西日に翳して状態を見る。刃こぼれは無さそうだ。
「ゴブリンはすべて殺す」
言い聞かせるように呟くと地面を蹴って街道を奔る。
「……お疲れ様でした、帰りは馬車を使うか……不安があれば、お気軽にオフィスまでご依頼くださいね」
ジェオルジの村々へ続く道で別れながらマキナが声を掛けた。
娘は頷いて深く頭を下げた。
「少し怖い思いはさせてしまったけれど、道中は楽しんで貰えたかな? 何かあれば遠慮なく頼ってくれ」
鞍馬が問うと瞬いて笑う目が雄弁に肯定し、はい、と溌剌とした声が応えた。
俺も、と手を振り、にっと歯を見せる鹿島に、ありがとうございます、と頬を綻ばす。
リアリュールとカリアナにも、傍で守ってくれていたと礼を告げて、娘は仕入れの店へと向かっていった。
一週間ほど経った頃、瓶や包みを幾つも詰めたリュックを抱え、娘は乗り合いの馬車を探した。
ハンターに護衛を頼んだという馬車に乗り込むと、その判断に賢明だと言う初老の男の隣に座った。
「来るときに、怖い目に遭ったのを守って貰ったんです」
「それは……」
大変だったね、と男が言う。馬車は緩やかに走り出す。
流れていく景色を眺め、彼等に守られて歩いた道を重ねながら娘は静かに瞼を伏せた。
荷物を背負って街道へ向かう、行きは身軽なものだと夏の陽差しに手を翳しながら娘は呟く。
勧めた少女は平気そうなことを言っていたけれど、とすぐ先で待ち合わせているハンター達に足が竦んだ。
どんな人達だろうと足が重い。
「こんにちは」
肩の隣で花を飾った銀色の髪が揺れた。
娘に声を掛けた、小柄でほっそりとしたエルフはリアリュール(ka2003)と名乗る。
「お名前を、教えてくれると嬉しい、かな?」
アメジストの双眸が娘を見上げて静かに瞬く。
娘は一歩後退り、逃げだそうと地面を蹴って、あ、と声を上げて思い至る。
「はんたーさん?」
へたり込んでリアリュールを見上げた娘を、朗らかな笑い声で青年の影が覗き込む。
「そんなに恐縮しなくても良いぞ」
鞍馬 真(ka5819)が手を掴んで立たせると、娘は深々と頭を下げた。
「あ、あの、きょ、今日は、その……」
やはりご迷惑だったでしょうか、と怯えた目が集まったハンター達を見回す。
「急な依頼は、ハンターにとっちゃ日常茶飯事だ。そういうもんに対する心構えってのは、常に出来ているもんさ」
鹿島 雲雀(ka3706)が励ます様に肩を叩く。
そうだろう、とハンター達を見回せば、それぞれ頷いて肯定の言葉を返した。
「何も無かったら無かったで、楽な仕事で良かったってなるだけだ。あんま気負うなって」
な、と笑って向けられた柔らかでなつっこい茶色の双眸に、娘は視線を彷徨わせながら小さく頷いた。
その声に同意するようにカイン・マッコール(ka5336)が一瞥を向けた。
「ゴブリンが出るかもしれないなら」
低い声がそう応える。
「それで、ゴブリンは何処だ?」
仄暗く恨みに染めた青い瞳がじっと道の先を睨んでいる。
カリアナ・ノート(ka3733)はハンター達を見る娘の表情に一旦は止まった足をゆっくりと進ませて隣へ近付く。
今まで引き受けた依頼の依頼人達は、概ね好意的だったから向けられる怯えた目が、痛い。
どんなイメージを持たれているのだろうと、表情を覗いながらそれでも。
「しっかり護るわ」
大丈夫よと声を掛ける。
「慣れた道です、ご安心下さい」
娘が砂を払って荷物を背負い直し、ハンター達も出発の支度が整うと、マキナ・バベッジ(ka4302)が振り返って声を掛けた。
鞍馬も穏やかに目を細めた。楽しい道中に出来ればいいと。
「護衛をきちんと頼めるってーのは立派な事だ。その心構え、忘れんなよ」
じゃあ行くぞ、と街道へ出るハンター達へ鹿島が声を掛ける。高い位置で括った赤い髪が夏の風に揺れた。
「ええ……それにしても、この辺りの被害はなかなか無くなりませんね。この前もここへ護衛して来たばかりで」
気を引き締めて頷くマキナが道を眺めて呟いた。
もしかして、モニカちゃんのと娘が問う。マキナが頷くと娘の表情が幾らか和らいだように見えた。
先行するマキナと鞍馬が歩き出し、娘を囲うように並ぶ4人のハンター達もゆっくりとその後に続いて歩き始める。
背中が見えるか見えないかの距離を保ちながら、明るい日の差す街道を進んでいく。
さっきは驚いてしまってごめんなさいと娘はリアリュールに声を掛けた。
隣を歩きながら周囲を眺めていたリアリュールは、ふわりと髪を揺らして首を傾けた。
「不安だったのよね。道中は、傍にいるわね」
お喋りしながら歩きましょうと笑顔を向けると、娘も頷いてリアリュールに顔を向けた。
「――軽くでも雨降ってくれないと、陽が熱くて参っちゃうわ。……なんで夏って暑いのかしら」
娘の反対隣で道や茂みを観察しながら歩くカリアナが、乾いた土埃を眺めて呟いた。
差す日差しは眩しく、暑い。
溜息交じりの言葉に、リアリュールと娘が顔を見合わせて頷いた。
「本当に暑いわね、疲れてない?」
そう尋ねる言葉に娘はありがとうと頷いて、平気だと眦を下げた。
●
鞍馬が足を止める。
近付いてマキナもグリップを握り締め、逆側の茂みを警戒しながら鞍馬の睨む先へ視線を移した。
鋼を編んだ鞭を下ろすと、とぐろを巻くそれはグリップが引き寄せられると乾いた地面を舐めるように這って僅かな砂埃を上げる。
「……いますね」
「向こうに、伝えよう。警戒した方が良い」
仕込みの刃を下ろした拳銃を構えて照星を据える。照門に覗く青い瞳にその一瞬、金の煌めきが浮かび上がった。
マキナがトランシーバーを取り、周囲を見回しながら遭遇を伝える。その声に銃声1つ、もう1つと混ざり、鞍馬が得物を切り替える金属音が鳴った。
「――もう1匹いたみたいだ」
刀と、拳銃に仕込む直剣を左右に構え、飛び出してきたゴブリンの棍棒を躱して斬りつける。
胸に浅い傷を二筋追って、怯むゴブリンへ通信を終えたマキナが鞭の正確な一撃を放ち弾き飛ばした。
グリップを握る手に浮かぶ熱、マテリアルに呼応して浮き上がり時を刻む歯車がゆっくりと回っている。
「先も、警戒しながら進みましょう。……まだいると思いますので」
鞍馬が頷いて振り返る、依頼人の娘を囲むように続くハンター達との距離を推し量りながら、先行を続けると伝えた。
鹿島が数回の通信を終えてトランシーバーを下ろすと、娘は何かあったのかと尋ねた。
「心配すんな。すぐにぶっ飛ばしてやっから!」
少し先で見付けたゴブリンは先行の二人が倒したと伝えると、娘はほっと息を吐いた。
娘の安堵にカインは僅かに眉を寄せた。
ゴブリンの恐ろしさは、その本性は、よく知っている。
人には及ぶべくもないが、と周囲への警戒を強めた。
「囮役をおくくらいの知性のある連中だ」
短剣の柄頭を撫でて独り静かな声で呟く。先行の2人が遭遇した地点が迫っていた。
残党か、或いは移ってきたのか、ハンター達がその地点を抜けたところで、数匹の気配を感じ取った。
こちらへ走る影を目視したらしい先行からの連絡を受け取り、ハンター達が動く。
張り詰める空気に竦む娘にリアリュールが大丈夫だと声を掛けた。
「離れないで、ね――傍にいてくれた方が、守りやすいでしょう?」
風が揺らした銀の髪が、虹色の艶を纏い煌めいた。清廉な声が凜と告げる。
二丁の銃を手に敵影へ目を走らせ、狙いを定めた。
カリアナは娘を背に一歩進み、長い柄を器用に取り回して大鎌を構える。空気を薙いだ刃を彩る宝玉が鮮やかに流線を煌めかせる。
きっと、すごく強いと思われているのだろうなと、肩越しに娘を振り返りながら、何でも無いと言う風を装って背筋を伸ばし敵へ向けて銀の刃を振り翳す。
鹿島が大振りのハルバードを軽々と操り、空気を裂いて振るう音を立てる。
柄を握るしなやかな手には節が目立ち、ほっそりとした腕も筋張って逞しく張り詰めている。柔らかなシルエットが屈強に、背負った光輪の幻影に照らされながら、鹿島はリボンを解いた。
「行くぜ!――後で返してくれよ」
リボンを娘の手に乗せ、得物を突き出して地面を蹴る。
光輪を取り囲む5対の煌めく剣の幻影が翼のように浮かび上がった。
槍を突き付けて前進、柄を引き付けて敵を凪ぐ姿勢に振りかぶれば、斧の刃に映る夏の陽光が眩い。
「……殺す」
茂みをざわめかせた敵の気配に、カインは短剣を構えて奔る。影へ飛び込んでいく甲冑、短剣は既に抜き身で逆手に翳しながら茂る草を切り払う。
見付けた、と唸るような低い声がゴブリンの姿を捕らえて言う。
射程に捉えた敵を倒し、得物を構えたまま先行の2人が残りを追って戻ってくる。
ぎ、と濁った音で鳴いて飛び出してきたゴブリンは、集団の中庇われながら立ち竦む少女に目を付けた。
カリアナとリアリュールが娘との距離を詰めて得物を向ける。
ゴブリンが棍棒を振り上げて走り出す瞬間にマキナが鞭で腕を打ち、棍棒を払う。撓る鋼に打たれた腕をだらりと下ろすと、ゴブリンは黄色い歯を剥いて、淀んだ色の目でマキナを睨んだ。
その首を狩る様に落とされた水の礫に、ゴブリンが地面に伏せて暫くの痙攣の後動かなくなる。
マテリアルを巡らせる大鎌を擡げて、それを放ったカリアナは、ゴブリンの挙動が静まると安堵の息を吐いて無邪気に頬を綻ばせた。
「上手く当たったわ。よかったぁ……」
確かな手応えに柄を握り直して、はたと背後の視線に気付き咳払いを。
「――って、私にはできて当然なんだけどね。うん」
釣られる様に頷く娘は眼前の光景とカリアナの背を呆然と見詰めている。
細い背にもその凄惨な様は隠せているのだろう、娘の顔に不安の表情が浮かんでいるが、逃げ出すほどの混乱は見られない。
茂みを然程深く進むこともなく追い詰めたゴブリンへ、短剣の一閃、毛足を刈られたゴブリンが傷は浅いと叩き込む棍棒を鎧に軽く受け止めて、更に力を込めた刃をその腹へ。
柄が埋まり籠手に血が染みるまで深く抉り斬り上げる。
「通す気もないし、逃がす気もない、お前たちは皆殺しだ」
次は何処だ、と憎悪に双眸に滾らせて刀身の血を払った。
「おおっと、お触りは厳禁だぜ?」
道に転がってきたゴブリンをハルバードで薙ぎ払い、鹿島が長く伸びた髪を翻す。
娘を狙う棍棒を振り回すも、返す刃と長い柄がその接近を防いでいる。
「援護しよう」
「撃ち落とします」
言葉と共に放たれた矢が、銃弾が前後からゴブリンを貫いた。
●
一時、辺りの音がふと消えて、やがて渡る風が茂みを揺らす。
辺りにはもう敵はいないらしい。
「深追いはしなくて良いかも。他からも、もう来てないわね」
感覚を澄ませて辺りを探るリアリュールが銃を下ろしながら言う。
出発しましょうかと、マキナが垂れた鞭を束ねながら。カインは未だ警戒を緩めずに先を睨む。
「ほらな。雇って正解だったろ?」
得物を下ろして鹿島が振り返ると、娘はリアリュールの影で座り込んでいた。
その両手の上、差し出すように乗せられたリボンを受け取り、鹿島は肩を竦めた。
「お、おねーさん、大丈夫?……気持ち悪かったりしてない?」
カリアナが慌てた声を上げ、深呼吸でそれを落ち付かせながらゆっくりとしゃがんで視線を合わせる。
手を握ると娘は弱い力で握り返して、ほっとしたら力が抜けたと小さな声で答えた。
「立てそうか? 掴まってくれ」
「……あちらなら、通れそうです」
鞍馬が反対側の手を取って、マキナが屍の無い側へ促す。
微かな葉掠れを聞いた。それが風か或いは敵か判然としない。どちらだ、と柄に掛けたカインの指は震えるが、今は2人に支えられて漸く歩き始めた娘の背後に続く。
「次が来ないとも限りません、少し急ぎましょう」
この場からはもう少し離れた方が良いと促して背後の茂みを睨んだ。
支える様に娘を立たせて、戦いの跡の濃い道を進む。
土の匂いに混じ漂う血の匂いが薄れた頃、もう平気だと娘が手を離した。
鞍馬とマキナが先行へカリアナも励ます様に声を掛けながら周囲への警戒に戻る。
先程よりも落ち付いた様子でその言葉に応えながら娘は確りと歩き始めた。
言葉数は多くは無いが、ぽつりぽつりと自分のことや働いている薬屋のこと、仕入れ先のことなどを話し、ハンター達にも誤解していたと謝りながら、色色な話しを聞きたがった。
緩やかに紡ぐお喋りの最中、伝話が遭遇の連絡を受け取った。
足を止めた先行の2人が交戦しながらこちらへ数匹向かっていると伝える。
すぐにその姿は現れて、手傷を負ったそのゴブリンは正面からと、片側の茂みから向かってきた。
リアリュールとカリアナは近くの木を背に、娘の視界を庇う様に立つ。正面を鹿島がハルバードで抑え、横からの敵にカインが前へ出て応じる。
短剣と軍刀を操って、手当たり次第にといった様子で投じられる石を鎧に弾きながら斬り掛かる。
「平気、届かせないから」
カインを超えるように高く投じられた石を撃ったリアリュールの弾丸がその軌道を逸らす。
「へへ! 弾き返せたわ!」
鹿島の横から飛んできた石はカリアナが大振りの刀身に弾いた。
続けて放つ氷の矢がゴブリンを凍て付かせ、動きを止める隙にハルバードの斧が叩き込まれた。
屍からは目を逸らすようにしながら、娘はゆっくりと謝礼の言葉を告げ、トランシーバーを借りた穏やかな声で、先行の2人へも同じ言葉が伝えられた。
手を貸すという鞍馬とカリアナを断り、娘は1人で歩けると笑って、カインに急かされるように戦いの跡を通り過ぎた。
目的地が見える頃には、話題も広がり打ち解けていた。
ハンターへの怯えた様子も、街道を怖々と進む様子も無い。
明かりの灯ったジェオルジの街道口で警備の男が手を振っている。
またゴブリンや雑魔が増えたと聞いていたからと、娘の無事な到着を喜び、ハンター達へも礼を告げながら街のオフィスへと案内する。
カインはそれを断ると街道へ戻っていく。
「あの街道付近にゴブリンの巣や集落がある可能性があるので、潰してきます」
淡々とそう告げ、気を付けてと叫んだ娘とハンター達へ背を向ける。
入り口脇に座り緩んだ手甲を締め直すと得物の状態を確かめた。
軍刀を眺め刀身を撫でる。僅かに指の掛かる切れ目が、この刃に誂えられた細工を物語るが、それを起動するには、茂みや木の霜害が大きかった。
鞘に戻し、短剣も刃を西日に翳して状態を見る。刃こぼれは無さそうだ。
「ゴブリンはすべて殺す」
言い聞かせるように呟くと地面を蹴って街道を奔る。
「……お疲れ様でした、帰りは馬車を使うか……不安があれば、お気軽にオフィスまでご依頼くださいね」
ジェオルジの村々へ続く道で別れながらマキナが声を掛けた。
娘は頷いて深く頭を下げた。
「少し怖い思いはさせてしまったけれど、道中は楽しんで貰えたかな? 何かあれば遠慮なく頼ってくれ」
鞍馬が問うと瞬いて笑う目が雄弁に肯定し、はい、と溌剌とした声が応えた。
俺も、と手を振り、にっと歯を見せる鹿島に、ありがとうございます、と頬を綻ばす。
リアリュールとカリアナにも、傍で守ってくれていたと礼を告げて、娘は仕入れの店へと向かっていった。
一週間ほど経った頃、瓶や包みを幾つも詰めたリュックを抱え、娘は乗り合いの馬車を探した。
ハンターに護衛を頼んだという馬車に乗り込むと、その判断に賢明だと言う初老の男の隣に座った。
「来るときに、怖い目に遭ったのを守って貰ったんです」
「それは……」
大変だったね、と男が言う。馬車は緩やかに走り出す。
流れていく景色を眺め、彼等に守られて歩いた道を重ねながら娘は静かに瞼を伏せた。
依頼結果
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相談 カリアナ・ノート(ka3733) 人間(クリムゾンウェスト)|10才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/08/07 21:30:05 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/08/04 22:20:56 |